(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】血糖値上昇抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/81 20060101AFI20241023BHJP
A23L 33/22 20160101ALI20241023BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20241023BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61K36/81
A23L33/22
A61K31/715
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2020070159
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2021-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼刊行物名:薬理と治療 Volume47,no.10,1665‐1675(2019) 発行日:令和元年10月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和敬
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】山村 祥子
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147619(WO,A1)
【文献】消化と吸収, 2007, Vol.29 No.2,p.45-54
【文献】第38回日本消化吸収学会総会プログラム・講演要旨集, 2007, p.157(吸P-2)
【文献】J Chromatography., 2007, Vol.1141, p.41-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
BIOSIS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血糖値上昇抑制用組成物であって、
寄与成分として、食物繊維を含み、
前記食物繊維の由来は、トマトの果肉であり、
前記寄与成分として含む食物繊維の由来は、トマトパルプであり、
前記食物繊維を構成するのは、少なくとも、糖(以下、「構成糖」という。)であり、
前記構成糖に含まれるのは、少なくとも、キシロース及びグルコースであり、
前記構成糖中のキシロース及びグルコースの合計の含有量は、50mol%以上であ
り、
前記組成物の摂取1回あたりの量に含有される前記食物繊維の量は、1.0g以上である。
【請求項2】
請求項1の組成物であって、
前記血糖値は、食後血糖値である。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかの組成物であって、
前記食物繊維で阻害するのは、細胞内へのグルコースの取り込みである。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの組成物であって、
前記食物繊維で阻害するのは、グルコースの拡散である。
【請求項5】
請求項1乃至5の何れかの組成物であって、
前記構成糖中のキシロースの含有量は、7.0mol%以上である。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの組成物であって、
前記構成糖中のグルコースの含有量は、40mol%以上である。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの組成物であって、
前記構成糖中のグルコースとキシロースの含有比(グルコース(mol)/キシロース(mol))は、3.5以上8.5以下である。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかの組成物であって、
前記構成糖に含まれるのは、さらに、マンノースであり、
前記構成糖中のマンノースの含有量は、6.0mol%以上である。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかの組成物であって、
前記構成糖中のグルコースとマンノースの含有比(グルコース(mol)/マンノース(mol))は、4.0以上10.0以下である。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかの組成物であって、
前記組成物の摂取1回あたりの量に含有される前記食物繊維のうち、トマト由来食物繊維は、1.0g以上である。
【請求項11】
細胞内へのグルコース取り込み阻害用組成物であって、
寄与成分として、食物繊維を含み、
前記食物繊維の由来は、トマトの果肉であり、
前記寄与成分として含む食物繊維の由来は、トマトパルプであり、
前記食物繊維を構成するのは、少なくとも、糖(以下、「構成糖」という。)であり、
前記構成糖に含まれるのは、少なくとも、キシロース及びグルコースであり、
前記構成糖中のキシロース及びグルコースの合計の含有量は、50mol%以上であ
り、
前記組成物の摂取1回あたりの量に含有される前記食物繊維の量は、1.0g以上である。
【請求項12】
グルコースの拡散阻害用組成物であって、
寄与成分として、食物繊維を含み、
前記食物繊維の由来は、トマトの果肉であり、
前記寄与成分として含む食物繊維の由来は、トマトパルプであり、
前記食物繊維を構成するのは、少なくとも、糖(以下、「構成糖」という。)であり、
前記構成糖に含まれるのは、少なくとも、キシロース及びグルコースであり、
前記構成糖中のキシロース及びグルコースの合計の含有量は、50mol%以上であ
り、
前記組成物の摂取1回あたりの量に含有される前記食物繊維の量は、1.0g以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、血糖値上昇抑制用組成物及び食後血糖値上昇を抑制する方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病は重要な健康問題であることが広く認知されている。しかしながら、我が国における糖尿病有病者の割合は高く、非特許文献1によれば、成人男性の18.1%、成人女性の10.5%を占めることが報告されている。さらに、非特許文献2によれば、2017年の全世界の糖尿病患者は4億2500万人と推定されており、糖尿病は全世界的な問題である。糖尿病の発症や進行は食習慣と深い関係があり、特に食後血糖値の急激な上昇を繰り返すことは、空腹時血糖値の上昇に繋がり、糖尿病を悪化させる要因の1つと考えられている(非特許文献3)。食後血糖値の急激な上昇は、脂肪合成の促進やインスリン抵抗性、糖化タンパク質の産生による血管炎症などを引き起こすため、生活習慣病のリスクとして考えられている(非特許文献4、5)。
【0003】
非特許文献6には、野菜の摂取により、食後血糖値の上昇が穏やかになることが報告されている。特許文献1には、トマトの種子に多く含まれているサポニンの一種である、トマトシドA又はその生理学的に許容される塩を飲食品に含有させることにより、血糖上昇を抑制することができることが記載されている。特許文献2には、柑橘類のパルプに含まれるβ―クリプトキサンチンがコレステロール代謝改善、耐糖能及びインスリン抵抗性に有効であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017‐192312号
【文献】特許第5613953号
【非特許文献】
【0005】
【文献】厚生労働省.平成29年国民健康・栄養調査報告2019
【文献】International Diabetes Federation.IDF Diabetes Atlas 8th Edition:2017
【文献】Monnier L, Colette C, Dunseath GJ, Owens DR. The loss of postprandial glycemic control precedes stepwise deterioration of fasting with worsening diabetes. Diabetes Care 2007;30:263-9.
【文献】Ludwig D.S. Dietary glycemic index and obesity. J. Nutr. 130, p. 280S-283S (2000)
【文献】Gerich J.E. Clinical significance, pathogenesis, and management of postprandial hyperglycemia. Arch. Intern. Med. 163, p. 1306-1316 (2003)
【文献】糖尿病患者における食品の摂取順序による食後血糖上昇抑制効果. 糖尿病 2010;53:112-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、新規な血糖値上昇抑制用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維が血糖値上昇を抑制する機能を有することである。すなわち、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維を摂取することにより、細胞内へのグルコースの取込みが阻害され、又は、グルコースの拡散が阻害され、血糖値上昇が抑制される。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0008】
本発明に係る血糖値上昇抑制用組成物の寄与成分は、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維である。トマト由来の食物繊維は、トマトの果肉由来であることが好ましい。柑橘由来の食物繊維は、柑橘類の果実由来であり、レモン又はライムの果実の少なくとも一種以上に由来するものが好ましい。上昇抑制効果を奏する対象は、血糖値であり、好ましくは食後血糖値である。血糖値上昇抑制のメカニズムは、細胞内へのグルコースの取り込みを阻害すること、又は、グルコースの拡散を阻害することの少なくとも1つである。
【0009】
前記食物繊維を構成するのは、少なくとも、糖(以下、「構成糖」という。)であり、前記構成糖に含まれるのは、少なくとも、キシロース及びグルコースであり、構成糖中のキシロース及びグルコースの合計の含有量は50mol%以上である。好ましくは、前記構成糖中のキシロースの含有量は7.0mol%以上であり、グルコースの含有量は40mol%以上である。構成糖中のグルコースとキシロースの含有比(グルコース(mol)/キシロース(mol))は、3.5以上8.5以下である。前記構成糖に含まれるのは、さらにマンノースであり、構成糖中のマンノースの含有量は6.0mol%以上である。構成糖中のグルコースとマンノースの含有比(グルコース(mol)/マンノース(mol))は4.0以上10.0以下である。また、1回あたりの摂取において、組成物に含有される前記食物繊維は1.0g以上であればよく、トマト由来の食物繊維が1.0g以上であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る細胞内へのグルコース取り込み阻害用組成物の寄与成分は、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維である。
【0011】
本発明に係るグルコースの拡散阻害用組成物の寄与成分は、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維である。
【0012】
本発明に係る食後血糖値上昇を抑制する方法を構成するのは、少なくとも、第1の摂取及び第2の摂取である。第1の摂取では、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維が摂取される。第2の摂取では、糖質を含有する飲食品が摂取される。第2の摂取の時期は、第1の摂取と同時又は第1の摂取の摂取開始から10分以内である。前記第1の摂取において、摂取される前記食物繊維は、1.0g以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明が可能にするのは、新規な血糖値上昇抑制用組成物を提供することである。すなわち、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維を摂取することにより、細胞内へのグルコースの取込み及びグルコースの拡散が阻害され、血糖値上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】試験食品摂取及び血糖値測定のスケジュールを示した図
【
図3】実施例1における各試験飲料摂取時の有効性評価項目の結果を示した図
【
図4】実施例2における各試験飲料摂取時の有効性評価項目の結果を示した図
【
図5】実施例2におけるプラセボ飲料(P2)摂取時の最大血糖値が140-199mg/dLの被検者を対象とした層別解析の結果を示した図
【
図6】トマト由来食物繊維がグルコース投与による血糖値上昇に与える影響を示した図
【
図7】トマト由来食物繊維が2-DG取り込みに与える影響を示した図
【
図8】トマト由来食物繊維がグルコース拡散に与える影響を示した図
【
図9】ニンジン由来食物繊維がグルコース拡散に与える影響を示した図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<血糖値上昇抑制用組成物>
本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維を寄与成分とすることを特徴とするものである。当該組成物の摂取1回あたりの量は、ヒトが摂取する場合、10分以内に摂取可能な量であればよく、特に限定されないが、好ましくは500g以下、より好ましくは350g以下、特に好ましくは265g以下である。なお、下限値は特に限定されない。
【0016】
<トマト由来食物繊維>
本発明で用いるトマト由来食物繊維は、血糖値上昇抑制作用の寄与成分としての効果を奏するものであればよく、特に限定されるものではないが、トマトの果肉由来のものが好ましい。トマト又はその搾汁から食物繊維を抽出したものを使用してもよく、トマト由来食物繊維を含有するトマト搾汁をそのまま使用することもできる。トマト搾汁を例示すると、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペースト、トマトパルプなどであり、液体のまま用いることもできるが、これらを濃縮又は乾燥したものも好適に用いることができる。
【0017】
トマト由来食物繊維の構成糖は、グルコース、ガラクツロン酸、キシロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸等である。構成糖中のグルコース及びキシロースの合計の含有量は50mol%以上、好ましくは、60mol%以上、より好ましくは、69mol%以上である。構成糖中のキシロースの含有量は7.0mol%以上、好ましくは8.0mol%以上、より好ましくは9.0mol%以上である。構成糖中のグルコースの含有量は40mol%以上、好ましくは50mol%以上、より好ましくは60mol%以上であり、主要な構成糖である。構成糖中のグルコースとキシロースの含有比(グルコース(mol)/キシロース(mol))は、3.5以上8.5以下、好ましくは5.0以上7.5以下である。構成糖中のマンノースの含有量は6.0mol%以上、好ましくは6.5mol%以上、より好ましくは7.0mol%以上である。構成糖中のグルコースとマンノースの含有比(グルコース(mol)/マンノース(mol))は、4.0以上10.0以下、好ましくは6.0以上9.0以下である。上記トマト由来食物繊維の構成糖組成は、他の野菜由来の食物繊維の構成糖組成と異なることが示唆されており、トマト由来食物繊維の特徴的な構成糖の組成が血糖値上昇抑制効果と関連していることが推察される。
【0018】
血糖値上昇抑制用組成物におけるトマト由来食物繊維の含有量は、血糖値上昇抑制作用の寄与成分としての効果を奏するのに十分な量であればよく、特に限定されるものではないが、例示すると、摂取1回あたりの組成物に含有されるトマト由来食物繊維は、1.0g以上であればよく、好ましくは1.3g以上、より好ましくは1.6g以上である。上記範囲とすることにより、血糖値上昇抑制効果に優れた血糖値上昇抑制用組成物を提供することができる。
【0019】
<柑橘由来食物繊維>
本発明で用いる柑橘由来食物繊維は、血糖値上昇抑制作用を奏するものであれば、特に限定されるものではないが、柑橘類の果実に由来するものである。柑橘類の中でもレモン及びライムの少なくとも一種以上に由来するものが好ましい。
【0020】
柑橘由来食物繊維は、前記柑橘類の果実を搾汁して得られる残渣を用いることができる。より具体的には、例えば前記果実からペクチンを採取する際に生じる残渣を乾燥し、粉砕することにより得ることができる。このような食物繊維は市販されており、本発明に好適に用いられる食物繊維を例示すると、ヘルバセルAQプラス(DSP五協フード&ケミカル株式会社)であるが、特に限定されるものではない。
【0021】
血糖値上昇抑制用組成物における柑橘由来食物繊維の含有量は、特に限定されるものではないが、例示すると、摂取1回あたりの組成物に含有される柑橘由来食物繊維は、1.0g以上であればよく、好ましくは2.0g以上、より好ましくは2.9g以上である。上記範囲とすることにより、血糖値上昇抑制効果に優れた血糖値上昇抑制用組成物を提供することができる。
【0022】
<その他の有効成分又は寄与成分>
本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、トマト由来食物繊維及び柑橘由来食物繊維の血糖値上昇抑制作用が損なわれない限り、他の有効成分、寄与成分、添加剤など任意の成分を含有することができる。
【0023】
そのほかの有効成分又は寄与成分の具体例としては、例えば、難消化性デキストリン、大麦β―グルカン、グアーガム分解物、α-シクロデキストリン、イヌリン、サラシア由来サラシノール、ターミナリアベリリカ由来没食子酸、バナバ葉由来コロソリン酸、アカシア樹皮由来プロアントシアニジン、エピガロカテキンガレート、ボタンボウフウ由来クロロゲン酸、ルテオリン、イソマルトデキストリン、セルロース、アップルファイバー、ポテトデキストロース、サイリウム、ビートファイバー、アラビアガムなどが挙げられる。またこれらの有効成分又は寄与成分は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0024】
<添加剤>
本発明の血糖値上昇抑制用組成物に含有する添加剤は、特に限定されるものではなく、例えば、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0025】
薬学的に許容される基剤は、特に限定されるものではなく、例えば、水、エタノールのような極性溶媒、油性基剤などが挙げられる。
【0026】
担体、賦形剤は、特に限定されるものではなく、例えば、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール類、結晶セルロース、デキストリン、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0027】
結合剤は、特に限定されるものではなく、例えば、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0028】
崩壊剤は、特に限定されるものではなく、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどが挙げられる。
【0029】
滑沢剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルク、マクロゴールなどが挙げられる。
【0030】
着色剤は、特に限定されるものではなく、例えば、コチニール、カルミン、クルクミン、リボフラビン、アンナット、酸化チタン、酸化鉄、タルク、焼成シリカ、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0031】
pH調節剤は、特に限定されるものではなく、例えば、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、炭酸カリウム、乳酸などが挙げられる。
【0032】
緩衝剤は、特に限定されるものではなく、例えば、リン酸塩、アルギニン、ヒスチジンなどが挙げられる。
【0033】
安定化剤は、特に限定されるものではなく、例えば、アルギニン、ポリソルベート80、マクロゴール4000などが挙げられる。
【0034】
保存剤は、特に限定されるものではなく、例えば、安息香酸、フェノキシエタノール、チメロサールなどが挙げられる。
【0035】
その他の添加剤としては、溶解補助剤、界面活性剤、乳化剤、抗酸化剤、光沢化剤、発泡剤、防湿剤、防腐剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤、着香剤、香料、芳香剤、崩壊補助剤などが挙げられる。
【0036】
また、これらの添加剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0037】
<血糖値上昇抑制>
本発明において、「血糖値上昇抑制」とは、主に食後における血液中のグルコース濃度の上昇を抑制又は緩和することをいう。トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維の血糖値上昇抑制作用については、複数のメカニズムによるものと考えられる。例示すると、細胞内へのグルコース取り込みの阻害及びグルコースの拡散の阻害である。「細胞内へのグルコースの取り込み」とは、腸管上皮の細胞膜上に存在するグルコーストランスポーター(SGLT1)により、細胞外から細胞内にグルコースが取り込まれることをいう。細胞内へのグルコースの取り込みが阻害されることにより、腸内での糖の吸収が抑えられ、血糖値上昇が抑制される。また、「グルコースの拡散」とは、消化管内でのグルコースの拡散を意味する。グルコースの拡散が阻害されることにより、消化管内でのグルコースの移動速度が遅延し、血糖値上昇が緩やかになる。
【0038】
<医薬品、医薬部外品>
本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する医薬品、医薬部外品の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、経口投与形態として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠、チュアブル錠などの錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤、ソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、エリキシル剤などの液剤など、及び非経口投与形態として、腹腔内投与、経腸投与、口腔内投与などが挙げられる。利便性、汎用性の観点から、医薬品、医薬部外品の形態は、経口投与形態が好ましい。
【0039】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する医薬品、医薬部外品の投与量は、特に限定されるものではなく、例えば、60kgのヒトにおいては、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維が1回あたりの投与で0.017g/kg(体重)以上である。トマト由来食物繊維は、好ましくは1回あたりの投与で0.022g/kg(体重)以上であり、より好ましくは0.027g/kg(体重)以上である。柑橘由来食物繊維は、好ましくは1日あたりの投与で0.033g/kg(体重)以上であり、より好ましくは0.048g/kg(体重)以上である。なお、非ヒト動物を対象とする場合は、その種類により、投与量を適宜変更することができる。
【0040】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する医薬品、医薬部外品の投与回数は、特に限定されるものではなく、例えば、1日1回、1日2回、1日3回などでもよい。投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間などでもよく、投与期間を定めずに継続して用いてもよい。また、投与期間中の投与は、特に限定されるものではなく、例えば、連日投与でもよいし、1日おき、2日おき、3日おきなどでもよい。
【0041】
<飲食品、飼料>
本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品、飼料の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食、介護食など)、菓子、油脂類、乳製品、レトルト食品、レンジ食品、冷凍食品、調味料、健康補助食品、飲料、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【0042】
本発明の食品組成物を含有する飲食品、飼料の形状や性状は、特に限定されるものではなく、例えば、固体状、半固体状、ゲル状、液体状、粉末状などが挙げられる。特に、飲料として使用する場合は、野菜果実飲料を好適に選択することができる。
【0043】
本発明の食品組成物を含有する飲食品、飼料は、血糖値上昇抑制に対して有益な作用をもたらす可能性があることの表示を付してもよい。なお、これらの表示は、公知の方法で容器包装手段に付すことができ、これによって、本発明の組成物を含有する飲食品、飼料は、血糖値上昇抑制のために用いられるものであることが明示されるので、通常の飲食品、飼料との区別が明確となる。
【0044】
本発明の食品組成物を含有する飲食品、飼料の摂取量は、特に限定されるものではなく、例えば、60kgのヒトにおいては、トマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維が1回あたりの摂取で0.017g/kg(体重)以上である。トマト由来食物繊維は、好ましくは1回あたりの摂取で0.022g/kg(体重)以上であり、より好ましくは0.027g/kg(体重)以上である。柑橘由来食物繊維は、好ましくは1回あたりの摂取で0.033g/kg(体重)以上であり、より好ましくは0.048g/kg(体重)以上である。なお、非ヒト動物を対象とする場合は、その種類により、摂取量を適宜変更することができる。
【0045】
本発明の組成物を含有する飲食品、飼料の摂取回数は、特に限定されるものではなく、例えば、1日1回、1日2回、1日3回などでもよい。摂取期間は、特に限定されるものではなく、例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間などでもよく、摂取期間を定めずに継続して用いてもよい。また、摂取期間中の摂取は、特に限定されるものではなく、例えば、連日摂取でもよいし、1日おきの摂取、2日おきの摂取、3日おきの摂取などでもよい。
【0046】
<食後血糖値上昇を抑制する方法の概要>
図1が示すのは、食後血糖値上昇を抑制する方法(以下、「本方法」という。)の流れである。本方法を構成するのは、主に、第1の摂取(S10)及び第2の摂取(S20)である。
【0047】
<第1の摂取(S10)>
第1の摂取の目的は、食後血糖値の上昇抑制である。ここで、摂取されるのはトマト又は柑橘の少なくとも一方に由来する食物繊維である。第1の摂取において摂取される前記食物繊維は、1.0g以上であることが好ましく、1.3g以上であることがより好ましく、1.6g以上であることが特に好ましい。
【0048】
<第2の摂取(S20)>
第2の摂取は、一般的な食事又は間食であり、その目的は、栄養補給である。ここで摂取されるのは、糖質を含有する飲食品である。当該飲食品の種類、形態、量は特に限定されないが、一般的な一食分の栄養補給ができるものであることが好ましく、白米、パン、麺類、芋などの主食となるものが特に好ましい。第2の摂取の時期は、第1の摂取と同時又は第1の摂取開始から10分以内である。
【0049】
<糖質>
糖質を定義するのは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)である。糖質を例示すると、単糖類、二糖類や三糖類乃至十糖類(いわゆるオリゴ糖)、デンプンなどである。単糖類を例示すると、グルコース、フラクトース、ガラクトースやマンノースなどである。二糖類を例示すると、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロースやセロビオースなどである。オリゴ糖を例示すると、スタキオース、マルトトリオース、マルトテトラオースやマルトペンタオースなどである。デンプンを例示すると、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、甘薯デンプン、米デンプン、加工デンプン、デキストリンなどである。
【実施例】
【0050】
<ヒト試験>
以下に記載の方法により、プラセボ対照クロスオーバー比較試験を行った。
【0051】
<試験対象者>
20歳以上の健康な成人男女を対象とし、以下の除外基準に該当しない者を試験対象候補者として選定した。
(1)直近の健康診断において、糖尿病の基準値以上(空腹時血糖値126mg/dL以上、または、HbAlc値6.5%以上)の診断結果が出た者
(2)試験食品に対して食物アレルギーのある者
(3)アルコール消毒が困難なほどのアルコール過敏症の者
(4)試験期間中に妊娠、授乳の予定がある者
(5)本試験開始時に他のヒト試験に参加している者
<試験対象者の制限事項>
(1)検査前日は過度な運動を控え、検査当日は試験終了まで静かな立ち仕事や座位程度の活動とする。
(2)検査前日の午後9時から検査当日の試験開始(午前9時)まで、水または白湯以外の飲食物を摂取しない。
(3)検査当日の血糖値測定終了までの間の、試験飲料以外の水分摂取は指定された量以内とする(実施例1では200ml、実施例2では、摂取禁止)。
(4)女性は月経期間外に検査を実施する。
(5)その他、試験責任医師等の指示に従う。
【0052】
<試験飲料>
実施例1及び実施例2では、それぞれ異なる飲料を作製し、試験に用いた。各試験における試験飲料の原材料及び容量を表1に、栄養成分を表2に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
<実施例1>
<試験飲料>
水(W)、プラセボ飲料(P1)、トマト由来食物繊維高含有飲料(T1)、柑橘由来食物繊維高含有飲料(C1)の4種類の試験飲料を用いた。いずれの飲料も、容量は200mLとした。P1は、トマト、ニンジン、レモン果汁を原材料とし(食物繊維含有量:1.5g/200ml)、T1はP1よりも食物繊維含量の多いトマトパルプ(FIT Fトマトパルプ、カゴメ株式会社)を用いることで、トマト由来食物繊維の含量を増やしている(食物繊維含量:3.1g/200ml)。なお、前述のトマトパルプは、ポルトガル産のトマトを洗浄、破砕後、65℃で予熱し、種皮を除去したものを遠心分離し、沈殿画分を回収したものである。C1はP1のトマトパルプの一部を柑橘(レモン及びライム)由来食物繊維(ヘルバセルAQプラス;DSP五協フード&ケミカル株式会社)に置き換え、食物繊維含量を増やした飲料とした(食物繊維含量:4.4/200ml)。プラセボ飲料、トマト由来食物繊維高含有飲料、柑橘由来食物繊維高含有飲料のエネルギー、糖質、タンパク質、脂質は、ほぼ同程度の値を示した(表2)。P1とT1の食物繊維量の差は1.6g、P1とC1の食物繊維量の差は2.9gであったが、これらの差はそれぞれトマト由来食物繊維、柑橘由来食物繊維の量の違いである。
【0056】
<血糖値の測定方法>
試験対象者は、検査当日の朝、空腹時の血液を指先から穿刺器具(メディセーフファインタッチ;テルモ株式会社)により微量採血し、自己血糖測定器(グルテストアイ;三和化学研究所)と専用センサー(グルテスト Neoセンサー;三和化学研究所)を用いて、試験食品摂取前(0分)の血糖値を測定した。
【0057】
その後、試験飲料を速やかに引用した後、負荷食品として、加熱済みの無菌包装米飯(佐藤食品工業)150g(炭水化物48.8g)を摂取した。試験飲料と負荷食品の摂取時間の合計は10分以内とした。試験飲料摂取開始から15、30、45、60、90、120、180分後の血糖値を、0分時点と同様の方法で測定した。試験食品摂取及び血糖値測定のスケジュールを
図2に示す。
【0058】
<有効性の評価>
以下の4項目を有効性評価項目とした。
(1)各時間における血糖値
(2)各時間における血糖値から0分時点の血糖値を引いた変化量(Δ血糖値)
(3)Δ血糖値の最大値(ΔCmax)
(4)Δ血糖値の推移から台形公式により算出した曲線下面積(Incremental area under the curve;IAUC)。試験時間全体(IAUC180min)と血糖値の上昇が大きい時間(IAUC60min)の2つを算出した。
【0059】
<統計解析>
上記各評価項目について、平均値±標準偏差で表記した(
図1~3)統計解析ソフトにはEZR(Ver.1.40)を用いた。スミルノフグラブス検定による棄却検定の結果、いずれかの検査で血糖値が棄却値(p<0.05)となった方は、解析から除外した。プラセボ飲料摂取時と他の試験飲料摂取時の各評価項目の比較は、対応のあるt検定により行った。有意差水準は、いずれも両側5%として有意差検定を行った。
【0060】
<結果>
14名を試験対象者として選定した。試験対象者のプロファイルは表3に示した。試験からの脱落はなく、14名全ての対象者が試験を完了し、試験飲料摂取による腹部の違和感などの有害事象は見られなかった。スミルノフグラブス検定による棄却検定の結果、いずれかの検査で血糖値が棄却値となった2名を除き、12名を解析対象者とした。
【0061】
図3に、各試験飲料摂取時の各評価項目の結果を示した。血糖値においては、P1摂取時と比較して、T1摂取時の0分、60分、C1摂取時の60分時点で有意な低値を示した。W摂取時にはP1摂取時と比較して、90分時点で有意な高値を示した(
図3のa)。Δ血糖値においては、P1摂取時と比較してT1摂取時は有意な差はなかったものの、C1摂取時の60分時点で有意な低値を示し、W摂取時には90分時点で有意な高値を示した(
図3のb)。
【0062】
【0063】
<実施例2>
後述する試験飲料以外は、実施例1と同じ方法で試験を実施した。なお、実施例1では行っていないが、有効性の評価において、プラセボ飲料摂取時の食後血糖値がやや高めの者(食後の最高血糖値が140-199mg/dLの者)のみを対象とした層別解析も実施した。
【0064】
<試験飲料>
プラセボ飲料(P2)、トマト由来食物繊維高含有飲料(T2)、柑橘由来食物繊維高含有飲料(C2)の3種類の試験飲料を用いた。いずれの飲料も、容量は265gとした。P2は、トマト、ニンジン、レモン果汁を原材料とし(食物繊維含有量:0.5g/265ml)、T2はP2よりも食物繊維含量の多いトマトパルプを用いることで、トマト由来食物繊維の含量を増やしている(食物繊維含量:2.1g/265ml)。C2はP2のトマトパルプの一部を柑橘(レモン及びライム)由来食物繊維(ヘルバセルAQプラス、DSP五協フード&ケミカル株式会社)に置き換え、食物繊維含量を増やした飲料とした(食物繊維含量:5.8/265ml)。プラセボ飲料、トマト由来食物繊維高含有飲料、柑橘由来食物繊維高含有飲料のエネルギー、糖質、タンパク質、脂質、はほぼ同程度の値を示した(表2)。P2とT2の食物繊維量の差は1.6g、P2とC2の食物繊維量の差は5.3gであったが、これらの差はそれぞれトマト由来食物繊維、柑橘由来食物繊維の量の違いである。
【0065】
<結果>
33名を試験対象者として選定した。試験対象者のプロファイルは表3に示した。試験からの脱落はなく、33名全ての対象者が試験を完了し、試験飲料摂取による腹部の違和感などの有害事象は見られなかった。スミルノフグラブス検定による棄却検定の結果、いずれかの検査で血糖値が棄却値となった4名を除き、29名を解析対象者とした。層別解析においては、P2摂取時の最大血糖値が140-199mg/dLの者26名を対象として解析を行った。
【0066】
図4に、各試験飲料摂取時の有効性評価項目の結果を示した。T2、C2いずれを摂取した場合も、15分と30分の血糖値及びΔ血糖値がP2摂取時と比較して有意に低値を示した(
図4のa、b)。また、ΔC
max、IAUC
60minにおいても、T2、C2を摂取した場合にP2摂取時と比較して有意に低値を示した(
図4のc、e)。P2摂取時の最大血糖値が140-199mg/dLの者を対象とした層別解析においても、全体を対象とした場合と同様の結果を示した(
図5のa、b、c、d、e)。
【0067】
実施例1及び2の結果から、トマト又は柑橘由来の食物繊維が食後血糖値の上昇を抑制する効果が確認され、試験飲料の摂取開始から60分より前の段階での血糖値の上昇を特に抑制していたことから、特に食後短時間での糖の吸収を抑制又は遅延することが示唆された。
【0068】
<実施例3;動物試験>
実施例3では、トマト由来食物繊維がラットのグルコース吸収に与える影響を検討した。
【0069】
<試験サンプルの調製>
トマト由来食物繊維を含むトマトパルプ(FIT Fトマトパルプ、カゴメ株式会社)を凍結乾燥し、粉末状にしたものを使用した。凍結乾燥粉末の食物繊維の含量は43.1g/100gであった。食物繊維の最終濃度が3%(3g/100mL)になるように、グルコース水溶液(15g/100mL)にトマトパルプの凍結乾燥粉末を懸濁し、後述するトマト由来食物繊維群の試験サンプルとした。
【0070】
<試験方法>
SDラット6週齢雄(日本クレア社)8匹を購入し、試験に用いた。飼育はプラスチックケージにて個別飼育とし、明暗サイクルは12時間サイクル(7:00-19:00:明期、19:00-7:00:暗期)にて行った。飼料はMF固形飼料(オリエンタル酵母株式会社)を、飲用水は水道水をそれぞれ自由摂取させた。5日間の馴化後、体重が群間でほぼ等しくなるよう、ラットを4匹ずつ対照群とトマト由来食物繊維群の2群に分けた。
【0071】
試験前日の17時から絶食を行い、16時間絶食後、対照群にはグルコース水溶液(15g/100mL)を、トマト由来食物繊維群には前述の試験サンプルを投与した。投与量は10mL/kg(体重)とし、グルコースの投与量が1.5g/kg(体重)、食物繊維の投与量が0.3g/kg(体重)になるようにした。その後、血糖値を測定した。
【0072】
<血糖値測定>
0分(試験サンプル投与前)、及び試験サンプル投与後15分、30分後に、ラットを固定装置ICN-5A(株式会社アイ・シー・エム)に固定した。尾静脈にメスで穿刺し、血液の一部(約5μL)を用いて、グルテストエースRとグルテストセンサー(ともに三和化学研究所)により血糖値を測定した。
【0073】
<統計処理>
Student t-testにより、対照群とトマト由来食物繊維群の血糖値、血糖値変化量を比較した。
【0074】
<結果>
結果を
図6に示す。トマト由来食物繊維群においては、投与15分後の血糖値及び血糖値変化量が対照群と比較して有意に低い値を示した(それぞれp<0.05、p<0.01)。
【0075】
<実施例4;細胞試験>
実施例4では、トマト由来食物繊維が腸管上皮グルコーストランスポーターであるナトリウム依存性グルコース輸送体(SGLT)1に与える影響を検討した。
【0076】
SGLT1への影響の検討は、ヒトSGLT1発現ベクターをチャイニーズハムスター卵巣由来CHO-K1細胞に遺伝子導入した細胞(ヒトSGLT1安定高発現細胞株)を用い、細胞内へのグルコースアナログである2-デオキシグルコース(2-DG)の取り込み量を評価することで行った。
【0077】
<ヒトSGLT1安定高発現細胞株の構築>
ヒトSGLT1遺伝子をクローニングして哺乳細胞用発現ベクターを構築した。ヒトSGLT1発現ベクターをCHO-K1細胞に遺伝子導入したのち抗生物質による選択をおこない、さらに限界希釈法によってシングルクローンを獲得した。その中で最もナトリウム依存的グルコース取り込み活性の高いクローンを単離し、ヒトSGLT1安定高発現細胞株とした。
【0078】
<細胞培養>
ヒトSGLT1安定高発現細胞株の培養は100mm細胞培養用プラスチック製ペトリ皿を用い、5%CO2を含むインキュベーター内で37℃で行った。培地交換は1日から2日おきに行った。なお、細胞培養用培地は、Ham’s F-12培地500mLにFBS56mL、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液2mL(ペニシリン終濃度:40U/mL、ストレプトマイシン終濃度:40μg/mL)、G418(終濃度2mg/mL)を加えたものを使用した。
【0079】
<継代>
100mmのペトリ皿で培養した細胞が70-90%コンフルエントに達したら、培地を取り除き、約10mLのPBSで洗浄した後、トリプシン-EDTA(Trypsin-EDTA(0.05%),phenol red、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)溶液1 mLを加えペトリ皿全体に行き渡らせ、インキュベーターにて5分程度放置して細胞を剥がし、9mLの培地を加えて懸濁しながら回収し、一部(約40μL)を用いて細胞計数板にて細胞数をカウントした。残りの細胞懸濁液を1,000rpm、室温で5分遠心し、上清を取り除いた後、適量の培地を加えピペット操作により細胞を均一に懸濁し、ペトリ皿1枚あたり細胞数が約1.0×105個となるように100mmのペトリ皿に播種した。
【0080】
<試験サンプルの調製>
トマトパルプを凍結乾燥したものを5g採取して三角フラスコに入れ、アルミホイルで覆った。そこに、0.08Mのリン酸緩衝液(pH6.0)を250mL加え、0.275Mの水酸化ナトリウム水溶液でpHを6.0±0.1に調整した。さらに、耐熱性アミラーゼ(総食物繊維分析キット、日本バイオコン株式会社)250μLを加え、軽く攪拌し、98~100℃に加熱した恒温水槽中で、攪拌しながら30分間インキュベートした。その後、室温まで冷却した後、約50mLの0.275Mの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.5±0.1に調整した。プロテアーゼ500μLを加え、軽く攪拌した後、60℃に加熱した恒温水槽中で、攪拌しながら30分間インキュベートした。その後、室温まで冷却し、0.325Mの塩酸を約50mL加え、pH4.5±0.2に調整した。アミログルコシダーゼ(総食物繊維分析キット、日本バイオコン株式会社)1000μLを加え、軽く攪拌した後、60℃に加熱した恒温水槽中で、攪拌しながら30分間インキュベートした。その後、60℃に加熱した95%エタノールを1400mL加え、60分間室温に静置した。静置後、5Aろ紙を用いて吸引ろ過し、残渣を得た。残渣を、60mLの78%エタノールで5回、50mLの95%エタノールで2回、50mLのアセトンで2回洗浄した。洗浄後の残渣をデシケーターで一晩以上真空乾燥し、得られた乾燥物を粉末状に破砕したものをトマト由来食物繊維画分とした。
【0081】
調製したトマト由来食物繊維画分をKRH(Krebs-Ringer-HEPES)バッファーで25、12.5、6.25mg/mLの濃度で懸濁させ、20分間超音波処理を行った、その後、3000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
【0082】
<細胞への2-DGの取り込み>
24穴プレートに細胞数が約2.0×105個/穴の濃度となるようヒトSGLT1安定発現細胞株を播種し、無血清培地で24時間培養した。KRHバッファーで細胞を2回洗浄後、2-DGの取り込み試験を行った。同時処理での検討においては、調製した前述の試験サンプルまたはトマト由来食物繊維を含まないKRHバッファーに2-DGを1mMの濃度で溶解させ、各穴に500μL添加し、37℃で10分間、2-DG取り込み試験を行った。前処理での検討においては、調製した前述の試験サンプルを各穴に500μL添加して37℃で10分間前処理を行った後、KRHバッファーで2回洗浄し、1mMの2-DGを各穴に500μL添加し、37℃で10分間、2-DG取り込みを行った。
【0083】
取り込み試験終了後、KRHバッファーで2回洗浄し、300μLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液を添加して37℃で60分間静置することで細胞を可溶化した。その後、300μLの0.1M塩酸を加えて中和したものを回収し、2-DG測定用サンプルとした。
【0084】
<細胞中の2-DG取り込み量の測定>
2-DGの測定は、プロメガ社のGlucose Uptake-GloTM Assayを用いて行った。100サンプルあたり、ルシフェラーゼ試薬(Luciferase Reagent)を10mL、NADP+を100μL、G6PDHを250μL、レダクターゼ(Reductase)を50μL、レダクターゼ基質(Reductase Substrate)を6.25μL混合して2DG6P検出試薬(Detection Reagent)を調製した。96穴プレートの各穴に、細胞試験で回収した2-DG測定用サンプル25μLと2DG6P検出試薬を25μLずつ入れ、遮光下、室温にて30分間インキュベートした。その後、プレートリーダー(Tristar LB941、Berthold Technologies社)で、ルシフェラーゼの発光強度を測定することで、2-DG取り込み量を測定した。
【0085】
<結果>
トマト由来食物繊維と2-DGを同時処理した場合、12.5mg/mL以上の濃度で2-DGの取り込みを有意に抑制した。トマト由来食物繊維を10分間前処理した場合も、同時処理と同様、12.5mg/mL以上の濃度で2-DGの取り込みを有意に抑制した(
図7)。
【0086】
<実施例5;グルコースの拡散試験>
実施例5では、トマト由来食物繊維がグルコース拡散に与える影響を検討した。
【0087】
<試験サンプル>
実施例4で調製したトマト由来食物繊維画分を用いた。また、同様の方法で濃縮ニンジン汁(ボルトハウス・ファームズ社)から調製したニンジン由来食物繊維画分も試験に用いた。
【0088】
<透析膜を用いた拡散試験>
トマトまたはニンジン由来食物繊維画分を50、25、12.5、6.25mg/mLの濃度で、0.15Mの食塩水に0.22Mのグルコースを溶解した溶液に懸濁した。食物繊維の懸濁液を、8cm程度の長さに切った透析チューブ(スペクトラ/ポア 7、MWCO 2,000、φ11.5mm×18mm、REPLIGEN社)に詰め、上下をクローサーにより密封した。透析チューブを、100mLの遠沈管に入れた0.15Mの食塩水45mLに浸した状態で、100mL遠沈管をシェイカーで攪拌した。攪拌開始から30、60、90、120、150、180分後に、100μLずつ遠沈管から0.15Mの食塩水を回収し、透析膜から浸出したグルコースの濃度を測定した。
【0089】
<グルコース量の測定>
透析膜から浸出したグルコースの濃度は、グルコース測定キットEnzyChromTMGlucose Assay Kit(EBGL-100、BioAssay Systems社)により、付属の説明書に記載された方法で、570nmの吸光度を測定することで算出した。吸光度の測定には、コロナマルチグレーティングマイクロプレートリーダSH-9000Lab(日立ハイテクサイエンス)を用いた。
【0090】
<結果>
経時変化よりトマト由来食物繊維の濃度が増加するほどグルコースの拡散が阻害する傾向が見られた(
図8のa)。経時変化より、曲線下面積(Area under the curve;AUC)を算出したところ、50mg/mLにおいて、AUCが有意に低い値を示した(
図8b)。
【0091】
また、ニンジン由来食物繊維は、グルコースの拡散を阻害しなかった(
図9)。
【0092】
<実施例6;トマト及びニンジン由来食物繊維の構成糖の測定>
実施例6では、トマト及びニンジン由来食物繊維画分を酸加水分解して生じる構成糖を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。各食物繊維画分の調製方法は、実施例4及び5と同じ方法とした。
【0093】
<トマト由来食物繊維の酸加水分解>
トマトまたはニンジン由来食物繊維画分0.3gを精密に量り、72%硫酸4mLを加えて、室温で1時間かくはん後、水112mLで三角フラスコに洗い込み、121℃のオートクレーブで1時間加熱した。その後、氷冷して中和後、水で200mLに定容し、ろ紙(No.5B[東洋濾紙株式会社])及び孔径0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。ろ過した液を水で2倍希釈した液を試験溶液とした。
【0094】
<HPLC条件>
ラムノース、リボース、マンノース、アラビノース、フコース、ガラクトース、キシロース、グルコースのHPLC操作条件は、以下の通りとした。
【0095】
機種:LC-20AD(株式会社 島津製作所)
検出器:蛍光分光光度計 RF-20Axs(株式会社 島津製作所)
カラム:TSKgel SUGAR AXI、φ4.6 mm×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度:60℃
移動相:0.5 mol/Lホウ酸緩衝液(pH 8.7)
流量:0.4 mL/min
注入量:20 μL
蛍光励起波長:320 nm
蛍光測定波長:430 nm
ポストカラム:反応液;1% L-アルギニン溶液
反応液流量;0.7 mL/min
反応温度;150 ℃
ガラクツロン酸及びグルクロン酸のHPLC操作条件は、以下の通りとした。
【0096】
機種:ICS-5000+ (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
検出器:パルスドアンペロメトリー検出器 ED
(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
カラム:CarboPac PAI、φ4.0 mm×250 mm
(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
カラム温度:32 ℃
移動相:0.1 mol/L水酸化ナトリウム溶液及び0.1 mol/L酢酸ナトリウム溶液の
混液(1:1)
流量:1 mL/min
注入量:5 μL
<結果>
トマト由来食物繊維の構成糖をHPLC分析により定量した結果を、表4に示した。また、トマトとニンジン由来食物繊維の構成糖分析の結果を比較したものを表5に示した。表5の数値は、構成糖のグルコースのピーク面積を100とした時の各構成糖のピーク面積を表している。なお、ガラクツロン酸とグルクロン酸は他の糖と分析方法とピーク面積の算出方法が異なるため、表5には記載していない。
【0097】
ニンジン由来食物繊維は、構成糖に占めるグルコースの比率がトマト由来食物繊維と比較して顕著に低く、ガラクトースやアラビノースが主要な構成糖となっており、トマト由来食物繊維の構成糖組成とは大きく異なっていた。従って、トマト由来食物繊維の特徴的な構成糖の組成が血糖値上昇抑制効果と関連していることが推察される。
【0098】
【0099】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明が有用な分野は、医薬品、健康食品、サプリメント、飲食品、飼料の提供である。