(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】中空エンジンバルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 3/24 20060101AFI20241023BHJP
F01L 3/20 20060101ALI20241023BHJP
B21K 1/22 20060101ALI20241023BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
F01L3/24 D
F01L3/20 A
B21K1/22
B21J5/06 F
(21)【出願番号】P 2023534531
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026549
(87)【国際公開番号】W WO2023286227
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000237123
【氏名又は名称】フジオーゼックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003292
【氏名又は名称】弁理士法人三栄国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久島 晃二
(72)【発明者】
【氏名】小関 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大雅
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-081932(JP,A)
【文献】特開2016-047537(JP,A)
【文献】特開2010-094732(JP,A)
【文献】特開2000-033453(JP,A)
【文献】特開昭62-179846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/14- 3/24
B21K 1/22
B21J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部と、少なくとも前記軸部の内部に設けられた中空部とを備える中空エンジンバルブの製造方法であって、
特殊鋼からなる素材である中実丸棒を再結晶温度以上の高温状態とする加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で前記高温状態となったワークの一端側を除く胴部を縮径して中間体を成形する搾出加工工程と、
前記中間体において相対的に拡径した前記一端側を傘状に拡径する傘成形工程と、
前記傘成形工程で成形された前記中間体の他端側から軸線に沿って有底の穴を穿設して半完成品を成形する穴明加工工程と、
前記半完成品
の中空軸部である筒状部を冷間で絞り上げる冷間鍛造工程とを含み、
前記冷間鍛造工程を2以上の工程に分割し、前記分割した工程の間に前記ワークを冷却するための冷却工程を設けることを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項2】
前記冷間鍛造工程を第1分割工程、第2分割工程、および第3分割工程の3つの工程に分割し、前記第1分割工程と前記第2分割工程との間、前記第2分割工程と前記第3分割工程との間に、それぞれ前記冷却工程を設けることを特徴とする請求項1に記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程は、常温環境下において一定時間待機させて前記ワークを冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程は、送風機により強制的に冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項5】
前記分割した工程は、それぞれ押圧装置、高さ調整装置、ダイユニット、およびダイを備えており、前記高さ調整装置は、前記分割した工程毎に前記ダイユニットの高さを適宜変更することができることを特徴とする請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項6】
前記分割した工程は、それぞれダイの成形孔に潤滑油を添加する潤滑油添加装置を備えており、前記分割した工程毎に設定したタイミングおよび/または設定した量で前記成形孔に潤滑油を添加することを特徴とする請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空エンジンバルブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や船舶などのエンジンの燃焼室に吸気ガスを流入させ、排気ガスを排出させるためのエンジンバルブには、温度上昇を抑制する金属ナトリウムなどの冷却材を封入するために、内部を中空にした中空部を設けた中空エンジンバルブ(以下、単にエンジンバルブともいう)がある(特許文献1参照)。
【0003】
このようなエンジンバルブの製造方法には、
図10に示すように、素材である中実丸棒1を、中間体2、又は中間体4の成形を経て半完成品6を成形するものがある(特許文献2参考)。半完成品6は、一端側に傘状に拡径した傘状部5と、軸線方向に延伸して他端側が開口する中空孔7を有する筒状部8を設けている。中間体2は、先に穴明加工により中空孔3が設けられた後に、傘成形により傘状部5が設けられ、中間体4は、先に傘成形により傘状部5が設けられた後に、穴明加工により中空孔7が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-190759号公報
【文献】特許第4390291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなエンジンバルブの製造方法の場合、半完成品6に至るまでの成形の順序(中間体2、4の形状)に相違はあるが、いずれの場合でも、従来工法では中実丸棒1と半完成品6の軸径がほぼ同一でないと加工ができなかった為、中実丸棒1の軸径を予め半完成品6の軸径と同一(例えばφa)にする必要がある。したがって、生産計画において軸径が異なる仕様のエンジンバルブが複数ある場合には、仕様の数に応じて中実丸棒1を用意する必要があり、生産管理が煩雑となっていた。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、生産管理が容易な中空エンジンバルブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の第1の態様は、軸部と、前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部と、少なくとも前記軸部の内部に設けられた中空部とを備える中空エンジンバルブの製造方法であって、特殊鋼からなる素材である中実丸棒を再結晶温度以上の高温状態とする加熱処理工程と、前記加熱処理工程で前記高温状態となったワークの一端側を除く胴部を縮径して中間体を成形する搾出加工工程と、前記中間体において相対的に拡径した前記一端側を傘状に拡径する傘成形工程と、前記傘成形工程で成形された前記中間体の他端側から軸線に沿って有底の穴を穿設して半完成品を成形する穴明加工工程と、前記半完成品を冷間で絞り上げる冷間鍛造工程とを含み、前記搾出加工工程と前記傘成形工程とを同時に行う。
【0008】
上記(1)の構成によれば、搾出加工工程において、中実丸棒から外径が異なる胴部を有する中間体を成形することができる。これにより、複数種類のバルブの成形を行う場合であっても、それに応じて中間部の胴部の外径を調整することができるため、予め用意する中実丸棒の外径を統一することができ、生産管理コストを削減することができるとともに、中実丸棒の外径に制限されることなく、中空エンジンバルブの設計の自由度を高めることができる。
【0009】
また、ワークの高温状態を維持したまま、搾出加工工程と傘成形工程とを同時に行うことにより、中間体及び半完成品の胴部及び傘部の組織(結晶粒)が小さくなるように管理することができる。これにより、冷間鍛造工程において冷間加工性が向上し、冷間鍛造工程後のワークの肌面がなめらかになり、品質の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産管理が容易な中空エンジンバルブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態における中空エンジンバルブの縦断面図である。
【
図2】同じく中空エンジンバルブの弁傘部までの成形工程を示す模式図である。
【
図3】同じく一気鍛造装置の正面一部縦断面図である。
【
図4】同じく、ネッキング装置の正面一部縦断面図である。
【
図5】同じく、ネッキング装置の正面一部縦断面図である。
【
図6】同じく、ネッキング装置の正面一部縦断面図である。
【
図7】同じく、ネッキング装置のブロック図である。
【
図8】第1絞りパターンに係るダイや成形後の弁傘部の寸法等を表した図である。
【
図9】第2絞りパターンに係るダイや成形後の弁傘部の寸法等を表した図である。
【
図10】従来の中空エンジンバルブの半完成品までの成形工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1~
図9を参照し、発明の一実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は例示であり、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【0013】
なお、本実施形態の中空エンジンバルブ100、その成形段階の中間体20、30、半完成品200及び弁傘部110の方向については、軸部111の先端側(軸端部材120側)が上、軸部111の基端側(傘部112側)が下を基準として説明する。
【0014】
(中空エンジンバルブ100)
中空エンジンバルブ(以下、単にエンジンバルブという)100は、自動車等のエンジン(図示略)のシリンダヘッドに設けられ、かつ燃焼室に連通した吸気ポート及び排気ポートの内部に配置される弁体であって、エンジン実動時に上下方向へ移動して吸気ポート及び排気ポートを開閉可能とする。エンジンバルブ100は、吸気ポートを開放することによって吸気ガスを吸気ポートから燃焼室内に供給可能とし、排気ポートを開放することによって燃焼室内の排気ガスを排気ポートから燃焼室外に排出可能とする。
【0015】
図1に示すように、エンジンバルブ100は、本体部分である弁傘部110と、蓋体部分である軸端部材120とを備える。
【0016】
弁傘部110は、丸棒状の軸部111と、軸部111の下端部に連続して設けられ、下方に向かって同心状かつ傘状に拡径した傘部112とを備える。
【0017】
弁傘部110の内部には、上部が開口し軸部111から傘部112に亘って中空部115が設けられている。中空部115は有底であって、軸部111の中空部115は一定の内径を有しており、傘部112の中空部115は下方(底部)に向かって拡径している。
【0018】
弁傘部110は、弁傘部110の成形後に行われる冷却材封入工程において、中空部115へチタン等のゲッタ材や、中空部115内の温度上昇を抑制する金属ナトリウム等の冷却材(図示略)が投入された後、軸端部材120が軸部111の上端部に接合(例えば、摩擦圧接)されて固着されることにより、軸部111の開口が閉塞される。これにより、中空部115は密閉され、冷却材等は中空部115内に封入される。これにより、軸端部材120は、軸部111と一体的(分離不能)になって、軸部111となって、エンジンバルブ100が完成する。
【0019】
なお、必要に応じて、エンジンバルブ100の全部又は一部(傘部112の一部や全部、軸部111の全部や一部)に、例えばセラミックのような熱伝導率が低い金属によって断熱コーティングを施したり、窒化処理や研磨などの表面処理を施すようにしてもよい。
【0020】
ここで、エンジンバルブ100の加工前の状態である、中実丸棒10、第1中間体20、第2中間体30、半完成品200、及び弁傘部110(以下、これらを単にワークともいう)について説明する。
【0021】
図2(a)に示す中実丸棒10は、特殊鋼からなる円柱状の素材であって一定の外径(φA)を有する。本実施形態では、軸部111の外径が異なる複数のエンジンバルブ100(弁傘部110)を成形するような場合であっても、後述するように外径が統一された一種類の中実丸棒10を用意すればよい。
【0022】
図2(b)に示す第1中間体20は、中実丸棒10の外径(φA)よりも小さい外径(φB)の胴部21と、基端部に中実丸棒10の外径と同じ又は僅かに大きい外径のヘッド部22とを設ける。
【0023】
図2(c)に示す第2中間体30は、第1中間体20の胴部21の外径(φB)よりも僅かに大きい外径(φC)の胴部31と、基端部に下方に向かって同心状かつ傘状に拡径した傘状部32とを設ける。
【0024】
図2(d)に示す半完成品200は、先端が開口する有底の円筒穴205を有する筒状部201と、基端部に第2中間体30の傘状部32と同形の傘状部202とを設ける。なお、半完成品200における筒状部201の外径と、第2中間体30における胴部31の外径とは等しい(φC)。
【0025】
図2(e)に示す弁傘部110は、半完成品200の筒状部201の外径(φC)よりも小さい外径(φD)の軸部111と、基端部に傘状部202と同形の傘部112と、軸部111から傘部112に亘って形成されるとともに、半完成品200における円筒穴205の内径よりも小さい内径の中空部115とを有する。
【0026】
本実施形態では、
図3に示す一気鍛造装置300、穴明装置(図示略)、及び
図4~
図7に示すネッキング装置400によって、中実丸棒10から弁傘部110を成形する。
【0027】
(一気鍛造装置300)
図3に示すように、一気鍛造装置300は、再結晶温度以上まで加熱処理された中実丸棒10に後述する搾出加工、及び傘成形を施すことによって第2中間体30を成形する熱間鍛造を行う。
【0028】
具体的に一気鍛造装置300は、上側の金型として、機械式プレス等により上下方向に往復運動するスライド(図示略)に固定されるパンチホルダ311と、パンチホルダ311の下面に下方へ突出するように設けられ、後述する搾出加工において用いられる第1パンチ312と、後述する傘成形において用いられる第2パンチ313とを有する。
【0029】
また、一気鍛造装置300は、下側の金型として、後述する搾出加工において用いられる第1成形孔321が設けられた搾出用ダイ322と、後述する傘成形において用いられる第2成形孔323が設けられた傘成形用ダイ324と、搾出用ダイ322及び傘成形用ダイ324を固定するダイホルダ325とを有する。
【0030】
第1パンチ312は、第1成形孔321の内径よりもわずかに小さい外径で、かつ中実丸棒10を第1成形孔321の奥まで押し込める程度に長寸の円柱状をなしている。第2パンチ313は、少なくとも第2成形孔323の後述する傘成形部323aよりも大きい外径で、かつ短寸の円柱状をなしている。
【0031】
第1成形孔321は、上方に向かって同心状かつすり鉢状に拡径した誘導部321aと、誘導部321aの下部に連接され、中実丸棒10の外径よりも内径が大きい挿入部321bと、挿入部321bの下部に下方に向かって縮径するテーパ部321cを介して連接され、中実丸棒10の外径(φA)よりも小さい内径(φB)の搾出部321dとを有する。
【0032】
第2成形孔323は、上方に向かって同心状かつ略受皿状に拡径した傘成形部323aと、傘成形部323aの下部に連接され、第1成形孔321における搾出部321dの内径よりも大きい内径(φC)の胴成形部323bとを有する。
【0033】
一気鍛造装置300は、ワークのピッキング及び搬送を可能とする公知のピッキングロボット等のワーク搬送装置(図示略)によって、搾出用ダイ322の第1成形孔321内に搬送された中実丸棒10、及び傘成形用ダイ324の第2成形孔323内に搬送された第1中間体20を、第1パンチ312及び第2パンチ313によって、上方から同時にプレス(押圧)して、搾出用ダイ322において第1中間体20、傘成形用ダイ324において第2中間体30をそれぞれ同時に成形する。すなわち、一気鍛造装置300は、搾出加工及び傘成形を同時に行う。
【0034】
このように成形された第1中間体20、及び第2中間体30は、第1、第2成形孔321、323のそれぞれの下方から孔内に進退可能に設けられるピンロッド有するワーク排出装置(図示略)によって、第1、第2成形孔321、323から排出される。ワーク搬送装置は、第1成形孔321から排出された第1中間体20を傘成形用ダイ324の第2成形孔323に搬送し、第2成形孔323から排出された第2中間体30を次工程において穴明加工を行う穴明装置(図示略)に搬送する。
【0035】
穴明装置は、第2中間体30を固定可能な治具(図示略)と、治具によって固定された第2中間体30の胴部31の先端から軸線に沿って有底穴(筒状部201)を穿設可能なドリル(図示略)とを有する。穴明装置は、第2中間体30をドリルによって穿設する穴明加工を施すことにより半完成品200を成形し、ワーク搬送装置は半完成品200を次工程の冷間鍛造を行うネッキング装置400に搬送する。
【0036】
(ネッキング装置400)
ネッキング装置400は、常温下で半完成品200に対して複数段階に分けた絞り加工を施すことにより細軸化を図り、弁傘部110を成形する冷間鍛造を行う。
【0037】
図4~
図6等に示すようにネッキング装置400は、半完成品200に対する9段階の絞り工程#1~#9を、3つの絞り装置(第1絞り装置400A、第2絞り装置400B、第3絞り装置400C)によって、3工程ずつ同時に処理が可能となっている。また、ネッキング装置400は、第1~第3絞り装置400A~400Cの各装置間に、換言すると3工程ごとに、絞り加工によって上昇したワークの実体温度の低下を図るために後述する第1冷却搬送装置460A、及び第2冷却搬送装置460B(冷却工程)を設ける。
なお、以下の説明の便宜上、半完成品200については、絞り加工において変化する筒状部201の外径に応じて半完成品210~280として説明する。
【0038】
(第1~第3絞り装置400A~400C)
図4、
図7に示すように、第1絞り装置400Aは、半完成品200に対して複数段階で絞り加工を行うための複数のダイスを有する第1ダイユニット410Aと、第1ダイユニット410Aの高さを調整可能な第1高さ調整装置420Aと、半完成品200~220を第1~第3ダイd1~d3に押し込むとともにプレスして半完成品210~230を成形可能な第1押圧装置440Aと、半完成品200~230を搬送可能な第1搬送装置450Aと、第1搬送装置450Aに接続され、絞り加工時のワークとダイとの摩擦を緩和するための潤滑油(図示略)を第1ダイユニット410Aのダイに添加可能な第1潤滑油添加装置470Aとを備える。
【0039】
図5、
図7に示すように、第2絞り装置400Bは、第1搬送装置450Aから搬送された半完成品230に対して複数段階で絞り加工を行うための複数のダイスを有する第2ダイユニット410Bと、第2ダイユニット410Bの高さを調整な第2高さ調整装置420Bと、半完成品230~250を第4~第6ダイd4~d6に押し込むとともにプレスして半完成品240~260を成形可能な第2押圧装置440Bと、半完成品230~260を搬送可能な第2搬送装置450Bと、第2搬送装置450Bに接続され、潤滑油を第2ダイユニット410Bのダイに添加可能な第2潤滑油添加装置470Bとを備える。
【0040】
図6、
図7に示すように、第3絞り装置400Cは、第2搬送装置450Bから搬送された半完成品260に対して複数段階で絞り加工を行うための複数のダイスを有する第3ダイユニット410Cと、第3ダイユニット410Cの高さを調整可能な第3高さ調整装置420Cと、半完成品260~280を第7~第9ダイd7~d9に押し込むとともにプレスして半完成品270、280及び弁傘部110を成形可能な第3押圧装置440Cと、半完成品260~280、及び弁傘部110を搬送可能な第3搬送装置450Cと、第3搬送装置450Cに接続され、絞り加工時のワークとダイとの摩擦を緩和するための潤滑油(図示略)を第3ダイユニット410Cのダイに添加可能な第3潤滑油添加装置470Cとを備える。
【0041】
(第1~第3ダイユニット410A~410C)
図4~
図6に示すように、第1ダイユニット410Aは、第1~第3ダイd1~d3(以下、単にダイd1~d3という)と、ダイd1~d3を支持するダイホルダD1とを備える。第2ダイユニット410Bは、第4~第6ダイd4~d6(以下、単にダイd4~d6という)と、ダイd4~d6を支持するダイホルダD2とを備える。第3ダイユニット410Cは、第7~第9ダイd7~d9(以下、単にダイd7~d9という)と、ダイd7~d9を支持するダイホルダD3とを備える。
【0042】
第1~第9ダイd1~d9は、円筒孔状の成形孔h1~h9と、成形孔h1~h9の上部に連接され上方に向かってすり鉢状に拡径する拡径部w1~w9とをそれぞれ設ける。
図8の上欄に示すように、ダイd1~d9(dn)の成形孔h1~h9(hn)には、内径φがそれぞれ設定されており、拡径部w1~w9(wn)には、それぞれ勾配角θ(
図8の上欄に示すダイdnにおける成形孔hnを基準面とした場合の勾配(傾斜)面の角度)と、深さΓ(
図8の上欄に示すダイdnの上端部から拡径部wnの勾配(傾斜)が無くなる下端部までの距離)とが設定されている。
【0043】
具体的に、ダイd1は、内径φ1の成形孔h1と、勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w1とを設ける。ダイd2は、内径φ2の成形孔h2と、勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w2とを設ける。ダイd3は、内径φ3の成形孔h3と、勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w3とを設ける。ダイd4は、内径φ4の成形孔h4と、勾配角θ3、深さΓ3の拡径部w4とを設ける。ダイd5は、内径φ5の成形孔h5と、勾配角θ3、深さΓ3の拡径部w5とを設ける。ダイd6は、内径φ6の成形孔h6と、勾配角θ4、深さΓ3の拡径部w6とを設ける。ダイd7は、内径φ7の成形孔h7と、勾配角θ4、深さΓ3の拡径部w7とを設ける。ダイd8は、内径φ8の成形孔h8と、勾配角θ5、深さΓ3の拡径部w8とを設ける。ダイd9は、内径φ9の成形孔h9と勾配角θ6、深さΓ3の拡径部w9とを設ける。
【0044】
各成形孔h1~h9の内径φの関係は、φ1>φ2>φ3>φ4>φ5>φ6>φ7>φ8>φ9となっている。すなわち、ダイd1~d9の成形孔h1~h9は後の工程のほど縮径している。
【0045】
また、各拡径部w1~w9の勾配角θの関係は、θ2>θ3>θ4>θ5>θ6となっている。すなわち、ダイd1~d9の拡径部w1~w9は後の工程ほど急勾配になっている。また、各拡径部w1~w9は全て深さΓ3となっている。
【0046】
このように、絞り加工において、ダイd1~d9の成形孔h1~h9の内径φ、拡径部w1~w9の勾配角θ、及び深さΓをそれぞれ調整する(変化させる)ことにより、後述するように所望の形態の弁傘部110を成形することができる。
【0047】
(第1~第3高さ調整装置420A~420C)
図4~
図7に示すように、第1~第3高さ調整装置420A~420Cは、第1~第3ダイユニット410A~410Cを下方から支持する支持プレート421と、支持プレート421を上下動させる油圧、空圧又は電動シリンダなどからなる駆動手段422とをそれぞれ設ける。第1~第3高さ調整装置420A~420Cは、ダイ側制御部480にそれぞれ接続され、ダイ側制御部480の制御により第1~第3ダイユニット410A~410Cの高さ調整が可能となっている。したがって、第1高さ調整装置420Aは、ダイd1~d3の高さを調整可能となっており、第2高さ調整装置420Bは、ダイd4~d6の高さを調整可能となっており、第3高さ調整装置420Cは、ダイd7~d9の高さを調整可能となっている。なお、駆動手段422を用いずにプレート等のスペーサの着脱によってダイd1~d9の高さを調整してもよい。
【0048】
(第1~第3押圧装置440A~440C)
図4~
図6に示すように、第1~第3押圧装置440A~440Cは、クランク機構などの機械式プレス等により上下方向に往復運動するスライド(図示略)と、スライドに固定されるパンチホルダ441と、パンチホルダ441の底面にダイd1~d9の配列に沿って複数(例えば、3基)配設される第1~第3押圧搬送部442a~442cとを備える。第1~第3押圧装置440A~440Cにおいて、第1押圧搬送部442aは、
図4~
図6における左側に配設され、第2押圧搬送部442bは同じく中央に配設され、第3押圧搬送部442cは同じく右側に配設されている。
【0049】
第1~第3押圧搬送部442a~442cは、例えば、
図4に示すように、後述する第1~第3搬送装置450A~450C(
図4には第1搬送装置450Aのみ記載)によって搬送された逆さ状態のワークの傘状部202を、
図5に示すように係止して吊り上げ可能な鉤状の爪部446と、爪部446によって吊り上げられたワークを、
図6に示すようにスライドの下方への移動により、ダイd1~d9の成形孔h1~h9内に押し込み、プレスして成形する押圧部447とを有する。
【0050】
第1~第3押圧装置440A~440Cの第1~第3押圧搬送部442a~442cは、後述する第1~第3搬送装置450A~450Cから複数(例えば3つ)のワークを受け取り、受け取ったワークを、ダイd1~d9の成形孔h1~h9にそれぞれ押し込み、プレスし、吊り上げて、第1~第3搬送装置450A~450Cに引き渡す。
【0051】
このように第1~第3押圧装置440A~440Cは、それぞれ3つのワークを保持した状態で上下の往復運動を行うだけで、(1)3つワークを成形孔h1~h9へ押し込むとともに、(2)プレスして成形し、(3)成形した3つワークを成形孔h1~h9から引き抜くことができるため、上記(1)~(3)の処理をそれぞれ異なる装置で行う場合よりも製造効率を高めることができる。
【0052】
本実施形態では、第1~第3押圧装置440A~440Cは、ワーク側制御部490に接続されており、第1~第3押圧搬送部442a~442cのワークへの押し込みスピードや加圧力を、第1~第3押圧装置440A~440C毎に調整することができるようになっている。
【0053】
(第1~第3搬送装置450A~450C)
図4~
図6に示すように、第1~第3搬送装置450A~450Cは、ワークを移動させるための機構として、ワークの筒状部201を挟持可能な一対の爪を有する爪部451と、爪部451を開閉させる爪駆動手段(図示略)を有するベース453と、ベース453を工程の進行方向(水平方向)及び上下方向(垂直方向)に移動可能な、例えばモータ等の動力源に接続されるラックアンドピニオン機構などからなる駆動手段454とを備える。また、第1~第3搬送装置450A~450Cのベース453の前面には、潤滑油を添加するための機構の一部として、後述する第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cにそれぞれ接続されるとともに、潤滑油を下方に向かって導出可能な下向きの複数のノズル474が一定の間隔(例えば、
図4~
図6における最右の爪部451を除く爪部451の一対の爪の間)で配設されている。
【0054】
また、第1~第3搬送装置450A~450Cは、潤滑油(図示略)を貯留、排出可能な第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cとそれぞれ連携して第1~第3ダイユニット410A~410Cの各ダイに潤滑油を添加可能となっている。
【0055】
第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cは、潤滑油を一時的に貯留可能な貯留タンク471と、貯留タンク471内の潤滑油を外部に出力可能なコンプレッサ等の供給手段472と、貯留タンク471とベース453に配設されている複数のノズル474とを接続する配管473とを有する。配管473は、図面では省略されているが全てのノズル474に接続され、第1~第3搬送装置450A~450Cの水平方向の移動を許容する程度に撓みがある状態で配設される。
【0056】
第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cは、第1~第3搬送装置450A~450Cが、それぞれ、各ノズル474が各ダイの直上に位置しているとき(ダイd1~d9の成形孔h1~h9に潤滑油を添加可能な位置にあるとき)に供給手段472が作動することによって、配管473を介して潤滑油をノズル474から直下のダイにそれぞれ添加するようになっている。
図7に示すように潤滑油供給装置470は、ワーク側制御部490に接続されており、ワーク側制御部490によって添加に関する制御が行われる。
【0057】
具体的に第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cは、ワーク側制御部490に設けられているタイマ490a(
図7参照)の設定により供給手段472の作動のタイミングや作動時間を制御することによって、潤滑油の第1~第9ダイd1~d9の成形孔h1~h9への添加のタイミング(例えば、Nサイクル(鍛造N回)毎に添加)や、潤滑油の添加量を第1~第3潤滑油添加装置470A~470C毎にそれぞれ調整可能となっている。
【0058】
なお、第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cを第1~第3搬送装置450A~450Cのベース453内にそれぞれ組み込んで、第1~第3搬送装置450A~450Cと一体に構成してもよい。
【0059】
第1~第3搬送装置450A~450Cは、第1~第3押圧装置440A~440Cの第1~第3押圧搬送部442a~442cにより成形が完了して、吊り上げられた状態の複数のワークを受け取って、次工程の方向(
図4~
図6における右方向)にスライド移動する。そして、第1~第3搬送装置450A~450Cは、第1、第2押圧搬送部442a、442bから受け取ったワークを、第2、第3押圧搬送部442b、442cにそれぞれ引き渡し、第3押圧搬送部442cから受け取ったワークを、後述する第1冷却搬送装置460A、第2冷却搬送装置460B、又は次工程(例えば、冷却材封入工程)へ引き渡す。
【0060】
第1搬送装置450Aは、前工程の穴明加工工程から搬送されたワークを受け取って、第1押圧装置440Aの第1押圧搬送部442aに引き渡す。第2搬送装置450Bは、後述する第1冷却搬送装置460Aから搬送されたワークを受け取って、第2押圧装置440Bの第1押圧搬送部442aに引き渡す。第3搬送装置450Cは、後述する第2冷却搬送装置460Bから搬送されたワークを受け取って、第3押圧装置440Cの第1押圧搬送部442aに引き渡す。
【0061】
上記のようにして第1~第3搬送装置450A~450Cは、4つのワークを同時に搬送(受け取り、引き渡し)可能となっている。
【0062】
(第1、第2冷却搬送装置460A、460B)
図4~
図6に示すように、第1、第2冷却搬送装置460A、460Bは、押圧搬送部442の爪部446と同様の形態の爪部461と、爪部461を開閉可能とし、また爪部461自体の垂直及び水平方向の移動を可能とする駆動手段462とを設ける。
【0063】
第1冷却搬送装置460Aは、第1絞り装置400Aでの絞り加工が完了して第1搬送装置450Aにより搬送された半完成品230を吊り上げた後、常温環境化において一定時間待機させて半完成品230を冷却し、一定時間経過後、半完成品230を第2絞り装置400Bへ搬送する。
【0064】
第2冷却搬送装置460Bは、第2絞り装置400Bでの絞り加工が完了して第2搬送装置450Bにより搬送された半完成品260を吊り上げた後、常温環境化において一定時間待機させて半完成品260を冷却し、一定時間経過後、半完成品260を第3絞り装置400Cへ搬送する。
【0065】
図7に示すように、第1、第2冷却搬送装置460A、460Bは、ワーク側制御部490に接続されており、それぞれ待機時間が調整可能となっている。なお、急速に冷却するために送風機等を用いてもよい。
【0066】
(制御部480、490)
図7に示すように、ネッキング装置400は、第1~第3高さ調整装置420A~420Cの作動を制御するダイ側制御部480と、第1~第3絞り装置400A~400Cの第1~第3押圧装置440A~440C、第1~第3搬送装置450A~450C、第1、第2冷却搬送装置460A、460B、及び第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cの作動を制御するワーク側制御部490とを有する。
【0067】
(第1絞り装置400Aによる第1絞り加工)
図4(I)に示す第1絞り装置400Aが実行する第1絞り加工において、第1搬送装置450Aは、前工程の穴明加工工程から搬送された半完成品200、及びダイd1、d2で成形された半完成品210、220を、第1押圧装置440Aの第1~第3押圧搬送部442a~442cにそれぞれ引き渡し、ダイd3で成形された半完成品230を、
図4、
図5(II)において冷却処理が行われる第1冷却搬送装置460Aへ引き渡す。第1押圧装置440Aの第1~第3押圧搬送部442a~442cは、第1搬送装置450Aから受け取った半完成品200~220を、ダイd1~d3の成形孔h1~h3にそれぞれ押し込み、プレスして、半完成品210~230を一気に成形する。その後、第1~第3押圧搬送部442a~442cは、成形した半完成品210~230を吊り上げて、第1搬送装置450Aに引き渡す。これを繰り返すことによって、前工程の穴明加工工程から搬送された半完成品200の筒状部201を3段階(φ1→φ2→φ3)で細軸化して半完成品230を成形することができる。
【0068】
(第2絞り装置400Bよる第2絞り加工)
図5(III)に示す第2絞り装置400Bが実行する第2絞り加工において、第2搬送装置450Bは、第1冷却搬送装置460Aから搬送された半完成品230、及びダイd4、d5で成形された半完成品240、250を、第2押圧装置440Bの第1~第3押圧搬送部442a~442cにそれぞれ引き渡し、ダイd6で成形された半完成品260を、
図5、
図6(I∨)において冷却処理が行われる第2冷却搬送装置460Bへ引き渡す。第2押圧装置440Bの第1~第3押圧搬送部442a~442cは、第2搬送装置450Bから受け取った半完成品230~250を、ダイd4~d6の成形孔h4~h6にそれぞれ押し込み、プレスして、半完成品240~260を一気に成形する。その後、第1~第3押圧搬送部442a~442cは、成形した半完成品240~260を吊り上げて、第2搬送装置450Bに引き渡す。これを繰り返すことによって、第1冷却搬送装置460Aによって搬送された半完成品230の筒状部201を3段階(φ4→φ5→φ6)で細軸化して半完成品260を成形することができる。
【0069】
(第3絞り装置400Cによる第3絞り加工)
図6(∨)に示す第3絞り装置400Cが実行する第3絞り加工において、第3搬送装置450Cは、第2冷却搬送装置460Bから搬送された半完成品260、及びダイd7、d8で成形された半完成品270、280を、第3押圧装置440Cの第1~第3押圧搬送部442a~442cにそれぞれ引き渡し、ダイd9で成形された弁傘部110を次工程の冷却材封入工程へ引き渡す。第3押圧装置440Cの第1~第3押圧搬送部442a~442cは、第3搬送装置450Cから受け取った半完成品260~280を、ダイd7~d9の成形孔h7~h9にそれぞれ押し込み、プレスして、半完成品270、280、及び弁傘部110を一気に成形する。その後、第1~第3押圧搬送部442a~442cは、成形した半完成品270、280、及び弁傘部110を吊り上げて、第3搬送装置450Cに引き渡す。これを繰り返すことによって、第2冷却搬送装置460Bによって搬送された半完成品270の筒状部201を3段階(φ7→φ8→φ9)で細軸化して弁傘部110を成形することができる。
【0070】
このように絞り加工を、単一の装置ではなく第1~第3絞り装置400A~400Cに分けて行うことによって、半完成品230、260を積極的に冷却するだけでなく、潤滑油の給油やダイの高さ調整をダイユニット単位で行うことが可能となり、装置への過度な負荷を軽減させ、絞り加工の精度を高めることができる。
【0071】
具体的には、第1~第3高さ調整装置420A~420Cによって、第1~3ダイユニット410A~410Cの高さ、すなわち、ダイd1~d9の高さを適宜変更することができるため、プレス側の下死点を微調整することができる。これにより、各ダイユニット410A~410Cの各ダイd1~d9におけるワークの適性の押し込み量をダイユニット410A~410Cごとに微調整することができ、ダイd1~d9への過度な負荷を避けることができるため、ダイユニット410A~410C全体の耐用年数の延長を図ることができる。
【0072】
また、第1~第3搬送装置450A~450C、及び第1~第3潤滑油添加装置470A~470Cによって、各ダイユニット410A~410Cにおけるダイd1~d9の成形孔h1~h9ごと、具体的には、成形孔h1~h3、成形孔h4~h6、成形孔h7~h9毎に、設定したタイミングや設定した量で潤滑油を添加することができる。これにより、各ダイユニット410A~410Cにおいてワークのプレス時等の摩擦により生じる熱の上昇を適切に抑えることができ、安定して冷間鍛造を行うことができる。
【0073】
また、第1、第2冷却搬送装置460A、460Bによって、ワークを搬送するだけでなく、ワークを一定期間待機させることによって、温度を積極的に下げながら絞り加工を行うことができる。これにより、ワークの温度上昇に伴う加工不具合の減少やダイス寿命の向上を図ることができる。
【0074】
なお、本実施形態では、ダイホルダD1~D3のダイd1~d9の直線的な配列に合わせて、第1~第3押圧装置440A~440C(押圧搬送部442)、第1~第3搬送装置450A~450Cを直線的に配列しているが、ダイホルダD1~D3のダイd1~d9を円環状に配置した場合には、それらの装置をダイd1~d9に沿って円環状に配設、移動させるようにしてもよい。
【0075】
(エンジンバルブ100における弁傘部110の製造方法)
図2に示すように、弁傘部110の成形工程は、加熱処理工程において再結晶温度以上まで加熱処理された中実丸棒10を中間体30に成形する熱間鍛造工程と、中間体30を半完成品200に成形する穴明加工工程と、一旦焼鈍(軟化処理)が行われた後、常温に戻った半完成品200を弁傘部110に成形する冷間鍛造工程からなる。
【0076】
(熱間鍛造工程)
熱間鍛造工程は、搾出加工工程及び傘成形工程からなり、加熱処理された中実丸棒10に対して、一気鍛造装置300により搾出加工及び傘成形を同時に行う。
具体的には、
図3に示すように、一気鍛造装置300は、搾出用ダイ322の第1成形孔321に搬送された中実丸棒10と、傘成形用ダイ324の第2成形孔323に搬送された第1中間体20とを、第1パンチ312及び第2パンチ313によって同時に押圧して、第1成形孔321において第1中間体20を成形する搾出加工と、第2成形孔323において第2中間体30を成形する傘成形とを同時に実行する。このようにして、
図2(a)~(b)の搾出加工工程及び
図2(b)~(c)の傘成形工程は同時行われる。
【0077】
ここで、エンジンバルブ100の製造方法においては、エンジンバルブ100の軸部111の軸径等に応じて、冷間鍛造前の半完成品200の筒状部201の外径を変更する必要がある。そのため、従来のエンジンバルブの製造方法では、
図10に示すように、予め中実丸棒1の外径(φa)を半完成品6の筒状部8の外径(φa)と同一にする必要があった。しかしながら、本実施形態では、
図2に示すように、中実丸棒10の外径(φA)が半完成品200の筒状部201の外径(φC)と同一としなくても(φA>φC)、搾出加工工程によって、第2中間体30における胴部21の外径(φC)を半完成品200における筒状部201の外径(φC)と同一にすることができる。すなわち、一種類の中実丸棒10(例えば外径がφA)を用意して、中実丸棒10をエンジンバルブ100(完成品)の仕様に合わせて搾出用ダイ322を適宜変更して搾出加工をするだけで、要求に応じた胴部31を有する中間体30を成形することができる。これにより、仕様に応じて軸径が異なる種々の中実丸棒10を用意する必要がなくなるため、生産管理の容易化を図ることができるとともに、中実丸棒10の外径に制限されることなく、弁傘部110(エンジンバルブ100)の設計の自由度を高めることができる。
【0078】
また、本実施形態では、搾出加工工程と傘成形工程とを同時に行うことにより、搾出加工工程がない従来のエンジンバルブの製造方法と比べてもリードタイムは延長しない。
【0079】
また、ワークを高温状態に維持したまま、短時間で搾出加工工程と傘成形工程とを行うことにより、弁傘部110の成形途中である第2中間体30以降のワーク全体の組織(結晶粒)が小さくなるように管理することができる。これにより、冷間鍛造工程において冷間加工性が向上し、冷間鍛造によって成形された弁傘部110の肌面がなめらかになり、品質の向上を図ることができる。
【0080】
(穴明加工工程)
図2(c)~(d)に示す穴明加工工程では、第2中間体30の先端から、穴明装置のドリルなどにより軸線方向に円筒穴205を穿設して筒状部201を設けて半完成品200を成形する。穴明加工工程後、半完成品200に対して焼鈍(軟化処理)が行われる。
【0081】
(冷間鍛造工程)
図2(d)~(e)に示す冷間鍛造工程では絞り加工が行われ、
図6に示すネッキング装置400によって、半完成品200に対する複数工程の絞り加工を複数の装置に分けて行うことにより、弁傘部110を成形する。本実施形態では、例えば9つの絞り工程を3つの絞り装置400A~400Cに分けて、3つのワークに対して3工程ずつ絞り加工を同時に行うことにより、半完成品200から弁傘部110を成形する。
【0082】
具体的に冷間鍛造工程では、第1絞り装置400Aが、ワークの筒状部201の外径を、第1絞り工程において3段階でφ1からφ3まで縮径し、第1冷却搬送装置460Aが第1冷却工程においてワークを冷却し、第2絞り装置400Bが、ワークの筒状部201の外径を第2絞り工程において3段階でφ4からφ6まで縮径し、第2冷却搬送装置460Bが第2冷却工程においてワークを冷却し、第3絞り装置400Cが、ワークの筒状部201の外径を第3絞り工程において3段階でφ7からφ9まで縮径することによって、弁傘部110を成形する。
【0083】
このように、第1~第3絞り装置400A~400Cによって、絞り工程を装置毎に分けることによって、第1~第3ダイユニット410A~410Cの高さ調整、潤滑油の投入に係る調整、又はワークへの加圧力や押し込みスピードの調整を行うことができるとともに、絞り工程間に冷却工程を加入することができ、ワークの温度を積極的に下げながら絞り加工を行うことができるため、ワークの温度上昇に伴う加工の不具合の減少やダイス寿命の向上を図ることができる。
【0084】
(絞り加工)
図8~
図9を参照して、本実施形態の冷間鍛造における絞り加工のパターン(第1絞りパターン及び第2絞りパターン)について説明する。本実施形態では、第1絞りパターンの絞り込みの対象となるワークには絞り難い中炭素鋼(例えば炭素含有率が0.48~0.58%)を採用し、第2絞りパターンの絞り込みの対象となるワークには、第1絞りパターンよりも絞り易い低炭素鋼(例えば炭素含有率が0.25から0.35)を採用している。
【0085】
(第1絞りパターン)
図8の中欄の表に示すように、第1絞りパターンでは、ダイユニット410A~410Cの各ダイd1~d9を用いた絞り工程#1~#9において絞り加工を行い、半完成品200を弁傘部110に成形する。
【0086】
具体的に、第1絞りパターンでは、絞り工程#1において、半完成品200に対して、内径φ1の成形孔h1、及び勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w1を有するダイd1による絞り加工によって半完成品210を成形する。
【0087】
次いで絞り工程#2において、半完成品210に対して、内径φ1より小径のφ2の成形孔h2、及び勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w2を有するダイd2による絞り加工によって半完成品220を成形する。
【0088】
次いで絞り工程#3において、半完成品220に対して、内径φ2より小径のφ3の成形孔h3、及び勾配角θ2、深さΓ3の拡径部w3を有するダイd3による絞り加工によって半完成品230を成形する。
【0089】
次いで絞り工程#4において、半完成品230に対して、内径φ3より小径のφ4の成形孔h4、及び勾配角θ2よりも急勾配のθ3、深さΓ3の拡径部w4を有するダイd4による絞り加工によって半完成品240を成形する。
【0090】
次いで絞り工程#5において、半完成品240に対して、内径φ4より小径のφ5の成形孔h5、及び勾配角θ3、深さΓ3の拡径部w5を有するダイd5による絞り加工によって半完成品250を成形する。
【0091】
次いで絞り工程#6において、半完成品250に対して、内径φ5より小径のφ6の成形孔h6、及び勾配角θ3よりも急勾配のθ4、深さΓ3の拡径部w6を有するダイd6による絞り加工によって半完成品260を成形する。
【0092】
次いで絞り工程#7において、半完成品260に対して、内径φ6より小径のφ7の成形孔h7、及び勾配角θ4、深さΓ3の拡径部w7を有するダイd7による絞り加工によって半完成品270を成形する。
【0093】
次いで絞り工程#8において、半完成品270に対して、内径φ7より小径のφ8の成形孔h8、及び勾配角θ4よりも急勾配のθ5、深さΓ3の拡径部w8を有するダイd8による絞り加工によって半完成品280を成形する。
【0094】
最終の絞り工程#9において、半完成品280に対して、内径φ8より小径のφ9の成形孔h9、及び勾配角θ5よりも急勾配のθ6、深さΓ3の拡径部w9を有するダイd9による絞り加工によって弁傘部110を成形する。
【0095】
第1絞りパターンでは、例えば、成形孔h1~h9の内径φ、及び拡径部w1~w9の勾配角θ、深さΓについて、φ9~φ1を5mm~20mmの範囲で設定し、θ6~θ2を10°~3°の範囲で設定し、Γ3を10mm~15mmの範囲で設定する。これにより、第1絞りパターンで成形される弁傘部110は、
図8の下欄に示すように、軸部111の外径はφ6mmとなり、中空部115における上中空部115aの内径はφ3mmとなる。
【0096】
(第2絞りパターン)
図9を参照して第2絞りパターンについて説明する。
第2絞りパターンでは、ダイユニット410A~410Cにダイd41~d46を設け、ダイd41~d46を用いた絞り工程#1~#6を行い、半完成品200を弁傘部110に成形する。
【0097】
図9の中欄に示すように、各ダイd41~d46は、円筒孔状の成形孔h41~h46と、成形孔h41~h45の上部に連接され上方に向かってすり鉢状に拡径する拡径部w41~w46とをそれぞれ設ける。
図9の上欄に示すように、ダイd41~d46(dn)の成形孔h41~h46(hn)には、内径φがそれぞれ設定され、拡径部w41~w46(wn)には、それぞれ勾配角θ、及び深さΓが設定されている。
【0098】
具体的に、第2絞りパターンでは、絞り工程#1において、半完成品200に対して、内径φ12の成形孔h41、及び勾配角θ14、深さΓ13の拡径部w41を有するダイd41による絞り加工によって半完成品210を成形する。
【0099】
次いで絞り工程#2において、半完成品210に対して、内径φ12より小径のφ14の成形孔h42、及び勾配角θ14、深さΓ13の拡径部w42を有するダイd42による絞り加工によって半完成品220を成形する。
【0100】
次いで絞り工程#3において、半完成品220に対して、内径φ14より小径のφ16の成形孔h43、及び勾配角θ14よりも急勾配のθ15、深さΓ13の拡径部w43を有するダイd43による絞り加工によって半完成品230を成形する。
【0101】
次いで絞り工程#4において、半完成品230に対して、内径φ16より小径のφ19の成形孔h44、及び勾配角θ15、深さΓ13の拡径部w44を有するダイd44による絞り加工によって半完成品250を成形する。
【0102】
次いで絞り工程#5において、半完成品250に対して、内径φ19より小径のφ21の成形孔h45、及び勾配角θ15よりも急勾配のθ16、深さΓ13の拡径部w45を有するダイd45による絞り加工によって半完成品270を成形する。
【0103】
次いで絞り工程#6において、半完成品270に対して、内径φ21より小径のφ24の成形孔h46、及び勾配角θ16、深さΓ13の拡径部w46を有するダイd46による絞り加工によって弁傘部110を成形する。すなわち、第2絞りパターンでは、絞り加工を6工程で弁傘部110を成形する。
【0104】
各成形孔h41~h46の内径φの関係は、φ12>φ14>φ16>φ19>φ21>φ24となっている。
【0105】
したがって、第2絞りパターンでは、最終の絞り工程#6において、第1絞りパターンの最終の絞り工程#9の絞り寸法の範囲(φ8→φ9)よりも、絞り寸法の範囲を大とした(φ21→φ24)絞り加工を行っている。
【0106】
また、第2絞りパターンの各拡径部w41~w46の勾配角θの関係は、θ14>θ15>θ16となっている。
【0107】
また、ダイd41~d46の拡径部w41~w46は全て深さΓ13となっている。
【0108】
第2絞りパターンでは、例えば、成形孔hnの内径φ、及び拡径部wnの勾配角θ、深さΓについて、φ24、φ21、φ19、φ16、φ14、φ12を6mm~15mmの範囲で設定し、拡径部wnの勾配角θについて、θ16~θ14を8°~10°の範囲で設定し、拡径部wnの深さΓについて、Γ13を13mm~14mmの範囲で設定する。これにより成形される弁傘部110は、
図9の下欄に示すように、軸部111の外径はφ6mmとなり、中空部115における上中空部115aの内径はφ3mmとなる。
【0109】
すなわち、第2絞りパターンで成形される弁傘部110は、第1絞りパターンで成形した弁傘部110の形状とほぼ同一であるが、9工程で弁傘部110が成形される第1絞りパターンよりも少ない6工程で弁傘部110が形成される。また、第2絞りパターンでは、上記のように各絞り工程において、ダイを調整することによって、1回ごとの絞り上げに無理が生じて座屈やクラックを生じることはなく、絞り工程そのものが円滑にすすむ。
【0110】
以上のように、絞り工程において、ダイdnの成形孔hnの内径φ、拡径部wnの勾配角θ、及び深さΓの値をそれぞれ調整する(変化させる)ことにより、所望の形態の弁傘部110を成形できるだけでなく、絞り工程(冷間鍛造工程)の短縮化を図ることができる。
【0111】
(冷却材封入工程、表面加工工程)
冷却材封入工程においては、冷間鍛造工程によって成形された弁傘部110の中空部115にゲッタ材や、金属ナトリウム等の冷却材を投入し、軸端部材120を軸部111の上端部に接合して固着することにより、軸部111の開口が閉塞され、冷却材等は中空部115内に封入される。
【0112】
これにより、エンジンバルブ100が完成する。なお、必要に応じて表面加工工程において、熱伝導率が低い金属によって断熱コーティングを施したり、窒化処理や研磨などの表面処理を施してもよい。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、下記の変形例を採用することができる。
【0114】
本実施形態では、絞り工程を9工程とし、絞り装置(第1~第3絞り装置400A~400C)を3基とし、各絞り装置に設置されているダイの数を3つとして、3工程ずつ纏めて絞り加工を行うようにしているが、それに限定されず、絞り工程は、例えば6工程以上であればよく、絞り装置を2基又は4基以上とし、絞り装置のダイの数を2又は4以上としてもよい。
【符号の説明】
【0115】
D1~D3 ダイユニット
dn ダイ
hn 成形孔
wn 拡径部
10 中実丸棒
20 第1中間体
21 胴部
22 ヘッド部
30 第2中間体
31 胴部
32 傘状部
100 中空エンジンバルブ
110 弁傘部
111 軸部
112 傘部
115 中空部
120 軸端部材
200 半完成品
201 筒状部
202 傘状部
210~280 半完成品
300 一気鍛造装置
311 パンチホルダ
312 第1パンチ
313 第2パンチ
321 第1成形孔
321a 誘導部
321b 挿入部
321c テーパ部
321d 搾出部
322 搾出用ダイ
323 第2成形孔
323a 傘成形部
323b 胴成形部
324 傘成形用ダイ
325 ダイホルダ
400 ネッキング装置
400A 第1絞り装置
400B 第2絞り装置
400C 第3絞り装置
410A 第1ダイユニット
410B 第2ダイユニット
410C 第3ダイユニット
420A 第1高さ調整装置
420B 第2高さ調整装置
420C 第3高さ調整装置
421 支持プレート
422 駆動手段
440A 第1押圧装置
440B 第2押圧装置
440C 第3押圧装置
441 パンチホルダ
442a 第1押圧搬送部
442b 第2押圧搬送部
442c 第3押圧搬送部
446 爪部
447 押圧部
450A 第1搬送装置
450B 第2搬送装置
450C 第3搬送装置
451 爪部
453 ベース
454 駆動手段
460A 第1冷却搬送装置
460B 第2冷却搬送装置
461 爪部
462 駆動手段
470A 第1潤滑油添加装置
470B 第2潤滑油添加装置
470C 第3潤滑油添加装置
471 貯留タンク
472 供給手段
473 配管
474 ノズル
480 ダイ側制御部
490 ワーク側制御部
490a タイマ