(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】分泌様免疫グロブリンを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 1/02 20060101AFI20241023BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241023BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241023BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241023BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241023BHJP
C07K 16/06 20060101ALI20241023BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
C07K1/02 ZNA
A61K39/395 Y
A61P17/02
A61P29/00
A61P31/00
C07K16/06
C12N15/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020192922
(22)【出願日】2020-11-20
(62)【分割の表示】P 2018204590の分割
【原出願日】2013-03-08
【審査請求日】2020-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(32)【優先日】2012-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2012-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ブレーズ・コーテジー
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ロンジェ
(72)【発明者】
【氏名】マリウス・ルートシャー
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・ミーシャー
(72)【発明者】
【氏名】アードリアン・チュルヒャー
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】高堀 栄二
【審判官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6932967(US,B2)
【文献】米国特許第7597891(US,B2)
【文献】米国特許第7794721(US,B2)
【文献】米国特許第8021645(US,B2)
【文献】Eur.J.Biochem.(1976)Vol.62,No.2,p.271-278
【文献】Eur.J.Biochem.(1974)Vol.45,No.1,p.261-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-16/00
CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
25%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、
(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程
を含む、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法であって、
J鎖含有IgAまたはIgMに特異的なアフィニティークロマトグラフィーまたはサイズ排除クロマトグラフィーの工程を含まない、上記方法。
【請求項2】
分泌様免疫グロブリンが、分泌様IgAおよび/または分泌様IgMである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の組成物が、少なくとも5%のJ鎖連結IgAを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の組成物が、少なくとも10%のJ鎖連結IgAを含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)の組成物が、少なくとも20%のJ鎖連結IgAを含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)の組成物がヒト血液由来である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)における分泌成分が組換え分泌成分である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
分泌成分がヒト分泌成分である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分泌成分が、哺乳動物細胞系において産生される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分泌成分が、多量体免疫グロブリン受容体plgRの細胞外部分である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)において、添加される分泌成分とIgA二量体/多量体中のJ鎖の間のモル比が1:10と10:1の間の範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記比
が1:5と5:1の間の範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記比
が1:2と2:1の間の範囲である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
組成物
本発明は、分泌様免疫グロブリン、特に分泌様IgAおよび/または分泌様IgMを含む組成物を製造する方法、ならびに該方法によって得ることができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
IgAは、ヒト血漿中において、IgGの後に2番目に最も量が多いIgクラスであり、0.88~4.10g/Lであることがわかっている。IgAの2つのサブクラスであるIgA1およびIgA2が存在している(
図1)(非特許文献1)。これらは、重鎖と軽鎖を連結するジスルフィド結合の点において、および分子のヒンジ領域における顕著な差に起因した抗原多様性の点で異なる。2つのサブクラスのグリコシル化パターンは異なっている:両方のサブクラスの重鎖はNグリコシル化されている;対照的に、O-グリコシル化は、IgA2の切断型ヒンジ領域に起因して、IgA2ではなく、IgA1に見出される。
【0003】
ヒトIgAは、2つの主要な形態:血液/血漿中を循環するかまたは粘膜表面に分泌されるかのいずれかで見出されている:血漿中では、IgAは、主として単量体(80~90%)として存在し、骨髄形質細胞によって産生される;血漿中の主要なサブクラスはIgA1である。
【0004】
多量体IgA(plgA)なる用語は、接続(J)鎖によって「テールピース」で共有結合的に接続された、二量体、場合により三量体のIgAを示す(
図1)。
【0005】
IgM分子は、総血清Ig含有量の10%を占める。これらは、主に血管内プールに閉じ込められ、一次抗原特異的体液性免疫応答の一部である;系統発生的および個体発生的に、それらは最も初期の抗体(Ab)分子である。IgMは、J鎖によって接続された五量体として主に存在し、平面構造に配置される;場合により、IgMはまた、J鎖を欠損している六量体形態において見出され得る(非特許文献1)。
【0006】
消化管、呼吸器管および尿生殖器管の粘膜表面、ならびに外分泌腺管は、外部環境から生体の内部コンパートメントを分離する強固な障壁を形成する上皮細胞の層によって内側が覆われている。ヒトにおいて、これらの膨大な表面は400m
2を覆い、外因性の病原体に恒久的に曝露される領域である(非特許文献2)。固有のおよび誘導性の細胞および分子メカニズムの組み合わせは、微生物によるコロニー形成およびエントリー/侵入に対する保護を確実にする。健康な個体では、分泌性IgA(SlgA)は、粘膜表面の管腔側で免疫排除機能を満たす最も豊富な抗体(Ab)あり(非特許文献3)、一方、分泌性IgM Abは、IgA欠損患者に引き継ぐ。SlgAは、腸固有層、上気道管または泌尿生殖器管の粘膜形質細胞によって合成される。SlgAは、plgAの二量体からなり、約75kDaの高度にグリコシル化された分泌成分(SC)である(
図1);同様に、SCに結合した五量体のJ鎖含有IgMはSlgMを構成する。SCは、多量体Ig受容体(plgR)の細胞外部分を表す。plgRは、生成部位から粘膜表面へのplgAまたは五量体IgMの経上皮輸送に必要とされ、この場合、plgR-plgA/plgR-IgM複合体は、酵素的切断によってSlgA/SlgMに変換される(非特許文献4)。SCとの結合は、タンパク質分解からIgAまたはIgMを保護する。SlgAは、唾液、気管-気管支分泌物、初乳、乳、涙液、腸分泌物および泌尿生殖器分泌物などの漿粘液性分泌物において主要なIgである。それは粘膜内層で生成される(したがって、ヒト生体において)最も顕著なIgである;約3~5gのSlgAが、腸内腔に毎日分泌さ
れる。このようにして、SlgAは、免疫排除に不可欠であり、上皮の完全性を維持する。SlgMは、より低いレベルで存在するが、SlgAと同じ免疫排除機能を果たす。
【0007】
ポリオウイルス、サルモネラ、またはインフルエンザなどの少数の病原体について、粘膜感染に対する保護は、認可されたワクチンを用いた能動粘膜免疫によって誘導することができる。しかしながら、粘膜病原体の大部分に関して、能動粘膜ワクチンを利用することができない。あるいは、防御レベルのAbは、直接、受動免疫によって粘膜表面に送達され得る。天然では、これは、乳を介して、母親抗体をそれらの子孫に伝えることによって、多くの哺乳動物種において生理的に生じる(非特許文献5)。受動粘膜免疫を用いるヒトおよび動物の研究は、口腔、鼻腔内、子宮内、または肺の点滴によって投与されたplgAおよびSlgA抗体分子が、細菌感染およびウイルス感染を防ぎ、減少させ、または治すことができることを実証している(非特許文献6)。しかしながら、粘膜表面に天然に見出されたIgAの分泌型はほとんど使用されず、SlgAの大規模な製造は今までに不可能である。生物工学的方法を用いたSlgAの構築は魅力的であるが、このような分子は、重要な臨床応用を有する可能性がある(非特許文献7)。同様のことがまた、分泌成分含有IgMにも適用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Zuercher AWら、Plasma derived immunoglobulins. Principles of Immunopharmacology.3rd ed.Birkhaeuser、2011年:271~301頁
【文献】Corthesy、B.(2010年)Future Microbiol.5:817~829頁
【文献】Macpherson、A.J.ら(2008年)Mucosal Immunol.1:11~22頁
【文献】Zuercher AWら Plasma derived immunoglobulins.Principles of Immunopharmacology.3rd ed.Birkhaeuser、2011年:1~31頁
【文献】Brandtzaeg、P.(2003年)Vaccine 21:3382~3388頁
【文献】Corthesy、B.(2003年)Curr.Pharm.Biotechnol.4:51~67頁
【文献】Corthesy、B.(2002年)Trends Biotechnol.20:65~71頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、J鎖含有免疫グロブリンを最初に精製することなく、血漿由来のJ鎖含有免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgMと分泌成分を組み合わせることが可能であることを見出した。本発明は、医学の分野において用いることができ、例えば、対象、特にヒト対象における粘膜表面上での感染の予防および治療のための、分泌様IgAおよび/またはIgMの大規模製造を可能にする。
【0010】
本発明の一態様は、
(a)非精製形態のJ鎖含有免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程;および
(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程
を含む、インビトロにおいて、分泌様免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgM
を含む組成物を製造する方法である。
【0011】
好ましくは、分泌様免疫グロブリンは、分泌様IgAである。好ましくは、工程(a)の組成物は、少なくとも5%のJ鎖含有IgA、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%を含有し、最も好ましくは、少なくとも50%のJ鎖含有IgAを含有する。好ましくは、工程(a)の組成物は、ヒト血液由来であり、例えば、IgAもしくはさらにはJ鎖含有IgAに富んだヒト血漿またはその画分由来であるが、J鎖含有IgAの精製は必要とされない。
【0012】
好ましくは、分泌様免疫グロブリンは、分泌様IgMである。好ましくは、工程(a)の組成物は、少なくとも5%のJ鎖含有IgM、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%を含有し、最も好ましくは、少なくとも50%のJ鎖含有IgMを含有する。好ましくは、工程(a)の組成物は、ヒト血液由来であり、例えば、IgMもしくはさらにはJ鎖含有IgMに富んだヒト血漿またはその画分由来であるが、J鎖含有IgMの精製は必要とされない。
【0013】
工程(b)で使用される分泌成分は、好ましくは組換え分泌成分、より好ましくはヒト組換え分泌成分であり、好ましくは哺乳動物細胞系によって産生される。しかしながら、乳、唾液、粘液または類似の供給源から精製される分泌成分などの天然源からの分泌成分もまた使用することができる。
【0014】
工程(a)の組成物における、分泌成分と、IgA二量体/多量体またはIgM五量体中のJ鎖の間のモル比は、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間の範囲である。
【0015】
本発明の別の態様において、工程(a)の組成物中の分泌成分とJ鎖の間のモル比は、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間の範囲である。
【0016】
本発明の別の態様は、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物である。組成物は、薬学的に許容される担体または賦形剤をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明のさらなる態様は、医学的使用のための上記組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
既に上述したように、本発明者らは、驚くべきことに、J鎖含有免疫グロブリンを最初に精製することなく、血漿由来のJ鎖含有免疫グロブリン、特にJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMと分泌成分を組み合わせることができることを見出した。本発明は、医学の分野において用いることができ、例えば、対象、特にヒト対象における粘膜表面上での感染の予防および治療のための、分泌様IgAおよび/または分泌様IgMの大規模製造を可能にする。
【0019】
本発明の一態様は、
(a)非精製形態のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、
(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合するまたは合わせる工程
を含む、インビトロにおいて、分泌様免疫グロブリン、特に分泌様IgAまたは分泌様IgMを含む組成物を製造する方法である。
【0020】
好ましくは、工程(a)の組成物は、少なくとも5%(w/w)のJ鎖含有IgA、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、より好ましくは50%を含有し、最も好ましくは、少なくとも70%のJ鎖含有IgAを含有する。好ましくは、工程(a)の組成物は、ヒト血液由来であり、例えば、IgAもしくはさらにはJ鎖含有IgAに富んだヒト血漿またはその画分由来であるが、J鎖含有IgA二量体または多量体の特定の精製工程は必要とされない。したがって、J鎖含有IgAは、単量体IgA、IgMまたはIgGなどの他のタンパク質も含む組成物中にある。例えば、組成物は、10%超の単量体IgA、および/または10%超のIgG、および/または10%超のIgMを含んでもよい。J鎖含有二量体IgAの富化は、IgG、アルブミン、アルファ-1アンチトリプシンおよび凝固因子などの血漿タンパク質の精製のために、ヒト血漿画分の処置の一部として生じ得るが、アフィニティークロマトグラフィーまたはサイズ排除および関連分子量の画分の選択のような、他のタンパク質からJ鎖含有二量体IgAおよび多量体を分離するように具体的に設計された精製工程は、工程(a)の組成物を得るために必要とされない。
【0021】
本発明の別の好ましい態様において、工程(a)の組成物は、少なくとも5%(w/w)のJ鎖含有IgM、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、より好ましくは50%を含有し、最も好ましくは、少なくとも70%のJ鎖含有IgMを含有する。好ましくは、工程(a)の組成物は、ヒト血液由来であり、例えば、IgMもしくはさらにはJ鎖含有IgMに富んだヒト血漿またはその画分由来であるが、J鎖含有IgMの特定の精製工程は必要とされない。したがって、J鎖含有IgMは、IgAまたはIgGなどの他のタンパク質も含む組成物中にある。例えば、組成物は、10%超のIgA、および/または10%超のIgGを含んでもよい。J鎖含有IgMの富化は、IgG、アルブミン、アルファ-1アンチトリプシンおよび凝固因子などの血漿タンパク質の精製のために、ヒト血漿画分の処置の一部として生じ得るが、アフィニティークロマトグラフィーまたはサイズ排除および関連分子量の画分の選択のような、他のタンパク質からJ鎖含有IgMを分離するように具体的に設計された精製工程は、工程(a)の組成物を得るために必要とされない。
【0022】
本明細書で使用される用語「分泌成分」は、J鎖含有免疫グロブリンに特異的に結合するタンパク質を意味し、高分子免疫受容体(plgR)、好ましくは哺乳類plgR、より好ましくは霊長類plgR、最も好ましくはヒトplgR、の細胞外部分に関連し、またはそれから誘導可能であり、またはそれと同一である。好ましくは、分泌成分は、J鎖含有免疫グロブリンに対して増加した安定性を付与する。組成物に含まれる分泌成分は、組換え分泌成分であってもよく、好ましくは哺乳動物細胞系において産生される分泌成分であってもよい。伝統的な狭い意味での分泌成分(本明細書では「天然の分泌成分」と称する。)は、通常、J鎖を含有する二量体もしくは多量体IgAまたは五量体IgMに、分泌中に関連付けられる、高分子免疫グロブリン受容体(plgR)の細胞外部分である。J鎖含有IgA/IgMは、上皮細胞の側底面で高分子免疫グロブリン受容体に結合し、トランスサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。次に、この受容体複合体は、上皮細胞の管腔表面に輸送される前に、細胞内コンパートメントを通過する。続いて、トランスサイトーシスされたIgA/IgM-plgR複合体は、タンパク質分解を通じて放出され、天然の分泌成分と称される高分子免疫グロブリン受容体(plgR)の一部は、J鎖含有IgA/IgMと結合して留まり、分泌性IgA/IgGを放出する。しかしながら、IgAの逆トランスサイトーシス、すなわち管腔表面から側底面へのトランスサイトーシスもまた起こるという証拠がある。
【0023】
ヒトplgRは、クローニングされ、配列決定され、その配列はSwissProtエントリーP01833として利用可能であり、配列番号1に示される。ヒトplgRは、764個のアミノ酸残基を有する糖タンパク質であり、シグナルペプチド(残基1~18
)、細胞外部分(残基19~638)、膜貫通領域(残基639~661)、および細胞質領域(残基662~764)を含む。残基19~603は、上述されるようにJ鎖含有IgAと結合するものと考えられ、この糖タンパク質の該部分は、通常、分泌成分(本明細書では「天然の分泌成分」と称する。)と称される。
【0024】
本発明の組成物に用いられる分泌成分は、J鎖含有IgAと結合することができる任意の細胞外plgR配列を含むことができる。例えば、分泌成分は、哺乳類供給源、例えば、霊長類、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ラットもしくはマウスまたはそれらの変異体由来のplgRの細胞外ドメインを含むことができる。また、いくつかの哺乳類種またはそれらの変異体由来の細胞外ドメインの機能的ハイブリッドは、本発明における使用のために意図され、例えば、分泌成分様タンパク質に異種由来の免疫グロブリン様ドメインを融合することによって調製される。機能的な分泌成分はまた、通常存在する免疫グロブリン様ドメインの選択を融合することによって形成することができ、例えば、ウサギ分泌成分は機能的であって、ドメイン1、4および5のみで構成されている。しかしながら、好ましくは、ヒト分泌成分またはその機能的変異体が用いられる。
【0025】
したがって、本発明の組成物に用いられる分泌成分は、好ましくは、配列番号1の残基19~603またはそれらの機能的変異体を含む。機能的変異体は、欠失、挿入および/または置換を含んでもよく、好ましくは、置換は保存的置換であり、例えば、塩基性アミノ酸残基は別の塩基性アミノ酸に置換され、疎水性アミノ酸は別の疎水性アミノ酸で置換される。変異分泌成分は、配列番号1の残基19~603に対して配列において少なくとも50%同一であり、好ましくは、配列番号1の残基19~603に対して少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、より好ましくは少なくとも85%またはさらには90%、さらにより好ましくは少なくとも92%、94%、95%、97%、98%またはさらには99%同一である。好ましくは、分泌成分は、plgRの細胞外部分、より好ましくはヒトplgRの細胞外部分を含み、最も好ましくは、分泌成分は、配列番号1の残基19~603を含みまたはさらにはそれからなる。
【0026】
当業者は、組換え技術によって分泌成分を製造する方法をよく知っている。CHO細胞におけるヒト分泌成分の発現の例は、Phaliponら(Phalipon Aら(2002年)Immunity 17:107~115頁)によって報告されているが、本発明は、このシステムによって製造される分泌成分に限定されない。例えば、鋳型としてplgRを発現する細胞または組織から単離したRNAを用いて、所望のcDNA配列は合成的に製造されまたはRT-PCRを介してクローニングされ得る。次に、cDNAは、pcDNA3などの哺乳類発現ベクターに挿入することができる-多くの代替の発現ベクターが利用可能である。続いて、組換え発現ベクターは、CHO、Cos、HEK293またはBHKなどの適切な宿主細胞系に導入される。他の細胞系は入手可能であり、使用することもできる。細胞系にこのようなベクターを導入する方法には、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび当業者に周知の他の技術が含まれる。次に、通常、発現ベクターを保有し、対象とするタンパク質を発現する細胞を選択し、クローニングする。また、ウイルス発現系を用いることができ、例えば、ワクシニアウイルスを用いて、哺乳類細胞中に高レベルでタンパク質を発現させることができ、バキュロウイルス発現系を用いて、昆虫細胞中に高レベルでタンパク質を発現させることができる。酵母または細菌発現系も想定することができ、このような発現系は当業者に知られている。同様に、植物発現系もまた予測され得、このような系は当業者に知られている。
【0027】
本発明の組成物に使用される分泌成分またはその変異体はまた、得られるタンパク質の精製を助けることができるタグ、例えば、ヘキサ-ヒスチジンタグを含んでもよい。このようなタグが切断可能なリンカーを介して結合されている場合、タグは、本発明において使用する前に切断することができる。同様に、分泌成分は融合タンパク質として製造され
得る。再度、融合パートナーが本発明において使用する前に分泌成分から切断され得るように、切断可能なリンカーを使用することができる。
【0028】
続いて、当業者は、標準的な方法を用いて、発現したタンパク質を精製することができる。組換え分泌成分は、適切な方法、例えば、サイズ排除および/またはイオン交換クロマトグラフィーを用いて高純度に精製することができる。好ましくは、組換え分泌成分の最終調製物は、夾雑物、特に細胞宿主タンパク質を本質的に含まない。しかしながら、分泌成分はまた、未精製形態でJ鎖含有免疫グロブリンと特異的に結合することができ、J鎖含有免疫グロブリンとの結合前の精製は本質的でない。
【0029】
分泌成分はまた、天然の供給源から得ることがある、好ましくは、乳、唾液もしくは粘液から得ることができる。好ましくは、分泌成分は、ヒト起源であるが、他の種由来の分泌成分もまた本発明において使用することができる。
【0030】
工程(a)の組成物における、分泌成分と、IgA二量体/多量体またはIgM五量体中のJ鎖の間のモル比は、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間の範囲である。
【0031】
工程(a)の組成物中の分泌成分とJ鎖の間のモル比は、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間である。
【0032】
工程(b)に使用される分泌成分の量は、工程(a)の組成物における50部(重量比)のタンパク質に対して少なくとも1部(重量比)の分泌成分であってもよく、好ましくは、工程(a)の組成物における40部、30部、20部、15部、10部のタンパク質に対して少なくとも1部の分泌成分であってもよく、最も好ましくは、5部のタンパク質に対して少なくとも1部の分泌成分であってもよい。
【0033】
本発明の別の態様は、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgAを含む組成物である。本発明のさらに別の態様は、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgMを含む組成物である。なおさらなる態様は、例えば、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間のモル比で、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgAと分泌様IgMを含む組成物である。本発明の別の態様において、組成物におけるIgAとIgMの合わせた含有量は、50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、さらにより好ましくは80%超、さらにより好ましくは90%超であり、最も好ましくは100%である。
【0034】
本発明のさらなる態様は、医学的使用のための上述される組成物である。例えば、本発明の組成物は、壊死性腸炎および一般的には粘膜表面の感染を治療するために有利に使用され得る。
【0035】
組成物は、1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体もしくは賦形剤および/または安定化剤をさらに含むことができる。組成物は、シロップ、ローションのような液体形態、軟膏、投与前に液体で再構成することができる散剤、カプセル剤、丸剤、ゲル、クリーム、ゼリー、制御放出製剤として、または意図された医学的使用に適した任意の他の製剤として製剤化されてもよい。例えば、GI疾患の治療のために、組成物は、組成物を放出するGI管の所望の領域において溶解する保護コーティングを用いて製剤化することができる。組成物は、吸入によってまたは意図された使用に適した任意の他の経路によって、経口的に摂取され、局所的に、経腸的に投与されてもよい。経口適用について、アシッドポンプ阻害剤が同時投与されてもよい。
【0036】
組成物中のタンパク質は、製剤化される前に、例えば、透析/限外ろ過または他の標準的な方法を用いて濃縮され得る。さらに、組成物は、凍結乾燥され、次に、使用前に適切な溶液を用いて再構成されてもよい。
【0037】
定義
用語「分泌様IgA」または「分泌様血漿IgA」は、タンパク質分解からのある程度の保護を提供するように働く、分泌成分であるタンパク質またはその機能的変異体と組み合わせてJ鎖含有(血漿)IgAを包含することが意図される。典型的には、J鎖含有IgAは、2つもしくは4つ、またはさらにはそれ超えるIgA単量体を含む。典型的には、J鎖含有IgAは、インビトロにおいて分泌成分またはその変異体と混合され、すなわち、分泌成分とJ鎖含有IgAの間の結合は、トランスサイトーシス中というよりはむしろインビトロで起こる。
【0038】
用語「分泌様IgM」は、インビトロにおいて、分泌成分と組み合わせてJ鎖含有(血漿)IgMまたはその機能的変異体を包含することが意図される。好ましくは、J鎖含有IgMは、五量体IgMである。
【0039】
「J鎖含有IgA二量体または多量体についての特定の精製工程」は、他のタンパク質、例えば単量体IgA、他の免疫グロブリン、および他の血漿タンパク質からJ鎖含有IgA二量体または多量体を分離するように具体的に設計された精製プロセスに含まれる精製工程に関する。このような特定の精製工程は、例えば、J鎖に特異的に結合するリガンドを用いてアフィニティークロマトグラフィー、またはJ鎖含有IgA二量体に対応する分子量のタンパク質を含む画分を選択するサイズ排除クロマトグラフィーを含んでもよい。血漿から組成物を調製するためのプロセスは、イオン交換クロマトグラフィーなどの、IgAまたはさらにはJ鎖含有IgAの富化をもたらす方法を含んでもよく、一方、J鎖含有IgAは特異的に精製されない。したがって、「非精製形態のJ鎖含有IgA」は、80%未満のJ鎖含有IgA、典型的には70%、60%または50%未満のJ鎖含有IgAを含む組成物を指し、さらに、40%、30%、25%、20%、15%またはさらには10%未満のJ鎖含有IgAを含んでもよい。
【0040】
「J鎖含有IgMについての特定の精製工程」は、他のタンパク質、例えば他の免疫グロブリン、および他の血漿タンパク質からJ鎖含有IgMを分離するように具体的に設計された精製プロセスに含まれる精製工程に関する。このような特定の精製工程は、例えば、IgMまたはJ鎖に特異的に結合するリガンドを用いてアフィニティークロマトグラフィー、またはJ鎖含有IgM五量体に対応する分子量のタンパク質を含む画分を選択するサイズ排除クロマトグラフィーを含んでもよい。血漿から組成物を調製するためのプロセスは、イオン交換クロマトグラフィーなどの、J鎖含有IgMの富化をもたらす方法を含んでもよく、一方、J鎖含有IgMは特異的に精製されない。したがって、「非精製形態のJ鎖含有IgM」は、80%未満のJ鎖含有IgM、典型的には70%、60%または50%未満のJ鎖含有IgMを含む組成物を指し、さらに、40%、30%、25%、20%、15%またはさらには10%未満のJ鎖含有IgMを含んでもよい。
【0041】
本明細書で使用する用語「分泌成分」とは、J鎖含有免疫グロブリンに特異的に結合するタンパク質を意味し、多量体免疫グロブリン受容体(plgR)、好ましくは哺乳類plgR、より好ましくは霊長類plgR、最も好ましくはヒトplgRの、細胞外部分に関し、または該部分から誘導し得、または該部分と同一である。好ましくは、分泌成分は、J鎖含有免疫グロブリンに、増加した安定性を付与する。上記で詳述したように、最も好ましい分泌成分は、ヒト分泌成分であり、例えば、配列番号1の残基19から603に対応する。しかしながら、アミノ酸の欠失、挿入、置換は、それらが機能的タンパク質をもたらす限り、含まれてもよく、すなわち、J鎖含有IgAと結合し、好ましくはタンパ
ク質分解からの保護を付与し得るものである。また、他の哺乳動物種由来のホモログを含み、異種由来の一部を含むキメラタンパク質のようなものである。
【0042】
組成物/調製物中の免疫グロブリンの含有量を記載するために使用されるとき、用語「%[パーセント]」は、重量/重量タンパク質を意味する。
【0043】
図面のリスト
ここで、本発明は、以下の図面および配列表に関して、以下の非制限的な実施例によって例証される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】単量体、二量体およびJ鎖含有分泌IgAの構造の略図を示す。
【
図2A】異なる抗体を用いて発色させた、異なるIgA調製物のウエスタンブロットを示す図である。
図2Aは、抗α鎖抗体、抗J鎖抗体または抗分泌成分抗体を用いて発色させた、異なるIgA調製物のウエスタンブロットを示す。
【
図2B】異なる抗体を用いて発色させた、異なるIgA調製物のウエスタンブロットを示す図である。
図2Bは、抗分泌成分抗体を用いて発色させた、異なる分泌様IgA調製物および分泌IgA調製物のウエスタンブロットを示す。
【
図2C】異なる抗体を用いて発色させた、異なるIgA調製物のウエスタンブロットを示す図である。
図2Cは、分泌成分、α鎖およびJ鎖に対する抗体(複数)を用いて発色させた、分泌様IgAF5の異なるサイズ排除クロマトグラフィー画分のウエスタンブロットを示す。
【
図2D】異なる抗体を用いて発色させた、異なるIgA調製物のウエスタンブロットを示す図である。
図2Dは、分泌様IgAF5のサイズ排除クロマトグラフィー実施のクロマトグラムを示す。
【
図3】固定化した分泌成分を用いたドットブロットを示す図である。
図3Aは、アッセイの設定法のフロー略図を示す。
図3Bは、J鎖含有IgAを捕捉するSCを示す。
図3Cは、J鎖含有IgMを捕捉するSCを示す。
【
図4A】腸洗浄物とともにインキュベートされた、異なるIgA調製物(A)の経時的な実験のウエスタンブロットを示す図である。ブロットは、抗重鎖抗体を用いて発色させた。
【
図4B】腸洗浄物とともにインキュベートされた、異なるIgM調製物(B)の経時的な実験のウエスタンブロットを示す図である。ブロットは、抗重鎖抗体を用いて発色させた。
【
図5A】異なるIgA調製物によるシゲラを用いた感染に対する保護を示す図である。
図5Aは、極性化Caco-2単層におけるシゲラによる経上皮抵抗性の減少、および抗シゲラSlgA(Phalipon Aら(1995年)J.Exp.Med.182:769~778頁参照)、IgAF5およびSlgAF5による、TERのこのような減少からの保護を示す。
【
図5B】異なるIgA調製物によるシゲラを用いた感染に対する保護を示す図である。
図5Bは、抗シゲラ、SlgA、IgAF5およびSlgAF5による、結合および内在化した細菌の減少を示す。
【
図6】陽性対照として用いた抗シゲラSlgA(SlgAC5)、ならびに血漿由来の多量体IgAF5、SlgAF5、単量体IgAF5およびIgGとともにインキュベーション後に得られた免疫複合体におけるシゲラの画像を示す図である。
【
図7】シゲラ単独または様々なAbとの組み合わせに曝露された、極性化Caco-2上皮細胞単層による、サイトカインTNF-αならびにケモカインCXCL8およびCCL3の分泌を示す図である。
【
図8】五量体IgM調製物およびSlgM調製物による、シゲラを用いた感染に対する保護を示す図である。極性化Caco-2単層におけるシゲラによる経上皮抵抗性の減少、および抗シゲラSlgA(Phalipon Aら(1995年)J.Exp.Med.182:769~778頁参照)、IgMおよびSlgMによる、TERのこのような減少からの保護を示す図である。
【0045】
配列番号1は、ヒトplgRのタンパク質配列を示す。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕
組換え分泌成分と混合した血漿由来のIgA調製物のウエスタンブロット
材料と方法
1.1 アフィニティークロマトグラフィーよるおよび/またはMPHQカラムの連続溶出による血漿からのIgA調製
ヒト血漿中のIgAは、CSL Behring AG(Berne、Switzerland)の商業的に適用されたIgG精製プロセスに従って、出発材料として血漿IgAの3種の供給源、すなわち、クリオ除去(cryo-depleted)血漿、再可溶化した冷エタ
ノール画分ペースト、または該カラムを消毒することによって得られた陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーカラムからのストリップ画分を用いた、製造業者の樹脂プロトコールに従ったCaptureSelectヒトIgA樹脂(Bioaffinity
Company BAC、Naarden、Netherlands)を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製された。簡単に述べると、クリオ除去してプールされた血漿、再可溶化したペーストまたはAIEXストリップ画分を、IgA濃度が約1mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に希釈し、次に、カラムのIgA結合能力を超えないように、PBSで平衡化したCaptureSelectヒトIgAカラムに充填した。充填後、PBSでカラムを洗浄し、グリシン緩衝液(pH3)でIgAを溶出した。溶出液を0.5M Tris(pH8)を用いてpH4.5に調整し、16mg/mLタンパク質になるまでPBS中で濃縮した。ヒトの乳由来のSlgAを同様の方法で精製した。
【0047】
CSL Behring AG(Berne、Switzerland)のIVIgの製造プロセスのAIEXクロマトグラフィー工程から、画分F4は、10mMリン酸塩/30mM酢酸塩(pH6.5)を用いたMacro-Prep High Q(Bio-Rad、Hercule、CA)カラムの後洗浄後、55mM酒石酸塩/5mM酢酸塩(ph7.6)による溶出によって得られた。次に、画分F5は、50mMリン酸塩/25mMクエン酸塩(pH5.0)を用いて溶出された。F4とF5は、限外/透析ろ過によってPBS中で約1mG/mLにされ、次に、IgSelect樹脂(GE Healthcare、Glattbrugg、Switzerland)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによってIgGを枯渇させた。IgAF4は、F4充填のIgSelectクロマトグラフィーのフロースルーにおいて直接回収された。IgAF5を得るために、F5充填のIgSelectのフロースルーは、CaptureSelectヒトIgM樹脂(Bioaffinity Company BAC)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによってIgMを枯渇させた。IgAF4およびIgAF5は、限外/透析ろ過によって最終濃度にした。
【0048】
1.2 アフィニティークロマトグラフィーよる血漿からのIgM調製
ヒト血漿IgMは、CSL Behring AG(Berne、Switzerland)の商業的に適用されたIgG精製プロセスに従って、IgAについてのセクション1.1に記載したように、出発材料として同じく3種の供給源、すなわち、クリオ除去血漿、再可溶化した冷エタノール画分ペースト、または該カラムを消毒することによって得られた陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーカラムからのストリップ画分を用いた、製造業者の樹脂プロトコールに従ったCaptureSelectヒトIgM樹脂(
Bioaffinity Company BAC、Naarden、Netherlands)を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製された。簡単に述べると、クリオ除去してプールされた血漿、再可溶化したペーストまたはAIEXストリップ画分を、IgM濃度が約1mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に希釈し、次に、カラムのIgM結合能力を超えないように、PBSで平衡化したCaptureSelectヒトIgMカラムに充填した。充填後、PBSでカラムを洗浄し、グリシン緩衝液(pH3)でIgMを溶出した。溶出液を0.5M Tris(pH8)を用いてpH4.5に調整し、10mg/mLタンパク質になるまでPBS中で濃縮した。
【0049】
1.3.ウエスタンブロット
SDS-PAGEおよびニトロセルロース(NC)メンブレンへのエレクトロトランスファーは、製造業者のプロトコールに従って、Invitrogen(Carlsbad、CA)からのMini-Cellシステムを用いて行われた。簡潔には、試料は、それぞれ、還元または非還元条件下で試料緩衝液中で変性させ、NuPAGE MOPS Electrophoresis Buffer(Invitrogen)を用いて、プレキャスト勾配ゲル、NuPAGE Novex Bis-Tris 4~12% 1.0mm 10ウェル上で電気泳動により分離された。NCメンブレン(0.2μm)へのウェット転写は、XCell IIブロットモジュール(Invitrogen)およびNuPAGE転写緩衝液を用いて行われた。次に、メンブレンは、4%Rapilait脱脂粉乳(Migros、Switzerland)を含有するPBS-0.5%Tween 20溶液(PBS-T)中で30分間ブロックされた。イムノブロッティングについて、ポリクローナルウサギ抗体:1)ウサギ抗ヒトアルファ鎖(Dako、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート化:1/5,000希釈);2)ウサギ抗ヒトJ鎖(BioGenex、Fremont、CA;1/300希釈)、続く二次抗ウサギHRPコンジュゲート化抗血清(Sigma;1/10,000希釈);3)ウサギ抗ヒトSC(Dako;1/5000希釈)、続く二次抗ウサギHRPコンジュゲート化抗血清(Sigma;1/10,000希釈)を用いた。全てのインキュベーションは、4%粉乳を含有するPBS-T中で周囲温度にて1~2時間行われた。PBS-Tを用いた最終洗浄後、メンブレン上の免疫検出は、化学発光によって明らかにされ、デジタル的にImageQuant LAS4000システム(GE Healthcare Lifesciences)において記録された。
【0050】
1.4 組換え分泌成分を用いた血漿由来のIgAの結合
分泌様IgAは、インビトロにおいて、100mgのIgAF5と4mgの組換えヒト分泌成分(recSC)を組み合わせることによって得られた。結合は、(Crottet、P.、およびCorthesy、B.(1998年)J.Immunol.161:5445~5453頁)において先に報告されているように、PBS中で30分間、室温にて行われた。
【0051】
1.5 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分画
分泌様IgAを含むIgAF5(インビトロにおいてrecSCと結合される)は、TSKゲル G3000SWXL 7.8mm ID×30cmカラム(Tosoh Bioscience)上で流速1.5mL/分にて、サイズ排除クロマトグラフィーのためのAgilent Technologies 1050 HPLCシステムに200μg/20μLで注入された。0.75mLの画分を30秒間隔で8.0分と13.5分の保持時間の間に回収した。
【0052】
結果
結果を
図2に示す。
図2Aは、血漿、再可溶化したペーストおよびAIEXストリップ画分からアフィニティークロマトグラフィーによって精製したIgA、または1.1に記
載されるようにIgAF5を得るための連続溶出によって精製したIgAと、ヒト乳からのSlgAとの比較を実証する。分泌成分は、乳からのSlgAにおいて見出されたが、ヒト血漿から精製したIgA画分のいずれにも見出されなかった。全ての調製物は、同量のIgA重鎖/アルファ鎖を含有していた。予測したように、乳由来のSlgAは、本質的に全てのIgA分子がJ鎖含有二量体として存在することが期待されるため、最も多量のJ鎖を含有していた。J鎖、したがって血漿から精製されたIgA中のJ鎖含有IgA二量体の量は低かった。少量の血漿IgAだけが二量体形態で存在するため、これは予想される。同じ含有量のJ鎖は、再可溶化されたペーストから精製されたIgAにおいて観察された。驚くべきことに、増加したIgAの画分は、増加したJ鎖の量によって証明されるように、カラムストリップ画分においてJ鎖含有二量体として存在した。驚くべきことに、これは、IgAF5においてさらに増加した。この蓄積は、富化のための特定のプロセス工程を適用せずに生じた。
【0053】
図2Bは、分泌成分を含むIgAがIgAF5に存在しなかったことを示している。recSCとの結合後、遊離recSC(75kDa)とrecSCに結合した二量体IgAが見出された。実際に、分泌様血漿IgAは、乳由来のSlgAと類似しているようであった。示された実験において使用されたIgAF5の調製において、J鎖含有IgAF5の含有量が約20%であったことが推定された。実際に、レーン2において観察されたシグナル強度は、1:5に希釈したヒト乳SlgAのシグナルに匹敵していた。
【0054】
図2Cは、分泌様IgAF5のサイズ排除クロマトグラフィーによって得られた画分中のSC、IgAアルファ鎖およびJ鎖の含有量を示している。recScは、多量体形態および二量体形態のようなIgAの高分子量形態に対応する初期の画分において観察された。SCの出現は、J鎖の出現と一致し、これは、確かに、IgAF5のSC含有画分が二量体のJ鎖含有画分であることを示した。さらに、IgAアルファ鎖は、より小さな分子量の画分において検出され、おそらくはIgAF5の単量体画分を含むものであった;これらの画分は、SCとJ鎖を欠いていた。これらのデータは、recSCが、IgAの二量体のJ鎖含有形態に特異的に結合したIgAの単量体形態と二量体形態を含む血漿由来のIgAと混合したことを示している。
【0055】
図2Dは、画分が保持時間8.0分と13.5分の間に回収された過程でのSEC実施のクロマトグラムを示す。IgA多量体、二量体および単量体を表すピークが示されている。
【0056】
〔実施例2〕
ドットブロット再結合アッセイ(DORA)
ドットブロット再結合アッセイを用いて、インビトロでの血漿由来のIgAまたはIgMとの固定化された分泌成分の結合を示した。簡単に述べると、
図3Aに示すように、分泌成分をブロッティングメンブレンにドットした;非特異的結合部位をブロックした。その後、1.1および1.2に記載したように得られた血漿(レーン4)、再可溶化したペースト(レーン5)またはAIEXストリップ画分(レーン6)からのアフィニティークロマトグラフィーによって得られた血漿由来のIgA(
図3B)またはIgM(
図3C)をメンブレンに適用した。未結合のIgAまたはIgMを洗い流した後、以下に簡単に記載したように、結合したIgA/IgMを検出した。
【0057】
DORAは、本質的には記載したように行われた(Rindisbacher、L.ら(1995年)J.Biol.Chem.270:14220~14228頁)が、以下の変更を伴った:ブロッティングメンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなっていた。ブロッキング溶液は、リン酸緩衝生理食塩水-1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む0.05%Tween-20(PBS-T)であった。IgAに富化した粗
調製物は、200μlの0.1%BSAを含むPBS-T中でオーバレイインキュベーションのために使用された。検出抗体をHRPに直接結合させた。
【0058】
IgAの結果を
図3Bに示す。固定化された分泌成分は、血漿由来のIgAを捕捉することができた。
図2Cに示したものと類似して、これは、recSCが血漿由来のIgA二量体に結合したことを実証する。
【0059】
IgMについての結果を
図3Cに示す。固定化された分泌成分は、血漿由来のIgMを捕捉することができた。これは、recSCが血漿由来のIgMに結合したことを実証する。
【0060】
〔実施例3〕
腸洗浄物を用いた分泌様IgAおよび分泌様IgMの消化
それぞれJ鎖含有IgAとIgMとの精製された分泌成分の結合の機能的優位性を証明するために、IgAとIgMは、1.1と1.2段落に記載したように調製した。分泌様IgAは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いてJ鎖含有IgAを富化し、インビトロでその10μgと2.5μgの組換えヒト分泌成分(hSCrec)を組み合わせることによって得られた。分泌様IgMは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて五量体IgMを富化し、インビトロでその25μgと2.5μgの組換えヒト分泌成分(hSCrec)を組み合わせることによって得られた。結合は、先に報告されるように(Crottet、P.、およびCorthesy、B.(1998年)J.Immunol.161:5445~5453頁)、PBS中で30分間、室温にて行われた。可能な共有結合複合体への分子の完全性と適切な集合は、非還元および還元条件下でのSDS-PAGE、続くウエスタンブロッティングおよび上記で示されるhSCに特異的な抗血清を用いて免疫検出によって調べられた。
【0061】
BALB/cマウス(4~6週齢)からの腸洗浄物の回収は、公開されている手法(Crottet、P.、およびCorthesy、B.(1998年)J.Immunol.161:5445~5453頁)に従って行われた。インビトロ消化について、120ngの精製したJ鎖含有IgAおよび再構成した分泌様IgAは、最終体積が20μlのPBS中で1または2μlの腸洗浄物と混合され(または混合されず)、
図4に指示されるように様々な期間、37℃にてインキュベートされた(T=時間)。IgMのインビトロ消化について、250ngの精製したIgMと分泌様IgMは、4μlの腸洗浄物と混合された。2μlのComplete(商標)プロテアーゼ阻害剤混合物(Roche Applied Science、Rotkreuz、Switzerland)の添加によって反応を停止させ、抗体の重鎖の還元型を検出するウエスタンブロットによる分析まで凍結保存させた。
【0062】
結果を
図4AとBに示す。再可溶化したペースト由来のIgAと1.1に記載したように得られたカラムストリップ由来のIgA、および1.2に記載されるカラムストリップ由来のIgMは、recSCとの結合後、それ自体またはそれらの両方のいずれかが使用され、分泌様IgA(
図4A)または分泌様IgM(
図4B)を形成した。IgAについて、腸内酵素を用いた消化からの4時間後、結合していないIgAのシグナルは減少し始め、これはタンパク質消化を示した;効果は、6時間後および一晩の消化後により強かった。無傷なIgAアルファ鎖はウエスタンブロットによって検出されなかった。対照的に、分泌様IgAは、腸内プロテアーゼによる消化に対して感受性が非常に小さく、一晩の曝露後でさえ、分泌様IgA内のIgAアルファ鎖の大部分は無傷のままであった。
【0063】
IgM(
図4B)について、消化から24時間後と48時間後に同じ調製物とIgMおよび新たに結合した分泌様IgM(SlgM)の比較が示される。分解したミュー鎖断片
の出現は、SlgMと比較して、IgMについてより迅速におよびより広範囲に生じた。これは、IgAと同様にIgMについて、recSCとの結合が改善された構造的安定性を提供していることを確認した。
【0064】
全体的に、これは、recSCとの特異的な結合が改善された構造的安定性を提供し、例えば、経口経路を介して、消化を起こしやすい血漿IgA分子が粘膜適用に適合するようにすることを実証する。
【0065】
〔実施例4〕
シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)
ヒト結腸腺癌上皮Caco-2細胞系(アメリカン・タイプ・ティッシュ・コレクション)は、(Crottet、S.、Corthesy-Theulaz、I.、Spertini、F.、およびCorthesy、B.(2002年)J.Biol.Chem.277:33978~33986頁)に報告されるように、ポリエステルSnapwellフィルタ(径12mm;細孔径0.4μm;Corning Costar)上に播種された。極性化Caco-2細胞単層の完全性は、Millicell-ERSデバイス(Millipore)を用いて、経上皮電気抵抗(TER)を測定することによって確認された。高分化型単層のTER値は450~550Ω×cm2の範囲であった。
【0066】
2×107細菌(Phalipon A.ら(1995年)J.Exp.Med.182:769~778頁)は、最終体積が500μlの通常のDMEM(P-DMEM;10mM HEPES、20μg/mlトランスフェリン、2mMグルタミン、1%非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウムが捕捉されたDMEM)中で、100μg IgA、125μg分泌様IgA、275μg IgMまたは300μg SlgMと混合され、1時間室温にて穏やかな撹拌下でインキュベートされた。混合物は、極性化Caco-2細胞単層を感染させるためにP-DMEM中に再懸濁された。
【0067】
極性化Caco-2細胞単層を使用する1時間前に、C-DMEMは、頂端と側底コンパートメントの両方にP-DMEMで置換された。次に、頂端培地は、500μlの細菌懸濁液(2×107細菌)それ自体または抗体と組み合わせて交換された。TER値は、以降の感染開始からの選択された時点で測定された。
【0068】
細胞に付着し、感染させた細菌を定量するために、フィルタ中のCaco-2細胞をPBSで3回洗浄した。細胞は、氷上で500μlの冷溶解緩衝液[10mM Tris-HCl(pH7)、0.2%Nonident P-40、50mM NaCl、2mM
EDTA(pH8)]中で5分間インキュベートされ、上下にピペティッングすることによって溶解した。細胞溶解物の連続希釈(10-2~10-6)をLB寒天プレートに適用し、37℃でのインキュベーションの24時間後、コロニー形成単位(CFU)は、二重のプレートを目視してカウントすることによって決定した。
【0069】
Caco-2細胞単層の完全性を試験するために、スナップウェルは、4℃での5mlの4%パラホルムアルデヒドによる一晩の固定前にPBSで洗浄された。PBSでの洗浄後、フィルタを透過処理し、非特異的結合部位は、5%FCSおよび0.2%トリトンX-100を含有するPBS(PBS-Tr)を用いて、室温で30分間ブロックした。全ての抗体をPBS-Tr中で希釈した。フィルタは、ウサギ抗ヒトZO-1(1/200、Invitrogen)とともに2時間、室温にてインキュベートされ、PBS中で洗浄され、続いてAlexa Fluor(登録商標)647がコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG(1/100、Invitrogen)とともに90分間、室温にてインキュベートされた。細胞を可視化するために、フィルタは、最終的に、PBS中の100ng/mlの4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Invitr
ogen)とともに30分間インキュベートされた。フィルタは、それらのホルダーに切り出され、10×または40×のいずれかの対物を備えたZeiss LSM 710 Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)を用いた観察のためにVectashield溶液に積層された。画像は、Zeiss ZEN2009光ソフトウェアを用いて処理された。
【0070】
シゲラ-IgA複合体を調べるために、緑色蛍光タンパク質を構成的に発現する細菌を使用した。免疫複合体の形成は、ビオチン化マウス抗ヒトIgA1/IgA2(1/10、BD)とともに30分間室温にて穏やかな撹拌下でインキュベーションし、続くシアニン5をコンジュゲートしたストレプトアビジン(1/400、GE HealthCare)とともに30分間室温にて穏やか撹拌下でインキュベーション後に確認された。PBSによる3回洗浄は、それぞれの工程間に行われ、全ての抗体は、PBS/5%FCSに希釈された。標識された免疫複合体は、スライドガラス(Thermo Scientific)上に置かれ、積層され、63×対物を備えたZeiss LSM 710 Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)を用いて即座に可視化された。画像は、Zeiss ZEN 2009光ソフトウェアを用いて処理された。
【0071】
極性化Caco-2細胞単層の側底コンパートメントにおけるヒトCXCL8(IL-8)、TNF-αおよびCCL3(MIP-3a)は、市販キット(それぞれ、BD BiosciencesおよびR&D Systems)を用いたELISAによって定量された。
【0072】
結果
シゲラへの極性化腸上皮細胞単層の曝露は、単層の完全性の破壊をもたらし、これはTERの減少によって証明され(
図5A)、大規模な侵入をもたらし、こえは上皮細胞との結合において見られた細菌数の上昇(
図5B)、およびレーザ走査共焦点顕微鏡によって観察される視覚的に損なわれた細胞単層によって証明された。分泌様IgAの添加は、単層の破壊を遅延され、部分的に阻害した。これは、TERの減少の有意な阻害(
図5A)、上皮細胞に結合した細菌数の減少(
図5B)、および共焦点顕微鏡におる分析におけるより多くの保存された細胞単層の完全性によって指示された。
【0073】
シゲラ特異的モノクローナルSlgA SlgAC5、多量体IgAおよび分泌様IgAの結合は、細菌のみを被覆した単量体IgAおよびIgG(
図6)と対照的に、複数の細菌の免疫凝集体の形成をもたらした(
図6)。特異的mAbおよび血漿由来のplgAおよび分泌様IgAによる細菌凝集は、
図5Bにおいて観察されるCaco-2細胞への細菌付着の減少に寄与した可能性がある。同じ3つの抗体調製物は、Caco-2細胞による炎症促進性サイトカイン/ケモカインの生成を顕著に減少させ、一方、単量体IgAF4およびIgGは、効果がなく(TNF-αおよびCCL3)または効果が弱かった(CXCL8)(
図7)。これは、分泌および多量体IgAによるシゲラの中和が、Caco-2細胞の応答性を減少させ、最終的に、IgAの全体的な抗炎症性に寄与することを示している。
【0074】
シゲラによる感染からの極性化Caco-2細胞単層の保護は、同様に、特定のSlgAC5を用いた場合に回復したのと少なくとも同レベルまで、IgMおよび分泌様IgMを用いて達成された(
図8)。少なくともから12時間30分のTERの維持は、IgMアイソタイプが、シゲラへの曝露によって誘導された損傷からCaco-2単層を保護する中和特性を有することを示している。
【0075】
〔実施例5〕
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の再発
予防
本発明の組成物は、クロストリジウム・ディフィシル感染症のマウスモデルにおいて使用される。
【0076】
C57BL/6マウスは、先に記載されるように(Chen X、ら.Gastroenterology 2008年 Dec;135(6):1984~92頁)、経口抗生物質(カナマイシン、ゲンタマイシン、コリスチン、メトロニダゾールおよびバンコマイシン)の混合物で3日間処理される。2日後、それらには、非経口のリン酸クリンダマイシン(10mg/kg皮下)が与えられる[-1日目]。1日後[0日]、それらは、0.5×105cfuの毒素産生性C.ディフィシル菌株10465を用いた強制経口によって抗原投与される。中程度から劇症の大腸炎は、C.ディフィシル投与から1~5日後に発症する。未処理の場合、これは、大部分の動物において、重症および致命的な大腸炎に急速に進行する。一次感染を治療するために、動物は、C.ディフィシル抗原投与後の5日間、バンコマイシンを受け、動物は、致死率、ならびに下痢を伴う重度CDIの有無について監視される。瀕死状態であると判断された動物をペントバルビタールナトリウムの単回注射によって安楽死させる。CDIの再発を研究するために、一次C.ディフィシル抗原投与で生き残った動物を28日目まで観察下で維持される。動物は、7日目から28日目まで週に3回計量される。バンコマイシン処置の中止後、動物は、バンコマイシンの最終投薬後の日から開始して5日間、IgAまたは分泌様IgA(経口経路を介して400mg/kg体重)を受ける。
【0077】
結果
バンコマイシンで処置された動物は、C.ディフィシルによる一次感染に対して生き残る。しかしながら、動物のかなりの割合-最大70%-は、バンコマイシン処置の終了後の3~4日以内に、C.ディフィシル感染の再発により死亡する。対照的に、感染の再発は、動物が、経口経路を介して分泌様IgAで処理された場合に予防される。血漿IgA単独は、C.ディフィシル感染の再発予防における分泌様IgAのように効果的でない(または少なくとも同程度に効果的でない)。
【0078】
あるいは、組成物は、Watkinsら(Oral Dis 2010年、16:655~660頁)において報告されているのと同様の口腔粘膜炎モデルで使用される。
【0079】
適切に製剤化されたIgA製剤(または対照についてはビヒクル溶液)は、最大28日目までの研究の全期間、シリアンゴールデンハムスターに、予防的に(例えば、-3日目に開始)毎日3回与えられる。急性放射線によって誘導された粘膜炎のモデルにおいて、0日目に、一方の反転させた口腔頬袋を放射線照射(40Gy)し、他方の頬袋を対照のために未処置のままにする。あるいは、分割された放射線によって誘導した粘膜炎のモデルにおいて、60Gyの累積線量が適用され、(Watkins、Oral Dis 2010年、16:655~660頁)に記載されるように、7.5Gyの8回の分割に分配される。併用シスプラチンおよび急性放射線によって誘導した粘膜炎のさらに別のモデルにおいて、疾患は、0日目にシスプラチン(5mg/kg)および35Gyの放射線の組み合わせによって誘導される。口腔粘膜炎の臨床評価および体重のモニタリングは、6日目に開始し、研究の終了まで、典型的には28日目まで毎日行われる。採点システムは(Watkins Oral Dis、2010年 16:655~660頁)に記載されている。さらに、組織および血漿試料を回収し、組織学的分析、血漿中の炎症マーカーの決定、および様々な組織の遺伝子発現研究のために、研究全体で適切に処理される。
【0080】
結果
未処置/ビヒクル処理された動物は、口腔粘膜炎を発症し、疾患ピークは16~18日目辺りであり、自然治癒は、粘膜炎の回帰によって証明され、18~20日目辺りで開始
する。IgA、特に分泌様IgAで処置された動物は、対照動物と比較して有意に低い粘膜炎スコアを有し、体重減少が少なく、同時に軽度の組織学的所見があり、炎症マーカー(限定されないが、炎症サイトカインおよびケモカインを含む)のレベルが減少する。炎症の減少と創傷治癒の促進は、遺伝子発現分析技術によって、mRNA発現レベルで確認される。
【配列表】