(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】平衡装置、および、プレス成形機
(51)【国際特許分類】
B30B 15/18 20060101AFI20241023BHJP
B30B 15/06 20060101ALI20241023BHJP
B30B 1/32 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B30B15/18 A
B30B15/06 G
B30B1/32 Z
(21)【出願番号】P 2021170343
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 京治
(72)【発明者】
【氏名】寺川 直人
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-157799(JP,A)
【文献】特開平02-133200(JP,A)
【文献】特開平01-258900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/18
B30B 15/06
B30B 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型を保持するスライ
ドを下降させて
、ボルスタに保持された下型に載置されたワークを加圧成形するプレス成形機に搭載される平衡装置であって、
前記スライドに、前記スライドから外方に張り出すように左右対称に取り付けられ、接触面としての下面を有する少なくとも一対の拡張部と、
平面視において前記拡張部に重なるように、前記スライドから独立して前記ボルスタの周囲に設置され、前記拡張部よりも下方位置で待機するピストンロッドを有する少なくとも一対の
流体圧シリンダと、
前記スライ
ドの下降時に、
いずれかの前記流体圧シリンダの前記ピストンロッドが前記拡張部の前記接触面に接触したことをトリガとして、前記
流体圧シリンダそれぞれの前記
ピストンロッドの位置制御を行って前記
上型を平衡状態にする平衡制御装置とを備え、
前記平衡制御装置は、前記
拡張部に押圧されて先行している前記
ピストンロッドをマスタ軸とし、前記マスタ軸の軸長を維持した状態で残りの前記
ピストンロッドを下降させることにより、前記
ピストンロッドの平衡補正を実行する、平衡装置。
【請求項2】
前記各流体圧シリンダに設けられた圧力センサと、
前記各流体圧シリンダのピストンロッドの位置を検知する位置センサとをさらに備え、
前記平衡制御装置は、前記圧力センサの測定値により前記
拡張部からの反力を検知した場合に、前記位置センサの測定値をフィードバック値として前記流体圧シリンダの位置制御を行う、請求項
1に記載の平衡装置。
【請求項3】
前記各流体圧シリンダのピストンロッドの待機高さは、前記スライ
ドの下降速度切替えタイミングにおける前記
拡張部の接触面の高さ以下である、請求項
2に記載の平衡装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の平衡装置と、
前記スライ
ドを昇降制御する昇降制御装置とを備えた、プレス成形機。
【請求項5】
前記昇降制御装置は、前記平衡制御装置による平衡補正が行われている期間、前記スライ
ドの下降速度を減速する、請求項
4に記載のプレス成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡装置に関し、特に、上型を保持するスライド部材を下降させてワークを加圧成形するプレス成形機に搭載される平衡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形機は、上型を保持するスライドと、下型を保持するボルスタと、スライドを昇降させるための昇降機構と、昇降機構を制御する昇降制御装置とを備えている。昇降機構は、典型的には油圧シリンダなどの液圧シリンダを含む。昇降制御装置は、液圧シリンダの圧力制御や位置制御を行うことによりスライドの下降および上昇を繰り返し実行する。これにより、高速かつ連続的にワークを加圧成形することができる。
【0003】
このようなプレス成形機においてワークの加工精度を高めるためには、スライドの平衡度を維持することが重要である。たとえば特開2019-122968号公報(特許文献1)および特開2020-199527号公報(特許文献2)では、スライドの上面にピストンロッドの先端部(下端部)が固定された油圧シリンダを複数個(たとえば4個)設けることにより、スライドを平衡状態にする技術が提案されている。
【0004】
なお、スライドのバランサ制御装置としては、特開2000-329104号公報(特許文献3)などに示されるように、スライドに対向して左右一対の反力シリンダを設けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-122968号公報
【文献】特開2020-199527号公報
【文献】特開2000-329104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に開示されているように、昇降機構としての液圧シリンダを複数個(たとえば4個)設けると、理想的にはスライドを平衡状態にすることができる。しかしながら、経年変化等によってスライド自体に僅かな歪み等が生じた場合には、スライドの下面に取り付けられた上型の平衡度を担保できないおそれがある。
【0007】
また、昇降機構として用いられる液圧シリンダは大型であり、高価であることから、スライド昇降用の液圧シリンダの個数を増やすことなく、ワークの加圧加工時に上型の平衡度を保証できる技術が求められていた。
【0008】
また、上述のように、プレス機のスライド(上型)を平衡補正することのできる平衡装置が存在するものの、上型がワークに接触している期間においては、スライドを平衡補正するだけではワークの加工精度が低下する可能性があることが判明した。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ワークの加工精度を向上させることのできる平衡装置を提供することである。
【0010】
また、このような平衡装置を備えたプレス成形機を提供することも、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のある局面に従う平衡装置は、上型を保持するスライド部材を下降させてワークを加圧成形するプレス成形機に搭載される平衡装置であって、スライド部材の水平方向両端部を下方から支持し、上下方向に進退する進退部材を有する少なくとも一対のスライド支持装置と、スライド部材の下降時に、一対のスライド支持装置それぞれの進退部材の位置制御を行ってスライド部材を平衡状態にする平衡制御装置とを備える。平衡制御装置は、スライド部材に押圧されて先行している進退部材をマスタ軸とし、マスタ軸の軸長を維持した状態で残りの進退部材を下降させることにより、進退部材の平衡補正を実行する。
【0012】
好ましくは、各スライド支持装置は、スライド部材から独立して設けられている。
【0013】
好ましくは、スライド支持装置は、進退部材としてのピストンロッドを含む流体圧シリンダであり、各流体圧シリンダに設けられた圧力センサと、各流体圧シリンダのピストンロッドの位置を検知する位置センサとをさらに備える。この場合、平衡制御装置は、圧力センサの測定値によりスライド部材からの反力を検知した場合に、位置センサの測定値をフィードバック値として流体圧シリンダの位置制御を行うことが望ましい。
【0014】
好ましくは、各流体圧シリンダのピストンロッドの待機高さは、スライド部材の下降速度切替えタイミングにおけるスライド部材の接触面の高さ以下である。
【0015】
この発明のある局面に従う成形機は、上述の平衡装置と、スライド部材を昇降制御する昇降制御装置とを備える。
【0016】
好ましくは、昇降制御装置は、平衡制御装置による平衡補正が行われている期間、スライド部材の下降速度を減速する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の平衡装置によれば、安価かつ高精度で、ワークの加圧加工時に上型を平衡状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るプレス成形機を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るプレス成形機の昇降機構の構成例を示す回路図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る支持用シリンダ(油圧シリンダ)の配置例を模式的に示す図であり、(A),(B)はそれぞれ待機状態および作動時を示す。
【
図4】本発明の実施の形態に係る支持用シリンダの油圧回路の構成例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における平衡補正方法の一例を模式的に示す図である。
【
図6】一つの支持用シリンダの圧力変化の例を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態における平衡補正方法の他の例を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態における平衡補正方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
本実施の形態では、平衡装置を備えたプレス成形機について説明する。
【0021】
(プレス成形機の基本構成)
図1を参照して、本実施の形態に係るプレス成形機1の基本構成について説明する。
図1に示す矢印A1は、プレス成形機1の正面側(前方)を表わし、矢印A2は、プレス成形機1の左右方向を表わしている。
【0022】
プレス成形機1は、筐体(フレーム)10と、スライド部材11と、ボルスタ12と、スライド部材11を昇降させるための昇降機構20と、昇降機構20を制御する昇降制御装置28とを備えている。スライド部材11は、上型(図示せず)を保持する上型保持部材である。ボルスタ12は、下型(図示せず)を保持する下型保持部材であり、筐体10のベッド部材13の中央部に配置されている。スライド部材11は、たとえば4本の棒状のガイド部材15に沿って上下にスライド移動するように構成されている。4本のガイド部材15は、筐体10の四隅に位置し、ベッド部材13とそれに対面する上部部材14との間を上下方向に延びている。
【0023】
プレス成形機1は典型的には油圧プレス成形機であり、昇降機構20は、スライド部材11の上面中央に取り付けられた1個の油圧シリンダ21と、油圧シリンダ21に油圧を送る油圧回路(図示せず)とを含む。油圧シリンダ21は、上下方向に進退するピストンロッド(進退部材)を有する液圧シリンダの一種であり、広義には、流体圧シリンダの一種である。昇降制御装置28は、油圧シリンダ21の圧力制御や位置制御を行うことによりピストンロッドの位置を調整して、スライド部材11の昇降制御(押し下げ制御および引き上げ制御)を行う。
【0024】
プレス成形機1は、昇降制御装置28によりスライド部材11の押し下げ制御をすることにより、下型に載置されたワークを上型で加圧して加工する。このように、昇降制御装置28は、スライド部材11の加圧制御を行う加圧制御装置として機能する。プレス成形機1による加工対象のワークは、典型的には、炭素繊維と合成樹脂とを組み合わせた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であるものの、金属材料からなる鍛造品などであってもよい。
【0025】
本実施の形態に係るプレス成形機1は、平衡装置30をさらに備えている。平衡装置30は、下降途中のスライド部材11の水平方向両端部を下方から支持する少なくとも一対(2個または4個)の流体圧シリンダ(以下、「支持用シリンダ」という)31と、支持用シリンダ31を個別に制御して、ワークの加圧加工時に上型(スライド部材11)を平衡状態にする平衡制御装置32とを含む。
【0026】
支持用シリンダ31は、押し上げ式の液体圧シリンダであり、典型的には複動型の油圧シリンダである。支持用シリンダ31のピストンロッド313は上方に延び、その先端部(以下「ロッド先端部」という)314が外部に露出している。
【0027】
このように、プレス成形機1には、昇降機構20とは別に平衡装置30を備えているため、昇降機構20を構成する油圧シリンダ21を複数個設けなくても(1個であっても)、ワークの加圧加工時に上型(スライド部材11)を平衡に保つことができる。その結果、スライド部材11の平衡補正機能を有するプレス成形機1を安価かつ小型化することができる。
【0028】
また、平衡制御装置32は、ロッド先端部314をスライド部材11に密着させた状態で、ピストンロッド313の位置制御を同期させることにより、高精度で、ワークの加圧加工時に上型を平衡状態にすることができる。
【0029】
さらに、平衡制御装置32は、上型91がワークに接触している期間に、スライド部材11に押圧されて先行しているピストンロッド313(つまり、先に荷重を受けたピストンロッド313)をマスタ軸とし、マスタ軸の軸長を維持した状態で残りのピストンロッド313を下降させることにより、ピストンロッド313の平衡補正を実行する。
【0030】
(昇降機構の構成例)
プレス成形機1の基本動作を担う昇降機構20の構成例を、
図2に示す。
図2に示されるように、昇降機構20は、上述の油圧シリンダ21と、油圧シリンダ21に油圧を供給する油圧回路22とを含む。油圧回路22は、昇降制御装置28を構成するモーションコントローラ(MC)281により制御される。
【0031】
油圧シリンダ21は、上下方向に延びるシリンダチューブ211と、シリンダチューブ211内を進退するピストン212と、ピストン212に一端が固定され、スライド部材11に他端が固定されたピストンロッド(以下「ロッド」と略す)213とを含む。シリンダチューブ211の内部空間は、ピストン212を仕切壁として、ヘッド側油圧室21hおよびロッド側油圧室21rとに仕切られている。
【0032】
油圧回路22は、ヘッド側油圧回路22h、ロッド側油圧回路22rの2系統を有し、両系統は分離されている。ヘッド側油圧回路22hは、一端がヘッド側油圧室21hに接続され、他端が作動液タンク24hに接続されるヘッド側通路23hと、ヘッド側通路23hの途中に設けられるヘッド側ポンプPhと、ヘッド側通路23hに接続される油圧センサ25hおよびリリーフ弁26hと、ヘッド側ポンプPhと駆動結合するサーボモータSMhと、リリーフ弁26hから流出する作動液を受ける作動液タンク27hとを含む。
【0033】
ロッド側油圧回路22rもヘッド側油圧回路22hと同様に構成される。
図2では、ヘッド側油圧回路22hと同様の構成物については、符号中の「h」を「r」として示している。
【0034】
ヘッド側油圧回路22hは、ヘッド側油圧室21hに油圧を供給して、ロッド213を進動させてスライド部材11を押し下げたり、あるいはスライド部材11の引き上げ時にヘッド側油圧室21hの油圧が急激に抜けたりしないようにする。ロッド側油圧回路22rは、ロッド側油圧室21rに油圧を供給して、ロッド213を退動させてスライド部材11を引き上げたり、あるいはスライド部材11の押し下げ時にロッド側油圧室21rの油圧が急激に抜けたりしないようにする。
【0035】
モーションコントローラ281は、複数の系統をそれぞれ同時に制御する上位の制御部であり、下位のサーボモータSMh,SMrをそれぞれ制御して、油圧回路22の各系統(ヘッド側油圧回路22hおよびロッド側油圧回路22r)を個別に運転する。昇降制御装置28は、モーションコントローラ281およびメモリ(図示せず)などを含む。
【0036】
スライド部材11には、スライド部材11の位置を検出する位置センサ18が設けられている。モーションコントローラ281は、たとえば、スライド部材11の位置、速度、およびプレス圧を条件として、複数のモードの中から最適な1のモードを選択し、当該モードに従って各油圧回路22h,22r(具体的には各サーボモータSMh,SMr)を制御する。
【0037】
なお、本実施の形態の昇降制御装置28は、プレスサイクルごとに、スライド部材11の「高速下降」、「加圧下降(低速下降)」、「ホールディング(型締め)」、「負荷上昇」、および「高速上昇」を順に実行する。「高速下降」は、典型的にはフリーフォール(油圧によらない自然落下)により実現される。昇降制御装置28は、スライド部材11の下降時(加圧下降時)に、油圧シリンダ21を圧力制御する。油圧力による「加圧下降」において、上型91がワークWに接触し、その後、上型91と下型92とが接触する。加圧下降の際、少なくともロッド側の制御モードを圧力モードとしていればよく、ヘッド側の制御モードは位置モードであってもよい。
【0038】
(平衡装置の構成および配置例)
平衡装置30の構成および配置例を、
図1、
図3および
図4を参照しながら説明する。
図3(A),(B)はそれぞれ、待機状態および作動時の支持用シリンダ31を模式的に示す断面図である。
図4は、支持用シリンダ31の油圧回路40の構成例を示す図である。
【0039】
図1に示されるように、本実施の形態では、二対(4個)の支持用シリンダ31が、ボルスタ12の周りの下方部材17に左右対称に配置されている。下方部材17は、ベッド部材13、および、ボルスタプレート16の拡張部16eを含む。この場合、二対の支持用シリンダ31は、スライド部材11の左右方向両端部を下方から支持する。なお、一対または二対の支持用シリンダ31が、スライド部材11の前後方向両端部を下方から支持するように設置されていてもよい。
【0040】
支持用シリンダ31は、スライド部材11から独立して設けられており、スライド部材11が所定高さまで下降してはじめて、ロッド先端部314がスライド部材11(より具体的には、後述の拡張部11e)に接触する。スライド部材11の平衡補正は、少なくとも上型91と下型92とが接触する前(好ましくは、上型91がワークに接触する前)に行われればよいため、ピストンロッド313のストロークは小さくてよい。そのため、支持用シリンダ31は、昇降機構20としての油圧シリンダ21よりも小型で高速、かつ安価である。
【0041】
二対の支持用シリンダ31は、それぞれ、平面視において、スライド部材11の本体部(スライド本体)の左右方向両端部から外方に張り出して設けられた二対の拡張部11eと重なる位置に設置されている。そのため、各支持用シリンダ31は、スライド部材11が所定の高さまで下降した場合に、ロッド先端部314が拡張部11eに接触する。平衡制御装置32は、支持用シリンダ31のロッド先端部314が拡張部11eと接触したことに応じて、支持用シリンダ31の平衡制御を開始する。
【0042】
なお、拡張部11eは、スライド本体と一体であってもよいし、別体であってもよい。また、拡張部11eの下面、すなわちロッド先端部314との接触面(以下「スライド接触面11s」という)の高さは、スライド本体の下面(上型取り付け面)と面一状でなくてもよく、支持用シリンダ31の設置高さやロッド313のストロークを考慮して定めることができる。
【0043】
図4を参照して、油圧回路40は、支持用シリンダ31ごとに(4個の支持用シリンダ31a~31dの各々に)油圧回路41を有している。油圧回路41は、ヘッド側油圧回路41hおよびロッド側油圧回路41rを有し、これらの間にサーボバルブ44が設けられている。ヘッド側油圧回路41hおよびロッド側油圧回路41rには、それぞれの油圧を検知する圧力センサ45h,45rが設けられている。本実施の形態では、支持用シリンダ31が小型であり、能力を低くできるため、4系統の油圧回路41に油圧を送るポンプ46を1個(共通)にすることができる。
【0044】
ポンプ46を駆動するモータ322は、平衡制御装置32を構成するコントローラ321により駆動制御される。平衡制御装置32は、コントローラ321およびメモリ(図示せず)などを含む。
【0045】
本実施の形態では、
図3(A)に模式的に示すように、支持用シリンダ31のシリンダチューブ311内にも、圧力センサ42h,42rが設けられている。圧力センサ42hはヘッド側油室33hに設けられ、圧力センサ42rはロッド側油室33rに設けられている。また、支持用シリンダ31には、ロッド313の位置を検知する位置センサ43が設けられている。位置センサ43は、たとえば、ロッド313の変位量を検知する変位センサ(リニアスケール)により構成される。
【0046】
圧力センサ42h,42rおよび位置センサ43の検知信号は、コントローラ321に入力される。コントローラ321は、圧力センサ42h,42rの測定値、すなわち各油室33r,33hの圧力値の変化により、ロッド先端部314がスライド部材11に接触したことを検知する。コントローラ321は、いずれかの支持用シリンダ31のロッド先端部314がスライド部材11に接触したことをトリガとして、支持用シリンダ31の位置制御を開始する。支持用シリンダ31の位置制御は、位置センサ43の測定値をフィードバック値としてサーボバルブ44を制御することにより実行される。
【0047】
なお、油圧回路40の構成は、
図4に示したような例に限定されず、4系統の油圧回路41のそれぞれにポンプが設けられていてもよいし、
図2に示した昇降機構20の油圧回路22のように、ヘッド側油圧回路41hおよびロッド側油圧回路41rのそれぞれにポンプが設けられていてもよい。また、サーボバルブ44に代えて、サーボポンプ(サーボモータにより駆動されるポンプ)が設けられていてもよい。
【0048】
(平衡装置の動作)
図3および
図5を主に参照しながら、平衡装置30の動作について説明する。
図5は、平衡装置30による平衡補正方法の一例を模式的に示す図である。なお、
図5では、理解を容易にするために、左右に1個ずつ支持用シリンダ31a,31bが設けられていると仮定する。また、スライド部材11を単純化して記載している。
【0049】
プレスサイクルの開始時(スライド部材11の下降前)、
図3(A)に示したように、支持用シリンダ31(31a,31b)は待機状態とされる。待機状態において、支持用シリンダ31のピストン312は上方に付勢されいる。また、ロッド先端部314は、スライド部材11から離れている。
【0050】
この時のロッド先端部314の高さ(先端高さ)H1は、少なくとも、金型(上型91・下型92)接触時におけるスライド接触面11sの高さH3(
図5)よりも上方であり、好ましくは、上型91がワークWに接触するタイミングにおけるスライド接触面11sの高さH2(
図5)と同じか、それよりも上方である。なお、高さH3は、スライド部材11の下死点の高さに相当する。
【0051】
また、支持用シリンダ31は、下降速度が高速から低速に切り替えられた後(すなわち下降速度切替えタイミング以降)のスライド部材11の反力を受けることが望ましく、待機状態におけるロッド先端部314の高さH1は、下降速度切替えタイミングにおけるスライド接触面11sの高さH10(
図3(A))以下であることが望ましい(
図3(A)における高さH10は、ピストンロッド313の待機高さH1と同じ高さであってもよい)。下降速度切替えタイミングにおけるスライド接触面11sの高さH10は、上型91がワークWに接触するタイミングにおけるスライド接触面11sの高さH2と同じ高さであってもよい。
【0052】
そのため、本実施の形態では、昇降制御装置28によるスライド部材11の加圧下降途中または加圧下降開始時に、支持用シリンダ31のロッド313(ロッド先端部314)がスライド接触面11sに接触する。また、上型91によりワークWを加圧する(上型91がワークWに接触する)直前またはそれと同時に、ロッド先端部314がスライド接触面11sに接触する。
【0053】
平衡装置30の平衡制御装置32(コントローラ321)は、各支持用シリンダ31a,31bに設けられた圧力センサ42h,42rの測定値を入力し、各支持用シリンダ31a,31b(ロッド313)がスライド部材11に接触したか否かを判断する。平衡制御装置32は、いずれかの支持用シリンダ31がスライド部材11に接触したことを検知したことに応じて位置制御を開始する。
【0054】
図5(A)に示すように、スライド部材11が傾いたり歪んだりしている場合、左右の支持用シリンダ31a,31bのロッド313は時間差でスライド接触面11sに接触する。たとえば左側の支持用シリンダ31aが先にスライド部材11に接触した場合、
図5(B)に示されるように、平衡制御装置32は、右側の支持用シリンダ31bがスライド部材11に接触するまで、左側の支持用シリンダ31aのヘッド側油室33hに油圧を供給してピストン312を押し上げる制御を行う。
【0055】
その後、右側の支持用シリンダ31bもスライド部材11に接触したことを検知した場合、すなわち全ての支持用シリンダ31a,31bがスライド部材11からの反力を受けている状態において、それぞれのロッド313の位置の差(平衡誤差)が所定範囲内となるように平衡補正を行いながら、ロッド313を下降させる。具体的には、平衡制御装置32は、支持用シリンダ31a,31bそれぞれの位置センサ43の測定値をフィードバック値として平衡誤差を検知し、平衡誤差が0に近づくように、各油圧回路41のサーボバルブ44を制御する。
【0056】
このように、平衡制御装置32がスライド部材11の反力を個別に制御しながら支持用シリンダ31a,31bの位置制御を行うことにより、
図5(B)の実線で示すように、スライド部材11を平衡状態に維持することができる。
【0057】
平衡制御装置32による平衡補正方法が、
図8のフローチャートに示されている。平衡制御装置32は、先にスライド部材11と接触するなど、先行するロッド313がある場合(ステップS2にてYES)、そのロッド313をマスタ軸とし(ステップS4)、マスタ軸の位置を保持する(ステップS6)。つまり、ロッド313の引き出し長さを変えずに維持する。
【0058】
その状態で、他方の支持用シリンダ31のロッド313(スレーブ軸)の位置をマスタ軸の位置に一致させるように位置制御を行う。つまり、スレーブ軸を引き下げる(引き出し長さを小さくする)ことにより、スレーブ軸の位置とマスタ軸の位置との差が所定範囲内となるように平衡補正する。
【0059】
スレーブ軸の位置とマスタ軸の位置との差が所定範囲内になると(ステップS8にてYES)、平衡補正が終了する。なお、
図8に示す平衡補正処理は、加圧下降期間およびホールディング期間において、一定間隔で繰り返し実行される。そのため、マスタ軸は、加圧状況によって入れ替わり得る。
【0060】
本実施の形態では、支持用シリンダ31a,31bの少なくとも一方がスライド部材11の反力を受けると同時にスライド部材11の平衡補正制御が開始されるが、平衡補正制御開始時における平衡補正(傾き補正)は、スライド部材11の下降速度を、通常の「加圧下降」の速度よりも減速させた状態(たとえば「0mm/秒」として停止させた状態)で行われてもよい。つまり、個々のロッド313の位置調整による平衡補正を行ってから、全てのロッド313を同期下降させてもよい。
【0061】
上述のように、本実施の形態に係る平衡装置30は、支持用シリンダ31ごとに圧力センサ42h,42rおよび位置センサ43を備えており、昇降機構20により圧力制御されているスライド部材11の反力を受けている状態で、平衡補正を行う。したがって、圧力制御のみで平衡補正を行う場合や位置制御のみで平衡補正を行う場合に比べて、スライド部材11を精度良く平衡補正することができる。その結果、
図5(C)に示されるように、ホールディング工程におけるスライド部材11を確実に平衡状態にできるので、ワークを精度良く加圧成形することができる。
【0062】
また、スライド部材11を平衡状態で下降させることができるので、スライド部材11が傾くことによる油圧シリンダ21への負荷やガイド部材15への負荷を軽減できる効果もある。
【0063】
図6は、一つの支持用シリンダ31の圧力変化の例を示すグラフである。横軸に示した時間t0~t4がスライド部材11の下降期間、時間t4~t5がホールディング期間である。時間t5以降は、スライド部材11の上昇期間である。
【0064】
図6に示されるように、スライド部材11の下降途中に(たとえば「高速下降」から油圧力による「加圧下降」に切り替えられるタイミング、または切り替え後に)、ロッド313がスライド部材11に接触すると(時間t1)、平衡制御装置32が、油圧回路40のポンプ46の駆動を開始し、平衡補正制御を開始する。平衡補正開始時(時間t1)または平衡補正の途中(時間t1~t2の間)に、上型91がワークWに接触する。平衡補正では、他の支持用シリンダ31との平衡補正が行われる(時間t1~t2)。その後、スライド部材11の加圧下降に伴ってロッド側およびヘッド側の油圧の高低が入れ替わり(時間t2~t3)、ヘッド側の油圧がロッド側の油圧よりも高く維持され、全ての支持用シリンダ31のロッド313が平衡に引き下げ制御(平衡ストローク制御)される(時間t3~t4)。ホールディング期間では、ヘッド側の油圧がロッド側の油圧が略一定に維持されている。
【0065】
なお、ホールディング期間から上昇期間に移行すると、平衡制御装置32は、各支持用シリンダ31のロッド313を引き上げる位置制御を行い、各支持用シリンダ31を
図3(A)に示したような待機状態に復帰させる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態に係るプレス成形機1は、昇降機構20を構成する油圧シリンダ21とは別に、平衡装置30を備えている。このようなプレス成形機1によれば、スライド部材11(スライド本体)の歪み等にも対応できるため、昇降機構20の油圧シリンダ21を複数個設けるよりも、上型91を確実に平衡にすることができる。また、昇降機構20のプレス能力とは無関係に、平衡装置30の支持用シリンダ31の能力およびストロークを小さくできるので、コストの上昇を抑えることができる。
【0067】
また、支持用シリンダ31がスライド部材11から独立して設けられているので、上述の拡張部11eをアタッチメント部材とし、スライド本体に取り付けることにより、既存の成形機に後付けで平衡装置30を追加することが可能である。
【0068】
また、平衡装置30の平衡制御装置32(コントローラ321)が、スライド部材11の反力を常時検知しながら支持用シリンダ31の位置制御(平衡補正)を行うので、加圧下降時におけるスライド部材11の平衡度を確実に保証することができる。
【0069】
また、スライド部材11に歪み等がない場合でも、スライド部材11の加圧下降中またはホールディング中にスライド部材11に偏心荷重が発生したとしても、スライド部材11を平衡に維持することができる。この場合の模式図を
図7に示す。
図7は、平衡装置30による平衡補正方法の他の例を模式的に示す図である。
図7では、上型91が複雑な形状であり、偏心荷重が発生しやすい例を模式的に示している。
【0070】
図7の(A)は、上型91がワークWに接触し始めの状態を示している。支持用シリンダ31a,31bのロッド313の待機高さH1(
図3(A))は、このときのスライド接触面11sの高さH2よりも上方、または同じ高さであり、
図7(A)の状態において支持用シリンダ31a,31bのロッド313はスライド接触面11sに接触している。(B)は、上型91がワークWに接触して偏心荷重が発生した状態を示し、(C)は、上型91が下型92に接触した状態(ホールディングの状態)を示している。
【0071】
図7(B)の想像線で示すように、複雑な形状の上型91がワークWに接触したことによりスライド部材11が傾いたとしても、左右の支持用シリンダ31a,31bが受ける反力のアンバランスを補正しながらロッド313を同期させて引き下げるので、偏心荷重により傾こうとするスライド部材11(想像線で示す)を平衡状態として型締めすることができる(
図7(C))。
【0072】
さらに、本実施の形態では、ワークの加圧中、すなわち上型91がワークに接触している期間(加圧下降期間およびホールディング期間の少なくともいずれか)に、スライド部材11に押圧されて先行しているロッド313をマスタ軸とし、マスタ軸313の軸長を維持した状態で残りのロッド313を下降させることにより、ロッド313の平衡補正を実行する。これにより、ワークの加工精度を向上させることができる。
【0073】
(変形例)
上記実施の形態では、待機時における支持用シリンダ31のロッド先端高さH1が、昇降制御装置28による下降速度切替えタイミングにおけるスライド接触面11sの高さH10以下であることとしたが、このような例に限定されない。その場合、たとえば平衡制御装置32と昇降制御装置28とを連動させて、支持用シリンダ31が下降途中のスライド部材11の反力を受けた場合に、昇降制御装置28に平衡補正開始を通知して、平衡補正が完了するまでスライド部材11の下降速度を減速させるようにしてもよい。
【0074】
また、支持用シリンダ31がスライド部材11などの上型保持部材から独立して(離れて)配置されていることとしたが、このような例に限定されない。また、支持用シリンダ31のヘッド側およびロッド側のそれぞれに圧力センサ42h,42rが設けられていることとしたが、ヘッド側およびロッド側の少なくとも一方に圧力センサが設けられていればよい。
【0075】
また、支持用シリンダ31が複動型シリンダである例について説明したが、単動型シリンダであってもよい。
【0076】
また、支持用シリンダ31が油圧シリンダであることとしたが、流体圧シリンダであればよく、他種の液圧シリンダであってもよいし、エアシリンダであってもよい。
【0077】
あるいは、スライド部材11を下方から支持するスライド支持装置は、上下方向に進退する進退部材を有していればよく、流体圧シリンダ以外の装置(たとえばリニアサーボなど)により構成されてもよい。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 プレス成形機、11 スライド部材、11e 拡張部、11s スライド接触面、12 ボルスタ、18,43 位置センサ、20 昇降機構、28 昇降制御装置、30 平衡装置、31,31a,31b,31c,31d 支持用シリンダ、32 平衡制御装置、42h,42r 圧力センサ、91,191 上型、92,192 下型、212,312 ピストン、213,313 ピストンロッド、314 ロッド先端部、W ワーク。