(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】嗅覚検査キット
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
A61B10/00 X
A61B10/00 Y
(21)【出願番号】P 2020154182
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】福本 高大
(72)【発明者】
【氏名】石山 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 梓
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-099611(JP,A)
【文献】特表2016-520351(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0007927(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗅覚検査キットであって、
香料を含有する液体が収容され、当該液体を排出可能な少なくとも1つの供給器
であって、一回の操作で定量の前記液体を排出可能な操作部を有する供給器と、
前記供給器から供給された液体を収容可能な凹部を有
し、前記凹部の内壁面に、少なくとも一つの溝が形成された、少なくとも1つの収容部材と、
を備え、
前記凹部に供給された
前記定量の前記液体を被験者に嗅がせることにより、前記被験者の嗅覚機能を判定する嗅覚検査に用いられる、
嗅覚検査キット。
【請求項2】
前記凹部の開口縁部が、円形状に形成されている、
請求項
1に記載の嗅覚検査キット。
【請求項3】
前記香料の種類は、りんご、コーヒー、石鹸、ひのき、蒸れた靴下の臭い、カレー、土、木材、墨汁、みかん、歯磨き粉、排便臭、草、バニラアイス、及びバターの中から選択される、
請求項1
または2に記載の嗅覚検査キット。
【請求項4】
香料を含有する液体が収容され、当該液体を排出可能な供給器
であって、一回の操作で定量の前記液体を排出可能な操作部を有する供給器を、少なくとも1つ準備する第1ステップと、
前記供給器から供給された液体を収容可能な凹部を有する収容部材
であって、前記凹部の内壁面に、少なくとも一つの溝が形成された収容部材を、少なくとも1つ準備する第2ステップと、
前記供給器から
前記定量の前記液体を排出し、前記収容部材の凹部に前記液体を供給する第3ステップと、
前記凹部に供給された前記液体を被験者に嗅がせる第4ステップと、
前記被験者から前記液体の香りに関する回答を得る第5ステップと、
前記回答に基づいて、前記被験者の嗅覚機能を判定する第6ステップと、
を備えている、
嗅覚検査方法。
【請求項5】
前記第1ステップにおいて、異なる香料が含有された液体が収容された複数の前記供給器を準備し、
前記第2ステップにおいて、複数の前記収容部材を準備し、
前記第3ステップから前記第6ステップを繰り返し、
前記各第3ステップにおいて用いられる前記供給器の液体は、異なる香料が含有されている、請求項
4に記載の嗅覚検査方法。
【請求項6】
2回目以降の前記第4ステップが終了するたびに、当該第4ステップで使用した前記収容部材を、既に使用した前記収容部材の凹部に配置して、複数の前記収容部材を積み上げる、
請求項
5に記載の嗅覚検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚検査キット及び嗅覚検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、嗅覚検査を行うためのキットとして様々な製品が販売されているが、代表的なものに「T&Tオルファクトメーター」(非特許文献1参照、以下、単に「T&T」という)と呼ばれるものと、「OSIT-J」(特許文献1、非特許文献2参照)と呼ばれるものがある。T&Tは、多種類の液体(濃度多段階×香料多種類)入りの瓶にニオイ紙を浸けて香料を染み込ませ、当該ニオイ紙を被験者に嗅がせることにより被験者の嗅覚機能を判定するためのキットである。一方、OSIT-Jは、多数本の香りスティックを薬包紙に擦り付け、当該薬包紙を被験者に嗅がせることにより被験者の嗅覚機能を判定するためのキットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「T&Tオルファクトメータ」、[online]、第一薬品産業株式会社、[平成29年2月6日検索]、インターネット〈URL:http://www.j-ichiyaku.com/kyukaku/t-t.html〉
【文献】「においスティック(OSIT-J)」、[online]、第一薬品産業株式会社、[平成29年2月6日検索]、インターネット〈URL:http://www.j-ichiyaku.com/kyukaku/stick.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
T&Tでは、ニオイ紙に染み込ませる香料の量を制御するために、ニオイ紙の下部から1cmのところにしるしが付いている。しかしながら、液体の粘性が高いため、しるしを基準にしてニオイ紙に安定的に一定量の液体を付与することは難しい。また、検査者は瓶の中で液面としるしとを位置合わせしなければならず、両者を観察し難いため、両者の位置がずれ、ニオイ紙に付与される香料の量にバラつきが生じてしまう。特に、T&Tの瓶は、液体の劣化を防ぐべく有色であり、また瓶の側面にラベルも付与されているため、液体の量が減ってくると特に位置合わせが困難になる。
【0006】
また、OSIT-Jでは、薬包紙に香りスティックを擦り付けるに当たり、薬包紙を台紙に重ねる。台紙には、直径2cmの円の模様が付されている。そして、薬包紙は半透明であるため、検査者は薬包紙の上から透けて見える当該円を目安として、香りスティックを薬包紙に擦り付ける。しかしながら、スティックの径が太く、また比較的柔らかく脆いため、検査者によって薬包紙に付与される香料の量にバラつきが生じる。
【0007】
特に、T&T及びOSIT-Jは、香りを付与した紙を被験者に匂わせるため、試験中に他の香りが混入したり、香りの濃度が変化するおそれがあり、正確な嗅覚機能の判定が困難となる。
【0008】
本発明は、より正確な嗅覚検査を実現する、嗅覚検査キット及び嗅覚検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る嗅覚検査キットは、香料を含有する液体が収容され、当該液体を排出可能な少なくとも1つの供給器と、前記供給器から供給された液体を塗布可能な凹部を有する少なくとも1つの収容部材と、を備え、前記凹部に供給された前記液体を被験者に嗅がせることにより、前記被験者の嗅覚機能を判定する嗅覚検査に用いられる。
【0010】
上記嗅覚検査キットの前記収容部材においては、前記凹部の内壁面に、少なくとも一つの溝を形成することができる。
【0011】
上記嗅覚検査キットの前記収容部材においては、前記凹部の開口縁部を、円形状に形成することができる。
【0012】
上記嗅覚検査キットにおいて、前記香料の種類は、りんご、コーヒー、石鹸、ひのき、蒸れた靴下の臭い、カレー、土、木材、墨汁、みかん、歯磨き粉、排便臭、草、バニラアイス、及びバターの中から選択することができる。
【0013】
上記嗅覚検査キットにおいて、前記供給器は、一回の操作で定量の前記液体を排出可能な操作部を有することができる。
【0014】
本発明に係る嗅覚検査方法は、香料を含有する液体が収容され、当該液体を排出可能な供給器を、少なくとも1つ準備する第1ステップと、前記供給器から供給された液体を収容可能な凹部を有する収容部材を、少なくとも1つ準備する第2ステップと、前記供給器から前記液体を排出し、前記収容部材の凹部に前記液体を収容する第3ステップと、前記凹部に供給された前記液体を被験者に嗅がせる第4ステップと、前記被験者から前記液体の香りに関する回答を得る第5ステップと、前記回答に基づいて、前記被験者の嗅覚機能を判定する第6ステップと、を備えている。
【0015】
なお、第2ステップを第1ステップに先立って行ってもよいし、第1及び第2ステップを同時に行ってもよい。
【0016】
上記嗅覚検査方法では、前記第1ステップにおいて、異なる香料が含有された液体が収容された複数の前記供給器を準備し、前記第2ステップにおいて、複数の前記収容部材を準備し、前記第3ステップから前記第6ステップを繰り返し、前記各第3ステップにおいて用いられる前記供給器の液体は、異なる香料を含有することができる。
【0017】
上記嗅覚検査方法では、2回目以降の前記第4ステップが終了するたびに、当該第4ステップで使用した前記収容部材を、既に使用した前記収容部材の凹部に配置して、複数の前記収容部材を積み上げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る嗅覚検査キット及び嗅覚検査方法によれば、より正確な嗅覚検査を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る嗅覚検査キットの概略図である。
【
図2】
図1の嗅覚検査キットに含まれる塗布器の側面図である。
【
図3】
図1の嗅覚検査キットに含まれる収容部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る嗅覚検査キット、及び嗅覚検査方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<1.嗅覚検査キットの全体構成>
図1は本実施形態に係る嗅覚検査キットの概略構成図である。
図1に示すように、この嗅覚検査キットは、香料を含有する検査用の液体(検査液体という)が収容され、この検査液体を噴霧可能な複数の塗布器(供給器)1と、各塗布器1から噴霧された検査液体を収容可能な複数の収容部材2と、検査の説明が記載された取扱説明書3と、を備えている。そして、これら塗布器1、収容部材2、及び取扱説明書3は、ケース4に収容されている。以下、これらについて詳細に説明する。
【0022】
<1-1.塗布器>
図2は塗布器の側面図である。
図2に示すように、各塗布器1は、上部が開口する円筒状の容器11と、この容器11の上部開口を着脱可能に閉じる蓋部12と、を備えている。容器11には検査液体が収容され、この検査液体が、蓋部12の側面に設けられたノズル121から噴霧されるようになっている。また、蓋部12には、容器11の内部空間へと延びるチューブ122が取り付けられ、蓋部12の上端部に設けられたボタン(操作部)123を押し込むことで、容器11内の検査液体がチューブ122を介して吸引され、ノズル121から規定量が噴霧されるようになっている。このように、本実施形態に係る塗布器1は、公知のスプレー型の噴霧器で構成することができる。また、塗布器1に収容できる検査液体の体積は、特には限定されないが、例えば、3~50mlとすることができる。これは、検査液体の収容量が小さいと、複数の被験者に連続して使用することができないおそれがあり、収容量が大きすぎると、使い切る前に香料が変質するおそれがあることによる。一例として、検査溶液が20ml程度収容できることが好ましい。また、ボタン123を1回押したときの検査液体の噴霧量は、例えば、0.05~0.5mlとすることができ、0.1~0.15mlであることが好ましい。
【0023】
検査液体は、少なくとも香料を含む液体であれば、種々の組成にすることができるが、例えば、活性剤、香料、及び水を含有したものとすることができる。活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、非イオン界面活性剤(ポリオキシアルキレン付加物)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジ2エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、プロピレングリコール等を採用することができる。検査液体における活性剤の配合量は、特には限定されないが、例えば、0.01~20重量%とすることができ、1.0~10重量%程度であることが好ましい。
【0024】
複数の塗布器1に収容される検査液体の香料の種類は相違している。香料の種類は特に限定されないが、好ましい例としては、りんご、コーヒー、石鹸、ひのき、蒸れた靴下の臭い(イソ吉草酸)、カレー、土、木材、墨汁、みかん、歯磨き粉、排便臭、草、バニラアイス、及びバター等が挙げられる。これらの香りは、一般的に多くの人が嗅いだことのある香りであり、何の香りであるかを認識し易いため、嗅覚検査に適していると言える。すなわち、たとえ被験者が香りを知覚できていたとしても、何の香りかを上手く言い表せないような香りは、嗅覚機能とは別の要因により正解/不正解が分かれてしまうため、嗅覚検査に必ずしも適さない。このような観点からすると、上記14種類の例のうち、例えば、りんご、コーヒー、石鹸、ひのき、及び足の5種類の臭いを嗅覚検査に用いることができる。したがって、これらの5種類の香料のうちの1つ又は2つ以上の香料をそれぞれ収容した2本以上の塗布器1を、嗅覚検査キットに含ませることができる。本実施形態では、上記5種類の香料が各塗布器1にそれぞれ収容されており、これら5種類の香りを用いて嗅覚検査を行うことで、嗅覚機能を簡易かつ正確に診断することができる。
【0025】
検査液体における香料の配合量は、特には限定されないが、例えば、0.001~15重量%とすることができ、0.01~5.0重量%程度であることが好ましい。
【0026】
<1-2.収容部材>
図3は収容部材の斜視図である。
図3に示すように、各収容部材2は、紙で形成され、上部に開口が形成されたカップ状の部材である。より詳細に説明すると、各収容部材2は、全体として有底の円筒状に形成されており、上部開口21の外径が下部の底壁22の外径よりも大きくなっている。各収容部材2は、同形状であるため、
図4に示すように、一の収容部材2の内部空間に、その上部開口から、他の収容部材2を収容することができる。すなわち、一の収容部材2の内部空間を他の収容部材2で塞ぐように、複数の収容部材2を積み上げることができる。
【0027】
収容部材2の内部空間の容積は、特には限定されないが、例えば、30~300mlとすることができる。一例として、95ml程度の容積にすることができる。また、収容部材2の大きさも特には限定されないが、上部開口21の内径、高さ、及び底壁22の内径は、例えば、それぞれ、3~10cm、3~10cm、2~9cmとすることができる。一例としては、上部開口21の内径、高さ、及び底壁22の内径が、それぞれ、5.5cm,6.3cm,3.7cmの収容部材2を用いることができる。
【0028】
<1-3.取扱説明書>
取扱説明書3は、嗅覚検査を実施するためのマニュアル(指示書)であり、塗布器1及び収容部材2の使用方法を含め、次に説明する嗅覚検査の手順等が詳細に記載されている。
【0029】
<2.嗅覚検査方法>
次に、嗅覚検査キットを用いた嗅覚検査方法について、
図5及び
図6を参照しつつ説明する。この嗅覚検査方法では、試験を行う検査者と、試験を受ける被験者との組み合わせで行われる。まず、検査者は、ケース4から取扱説明書3を取り出し、これにしたがって、嗅覚検査を実施する。
【0030】
検査者は、取扱説明書3を読み、嗅覚検査の流れを理解した後、複数の塗布器1の中から1本の塗布器1を選択し、ケース4から取り出す。取り出す順番はランダムであってもよいし、予め決められていてもよい。また、ケース4から収容部材2を取り出し、
図5に示すように、そのうち1つの内部空間に選択した塗布器1からボタン123を2回押して検査液体を噴霧する。これにより、検査液体が収容部材2の内壁面に塗布される。なお、ボタン123を押す回数は、特には限定されないが、ばらつきを考慮して複数回押すことが好ましい。また、定量の検査液体を噴霧すること、及び検査液体の残量が少なくなったときの噴霧量の変化を避けるため、
図5に示すように、塗布器1が垂直に延びるように支持した上で、検査液体を噴霧することが好ましい。このとき、収容部材2は上部開口21が水平方向を向くように支持する。
【0031】
これに続いて、
図6に示すように、検査液体を噴霧したときと同じ向きで収容部材2を支持した状態で、被験者は、収容部材2の上部開口21に鼻を近づけ、香りを嗅ぐ。このとき、被験者は、収容部材2の上部開口21に鼻を接してもよいし、上部開口21の内部に鼻を入れてもよい。そして、検査者は、香りがするか否か、さらに香りがする場合には何の香りであるかを被験者に回答させる。回答は自由形式であってもよいし、回答の選択肢を提示し、そこから選択させる選択形式であってもよい。選択形式の1つの好ましい例としては、回答の選択肢として、正解と、正確とは異なる1又は複数の(例えば、3つの)ダミー回答と、「この中にない」と、「分からない(ニオイがしない)」とを用意することができる。リンゴの香りのダミー回答としては、土、ひのき、にんにく等を設定することができる。このように、ダミー回答以外にも、「この中にない」及び「分からない(ニオイがしない)」といった選択肢を与えることにより、被験者が適当に回答する可能性をできる限り排除することができる。
【0032】
この検査において正解の回答が得られなかった場合には、香りの種類を変えずに、検査液体の量を増やして再度検査を行う。すなわち、異なる収容部材2に、同じ香料が収容された塗布器1から4回ボタン123を押して検査液体を収容部材2に塗布する。すなわち、香料の量が2倍になった検査液体を用いて検査を行う。そして、この収容部材2の香りを上記と同様に被験者に嗅がせ、同様の選択肢を与えて、回答を得る。なお、1回の検査が終了後、次の検査を行う場合には、
図4に示すように、既に使用した収容部材2の上部開口から、検査終了直後の収容部材2を入れ、複数の収容部材2を積み上げる。
【0033】
以上の検査を、同じ香りに対して正解の回答が得られるまで、或いは最終段階の検査(あらかじめ定められている最大量の検査液体での検査)が終わるまで、検査液体の塗布量を増やしながら繰り返す。1つの香りに対する検査が終わると、次の香りに対する検査を行う。すなわち、検査者は、検査が終了していない塗布器1の中から他の塗布器1を新たに選択し、同様の検査を行う。
【0034】
複数の塗布器1に対する検査の終了後、検査者は、得られた回答に基づいて被験者の嗅覚機能を判定する。本実施形態では、各塗布器1の香りに対する検知閾値(香りがすることが分かるようになった段階)と、認知閾値(何の香りが正しく分かるようになった段階)とを判定し、これらから嗅覚機能を診断する。具体的には、例えば、各香りに対し、検知閾値及び認知閾値毎に各段階のスコアが設定されており、被験者の全ての香りに関する検知閾値及び認知閾値に対応するスコアの合計値に応じて、嗅覚機能のレベルを判定する。
【0035】
ところで、認知症の初期症状には、嗅覚の衰えがある。従って、以上の嗅覚検査は、これに限定されないが、認知機能を判定する認知症の診断に用いることができる。特に、認知症の進行を判断するために、次のような検査を行うことができる。例えば、各香料について、弱い香りと強い香りの2種類を準備する。健常者であれば弱い香りで検知及び認知がともに可能であるが、認知症が進行すると、弱い香りでは検知はできても認知はできなることがある。認知症が進行すると、強い香りでないと検知もできなくなり、さらに進行すると強い香りでも検知すらできなくなる可能性がある。このように、1つの香料について強弱2種類の香りを準備することで、認知症の進行の判断に用いることができる。
【0036】
なお、以上の検査方法は、一例であり、上述した検査キットを用いて種々の嗅覚検査が可能である。
【0037】
<3.特徴>
以上のように構成された嗅覚検査キットによれば、以下の効果を得ることができる。
(1)上部が開口する内部空間(凹部)を有する収容部材2に検査液体を塗布し、これに鼻を近づけて香りを嗅ぐため、香りが収容部材2の外部に揮散する前に、収容部材2内に充満した香りを嗅ぐことができる。したがって、試験対象の香りに他の香りが混ざったり、試験中に香りの濃度が大きく変化するのを抑制することができる。その結果、検査精度の低下を抑制することができる。
【0038】
(2)試験終了後の収容部材2は、積み上げられるため、収容部材2の内部空間が他の収容部材2によって塞がれる。そのため、試験終了後の収容部材2から香りが揮散するのを抑制することができ、その後の試験の香りに影響を及ぼすのを抑制することができる。また、収容部材2が紙で形成されているため、所定時間経過すると、収容部材2に検査液体が吸収されるため、これによっても、香りが収容部材2の外部に揮散するのを抑制することができる。
【0039】
(3)収容部材2の上部開口21の縁部が円形に形成されているため、上部開口21の強度を高め、変形を抑制することができる。しだかって、例えば、塗布器1を収容部材2に押し当てても、変形が抑制され、また、これによって、塗布角度を調整しやすくすることができる。
【0040】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は適宜組み合わせることができる。
【0041】
<4-1>
上記実施形態では、検査液体を収容部材2に供給するための供給器として、検査液体を噴霧する塗布器1を用いたが、収容部材2に検査液体を供給できるのであれば、その構成は特には限定されない。例えば、検査液体が噴霧されなくてもよく、検査液体が収容部材2に滴下されるように供給されてもよい。すなわち、検査液体の供給の態様は適宜変更可能である。但し、検査液体の供給量を把握できるように、例えば、上記実施形態の塗布器1のように、1回の操作での供給量が規定されている供給器を用いることが好ましい。
【0042】
<4-2>
収容部材2は、紙以外で形成されていてもよく、例えば、プラスチックなどの樹脂材料、ガラス、陶器、金属など種々の材料で形成することができる。また、収容部材2の形状は、特には限定されず、少なくとも検査液体が供給される開口と、この開口につながり、検査液体を収容する凹部が形成されていればよい。したがって開口の位置も上部でなくてもよく、側面であってもよい。なお、紙などの検査液体を吸収する材料で収容部材2を形成する場合には、検査液体が吸収しないように、収容部材2の表面にパラフィンやポリエチレン等の撥水塗装を行うことができる。収容部材2に撥水塗装が施されており、かつ、検査液体に油性成分が含まれる場合には、収容部材2への馴染みが良くなり広がることで、こぼれにくくなる効果がある。
【0043】
また、
図7に示すように、収容部材2の凹部の内壁面に、少なくとも1つの溝25を形成することができる。溝25は、
図7に示すように、深さ方向に延びるように形成できるが、溝の延びる方向は特には限定されず、種々の方向に延ばすことができる。また、溝25を設ける周方向の位置及び上下方向の位置、溝25の断面形状(三角形状、矩形状、半円状等)、溝25の向き、及び溝25の数も特には限定されない。こうすることで、検査液体が溝25に溜まると、香料を持続的に揮散することができる。また、検査液体の供給量が少なかったり、定量を噴霧できない場合でも、検査液体を溝25に保持できるため、被験者が臭いを確実に嗅ぐことができる。特に、溝25が上部開口21に近い位置に形成されていれば、鼻に近い位置で臭いを嗅がせることができる。また、溝25を設けることで、溝25の周囲に付着した検査液体を毛細管現象により溝25に引き込むことができる。さらに、例えば、溝25が底壁22と上部開口21との間で延びるように形成されていれば、底壁22付近に溜まった検査液体を上部開口21付近まで引き上げることができる。なお、溝25の代わりに、収容部材2の内壁面に段差を形成しても、溝25と同等の効果を得ることができる。段差の形成方法は特には限定されないが、例えば、厚みのある部材を貼り合わせて収容部材2を形成するときに、その継ぎ目を段差とすることができる。
【0044】
<4-3>
上記実施形態では、検査キットに複数の塗布器1と複数の収容部材2が含まれているが、塗布器1及び収容部材2の数は特には限定されず、その検査の目的に合わせて適宜変更することができる。例えば、1種類の香料の検査を行う場合には、1つの塗布器1と、1以上の収容部材2で検査キットを構成することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 塗布器
2 収容部材
25 溝