(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/46 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
B60R22/46
(21)【出願番号】P 2021098266
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂野 高志
(72)【発明者】
【氏名】村仲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023271(JP,A)
【文献】特表2013-520352(JP,A)
【文献】米国特許第05522564(US,A)
【文献】特開2000-355265(JP,A)
【文献】特開2011-073595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状に形成されて中心軸線周りに回転可能とされると共に、自身の軸方向一側の端部に有底で
前記軸方向一側へ向けて開口する中空の中空部
が形成され、巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、
前記
スプールの内側に設けられ、前記スプールの一方の端部側で前記スプールに対する相対回転が制限され、前記スプールの他方の端部側から前記中空部の底部を貫通して前記スプールの外部へ前記スプールに対して同軸的に伸び出る軸部材と、
前記スプールと同軸の円板状に形成され、前記底部
に対して前記中空部
の内側に設けられ、前記軸部材が貫通した状態で前記軸部材に保持されるプッシュストッパと、
前記スプールと同軸のリング状に形成され
て前記中空部に収容され、プリテンショナ機構の作動時に前記プリテンショナ機構の部品が内周部又は外周部に係合すると共に、前記プッシュストッパと前記スプールの前記中空部の前記底部とによって前記スプールの軸方向に挟持されるリングクラッチと、
を備え
、
前記リングクラッチの外周部には複数の周り止め部が突出形成されると共に、前記中空部には前記複数の周り止め部のそれぞれに対応して凹状の荷重受け部が形成され、前記荷重受け部の内側に前記周り止め部が収容されることによって前記スプールに対する前記リングクラッチの相対回転を制限するウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記プッシュストッパは、径方向中間部の曲端よりも中央側で前記リングクラッチから遠ざかり、前記軸部材が貫通する前記スプールの前記底部に形成された孔の径寸法は、前記プッシュストッパの前記曲端の径寸法よりも小径とされている請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記中空部の径方向中央側での深さ寸法と前記中空部において前記リングクラッチが配置される部分の深さ寸法との差は、前記リングクラッチの中央側での前記リングクラッチの厚さ寸法よりも小さい請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプールが巻取方向へ回転されることによってスプールにウェビングが巻取られるウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1に開示されているようなウェビング巻取装置では、スプール(20)の軸方向側方にクラッチギアヤ(30)が形成されており、プリテンショナ機構のピニオンがウェビングの巻取方向へ回転すると、ピニオンに連結されたクラッチパウルが巻取方向へ回転してクラッチパウルがピニオンの回転半径方向外側へ突出する。このように、クラッチパウルが突出すると、クラッチパウルがクラッチギアヤへ係合され、これによって、ピニオンとスプールとが連結され、スプールをウェビングの巻取方向へ回転させる。
【0003】
ところで、クラッチギヤとスプールを別体にする場合、クラッチギヤをスプールと一体的に回転させるため、スプールをかしめてクラッチギヤとスプールとを連結させている。しかしながら、このようなかしめ加工には、材料的に延びの高い高価で特殊なアルミダイカスト材若しくは高質量な亜鉛ダイカスト材等が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、安価若しくは軽量な材料を適用できるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるウェビング巻取装置は、回転の軸方向に沿って有底で中空の中空部を有し、巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、前記中空部に配置され、前記スプールの一方の端部側で前記スプールに対する相対回転が制限され、前記スプールの他方の端部側から前記中空部の底部を貫通して前記スプールの外部へ前記スプールに対して同軸的に伸び出る軸部材と、前記スプールと同軸の円板状に形成され、前記底部を挟んで前記中空部とは反対側に設けられ、前記軸部材が貫通した状態で前記軸部材に保持されるプッシュストッパと、前記スプールと同軸のリング状に形成され、プリテンショナ機構の作動時に前記プリテンショナ機構の部品が内周部又は外周部に係合すると共に、前記プッシュストッパと前記スプールの前記中空部の前記底部とによって前記スプールの軸方向に挟持されるリングクラッチと、を備えている。
【0007】
本発明の第1の態様のウェビング巻取装置では、リングクラッチを備えている。プリテンショナ機構の作動時にプリテンショナ機構の部品がリングクラッチの内周部又は外周部に係合する。これによって、プリテンショナ機構の駆動力がリングクラッチに伝達される。リングクラッチは、プッシュストッパとスプールの中空部の底部とによってスプールの軸方向に挟持される。
【0008】
このように、プッシュストッパとスプールの中空部の底部とによってスプールの軸方向に挟持されたリングクラッチは、伝達されたプリテンショナ機構の駆動力をスプールに付与できる。これによって、スプールは、巻取方向へ回転され、シートベルト装置のウェビングをスプールに巻き取ることができる。
【0009】
ここで、リングクラッチは、プッシュストッパとスプールの中空部の底部とによってスプールの軸方向に挟持される。このため、スプールにカシメ部を作ってリングクラッチを保持する必要がない。したがって、スプールに延びが高く、高価な特殊アルミダイカスト材もしくは高質量な亜鉛ダイカスト材等を用いなくてもよい。
【0010】
本発明の第2の態様におけるウェビング巻取装置は、本発明の第1の態様におけるウェビング巻取装置において、前記プッシュストッパは、径方向中間部の曲端よりも中央側で前記リングクラッチから遠ざかり、前記軸部材が貫通する前記スプールの前記底部に形成された孔の径寸法は、前記プッシュストッパの前記曲端の径寸法よりも小径とされている。
【0011】
本発明の第2の態様のウェビング巻取装置では、プッシュストッパは、径方向中間部の曲端よりも中央側でリングクラッチから遠ざかり、また、軸部材が貫通するスプールの底部に形成された孔の径寸法は、プッシュストッパの曲端の径寸法よりも小径とされている。このため、プッシュストッパの抜去負荷の受けになる。
【0012】
本発明の第3の態様におけるウェビング巻取装置は、本発明の第1の態様又は第2の態様におけるウェビング巻取装置において、 前記スプールの軸方向一側へ向けて開口し、前記リングクラッチを収容する前記中空部を前記スプールの軸方向一側に備え、
前記中空部の径方向中央側での深さ寸法と前記中空部において前記リングクラッチが配置される部分の深さ寸法との差は、前記リングクラッチの中央側での前記リングクラッチの厚さ寸法よりも小さい。
【0013】
本発明の第3の態様のウェビング巻取装置では、スプールの軸方向一側に中空部が備えられている。中空部は、スプールの軸方向一側へ向けて開口し、リングクラッチを収容する。この中空部の径方向中央側での深さ寸法と、中空部においてリングクラッチが配置される部分の深さ寸法との差は、リングクラッチの中央側でのリングクラッチの厚さ寸法よりも小さい。このため、プッシュストッパによってリングクラッチの浮きを効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールに伸延びが高く、高価な特殊アルミ材を用いなくてもよく、安価な材料で制作できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の要の分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、各図に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において矢印FRは、本ウェビング巻取装置10が適用された車両の前側を示し、矢印LFは、車幅方向左側を示し、矢印UPは、車両上側を示す。また、各図において矢印Aは、スプール14がウェビングを巻取る際のスプール14の回転方向である巻取方向を示し、矢印Bは、巻取方向とは反対の引出方向を示す。また、説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0017】
<本実施の形態の構成>
図3に示されるように、本実施の形態に係るウェビング巻取装置10は、フレーム12を備えている。フレーム12は、車両のシートである後部座席(図示省略)の車両後方のパッケージトレイトリム(図示省略)の車両下方に固定されている。
【0018】
また、フレーム12にはスプール14が設けられている。スプール14は、金属、例えば、アルミダイカスト材によって略円筒形状に形成されており、中心軸線周り(
図3の矢印A方向及び矢印B方向)に回転可能とされている。スプール14には、長尺帯状のウェビング(図示省略)の長手方向基端部が係止されており、スプール14が巻取方向(
図3の矢印A方向)へ回転されると、ウェビングは、長手方向基端側からスプール14に巻取られる。
【0019】
ウェビングの長手方向先端側は、スプール14から車両前上側へ延び、パッケージトレイトリムに設けられたスリット孔を通って後部座席の車両上側へ延びている。後部座席の車両上側へ延びたウェビングは、後部座席のシートバックの上端部及び車両前側面を這わせられて車両下側へ延びている。車両下側へ延びたウェビングは、後部座席のシートクッション(図示省略)の車両後端部を通ってシートクッションの車両下側でアンカプレート(図示省略)を介して車体に固定されている。
【0020】
また、本ウェビング巻取装置10が適用された車両用のシートベルト装置は、バックル装置(図示省略)を備えている。バックル装置は、本ウェビング巻取装置10が適用される後部座席の車幅方向内側に設けられている。後部座席に着座した乗員の身体にウェビングが掛回された状態で、ウェビングに設けられたタング(図示省略)がバックル装置に係合されることによって、ウェビングが乗員の身体に装着される。
【0021】
さらに、スプール14の内側には、軸部材としてのトーションシャフト16が設けられている。トーションシャフト16の車幅方向右側の部分には第1係合部18が設けられており、スプール14の内側で第1係合部18が係合されると、トーションシャフト16のスプール14に対する相対回転が制限される。
【0022】
トーションシャフト16の第1係合部18よりも車幅方向左側の部分には、第2係合部20が形成されている。第2係合部20にはロックベース22がトーションシャフト16に対して相対回転が制限された状態で係止されている。ロックベース22にはロックプレート24が設けられている。
【0023】
ロックプレート24は、ロックベース22の半径方向にロックベース22に対して揺動可能に支持されている。ロックベース22の半径方向外側には、フレーム12の脚板12Aのラチェットホイール26が対向しており、ロックプレート24がロックベース22の半径方向外側へ回転すると、ロックプレート24の先端のラチェット部がフレーム12の脚板12Aのラチェットホイール26に噛み合う。これによって、ロックベース22の引出方向への回転が制限される。ロックベース22の引出方向への回転が制限されることで、トーションシャフト16、ひいてはスプール14の引出方向への回転が制限される。
【0024】
ロックプレート24には、ピン28が形成されている。ロックプレート24のピン28は、ロックベース22の車幅方向左側の側面から車幅方向左側へ延びている。ロックプレート24のピン28は、フレーム12の左側の脚板12Aを貫通している。フレーム12の左側の脚板12Aには、センサホルダ30が取り付けられており、更に、センサホルダ30の外側には、センサカバー32が取り付けられている。
【0025】
センサカバー32の内側には、VSIR機構やWSIR機構を構成する各種部品が設けられており、ロックベース22のピン28が各種部品の何れか1つに係合している。VSIR機構は車両衝突時等における車両急減速状態で作動される。これに対して、WSIR機構はスプール14の巻取方向とは反対の引出方向(
図3の矢印B方向)への回転加速度が所定の大きさを越えることによって作動される。VSIR機構やWSIR機構が作動されることによって、ロック機構を構成するロック部材(図示省略)が作動されて、スプール14の引出方向への回転が制限される。
【0026】
一方、
図3に示されるように、トーションシャフト16の車幅方向右側の部分は、スプール14の車幅方向右側端部及びフレーム12の車幅方向右側の脚板12Bから車幅方向右側へ突出している。脚板12Bの車幅方向右側には、ケース34が設けられている。ケース34の車幅方向右側にはギヤケース36が設けられている。ケース34には円孔38がスプール14に対する同軸上に形成されており、トーションシャフト16の車幅方向右側の部分がケース34の円孔38を貫通している。円孔38の車幅方向右側には、プリテンショナ機構を構成するピニオン40が配置されている。ピニオン40は、トーションシャフト16の車幅方向右側の部分に対して相対回転自在にトーションシャフト16の車幅方向右側の部分に支持されている。
【0027】
これに対して、ケース34の円孔38には、クラッチプレート42が回転不能に支持されている。クラッチプレート42の内周側には複数の脚部が形成されており、クラッチプレート42の複数の脚部は、ピニオン40の車幅方向左側でピニオン40と一体的に形成された凹部に入り込んでいる。また、ピニオン40の半径方向側方には、ピニオン40と共にプリテンショナ機構を構成するラックバー44が配置されている。ラックバー44にはピニオン40に噛合可能な歯が設けられている。ラックバー44の車両後方部分は、ピストン46とされており、ピストン46及びラックバー44と共にプリテンショナ機構を構成するベースカートリッジ48に収容されている。
【0028】
ベースカートリッジ48の車両後方部分には、マイクロガスジェネレータ50(以下、「マイクロガスジェネレータ50」を「MGG50」と略して称する)が設けられている。MGG50が作動して、MGG50から瞬時にガスが噴出されると、ベースカートリッジ48の内圧が上昇され、ピストン46、ひいては、ラックバー44が移動する。ラックバー44が移動すると、ラックバー44がピニオン40に噛み合い、ピニオン40が巻取方向へ回転される。ピニオン40が巻取方向へ回転されると、ピニオン40に対して車幅方向左側でピニオン40へ一体的に設けられた凹部に入ったクラッチプレート42の脚部が、ピニオン40の半径方向外側へ移動する。
【0029】
ギヤケース36の車幅方向右側にはスプリングカバー52が設けられており、さらに、スプリングカバー52内には付勢部材としての捩じりコイルばね54が設けられている。捩じりコイルばね54は、スプリングカバー52とスプリングカバー52の車幅方向左側に設けられたスプリングシート56とによって隠蔽されている。捩じりコイルばね54の渦巻き方向内側端は、捩じりコイルばね54の渦巻き方向外側端に対して巻取方向側へ付勢されている。
【0030】
捩じりコイルばね54の渦巻き方向外側端は、スプリングカバー52に係止されている。これに対して、捩じりコイルばね54の渦巻き方向内側端は、アダプタ58に係止されている。アダプタ58の軸方向一端は、スプリングカバー52に回転自在に軸支され、アダプタ58の軸方向他端は、スプリングシート56に回転自在に軸支される。アダプタ58の車幅方向左側の部分は、トーションシャフト16の車幅方向右側の部分へ連結されており、トーションシャフト16、ひいては、スプール14は、巻取方向へ付勢されている。
【0031】
一方、スプール14の車幅方向左側の端部には、非円形(略多角形)のガイド孔60が形成されている。ガイド孔60にはフォースリミッタストッパ62(以下、「フォースリミッタストッパ62」を「FLストッパ62」と略して称する。)が入っている。FLストッパ62の外周形状は、ガイド孔60の内周形状に略等しく、したがって、FLストッパ62は、スプール14に対する相対回転が制限されている。
【0032】
また、FLストッパ62には雌ねじ孔が形成されている。FLストッパ62の雌ねじ孔は、スプール14に対する同軸上に形成されている。このFLストッパ62の雌ねじ孔には、ロックベース22の車幅方向右側部分に形成された雄ねじ部が螺合されている。ロックベース22の雄ねじ部は、FLストッパ62の雌ねじ孔の先端部分に螺合されており、FLストッパ62が回転しつつロックベース22の雄ネジのロックプレート24側の端部に底付きするまでFLストッパ62が回転される。
【0033】
これに対して、
図1及び
図2に示されるように、スプール14の車幅方向右側の端部には、中空部としてのリングクラッチ収容部64が形成されている。リングクラッチ収容部64は、スプール14に対する同軸上に円形とされた本体部66を備えている。本体部66には複数の荷重受け部68が形成されている。リングクラッチ収容部64の複数の荷重受け部68は、本体部66の内周部から径方向外側へ突出し、本体部66を中心に所定角度毎に形成されている。
【0034】
また、本体部66の底部の径方向中間部よりも外側部分は、すり鉢部66Aとされている。すり鉢部66Aは、本体部66の径方向外側へ向けて深さ寸法が漸次浅くなっている。一方、すり鉢部66Aよりも本体部66の径方向内側部分は、平面部66Bとされている。平面部66Bとされたすり鉢部66Aよりも本体部66の径方向内側部分は、深さ寸法がすり鉢部66Aの径方向内側端部の寸法に等しい。リングクラッチ収容部64の底部の略中央には、孔70が形成されている。孔70には、トーションシャフト16の第1係合部18よりも車幅方向右側部分が貫通配置されている。孔70を中心として孔70の周囲は、厚肉部71とされている。厚肉部71の肉厚は、平面部66Bの肉厚よりも厚い。
【0035】
このリングクラッチ収容部64の内側には、リングクラッチ72が収容されている。リングクラッチ72は、金属によってスプール14に対する同軸上のリング状に形成されている。リングクラッチ72の外周部には、複数の周り止め部74が突出形成されている。リングクラッチ収容部64内にリングクラッチ72が収容された状態で、複数の周り止め部74の各々は、複数の荷重受け部68の各々の内側に収容される。これによって、リングクラッチ72のスプール14に対する相対回転が制限される。
【0036】
また、リングクラッチ72の径方向内側には、フランジ部78が形成されており。更に、フランジ部78の略中央には、孔部75が形成されている。孔部75の直径寸法は、リングクラッチ収容部64の厚肉部71の直径寸法よりも大きく、リングクラッチ収容部64内にリングクラッチ72を配置した状態では、リングクラッチ72の孔部75の内側にリングクラッチ収容部64の厚肉部71が入る。
【0037】
また、リングクラッチ72のフランジ部78の厚さ寸法は、厚肉部71における平面部66Bからの厚さ寸法より僅かに大きい。
【0038】
リングクラッチ72の内周部には、ロレット部76が形成されている。ピニオン40の半径方向外側へ移動したクラッチプレート42の脚部の先端部は、ロレット部76に圧接される。これによって、クラッチプレート42の脚部の先端部が変形されて、クラッチプレート42の脚部の先端部がロレット部76へ固着される。
【0039】
リングクラッチ72よりも車幅方向右側には、プッシュストッパ80が設けられている。プッシュストッパ80は、円板状とされている。プッシュストッパ80の外周部から径方向中間部の曲端までは、スプール14の中心軸線に対して直交する方向に沿った平面とされている。プッシュストッパ80の径方向中間部の曲端から中心までは、プッシュストッパ80の外周部から径方向中間部の曲端までの部分に対して車幅方向右側へ曲がっている。また、プッシュストッパ80の径方向中間部の曲端の直径寸法は、スプール14の車幅方向右側の孔部70の直径寸法よりも大きい。
【0040】
また、上述したように、フランジ部78の厚さ寸法と、スプール14の車幅方向右側の端部における径方向中央側の部分に対するリングクラッチ収容部64の本体部66の底部の径方向中間部よりも内側部分の深さ寸法とのよりも大きくされていた。この寸法差は、プッシュストッパ80の抜去力の確保の観点からできる限り小さい方が好ましい。
【0041】
プッシュストッパ80の中心には円孔82が形成されており、円孔82の内径寸法は、トーションシャフト16の車幅方向右側部分の外径寸法に略等しい。このため、トーションシャフト16の車幅方向右側部分がプッシュストッパ80の円孔82を通過させると、プッシュストッパ80がトーションシャフト16に係合され、トーションシャフト16からのプッシュストッパ80の抜けが抑制される。
【0042】
また、プッシュストッパ80の径方向中間部の曲端における円は、スプール14の孔70よりも大径とされている。さらに、プッシュストッパ80の外径寸法は、リングクラッチ72のつば部78の内径寸法よりも大きく、プッシュストッパ80の径方向中間部よりも外側部分は、リングクラッチ72のつば部78とスプール14の軸方向に重なっている。また、つば部78の内径寸法とプッシュストッパ80の外径寸法との半径方向の差は、プッシュストッパ80の外径寸法の15%以上とされている。
【0043】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0044】
車両の走行中に乗員がブレーキを操作すると、車両の減速度(加速度)に応じてセンサカバー32内のVSIR機構が作動する。また、車両の減速によって乗員の身体が車両前方側へ移動し、これによって、乗員の身体に掛け回されたウェビングが引き出されると、センサカバー32内のWSIR機構が作動する。VSIR機構及びWSIR機構の少なくとも一方の作動によってロックベース22のピン28がVSIR機構及びWSIR機構の部品によりロックベース22の径方向外側へ移動される。ロックプレート24の径方向外側へ移動されたロックプレート24の先端のラチェット部がフレーム12の脚板12Aのラチェットホイール26に噛み合う。これによって、ロックベース22の引出方向への回転が制限される。
【0045】
この状態で、乗員の身体によるウェビングの引張力が、トーションシャフト16の捩じりに対する剛性よりも高ければ、トーションシャフト16の第1係合部18側が第2係合部20側に対してトーションシャフト16の中心軸線周りに捩じれる。このトーションシャフト16の捩じれの分だけスプール14は、引出方向へ回転される。このスプール14からのウェビングの引出分だけ乗員は、車両前側へ移動される。また、乗員が車両前側へ移動しようとする力の一部がトーションシャフト16の捩じれに供される。
【0046】
また、このトーションシャフト16の捩じれは、ロックベース22に対するスプール14の回転である。このような回転がロックベース22とスプール14との間に生ずると、FLストッパ62がガイド孔60のプレート24側へ移動され、底付される。これによって、それ以上のロックベース22のスプール14に対する回転が制限される。
【0047】
このトーションシャフト16の捩じり変形に前後して、ベースカートリッジ48のMGG50が作動され、MGG50から瞬時にガスが噴出される。これによって、ベースカートリッジ48の内圧が上昇され、ピストン46、ひいては、ラックバー44が移動する。ラックバー44が移動すると、ラックバー44がピニオン40に噛み合い、ピニオン40が巻取方向へ回転される。ピニオン40が巻取方向へ回転されると、ピニオン40に対して車幅方向左側でピニオン40へ一体的に設けられた凹部に入ったクラッチプレート42の脚部が、ピニオン40の半径方向外側へ移動する。
【0048】
これによって、クラッチプレート42の脚部の先端部が、リングクラッチ72の内周部のロレット部76へ圧接される。これによって、リングクラッチ72を介してピニオン40とスプール14とが連結され、ピニオン40の巻取方向への回転がスプール14に伝わる。巻取方向への回転がスプール14に伝わって、スプール14が巻取方向へ回転されると、ウェビングが長手方向基端側からスプール14に巻き取られる。
【0049】
ところで、リングクラッチ72のつば部78は、スプール14のリングクラッチ収容部64に入れられ、プッシュストッパ80とスプール14のリングクラッチ収容部64の底部とによってスプール14の軸方向に挟持される。このため、スプール14にカシメ部を作ってリングクラッチ72を保持する必要がない。したがって、スプール14に伸延びが高く、高価で特殊なアルミダイカスト材もしくは高質量な亜鉛ダイカスト材を用いなくてもよい。
【0050】
また、一つのプッシュストッパ80でトーションシャフト16とリングクラッチ72とをスプール14に固定できる。
【0051】
しかも、スプール14のリングクラッチ収容部64における平面部66Bでの深さ寸法とスプール14のリングクラッチ収容部64における厚肉部71での深さ寸法との差は、リングクラッチ72のフランジ部78の厚さよりも小さい。これによって、プッシュストッパ80はリングクラッチ72に確実に当接する。このため、リングクラッチ72とプッシュストッパ80又はスプール14のリングクラッチ収容部64の底部との間に隙間ができることを抑制できる。これによって、リングクラッチ72がプッシュストッパ80又はスプール14のリングクラッチ収容部64の底部から浮くことを効果的に抑制できる。
【0052】
一方、プッシュストッパ80は、径方向中間部よりも中央側で径方向にリングクラッチ72から遠ざかる。また、スプール14のリングクラッチ収容部64の底部に形成された孔70の径寸法は、リングクラッチ72の曲端の径寸法よりも小径とされている。このため、プッシュストッパ80の抜去負荷の受けになる。
【0053】
また、リングクラッチ72のつば部78の内径寸法とプッシュストッパ80の外径寸法との差は、プッシュストッパ80の外径寸法の15%以上とされている。このため、プッシュストッパ80は、十分な広さでリングクラッチ72のつば部78と当接している。このため、リングクラッチ72のつば部78が外れることを効果的に抑制できる。
【0054】
なお、本実施の形態では、クラッチプレート42の脚部の先端部が、スプール14の回転半径方向外側へ移動されるとリングクラッチ72の内周部のロレット部76へ圧接される構成であった。しかしながら、クラッチプレート42の脚部の移動方向がスプール14の回転半径方向外側ではなくても、リングクラッチ72のロレット部76へ圧接される構成であればよい。例えば、クラッチプレート42の脚部が、スプール14の回転半径方向内側へ移動されることでロレット部76へ圧接される構成となるように構成してもよい。
【0055】
また、本実施の形態では、FLストッパ62を備えていたが、FLストッパ62を備えない構成としてもよい。
【0056】
さらに、本実施の形態では、ウェビング巻取装置10を後部座席の車両後方側に設けた構成であった。しかしながら、ウェビング巻取装置10の配置位置は、後部座席の車両後方側に限定されるものではない。例えば、ウェビング巻取装置10を車両のピラーに配置してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10・・・ウェビング巻取装置、14・・・スプール、16・・・トーションシャフト(軸部材)、64・・・リングクラッチ収容部(中空部)、72・・・リングクラッチ、80・・・プッシュストッパ