(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
H01G4/30 512
H01G4/30 201K
H01G4/30 201N
(21)【出願番号】P 2020186023
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2022-06-17
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019238184
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】黒須 勇太
(72)【発明者】
【氏名】若島 誠寛
(72)【発明者】
【氏名】福永 大樹
(72)【発明者】
【氏名】筒井 悠
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
【審判官】渡辺 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-179675(JP,A)
【文献】特開2019-212932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に積層される、誘電体セラミック層及び内部電極層を含む積層体と、
前記内部電極層に接続される外部電極と、を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記積層体は、前記積層方向において相対する第1の主面及び第2の主面と、前記積層方向に直交する幅方向において相対する第1の側面及び第2の側面と、前記積層方向及び前記幅方向に直交する長さ方向において相対する第1の端面及び第2の端面と、を有し、
前記内部電極層は、前記第1の端面に引き出される第1の内部電極層と、前記誘電体セラミック層を介して前記第1の内部電極層と対向するように前記第2の端面に引き出される第2の内部電極層と、を含み、
前記外部電極は、前記第1の端面上に配置され、かつ、前記第1の内部電極層と接続される第1の外部電極と、前記第2の端面上に配置され、かつ、前記第2の内部電極層と接続される第2の外部電極と、を含み、
前記誘電体セラミック層は、第1の誘電体セラミック層と第2の誘電体セラミック層からなり、
前記第1の誘電体セラミック層は、前記第1の内部電極層と前記第2の内部電極層との間に配置されており、
前記第2の誘電体セラミック層は、前記内部電極層を介して対向する前記第1の誘電体セラミック層間の、前記内部電極層が配置されていない領域を含んで、その一部が前記第1の誘電体セラミック層と前記積層方向において重畳するように配置されており、
前記積層体は、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層が前記誘電体セラミック層を介して交互に積層される内層部と、前記内層部を前記積層方向に挟むように配置され、かつ、セラミック材料で構成される外層部と、前記内層部及び前記外層部を前記幅方向に挟むように配置され、かつ、誘電体セラミック材料で構成される第3の誘電体セラミック層と、を有し、
前記第1の誘電体セラミック層の、前記長さ方向の中央部、前記積層方向及び前記幅方向を含む面における、前記積層方向中央部での厚みをT1、
前記第1の誘電体セラミック層の、前記幅方向の端部の厚みをT2、
前記第1の内部電極層における前記第2の外部電極と接続されていない前記長さ方向の端部と、前記第2の外部電極との間、及び、前記第2の内部電極層における前記第1の外部電極と接続されていない前記長さ方向の端部と、前記第1の外部電極との間、のそれぞれの厚みをT3とした場合、
前記T1と前記T2との厚みの差は、前記T1の10%以内であり、
前記T3の厚みは、前記T1及び前記T2よりも大きく、その差は、前記T1及び前記T2の10%以上である、積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記T1は、0.7μm以下である、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記T3は、0.4μm以上である、請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品は、小型化及び高容量化が図られている。積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化を実現するためには、複数の誘電体セラミック層と複数の内部電極層とが積層された積層体の各側面に対してサイドマージンを薄くすることにより、互いに対向する内部電極層の面積を大きくすることが有効である。
【0003】
特許文献1には、積層された複数の誘電体セラミック層と複数の内部電極層とを含み、上記複数の内部電極層が側面に露出しているチップを準備する工程と、複数の被覆用誘電体シートを互いに貼り合わせて誘電体積層シートを形成する工程と、上記チップの側面に、上記誘電体積層シートを貼り付ける工程とを備える、電子部品の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、内部電極が印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、加圧、焼成して積層セラミックコンデンサを製造する際に、内部電極が印刷されていない領域に段差解消用セラミックススラリーを付与することにより、内部電極同士が重なり合っている部分と重なり合っていない部分とで段差が生じることを抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-147358号公報
【文献】特開2003-209025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1において積層体の側面に貼り合わせるセラミック誘電体シートの組成については特に言及されていない。また、引用文献2において用いられる段差解消用セラミックペーストの組成についても特に言及されていない。そのため、引用文献1及び2には、誘電体積層シート、及び、段差解消用セラミックペーストの組成を最適化することによって、積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させる余地があった。
また、引用文献2に記載される段差解消用セラミックペーストによる誘電体セラミック層は、焼成後に厚みが低減することにより素子としての厚さ、すなわち素子厚が不十分となり、積層セラミックコンデンサとしての信頼性の低下を招来することが懸念された。
【0007】
本発明は、少なくとも段差解消用として配置される誘電体セラミック層による素子厚が十分な厚みを有することにより、信頼性を向上させることができる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層セラミックコンデンサは、積層方向に積層される、誘電体セラミック層及び内部電極層を含む積層体と、前記内部電極層に接続される外部電極と、を備える積層セラミックコンデンサであって、前記積層体は、前記積層方向において相対する第1の主面及び第2の主面と、前記積層方向に直交する幅方向において相対する第1の側面及び第2の側面と、前記積層方向及び前記幅方向に直交する長さ方向において相対する第1の端面及び第2の端面と、を有し、前記内部電極層は、前記第1の端面に引き出される第1の内部電極層と、前記誘電体セラミック層を介して前記第1の内部電極層と対向するように前記第2の端面に引き出される第2の内部電極層と、を含み、前記外部電極は、前記第1の端面上に配置され、かつ、前記第1の内部電極層と接続される第1の外部電極と、前記第2の端面上に配置され、かつ、前記第2の内部電極層と接続される第2の外部電極と、を含み、前記誘電体セラミック層は、第1の誘電体セラミック層と第2の誘電体セラミック層からなり、前記第1の誘電体セラミック層は、前記第1の内部電極層と前記第2の内部電極層との間に配置されており、前記第2の誘電体セラミック層は、前記内部電極層を介して対向する前記第1の誘電体セラミック層間の、前記内部電極層が配置されていない領域を含んで、その一部が前記第1の誘電体セラミック層と前記積層方向において重畳するように配置されており、前記積層体は、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層が前記誘電体セラミック層を介して交互に積層される内層部と、前記内層部を前記積層方向に挟むように配置され、かつ、セラミック材料で構成される外層部と、前記内層部及び前記外層部を前記幅方向に挟むように配置され、かつ、誘電体セラミック材料で構成される第3の誘電体セラミック層と、を有し、前記第1の誘電体セラミック層の、前記長さ方向の中央部、前記積層方向及び前記幅方向を含む面における、前記積層方向中央部での厚みをT1、前記第1の誘電体セラミック層の、前記幅方向の端部の厚みをT2、前記第1の内部電極層における前記第2の外部電極と接続されていない前記長さ方向の端部と、前記第2の外部電極との間、及び、前記第2の内部電極層における前記第1の外部電極と接続されていない前記長さ方向の端部と、前記第1の外部電極との間、のそれぞれの厚みをT3とした場合、前記T1と前記T2との厚みの差は、前記T1の10%以内であり、前記T3の厚みは、前記T1及び前記T2よりも大きく、その差は、前記T1及び前記T2の10%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくとも段差解消用として配置される誘電体セラミック層による素子厚が十分な厚みを有することにより、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す積層セラミックコンデンサを構成する積層体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図1に示す積層セラミックコンデンサのA-A線断面図である。
【
図4】
図1に示す積層セラミックコンデンサのC-C線断面図である。
【
図5】
図1に示す積層セラミックコンデンサのB-B線断面図である。
【
図6】セラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
【
図7】セラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
【
図8】セラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
【
図9】マザーブロックの一例を模式的に示す分解斜視図である。
【
図10】グリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図11】本発明の積層セラミックコンデンサのLT断面の一部であって、第1の合金部及び第2の合金部を模式的に示す図である。
【
図13】本発明の積層セラミックコンデンサのLT断面の一部であって、第1の点在内部電極、第2の点在内部電極及び第4の合金部を模式的に示す図である。
【
図14】本発明の積層セラミックコンデンサのWT断面の一部であって、第1の合金部及び第3の合金部を模式的に示す示す図である。
【
図15】
図14の一部拡大図であって、第5の合金部を模式的に示す図である。
【
図16】本発明の積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極層の端部に第2の誘電体セラミック層の端部が重畳する態様を模式的に示す断面図である。
【
図17】本発明の積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極層の端部に第2の誘電体セラミック層の端部が重畳する態様を模式的に示す断面図である。
【
図18】本発明の積層セラミックコンデンサの内部電極層に含まれる金属元素量を分析するTEM分析方法を説明するための図である。
【
図19】
図5の一部であって、本発明の交点近傍領域を示す図である。
【
図20】第1の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径を測定する方法を説明するための図である。
【
図21】第3の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径を測定する方法を説明するための図である。
【
図22】第2の誘電体セラミック層及び交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径を測定する方法の第1段階を説明するための図である。
【
図23】第2の誘電体セラミック層及び交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径を測定する方法の第2段階を説明するための図である。
【
図24】交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径を測定する方法を説明するための図である。
【
図25】本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、未焼成の積層体の側面を除去する工程を模式的に示す図である。
【
図26】本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、側面が除去された未焼成の積層体の端面を示す図である。
【
図27】本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、内部電極層の端部に第2の誘電体セラミック層の端部が重畳する態様を模式的に示す断面図である。
【
図28】本発明の積層セラミックコンデンサのWT断面の一部であって、第2の誘電体セラミック層の欠損部を模式的に示す示す図である。
【
図30】本発明の積層セラミックコンデンサのLT断面の一部であって、第1の偏析を模式的に示す示す図である。
【
図32】本発明の積層セラミックコンデンサのWT断面の一部であって、第2の偏析を模式的に示す示す図である。
【
図33】本発明の積層セラミックコンデンサのLW断面の一部であって、第1の角部領域及び第2の角部領域に偏析する第3の偏析を示す図である。
【
図34】本発明の積層セラミックコンデンサにおいて、第3の偏析に第2の誘電体セラミック層の端部が重畳する態様を模式的に示す断面図である。
【
図35】本発明の積層セラミックコンデンサの、長さ(L)方向の中央部における第1の誘電体セラミック層の厚みを示す図である。
【
図36】本発明の積層セラミックコンデンサの、第2の誘電体セラミック層の厚みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層セラミックコンデンサについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[積層セラミックコンデンサ]
図1は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す積層セラミックコンデンサを構成する積層体の一例を模式的に示す斜視図である。
図3は、
図1に示す積層セラミックコンデンサのA-A線断面図である。
図4は、
図1に示す積層セラミックコンデンサのC-C線断面図である。
【0013】
本明細書においては、積層セラミックコンデンサ及び積層体の積層方向、幅方向、長さ方向を、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1及び
図2に示す積層体10において、それぞれ矢印T、W、Lで定める方向とする。ここで、積層(T)方向と幅(W)方向と長さ(L)方向とは互いに直交する。積層(T)方向は、複数の誘電体セラミック層20と複数対の第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22とが積み上げられる方向である。
【0014】
図1に示す積層セラミックコンデンサ1は、積層体10と、積層体10の両端面にそれぞれ設けられた第1の外部電極51及び第2の外部電極52とを備えている。
【0015】
図2に示すように、積層体10は、直方体状又は略直方体状をなしており、積層(T)方向において相対する第1の主面11及び第2の主面12と、積層(T)方向に直交する幅(W)方向において相対する第1の側面13及び第2の側面14と、積層(T)方向及び幅(W)方向に直交する長さ(L)方向において相対する第1の端面15及び第2の端面16とを有している。
【0016】
本明細書においては、第1の端面15及び第2の端面16に直交し、かつ、積層(T)方向と平行な積層セラミックコンデンサ1又は積層体10の断面を、長さ(L)方向及び積層(T)方向の断面であるLT断面という。また、第1の側面13及び第2の側面14に直交し、かつ、積層(T)方向と平行な積層セラミックコンデンサ1又は積層体10の断面を、幅(W)方向及び積層(T)方向の断面であるWT断面という。また、第1の側面13、第2の側面14、第1の端面15及び第2の端面16に直交し、かつ、積層(T)方向に直交する積層セラミックコンデンサ1又は積層体10の断面を、長さ(L)方向及び幅(W)方向の断面であるLW断面という。したがって、
図3は、積層セラミックコンデンサ1のLT断面であり、
図4は、積層セラミックコンデンサ1のWT断面である。
【0017】
積層体10は、角部及び稜線部に丸みが付けられていることが好ましい。角部は、積層体の3面が交わる部分であり、稜線部は、積層体の2面が交わる部分である。
【0018】
図2、
図3及び
図4に示すように、積層体10は、積層(T)方向に積層された複数の誘電体セラミック層20と、誘電体セラミック層20間の界面に沿って形成された複数対の第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22とを含む積層構造を有している。誘電体セラミック層20は、幅(W)方向及び長さ(L)方向に沿って延びており、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれは、誘電体セラミック層20に沿って平板状に延びている。
【0019】
第1の内部電極層21は、積層体10の第1の端面15に引き出されている。一方、第2の内部電極層22は、積層体10の第2の端面16に引き出されている。
【0020】
第1の内部電極層21と第2の内部電極層22とは、積層(T)方向において、誘電体セラミック層20を介して対向している。第1の内部電極層21と第2の内部電極層22とが誘電体セラミック層20を介して対向している部分により、静電容量が発生する。
【0021】
第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれは、Ni、Cu、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等の金属を含むことが好ましい。第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれは、上記金属に加えて、誘電体セラミック層20と同じ誘電体セラミック材料を含んでもよい。
【0022】
誘電体セラミック層20は、第1の誘電体セラミック層20aと、第2の誘電体セラミック層20bを有する。
第1の誘電体セラミック層20aは、第1の内部電極層21と第2の内部電極層22の間に配置される誘電体セラミック層である。
第2の誘電体セラミック層20bは、内部電極層(21、22)を介して対向する第1の誘電体セラミック層20a間の、内部電極層(21、22)が配置されていない領域に配置される誘電体セラミック層である。
【0023】
第1の外部電極51は、積層体10の第1の端面15に設けられており、
図1では、第1の主面11、第2の主面12、第1の側面13及び第2の側面14の各一部にまで回り込んだ部分を有している。第1の外部電極51は、第1の端面15において、第1の内部電極層21に接続されている。
【0024】
第2の外部電極52は、積層体10の第2の端面16に設けられており、
図1では、第1の主面11、第2の主面12、第1の側面13及び第2の側面14の各一部にまで回り込んだ部分を有している。第2の外部電極52は、第2の端面16において、第2の内部電極層22に接続されている。
【0025】
第1の外部電極51及び第2の外部電極52はそれぞれ、Ni及びセラミック材料を含有するNi層を含むことが好ましい。Ni層は、下地電極層である。このようなNi層は、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22と同時に焼成される、いわゆるコファイア法によって形成できる。Ni層は、積層体10に直接配置されていることが好ましい。
【0026】
第1の外部電極51は、積層体10の第1の端面15側から順に、Ni層と、第1のめっき層と、第2のめっき層と、を含むことが好ましい。同様に、第2の外部電極52は、積層体10の第2の端面16側から順に、Ni層と、第1のめっき層と、第2のめっき層と、を含むことが好ましい。第1のめっき層は、Niめっきにより形成されることが好ましく、第2のめっき層は、Snめっきにより形成されることが好ましい。第1の外部電極51及び第2の外部電極52はそれぞれ、Ni層と第1のめっき層との間に、導電性粒子及び樹脂を含有する導電性樹脂層を含んでもよい。導電性樹脂層中の導電性粒子としては、例えば、Cu、Ag、Ni等の金属粒子が挙げられる。
【0027】
なお、Ni層は、焼成後の積層体の端面に導電性ペーストを塗布して焼き付けられる、いわゆるポストファイア法によって形成されてもよい。この場合、Ni層は、セラミック材料を含有していなくてもよい。
【0028】
あるいは、第1の外部電極51及び第2の外部電極52はそれぞれ、Cu等の金属を含有する下地電極層を含んでもよい。下地電極層は、コファイア法によって形成されてもよいし、ポストファイア法によって形成されてもよい。また、下地電極層は、複数層であってもよい。
【0029】
例えば、第1の外部電極51は、積層体10の第1の端面15側から順に、下地電極層であるCu層と、導電性粒子及び樹脂を含有する導電性樹脂層と、第1のめっき層と、第2のめっき層と、を含む4層構造であってもよい。同様に、第2の外部電極52は、積層体10の第2の端面16側から順に、下地電極層であるCu層と、導電性粒子及び樹脂を含有する導電性樹脂層と、第1のめっき層と、第2のめっき層と、を含む4層構造であってもよい。
【0030】
図3及び
図4に示すように、誘電体セラミック層20は、第1の誘電体セラミック層20aと、第2の誘電体セラミック層20bを有している。
第1の誘電体セラミック層20aは、第1の内部電極層21と第2の内部電極層22の間に配置されている。
第2の誘電体セラミック層20bは、内部電極層を介して対向する第1の誘電体セラミック層20a間の、内部電極層が配置されていない領域に配置されている。
【0031】
図2、
図3及び
図4に示すように、積層体10は、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22が誘電体セラミック層20を介して対向している内層部30と、内層部30を積層(T)方向に挟むように配設される外層部31及び32と、内層部30、外層部31及び外層部32を幅(W)方向に挟むように配設される第3の誘電体セラミック層41及び42とを備えている。第3の誘電体セラミック層41及び42はサイドマージン部ともいう。
図3及び
図4では、内層部30は、積層(T)方向に沿って、第1の主面11に最も近い第1の内部電極層21と、第2の主面12に最も近い第1の内部電極層21に挟まれた領域である。図示されていないが、外層部31及び外層部32のそれぞれは、積層(T)方向に積層された複数の誘電体セラミック層20から構成されることが好ましく、第1の誘電体セラミック層20aから構成されることがより好ましい。
【0032】
外層部31及び32のそれぞれの厚みは、15μm以上、40μm以下であることが好ましい。なお、外層部31及び32のそれぞれは、多層構造ではなく単層構造であってもよい。
【0033】
図4に示すように、第3の誘電体セラミック層41及び第3の誘電体セラミック層42のそれぞれは、幅(W)方向に積層された複数の誘電体セラミック層から構成されていてもよい。
第3の誘電体セラミック層を構成する複数の誘電体セラミック層のうち、幅方向の最も内側の層をインナー層と呼び、最も外側の層をアウター層と呼ぶ。インナー層とアウター層の間には、界面が存在している。
図4では、第3の誘電体セラミック層41は、該誘電体セラミック層として、積層体10の最も内側に配置されるインナー層41aと、積層体10の最も外側に配置されるアウター層41bとを含む2層構造である。同様に、第3の誘電体セラミック層42は、該誘電体セラミック層として、積層体10の最も内側に配置されるインナー層42aと、積層体10の最も外側に配置されるアウター層42bとを含む2層構造である。
なお、第3の誘電体セラミック層は、2層構造に限定されず、3層以上の構造であってもよい。第3の誘電体セラミック層が3層以上の誘電体セラミック層を含む場合、幅方向の最も内側に配置される誘電体セラミック層をインナー層とし、幅方向の最も外側に配置される誘電体セラミック層をアウター層とする。
また、積層体の第1の側面側の第3の誘電体セラミック層と第2の側面側の第3の誘電体セラミック層とで、誘電体セラミック層の層数が異なっていてもよい。
【0034】
第3の誘電体セラミック層がインナー層及びアウター層を含む2層構造である場合、インナー層及びアウター層における焼結性の違いから、暗視野で光学顕微鏡を用いて観察することにより、2層構造であること、及び層間の界面を確認することができる。第3の誘電体セラミック層が3層以上の構造である場合も同様である。
【0035】
第1の誘電体セラミック層20a、第2の誘電体セラミック層20b及び第3の誘電体セラミック層41、42は、例えば、BaTiO3などを主成分とする誘電体セラミック材料から構成される。内層部30を構成する誘電体セラミック層20には、焼結助剤元素がさらに含有されていてもよい。
【0036】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミック層は、セラミックグレインを含んでいてもよい。セラミックグレインの直径の詳細については後述する。
【0037】
本発明の積層セラミックコンデンサでは、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層、第3の誘電体セラミック層のうち、少なくとも1つの誘電体セラミック層の組成が、他の誘電体セラミック層の組成と異なる。
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層は、いずれも配置される目的や製造方法上求められる特性が異なるため、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層、第3の誘電体セラミック層のうち、少なくとも1つの誘電体セラミック層の組成を他の誘電体セラミック層の組成と異なるものとすることによって、誘電体セラミック層が配置される場所に応じた最適な組成を実現することができ、信頼性を高めることができる。
【0038】
本発明の積層セラミックコンデンサにおいては、第1の誘電体セラミック層の組成が、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の組成と異なっていてもよいし、第2の誘電体セラミック層の組成が、第1の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の組成と異なっていてもよいし、第3の誘電体セラミック層の組成が、第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層の組成と異なっていてもよいし、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の組成が互いに異なっていてもよい。
【0039】
本発明の積層セラミックコンデンサにおいては、第2の誘電体セラミック層の組成と第3の誘電体セラミック層の組成が異なることが好ましく、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の組成がすべて異なることがより好ましい。
【0040】
なお、第3の誘電体セラミック層が複数の誘電体セラミック層で構成されている場合、第3の誘電体セラミック層を構成する複数の誘電体セラミック層は、互いに同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
第3の誘電体セラミック層を構成する複数の誘電体セラミック層のいずれか1つの組成が、第1の誘電体セラミック層と異なる場合には、第3の誘電体セラミック層の組成と、第1の誘電体セラミック層の組成が異なるといえる。
また、第3の誘電体セラミック層を構成する複数の誘電体セラミック層のいずれか1つの組成が、第2の誘電体セラミック層と異なる場合には、第3の誘電体セラミック層の組成と、第2の誘電体セラミック層の組成が異なるといえる。
【0041】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層のうち、組成が異なる誘電体セラミック層は、主成分が共通で、添加剤の種類が異なることが好ましい。
主成分としては、BaTiO3、CaTiO3又はSrTiO3等が挙げられる。
添加剤は、Si、Mg、Mn、Sn、Cu、希土類、Ni及びAl等の元素を含んでいる
ことが好ましい。
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層は、上記元素を2種以上含んでいてもよい。
【0042】
なお、「組成が同じ」とは、各誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックに含有される元素の種類が同じ、かつ、Tiを基準とした他の元素の含有率(モル比)がすべて±0.5%以内に収まっていることを意味する。
なお、各誘電体セラミック層を構成するセラミックグレインの直径の違いや、空隙率の違いは、誘電体セラミック層の組成の違いに含めないものとする。
【0043】
各誘電体セラミック層の組成については、積層セラミックコンデンサを切断して誘電体セラミック層を露出させた切断面を波長分散型X線分析(WDX)もしくは透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(TEM-EDX)による元素分析を行うことにより求めることができる。この時、各誘電体セラミック層の組成を5箇所で測定して平均値を求める。
第2の誘電体セラミック層については、積層体の第1の端面に露出する第2の誘電体セラミック層から5箇所と、積層体の第2の端面に露出する第2の誘電体セラミック層から5箇所測定した平均値とする。
第3の誘電体セラミック層が多層構造を有する場合には、各層の組成を5箇所ずつで測定して得られた組成に、各層が第3の誘電体セラミック層中に占める厚さの割合を乗じたものの総和とする。
なお、他の誘電体セラミック層又は内部電極層との界面近傍に元素の偏析が見られる場合、元素の偏析が見られる箇所をWDXの測定対象としないこととする。
【0044】
第1の誘電体セラミック層に添加される元素としては、Mgが好ましい。
第1の誘電体セラミック層におけるMgの含有率は、Ti100モルに対して、0.05モル%以上、3.0モル%以下であることが好ましい。
第1の誘電体セラミック層におけるMgの含有率は、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層におけるMgの含有率よりも少ないことがより好ましい。
第1の誘電体セラミック層におけるMgの含有率が少ないと、第1の誘電体セラミック層の比誘電率が高まるため、積層セラミックコンデンサの静電容量を向上させることができる。なお、第1の誘電体セラミック層におけるMgの含有率は、限りなく少ないことが好ましい場合もある。
【0045】
第2の誘電体セラミック層に添加される元素としては、Snが好ましい。
第2の誘電体セラミック層におけるSnの含有率は、Ti100モルに対して、0.05モル%以上、3.0モル%以下であることが好ましい。
第2の誘電体セラミック層におけるSnの含有率は、第1の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層におけるSnの含有率よりも多いことが好ましい。
【0046】
第3の誘電体セラミック層に添加される元素としては、Siが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるSiの含有率は、Ti100モルに対して、0.05モル%以上、5.0モル%以下であることが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるSiの含有率は、第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層におけるSiの含有率よりも多いことが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるSiの含有率が多いと、誘電体セラミック層の焼結性が高まるため、積層体の第1の側面及び第2の側面から水分等が侵入して内部電極層が劣化することを抑制することができる。
【0047】
第3の誘電体セラミック層に添加される元素としては、Mgが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMgの含有率は、Ti100モルに対して、0.05モル%以上、5.0モル%以下であることが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMgの含有率は、第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層におけるMgの含有率よりも多いことが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMgの含有率が多いと、第3の誘電体セラミック層に含まれるセラミックグレインの粒成長を抑制することができ、内部電極層間での短絡を生じにくくすることができる。
【0048】
第3の誘電体セラミック層に添加される元素としては、Mnが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMnの含有率は、Ti100モルに対して、0.01モル%以上、3.0モル%以下であることが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMnの含有率は、第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層におけるMnの含有率よりも多いことが好ましい。
第3の誘電体セラミック層におけるMnの含有率が多いと、第3の誘電体セラミック層に含まれるセラミックグレインの粒成長を抑制することができ、内部電極層間での短絡を生じにくくすることができる。
【0049】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層においては、各誘電体セラミック層に含まれる主成分以外の元素が、他の誘電体セラミック層に拡散していることが好ましい。
また、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層に添加剤として含まれる元素の一部が、隣接する他の誘電体セラミック層及び内部電極層に拡散していることが好ましい。
【0050】
図5は、
図1に示す積層セラミックコンデンサのB-B線断面図である。
なお、
図5は積層セラミックコンデンサ1のLW断面である。
図5に示すように、積層体10の第2の端面16には第2の内部電極層22が露出しており、積層体10の第1の端面15には第2の誘電体セラミック層20bが露出している。また、積層体10の第1の側面13側及び第2の側面14側には、それぞれ第3の誘電体セラミック層41及び第3の誘電体セラミック層42が配置されている。
【0051】
図5に示すように、第2の内部電極層22と第2の誘電体セラミック層20bの間には界面2220bが存在する。また、第2の内部電極層22と第3の誘電体セラミック層41、42の間には、界面2241、2242が存在する。さらに、第2の誘電体セラミック層20bと第3の誘電体セラミック層41、42の間には界面20b41、20b42が存在する。
【0052】
また、
図5には図示していないが、第2の内部電極層22及び第2の誘電体セラミック層20bの厚さ方向の両側には、第1の誘電体セラミック層20aが配置されている。従って、第1の誘電体セラミック層20aは、第2の誘電体セラミック層20b、第3の誘電体セラミック層41、42及び内部電極層21、22と直接接触する界面を有しているといえる。
【0053】
さらに、第1の内部電極層21についても、
図5に示す第2の内部電極層22と同様に、第1の誘電体セラミック層20a、第2の誘電体セラミック層20b及び第3の誘電体セラミック層41、42との間に界面を有する。
【0054】
第1の誘電体セラミック層20aのうち、第2の誘電体セラミック層20bとの界面近傍には、第2の誘電体セラミック層20bに由来する元素が偏析していてもよい。また、第1の誘電体セラミック層20aのうち、第3の誘電体セラミック層41又は42との界面近傍には、第3の誘電体セラミック層41又は42に由来する元素が偏析していてもよい。
【0055】
第2の誘電体セラミック層20bのうち、第1の誘電体セラミック層20aとの界面近傍には、第1の誘電体セラミック層20aに由来する元素が偏析していてもよい。また、第2の誘電体セラミック層20bのうち、第3の誘電体セラミック層41又は42との界面20b41、20b42近傍には、第3の誘電体セラミック層41又は42に由来する元素が偏析していてもよい。
【0056】
第3の誘電体セラミック層41及び42のうち、第1の誘電体セラミック層20aとの界面近傍には、第1の誘電体セラミック層20aに由来する元素が偏析していてもよい。また、第3の誘電体セラミック層41及び42のうち、第2の誘電体セラミック層20bとの界面20b41、20b42近傍には、第2の誘電体セラミック層20bに由来する元素が偏析していてもよい。
【0057】
第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のうち、第1の誘電体セラミック層20aとの界面近傍には、第1の誘電体セラミック層20aに由来する元素が偏析していてもよい。また、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のうち、第2の誘電体セラミック層20bとの界面2220b近傍には、第2の誘電体セラミック層20bに由来する元素が偏析していてもよい。さらに、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のうち、第3の誘電体セラミック層41、42との界面2241、2242近傍には、第3の誘電体セラミック層41、42に由来する元素が偏析していてもよい。
また、第2の内部電極層22と第2の誘電体セラミック層20bとの界面2220bと、第2の内部電極層22と第3の誘電体セラミック層41又は42との界面2241又は2242とが接している部分の近傍(第2の内部電極層22の、第1の端面15側の角部)においては、第2の誘電体セラミック層20bに由来する元素と、第3の誘電体セラミック層41又は42に由来する元素の両方が偏析していてもよい。
【0058】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の空隙率は、同じであってもよいが、それぞれ異なっていてもよい。
積層セラミックコンデンサを切断して各誘電体セラミック層を露出させた切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて20000倍で観察する。視野サイズが6.3μm×4.4μmの領域を互いに領域が重複しないように5箇所で撮影し、得られた各SEM画像から画像解析により視野全体に対する空隙が占める面積の割合を空隙率として算出し、5視野における平均値を求める。ただし、第3の誘電体セラミック層が複数層で構成されている場合、各層の空隙率を個別に求めた後、層の厚みを第3の誘電体セラミック層の厚みで割った値と各層の空隙率の積の総和を、第3の誘電体セラミック層の空隙率とする。
【0059】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層はセラミックグレインを含むことが好ましい。
誘電体セラミック層がセラミックグレインを含むと、セラミックグレイン同士の界面において界面抵抗が生じ、内部電極層同士の絶縁抵抗を高め、短絡の発生を防止することができる。
【0060】
セラミックグレインの界面には、希土類が存在することが好ましい。
セラミックグレインの界面に希土類が存在することは、TEM-EDXによる元素分析により確認することができる。希土類としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y等が挙げられる。
セラミックグレインの界面に希土類が存在することによって誘電体セラミック層の界面抵抗をさらに高めて、積層セラミックコンデンサの信頼性をより向上させることができる。なお、Mg、Mn、Siなどが存在していてもよい。
【0061】
希土類は、Ti100モルに対して、0.2モル%以上、5モル%以下存在することが好ましい。
ここでいうTi100モルは、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミック材料がペロブスカイト型構造(ABO3で示される構造、B=Ti)を有する化合物を主成分とすることを前提として、Ti100モルに対する希土類の存在量を定めたものである。
希土類の存在量は、TEM-EDXにより確認することができる。
【0062】
積層セラミックコンデンサにおいては、第1の内部電極層及び第2の内部電極層の厚みは、各々、0.4μm以下であることが好ましい。
また、第1の内部電極層及び第2の内部電極層の厚みは、各々、0.38μm以下であることが好ましい。
また、第1の内部電極層及び第2の内部電極層の厚みは、各々、0.25μm以上であることが好ましい。
【0063】
第1の誘電体セラミック層の厚みは、0.55μm以下であることが好ましい。
また、第1の誘電体セラミック層の厚みは、各々、0.4μm以上であることが好ましい。
【0064】
第2の誘電体セラミック層の厚みは、内部電極層の厚みと同じであることが好ましい。
【0065】
第3の誘電体セラミック層41及び42のそれぞれの厚みは、5μm以上、40μm以下であることが好ましく、5μm以上、20μm以下であることがより好ましい。第3の誘電体セラミック層41及び42の厚みは、互いに同じであることが好ましい。ただし、インナー層41a及びアウター層41bが上記の範囲を満たしながら、アウター層41bがインナー層41aより厚いことが好ましい。同様に、インナー層42a及びアウター層42bが上記の範囲を満たしながら、アウター層42bがインナー層42aより厚いことが好ましい。
【0066】
積層セラミックコンデンサ1の形状及び性能を維持する観点から、インナー層41aは、アウター層41bよりも薄いことが好ましい。同様に、インナー層42aは、アウター層42bよりも薄いことが好ましい。
【0067】
インナー層41a及び42aのそれぞれの厚みは、0.1μm以上、20μm以下であることが好ましい。インナー層41a及び42aの厚みは、互いに同じであることが好ましい。
【0068】
アウター層41b及び42bのそれぞれの厚みは、5μm以上、20μm以下であることが好ましい。アウター層41b及び42bの厚みは、互いに同じであることが好ましい。
【0069】
サイドマージン部の各セラミック層の厚みとは、積層(T)方向に沿って第3の誘電体セラミック層の厚みを複数箇所で測定したときの平均値を意味する。
【0070】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、好ましくは、未焼成の状態にある複数の第1の誘電体セラミック層及び複数の第2の誘電体セラミック層並びに複数対の第1の内部電極層及び第2の内部電極層とをもって構成された積層構造を有し、積層方向に直交する幅方向において相対する第1の側面及び第2の側面に上記第1の内部電極層及び上記第2の内部電極層が露出した、グリーンチップを準備する工程と、上記グリーンチップの上記第1の側面及び上記第2の側面に、未焼成の第3の誘電体セラミック層を形成することにより、未焼成の積層体を作製する工程と、上記未焼成の積層体を焼成する工程と、を備え、上記グリーンチップを準備する工程では、未焼成の第1の誘電体セラミック層の表面に未焼成の第1の内部電極層又は第2の内部電極層を形成し、第1の内部電極層及び第2の内部電極層が設けられていない領域に未焼成の第2の誘電体セラミック層を形成して得られたセラミックグリーンシートを積層し、上記未焼成の積層体を作製する工程では、上記第1の側面及び上記第2の側面に未焼成のインナー層を形成し、最も外側に未焼成のアウター層を形成することにより、上記未焼成のサイドマージン部が形成され、上記第1の誘電体セラミック層、上記第2の誘電体セラミック層及び上記第3の誘電体セラミック層うち、少なくとも1つの誘電体セラミック層の組成が異なる。
【0071】
以下、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について説明する。
【0072】
まず、第1の誘電体セラミック層20a、第2の誘電体セラミック層20b及び第3の誘電体セラミック層41、42となるべきセラミックグリーンシートを準備する。セラミックグリーンシートには、上述した誘電体セラミック材料を含むセラミック原料の他、バインダ及び溶剤等が含まれる。また、セラミック原料には希土類を含む添加剤を添加してもよい。添加剤に含まれる元素を変えることで、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層の組成を変えることができる。主成分であるセラミック原料は同じであることが好ましい。
セラミックグリーンシートは、例えば、キャリアフィルム上で、ダイコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ等を用いて成形される。
【0073】
図6、
図7及び
図8は、セラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
図6、
図7及び
図8には、それぞれ、内層部30を形成するための第1のセラミックグリーンシート101、内層部30を形成するための第2のセラミックグリーンシート102、及び、外層部31又は32を形成するための第3のセラミックグリーンシート103を示している。
【0074】
図6、
図7及び
図8では、第1のセラミックグリーンシート101、第2のセラミックグリーンシート102及び第3のセラミックグリーンシート103は積層セラミックコンデンサ1ごとに切り分けられていない。
図6、
図7及び
図8には、積層セラミックコンデンサ1ごとに切り分ける際の切断線X及びYが示されている。切断線Xは長さ(L)方向に平行であり、切断線Yは幅(W)方向に平行である。
【0075】
図6に示すように、第1のセラミックグリーンシート101では、第1の誘電体セラミック層20aに対応する未焼成の第1の誘電体セラミック層120a上に、第1の内部電極層21に対応する未焼成の第1の内部電極層121が形成されている。また、未焼成の第1の内部電極層121が形成されていない領域に、第2の誘電体セラミック層20bに対応する未焼成の第2の誘電体セラミック層120bが形成されている。
未焼成の第1の誘電体セラミック層120a及び未焼成の第2の誘電体セラミック層120bは、誘電体セラミック層20に対応する未焼成の誘電体セラミック層120でもある。
【0076】
図7に示すように、第2のセラミックグリーンシート102では、第1の誘電体セラミック層20aに対応する未焼成の第1の誘電体セラミック層120a上に、第2の内部電極層22に対応する未焼成の第2の内部電極層122が形成されている。また、未焼成の第2の内部電極層122が形成されていない領域に、第2の誘電体セラミック層20bに対応する未焼成の第2の誘電体セラミック層120bが形成されている。
未焼成の第1の誘電体セラミック層120a及び未焼成の第2の誘電体セラミック層120bは、誘電体セラミック層20に対応する未焼成の誘電体セラミック層120でもある。
【0077】
図6に示す第1のセラミックグリーンシート101及び
図7に示す第2のセラミックグリーンシートを作製する方法は特に限定されないが、未焼成の第1の誘電体セラミック層120aの表面に、焼成により第2の誘電体セラミック層20bとなる誘電体セラミックと溶媒との混合物である誘電体ペースト、及び、焼成により内部電極層21又は22となる導電性ペーストをそれぞれ所定の領域に付与する方法が挙げられる。
上記誘電体ペースト及び上記導電性ペーストを付与する順序は特に限定されず、先に誘電体ペーストを付与した後に導電性ペーストを付与してもよく、先に導電性ペーストを付与した後に誘電体ペーストを付与してもよい。
また、先に付与したペーストの表面の一部を後で付与したペーストの一部が覆うように、誘電体ペースト及び導電性ペーストを付与してもよい。
【0078】
図8に示すように、外層部31又は32に対応する第3のセラミックグリーンシート103は、第1の誘電体セラミック層に対応する未焼成の第1の誘電体セラミック層120aからなり、未焼成の内部電極層121又は122や未焼成の第2の誘電体セラミック層120bは形成されていない。
【0079】
第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122は、任意の導電性ペーストを用いて形成することができる。導電性ペーストによる第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の形成には、例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の方法を用いることができる。
【0080】
第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122は、切断線Yによって仕切られた長さ(L)方向に隣接する2つの領域にわたって配置され、幅(W)方向に帯状に延びている。第1の内部電極層121と第2の内部電極層122とでは、切断線Yによって仕切られた領域が1列ずつ長さ(L)方向にずらされている。つまり、第1の内部電極層121の中央を通る切断線Yが第2の内部電極層122の間の領域(すなわち第2の誘電体セラミック層120bの中央)を通り、第2の内部電極層122の中央を通る切断線Yが第1の内部電極層121の間の領域(すなわち第2の誘電体セラミック層120bの中央)を通っている。
【0081】
その後、第1のセラミックグリーンシート101、第2のセラミックグリーンシート102及び第3のセラミックグリーンシート103を積層することにより、マザーブロックを作製する。
【0082】
図9は、マザーブロックの一例を模式的に示す分解斜視図である。
図9では、説明の便宜上、第1のセラミックグリーンシート101、第2のセラミックグリーンシート102及び第3のセラミックグリーンシート103を分解して示している。実際のマザーブロック104では、第1のセラミックグリーンシート101、第2のセラミックグリーンシート102及び第3のセラミックグリーンシート103が静水圧プレス等の手段により圧着されて一体化されている。
【0083】
図9に示すマザーブロック104では、内層部30に対応する第1のセラミックグリーンシート101及び第2のセラミックグリーンシート102が積層(T)方向に交互に積層されている。さらに、交互に積層された第1のセラミックグリーンシート101及び第2のセラミックグリーンシート102の積層(T)方向の上下面に、外層部31及び32に対応する第3のセラミックグリーンシート103が積層されている。なお、
図9では、第3のセラミックグリーンシート103がそれぞれ3枚ずつ積層されているが、第3のセラミックグリーンシート103の枚数は適宜変更可能である。
【0084】
得られたマザーブロック104を切断線X及びY(
図6、
図7及び
図8参照)に沿って切断することにより、複数のグリーンチップを作製する。この切断には、例えば、ダイシング、押切り、レーザカット等の方法が適用される。
【0085】
図10は、グリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
図10に示すグリーンチップ110は、未焼成の状態にある複数の第1の誘電体セラミック層120a及び第2の誘電体セラミック層120bと複数対の第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122とをもって構成された積層構造を有している。グリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114は切断線Xに沿う切断によって現れた面であり、第1の端面115及び第2の端面116は切断線Yに沿う切断によって現れた面である。第1の側面113及び第2の側面114には、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122が露出している。また、第1の端面115には、第1の内部電極層121と第2の誘電体セラミック層120bのみが露出し、第2の端面116には、第2の内部電極層122と第2の誘電体セラミック層120bのみが露出している。
第1の誘電体セラミック層120aは、第1の側面113、第2の側面114、第1の端面115及び第2の端面116に露出しているが、第2の誘電体セラミック層は、配置される領域において露出している場所が異なる。
すなわち、第1の端面115側に配置される第2の誘電体セラミック層120bは、第2の端面116には露出しておらず、第2の端面116側に配置される第2の誘電体セラミック層120bは、第1の端面115には露出していない。
【0086】
得られたグリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114に、未焼成の第3の誘電体セラミック層を形成することにより、未焼成の積層体を作製する。未焼成の第3の誘電体セラミック層は、例えば、グリーンチップの第1の側面及び第2の側面に、誘電体セラミックからなるセラミックグリーンシートを貼り付けることにより形成される。
【0087】
例えば、第3の誘電体セラミック層がインナー層及びアウター層の2層から構成される場合、まず、インナー層用セラミックグリーンシートを作製するため、BaTiO3等を主成分とする誘電体セラミック材料を含むセラミック原料の他、バインダ及び溶剤等を含むセラミックスラリーを作製する。インナー層用セラミックスラリーには、焼結助剤であるSiが添加されてもよい。インナー層は、グリーンチップ110と接着するための役割を有する。
また、インナー層用セラミックスラリーに液相タイプの金属を入れてもよく、インナー層用セラミックスラリーに内層部を形成するためのセラミックグリーンシートよりも多くの希土類元素やMg、Mnを添加してもよい。このようにすることで内部電極層の幅方向端部で挟まれる誘電体セラミック層に含まれるセラミックグレインの粒成長を抑制することができる。
【0088】
次に、アウター層用セラミックグリーンシートを作製するため、BaTiO3等を主成分とする誘電体セラミック材料を含むセラミック原料の他、バインダ及び溶剤等を含むセラミックスラリーを作製する。また、アウター層用セラミックスラリーには、焼結助剤であるSiが添加されてもよい。また、インナー層用セラミックグリーンシートに含まれるSiは、アウター層用セラミックグリーンシートに含まれるSiより多いことが好ましい。含有率の多さは、断面をWDXにより撮像し、Siが検出された領域の面積の大小により判断される。
【0089】
樹脂フィルムの表面に、アウター層用セラミックスラリーを塗布し、乾燥することにより、アウター層用セラミックグリーンシートが形成される。樹脂フィルム上のアウター層用セラミックグリーンシートの表面に、インナー層用セラミックスラリーを塗布し、乾燥することにより、インナー層用セラミックグリーンシートが形成される。以上により、2層構造を有するセラミックグリーンシートが得られる。
【0090】
なお、2層構造を有するセラミックグリーンシートは、例えば、アウター層用セラミックグリーンシートとインナー層用セラミックグリーンシートのそれぞれを予め形成しておき、その後、それぞれを貼り合せることによっても得られる。また、セラミックグリーンシートは、2層に限らず、3層以上の複数層であってもよい。
【0091】
その後、樹脂フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離する。
【0092】
続いて、セラミックグリーンシートのインナー層用セラミックグリーンシートとグリーンチップ110の第1の側面113を対向させ、押し付けて打ち抜くことにより、未焼成のサイドマージン部41が形成される。さらに、グリーンチップ110の第2の側面114についても、セラミックグリーンシートのインナー層用セラミックグリーンシートを対向させ、押し付けて打ち抜くことにより、未焼成のサイドマージン部42が形成される。このとき、グリーンチップの側面には、予め、接着剤となる有機溶剤を塗布しておくことが好ましい。以上により、未焼成の積層体が得られる。
【0093】
上記の方法によって得られた未焼成の積層体に対して、バレル研磨等を施すことが好ましい。未焼成の積層体を研磨することにより、焼成後の積層体10の角部及び稜線部に丸みが付けられる。
【0094】
その後、未焼成の積層体において、グリーンチップ110の第1の端面115及び第2の端面116の各端面上に、Ni及びセラミック材料を含有する外部電極用導電性ペーストを塗布する。
【0095】
外部電極用導電性ペーストは、セラミック材料として、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層又はアウター層と同じ誘電体セラミック材料を含有することが好ましい。外部電極用導電性ペースト中のセラミック材料の含有率は、好ましくは15重量%以上である。また、外部電極用導電性ペースト中のセラミック材料の含有率は、好ましくは25重量%以下である。
【0096】
次に、外部電極用導電性ペーストが塗布された未焼成の積層体に対して、例えば、窒素雰囲気中、所定の条件で脱脂処理を行った後、窒素-水素-水蒸気混合雰囲気中、所定の温度で焼成する。これにより、未焼成の積層体及び外部電極用導電性ペーストが同時に焼成され、いわゆるコファイア法によって、積層体10と、第1の内部電極層21に接続されるNi層と、第2の内部電極層22に接続されるNi層とが同時に形成される。その後、各々のNi層の表面上に、Niめっきによる第1のめっき層と、Snめっきによる第2のめっき層とを順に積層させる。これにより、第1の外部電極51及び第2の外部電極52が形成される。
【0097】
なお、積層体10と、第1の外部電極51及び第2の外部電極52とは、いわゆるポストファイア法によって別々のタイミングで形成されてもよい。具体的には、まず、未焼成の積層体に対して、例えば、窒素雰囲気中、所定の条件で脱脂処理を行った後、窒素-水素-水蒸気混合雰囲気中、所定の温度で焼成することによって、積層体10を形成する。そして、積層体10の第1の端面15及び第2の端面16の各端面上に、Cu粉を含有する導電性ペーストを塗布して焼き付ける。これにより、第1の内部電極層21に接続される下地電極層と、第2の内部電極層22に接続される下地電極層とが形成される。そして、各々の下地電極層の表面上に、導電性粒子(例えば、Cu、Ag、Ni、等の金属粒子)及び樹脂を含有する導電性樹脂層と、Niめっきによる第1のめっき層と、Snめっきによる第2のめっき層とを順に積層させる。これにより、第1の外部電極51及び第2の外部電極52が形成される。
【0098】
以上により、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0099】
上述した実施形態では、マザーブロック104を切断線X及びYに切断して複数のグリーンチップを得てから、グリーンチップの両側面に未焼成の第3の誘電体セラミック層を形成していたが、以下のように変更することも可能である。
【0100】
すなわち、マザーブロックを切断線Xのみに沿って切断することによって、切断線Xに沿う切断によって現れた側面に第1の内部電極層及び第2の内部電極層が露出した、複数の棒状のグリーンブロック体を得てから、グリーンブロック体の両側面に未焼成の第3の誘電体セラミック層を形成した後、切断線Yに切断して複数の未焼成の積層体を得て、その後、未焼成の積層体を焼成してもよい。焼成後は、前述の実施形態と同様の工程を行うことによって、積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0101】
本発明は、以下の〔1〕~〔7〕の構成をさらに備える。
【0102】
〔1〕誘電体セラミック層と内部電極層及び外部電極との間の合金部
本発明の積層セラミックコンデンサ1において、
図11に示すように、第2の誘電体セラミック層20bと第1の内部電極層21との間、及び、第2の誘電体セラミック層20bと第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、第2の合金部320が形成されている。また、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第1の誘電体セラミック層20aと第1の内部電極層21との間、及び、第1の誘電体セラミック層20aと第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、第1の合金部310が形成されている。
【0103】
図12に示すように、第2の内部電極層22における第2の誘電体セラミック層20bとの界面2220bには、金属元素321aが偏析している。第2の合金部320は、金属元素321aによる層状の偏析である偏析層321により形成されている。これと同様に、第1の内部電極層21における第2の誘電体セラミック層20bとの界面2220bにも、金属元素321aが偏析して偏析層321が形成され、偏析層321による第2の合金部320が形成されている。第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22における第2の誘電体セラミック層20b側の表面には、それぞれ第2の合金部320が形成されている。第2の合金部320は、第1の内部電極層21と第2の誘電体セラミック層20bとの間及び第2の内部電極層22と第2の誘電体セラミック層20bとの間に形成されることになる。
【0104】
また、
図12に示すように、第2の内部電極層22における第1の誘電体セラミック層20aとの界面2220aには、金属元素311aが偏析している。第1の合金部310は、金属元素311aによる層状の偏析である偏析層311により形成されている。これと同様に、第1の内部電極層21における第1の誘電体セラミック層20aとの界面2220aには、金属元素311aが偏析して偏析層311が形成され、偏析層311による第1の合金部310が形成されている。第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22における第1の誘電体セラミック層20a側の表面には、それぞれ第1の合金部310が形成されることになる。第1の合金部310は、第1の内部電極層21と第1の誘電体セラミック層20aとの間及び第2の内部電極層22と第1の誘電体セラミック層20aとの間に形成されることになる。
【0105】
第2の合金部320を形成する偏析した金属元素321aは、複数の種類が存在する。偏析層321を形成する複数種類の金属元素321aとしては、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、第2の誘電体セラミック層20bに由来する元素と、を含む。また、第1の合金部310を形成する偏析した金属元素311aも同様である。すなわち、金属元素311aは、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、第1の誘電体セラミック層20aに由来する元素と、を含む。
【0106】
第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素としては、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Au、Ptのうちの1種類が挙げられる。一方、第2の誘電体セラミック層20b及び第1の誘電体セラミック層20aに由来する元素としては、例えば、添加剤としての金属元素が挙げられる。具体的には、Sn、In、Ga、Zn、Bi、Pb、Cu、Ag、Pd、Pt、Ph、Ir、Ru、Os、Fe、V、Y、Geの金属群のうちのいずれか1種類以上の金属元素が挙げられ、この中では、Sn、Ga、Geが特に好ましい。以下、当該金属群を金属群Mと称する場合がある。
【0107】
金属元素321aの偏析は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる金属元素が、第2の誘電体セラミック層20bの焼成時に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動することにより生じる。また、金属元素311aの偏析は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる金属元素が、第1の誘電体セラミック層20aの焼成時に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動することにより生じる。
【0108】
第1の誘電体セラミック層20aが、BaTiO3を主成分とする場合、第2の合金部320は、第1の合金部310よりも、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる金属元素、すなわち上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上、の含有率におけるTi100モルに対するモル比が高い。
【0109】
図13は、積層体10の、幅(W)方向中央部、長さ(L)方向及び積層(T)方向、を含む面を示している。本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、
図13に示す面において、第1の内部電極層21は、第2の外部電極52に接続されていない長さ(L)方向の端部に、長さ(L)方向に不連続に点在する複数の第1の点在内部電極210を含む。また、第2の内部電極層22は、第1の外部電極51に接続されていない長さ(L)方向の端部に、長さ(L)方向に不連続に点在する複数の第2の点在内部電極220を含む。第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220のそれぞれは、第2の誘電体セラミック層20bの内部に形成されている。複数の第1の点在内部電極210は、幅(W)方向に延びながら第1の内部電極層21に繋がっている場合がある。また、複数の第2の点在内部電極220も、幅(W)方向に延びながら第2の内部電極層22に繋がっている場合がある。
【0110】
第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220のそれぞれの周囲には、第4の合金部340が形成されている。第4の合金部340は、金属元素341aによる層状の偏析である偏析層341により形成されている。金属元素341aは、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、第2の誘電体セラミック層20bに由来する上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む。
【0111】
金属元素341aの偏析は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる金属元素が、第2の誘電体セラミック層20bの焼成時に第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220に移動することにより生じる。なお、金属元素341aの偏析は、1つあるいは複数の第1の点在内部電極210及び複数の第2の点在内部電極220の周囲に生じる。あるいは、第1の点在内部電極210の全体の周囲及び第2の点在内部電極220の全体の周囲に生じる場合もある。
【0112】
図14に示すように、本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第3の誘電体セラミック層41及び42と第1の内部電極層21との間、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42と第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、第3の合金部330が形成されている。
【0113】
図14に示すように、第1の内部電極層21における第3の誘電体セラミック層41及び42との界面2220cには、金属元素331aが偏析している。また、第2の内部電極層22における第3の誘電体セラミック層41及び42との界面2220cにも、金属元素331aが偏析している。第3の合金部330は、金属元素331aによる層状の偏析、すなわち偏析層331により形成されている。第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22における第3の誘電体セラミック層41側及び42側の表面には、それぞれ第3の合金部330が形成されることになる。第3の合金部330は、第1の内部電極層21と第3の誘電体セラミック層41及び42との間、及び、第2の内部電極層22と第3の誘電体セラミック層41及び42との間、のそれぞれに形成されることになる。
【0114】
金属元素331aは、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、第3の誘電体セラミック層41及び42に由来する上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む。第3の誘電体セラミック層41及び42に由来する元素としては、例えば、添加剤としての金属元素等が挙げられる。具体的には、上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素が挙げられる。
【0115】
金属元素331aの偏析は、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる金属元素が、第3の誘電体セラミック層41及び42の焼成時に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動することにより生じる。
【0116】
本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第1の外部電極51及び第2の外部電極52が、それぞれ下地電極層としてNi層を含み、かつ、コファイア法で形成される場合、
図15に示すように、そのNi層に、第5の合金部350が形成される。
【0117】
図15は、第1の外部電極51における第2の誘電体セラミック層20bとの界面51bに、第5の合金部350が形成されている状態を示している。第5の合金部350は、金属元素351aによる層状の偏析である偏析層351により形成されている。これと同様に、第2の外部電極52における第2の誘電体セラミック層20bとの界面51bにも、金属元素351aの偏析による第5の合金部350が形成されている。金属元素351aの偏析は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる金属元素が、第2の誘電体セラミック層20bの焼成時に第1の外部電極51及び第2の外部電極52に移動することにより生じる。
【0118】
なお、本発明の積層セラミックコンデンサ1の積層体10においては、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22と、第2の誘電体セラミック層20bとの、互いに隣接する端部は、互いに重畳する態様であってよい。例えば、
図16に示すように、第2の誘電体セラミック層20bの端部が第2の内部電極層22の端部の上に重畳していてもよい。また、
図17に示すように、第2の誘電体セラミック層20bの端部が第1の内部電極層21の端部の上に重畳していてもよい。このように端部が重畳する態様においては、第2の誘電体セラミック層20bの上に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22がそれぞれ重畳していてもよい。
【0119】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第2の誘電体セラミック層20bと第1の内部電極層21との間、及び、第2の誘電体セラミック層20bと第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、内部電極層を構成する金属元素のうち最も多く含まれる一の金属元素と、Sn、In、Ga、Zn、Bi、Pb、Cu、Ag、Pd、Pt、Ph、Ir、Ru、Os、Fe、V、Yの金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む第2の合金部320が形成されている。
【0120】
第2の誘電体セラミック層20bに接触する第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれの端部には、電界が集中しやすく、そのため、積層セラミックコンデンサとしての信頼性を低下させるおそれがあった。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第2の誘電体セラミック層20bと、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22との間に、第2の合金部320が形成されることにより、電界集中が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0121】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の誘電体セラミック層20aがBa及びTiを含む場合において、第1の誘電体セラミック層20aと第1の内部電極層21との間、及び、第1の誘電体セラミック層20aと第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、内部電極層を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む第1の合金部310が形成される。第2の合金部320は、第1の合金部310よりも、上記金属群Mの含有率におけるTi100モルに対するモル比が高い。
【0122】
これにより、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22における第2の誘電体セラミック層20bとの界面の近傍部分は、第2の合金部320によって電界集中が抑制され、信頼性を向上させることができる。また、電界集中が起こりやすい第2の誘電体セラミック層20bに接触する第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22の端部に形成する第2の合金部320を、第1の誘電体セラミック層20a側に形成される第1の合金部310よりも、金属群Mの含有率におけるTi100モルに対するモル比を高くすることにより、第2の誘電体セラミック層20b側の電界集中を効果的に抑制して、信頼性をより向上させることができる。
【0123】
第1の誘電体セラミック層20a及び第2の誘電体セラミック層20bのそれぞれに添加される金属群Mの金属量をコントロールされることによって、第1の合金部310及び第2の合金部320の厚みと、含有される金属群Mの濃度はコントロールされることが可能となる。例えば、第2の誘電体セラミック層20bに添加される金属群Mの濃度が第1の誘電体セラミック層20aより高い場合、
図12に示すように、第2の誘電体セラミック層20bに近づくにしたがって第2の合金部320の厚みが増大するか、あるいは金属群Mの濃度が濃くなり、場合によってはそれら両方の変化が生じる。
【0124】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、積層体10の、幅(W)方向中央部、長さ(L)方向及び積層(T)方向、を含む面において、第1の内部電極層21は、第2の外部電極52に接続されていない長さ(L)方向の端部に、長さ(L)方向に不連続に点在する第1の点在内部電極210を含み、第2の内部電極層22は、第1の外部電極51に接続されていない長さ(L)方向の端部に、長さ(L)方向に不連続に点在する第2の点在内部電極220を含み、第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220のそれぞれの周囲に、内部電極層を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む第4の合金部340が形成されている。
【0125】
第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220が、幅(W)方向に延びながら第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22にそれぞれ繋がっている場合、その繋がり部分に電界が集中すると、絶縁破壊が起こって信頼性が低下するおそれがある。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第1の点在内部電極210及び第2の点在内部電極220のそれぞれの周囲に形成された第4の合金部340により、電界集中による絶縁破壊が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0126】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第3の誘電体セラミック層41及び42と第1の内部電極層21との間、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42と第2の内部電極層22との間、のそれぞれに、内部電極層を構成する金属元素のうち最も多く含まれる金属元素と、上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素と、を含む第3の合金部330が形成されている。
【0127】
これにより、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22における第3の誘電体セラミック層41及び42との界面の近傍部分は、第3の合金部330によって電界集中が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0128】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の外部電極51及び第2の外部電極52はNiを含み、第2の誘電体セラミック層20bと、第1の外部電極51及び第2の外部電極52と、の間に、上記金属群Mのうちのいずれか1種類以上の金属元素がNiに偏析した第5の合金部350が形成されている。
【0129】
これにより、第1の内部電極層21と第2の外部電極52との間、及び、第2の内部電極層22と第1の外部電極51との間の間隔、すなわち第2の誘電体セラミック層20bの長さ(L)方向の距離が、例えば15μm未満となるような狭い場合においても、第5の合金部350が存在することにより、内部電極層と外部電極間で電界集中による絶縁破壊が起こりにくく、よって、信頼性が向上する。
【0130】
[試験例1]
次に、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第1の合金部310、第2の合金部320及び第3の合金部330の効果を検証する試験例1について説明する。
【0131】
・TEM分析について
上述した本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、第1の外部電極51及び第2の外部電極52をコファイアせず、グリーンチップ110を焼成して得られた積層体10に対して、第1の側面13側及び第2の側面14側から研磨して、
図18に示すような、幅(W)方向の中央部を残した研磨体を試験体として得る。
第1の合金部310が含有する金属元素の種類及び金属量(金属濃度)を、以下のようにして分析した。
図18に示すように、長さ(L)方向の中央部において、長さ(L)方向と直交する仮想線OL1を想定した。そして、仮想線OL1に沿って、研磨体の静電容量の取得に係る第1の誘電体セラミック層20aと、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22とが積層された領域を積層方向に3等分し、上部領域E1、中央領域E2及び下部領域E3の3つの領域に分ける。
研磨体から上部領域E1、中央領域E2及び下部領域E3を切り出し、上部領域E1、中央領域E2及び下部領域E3のそれぞれを、Arイオンミリングなどにより薄膜化して、各領域からそれぞれ3つの薄膜試料を得る。
【0132】
以上のようにして得られた試験体の上部領域E1、中央領域E2及び下部領域E3の3つの薄膜試料について、TEM観察及びTEMに付属しているEDXによる元素マッピングを行なった。
その結果、上部領域E1及び下部領域E3と、中央領域E2とでは、有意差が見られなかったため、中央領域E2から得られた結果を、誘電体セラミック層及び内部電極層の微細構造とみなす。その結果、第1の合金部310が含有する金属元素の種類及び金属量(金属濃度)がわかる。
また、第2の合金部320が含有する金属元素の種類及び金属量(金属濃度)は、第2の合金部320が存在する長さ(L)方向の一端部の領域で上記と同様に薄膜試料を得ることにより分析できる。すなわち、
図18に示す研磨体において、長さ(L)方向の一端部で、長さ(L)方向と直交する仮想線OL2を想定し、仮想線OL2に沿って積層方向に3等分した上部領域E4、中央領域E5及び下部領域E6の3つの領域の薄膜試料を得る。そして、上部領域E4、中央領域E5及び下部領域E6の3つの薄膜試料について、TEM観察及びTEMに付属しているEDXによる元素マッピングを行ない、第2の合金部320が含有する金属元素の種類及び金属量(金属濃度)を調べた。
【0133】
第2の合金部及び第1の合金部については、TEM観察像によるEDXマッピング像による分析により、Snの濃度を調べた。TEMの測定点は、約5nm~10nm間隔で測定した。内部電極層と誘電体セラミック層との界面において、他の測定箇所より3倍以上の観測値を得られた領域を合金部とし、その平均値を合金部の金属濃度とする。
【0134】
表1に示す試験例1-1~1-5の積層セラミックコンデンサを、それぞれ18個ずつ用意した。試験例1-2は、本発明の積層セラミックコンデンサにおいて、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22をNiで構成し、第1の誘電体セラミック層20a及び第2の誘電体セラミック層20bに、添加剤としてのSnを同量添加した。試験例1-3~1-5は、試験例1-2よりも、第2の誘電体セラミック層20bへのSnの添加量をしだいに多くしている。また、試験例1-1は、第2の誘電体セラミック層20bにSnを添加しない点以外は、試験例1-2~1-5と同じ条件の積層セラミックコンデンサとした。
【0135】
試験例1-1~1-5の積層セラミックコンデンサについて、室温150°の環境下で、6.3Vの電圧を印加した状態で抵抗値(kΩ)を測定し、MTTF(平均故障時間)を調べ、判定を行った。MTTFは、抵抗値が10kΩ以下となった時点とし、MTTFが15.3時間(hr)以下であった場合の判定を×とし、15.3時間(hr)を超えて30時間までを判定〇(良好)、30時間超を判定◎(優良)と判定した。その結果を、表1に併記する。なお、内部電極層のカバレッジは80%を切る場合は、静電容量がとりにくくなるため、測定不能とした。
【0136】
【0137】
表1によれば、第2の合金部が形成されることにより、MTTFは規定時間である15.3時間をいずれも超えて良好であり、Snの濃度が高ければ高いほど良好であることがわかる。一方、Snによる第2の合金部が形成されない試験例1-1は、MTTFが規定時間を超えることができなかった。これにより、第2の合金部が積層セラミックコンデンサの信頼性を高めることが確かめられた。
【0138】
次に、試験例1-1の他に、表2に示す試験例1-6~1-9の積層セラミックコンデンサを、それぞれ18個ずつ用意した。試験例1-6は、上記試験例1-2において、さらに第3の誘電体セラミック層に添加剤としてのSnを第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層と同量添加した。試験例1-7~1-9は、試験例1-6よりも、第3の誘電体セラミック層へのSnの添加量をしだいに多くしている。試験例1-1は、第3の誘電体セラミック層にSnは添加していない。
【0139】
試験例1-1及び1-6~1-9について、上記試験例1-1~1-5と同じ要領でMTTF判定を行った。その結果を、表2に示す。
【0140】
【0141】
表2によれば、第2の合金部とともに第3の合金部が形成されることにより、MTTFは規定時間である15.3時間をいずれも超えて良好であり、Snの濃度が高ければ高いほど良好であることがわかる。一方、Snによる第2の合金部及び第3の合金部がともに形成されない試験例1-1は、MTTFが規定時間を超えることができなかった。これにより、第2の合金部及び第3の合金部が積層セラミックコンデンサの信頼性を高めることが確かめられた。
【0142】
〔2〕交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径
図19は、本発明の積層セラミックコンデンサ1の、長さ(L)方向及び幅(W)方向を含む面であって、第2の誘電体セラミック層20b及び第2の内部電極層22を含む面を示している。
図19に示すように、積層セラミックコンデンサ1における第1の端面15側の端部の幅(W)方向両側は、第2の誘電体セラミック層20bと、第2の内部電極層22と、第3の誘電体セラミック層41及び42とにより囲まれた界面の交点400を有している。この交点400は、第2の誘電体セラミック層20bと第2の内部電極層22との界面2220bと、第3の誘電体セラミック層41及び42における幅(W)方向内側の面401との交点である。また、これと同様に、第2の端面16側の端部の幅(W)方向両側も、第2の誘電体セラミック層20bと、第1の内部電極層21と、第3の誘電体セラミック層41及び42とにより囲まれた界面の交点400を有している。
【0143】
交点400を中心とした半径5μmの円400rの内側の領域は、第2の交点近傍領域420として定義される。交点400を中心とした半径5μmの円400rの内側の領域は、第3の交点近傍領域430として定義される。円400rの内側の領域には、円400rの線上も含まれる。以下の説明では、第2の誘電体セラミック層20b側の第2の交点近傍領域420と、第3の誘電体セラミック層41及び42側の第3の交点近傍領域430とをまとめて、交点近傍領域440という場合がある。
第2の交点近傍領域420の内側の領域には、第2の誘電体セラミック層20bの一部が含まれる。第3の交点近傍領域430の内側の領域には、第3の誘電体セラミック層41及び42の一部が含まれる。
【0144】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、
(A)各交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0145】
(B)また、その小ささの比率としては、5%以上小さいと好ましい。
【0146】
なお、この場合の第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径とは、第2の交点近傍領域420以外の部分における第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径をいい、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径とは、第3の交点近傍領域430以外の部分における第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径をいう。
【0147】
上記の構成(A)又は(B)を有する本発明の積層セラミックコンデンサ1は、さらに、以下の(C)~(I)の構成のいずれかを有すると好ましい。
【0148】
(C)第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差は5%以内であり、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径及び第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径のいずれの平均粒子径よりも大きく、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径の、いずれの平均粒子径よりも小さい。
【0149】
(D)第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差は5%以内であり、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径及び第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径のいずれの平均粒子径よりも小さく、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0150】
(E)第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差は5%以内であり、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径のいずれの平均粒子径よりも小さく、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0151】
(F)第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差、及び、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径と、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径との差、のいずれもが5%以内であり、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径のいずれの平均粒子径よりも小さい。
【0152】
(G)第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さく、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さく、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0153】
(H)第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さく、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さく、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0154】
(I)交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さく、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径又は第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0155】
第1の誘電体セラミック層20a、第2の誘電体セラミック層20b、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、各誘電体セラミック層を形成する誘電体セラミックスラリーに含まれるSi、Mnなどに代表される焼結助剤の量を調整し、さらに焼成温度を調整することでコントロールすることができる。
【0156】
上記のように、本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径が、交点近傍領域440の周囲の第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。
【0157】
交点近傍領域440には電界が集中しやすく、電界集中が起こると積層セラミックコンデンサとしての信頼性を低下させるおそれがある。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径が、その周囲の第1の誘電体セラミック層20a、第2の誘電体セラミック層20b、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42のそれぞれに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい。このように平均粒子径が小さいことにより、粒界が多数存在して電界集中が抑制される。その結果、積層セラミックコンデンサとしての信頼性を向上させることができる。
【0158】
[試験例2]
次に、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径が、その周囲の第1の誘電体セラミック層20a、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42のそれぞれに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さいことが優位であることを検証する試験例2について説明する。
【0159】
第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層のそれぞれに含まれる誘電体粒子の平均粒子径は、以下のように測定する。
【0160】
(第1の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径)
上述した本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、第1の外部電極51及び第2の外部電極52をコファイアせず、グリーンチップ110を焼成して得られた積層体10に対して、第1の端面15側もしくは第2の端面16側から研磨して、
図20に示すように、長さ(L)方向の中央部を残した研磨体を試験体として得る。
図20に示すように、幅(W)方向の中央部において、幅(W)方向と直交する仮想線OS1を想定した。そして、仮想線OS1に沿って、研磨体の静電容量の取得に係る第1の誘電体セラミック層20aと、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22とが積層された領域を積層方向に3等分し、上部領域F1、中央領域F2及び下部領域F3の3つの領域に分けた。各領域F1、F2及びF3のそれぞれを、視野サイズ4.3μm×3.2μmで第1の誘電体セラミック層20aを撮像して、各領域F1、F2及びF3ごとに、誘電体粒子20個につき、画像処理によって面積を測定した。そして、測定した面積から円相当径を算出して平均を取ることで、平均粒子径とした。上部領域F1、中央領域F2及び下部領域F3のそれぞれで平均粒子径を測定し、その測定値に有意差が見られなかったため、中央領域F2の平均粒子径を、第1の誘電体セラミック層の平均粒子径とみなす。
【0161】
(第3の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径)
図20に示す試験体において、複数の第1の内部電極層21及び複数の第2の内部電極層22の、第1の側面13側もしくは第2の側面14側の端部を積層(T)方向につないだ仮想線を想定する。
図20では、複数の第1の内部電極層21及び複数の第2の内部電極層22の、第2の側面14側の端部を積層(T)方向につないだ仮想線OS3を示している。
図21に示すように、仮想線OS3から、第3の誘電体セラミック層42側に5μmの範囲の視野サイズ4.3μm×3.2μmで第3の誘電体セラミック層42を撮像して、各領域F1、F2及びF3ごとに、誘電体粒子20個につき、画像処理によって面積を測定した。
図21の符号42Fは、撮像領域を示す。そして、測定した面積から円相当径を算出して平均を取ることで、平均粒子径とした。上部領域F1、中央領域F2及び下部領域F3のそれぞれで平均粒子径を測定し、その測定値に有意差が見られなかったため、中央領域F2の平均粒子径を、第3の誘電体セラミック層の平均粒子径とみなす。
【0162】
(第2の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径)
積層体10を、第1の端面15側もしくは第2の端面16側から、少なくとも一方の内部電極層が現れる直前まで研磨する。例えば
図22に示すように、第2の端面16側から、第2の内部電極層22が現れる直前の面Jまで研磨する。
図23に示すように、幅(W)方向の中央部において、幅(W)方向と直交する仮想線OS2を想定した。そして、仮想線OS2に沿って、第2の誘電体セラミック層20bを積層方向に3等分し、上部領域G1、中央領域G2及び下部領域G3の3つの領域に分けた。各領域G1、G2及びG3のそれぞれを、視野サイズ4.3μm×3.2μmで第2の誘電体セラミック層を撮像して、各領域G1、G2及びG3ごとに、誘電体粒子20個につき、画像処理によって面積を測定した。そして、測定した面積から円相当径を算出して平均を取ることで、平均粒子径とした。上部領域G1、中央領域G2及び下部領域G3のそれぞれで平均粒子径を測定し、その測定値に有意差が見られなかったため、中央領域G2の平均粒子径を、第2の誘電体セラミック層の平均粒子径とみなす。
【0163】
(交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径)
図23に示す試験体において、複数の第1の内部電極層21及び複数の第2の内部電極層22の、第2の側面14側の端部を積層(T)方向につないだ仮想線OS4を想定する。そして、仮想線OS4に沿って、交点近傍領域440を含む仮想線OS4の幅(W)方向両側の領域を積層方向に3等分し、上部領域H1、中央領域H2及び下部領域H3の3つの領域に分けた。
図24に示すように、仮想線OS4の幅(W)方向両側に5μmの範囲の視野サイズ4.3μm×3.2μmで第2の誘電体セラミック層20b及び第3の誘電体セラミック層42を撮像して、各領域F1、F2及びF3ごとに、誘電体粒子20個につき、画像処理によって面積を測定した。
図24の符号42Hは、撮像領域を示す。そして、測定した面積から円相当径を算出して平均を取ることで、平均粒子径とした。上部領域H1、中央領域H2及び下部領域H3のそれぞれで平均粒子径を測定し、その測定値に有意差が見られなかったため、中央領域H2の平均粒子径を、交点近傍領域440の平均粒子径とみなす。
【0164】
上述した(C)~(I)に該当する積層セラミックコンデンサとして、表3に示す試験例2-1~2-24を用意した。また、試験例2-25~2-27は、交点近傍領域440に含まれる誘電体粒子の平均粒子径が、第1の誘電体セラミック層20aに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる誘電体粒子の平均粒子径、及び、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる誘電体粒子の平均粒子径、のいずれの平均粒子径よりも大きいものとした。これら試験例2-1~2-27について、上述した測定方法により平均粒子径を調べた。
【0165】
なお、表3において、平均粒子径の比較の項目における「第1」は第1の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径であり、「第2」は第2の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径であり、「第3」は第3の誘電体セラミック層に含まれる誘電体粒子の平均粒子径であり、「交点」は交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径である。
【0166】
一方、試験例2-25~2-27の積層セラミックコンデンサについて、室温150°の環境下で、6.3Vの電圧を印加した状態で抵抗値(kΩ)を測定し、MTTF(平均故障時間)を調べ、判定を行った。MTTFは、抵抗値が10kΩ以下となった時点とし、MTTFが15.3時間(hr)以下であった場合の判定を×とし、15.3時間(hr)を超えて30時間までを判定〇(良好)、30時間超を判定◎(優良)と判定した。その結果を、表3に併記する。なお、内部電極層のカバレッジは80%を切る場合は、静電容量がとりにくくなるため、測定不能とした。
【0167】
【0168】
表3によれば、交点近傍領域に含まれる誘電体粒子の平均粒子径が、第1の誘電体セラミック層、第2の誘電体セラミック層及び第3の誘電体セラミック層のそれぞれに含まれる誘電体粒子の平均粒子径よりも小さい場合に、MTTFは大きくなり、積層セラミックコンデンサの信頼性が高まることが確かめられた。
【0169】
〔3〕積層体の側面を除去する工程を追加した製造方法
上述した本発明の積層セラミックコンデンサ1の製造方法においては、未焼成の積層体10であるグリーンチップ110を得るにあたり、未焼成の第1の誘電体セラミック層120aに、未焼成の第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122を印刷する工程と、第1の誘電体セラミック層120aにおける、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122が印刷されている領域以外に未焼成の第2の誘電体セラミック層120bを形成する工程と、複数の第1の誘電体セラミック層120aを積層してグリーンチップ110を形成する工程と、マザーブロック104を切断することにより、個々のグリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114から、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122、第1の誘電体セラミック層120a、及び、第2の誘電体セラミック層120bを露出させる工程と、個々のグリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114に、未焼成の第3の誘電体セラミック層(サイドマージン部41及び42)を貼り合わせて形成する工程と、を含んでいる。
ここで、グリーンチップ110は、積層体の一例である。第1の誘電体セラミック層120aは、誘電体層の一例である。第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122は、内部電極パターンの一例である。第2の誘電体セラミック層120bは、誘電体パターンの一例である。第1の側面113及び第2の側面114は、側面の一例である。未焼成の第3の誘電体セラミック層であるサイドマージン部41及び42は、誘電体ギャップ層の一例である。
【0170】
この製造方法において、マザーブロック104を切断することにより、グリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114から、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122、第1の誘電体セラミック層120a、及び、第2の誘電体セラミック層120bを露出させる工程の後であって、グリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114に、第3の誘電体セラミック層をそれぞれ貼り合わせて形成する工程の前に、第1の側面113及び第2の側面114に対して、ある程度の厚みを除去する除去工程を追加することができる。これにより、第1の側面113及び第2の側面114に露出する第1の誘電体セラミック層120a、第2の誘電体セラミック層120b、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の側面が除去される。
【0171】
図25は、グリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114を、一定の厚み(例えば、1μm以下)除去して、平坦化した状態を示している。
図25において、左側が除去工程前、右側が除去工程後を示している。グリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114は、マザーブロック104を切断して複数のグリーンチップ110を得た際に、切断方向である図中下側に掛かる応力により、
図25に示すように側面が僅かに下方に流動して塑性変形する場合がある。また、その切断面が十分に平滑でなかったり、切断面に異物が存在したりする場合もある。そこで、変形部分がなくなる程度の厚みを除去する。このようにして第1の側面113及び第2の側面114を除去する手段は限定されないが、例えば、適宜な研磨手段による研磨が好適とされる。
【0172】
図26に示すように、上記除去工程後の第1の側面113及び第2の側面114は、平滑な面に形成されるとともに、異物が除去された面となる。この除去工程後の第1の側面113及び第2の側面114に、第3の誘電体セラミック層(サイドマージン部41及び42)を貼り合わせて形成する。
【0173】
本発明では、第2の誘電体セラミック層20b、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれは、樹脂を含んでもよい。樹脂は、製造時の材料に添加することにより含有させることができる。すなわち、第2の誘電体セラミック層20bでは誘電体ペーストに樹脂が含まれ、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22では導電性ペーストに樹脂が含まれる。
【0174】
誘電体ペースト及び導電性ペーストに含まれる樹脂は、バインダとしての機能や、材料の粘性向上等を目的として添加される。そのような樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール等のポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等のイミド系樹脂、ポリエチレンオキサイド等のエチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメタリロニトリル等のニトリル系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル等のビニル系樹脂、スチレンブタジエンゴム等のゴム系樹脂等を含有するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0175】
また、樹脂の含有量としては、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる含有量と第1の誘電体セラミック層20aに含まれる含有量とが異なっていることが好ましい。第1の誘電体セラミック層20a及び第2の誘電体セラミック層20bの樹脂含有量は、例えば、30wt%以上50wt%以下が好ましい。この範囲で第1の誘電体セラミック層及び第2の誘電体セラミック層20bの樹脂含有量が互いに異なることが好ましい。
【0176】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第1の誘電体セラミック層120aの厚みは、0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の厚みは、0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
【0177】
また、グリーンチップ110を形成するにあたり、第2の内部電極層122の一部は、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の一部と重畳している態様であってよい。具体的には、第2の誘電体セラミック層120bと、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122との、長さ(L)方向に互いに隣接する端部が、互いに重畳する態様であってよい。例えば、
図27に示すように、長さ(L)方向において、第2の誘電体セラミック層120bの端部が第1の内部電極層121の端部の上に重畳していてもよい。これと同様に、第2の誘電体セラミック層120bの端部が第2の内部電極層122の端部の上に重畳していてもよい。このように長さ(L)方向の端部が重畳する態様においては、第2の誘電体セラミック層120bの端部の上に第1の内部電極層121の端部及び第2の誘電体セラミック層120bの端部が重畳していてもよい。
【0178】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、未焼成の積層体10であるグリーンチップ110の第1の側面113及び第2の側面114を、一定の厚み除去した後、第1の側面113及び第2の側面114に未焼成の第3の誘電体セラミック層を貼り付けて形成する。これにより、第1の側面113及び第2の側面114に対して、未焼成の第3の誘電体セラミック層を平滑で綺麗な状態に形成することができる。
【0179】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法において、第1の側面113及び第2の側面114を研磨により除去することにより、第1の側面113及び第2の側面114を、容易、かつ的確に所定厚みの除去量をもって除去することができる。
【0180】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第2の誘電体セラミック層120bは樹脂を含み、その樹脂量は、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122に含まれる樹脂量より多いことが好ましい。これにより、第2の誘電体セラミック層120bの粘性が比較的高まり、マザーブロック104を切断した際の第2の誘電体セラミック層20bの切断面の割れや欠けといった不具合の発生を抑制することができる。
【0181】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第1の誘電体セラミック層120aの厚みは、0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の厚みは、0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。このような厚みを、未焼成の誘電体層及び内部電極層が有することにより、焼成後の第1の誘電体セラミック層20a、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を、適切な厚みに形成することができる。
【0182】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法においては、第2の内部電極層122の一部は、第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122と重畳していてもよい。これにより、焼成後においては、第2の誘電体セラミック層20bを隙間なく十分な厚みをもって配置することができる。
【0183】
〔4〕第2の誘電体セラミック層の欠損部
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、
図28及び
図29に示すように、少なくとも1つの第2の誘電体セラミック層20bと一方の第3の誘電体セラミック層42との間に、第2の誘電体セラミック層20bの一部が欠損した欠損部520を有する。また、これと同様に、少なくとも1つの第2の誘電体セラミック層20bと他方の第3の誘電体セラミック層41との間に、第2の誘電体セラミック層20bの一部が欠損した欠損部520を有する。
【0184】
欠損部520は、第2の誘電体セラミック層20bが配置される領域、すなわち、積層体10の長さ(L)方向において、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない端部と第2の外部電極52との間、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない端部と第1の外部電極51との間、のうちの少なくとも一方の領域において、積層(T)方向及び幅(W)方向を含む面においては積層(T)方向の位置が第1の誘電体セラミック層20aの間であり、幅(W)方向の位置においては第2の誘電体セラミック層20bと第3の誘電体セラミック層41又は42との間に形成されている。
【0185】
未焼成の積層体10であるグリーンチップ110を作製する際、未焼成の第2の誘電体セラミック層120bの側面に加工を施し、その後焼成することにより、第2の誘電体セラミック層20bの側面に欠損部520を有する積層体10が得られる。欠損部520を得る加工方法は任意であり、例えば、適当な工具などで穿設することにより形成することができる。
【0186】
また、上述した「積層体の側面を除去する工程を追加した製造方法」において、未焼成のグリーンチップ110の第1の側面113又は第2の側面114を、研磨等の手段で除去した際に、第2の誘電体セラミック層20bの側面の一部が欠落して微細な穴が空く場合がある。そのように穴が生じた場合、その穴を欠損部520とすることも可能である。欠損部520は、全ての第2の内部電極層22の側面に形成されていなくてもよく、長さ(L)方向の両端部において、第1の側面13側及び第2の側面14側のそれぞれに1つ以上形成されていればよい。
【0187】
また、
図28及び
図29に示すように、欠損部520に、Siの偏析530が配置されていてもよい。Siの偏析530は、第2の誘電体セラミック層20bに添加剤として添加されたSiの偏析である。
【0188】
Siの偏析530の大きさは円相当径の直径でみて、第2の誘電体セラミック層20bの厚みの1/3より大きい方が好ましい。また、100nm以上600nm以下であってもよい。
【0189】
欠損部520は、第1の内部電極層21又は第2の内部電極層22に近接して配置されていることが好ましい。
図29では、第2の内部電極層22の長さ(L)方向の端部に近接して欠損部520が配置されている。これと同様に、第1の内部電極層21の長さ(L)方向の端部に近接して欠損部520が配置されていると好ましい。
【0190】
Siの偏析530の寸法は、幅(W)方向において、第3の誘電体セラミック層41及び42の寸法の0.1%以上5%以下であることが好ましい。
【0191】
本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第2の誘電体セラミック層20bが配置される領域、すなわち、積層体10の長さ(L)方向において、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と端部と第2の外部電極52との間、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない端部と第1の外部電極51との間、のうちの少なくとも一方の領域において、積層(T)方向及び幅(W)方向を含む面においては積層(T)方向の位置が第1の誘電体セラミック層20aの間であり、幅(W)方向の位置においては第2の誘電体セラミック層20bと第3の誘電体セラミック層41及び42との間に、欠損部520を有する。
【0192】
これにより、焼成時において第2の誘電体セラミック層20bに生じる応力を、欠損部520によって緩和させることが可能である。その結果、第2の誘電体セラミック層20bに割れや欠けが生じることを抑制することができる。
【0193】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、欠損部520に、Siの偏析530が配置されていることがある。欠損部520に偏析530が存在する場合、偏析530によって水分の侵入が抑制される。欠損部520に偏析530が存在することによって、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性が向上する。偏析530は、欠損部520のすべてに存在していてもよいし、欠損部520の一部に存在していてもよい。偏析530が存在する欠損部520によって、第2の誘電体セラミック層20bに割れや欠けが生じることを抑制することができるとともに、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性も向上可能となる。
【0194】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、Siの偏析530は、第2の誘電体セラミック層20bの厚みの1/3以上(もしくは未満)である。
【0195】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、欠損部520は、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に近接して配置されている。第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に近接する領域は、焼成時に生じる応力が比較的大きいが、その応力は、欠損部520によって緩和されるため、割れや欠けの発生を効果的に抑制することができる。
【0196】
本発明の積層セラミックコンデンサ1において、幅方向において、Siの偏析530の寸法は、第3の誘電体セラミック層41及び42の寸法の0.1%以上5%以下であることが好ましい。欠損部520にSiの偏析530が存在する場合には、割れや欠けの発生を効果的に抑制できるととともに、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性も向上可能となる。
【0197】
〔5〕第2の誘電体セラミック層の内部電極層側の端部に形成される偏析
図30に示すように、本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない長さ(L)方向の端部には、第1の偏析610が存在していてもよい。また、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない長さ(L)方向の端部に、第1の偏析610が存在していてもよい。
【0198】
図31に示すように、第1の偏析610は、第2の誘電体セラミック層20bに由来する金属元素610aが層状に偏析して生じたものである。金属元素610aとしては、例えば、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類が挙げられる。金属元素610aによる偏析610は、第2の誘電体セラミック層20bに含まれる金属元素が、第2の誘電体セラミック層20bの焼成時に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動することにより生じる。
【0199】
一方、
図32に示すように、第1の内部電極層21の幅(W)方向の端部には、第2の偏析620が存在していてもよい。また、第2の内部電極層22の幅(W)方向の端部に、第2の偏析620が存在していてもよい。
【0200】
第2の偏析620は、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に接触する第3の誘電体セラミック層41及び42に由来する金属元素620aが層状に偏析して生じたものである。金属元素620aとしては、例えば、第1の偏析610と同様であって、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類が挙げられる。金属元素620aによる偏析620は、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれる金属元素が、第3の誘電体セラミック層41及び42の焼成時に第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動することにより生じる。
【0201】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21に偏析した第1の偏析610と、第2の内部電極層22に偏析した第1の偏析610と、第1の内部電極層21に偏析した第2の偏析620と、第2の内部電極層22に偏析した第2の偏析620とは、それらのうちの少なくとも1組の偏析に含まれる金属元素が、他の偏析に含まれる金属元素と異なっていることが好ましい。
【0202】
第1の誘電体セラミック層20aが、BaTiO3を主成分とする場合、第1の偏析610に含まれる金属元素の第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に対する含有率は、Ti100モルに対して、0.3モル%以上である。またこれと同様に、第2の偏析620に含まれる金属元素の第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に対する含有率は、Ti100モルに対して、0.3モル%以上である。
【0203】
本発明では、第1の内部電極層21において第1の偏析610が存在する領域は、その長さ(L)方向に沿った長さが0.1μm以上であることが好ましい。また、第2の内部電極層22において第1の偏析610が存在する領域は、その長さ(L)方向に沿った長さが0.1μm以上であることが好ましい。また、第1の内部電極層21において第2の偏析620が存在する領域は、その幅(W)方向に沿った長さが0.1μm以上であることが好ましい。また、第2の内部電極層22において第2の偏析620が存在する領域は、その幅(W)方向に沿った長さが0.1μm以上であることが好ましい。これらの長さを有することにより、電界集中が偏析により抑制されて信頼性が向上する効果を確実に得られる。
【0204】
第1の偏析610及び第2の偏析620の長さに関しては、上記の長さを下回ると、電界集中を抑制しにくくなる。また、第1の偏析610では、長さ(L)方向の0.5%を超えた場合、第2の偏析620では、幅(W)方向の1.0%を超えた場合、偏析する金属元素(Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種)の過多になり、内部電極層の電荷を蓄える機能が落ちる。
【0205】
第1の偏析610の長さ(L)方向の長さは、第2の誘電体セラミック層20bに含まれ、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動して偏析する金属元素610aの含有量を調整することでコントロールすることができる。また、第2の偏析620の幅(W)方向の長さは、第3の誘電体セラミック層41及び42に含まれ、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に移動して偏析する金属元素620aの含有量を調整することでコントロールすることができる。
【0206】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない長さ(L)方向の端部、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない長さ(L)方向の端部、のそれぞれには、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類の金属元素による第1の偏析610が存在している。
【0207】
第2の誘電体セラミック層20bに接触する第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれの長さ(L)方向の端部には電界が集中しやすく、電界集中が起こると、積層セラミックコンデンサとしての信頼性を低下させるおそれがある。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第1の偏析610によって電界集中が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0208】
本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第1の内部電極層21の幅(W)方向の端部、及び、第2の内部電極層22の幅(W)方向の端部、のそれぞれには、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類の金属元素による第2の偏析620が存在している。
【0209】
第3の誘電体セラミック層41及び42に接触する第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22のそれぞれの幅(W)方向の端部には電界が集中しやすく、電界集中が起こると、積層セラミックコンデンサとしての信頼性を低下させるおそれがある。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第2の偏析620によって電界集中が抑制されるため、信頼性を向上させることができる。
【0210】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21に偏析した第1の偏析610と、第2の内部電極層22に偏析した第1の偏析610と、第1の内部電極層21に偏析した第2の偏析620と、第2の内部電極層22に偏析した第2の偏析620とは、それらのうちの少なくとも1組の偏析に含まれる金属元素が、他の偏析に含まれる金属元素と異なる。
【0211】
これにより、第1の偏析610及び第2の偏析620が配置される場所に応じた最適な金属元素を配置することができ、信頼性を高めることができる。
【0212】
本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第1の誘電体セラミック層20aは、Ba及びTiを含み、第1の偏析610に含まれる金属元素610a、及び、第2の偏析620に含まれる金属元素620a、のそれぞれの内部電極層に対する含有率は、Ti100モルに対して、0.3モル%以上である。
【0213】
これにより、上述した電界集中を効果的に抑制して、信頼性をより向上させることができる。
【0214】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21において第1の偏析610が存在する領域は、長さ(L)方向において0.3μm以上あり、第2の内部電極層22において第1の偏析610が存在する領域は、長さ(L)方向において0.3μm以上あり、第1の偏析610において第2の偏析620が存在する領域は、幅(W)方向において0.3μm以上あることが好ましく、第2の偏析620において第2の偏析620が存在する領域は、幅(W)方向において0.3μm以上あることが好ましい。
【0215】
これにより、電界集中が偏析により抑制されて信頼性が向上する効果を確実に得られる。
【0216】
[試験例3]
次に、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第1の偏析610及び第2の偏析620の効果を検証する試験例3について説明する。
【0217】
表4に示すように、Mg、Mn、Siの元素のうちのいずれか1種を含有する第2の誘電体セラミック層20b、第3の誘電体セラミック層41及び42を備えた積層セラミックコンデンサの試験例3-1~3-18を用意した。そして、各試験例について、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22の長さ(L)方向の端部に生じた第1の偏析の元素の濃度と、長さ(L)方向の長さ及び幅(W)方向の長さを調べた。第1の偏析及び第2の偏析の金属元素の濃度は、上述した「試験例1」における第2の合金部の濃度及び第3の合金部の濃度と同様の方法を用いて調べた。また、第1の偏析及び第2の偏析のそれぞれの長さは、EDX分析によって測定した。
【0218】
試験例3-1~3-18の積層セラミックコンデンサについて、温度150°の環境下で1時間加熱してから常温に冷却後、6.3Vの電圧を印加した状態で抵抗値(kΩ)を測定し、MTTF(平均故障時間)を調べた。また、LCRメータ(Keysight社製:E4980)により静電容量の低下の有無を調べた。
静電容量の低下が3%以上、又はMTTFが15.3hr以下のものを×とし、静電容量の低下が3%未満、かつMTTFが15.3hrを超えて30時間以下の場合を判定〇(良好)、静電容量の低下が3%未満、かつMTTFが30時間を超えたものを判定◎(優良)と判定した。その結果を、表4に併記する。
【0219】
【0220】
第2の誘電体層にMg、Mn,Siを含有させることで内部電極の長さ方向および幅方向端部に偏析部を作ることで、端部に生じがちな信頼性低下要因を排除することができる。ただし、含有量が多すぎると、内部電極の金属として機能する領域が狭まり、結果として静電容量の低下につながる。
【0221】
〔6〕第2の誘電体セラミック層の内部電極層側の角部領域に形成される偏析
上述した第1の偏析610及び第2の偏析620を有する場合、さらに、
図33に示すように、第3の偏析630が存在することが好ましい。第3の偏析630は、第1の角部領域710及び第2の角部領域720のそれぞれに存在する。
【0222】
第1の角部領域710は、第1の内部電極層21における、第1の偏析610が存在する長さ(L)方向と、第2の偏析620幅(W)方向とが重なる領域である。また、第2の角部領域720は、第2の内部電極層22における、第1の偏析610が存在する長さ(L)方向と、第2の偏析620幅(W)方向とが重なる領域である。第3の偏析630は、第1の偏析610の金属元素610a及び第2の偏析620の金属元素620aの偏析で生じる。
【0223】
本発明では、第1の偏析610に含まれる金属元素610aと、第2の偏析620に含まれる金属元素620aとは、それぞれ異なっており、第3の偏析630の金属元素630aは、第1の偏析610に含まれる金属元素610aと、第2の偏析620に含まれる金属元素620aの両方を含むことが好ましい。
【0224】
また、本発明では、第1の偏析610が存在する領域は、長さ(L)方向において
0.1μm以上あり、第2の偏析620が存在する領域は、幅(W)方向において0.1μm以上あることが好ましい。
【0225】
図33は、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、長さ(L)方向及び幅(W)方向を含む面を示している。第3の偏析630は、この長さ(L)方向及び幅(W)方向を含む面において、長さ(L)方向の端部に向かうにしたがい、その存在領域が大きくなるように、略直角三角形状に偏析していることが好ましい。第3の偏析630の一部又は全部は、
図19における交点近傍領域440に含まれる。
【0226】
また、本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第2の誘電体セラミック層20bは、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に対し、その一部が、積層(T)方向において、第3の偏析630の存在領域に重畳するように配置されていることが好ましい。具体的には、
図34に示すように、長さ(L)方向において、第2の誘電体セラミック層120bの端部が、第3の偏析630を含む領域の第2の内部電極層22の端部の上に重畳している形態が挙げられる。これと同様に、第2の誘電体セラミック層20bの端部が第1の内部電極層21の端部の上に重畳していてもよい。このように長さ(L)方向の端部が重畳する態様においては、第2の誘電体セラミック層20bの端部の上に第1の内部電極層121の端部又は第2の誘電体セラミック層120bの端部が重畳していてもよい。
【0227】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない長さ(L)方向の端部、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない長さ(L)方向の端部、のそれぞれには、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類の金属元素による第1の偏析610が存在しており、第1の内部電極層21の幅(W)方向の端部、及び、第2の内部電極層22の幅(W)方向の端部、のそれぞれには、Mg、Mn、Siのうちの少なくとも1種類の金属元素による第2の偏析620が存在しており、第1の内部電極層21における、第1の偏析610が存在する長さ(L)方向の端部と、第2の偏析620が存在する幅(W)方向とが重なる第1の角部領域710、及び、第2の内部電極層22における、第1の偏析610が存在する長さ(L)方向の端部と、第2の偏析620が存在する幅(W)方向とが重なる第2の角部領域720、のそれぞれに、第1の偏析610及び第2の偏析620のそれぞれの金属元素による第3の偏析630が存在している。
【0228】
第1の角部領域710及び第2の角部領域720は、電界が集中しやすく、電界集中が起こると、積層セラミックコンデンサとしての信頼性を低下させるおそれがある。しかし、本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第3の偏析630によって第1の角部領域710及び第2の角部領域720への電界集中が抑制されるため、信頼性を向上させることができる。
【0229】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の偏析610に含まれる金属元素610aと、第2の偏析620に含まれる金属元素620aとは、それぞれ異なり、第3の偏析630に含まれる金属元素は、第1の偏析610に含まれる金属元素610aと、第2の偏析620に含まれる金属元素620aの両方を含む。
【0230】
これにより、第3の偏析630によって第1の角部領域710及び第2の角部領域720への電界集中が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0231】
なお、第3の偏析630においては、第3の誘電体セラミック層41及び42に近接する側に配置される金属元素としては、Mgが好ましい。一方、第3の偏析630においては、第2の誘電体セラミック層20bに近接する側に配置される金属元素としては、耐湿性が改善する可能性がある観点から、Siが好ましい。よって、第1の角部領域710及び第2の角部領域720にはMg及びSiの両方が偏析していることが好ましい。また、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22の幅(W)方向の端部の第1の偏析610により、ショート回復が行われる可能性がある。また、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22には、Snが固溶していることがさらに好ましい。
【0232】
本発明の積層セラミックコンデンサ1は、第1の偏析610が存在する領域は、長さ(L)方向において0.1μm以上あり、第2の偏析620が存在する領域は、幅(W)方向において0.1μm以上ある。これにより、電界集中が偏析により抑制されて信頼性が向上する効果を確実に得られる。
【0233】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第3の偏析630は、長さ(L)方向及び幅(W)方向を含む面において、長さ(L)方向の端部に向かうにしたがい、その存在領域が大きくなる。
【0234】
これにより、電界集中が生じやすい第2の誘電体セラミック層20bの長さ(L)方向の端部の部分における第3の偏析630の面積が増大し、第3の偏析630による電界集中の抑制がさらに効果的になされ、信頼性をさらに向上させることができる。
【0235】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第2の誘電体セラミック層20bは、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22に対し、その一部が、積層(T)方向において第3の偏析630の存在領域に重畳するように配置されている。
【0236】
これにより、第3の偏析630を、長さ(L)方向及び幅(W)方向を含む面において、長さ(L)方向の端部に向かうにしたがい、その存在領域が大きくなるように形成しやすくなる。
【0237】
[試験例4]
次に、本発明の積層セラミックコンデンサ1において、第3の偏析630の効果を検証する試験例4について説明する。
【0238】
表5に示すように、Mg、Mn、Siの金属元素のうちのいずれか1種を含有する第2の誘電体セラミック層と、Mg、Mn、Siのうちのいずれか1種を含有する第3の誘電体セラミック層と、を備えた積層セラミックコンデンサの試験例4-1~4-18を用意した。そして、それぞれの積層セラミックコンデンサの第1の角部領域及び第2の角部領域に生じた第3の偏析に含まれる金属元素の濃度と、長さ(L)方向の長さ及び幅(W)方向の長さを調べた。第3の偏析の金属元素の濃度は、上述した「試験例1」における第2の合金部の濃度及び第3の合金部の濃度と同様の方法を用いて調べた。また、第3の偏析のそれぞれの長さは、EDX分析によって測定した。
【0239】
試験例4-1~4-14の積層セラミックコンデンサについて、室温150°の環境下で、6.3Vの電圧を印加した状態で抵抗値(kΩ)を測定し、MTTF(平均故障時間)を調べ、判定を行った。MTTFは、抵抗値が10kΩ以下となった時点とし、MTTFが15.3時間(hr)以下であった場合の判定を×とし、15.3時間(hr)を超えて30時間までを判定〇(良好)、30時間超を判定◎(優良)と判定した。その結果を、表5に併記する。また、LCRメータ(Keysight社製:E4980)により静電容量の低下の有無を調べ、3%以上の容量低下を示したものは、判定を×とした。なお、内部電極層のカバレッジは80%を切る場合は、静電容量がとりにくくなるため、測定不能とした。
【0240】
【0241】
第2のセラミック誘電体層および第3のセラミック誘電体層にSi,Mg,Mnを含有させることで角部に多くの偏析領域を作ることができる。特に角部に電界集中がおき、信頼性が低下しがちであるが、偏領域を作ることで、信頼性を向上できる。ただし、含有量が多すぎると、内部電極の金属として機能する領域が狭まり、結果として静電容量の低下につながる。
【0242】
〔7〕第2の誘電体セラミック層の厚み
図35は、本発明の積層セラミックコンデンサ1における積層体10の、長さ(L)方向の中央部におけるWT断面を模式的に示しており、この断面での、第1の誘電体セラミック層20aの厚みをT1、幅(W)方向の端部の厚みをT2で、それぞれ示している。
【0243】
また、
図36は、本発明の積層セラミックコンデンサ1のLT断面の一部を示しており、T3は、第2の誘電体セラミック層20bの厚みである。
図36では、第2の内部電極層22に接触する第2の誘電体セラミック層20bを示しているが、第1の内部電極層21に接触する第2の誘電体セラミック層20bの厚みも、同じくT3とみなす。第2の誘電体セラミック層20bの厚みT3は、換言すると、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない長さ(L)方向の端部と、第2の外部電極52との間、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない長さ(L)方向の端部と、第2の外部電極52との間、のそれぞれの厚みである。
【0244】
本発明では、T1とT2との厚みの差は、比較的小さく、T1の10%以内とされる。これに対し、T3の厚みは、T1及びT2よりも大きく、その差は、T1及びT2の10%以上であることが好ましい。
【0245】
第2の誘電体セラミック層20bの厚みT3を、第1の誘電体セラミック層20aの厚みT1及びT2よりも上記のように厚くする手段に制限はないが、例えば、焼成前のグリーンチップ110を作製する際に、未焼成の第2の誘電体セラミック層120bの長さ(L)方向の端部と、未焼成の第1の内部電極層121及び第2の内部電極層122の長さ(L)方向の端部を重畳させた状態とし、この後にグリーンチップ110を焼成することで可能である。
【0246】
T1、T2及びT3のうち、第1の誘電体セラミック層20aの中央部の厚みT1は、0.7μm以下であることが好ましい。また、第2の誘電体セラミック層20bの厚みT3は、0.4μm以上であることが好ましい。
【0247】
本発明の積層セラミックコンデンサ1においては、第1の誘電体セラミック層20aの、長さ(L)方向の中央部、積層(T)方向及び幅(W)方向を含む面における、積層(T)方向中央部での厚みをT1、第1の誘電体セラミック層20aの、幅(W)方向の端部の厚みをT2、第1の内部電極層21における第2の外部電極52と接続されていない長さ(L)方向の端部と、第2の外部電極52との間、及び、第2の内部電極層22における第1の外部電極51と接続されていない長さ(L)方向の端部と、第1の外部電極51との間、のそれぞれの厚みをT3とした場合、T1とT2との厚みの差は、T1の10%以内であり、T3の厚みは、T1及びT2よりも大きく、その差は、T1及びT2の10%以上である。
【0248】
これにより、第1の内部電極層21及び第2の内部電極層22を挟む第1の誘電体セラミック層20a間に、段差解消用として配置される第2の誘電体セラミック層20bによる素子厚が十分な厚みを有し、その結果、信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0249】
1 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 積層体の第1の主面
12 積層体の第2の主面
13 積層体の第1の側面(側面)
14 積層体の第2の側面(側面)
15 積層体の第1の端面
16 積層体の第2の端面
20 誘電体セラミック層
20a 第1の誘電体セラミック層
20b 第2の誘電体セラミック層
21 第1の内部電極層
22 第2の内部電極層
30 内層部
31、32 外層部
41、42 第3の誘電体セラミック層
51 第1の外部電極
52 第2の外部電極