IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7575955制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム
<>
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図1
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図2
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図3
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図4
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図5
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図6
  • 特許-制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/28 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
H04L12/28 200Z
H04L12/28 400
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021003724
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108621
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康寛
【審査官】前田 健人
(56)【参考文献】
【文献】特許第6192873(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/125027(WO,A1)
【文献】特開平09-331341(JP,A)
【文献】特許第6878705(JP,B1)
【文献】特開2019-140604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して接続された被制御装置を制御する制御装置であって、
前記被制御装置を制御するための指示データを生成する生成部と、
前記ネットワークを介して、一定周期ごとに、前記生成部で生成された前記指示データ又は前記被制御装置からの応答データを含むデータフレームを送受信する通信部と、
前記応答データが前記被制御装置によって制御されるユニットの異常を示している場合に、前記通信部により受信された複数の前記データフレームに分割されて含まれる、前記ユニットの異常に関する情報を示す異常データを取得して出力する処理部と、
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記データフレームに前記応答データとともに含まれた前記異常データを取得することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記データフレームの空き領域に割り当てられた前記異常データを取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記通信部を介して要求コマンドを前記被制御装置に送信し、前記通信部を介して前記異常データを取得することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記通信部で受信した前記応答データが前記ユニットの異常を示しているかどうかを判定する判定部を更に有し、
前記処理部は、前記通信部で受信した前記応答データが前記ユニットの異常を示していると前記判定部が判定した場合に、前記通信部を介して前記被制御装置と通信を行って前記異常データを取得して出力することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記異常データを取得するために行われる前記被制御装置との通信の優先度は、前記指示データ又は前記応答データを送受信するために行われる前記被制御装置との通信の優先度よりも低いことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記指示データ又は前記応答データを送受信するために行われる前記被制御装置との通信に、プロセスデータオブジェクトを使用するPDO通信が用いられ、
前記異常データを取得するために行われる前記被制御装置との通信に、サービスデータオブジェクトを使用するSDO通信が用いられることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記異常データは、前記ユニットの状態に関する情報を示すデータを含むことを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記データフレームは、前記被制御装置によりオンザフライで前記応答データが書き込まれることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項10】
前記ネットワークは、EtherCAT(登録商標)であることを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項11】
ネットワークに接続された被制御装置と、前記被制御装置を制御する制御装置とを有するシステムであって、
前記制御装置は、
前記被制御装置を制御するための指示データを生成する生成部と、
前記ネットワークを介して、一定周期ごとに、前記生成部で生成された前記指示データ又は前記被制御装置からの応答データを含むデータフレームを送受信する通信部と、
前記応答データが前記被制御装置によって制御されるユニットの異常を示している場合に、前記通信部により受信された複数の前記データフレームに分割されて含まれる、前記ユニットの異常に関する情報を示す異常データを取得して出力する処理部と、
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項12】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
請求項11に記載のシステムを有し、
前記システムが有する被制御装置は、前記基板にパターンを形成する処理の少なくとも一部を行うユニットを制御することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項13】
請求項12に記載のリソグラフィ装置を用いて基板上にパターンを形成する工程と、
前記工程でパターンが形成された前記基板を加工する工程と、
加工された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項14】
制御装置によりネットワークに接続された被制御装置を制御する制御方法であって、
前記被制御装置を制御するための指示データを生成する第1工程と、
前記ネットワークを介して、一定周期ごとに、前記第1工程で生成された前記指示データ又は前記被制御装置からの応答データを含むデータフレームを送受信する第2工程と、
前記応答データが前記被制御装置によって制御されるユニットの異常を示している場合に、前記第2工程で受信された複数の前記データフレームに分割されて含まれる、前記ユニットの異常に関する情報を示す異常データを取得して出力する第3工程と、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載の制御方法の各工程を、制御装置としてのコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、システム、リソグラフィ装置、物品の製造方法、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタ装置(制御装置)とスレーブ装置(被制御装置)との間でデータの送受信を一定の周期ごとに行うシステムでは、かかるシステムの動作中に、マスタ装置がスレーブ装置から情報を取得する必要が生じることがある。特許文献1には、ネットワークを介して通信(送受信)されるデータ量にかかわらず、マスタ装置とスレーブ装置との間で制御用データの通信を確実に行いながら、異常検知用データの取得量の低下を抑制するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-16932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスタ装置とスレーブ装置との間でデータの送受信を一定の周期ごとに行うシステムでは、スレーブ装置によって制御されるユニットに異常が発生した場合に、かかる異常に関する情報をスレーブ装置から取得する必要がある。しかしながら、このような場合、マスタ装置とスレーブ装置との間で、制御用データに加えて、ユニットで発生した異常に関する情報(のデータ)を送受信しなければならないため、一周期あたりに送受信するデータの容量が増加してしまう。
【0005】
一周期あたりに送受信するデータの容量が増加すると、1つの周期(1回の通信周期)ではデータの送受信が完了せず、複数の周期に跨ってデータの送受信が行われることがある。この場合、本来同一周期で実行すべきスレーブ装置の処理が複数の周期に跨って実行されることになり、システムの動作が遅延してしまう。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、マスタ装置とスレーブ装置との間でデータの送受信を行うシステムを遅延なく動作させるのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての制御装置は、ネットワークを介して接続された被制御装置を制御する制御装置であって、前記被制御装置を制御するための指示データを生成する生成部と、前記ネットワークを介して、一定周期ごとに、前記生成部で生成された前記指示データ又は前記被制御装置からの応答データを含むデータフレームを送受信する通信部と、前記応答データが前記被制御装置によって制御されるユニットの異常を示している場合に、前記通信部により受信された複数の前記データフレームに分割されて含まれる、前記ユニットの異常に関する情報を示す異常データを取得して出力する処理部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、マスタ装置とスレーブ装置との間でデータの送受信を行うシステムを遅延なく動作させるのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一側面としてのシステムの構成を示す概略図である。
図2図1に示すシステムのマスタ装置の判定部で行われる処理を説明するためのフローチャートである。
図3図1に示すシステムのマスタ装置の処理部で行われる処理を説明するためのフローチャートである。
図4図1に示すシステムにおけるデータの流れを説明するための図である。
図5図1に示すシステムにおけるデータの流れを説明するための図である。
図6】データフレームの一例を示す図である。
図7】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<システム>
図1は、本発明の一側面としてのシステム100の構成を示す概略図である。本実施形態では、システム100は、図1に示すように、マスタ装置110(制御装置)と、マスタ装置110に通信可能に接続される複数のスレーブ装置120(被制御装置)と、各スレーブ装置120に接続されるユニット130とを有する。システム100において、マスタ装置110は、スレーブ装置120を制御し、スレーブ装置120は、ユニット130を制御する。
【0013】
マスタ装置110及び各スレーブ装置120は、例えば、CPUやメモリなどを含むコンピュータ(情報処理装置)によって構成されるが、ボードコンピュータで構成されてもよいし、ボードコンピュータと兼用するように構成されてもよい。また、ユニット130は、例えば、サーボモータなどの機構を含む。
【0014】
複数のスレーブ装置120は、ディジーチェーン方式でマスタ装置110に通信可能に接続されている。マスタ装置110は、ネットワーク140を介して、一定周期ごとに、複数のスレーブ装置120とデータの送受信を行う。また、複数のスレーブ装置120は、マスタ装置110から受信したデータに基づいて、複数のユニット130のそれぞれを制御する。
【0015】
本実施形態では、マスタ装置110に通信可能に接続されるスレーブ装置120として2つのスレーブ装置121及び122を例示しているが、スレーブ装置120の数は2つに限定されるものではなく、1つ又は3つ以上であってもよい。また、本実施形態では、各スレーブ装置120によって制御されるユニット130として2つのユニット131及び132を例示している。ユニット131は、スレーブ装置121によって制御され、ユニット132は、スレーブ装置122によって制御される。
【0016】
マスタ装置110は、図1に示すように、シーケンス制御部111と、複数の生成部112と、通信部113と、判定部114と、処理部115とを含む。なお、本実施形態では、通信部113が判定部114を含むように構成されているが、判定部114は、通信部113とは別に構成されていてもよい。
【0017】
シーケンス制御部111は、各スレーブ装置120における処理(例えば、ユニット130を制御する処理)のシーケンスを制御する。本実施形態では、シーケンス制御部111は、予め定められた(設定された)手順、手続き又はレシピに従って、複数の生成部112を制御する。
【0018】
複数の生成部112は、それぞれ、スレーブ装置120を制御するための指示データ(制御データ)、具体的には、制御対象とするスレーブ装置120における処理を指示するための指示データを生成する。生成部112は、例えば、スレーブ装置120に対応して、スレーブ装置120の数と同じ数だけ設けられる。本実施形態では、2つのスレーブ装置121及び122のそれぞれを制御対象とする2つの生成部112a及び112bが設けられている。生成部112aは、スレーブ装置121を制御対象とし、スレーブ装置121における処理(例えば、ユニット131を制御する処理)を制御するための指示データを生成する。また、生成部112bは、スレーブ装置122を制御対象とし、スレーブ装置122における処理(例えば、ユニット132を制御する処理)を制御するための指示データを生成する。
【0019】
通信部113は、ネットワーク140を介して、一定周期ごとに、複数のスレーブ装置120と通信してデータの送受信を行う。本実施形態では、通信部113は、一定周期ごとに、生成部112a及び112bで生成された指示データをスレーブ装置121及び122に送信し、かかる指示データに対する応答データをスレーブ装置121及び122から受信する。ここで、応答データとは、例えば、指示データによって指示された処理が正常に完了したかどうかを示すデータである。従って、マスタ装置110からの指示データによって指示された処理が正常に完了していない場合、例えば、スレーブ装置120によって制御されるユニットに異常が発生している場合には、応答データには、ユニット130の異常を示すデータが含まれる。
【0020】
判定部114は、通信部113においてスレーブ装置120から一定周期で受信した応答データが所定のトリガ条件を満たしているかどうか、具体的には、応答データがユニット130の異常を示しているかどうかを判定する。判定部114は、通信部113で受信した応答データがユニット130の異常を示していると判定した場合、処理部115に対して、スレーブ装置120からユニット130の異常に関する情報を示す異常データを取得して出力するように要求する。
【0021】
処理部115は、判定部114からの要求に応じて、通信部113を介して、スレーブ装置120と通信を行う。かかる通信を介して、処理部115は、スレーブ装置120からユニット130の異常に関する情報を示す異常データを取得し、ログとして出力する(即ち、異常データをログファイルに出力する)。このように、処理部115は、通信部113で受信した応答データがユニット130の異常を示している場合に、スレーブ装置120と通信部113を介して通信を行って異常データを取得して出力する。ここで、異常データとは、例えば、ユニット130の異常に関する情報として、ユニット130の状態に関する情報を示すデータである。
【0022】
図1に示すネットワーク140の一例として、産業用イーサネット(登録商標)の1つであるEtherCAT(登録商標)について説明する。EtherCAT(登録商標)において、ネットワークに接続されたマスタ装置は、複数のスレーブ装置に対してデータフレームを送信し、複数のスレーブ装置は、マスタ装置から受信したデータフレームにオンザフライでデータを書き込む。この際、マスタ装置と複数のスレーブ装置との間の通信には、PDO通信と、SDO通信とが用いられる。PDO通信とは、プロセスデータオブジェクト(PDO:Process Data Object)と呼ばれるデータを使用して一定周期で通信を行う通信方式である。また、SDO通信とは、サービスデータオブジェクト(SDO:Service Data Object)と呼ばれるデータを使用してマスタ装置からの要求に応じて通信を行う通信方式である。PDO通信では、一定周期(例えば、1m秒)でデータフレームの送受信が行われるため、データの到達時間が保証される。一方、SDO通信では、一周期内で通信が完了するとは限らないため、データの到達時間が保証されない。
【0023】
ネットワーク140としてEtherCAT(登録商標)を採用する場合には、ネットワーク140に接続されるノードのうち、少なくとも1つのノードがマスタ装置110として機能し、その他のノードがスレーブ装置120として機能する。マスタ装置110として機能するノードは、ネットワーク140におけるデータフレームの送受信のタイミングなどを管理(制御)する。
【0024】
図1に示すシステム100において、マスタ装置110(通信部113)は、生成部112a及び112bで生成された指示データをPDO通信のデータフレームに書き込んで、かかるデータフレームをスレーブ装置121に送信する。マスタ装置110からデータフレームを受信したスレーブ装置121は、データフレームに書き込まれた指示データから自身に割り当てられた指示データを読み出し、かかる指示データに対する応答データをデータフレームに書き込む。そして、スレーブ装置121は、自身に割り当てられた指示データに対する応答データを書き込んだデータフレームをスレーブ装置122に送信する。スレーブ装置121からデータフレームを受信したスレーブ装置122は、データフレームに書き込まれた指示データから自身に割り当てられた指示データを読み出し、かかる指示データに対する応答データをデータフレームに書き込む。そして、スレーブ装置122は、自身に割り当てられた指示データに対する応答でデータを書き込んだデータフレームを、スレーブ装置121を介して、マスタ装置110に送信する。
【0025】
具体的には、スレーブ装置121は、マスタ装置110から受信したデータフレームから、生成部112aで生成された指示データを読み出し、応答データを書き込んでからデータフレームをスレーブ装置122に送信する。スレーブ装置122は、スレーブ装置121から受信したデータフレームから、生成部112bで生成された指示データを読み出し、応答データを書き込んでからデータフレームを、スレーブ装置121を介して、マスタ装置110に送信する。
【0026】
このように、マスタ装置110とスレーブ装置120との間でデータの送受信を一定周期ごとに行うシステム100では、関節が多い多軸の産業用ロボットなどの登場によって、スレーブ装置120及びユニット130の数が増加する傾向にある。この場合、マスタ装置110とスレーブ装置120との間で大容量のデータ(指示データや応答データ)を送受信しなければならず、一周期あたりに送受信するデータの容量が増加してしまう。また、スレーブ装置120によって制御されるユニット130に異常が発生した場合には、かかる異常に関する情報を示す異常データを、指示データや応答データに加えて、マスタ装置110とスレーブ装置120との間で送受信する必要がある。但し、一般的には、一周期あたりに送受信可能なデータの容量には制限がある。従って、一周期あたりに送受信するデータの容量が増加すると、1つの周期(1回の通信周期)ではデータの送受信が完了せず、複数の周期に跨ってデータの送受信が行われることになる。この場合、本来同一周期で実行すべきスレーブ装置120の処理が複数の周期に跨って実行される(即ち、1つの指示データが複数の周期に分割されて送信される)ことになり、システム100の動作が遅延してしまう。このようなシステム100の動作の遅延は、特に、ユニット130に異常が発生して、かかる異常に関する情報を示す異常データを、スレーブ装置120からマスタ装置110に送信しなければならない場合に顕著となる。
【0027】
そこで、本実施形態では、スレーブ装置120によって制御されるユニット130に異常が発生した場合であっても、マスタ装置110とスレーブ装置120との間でデータの送受信を行うシステム100を遅延なく動作させるのに有利な技術を提供する。具体的には、本実施形態では、通信部113において、スレーブ装置120との通信にPDO通信を用い、処理部115において、スレーブ装置120との通信に通信部113を介したSDO通信を用いる。
【0028】
まず、本実施形態におけるシステム100において、マスタ装置110の判定部114で行われる処理について説明する。図2は、判定部114で行われる処理を説明するためのフローチャートである。ユーザがシステム100を起動すると、マスタ装置110及び複数のスレーブ装置121及び122が起動する。そして、マスタ装置110と複数のスレーブ装置121及び122との間で、ネットワーク140を介した一定周期ごとのデータの送受信が開始される。これにより、判定部114において、図2に示す処理が開始される。
【0029】
S11において、判定部114は、通信部113で受信したスレーブ装置120からの応答データを監視(確認)する。S12において、判定部114は、通信部113の通信周期(一定周期)でスレーブ装置120からの応答データがユニット130の異常を示しているかどうかを判定する。応答データがユニット130の異常を示している場合には、S13に移行する。一方、応答データがユニット130の異常を示していない場合には、S11に移行する。S13において、判定部114は、処理部115に対して、FIFOキューを使用してユニット130の異常を通知し、スレーブ装置120からユニット130の異常に関する情報を示す異常データを取得して出力するように要求する。
【0030】
次に、本実施形態におけるシステム100において、マスタ装置110の処理部115で行われる処理について説明する。図3は、処理部115で行われる処理を説明するためのフローチャートである。ユーザがシステム100を起動すると、マスタ装置110及び複数のスレーブ装置121及び122が起動する。そして、マスタ装置110と複数のスレーブ装置121及び122との間で、ネットワーク140を介した一定周期ごとのデータの送受信が開始される。これにより、処理部115において、図3に示す処理が開始される。
【0031】
S21において、処理部115は、判定部114からのユニット130の異常の通知を監視(確認)する。S22において、処理部115は、判定部114からユニット130の異常の通知があったかどうかを判定する。ユニット130の異常の通知があった場合には、S23に移行する。一方、ユニット130の異常の通知がない場合には、S21に移行する。S23において、処理部115は、異常が発生したユニット130を制御するスレーブ装置120から、通信部113を介して、ユニット130の異常に関する情報を示す異常データを取得する。S24において、処理部115は、S23で取得した異常データをログとして出力して、S21に移行する。
【0032】
なお、通信部113は、処理部115が図3に示す処理を行っている間においても、ネットワーク140を介して、一定周期ごとに、複数のスレーブ装置121及び122とデータの送受信を繰り返し行っている。ここで、処理部115の優先度(実行優先度)は、通信部113の優先度よりも低くなるように設定されている。これにより、判定部114を含む通信部113の処理(通信)が処理部115の処理よりも優先して行われる。従って、処理部115による異常データを取得するための通信の優先度は、通信部113による指示データ又は応答データを送受信するための通信の優先度よりも低くなる。更に、判定部114から処理部115へのユニット130の異常の通知は、FIFOキューを使用している。これにより、判定部114が処理部115にユニット130の異常を通知する処理(S13)と、処理部115がスレーブ装置120から異常データを取得して出力する処理(S24)とを、互いに独立して行うことができる。これらの結果、処理部115で行われる、スレーブ装置120から異常データを取得して出力する処理が、通信部113で行われる、ネットワーク140を介して、一定周期ごとに、指示データ又は応答データを送受信する処理に影響を与えることはない。
【0033】
以下、実施例1及び2において、本実施形態のシステム100におけるデータの流れについて説明する。図4及び図5は、本実施形態のシステム100において、シーケンス制御部111と、生成部112と、通信部113と、判定部114と、処理部115と、スレーブ装置120との間でのデータの流れの一例を示す図である。図4は、スレーブ装置120からの応答データがユニット130の異常を示していない場合におけるデータの流れの一例(実施例1)を示している。図5は、スレーブ装置120からの応答データがユニット130の異常を示している場合におけるデータの流れの一例(実施例2)を示している。
【0034】
[実施例1]
図4を参照するに、シーケンス制御部111は、予め定められた(設定された)手順、手続き又はレシピに従って、生成部112に指示データを生成させるための制御コマンドを生成部112に送信する(S101)。シーケンス制御部111から制御コマンドを受信した生成部112は、かかる制御コマンドに基づいて、スレーブ装置120に処理を実行させるための指示データを生成して通信部113に送信する(S102)。生成部112から指示データを受信した通信部113は、ネットワーク140のデータフレームに指示データを書き込むことで、かかる指示データをスレーブ装置120に送信する(S103)。通信部113から指示データを受信したスレーブ装置120は、かかる指示データによって指示された処理を実行して、ユニット130を制御する。そして、スレーブ装置120は、指示データによって指示された処理が完了したら、ネットワーク140のデータフレームに応答データを書き込むことで、かかる応答データを判定部114(通信部113)に送信する(S104)。
【0035】
ここで、判定部114は、通信部113の通信周期(一定周期)で受信したスレーブ装置120からの応答データを監視(確認)する。そして、判定部114は、かかる応答データがユニット130の異常を示しているかどうかを判定する(S105)。実施例1では、応答データは、上述したように、ユニット130の異常を示していない。この場合、判定部114は、かかる応答データを通信部113に送信する(S106)。判定部114から応答データを受信した通信部113は、かかる応答データを生成部112に送信する(S107)。通信部113から応答データを受信した生成部112は、かかる応答データをシーケンス制御部111に送信する(S108)。
【0036】
[実施例2]
図5に示すS201乃至S204は、図4に示すS101乃至S104と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0037】
判定部114は、通信部113の通信周期(一定周期)で受信したスレーブ装置120からの応答データを監視(確認)する。そして、判定部114は、かかる応答データがユニット130の異常を示しているかどうかを判定する(S205)。実施例2では、応答データは、上述したように、ユニット130の異常を示している。この場合、判定部114で受信した応答データは、通信部113及び生成部112を介して、シーケンス制御部111に送信される(S206、S207、S208)。なお、図5に示すS206乃至S208は、図4に示すS106乃至S108と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。更に、判定部114は、判定部114で受信した応答データがユニット130の異常を示していること、即ち、ユニット130の異常を処理部115に通知する。処理部115は、通信部113を介して、異常が発生したユニット130を制御するスレーブ装置120に対して、ユニット130の異常に関する情報を示す異常データを要求する要求コマンドを含む指示データを送信する(S210)。そして、処理部115は、要求コマンドを含む指示データを受信したスレーブ装置120から、通信部113を介して、ユニット130の異常に関する情報を示す異常データを取得する(S211)。更に、処理部115は、スレーブ装置120から取得した異常データをログとして出力する(S212)。
【0038】
このように、本実施形態では、ユニット130に異常が発生した場合に、処理部115は、通信部113を介して、スレーブ装置120から異常データを取得してログとして出力する。
【0039】
ここで、図6を参照して、異常データが書き込まれたデータフレームについて具体的に説明する。図6は、スレーブ装置122が制御するユニット132で異常が発生した場合に、スレーブ装置122から通信部113に送信されるデータフレームの一例を示す図である。
【0040】
図6に示すように、n周期のデータフレームには、スレーブ装置121及び122のそれぞれによって応答データが書き込まれているが、空き領域R1が存在する。また、(n+1)周期のデータフレームには、スレーブ装置121及び122のそれぞれによって応答データが書き込まれているが、空き領域R2が存在する。同様に、(n+2)周期のデータフレームには、スレーブ装置121及び122のそれぞれによって応答データが書き込まれているが、空き領域R3が存在する。本実施形態では、このような空き領域R1、R2及びR3のそれぞれに対して、ユニット132の異常に関する情報を示す異常データが分割して書き込まれるように、処理部115から通信部113を介してスレーブ装置120に要求コマンドを送信する。これにより、処理部115は、図6に示すように、n周期目に、n周期のデータフレームの空き領域R1に書き込まれた異常データの一部を取得する。また、(n+1)周期目に、(n+1)周期のデータフレームの空き領域R2に書き込まれた異常データの一部を取得する。同様に、(n+2)周期目に、(n+2)周期のデータフレームの空き領域R3に書き込まれた異常データの一部を取得する。従って、処理部115は、通信部113の通信周期(一定周期)とは異なる周期(3周期)で、ユニット132の異常に関する情報を示す異常データを取得することができる。このように、処理部115は、指示データや応答データを一定周期で送受信するための各フレームの空き領域と、異常データのデータ量とに基づいて各フレームの空き領域に異常データを割り当てるように要求する要求コマンドをスレーブ装置120に送信する。そして、処理部115は、要求コマンドに対して各フレームの空き領域に割り当てられた異常データをスレーブ装置120から通信部113を介して取得する。このように、処理部115は、通信部113により受信された複数のデータフレームに分割されて含まれる異常データを取得する。
【0041】
これにより、異常データを送信するための通信の優先度を、指示データ及び応答データを送受信するための通信の優先度よりも低くすることができる。つまり、マスタ装置110とスレーブ装置120との間で異常データの送受信が必要となっても、同一周期で実行すべきスレーブ装置120の処理に対応するデータが複数の周期に跨って送受信されることが防止される。従って、マスタ装置110とスレーブ装置120との間において、1つの周期(1回の通信周期)で送受信すべきデータが遅延することを回避し、システム100を遅延なく動作させることができる。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態によれば、マスタ装置110とスレーブ装置120との間でデータの送受信を行うシステム100を遅延なく動作させるのに有利な技術を提供することができる。
【0043】
<リソグラフィ装置>
本発明の一側面としてのシステム100を適用したリソグラフィ装置について説明する。本実施形態では、システム100を適用したリソグラフィ装置として、基板を露光して基板上にパターンを形成する露光装置について説明するが、これに限定されるものではない。型を用いて基板上のインプリント材のパターンを形成するインプリント装置や荷電粒子線を基板に照射してパターンを形成する描画装置などのリソグラフィ装置にもシステム100を適用することができる。
【0044】
図7は、本発明の一側面としての露光装置10の構成を示す概略図である。露光装置10は、原版であるマスクMのパターンを、投影光学系14を介して基板Wに投影して基板Wを露光する。露光装置10は、光源11と、照明光学系12と、マスクステージ13と、投影光学系14と、基板ステージ15と、主制御部16とを有する。また、露光装置10は、マスクステージ13を駆動する第1駆動部21と、投影光学系14の光学素子14aを駆動する第2駆動部22と、基板ステージ15を駆動する第3駆動部23とを有する。更に、露光装置10は、マスクステージ制御部31と、投影制御部32と、基板ステージ制御部33とを有する。
【0045】
第1駆動部21、第2駆動部22及び第3駆動部23は、基板Wにパターンを形成する処理の少なくとも一部を行う機構として機能する。第1駆動部21、第2駆動部22及び第3駆動部23は、それぞれ、マスクステージ制御部31、投影制御部32及び基板ステージ制御部33によって制御される。また、主制御部16は、例えば、CPUやメモリ(記憶部)などを含み、マスクステージ制御部31、投影制御部32及び基板ステージ制御部33を制御することで、露光装置10の全体(露光装置10の各部)を制御する。
【0046】
光源11は、光(露光光)を射出する。照明光学系12は、光源11から射出された光を用いてマスクMを照明する。マスクステージ13は、マスクMを保持するステージであって、第1駆動部21によって、例えば、x方向及びy方向に移動可能に構成される。投影光学系14は、照明光学系12によって照明されたマスクMのパターンを基板Wに投影する。投影光学系14は、第2駆動部22によって、例えば、x方向に移動可能な光学素子14aを含む。基板ステージ15は、基板Wを保持するステージであって、第3駆動部23によって、例えば、x方向及びy方向に移動可能に構成される。
【0047】
図7に示す露光装置10において、システム100を適用する場合、主制御部16がマスタ装置110として構成され、マスクステージ制御部31、投影制御部32及び基板ステージ制御部33のそれぞれがスレーブ装置120として構成される。また、第1駆動部21、第2駆動部22及び第3駆動部23のそれぞれがユニット130として構成される。主制御部16と、マスクステージ制御部31、投影制御部32及び基板ステージ制御部33との間におけるデータの送受信は、ネットワークを介して、一定周期ごとに行われる。
【0048】
ここで、システム100を適用した露光装置10において、基板ステージ15(の制御)に異常が発生した場合について説明する。主制御部16は、上述したように、マスタ装置110として機能し、シーケンス制御部111と、複数の生成部112と、通信部113と、判定部114と、処理部115とを含む。判定部114で判定するトリガ条件は、基板ステージ15の異常となる。
【0049】
基板ステージ15を制御するために、シーケンス制御部111は、予め定められた(設定された)手順、手続き又はレシピに従って、生成部112に指示データを生成させるための制御コマンドを生成部112に送信する。シーケンス制御部111から制御コマンドを受信した生成部112は、かかる制御コマンドに基づいて、基板ステージ制御部33に処理を実行させるための指示データを生成して通信部113に送信する。生成部112から指示データを受信した通信部113は、ネットワーク140のデータフレームに指示データを書き込むことで、かかる指示データを基板ステージ制御部33に送信する。通信部113から指示データを受信した基板ステージ制御部33は、かかる指示データに基づいて、基板ステージ15を制御する。基板ステージ制御部33は、基板ステージ15の制御が異常となった場合、ネットワーク140のデータフレームに基板ステージ15の異常を示す応答データを書き込むことで、かかる応答データを判定部114(通信部113)に送信する。なお、基板ステージ15の制御の異常とは、例えば、基板ステージ15を指示された位置に駆動できないことや基板Wを吸着できないことなどを含む。
【0050】
本実施形態では、判定部114は、基板ステージ制御部33からの応答データが基板ステージ15の異常を示していると判定することになり、かかる応答データは、通信部113及び生成部112を介して、シーケンス制御部111に送信される。応答データを受信したシーケンス制御部111は、基板ステージ15が異常となったと判定する。更に、判定部114は、判定部114で受信した応答データが基板ステージ15の異常を示していること、即ち、基板ステージ15の異常を処理部115に通知する。処理部115は、通信部113を介して、基板ステージ15を制御する基板ステージ制御部33に対して、基板ステージ15の異常に関する情報を示す異常データを要求する要求コマンドを送信する。なお、異常データには、基板ステージ15の状態、具体的には、基板ステージ15の位置や吸着圧力などが含まれる。そして、処理部115は、要求コマンドを受信した基板ステージ制御部33から、通信部113を介して、基板ステージ15の異常に関する情報を示す異常データを取得する。更に、処理部115は、基板ステージ制御部33から取得した異常データをログとして出力する。
【0051】
上述したように、露光装置10は、複数の機構で構成されており、ある機構に異常が発生しても、他の機構の制御を継続しなければならない場合がある。例えば、基板ステージ15に異常が発生しても、投影光学系14の光学素子14aの制御を継続しなければならない場合がある。システム100を適用した露光装置10では、基板ステージ制御部33から異常データを取得する処理が、通信部113を介して行われる。更に、処理部115で行われる基板ステージ制御部33との通信の優先度(実行優先度)は、通信部113で行われる基板ステージ制御部33との通信の優先度よりも低い。これらの結果、基板ステージ制御部33から異常データを取得して出力する処理が、一定周期ごとの投影光学系14の光学素子14aの制御に影響を与えることはない。
【0052】
<物品の製造方法>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、上述したリソグラフィ装置(露光装置10)を用いて基板上にパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンを形成された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0053】
<その他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態の1つ以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0054】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0055】
100:システム 110:マスタ装置 111:シーケンス制御部 112:生成部 113:通信部 114:判定部 115:処理部 120:スレーブ装置 130:ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7