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特許7575974ポリフェニレンスルフィド樹脂、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0245 20160101AFI20241023BHJP
【FI】
C08G75/0245
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021041616
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141360
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】村野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536376(JP,A)
【文献】特開平03-217278(JP,A)
【文献】特開昭51-034997(JP,A)
【文献】特開2020-056007(JP,A)
【文献】特開平01-188529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位(I)からなる第1ブロックと、下記式(2)で表される構成単位(II)からなる第2ブロックとを含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂を構成する全構成単位のモル数に対して、前記第1ブロックを構成する構成単位(I)のモル数と、前記第2ブロックを構成する構成単位(II)のモル数との合計の比率は、80モル%以上であり、
前記構成単位(I)のモル数と、前記構成単位(II)のモル数との合計に対する、前記構成単位(II)のモル数の比率が、1モル%以上30モル%以下であり、
測定温度20℃以上200℃以下の範囲での動的粘弾性測定に従って測定される損失係数の最大値が0.15以上であって、
融点が260℃以上であり、
110℃以上200℃以下の範囲での貯蔵弾性率の平均値が4.5×10以上である、ポリフェニレンスルフィド樹脂。
-Ph-S-・・・(1)
-Ph-S-・・・(2)
(式(1)中、Phはp-フェニレン基であり、前記式(2)中、Phはメチル-p-フェニレン基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構成単位からなるポリフェニレンスルフィド樹脂、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS樹脂」とも称する。)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも称する。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PAS樹脂は、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PAS樹脂は、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
より具体的には、例えば、自動車用のエンジンに代表される内燃機関の冷却に用いられる冷媒循環装置の部品の材料として、軽量性に優れる点、安価である点、加工が容易である点等からPAS樹脂の使用が検討されている。冷媒循環装置の部品に使用される熱可塑性樹脂には、例えば、耐衝撃性、耐薬品性、耐水蒸気透過性等の諸特性が優れていることが要求される。
【0004】
このような内燃機関の冷却に用いられる冷媒循環装置の部品の材料として、例えば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂45~83重量%、(B)ポリエチレン樹脂15~35重量%、及び(C)エチレン及びメタクリル酸グリシジルを共重合してなる共重合ポリオレフィン2~20重量%からなる組成物100重量部と、(D)ガラス繊維を30~100重量部とからなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が提案されている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-036824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動車等における車内空間の静音化や快適性向上等の目的で、内燃機関の冷却に用いられる冷媒循環装置の部品には制振性の向上が求められている。冷媒循環装置が冷媒を循環させるためのポンプを備えることにより、冷媒循環装置において、ポンプの動作や冷媒の脈動等によって振動が発生するためである。
この点、特許文献1に記載されるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物には、さらなる制振性の向上が望まれる。
また、高温の内燃機関の周辺で使用される冷媒循環装置の部品には、高い耐熱性が求められるし、交通事故や走行時の衝撃によって容易に変形や破壊されたしないような優れた機械的強度が求められる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、耐熱性、機械的強度、及び制振性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の好ましい製造方法と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記式(1)で表される構成単位(I)からなる第1ブロックと、下記式(2)で表される構成単位(II)からなる第2ブロックとを含み、測定温度20℃以上200℃以下の範囲での動的粘弾性測定に従って測定される損失係数の最大値として、0.15以上を示し、260℃以上の融点を有し、110℃以上200℃以下の範囲の貯蔵弾性率の平均値として、4.5×10以上を示すポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明にかかるポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記式(1)で表される構成単位(I)からなる第1ブロックと、下記式(2)で表される構成単位(II)からなる第2ブロックとを含み、
測定温度20℃以上200℃以下の範囲での動的粘弾性測定に従って測定される損失係数の最大値として、0.15以上を示し、
260℃以上の融点を有し、
110℃以上200℃以下の範囲の貯蔵弾性率の平均値として、4.5×10以上を示す。
-Ph-S-・・・(1)
-Ph-S-・・・(2)
(式(1)中、Phはp-フェニレン基であり、前記式(2)中、Phはメチル-p-フェニレン基である。)
【0010】
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂において、構成単位(I)のモル数と、構成単位(II)のモル数との合計に対する、構成単位(II)のモル数の比率が、1モル%以上30モル%以下であってよい。
【0011】
本発明にかかるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、上記のポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。
【0012】
本発明にかかる成形品は、上記のポリフェニレンスルフィド樹脂、又は上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる。
【0013】
本発明にかかるポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法は、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びp-ジクロロベンゼンを含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を行う第1重合工程と、
(3)第1重合工程後の重合反応混合物に、2-メチル-p-ジクロロベンゼンを添加した後、引き続き重合反応を行う第2重合工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性、機械的強度、及び制振性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の好ましい製造方法と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂≫
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)は、下記式(1)で表される構成単位(I)からなる第1ブロックと、下記式(2)で表される構成単位(II)からなる第2ブロックとを含む。つまり、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、第1ブロックと、第2ブロックとを含むブロック共重合体である。
-Ph-S-・・・(1)
-Ph-S-・・・(2)
(式(1)中、Phはp-フェニレン基であり、前記式(2)中、Phはメチル-p-フェニレン基である。)
【0016】
PPS樹脂は、測定温度20℃以上200℃以下の範囲での動的粘弾性測定に従って測定される損失係数の最大値として、0.15以上を示し、260℃以上の融点を有し、110℃以上200℃以下の範囲の貯蔵弾性率の平均値として、4.5×10以上を示す。
【0017】
上記のPPS樹脂は、上記の第1ブロック、及び第2ブロックを含むことにより、耐熱性、機械的強度、及び制振性に優れる。このため、上記のPPS樹脂、又は上記のPPS樹脂を含むPPS樹脂組成物は、自動車等において内燃機関の冷却に用いられる冷却循環装置の構成部品のような優れた耐熱性、機械的強度、及び制振性が要求される用途において、成形材料として好適に使用される。
【0018】
PPS樹脂の融点は、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
具体的には、PPS樹脂の試料約5mgをアルミパンに封入した後、試料を50℃から340℃への昇温後に、試料を340℃から50℃へ降温してDSC測定を行う。昇温速度は10℃/分であり、降温速度は10℃/分である。
融点は、昇温時観測されるPPS樹脂の溶融に由来するピークトップ温度である。
【0019】
PPS樹脂の融点は、例えば、PPS樹脂の重合度を調整したり、構成単位の比率を調整したりすることにより調整できる。PPS樹脂における、構成単位(I)からなる第1ブロックの含有量が多いほど、融点が高まる傾向がある。また、第1ブロックの平均分子量が大きいほど、融点が高まる傾向がある。
【0020】
PPS樹脂の損失係数、及び貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定に従って測定される。損失係数、及び貯蔵弾性率は、PPS樹脂の構成単位の比率を調整したりすることにより調整できる。PPS樹脂における、構成単位(II)からなる第2ブロックの含有量が多いほど、損失係数が高まる傾向がある。また、PPS樹脂における、構成単位(II)からなる第2ブロックの含有量が多く、構成単位(I)からなる第1ブロックの含有量が少ないほど、貯蔵弾性率が低下する傾向がある。しかし、上記の第1ブロックと第2ブロックとを含むPPS樹脂では、第2ブロックの含有量を増加させても貯蔵弾性率が低くなりにくい。
【0021】
上記のPPS樹脂において、構成単位(I)のモル数と、構成単位(II)のモル数との比率は、PPS樹脂が所定の損失係数、融点、及び貯蔵弾性率を示す限り特に限定されない。
上記のPPS樹脂において、構成単位(I)のモル数と、構成単位(II)のモル数との合計に対する、構成単位(II)のモル数の比率が、1モル%以上30モル%以下であるのが好ましく、3モル%以上20モル%以下がより好ましく、5モル%以上15モル%以下がさらに好ましい。
【0022】
上記のPPS樹脂は、構成単位(I)からなる第1ブロックと、構成単位(II)からなる第2ブロックとのみからなるのが好ましい。しかし、PPS樹脂が所定の損失係数、融点、及び貯蔵弾性率を示す限り、PPS樹脂は、ランダムに存在する構成単位(I)、及び/又は構成単位(II)を含んでいてもよく、構成単位(I)及び構成単位(II)以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位は、PPS樹脂の分子鎖中にランダムに存在してもよいし、ブロックとして存在してもよい。
PPS樹脂を構成する全構成単位のモル数に対して、第1ブロックを構成する構成単位(I)のモル数と、第2ブロックを構成する構成単位(II)のモル数との合計の比率は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、100モル%以上が特に好ましい。
【0023】
PPS樹脂の分子量は、重量平均分子量として、5000以上200000以下が好ましく、10000以上150000以下がより好ましく、15000以上100000以下がさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレン換算値である。
【0024】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物≫
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(PPS樹脂組成物)は、前述のPPS樹脂を含む。
【0025】
PPS樹脂組成物は、上記のPPS樹脂とともに、上記のPPS樹脂に該当しない他の樹脂を含んでいてもよい。
他の樹脂としては、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。上記の所定の要件を満たすPPS樹脂と、他の樹脂との均一な混合が容易であることから、他の樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。
【0026】
硬化性樹脂としては、未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を用いることもできる。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、ある程度サイズの大きな成形品を製造しやすいこと等から熱硬化性樹脂が好ましい。
硬化性樹脂と、前述のポリフェニレンスルフィド樹脂とを混合する方法としては、粉末又は粒子状の前述のポリフェニレンスルフィド樹脂を、液状又は溶液状の未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体と混合させ、混合後、必要に応じて溶媒を除去する方法が挙げられる。この場合、硬化性樹脂の種類に応じて、混合物に、硬化剤を配合してもよい。
以上のようにして得られる混合物は、硬化性樹脂の種類に応じた方法で、加熱及び/又は露光により硬化され樹脂組成物とされる。
【0027】
硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や、(メタ)アクリル樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。
【0028】
他の樹脂が硬化性樹脂である場合の、前述のPPS樹脂の質量と、他の樹脂の質量との合計に対する、前述のPPS樹脂の質量の比率は、例えば50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0029】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前述のPPS樹脂と他の樹脂とは、典型的には、1軸押出機や2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて混合される。混合条件は特に限定されず、前述のPPS樹脂、及び他の樹脂の、融点、溶融粘度等を勘案して適宜決定される。
【0030】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、及びポリスチレン等が挙げられる。
【0031】
これらの熱可塑性樹脂の中では、前述のPPS樹脂との相溶性に優れる点等から、PPS樹脂が好ましく、p-ジクロロベンゼンとスルフィド化剤(例えば、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物)との重縮合物であるポリパラフェニレンスルフィド樹脂が好ましい。
他の樹脂として使用されるPPS樹脂としては、前述の所定の要件を満たすPPS樹脂以外のPPS樹脂であれば特に限定されず、従来知られるPPS樹脂から適宜選択され得る。
前述の所定の要件を満たすPPS樹脂と混合されるPPS樹脂について、融点が270℃~300℃以下であるのが好ましく、重量平均分子量(Mw)が1000~5000であるのが好ましく、溶融年度が100~250Pa・sであるのが好ましい。
溶融粘度は、乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1-Dを使用して測定できる。キャピラリーは、1.000mmφ×10mmLの流入角付きダイを使用でき、設定温度は310℃である。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、せん断速度1200sec-1で測定した測定値を溶融粘度の値とする(単位:Pa・s)。
【0032】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合の、前述のPPS樹脂の質量と、熱可塑性樹脂の質量との合計に対する、前述のPPS樹脂の質量の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0033】
以上説明したPPS樹脂組成物は、必要に応じて、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、充填材、及び強化材等の、従来から種々の樹脂組成物に配合されている添加剤、又は添加材を含んでいてもよい。これらの添加剤又は添加材は、添加剤又は添加材の種類に応じた適切な範囲の量を使用される。
【0034】
≪成形品≫
以上説明した、PPS樹脂、又はPPS樹脂組成物は、それぞれの性質に応じた適切な方法により種々の成形品に成形される。得られる成形品の好適な例としては、ポンプの筐体や、冷媒循環用のパイプ、及びラジエータータンク等の冷媒循環装置の構成部品が挙げられる。
【0035】
硬化性樹脂を含むPPS樹脂組成物を用いる場合、例えば、所望する形状の凹部を有するモールド内に未硬化の状態のPPS樹脂組成物を充填した後、モールド内で所望する形状に成形されたPPS脂組成物を硬化させてもよい。
また、未硬化の状態の硬化性樹脂を含むPPS樹脂組成物が液状である場合、3Dプリンティング法により所望する形状の成形品を製造することもできる。この場合、PPS樹脂組成物は、成形途中に適宜硬化されてもよく、所望する形状の成形品を得た後に成形品が硬化されてもよい。
【0036】
前述のPPS樹脂、又は熱可塑性樹脂を含むPPS樹脂組成物を用いる場合、典型的には、プレス成形、押出成形、射出成形のような常法により前述のPPS樹脂、又は熱可塑性樹脂を含むPPS樹脂組成物が成形される。
【0037】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法≫
以下に前述の所定の要件を満たすポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法の好適な例について説明する。
かかる製造方法は、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びp-ジクロロベンゼンを含有する仕込み混合物の調製と、
(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を行う第1重合と、
(3)第1重合後の反応混合物に、2-メチル-p-ジクロロベンゼンを添加した後、引き続き重合反応を行う第2重合と、
を含む。
【0038】
(有機極性溶媒、硫黄源、及びp-ジクロロベンゼン)
有機極性溶媒、及び硫黄源としては、特に限定されず、PPS樹脂の製造において通常用いられるものを用いることができる。有機極性溶媒、及び硫黄源の各々は、単独で用いてもよいし、所望する化学構造を有するPPS樹脂の製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンがさらにより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0040】
有機極性溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、上記硫黄源1モルに対し、1~30モルが好ましく、3~15モルがより好ましい。
【0041】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることができ、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物であることが好ましい。硫黄源は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うことができ、計量性、搬送性等のハンドリング性の観点から、水溶液の状態であることが好ましい。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムが挙げられる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムが挙げられる。
【0042】
仕込み混合物の調製における、p-ジクロロベンゼンの使用量は、生成するPPS樹脂が所望する比率で第1ブロックと第2ブロックとを含む限りにおいて特に限定されない。
仕込み混合物の調製において、p-ジクロロベンゼンの使用量は、p-ジクロロベンゼン、及び2-メチル-p-ジクロロベンゼンを含む単量体の総量と、生成するPPS樹脂における構成単位(I)のモル数と、構成単位(II)のモル数との比率を勘案して適宜定められる。
PPS樹脂の製造に用いられる、p-ジクロロベンゼン、及び2-メチル-p-ジクロロベンゼンを含む単量体の総量は、硫黄源の仕込み量1モルに対し、好ましくは0.90~1.50モルであり、より好ましくは0.92~1.10モルであり、さらにより好ましくは0.95~1.05モルである。上記使用量が上記範囲内であると、分解反応が生じにくく、安定的な重合反応の実施が容易であり、高分子量ポリマーを生成させやすい。
【0043】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機極性溶媒、及び硫黄源を含有する混合物を含む系内から、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する工程である。脱水工程に供される混合物は、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物を含んでいてもよい。硫黄源とp-ジクロロベンゼンや2-メチル-p-ジクロロベンゼン等の単量体との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しないように、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0044】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0045】
脱水工程における加熱温度は、300℃以下であれば特に限定されず、好ましくは100~250℃である。加熱時間は、15分~24時間であることが好ましく、30分~10時間であることがより好ましい。
【0046】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、仕込み混合物(後述)における水分量が、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」又は「有効硫黄源」とも称する)1.0モルに対して、好ましくは0.5~2.4モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、後述する前段重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0047】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機極性溶媒、硫黄源、及びp-ジクロロベンゼンを含有する混合物を調製する工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0048】
脱水工程を行う場合、仕込み混合物における硫黄源の量(以下、「仕込み硫黄源の量」又は「有効硫黄源の量」とも称する。)は、原料として投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって、算出することができる。
【0049】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。特に、脱水時に生成した硫化水素の量と脱水時に生成したアルカリ金属水酸化物の量とを考慮したうえで、アルカリ金属水酸化物を添加することが出来る。アルカリ金属水酸化物としては、PPS樹脂の製造において通常用いられるものを用いることができる。アルカリ金属水酸化物は、単独で用いてもよいし、PPSの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。なお、アルカリ金属水酸化物のモル数は、仕込み工程で必要に応じて添加するアルカリ金属水酸化物のモル数、並びに、脱水工程を行う場合には、脱水工程において必要に応じて添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、及び、脱水工程において硫化水素の生成に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。硫黄源がアルカリ金属硫化物を含む場合には、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、アルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。硫黄源に硫化水素を使用する場合には、生成するアルカリ金属硫化物のモル数を含めて、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を算出するものとする。ただし、他の目的で添加されるアルカリ金属水酸化物のモル数、例えば、後述する相分離剤として有機カルボン酸金属塩を有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物との組み合わせの態様で使用する場合には、中和等の反応で消費したアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。さらに、何らかの理由で、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が使用される場合等は、上記少なくとも1種の酸を中和するに必要なアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。
【0050】
仕込み混合物において、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物の各々の使用量は、例えば、硫黄源の仕込み量1モルに対し、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物に関する上記説明中で示す範囲に設定される。
【0051】
(第1重合、及び第2重合)
第1重合では、仕込み混合物を加熱して重合反応を行う。第2重合では、第1重合後の反応混合物に、2-メチル-p-ジクロロベンゼンを添加した後、引き続き重合反応を行う。
p-ジクロロベンゼン、及び2-メチル-p-ジクロロベンゼン以外の他の単量体を用いる場合、他の単量体は第2重合後に反応混合物に添加される。
【0052】
第2重合を行う前の、2-メチル-p-クロロベンゼンの添加量は、p-ジクロロベンゼン、及び2-メチル-p-ジクロロベンゼンを含む単量体の総量と、生成するPPS樹脂における構成単位(I)のモル数と、構成単位(II)のモル数との比率を勘案して適宜定められる。
【0053】
より高分子量のPPS樹脂を得るために、重合反応は2段階以上に分けて行われるのが好ましい。具体的には、前段重合工程と、相分離剤の存在下で重合反応を継続する後段合工程とに分けて重合反応が行われるのが好ましい。
前段重合工程において、上記の第1重合と、第2重合とが行われてもよい。また、第1重合の途中に相分離剤を反応混合物に加えて、前段重合工程では第1重合のみを行い、後段重合工程において第1重合と第2重合とを行ってもよい。さらに、第2重合の途中に相分離剤を反応混合物に加えて、前段重合工程では第1重合と第2重合とを行い、後段重合工程において第2重合を行ってもよい。
【0054】
相分離剤は、前段重合工程と後段重合工程との間に設けられる相分離剤添加工程において反応混合物に加えられる。
前段重合工程は、仕込み混合物中を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる工程である。前段重合工程では、有機極性溶媒中で硫黄源と、p-ジクロロベンゼンとを重合させるか、硫黄源と、p-ジクロロベンゼンとを重合させた後にさらに2-メチル-p-ジクロロベンゼンを重合させる。なお、前段重合工程及び後段重合工程において加熱される混合物と、相分離剤添加工程において相分離剤が添加される混合物と、相分離剤添加工程において相分離した混合物とを、「反応混合物」と称する。
【0055】
第1重合後に、2-メチル-p-ジクロロベンゼンを添加する際の、p-ジクロロベンゼンの転化率は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。
前段重合工程において、PPS樹脂の製造に用いられる単量体の総モル数に基づく単量体の転化率は、好ましくは50~98モル%、より好ましくは60~97モル%、さらに好ましくは65~96モル%、特に好ましくは70~95モル%である。単量体の転化率は、反応混合物中に残存する単量体の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量と単量体の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0056】
前段重合工程に続く後段重合工程においては、前記プレポリマーの重合度が上昇する。
【0057】
相分離剤としては、水が好ましく用いられる。水以外の好ましい相分離剤としては、例えば、有機カルボン酸金属塩(例えば、酢酸ナトリウムのような脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩や、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩等)、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、及び無極性溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、相分離剤として使用される上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
【0058】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機極性溶媒1kgに対し、0.01~20モルの範囲内でよい。相分離剤として使用される水の量は、硫黄源1モル当たり0.1~5モルが好ましく、2~4モルがより好ましい。また、相分離剤として水を添加した場合の反応系内の水分量は、有機極性溶媒1kg当たり、4モル超過20モル以下でよく、4.1~14モルでもよく、4.2~10モルでもよい。
【0059】
後段重合工程において、アルカリ金属水酸化物の量は、硫黄源1モルに対し、好ましくは1.00~1.10モル、より好ましくは1.01~1.08モル、さらにより好ましくは1.02~1.07モルである。アルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内であると、得られるPPS樹脂の分子量がより上昇しやすく、より高分子量のPPS樹脂をより得やすい。後段重合工程では、前段重合工程後の反応混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量に基づき、最終的なアルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内となるように、該反応混合物にアルカリ金属水酸化物が添加されるのが好ましい。
【0060】
前段重合工程、及び後段重合工程では、重合反応の効率等の観点から、温度170~300℃の加熱下で重合反応を行うことが好ましい。前段重合工程、及び後段重合工程における重合温度は、180~280℃の範囲であることが、副反応及び分解反応を抑制する上でより好ましい。
【0061】
前段重合工程、及び後段重合工程における重合反応は、バッチ式で行ってもよいし、連続的に行ってもよい。例えば、少なくとも、有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物の供給と、有機極性溶媒中での硫黄源とジハロ芳香族化合物との反応によるPPS樹脂の生成と、PPS樹脂を含む反応混合物の回収と、を同時並行で行うことにより、重合反応を連続的に行うことができる。
【0062】
(冷却工程)
冷却工程は、第1重合、及び第2重合を含む重合工程後に、反応混合物を冷却する工程である。冷却工程における具体的な操作は、例えば、特許第6062924号公報に記載の通りである。
【0063】
(分離工程)
分離工程は、冷却された反応混合物からPPS樹脂を分離する工程である。分離工程では、例えば、スクリーンを用いる篩分や遠心分離機による遠心分離等を用いて、固液分離を行う。
【0064】
以上説明したような方法により、反応混合物から分離されたPPS樹脂は、必要に応じて、有機溶媒、酸性水、水等で洗浄された後に、乾燥された製品とされる。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲に対して種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0066】
以下に合成例を示し、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明において使用されるポリフェニレンスルフィド樹脂は、以下の合成例に示されるポリフェニレンスルフィド樹脂に何ら限定されない。
【0067】
〔比較例1〕
撹拌機付の容量1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム78.0g、水酸化ナトリウム2.4g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)375g、p-ジクロロベンゼン134.9g、及び2-メチル-p-ジクロロベンゼン16.4gを仕込んだ。p-ジクロロベンゼンと、2-メチル-p-ジクロロベンゼンとの仕込みモル比率は、p-ジクロロベンゼン:2-メチル-p-ジクロロベンゼンとして90:10であった。次いで、オートクレーブ内を窒素ガス雰囲気に置換した後、オートクレーブを密封した。その後、オートクレーブ内の反応液を撹拌しながら、反応液を240℃まで約30分かけて徐々に加熱した。240℃を2時間保持して重縮合反応を行った後、イオン交換水20.3gをポンプでオートクレーブ内に圧入した。その後、260℃まで10分かけて昇温した。260℃で、引き続き3時間重縮合反応を行った。反応終了後、反応液を室温近くまで冷却した。
オートクレーブの内容物を取り出した後、オートクレーブの内容物に3質量%の純水を含むアセトン1Lを加えて、室温にて30分間撹拌して洗浄した。洗浄された固形分(粗製品)をろ過により回収した後、前述のアセトンによる洗浄操作を2回繰り返した。
アセトンで洗浄された固形分を、室温にて純水1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により回収した。回収された固形分に対して、前述の純水による洗浄操作を3回繰り返した後、ろ過により回収された固形分を120℃で4時間乾燥させて、精製されたポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
比較例1で得たポリフェニレンスルフィド樹脂は、前述の構成単位(II)を、構成単位(I)のモル数と構成単位(II)のモル数との合計に対して10モル%含むランダム共重合体である。
【0068】
〔実施例1〕
撹拌機付の容量1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム78.0g、水酸化ナトリウム2.4g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)375g、p-ジクロロベンゼン134.9gを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を窒素ガス雰囲気に置換した後、オートクレーブを密封した。その後、オートクレーブ内の反応液を撹拌しながら、反応液を240℃まで約30分かけて徐々に加熱した。240℃を1時間保持して重縮合反応を行った。その後、オートクレーブに、2-メチル-p-ジクロロベンゼン16.4gをポンプで圧入し、240℃で1時間重合反応を継続した。次いで、イオン交換水20.3gをポンプでオートクレーブ内に圧入した。その後、260℃まで10分かけて昇温した。260℃で、引き続き3時間重縮合反応を行った。反応終了後、反応液を室温近くまで冷却した。
オートクレーブの内容物を取り出した後、オートクレーブの内容物に3質量%の純水を含むアセトン1Lを加えて、室温にて30分間撹拌して洗浄した。洗浄された固形分(粗製品)をろ過により回収した後、前述のアセトンによる洗浄操作を2回繰り返した。
アセトンで洗浄された固形分を、室温にて純水1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により回収した。回収された固形分に対して、前述の純水による洗浄操作を3回繰り返した後、ろ過により回収された固形分を120℃で4時間乾燥させて、精製されたポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
比較例1で得たポリフェニレンスルフィド樹脂は、前述の構成単位(II)を、構成単位(I)のモル数と構成単位(II)のモル数との合計に対して10モル%含み、且つ構成単位(I)からなる第1ブロックと、構成単位(II)からなる第2ブロックとを含むブロック共重合体である。
【0069】
〔比較例2〕
2-メチル-p-ジクロロベンゼン16.4gを、m-ジクロロベンゼン15.0gに変更することの他は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は、構成単位(I)からなる第1ブロックと、m-ジクロロベンゼンに由来する構成単位からなるブロックとを含むブロック共重合体である。
【0070】
〔比較例3〕
p-ジクロロベンゼンとスルフィド化剤(例えば、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物)との重縮合物であるポリフェニレンスルフィド樹脂((株)クレハ製、W-214A)を、比較例3の試料として用いた。
比較例3のポリフェニレンスルフィド樹脂は、前述の構成単位(II)を含まない。
【0071】
実施例1、及び比較例1~3のポリフェニレンスルフィド樹脂について、以下の方法に従ってシートを作成し、以下の方法に従って損失係数、及び貯蔵弾性率を測定した。また、実施例1、及び比較例1~3のポリフェニレンスルフィド樹脂について、前述の方法に従って、DSC測定により、融点を測定した。
【0072】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の各試料を320℃で、5MPa、1分の条件で圧縮成形して55mm×55mm×1mmのサイズのシートを作製した。
【0073】
得られたシートから、カッターナイフによりDMA測定用の短冊状の試験片を切り出し、DMAによる動的粘弾性の評価を行い、損失係数、及び貯蔵弾性率を測定した。なお、試験片には、DMA測定前に、150℃、1時間の条件でアニール処理を施した。DMA測定条件は以下の通りである。損失係数の測定結果を、表1に記す。
<DMA測定条件>
試料サイズ:10mm×5mm×1mm
引張温度:20℃~240℃
昇温速度:2℃/分
周波数:10Hz
【0074】
【表1】
【0075】
表1に記載の結果によれば、構成単位(I)からなる第1ブロックと、構成単位(II)からなる第2ブロックとを含むブロック共重合体である実施例1のPPS樹脂は、高い融点と、高い損失係数と、高い貯蔵弾性率とを示すことが分かる。つまり、実施例1のPPS樹脂は、耐熱性、機械的強度、及び制振性が求められる成形品を成形するための材料として好適に使用されうる。