(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】多成分ガラス成型品、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/02 20060101AFI20241023BHJP
C03B 5/182 20060101ALI20241023BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20241023BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C03B19/02 Z
C03B5/182
C03C3/062
C03C3/095
(21)【出願番号】P 2021070926
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英昭
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀春
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504563(JP,A)
【文献】特開2014-055100(JP,A)
【文献】特開2008-044838(JP,A)
【文献】特開2017-119602(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101838099(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0010199(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00-5/44,19/02,
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解部、混合部および成型部を有する成型装置を用いて多成分ガラス成型品を製造する方法であって、
(1)溶解部に多成分ガラスの原料混合粉を供給し、供給した原料混合粉を、原料混合粉組成の融点以上の温度で加熱して、原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体を得る工程、
(2)得られた融解前駆体を、工程(1)より高い温度に加熱して融解液を得る工程、
(3)融解液を、混合部を介して成型部に供給する工程、及び
(4)成型部に供給した融解液を冷却して成型部の内部形状を反映した多成分ガラス成型品を得る工程を含み、
前記成型装置は、平面形状が略円形であり、外形が外周筒体及び底板で構成され、外周筒体及び底板で構成される装置内に、溶解部となる溶解室、混合部となる混合室及び成形部となる成形室を有し、混合室の内径は、溶解室の内径と実質的に同一であり、
溶解室は、上部の一部又は全部が開放口であり、前記外周筒体の内側周面及び底面を有し、底面は、混合室を構成する最上層のプレートの上面であり、この最上層のプレートは混合室に繋がる貫通孔を有し、
混合部は、単一または複数の貫通孔を有するプレートを流れ方向に2層以上有し、隣り合うプレートの間にはスペーサーがそれぞれ設けられ、一のプレートに設けられた貫通孔は、隣接する他のプレートに設けられた貫通孔と実質的に対向しない位置関係で設置される混合室を有し、かつ融解液が
前記プレートの貫通孔を流通することで混合される構造を有
し、
工程(1)の加熱、工程(2)の加熱及び工程(4)の冷却は、成形装置を一体として操作する、
多成分ガラス成型品の製造方法。
【請求項2】
多成分ガラスは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)と、周期表第2族元素、第3族元素及び第4族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素(M)と、を含有する多成分ガラスである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
多成分ガラスは、SiO
2、Al
2O
3及びY
2O
3を含有する3成分ガラスであり、工程(1)における加熱温度は1350℃以上であり、工程(2)における加熱温度は、1600℃以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(2)及び(3)における融解液の温度は、融解液の粘度η(Pa・s)とした際に、logηが1.
5以上となる温度である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(2)及び(3)における融解液の温度は、融解液の粘度η(Pa・s)とした際に、logηが-0.
5以下となる温度である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
多成分ガラス成型品は、管状、柱状または平板状である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
多成分ガラス成型品は、日本光学硝子規格における気泡および異物の等級はそれぞれ1等級または2等級である多成分ガラス成型品である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分ガラス成型品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では生産性向上のため、高密度プラズマ環境下でもプラズマ耐性に優れ、繰り返し使用においても腐食の少ない、プラズマ耐性を有する多成分ガラスが使用されている。多成分ガラスは、石英(SiO2)にアルミナ(Al2O3)やイットリア(Y2O3)などを添加したガラスである。多成分ガラスの製造方法としては、例えば、電気溶融法、プラズマ溶融法、酸水素炎溶融法などが知られている(特許文献1~5)。
【0003】
これらの方法では、ガラス原料粉末を溶融して、ガラスインゴット(塊)などが製造される。ガラスインゴット(塊)は、研削・研磨などの加工工程を経て所定の形状の多成分ガラス製品が提供される(特許文献1、2)。多成分ガラス製品の形状によっては、所定の形状の鋳型内で原料粉末を溶融し、所定の形状に成型した多成分ガラス製品が得られる(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-356337号公報
【文献】特開2002-356338号公報
【文献】特開2002-356345号公報
【文献】特開2003-292337号公報
【文献】特開2004-284828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、原料となる混合粉末をプラズマ火炎中で溶融してガラスインゴットを得る方法が開示されている。この方法では、運転中に混合粉末が供給管内で閉塞する等により運転が不安定となり、層状の気泡が発生し、あるいは炉内の煉瓦からの異物混入する課題が有る。この方法ではインゴットは製造できるが、例えば、リング形状のような複雑な形状の成型品を直接製造することは困難である。そのため、インゴットを成型品に加工する必要があり、加工において多量のガラスを研削・研磨することから、材料の歩留が低いという問題もある。
【0006】
特許文献2には、酸水素バーナーを用いて原料粉末を溶解してガラスインゴットを得る方法が開示されている。この方法では、得られるガラスが微泡(~φ0.5)を含み、脱泡が困難である。また、特許文献1に記載の方法と同様に、リング形状のような複雑な形状の成型品の製造は困難なため、材料の歩留が低いという問題もある。
【0007】
特許文献3および4には、カーボンモールド内に原料粉末を充填し、これを電気炉で減圧溶融して、モールドの内部形状に対応するガラスインゴット又は成型品を得る方法が開示されている。但し、リング形状のような複雑な形状の成型品の製造例の記載はない。特許文献3および4に記載の熱処理条件に従って追試をし、多成分ガラスを調製したところ、気泡:~φ0.3(局部的な集合気泡の残存)や異物:~φ1が残存することが、課題として明らかとなった。
【0008】
特許文献5には、製造方法の具体的な条件等の記載はない。
【0009】
まとめると、特許文献1および2に記載の製造方法は、品質、歩留の観点から適さない方法であった。特許文献3と4に記載の製造方法では、得られる多成分ガラスにおいて泡・異物が多く、品質に課題があった。
【0010】
最近、半導体製造装置に用いる耐プラズマ材料は、部品の高品位化、薄肉化を受けて、欠陥の少ない部材が要求されている。本発明は、こうした背景から耐プラズマガラス中の欠陥(泡・異物)を低減した多成分ガラス成型品を、製品歩留を向上しつつ、製造できる方法を提供することを目的とする。さらには、本発明は、従来にない程度に欠陥(泡・異物)を低減した、優れた耐プラズマ性を有する多成分ガラス成型品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]
溶解部、混合部および成型部を有する成型装置を用いて多成分ガラス成型品を製造する方法であって、
(1)溶解部に多成分ガラスの原料混合粉を供給し、供給した原料混合粉を、原料混合粉組成の融点以上の温度で加熱して、原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体を得る工程、
(2)得られた融解前駆体を、工程(1)より高い温度に加熱して融解液を得る工程、
(3)融解液を、混合部を介して成型部に供給する工程、及び
(4)成型部に供給した融解液を冷却して成型部の内部形状を反映した多成分ガラス成型品を得る工程を含み、
混合部は、融解液が流通することで混合される構造を有する、
前記製造方法。
[2]
多成分ガラスは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)と、周期表第2族元素、第3族元素及び第4族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素(M)と、を含有する多成分ガラスである、[1]に記載の製造方法。
[3]
多成分ガラスは、SiO2、Al2O3及びY2O3を含有する3成分ガラスであり、工程(1)における加熱温度は1350℃以上であり、工程(2)における加熱温度は、1600℃以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
工程(2)及び(3)における融解液の温度は、融解液の粘度logηが1.5Pa・sである温度以上の温度である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
工程(2)及び(3)における融解液の温度は、融解液の粘度logηが-0.5Pa・sである温度以下の温度である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
多成分ガラス成型品は、管状、柱状または平板状である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
日本光学硝子規格における気泡および異物の等級はそれぞれ1等級または2等級である多成分ガラス成型品。
[8]
形状が管状、柱状または平板状である、[7]に記載の多成分ガラス成型品。
[9]
多成分ガラスは、アルミニウム(Al)と、周期表第2族元素、第3族元素及び第4族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素(M)と、を含有する石英(SiO2)ガラスである、[7]または[8]に記載の多成分ガラス成型品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気泡及び異物がきわめて少ない優れた品質の多成分ガラス成型品を製造できる。この多成分ガラス成型品は、気泡及び異物がきわめて少ないことから耐プラズマ性に優れる。
【0013】
本発明においては、原料混合粉を融解及び成型する過程で各過程に適した3室構造(溶解室、混合室、成型室)を有する成型装置を用い、かつ溶解室における原料混合粉の融解条件を制御し、得られた融解液を混合室で混合して均質性を上げ、さらに、成型室に至るまでの融解液からの脱泡を促進することで、気泡及び異物がきわめて少ない優れた品質の多成分ガラス成型品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の成型装置の一態様を示す側面断面概略説明図である。
【
図2】混合室用の貫通孔を有するプレートの一態様の平面図である。
【
図3】混合室用の貫通孔を有するプレートの一態様の平面図(上図)及び断面図(下図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<多成分ガラス成型品の製造方法>
本発明の一の態様は、溶解部、混合部および成型部を有する成型装置を用いて多成分ガラス成型品を製造する方法に関する。本発明の製造方法は、
(1)溶解部に多成分ガラスの原料混合粉を供給し、供給した原料混合粉を、原料混合粉組成の融点以上の温度で加熱して、原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体を得る工程、
(2)得られた融解前駆体を、工程(1)より高い温度に加熱して融解液を得る工程、
(3)得られた融解液を、混合部を介して成型部に供給する工程、及び
(4)成型部に供給した融解液を冷却して成型部の内部形状を反映した多成分ガラス成型品を得る工程を含む。
さらに上記混合部は、融解液が流通することで混合される構造を有する。
【0016】
本発明の製造方法に用いる成型装置は、溶解部、混合部および成型部を有する。この成型装置において、
溶解部は、供給した多成分ガラスの原料混合粉を溶解して融解液を得るための溶解室を有し、溶解室の内壁の少なくとも一部は剥離材で覆われており、
混合部は、融解液が流通することで混合される構造を有し、
成型部は、内部形状の少なくとも一部が多成分ガラス成型品の外部形状に相当する形状であり、かつ融解液を任意で脱泡し、次いで冷却して多成分ガラス成型品を得るための成型室を有し、成型室の内壁の少なくとも一部は剥離材で覆われている。
【0017】
以下、成型装置について、説明し、次いで製造方法について説明する。
図1に成型装置の一態様を示す側面断面概略説明図である。
図1に示す成型装置の平面形状は略円形である。図中、1は中実体、2は上蓋、3は外周筒体、4は剥離材、5は底板、6は貫通孔を有するプレート、7はプレートの間の距離を決定するスペーサーをそれぞれ示す。成型装置全体の外形は、外周筒体3及び底板5で構成され、その内側に剥離材4が設けられ、装置の内面を形成する。
【0018】
溶解部は、供給した多成分ガラスの原料混合粉を溶解するための溶解室10を有する。溶解室10は、円筒形であり、底面及び内側周面を有し、内側周面は、剥離材4で覆われており、剥離材4は少なくとも原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体および融解液と接触する部分に設ける。底面は、後述する混合室20を構成する最上層のプレート6aの上面であり、この最上層のプレート6aは貫通孔を有し、貫通孔は混合室20に繋がる連絡孔となる。溶解室10の上部は、原料を供給するために一部又は全部が開放口であり、
図1の装置では、開放口に上蓋2を有する。溶解室10は図示しない加熱装置及び温度センサーを備える。
【0019】
混合部は、溶解部において原料混合粉が融解して得られた融解液が流通することで混合される構造を有する混合室20を有する。混合室20の内径は、溶解室10の内径と実質的に同一であり、混合室20の内側周面は、剥離材4で覆われ、最上層のプレート6aにより、溶解室10と混合室20とが区画されている。混合室20内には、単一または複数の貫通孔を有するプレートを縦方向に2層以上有する。
図1の装置では、6a、6b及び6cの3層のプレートが設けられ、隣り合うプレートの間にはスペーサー7がそれぞれ設けられ、プレートの間の距離を決定する。一のプレートに設けられた貫通孔は、隣接する他のプレートに設けられた貫通孔と実質的に対向しない位置関係で設置される。そうすることで、混合室20内を融解液が流通ときに混合が促進される。混合室20は、図示しない加熱装置及び温度センサーを備えることができる。
図2、3に、貫通孔を有するプレートの平面形状の例を示す。
【0020】
図2に示すプレートは、直径r1の略円板状であり、外周縁に長さL1、深さL2の切欠きを1又は2以上有する。直径r1は、混合室20の内径に相当する。この切欠きがプレートの貫通孔を形成する。一のプレートに4箇所の切欠きを設ける場合、切欠きの長さL1がプレートの全外周縁長の1/8以下であれば、複数のプレートを例えば、45°毎にローテーションして複数層設けることで、一のプレートに設けられた貫通孔は、隣接する他のプレートに設けられた貫通孔と実質的に対向しない位置となる。各プレートの切欠きの位置関係をこのように設定した混合室20を、融解液が流通することで、融解液の混合は促進される。所謂、スタティックミキサーの構造となる。切欠きの形状、寸法及び設置数は、融解液の粘度や混合室20内に設置するプレートの枚数、混合により得られる融解液の均質性等を考慮して適宜決定できる。1つのプレートにおける切欠きの設置数は、例えば、1~10、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。
【0021】
図3に示すプレートは、略円板状であり、略円板状の直径は、混合室20の内径に相当する。外周縁近くに直径r2の略円形の貫通孔を1又は2以上有する。
図3のプレートは、4個の貫通孔を有し、上下に隣接するプレート6a、6b、6cは、45°にずらしてローテーションしてあり、平面図には最上層のプレート6aの4つの貫通孔を実線で示し、その下のプレート6bの貫通孔を破線で示す。各プレートと貫通孔との位置関係をA-C断面及びB-D断面に示す。各プレートに設ける貫通孔の直径r2を調整することで、一のプレートに設けられた貫通孔は、隣接する他のプレートに設けられた貫通孔と実質的に対向しない位置に設けることができる。これらのプレートを設けた混合室20を溶解した多成分ガラスが流通することで、融解液の混合は促進される。貫通孔の個数、貫通孔の寸法及び設置数は、融解液の粘度や混合室20内に設置するプレートの枚数、混合により得られる融解液の均質性等を考慮して適宜決定できる。1つのプレートにおける貫通孔の設置数は、例えば、1~10、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。
【0022】
成型部は、目的とする成型品の形状に応じた内部形状を有する成型室30を有し、
図1に示す成型室30は、管状(パイプ状)又はシリンダー状の成型品を成型するように管状成型品の中空を形成するための中実体を有する内部形状を有する。底面、外周面及び内周面を有する。底面、外周面及び内周面は、剥離材4で覆われる。内周面を覆う剥離材は、中実体1の外周面に固定される。成型室30の上部は、少なくとも一部が開放口であり、混合室20に繋がる。
図2に示す混合部用のプレートの最下層のプレートが有する貫通孔(切欠き)が、成型室30の上部の開放口と対向し、貫通孔(切欠き)から成型室30内に混合室20で混合された融解液を流入させる構造を有する。
図3に示す混合部用のプレートの場合も、最下層のプレート6cが有する貫通孔が、成型室30の上部の開放口と対向し、貫通孔から成型室30内に混合室20で混合された融解液を流入させる構造を有する。成型室30は図示しない加熱装置及び温度センサーを備える。
【0023】
図1に示す成型装置は、溶解部、混合部及び成型部を一体とした成型装置であるが、これらは別の構造とすることも可能である。
【0024】
以下、製造方法について説明する。
工程(1)
(1)溶解部に多成分ガラスの原料混合粉を供給し、供給した原料混合粉を、原料混合粉組成の融点以上の温度で加熱して、原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体を得る。
【0025】
多成分ガラスは、特に制限はなく、例えば、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)と、IUPAC形式での周期表第2族元素(アルカリ土類金属)、第3族元素(希土類)及び第4族元素(チタン族)からなる群より選ばれる1種以上の元素(M)と、を含有する多成分石英(SiO2)ガラスであることができる。周期表第2族元素(アルカリ土類金属)は、例えば、Mg、Ca、Sr、Baであり、第3族元素(希土類)は、Sc、Y、Laなどであり、第4族元素(チタン族)は、Ti、Zr、Hfなどである。多成分ガラスの原料は、所望の組成を有する混合粉であることができ、上記元素の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などであることができ、粉末原料は既存の原料をそのまま使用できる。混合粉末の組成についても特に制限はない。但し、純度の高い多成分ガラスを得るという観点からは、酸化物を用いることが好ましく、不純物含有量の低い酸化物原料を用いることが特に好ましい。粉末原料の粒子径には特に制限はないが、例えば、0.1~1000μmの範囲の任意の粒子径の粉末を用いることができる。
【0026】
多成分ガラスの具体例は、SiO2、Al2O3及びY2O3を含有する3成分ガラスであることができる。これら酸化物の混合粉を多成分ガラス原料として用いることができ、各酸化物の融点は、SiO2が1710℃、Al2O3が2072℃、Y2O3が2425℃である。但し、上記3成分ガラスの融点は、組成により約1300~1500℃であり、かつ透明なガラスが得られる組成領域がある(日本金属学誌 第67巻 第1号(2003)40-46、Fig.2参照)。本発明では、多成分ガラスの成型品を得るために上記透明なガラスが得られる組成領域であり、かつ比較的融点の低い組成領域を選択し、その組成領域にある混合粉を、原料混合粉組成の融点以上の温度で加熱して原料混合粉の少なくとも一部が融解した融解前駆体を得る。この加熱により、原料粉末の少なくとも一部は反応してガラス又はガラス前駆体である融解前駆体を形成する。但し、原料粉末の反応が急激に進行して、ガラス中に異物や泡が多量に生じることを抑制する目的で、加熱温度は、融解前駆体の粘度logηが1.5Pa・sとなる温度未満の温度とすることが好ましい。融解前駆体の粘度logηが1.5Pa・sとなる温度は、原料粉末の組成により決まる。上記3成分ガラスの場合、この粘度範囲を示す温度の目安は、1350~1600℃、好ましくは1400~1550℃の範囲である。この温度域における加熱により、原料混合粉は反応をしつつ、粘度logηが1.5Pa・sより大きい値を示す融解前駆体を得ることができる。融解液を得る前に、この融解前駆体を形成する工程を経ることが、溶解室内の剥離材とガラス原料との不要な反応による泡の発生を抑制するという観点から好ましい。
【0027】
工程(1)においては、原料粉同士が反応して、互いに結合し、さらには溶融すると考えられ、その際に粒子間に気体を巻き込み、後の工程で融解液中における泡となる。加熱温度を低めに設定することで脱泡すべき泡の量を減少させて、泡品質を向上するという観点から、工程(1)の反応時の泡の混入を抑制することが好ましい。
【0028】
工程(2)
工程(1)で得られた融解前駆体を、工程(1)より高い温度に加熱して融解液を得る。加熱温度は、融解液の粘度logηが1.5Pa・sである温度以上の温度とすることが、融解液からの脱泡促進と、次の工程における混合部を介しての成型部への供給が容易になるという観点から好ましい。加熱温度は、融解液の粘度logηが0.5Pa・sである温度以上であることがより好ましい。溶解液の粘度が低すぎると流下の速度が増し次の工程での混合が困難になるため、加熱温度は、粘度は-0.5Pa・sとなる温度以下が好ましい。粘度が-0.1Pa・sとなる温度以下がより好ましい。上記3成分ガラスの場合、加熱温度は、例えば、1550~1800℃、好ましくは1600~1750℃の範囲とすることができる。
【0029】
工程(3)
融解液を、混合部を介して成型部に供給する。混合部は、融解液が流通することで混合される構造、具体的には上記のように所謂、スタティックミキサーの機能を有し、混合部を流通することで、混合され、均一化する。融解液の温度は、工程(2)と同一であることができ、融解液の混合と均一化が促進されるという観点及び融解液からの脱泡が容易であるという観点からは、融解液の粘度logηが1.5Pa・sである温度以上の温度範囲であることが好ましい。加熱温度は、融解液の粘度logηが0.5Pa・sである温度以上であることがより好ましい。溶解部から混合部を介して成型部に融解液が供給されるに要する時間は、融解液の量、混合部の構造されに融解液の粘度などにより変化する。融解液の供給の間に、融解液からの脱泡が進み泡品質を向上することができるので、所望の泡品質を考慮して供給完了までの時間を決定することもできる。
【0030】
成型部に供給された融解液は、十分に溶解され、原料粉末に比べて反応性は低くなっているため、高い温度であっても成型室の内壁を構成する剥離材との反応は抑制でき、泡の減少及び異物混入の抑制が可能である。
【0031】
工程(4)
成型部に供給した融解液を冷却して成型部の内部形状を反映した多成分ガラス成型品を得る。融解液の冷却は、成型装置を、冷却速度を制御しつつ放冷するなどして実施できる。工程(2)及び(3)において融解液からの脱泡は進み、成型部に供給された融解液からも順次脱泡が進むことが効率的な脱泡という観点からは好ましい。
【0032】
本発明の装置を用いるガラス成型品の製造は、バッチ式で行うことも連続式で行うこともできる。連続式の場合、同一のガラス組成で、異なる形状及び寸法の成型部を用いることで、異なる形状の成型品を連続的に製造することも可能である。
【0033】
本発明の装置及び方法を用いることで、日本光学硝子規格における気泡および異物の等級はそれぞれ1等級または2等級である多成分ガラス成型品を得ることができる。本発明は、日本光学硝子規格における気泡および異物の等級はそれぞれ1等級または2等級である多成分ガラス成型品を包含する。本発明の多成分ガラス成型品は、形状が管状、柱状または平板状であることができる。多成分ガラス成型品を構成する多成分ガラスは、例えば、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)に加えて、周期表第2族元素、第3族元素及び第4族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素(M)を含有する多成分ガラスであることができる。多成分ガラス成型品を構成する多成分ガラスは、SiO2、Al2O3及びY2O3を含有する3成分ガラスであることができる。SiO2、Al2O3及びY2O3を含有する3成分ガラスは、例えば、SiO2 20~60wt%、Al2O3 10~50wt%、Y2O3 20~60wt%の組成範囲のガラスであることができ、好ましくはSiO2:27.5~43.3 wt%、Al2O3:18.3~32.5 wt%、Y2O3:25~45 wt%の組成範囲である(参考文献:日本金属学誌 第67巻 第1号(2003)40-46)。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0035】
1)混合粉末の調製
以下の原料を用いて以下に示す方法で混合粉末を調製した。
(i)原料粉末
・SiO2:シリカ粉末(純度99.9%以上)、
・Al2O3:アルミナ粉末(純度99.9%以上)、
・Y2O3:イットリア粉末(純度99.9%以上)、
(ii)調合
SiO2:40 wt%、Al2O3:30 wt%、Y2O3:30 wt%となるように上記原料粉末を、ウレタン製ボールを入れた10Lのポリエチレン製混合ポットに0.5~3kgを供給し、回転台で混合する。
【0036】
2)成型型及び粉末の混合粉末の融解
実施例1
図1に示す成型装置を使用して表2に示すサイズのバイプ状の多成分ガラス成型品を調製した。溶解室に上記1)で調製した混合粉末0.67kgを充填し、高温炉内で1400℃、4時間溶解した。次いで、温度を1650℃に上げ、2時間経過させて融解液とし、融解液は、混合室を経由して成型室に自重で流下した。その際の溶解室、混合室及び成型室の温度は1650℃とし、融解液中の残存気泡を脱泡させた。成型室への融解液の流下に30分間を要し、その後、成型装置全体を放冷して、室温になった後に成型室から成型品を取り出した。
【0037】
尚、上記組成の混合粉末を加熱して得られる融解前駆体および融解液の粘性は、1,450℃:logη=1.25Pa・s、1,550℃:logη=-0.15Pa・s、1650℃:logη=-0.8Pa・sであり、1,450℃以上で流動できる条件である。上記実施例では、加熱温度1,400℃として溶解室内で原料粉末を融解前駆体に変化させる。この時の融解前駆体の粘性はlogη=-0.15Pa・sである。その後1,650℃まで昇温してlogη=-0.5Pa・sである融解液とした後に溶解室から混合室を経て成型室に融解液を移動させた。上記粘度を有する融解液は、溶解室から混合室を経て成型室に至る間および成型室においての脱泡が進んだ。
【0038】
実施例2
混合粉末量は36kgとし、温度を1650℃に上げた後に3時間経過させた以外は、実施例1と同様にして成型品を調製した。
【0039】
比較例1
図1に示す成型装置の成型室に相当する形状の、
図4に記載の従来技術の成型型を用いて、表2に記載の実施例1と同様のサイズのバイプ状の多成分ガラス成型品を調製した。成型型は1室構造で、粉末の融解、脱泡、成型を同じ室で行う。上記1)で調製した混合粉末670gを充填し、1400℃で4時間溶解した。次いで、温度を1650℃に上げ、2時間経過させ、融液中の残存気泡を脱泡さ、その後、成型装置全体を放冷して、室温になった後に成型室から成型品を取り出した。
【0040】
3)成型品の品質
〈評価方法〉
成型型から取り出した成型品は、成型品外表面を研削もしくは輪切りし、切断面を研削する。加工した評価サンプルは研削面であるため、屈折率が同じ疑似液を塗布し、日本光学硝子工業会規格の光学ガラスの泡の測定方法と光学ガラスの異物の測定方法に準じて観察し、等級評価した。
表1に日本光学硝子工業規格を示す。
【0041】
【0042】
〈成型品の品質〉
実施例1及び2、並びに比較例1で得られた成型品の品質を表2に示す。
実施例1及び2の成型品内の泡及び異物は日本光学硝子規格等級:1等級であった。従来技術の成型型を用いた比較例1の成型品は、泡及び異物に関する品質は3等級及び4等級であり、満足できる品質ではなかった。
【0043】
【産業上の利用可能性】
【0044】
多成分ガラス成型品の製造に関する分野に有用である。