(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】土壌診断システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20241023BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G01N33/24 B
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2020101068
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大熊 康彦
(72)【発明者】
【氏名】大薮 隆樹
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-343303(JP,A)
【文献】特開2006-201184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0373905(US,A1)
【文献】国際公開第2021/245890(WO,A1)
【文献】遅澤省子,土壌中のガスの拡散測定法とその土壌診断やガス動態解析への応用,農業環境技術研究所報告,1998年,第15号,pp.1-66,https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010572841.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
A01G 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が育成している
土壌表面に走査させて当該土壌から送出される気体の種類及び量を測定する測定センサと、
前記測定センサで測定された
土壌から送出される気体の種類及び量の結果から測定対象となる土壌において発生している気体
の相対的な量又は絶対的な量に関する前記走査された土壌表面における分布を作成する気体分布作成手段とを備える土壌診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の土壌診断システムにおいて
、
前記
測定センサが設置された走査手段により
測定対象となる前記土壌
表面の全体を
前記測定センサで走査しながら測定結果が前記気体分布作成手段に送信される土壌診断システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の土壌診断システムにおいて、
前記土壌で一期前又は複数期前に育生した植物の種別情報を入力する入力手段と、
作成された前記気体の分布の情報と入力された前記植物の種別情報とに基づいて、連作障害の発生の有無を推定する連作障害推定手段とを備える土壌診断システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の土壌診断システムにおいて、
前記土壌の表面又は土壌中に対して光を照射する発光手段と、
発光手段で照射した光の反射光を受光する受光手段と、
前記測定センサの測定結果と前記受光手段が受光した反射光の情報とに基づいて、前記土壌の表面又は土壌中における土壌菌の有無を推定する土壌菌推定手段とを備える土壌診断システム。
【請求項5】
請求項4に記載の土壌診断システムにおいて、
土壌中に挿入され、側面に1又は複数の貫通孔を有する断面中空の挿入管に前記発光手段、前記受光手段及び前記測定センサが収納されており、
前記発光手段が前記貫通孔から光を照射し、前記受光手段が前記貫通孔から入射する前記反射光を受光し、前記測定センサが前記貫通孔から流入した前記気体の種類及び量を測定する土壌診断システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の土壌診断システムにおいて、
前記気体分布作成手段が作成した前記気体の分布に基づいて、前記土壌に適する任意の成分の土壌構成物質を投入する投入手段と、
前記投入手段を制御するための制御情報を生成する制御情報生成手段とを備える土壌診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌から送出される気体を測定することで土壌の状態を推定する土壌診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育成を管理・支援する技術として、例えば特許文献1~5に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、情報処理手段は、生成した植物の育成に関連する配信情報を配信手段よりあらかじめ設定した所定の植物育成装置に情報配信するようにし、植物育成システムを用い情報を配信するもので、複数の植物育成装置からの受信した情報を蓄積し前記蓄積した情報あるいは前記受信した情報をもとに配信情報を生成し、生成した植物の育成に関連する配信情報を配信手段を介し情報配信することで、複数の植物育成装置からの情報の中で植物育成に係わる重要な情報を共有でき、植物育成に有益な情報を容易に提供することができるシステムおよびサービスを実現するものである。
【0003】
特許文献2に示す技術は、植物を栽培するための照明光を照射する照明手段、前記照明光を制御する照明光制御手段、前記植物に肥料を供給する肥料供給手段、前記肥料供給を制御する肥料供給制御手段から構成されるものである。
【0004】
特許文献3に示す技術は、植物の育成に必要な肥料成分を含む養液が供給される植物育成槽と、養液に含まれるイオン濃度を測定するイオン濃度測定部と、イオン濃度測定部の測定結果に基づき、養液に不足している不足肥料成分を判断する判断部とを具備し、判断部が、不足肥料成分のイオンとともに養液に供給される対イオンの種類を、植物の品種、植物の成長時期、植物に備えさせる機能、植物の健康状態、又は対イオンの人体に対する害の程度のうち少なくとも1つをパラメータとして決定するものである。
【0005】
特許文献4に示す技術は、植物を収容する容器と、光源と、植物の種類等に応じて光源の出力等を制御する光制御手段と、光制御手段に与える制御データを中央管理装置から受信する第1受信手段と、第1受信手段が受信した制御データを記憶する第1記憶手段と、第1記憶手段に記憶された制御データを読みだして光制御手段に送る装置制御手段と、植物の成長データを収得するセンサーと、センサーから得られた成長データを記憶する第2記憶手段と、第2記憶手段に記憶された成長データを第1送信手段と伝送路を介して中央管理装置に送信し、中央管理装置が受信する第2受信手段を備えた植物栽培システムとするものである。
【0006】
特許文献5に示す技術は、植物の近傍に、炭酸ガスボンベ等の炭酸ガス供給手段に接続したポーラスパイプを配備し、炭酸ガス供給手段の炭酸ガス供給量を弁開閉制御手段(ガス供給量制御手段)により制御する栽培施設における炭酸ガス供給装置において、前記ポーラスパイプから離れた植物過疎領域の炭酸ガス濃度を検出する漏洩ガス監視センサを配備し、当該センサのセンサ出力が規定値を超えたら前記弁開閉制御手段により炭酸ガス供給手段の炭酸ガス供給量を絞るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-298069号公報
【文献】特開2018-014984号公報
【文献】特開2017-046662号公報
【文献】特開2016-189745号公報
【文献】特開2015-043711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献においては、様々なセンサを用いて植物の育成空間における炭酸ガスや二酸化炭素の濃度を測定し、育成の促進に適した情報を提供することなどが記載されているが、具体的な測定方法が記載されておらず、特に土壌の状態を測定することについては十分に開示されていない。
【0009】
現状、土壌の状態を分析しようとすると、土壌の一部を採取して分析装置などを用いて分析する必要があり手間と時間を要すると共に、広範囲に亘っての分析などは多くのサンプルを採取して分析を行わなればならず、より多くの手間と時間を要してしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、土壌のサンプルなどを採取して分析する必要がなく、土壌から送出される気体を測定することで土壌の状態を推定する土壌診断システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る土壌診断システムは、植物が育成している土壌から送出される気体の種類及び量を測定する測定センサと、測定センサで測定された結果から測定対象となる土壌において発生している気体の分布を作成する気体分布作成手段とを備えるものである。
【0012】
このように、本発明に係る土壌診断システムにおいては、植物が育成している土壌から送出される気体の種類及び量を測定し、測定された結果から測定対象となる土壌において発生している気体の分布を作成するため、土壌から送出される気体の種類や量といったこれまでに着目されていないパラメータに基づいた土壌の状態管理を可能にするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る土壌診断システムのシステム構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係る土壌診断システムにおける測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る土壌診断システムで作成される分布の具体例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図7】第2の実施形態に係る土壌診断システムにおける推定処理部が推定演算した結果が反映された分布の一例を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。
【
図9】第3の実施形態に係る土壌診断システムにおける測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図10】第3の実施形態に係る土壌診断システムにおける測定装置を埋設型の農業センサに組み込んだ場合の構造の一例を示す図である。
【
図11】第3の実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。
【
図12】その他の実施形態に係る土壌診断システムのシステム構成図である。
【
図13】その他の実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図14】その他の実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る土壌診断システムについて、
図1ないし
図5を用いて説明する。本実施形態に係る土壌診断システムは、土壌から送出される気体を測定することで土壌の状態を診断するものであり、従来のように複数箇所から土の一部をサンプリングして分析するのではなく、土壌表面に測定センサを走査させることで土壌から送出される気体の種類や量を測定し土壌を管理するものである。
【0015】
図1は、本実施形態に係る土壌診断システムのシステム構成図である。本実施形態に係る土壌診断システム1は、土壌から送出される気体の種類及びその量を測定する測定装置2と、測定装置2が測定した結果に基づいて土壌から送出される気体の分布を作成したり、土壌の状態を演算する演算装置3とを備える。植物を育成する畑などの土壌においては、土壌表面及び土壌中から様々な気体が送出されている。例えば、菌などの微生物がいる環境においては、その生命活動でアンモニアなどの排泄物が気体となって送出されたり、肥料などの化学物質が気化することで気体として送出されることもある。それらの気体の種類や量を測定装置2で測定し演算装置3で処理することで、その土壌における土壌菌の有無や過剰/過不足物質などの情報を得ることが可能となり、適正な土壌管理を行うことができる。
【0016】
図2は、本実施形態に係る土壌診断システムにおける測定装置の構成を示す機能ブロック図である。測定装置2は、土壌から送出される気体を検出する臭気センサ21と、臭気センサ21で検出された気体の種類や量に関する情報を演算装置3に送信する送信部22とを備える。臭気センサ21は一般的に知られているものや市販されているものを使用することが可能であり、複数種類の気体を臭気として検出しそれらの相対的な量又は絶対的な量を検出することが可能となっている。送信部22は、畑などで測定された臭気センサ21のセンシング結果を無線通信により遠隔地にある演算装置3に送信する送信手段である。
【0017】
なお、本実施形態においては臭気センサ21を用いる構成としているが、臭気センサ21に限定することなく気体を検出することができるガスセンサであれば何でもよい。また、臭気センサ21で測定された測定結果情報は送信部22が無線通信により演算装置3に送信する構成としているが、別途挿入された外部記憶媒体等を介して演算装置3に取り込まれるようにしてもよい。
【0018】
図3は、本実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。演算装置3は、測定装置2から送信された測定結果情報を受信する受信部31と、測定対象となる土壌の土地の形状、広さ、配置などの情報や分布の作成に必要なパラメータ等を格納する管理データベース32と、受信した測定結果情報及び管理データベース32の情報に基づいて土壌から送出される気体の分布を作成する分布作成部33と、作成された分布情報を表示画面などの出力部4に出力する出力制御部34とを備える。
【0019】
分布の作成について
図4の具体例を用いて説明する。
図4は、本実施形態に係る土壌診断システムで作成される分布の具体例を示す図である。
図4(A)が測定対象となる土壌(畑)の見取図であり、
図4(B)が
図4(A)の見取図にアンモニアの測定結果を分布として重ねた結果を示す図であり、
図4(C)が
図4(A)の見取図に領域ごとに検出された気体の種類を分布として重ねた結果を示す図である。
【0020】
図4における各番号は畝を示しており、各畝ごとに何の植物を育成しているか(又は育成していたか)が管理データベース32に登録されている。例えば、畝(1)~(3)はじゃがいも、畝(4)及び(5)はトマト、畝(6)及び(7)はピーマン、畝(8)~(10)はキャベツといった情報である。また、各畝ごと、又は畝の中の一部(上部、中部、下部、左部、右部等)ごとに植物の実際の育成状態(良、普通、不良等)が記憶されている。なお、育成状態を示す情報として例えば収穫した物の画像などを関連付けて記憶するようにしてもよい。
【0021】
測定装置2は、例えばトラクターやドローンなどの移動体の底部に装着され、移動体の移動に応じて
図4(A)の畑上を走査しながら気体を測定する。測定装置2又は移動体には位置を測定するためのGPS(図示しない)が設置されており、そのGPSの位置情報と共に検出された気体の種類及び量の情報が送信部22により演算装置3に送信される。演算装置3では、測定装置2から送信された測定結果を元に気体の分布図を作成する。気体の分布図は、例えば
図4(B)に示すように、ある特定の気体(ここではアンモニアとする)に関する濃度差を分布として作成してもよいし、
図4(C)に示すように、気体の種類ごとの分布(どの領域からどの気体が検出されたかを示す分布)を作成してもよい。
【0022】
図4(B)又は
図4(C)に示すように、畑の土壌のどの領域からどのような気体が送出されているか、又はどの領域からどのような気体がより多く送出されているかを測定して分布表示することで、土壌の状態を気体の送出(例えば臭気)という観点で可視化することが可能となり、土壌の適正な管理に利用することが可能となる。
【0023】
なお、測定装置2の移動は、上述したような移動体を用いなくても管理者が手に持って移動しながら測定するようにしてもよいし、複数の測定装置2を予め所定の箇所に縦横に固定配置して常時測定結果を得るようにしてもよい。
【0024】
次に本実施形態に係る土壌診断システムの処理について説明する。
図5は、本実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。まず、トラクターなどの移動体に装着された測定装置2の臭気センサ21で移動体の移動に伴い土壌から送出される気体の臭気を測定する(S1)。このとき、気体の種類や相対量(又は絶対量)を測定可能な臭気センサ21を利用する。送信部22が測定された気体の種類及び量の情報を測定位置の情報と紐付けて演算装置3に送信する(S2)。これらの情報を受信した演算装置3の分布作成部33は気体の濃度分布又は種類分布を作成し、予め管理データベースに登録されている畑の見取図と重ね合わせた分布図を作成する(S3)。出力制御部34が作成された分布図を表示装置等の出力部4に出力して(S4)、処理を終了する。
【0025】
このように、本実施形態に係る土壌診断システムにおいては、植物が育成している土壌から送出される気体の種類及び量を測定し、測定された結果から測定対象となる土壌において発生している気体の分布を作成するため、土壌から送出される気体の種類や量といったこれまでに着目されていないパラメータに基づいた土壌の状態管理を可能にする。
【0026】
また、測定センサが臭気センサ21であり、臭気センサ21が設置された走査手段により土壌全体を臭気センサ21で走査しながら測定結果が演算装置3に送信されるため、走査手段により土壌全体において送出される気体の種類や量を臭気に基づいて簡単に測定して分布を作成し、土壌の最適な管理に利用することができる。
【0027】
なお、作成された分布を参考にして埋設型の農業センサ(例えば、https://www.nishimu-products.jp/miharas(以下、参考情報という)を参照)を配設する位置を決めるようにしてもよい。埋設型の農業センサはコストなどの問題から多数設置するのは難しい。そのため、必要最小限の台数(基本は1台)を適切な位置に設置する必要がある。そこで、本実施形態で作成された分布情報を用いて最も特徴的な領域に農業センサを埋設したり、土壌全体の特徴を示す平均的な領域に埋設したりといった利用が可能となる。
【0028】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る土壌診断システムについて、
図6ないし
図8を用いて説明する。例えば野菜や果物を収穫する上で連作障害を避けることは非常に重要である。連作障害は同一の作物を同じ領域で繰り返して育生し続けることで土壌の成分や土壌菌などの微生物のバランスが崩れ、作物が育成不良となり収穫が落ちてしまう障害である。本実施形態に係る土壌診断システムは、一期前又は複数期前に育生した植物の種別に応じて連作障害が生じる可能性を演算して推定するが、このときに前記第1の実施形態において説明した土壌から送出される気体の情報をパラメータとして加えることで、より正確な連作障害の発生有無を推定するものである。推定した結果は、前記第1の実施形態において説明した土壌分布に重ねて表示することが可能である。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0029】
図6は、本実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。前記第1の実施形態における
図3の場合と異なるのは、測定対象となる土壌で一期前又は複数期前(例えば、昨年又は直近数年間)に育生した植物の種別情報、及び今期育生予定の植物の種別情報を含む入力情報30を入力する入力部35と、入力された入力情報30、管理データベース32に登録されている情報、及び分布作成部33で作成された気体の分布情報に基づいて、今期の育成に連作障害が生じるかどうかを推定する推定処理部36とを新たに備えることである。また、分布作成部33は、推定処理された結果を分布情報に反映して分布を再作成する。再作成された分布は出力制御部34により出力部4に出力される。
【0030】
上述したように、連作障害は同一の作物を同じ領域で繰り返して育生し続けることで発生するが、必ずしも一定条件の元で発生するとは限らない。つまり、土壌の環境によって連作障害の発生の条件が異なる。しかしながら、実際に連作障害が発生するかどうかは、直近数年間で育生した作物の種別などから経験的に判断するしかないため、実際には連作障害が発生しない土壌であっても敢えて他の作物を育生せざるを得なかったり、連作障害が発生しないと思われた土壌であっても結果的に連作障害が発生して収穫量が少なくなるといったことが起こり得る。
【0031】
本実施形態における推定処理部36では、直近数年間で育生した作物の種別などから連作障害の発生可能性を推定する際に、分布作成部33が作成した分布情報を考慮した推定演算を行う。具体的には、直近数年間で育生した作物の種別と今期育生する予定の作物から得られる連作障害の可能性の演算(以下、第1の推定演算という)と、分布作成部33が作成した分布にしたがって得られる連作障害の可能性の演算(以下、第2の推定演算という)とにそれぞれ重み付け(重み係数は利用者が任意に設定可能とする)を行い、総合的に連作障害の可能性を算出する。この演算によれば、第1の推定演算で連作障害の可能性が高い(又は低い)結果が出ても、第2の推定演算の結果次第ではその可能性が低く(又は高く)なり、実際の土壌の状態により近い状態を加味した演算が可能となる。
【0032】
第2の推定演算についてさらに具体的に説明すると、例えば測定装置2で土壌から送出されるアンモニアの量(又は濃度)を検出すると、分布作成部33により土壌におけるアンモニアの濃度分布が作成される。アンモニアの濃度が濃い領域は土壌菌の生命活動が活性化していると判断できる。しかしながら、ある程度の土壌菌の活性化は作物の育成に良い影響を与えるものの、過剰な土壌菌の生命活動は連作障害の原因となる。すなわち、測定装置2で測定したアンモニアの濃度分布から土壌菌の活性度合いを割り出し、連作障害の可能性を演算することができる。これらを演算するためのパラメータや閾値、AIモデル等は管理データベース32に予め登録されている。このような第2の推定演算の演算結果と第1の推定演算の結果とを総合的に判断することで、より正確に土壌の状態を把握することが可能となる。
【0033】
図7は推定処理部36が推定演算した結果が反映された分布の一例を示す図である。
図7ではわかりやすくするために推定演算した結果のみを記載しているが、実際には
図4(B)に示すアンモニア濃度の分布に重ねて、又は並べて表示されるのが望ましい。
図7において、色が濃い領域ほど連作障害が発生する可能性が高いことを示している。(10)の畝については、
図4(B)にも示すようにアンモニア濃度が濃くなっていることから、このような結果が得られたと考えられ、連作障害を避ける対応が推奨される。一方で、(1)の畝については、
図4(B)からアンモニア濃度はそれほど濃くないことから、このような結果が得られるが、第2の推定演算の結果を重視するのであれば特に連作障害を気にせずに今期も同様の作物を育生するようにしてもよいし、第1の推定演算の結果を重視するのであれば連作障害を避ける対応が望ましい。
【0034】
なお、
図7に示す分布は第1の推定演算の結果と第2の推定演算の結果とを考慮した総合的な推定演算の結果を示しているが、画面上で第1の推定演算と第2の推定演算とを選択可能とし、選択された状態に応じて対応する演算結果が切り替え表示されるようにしてもよい。
【0035】
次に本実施形態に係る土壌診断システムの処理について説明する。
図8は、本実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。まず、トラクターなどの移動体に装着された測定装置2の臭気センサ21で移動体の移動に伴い土壌から送出される気体の臭気を測定する(S1)。送信部22が測定された気体の種類及び量の情報を測定位置の情報と紐付けて演算装置3に送信する(S2)。これらの情報を受信した演算装置3の分布作成部33は気体の濃度分布又は種類分布を作成し、予め管理データベースに登録されている畑の見取図と重ね合わせた分布図を作成する(S3)。測定装置2で測定された結果と入力情報30の情報とに基づき、管理データベース32に登録されている情報を用いて、推定処理部36が第1の推定演算及び第2の推定演算を行い連作障害の発生可能性を推定する(S4)。出力制御部34が作成された分布図を推定演算の結果と共に表示装置等の出力部4に出力して(S5)、処理を終了する。
【0036】
このように、本実施形態に係る土壌診断システムにおいては、土壌から送出される気体の状態と過去に育成した植物との関係から連作障害が生じうる可能性を推定することができ、本来の土壌に近い状態を考慮した連作障害の対応を行うことができる。
【0037】
なお、本実施形態においてはアンモニアの濃度分布を用いて連作障害の発生を推定する処理について説明したが、アンモニアに限らず、例えば土壌菌が密に存在する場合に発生する気体や、土壌菌が排出する特有のガスなどがあればそれらの濃度分布を利用できるようにしてもよい。また、土壌菌の存在だけではなく、土壌成分の偏りによっても連作障害が発生し得ることから、土壌成分の偏りに起因して送出されているガス(例えば、腐敗した作物から送出されるガス等)の分布に基づいて連作障害の発生を推定してもよい。
【0038】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る土壌診断システムについて、
図9ないし
図11を用いて説明する。本実施形態に係る土壌診断システムは、臭気センサでのセンシングに加えて光センサで土壌表面又は土壌中の発光を検出することで土壌菌の有無を特定するものである。前記各実施形態において説明したように、臭気センサ21でアンモニアが検出された場合に土壌菌の生命活動が行われている可能性があるが、それ以外にも例えば肥料に含まれていたアンモニア成分が検出されている可能性もある。同じアンモニアが検出された土壌領域であっても肥料に含まれるアンモニア成分の場合は、肥料が時間と共に、又は雨などにより土壌から流出する可能性がある一方で、土壌菌の場合はある程度時間が経過したり雨が降っても土壌菌の存在に与える影響は小さい。
【0039】
そこで、本実施形態に係る土壌診断システムは、検出されたアンモニアが土壌菌に由来するものであるか肥料に由来するものであるかを特定することで、それぞれの状況に応じた適正な対策を行って効率的に収穫を行うことを可能とするものである。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0040】
図9は、本実施形態に係る土壌診断システムにおける測定装置の構成を示す機能ブロック図である。前記第1の実施形態における
図2の場合と異なるのは、光センサ23を新たに備えることである。土壌菌の中には所定の波長の光(例えば、紫外光)を照射した場合に体表面に特異な物質を表出するものがある。本実施形態においては、光センサ23が図示しない発光部と受光部とを有しており、発光部からの光で土壌菌に表出された物質の反射光を受光部で検出することで土壌菌の有無をより確実に特定する。光センサ23で検出された結果は、臭気センサ21の検出結果と共に送信部22により演算装置3に送信される。
【0041】
ここで、前述したように土壌菌が紫外光に反応して体表面に特異な物質を表出するには多少時間を要する場合がある。すなわち、前記各実施形態において説明したようにトラクターやドローンなどの移動体を土壌表面で走査させるような短時間の測定では光センサ23でのセンシングが難しい。そのため、本実施形態の場合は参考情報に示したような埋設型の農業センサに組み込まれることが望ましい。
【0042】
図10は、本実施形態における測定装置2を参考情報にあるような埋設型の農業センサに組み込んだ場合の構造の一例を示す図である。ここでは、土壌中の土壌菌を測定するために農業センサ41の本体埋設部分に臭気センサ21と光センサ23とが収納されている。各センサが収納される箇所の本体には複数の孔42が開けられており、土壌環境と連通状態になっている。臭気センサ21は孔42から流入するガスを検知する。光センサ23は孔42から紫外線などの所定の波長の光を外部に向けて照射すると共に、その光に反応している土壌菌の反射光を孔42を通して受光する。このような構造により、土壌中の測定を行うことが可能となる。
【0043】
臭気センサ21の測定結果、及び光センサ23の測定結果を受信した演算装置3は、これらの測定結果に基づいて土壌菌の有無を推定演算する。演算装置3の機能ブロック図は前記第2の実施形態における
図6の場合と同じであるが、本実施形態においては一部機能が拡張されている。すなわち、受信部31が、臭気センサ21の測定結果に加えて光センサ23の測定結果を受信し、分布作成部33で光センサ23の測定結果に基づく分布(測定装置2が設置された領域において、光を受光した箇所としない箇所の分布や、受光した光の強度分布等)が作成される。推定処理部26は、臭気センサ21の測定結果から得られる分布と、光センサ23の測定結果から得られる分布とを用いて土壌菌の有無、及びその数を推定演算する。
【0044】
推定処理部26の推定演算の一例を説明する。例えば、
(1)臭気センサ21の測定結果からアンモニアガスが検出され、光センサ23の測定結果から受光も所定の範囲内で検出された場合は、活性化した土壌菌が正常に存在すると推定する。
【0045】
(2)臭気センサ21の測定結果からアンモニアガスが検出され、光センサ23の測定結果から受光が検出されない場合は、活性化した土壌菌がいないものの肥料などがある程度含まれていると推定する。
【0046】
(3)臭気センサ21の測定結果からアンモニアガスが検出されず、光センサ23の測定結果から受光が所定の範囲内で検出された場合は、活性化していない土壌菌が存在すると推定する。
【0047】
(4)臭気センサ21の測定結果からアンモニアガスが検出されず、光センサ23の測定結果から受光も検出されない場合は、土壌菌も肥料もない状態であると推定する。といった一連の推定処理が可能である。
【0048】
なお、これらの処理はあくまで単純化した一例であるが、2つのセンサの結果を用いることで土壌菌の有無や状態をより正確に特定することが可能となる。また光センサ23の受光強度に応じて土壌菌の数を把握することが可能であり、所定の強度以上であれば土壌菌が多すぎて連作障害を起こす可能性を推定することができ、所定の強度以下であれば肥料散布の必要性などを管理者に提示することが可能である。
【0049】
次に本実施形態に係る土壌診断システムの処理について説明する。
図11は、本実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。まず、測定装置2が組み込まれた埋設型の農業センサや管理者による測定装置2の設置により、臭気センサ21で土壌から送出される気体の臭気を測定する(S1)と共に、光センサ23で土壌中に紫外線を照射した後に受光量を測定する(S2)。送信部22が測定された気体の種類及び量、並びに光の受光量の情報を測定位置の情報と紐付けて演算装置3に送信する(S3)。これらの情報を受信した演算装置3の分布作成部33は気体の濃度分布、種類分布、又は光強度分布を作成し、予め管理データベースに登録されている畑の見取図と重ね合わせた分布図を作成する(S4)。測定装置2で測定された結果と管理データベース32に登録されている情報とを用いて、推定処理部36が推定演算を行い土壌菌の有無を推定する(S5)。出力制御部34が作成された分布図を推定演算の結果と共に表示装置等の出力部4に出力して(S6)、処理を終了する。
【0050】
このように、本実施形態に係る土壌診断システムにおいては、土壌の表面又は土壌中に対して光を照射する発光部と、発光部で照射した光の反射光を受光する受光部とを含む光センサ23と、臭気センサ21の測定結果と光センサ23が受光した反射光の情報とに基づいて、土壌の表面又は土壌中における土壌菌の有無を推定する推定処理部36とを備えるため、土壌菌の有無に応じて土壌をいい状態に維持するように管理することが可能になる。
【0051】
また、土壌中に挿入され、側面に1又は複数の貫通孔を有する断面中空の埋設型農業センサの挿入管に光センサ23及び臭気センサ21が収納されており、光センサ23の発光部が貫通孔から光を照射し、光センサ23の受光部が貫通孔から入射する反射光を受光し、臭気センサ21が貫通孔から流入した気体の種類及び量を測定するため、土壌中における土壌菌の有無を推定することが可能になると共に、土壌に埋設された状態でセンサ類を保護することができる。
【0052】
(本発明のその他の実施形態)
本実施形態に係る土壌診断システムについて、
図12ないし
図14を用いて説明する。本実施形態に係る土壌診断システムは、分布作成部33で得られた分布情報や推定処理部36で得られた推定演算結果を用いて、土壌に不足している成分や土壌が必要としている成分を推定し、それらの成分が含まれる土壌構成物質を土壌の対象領域に散布するものである。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0053】
図12は、本実施形態に係る土壌診断システムのシステム構成図である。本実施形態に係る土壌診断システム1において前記第1の実施形態における
図1の場合と異なるのは、演算装置3との通信を可能とし当該演算装置3からの制御信号に応じて、土壌構成物質を土壌の対象領域に適量散布する投入装置5を備えることである。
【0054】
投入装置5が散布する土壌構成物質としては、例えば水、肥料、家畜等の糞尿、農薬等があり、これらの物質が演算装置3からの制御信号に応じて必要としている対象領域に必要な量で散布される。投入装置5は、例えば散水機のように固定された場所から周囲に散布するものでもよいし、陸上や空中を移動する移動体が対象領域に移動して所定の物質を散布するようにしてもよい。
【0055】
図13は、本実施形態に係る土壌診断システムにおける演算装置の構成を示す機能ブロック図である。前記第2の実施形態における
図6の場合と異なるのは、推定処理部36が推定演算を行った結果(例えば、土壌の中で土壌菌が少ないと推定される領域が特定)に基づいて、必要とされる処理(例えば、その特定された領域に対して土壌菌を増やすために家畜の糞尿を散布する処理)を投入装置5に実行させるための制御信号等を生成する制御情報生成部37を備えることである。作成された制御信号は出力制御部34により適切な投入装置5に送信される。
【0056】
この制御情報生成部37は、推定処理部36が推定処理を行った結果から散布が必要な場所、散布が必要な物質、散布が必要な量等を管理データベース32の登録情報に基づいて演算し、それらの情報を含む制御信号を生成する。各投入装置5は送信された制御信号にしたがって散布処理を行う。
【0057】
なお、投入装置5は1種類の装置に限らず複数種類の装置を含んでいてもよい。例えば、上記で示したような散水機、陸上を移動して土を掘り返す農機、空中を移動するドローン等、多種類の装置があり、制御情報生成部37で作成された制御信号に応じて出力制御部34が対応する投入装置5に制御信号を送信するようにしてもよい。例えば、水蒸気の検出が少ない領域に水を投入するような場合は、散水機に対して制御信号を送信する。
【0058】
次に本実施形態に係る土壌診断システムの処理について説明する。
図14は、本実施形態に係る土壌診断システムの処理を示すフローチャートである。まず、測定装置2が組み込まれた埋設型の農業センサや管理者による測定装置2の設置により、臭気センサ21で土壌から送出される気体の臭気を測定する(S1)と共に、光センサ23で土壌中に紫外線を照射した後に受光量を測定する(S2)。送信部22が測定された気体の種類及び量、並びに光の受光量の情報を測定位置の情報と紐付けて演算装置3に送信する(S3)。これらの情報を受信した演算装置3の分布作成部33は気体の濃度分布、種類分布、又は光強度分布を作成し、予め管理データベースに登録されている畑の見取図と重ね合わせた分布図を作成する(S4)。測定装置2で測定された結果と管理データベース32に登録されている情報とを用いて、推定処理部36が推定演算を行い土壌の状態を推定する(S5)。制御情報生成部37が、演算された土壌の状態に応じて必要な土壌構成物質を抽出し、投入装置5を駆動制御するための制御情報を生成する(S6)。出力制御部34が制御情報を投入装置5に送信し、受信した制御信号に応じて投入装置5が駆動して(S7)、処理を終了する。
【0059】
このように、本実施形態に係る土壌診断システムにおいては、土壌に適する任意の成分の土壌構成物質を投入する投入装置5と、投入装置5を制御するための制御情報を生成する制御情報生成部37とを備えるため、土壌の状態に応じて必要な成分を含む物質を投入し、土壌の管理を自動化することができる。
【0060】
なお、本発明において測定装置2で検出する気体は様々なものを対象とすることが可能であり、例えば水蒸気を検出することで、土壌が含んでいる水の状態を推定することが可能である。また検出された気体が水に溶けたときに示すpHによって、当該気体が送出された土壌のpHを推定することも可能である。これ以外にも、例えば灰色低地土、黒ボク土、グライ土、褐色森林土、褐色低地土、黄色土、多湿黒ボク土、赤色土等の土壌の種類に応じて、酪酸、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、ホスフィン、インドール、スカトールなどを検出することで、各土壌に存在する土壌菌の状態を推定することが可能となる。推定された結果に応じて、微生物の数や種類を作物や環境に合った適正な状態にすることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 土壌診断システム
2 測定装置
3 演算装置
4 出力部
5 投入装置
21 臭気センサ
22 送信部
23 光センサ
30 入力情報
31 受信部
32 管理データベース
33 分布作成部
34 出力制御部
35 入力部
36 推定処理部
37 制御情報生成部
41 農業センサ
42 孔