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特許7575939スリップメタン処理装置及び舶用推進プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】スリップメタン処理装置及び舶用推進プラント
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/32 20060101AFI20241023BHJP
   B63J 3/02 20060101ALI20241023BHJP
   B63J 99/00 20090101ALI20241023BHJP
【FI】
B63H21/32 Z
B63J3/02 D
B63J99/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020216133
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101820
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍太
(72)【発明者】
【氏名】森 匡史
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0377108(US,A1)
【文献】特開平11-281045(JP,A)
【文献】特開昭55-56519(JP,A)
【文献】特開2020-8216(JP,A)
【文献】特開2001-74235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/32,
B63B 25/16,
B63J 3/02,99/00,
F01N 3/00,
B01D 53/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
加熱用燃料を前記燃焼器に供給するための燃料ラインと、
前記燃料ラインに設けられた燃料調整弁と、
前記燃料調整弁を制御することにより前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御装置と、
を備え、
前記燃焼器温度制御装置は、
前記排ガスの流速に関するパラメータを取得するように構成されたパラメータ取得部と、
前記パラメータ取得部によって取得した前記パラメータと、前記パラメータと前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示すパラメータ相関情報とに基づいて、前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出するように構成された反応温度算出部と、
前記反応温度算出部によって算出した前記反応温度に基づいて前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御部と、
を含み、
前記排ガスの流速を計測する流速センサを更に備え、
前記パラメータ取得部は、前記流速センサによって計測された前記排ガスの流速を前記パラメータとして取得するように構成され、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するガス‐ガスヒータと、
排ガスエコノマイザと、
前記燃焼器から排出された前記排ガスを前記排ガスエコノマイザに供給するための排ガス排出ラインと、
を更に備え、
前記流速センサは、前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置に設けられた、
スリップメタン処理装置。
【請求項2】
前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置において前記排ガス排出ラインから分岐し、前記排ガス排出ラインにおける前記ガス‐ガスヒータと前記排ガスエコノマイザとの間の位置において前記排ガス排出ラインに合流するバイパスラインを更に備え、
前記流速センサは、前記排ガス排出ラインにおいて、前記バイパスラインが前記排ガス排出ラインから分岐する分岐位置よりも上流側に設けられた、請求項に記載のスリップメタン処理装置。
【請求項3】
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
加熱用燃料を前記燃焼器に供給するための燃料ラインと、
前記燃料ラインに設けられた燃料調整弁と、
前記燃料調整弁を制御することにより前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御装置と、
を備え、
前記燃焼器温度制御装置は、
前記排ガスの流速に関するパラメータを取得するように構成されたパラメータ取得部と、
前記パラメータ取得部によって取得した前記パラメータと、前記パラメータと前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示すパラメータ相関情報とに基づいて、前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出するように構成された反応温度算出部と、
前記反応温度算出部によって算出した前記反応温度に基づいて前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御部と、
を含み、
前記排ガスの流速を計測する流速センサを更に備え、
前記パラメータ取得部は、前記流速センサによって計測された前記排ガスの流速を前記パラメータとして取得するように構成され、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するガス‐ガスヒータを更に備え、
前記流速センサは、前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記ガス‐ガスヒータとの間の位置に設けられた、
スリップメタン処理装置。
【請求項4】
前記パラメータ相関情報は、前記排ガスの流速と前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報と、前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間と前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報との組み合わせを含む、請求項1~3の何れか1項に記載のスリップメタン処理装置。
【請求項5】
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
加熱用燃料を前記燃焼器に供給するための燃料ラインと、
前記燃料ラインに設けられた燃料調整弁と、
前記燃料調整弁を制御することにより前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御装置と、
を備え、
前記燃焼器温度制御装置は、
前記排ガスの流速に関するパラメータを取得するように構成されたパラメータ取得部と、
前記パラメータ取得部によって取得した前記パラメータと、前記パラメータと前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示すパラメータ相関情報とに基づいて、前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出するように構成された反応温度算出部と、
前記反応温度算出部によって算出した前記反応温度に基づいて前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御部と、
を含み、
前記パラメータ取得部は、前記舶用ガスエンジンの負荷を示す値を前記パラメータとして取得するように構成され、
前記パラメータ相関情報は、前記舶用ガスエンジンの負荷を示す値と前記排ガスの流速との相関関係を示す負荷‐流速相関情報と、前記排ガスの流速と前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報と、前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間と前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報と、を含む、
スリップメタン処理装置。
【請求項6】
前記パラメータ取得部は、前記舶用ガスエンジンの負荷に先行する先行信号であって、前記舶用ガスエンジンが搭載された船舶の船速を制御するための先行信号を、前記パラメータとして取得するように構成された、請求項に記載のスリップメタン処理装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のスリップメタン処理装置と、
前記舶用ガスエンジンと、
を備える、舶用推進プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スリップメタン処理装置及び舶用推進プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)を燃料とする舶用ガスエンジンでは、メタンガスの一部が未燃状態で系外に排出されてしまう。このようにガスエンジンから未燃状態で排出されるメタンは、スリップメタン(slipped methane)と称されている。メタンの温暖化係数は二酸化炭素と比較して非常に高いため、舶用ガスエンジンを含むプラント内でスリップメタンを処理することが求められている。
【0003】
特許文献1には、発電用のガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを燃焼器で燃焼処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-360559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、舶用ガスエンジンから発生するスリップメタンを燃焼処理する場合、燃焼器におけるスリップメタンの適切な燃焼温度と滞留時間を設定する必要がある。
【0006】
一方、例えば、舶用ガスエンジンの負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化すると、燃焼器におけるスリップメタンの滞留時間も変化してしまう。この場合、燃焼器における燃焼温度を固定していると、燃焼器へ供給する燃料が不足してスリップメタンの燃焼が不十分となる懸念や、逆に燃焼器に燃料を過剰に供給してしまい燃料消費量が増大してしまう懸念がある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示は、舶用ガスエンジンの排ガスの流速が変化した場合であっても、スリップメタンの燃焼に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給可能なスリップメタン処理装置及びこれを備える及び舶用推進プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係るスリップメタン処理装置は、
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
加熱用燃料を前記燃焼器に供給するための燃料ラインと、
前記燃料ラインに設けられた燃料調整弁と、
前記燃料調整弁を制御することにより前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御装置と、
を備え、
前記燃焼器温度制御装置は、
前記排ガスの流速に関するパラメータを取得するように構成されたパラメータ取得部と、
前記パラメータ取得部によって取得した前記パラメータと、前記パラメータと前記前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示すパラメータ相関情報とに基づいて、前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出するように構成された反応温度算出部と、
前記反応温度算出部によって算出した前記反応温度に基づいて前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御部と、
を含む。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る舶用推進プラントは、
上記スリップメタン処理装置と、
舶用ガスエンジンと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ガスエンジンの排ガスの流速が変化した場合であっても、スリップメタンの燃焼に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給可能なスリップメタン処理装置及びこれを備える及び舶用推進プラントが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るスリップメタン処理装置2(2A)の概略構成を示す図である。
図2図1に示した燃焼器温度制御装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図1及び図2に示した燃焼器温度制御装置20の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4図3に示した燃焼器温度制御装置20を用いた燃焼器8の温度制御のフローを示す図である。
図5】排ガスの流速と燃焼器8内での排ガスの滞留時間との相関関係を示すグラフ(流速‐滞留時間相関情報)である。
図6】燃焼器8内での排ガスの滞留時間とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との関係を示すグラフ(滞留時間‐反応温度相関情報)である。
図7】燃焼器温度制御装置20の機能的な構成の他の一例を示す図である。
図8図7に示した燃焼器温度制御装置20を用いた燃焼器8の温度制御のフローを示す図である。
図9】ガスエンジン100の負荷とガスエンジン100から排出された排ガスの流速との相関関係を示すグラフ(エンジン負荷‐流速相関情報)である。
図10】他の実施形態に係るスリップメタン処理装置2(2B)の概略構成を示す図である。
図11】スリップメタン処理装置2(2A)の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
図1は、一実施形態に係るスリップメタン処理装置2(2A)の概略構成を示す図である。スリップメタン処理装置2は、不図示の船舶に搭載されており、舶用ガスエンジン100から未燃状態で排出されたメタンガス(以下、舶用ガスエンジン100から未燃状態で排出されたメタンガスを「スリップメタン」という。)を含む排ガスを燃焼処理するように構成されている。舶用ガスエンジン100は、例えばメタンガスを含む燃料ガス(例えば天然ガス等)を主燃料とする低圧予混合方式のディーゼルエンジン(主機エンジン)であり、船舶の推進力を得るためのプロペラ102に連結されている。スリップメタン処理装置2、舶用ガスエンジン100及びプロペラ102は、舶用推進プラント50を構成する。以下、舶用ガスエンジン100を単にガスエンジン100という。
【0014】
図1に示すように、スリップメタン処理装置2は、排ガス供給ライン4、燃料ライン6、燃焼器8、排ガス排出ライン10、ガス‐ガスヒータ12、排熱回収装置14、燃料調整弁16、温度センサ18、流速センサ19及び燃焼器温度制御装置20を備える。
【0015】
排ガス供給ライン4は、ガスエンジン100と燃焼器8とを接続しており、ガスエンジン100から排出されたスリップメタンを含む排ガスを燃焼器8に供給するように構成されている。
【0016】
燃料ライン6は、不図示の燃料源と燃焼器8とを接続しており、燃焼器8に加熱用燃料を供給するように構成されている。加熱用燃料は、例えばガスエンジン100に供給される燃料ガスと同じ燃料(例えば天然ガス等)であってもよい。燃料ライン6には、燃料ライン6から燃焼器8に供給する加熱用燃料の流量を調整可能な燃料調整弁16が設けられている。
【0017】
燃焼器8は、燃料ライン6から供給された加熱用燃料と排ガス供給ライン4から供給されたスリップメタンとを燃焼させて燃焼ガスを生成するように構成されている。燃焼器8の燃焼温度(燃焼器8で生成される燃焼ガスの温度)は、排ガス供給ライン4から供給されたスリップメタンが燃焼器8の内部で自己燃焼するような温度に設定される。
【0018】
排ガス排出ライン10には、燃焼器8の燃焼温度(図示する例では燃焼器8の出口温度)を計測する温度センサ18が設けられている。温度センサ18は、排ガス排出ライン10の排ガスの温度を計測することにより、燃焼器8の燃焼温度を計測する。また、排ガス排出ライン10には、排ガス排出ライン10の排ガスの流速を計測するための流速センサ19が設けられている。温度センサ18及び流速センサ19の各々は、排ガス排出ライン10における燃焼器8とガス‐ガスヒータ12との間の位置に設けられている。図示する例では、流速センサ19は、排ガス排出ライン10において温度センサ18よりも下流側の位置に設けられている。
【0019】
図1に示すように、排ガス排出ライン10は、燃焼器8と排熱回収装置14の排ガスエコノマイザ22とを接続しており、燃焼器8で加熱されて燃焼器8から排出された排ガス(燃焼排ガス)を排ガスエコノマイザ22に供給するように構成されている。
【0020】
ガス‐ガスヒータ12は、排ガス供給ライン4におけるガスエンジン100と燃焼器8との間に位置し、排ガス排出ライン10における燃焼器8と排熱回収装置14の排ガスエコノマイザ22との間に位置する。ガス‐ガスヒータ12は、排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスと排ガス排出ライン10を流れる排ガスとの熱交換により排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスを加熱する熱交換器として構成されている。なお、燃焼器8及びガス‐ガスヒータ12の各々は、共通の1つのダクトバーナの一部分として構成されてもよい。
【0021】
排熱回収装置14は、排ガスエコノマイザ22、蒸気タービン24、発電機26、復水器28、蒸気ライン30及び復水ライン32を含む。
【0022】
排ガスエコノマイザ22は、復水ライン32から供給された水(復水)を排ガス排出ライン10から供給された排ガスにより加熱して蒸発させ、蒸気を生成するように構成されている。排ガスエコノマイザ22で生成された蒸気は、排ガスエコノマイザ22と蒸気タービン24とを接続する蒸気ライン30を通って蒸気タービン24に供給されて、蒸気タービン24を駆動する。蒸気タービン24には発電機26が連結されており、排ガスエコノマイザ22から蒸気ライン30を通って供給された蒸気によって蒸気タービン24が駆動されることにより、発電機26から電力が得られる。発電機26から得た電力は、ガスエンジン100が搭載された船舶の電力需要(以下、「船内電力需要」という。)の少なくとも一部を賄うように当該船舶で消費される。排ガス排出ライン10から排ガスエコノマイザ22へ供給された排ガスは、排ガスエコノマイザ22で復水ライン32から供給された水との熱交換を行った後に、大気に放出される。
【0023】
上記スリップメタン処理装置2のガス‐ガスヒータ12は、排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスと排ガス排出ライン10を流れる排ガスとの熱交換により排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスを加熱するように構成されている。このため、排ガス供給ライン4から燃焼器8に供給される排ガスの温度を、燃焼器8に供給される前に上昇させることができる。したがって、燃焼器8の燃焼温度をスリップメタンが燃焼器8の内部で自己燃焼するような温度にするために必要な燃料投入量(燃料ライン6から燃焼器8への燃料投入量)を削減することができる。
【0024】
蒸気タービン24を通過した蒸気は、復水器28で凝縮されて復水となり、復水器28と排ガスエコノマイザ22とを接続する復水ライン32を介して排ガスエコノマイザ22に再び供給される。
【0025】
図2は、図1に示した燃焼器温度制御装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。図3は、図1及び図2に示した燃焼器温度制御装置20の機能的な構成の一例を示すブロック図である。図4は、図3に示した燃焼器温度制御装置20を用いた燃焼器8の温度制御のフローを示す図である。
【0026】
図2に示すように、燃焼器温度制御装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)72、RAM(Random Access Memory)74、ROM(Read Only Memory)76、HDD (Hard Disk Drive)78、入力I/F80、及び出力I/F82を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。なお、燃焼器温度制御装置20のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。また燃焼器温度制御装置20は、燃焼器温度制御装置20の各機能を実現するプログラムをコンピュータが実行することにより構成される。以下で説明する燃焼器温度制御装置20における各部の機能は、例えばROM76に保持されるプログラムをRAM74にロードしてCPU72で実行するとともに、RAM74やROM76におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0027】
図3に示すように、燃焼器温度制御装置20は、パラメータ取得部40、反応温度算出部42、燃焼器温度制御部44及び相関情報記憶部46を含む。以下、図3に示す燃焼器温度制御装置20の各部の機能について、図4に示す温度制御のフローを用いて説明する。
【0028】
図4に示すように、S11において、パラメータ取得部40は、排ガスの流速に関するパラメータとして、流速センサ19によって計測した排ガスの流速(計測値)を流速センサ19から取得する。
【0029】
S12及びS13では、反応温度算出部42は、パラメータ取得部40によって取得した排ガスの流速と、相関情報記憶部46から読み出したパラメータ相関情報とに基づいて、スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度(雰囲気温度)を算出する。このパラメータ相関情報は、排ガスの流速とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す情報である。パラメータ相関情報において、排ガスの流速とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度とは正の相関関係を有する。すなわち、パラメータ相関情報は、排ガスの流速が大きくなるほど、排ガスの流速に対応する反応温度も大きくなるような相関関係を示す情報である。
【0030】
ここで説明する例では、パラメータ相関情報は、排ガスの流速と燃焼器8内での排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報(図5参照)と、燃焼器8内での排ガスの滞留時間とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報(図6参照)と、を含む。なお、『燃焼器8内での排ガスの滞留時間』とは、ガスエンジン100の排ガスが燃焼器8を通過するのに要する時間、すなわち、ガスエンジン100の排ガスが燃焼器8に入ってから燃焼器8を出るまでに要する時間である。また、『スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度』とは、燃焼器8内での排ガスの滞留時間内にスリップメタンの燃焼処理を終えられる反応温度(このましくは燃焼器8内での排ガスの滞留時間内にスリップメタンを完全焼却できる反応温度)である。
【0031】
図5に示すように、流速‐滞留時間相関情報において、排ガスの流速と燃焼器8内での排ガスの滞留時間とは、負の相関関係を有する。すなわち、流速‐滞留時間相関情報は、排ガスの流速が大きくなるほど、燃焼器8内での排ガスの滞留時間は短くなるような相関関係を示す情報である。また、図6に示すように、滞留時間‐反応温度相関情報において、燃焼器8内での排ガスの滞留時間とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度とは、負の相関関係を有する。すなわち、滞留時間‐反応温度相関情報は、燃焼器8内での排ガスの滞留時間が長くなるほど、スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度が低くなるような相関関係を示す情報である。
【0032】
S12において、反応温度算出部42は、パラメータ取得部40によって取得した排ガスの流速と、相関情報記憶部46から取得した流速‐滞留時間相関情報(図5参照)とに基づいて、パラメータ取得部40によって取得した排ガスの流速に対応する排ガスの滞留時間を算出する。
【0033】
S13において、反応温度算出部42は、S12で算出した排ガスの滞留時間と、相関情報記憶部46から取得した滞留時間‐反応温度相関情報(図6参照)とに基づいて、S12で算出した排ガスの滞留時間に対応する反応温度を算出する。反応温度算出部42は、S13で算出した反応温度を、燃焼器8の燃焼温度の設定温度(目標値)として設定する。この設定温度は、メタンの自己燃焼を促進しつつ燃焼器8の耐熱性に起因する高コスト化を抑制する観点から、例えば537℃以上1000℃以下であってもよく、排ガス排出ライン10の大型化を抑制しつつ耐熱性に起因する高コスト化を抑制する観点から、600℃以上850℃以下(例えば800℃程度)であってもよい。なお、メタンの発火点は537℃である。
【0034】
S14において、燃焼器温度制御部44は、温度センサ18によって計測した燃焼器8の燃焼温度を温度センサ18から取得する。
【0035】
S15及びS16では、燃焼器温度制御部44は、反応温度算出部42によって算出した反応温度に基づいて燃料調整弁16を制御することにより、燃焼器8の燃焼温度を制御する。
【0036】
S15において、燃焼器温度制御部44は、反応温度算出部42によって算出した反応温度(S13で燃焼器8の設定温度として設定された反応温度)と、温度センサ18によって計測された燃焼器8の温度との偏差を算出する。
【0037】
S16において、燃焼器温度制御部44は、燃焼器8の燃焼温度が設定温度に近づくように燃料調整弁16の開度を制御する。すなわち、燃焼器温度制御部44は、反応温度算出部42によって算出する反応温度(設定温度)と温度センサ18でによって計測される燃焼器8の温度との偏差が小さくなるように、燃料調整弁16の開度を制御する。燃焼器温度制御部44は、S15で算出した偏差に基づいて、燃焼器8の燃焼温度について例えばP制御又はPI制御等を行ってもよい。
【0038】
上記スリップメタン処理装置2では、パラメータ取得部40によって取得した燃焼器8における排ガスの流速に関するパラメータとパラメータ相関情報(流速‐滞留時間相関情報と滞留時間‐反応温度相関情報との組み合わせからなるパラメータ相関情報)とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御する。
【0039】
このため、例えば、ガスエンジン100の負荷が低下して排ガスの流速が遅くなると燃焼器8における排ガスの滞留時間が長くなるので、このような場合には燃焼器温度制御装置20がスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度(燃焼器8の設定温度)を下げることにより、燃焼器8の設定温度を一定に維持する場合と比較して、燃焼器8への投入燃料の量を削減しつつスリップメタンを燃焼させることができ、燃費向上を図ることができる。
【0040】
また、ガスエンジン100の負荷が上昇して排ガスの流速が速くなると燃焼器8における排ガスの滞留時間が短くなるので、このような場合には燃焼器温度制御装置20がスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を上げてスリップメタンの燃焼が不十分になることを抑制することができる。
【0041】
このように、ガスエンジン100の負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器8における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、燃焼器8に供給する燃料が不足してスリップメタンの燃焼が不十分となることや、燃焼器8に燃料を過剰に供給してしまい燃料消費量が増大してしまうことを抑制することができる。すなわち、ガスエンジン100の負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器8における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、スリップメタンの燃焼に用いる燃焼器8へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0042】
図7は、燃焼器温度制御装置20の機能的な構成の他の一例を示す図である。図8は、図7に示した燃焼器温度制御装置20を用いた燃焼器8の温度制御のフローを示す図である。
【0043】
図7に示す燃焼器温度制御装置20も、パラメータ取得部40、反応温度算出部42、燃焼器温度制御部44及び相関情報記憶部46を含むが、パラメータ取得部40、反応温度算出部42及び相関情報記憶部46の機能が図3に示す燃焼器温度制御装置20と異なる。以下、図7に示す燃焼器温度制御装置20の各部の機能について、図8に示す温度制御のフローを用いて説明する。なお、図7に示す燃焼器温度制御装置20を有する場合は、スリップメタン処理装置2は、流速センサ19(図1参照)を備えていなくてもよい。
【0044】
図8に示すように、S21aにおいて、パラメータ取得部40は、排ガスの流速に関するパラメータとして、ガスエンジン100の負荷を示す値を取得する。負荷を示す値は、例えばガスエンジンの負荷の絶対値であってもよいし、ガスエンジンの負荷の最大負荷に対する割合であってもよいし、ガスエンジンの負荷に対応してガスエンジンに投入される投入燃料の量等であってもよいし、ガスエンジン100が搭載された船舶の船速を制御するための先行信号(ガスエンジン100の負荷に先行する先行信号)であってもよい。なお、船速を制御するための先行信号は、例えばエンジンテレグラフの信号であってもよいし、ダイレクト操作の信号であってもよい。エンジンテレグラフとは、操船者がエンジンに船速の指令値を連絡するための装置であり、ダイレクト操作とは、操船者が直接エンジンに負荷の指令を送ることを意味する。
【0045】
S21b、S22及びS23では、反応温度算出部42は、パラメータ取得部によって取得したガスエンジン100の負荷を示す値と、相関情報記憶部46から取得したパラメータ相関情報とに基づいて、スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出する。このパラメータ相関情報は、ガスエンジン100の負荷を示す値とガスエンジン100から排出された排ガスの流速との相関関係を示すエンジン負荷‐流速相関情報(図9参照)と、排ガス流速と燃焼器8内での排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報(図5参照)と、燃焼器8内での排ガスの滞留時間とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報(図6参照)と、を含む。
図9に示すように、エンジン負荷‐流速相関情報において、ガスエンジン100の負荷と排ガスの流速とは、正の相関関係を有する。すなわち、エンジン負荷‐流速相関情報では、ガスエンジン100の負荷が大きくなるほど、排ガスの流速は大きくなる。
【0046】
S21bにおいて、反応温度算出部42は、パラメータ取得部40によって取得したガスエンジン100の負荷を示す値と、相関情報記憶部46から取得したエンジン負荷‐流速相関情報(図9参照)とに基づいて、パラメータ取得部40によって取得したガスエンジン100の負荷を示す値に対応する排ガスの流速を算出する。
【0047】
S22~S26は、それぞれ、図4におけるS12~S16と同一であるため、説明を省略する。
【0048】
図7及び図8を用いて説明した燃焼器温度制御装置20を備えるスリップメタン処理装置2では、パラメータ取得部40によって取得したガスエンジン100の負荷を示す値とパラメータ相関情報(エンジン負荷‐流速相関情報と、流速‐滞留時間相関情報と、滞留時間‐反応温度相関情報との組み合わせからなるパラメータ相関情報)とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御する。
【0049】
このため、例えば、ガスエンジン100の負荷が低下して排ガスの流速が遅くなると燃焼器8における排ガスの滞留時間が長くなるので、このような場合には燃焼器温度制御装置20がスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度(燃焼器8の設定温度)を下げることにより、燃焼器8の設定温度を一定に維持する場合と比較して、燃焼器8への投入燃料の量を削減しつつスリップメタンを燃焼させることができ、燃費向上を図ることができる。
【0050】
また、ガスエンジン100の負荷が上昇して排ガスの流速が速くなると燃焼器8における排ガスの滞留時間が短くなるので、このような場合には燃焼器温度制御装置20がスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を上げてスリップメタンの燃焼が不十分になることを抑制することができる。
【0051】
このように、ガスエンジン100の負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器8における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、燃焼器8に供給する燃料が不足してスリップメタンの燃焼が不十分となることや、燃焼器8に燃料を過剰に供給してしまい燃料消費量が増大してしまうことを抑制することができる。すなわち、ガスエンジン100の負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器8における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、スリップメタンの燃焼に用いる燃焼器8へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0052】
また、ガスエンジン100の負荷が変化してから流速センサ19によって計測される排ガスの流速が変化するまでには時間差が生じる。このため、流速センサ19によって計測される排ガスの流速ではなく図7等に示すようにガスエンジン100の負荷を示す値をパラメータとしてパラメータ取得部40が取得することにより、流速センサ19で排ガスの流速を直接計測するよりも応答性良く、排ガスの流速の変化を燃焼器8の温度制御に反映させることができる。
【0053】
図10は、他の実施形態に係るスリップメタン処理装置2(2B)の概略構成を示す図である。
図10に示すスリップメタン処理装置2(2B)は、バイパスライン34、バイパス弁36及びバイパス弁制御装置38を備えている点が上記スリップメタン処理装置2(2A)とは異なっており、他の基本構成は上記スリップメタン処理装置2(2A)と同様である。図10に示すスリップメタン処理装置2(2B)において、図1に示したスリップメタン処理装置2(2A)の各構成と共通の符号は、特記しない限り図1に示したスリップメタン処理装置2(2A)の各構成と同様の構成を示すものとし、説明を省略する。なお、バイパス弁制御装置38のハードウェア構成は、図2に示した燃焼器温度制御装置20のハードウェア構成と同様であってもよい。
【0054】
図10に示すように、バイパスライン34は、排ガス排出ライン10における燃焼器8とガス‐ガスヒータ12との間の位置において排ガス排出ライン10から分岐し、排ガス排出ライン10におけるガス‐ガスヒータ12と排ガスエコノマイザ22との間の位置において排ガス排出ライン10に合流するように構成されている。すなわち、バイパスライン34は、燃焼器8から排出される排ガスを、ガス‐ガスヒータ12を迂回して(ガス‐ガスヒータ12に供給せずに)排ガスエコノマイザ22に直接供給するように構成されている。バイパスライン34には、バイパスライン34を流れる排ガスの流量を調節可能なバイパス弁36が設けられている。図10に示す構成では、流速センサ19は、排ガス排出ライン10において、バイパスライン34が排ガス排出ライン10から分岐する分岐位置P1よりも上流側に設けられている。
【0055】
バイパス弁制御装置38は、排ガスエコノマイザ22で回収するエネルギーの需要(需要量)に関する需要情報に基づいて、バイパス弁36を制御するように構成されている。バイパス弁制御装置38は、上記需要情報が示すエネルギーの需要が大きくなるにつれて、バイパス弁36の開度を大きくするように構成される。
【0056】
例えば、上記需要情報は、ガスエンジン100が搭載された船舶の船内電力需要(船内で使用される電力の需要量)を示していてもよく、この場合、バイパス弁制御装置38は、上記需要情報が示す船内電力需要が大きくなるにつれて、バイパス弁36の開度を大きくするように構成される。
【0057】
図10に示す構成においても、燃焼器8の燃焼温度は、排ガス供給ライン4から供給されたスリップメタンが燃焼器8の内部で自己燃焼するような設定温度に設定される。また、燃焼器8から排出される排ガスの温度を計測する温度センサ18が排ガス排出ライン10に設けられており、燃焼器温度制御装置20は、温度センサ18の出力に基づいて、燃焼器8の燃焼温度をスリップメタンが燃焼器8の内部で自己燃焼するような上述の設定温度に近づけるように燃料調整弁16の開度を制御する。
【0058】
このように、バイパス弁36の開度を大きくするほど、燃焼器8から排出された排ガスの熱エネルギーの多くを排ガスエコノマイザ22で回収することができ、蒸気タービン24に連結された発電機26の発電量を増大させることができる。
【0059】
また、図1及び図10に示すように、排ガス供給ライン4ではなく排ガス排出ライン10における燃焼器8とガス‐ガスヒータ12との間の位置に流速センサ19を設けることにより、燃焼器8で加熱用燃料を燃焼させることにより発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速を流速センサ19で計測することができる。したがって、燃焼器8で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速とパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器8へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0060】
また、図10に示すように、排ガス排出ライン10において、バイパスライン34が排ガス排出ライン10から分岐する分岐位置P1よりも上流側に流速センサ19が設けられているため、バイパスライン34を流れる排ガスの流量の変化の影響を受けることなく、燃焼器8で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速を流速センサ19で計測することができる。したがって、燃焼器8で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速とパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器8へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0061】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0062】
例えば、上述のスリップメタン処理装置2(2A又は2B)では、流速センサ19が排ガス排出ライン10における燃焼器8とガス‐ガスヒータ12との間の位置に設けられていたが、流速センサ19は、例えば図11に示すように、排ガス供給ライン4におけるガスエンジン100とガス‐ガスヒータ12との間の位置に設けられていてもよい。これにより、排ガス供給ライン4におけるガスエンジン100に比較的近い位置に流速センサ19が設けられることになるため、ガスエンジン100の負荷変動によりガスエンジン100から排出される排ガスの流速が変化しても、排ガスの流速の変化に対して応答性良く燃焼器へ供給する燃料ガスの量を調整して、燃焼器の温度を制御することができる。
【0063】
また、図4を用いて説明した実施形態では、パラメータ相関情報は、排ガスの流速と燃焼器8内での排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報(図5参照)と、燃焼器8内での排ガスの滞留時間とスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報(図6参照)と、を含んでいた。しかしながらパラメータ相関情報は、これに限らず、例えば排ガスの流速をスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度に直接変換可能な1つの伝達関数等であってもよい。
【0064】
図8を用いて説明した実施形態においても、パラメータ相関情報は、例えばガスエンジン100の負荷を示す値をスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度に直接変換可能な1つの伝達関数等であってもよい。
【0065】
また、上述した幾つかの実施形態では、パラメータ相関情報は、スリップメタン処理装置2の内部に設けられた相関情報記憶部46から読み出されて反応温度の算出に用いられたが、スリップメタン処理装置2の外部に設けられた記憶装置から読み出されて反応温度の算出に用いられてもよい。
【0066】
また、上述した幾つかの実施形態では、燃焼器温度制御装置20とバイパス弁制御装置38とを便宜的に分けて説明したが、燃焼器温度制御装置20とバイパス弁制御装置38とは共通のハードウェアにより構成されていてもよい。
【0067】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0068】
(1)本開示に係るスリップメタン処理装置は、
燃焼器(例えば上述の燃焼器8)と、
舶用ガスエンジン(例えば上述の舶用ガスエンジン100)から排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ライン(例えば上述の排ガス供給ライン4)と、
加熱用燃料を前記燃焼器に供給するための燃料ライン(例えば上述の燃料ライン6)と、
前記燃料ラインに設けられた燃料調整弁(例えば上述の燃料調整弁16)と、
前記燃料調整弁を制御することにより前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御装置(例えば上述の燃焼器温度制御装置20)と、
を備え、
前記燃焼器温度制御装置は、
前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間に関するパラメータを取得するように構成されたパラメータ取得部(例えば上述のパラメータ取得部40)と、
前記パラメータ取得部によって取得した前記パラメータと、前記パラメータと前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示すパラメータ相関情報とに基づいて、前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出するように構成された反応温度算出部(例えば上述の反応温度算出部42)と、
前記反応温度算出部によって算出した前記反応温度に基づいて前記燃焼器の燃焼温度を制御するように構成された燃焼器温度制御部(例えば上述の燃焼器温度制御部44)と、
を含む。
【0069】
上記(1)に記載のスリップメタン処理装置によれば、パラメータ取得部によって取得した燃焼器における排ガスの流速に関するパラメータとパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御する。このため、ガスエンジンの負荷変動等によってスリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができ、燃焼器に供給する燃料が不足してスリップメタンの燃焼が不十分となることや、燃焼器に燃料を過剰に供給してしまい燃料消費量が増大してしまうことを抑制することができる。
【0070】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記排ガスの流速を計測する流速センサ(例えば上述の流速センサ19)を更に備え、
前記パラメータ取得部は、前記流速センサによって計測された前記排ガスの流速を前記パラメータとして取得するように構成される。
【0071】
上記(2)に記載のスリップメタン処理装置によれば、スリップメタンを含む排ガスの流速が変化して燃焼器における排ガスの滞留時間が変化した場合であっても、流速センサから取得した排ガスの流速とパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0072】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記パラメータ相関情報は、前記排ガス流速と前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報と、前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間と前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報と、を含む。
【0073】
上記(3)に記載のスリップメタン処理装置によれば、パラメータ取得部によって取得した排ガスの流速と流速‐滞留時間相関情報とに基づいて、パラメータ取得部によって取得した排ガスの流速に対応する排ガスの滞留時間を算出し、算出した排ガスの滞留時間と滞留時間‐反応温度相関情報とに基づいて、排ガスの滞留時間に対応する反応温度を算出することができる。そして、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0074】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するガス‐ガスヒータ(例えば上述のガス‐ガスヒータ12)と、
排ガスエコノマイザと、
前記燃焼器から排出された前記排ガスを前記排ガスエコノマイザに供給するための排ガス排出ライン(例えば上述の排ガス排出ライン10)と、
を更に備え、
前記流速センサは、前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置に設けられる。
【0075】
燃焼器内での排ガスの滞留時間には、燃焼器で加熱用燃料を燃焼させることにより発生する燃焼ガスの量も影響を与えると考えられる。このため、上記(4)に記載のスリップメタン処理装置によれば、排ガス供給ラインではなく排ガス排出ラインにおける燃焼器とガス‐ガスヒータとの間の位置に流速センサを設けることにより、燃焼器で加熱用燃料を燃焼させることにより発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速を流速センサで計測することができる。したがって、燃焼器で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速とパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0076】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置において前記排ガス排出ラインから分岐し、前記排ガス排出ラインにおける前記ガス‐ガスヒータと前記排ガスエコノマイザとの間の位置において前記排ガス排出ラインに合流するバイパスライン(例えば上述のバイパスライン34)を更に備え、
前記流速センサは、前記排ガス排出ラインにおいて、前記バイパスラインが前記排ガス排出ラインから分岐する分岐位置(例えば上述の分岐位置P1)よりも上流側に設けられる。
【0077】
上記(5)に記載のスリップメタン処理装置によれば、バイパスラインを流れる排ガスの流量を調節することにより、排ガスエコノマイザで回収するエネルギー量を調節することができる。また、排ガス排出ラインにおいて、バイパスラインが排ガス排出ラインから分岐する分岐位置よりも上流側に流速センサが設けられているため、バイパスラインを流れる排ガスの流量の変化の影響を受けることなく、燃焼器で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速を流速センサで計測することができる。したがって、燃焼器で発生する燃焼ガスの量も加味した排ガスの流速とパラメータ相関情報とに基づいてスリップメタンの燃焼処理に要する反応温度を算出し、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0078】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記流速センサは、前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記ガス‐ガスヒータとの間の位置に設けられる。
【0079】
上記(6)に記載のスリップメタン処理装置によれば、排ガス供給ラインにおけるガスエンジンに比較的近い位置に流速センサが設けられることになるため、ガスエンジンの負荷変動等によりガスエンジンから排出される排ガスの流速が変化しても、排ガスの流速の変化に対して応答性良く燃焼器の温度を制御することができる。
【0080】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記パラメータ取得部は、前記舶用ガスエンジンの負荷を示す値を前記パラメータとして取得するように構成される。
【0081】
上記(7)に記載のスリップメタン処理装置によれば、ガスエンジンの負荷が変化してから流速センサによって計測される排ガスの流速が変化するまでには時間差が生じる。このため、流速センサによって計測される排ガスの流速ではなくガスエンジンの負荷を示す値をパラメータとしてパラメータ取得部が取得することにより、流速センサで排ガスの流速を直接計測するよりも応答性良く、排ガスの流速の変化を燃焼器の温度制御に反映させることができる。
【0082】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記パラメータ相関情報は、前記舶用ガスエンジンの負荷を示す値と前記排ガスの流速との相関関係を示す負荷‐流速相関情報と、前記排ガスの流速と前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間との相関関係を示す流速‐滞留時間相関情報と、前記燃焼器内での前記排ガスの滞留時間と前記スリップメタンの燃焼処理に要する反応温度との相関関係を示す滞留時間‐反応温度相関情報と、を含む。
【0083】
上記(8)に記載のスリップメタン処理装置によれば、パラメータ取得部によって取得したガスエンジンの負荷を示す値と負荷‐流速相関情報とに基づいて、パラメータ取得部によって取得したガスエンジンの負荷を示す値に対応する排ガスの流速を算出し、算出した排ガスの流速と流速‐滞留時間相関情報とに基づいて、パラメータ取得部によって取得した排ガスの流速に対応する排ガスの滞留時間を算出する。そして、算出した排ガスの滞留時間と滞留時間‐反応温度相関情報とに基づいて、排ガスの滞留時間に対応する反応温度を算出する。そして、算出した反応温度に基づいて燃焼器の燃焼温度を制御することにより、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができる。
【0084】
(9)幾つかの実施形態では、上記(7)又は(8)に記載のスリップメタン処理装置において、
前記パラメータ取得部は、前記舶用ガスエンジンの負荷に先行する先行信号であって、前記舶用ガスエンジンが搭載された船舶の船速を制御するための先行信号を、前記パラメータとして取得するように構成される。
【0085】
上記(9)に記載のスリップメタン処理装置によれば、流速センサによって計測される排ガスの流速ではなく船舶の船速を制御するための先行信号をパラメータとしてパラメータ取得部が取得することにより、流速センサで排ガスの流速を直接計測するよりも応答性良く、排ガスの流速の変化を燃焼器の温度制御に反映させることができる。
【0086】
(10)本開示の一実施形態に係る舶用推進プラントは、
上記(1)乃至(9)の何れかに記載のスリップメタン処理装置と、
前記舶用ガスエンジンと、
を備える。
【0087】
上記(10)に記載の舶用推進プラントによれば、スリップメタンの燃焼処理に用いる燃焼器へ適切な量の加熱用燃料を供給することができるため、舶用推進プラントにおけるCO換算の温室効果ガス排出量を削減でき、且つ、投入燃料の不足によるスリップメタンの燃焼が不十分となる事や、過剰に燃料供給し燃料コストが増大する事を抑制できる。
【符号の説明】
【0088】
2 スリップメタン処理装置
4 排ガス供給ライン
6 燃料ライン
8 燃焼器
10 排ガス排出ライン
12 ガスヒータ
14 排熱回収装置
16 燃料調整弁
18 温度センサ
19 流速センサ
20 燃焼器温度制御装置
22 排ガスエコノマイザ
24 蒸気タービン
26 発電機
28 復水器
30 蒸気ライン
32 復水ライン
34 バイパスライン
36 バイパス弁
38 バイパス弁制御装置
40 パラメータ取得部
42 反応温度算出部
44 燃焼器温度制御部
46 相関情報記憶部
50 舶用推進プラント
68 ダンプライン
70 ダンプ弁
72 CPU
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス
100 舶用ガスエンジン
102 プロペラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11