(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】作業機械および作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20241023BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20241023BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20241023BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20241023BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20241023BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/22 A
E02F9/26 A
B60W30/09
B60W50/14
(21)【出願番号】P 2021053326
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】竹野 陽
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 利崇
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165230(JP,A)
【文献】特開2019-049150(JP,A)
【文献】国際公開第2019/180843(WO,A1)
【文献】特開2020-153114(JP,A)
【文献】特開2019-002242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0315083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/22
E02F 9/26
B60W 30/09
B60W 50/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、前記走行体に配置された作業機と、を有する車両本体と、
前記車両本体の周囲の物体を検出する物体検出部と、
前記車両本体の傾斜、屈曲、および前記作業機の少なくとも1つの状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部の検出情報から求められる前記車両本体が停止できる横方向の安定範囲と重心位置の関係に基づき、前記物体を検出した際の自動ブレーキに用いる減速度を設定する制御部と、を備え、
前記走行体は、
前記作業機が取り付けられたフロントフレームと、カウンタウェイトが配置され、前記フロントフレームの後側に連結されたリアフレームと、を有する車体フレームと、
前記フロントフレームに接続されたフロントアクスルと、
前後方向に対して垂直なロール方向に回動可能に前記リアフレームに接続されたリアアクスルと、
前記フロントアクスルの両端に取り付けられた一対のフロントタイヤと、
前記リアアクスルの両端に取り付けられた一対のリアタイヤと、を有し、
前記状態検出部は、前記車両本体の傾斜状態として、前記車体フレームの傾斜角度を検出し、
前記安定範囲は、前記リアアクスルの回動中心と前記フロントアクスルの両端を結ぶ範囲に設定される、
作業機械。
【請求項2】
前記車両本体の速度を検出する速度検出部を更に備え、
前記制御部は、前記減速度と前記車両本体の速度に基づいて前記物体との衝突を回避する回避制御を開始する前記物体からの開始距離を設定し、前記車両本体から前記物体までの相対距離と前記開始距離に基づいて前記回避制御を実行する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記制御部は、前記自動ブレーキに用いるために予め設定された第1減速度と、前記安定範囲に対する前記重心位置に基づいて設定された第2減速度とを比較し、前記第1減速度と前記第2減速度のうち小さい方を前記減速度として設定する、
請求項1または2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両本体の重心位置からの重力ベクトルと、前記安定範囲との比較に応じて前記第2減速度を設定する、
請求項3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記回避制御は、前記減速度で自動ブレーキを作動する制御を含む、
請求項2に記載の作業機械。
【請求項6】
前記物体を検出したことを報知する報知部を更に備え、
前記回避制御は、前記報知部による報知を行う制御を含む、
請求項2に記載の作業機械。
【請求項7】
前記制御部は、前記走行体の速度および前記減速度を用いて前記物体から所定距離手前で前記車両本体が停止できる距離を、前記開始距離として設定する、
請求項2に記載の作業機械。
【請求項8】
前記回避制御は、前記減速度で前記自動ブレーキを作動する制御を含み、
前記制御部は、前記相対距離が前記開始距離に達すると、前記減速度で前記自動ブレーキを作動する、
請求項7に記載の作業機械。
【請求項9】
前記物体を検出したことを報知する報知部を更に備え、
前記回避制御は、前記報知部による報知を行う制御を更に含み、
前記制御部は、前記相対距離が前記開始距離に達すると、前記報知部による報知を行い、
前記報知部による報知を行う前記開始距離は、前記自動ブレーキを作動する前記開始距離より前記物体から遠い距離に設定されている、
請求項8に記載の作業機械。
【請求項10】
前記作業機の状態は、前記作業機の姿勢および前記作業機の積み荷の状態の少なくとも一方を含む、
請求項1~9のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項11】
サービスブレーキと、
前記サービスブレーキへの作動油の供給量を調整可能なブレーキ弁と、を更に備え、
前記制御部は、前記ブレーキ弁を駆動し前記サービスブレーキを用いて自動ブレーキによる制動を行う、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項12】
走行体および前記走行体に配置された作業機を有する車両本体の周囲の物体の情報を取得する物体情報取得ステップと、
前記車両本体の傾斜、屈曲、および前記作業機の少なくとも1つの状態を検出する状態検出ステップと、
前記状態検出ステップの検出情報から求められる前記車両本体が停止できる横方向の安定範囲と重心位置の関係に基づき、前記物体を検出した際の自動ブレーキに用いる減速度を設定する設定ステップと、を備え
、
前記走行体は、
前記作業機が取り付けられたフロントフレームと、カウンタウェイトが配置され、前記フロントフレームの後側に連結されたリアフレームと、を有する車体フレームと、
前記フロントフレームに接続されたフロントアクスルと、
前後方向に対して垂直なロール方向に回動可能に前記リアフレームに接続されたリアアクスルと、
前記フロントアクスルの両端に取り付けられた一対のフロントタイヤと、
前記リアアクスルの両端に取り付けられた一対のリアタイヤと、を有し、
前記状態検出ステップは、前記車両本体の傾斜状態として、前記車体フレームの傾斜角度を検出し、
前記安定範囲は、前記リアアクスルの回動中心と前記フロントアクスルの両端を結ぶ範囲に設定される、
作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械および作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の一例であるホイールローダにおいて、物体を検出し自動で停止する自動停止システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、ホイールローダから物体までのエリアについて、物体からの距離が近い順に第一エリア、第二エリア、および第三エリアの3つのエリアに分け、第一エリアでは警報を発し、第二エリアでは減速し、第三エリアでは停止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、建設現場等で作業を行っているときは、作業機械が比較的不安定な状態であるときが多く、そのような状態で急な制動が行われると、より不安定な状態となる可能性がある。
【0006】
本開示は、安定した状態で物体との衝突を抑制することが可能な作業機械および作業機械の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の開示にかかる作業機械は、車両本体と、物体検出部と、状態検出部と、制御部とを備える。車両本体は、走行体と、走行体に配置された作業機と、を有する。物体検出部は、車両本体の周囲の物体を検出する。状態検出部は、車両本体の傾斜、屈曲、および作業機の少なくとも1つの状態を検出する。制御部は、状態検出部の検出情報から求められる車両本体が停止できる横方向の安定範囲と重心位置の関係に基づき、物体を検出した際の自動ブレーキに用いる減速度を設定する。
【0008】
第2の開示にかかる作業機械の制御方法は、物体情報取得ステップと、状態検出ステップと、設定ステップと、を備える。物体情報取得ステップは、走行体および走行体に配置された作業機を有する車両本体の周囲の物体の情報を取得する。状態検出ステップは、車両本体の傾斜、屈曲、および作業機の少なくとも1つの状態を検出する。設定ステップは、状態検出ステップの検出情報から求められる車両本体が停止できる横方向の安定範囲と重心位置の関係に基づき、物体を検出した際の自動ブレーキに用いる減速度を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、安定した状態で物体との衝突を抑制することが可能な作業機械および作業機械の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの側面図。
【
図1B】本開示にかかる実施の形態のホイールローダのリアタイヤ近傍を後方から視た構成図。
【
図2】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの構成を示すブロック図。
【
図3】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの検出系の構成を示すブロック図
【
図4】本開示にかかる実施の形態のホイールローダが傾斜面に配置されている状態を示す図
【
図5】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの安定範囲を示す裏面図。
【
図6】本開示にかかる実施の形態のホイールローダのブームが上方向に回動した状態を示す図。
【
図7】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの掘削バケットに荷を積んでいる状態を示す図。
【
図8】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの屈曲状態を示す図。
【
図9】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの制御系の構成を示すブロック図。
【
図10】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの自動ブレーキによる停止状態を示す側面図。
【
図11】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの制御動作を示すフロー図。
【
図12】本開示の実施の形態の変形例におけるホイールローダの構成を示すブロック図。
【
図13】本開示にかかる実施の形態のホイールローダの安定範囲の他の例を示す裏面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示にかかる作業機械の一例としてのホイールローダについて図面を参照しながら以下に説明する。
【0012】
(ホイールローダの概要)
図1Aは、本実施の形態のホイールローダ100(作業機械の一例)の構成を示す模式図である。本実施の形態のホイールローダ100は、車両本体1に、走行体2と作業機3を有する。作業機3は、走行体2に配置されている。走行体2は、車体フレーム10と、一対のフロントタイヤ4、キャブ5、エンジンルーム6、一対のリアタイヤ7、カウンタウェイト8、および一対のステアリングシリンダ9と、を備えている。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」、及び「下」とは運転席から前方を見た状態を基準とする方向を示す。また、「車幅方向」と「左右方向」と「横方向」は同義である。
図1Aでは、前後方向をZで示し、前方向を示すときはZf、後方向を示すときはZbで示す。
図1Bは、本実施の形態のホイールローダ100のリアタイヤ7近傍を後方から視た図である。
【0013】
ホイールローダ100は、作業機3を用いて土砂積み込み作業などを行う。
【0014】
車体フレーム10は、いわゆるアーティキュレート式であり、フロントフレーム11とリアフレーム12と、連結軸部13と、を有している。フロントフレーム11は、リアフレーム12の前方に配置されている。連結軸部13は、車幅方向の中央に設けられており、フロントフレーム11とリアフレーム12を互いに揺動可能に連結する。
【0015】
フロントフレーム11の下側には、左右方向に沿ってフロントアクスル34a(後述する
図5参照)が取り付けられている。一対のフロントタイヤ4は、フロントアクスル34aの左右両端に取り付けられている。
【0016】
リアフレーム12の下側には、
図1Bに示すように、左右方向に沿ってリアアクスル34bが取り付けられている。また、一対のリアタイヤ7は、リアアクスル34bの左右両端に取り付けられている。リアアクスル34bは、左右方向の中央部341でリアフレーム12に回動可能に取り付けられている。リアアクスル34bは、
図1Bに示すように、中央部341を中心にして、前後方向に対して垂直なロール方向に回動する。
図1Bでは、左側のリアタイヤ7が下方に回動した状態(矢印R2)のリアアクスル34bおよびリアタイヤ7が実線で示されており、左側のリアタイヤ7が上方に回動した状態(矢印R1)のリアアクスル34bおよびリアタイヤ7が二点鎖線で示されている。このように、リアアクスル34bがリアフレーム12に対してロール回転するオシレート機構を設けることによって、走行時に地面の凹凸の影響を吸収することができる。
【0017】
一対のステアリングシリンダ9は、連結軸部13を挟んで左右に配置されている。各々のステアリングシリンダ9は、一端がフロントフレーム11に回動可能に取り付けられており、他端がリアフレーム12に回動可能に取り付けられている。ステアリングシリンダ9の伸縮によって、リアフレーム12に対するフロントフレーム11の回動角度(アーティキュレート角度)が変更される。
【0018】
作業機3は、図示しない作業機ポンプからの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム14と、バケット15と、リフトシリンダ16と、バケットシリンダ17と、を有する。ブーム14は、フロントフレーム11に装着されている。バケット15は、ブーム14の先端に取り付けられている。
【0019】
リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17は、油圧シリンダである。リフトシリンダ16の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、リフトシリンダ16の他端はブーム14に取り付けられている。リフトシリンダ16の伸縮により、ブーム14が上下に揺動する。バケットシリンダ17の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、バケットシリンダ17の他端はベルクランク18を介してバケット15に取り付けられている。バケットシリンダ17が伸縮することによって、バケット15が上下に揺動する。
【0020】
キャブ5は、リアフレーム12上に載置されており、内部には、ステアリング操作のためのハンドルや、作業機3を操作するためのレバー、各種の表示装置等が配置されている。エンジンルーム6は、キャブ5の後側であってリアフレーム12上に配置されており、エンジン31が収納されている。カウンタウェイト8は、リアフレーム12の後部に配置されている。
【0021】
図2は、ホイールローダ100の構成を示すブロック図である。
【0022】
ホイールローダ100は、駆動系21と、制動系22と、操作系23と、報知系24と、検出系25と、制御系26と、を有する。
【0023】
駆動系21は、ホイールローダ100の駆動を行う。制動系22は、ホイールローダ100の制動を行う。操作系23は、オペレータによって操作が行われる。オペレータによる操作系23の操作に基づいて駆動系21および制動系22が動作する。報知系24は、検出系25による検出結果に基づいて、オペレータに対する報知を行う。検出系25は、車両本体1の状態、車両本体1の後方の物体、および車両本体1の速度の検出を行う。制御系26は、操作系23に対するオペレータの操作および検出系25による検出に基づいて、駆動系21、制動系22、および報知系24の操作を行う。
【0024】
(駆動系21)
駆動系21は、エンジン31と、HST32と、トランスファ33と、アクスル34と、フロントタイヤ4およびリアタイヤ7と、上述したステアリングシリンダ9と、を有する。
【0025】
エンジン31は、例えばディーゼル式のエンジンであり、エンジン31で発生した駆動力がHST(Hydro Static Transmission)32のポンプ32aを駆動する。
【0026】
HST32は、ポンプ32aと、モータ32bと、ポンプ32aとモータ32bを接続する油圧回路32cと、を有する。ポンプ32aは、斜板式可変容量型のポンプであって斜板の角度をソレノイド32dによって変更することができる。ポンプ32aがエンジン31によって駆動されることにより作動油を吐出する。吐出された作動油は、油圧回路32cを通ってモータ32bに送られる。モータ32bは、斜板式ポンプであって、斜板の角度をソレノイド32eによって変更することができる。油圧回路32cは、第1駆動回路32c1と、第2駆動回路32c2と、を有する。作動油が、ポンプ32aから第1駆動回路32c1を介してモータ32bに供給されることにより、モータ32bが一方向(例えば、前進方向)に駆動される。作動油が、ポンプ32aから第2駆動回路32c2を介してモータ32bに供給されることにより、モータ32bが他方向(例えば、後進方向)に駆動される。なお、作動油の第1駆動回路32c1若しくは第2駆動回路32c2への吐出方向はソレノイド32dによって変更することができる。
【0027】
トランスファ33は、エンジン31からの出力を前後のアクスル34に分配する。
【0028】
前側のアクスル34には一対のフロントタイヤ4が接続されており、分配されたエンジン31からの出力で回転する。また、後側のアクスル34には一対のリアタイヤ7が接続されており、分配されたエンジン31からの出力で回転する。
【0029】
(制動系22)
制動系22は、サービスブレーキ弁41と、ブレーキ回路42と、パーキングブレーキ43と、ブレーキ元圧供給路44と、シャットオフ弁45と、EPC(Electric Proportional Valve)弁46と、シャトル弁47と、を有する。
【0030】
サービスブレーキ弁41は、後述するブレーキペダル54によって操作される。サービスブレーキ弁41には、ブレーキ元圧供給路44が接続されている。サービスブレーキ弁41は、開状態においてブレーキ元圧供給路44から供給される作動油をシャトル弁47に供給する。サービスブレーキ弁41は、閉状態においてブレーキ元圧供給路44からシャトル弁47への作動油の供給を停止する。
【0031】
ブレーキペダル54の操作量に応じてサービスブレーキ弁41の開度が調整され、シャトル弁47に供給される作動油の量が変更される。例えば、ブレーキペダル54の操作量が大きい場合には、サービスブレーキ弁41からシャトル弁47に供給される作動油の量が多くなる。
【0032】
ブレーキ回路42は、前後のアクスル34に設けられている。ブレーキ回路42は、油圧式のブレーキであり、シャトル弁47から供給される作動油の量が多いまたは圧が大きいほど制動力が強くなる。サービスブレーキ弁41およびブレーキペダル54は、サービスブレーキの一部を構成する。
【0033】
パーキングブレーキ43は、トランスファ33に設けられている。パーキングブレーキ43としては、例えば、制動状態と非制動状態に切り替え可能な湿式多段式のブレーキや、ディスクブレーキなどを用いることができる。
【0034】
シャットオフ弁45は、ブレーキ元圧供給路44に接続されている。シャットオフ弁45は、制御系26からの指示に基づいて開閉される。シャットオフ弁45は、開状態において、ブレーキ元圧供給路44からEPC弁46に作動油を供給する。シャットオフ弁45は、閉状態において、ブレーキ元圧供給路44からEPC弁46への作動油の供給を停止する。
【0035】
本実施の形態では、制御系26は、例えば、車両本体1が後方に移動しているときにのみシャットオフ弁45を開状態にする。車両本体1の後方への移動は、車輪の回転やFNRレバー52の操作に基づいて、制御系26が判断を行う。
【0036】
EPC弁46は、シャットオフ弁45とシャトル弁47を接続する流路に配置されている。EPC弁46は、制御系26からの指示に基づいて開閉される。EPC弁46は、開状態において、シャットオフ弁45から供給される作動油をシャトル弁47に供給する。EPC弁46は、閉状態において、シャットオフ弁45からシャトル弁47への作動油の供給を停止する。
【0037】
EPC弁46は、制御系26からの指示に応じて開度が調整され、シャトル弁47に供給される作動油の量が変更される。
【0038】
シャトル弁47は、サービスブレーキ弁41を介して供給される作動油と、EPC弁46を介して供給される作動油のうち圧力が大きい方の作動油をブレーキ回路42に供給する。
【0039】
詳しくは後述するが、ブレーキペダル54が操作されずサービスブレーキ弁41から作動油が供給されない場合でも、制御系26からの指示によってシャットオフ弁45およびEPC弁46が開状態にされると、シャトル弁47からブレーキ回路42に作動油が供給され、自動でブレーキが作動する。
【0040】
(操作系23)
操作系23は、アクセル51と、FNRレバー52と、パーキングスイッチ53と、ブレーキペダル54と、復帰スイッチ55と、ステアリング操作部56と、を有する。
【0041】
アクセル51は、キャブ5内に設けられている。オペレータは、アクセル51を操作してスロットル開度を設定する。アクセル51は、アクセル操作量を示す開度信号を生成して制御系26へ送信する。制御系26は、送信される信号に基づいてエンジン31の回転速度を制御する。
【0042】
なお、アクセル51をオフ状態にすると、エンジン31への燃料供給が停止される。
【0043】
FNRレバー52は、キャブ5に設けられている。FNRレバー52は、前進、ニュートラル、または後進の位置をとることができる。FNRレバー52の位置を示す操作信号が制御系26に送信され、制御系26は、ソレノイド32dを制御して前進または後進を切り替える。また、FNRレバー52がニュートラルの位置の場合、制御系26は、ソレノイド32d、32eを制御し、走行抵抗になるようにポンプ32aとモータ32bの斜板をコントロールする。
【0044】
パーキングスイッチ53は、キャブ5内に設けられており、オン・オフに状態を切り替え可能なスイッチであり、その状態を示す信号を制御系26に送信する。制御系26は、送信される信号に基づいてパーキングブレーキ43を制動状態または非制動状態にする。
【0045】
ブレーキペダル54は、キャブ5内に設けられている。ブレーキペダル54は、サービスブレーキ弁41の開度を調整する。
【0046】
復帰スイッチ55は、後述する自動ブレーキ(回避制御の一例)によって車両本体1が停止した後、停止状態から復帰するためにオペレータによって操作される。なお、アクセル51のオフによる制御、およびFNRレバー52のニュートラル位置による制御で生じる制動力も、自動ブレーキに含まれてもよい。
ステアリング操作部56は、ステアリングホイール、ジョイスティックレバー等を含み、リアフレーム12に対するフロントフレーム11の屈曲角度(アーティキュレート角度)を変更する。ステアリング操作部56が操作されると、ステアリング操作角が制御系26に送信される。制御系26は、ステアリング操作角を、ステアリングシリンダ9の速度または目標角度に設定し、ステアリングシリンダ9に屈曲操作指令として送信する。
【0047】
(報知系24)
報知系24は、警報装置61(報知部の一例)と、自動ブレーキ作動通知ランプ63と、を有する。
【0048】
警報装置61は、後述する検出系25の後方検出部71の検出に基づいて後進時において車両本体1の後方に物体を検出した場合に制御系26からの指示によりオペレータに警報を行う。警報装置61による報知は、回避制御の一例に対応する。
【0049】
警報装置61は、例えば、ランプを有し、ランプを点灯させてもよい。また、ランプに限らず、警報装置61がスピーカを有し、音を鳴らしても良い。また、モニター等の表示パネルなどに警報を表示させてもよい。
【0050】
自動ブレーキ作動通知ランプ63は、自動ブレーキが作動している状態であることをオペレータに通知し、復帰スイッチ55による復帰動作が必要なことを通知する。なお、復帰スイッチ55が操作され自動ブレーキが解除されると、自動ブレーキ作動通知ランプ63が消灯する。
【0051】
なお、自動ブレーキ作動通知ランプ63は、ランプに限らなくてもよく、音を鳴らしても良い。また、モニター等の表示パネルなどに通知を表示させてもよい。
【0052】
上述のように報知系24によるオペレータに対する情報の報知の手段は、ランプ、音、モニター等適宜選択することができる。
【0053】
(検出系25)
図3は、検出系25を示すブロック図である。
【0054】
検出系25は、後方検出部71(物体検出部の一例)と、状態検出部72と、速度センサ73(速度検出部の一例)と、を有する。
【0055】
後方検出部71は、車両本体1の後方の物体を検出する。後方検出部71は、例えば、
図1Aに示すように車両本体1の後端に取り付けられているが、後端に限らなくても良い。
【0056】
後方検出部71は、例えばミリ波レーダを有している。送信アンテナから発したミリ波帯の電波が物体の表面で反射して戻ってくる様子を受信アンテナで検出し、物体までの距離を測定することができる。状態検出部72による検出結果が制御系26に送信され、制御系26は、後進時に所定範囲内に物体が存在することを判定できる。なお、ミリ波レーダに限らなくてもよく、例えばカメラなどであってもよい。後進時において後方検出部71によって後方に物体が存在することが検出された場合に、自動ブレーキが実行される。
【0057】
状態検出部72は、車両本体1の状態を検出する。状態検出部72の検出に基づいて、制御系26は、予め設定された設定ブレーキ力を用いて自動ブレーキを実施した場合の走行の安定性を考慮し、安定性の向上した転倒抑制ブレーキ力での自動ブレーキを実行する。設定ブレーキ力で制動した際の減速度を設定減速度とし、転倒抑制ブレーキ力で制動した際の減速度を転倒抑制減速度とする。なお、転倒抑制減速度は、設定減速度よりも小さく設定される。
【0058】
安定性の判断に用いられる車両本体1の状態は、例えば、(1)ホイールローダ100の傾斜角度、(2)作業機3の姿勢、(3)荷の状態、および(4)アーティキュレート角度を挙げることができる。
【0059】
(1)ホイールローダの傾斜角度について説明する。
【0060】
図4は、傾斜面Sに配置されている状態のホイールローダ100を示す図である。
図4では、ホイールローダ100は、左右方向(幅方向)において傾斜している。
図5は、ホイールローダ100の裏面を模式的に示した図である。
図5は、傾斜面に対して垂直な方向からホイールローダ100の裏面を見た図である。
【0061】
状態検出部72は、車体角度センサ72fを有している。車体角度センサ72fは、車体フレーム10に配置されている。制御系26の車体コントローラ90は、車体角度センサ72fで検出される検出値に基づいて、ホイールローダ100が傾斜した路面Sに配置されていることを判定することができる。なお、車体角度センサ72fの代わりにIMU(Inertial Measurement Unit)を用いても良い。
状態検出部72は、後述する(2)作業機3の姿勢、(3)荷の状態、およびアーティキュレート角度で説明する検出値も検出し、これらの検出値に基づいて制御系26において、車両本体1の重心位置gpが特定される。
【0062】
図4では、ホイールローダ100の重心がgpで示されており、その重力ベクトルが矢印gで示されている。
図4および
図5には、安定範囲Rが示されている。
図5では、安定範囲Rは、例えば、フロントアクスル34aの中心に沿った第1直線、フロントアクスル34aの左端とリアアクスル34bの回動中心34pを結ぶ第2直線と、フロントアクスル34aの右端とリアアクスル34bの回動中心34pを結ぶ第3直線とによって囲まれる略三角形状の範囲に設定されている。
図5に示されている重力ベクトルgの位置は、重心位置gpからの重力ベクトルgと安定範囲Rが交わる位置である。なお、車体フレーム10が屈曲している場合でも同様に安定範囲Rを設定することができる。
【0063】
重心位置gpからの重力ベクトルgの安定範囲Rに対する位置に基づいて、安定性が判断される。横方向の傾斜が大きくなるほど、自動ブレーキによる安定性が低下する。例えば、重力ベクトルgの安定範囲Rと交わる位置が安定範囲Rの端に近づくにつれて徐々に安定性が低下するため、転倒抑制減速度が小さく設定される。重力ベクトルgの安定範囲Rと交わる位置が安定範囲Rから逸脱した場合(
図5においてg´で示す)には、自動ブレーキを実施せず、警報装置61による警報のみが行われる。
【0064】
なお、
図4では、ホイールローダ100が左右方向において傾斜している例を示しているが、前後方向における傾斜も判断してもよい。ただし、左右方向において傾斜している方が自動ブレーキによる安定性が低くなる。
【0065】
また、
図5に示すように、安定範囲Rの左右方向の幅が前に向かうに従って広くなっている。そのため、例えば、フロントフレーム11側がリアフレーム12よりも高くなるように車体フレーム10が斜面に配置されている状態では、重力ベクトルgと安定範囲Rが交わる位置が後方に移動(重力ベクトルg´´参照)し、横方向への安定範囲が狭くなる。このように、前後方向の傾斜が、横方向への安定性に影響する。
【0066】
(2)作業機の姿勢
図6は、ブーム14が上方向に回動した状態のホイールローダ100を示す図である。
【0067】
状態検出部72は、作業機3の姿勢を検出するために、例えばブーム角度センサ72a(
図3参照)を有している。ブーム角度センサ72aによって検出されるブーム14の角度に基づいて、制御系26は、安定性を考慮して転倒抑制減速度を算出する。なお、ブーム角度センサ72aに限らずカメラを設けて画像解析を行うことによって、作業機3の姿勢を判定してもよい。
【0068】
ブーム14の角度が増加するほど、自動ブレーキによる安定性が低下する。例えば、ブーム14の上方向への回動角度が大きくなるに従って安定性が小さくなるため、転倒抑制減速度を小さくなるように設定することができる。なお、転倒抑制減速度の減少は、ブーム14の角度の増加に伴って一次関数的に減少させてもよいし、指数関数的に減少させてもよい。
【0069】
(3)荷の状態
図7は、バケット15に荷Wを積んでいる状態のホイールローダ100を示す図である。
【0070】
状態検出部72は、
図3に示すように、荷の状態を検出するために、リフトシリンダ16の圧力を検出する圧力センサ72b、ブーム角度センサ72a、およびバケット15がチルト状態であるか否かを検出するためのベルクランク角度センサ72dを有している。バケット15がチルト状態であるか否かは、バケットシリンダ17の長さによって決まる。ブーム角度センサ72aによるブーム角度とベルクランク角度センサ72dによるベルクランク角度から、予め記憶するテーブルに基づいてバケットシリンダ17の長さが算出され、バケット15がチルト状態であるか否かを検出することができる。
【0071】
圧力センサ72b、ブーム角度センサ72a、およびベルクランク角度センサ72dの値に基づいて、制御系26は安定性を考慮して転倒抑制減速度を算出する。
【0072】
荷Wの量が多くブーム14が上方に回動し、バケット15がチルト状態の方が、自動ブレーキによる安定性が低下する。例えば、圧力センサ72b、ブーム角度センサ72a、およびバケットシリンダ17の長さの値が大きくなるに従って安定性が小さくなるため、転倒抑制速度が小さくなるように設定することができる。なお、圧力センサ72b、ブーム角度センサ72a、およびバケットシリンダ17の長さの値に重みづけを行って、転倒抑制速度を算出してもよい。
【0073】
また、チルト状態を検出するために、ベルクランク角度センサ72dを使用せずに、バケット15等の作業機3の位置が検出可能なセンサ(近接センサなど)を用いてもよく、任意にセンサを設定可能である。また、荷の状態を検出するために、カメラを設けて画像解析を行ってもよい。
【0074】
(4)アーティキュレート角度
図8は、屈曲している状態のホイールローダ100の状態を示す図である。
【0075】
状態検出部72は、
図3に示すように、アーティキュレート角度θを検出するためにアーティキュレート角度センサ72eを有している。アーティキュレート角度センサ72eは、リアフレーム12に対するフロントフレーム11の傾斜角度を検出する。
【0076】
アーティキュレート角度センサ72eによって検出されるアーティキュレート角度θに基づいて、制御系26は、安定性を考慮して転倒抑制減速度を算出する。
【0077】
アーティキュレート角度θが増加するほど、自動ブレーキによる安定性が低下する。例えば、アーティキュレート角度θが大きくなるに従って安定性が小さくなるため、転倒抑制速度が小さくなるように設定することができる。なお、転倒抑制減速度の減少は、アーティキュレート角度の増加に伴って一次関数的に減少させてもよいし、指数関数的に減少させてもよい。
【0078】
速度センサ73は、車両本体1の速度を検出し、制御系26に送信する。
【0079】
(制御系26)
図9は、本実施の形態のホイールローダ100の制御系26(制御部の一例)の構成を示すブロック図である。
制御系26は、検知コントローラ80と、車体コントローラ90と、を有する。
【0080】
検知コントローラ80と車体コントローラ90の各々は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリと、ストレージを含む。検知コントローラ80と車体コントローラ90は、ストレージに記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。なお、本実施の形態では、検知コントローラ80と車体コントローラ90の各々がCPUを有していると記載したが、検知コントローラ80と車体コントローラ90が全体で1つのCPUを有していてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して検知コントローラ80と車体コントローラ90に配信されてもよい。
【0081】
検知コントローラ80は、後方検出部71で検出された物体の情報を取得する。車体コントローラ90は、自動ブレーキの制御を実行する。
【0082】
検知コントローラ80は物体情報取得部81と、距離算出部82と、を有する。
【0083】
物体情報取得部81は、後方検出部71によって検出された、停止する目標とする物体(対象物)の情報を取得する。距離算出部82は、物体の情報に基づいて、ホイールローダ100から物体までの距離x(相対距離の一例)を算出する。距離算出部82は、後方検出部71の送信アンテナから発したミリ波帯の電波が物体の表面で反射して戻ってくる様子に基づいて、物体までの距離xを算出することができる。なお、物体としては、岩、家屋などの障害物を挙げることができる。
【0084】
車体コントローラ90は、車体情報取得部91と、転倒抑制減速度算出部92と、記憶部93と、制御減速度設定部94と、制動時間算出部95と、制御開始距離算出部96と、制御指示部97と、を備える。
【0085】
車体情報取得部91は、状態検出部72で検出した車体情報および速度センサ73で検出した車体速度v0を取得する。
【0086】
転倒抑制減速度算出部92は、取得した車体情報および車体速度v0から安定性を求め、更に安全率も考慮して自動ブレーキの際のホイールローダ100の転倒を抑制する減速度(転倒抑制減速度)を算出する。転倒抑制減速度は、上述したように転倒抑制ブレーキ力による減速度である。例えば、転倒抑制減速度算出部92は、取得した車体情報より車両本体1の重心位置gpと安定範囲Rを特定し、重心位置gpからの重力ベクトルと安定範囲Rとの交点を求め、その交点の位置に基づいて安定性を求める。求めた安定性に安全率を足して転倒抑制減速度が算出される。
【0087】
記憶部93は、車体コントローラ90に設けられたメモリであり、予め設定された設定減速度を記憶している。設定減速度は、ブレーキ回路42のハードの能力等から予め設定された値であり、上述したように設定ブレーキ力による減速度である。
【0088】
制御減速度設定部94は、転倒抑制減速度と設定減速度のうち小さい減速度を選択し、選択した減速度を自動ブレーキの制御を実行する際の減速度(制御減速度)として設定する。これにより、予め設定した設定減速度で自動ブレーキを実行した場合にホイールローダ100が転倒する可能性がある場合には、転倒抑制減速度で自動ブレーキを実行することができる。
【0089】
制動時間算出部95は、車体速度と制御減速度(減速度の一例)からホイールローダ100が停止するまでの時間を算出する。具体的には、車体速度をv0とし制御減速度をaとし、ホイールローダ100が停止するまでの制動時間をt´とすると、(式1)が成り立つ。
【0090】
(式1)・・・v0-at´=0
そのため、t´=v0/aを計算することによって、制動時間t´を求めることができる。
【0091】
制御開始距離算出部96は、自動ブレーキの制御を開始するための物体からの距離を算出する。ホイールローダ100が停止するまでに進む距離をx´とすると、(式2)が成り立つ。
【0092】
(式2)・・・x´=v0t´-(1/2)at´2
(式2)のt´に上述した(式1)のv0/aを代入することにより、次の式(3)が導かれる。
【0093】
(式3)・・・x´=(1/2)v0
2/a
自動ブレーキをかける際の物体までの目標停止距離をxtとし、自動ブレーキをかけ始める位置(物体からの距離)をxbとすると、次の(式4)が成り立つ。
【0094】
(式4)・・・xb=xt+x´
(式4)のx´に(式3)の(1/2)v0
2/aを代入すると、次の(式5)が導かれる。
【0095】
(式5)・・・xb=xt+(1/2)v0
2/a
(式5)より、自動ブレーキをかけ始める位置である自動ブレーキ制御開始距離xb(開始距離の一例)を求めることができる。
【0096】
また、制御開始距離算出部96は、警報を開始するための距離xc(物体からの警報制御開始距離)を求める。警報制御開始距離xc(開始距離の一例)は、自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて設定することができる。距離xcは、自動ブレーキ制御開始距離xbよりも大きく設定することができる。これにより、警報制御開始距離xcは、自動ブレーキ制御開始距離xbよりも物体からの距離が遠く設定され、警報を自動ブレーキ開始前の予備警報として用いることができる。
【0097】
図10は、ホイールローダ100の物体Mからの距離を示す図である。
【0098】
制御指示部97は、距離算出部82で算出された距離xが、制御開始距離算出部96で算出した警報制御開始距離xcに達すると警報装置61に発報指示を行う。これにより、警報装置61が警報を発する。
【0099】
制御指示部97は、距離xが自動ブレーキ制御開始距離xbに達すると、制御減速度aとなる開度になるようにシャットオフ弁45およびEPC弁46に開指示を行う。これにより、ブレーキペダル54を操作していない場合でも、シャトル弁47を介して作動油がブレーキ回路42に供給され、制御減速度aで制動が行われる。そして、
図10に示すように、物体Mからの距離xtでホイールローダ100が停止する。停止した状態のホイールローダ100が二点鎖線で示されている。
【0100】
制御指示部97は、自動ブレーキの制御を開始すると、自動ブレーキ作動通知ランプ63に点灯指示を行う。
【0101】
オペレータが復帰スイッチ55を操作し、自動ブレーキが解除されると、制御指示部97は自動ブレーキ作動通知ランプ63に消灯指示を行う。
【0102】
なお、オペレータがブレーキペダル54を操作し、サービスブレーキ弁41から供給される作動油の圧力がEPC弁46から供給される作動油の圧力よりも大きくなると、サービスブレーキ弁41から供給される作動油によってブレーキ回路42が作動する。
【0103】
<動作>
次に、本実施の形態のホイールローダ100の制御動作について説明する。
【0104】
図11は、本実施の形態のホイールローダ100の制御動作を示すフロー図である。
【0105】
はじめに、ステップS10において、物体情報取得部81が、後方検出部71から物体Mの情報を取得する。物体情報取得部81は、後進が行われていることを検出している状態において、後方検出部71から所定範囲内における物体の情報を受け取ると、受け取った物体の情報を距離算出部82に送信する。物体情報取得部81は、例えば、フロントタイヤ4もしくはリアタイヤ7が後方に向かって回転していること、またはFNRレバー52が後進位置であることによって車両本体1の後進状態を検出する。
【0106】
次に、ステップS20において、車体情報取得部91が状態検出部72で検出した車体情報および速度センサ73で検出した車体速度v0を取得する。車体情報は、上述したように、(1)ホイールローダ100の傾斜角度、(2)作業機3の姿勢、(3)荷の状態、および(4)アーティキュレート角度を含む。
【0107】
次に、ステップS30において、距離算出部82が、物体の情報に基づいて、ホイールローダ100から物体Mまでの距離xを算出する。
【0108】
次に、ステップS40において、転倒抑制減速度算出部92は、取得した車体情報から、安全率も考慮してホイールローダ100の転倒を抑制する減速度(転倒抑制減速度)を算出する。
【0109】
次に、ステップS50において、制御減速度設定部94が、転倒抑制減速度と記憶部93に記憶されている設定減速度のうち小さい減速度を選択し、選択した減速度を自動ブレーキの制御を実行する際の減速度(制御減速度a)として設定する。
【0110】
次に、ステップS60において、制動時間算出部95が、車体速度v0と制御減速度aからホイールローダ100が停止するまでの時間t´を(式1)を用いて算出する。
【0111】
次に、ステップS70において、制御開始距離算出部96が、車体速度v0、制御減速度a、および制動時間t´より、(式1)~(式5)を用いて自動ブレーキ制御開始距離xbを算出する。また、制御開始距離算出部96は、自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて、警報を開始する警報制御開始距離xcを算出する。
【0112】
次に、ステップS80において、制御指示部97は、距離算出部82で算出された距離xが、制御開始距離算出部96で算出した警報制御開始距離xcに達すると警報装置61に発報指示を行い、距離xが自動ブレーキ制御開始距離xbに達すると、シャットオフ弁45に開指示を行い、制御減速度aとなる開度になるようにEPC弁46に開指示を行う。
【0113】
これにより、距離xが警報制御開始距離xcに達すると警報装置61が動作して警報が開始され、次に、距離xが自動ブレーキ制御開始距離xbに達すると、制御減速度aによって自動ブレーキが動作し、物体Mからの距離xtでホイールローダ100が停止する。
【0114】
<特徴>
(1)
本実施の形態にかかるホイールローダ100(作業機械の一例)は、車両本体1と、後方検出部71(物体検出部の一例)と、状態検出部72と、制御系26(制御部の一例)とを備える。車両本体1は、走行体2と、走行体2に配置された作業機3と、を有する。後方検出部71は、車両本体1の周囲の物体Mを検出する。状態検出部72は、車両本体1の傾斜、屈曲、および作業機3の少なくとも1つの状態を検出する。制御系26は、状態検出部72の検出情報から求められる車両本体1が停止できる横方向の安定範囲Rと重心位置gpの関係に基づき、物体Mを検出した際の自動ブレーキに用いる制御減速度a(減速度の一例)を設定する。
【0115】
これにより、車両本体1の横方向の安定性に応じた減速度を用いて、物体Mを検出した際に回避制御(自動ブレーキまたは警報装置61による警報)を実行することができる。
【0116】
また、車両本体1が、横方向における安定性が低い傾斜状態であることを検出することができる。また、車両本体1が、横方向における安定性が低い屈曲状態であることを検出することができる。また、車両本体1が、横方向における安定性が低い作業機3の状態であることを検出することができる。
【0117】
(2)
本実施の形態にかかるホイールローダ100(作業機械の一例)は、速度センサ73(速度検出部の一例)を更に備える。速度センサ73は、車両本体1の速度を検出する。制御系26は、制御減速度aと車両本体1の速度v0に基づいて、物体Mとの衝突を回避する回避制御を開始する物体Mからの自動ブレーキ制御開始距離xb(開始距離の一例)を設定し、車両本体1から物体Mまでの相対距離xと自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて回避制御を実行する。
【0118】
これにより、回避制御として自動ブレーキを行う場合には、車両本体1の横方向への安定性を考慮した制御ブレーキ力で自動ブレーキを行うため、横方向への安定性を考慮して減速を行うことができる。
【0119】
また、車両本体1の横方向への安定性に応じた制御減速度を用いて、自動ブレーキ制御開始距離xbを設定するため、制御ブレーキ力に応じた制動距離に基づいて回避制御を行うことができる。このため、安定した走行状態で物体Mとの衝突を抑制することができる。
【0120】
(3)
本実施の形態にかかるホイールローダ100では、制御系26(制御部の一例)は、自動ブレーキに用いるために予め設定された設定減速度(第1減速度の一例)と、安定範囲Rに対する重心位置gpに基づいて設定された転倒抑制減速度(第2減速度の一例)とを比較し、小さい方を制御減速度(減速度の一例)として設定する。
【0121】
これにより、予め設定された設定減速度で自動ブレーキを作動した場合に横転する可能性があるときには、設定減速度を用いず車両本体1の状態を考慮した転倒抑制減速度で自動ブレーキを行うため、安定した走行状態で物体Mとの衝突を抑制することができる。
【0122】
また、車両本体1の状態に基づいて設定した転倒抑制減速度を用いて、自動ブレーキ制御開始距離xbを設定するため、転倒抑制減速度によって伸びた制動距離に基づいて回避制御を行うことができる。
【0123】
(4)
本実施の形態にかかるホイールローダ100では、制御系26は、車両本体1の重心位置gpからの重力ベクトルgと、安定範囲Rとの比較に応じて転倒抑制減速度を設定する。
これにより、横転せずに安定した走行で減速可能な転倒抑制減速度を設定することができる。
【0124】
(5)
本実施の形態にかかるホイールローダ100では、回避制御は、制御ブレーキ力で自動ブレーキを作動する制御を含む。
【0125】
これにより、車両本体1の状態に応じて転倒を抑制するように制御ブレーキ力による減速度で自動ブレーキを作動させることができる。
【0126】
(6)
本実施の形態にかかるホイールローダ100は、警報装置61(報知部の一例)を更に備える。警報装置61は、物体Mを検出したことを報知する。回避制御は、警報装置61による報知を行う制御を含む。
【0127】
これにより、オペレータに物体Mの検出を報知でき、オペレータは物体Mとの衝突を回避するように操作を行うことができる。
【0128】
(7)
本実施の形態にかかるホイールローダ100では、制御系26は、走行体2の速度および減速度aを用いて物体Mから所定距離xt手前で車両本体1が停止できる距離を、自動ブレーキ制御開始距離xbとして設定する。
【0129】
これにより、自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて、回避制御を行うことで物体Mとの衝突を抑制することができる。
【0130】
(8)
本実施の形態にかかるホイールローダ100では、回避制御は、制御ブレーキ力で自動ブレーキを作動する制御を含む。制御系26は、相対距離xが、自動ブレーキ制御開始距離xbに達すると、制御ブレーキ力で自動ブレーキを作動する。
【0131】
これにより、物体Mとの相対距離xが自動ブレーキ制御開始距離Xbに達すると、制御ブレーキ力で自動ブレーキを作動させることにより、物体Mの手前で停止することができる。
【0132】
(9)
本実施の形態にかかるホイールローダ100は、警報装置61(報知部の一例)を更に備える。警報装置61は、物体Mを検出したことを報知する。回避制御は、警報装置61による報知を行う制御を更に含む。制御系26は、相対距離xが、警報制御開始距離xcに達すると、警報装置61による報知を行う。警報装置61による報知を行う警報制御開始距離xcは、自動ブレーキを作動する自動ブレーキ制御開始距離xbより物体Mから遠い距離に設定されている。
【0133】
これにより、オペレータに、自動ブレーキが開始される自動ブレーキ制御開始距離xbに達することを警報装置61によって予備的に知らせることができる
【0134】
(10)
本実施の形態のホイールローダ100では、作業機3の状態は、作業機3の姿勢および作業機3の積み荷の状態の少なくとも一方を含む。
【0135】
これによって、車両本体1が、作業機3の姿勢及び積荷により設定ブレーキ力で制動させた場合に転倒予防の必要があるような不安定な状態であることを検出することができる。
【0136】
(11)
本実施の形態のホイールローダ100では、車両本体1は、車体フレーム10と、フロントアクスル34aと、リアアクスル34bと、一対のフロントタイヤ4と、一対のリアタイヤ7と、を有する。車体フレーム10は、作業機3が取り付けられたフロントフレーム11と、カウンタウェイト8が配置され、フロントフレーム11の後側に連結されたリアフレーム12と、を有する。フロントアクスル34aは、フロントフレーム11に接続されている。リアアクスル34bは、前後方向に対して垂直なロール方向に回動可能にリアフレーム12に接続されている。一対のフロントタイヤ4は、フロントアクスル34aの両端に取り付けられている。一対のリアタイヤ7は、リアアクスル34bの両端に取り付けられている。状態検出部72は、車両本体1の傾斜状態として、車体フレーム10の傾斜角度を検出する、
【0137】
これにより、オシレート機構を有するホイールローダ100の車両本体1の傾斜角度に基づいた横方向の安定性に応じて自動ブレーキの際の制御減速度を設定することができる。
【0138】
(12)
本実施の形態のホイールローダ100では、安定範囲Rは、リアアクスル34bの回動中心34pとフロントアクスル34aの両端を結ぶ範囲に設定される。
これにより、オシレート機構を考慮した安定範囲を設定することができる。
【0139】
(13)
本実施の形態のホイールローダ100(作業機械の一例)では、ブレーキ回路42(サービスブレーキの一例)と、ブレーキ回路42への作動油の供給量を調整可能なEPC弁46(ブレーキ弁の一例)と、を更に備える。制御系26は、EPC弁46を駆動しブレーキ回路42を用いて自動ブレーキによる制動を行う。
【0140】
これによって、物体Mを検出した場合に、車両本体1を自動で停止させることができる。
【0141】
(14)
本実施の形態のホイールローダ100(作業機械の一例)の制御方法は、ステップS10(物体情報取得ステップの一例)と、ステップS20(状態検出ステップの一例)と、ステップS50(設定ステップの一例)と、を備える。ステップS10は、走行体2および走行体2に配置された作業機3を有する車両本体1の周囲の物体Mの情報を取得する。ステップS20は、車両本体1の傾斜、屈曲、および前記作業機の少なくとも1つの状態を検出する。ステップS50は、ステップS20の検出情報から求められる車両本体1が停止できる横方向の安定範囲Rと重心位置gpの関係に基づき、物体Mを検出した際の自動ブレーキに用いる制御減速度a(減速度の一例)を設定する。
【0142】
これにより、車両本体1の横方向の安定性に応じた減速度を用いて、物体Mを検出した際に、回避制御(自動ブレーキまたは警報装置61による警報)を実行することができる。
【0143】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0144】
(A)
上記実施の形態のホイールローダ100では、車両本体1が後進時以外では、シャットオフ弁45によって流路を閉じた状態とすることによって、後進時にのみ自動ブレーキを実行可能としているが、後進時に限らなくてもよく、前進時にも自動ブレーキを実行可能としてもよい。
【0145】
(B)
上記実施の形態のホイールローダ100では、自動ブレーキ制御開始距離xbよりも手前の警報制御開始距離xcで警報装置61による報知を行っているが、自動ブレーキ制御開始距離xbと同じ位置で警報装置61による報知を行ってもよい。要するに、算出された自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて警報制御開始距離が設定されればよい。
【0146】
(C)
上記実施の形態のホイールローダ100では、回避制御として、自動ブレーキの制御と警報装置61による発報の双方を実行しているが、どちらか一方だけであってもよい。
【0147】
回避制御として警報装置61による発報だけが実行される場合、自動ブレーキ制御開始距離xbに基づいて警報制御開始距離xcが設定され、相対距離xが距離xcに達すると警報装置61による報知が行われるが、相対距離xが距離xbに達しても自動ブレーキは開始されない。
【0148】
この場合、オペレータに回避制御を行うように知らせることができるため、オペレータは例えば車両の状態を見て適切なブレーキ力を生じるようにブレーキペダル54を踏むなどの動作を行うことが可能となる。
【0149】
(D)
上記実施の形態では、制御系26がEPC弁46と同時にシャットオフ弁45を開状態にしているが、車両本体1が後進状態であることを検出した場合には、物体Mの検出にかかわらずシャットオフ弁45を開状態にしてもよい。この場合、制御系26は、自動ブレーキを作動させる際にEPC弁46を開状態に制御するだけでよい。
【0150】
(E)
上記実施の形態では、サービスブレーキのブレーキ回路42を用いて自動ブレーキにおける転倒抑制ブレーキ力を生じさせているが、アクセル51をオフにした際の内部慣性またはFNRレバー52をニュートラルの位置に配置した場合のポンプ32aとモータ32bの斜板による走行抵抗を用いてもよい。
【0151】
(F)
上記実施の形態では、駆動系21にHST32を用いているが、HSTに限らなくても良く、トルクコンバータであってもよい。
図12は、駆動系21にトルクコンバータ132とトランスミッション133が設けられた構成を示すブロック図である。エンジン31からの駆動力はトルクコンバータ132を介してトランスミッション133に伝達される。トランスミッション133は、トルクコンバータ132を介して伝達されるエンジン31の回転駆動力を変速してアクスル34に伝達する。トランスミッション133には、パーキングブレーキ43が設けられている。
【0152】
なお、トルクコンバータの場合においても、転倒抑制ブレーキ力をEPC弁46の開度を調整して生じさせてもよい。また、アクセル51をオフ状態にすることによって転倒抑制ブレーキ力を生じさせてもよい。
【0153】
さらに、HSTに限らず、HMT(Hydro Mechanical Transmission)が用いられても良い。
【0154】
なお、制動力の制御は、サービスブレーキ弁41を用いたサービスブレーキ、パーキングブレーキ43、他に制動力を変更する手段を適宜適用できる。
また、サービスブレーキ、パーキングブレーキ43等のブレーキと原動機側の内部慣性を任意に組み合わせてもよい。
【0155】
(G)
上記実施の形態のホイールローダはオペレータが搭乗して操作してもよいし、無人で操作されてもよい。
【0156】
(H)
上記実施の形態では、作業機械の一例としてホイールローダを用いて説明したが、ホイールローダに限らなくてもよく、油圧ショベル等であってもよい。アーティキュレート式ではない作業機械の場合、車体情報としてアーティキュレート角度に代えてステアリング角度を検出して転倒抑制減速度の設定に用いてもよい。
【0157】
(I)
上記実施の形態では、安定範囲Rは、底面視において略三角形状であるが、これに限られるものではない。例えば、
図13に示す安定範囲Rは、フロントアクスル34aの中心軸に沿った第1直線、リアアクスル34bの中心軸に沿った第2直線と、フロントアクスル34aの左端とリアアクスル34bの左端を結び、且つ第1直線および第2直線に交わる第3直線と、フロントアクスル34aの右端とリアアクスル34bの右端を結び、且つ第1直線および第2直線に交わる第4直線とによって囲まれる範囲に設定されている。
このように、安定範囲Rは、長方形状に形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の作業機械および作業機械の制御方法によれば、安定した状態で物体との衝突を抑制することが可能な効果を発揮し、ホイールローダ等として有用である。
【符号の説明】
【0159】
1 :車両本体
2 :走行体
3 :作業機
26 :制御系
71 :後方検出部
72 :状態検出部
73 :速度センサ