(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】アンカーの抜取方法及びアンカーの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
E04B1/41 503F
E04B1/41 503Z
(21)【出願番号】P 2020204170
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】成願 正彦
(72)【発明者】
【氏名】窪田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-106323(JP,A)
【文献】特開2020-148045(JP,A)
【文献】特開2015-71216(JP,A)
【文献】米国特許第4278006(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
E04G 21/12
E04G 23/02
F16B 13/06
F16B 13/08
F16B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側にスリットで分割された拡開片が形成された筒状本体を有し、前記拡開片より基端寄りの前記筒状本体の内周に雌ねじが形成され、前記筒状本体の前記拡開片の内側にコーンが圧入配置される本体打込み式アンカーを、打設されたコンクリート躯体から抜き取るアンカーの抜取方法であって、
打設穴の前記筒状本体に打込棒を挿入し
、前記コーンの基部における全体が略平面状の基端面に前記打込棒の先端部の丸みを帯びた先端面が点接触状態で当たるようにして、前記筒状本体と前記コーンの係合状態を緩める程度に前記コーンの基端面を前記打込棒で叩く第1工程と、
前記筒状本体の内径より外径が小径の先端軸部と、先端軸部の基端側に形成された雄ねじ部を有する回転抜き治具を用い、前記先端軸部を前記筒状本体に内挿して先端面を前記コーンの基端面に当接すると共に、前記雄ねじ部の先端近傍を前記筒状本体の雌ねじの基端近傍に螺合する第2工程と、
前記回転抜き治具を回転して前記筒状本体の雌ねじを前記雄ねじ部の基端方向に螺入させ、前記筒状本体を前記打設穴から抜き取る第3工程を備えることを特徴とするアンカーの抜取方法。
【請求項2】
前記打込棒が、円柱状の基部と、前記基部よりも小径で且つ前記筒状本体の内径より小径の外径で形成された円柱状の前記先端部を有し、前記円柱状の先端部が、既設の前記本体打込み式アンカーの前記筒状本体の基端面から前記コーンの基端面までの距離よりも長い長さで形成された構成であり、
前記第1工程において、前記打込棒の基部を前記筒状本体に接触させずに前記打込棒の円柱状の先端部だけを前記筒状本体に挿入して、前記コーンの基端面を前記打込棒の先端部の丸みを帯びた先端面で叩くことを特徴とする請求項1記載のアンカーの抜取方法。
【請求項3】
前記打設穴に前記コーンが残存した場合、抜き取った前記筒状本体を前記拡開片側から前記打設穴に挿入して前記コーンに引っ掛け、前記コーンを抜き取る第4工程を備えることを特徴とする
請求項1又は2記載のアンカーの抜取方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のアンカーの抜取方法で前記本体打込み式アンカーを前記打設穴から抜き取った後に、前記打設穴の箇所に更新アンカーを打設することを特徴とするアンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のアンカーのコンクリート躯体からの抜き取りを行うアンカーの抜取方法及びアンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、先端側にスリットで分割された拡開片が形成された筒状本体を有し、筒状本体の内周に雌ねじが形成されると共に、筒状本体の拡開片の内側にコーンが圧入配置される本体打込み式アンカーが知られており、コンクリート躯体に取付物を取り付ける際に、コンクリート躯体に形成した穴に本体打込み式アンカーを挿入し、筒状本体を打ち込んで先端側を拡開させてコンクリート躯体に打設し、筒状本体の雌ねじにボルトを螺入するようにして用いられている。
【0003】
既設の本体打込み式アンカーは、打設されたコンクリート躯体の老朽化や本体打込み式アンカー自体の劣化等の理由で抜き取る必要が生ずる場合がある。既設の本体打込み式アンカーを抜き取る方法として、例えば特許文献1には、外周に雄ねじを有する筒状ホルダーの内周にロッドがねじ込まれた抜取具を用い、抜取具の筒状ホルダーと既設の本体打込み式アンカーの筒状本体をねじ結合した後、抜取具のロッドを筒状ホルダーとねじ結合した状態で回転させ、既設の本体打込み式アンカーのコーンをロッドで押さえつけながら、ねじ結合された筒状ホルダーと筒状本体と一体として穴外へ移動させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の抜取方法は、既設の本体打込み式アンカーの筒状本体をコーンで反力をとって強引に引き抜く方法であるため、アンカーやコンクリート躯体の状態によっては、コンクリート躯体のアンカーが打設されていた打設穴の口元が壊れてしまう場合がある。アンカーを抜き取る目的が抜き取って充填材で埋め戻すような場合には抜取作業で口元が壊れても構わないが、元のアンカーが打設されていた打設穴を再利用して、新しい更新アンカーを打ち直したい場合には、コンクリート躯体の打設穴の口元が破壊されてしまうと、更新アンカーの打設が難しくなったり、新たに打設した更新アンカーの引抜強度等の強度が低下するという問題が生ずる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、コンクリート躯体を傷つけることなく、既設の本体打込み式アンカーを綺麗に抜き取ることができ、更新アンカーを打設する場合にも更新アンカーの所要強度での打設を確保することができるアンカーの抜取方法及びアンカーの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアンカーの抜取方法は、先端側にスリットで分割された拡開片が形成された筒状本体を有し、前記拡開片より基端寄りの前記筒状本体の内周に雌ねじが形成され、前記筒状本体の前記拡開片の内側にコーンが圧入配置される本体打込み式アンカーを、打設されたコンクリート躯体から抜き取るアンカーの抜取方法であって、打設穴の前記筒状本体に打込棒を挿入し、前記コーンの基部における全体が略平面状の基端面に前記打込棒の先端部の丸みを帯びた先端面が点接触状態で当たるようにして、前記筒状本体と前記コーンの係合状態を緩める程度に前記コーンの基端面を前記打込棒で叩く第1工程と、前記筒状本体の内径より外径が小径の先端軸部と、先端軸部の基端側に形成された雄ねじ部を有する回転抜き治具を用い、前記先端軸部を前記筒状本体に内挿して先端面を前記コーンの基端面に当接すると共に、前記雄ねじ部の先端近傍を前記筒状本体の雌ねじの基端近傍に螺合する第2工程と、前記回転抜き治具を回転して前記筒状本体の雌ねじを前記雄ねじ部の基端方向に螺入させ、前記筒状本体を前記打設穴から抜き取る第3工程を備えることを特徴とする。更には、前記打込棒が、円柱状の基部と、前記基部よりも小径で且つ前記筒状本体の内径より小径の外径で形成された円柱状の前記先端部を有し、前記円柱状の先端部が、既設の前記本体打込み式アンカーの前記筒状本体の基端面から前記コーンの基端面までの距離よりも長い長さで形成された構成とし、前記第1工程において、前記打込棒の基部を前記筒状本体に接触させずに前記打込棒の円柱状の先端部だけを前記筒状本体に挿入して、前記コーンの基端面を前記打込棒の先端部の丸みを帯びた先端面で叩くようにするとよい。
これによれば、回転抜き治具の回転で本体打込み式アンカーの筒状本体を抜き取る前に、予めコーンの基端面を打込棒で叩いて筒状本体とコーンの係合状態を緩めておくことにより、回転抜き治具の先端軸部の先端面とコーンの基端面との当接箇所で生ずる反力を大幅に低減することができ、ごく僅かな反力を生ずるだけで、筒状本体を回転抜き治具の回転で打設穴から抜き取ることができる。従って、コンクリート躯体を傷つけることなく、既設の本体打込み式アンカーを綺麗にコンクリート躯体から抜き取ることができる。また、コンクリート躯体の打設穴の口元や内壁の破損を防止できることから、更新アンカーを打設する場合にも更新アンカーの所要強度での打設を確保することができる。
【0008】
本発明のアンカーの抜取方法は、前記打設穴に前記コーンが残存した場合、抜き取った前記筒状本体を前記拡開片側から前記打設穴に挿入して前記コーンに引っ掛け、前記コーンを抜き取る第4工程を備えることを特徴とする。
これによれば、コンクリート躯体の打設穴が下向きや横向き等の場合に打設穴の内部に残存するコーンを簡単に抜き取ることができる。また、抜き取った筒状本体を再利用して残存するコーンを抜き取ることができるので、別部材を用いずに低コストで且つ迅速に残存するコーンを抜き取ることができる。
【0009】
本発明のアンカーの施工方法は、本発明のアンカーの抜取方法で前記本体打込み式アンカーを前記打設穴から抜き取った後に、前記打設穴の箇所に更新アンカーを打設することを特徴とする。
これによれば、破損無く本体打込み式アンカーが抜き取られたコンクリート躯体の打設穴を再利用して、更新アンカーを所要強度で確実に打設することができる。
【0010】
本発明のアンカーの施工方法は、前記打設穴の穴径と深さを略維持した状態で前記更新アンカーを打設することを特徴とする。
これによれば、打設穴を掘り拡げて拡径部を形成したり、掘り下げて深さを深くしたりせずとも、更新アンカーを打設することができ、効率的な作業工程で更新アンカーの打設やアンカーの取り替えを行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート躯体を傷つけることなく、既設の本体打込み式アンカーを綺麗に抜き取ることができ、更新アンカーを打設する場合にも更新アンカーの所要強度での打設を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は本発明による実施形態のアンカーの抜取方法で抜き取られる本体打込み式アンカーとボルトの分解正面図、(b)は同図(a)の本体打込み式アンカーの右側面図、(c)は同図(a)の本体打込み式アンカーの縦断面図。
【
図2】実施形態の本体打込み式アンカーがコンクリート躯体に打設されて取付物が取り付けられている状態の断面説明図。
【
図3】(a)~(f)は実施形態のアンカーの抜取方法の工程の流れを説明する工程説明図。
【
図4】(a)は実施形態のアンカーの抜取方法で用いられる打込棒の正面図、(b)はその左側面図。
【
図5】(a)は実施形態のアンカーの抜取方法で用いられる回転抜き治具の正面図、(b)はその右側面図。
【
図6】既設の本体打込み式アンカーと打込棒と回転抜き治具の寸法関係を説明する説明図。
【
図7】(a)~(c)は実施形態のアンカーの抜取方法で本体打込み式アンカーを抜き取った後に更新アンカーを打設する工程の流れを説明する工程説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態のアンカーの抜取方法及びアンカーの施工方法〕
本発明による実施形態のアンカーの抜取方法は、コンクリート躯体100の打設穴101から
図1及び
図2に示す既設の本体打込み式アンカー10を抜き取るものである。
【0014】
本体打込み式アンカー10は、略円筒状の筒状本体11と、筒状本体11の先端側に挿入して配置されるコーン12を有する。筒状本体11の先端側の前部には先端から切り込まれて軸方向に延びるスリット111が形成され、スリット111は周方向に所定間隔を開けて複数設けられている。筒状本体11の周方向におけるスリット111・111間の部分は拡開片112になっており、筒状本体11の先端側にスリット111で分割された複数の拡開片112が周方向に並んで形成されている。拡開片112の外面には摩擦抵抗で定着力を高める凹凸113が形成されている。筒状本体11には、拡開片112より基端寄りの後部の内周に雌ねじ114が形成されており、雌ねじ114に図示例では全ねじボルトである取付ボルト13が螺合可能になっている。
【0015】
コーン12は、略円柱状で短尺の基部121と、基部121の先端側に設けられ、先端に向かって漸次拡径するテーパ部122を有する。基部121の外径は、筒状本体11の非拡開状態の拡開片112で構成される内径と略同一径で形成されており、筒状本体11の非拡開状態では、筒状本体11の先端部に位置する拡開片112の内側にコーン12の基部121が圧入状態で嵌挿される。本例のコーン12における基部121の基端面123は略平面状になっている。
【0016】
本体打込み式アンカー10は、
図2に示すように、コンクリート躯体100の打設穴101にコーン12を先端側に配置して打設される。打設された既設の本体打込式アンカー10では、筒状本体11の穴奥側への打込みでコーン12が筒状本体11側、換言すれば拡開片112側に相対的に圧入されて配置され、コーン12の圧入で拡開された拡開片112が打設穴101の周壁に食い込むようにして定着されている。そして、打設された筒状本体11の雌ねじ114に取付ボルト13が螺着される。螺着された取付ボルト13には取付物151が外挿され、取付物151の外側から取付ボルト13にワッシャー161を外挿してナット162を螺合し、取付物151がコンクリート躯体100に取り付けられる。
【0017】
このようにコンクリート躯体100に打設された既設の本体打込み式アンカー10をコンクリート躯体100から抜き取る際には、
図3(a)に示すように、ナット162、ワッシャー161を取付ボルト13から取り外し、取付物151を取付ボルト13から外し、本体打込み式アンカー10の筒状本体11の雌ねじ114に螺合された取付ボルト13を筒状本体11から取り外す。
【0018】
その後、打設穴101に設置されている筒状本体11に打込棒20を挿入し、ハンマー25で打込棒20の後端を打撃することにより、筒状本体11とコーン12の係合状態を緩める程度にコーン12の基端面123を打込棒20で叩き、筒状本体11とコーン12に振動を加えて係合状態を緩める(
図3(b)、(c)参照)。この打撃棒20でコーン12を叩いて係合状態を緩める過程では、コーン12の振動が筒状本体11の内周面から間接的に伝わり、振動によってコーン12と筒状本体11の係合状態が緩んでくる。そして、筒状本体11は打設穴101から若干外側に浮き上がってくる(
図3(d)参照)。
【0019】
このコーン12を叩く打込棒20としては、例えば
図3、
図4及び
図6に示す打込棒20が用いられる。図示例の打込棒20は、円柱状の基部21と、基部21よりも小径で円柱状の先端部22を有する。先端部22の先端面(
図6左端面)は極僅かに丸みを帯び緩やかな球面状を呈している。先端部22は、筒状本体11の内径よりも小径の外径で形成されていると共に、既設の本体打込み式アンカー10の筒状本体11の基端面からコーン12の基端面123までの距離Lよりも長い長さ(L+α)で形成され、打設状態の筒状本体11に挿入自在で、基部21を筒状本体11に接触させずにコーン12を叩くことが可能になっている。コーン12を叩く際には、先端部22を筒状本体11に挿入し、先端部22の丸みを帯びた先端面がコーン12の基端面123に点接触状態で当たるようにして、先端部22を介してコーン12の基端面123が叩かれる。
【0020】
その後、筒状本体11の内径より小径の外径で形成された円柱状の先端軸部31と、先端軸部31の基端側に形成された雌ねじ114と対応する雄ねじ部32と、雄ねじ部32の基端側に形成された回転伝達部33を有する回転抜き治具30を用い、先端軸部31を筒状本体11に内挿して先端軸部31の先端面をコーン12の基端面123に当接すると共に、雄ねじ部32の先端近傍を筒状本体11の雌ねじ114の基端近傍に螺合し、工具35を回転伝達部33に取り付けて工具35で回転抜き治具30を回転して筒状本体11の雌ねじ114を雄ねじ部32の基端方向に螺入させていき、コーン12との係合状態が解除された筒状本体11を打設穴101から抜き取る(
図3(e)、(f)、
図5、
図6参照)。
【0021】
本例で用いられる回転抜き治具30において、円柱状の先端軸部31は、筒状本体11の内径よりも小径の外径で形成されていると共に、既設の本体打込み式アンカー10の筒状本体11の基端面からコーン12の基端面123までの距離Lよりも若干短い長さ(L-β)で形成されており、先端軸部31を筒状本体11に内挿して先端軸部31の先端面をコーン12の基端面123に当接した状態で、雄ねじ部32の先端近傍を筒状本体11の雌ねじ114の基端近傍に螺合可能になっている。回転伝達部33は、工具35から回転抜き治具30に回転力を伝達可能な部分で、本例では工具35で把持される六角頭部になっている。
【0022】
この筒状本体11を打設穴101から抜き取る工程において、上向きや斜め上向きに穿孔された打設穴101の場合には、筒状本体11の抜き取りに応じてコーン12が重力落下し、本体打込み式アンカー10の全体が抜き取られるが、例えば下向きや横向きに穿孔された打設穴101では、打設穴101の内部へのコーン12の残存が生ずる。このようにコーン12が打設穴101に残存した場合には、抜き取った筒状本体11を拡開片112側から打設穴101に挿入して、コーン12に軽く係合して引っ掛け、残存したコーン12を抜き取る工程を行い、本体打込み式アンカー10の全体を抜き取る(
図3(f)参照)。
【0023】
そして、本体打込み式アンカー10をコンクリート躯体100の打設穴101から抜き取った後、必要に応じて、打設穴101の箇所に新たに更新アンカー50を打設する工程を行う(
図7参照)。この際、本実施形態のアンカー抜取方法では、打設穴101の口元や内壁を破損せずに綺麗に元アンカーである本体打込み式アンカー10を抜き取ることが可能であることから、打設穴101を掘り広げたり掘り下げたりせずに、打設穴101の穴径と深さを略維持した状態で更新アンカー50を打設することも可能である。
【0024】
更新アンカー50は、必要に応じて打設穴101の穴径の拡径や深さ増しを行い、適宜の構成とサイズのものを打設することが可能であるが、
図7の例では、打設穴101の穴径と深さを略維持した状態で、元アンカーの本体打込み式アンカー10と同じねじ径の取付ボルト53が取り付けられるスリーブ打込式アンカーの更新アンカー50を打設している。
【0025】
このスリーブ打込式アンカーの更新アンカー50は、略円筒状のスリーブ51と、スリーブ51の先端側に挿入して配置されるインナー部材52を有する。スリーブ51の先端側の前部には、先端から切り込まれて軸方向に延びるスリットで分割された複数の拡張片511が周方向に並んで形成されている。拡張片511の外面には摩擦抵抗で定着力を高める凹凸が形成されている。インナー部材52は、後部を構成する略円柱状の基部521と、基部521の先端側に先端に向かって漸次拡径するように形成されたテーパ部522を有し、基部521の内周には取付ボルト53が螺合可能な雌ねじ523が形成されている。
【0026】
本例のスリーブ打込み式アンカーの更新アンカー50を打設する際には、アンカー抜取時の穴径と深さを略維持した状態の打設穴101に、インナー部材52を先端側に配置するようにしてスリーブ51とインナー部材52を挿入し、打込具61及びハンマー62を用いてスリーブ11を穴奥側に打ち込み、インナー部材52のテーパ部522をスリーブ51の拡張片511側に相対的に圧入し、テーパ部522の圧入で拡開された拡張片511を打設穴101の周壁に食い込ませ、更新アンカー50を打設穴101に打設する(
図7(a)~(c)参照)。その後、
図7(c)に示すように、更新アンカー50のインナー部材52の雌ねじ523に取付ボルト53を螺合し、螺合した取付ボルト53に取付物151を外挿し、取付物151の外側から取付ボルト53にワッシャー163を外挿してナット164を螺合し、取付物151をコンクリート躯体100に取り付ける。
【0027】
本実施形態によれば、回転抜き治具30の回転で既設の元アンカーである本体打込み式アンカー10の筒状本体11を抜き取る前に、予めコーン12の基端面123を打込棒20で叩いて筒状本体11とコーン12の係合状態を緩めておくことにより、回転抜き治具30の先端軸部31の先端面とコーン12の基端面123との当接箇所で生ずる反力を大幅に低減することができ、ごく僅かな反力を生ずるだけで、筒状本体11を回転抜き治具30の回転で打設穴101から容易に抜き取ることができる。従って、コンクリート躯体100を傷つけることなく、既設の本体打込み式アンカー10を綺麗にコンクリート躯体100から抜き取ることができる。また、コンクリート躯体100の打設穴101の口元や内壁の破損を防止できることから、更新アンカー50を打設する場合にも更新アンカー50の所要強度での打設を確保することができる。
【0028】
また、コンクリート躯体100の打設穴101が下向きや横向き等で打設穴101の内部にコーン12が残存した場合でも、抜き取った筒状本体11をコーン12に軽く係合して引っ掛け、残存したコーン12を簡単に抜き取ることができる。また、抜き取った筒状本体11を再利用して残存するコーン12を抜き取ることができるので、別部材を用いずに低コストで且つ迅速に残存するコーン12を抜き取ることができる。
【0029】
また、既設の元アンカーである本体打込み式アンカー10を打設穴101から抜き取った後に、打設穴の箇所に更新アンカー50を打設する場合には、破損無く本体打込み式アンカー10が抜き取られたコンクリート躯体100の綺麗な打設穴101を再利用して、更新アンカー50を所要強度で確実に打設することができる。更に、打設穴101の穴径と深さを略維持した状態で更新アンカー50を打設する場合には、打設穴101を掘り拡げて拡径部を形成したり、掘り下げて深さを深くしたりせずとも、更新アンカー50を打設することができ、効率的な作業工程で更新アンカー50の打設やアンカーの取り替えを行うことができる。
【0030】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0031】
本発明において、既設の本体打込み式アンカー10の筒状本体11を抜き取った際に、打設穴101の内部にコーン12が残存した場合におけるコーン12の抜き取りの方法は、適用可能な範囲で適宜の構成を適用することが可能であり、上述の抜き取った筒状本体11をコーン12に引っ掛けて抜き取る方法以外に、例えば既設の筒状本体11と同一規格の別の筒状本体を残存するコーン12に引っ掛けて抜き取る方法、或いは吸引パイプを打設穴101に挿入して残存するコーン12を吸引して抜き取る方法等とすることが可能である。
【0032】
また、本発明における打撃棒の構成は、上記実施形態の打撃棒20以外にも適用可能範囲で適宜であり、又、打撃棒でコーンの基端面を叩く構成も、上記実施形態のハンマー25で先端面が球面状の打撃棒20を叩く構成以外にも適用可能な範囲で適宜である。例えばハンマードリルの先端部に適宜な打撃棒を装着し、ハンマードリルの駆動により打撃棒でコーンの基端面を叩く構成としてもよい。
【0033】
また、本発明における回転抜き治具の構成は、上記実施形態の回転抜き治具30以外にも適用可能範囲で適宜であり、又、回転抜き治具を回転する構成も、上記実施形態の工具35を回転伝達部33に取り付けて人力により工具35で回転抜き治具30を回転する構成以外にも適用可能な範囲で適宜である。例えば回転抜き治具の回転伝達部をシャンク形状等で形成し、インパクトレンチの先端部に回転伝達部を装着し、インパクトレンチの駆動により回転抜き治具を回転する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、コンクリート躯体に打設された既設の本体打込み式アンカーを抜き取る際に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10…本体打込み式アンカー 11…筒状本体 111…スリット 112…拡開片 113…凹凸 114…雌ねじ 12…コーン 121…基部 122…テーパ部 123…基端面 13…取付ボルト 20…打込棒 21…基部 22…先端部 25…ハンマー 30…回転抜き治具 31…先端軸部 32…雄ねじ部 33…回転伝達部 35…工具 50…更新アンカー 51…スリーブ 511…拡張片 52…インナー部材 521…基部 522…テーパ部 523…雌ねじ 53…取付ボルト 61…打込具 62…ハンマー 100…コンクリート躯体 101…打設穴 151…取付物 161、163…ワッシャー 162、164…ナット L…既設の本体打込み式アンカーの筒状本体の基端面からコーンの基端面までの距離