(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】NOxセンサ自己診断制御方法及びNOxセンサ自己診断制御装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20241023BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G01N27/26 391Z
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2021094434
(22)【出願日】2021-06-04
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】一宮 康明
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-288014(JP,A)
【文献】特開2017-133394(JP,A)
【文献】特開2017-129082(JP,A)
【文献】特開2020-070728(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121524(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
F01N 3/18
F01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両の排気浄化装置に設けられたNOxセンサの自己診断の実行が、前記自動車両の動作制御を実行可能に構成されてなるエンジン制御ユニットにより制御可能とされてなるNOxセンサ自己診断制御装置におけるNOxセンサ自己診断制御方法であって、
前記自動車両のエンジン運転中において、所定の判断要素が、前記NOxセンサの自己診断の実行に適した所定の基準を満たした場合に、前記NOxセンサの自己診断を実行し、
前記所定の判断要素は、少なくとも、走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態であって、それぞれ所定の安定状態にある場合に前記所定の基準を満たしたとすることを特徴とするNOxセンサ自己診断制御方法。
【請求項2】
前記走行状態は、少なくとも前記自動車両の車速の変動量、エンジン回転数の変動量、アクセルペダルの変動量、及び、燃料噴射制御状態を指標とし、前記車速の変動量、前記エンジン回転数の変動量、及び、前記アクセルペダルの変動量が、それ
ぞれ所定の基準を満たし、かつ、前記燃料噴射制御状態が通常噴射制御状態にある場合に、
前記走行状態が所定の安定状態にあるとされることを特徴とする請求項1記載のNOxセンサ自己診断制御方法。
【請求項3】
前記排気ガス状態は、少なくともNOx濃度、排気ガス温度、O2濃度、及び、排気ガス流量を指標とし、それぞれ所定の基準を満たす場合に、前記排気ガス状態が所定の安定状態にあるとされることを特徴とする請求項2記載のNOxセンサ自己診断制御方法。
【請求項4】
前記NOxセンサ動作状態は、少なくともNOxセンサ制御電圧、NOxセンサ動作モード、及び、自己診断中断要求信号を指標とし、前記NOxセンサ制御電圧が所定電圧範囲にあって、かつ、前記NOxセンサの動作モードが検出モードにあって、さらに、前記NOxセンサ自己診断の中断要求信号が発生していない場合に、前記NOxセンサ動作状態が所定の安定状態にあるとされることを特徴とする請求項3記載のNOxセンサ自己診断制御方法。
【請求項5】
自動車両の排気浄化装置に設けられたNOxセンサの自己診断の実行が電子制御ユニットにより制御可能としてなるNOxセンサ自己診断制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、前記自動車両の動作制御を実行可能に構成されてなるエンジン制御ユニットであって、
前記エンジン制御ユニットは、前記自動車両のエンジン運転中において、所定の判断要素が、前記NOxセンサの自己診断の実行に適した所定の基準を満たした場合に、前記NOxセンサの自己診断を実行可能に構成され、
前記所定の判断要素は、少なくとも、走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態であって、それぞれ所定の安定状態にある場合に前記所定の基準を満たしたとすることを特徴とするNOxセンサ自己診断制御装置。
【請求項6】
前記走行状態は、少なくとも前記自動車両の車速の変動量、エンジン回転数の変動量、アクセルペダルの変動量、及び、燃料噴射制御状態を指標とし、前記車速の変動量、前記エンジン回転数の変動量、及び、前記アクセルペダルの変動量が、それ
ぞれ所定の基準を満たし、かつ、前記燃料噴射制御状態が通常噴射制御状態にある場合に、
前記走行状態が所定の安定状態にあるとすることを特徴とする請求項5記載のNOxセンサ自己診断制御装置。
【請求項7】
前記排気ガス状態は、少なくともNOx濃度、排気ガス温度、O2濃度、及び、排気ガス流量を指標とし、それぞれ所定の基準を満たす場合に、前記排気ガス
状態が所定の安定状態にあるとすることを特徴とする請求項6記載のNOxセンサ自己診断制御装置。
【請求項8】
前記NOxセンサ動作状態は、少なくともNOxセンサ制御電圧、NOxセンサ動作モード、及び、自己診断中断要求信号を指標とし、前記NOxセンサ制御電圧が所定電圧範囲にあって、かつ、前記NOxセンサの動作モードが検出モードにあって、さらに、前記NOxセンサ
の自己診断の中断要求信号が発生していない場合に、前記NOxセンサ動作状態が所定の安定状態にあるとすることを特徴とする請求項7記載のNOxセンサ自己診断制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOxセンサの自己診断制御方法及びその装置に係り、特に、自己診断の実行頻度、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化酸化物(NOx)の濃度を検出するNOxセンサは、例えば、車両の排気浄化装置において、いわゆる尿素SCRシステムの下流側に設けられて、検出NOx濃度が尿素SCRシステムへの還元剤添加量の制御等に用いられることは良く知られている通りである(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このNOxセンサには、様々な構成のものがあるが、例えば、ジルコニアセラミックスからなるセンサ素子を用いて、被測定ガス中のNOから発生した酸素イオン量を電流出力可能に構成されたものが良く知られている。
このようなNOxセンサを用いる自動車両においては、NOxセンサの制御電圧を意図的に所定電圧まで低下させると、それに伴いNOxの検出濃度に相当する出力電圧が上昇する特性を利用して、NOxセンサの制御電圧を低下させた場合の出力値等によってNOxセンサの良否判定を行う所謂自己診断が行われることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このNOxセンサ自己診断は、一時的にNOxセンサの検出動作を停止させることになり、本来の排気浄化動作に支障をきたすこととなるため、従来は、自動車両のイグニッションスイッチがオフされた後のアフターラン処理において行われるのが通常である。
ところが、アフターラン処理時の自己診断の実施だけでは、実際には、NOxセンサの良否判定を適切なタイミング、回数で実現するという観点では決して十分ではない。さらに、アフターラン処理時におけるNOxセンサへの電源供給のために車両用バッテリを用いる構成とするためには、別途電源供給のためのリレーを用いた経路を設ける必要があるため、部品の増加と製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0006】
さらに、アフターラン処理時の一回だけの自己診断の実施だけでは、モニター性能比(IUMPR:In-Use Monitoring Performance Ratio)が低いものとなり、いわゆる車両の故障診断機能(OBD:On-Board Diagnostics)のさらなる向上が求められている現状にそぐわない。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、新たな部品の追加を要することなく、NOxセンサの複数回の自己診断の実行を可能とし、自己診断の信頼性向上を図ることのできるNOxセンサ自己診断制御方法及びNOxセンサ自己診断制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るNOxセンサ自己診断制御方法は、
自動車両の排気浄化装置に設けられたNOxセンサの自己診断の実行が、前記自動車両の動作制御を実行可能に構成されてなるエンジン制御ユニットにより制御可能とされてなるNOxセンサ自己診断制御装置におけるNOxセンサ自己診断制御方法であって、
前記自動車両のエンジン運転中において、所定の判断要素が、前記NOxセンサの自己診断の実行に適した所定の基準を満たした場合に、前記NOxセンサの自己診断を実行し、
前記所定の判断要素は、少なくとも、走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態であって、それぞれ所定の安定状態にある場合に前記所定の基準を満たしたとするよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るNOxセンサ自己診断制御装置は、
自動車両の排気浄化装置に設けられたNOxセンサの自己診断の実行が電子制御ユニットにより制御可能としてなるNOxセンサ自己診断制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、前記自動車両の動作制御を実行可能に構成されてなるエンジン制御ユニットであって、
前記エンジン制御ユニットは、前記自動車両のエンジン運転中において、所定の判断要素が、前記NOxセンサの自己診断の実行に適した所定の基準を満たした場合に、前記NOxセンサの自己診断を実行可能に構成され、
前記所定の判断要素は、少なくとも、走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態であって、それぞれ所定の安定状態にある場合に前記所定の基準を満たしたとするよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来と異なり、自動車両のエンジン運転中に、複数の判断要素が、それぞれの所定の基準を満たす場合に、従来同様のNOxセンサの自己診断を実行するよう構成したことにより、新たな部品の追加を要することなく、NOxセンサの複数回の自己診断の実行を可能とし、自己診断の信頼性向上を図ることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態におけるNOxセンサ自己診断制御装置の構成例を示す構成図である。
【
図2】
図1に示されたNOxセンサ自己診断制御装置において実行されるNOxセンサ自己診断制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態におけるNOxセンサ自己診断制御処理の実行過程における自己診断の実行の可否を判断する判断要素及び基準を説明する説明図である。
【
図4】NOxセンサの制御電圧変化に対する出力の変化特性の一例を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるNOxセンサ自己診断制御装置の構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるNOxセンサ自己診断制御装置は、エンジン制御ユニット(
図1においては「ECU」)100と、排気浄化装置200の下流側に設けられたNOxセンサ1とを中心に構成されたものとなっている。
エンジン制御ユニット100は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)や、図示されない外部の電子回路とのインターフェイスのためのインターフェイス回路(図示せず)等を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0012】
このエンジン制御ユニット100には、図示されないセンサやスイッチ開閉信号等によって取得された、例えば、エンジン回転数、アクセル開度等に代表される自動車両の動作制御に必要な各種の信号(以下、説明の便宜上「車両制御情報」と称する)が入力され、図示されないエンジンの燃料噴射制御処理等の実行に供されるようになっている。さらに、エンジン制御ユニット100には、排気温度センサ3やNOxセンサ1の検出信号の他、図示されないセンサにより検出された圧力等の排気浄化制御処理等に必要とされる各種の検出信号(以下、説明の便宜上「排気制御情報」と称する)が入力されるようになっている。
なお、エンジン制御ユニット100は、イグニッションスイッチ(
図1においては「IG SW」と表記)21を介して車両用バッテリ22による電圧供給がなされるものとなっているのは従来同様である。
【0013】
排気浄化装置200は、排気管の上流側から順に、酸化触媒(
図1においては「DOC」と表記)50と、ディーゼルパティキュレートフィルタ(
図1においては「DPF」と表記)51と、選択式還元触媒(
図1においては「SCR」と表記)52とが設けられて構成されている。
この排気浄化装置200の構成自体は、従来から良く知られているものと基本的に同一で、本発明特有のものではない。
【0014】
酸化触媒50は、排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)などを酸化する機能を有する従来同様の構成を有してなるものである。
ディーゼルパティキュレートフィルタ51は、排気ガス中の粒子状物質を捕集する従来同様の構成を有してなるものである。
選択式還元触媒52は、還元剤噴射弁11によって上流側から供給される液体還元剤を用いて、排気中に含まれるノックス(NOx)を選択的に還元する触媒で、その構成自体は、従来同様である。なお、液体還元剤には、例えば、尿素やアンモニア水等が用いられる。
【0015】
NOxセンサ1は、選択式還元触媒52の下流側に設けられており、検出されたノックス濃度は、還元剤噴射弁11による液体還元剤の噴射制御処理などに供されるものとなっている。
このNOxセンサ1は、例えば、ジルコニアセラミックスを用いたもの等の従来から良く知られた構成のものである。
本発明の実施の形態におけるNOxセンサ1は、コントローラ1Aを介してエンジン制御ユニット100と接続されるようになっている。
コントローラ1Aは、エンジン制御ユニット100からの制御信号に応じて、NOxセンサ1の動作に必要な制御電圧の供給、停止を行えるよう構成されたものである。
なお、ディーゼルパティキュレートフィルタ51には、ディーゼルパティキュレートフィルタ51の上流側の圧力と下流側の圧力差を検出する圧力センサ2が設けられると共に、下流側の適宜な位置には排気温度センサ3が設けられている。
【0016】
次に、エンジン制御ユニット100により実行されるNOxセンサ自己診断制御処理について、
図2乃至
図4を参照しつつ説明する。
最初に、エンジン制御ユニット100による制御処理が開始されると、イグニッションスイッチ21がオン状態か否かの判定が行われる(
図2のステップS110参照)。
ステップS110において、イグニッションスイッチ21はオン状態であると判定された場合(YESの場合)は、後述するステップS120の処理へ進む一方、イグニッションスイッチ21はオン状態ではないと判定された場合(NOの場合)、イグニッションスイッチ21はオフ状態にあるとして次述するステップS160の処理へ進むこととなる。
【0017】
ステップ160においては、イグニッションスイッチ21がオフ状態において、NOxセンサ自己診断の実行の可否を判断するための所定の判断要素(エンジン停止時自己診断条件)が所定の基準を満たしているか否かが判定されることとなる。
ステップS160において、所定の判断要素が所定の基準を満たしている、すなわち、換言すれば、エンジン停止時自己診断条件が充足されていると判定された場合(YESの場合)は、次述するステップS170の処理へ進む。
一方、ステップS160において、エンジン停止時自己診断条件が充足されていないと判定された場合(NOの場合)は、NOxセンサ自己診断の実行は停止されて図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる(
図2のステップS190参照)。
【0018】
ここで、エンジン停止時自己診断条件について説明する。
まず、イグニッションスイッチ21がオフ状態にある場合に実行されるNOxセンサ自己診断は、基本的には従来から適用されているものであり、エンジン停止時自己診断条件も基本的に従来同様のものである。
【0019】
図3には、イグニッションスイッチ21がオフ状態の場合にNOxセンサ自己診断が実行可能か否かを判断するための判断要素と、後述するイグニッションスイッチ21がオン状態の場合にNOxセンサ自己診断が実行可能が否かを判断するための判断要素を説明する説明図が示されている。以下、同図を参照しつつ、ます、イグニッションスイッチ21がオフ状態の場合に判断要素について説明する。
【0020】
図3において、”自己診断実施条件”と表記された欄において、”IG SWオフ後”と表記された列において、丸印が記された箇所の判断要素が、イグニッションスイッチ21がオフ状態の場合にNOxセンサ自己診断が実行可能か否かを判定する場合に用いられる判断要素である。
そして、各判断要素が、NOxセンサ自己診断の実行を可能とする状態であるか否かの判断基準は、
図3において”判断基準”と表記され欄の該当の列にそれぞれ表記されている通りである。
【0021】
すなわち、この例の場合、次の5つの判断要素がそれぞれの判断基準を満たすことが、NOxセンサ自己診断の実行開始に必要となっている。
(1)NOx濃度が所定濃度以下であること。
(2)排気ガス温度が所定温度範囲にあること。
(3)NOxセンサ制御電圧が所定電圧範囲にあること。
(4)NOxセンサ1の動作モードが検出動作可能な検出モードであること。
(5)O2濃度が所定濃度以上あること。
これら各々の判断基準の具体的な値は、NOxセンサ1の具体的な仕様や、排気浄化装置200の具体的な仕様等によって種々異なるので、それらを考慮して試験結果やシミュレーション結果等に基づいて定めるのが好適である。
【0022】
ここで、各判断基準について概略説明すれば、まず、NOx濃度を所定濃度以下とするのは、後述するNOxセンサ1の自己診断の手法が、コントローラ1Aを介してNOxセンサ1に供給される制御電圧を意図的に変化させることで擬似的に検出濃度が変化することを利用したものであるため、極端にNOx濃度の高い状態では、自己診断により取得される擬似的な検出値が本来の値とならず、自己診断の用をなさない虞があるためである。
【0023】
また、排気ガス温度を所定温度範囲とすること、及び、NOxセンサ制御電圧が所定電圧範囲とすることは、いずれもNOxセンサ1の安定な動作状態を確保するためである。
また、NOxセンサ1の動作モードが動作可能な状態(検出モード)とするのは、特に、本発明の実施の形態におけるNOxセンサ1が、内部にヒータを有し、ヒータによる加熱後に正常な検出動作が可能となる構成のものでるためである。したがって、例えば、ヒータの通電後、所定時間経過後において検出動作可能な状態として自己診断可能となる。
【0024】
さらに、O2濃度が所定以上とするのは、O2濃度が極端に低い状態にあっては、自己診断を終えてもそもそもが、NOxセンサ1の正常な検出不可能となる虞があるためである。
【0025】
次に、再び
図2のフローチャートに戻り、ステップS170の処理について説明する。
ステップS170においては、NOxセンサ自己診断が開始される。
すなわち、本発明の実施の形態におけるNOxセンサ自己診断自体は、センサの特性を利用して従来から行われているものである。
具体的には、本発明の実施の形態におけるNOxセンサ1は、
図4において二点鎖線で示されたように、制御電圧Vsを、通常動作時の電圧から所定電圧に低下させると、その間、出力は、同図において実線で示されたように所定のNOx濃度に対応する出力を示す特性となっている。
なお、
図4において、実線の特性線は、NOx濃度で示されたNOxセンサ1の出力変化を、二点鎖線の特性線は、制御電圧Vsの変化を、それぞれ示している。
【0026】
NOxセンサ自己診断は、上述のようなNOxセンサ1の動作特性を利用したもので、エンジン制御ユニット100からNOxセンサ1へ対してNOxセンサ1の自己診断を要求する信号が出力されると、コントローラ1AによってNOxセンサ1の制御電圧Vsが所定時間の間、所定電圧に降下される。
そして、制御電圧Vsが所定電圧に降下されている間、NOxセンサ1の出力がコントローラ1Aを介してエンジン制御ユニット100に読み込まれ、読み込まれたデータは、エンジン制御ユニット100内の適宜な記憶領域に記憶、保持される。
【0027】
次いで、エンジン制御ユニット100において、上述のようにして取得されたNOxセンサ1の出力データに基づいてセンサ良否判定が行われ(
図2のステップS180参照)、その後、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。すなわち、通常、制御電圧Vsが所定電圧に降下されている間、上述のようにして取得されたNOxセンサ1の出力が、所定の範囲にある場合、NOxセンサ1は正常と判定されることとなる。
一方、NOxセンサ1の出力が、所定の範囲にない場合、NOxセンサ1の不良と判定されることとなる。
なお、NOxセンサ1が不良であると判定された場合、その判定結果は、各種のセンサやスイッチ等の故障や異常等の発生に対して、警告灯の点灯や警報音の発生等を実行する既存の異常処理制御に受け渡されて、警告灯の点灯等の定められた処理が実行されるようになっている。
上述のステップS160乃至ステップS180の処理は、従来から行われている制御処理である。
【0028】
なお、上述したNOxセンサ1の良否判定の方法は、あくまでも一例であり、この方法に限定される必要は無く、他の方法であっても良い。例えば、NOxセンサ1の出力と検出開始からの経過時間との積を求め、その値が所定範囲にあるか否かによって、NOxセンサ1の良否判定を行う方法であっても良い。
【0029】
一方、ステップS120においては、エンジン運転中自己診断条件が充足されているか否かが判定される。
すなわち、エンジン運転中におけるNOxセンサ自己診断の実行の可否を判断するための所定の判断要素(エンジン運転中自己診断条件)が、所定の基準を満たしているか否かが判定される。
ステップS120において、エンジン運転中自己診断条件が充足されていると判定された場合(YESの場合)、次述するステップS130の処理へ進む一方、エンジン運転中自己診断条件は充足されていないと判定された場合(NOの場合)、先に説明したステップS190の処理へ進むこととなる。
【0030】
本発明の実施の形態において、エンジン運転中におけるNOxセンサ自己診断の実行の可否を判定するための所定の判断要素は、少なくとも走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態に大別されており、それぞれ所定の安定状態にある場合に、所定の基準を満たした、すなわち、エンジン運転中自己診断条件が充足されたとしている。
ここで、所定の判断要素である、走行状態、排気ガス状態、及び、NOxセンサ動作状態の具体例について、
図3を参照しつつ説明する。
【0031】
図3において、”自己診断実施条件”と表記された欄において”運転中”と表記された列の各行には丸印が記されているが、これは同図左側の判断要素の欄の各行の判断要素が、エンジン運転中のNOxセンサ自己診断の実行の可否判断に供されることを表している。
本発明の実施の形態におけるエンジン運転中のNOxセンサ自己診断が実行可能か否かを判断するための判断要素は、先のイグニッションスイッチ21がオン状態におけるNOxセンサ自己診断の実行の可否の判断要素である
図3のNo.1乃至No.5の判断要素に、さらに、以下に(6)~(11)として示した6つの判断要素が加えられたものとなっている。これらの判断要素は、
図3のNo.6乃至No.11に示された判断要素である。
【0032】
(6)車速変動量
(7)エンジン回転数変動量
(8)アクセルペダル変動量
(9)燃料噴射制御状態
(10)排気ガス流量
(11)自己診断中断要求信号
【0033】
これらの判断要素は、いずれも、エンジン運転中の状態においてNOxセンサ自己診断を実行する場合、自己診断結果の正否に影響を与えやすい要素であることから、エンジン運転中にNOxセンサ自己診断を実行する際の判断要素として選定されたものである。この判断要素は、あくまでも一例であり、これらに限定されるものでなく、如何なる判断要素を選択するかは、NOxセンサ1の具体的な仕様、車両や排気浄化装置200の具体的な仕様等によって種々異なるので、それらを考慮して試験結果やシミュレーション結果等に基づいて定めるのが好適である。なお、判断基準についても上述と同様のことが言える。
【0034】
なお、上述の(6)乃至(11)の判断要素において、(6)の車速は、図示されない車速センサによって検出された車両の走行速度である。(7)のエンジン回転数は、図示されないエンジン回転センサによって検出されたエンジンの回転数である。(8)のアクセルペダル変動量は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量の変動の大きさを意味し、通常、アクセルペダルセンサ(図示せず)等を用いて、その踏み込み量が検出されるものとなっている。(9)の燃料噴射制御状態は、通常、エンジンの燃焼モードの状態が幾つかある中で、最も燃料噴射状態が安定した状態で、NOxセンサ自己診断に適するという観点から、いわゆる通常噴射制御状態にあることを求めるものである。(10)の排気ガス流量は、図示されない吸入空気量センサを用いて推定される排気ガスの流量である。
【0035】
(11)における自己診断中断要求信号とは、NOxセンサ自己診断の中断を要求する信号である。通常、エンジン制御ユニット100においては、種々の動作制御処理が実行されるが、その種々の動作制御処理の実行状態に基づいて各動作制御処理の優先度を判断する処理が別個に実行されている。自己診断中断処理は、上述の各動作制御処理の優先度を判断する処理において、必要に応じて、NOxセンサ自己診断の実行を中断させて、一旦、他の動作制御処理の実行を優先することが必要と判断された場合などに発生せしめられる信号である。
【0036】
本発明の実施の形態においては、少なくとも車速変動量、エンジン回転数変動量、アクセルペダル変動量、及び、燃料噴射制御状態が、走行状態の指標として、所定の安定状態であるか否かの判定に供されるものとなっている。
すなわち、具体的には、車速変動量、エンジン回転数変動量、及び、アクセルペダル変動量が、それぞれ所定範囲内であり、かつ、燃料噴射制御状態が通常噴射制御状態にある場合に、走行状態は所定の安定状態にあるとされるものとなっている(
図3の判断基準の欄参照)。
【0037】
また、本発明の実施の形態においては、少なくともNOx濃度、排気ガス温度、O2濃度、及び、排気ガス流量が、排気ガス状態の指標として、排気ガス状態が所定の安定状態であるか否かの判定に供されるものとなっている。
すなわち、具体的には、NOx濃度が所定濃度以下で、排気ガス温度が所定温度範囲で、O2濃度が所定濃度以上で、排気ガス流量が所定範囲である場合、排気ガス状態は所定の安定状態にあるとされるものとなっている(
図3の判断基準の欄参照)。
【0038】
さらに、本発明の実施の形態においては、少なくともNOx制御電圧、NOxセンサ動作モード、及び、自己診断中断要求信号が、NOxセンサ動作状態の指標として、NOxセンサ動作状態が所定の安定状態であるか否かの判定に供されるものとなっている。
すなわち、具体的には、NOxセンサ制御電圧が所定電圧範囲で、NOxセンサ動作モードが検出モードで、かつ、自己診断中断要求信号が発生していない場合、NOxセンサ動作状態は所定の安定状態にあるとされるものとなっている(
図3の判断基準の欄参照)。
【0039】
次に、再び
図2のフローチャートの説明に戻る。
ステップS120において、上述の判断要素について、それぞれ対応する判断基準を満たしている、すなわち、エンジン運転中自己診断条件が充足されていると判定された場合(YESの場合)、NOxセンサ自己診断が開始される(
図2のステップS130参照)。
ステップS130におけるNOxセンサ自己診断は、先にステップS170におけるNOxセンサ自己診断と基本的に同一であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0040】
次いで、検出値補償演算が行われる(
図2のステップS140参照)。
この検出値補償演算は、NOxセンサ1の出力値(検出値)の補償を行うものである。NOxセンサ自己診断は、先に述べたように、標準的な特性を有するNOxセンサについて予め取得された
図3に示された特性に基づいて定められた判断基準を用いてNOxセンサ1の良否を判断するものとなっている。
しかしながら、実際には、NOxセンサ1の各個体毎の特性のばらつきや、使用環境の違い等により、必ずしも標準特性を基に定められた判断基準が適切ではない状態となる虞がある。
このため、本発明の実施の形態においては、次述するように、主にNOxセンサ1の各個体毎の特性のばらつきと、使用環境を考慮した補償値によって、NOxセンサ1の出力値を補正することとしている。
【0041】
まず、NOxセンサ1の個体毎の特性ばらつきは、NOxセンサ1の仕様(いわゆる型番)の違いによって、特性ばらつきの大きさやばらつきの方向が異なる傾向にあることから、仕様毎に収集された特性ばらつきのデータを基に、それぞれの仕様のNOxセンサ毎に、NOxセンサ1の出力値と標準値との乖離を可能な限り抑圧可能な最適な補償値(以下、説明の便宜上「第1補償値」と称する)を、試験やシミュレーション等によって定める。そして、車両に搭載されたNOxセンサ1の仕様に応じた第1補償値を読み出し可能に、いわゆるテーブル化したものがエンジン制御ユニット100の適宜な記憶領域に記憶、保存されている。
なお、第1補償値を上述のようにして定める際には、第1補償値によるNOxセンサ1の出力値の補正の仕方として、NOxセンサ1の出力値との乗算、加算、減算、除算が考えられるので、そのいずれを用いるかを考慮して、その補正の仕方に適する第1補償値を定める必要がある。
【0042】
次に、外気温度などの使用環境の違いよる、NOxセンサ1の出力値への影響は、NOxセンサ1の各仕様(型番)によって大小がある。そのため、本発明の実施の形態においては、NOxセンサ1の各仕様(型番)毎に、種々の外気温度に対して収集された出力値のデータを基に、外気温度毎に、外気温度による影響を極力最小化可能とする第2補償値を試験やシミュレーション等によって定めている。
そして、上述のようにした定められた第2補償値は、NOxセンサ1の各仕様(型番)毎に、かつ、種々の外気温度毎に読み出し可能にテーブル化されたものがエンジン制御ユニット100の適宜な記憶領域に記憶、保存されている。
なお、第2補償値を上述のようにして定める際には、第1補償値で述べたと同様に、第2補償値による第1補償値の補正の仕方として、第1補償値との乗算、加算、減算、除算のいずれを用いるかを考慮して、その補正の仕方に適する第2補償値を定める必要がある。
【0043】
しかして、ステップS140における検出値補償演算は、まず、本装置の使用開始時に確定する第1補償値がエンジン制御ユニット100の適宜な記憶領域から読み出される。次いで、ステップS140の実行時の外気温度に対応する第2補償値が、同様にエンジン制御ユニット100の適宜な記憶領域から読み出される。なお、この第2補償値は、先に述べたように、NOxセンサ1の仕様毎に、種々の外気温度に対するデータが備えられているため、本装置の使用開始時に確定されたNOxセンサ1の仕様に対する種々の外気温度に対する第2補償値が記憶、保存されたエンジン制御ユニット100の記憶領域から対応する第2補償値が読み出されることとなる。
次いで、読み出された第2補償値によって第1補償値が補正され、その補正後の第1補償値を用いて、実際に得られたNOxセンサ1の自己診断時の出力値が補正されるものとなっている。
なお、先に述べたように、NOxセンサ1の良否判定に、NOxセンサ1の出力と検出開始からの経過時間との積を用いる場合には、この積を上述の補償値によって補正するのが好適である。
【0044】
次いで、ステップS150においては、上述のようにして補正されたNOxセンサ1の出力値が先に述べた所定の基準を満足しているか否かによって良否が判断されることとなる。
なお、NOxセンサ1が不良であると判定された場合については、先にステップS180で説明したように、その判定結果に基づいて、別個の既存の異常処理制御によって警告灯の点灯等の定められた処理が実行されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
新たな部品の追加を要することなく、NOxセンサの複数回の自己診断の実行が所望される自動車両に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1…NOxセンサ
1A…コントローラ
3…排気温度センサ
11…還元剤噴射弁
21…イグニッションスイッチ
22…車両用バッテリ
50…酸化触媒
51…ディーゼルパティキュレートフィルタ
52…選択式還元触媒
100…エンジン制御ユニット
200…排気浄化装置