(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】粒度分布推定装置、粒度分布推定方法、および学習装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/0227 20240101AFI20241023BHJP
【FI】
G01N15/0227 110
(21)【出願番号】P 2020155238
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横谷 建一郎
(72)【発明者】
【氏名】細田 敦
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010952(JP,A)
【文献】特開平7-128214(JP,A)
【文献】特開2021-117625(JP,A)
【文献】特開2023-073028(JP,A)
【文献】特開2023-055258(JP,A)
【文献】特許第6738079(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/0227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の骨材からなる材料の粒度分布を推定するための粒度分布推定装置であって、
材料を前方に向けて搬送する搬送部の前方端部から自由落下して拡散状態となった材料を、
回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように連続的に撮影する撮影手段と、
回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、材料の粒度区分ごとの面積頻度を表わす粒度分布情報を出力とするよう
に、粒度分布が既知のサンプル材料を回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように連続撮影した複数のサンプル画像データを含む、教師データを機械学習させた学習モデルを記憶する記憶手段と、
前記撮影手段により連続撮影された複数の画像データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得した前記複数の画像データを前記学習モデルに入力することによって、測定対象の材料の粒度分布として、粒度区分ごとの面積頻度を推定する推定手段とを備える、粒度分布推定装置。
【請求項2】
前記学習モデルは、画像処理によって画像データごとに各骨材の領域を抽出し、抽出した各骨材の領域の面積を算出し、粒度区分ごとに面積頻度を算出するように、生成されている、請求項1に記載の粒度分布推定装置。
【請求項3】
前記学習モデルは、画像処理によって画像データごとに各骨材の領域を抽出し、抽出した各骨材の領域の最小外接正方形の一辺の長さに応じて、粒度区分を判定するように、生成されている、請求項1または2に記載の粒度分布推定装置。
【請求項4】
前記撮影手段は、自由落下する材料を斜め上方から撮影する、請求項1に記載の粒度分布推定装置。
【請求項5】
多数の骨材からなる材料の粒度分布を推定するための粒度分布推定方法であって、
材料を前方に向けて搬送する搬送部の前方端部から自由落下して拡散状態となった材料を、
回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように連続的に撮影するステップと、
連続撮影された複数の画像データを取得するステップと、
回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、材料の粒度区分ごとの面積頻度を表わす粒度分布情報を出力とするよう
に、粒度分布が既知のサンプル材料を回転しながら自由落下する各骨材が複数回撮影されるように連続撮影した複数のサンプル画像データを含む、教師データを機械学習させた学習モデルに、取得した前記複数の画像データを入力することによって、測定対象の材料の粒度分布として、粒度区分ごとの面積頻度を推定するステップとを備える、粒度分布推定方法。
【請求項6】
自由落下するサンプル材料を連続撮影した複数のサンプル画像データと前記サンプル材料の粒度分布情報とを含む、少なくとも1つの教師データを記憶する教師データ記憶手段と、
前記教師データ記憶手段に記憶された前記教師データを用いて、材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、当該材料の粒度分布情報を出力とする学習モデルを生成する生成手段とを備え、
前記生成手段は、ディープラーニングによる画像処理を行って、前記画像データごとに各骨材の領域を抽出する抽出手段と、前記抽出手段による抽出結果に基づいて、各骨材の面積を算出する算出手段と、前記抽出手段により抽出された領域の最小外接正方形の一辺の長さに応じて、各骨材の粒度区分を判定する判定手段とを含み、
前記生成手段は、前記算出手段により算出された面積および前記判定手段により判定された粒度区分を含む特徴量を、各骨材のパラメータとしてラベル付けして、各粒度区分の面積頻度を機械学習する、学習装置。
【請求項7】
自由落下するサンプル材料を連続撮影した複数のサンプル画像データと前記サンプル材料の粒度分布情報とを含む、少なくとも1つの教師データを記憶する教師データ記憶手段と、
前記教師データ記憶手段に記憶された前記教師データを用いて、材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、当該材料の粒度分布情報を出力とする学習モデルを生成する生成手段とを備え、
前記教師データに含まれる前記サンプル画像データ、および、前記学習モデルに入力される前記画像データは、自由落下する材料を斜め上方から撮影したデータである、学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の骨材からなる材料の粒度分布を推定するための粒度分布推定装置に関し、特に、学習モデルを用いて材料の粒度分布を推定する粒度分布推定装置、ならびに、学習モデルを生成するための学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
破砕機により破砕された骨材の品質を管理するための指標として、骨材の粒度分布が用いられる。従来は、コンベア等で間欠的にサンプリングを行い、手篩で骨材の粒度分布を測定していた。
【0003】
一方で、特開2015-010952号公報(特許文献1)、および、“デジタル画像処理による連続粒度解析システムの開発”,大成建設,ダム工学24(2),84-93,2014(非特許文献1)に開示されているように、骨材の撮影画像から骨材の粒度分布を算出する技術も提案されている。
【0004】
また、“VisioRock, an integrated vision technology for advanced control of aggregate circuits”, Metso Minerals, Minerals Engineering Volume 17, Issues 11-12, November-December 2004, Pages 1227-1235(非特許文献2)では、多数のカメラでコンベア上の骨材を撮影して粒子サイズを測定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“デジタル画像処理による連続粒度解析システムの開発”,大成建設,ダム工学24(2),84-93,2014
【文献】“VisioRock, an integrated vision technology for advanced control of aggregate circuits”, Metso Minerals, Minerals Engineering Volume 17, Issues 11-12, November-December 2004, Pages 1227-1235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2のように、骨材をコンベア上で撮影する方式は、骨材の重なりが発生しやすくなるため、骨材の領域を精度良く抽出することが困難である。
【0008】
特許文献1および非特許文献1では、骨材同士の重なりをなくすために、材料を、傾斜板の表面上を流下させた後、流下方向変換部で鉛直方向に落下させ、鉛直方向に落下する材料を撮影している。また、撮影画像を二値化処理して骨材の粒径を求めて、粒径区分ごとの合計面積と予め求めた重量換算係数とに基づいて粒度分布を算出している。そのため、より簡易に骨材の粒度分布を測定できる技術が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、簡易に骨材の粒度分布を測定(推定)することのできる粒度分布推定装置を提供することである。
【0010】
また、このような粒度分布推定装置において用いられる学習モデルを生成する学習装置、ならびに学習済みモデルを提供することも、本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のある局面に従う学習装置は、自由落下するサンプル材料を連続撮影した複数のサンプル画像データとサンプル材料の粒度分布情報とを含む、少なくとも1つの教師データを記憶する教師データ記憶手段と、教師データ記憶手段に記憶された教師データを用いて、材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、当該材料の粒度分布情報を出力とする学習モデルを生成する生成手段とを備える。
【0012】
好ましくは、生成手段は、ディープラーニングによる画像処理を行って、画像データごとに各骨材の領域を抽出する抽出手段と、抽出手段による抽出結果に基づいて、各骨材の面積を算出する算出手段と、抽出手段による抽出結果に基づいて、各骨材の粒度区分を判定する判定手段とを含む。生成手段は、算出手段により算出された面積および判定手段により判定された粒度区分を含む特徴量を、各骨材のパラメータとしてラベル付けして、各粒度区分の面積頻度を機械学習する。
【0013】
判定手段は、抽出手段により抽出された領域の最小外接正方形の一辺の長さに応じて、粒度区分を判定することが望ましい。
【0014】
好ましくは、生成手段は、各画像データと事前に撮影した背景画像データとの差分の合計値を総面積として、粒度区分ごとの面積頻度を算出する頻度算出手段をさらに含む。
【0015】
ある実施の形態において、教師データに含まれるサンプル画像データ、および、学習モデルに入力される画像データは、自由落下する材料を斜め上方から撮影したデータである。
【0016】
この発明の他の局面に従う学習済みモデルは、自由落下する材料を連続撮影した複数の画像データが入力される入力層と、材料の粒度分布情報を出力する出力層と、粒度分布が既知のサンプル材料を連続撮影したサンプル画像データを入力、サンプル材料の粒度分布情報を出力とする教師データを用いてパラメータが学習された中間層とを備える。この学習済みモデルは、測定対象の材料を連続撮影した複数の画像データを取得し、取得した複数の画像データを入力層に入力し、中間層にて演算し、測定対象の材料の粒度分布情報を出力層から出力するよう、コンピュータを機能させる。
【0017】
この発明のさらに他の局面に従う粒度分布推定装置は、材料の粒度分布を推定するための粒度分布推定装置であって、自由落下する測定対象の材料を連続的に撮影する撮影手段と、撮影手段により連続撮影された複数の画像データを取得する取得手段と、取得手段により取得した複数の画像データを、材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、粒度分布情報を出力とするよう機械学習させた学習モデルに入力することによって、測定対象の材料の粒度分布を推定する推定手段とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の学習モデルを用いることにより、簡易かつリアルタイムで骨材の粒度分布を測定(推定)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る粒度分布推定システムの概要を示す図である。
【
図2】(A)は、本発明の実施の形態に係る学習装置の機能構成を示す機能ブロック図であり、(B)は、本発明の実施の形態に係る粒度分布推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】(A),(B)は、本発明の実施の形態における学習モデルの生成方法を示すフローチャートである。
【
図4】(A),(B)は、本発明の実施の形態における粒度区分の判定方法を模式的に示す図である。
【
図5】(A)は、各骨材に対して抽出される特徴量を模式的に示す図であり、(B)は、粒度区分ごとに面積および面積頻度を対応付けたデータテーブルを概念的に示す図である。
【
図6】(A)は、各粒度区分の面積頻度から生成される粒度分布曲線の一例を示すグラフであり、(B)は、ニューラルネットワークの構成例を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における粒度分布推定方法を示すフローチャートである。
【
図8】(A)~(C)は、本発明の実施の形態における撮影機構の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
(概要について)
はじめに、
図1を参照して、本実施の形態における粒度分布推定システム1の概要について説明する。
【0022】
粒度分布推定システム1は、多数の骨材からなる材料9(またはサンプル材料9A)を流下させて撮影するための撮影機構2を備えている。撮影機構2は、材料9を前方に向けて搬送し、前方端部から材料9を自由落下させる搬送部21と、材料9の流下路の背面側に設けられたスクリーン22と、スクリーン22を正面から照らす照明部23と、スクリーン22に対面して配置され、流下路を流下する材料9を撮影するカメラ(撮影手段)24とを含む。材料9は、搬送部21以外の落下手段から自由落下させてもよい。他の落下手段としては、破砕機、分級装置(篩分け機)などが想定される。
【0023】
カメラ24は、搬送部21などの落下手段から自由落下する材料9、すなわち自由落下する骨材群を、連続撮影する。粒度分布推定システム1は、カメラ24により撮影された骨材群の画像データを画像処理することにより、粒度分布を推定する。なお、カメラ24により撮影される画像は白黒画像であってよい。また、カメラ24は、防塵仕様であることが望ましい。
【0024】
ここで、本実施の形態に係る粒度分布推定システム1は、ディープラーニングによる画像処理技術を用いて骨材の特徴量を自動的に抽出し、粒度分布を出力するように構成されている。そのため、粒度分布推定システム1は、学習フェーズにおいて、粒度分布が既知のサンプル材料9Aを連続撮影した複数のサンプル画像データを含む教師データを取得し、取得した教師データを機械学習して、粒度分布情報を出力とする学習モデルM1を構築する。
【0025】
学習モデルM1が構築されると、構築後の学習モデル(学習済みモデル)M2が、推論フェーズにおいて用いられる。すなわち、測定対象の材料9を連続撮影した複数の画像データを取得し、取得した複数の画像データを学習モデルM2に入力して、粒度分布情報を出力する。このように、推論フェーズにおいて、学習モデルM2を用いることにより、簡易かつリアルタイムで材料9の粒度分布を測定(推定)することができる。
【0026】
粒度分布は、篩分け試験で使用される篩の目開き(平編の篩の各開口辺)を粒度区分とし、それぞれの粒度区分を通過する骨材の割合を、累積通過割合として表わしたものである。粒度区分は5mm単位で定められており、本実施の形態では、各骨材が、たとえば、0~5mm、5~10mm、10~15mm、15~20mm、20~25mmの5つの区分のいずれか1つに分類される。
【0027】
学習フェーズにおける各種処理は、学習装置により実行され、推論フェーズにおける各種処理は、粒度分布推定装置(以下「推定装置」と略す)により実行される。学習フェーズにおいて、学習装置および撮影機構2は学習システムを構成する。学習装置および推定装置は、CPUなどのプロセッサおよび不揮発性のメモリを備えたコンピュータ(情報処理端末)により実現可能である。学習装置および推定装置は、共通のコンピュータにより実現されてもよい。
【0028】
(学習装置の機能構成)
図2(A)は、学習装置3の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0029】
学習装置3は、カメラ24からの複数の画像データ、すなわち、上述の搬送部21などの落下手段から自由落下するサンプル材料9Aを連続撮影した複数のサンプル画像データを入力(取得)する入力部31と、取得した複数のサンプル画像データを含む教師データを記憶する教師データ記憶部32と、教師データ記憶部32に記憶された教師データを用いて学習モデルM1を生成するモデル生成部33と、学習モデルM1を記憶するモデル記憶部34とを含む。また、学習装置3は、学習モデルM1を評価する評価部35を含む。
【0030】
教師データ記憶部32には、サンプル材料9Aごとに、複数のサンプル画像データと単一の粒度分布情報とを含む教師データTDが記憶されている。このような教師データTDが、複数セット(TD1,TD2,・・・,TDk,・・・,TDn)記憶されている。なお、サンプル材料9Aの粒度分布情報は、コンピュータが備える操作部など(図示せず)を介して入力される。また、教師データ記憶部32には、少なくとも1つの教師データTDが記憶されていればよい。
【0031】
モデル生成部33は、教師データ記憶部32に記憶された少なくとも1つの教師データTDを機械学習して、学習モデルM1を生成・更新する。学習モデルM1は、材料を連続撮影した複数の画像データを入力とし、当該材料の粒度分布情報を出力とする、粒度分布の予測モデルである。モデル生成部33は、少なくとも1つの教師データTDをディープラーニングすることによって学習モデルM1を生成する。
【0032】
モデル生成部33は、ディープラーニングによる画像処理を行って、画像データごとに各骨材の領域を抽出し、その抽出結果に基づいて、各骨材の面積を算出するとともに、各骨材の粒度区分を判定する。このように、モデル生成部33は、各骨材の領域を抽出する抽出手段、各骨材の面積を算出する算出手段、および、各骨材の粒度区分を判定する判定手段として機能する。
【0033】
モデル生成部33は、面積および粒度区分を含む特徴量を、各骨材のパラメータとしてラベル付けして、各粒度区分の面積頻度を機械学習する。モデル生成部33は、粒度区分ごとの面積頻度を算出する頻度算出手段としても機能する。モデル生成部33により実行される具体的な処理については後述する。
【0034】
評価部35は、モデル生成部33により生成された学習モデルM1の精度を評価する。評価部35による評価結果はモデル生成部33にフィードバックされ、モデル生成部33において、予測値と実測値との誤差(損失)を無くすように、学習モデルM1を適宜修正する。
【0035】
なお、モデル生成部33および評価部35の機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することにより実現される。教師データ記憶部32およびモデル記憶部34は、不揮発性のメモリにより構成される。入力部31は、カメラ24からの画像データを有線または無線により入力するインターフェイスである。
【0036】
(推定装置の機能構成)
図2(B)は、推定装置4の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0037】
推定装置4は、カメラ24からの複数の画像データ、すなわち、上述の搬送部21から自由落下する材料9を連続撮影した複数の画像データを入力(取得)する入力部41と、取得した複数の画像データを記憶する画像記憶部42と、学習装置3において構築された学習モデルM2を記憶するモデル記憶部44と、画像記憶部42に記憶された複数の画像データを、学習モデルM2を用いて画像処理することによって、材料9の粒度分布を推定する推定部43と、推定部43による推定結果を出力する出力部45とを含む。
【0038】
本実施の形態において、推定部43は、測定対象の材料9を連続撮影した複数の画像データを学習モデルM2に入力することによって、材料9の粒度分布を推定する。つまり、学習モデルM2から出力される粒度分布情報を、推定結果として判定する。
【0039】
なお、推定部43の機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することにより実現される。モデル記憶部44は、不揮発性のメモリにより構成され、画像記憶部42は、揮発性または不揮発性のメモリにより構成される。入力部41は、カメラ24からの画像データを有線または無線により入力するインターフェイスである。出力部45は、たとえばディスプレイにより構成されてもよいし、他のコンピュータとの間でデータを送受信する通信インターフェイスにより構成されてもよい。あるいは、着脱可能な記録媒体から画像データを書き込む書き込み装置などにより構成されてもよい。
【0040】
(学習方法について)
図3のフローチャートを参照して、学習装置3が実行する学習方法、すなわち学習モデルM1の生成方法について説明する。
図3(A)は、学習処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【0041】
図3(A)を参照して、はじめに、粒度分布が既知のサンプル材料9Aを搬送部21に流し、サンプル材料9Aを自由流下させる(ステップS1)。その状態で、カメラ24がサンプル材料9Aを連続撮影する(ステップS3)。これにより、入力部31に複数の画像データ(サンプル画像データ)が時系列に入力される。
【0042】
搬送部21によるサンプル材料9Aの搬送速度は、一般的な材料搬送用コンベアの搬送速度と同等であってよく、たとえば1m/s前後である。搬送部21の前方端部から自由落下するときのサンプル材料9Aの落下速度は、加速度的に上昇する。カメラ24の設置高さを基準とした搬送部21の設置高さが1m程度であれば、カメラ24の前方空間(流下路)を流下するサンプル材料9Aの落下速度は4.4m/s程度となる。落下速度が4.4m/sまで上昇すると、それまで1m/sで流れていた密な骨材群が拡散するため、骨材同士の重なりが解消または低減される。そのため、本実施の形態によれば、カメラ24によって、拡散した状態の骨材群を撮影することができる。カメラ24は、各骨材が複数回撮影されるように、落下するサンプル材料9Aを連写する。
【0043】
入力部31に入力された複数(多数)の画像データは、サンプル材料9Aの粒度分布情報と対応付けて、教師データTDとして教師データ記憶部32に時系列に格納される。各教師データTDは、サンプル材料9Aの識別データを見出しとして記憶される。なお、教師データTDは、測定対象の材料9を製造するクライアント(破砕機を扱うメーカー)の識別情報(または破砕機の識別情報)に対応付けられてもよい。
【0044】
サンプル材料9Aについての画像データとサンプル材料9Aの粒度分布情報とを含む教師データTDを取得すると、モデル生成部33は、画像データの画像処理を実行する(ステップS5)。画像処理については、
図3(B)にサブルーチンを挙げて説明する。なお、モデル生成部33が実行する処理は、学習装置3のプロセッサが、予め不揮発性のメモリに記憶された学習用のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0045】
図3(B)を参照して、モデル生成部33は、画像データごとに、各骨材の領域を抽出する(ステップS21)。本実施の形態では、インスタンスセグメンテーションを用いた画像処理によって各骨材の形状を判別し、判別した形状に応じて各骨材の領域を抽出する。インスタンスセグメンテーションは、ディープラーニングによる画像処理技術の一種であり、物体ごとに位置を検出し、かつ物体を構成している画素(pixel)を分類する技術である。
【0046】
画像処理においてインスタンスセグメンテーションを利用することにより、各骨材を区別しつつ形状情報を出力できる。また、同じクラスに属する物体同士であってもそれぞれを別物体として分類できるため、骨材同士が重なっている領域の境界を求めることができる。なお、本実施の形態ではインスタンスセグメンテーションを利用することとするが、骨材1つ1つを検出できる技術であれば、他種の画像処理技術を用いてもよい。
【0047】
次に、モデル生成部33は、ステップS21での抽出結果に基づいて、各骨材の粒度区分を判定する(ステップS23)。本実施の形態では、各骨材の最小外接正方形を篩目とみなし、正方形の一辺の長さに応じて、粒度区分を判定する。そのため、モデル生成部33は、
図4(A)に示されるように、骨材領域(ステップS21で抽出された領域)91の最小外接正方形R1を抽出(算出)し、最小外接正方形R1の一辺の長さL1が、どの粒度区分に分類されるかを判定する。なお、モデル生成部33は、骨材領域91を回転させながら、骨材領域91に接する正方形の一辺が最も小さくなる正方形を算出し、これを最小外接正方形R1として抽出する。
【0048】
ここで、
図4(B)に示されるように、粒度区分を、実際の骨材領域91の面積から算出される正円の直径(たとえば21.44φ)により判定する場合、この骨材は20~25mmの粒度区分に分類される。しかし、図示されるように、骨材領域91の形状が長細い形状である場合、実際には25mm以下の篩目を通過しない可能性がある。この場合、この骨材は、正しくは、25mm~30mmの粒度区分に分類される。
【0049】
このような誤判定を避けるために、本実施の形態では、骨材領域91の最小外接正方形R1の一辺の長さL1に応じて、粒度区分を判定するようにしている。これにより、骨材領域91として抽出された骨材を、正しい粒度区分(25mm~30mm)に分類することができる。
【0050】
続いて、モデル生成部33は、各骨材の面積を算出し(ステップS25)、粒度区分ごとに面積を積算する(ステップS27)。ステップS25では、ステップS21での骨材領域の抽出結果に基づいて、各骨材の投影面積を演算する。つまり、
図4(A)に示した例では、骨材領域91の面積を演算する。
【0051】
なお、面積の算出方法は、このような例に限定されず、たとえば、
図4(A)に破線で示すように、骨材領域91の最小外接矩形(各辺が骨材領域91に接する長方形または正方形)R2の面積を、骨材の面積とみなしてもよい。この場合の面積は、最小外接矩形R2の長辺L2と短辺L3とを乗算した値である。
【0052】
図5(A)には、上記処理を経て算出した面積および粒度区分を含む特徴量を、各骨材のパラメータとしてラベル付けされた状態が、概念的に示されている。
【0053】
全画像データの画像処理が完了し、各粒度区分の面積積算値が得られると、
図3(A)に示されるように、サンプルの粒度分布を算出する(ステップS7)。具体的には、まず、モデル生成部33は、粒度区分ごとに、検出された骨材の面積の合算値、すなわち総面積(mm
2)を算出し、その結果に応じて、粒度区分ごとの面積頻度(%)を算出する。
【0054】
ここで、上述のように、インスタンスセグメンテーションを利用して各骨材の領域を抽出する場合、5mm未満の小さい骨材は検出されない可能性がある。そのため、サンプル材料9Aを流下させる前の状態の画像(背景画像)を一枚用意し、ステップS3で撮影された画像(骨材が流れている画像)ごとに、この背景画像(骨材が流れていない画像)との差分を抽出し、この差分の合計値を総面積として算出することが望ましい。
【0055】
図5(B)には、粒度区分ごとに、面積および面積頻度を対応付けたデータテーブルが概念的に示されている。そして、算出した面積頻度に応じて、たとえば
図6(A)に示すような粒度分布曲線を生成する。粒度分布曲線は、横軸に粒度(mm)、縦軸に累積通過割合(%)をとったグラフに、粒度区分が小さい順に面積頻度の累積値をプロットして得られる曲線である。
【0056】
ステップS7においてサンプル材料9Aの粒度分布が算出されると、算出値と実測値とを比較し、これらの差が小さくなるように最適な係数を求めて(ステップS9)、学習モデルM1を生成(および更新)する(ステップS11)。
【0057】
ステップS9の処理では、
図6(B)に示す概念図のように、ニューラルネットワークの入力層と出力層との間の隠れ層(中間層)のパラメータを調整する。具体的には、
図6(A)に示すような粒度分布曲線が、サンプル材料9Aについての教師データTDに含まれている粒度分布情報に対応した粒度分布曲線に近づくように、隠れ層のパラメータを重み付けする。
【0058】
モデル生成部33は、多数のサンプル材料9Aについて上記の学習処理を行うことにより、学習モデルM1の精度を向上させることができる。このようにして生成された学習モデルM1が、推定装置4のモデル記憶部44に、学習済みの学習モデルM2として格納される。
【0059】
学習済みの学習モデルM2は、自由落下する材料9を連続撮影した複数の画像データが入力される入力層と、当該材料9の粒度分布情報を出力する出力層と、粒度分布が既知のサンプル材料9Aを連続撮影したサンプル画像データを入力、サンプル材料9Aの粒度分布情報を出力とする教師データTDを用いてパラメータが学習された中間層とを備えている。このような学習モデルM2は、測定対象の材料9を連続撮影した複数の画像データを取得し、取得した複数の画像データを入力層に入力し、中間層にて演算し、測定対象の材料9の粒度分布情報を出力層から出力するよう、コンピュータを機能させる。
【0060】
上述のように、本実施の形態における学習モデルM1,M2は、骨材の面積ベースで粒度分布を予測するモデルである。搬送部21等の落下手段から自由落下する骨材は回転しながら落下するため、同じ骨材であっても画像データごとに異なる形状として抽出され得る。そのため、高額な3Dセンサを用いて骨材の体積を検出しなくても、カメラ24とディープラーニング技術を用いることにより、システム全体のコストを低減しつつ粒度分布を測定することができる。
【0061】
また、教師データTDがクライアントの識別情報に対応付けられて記憶される形態においては、モデル生成部33が、クライアントごとに学習モデルM1を生成することにより、粒度分布の推定精度をさらに向上させることが可能となる。
【0062】
(粒度分布推定方法について)
図7のフローチャートを参照して、推定装置4が実行する粒度分布推定方法について説明する。
図7は、推定処理を示すフローチャートである。
【0063】
図7を参照して、はじめに、粒度分布が不明である測定対象の材料9を搬送部21に流し、材料9を流下させる(ステップS41)。その状態で、カメラ24が材料9を連続撮影する(ステップS43)。このときの搬送部21の設置高さや搬送速度は、学習時と同じであり、カメラ24によって、拡散した状態の骨材群の静止画が撮影される。また、カメラ24は、各骨材が複数回撮影されるように、落下する材料9を連写する。
【0064】
推定部43は、材料9についての複数の画像データを取得し(ステップS45)、材料9の粒度分布を推定する(ステップS47)。具体的には、推定部43は、モデル記憶部44に記憶された学習モデルM2を内部メモリに展開し、取得した複数の画像データを学習モデルM2に入力する。そして、学習モデルM2からの出力を、材料9の粒度分布情報として判定する。なお、推定部43が実行する処理は、推定装置4のプロセッサが、予め不揮発性のメモリに記憶された推定用のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0065】
出力部45は、推定部43による推定結果、すなわち材料9の粒度分布情報を出力する(ステップS49)。
【0066】
このように、本実施の形態によれば、学習モデルM2を用いることにより、簡易かつリアルタイムで材料9の粒度分布を測定することができる。したがって、本実施の形態に係る推定装置4によって、材料9の品質管理を容易に行うことが可能となる。
【0067】
(撮影機構の変形例)
本実施の形態では、撮影機構2を構成するカメラ24が、スクリーン22に対面して配置され、自由落下する材料9,9Aを正面から撮影する例について説明したが、
図8(A)に示す撮影機構2Aのカメラ24A(または24B)のように、自由落下する材料9,9Aを斜め上から撮影してもよい。この場合、正面から撮影する場合に比べて、骨材の奥行き(立体形状)を加味した画像を得ることができる。
【0068】
具体的には、
図8(B),(C)にてハッチングで示すような扁平な(立方体でない)骨材92が、搬送部21上で安定した姿勢をとるのは、長辺×中辺が上面を向いている状態と考えられる。
図8(B)は、搬送部21上の骨材92の上面図であり、
図8(C)は、搬送部21上の骨材92の側面図である。なお、同図では、骨材92を誇張して示している。
【0069】
この状態で骨材92が落下した場合、
図8(C)に示すように、長辺×中辺が正面(前面)を向いた状態で落下し易い。幾つかの骨材は回転しながら落下するが、落下する骨材を正面から撮像した場合、長辺×中辺の骨材輪郭を認識し易い。
【0070】
一方で従来の篩分け作業では、篩の網目を通過するか否かのサイズは中辺×短辺に依存する。これは、長辺×中辺で通過しない網目であっても、中辺×短辺で通過することもあるためである。したがって、長辺×中辺を撮像して判別される粒度(正方形の一辺長さ)は、篩分け作業で得られる粒度(中辺×短辺)に比べて大きめの傾向となり、また、その傾向は長辺と短辺の差が著しい骨材(扁平な骨材)である程、顕著になる。
【0071】
そのため、
図8(A)のカメラ24A(または24B)のように、撮像角度を斜め下方に設定することにより、骨材92の短辺を写りやすくすることで、上述の傾向を抑制することができる。なお、カメラによる撮影角度は、自由落下する骨材の重なりが多くならないように、適宜調整することが望ましい。
【0072】
また、撮影機構2を構成する照明部は、スクリーン22を正面から照らす照明部23に加えて、
図8(A)に示すように、スクリーン22を側面(斜め側面)から照らす照明部23Aを含むことが望ましい。
【0073】
(他の変形例)
本実施の形態において、学習装置3は、撮影機構2のカメラ24から直接画像データを入力する構成として説明したが、このような例に限定されない。つまり、学習装置3における入力部31は、他のコンピュータから、事前に撮影した画像データを受信する通信インターフェイス、または、着脱可能な記録媒体から画像データを読み出す読み出し装置などにより構成されてもよい。
【0074】
なお、学習装置3により実行される学習方法を、プログラムとして提供することもできる。同様に、推定装置4により実行される推定方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0075】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0076】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 粒度分布推定システム、2,2A 撮影機構、3 学習装置、4 粒度分布推定装置、9 材料、9A サンプル材料、21 搬送部、22 スクリーン、23,23A 照明部、24,24A,24B カメラ、31,41 入力部、32 教師データ記憶部、33 モデル生成部、34,44 モデル記憶部、35 評価部、42 画像記憶部、43 推定部、45 出力部、91 骨材領域、92 骨材、M1 学習モデル,M2 学習モデル(学習済みモデル)。