(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】万年筆
(51)【国際特許分類】
B43K 5/18 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
B43K5/18
(21)【出願番号】P 2020210415
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】岩原 卓
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-076785(JP,A)
【文献】実開昭60-026882(JP,U)
【文献】実公昭48-000332(JP,Y1)
【文献】中国特許第1072125(CN,C)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部がペン先で覆われたペン芯と、
首部で前記ペン芯と嵌合し、内部にインキ貯留領域を有する軸筒と、
を備え、
前記ペン芯及び前記首部の嵌合構造を構成する前記ペン芯の嵌合部外面及び前記首部の嵌合部内面において
前記嵌合部外面側に、前記インキ貯留領域と連通し、軸方向に延びるインキ溝及び気液溝が形成され、
前記嵌合部外面及び前記嵌合部内面の少なくとも一方に、全周にわたって周方向に延びるリング状溝部が形成され、
前記リング状溝部
は、毛細管力で前記インキ貯留領域から引き込まれ前記嵌合部外面及び前記嵌合部内面の間の隙間を流れる
インキが前記リング状溝部に流入することなく、前記隙間を流れるインキの流れを止めることができる軸方向の長さである幅を有することを特徴とする万年筆。
【請求項2】
前記嵌合部外面に前記リング状溝部が形成されるとき、
前記インキ溝の底部が前記リング状溝部の底部より深い位置にあることを特徴とする請求項1に記載の万年筆。
【請求項3】
前記嵌合部外面の周方向の異なる位置に、前記インキ溝及び前記気液溝が形成されていることを特講とする請求項1または2に記載の万年筆。
【請求項4】
前記嵌合部外面に前記気液溝が形成され、前記気液溝の底部に前記インキ溝が形成されていることを特講とする請求項1または2に記載の万年筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細管力でインキを筆記領域に供給するインキ溝が設けられた万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
毛細管力でインキを筆記領域に供給するインキ溝が設けられた万年筆が、広く用いられている。その中には、ペン先だけでなくペン芯も弾性を有するようにして、弾性を有するペン先及びペン芯を重ね合わせて、軸筒の首部に挿入し固定したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の万年筆では、筆記時にペン先が撓んだとき、ペン芯も一体的に撓むので、ペン先とペン芯との間に隙間が生じず、インキ切れを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の万年筆では、ペン芯と首部との間の嵌合部おいて、僅かな隙間があるので、この隙間にインキが流れ込む虞がある。特に、隙間の断面積はインキ溝の断面積より小さいので、毛細管現象により、インキがインキ溝よりもこの隙間に流れ込み易くなる。このため、ペン芯及び軸筒がインキで汚れるとともに、インキ溝によりインキを筆記領域に供給する効率が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決し、ペン芯及び軸筒の首部の間の隙間にインキが流れ込んで、インキ溝による筆記領域へのインキの供給効率が低下するのを抑制することができる万年筆を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る万年筆は、
一部がペン先で覆われたペン芯と、
首部で前記ペン芯と嵌合し、内部にインキ貯留領域を有する軸筒と、
を備え、
前記ペン芯及び前記首部の嵌合構造を構成する前記ペン芯の嵌合部外面及び前記首部の嵌合部内面において
前記嵌合部外面側に、前記インキ貯留領域と連通し、軸方向に延びるインキ溝及び気液溝が形成され、
前記嵌合部外面及び前記嵌合部内面の少なくとも一方に、全周にわたって周方向に延びるリング状溝部が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ペン芯及び軸筒の首部の間の隙間にインキが流れ込んで、インキ溝による筆記領域へのインキの供給効率が低下するのを抑制することができる万年筆を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のコンバータ式の1つの実施形態に係る万年筆の全体構造を模式的に示す平面断面図である。
【
図2】本発明のカートリッジ式の1つの実施形態に係る万年筆の全体構造を模式的に示す平面断面図である。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるインキの流れ込み防止の原理を模式的に示す側面断面図である。
【
図3B】本発明の第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるインキの流れ込み防止の原理を模式的に示す側面断面図である。
【
図4A】第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置の1つの例を模式的に示す断面図である。
【
図4B】第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置のその他の例を模式的に示す断面図である。
【
図5A】本発明の第2の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
【
図5B】本発明の第3の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。本明細書において、「前」とは、筆記具の先端部側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【0010】
(本発明の1つの実施形態に係る万年筆)
はじめに、
図1及び
図2を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る万年筆の概要を説明する。
図1は、本発明のコンバータ式の1つの実施形態に係る万年筆の全体構造を模式的に示す平面断面図である。
図2は、本発明のカートリッジ式の1つの実施形態に係る万年筆の全体構造を模式的に示す平面断面図である。
【0011】
図1及び
図2に示す万年筆2は、ペン先4と、一部がペン先4で覆われたペン芯10と、首部22でペン芯10と嵌合し、内部にインキ貯留領域30を有する軸筒20とを備える。
図1に示すコンバータ式の万年筆2では、インキ貯留領域30として、コンバータにより吸引されたボトルインキが収容される収容部が用いられている。
図2に示すカートリッジ式の万年筆2では、インキ貯留領域30として、インキカートリッジが用いられている。
【0012】
ペン先4は、筆記時に紙と接触する前端のペンポイントと、ペンポイントから所定の長さだけ後方に延びたスリットと、ペン先4の略中央に設けられた穴部を有する。ペンポイントの近傍が筆記領域となる。ペン先4は弾性と耐食性を要するため、本体は金合金または特殊鋼で形成され、紙と接するペンポイント部分には耐摩耗性合金が用いられている。
【0013】
軸筒20は、例えば、前側に位置する首部22と、中央に位置する胴軸24と、後ろ側に位置する尾栓26とで構成される。首部22及び胴軸24は、螺合等により、着脱可能な状態で互いに取り付けられている。軸筒20の内部の主に胴軸24の領域に、インキが収容されたインキ貯留領域30が配置されている。なお、例えば、胴軸24及び尾栓26が一体的に形成されている場合もあり得る。軸筒20は、例えば、樹脂材料で形成することができる。
【0014】
ペン先4とペン芯10は重ね合わせられて、筒状になった首部22と嵌合する。このとき、ペン先4は、ペン芯10と重なり合った領域より前側にまで延びて配置されている。ペン芯10は、ペン先4と重なり合った領域より後ろ側にまで延びて配置されている。つまり、ペン芯10の一部がペン先4で覆われている。ペン先4とペン芯10が重なり合った領域が首部22と嵌合するので、ペン先4及びペン芯10が軸筒20の前端部にしっかり固定された構造が得られる。
【0015】
ペン芯10には、後端側に位置するインキ貯留領域30内のインキを、ペン先4の前端の筆記領域に流動させるためのインキ溝12が設けられている。なお、ペン芯10と首部22との嵌合部において、僅かな隙間があるので、この隙間にインキが流れ込む虞がある。特に、隙間の断面積はインキ溝12の断面積より小さいので、毛細管現象により、インキがインキ溝12よりもこの隙間に流れ込み易くなる。このため、ペン芯10及び首部22がインキで汚れるとともに、インキ溝12によりインキを筆記領域に供給する効率が低下する虞がある。これに対応するためのインキ流れ込み防止機構については、追って詳細に述べる。
【0016】
更に、ペン芯10には、後端でインキ貯留領域30と連通し、前端で外部と連通する気液溝14が設けられている。インキ溝12を介して、インキ貯留領域30からインキが流出した場合、そのままでは、インキ貯留領域30内が負圧になって、インキの流れを継続させることができない。そこで、気液溝14により、流出したインキの分だけ大気を取り込む気液交換を行うことにより、インキ貯留領域30内が負圧になるのを防いで、インキ貯留領域30内のインキを継続的に筆記領域に供給することができる。
【0017】
更に、インキ貯留領域30から前端の筆記領域までインキ溝12内にインキが満たされた状態となり、かつ筆記領域が紙面等に接していない場合には、インキ貯留領域30等から気液溝14にインキが流入して、気液溝14における空気の流路を遮蔽するようになっている。これにより、ペン先4からの所謂インキのボタ落ちを防ぐことができる。また、ペン芯10には、インキ貯留領域30から引き出されたインキを一時的に蓄える櫛溝16も設けられている。
ペン芯10は、樹脂材料で形成することができ、一体的に形成された場合には、容易に洗浄することができる。
【0018】
(第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構)
次に、
図3A及び
図3Bを参照しながら、ペン芯10及び首部22の嵌合部に存在する僅かな隙間にインキが流れ込むのを防ぐための本発明の第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を説明する。
図3A及び
図3Bは、本発明の第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるインキの流れ込み防止の原理を模式的に示す側面断面図である。
【0019】
ペン芯10及び軸筒20の首部22の嵌合部には、僅かな隙間Sが存在する。
図3Aの(a)に示すように、隙間の内面となるペン芯10の嵌合部外面10Aまたは軸筒20の首部22の嵌合部内面22Aで生じる単位長さ当たりの毛細管力(表面張力)をTとし、毛細管力Tの外面、内面に対する角度をθとすると、隙間Sにインキを引き込む単位長さ当たりの力はT×cosθとなる。同様に、インキ溝12や気液溝14にインキを引き込む単位長さ当たりの力はT×cosθとなる。
よって、隙間S、インキ溝12及び気液溝14の断面の周長をL、断面積Aとすれば、単位面積当たりの毛管力Fは、T×cosθ×L/Aで算出される。ここで、隙間Sの断面とは、ペン芯10の後端に対応するインキ貯留領域30との境界面における断面を意味する。インキ溝12や気液溝14の断面とは、溝の長手方向に直交する断面であって、ここでは、特にペン芯10の後端に対応するインキ貯留領域30との境界面となる端面(つまり溝の後端の面)を意味する。
【0020】
隙間Sの断面積は、インキ溝12の断面積より小さいので、毛管力による単位面積当たりのインキを引き込む力は、隙間Sの方がインキ溝12や気液溝14より大きい。よって、
図3Aの(b)に示すように、インキ溝12の引き込み力よりも大きい隙間Sの引き込み力Fにより、インキ貯留領域30内のインキが隙間Sに流入する。なお、インキ溝12及び気液溝14の単位面積当たりのインキを引き込む力は、インキ溝12の方が気液溝14より大きくなっている。
この状態のままでは、インキ貯留領域30内のインキが速やかにインキ溝12に流入しなくなる。その結果、インキ溝12及び隙間Sにインキが存在しない状態から、前端の筆記領域までインキで満たされた使用可能状態になるまで、必要以上に時間を要することになる。
【0021】
これに対処するため、本実施形態では、ペン芯10及び軸筒20の首部22の嵌合部に、インキ流れ込み防止機構が設けられている。第1の実施形態では、特に、嵌合構造を構成するペン芯10の嵌合部外面10Aに、全周にわたって周方向に延びるリング状溝部40が形成されている。隙間Sに流入したインキが、隙間S内を前側に進み、リング状溝部40との境界に達すると、インキの表面張力で逆向きの毛細管力F’がかかる形となる。これにより、インキ貯留領域30から隙間S内にインキを引き込む力は弱まり、インキは、隙間Sからリング状溝部40に流出することなく、インキ貯留領域30から隙間Sへのインキの流入が止まる。
【0022】
このようなインキ流れ込み防止機構よって、インキ貯留領域30から隙間Sへのインキの流入を速やかに止めることができる。よって、インキ溝12の引き込み力より、インキ貯留領域30内のインキがインキ溝12に流入させ、速やかにインキを前端の筆記領域に供給することができる。
【0023】
これにより、筆記具の使用開始時や筆記具を洗浄した後のような、インキ溝12及び隙間Sにインキがない状態から、速やかに、インキ溝12全域にインキが満たされた使用可能な状態にすることができる。 リング状溝部40は、インキ貯留領域30との境界となるペン芯10の後端の近傍に設けることが好ましい。例えば、リング状溝部40の後ろ側の端部のペン芯10の後端からの距離Xを、0.8~3mm程度にするのが好ましい。これにより、隙間Sに流入したインキの流れを速やかに止めることができる。
リング状溝部40の軸方向の長さである幅Wとして、0.8~2mm程度が好ましい。これにより、隙間Sに流入したインキの流れを確実に止めることができる。
【0024】
<リング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置の1つの例>
次に、
図4Aを参照しながら、第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置の1つの例の説明を行う。
図4Aは、第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置の1つの例を模式的に示す断面図である。
図4A及び後述する
図4B、
図4Cは、溝の長手方向と直交する断面、つまり、軸方向に直交する断面を示す。
【0025】
本例では、ペン芯10の嵌合部外面10Aの周方向の異なる位置に、インキ溝12及び気液溝14が形成されている。この場合には、インキ溝12の全域がインキで満たされた後、インキ貯留領域30内のインキが、速やかに気液溝14の後端から流入する。これにより、確実に気液溝14をインキで充填して空気の流路を閉鎖し、ペン先4からの所謂インキのボタ落ちを防止できる。
【0026】
<リング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置のその他の例>
次に、
図4Bを参照しながら、第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置のその他の例の説明を行う。
図4Bは、第1の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構におけるリング状溝部、インキ溝及び気液溝の配置のその他の例を模式的に示す断面図である。
【0027】
本例では、ペン芯10の嵌合部外面10Aに気液溝14が形成され、気液溝14の底部にインキ溝12が形成されている場合を示す。気液溝14の底面にインキ溝12が開口している。この場合には、インキ溝12の全域がインキで満たされた後、主に、インキ溝12内のインキが、速やかに気液溝14内に流入する。これにより、迅速に気液溝14をインキで充填して空気の流路を閉鎖し、ペン先4からの所謂インキのボタ落ちを防止できる。
【0028】
<リング状溝部及びインキ溝の深さ>
次に、
図4Cを参照しながら、リング状溝部及びインキ溝の深さの比較を行う。
図4Cは、
図4A及び
図4Bに示すリング状溝部及びインキ溝の深さを示す断面図である。
図4Cは、軸方向でリング状溝部が設けられた位置の断面を示す。
インキ溝12の深さをD1とし、リング状溝部40の深さをD2とすると、D1>D2の関係を有する。つまり、嵌合部外面10Aにリング状溝部40が形成されるとき、インキ溝12の底部がリング状溝部40の底部より深い位置にある。これにより、インキ貯留領域30と面する後端から筆記領域となる前端まで、インキ溝12を連続的に設けることができるので、インキ貯留領域30から筆記領域へインキを確実に供給することができる。
【0029】
なお、気液溝14については、空気がリング状溝部40内を流れることができるので、気液溝14の深さは、リング状溝部40より深くする必要はない。逆に、気液溝14にインキを満たして、空気の流れを遮断する場合には、気液溝14及びリング状溝部40境界の位置で、確実にインキを止めることができるので、確実に気液溝14をインキで充填して、空気の流路を遮断することができる。
【0030】
(第2の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構)
次に、
図5Aを参照しながら、本発明の第2の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構の説明を行う。
図5Aは、本発明の第2の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
本実施形態では、リング状溝部40が、ペン芯10の嵌合部外面10Aでなく、嵌合構造を構成する軸筒20の首部22の嵌合部内面22Aに、全周にわたって周方向に形成されている点で、上記の第1の実施形態と異なる。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、確実にインキ貯留領域30から隙間Sへのインキの流入を止めることができる。
【0031】
(第3の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構)
次に、
図5Bを参照しながら、本発明の第3の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構の説明を行う。
図5Bは、本発明の第3の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
本実施形態では、リング状溝部40が、嵌合構造を構成するペン芯10の嵌合部外面10A及び軸筒20の首部22の内面22Aの両方に、全周にわたって周方向に形成されている点で、上記の第1及び第2の実施形態と異なる。本実施形態では、隙間Sの外周側及び内周側の両方向にリング状溝部40が拡がっているので、隙間S内を流れたインキをより確実に止めることができる。
【0032】
以上のように、上記の本発明の第1から第3の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を有する万年筆2は、一部がペン先4で覆われたペン芯10と、首部22でペン芯10と嵌合し、内部にインキ貯留領域30を有する軸筒20と、を備え、ペン芯10及び首部22の嵌合構造を構成するペン芯10の嵌合部外面10A及び首部22の嵌合部内面22Aにおいて、前記嵌合部外面側10Aに、インキ貯留領域30と連通し、軸方向に延びるインキ溝12及び気液溝14が形成され、嵌合部外面10A及び嵌合部内面22Aの少なくとも一方に、全周にわたって周方向に延びるリング状溝部40が形成されている。
【0033】
インキ流れ込み防止機構のリング状溝部40により、ペン芯4及び軸筒20の首部22の間の隙間Sに流入したインキの流れを速やかに止めることができる。よって、ペン芯4及び軸筒20の首部22の間の隙間Sにインキが流れ込んで、インキ溝12による筆記領域へのインキの供給効率が低下するのを抑制することができる万年筆2を提供できる。
【0034】
(第4の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構)
次に、
図6を参照しながら、本発明の第4の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構の説明を行う。
図6は、本発明の第4の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構を模式的に示す側面断面図である。
本実施形態では、ペン芯10及び軸筒20の首部22の嵌合部にリング状溝部40を有さず、代わりにリング状凸部42を有する点で、上記の第1から第3の実施形態と異なる。本実施形態では、ペン芯10の嵌合部外面10Aにリング状凸部42が設けられており、首部22の内面22Aに接触している。
【0035】
リング状凸部42を、弾性を有する材料で形成することにより、リング状凸部42の頂部を首部22の内面22Aに密着させることができる。このため、リング状凸部42の外径は、首部22の内面22Aの内径よりも少し大きく形成するのが好ましい。
図6に示すように、インキ溝12の引き込み力よりも大きい隙間Sの引き込み力Fにより、インキ貯留領域30内のインキが隙間Sに流入した場合でも、リング状凸部42によるペン芯10及び首部22の間のシール機構により、インキが隙間S内を更に前側に進むのを止めることができる。
【0036】
以上のように、第4の実施形態に係るインキ流れ込み防止機構よっても、インキ貯留領域30から隙間Sへのインキの流入を速やかに止めることができる。よって、インキ溝12の引き込み力より、インキ貯留領域30内のインキがインキ溝12に流入し、インキが速やかに前端の筆記領域に供給される。これにより、筆記具の使用開始時や筆記具を洗浄した後のような、インキ溝にインキがない状態から、速やかに使用可能な状態にすることができる。 本実施形態では、ペン芯10の外面10Aにリング状凸部42が設けられており、首部22の内面22Aに接触している。しかし、これに限られるものではなく、例えば、軸筒20の首部22の内面22Aにリング状凸部42が設けられており、ペン芯10の外面10Aに接触するように形成することもできる。
【0037】
本発明に係る万年筆は、上記の実施形態に限定されるものでななく、中空の軸筒を有するものであれば、その他の任意のものが含まれる。本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0038】
2 万年筆
4 ペン先
10 ペン芯
10A 嵌合部外面
12 インキ溝
14 気液溝
20 軸筒
22 首部
22A 嵌合部内面
24 胴軸
26 尾栓
30 インキ貯留領域
40 リング状溝部
42 リング状凸部