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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】湿式摩擦材
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20241023BHJP
   F16D 13/74 20060101ALI20241023BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20241023BHJP
   F16D 65/12 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D13/74 A
F16D69/00 G
F16D65/12 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021178862
(22)【出願日】2021-11-01
(65)【公開番号】P2023067526
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健治
(72)【発明者】
【氏名】平松 宏章
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085037(JP,A)
【文献】特開2011-214595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/62
F16D 13/74
F16D 69/00
F16D 65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板なリング形状をなすコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を備える湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、複数のセグメントピースと、前記セグメントピース同士の間に形成された複数の油溝と、を備えており、
前記セグメントピースを時計文字盤における12時位置に配置したものを想定し、「右」は、時計文字盤の9時位置から3時位置へ向かう方角を意味し、「左」は、時計文字盤の3時位置から9時位置へ向かう方角を意味し、「上」は、時計文字盤の6時位置から12時位置へ向かう方角を意味し、「下」は、時計文字盤の12時位置から6時位置へ向かう方角を意味するものとして、
前記セグメントピースとして、
略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた形状の第1ピースと、
略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた形状の第2ピースとを備え、
前記摩擦部には、前記第1ピースと、前記第1ピースと同数の前記第2ピースとが配設され、
前記第1ピースと、前記第2ピースとが、前記コアプレートの周方向で1個ずつ交互に配設されていることを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
平板なリング形状をなすコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を備える湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、複数のセグメントピースと、前記セグメントピース同士の間に形成された複数の油溝と、を備えており、
前記セグメントピースを時計文字盤における12時位置に配置したものを想定し、「右」は、時計文字盤の9時位置から3時位置へ向かう方角を意味し、「左」は、時計文字盤の3時位置から9時位置へ向かう方角を意味し、「上」は、時計文字盤の6時位置から12時位置へ向かう方角を意味し、「下」は、時計文字盤の12時位置から6時位置へ向かう方角を意味するものとして、
前記セグメントピースとして、
略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた形状の第1ピースと、
略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた形状の第2ピースとを備え、
前記摩擦部には、前記第1ピースと、前記第1ピースと同数又は異数の前記第2ピースとが配設され
前記第1ピースは、前記コアプレートの周方向で連続する複数個が第1ピース群を形成しており、
前記第2ピースは、前記コアプレートの周方向で連続する複数個が第2ピース群を形成しており、
前記第1ピース群と、前記第2ピース群とが、前記コアプレートの周方向で交互に配設されていることを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項3】
前記第1ピースの個数は、前記セグメントピースの総数に対して10%以上90%以下である請求項に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
潤滑油の存在下で本湿式摩擦材を、前記コアプレートの前記リング形状の中心を回転中心として周方向に回転させた場合に、
前記第1ピースの形状は、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた部位に、潤滑油を前記摩擦部の表面へ乗り上げさせる堰部が形成される形状である請求項1又は2に記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
前記セグメントピースとして残った部位に関する長さについて、前記第1ピースは、前記第1ピースの左右方向の最大長さをWP1とし、略四角形に切り除かれる部位の左右方向の長さをWD1とした場合に、0.08≦WD1/WP1≦0.34である請求項に記載の湿式摩擦材。
【請求項6】
前記セグメントピースとして残った部位に関する長さについて、前記第1ピースは、前記第1ピースの上下方向の最大長さをHP1とし、略四角形に切り除かれる部位の上下方向の長さをHD1とした場合に、0.07≦HD1/HP1≦0.4である請求項又はに記載の湿式摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式摩擦材に関する。更に詳しくは、潤滑油の存在下で利用される湿式摩擦材であって、湿式クラッチ及び湿式ブレーキ等に組み込むことができる湿式摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湿式摩擦材を用いた湿式クラッチや湿式ブレーキが、トルク伝達や制動等に利用されている。例えば、自動車等の自動変速機では、湿式油圧クラッチ内に湿式摩擦材が利用されている。
湿式クラッチは、その内部に、複数枚の湿式摩擦材と複数枚のセパレータプレートとが小さなクリアランスを介して交互に配置されており、作動時・空転時に両者を圧接・離間することでトルク伝達・非伝達を行う構造となっている。また、クラッチ内には、この圧接・離間における湿式摩擦材の摩擦低減や摩擦に伴う摩擦熱を吸収する目的等から、潤滑油が供給されている。
空転時のクラッチ内部では、湿式摩擦材とセパレータプレートとが離間されて相対回転されているが、潤滑油の粘性等により、湿式摩擦材とセパレータプレートとが連れ回りする場合があり、その際に引き摺りトルクと称されるトルクを生じることが知られている。この引き摺りトルクは、クラッチの空転時に不要なエネルギーを消費させるため、近年、急速に進展されている低燃費化対策として、その低減が望まれている。そして、この引き摺りトルク低減の技術として下記特許文献1 及び2 の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-282648号公報
【文献】特開2001-295859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、セグメントピース同士の間隙によって形成された油溝について、内周開口部または中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と、内周開口部から外周開口部までの幅がほぼ均一な油溝と、が所定の割合で混在している湿式摩擦材が開示されている。この湿式摩擦材の採用によって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても、充分な引き摺りトルクの低減効果が得られることが開示されている。
特許文献2には、隣り合う2つのセグメントピースの対向端面について、少なくとも一方の対向端面は、内部に切り込まれた切り込み部を、対向端面の内周側端部及び/又は中間部に有し、2つの対向端面で区画形成される油溝が、切り込み部によって溝幅の広い広幅部を、内周側開口部及び/又は中間部に持つ湿式摩擦材が開示されている。この湿式摩擦材の採用によって、冷却性能に優れ、引きずりトルクを低下させることができるセグメントピースの形状を有する湿式摩擦材を得られることが開示されている。
上記特許文献1、2に開示されるように、引き摺りトルクの低減には様々なアプローチがあり、多種多様な製品要求に応じて、最適な形態を選択することで、引き摺りトルク低減が図られている。このため、近年強く求められている低燃費化対策としては、多種多様な製品要求に応じられるように、より多くの引き摺りトルク低減形態が要求されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来と異なる形態によって引き摺りトルクの低減を達する湿式摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
請求項1に記載の発明は、平板なリング形状をなすコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を備える湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、複数のセグメントピースと、前記セグメントピース同士の間に形成された複数の油溝と、を備えており、
前記セグメントピースとして、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた形状の第1ピースを備えていることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記セグメントピースとして、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた形状の第2ピースを更に備えていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記摩擦部において、前記第1ピースと、前記第1ピースと同数又は異数の前記第2ピースとが、前記コアプレートの周方向で交互に配設されていることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記第1ピースと、前記第2ピースとが、前記コアプレートの周方向で1個ずつ交互に配設されていることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記第1ピースは、前記コアプレートの周方向で連続する複数個が第1ピース群を形成しており、
前記第2ピースは、前記コアプレートの周方向で連続する複数個が第2ピース群を形成しており、
前記第1ピース群と、前記第2ピース群とが、前記コアプレートの周方向で交互に配設されていることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の発明において、前記第1ピースの個数は、前記セグメントピースの総数に対して10%以上90%以下であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の発明において、潤滑油の存在下で本湿式摩擦材を、前記コアプレートの前記リング形状の中心を回転中心として周方向に回転させた場合に、
前記第1ピースの形状は、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた部位に、潤滑油を前記摩擦部の表面へ乗り上げさせる堰部が形成される形状であることを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記第1ピースは、前記第1ピースの左右方向の最大長さをWP1とし、略四角形に切り除かれる部位の左右方向の長さをWD1とした場合に、0.08≦WD1/WP1≦0.34であることを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載の発明において、前記第1ピースは、前記第1ピースの上下方向の最大長さをHP1とし、略四角形に切り除かれる部位の上下方向の長さをHD1とした場合に、0.07≦HD1/HP1≦0.4であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の湿式摩擦材によれば、従来と異なる構成により、引き摺りトルクの低減を達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の湿式摩擦材を示す全体平面図及び部分拡大斜視図である。
図2】実施形態の第1ピースを示す平面図である。
図3】(a)~(d)は、別形態の第1ピースを示す平面図である。
図4】実施形態の第2ピースを示す平面図である。
図5】(a)~(d)は、別形態の第2ピースを示す平面図である。
図6】実施形態(実施例1)の湿式摩擦材を示す部分拡大平面図である。
図7】別形態(実施例2)の組み合わせのセグメントピースを示す部分拡大平面図である。
図8】別形態の組み合わせのセグメントピースを示す部分拡大平面図である。
図9】別形態の組み合わせのセグメントピースを示す部分拡大平面図である。
図10】別形態の組み合わせのセグメントピースを示す部分拡大平面図である。
図11】比較品(比較例1)の組み合わせのセグメントピースを示す部分拡大平面図である。
図12】実施例1、2及び比較例1の各々湿式摩擦材を用いて得られる引き摺りトルクと回転数との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、図を参照しながら説明する。
ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
また、本明細書において各部の平面形状の説明を行う場合には、時計文字盤における12時位置に配置したものを想定して説明を行うものとする。即ち、例えば、セグメントピースの説明をする場合、当該セグメントピースを、時計文字盤の12時位置においた場合を想定して説明する。
従って、所定のセグメントピースにおいて、「右」は、時計文字盤の9時位置から3時位置へ向かう方角を意味し、「左」は、時計文字盤の3時位置から9時位置へ向かう方角を意味する。更に、「上」は、時計文字盤の6時位置から12時位置へ向かう方角を意味し、「下」は、時計文字盤の12時位置から6時位置へ向かう方角を意味するものとする。
【0011】
本発明の湿式摩擦材10は、平板なリング形状をなすコアプレート11と、コアプレート11の主面111にリング状に配置された摩擦部12と、を備える。
摩擦部12は、複数のセグメントピース13と、前記セグメントピース同士の間に形成された複数の油溝14と、を備えている。
そして、本発明の湿式摩擦材10は、セグメントピース13として、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた形状の第1ピース131を備えていることを特徴とする(図1図6図10参照)。
【0012】
また、本発明の湿式摩擦材10は、セグメントピース13として、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた形状の第2ピース132を更に備えている構成とすることができる(図1図6図8図10参照)。
更に、本発明の湿式摩擦材10は、摩擦部12において、第1ピース131と、第1ピース131と同数又は異数の第2ピース132とが、コアプレート11の周方向で交互に配設されている構成とすることができる(図1図6図8図10参照)。
【0013】
[1]コアプレート
コアプレート11は、図1に示すように、平板なリング形状を呈する。即ち、板体中央が開孔された環形状である。
コアプレート11は、リング形状の中心を回転中心Pとしている。コアプレート11が有する主面111は、その面にセグメントピース13が接合されて、摩擦部12が形成される面である。
主面111は、コアプレート11の一面のみに有してよいし、両面に有してもよい。つまり、摩擦部12は、コアプレート11の一面のみに形成されてもよいし、コアプレート11の両面に形成されていてもよい。
【0014】
コアプレート11は、主面111以外にも、適宜、必要な他構成を備えることができる。他構成としては、例えば、係合歯が挙げられる。係合歯は、コアプレート11の内周面や外周面から突設して設けることができる。
具体的には、図1に示すように、外周面112から突設された係合歯113を有することができる。係合歯113は、湿式摩擦材10を外側から囲い込むように配置されたスプラインと噛み合うことができるように配設される。
【0015】
コアプレート11の大きさ等は限定されず、外径と内径との相関も限定されないが、例えば、外径をR(係合歯113を有する場合には、係合歯113を除いた外周面112を基準とする外周の直径)、内径をR(内周の直径)とした場合、これらの比R/Rは、1≦R/R≦10とすることができ、1.05≦R/R≦5とすることができ、1.1≦R/R≦3とすることができる。
コアプレート11の厚さをD(mm)とした場合、厚さDは限定されないが、例えば、0.1≦D(mm)≦10mmとすることができ、0.3≦D(mm)≦7とすることができ、0.5≦D(mm)≦5とすることができる。
コアプレート11は、どのような材料から形成されてもよいが、例えば、各種炭素鋼(S35C、S55C等)、冷間圧延鋼板(SPCC、SPCCT等)、低炭素ハイテン鋼(NCH780等)などを用いることができる。
【0016】
[2]摩擦部
摩擦部12は、図1に示すように、セグメントピース13と、油溝14と、を備えている。具体的に、摩擦部12は、複数のセグメントピース13が、油溝14を介して、リング状に配置されることにより、形成されている。
摩擦部12は、湿式摩擦材10と、これに隣接された相手材(セパレータプレート等)と、の接触の程度によって、湿式摩擦材10と相手材との連動具合を調節する機能を有する。
即ち、湿式摩擦材10は、相手材に対し、ブレーキ機能(制動機能)やトルク伝達機能を有する。
摩擦部12は、コアプレート11の表側の主面111と裏側の主面111とで、同じ形態であってもよいし、異なる形態であってもよい。
【0017】
(1)セグメントピース
セグメントピース13は、摩擦部12を構成しており、その表面が摩擦面とされている。
セグメントピース13は、隣り合うセグメントピース13との間に、油溝14を区画形成している。即ち、油溝14の形状は、セグメントピース13の外形と、セグメントピース13の並び方により、決定される。
コアプレート11の1つの主面111に配置されるセグメントピース13の数は限定されないが、例えば、10以上100以下とすることができる。この数は、15以上90以下が好ましく、20以上80以下がより好ましく、25以上60以下が特に好ましい。
【0018】
セグメントピース13の構成は限定されず、例えば、基材繊維及び充填材を含んだ抄紙体を硬化性樹脂によって固めたものを利用できる。
基材繊維としては、各種の合成繊維、再生繊維、無機繊維、天然繊維等を利用できる。具体的には、セルロース繊維(パルプ)、アクリル繊維、アラミド繊維等が好ましい。
更に、充填材としては、摩擦調整剤としてのカシューダスト、固体潤滑剤としてのグラファイト及び/又は二硫化モリブデン、体質顔料としてのケイソウ土等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂及び/又はその変性樹脂を用いることができる。
また、セグメントピース13は、コアプレート11の主面111に対して、通常、接合して固定されるが、コアプレート11との接合方法は限定されず、熱融着、接着剤等を介した貼着(接着)等の方法を用いることができる。
【0019】
湿式摩擦材10は、セグメントピース13として、第1ピース131を備えている。
また、図1に示すように、湿式摩擦材10は、セグメントピース13として、第2ピース132を更に備えているものとすることができる。
以下、第1ピース131及び第2ピース132について説明する。
【0020】
(1-1)第1ピース
第1ピース131は、図2に示すように、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた形状のセグメントピースである。
即ち、第1ピース131は、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれた部位として第1上切除部131Aと、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた部位として第1下切除部131Bと、を有する形状のセグメントピースである。
なお、第1ピース131は、左上及び右上にそれぞれ第1上切除部131Aを有し、左下及び右下にそれぞれ第1下切除部131Bを有する、略T字形状のセグメントピースであるともいえる。
【0021】
第1ピース131は、第1上切除部131Aと第1下切除部131Bを有する形状であれば、その詳細な形状について、特に限定されない。
第1ピース131は、例えば、上辺131Cと下辺131Dが曲線の形状、具体的には、回転中心Pからの距離に応じた曲率となるよう上側へ膨らんだ曲線にすることができる。
第1ピース131は、隣接するセグメントピースとの間に形成される油溝14の溝幅を略一定にするべく、例えば、左右の側辺131Eを、その延長線上に回転中心Pが位置されるように傾斜させた形状にすることができる。
第1ピース131は、各角部を面取りした形状にすることができる。
【0022】
なお、図2中において、第1上切除部131Aは、左右で同じ大きさとされており、第1下切除部131Bは、左右で同じ大きさとされている。
第1上切除部131Aは、左右で同じ大きさとされることに限らず、左右で異なる大きさとしてもよい。
第1下切除部131Bは、左右で同じ大きさとされることに限らず、左右で異なる大きさとしてもよい。
【0023】
また、第1ピース131は、例えば、図3(a)~(d)に示すような形状とすることができる。
図3(a)に示した第1ピース131は、図2に示した形状と比べて、左右方向に拡幅した形状である。
図3(b)に示した第1ピース131は、図2に示した形状と比べて、第1下切除部131Bを大きくした形状である。
図3(c)に示した第1ピース131は、図2に示した形状と比べて、左右の第1下切除部131Bで大きさを変えることにより、左右非対象とした形状である。
図3(d)に示した第1ピース131は、図2に示した形状と比べて、左右の第1上切除部131Aを大きくした形状である。
【0024】
第1ピース131において、第1下切除部131Bの大きさは限定されないが、第1ピースの左右方向の最大長さをWP1とし、第1下切除部131Bの左右方向の長さをWD1とした場合に、0.08≦WD1/WP1≦0.34とすることができる。この範囲では優れた引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
D1/WP1は、更に0.1≦WD1/WP1≦0.3とすることができ、更に0.15≦WD1/WP1≦0.25とすることができる。
【0025】
具体的に、第1下切除部131Bの左右方向の長さWD1について、下限値は、1mm以上とすることができる。WD1の下限値は、更に1.7mm以上とすることができ、更に2.5mm以上とすることができる。
D1について、上限値は、3.5mm以下とすることができる。WD1の上限値は、更に3.2mm以下とすることができ、更に3mm以下とすることができる。
【0026】
第1ピース131において、第1下切除部131Bの大きさは限定されないが、第1ピースの上下方向の最大長さをHP1とし、第1下切除部131Bの上下方向の長さをHD1とした場合に、0.07≦HD1/HP1≦0.4とすることができる。この範囲では優れた引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
D1/HP1は、更に0.1≦HD1/HP1≦0.35とすることができ、更に0.15≦HD1/HP1≦0.3とすることができる。
【0027】
具体的に、第1下切除部131Bの上下方向の長さHD1について、下限値は、1mm以上とすることができる。HD1の下限値は、更に2mm以上とすることができ、更に3mm以上とすることができる。
D1について、上限値は、5mm以下とすることができる。WD1の上限値は、更に4.5mm以下とすることができ、更に4mm以下とすることができる。
【0028】
第1ピース131において、第1上切除部131Aの大きさは限定されないが、側辺131Eに対する切り込み角度をθとした場合に、20度≦θ≦60度とすることができる。この範囲では優れた引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
θは、更に30度≦θ≦55度とすることができ、更に40度≦θ≦50度とすることができる。
【0029】
第1ピース131において、第1上切除部131Aの大きさは限定されないが、第1ピースの上下方向の最大長さをHP1とし、第1上切除部131Aの上下方向の長さをHU1とした場合に、0.07≦HU1/HP1≦0.4とすることができる。この範囲では優れた引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
U1/HP1は、更に0.1≦WU1/WP1≦0.35とすることができ、更に0.2≦HU1/HP1≦0.3とすることができる。
【0030】
具体的に、第1上切除部131Aの上下方向の長さHU1について、下限値は、1mm以上とすることができる。HU1の下限値は、更に1.5mm以上とすることができ、更に2mm以上とすることができる。
U1について、上限値は、5mm以下とすることができる。HU1の上限値は、更に4.5mm以下とすることができ、更に4mm以下とすることができる。
【0031】
(1-2)第2ピース
第2ピース132は、図4に示すように、略四角形をなすピースの、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれ、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた形状のセグメントピースである。
即ち、第2ピース132は、左上角及び右上角が略三角形に切り除かれた部位として第2上切除部132Aと、左下角及び右下角が略三角形に切り除かれた部位として第2下切除部132Bと、を有する形状のセグメントピースである。
なお、第2ピース132は、左上及び右上にそれぞれ第2上切除部132Aを有し、左下及び右下にそれぞれ第2下切除部131Bを有する、略八角形状のセグメントピースであるともいえる。
【0032】
第2ピース132は、第2上切除部132Aと第2下切除部132Bを有する形状であれば、その詳細な形状について、特に限定されない。
第2ピース132は、例えば、上辺132Cと下辺132Dが曲線の形状、具体的には、回転中心Pからの距離に応じた曲率となるよう上側へ膨らんだ曲線にすることができる。
第2ピース132は、隣接するセグメントピースとの間に形成される油溝14の溝幅を略一定にするべく、例えば、左右の側辺132Eを、その延長線上に回転中心Pが位置されるように傾斜させた形状にすることができる。
第2ピース132は、各角部を面取りした形状にすることができる。
【0033】
なお、図4中において、第2上切除部132Aは、左右で同じ大きさとされており、第2下切除部132Bは、左右で同じ大きさとされている。
第2上切除部132Aは、左右で同じ大きさとされることに限らず、左右で異なる大きさとしてもよい。
第2下切除部132Bは、左右で同じ大きさとされることに限らず、左右で異なる大きさとしてもよい。
【0034】
また、第2ピース132は、例えば、図5(a)~(d)に示すような形状とすることができる。
図5(a)に示した第2ピース132は、図4に示した形状と比べて、左右方向に拡幅した形状である。
図5(b)に示した第2ピース132は、図4に示した形状と比べて、第2下切除部132Bを大きくした形状である。
図5(c)に示した第2ピース132は、図4に示した形状と比べて、左右の第2下切除部132Bで大きさを変えることにより、左右非対象とした形状である。
図5(d)に示した第2ピース132は、図4に示した形状と比べて、左右の第2上切除部132Aを大きくした形状である。
【0035】
第2ピース132において、第2下切除部132Bの大きさは限定されないが、第2ピースの左右方向の最大長さをWP2とし、第2下切除部132Bの左右方向の長さをWD2とした場合に、0.08≦WD2/WP2≦0.45とすることができる。この範囲では好適な引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
D2/WP2は、更に0.1≦WD2/WP2≦0.4とすることができ、更に0.15≦WD2/WP2≦0.3とすることができる。
【0036】
具体的に、第2下切除部132Bの左右方向の長さWD2について、下限値は、1mm以上とすることができる。WD2の下限値は、更に1.7mm以上とすることができ、更に2.5mm以上とすることができる。
D2について、上限値は、5mm以下とすることができる。WD2の上限値は、更に4mm以下とすることができ、更に3.5mm以下とすることができる。
【0037】
第2ピース132において、第2下切除部132Bの大きさは限定されないが、第2ピースの上下方向の最大長さをHP2とし、第2下切除部132Bの上下方向の長さをHD2とした場合に、0.07≦HD2/HP2≦0.4とすることができる。この範囲では好適な引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
D2/HP2は、更に0.1≦HD2/HP2≦0.35とすることができ、更に0.15≦HD2/HP2≦0.3とすることができる。
【0038】
具体的に、第2下切除部132Bの上下方向の長さHD2について、下限値は、1mm以上とすることができる。HD2の下限値は、更に2mm以上とすることができ、更に3mm以上とすることができる。
D2について、上限値は、5mm以下とすることができる。WD2の上限値は、更に4.5mm以下とすることができ、更に4mm以下とすることができる。
【0039】
第2ピース132において、第2上切除部132Aの大きさは限定されないが、側辺132Eに対する切り込み角度をθとした場合に、20度≦θ≦60度とすることができる。この範囲では好適な引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
θは、更に30度≦θ≦55度とすることができ、更に40度≦θ≦50度とすることができる。
【0040】
第2ピース132において、第2上切除部132Aの大きさは限定されないが、第2ピースの上下方向の最大長さをHP2とし、第2上切除部132Aの上下方向の長さをHU2とした場合に、0.07≦HU2/HP2≦0.4とすることができる。この範囲では好適な引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
U2/HP2は、更に0.1≦WU2/WP2≦0.35とすることができ、更に0.2≦HU2/HP2≦0.3とすることができる。
【0041】
具体的に、第2上切除部132Aの上下方向の長さHU2について、下限値は、1mm以上とすることができる。HU2の下限値は、更に1.5mm以上とすることができ、更に2mm以上とすることができる。
U2について、上限値は、5mm以下とすることができる。HU2の上限値は、更に4.5mm以下とすることができ、更に4mm以下とすることができる。
【0042】
(1-3)第1ピース及び第2ピースについて
第1ピース131の最大幅Wp1と、第2ピース132の最大幅Wp2とは、異なってもよいが、同じであることが好ましい。
同じである場合には、各セグメントピース間に形成される油溝14の形状を揃えることができ、形状のばらつきを抑制することで、引き摺りトルク低減を良好に達することができる。
【0043】
第1ピース131の第1下切除部131Bと、第2ピース132の第2下切除部132Bについて、左右方向の長さWD1及びWD2と、上下方向の長さHD1及びHD2は、異なってもよいが、同じであることが好ましい。
同じである場合には、各セグメントピース間に形成される油溝14の形状を揃えることができ、形状のばらつきを抑制することで、引き摺りトルク低減を良好に達することができる。
【0044】
第1ピース131の第1上切除部131Aと、第2ピース132の第2上切除部132Aについて、切り込み角度θ及びθと、上下方向の長さHU1及びHU2は、異なってもよいが、同じであることが好ましい。
同じである場合には、各セグメントピース間に形成される油溝14の形状を揃えることができ、形状のばらつきを抑制することで、引き摺りトルク低減を良好に達することができる。
【0045】
(2)油溝
油溝14は、2つのセグメントピース13が離間して配置されることで、これらの間隙として形成される潤滑油の流路となる溝である。
湿式摩擦材10において、図6に示すように、各セグメントピース13は、互いに離間して配置されており、各々の間隙として油溝14を有する。
即ち、油溝14は、湿式摩擦材10の内周側から外周側へ貫通された貫通溝である。
【0046】
油溝14は、湿式摩擦材10の内周側から供給された潤滑油を、外周側へ向かって排出するガイドとして機能され得る。
油溝14は、セグメントピース13の数に応じた複数が、コアプレート11の主面111上に配置されている。
全てのセグメントピース13が、離間して配置される場合、油溝14の数は、セグメントピース13の数と同数になる。
【0047】
セグメントピース13として、第1ピース131のみ、又は第1ピース131及び第2ピース132が使用されている場合、油溝14は、湿式摩擦材10の内周側の端部に、油溜溝141を有する形状となる(図6参照)。
即ち、隣り合う第1ピース131同士の間に形成される油溝14は、第1下切除部131Bの間の部位が拡幅されており、この部位が油溜溝141となる。
なお、第2ピース132には第2下切除部132Bが設けられていることから、隣り合う第2ピース132同士の間に形成される油溝14と、隣り合う第1ピース131と第2ピース132の間に形成される油溝14もまた、油溜溝141を有する形状となる。
【0048】
油溜溝141を有する油溝14は、拡幅された油溜溝141に幅狭な油溝14が続く形状とされているから、油溜溝141からコアプレート11の外周側へ向かう潤滑油の流れが抑制されることにより、油溜溝141に潤滑油を溜めることができる。
この油溜溝141に溜められた潤滑油は、湿式摩擦材10の回転による遠心力等により、セグメントピース13を乗り越えて、摩擦部12の表面へ乗り上げる。
このため、油溜溝141を有する油溝14は、摩擦部12の表面への潤滑油の乗り上げを促す作用を有している。
【0049】
セグメントピース13として、第1ピース131のみ、又は第1ピース131及び第2ピース132が使用されている場合、油溝14は、湿式摩擦材10の外周側の端部に、油排溝142を有する形状となる(図6参照)。
即ち、隣り合う第1ピース131同士の間に形成される油溝14は、第1上切除部131Aの間の部位が拡幅されており、この部位が油排溝142となる。
なお、第2ピース132には第2上切除部132Aが設けられていることから、隣り合う第2ピース132同士の間に形成される油溝14と、隣り合う第1ピース131と第2ピース132の間に形成される油溝14もまた、油排溝142を有する形状となる。
【0050】
油排溝142を有する油溝14は、幅狭な油溝14に拡幅された油排溝142が続く形状とされているから、コアプレート11の外周側に向かって広く開放された油排溝142からの潤滑油の排出が促進されることにより、潤滑油を積極的に排出させることができる。
このため、油排溝142を有する油溝14は、摩擦部12の表面における潤滑油の滞留を抑制し、その潤滑油のコアプレート11の外周側への排出を促す作用を有している。
【0051】
油溝14の大きさは限定されないが、例えば、油溜溝141及び油排溝142以外の油溝14の幅Dは、0.1mm以上、10mm以下が好ましく、0.2mm以上、7mm以下がより好ましく、0.5mm以上、5mm以下が特に好ましい。
油溜溝141の最大幅Dは、例えば、2.5mm以上、13mm以下が好ましく、4mm以上、12mm以下がより好ましく、5mm以上、10mm以下が特に好ましい。
油排溝142の最大幅Dは、例えば、2.5mm以上、23mm以下が好ましく、4mm以上、17mm以下がより好ましく、5mm以上、10mm以下が特に好ましい。
【0052】
(3)セグメントピースの組合せ
セグメントピース13は、図7に示すように、第1ピース131の1種のみを用いてもよいが(図7参照)、第1ピース131及び第2ピース132の2種を組み合わせて用いることが好ましい(図1図8図9図10参照)。第1ピース131及び第2ピース132の2種を組み合わせて用いる場合、優れた引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
なお、セグメントピース13は、第1ピース131及び第2ピース132の2種以外の形状のピースを用いてもよい。
【0053】
セグメントピース13は、第1ピース131及び第2ピース132の2種を組み合わせて用いる場合、所定数の第1ピース131と、第1ピースと同数又は異数の第2ピース132とが、コアプレート11の周方向で交互に配設されていることが好ましい。
このようなセグメントピース13の組み合わせとして、例えば、図8に示すように、1個の第1ピース131と、第1ピース131と同数で1個の第2ピース132とが、コアプレート11の周方向で1個ずつ交互に配設されている組み合わせが挙げられる。
他に、図9に示すように、5個の第1ピース131と、これら第1ピース131と異数で1個の第2ピース132とが、コアプレート11の周方向で交互に配設されている組み合わせとすることができる。
【0054】
複数個の第1ピース131と複数個の第2ピース132とを組み合わせる場合、第1ピース131は、コアプレート11の周方向で連続する複数個が第1ピース群13Aを形成し、第2ピース132は、コアプレート11の周方向で連続する複数個が第2ピース群13Bを形成して、第1ピース群13Aと、第2ピース群13Bとが、コアプレート11の周方向で交互に配設されていることが好ましい。
例えば、図1に示すように、第1ピース131は、コアプレート11の周方向で連続する3個が第1ピース群13Aを形成し、第2ピース132は、第1ピースと異数の2個がコアプレート11の周方向で連続して第2ピース群13Bを形成している。そして、第1ピース群13Aと、第2ピース群13Bとが、コアプレート11の周方向で交互に配設されている。
また、図10に示すように、第1ピース131は、コアプレート11の周方向で連続する2個が第1ピース群13Aを形成し、第2ピース132は、第1ピース131と同数の2個がコアプレート11の周方向で連続して第2ピース群13Bを形成している。そして、第1ピース群13Aと、第2ピース群13Bとが、コアプレート11の周方向で交互に配設されている。
【0055】
セグメントピース13は、第1ピース131と、第2ピース132等の第1ピース131以外のピースとを組み合わせて用いる場合、第1ピース131の個数は、セグメントピース13の総数に対して10%以上90%以下であることが好ましい。
また、セグメントピース13は、第1ピース131と第2ピース132の2種を組み合わせて用いる場合、第1ピース131の個数は、セグメントピース13の総数に対して50%以上90%以下であることが好ましい。即ち、第1ピース131と第2ピース132の2種を組み合わせる場合、第1ピース131と第2ピース132は、同数ずつを有してもよいが、第2ピース132に比べて第1ピース131を多くすることで、引き摺りトルク低減を良好に達することができる。
【0056】
[3]引き摺りトルク低減
(1)乗り上げ効果
湿式摩擦材10を、潤滑油の存在下でコアプレート11のリング形状の中心を回転中心Pとし、例えば、図1に示すように反時計回りに回転させた場合を想定して、これについて説明する。
潤滑油は、コアプレート11の内周側から湿式摩擦材10に供給され、この湿式摩擦材10による遠心力を受けることで、コアプレート11の外周側へ、油溝14を介して排出される。
詳述すると、潤滑油は、コアプレート11の内周側から、油溝14の内周側の端部の油溜溝141に流入され、油溝14を通り、油溝14の外周側の端部の油排溝142から、コアプレート11の外周側へ排出される。
【0057】
油溜溝141は、第1ピース131の、左下角及び右下角が略四角形に切り除かれた部位、つまり第1下切除部131Bによって区画形成されたものであり、油溝14において油溜溝141を通過した後から油排溝142に至る迄の流路は、油溜溝141の流路に比べ、幅狭となる。
このため、油溜溝141に流入された潤滑油は、第1下切除部131Bの内面が堰部131Fとなり、堰部131Fによってコアプレート11の内周側から外周側への流れを一時的に堰き止められて、油溜溝141に溜められる。
油溜溝141に溜められた潤滑油は、やがて堰部131Fを乗り超えられる量となると、油溜溝141から溢れて、摩擦部12の表面へ乗り上がる(図1中に記載の太矢印を参照)。
【0058】
即ち、第1ピース131の形状は、第1下切除部131Bに、潤滑油を摩擦部12の表面へ乗り上げさせる堰部131Fが形成される形状である、といえる。
この堰部131Fによって摩擦部12の表面へ乗り上げさせた潤滑油は、遠心力を受けることにより、第1ピース131上を、湿式摩擦材10の回転方向と逆方向(時計方向)で外周側へ向かうように移動する(図1中に記載の太矢印を参照)。
第1ピース131上を移動する潤滑油は、第1上切除部131Aによって区画形成された油排溝142に達し、この油排溝142に流入されて、油排溝142から湿式摩擦材10の外周側へ排出される。
【0059】
潤滑油は、第1ピース131上を移動する際、この第1ピース131の表面に油膜を形成する。
この油膜は、潤滑油が油溜溝141から油排溝142へ迅速に亘ることにより、湿式摩擦材10と相手材(例えば、セパレータプレート)との潤滑を保持できる程度に必要かつ十分な量の潤滑油によって形成される。
即ち、第1ピース131は、第1下切除部131Bに堰部131Fが形成され、かつ第1上切除部131Aを有する形状とすることにより、潤滑油を摩擦部12の表面へ乗り上げさせて排出させる、乗り上げ効果を備えるものである。
この乗り上げ効果により、湿式摩擦材10と相手材(例えば、セパレータプレート)との間に存在する潤滑油は、潤滑を保持可能な必要かつ十分な量に留められており、湿式摩擦材10と相手材との連れ回りが抑制されて、引き摺りトルク低減を達することができる。
【0060】
(2)第1ピース131及び第2ピース132の組み合わせによる効果
第1ピース131及び第2ピース132の2種が組み合わされて用いられた湿式摩擦材10について説明する。
第2ピース132は、第2下切除部132Bと第2上切除部132Aとを有する形状とされており、第1ピース131と略同様に、潤滑油を摩擦部12の表面へ乗り上げさせて排出させる、上述の乗り上げ効果を備えるものである(図1中に記載の細矢印を参照)。
【0061】
第1ピース131の第1下切除部131Bと、第2ピース132の第2下切除部132Bと、を比較すると、左右方向の長さWD1及びWD2と、上下方向の長さHD1及びHD2が略同じである場合、平面視において、第1下切除部131Bの面積は、第2下切除部132Bの面積よりも広くなる
このため、油溜溝141において、第1下切除部131Bは、第2下切除部132Bと比べると、より多くの量の潤滑油を溜めることができ、より多くの量の潤滑油を摩擦部12の表面へ乗り上げさせることができる。
つまり、第1ピース131と第2ピース132は、両者共に乗り上げ効果を備えるものであるが、第1ピース131による乗り上げ効果は、第2ピース132のそれに比べ、より多くの量の潤滑油を摩擦部12の表面へ乗り上げさせることができる分、強くなる(図1中に記載の太矢印を参照)。
また、第2ピース132による乗り上げ効果は、第1ピース131のそれに比べ、弱くなる(図1中に記載の細矢印を参照)。
【0062】
湿式摩擦材10は、第1ピース131(第1ピース群13A)と、第2ピース132(第2ピース群13B)とが、コアプレート11の周方向で交互に配設されている場合、第1ピース131による乗り上げ効果が強い部位と、第2ピース132による乗り上げ効果が弱い部位と、の両部位を備えるものとすることができる。
つまり、湿式摩擦材10は、セグメントピース13として第1ピース131及び第2ピース132の両者を用いる場合、乗り上げ効果について、強弱ムラを形成することができる。
【0063】
引き摺りトルクは、離間されて相対回転されている湿式摩擦材と相手材(例えば、セパレータプレート)とが、両者の周囲に存在する潤滑油をなかだちとして連繋し、連れ回りすることによって生じる。
従って、引き摺りトルク低減を達するには、相対回転されている湿式摩擦材と相手材との回転差を利用し、湿式摩擦材から相手材を引き剥がしたり、両者の周囲、特に連れ回りの力が大きくなる外周部分に存在する潤滑油を剪断したり等する方法で、両者の連れ回りを抑制することが好ましい。
【0064】
上述のように、第1ピース131及び第2ピース132の両者を用いた湿式摩擦材10は、乗り上げ効果について、強弱ムラを形成することができる。この湿式摩擦材10は、油溜溝141から摩擦部12の表面へ乗り上げる潤滑油の量について、乗り上げ効果の強い部位は多く、乗り上げ効果の弱い部位は少ない。
乗り上げ効果の弱い部位では、摩擦部12の表面へ乗り上げる潤滑油の量が少なく、相手材との連繋のなかだちとなる潤滑油の量が少ないため、相対回転の回転差による弱い力(回転トルク)であっても、湿式摩擦材から相手材を容易に引き剥がすことができる。そして、乗り上げ効果の弱い部位で湿式摩擦材から相手材が引き剥がされると、これに影響されて、乗り上げ効果の強い部位でも湿式摩擦材から相手材が引き剥がされやすくなる。
従って、第1ピース131及び第2ピース132の両者を用いた湿式摩擦材10は、乗り上げ効果が全体で一様とされた湿式摩擦材と比べた場合、乗り上げ効果の強弱ムラが意図的に形成されることにより、相対回転の回転差を利用して湿式摩擦材から相手材を容易に引き剥がす、所謂、引き剥がし効果を得ることができる。
【0065】
更に、乗り上げ効果について強弱ムラを形成された湿式摩擦材10は、摩擦部12の表面から油排溝142へ移動する潤滑油の量について、乗り上げ効果の強い部位は多く、乗り上げ効果の弱い部位は少ない。
乗り上げ効果の弱い部位では、油排溝142から外周側へ排出される潤滑油の量が少ないため、湿式摩擦材10の外周部分において、潤滑油の剪断に要する抵抗は小さくなり、相対回転の回転差による弱い力(回転トルク)でも潤滑油を剪断することができる。
従って、第1ピース131及び第2ピース132の両者を用いた湿式摩擦材10は、乗り上げ効果が全体で一様とされた湿式摩擦材と比べた場合、乗り上げ効果の強弱ムラが形成されることにより、外周部分における潤滑油の剪断抵抗を抑制することができる。
【0066】
上述したように、第1ピース131及び第2ピース132の両者を用いた湿式摩擦材10は、乗り上げ効果について、強弱ムラを意図的に形成することができる。
乗り上げ効果の強弱ムラを意図的に形成された湿式摩擦材10は、相手材に対する引き剥がし効果を得ることができるとともに、外周部分における潤滑油の剪断抵抗を抑制することができる。
そして、引き剥がし効果と、潤滑油の剪断抵抗の抑制により、乗り上げ効果の強弱ムラを意図的に形成された湿式摩擦材10は、優れた引き摺りトルク低減を達することができる。
【実施例
【0067】
以下では、本発明を実施例によって説明する。尚、各実施例に共通する説明は省略する。
[1]湿式摩擦材の調整
[実施例1]
実施例1の湿式摩擦材10(図1参照)は、コアプレート11と、コアプレート11の主面111(表側の主面111及び裏側の主面111の両面)に配置された摩擦部12と、を備える。
摩擦部12は、複数のセグメントピース13と、セグメントピース13同士の間に形成された油溝14と、を備えている。
湿式摩擦材10は、セグメントピース13として、複数個の第1ピース131と、複数個の第2ピース132とを備えている。セグメントピース13の総数は、45個である。これらセグメントピース13のうち、27個が第1ピース131であり、18個が第2ピース132である。
第1ピース131は、コアプレート11の周方向で連続する3個が第1ピース群13Aを形成しており、第2ピース132は、コアプレート11の周方向で連続する2個が第2ピース群13Bを形成している。
第1ピース群13Aと第2ピース群13Bは、コアプレート11の周方向で交互になるように配設されている。
【0068】
第1ピース131について、左右方向の最大長さをWP1とし、第1下切除部131Bの左右方向の長さをWD1とした場合に、WD1/WP1=0.18であり、WD1=2mmである。また、上下方向の最大長さをHP1とし、第1下切除部131Bの上下方向の長さをHD1とした場合に、HD1/HP1=0.36であり、HD1=4.5mmである。
第2ピース132について、第2下切除部132Bの左右方向の長さをWD2とした場合に、WD2=WD1=2mmであり、第2下切除部132Bの上下方向の長さをHD2とした場合に、HD2=HD1=4.5mmである。
【0069】
セグメントピース13は、パルプ及びアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤と、珪藻土等の充填剤と、を抄造して得られた抄紙体に、熱可硬化性樹脂(樹脂結合剤)を含浸させて加熱硬化したものである。セグメントピース13は、コアプレート11の表裏の両主面に、加圧加熱によって接合されている。
コアプレート11は、NCH780製であり、その外周に歯車状に形成された係合歯113を有する。コアプレート11の外径(係合歯113を除いたコアプレート11の外周によって規定される直径)は、176mmであり、コアプレート11の内径は、148.4mmである。
【0070】
[実施例2]
実施例2の湿式摩擦材10(図7参照)は、セグメントピース13として、第1ピース131のみを備えており、その総数は、45個である。この差異以外は、実施例1の湿式摩擦材1と同様である。
【0071】
[比較例1]
比較例1の湿式摩擦材10(図11参照)は、セグメントピース13として、第2ピース132のみを備えており、その総数は、45個である。この差異以外は、実施例1の湿式摩擦材1と同様である。
【0072】
[2]引き摺りトルクと回転数との相関
上記[1]の実施例1、2及び比較例1の各湿式摩擦材を、各々4枚ずつ用いて、下記の試験条件下でSAE摩擦試験機により、その回転数500-3000rpmの間で、引き摺りトルクを測定した。得られた結果を図12にグラフにして示した。
なお、図12は、縦軸の上側程、引き摺りトルクが大きいことを示す。
【0073】
(1)試験条件
自動変速機潤滑油(Automatic Transmission Fluid、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは当該登録商標とは無関係に以下「ATF」と略す。)について油温:80℃、ATF油量:0.5L/min(軸心潤滑)とし、湿式摩擦材の間隔についてパッククリアランス:0.20mm/枚の環境下で、試験体の湿式摩擦材を4枚セットし、回転速度を500~3000rpmまで変化させ、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、2500rpm、3000rpmの6点において引き摺りトルク(N・m)を測定した。また、測定時間は15秒/各回転、繰返し回数は5回とした。
【0074】
(2)試験例の効果
図12の結果から、実施例のいずれの湿式摩擦材においても、比較例に対して引き摺りトルクが低減されていることが分かる。
即ち、セグメントピース13として、第2ピース132のみを備える比較例1に比べ、実施例1、2では、500~3000rpmのすべての領域において優位な引き摺りトルク低減が認められた。
また、セグメントピース13として、第1ピース131のみを備える実施例2に比べ、第1ピース131及び第2ピース132の両者を備える実施例1では、500~3000rpmのすべての領域において、更に優位な引き摺りトルク低減が達せられていた。
特に、実施例1では、500~1000rpmの領域において、優れた引き摺りトルク低減が達せられており、第1ピース131及び第2ピース132の併用による引き摺りトルク低減は、相対回転数がより小さい範囲で優位に働くものと考えられる。
【0075】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の湿式摩擦材の用途は特に限定されず、例えば、自動車(四輪自動車、二輪自動車等)、鉄道車両、船舶、飛行機等において広く適用される。このうち自動車用品としては、自動変速機(オートマチックトランスミッション、AT)に好適に用いられる。本湿式摩擦材は、変速機内で1枚のみ用いられてもよく、複数枚が用いられてもよいが、複数枚が用いられることが好ましい。本湿式摩擦材は、1つの変速機内でより多く用いられる方が、積算的に大きな効果を得ることができる。即ち、湿式摩擦材の利用枚数が多い湿式多板クラッチにおいてより効果的に引き摺りトルクを低減できる。
【符号の説明】
【0077】
10;湿式摩擦材、11;コアプレート、P;回転中心、111;主面、112;外周面、113;係合歯、
12;摩擦部、13;セグメントピース、13A;第1ピース群、13B;第2ピース群、
131;第1ピース、131A;第1上切除部、131B;第1下切除部、131C;上辺、131D;下辺、131E;側辺、131F;堰部、
132;第2ピース、132A;第2上切除部、132B;第2下切除部、132C;上辺、132D;下辺、132E;側辺、
14;油溝、141;油溜溝、142;油排溝。
図1
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