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特許7575990放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法
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  • 特許-放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20241023BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G21F9/12 501F
G21F9/02 511C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021069835
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164380
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390016090
【氏名又は名称】株式会社レゾナックユニバーサル
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 実
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 文雄
(72)【発明者】
【氏名】北河 友也
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 淳司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶鑑
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-225638(JP,A)
【文献】特開2019-113484(JP,A)
【文献】特開2018-091732(JP,A)
【文献】特開2000-334206(JP,A)
【文献】特開2013-104727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイシリカゼオライトの内部に存在するヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させたハイシリカゼオライトに、銀を担持させてなり、
前記ハイシリカゼオライトが、チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも何れかである、放射性ヨウ素吸着剤。
【請求項2】
前記ハイシリカゼオライトのSiO/Alモル比が2~100である、請求項1に記載の放射性ヨウ素吸着剤。
【請求項3】
前記銀の担持量が1~15質量%である、請求項1又は2に記載の放射性ヨウ素吸着剤。
【請求項4】
ハイシリカゼオライトの内部に存在するヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させたハイシリカゼオライトに、銀を担持させる、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法であって、
前記ハイシリカゼオライトが、チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも何れかである、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
【請求項5】
500℃~700℃の熱処理により、前記ヒドロキシルネストを前記Si-O-Si結合に変化させる、請求項4に記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記ハイシリカゼオライトのSiO/Alモル比が2~100である、請求項4又は5に記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記銀の担持量が1~15質量%である、請求項4~6の何れかに記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
【請求項8】
原子力施設から排出される廃液に還元剤を添加して酸性溶液とする工程と、
前記酸性溶液を、請求項1~3の何れかに記載の放射性ヨウ素吸着剤へ通液させる工程を含む、放射性ヨウ素の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性条件下での使用に好適な放射性ヨウ素吸着剤に関し、具体的には、原子力施設から排出される廃液に還元剤を添加して酸性溶液とした廃液中から放射性ヨウ素を吸着除去する用途に好適な放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力関連施設(以下、原子力施設)において発生する廃液中には、種々の放射性物質が含まれ、排出に先立ってこれらを除去する必要がある。これらの放射性物質の中でも、放射性ヨウ素は、同位体の一つであるヨウ素129の半減期が約1570万年と長く、また人体に対しても甲状腺等に選択的に蓄積されやすいことから、完全に除去することが必要不可欠である。
【0003】
原子力施設で排出される廃液中に含まれる放射性ヨウ素の化学種は、主として、ヨウ素イオン(I-)とヨウ素酸イオン(IO-)の2種である。
ヨウ素イオンの吸着剤(以下、ヨウ素イオン吸着剤)としては、活性炭に銀を添着した銀添着活性炭や、A型ゼオライトやX型ゼオライトに銀を添着した銀ゼオライトが知られている。しかし、これらは何れも廃液中に存在するヨウ素酸イオンを除去することはできない。
一方、ヨウ素酸イオンの吸着剤(以下、ヨウ素酸イオン吸着剤)としては、酸化セリウムが知られている。しかし、酸化セリウムは吸着容量が小さく、また廃液中に存在するヨウ素イオンを除去することはできない。
【0004】
ヨウ素イオンとヨウ素酸イオンをまとめて除去する手法に関し、ヨウ素イオンとヨウ素酸イオンを含む水溶液中に還元剤を添加して、ヨウ素酸イオンをヨウ素イオンに還元させ、更に硝酸銀を添加することでヨウ化銀として沈殿させて処理するが提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1の手法では沈殿物として放射性物質を含む汚泥が発生するため、廃棄物処理上の問題があるs。
前記の硝酸銀に代えて、ヨウ素イオン吸着剤として従来一般に使用される銀添着活性炭や、A型ゼオライトやX型ゼオライトに銀を添着した銀ゼオライトを用いた場合、前記の放射性物質を含む汚泥の発生は回避できるが、前記還元剤の共存下においてヨウ素イオン吸着剤がヨウ素イオンを吸着する能力が低下する問題や、前記還元剤が共存する酸性条件下においてヨウ素イオン吸着剤が脆化しやすくなり、カラム等の吸着塔での通液時に目詰まりが生じやすくなるなどの問題が生じる。
【0005】
特許文献2は、ヨウ素イオン吸着剤として、ゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライト粒子を、還元剤を用いて還元処理してなるものを開示し、当該ヨウ素イオン吸着剤によれば、被吸着物質を含む水溶液に多価のカチオン原子、もしくは銀イオンよりも原子番号の大きいカチオン原子が存在した場合でも、それらのイオンと銀イオンの再交換による銀の溶出を回避することができることを教示している。
前記の硝酸銀に代えて、特許文献2に記載のヨウ素イオン吸着剤を用いた場合も、前記還元剤が共存する酸性条件下においてヨウ素イオン吸着剤が脆化しやすくなり、カラム等の吸着塔での通液時に目詰まりが生じやすくなるなどの問題が生じる。
【0006】
以上の理由から、従来、原子力施設で排出される廃液に含まれる放射性ヨウ素の除去において、還元剤によりヨウ素酸イオンをヨウ素イオンに還元させ、ヨウ素イオンとしてまとめて除去する方法を採用することはできず、ヨウ素イオン吸着剤とヨウ素酸イオン吸着剤の双方を使用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平05-126995号公報
【文献】特開2016-107213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであり、放射性ヨウ素を含む溶液中に還元剤を添加することによりヨウ素酸イオンをヨウ素イオンに還元させ、ヨウ素イオンとしてまとめて除去する用途に好適な放射性ヨウ素吸着剤であって、溶液中に還元剤が共存する酸性条件下においても、ヨウ素イオンを吸着する能力が低下せず高い吸着能力を有し、かつ、脆化が生じにくい放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
<放射性ヨウ素吸着剤>
〔1〕 ハイシリカゼオライトの内部に存在するヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させたハイシリカゼオライトに、銀を担持させてなり、前記ハイシリカゼオライトが、チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも何れかである、放射性ヨウ素吸着剤。
〔2〕 前記ハイシリカゼオライトのSiO/Alモル比が2~100である、〔2〕に記載の放射性ヨウ素吸着剤。
〔3〕 前記銀の担持量が1~15質量%である、〔3〕又は〔2〕に記載の放射性ヨウ素吸着剤。
<放射性ヨウ素吸着剤の製造方法>
〔4〕 ハイシリカゼオライトの内部に存在するヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させたハイシリカゼオライトに、銀を担持させる、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法であって、前記ハイシリカゼオライトが、チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも何れかである、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
〔5〕 500℃~700℃の熱処理により、前記ヒドロキシルネストを前記Si-O-Si結合に変化させる、〔4〕に記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
〔6〕 前記ハイシリカゼオライトのSiO/Alモル比が2~100である、〔4〕又は〔5〕に記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
〔7〕 前記銀の担持量が1~15質量%である、〔4〕~〔6〕の何れかに記載の放射性ヨウ素吸着剤の製造方法。
<放射性ヨウ素の処理方法>
〔8〕 原子力施設から排出される廃液に還元剤を添加して酸性溶液とする工程と、前記酸性溶液を、請求項1~3の何れかに記載の放射性ヨウ素吸着剤へ通液させる工程を含む、放射性ヨウ素の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射性ヨウ素を含む水溶液中に還元剤を添加することによりヨウ素酸イオンをヨウ素イオンに還元させ、ヨウ素イオンとしてまとめて除去する用途に好適な放射性ヨウ素吸着剤であって、被吸着物質であるヨウ素イオンを含む溶液中に還元剤が共存する酸性条件下においても、ヨウ素イオンを吸着する能力が低下せず高い吸着能力を有し、かつ、脆化が生じにくい放射性ヨウ素吸着剤、放射性ヨウ素吸着剤の製造方法及び放射性ヨウ素の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サンプル3の脆弱性評価結果を示す写真である。
図2】サンプル4、5、9、11を用いたヨウ素吸着特性評価の結果を示すグラフである。
図3】サンプル11、19を用いたヨウ素吸着特性評価の結果を示すグラフである。
図4】サンプル11、19を用いた差圧評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表す。また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0013】
<放射性ヨウ素吸着剤及びその製造方法>
本発明の放射性ヨウ素吸着剤は、ハイシリカゼオライトの内部に存在するヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させたハイシリカゼオライトに、銀を担持させてなり、前記ハイシリカゼオライトが、チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも何れかである。
本発明において、ハイシリカゼオライトとはSiO/Alモル比が2.0超のゼオライトを意味する。
SiO/Alモル比が2.0のゼオライトの結晶格子では、SiとAlが交互に並び、SiとSiの間にAlが存在しているが、SiO/Alモル比が2.0超のゼオライトの結晶格子では、SiとSiの間にAlが存在しない箇所(以下、ヒドロキシルネスト)が存在する。ヒドロキシルネストは格子欠損であり、ハイシリカゼオライトの耐久性を低下させる。
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、内部にヒドロキシルネストが存在するハイシリカゼオライトに熱処理を施すことにより前記ヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させ耐久性を向上させることができ、その熱処理により前記ヒドロキシルネストをSi-O-Si結合に変化させた後に、銀を担持させて得た放射性ヨウ素吸着剤は、被吸着物質であるヨウ素イオンを含む溶液中に還元剤が共存する酸性条件下においても、ヨウ素イオンを吸着する能力が低下せず高い吸着能力を有し、かつ、脆化が生じにくいことを見出し、本発明を完成させた。
前記熱処理は、500℃~700℃で20分~90分の熱処理であることが好ましく、550℃~650℃で20分~60分の熱処理であることがより好ましく、600℃~650℃で30分~50分の熱処理であることが更に好ましい。
【0015】
放射性ヨウ素吸着剤の基材として用いるハイシリカゼオライトは、SiO/Alモル比が2~100であることが好ましく、2~50であることがより好ましく、2~20であることがさらに好ましい。SiO/Alモル比が低いほど担持できる銀の量が増加し、ヨウ素イオンを吸着する能力を高めることができるが、一方で、耐酸性が低下し、水溶液中に還元剤が共存する酸性条件下において脆化が生じやすくなる。SiO/Alモル比を前記範囲とすることで、水溶液中に還元剤が共存する酸性条件下においても、ヨウ素イオンを吸着する能力が低下せず高い吸着能力を有し、かつ、脆化が生じにくい放射性ヨウ素吸着剤を実現することができる。
【0016】
放射性ヨウ素吸着剤の基材として用いるハイシリカゼオライトは、合成品に限定されるものでなく天然品であっても良い。
【0017】
放射性ヨウ素吸着剤においてハイシリカゼオライトに担持される銀の量(以下、担持量ともいう)は、放射性ヨウ素吸着剤の総質量に対して、1~15質量%であることが好ましく、3~12質量%であることがより好ましい。銀の担持量が多いほど、ヨウ素イオンを吸着する能力を高めることができるが、一方で、被吸着物質であるヨウ素イオンを含む溶液の通液時に、遊離したヨウ化銀が生じやすくなり、通液時にカラム等の吸着塔で目詰まりを生じやすくなる。銀の担持量を前記範囲とすることで、前記の目詰まりを回避しつつ、ヨウ素イオンを吸着する能力を十分なレベルで確保することができる。
【0018】
放射性ヨウ素吸着剤の形状は特に限定されないが、カラム等の吸着塔に充填して使用することから、粒状または棒状の成型体であることが好ましい。
【0019】
放射性ヨウ素吸着剤の粒径は、0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。放射性ヨウ素吸着剤の粒径を0.1mm以上とすることで、吸着塔に充填し通水した際の抵抗が過度に大きくならず、高い通液性を確保することができる。放射性ヨウ素吸着剤の粒径を5.0mm以下とすることで、吸着塔に充填された放射性ヨウ素吸着剤の外表面積の増大に起因する吸着速度の低下を回避することができ、ヨウ素イオンを吸着する能力を十分なレベルで確保することができる。
【0020】
<放射性ヨウ素の処理方法>
本発明の放射性ヨウ素吸着剤は、原子力施設で排出される廃液中に含まれる放射性ヨウ素であるヨウ素イオンとヨウ素酸イオンの吸着除去に好適に用いることができる。
本発明の放射性ヨウ素吸着剤を用いた放射性ヨウ素の処理方法は、原子力施設から排出される廃液に還元剤を添加して酸性溶液とする工程(以下、還元剤添加工程)と、前記酸性溶液とした廃液を、前記放射性ヨウ素吸着剤へ通液させる工程(以下、通液工程)を含む。
【0021】
還元剤添加工程では、還元剤によりヨウ素酸イオン(IO )が還元されヨウ素イオン(I)となる。
還元剤添加工程で使用する還元剤は、ヨウ素酸イオンを還元できる還元剤であればよく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム(SMBS)、L-アスコルビン酸(ビタミンC)等が挙げられる。中でも、ヨウ素吸着量及び有害性による廃液処理の観点から、L-アスコルビン酸が好ましい。
【0022】
通液工程では、酸性溶液中に含まれるヨウ素イオンが、前記放射性ヨウ素吸着剤により吸着除去される。
【実施例
【0023】
<試験用サンプルの準備_サンプル1~15(比較例)、サンプル16~19(実施例)>
試験用サンプルを下記表1の条件で準備した。
銀担持前熱処理「有」のサンプルは、銀を担持する前のゼオライトに、600℃で30分間の熱処理を行った。当該熱処理を、下記の各測定前の加熱処理(銀担持後の加熱処理)と区別して、以下「銀担持前熱処理」という。
銀担持量は、蛍光X線測定装置(島津製作所製XRF-1700)を用いて測定した。銀担持量の測定前の前処理として、全サンプル(サンプル1~19)に、550℃で1時間の加熱処理を行った。
【0024】
【表1】
【0025】
<サンプル1~3を用いた脆弱性評価>
i. 溶液調製
中性の人工海水(富田製薬製マリンアートSF-1をイオン交換水に溶解)にヨウ素酸カリウムとL-アスコルビン酸と塩酸をそれぞれ下記濃度になるように添加した。
Cl=900質量ppm(サンプル1~3の脆弱性評価用溶液)
L-アスコルビン酸=0質量ppm(サンプル1の脆弱性評価用溶液)、5000質量ppm(サンプル2、3の脆弱性評価用溶液)
pH=3~4
ii. 脆弱性評価
iで調整した各溶液250gに対し、各サンプルを0.5g添加した。添加して6日経過後、各サンプルの外観の観察及び組成分析を行い、脆弱性を評価した。
脆弱性評価の結果を下記表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
サンプル1:酸性溶液中にL-アスコルビン酸を添加せず、A型ゼオライトに銀を担持した場合、A型ゼオライトの外観に変化は生じず、脆化は確認されなかった。
サンプル2:酸性溶液中にL-アスコルビン酸を添加し、A型ゼオライトに銀を担持しなかった場合、A型ゼオライトの外観に変化は生じず、脆化は確認されなかった。
サンプル3:酸性溶液中にL-アスコルビン酸を添加し、A型ゼオライトに銀を担持した場合、図1に示すように、A型ゼオライトに孔、クラック、粉化等の脆化が確認された。
【0028】
<サンプル4~11を用いたSiO/Alモル比測定及び脆弱性評価>
各サンプルのSiO/Alモル比は、蛍光X線測定装置(島津製作所製XRF-1700)によって測定したSiとAlとの質量比率を、検量線を用いて定量し、SiO/Alモル比を算出した。蛍光X線測定装置(島津製作所製XRF-1700)による測定前の前処理として、全サンプル(サンプル4~11)に、575℃で1時間の加熱処理を行った。
i. 溶液調製
中性の人工海水(富田製薬製マリンアートSF-1をイオン交換水に溶解)にヨウ素酸カリウムとL-アスコルビン酸と塩酸をそれぞれ下記濃度になるように添加した。
Cl=900質量ppm(サンプル4~11の脆弱性評価用溶液)
L-アスコルビン酸=5000質量ppm(サンプル4~11の脆弱性評価用溶液)
pH=3~4
ii. 脆弱性評価
iで調整した各溶液250gに対し、各サンプルを0.5g添加した。添加して6日後、各サンプルの外観の観察及び組成分析を行い、脆弱性を評価した。
SiO/Alモル比測定の結果及び脆弱性評価の結果を下記表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
サンプル4~11の全てにおいて、還元剤(L-アスコルビン酸)を含む溶液を添加して6日後に、SiO/Alモル比が高くなり、溶液中での脱Alが生じていることが確認された。評価前のSiO/Alモル比が高いほど組成の変化は少なく、酸性領域ではハイシリカ型のゼオライトの方が、比較的耐久性がある事が確認されたが、いずれのゼオライトも成形体表面にも、図1と同様の孔、クラック、粉化等の脆化が確認された。表3の結果から、サンプル4~11は、何れも、還元剤を添加した酸性溶液中での使用には適さない事が確認できる。
【0031】
<サンプル12~19を用いたSiO/Alモル比測定及び脆弱性評価>
各サンプルのSiO/Alモル比は、蛍光X線測定装置(島津製作所製XRF-1700)によって測定したSiとAlとの質量比率を、検量線を用いて定量し、SiO/Alモル比を算出した。蛍光X線測定装置(島津製作所製XRF-1700)による測定前の前処理として、全サンプル(サンプル12~19)に、575℃で1時間の加熱処理を行った。
i. 溶液調製
中性の人工海水(富田製薬製マリンアートSF-1をイオン交換水に溶解)にヨウ素酸カリウムとL-アスコルビン酸と塩酸をそれぞれ下記濃度になるように添加した。
Cl=900質量ppm(サンプル4~11の脆弱性評価用溶液)
L-アスコルビン酸=5000質量ppm(サンプル4~11の脆弱性評価用溶液)
pH=3~4
ii. 脆弱性評価
iで調整した各溶液250gに対し、各サンプルを0.5g添加した。添加して6日後、各サンプルの外観の観察及び組成分析を行い、脆弱性を評価した。
SiO/Alモル比測定の結果及び脆弱性評価の結果を下記表4に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
サンプル12~19は、サンプル4~11と、銀担持前熱処理(銀の担持前、600℃で30分間の熱処理)の有無においてのみ条件が異なる。サンプル4~11では、前記のように全てのサンプルにおいて、ゼオライトの成形体表面に孔、クラック、粉化等の脆化が確認されたが、サンプル12~15でも同様の結果が観察されたが、「チャバサイト(CHA)型ゼオライト、モルデナイト(MOR)型ゼオライト、クリノプチロライト(CLP)型ゼオライからなる群から選択される少なくとも何れかである」ゼオライトを用いたサンプル16~19では、SiO/Alモル比がほぼ変化せず、溶液中での脱Alが生じていないことが確認された。サンプル12~15では、いずれのゼオライトも成形体表面にも、孔、クラック、粉化等の脆化は確認されなかった。表3の結果から、サンプル12~15は、何れも、還元剤を添加した酸性溶液中での使用には適さない事、及び、サンプル12~15は、何れも、還元剤を添加した酸性溶液中での使用に適していることが確認できる。
【0034】
<サンプル4、5、9、11を用いたヨウ素吸着特性評価>
i. 溶液調製
人工海水(富田製薬製マリンアートSF-1をイオン交換水に溶解)にヨウ化ナトリウムとL-アスコルビン酸と塩酸をそれぞれ下記濃度になるように添加した。
Cl=900質量ppm
I=0.2質量ppm
L-アスコルビン酸=30質量ppm
pH=3.5
ii. ヨウ素吸着試験
直径1cmのカラムに、各サンプルを5cm充填させた。続いて、iで調整した溶液を、チューブポンプを用いて空間速度15m/hrの流量でカラムに通液させた。カラム出口側の液を適時サンプリングし、液中のヨウ素含有量をICP-MSにより定量した。
カラム通液前の溶液中のIの濃度(C)とカラム出口側のIの濃度(C)の比C/Cを用いて、通液時間に対するC/Cを求めた。
評価結果を図2に示す。
【0035】
モルデナイトに銀を担持したサンプル(サンプル9)及びチャバサイトに銀を担持したサンプル(サンプル11)は、A型ゼオライトに銀を担持したサンプル(サンプル4)、X型ゼオライトに銀を担持したサンプル(サンプル5)と比較して、C/Cが長期間0.03以下を維持しており、ヨウ素の吸着寿命が長いことが確認されたが、20日以降では、サンプル9及びサンプル11でもC/Cが上昇し、吸着性能の低下が認められた。
【0036】
<サンプル11、19を用いたヨウ素吸着特性評価及び差圧評価>
i. 溶液調製
人工海水(富田製薬製マリンアートSF-1をイオン交換水に溶解)にヨウ化ナトリウムとL-アスコルビン酸と塩酸をそれぞれ下記濃度になるように添加した。
Cl=900質量ppm
I=0.2質量ppm
L-アスコルビン酸=30質量ppm
pH=3.5
ii. ヨウ素吸着特性評価及び差圧評価
直径1cmのカラムに、各サンプルを80cm充填させ、カラム入口側に圧力計を設置した。続いて、iで調整した溶液を、チューブポンプを用いて空間速度45m/hr(流速2.83L/h)でカラムに通液させ、適時圧力計の圧力を読み取った。さらに、カラム出口側の液を適時サンプリングし、液中のヨウ素含有量をICP-MSにより定量した。
カラム通液前の溶液中のIの濃度(C)とカラム出口側のIの濃度(C)の比C/Cを求めた結果を図3に示す。
また通液時の圧力(P)と通液開始時の圧力(P)の差(P-P)を差圧上昇として求めた結果を図4に示す。
【0037】
図3に示すように、サンプル11、19は何れも、通液期間が20日間の範囲ではC/Cの上昇が認められず、C/Cが0.1以下を維持しており、優れたヨウ素吸着性能を有することが確認された。
20日以降、銀担持前熱処理「無」のサンプル11(銀を担持する前のゼオライトに、600℃で30分間の熱処理を施していないサンプル)では、C/Cが上昇し、吸着性能の低下が認められたが、銀担持前熱処理「有」のサンプル19(銀を担持する前のゼオライトに、600℃で30分間の熱処理を施したサンプル)では、通液期間が60日間の範囲でもC/Cの上昇が認められず、ヨウ素吸着性能の低下が生じないことが確認された。
【0038】
図4に示すように、銀担持前熱処理「無」のサンプル11では、差圧評価条件(2.83L/h)で通液した場合、10日経過後から徐々に差圧が大きくなり、40日を経過すると更に差圧が大きくなることが確認された。一方、銀担持前熱処理「有」のサンプル19では、60日を経過しても差圧の上昇は認められず、還元剤を添加した酸性条件下での長期使用に耐え得ることが確認された。
【0039】
本発明の実施例であるサンプル19は、還元剤を添加した酸性条件下での使用においても、孔、クラック、粉化等の脆化が発生せず、比較例であるサンプル11と比較して、通液時に差圧が上昇しにくく、通液可能な日数が長いことが確認された。これは、本発明の実施例であるサンプル19では、通液時の目詰まりの要因となる、剤の脆化や過剰なAgIの析出が抑えられた影響だと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の放射性ヨウ素吸着剤は、還元剤が添加されて酸性溶液となった廃液中から、安定的にヨウ素イオンを吸着することができる。このため、ヨウ素酸イオンとヨウ素イオンが共存する放射性廃液の処理において、放射性ヨウ素を含む水溶液中に還元剤を添加することによりヨウ素酸イオンをヨウ素イオンに還元させ、ヨウ素イオンとしてまとめて除去する用途に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4