(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】モータ及び電動工具
(51)【国際特許分類】
H02K 3/52 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
H02K3/52 E
(21)【出願番号】P 2021030832
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁斗
(72)【発明者】
【氏名】北村 孝太
(72)【発明者】
【氏名】百枝 幸太郎
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201869(JP,A)
【文献】特開2018-129926(JP,A)
【文献】特開2011-120413(JP,A)
【文献】特開2020-129877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0019592(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0034331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコア、ステータ配線及びモータ端子を有するステータと、
磁石を有し前記ステータコアに対して回転するロータと、
インシュレータと、を備え、
前記ステータコアは、
内側に前記ロータが配置される筒状の内筒部と、前記内筒部から前記内筒部の径方向において外向きに突出した胴部を含む複数のティースと、を有するティースコアと、
前記複数のティースに取り付けられ前記複数のティースを囲む筒状のヨークコアと、を有し、
前記インシュレータは、前記ティースコアを覆い、
前記ステータ配線は、
前記胴部に巻かれるコイル線と、
複数の前記胴部に巻かれる複数の前記コイル線同士を電気的に接続する渡り配線と、を有し、
前記モータ端子は、電気部品と電気的に接続され、かつ、前記渡り配線が電気的に接続されており、
前記モータ端子は、前記渡り配線が配置される前記
インシュレータの表面の一部にその周辺部よりも突出するように設けられており、
前記
インシュレータの前記表面の前記周辺部に、前記モータ端子に電気的に接続される前記渡り配線を前記
インシュレータの前記表面より離間させる方向に支持するガイド支持部が突設されている、
モータ。
【請求項2】
前記ガイド支持部は、前記
インシュレータの前記表面の前記周辺部において、前記モータ端子を挟む両側に形成される、
請求項1記載のモータ。
【請求項3】
前記モータ端子は、対をなす二つの挟持片を有し、
前記渡り配線は、前記二つの挟持片の間に位置して前記挟持片に接合されている、
請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のモータを備える、
電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はモータ及び電動工具に関し、より詳細には、ステータコアとロータとを備えるモータ及びこのモータを備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、渡り線の損傷や変位を防止する電動モータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の電動モータにあっては、渡り線が接続されるモータ端子による渡り線の損傷について開示されておらず、モータ端子を備えるモータにおいて渡り線の損傷を抑えにくいという問題があった。
【0005】
本開示は、渡り配線がモータ端子により損傷しにくいモータ及び電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るモータは、ステータコア、ステータ配線及びモータ端子を有するステータと、磁石を有し前記ステータコアに対して回転するロータと、を備える。前記ステータコアは、ティースコアと、ヨークコアと、を有する。前記ティースコアは、内側に前記ロータが配置される筒状の内筒部と、前記内筒部から前記内筒部の径方向において外向きに突出した胴部を含む複数のティースと、を有する。前記ヨークコアは、前記複数のティースに取り付けられ前記複数のティースを囲む筒状をなす。前記ステータ配線は、前記胴部に巻かれるコイル線と、複数の前記胴部に巻かれる複数の前記コイル線同士を電気的に接続する渡り配線と、を有する。前記モータ端子は、電気部品と電気的に接続され、かつ、前記渡り配線が電気的に接続されている。前記モータ端子は、前記渡り配線が配置される前記ステータコアの表面の一部にその周辺部よりも突出するように設けられている。前記ステータコアの前記表面の前記周辺部に、前記モータ端子に電気的に接続される前記渡り配線を前記ステータコアの前記表面より離間させる方向に支持するガイド支持部が突設されている。
【0007】
本開示の一態様に係る電動工具は、前記モータを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示のモータ及び電動工具にあっては、渡り配線がモータ端子により損傷しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るモータの要部の分解図である。
【
図2】
図2は、同上のモータを備える電動工具の概略図である。
【
図4】
図4は、同上のモータ(ベースを除く)の分解図である。
【
図5】
図5Aは、同上のモータのティースコアの一端側から見た正面図である。
図5Bは、
図5Aの要部拡大図である。
【
図6】
図6は、同上のモータの第2インシュレータの他端側から見た背面図である。
【
図7】
図7は、同上のモータ(回路基板及びベースを除く)を他端側から見た背面図である。
【
図8】
図8は、同上のモータのモータ端子付近を中心軸線と直交する方向から見た側面図である。
【
図9】
図9は、同上のモータ端子付近の渡り配線の伸びる方向と直交する面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る電動工具と、この電動工具に備えられるモータとについて、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0011】
(1)電動工具
図1、
図2に示すように、電動工具10は、モータ1を備えている。
図2に示すように、電動工具10は、電源101と、駆動伝達部102と、出力部103と、チャック104と、先端工具105と、トリガボリューム106と、制御回路107とを更に備えている。電動工具10は、先端工具105をモータ1の駆動力で駆動する工具である。
【0012】
モータ1は、先端工具105を駆動する駆動源である。モータ1は、例えばブラシレスモータである。電源101は、モータ1を駆動する電流を供給する直流電源である。電源101は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。駆動伝達部102は、モータ1の出力(駆動力)を調整して出力部103に出力する。出力部103は、駆動伝達部102から出力された駆動力で駆動(例えば回転)される部分である。チャック104は、出力部103に固定されており、先端工具105が着脱自在に取り付けられる部分である。先端工具105(ビットとも言う)は、例えば、ドライバ、ソケット又はドリル等である。各種の先端工具105のうち用途に応じた先端工具105が、チャック104に取り付けられて用いられる。
【0013】
トリガボリューム106は、モータ1の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガボリューム106を引く操作により、モータ1のオンオフが切替可能である。また、トリガボリューム106を引き込む操作の操作量で、出力部103の回転速度、つまりモータ1の回転速度が調整可能である。制御回路107は、トリガボリューム106に入力された操作に応じて、モータ1を回転又は停止させ、また、モータ1の回転速度を制御する。この電動工具10では、先端工具105がチャック104に取り付けられる。そして、トリガボリューム106への操作によってモータ1の回転速度が制御されることで、先端工具105の回転速度が制御される。
【0014】
なお、実施形態の電動工具10はチャック104を備えることで、先端工具105が、用途に応じて交換可能であるが、先端工具105が交換可能である必要は無い。例えば、電動工具10は、特定の先端工具105のみ用いることができる電動工具であってもよい。
【0015】
(2)モータ
次に、
図1等を参照して、モータ1の構成を説明する。モータ1は、ステータ2と、ロータ3とを備えている。ロータ3は、出力軸32を有している。ステータ2は、ステータコア20と、ステータ配線21と、を有している。ロータ3は、ステータ2に対して、出力軸32の中心軸線320回りに回転する。すなわち、ステータコア20に巻かれた複数(
図1では9つ)のコイル線22から発生する磁束により、ロータ3を回転させる電磁気力が発生する。モータ1は、ロータ3の回転力(駆動力)を出力軸32から駆動伝達部102(
図2参照)へ伝達する。
【0016】
ステータコア20は、ティースコア4と、ヨークコア5とを有している。ヨークコア5は、ティースコア4に取り付けられる。ティースコア4は、円筒状の内筒部41と、複数(
図1では9つ)のティース42とを有している。内筒部41の内側には、ロータ3が配置されている。複数のティース42の各々は、胴部421と、2つの先端片422とを含む。胴部421は、内筒部41から内筒部41の径方向において外向きに突出している。本実施形態では、内筒部41には、周方向に間隔をあけて複数(
図1では9つ)の胴部421が形成されている。
【0017】
2つの先端片422は、胴部421の先端側の部位から、胴部421の突出方向と交差する方向に延びている。胴部421には、後述するインシュレータ6(
図3参照)を介してコイル線22が巻かれる。
【0018】
2つの先端片422は、コイル線22が胴部421から脱落することを抑制する抜止めとして設けられている。すなわち、胴部421の先端側にコイル線22が移動しようとする場合に、コイル線22が2つの先端片422に引っ掛かることで、コイル線22の脱落を抑制できる。
【0019】
ロータ3は、円筒状のロータコア30と、複数(
図1では6つ)の永久磁石31と、出力軸32と、を有している。出力軸32は、ロータコア30の内側に保持されている。永久磁石31は多角形状(六角形状)に配置されている。
【0020】
次に、ステータコア20の構成の詳細について説明する。
図3、
図4に示すように、ステータコア20のティースコア4は、複数の鋼板40を含む。ティースコア4は、複数の鋼板40を厚さ方向に積層して形成されている。各鋼板40は、磁性材料により形成されている。各鋼板40は、例えば、ケイ素鋼板である。
【0021】
図5Aに示すように、内筒部41の形状は、円筒状であり、その中心軸線は、出力軸32の中心軸線320と一致している(
図3、
図4参照)。複数の鋼板40の厚さ方向は、中心軸線320方向と一致している。内筒部41は、周方向において連続している。言い換えると、内筒部41は、周方向において途切れることなくつながっている。
【0022】
複数のティース42の胴部421の形状は、直方体状である。胴部421は、内筒部41から内筒部41の径方向において外向きに突出している。複数のティース42の胴部421は、内筒部41の周方向において等間隔に設けられている。
【0023】
2つの先端片422は、胴部421の先端側の部位から、胴部421の突出方向と交差する方向に延びている。より詳細には、2つの先端片422は、胴部421の先端側の部位において、内筒部41の周方向の両側に設けられている。そして、2つの先端片422は、内筒部41の周方向に延びている。
【0024】
各先端片422のうち、内筒部41の径方向において外側の面は、曲面44を含む。中心軸線320方向から見て、曲面44の形状は、内筒部41と同心の円に沿った円弧状である。
【0025】
各先端片422は、胴部421とつながった部位に、湾曲部45を有している。湾曲部45は、内筒部41の径方向において外側ほど、内筒部41の周方向において胴部421から離れるように湾曲している。つまり、各先端片422のうち基端側の部分である湾曲部45は、面取りされていてR状になっている。
【0026】
内筒部41は、隣接する胴部421同士を連結している部位である連結部410を複数(本実施形態では9つ)有している。連結部410は、中心軸線320方向から見て円弧状に形成されている。
【0027】
内筒部41の一部には、弾性変形部43が形成されている。なお、弾性変形部43については、後述の(3)モータの特徴的な構成の項において詳述する。
【0028】
図3、
図7に示すように、ステータ配線21は、胴部421に巻かれるコイル線22と、複数の胴部421に巻かれるコイル線22同士を電気的に接続する渡り配線23と、を有する。
【0029】
図1に示すように、コイル線22は、9つのティース42に対応して9つ備えられている。各コイル線22及び渡り配線23を構成する電線は、例えば、エナメル線である。この巻線は、線状の導体と、導体を覆う絶縁被覆と、を有している。ステータ配線21は、一本の電線により構成されている。
【0030】
ステータコア20は、ティースコア4を覆うインシュレータ6を更に備えている。インシュレータ6は、例えば、合成樹脂を材料として形成されている。インシュレータ6は、電気絶縁性を有している。インシュレータ6は、複数のティース42の少なくとも一部を覆っている。
【0031】
図3、
図4に示すように、インシュレータ6は、第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62の二つの部材により構成される。第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62は、中心軸線320方向に並んでいる。第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62は、中心軸線320方向から複数のティース42を嵌め込み可能な形状に形成されている。すなわち、第1インシュレータ61は、ティースコア4に取り付けられて、中心軸線320方向の一端側(
図3における左側であり、以下、単に左側とする)から複数のティース42を覆い、第2インシュレータ62は、中心軸線320方向の他端側(
図3における右側であり、以下、単に右側とする)から複数のティース42を覆っている。第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62は、中心軸線320方向から見て内筒部41と重なる筒体63と、複数のティース42を覆う複数(
図6では9つ)のティース被覆部64とを有している。筒体63は、内筒部41と同心の円筒状に形成されており、その中心軸線は、出力軸32の中心軸線320と一致している。各ティース被覆部64は、筒体63から筒体63の径方向において外向きに突出している。
【0032】
図6に示すように、第2インシュレータ62は、筒体63の内側に板部66を有している。板部66の中央には、後述する第2ベアリング34(
図3参照)の外輪が嵌め込まれる孔660が形成されている。板部66の表面60には、ガイド支持部26が形成されている。なお、ガイド支持部26については、後述の(3)モータの特徴的な構成の項において詳述する。
【0033】
図3に示すように、第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62がティースコア4に取り付けられて、複数のティース42の少なくとも一部を覆った状態で、コイル線22は、第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62が構成するインシュレータ6を介して胴部421に巻かれている。ここで、コイル線22は、胴部421と、この胴部421と隣り合う2つの胴部421それぞれとの間のスロット(空洞)を通るように胴部421に巻かれている。
【0034】
第1インシュレータ61及び第2インシュレータ62がティースコア4に取り付けられた状態で、各ティース42のうち、内筒部41側とは反対側の先端は、インシュレータ6に覆われておらず、ヨークコア5に接している。
【0035】
第1インシュレータ61のティース被覆部64は、第1インシュレータ61の筒体63の左側の部分から右側へと延びている。また、第2インシュレータ62のティース被覆部64は、第2インシュレータ62の筒体63の右側の部分から左側へと延びているが、第1インシュレータ61のティース被覆部64までには至っていない。すなわち、第1インシュレータ61のティース被覆部64と第2インシュレータ62のティース被覆部64とは接触しておらず、これらの間に隙間65が形成され、この部分においてティース42は露出している。しかしながら、コイル線22は、第1インシュレータ61のティース被覆部64と第2インシュレータ62のティース被覆部64の対向方向に延びるように巻かれてこの隙間65を跨るため、コイル線22はティース42に接触しない。
【0036】
なお、モータ1の設計変更等によりティースコア4を構成する鋼板40の個数が変更された場合等には、ティースコア4の厚さが変わるが、ティースコア4の厚さの変更に伴って第1インシュレータ61と第2インシュレータ62との間の距離が変わる。第1インシュレータ61のティース被覆部64と第2インシュレータ62のティース被覆部64とが接触して、これらの間に隙間が形成されないように構成してももちろんよい。
【0037】
図3、
図4に示すように、ヨークコア5は、複数の鋼板50を含む。ヨークコア5は、複数の鋼板50を厚さ方向に積層して形成されている。各鋼板50は、磁性材料により形成されている。各鋼板50は、例えば、ケイ素鋼板である。
【0038】
図1に示すように、ヨークコア5の形状は、円筒状であり、その中心軸線は、出力軸32の中心軸線320と一致している。ヨークコア5は、複数のティース42に取り付けられ複数のティース42を囲んでいる。
【0039】
ヨークコア5は、複数(9つ)の嵌合部51を有している。つまり、ヨークコア5は、ティース42と同数の嵌合部51を有している。複数の嵌合部51の各々は、ヨークコア5の内周面に設けられた窪みである。複数の嵌合部51は、複数のティース42と一対一で対応している。複数の嵌合部51の各々と、複数のティース42のうちこの嵌合部51に対応するティース42とは、少なくとも一方が内筒部41の径方向に移動することで嵌まり合う。これにより、ヨークコア5が複数のティース42に取り付けられる。
【0040】
各嵌合部51には、ティース42のうち2つの先端片422を含む部位が嵌め込まれる。そのため、ヨークコア5の周方向における各嵌合部51の長さは、胴部421から突出した2つの先端片422のうち一方の先端片422の突出先端と、他方の先端片422の突出先端との間の長さと等しい。なお、本明細書において「等しい」とは、複数の値が互いに完全に一致する場合に限定されず、許容される誤差の範囲内で異なっている場合をも含む。例えば、3%以内、5%以内、又は10%以内の誤差がある場合をも含む。
【0041】
ティースコア4にインシュレータ6が装着されコイル線22が巻かれた状態で、ヨークコア5は、例えば、焼嵌めにより複数のティース42に取り付けられる。すなわち、ヨークコア5を加熱して径方向に膨張させた状態で、ヨークコア5の内側にティースコア4を配置する。これにより、ヨークコア5の内面は、複数のティース42との間に僅かに隙間を空けて内筒部41の径方向における複数のティース42の先端に対向する。その後、ヨークコア5の温度が低下してヨークコア5が収縮すると、ヨークコア5の内面が複数のティース42の先端に接する。つまり、ヨークコア5の収縮に伴って複数の嵌合部51がヨークコア5の径方向内向きに移動することにより、複数の嵌合部51と複数のティース42とが嵌まり合う。ヨークコア5は、複数のティース42に対してヨークコア5の径方向内向きの接圧を加えている。
【0042】
図3、
図4に示すように、ステータ2は、回路基板7を有する。回路基板7は、ステータ配線21に電流を供給する。回路基板7は、実装される電気部品と、電気部品と電気的に接続され、かつ、渡り配線23が電気的に接続されるモータ端子71と、を有する。
図3に示すように、モータ端子71は、渡り配線23が配置されるステータコア20の表面200の一部に、その周辺部よりも突出するように設けられている。本実施形態では、モータ端子71は、第2インシュレータ62の表面60より突出するように設けられている。モータ端子71は三個設けられており、各モータ端子71は、三相交流のU相、V相及びW相にそれぞれ対応している。
【0043】
図8、
図9に示すように、モータ端子71は、対をなす二つの挟持片711を有する。渡り配線23は、二つの挟持片711の間に位置して挟持片711に接合されている。
【0044】
図3、
図4に示すように、第2インシュレータ62の表面60と反対側の面に沿って、回路基板7とは別の基板72が設けられている。
【0045】
次に、ロータ3の構成の詳細について説明する。
図3に示すように、ロータ3のロータコア30は、複数の鋼板301を含む。ロータコア30は、複数の鋼板301を厚さ方向に積層して形成されている。各鋼板301は、磁性材料により形成されている。各鋼板301は、例えば、ケイ素鋼板である。
【0046】
ロータコア30は、ステータコア20の内筒部41と同心の円筒状に形成されており、その中心軸線は、出力軸32の中心軸線320と一致している。中心軸線320方向において、ロータコア30の両端の位置は、ステータコア20の両端の位置とほぼ揃っている。なお、ロータコア30の両端の位置とステータコア20の両端の位置とがちょうど重なっていなくてもよく、許容される誤差の範囲内でずれていてもよい。例えば、ロータコア30の厚さの3%以内、5%以内又は10%以内のずれがあってもよい。
【0047】
ロータコア30の内側には、出力軸32が保持されている。ロータコア30は、複数(
図1では6つ)の磁石収容部302を含んでいる。複数の磁石収容部302は、複数の永久磁石31を収容する。複数の磁石収容部302の各々は、ロータコア30を中心軸線320方向に貫通する貫通孔である。複数の永久磁石31の各々は、接着剤を付着させた状態で磁石収容部302に挿入されることで、磁石収容部302に保持されている。なお、複数の永久磁石31の各々は、接着剤を用いることなく、ロータコア30との間の磁気吸着力により磁石収容部302に保持されていてもよい。
【0048】
複数の磁石収容部302は、ロータコア30の周方向において等間隔に設けられている。これにより、複数の永久磁石31がロータコア30の周方向において等間隔に配置されている。また、複数の永久磁石31の各々の長手方向は、ロータコア30の周方向に沿っている。各永久磁石31は、例えば、ネオジム磁石である。
【0049】
図3に示すように、モータ1は、ベース35、第1ベアリング33及び第2ベアリング34を更に備えている。ベース35は、ロータコア30に取り付けられて、ロータコア30、出力軸32及び第1ベアリング33の内輪と一体的に回転する。第1ベアリング33は、ロータコア30の左側に配置され、その内輪は、出力軸32の左側の部分に取り付けられる。第2ベアリング34は、ロータコア30の右側に配置される。第2ベアリング34の内輪は、出力軸32の右側の部分に取り付けられて出力軸32と一体的に回転し、第2ベアリング34の外輪は、第2インシュレータ62に取り付けられる。
【0050】
図1に示すように、モータ1の製造工程では、ステータ2のティースコア4とヨークコア5とが分離された状態で、ティースコア4の複数のティース42の胴部421に、インシュレータ6を介してコイル線22が巻かれる。その後、複数のティース42にヨークコア5が取り付けられる。
【0051】
コイル線22は、例えば、各ティース42の先端側に配置した器具を用いてティース42に巻かれる。複数のティース42は、内筒部41から径方向において外向きに突出しているので、複数のティース42が内向きに突出している場合と比較して、各ティース42の先端側のスペースを広くすることができる。そのため、各ティース42にコイル線22を容易に巻くことができ、場合によっては、コイル線22の占積率を増加させることが可能である。
【0052】
また、各ティース42はコイル線22が胴部421から脱落することを抑制する2つの先端片422を含むので、各ティース42にコイル線22をより容易に巻くことができる。さらに、各ティース42に加わる応力を、2つの先端片422に分散させることができるので、ティース42が変形する可能性を低減できる。さらに、先端片422は曲面44を含み、曲面44はヨークコア5に接する。そのため、先端片422の表面が平面状に形成されている場合と比較して、複数のティース42にヨークコア5が取り付けられる場合に、ヨークコア5から各ティース42に加わる応力が曲面44に沿って分散されやすい。
【0053】
また、モータ端子71に渡り配線23が接続される前には、二つの挟持片711(
図9参照)の間に、第2インシュレータ62の表面60から離間する方向に開放される隙間が形成されており、この隙間より渡り配線23が挿入される。二つの挟持片711の間に渡り配線23が挿入された状態で、挟持片711がかしめられて前記隙間が閉塞されて、渡り配線23がモータ端子71に電気的に接続される。
【0054】
(3)モータの特徴的な構成
(3.1)弾性変形部
図5Bに示すように、弾性変形部43は、ティースコア4の内筒部41の一部に形成されている。弾性変形部43は、内筒部41の他の部分よりも剛性が小さく、弾性変形しやすい。上述したように、モータ1の製造工程において、ヨークコア5は、焼嵌め等によりティースコア4が内側に嵌め込まれており、ヨークコア5は、複数のティース42に対してヨークコア5の径方向内向きの接圧を加えている。また、各ティース42は、渡り配線23より張力を受けている。これらの要因により、ティースコア4の内筒部41は、周方向の力を受けており、特に、周方向の圧縮力を受けやすい。
【0055】
内筒部41の一部に他の部分よりも弾性変形しやすい部分が特にない場合、ティースコア4の内筒部41が周方向の圧縮力を受けると、いずれかの部分に座屈のような大きな変形が発生するおそれがある。このような大きな変形は、内筒部41のいずれの部分に発生するか定まらないうえ、内筒部41の真円度を大きく損ねてしまい、ステータコア20により発生する磁界が設計通りに発生せず、モータ1の出力に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、本実施形態では、ティースコア4の内筒部41の一部に弾性変形部43が設けられている。
【0056】
弾性変形部43は、内筒部41の弾性変形部43以外の部分と比較して、内筒部41の周方向における弾性係数(弾性率)が小さい。弾性係数は、いわゆるフックの法則に従うものである。
【0057】
このような弾性変形部43が設けられることにより、ティースコア4の内筒部41が周方向の力を受けた場合、内筒部41における変形のほとんどは弾性変形部43における変形となり、内筒部41における変形を制御しやすくなる。この結果、内筒部41が周方向の力を受けても、内筒部41の真円度が損なわれるのを抑制しやすい。
【0058】
また本実施形態では、弾性変形部43は、連結部410に形成されている。内筒部41において、連結部410は、ティース42が設けられた部分よりも周方向における弾性係数が小さい。このため、連結部410に弾性変形部43を形成することで、内筒部41に弾性変形部43を形成しやすくなる。
【0059】
また本実施形態では、弾性変形部43は、内筒部41の一箇所にのみ形成されている。なお、弾性変形部43が内筒部41の二箇所以上に形成されてもよい。弾性変形部43が内筒部41の二箇所以上に形成される場合、内筒部41が周方向の力を受けると、いずれの弾性変形部43が最も大きく変形するか定まらず、内筒部41における変形を、弾性変形部43が内筒部41の一箇所に形成された場合より制御することが困難となる。そのため、弾性変形部43は内筒部41の一又は二箇所以上に形成されてもいが、弾性変形部43が内筒部41の一箇所に形成されることが望ましい。そこで、本実施形態では、弾性変形部43を内筒部41の一箇所にのみ形成することで、内筒部41が周方向の力を受けた場合の内筒部41の変形をより制御しやすくなる。
【0060】
また本実施形態では、弾性変形部43は、内筒部41の軸線方向(中心軸線320方向)に沿って延びる溝431を有している。これにより、内筒部41が周方向の圧縮力を受けた場合、溝431が内筒部41の周方向における縮み代となり得るため、内筒部41の変形(周方向における収縮)をより制御しやすくなる。
【0061】
また本実施形態では、溝431を構成する溝壁部432が湾曲している。これにより、内筒部41が周方向の引張力を受けた場合、溝壁部432が内筒部41の周方向における伸び代となり得るため、内筒部41の変形(周方向における伸長)をより制御しやすくなる。
【0062】
(3.2)渡り配線の位置
図7に示すように、渡り配線23は、胴部421の径方向の内側の部分46に位置している。上述したように、ティースコア4は、内筒部41から内筒部41の径方向において外向きに突出した複数のティース42を有している。一本のステータ配線21は、一のティース42の胴部421に巻かれてコイル線22となり、次に、隣接するティース42に向けて這わせて渡り配線23となり、隣接するティース42の胴部421に巻いてコイル線22となり、これが全てのティース42に巻かれるまで繰り返される。このような作業は、ティースコア4が、内筒部41から径方向における外向きに突出した複数のティース42を有する構成であるため、行いやすい。すなわち、ティースが、ヨークコア5の径方向における内向きに突出するように構成されていると、ティースの先端側に広いスペースが形成されにくく、ティースにステータ配線を巻く作業が行いにくい。そこで、本実施形態では、ティース42が、内筒部41から径方向における外向きに突出する構成としたことにより、ティースの先端側が開放されて広いスペースが形成されやすく、ティース42にステータ配線21を巻く作業が行いやすくなる。
【0063】
また、渡り配線23は、胴部421の径方向の内側の部分46に位置しているため、渡り配線23は、胴部421の径方向の外側の部分47に位置する場合と比較して、渡り配線23の長さ(ステータ配線21の長さ)が短くなり、電線が削減されるとともに、ジュール損が低減される。
【0064】
また、ヨークコア5にティースコア4が嵌め込まれるにあたって、渡り配線23が胴部421の径方向の外側の部分47に位置する場合と比較して、渡り配線23がヨークコア5とティースコア4との間に挟まれにくい。
【0065】
図6に示すように、第2インシュレータ62は、渡り配線23の位置を保持する保持部24を有している。保持部24は、筒体63の周方向の一部において、筒体63に沿って板部66より突設されている。
図7に示すように、保持部24の外周面により、渡り配線23が保持され、渡り配線23が径方向の内側に移動するのが規制されている。これにより、渡り配線23の位置が保持されて、渡り配線23が移動して渡り配線23に張力が発生したり、内筒部41の真円度が損なわれたりしてしまうのが抑制される。
【0066】
また、
図3に示すように、第2インシュレータ62の板部66の側周面25も渡り配線23の位置を保持する保持部として機能し得る。
【0067】
(3.3)ガイド支持部
図6、
図8に示すように、ステータコア20の表面200(第2インシュレータ62の表面60)のモータ端子71の周辺部に、ガイド支持部26が突設されている。
【0068】
上述したように、渡り配線23は、モータ端子71の二つの挟持片711に挟持されている。渡り配線23は、モータ端子71から導出されると、第2インシュレータ62の側周面25(
図3参照)の方へ延びるが、この時、
図8、
図9に示すように、渡り配線23がモータ端子71の底板712のエッジに接触して、渡り配線23が損傷するおそれがある。そこで、本実施形態では、ガイド支持部26が設けられている。ガイド支持部26は、モータ端子71に電気的に接続される渡り配線23を、ステータコア20の表面200より離間させる方向に支持する。これにより、渡り配線23がモータ端子71の底板712のエッジに接触しにくくなり、渡り配線23が損傷しにくくなる。
【0069】
また本実施形態では、ガイド支持部26は、ステータコア20の表面200の周辺部において、モータ端子71を挟む両側に形成される。これにより、渡り配線23がモータ端子71の底板712の両方のエッジに接触しにくくなり、渡り配線23がより損傷しにくくなる。なお、ガイド支持部26は、ステータコア20の表面200の周辺部において、モータ端子71を挟む両側のうち一方側に設けられてもよい。
【0070】
また本実施形態では、ガイド支持部26は、インシュレータ6の表面60に形成されている。これにより、合成樹脂により形成可能なインシュレータ6の表面60にガイド支持部26が形成されるため、ガイド支持部26が形成されやすくなる。
【0071】
(4)変形例
次に、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0072】
ロータ3の構成は、任意に変更が可能である。例えば、複数の永久磁石31は、多角形状に配置されていることに限定されず、スポーク状に配置されていてもよい。
【0073】
永久磁石31の個数は、6つに限定されず、2つ以上であればよい。
【0074】
ロータ3は、永久磁石31ではなく電磁石を有してもよい。
【0075】
ロータコア30の中心軸線320方向から見たロータコア30の形状は、完全な円形に限定されず、例えば、円状又は楕円状であって、円周上に突起及び窪みが設けられた形状であってもよい。
【0076】
モータ1は、電動工具10に備えられることに限定されない。モータ1は、例えば、電動自転車又は電動アシスト自転車に備えられてもよい。
【0077】
モータ1は、ロータ3に取り付けられた調整部を更に有していてもよい。調整部の形状は、例えば、円筒状の重りであって、調整部は、ロータ3の出力軸32に取り付けられる。調整部の一部を削り調整部の重さ及び重心を変えることで、ロータ3の重量バランスを調整することができる。あるいは、ロータコア30の一部を削ることで、ロータ3の重量バランスを調整してもよい。あるいは、ロータ3に付着させる接着剤の位置と量とを調整することで、ロータ3の重量バランスを調整してもよい。
【0078】
複数の鋼板40及び複数の鋼板301の各々は、各部分がつながった1つの部材であることが好ましい。これにより、各鋼板40(又は600)が複数の部材からなる場合と比較して、モータ1の部品点数を削減できる。
【0079】
ステータ配線21は、一本の電線ではなく、複数本の電線により構成されてもよい。
【0080】
(5)まとめ
以上、述べた本実施形態およびその変形例から明らかなように、第1の態様のモータ(1)は、ステータコア(20)、ステータ配線(21)及びモータ端子(71)を有するステータ(2)と、磁石を有しステータコア(20)に対して回転するロータ(3)と、を備える。ステータコア(20)は、ティースコア(4)と、ヨークコア(5)と、を有する。ティースコア(4)は、内側にロータ(3)が配置される筒状の内筒部(41)と、内筒部(41)から内筒部(41)の径方向において外向きに突出した胴部(421)を含む複数のティース(42)と、を有する。ヨークコア(5)は、複数のティース(42)に取り付けられ複数のティース(42)を囲む筒状をなす。ステータ配線(21)は、胴部(421)に巻かれるコイル線(22)と、複数の胴部(421)に巻かれるコイル線(22)同士を電気的に接続する渡り配線(23)と、を有する。モータ端子(71)は、電気部品と電気的に接続され、かつ、渡り配線(23)が電気的に接続されている。モータ端子(71)は、渡り配線(23)が配置されるステータコア(20)の表面(200)の一部にその周辺部よりも突出するように設けられている。ステータコア(20)の表面(200)の周辺部に、モータ端子(71)に電気的に接続される渡り配線(23)をステータコア(20)の表面(200)より離間させる方向に支持するガイド支持部(26)が突設されている。
【0081】
第1の態様によれば、渡り配線(23)がモータ端子(71)の底板(712)のエッジに接触しにくくなり、渡り配線(23)が損傷しにくくなる。
【0082】
第2の態様は、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、ガイド支持部(26)は、ステータコア(20)の表面(200)の周辺部において、モータ端子(71)を挟む両側に形成される。
【0083】
第2の態様によれば、渡り配線(23)がモータ端子(71)の底板(712)の両方のエッジに接触しにくくなり、渡り配線(23)がより損傷しにくくなる。
【0084】
第3の態様は、第1又は第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第3の態様では、ステータコア(20)は、ティースコア(4)を覆うインシュレータ(6)を更に備える。モータ端子(71)は、インシュレータ(6)の表面(60)より突出するように設けられている。ガイド支持部(26)は、インシュレータ(6)の表面(60)に形成されている。
【0085】
第3の態様によれば、ガイド支持部(26)が形成されやすくなる。
【0086】
第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様との組み合わせにより実現され得る。第4の態様では、モータ端子(71)は、対をなす二つの挟持片(711)を有する。渡り配線(23)は、二つの挟持片(711)の間に位置して挟持片(711)に接合されている。
【0087】
第4の態様によれば、渡り配線(23)が挟持片(711)に接合されやすい。
【0088】
第1の態様以外の構成については、モータ(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0089】
第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様との組み合わせにより実現され得る。第5の態様の電動工具(10)は、第1~第4のいずれかの態様のモータ(1)を備える。
【0090】
第5の態様によれば、電動工具(10)が備えるモータ(1)の渡り配線(23)がモータ端子(71)の底板(712)のエッジに接触しにくくなり、渡り配線(23)が損傷しにくくなる。
【符号の説明】
【0091】
1 モータ
10 電動工具
2 ステータ
20 ステータコア
200 表面
21 ステータ配線
22 コイル線
23 渡り配線
26 ガイド支持部
3 ロータ
31 永久磁石
4 ティースコア
41 内筒部
42 ティース
421 胴部
5 ヨークコア
6 インシュレータ
71 モータ端子
711 挟持片