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特許7576022抗IL-1β抗体およびその医薬組成物およびそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】抗IL-1β抗体およびその医薬組成物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20241023BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241023BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241023BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241023BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C07K16/24 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P37/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P9/00
A61P9/10
A61P35/00
A61P35/02
A61P19/02
【請求項の数】 61
(21)【出願番号】P 2021507628
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 CN2019100343
(87)【国際公開番号】W WO2020034941
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】201810920403.6
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CCTCC  CCTCC C2018133
(73)【特許権者】
【識別番号】520404676
【氏名又は名称】アケソ バイオファーマ カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】パイヨン リー
(72)【発明者】
【氏名】ユイ シア
(72)【発明者】
【氏名】チョンミン マクスウエル ワン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ポン
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534646(JP,A)
【文献】Brinkmann U. et al.,Int J Cancer,1997年,Vol. 71,pp. 638-644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号17~19に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するHCDR1~HCDR3を含む重鎖可変領域と、
配列番号20~22に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するLCDR1~LCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗IL-1β抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号2、配列番号6、配列番号10、および配列番号14から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号4、配列番号8、配列番号12、および配列番号16から選択されるアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体の重鎖可変領域は配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域は配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む、
前記抗体の重鎖可変領域は配列番号6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む、
前記抗体の重鎖可変領域は配列番号10に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域は配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む、あるいは
前記抗体の重鎖可変領域は配列番号14に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域は配列番号16に記載のアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、dAb、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびダイアボディから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体またはその抗原結合断片は、10-5 M未満、10-6 M未満、10-7 M未満、10-8 M未満、10-9 M未満、または10-10 M未満のKDでヒトIL-1βタンパク質に結合する、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記KDは、ビアコア分子相互作用機器により測定される、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体またはその抗原結合断片は、マウス以外の種に由来する非CDR領域を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗体またはその抗原結合断片は、ヒトに由来する非CDR領域を含む、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記抗体またはその抗原結合断片はヒトに由来する定常領域を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4の定常領域から選択される、請求項9に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記抗体の重鎖定常領域はIg γ1鎖C領域またはIg γ4鎖C領域であり、かつ軽鎖定常領域はIg κ鎖C領域である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
前記抗体またはその抗原結合断片は、CCTCC受託番号C2018133を有するタイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託された融合細胞株LT010によって産生されたモノクローナル抗体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
抗体またはその抗原結合断片および小分子薬物を含む抗体薬物複合体であって、抗体またはその抗原結合断片は、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片である、抗体薬物複合体。
【請求項14】
前記小分子薬物は小分子細胞毒性薬である、請求項13に記載の抗体薬物複合体。
【請求項15】
前記小分子薬物は腫瘍化学療法薬である、請求項13または14に記載の抗体薬物複合体。
【請求項16】
前記抗体またはその抗原結合断片はリンカーを介して前記小分子薬物に連結されている、請求項13から15のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項17】
前記リンカーは、ヒドラゾン結合、ジスルフィド結合、またはペプチド結合である、請求項16に記載の抗体薬物複合体。
【請求項18】
前記抗体またはその抗原結合断片対前記小分子薬物のモル比が1:1~1:4である、請求項13から17のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体。
【請求項19】
第1のタンパク質機能領域および第2のタンパク質機能領域を含む二重特異性抗体であって、ここで
前記第1のタンパク質機能領域はIL-1βを標的とし、かつ
前記第2のタンパク質機能領域はIL-1β以外の標的を標的とし、
ここで、前記第1のタンパク質機能領域は、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片である、
二重特異性抗体。
【請求項20】
前記二重特異性抗体は、IgG-scFv形態である、請求項19に記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
前記第1のタンパク質機能領域は請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片であり、かつ前記第2のタンパク質機能領域は一本鎖抗体である、請求項19に記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
前記第1のタンパク質機能領域は請求項4に記載の一本鎖抗体であり、かつ前記第2のタンパク質機能領域は抗体である、請求項19に記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
前記第1および第2のタンパク質機能領域は直接またはリンカー断片を介して連結されている、請求項19から22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項24】
前記リンカー断片は(GGGGS)mであり、mは1、2、3、4、5または6などの正の整数である、請求項23に記載の二重特異性抗体。
【請求項25】
前記リンカー断片はSS(GGGGS)nであり、nは1、2、3、4、5または6などの正の整数である、請求項23に記載の二重特異性抗体。
【請求項26】
前記第1および第2のタンパク質機能領域の数がそれぞれ独立して1、2またはそれ以上である、請求項19から25のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項27】
前記一本鎖抗体が前記抗体の重鎖のC末端に連結されている、請求項19から26のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項28】
抗体重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列および抗体軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子であって、ここで
前記単離された核酸分子は、抗IL-1β抗体またはその抗原結合断片をコードし、かつ
前記抗体重鎖可変領域は、配列番号17~19に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ前記抗体軽鎖可変領域は、配列番号20~22に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するLCDR1~LCDR3を含む、
単離された核酸分子。
【請求項29】
前記抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号6、配列番号10、および配列番号14から選択され、かつ前記抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号4、配列番号8、配列番号12、および配列番号16から選択される、請求項28に記載の単離された核酸分子。
【請求項30】
前記抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号2に記載され、かつ前記抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4に記載されるか、前記抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に記載され、かつ前記抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に記載されるか、前記抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載され、かつ前記抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号12に記載されるか、または、前記抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に記載され、かつ前記抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に記載される、請求項28または29のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項31】
前記単離された核酸分子は
配列番号1および配列番号3に記載のヌクレオチド配列、
配列番号5および配列番号7に記載のヌクレオチド配列、
配列番号9および配列番号11に記載のヌクレオチド配列、または
配列番号13および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含む、
請求項28から30のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項32】
請求項28から31のいずれか一項に記載の単離された核酸分子を含む組換えベクター。
【請求項33】
請求項28から31のいずれか一項に記載の単離された核酸分子または請求項32に記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
【請求項34】
請求項33に記載の宿主細胞を適切な条件で培養し、抗体またはその抗原結合断片をその細胞培養から単離することを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を調製する方法。
【請求項35】
タイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託されたCCTCC受託番号C2018133を有する融合細胞株LT010。
【請求項36】
請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物。
【請求項37】
薬学的に許容される担体および/または賦形剤をさらに含む、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
自己免疫疾患、心血管および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群、全身性若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎の治療および/または予防のための薬剤の調製における、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項39】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択される、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項42】
前記心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳卒中から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項43】
前記腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項44】
前記痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である、請求項38に記載の使用。
【請求項45】
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断する薬剤、
ヒトIL-1βの活性またはレベルを下方制御する薬剤、または
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害する薬剤
の調製における、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項46】
自己免疫疾患、心血管疾患および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人のクリオピリン関連周期性症候群、全身性若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎の治療および/または予防に使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項47】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択される、請求項46に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項48】
前記周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択される、請求項47に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項49】
前記小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択される、請求項46に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項50】
前記心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳卒中から選択される、請求項46に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項51】
前記腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択される、請求項46に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項52】
前記痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である、請求項46に記載の抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物複合体、または二重特異性抗体。
【請求項53】
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断すること、
ヒトIL-1βの活性またはレベルを下方制御すること、または
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害すること
における使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項54】
自己免疫疾患、心血管および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群、全身性若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎を治療および/または予防する方法における使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を含む組成物であって、該方法は、該抗体またはその抗原結合断片、該抗体薬物複合体、または該二重特異性抗体の有効量を必要とする対象に投与することを含む、
組成物。
【請求項55】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択される、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択さる、請求項55に記載の組成物。
【請求項57】
前記小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択される、請求項54に記載の組成物。
【請求項58】
前記心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳卒中から選択される、請求項54に記載の組成物。
【請求項59】
前記腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択される、請求項54に記載の組成物。
【請求項60】
前記痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である、請求項54に記載の組成物。
【請求項61】
請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項13から18のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体、または請求項19から27のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の有効量を細胞に投与することを含む、インビトロの方法であって、
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断する方法、
ヒトIL-1βの活性またはレベルを下方制御する方法、および
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害する方法
から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に属し、抗IL-1β抗体、その医薬組成物、およびその使用に関する。具体的には、本発明は、抗ヒトIL-1β抗体に関する。より具体的には、本発明は、抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体に関する。さらに具体的には、本発明は、抗ヒトIL-1βヒト化モノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-1(IL-1)ファミリーは、2つの炎症誘発性因子(IL-1αおよびIL-1β)とIL-1受容体拮抗薬(IL-1Ra)からなり、IL-1αおよびIL-1βは効果的にIL-1受容体を活性化し、IL-1RaはIL-1受容体の表面に付着してシグナル伝達を遮断する。IL-1βは主に単球とマクロファージによって合成される。カスパーゼ-1によって切断されると、IL-1β前駆体タンパク質は活性化される。IL-1受容体ファミリーにはIL-1R1、IL-1R2、IL-1R3(IL-1受容体アクセサリータンパク質すなわちIL-1RAcPとしても知られている)、IL-1R4、IL-1R5、IL-1R6、IL-1R7、IL-1R8、IL-18BP、および2つの孤児受容体(IL-1R9およびIL-1R 10)を含む複数のリガンドの亜型がある。
【0003】
最近、IL-1βはIL-1R1およびIL-1R2に結合できることが見出された。IL-1R1(1型IL-1受容体またはIL-1R1としても知られる)は膜貫通型受容体であり、IL-1βおよびIL-1RAcPに結合して受容体複合体を形成し、関連する下流の細胞内シグナル伝達経路を活性化し、IL-1β関連の生物学的効果を媒介する。IL-1R2はIL-1R1よりもIL-1βに対して高い親和性を持っている。ただし、IL-1R2は、細胞内セグメントが短いため、IL-1βに結合した後は関連する細胞内シグナル伝達経路を活性化できない。IL-1R1とIL-1R2はどちらも可溶型で存在する可能性がある (Boraschi et al. Immunological Reviews. 281:197-232. (2018))。
【0004】
IL-1βは、自然免疫および適応免疫に関与するエフェクター細胞の動員と活性化を調節し、子供と大人のクリオピリン関連周期性症候群のような病気の発生と同様に、慢性疾患(たとえば痛風性関節炎)、さまざまな自己免疫疾患(たとえば関節リウマチ、多発性硬化症、および定期的な発熱症候群)、ならびに自己炎症性疾患(たとえば全身性若年性特発性関節炎)の病因にも関与している。IL-1β経路は、急性骨髄性白血病、肝臓がん、肺がん、心血管疾患、脳血管疾患などの腫瘍の発生に関与していることが最近確認されており、IL-1βを標的とする薬剤は優れた治療効果と予防効果を示している(Cozzolino F et al. Proc Natl Acad Soci USA. 86:2369 (1989); Nakazaki H et al. Cancer. 70(3):709 (1992); Ridker PM et al.Lancet. 390(10105):1833-1842 (2017))。
【0005】
関節リウマチ(RA)は、関節病変が優勢な全身性の慢性自己免疫疾患である。IL-1βはRAの発症に重要な役割を果たす。高レベルのIL-1βがRA患者の滑液中に存在し(van den Berg et al. Baillieres Best Pract Res Clin Rheumatol. 13:577-97(1999)、IL-1βは白血球の浸潤と関節中のマトリックス・メタロプロテイナーゼの分泌を媒介し、軟骨の分解を誘発し、かつ新な軟骨基質の合成を阻害して、関節の破壊に至る(van den Berg et al. Baillieres Best Pract Res Clin Rheumatol. 13:577-97 (1999); Johnson LL et al. Curr Opin Chem Biol. 2:466-471 (1998))。RA患者では、IL-1βは破骨細胞の分化と活性化を刺激し、RAの影響を受けた関節の骨侵食の発生に関与する(Gravallese EM et al. Ann Rheum Dis. 61:ii 84-86 (2002); Ghivizzani SC et al. J Immunol. 1:3604-12 (1997); Horai R et al. J Exp Med. 191:313-20 (2000); Gravallese EM et al. Arthritis Rheum. 43:250-8 (2000); Takayanagi H et al. Arthritis Rheum. 43:259-69 (2000))。さらに、IL-1βは、TNF-αおよびIL-6が関与する経路を調節して、白血球浸潤およびパンヌス組織形成に加えて、滑膜における骨量減少を促進する(Strand V et al. Rheumatology (Oxford). 43:iii10-iii16 (2004))。臨床研究から、IL-1βアンタゴニストがRAの身体的徴候および症状を有意に軽減する(Mertens M et al. J Rheumatol. 36(6):1118-25 (2009))こと、および抗ヒトIL-1βmAbカナキヌマブ(Ilaris(登録商標))がRA患者の疾患活動性を大幅に低下させる (Alten R et al. Arthritis Res Ther. 10:R67 (2008); Alten R et al. BMC Musculoskeletal Disorders. 12:153 (2011))ことが分かった。
【0006】
痛風は、尿酸一ナトリウムの沈着によって引き起こされる結晶関連関節症であり、尿酸代謝の障害および/または尿酸排泄の減少によって引き起こされる高尿酸血症と直接関係し、特に急性の特徴的な関節炎および慢性の痛風結石症(主に急性発症関節炎、痛風形成、痛風慢性関節炎、尿酸腎症、尿酸結石炎、さらには重症の場合は関節障害や腎不全を含む)を意味する。痛風はしばしば腹部肥満、高脂血症、高血圧、2型糖尿病、心血管疾患などを併発する。IL-1βは痛風の炎症の発症を促進する要因である(Cumpelik A et al. Ann Rheum Dis. pii: annrheumdis-2015-207338 (2015))。ある研究によると、痛風性関節炎の患者では、単一単核細胞のIL-1βmRNAと末梢血の血清IL-1βの両方の発現が、健常対照群の発現よりも著しく高く、また急性期群の発現は慢性期群および間欠期群の発現よりも著しく高いことが分かっている。すなわち、血清IL-1βの濃度は、白血球、好中球顆粒球、赤血球沈降速度などの指標と正の相関があり、IL-1βが急性および慢性痛風関節炎の両方に関与している可能性があり、炎症の程度とも相関していることを示唆している。また、間欠期群の血清IL-1β濃度は健常対照群よりも著しく高く、関節の症状は消えても関節や組織の炎症が残っている可能性がある (Li Lingqin et al. Chinese Journal of General Practitioners. 14: 29-31 (2015))。動物実験では、IL-1βが急性および慢性の痛風性関節炎の両方で重要な役割を果たし、尿酸結晶が血液および滑液中の単核細胞および食細胞を刺激してIL-1βの大量放出を引き起こすことが分かっている(Di Giovine FS et al. J Immunol. 138: 3213-3218 (1987))。マウスモデル実験では、IL-1βブロッカーが尿酸結晶の腹腔内注射によって引き起こされる好中球の凝集を防ぐことができ、マウスのIL-1β受容体が欠如している部位では凝集が見られないことが見いだされた(Martinon F et al. Nature. 440:237-241 (2006))。臨床研究では、IL-1βが急性痛風発作中に多数の炎症誘発性サイトカインの産生を誘導することが分かっている(Amaral FA et al. Arthritis Rheum. 64: 474-484 (2012); Torres R et al. Ann Rheum Dis. 68: 1602-1608 (2009))。
【0007】
痛風治療の有効性と安全性を評価する臨床試験において、抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブは、難治性痛風性関節炎の患者の痛みなどの臨床症状を効果的に軽減し、トリアムシノロンアセトニドに比べて痛風の再発を効果的に減少させ、生活の質を向上させることが見いだされた(So A et al. Arthritis Rhum. 62: 3064-3076(2010))。別の臨床研究では、コルヒチンに比べて抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブが痛風発作の回数を大幅に減らすことができることが分かった(Schlesinger N et al. Ann Rheum Dis. 70: 1264-1271(2011))。mAbカナキヌマブは現在、頻発性痛風関節炎発作に罹患し、非ステロイド性抗炎症薬、コルヒチン、糖質コルチコイドに耐性のないまたは反応しない患者の治療のために欧州医薬品庁によって承認されている(Lyseng-Williamson KA et al. BioDrugs. 27: 401-406 (2013))。上記の研究はどれも、抗IL-1β抗体が痛風を治療し、症状を緩和し、既存の治療と比較してより効果的に再発を減らし、痛風発作に対して潜在的な予防および治療効果を発揮できることを示唆している。
【0008】
多発性硬化症は、主にTh1およびTh17サブセットのT細胞によって媒介される慢性脱髄性疾患である。インターロイキンIL-1ファミリー因子は、多発性硬化症の発症に非常に重要である。IL-1は、Th17サブセットのT細胞の増殖を促進することで疾患の進行を促し、また、脱分極分布が達成されるまで、実質の正常な位置から内皮の両側に脳血管内のケモカインCXCL12を分布させ、初期の疾患進行中に血管漏出およびT細胞の脳実質への侵入に至る(Chih-Chung Lin et al. J Immunol. 198:4553-4560 (2017))。動物実験では、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)はIL-1またはIL-1R1欠損マウスでは誘発されず、IL-1β阻害剤を用いる治療は野生型マウスでEAEの発症を遅らせ、重症度を軽減し、期間を短縮できることが分かっている(Chih-Chung Lin et al. J Immunol. 198:4553-4560 (2017))。
【0009】
最近の臨床研究では、抗IL-1β抗体がIL-1β経路に拮抗することで抗炎症作用を発揮し、心血管疾患のリスクを大幅に軽減することも分かっている。アテローム性動脈硬化症および血栓症は、冠状動脈性心臓病の病理学的根拠である(Dalek os GN et al. J Lab Clin Med. 129:300 (1997))。高コレステロールおよびアテローム性動脈硬化症のウサギモデルでは、IL-1βおよびIL-1β mRNAの発現が脂質プラーク中で上昇することと、IL-1合成を低下させるとアテローム性動脈硬化症の進行を遅らせることが分かった(Dinarell o CA et al. N Engl J Med. 328: 106 (1993))。IL-1βのレベルは心筋梗塞中に増加し、IL-1βの発現は梗塞後の心筋組織修復中に血漿および局所心筋梗塞部位の両方で増加し、IL-1βが心筋肥大、心筋線維症、および心筋梗塞後の機能不全の発生と進行に関与していることを示唆している(Yue P et al. Am J Physiol. 275(1Pt2): H250 (1998))。心不全は複合性症候群であり、研究によると、IL-1のレベル上昇は、鬱血性心不全の患者の循環血液で発生する(Blum A et al. Am Heart J. 135 (2 Part 1): 181 (1998); Kapadia S et al. Cardiol Clin. 16(4): 645 (1998))。IL-1βは、慢性負荷の増加によって引き起こされる鬱血性心不全の発生と進行に関与している可能性がある。血清IL-1βのレベルは悪性度III~IVの心不全患者で著しく上昇し、鬱血性心不全の進行を促進している(Yndestad A et al. Curr Cardiol Rep. 9:236-41 (2007))。炎症性アテローム性動脈硬化性心血管疾患と組み合わせた以前の心筋梗塞に対する抗ヒトIL-1β抗体カナキヌマブの有効性、安全性および忍容性を評価する第III相CANTOS臨床試験によると、標準治療と組み合わせた抗IL-1β抗体で、患者の心臓死、致命的でない心筋梗塞、および致命的でない脳血管障害の発生率が有意に低下する(Ridker PM et al. N Engl J Med. 377:1119-1131 (2017))。
【0010】
抗ヒトIL-1β抗体カナキヌマブのCANTOS臨床研究コホートの別の分析では、抗IL-1β抗体カナキヌマブが肺がんの発生と死亡のリスクを大幅に低減することが分かった(Ridker PM et al. 390(10105):1833-1842 (2017))Lancet。患者の急性骨髄性白血病(AML)細胞のインビトロ培養では、IL-1の発現が原発性AML患者の80%を超えて上昇し、IL-1βが腫瘍細胞の増殖を有意に促進し、一方、抗IL-1β抗体または抗IL-1α抗体は腫瘍細胞の増殖を阻害するのに効果的であることが分かった(Cozzolino F et al. Proc Natl Acad Soci USA. 86: 2369 (1989))。肝細胞癌の患者では、血清中のIL-1レベルは、健康な対照群と比較して有意に増加する(Nakazaki H et al. Cancer. 70(3):709 (1992))。
【0011】
子供と大人のクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)は、単一の遺伝子変異によるIL-1βの過剰産生によって引き起こされるまれな疾患であり、脱力感、紅潮、発熱、頭痛、関節痛、および結膜炎を引き起こす。これらの疾患は新生児または乳児に発生する可能性があり、患者の生涯を通じて毎日発生する可能性があり、かつ重度の疾患(難聴、骨および関節の変形、中枢神経系損傷による失明、腎不全およびアミロイドーシスによる早期死亡を含む)を引き起こし長期的には致命的となる可能性がある。子供と大人のCAPSには、家族性寒冷自己炎症性症候群(FCAS)、マックルウェルズ症候群(MWS)、新生児期発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚関節症候群、家族性冷蕁麻疹が含まれる。抗ヒトIL-1β抗体カナキヌマブは、クリオピリン関連周期性症候群の患者の臨床症状を大幅に改善することができ (Yokota S et al. Clin Exp Rheumatol. 35 Suppl 108(6):19-26. (2017); Kone-Paut I et al. Arthritis Care Res. (Hoboken); 69:903-911. (2017))、これにより、小児(4歳以上)および成人のクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)の治療がアメリカ食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)によって承認された。
【0012】
定期的な発熱症候群は、免疫系の非感染性の活性化によって再発性および持続性の重度の発熱と病原性炎症を引き起こし、しばしば障害に至り、関節痛、腫れ、筋肉痛、発疹および致命的合併症を伴う可能性のあるまれな自己免疫疾患群である(Wurster VM et al. Pediatr Ann. 40(1):48-54. (2011))。周期性発熱症候群には、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)が含まれる。臨床研究は、抗ヒトIL-1β mAbカナキヌマブが定期的な発熱症候群の治療に有効である可能性があることを示している(De Benedetti F et al. N Engl J Med. 378(20):1908-1919 (2018))。そのため、抗ヒトIL-1β mAbカナキヌマブは、FDA等により自己炎症症候群の治療薬として承認された。
【0013】
全身性若年性特発性関節炎(sJIA)は、若年性特発性関節炎のユニークな亜型であり、主に長期の高熱、発疹、貧血などの関節外症状から始まる。それは一般的に0~5歳の子供に見られ、主に慢性関節髄膜炎を特徴とし、主にさまざまな程度の臓器および組織の損傷を伴う。その主な症状は、発熱、発疹、関節痛であり、長期寛解率が低く、機能障害率と障害率が高く、死亡率が高いなどの予後不良である(Woerner A et al. Expert Rev Clin Immunol. 11(5):575-88. (2015))。sJIAは自己免疫疾患ではなく自己炎症性疾患であると一般に認められている(Sun Juan et al. Progress in Modern Biomedicine. 8:1584-1588 (2016))。臨床研究では、抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブが、発熱を伴う活動性sJIAを効果的に治療し、ステロイド用量を減らし、sJIAの再発を大幅に減らすことができることが分かった(Orrock JE et al. Expert Rev Clin Pharmacol. 9:1015-24. (2016))。したがって、抗IL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブは、FDAなどにより全身性若年性特発性関節炎の治療に承認されている。
新しい抗IL-1β抗体を開発する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
集中的な研究および独創的な努力の後、本発明者らは、哺乳動物細胞発現システムを使用して、マウスを免疫する抗原として組換えIL-1β-Hisを発現し、マウス脾臓細胞および骨髄腫細胞の融合によって融合細胞を得た。本発明者らは、多数の試料を選別して、以下の融合細胞株を取得した。
2018年6月21日にタイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託された融合細胞株LT010、CCTCC受託番号C2018133。
【0015】
発明者らは意外にも、融合細胞株LT010は、ヒトIL-1βに特異的に結合する特定のモノクローナル抗体(3H6と命名)を分泌かつ産生する可能性があり、このモノクローナル抗体はIL-1βのIL-1R1への結合を非常に効果的に遮断できることを発見した。
【0016】
さらに、本発明者らは、抗ヒトIL-1βヒト化抗体(それぞれ3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1と名付けられる)を独創的に調製した。これらはすべてヒトIL-1βに効果的に結合し、IL-1βのその受容体(IL-1R1)への結合を遮断し、かつIL-1βの下流シグナル伝達経路の活性化を阻害する。これらの抗ヒトIL-1βヒト化抗体は、関節リウマチ、痛風、多発性硬化症、心血管イベントおよび/または心血管疾患、腫瘍、子供と大人のクリオピリン併発周期性症候群、定期的な発熱症候群、および全身性若年性特発性関節炎などの疾患を軽減、予防、または治療するための薬剤の調製に使用できる可能性がある。
本発明の詳細を以下に示す。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一側面は、抗IL-1β抗体またはその抗原結合断片に関し、
この抗体は、配列番号17~19に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するHCDR1~HCDR3を含む重鎖可変領域を含み、かつ
この抗体は、配列番号20~22に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するLCDR1~LCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、
好ましくは、IL-1βはヒトIL-1βである。
【0018】
軽鎖と重鎖の可変領域が抗原の結合を決定する。具体的には、各鎖の可変領域には、3つの超可変領域、すなわち相補性決定領域(CDR)が含まれる(重鎖(H)のCDRにはHCDR1、HCDR2、HCDR3が含まれ、軽鎖(L)のCDRにはLCDR1、LCDR2、 LCDR3が含まれる。これらはKabatらによって定義されている。Sequences of Proteins of Immunological Interest(免疫学的に関心のあるタンパク質の配列), Fifth Edition (1991), Volumes 1-3, NIH Publication 91-3242, Bethesda Mdを参照のこと)。
【0019】
本明細書に開示される抗体3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1は、当業者に周知の技術的手段、例えば、VBASE2データベースによる分析によれば、同一のHCDR1-3とLCDR1-3を有する。
【0020】
重鎖可変領域の3つのHCDR領域のアミノ酸配列は次の通り、
HCDR 1:GFSLSTSGMG(配列番号17)、
HCDR 2:IYWDDDK(配列番号18)、
HCDR 3:ARSAYYSFAY(配列番号19)。
軽鎖可変領域の3つのCDR領域のアミノ酸配列は次の通り、
LCDR 1:QDVDTD(配列番号20)、
LCDR 2:WAS(配列番号21)、
LCDR 3:QQYSSYPT(配列番号22)。
【0021】
本発明の1つ以上の実施態様では、抗体またはその抗原結合断片が提供され、
抗体の重鎖可変領域は、配列番号2、配列番号6、配列番号10、および配列番号14から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ
抗体の軽鎖可変領域は、配列番号4、配列番号8、配列番号12、および配列番号16から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明の実施態様によっては、以下から選択される抗体またはその抗原結合断片が提供される、
(1) 配列番号2に記載のVHおよび配列番号4に記載のVL、
(2) 配列番号6に記載されているVHおよび配列番号8に記載されているVL、
(3) 配列番号10に記載されているVHおよび配列番号12に記載されているVL、および
(4) 配列番号14に記載のVHおよび配列番号16に記載のVL。
【0023】
本発明の1つ以上の実施態様において、抗体またはその抗原結合断片が提供され、この抗体またはその抗原結合断片は、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv 、dAb、相補性決定領域断片、一本鎖抗体(例えば、scFv)、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびダイアボディ(diabody)から選択される。
【0024】
本発明の1つ以上の実施態様において、抗体またはその抗原結合断片が提供され、この抗体は、10-5 M未満、例えば、10-6 M未満、10-7 M未満、10-8 M未満、10-9 M未満、または10-10 M未満のKDでIL-1βタンパク質に結合する。好ましくは、KDは、ビアコア(Biacore)分子相互作用機器によって測定される。
【0025】
本発明の実施態様によっては、抗体またはその抗原結合断片が提供され、この抗体は、約100 nM未満、例えば、約10n M未満、約1 nM未満、約0.9 nM未満、約0.8 nM未満、約0.7 nM未満、約0.6 nM未満、約0.5 nM未満、約0.4 nM未満、約0.3 nM未満、約0.2 nM未満、約0.1 nM未満のEC50でIL-1βタンパク質に結合する。具体的には、EC50は間接ELISA法で測定される。
【0026】
本発明の1つ以上の実施態様では、抗体またはその抗原結合断片が提供され、この抗体は、ヒト抗体などのマウス以外の種に由来する非CDR領域を含む。
【0027】
本発明の実施態様によっては、抗体の定常領域はヒト化され、例えば、重鎖定常領域は、受託番号P01857などのIg γ1鎖C領域または受託番号P01861.1などのIg γ4鎖C領域であり、かつ軽鎖定常領域は、受託番号P01834などのIg κ鎖C領域である。
【0028】
本発明の1つ以上の実施態様において、抗体またはその抗原結合断片が提供され、この抗体は、CCTCC受託番号C2018133を有するタイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託された融合細胞株LT010によって産生されたモノクローナル抗体である。
本発明の1つ以上の実施態様では、この抗体はモノクローナル抗体である。
【0029】
本発明の別の側面は、抗体またはその抗原結合断片および小分子薬物を含む抗体薬物複合体(ADC)に関するものであり、この抗体またはその抗原結合断片は、本明細書に開示される複数の抗体またはそれらの抗原結合断片のうちのいずれか1つであり、好ましくは、この小分子薬物は小分子細胞毒性薬であり、より好ましくは、この小分子薬物は化学療法薬である。
【0030】
この化学療法薬は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物系抗癌剤、ホルモン、および免疫剤などの従来の腫瘍化学療法薬であってもよい。
【0031】
本発明の1以上の実施態様において、抗体薬物複合体が提供され、この抗体またはその抗原結合断片は、リンカーを介して小分子薬物に連結されており、このリンカーは、当業者に知られているもの、例えば、ヒドラゾン結合、ジスルフィド結合、またはペプチド結合でよい。
【0032】
本発明の1つ以上の実施態様において、抗体またはその抗原結合断片対小分子薬物のモル比が1:1~1:4、たとえば、1:1、1:2、1:3、または1:4である、抗体薬物複合体が提供される。
【0033】
本発明のさらに別の側面は、第1のタンパク質機能領域および第2のタンパク質機能領域を含む二重特異性抗体(bispecific antibody)(二機能性抗体としても知られる)に関するもので、ここで
第1のタンパク質機能領域はIL-1βを標的とし、
第2のタンパク質機能領域は、IL-1β以外の標的、例えば、IL-17Aを標的とし、
ここで、第1のタンパク質機能領域は、本明細書に開示される複数の抗体またはそれらの抗原結合断片のうちのいずれか1つであり、
好ましくは、二重特異性抗体は、IgG-scFv形態であり、
好ましくは、
(1)第1のタンパク質機能領域は、本明細書に開示される複数の抗体またはそれらの抗原結合断片のうちのいずれか1つであり、かつ第2のタンパク質機能領域は、一本鎖抗体であるか、または
(2)第1のタンパク質機能領域は一本鎖抗体であり、その重鎖可変領域は配列番号17~19に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含み、その軽鎖可変領域は配列番号20~22に記載のアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含み、かつ第2のタンパク質機能領域は抗体(例えば、モノクローナル抗体)である。
【0034】
本発明の実施態様によっては、二重特異性抗体が提供され、第1のタンパク質機能領域および第2のタンパク質機能領域は、直接またはリンカー断片を介して連結されており、
好ましくは、リンカー断片は(GGGGS)mであり、mは1、2、3、4、5または6などの正の整数であるか、または
好ましくは、リンカー断片はSS(GGGGS)nであり、nは1、2、3、4、5または6などの正の整数である。
【0035】
本発明の実施態様によっては、二重特異性抗体が提供され、上記の(2)項において、
一本鎖抗体の重鎖可変領域は、配列番号2、配列番号6、配列番号10、および配列番号14から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ
一本鎖抗体の軽鎖可変領域は、配列番号4、配列番号8、配列番号12、および配列番号16から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
本発明のの実施態様によっては、二重特異性抗体が提供され、上記の(2)項において、
一本鎖抗体の重鎖可変領域は配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ一本鎖抗体の軽鎖可変領域は配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む、
一本鎖抗体の重鎖可変領域は配列番号6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ一本鎖抗体の軽鎖可変領域は配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む、
一本鎖抗体の重鎖可変領域は配列番号10に記載のアミノ酸配列を含み、かつ一本鎖抗体の軽鎖可変領域は配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む、または
一本鎖抗体の重鎖可変領域は配列番号14に記載のアミノ酸配列を含み、かつ一本鎖抗体の軽鎖可変領域は配列番号16に記載のアミノ酸配列を含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施態様では、二重特異性抗体が提供され、第1のタンパク質機能領域および第2のタンパク質機能領域の数は、それぞれ独立して1、2またはそれ以上である。
【0038】
本発明のいくつかの実施態様では、二重特異性抗体が提供され、(2)項において、モノクローナル抗体の定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4の定常領域から選択される。
【0039】
本発明のいくつかの実施態様では、二重特異性抗体が提供され、一本鎖抗体は、抗体またはモノクローナル抗体の重鎖のC末端に連結されている。
【0040】
本発明のさらに別の側面は、抗体重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列および抗体軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子に関するもので、
抗体重鎖可変領域は、配列番号17~19に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ抗体軽鎖可変領域は、配列番号20~配列番号22に記載のアミノ酸配列をそれぞれ有するLCDR1~LCDR3を含み、
好ましくは、抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号6、配列番号10、および配列番号14から選択され、かつ抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号4、配列番号8、配列番号12、および配列番号16から選択され、
より好ましくは、抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号2に記載され、かつ抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4に記載され;抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に記載され、かつ抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に記載され;抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載され、かつ抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号12に記載され;または、抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に記載され、かつ抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に記載され、そして
さらにより好ましくは、単離された核酸分子は
配列番号1および配列番号3に記載のヌクレオチド配列、
配列番号5および配列番号7に記載のヌクレオチド配列、
配列番号9および配列番号11に記載のヌクレオチド配列、または
配列番号13および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0041】
単離された核酸分子は、単一の核酸分子または複数の核酸分子は例えば2つの核酸分子であってもよい。単一の核酸分子の場合、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、同じ核酸分子、例えば、同じ核酸分子に位置する同じまたは異なる発現カセットによって発現される場合がある。複数の核酸分子、例えば2つの核酸分子の場合、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、異なる核酸分子によって発現される場合がある。
【0042】
本発明のさらに別の側面は、本明細書に開示される単離された核酸分子を含む組換えベクターに関する。組換えベクターの数は、1つまたは複数の場合がある。複数(例えば、2つ)の核酸分子の場合、複数(例えば、2つ)の核酸分子は、同じ組換えベクターまたは異なる組換えベクターによって発現される。
【0043】
本発明のさらに別の側面は、本明細書に開示される単離された核酸分子または組換えベクターを含む宿主細胞に関する。
【0044】
本発明のさらに別の側面は、本明細書に開示される宿主細胞を適切な条件で培養すること、および抗体または抗原結合断片をその細胞培養から単離することを含む、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれか1つを調製するための方法に関する。
【0045】
本発明のさらに別の側面は、タイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託されたCCTCC受託番号C2018133の融合細胞株LT010に関する。
【0046】
本発明のさらに別の側面は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体のいずれか1つを含む医薬組成物に関し、場合により、医薬組成物は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤をさらに含む。
【0047】
本発明のさらに別の側面は、治療用の薬剤を調製および/または自己免疫疾患、心血管疾患および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群、全身性若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎を予防に際し、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体のいずれか1つの使用に関し、
好ましくは、自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択され、
好ましくは、周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択され、
好ましくは、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択され、
好ましくは、心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳血管障害から選択され、
好ましくは、腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択され、かつ
好ましくは、痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である。
【0048】
本発明のさらに別の側面は、
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断する薬剤、
ヒトIL-1βの活性またはレベル(level)を下方制御(down-regulating)する薬剤、または
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害するための薬剤を調製に際し、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体のいずれか1つの使用に関する。
【0049】
本発明の一実施態様では、ヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2は、細胞表面上のヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2である。
【0050】
本発明の一実施態様では、使用は非治療的および/または非診断的である。
【0051】
本発明の1つ以上の実施態様において、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体は、自己免疫疾患、心血管および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群、全身型若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎の治療および/または予防に使用するためのものであり、
好ましくは、自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択され、
好ましくは、周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択され、
好ましくは、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択され、
好ましくは、心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳血管障害から選択され、
好ましくは、腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択され、かつ
好ましくは、痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である。
【0052】
本発明の1つ以上の実施態様において、本明細書に開示される抗体または抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体は、
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断すること、
ヒトIL-1βの活性またはレベルを下方制御すること、または
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害すること
において使用される。
【0053】
本発明の一実施態様では、ヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2は、細胞表面上のヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2である。
【0054】
本発明のさらに別の側面は、抗体または本明細書に開示されるその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体のうちのいずれか一つの有効量を細胞に投与することすることを含むインビボまたはインビトロの方法に関し、この方法は
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合を遮断する方法、
ヒトIL-1βの活性またはレベルを下方制御する方法、および
ヒトIL-1βのヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2への結合によって媒介される下流のシグナル伝達経路の活性化を阻害する方法
から選択される。
【0055】
本発明の一実施態様では、ヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2は、細胞表面のヒトIL-1R1および/またはヒトIL-1R2である。
【0056】
本発明の一実施態様では、インビトロ法は非治療的および/または非診断的である。
【0057】
本発明のさらに別の側面は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片、本明細書に開示される抗体薬物複合体、または本明細書に開示される二重特異性抗体のいずれか1つの有効量を必要とする対象に投与することを含む、自己免疫疾患、心血管および脳血管疾患、腫瘍、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群、全身性若年性特発性関節炎、または痛風性関節炎を治療および/または予防する方法に関し、
好ましくは、自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、および周期性発熱症候群から選択され、
好ましくは、周期性発熱症候群は、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)/メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、および家族性地中海熱(FMF)から選択され、
好ましくは、小児および成人におけるクリオピリン関連周期性症候群は、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックルウェルズ症候群、新生児発症多系統炎症性疾患、慢性乳児神経学的皮膚および関節症候群、ならびに家族性冷蕁麻疹から選択され、
好ましくは、心血管および脳血管疾患は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、動脈血栓症、および脳血管障害から選択され、
好ましくは、腫瘍は、肺癌、肝細胞癌、および急性骨髄性白血病から選択され、かつ
好ましくは、痛風性関節炎は、急性痛風性関節炎または慢性痛風性関節炎である。
【0058】
本発明者らは、動物実験から、本明細書に開示される抗体、特に3H6H4L1が、BALB/ cマウスにおいてヒトIL-1βで形質移入されたNIH/3T3細胞によって誘発される関節リウマチモデルの病理学的変化を効果的に軽減できることを発見した。抗体3H6H4L1は、病理学的行動を効果的に改善し、リウマチマウスの罹患した肢の腫れ領域を減らすことができる。
【0059】
本発明において、他に定義されない限り、本明細書で使用される科学技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を持つ。さらに、本発明で使用される細胞培養、分子遺伝学、核酸化学および免疫学の実験室操作は、対応する分野で広く使用される日常的な操作である。一方、本発明をより深く理解するために、関連する用語の定義および説明を以下に提供する。
【0060】
本明細書で使用される場合、IL-1βのアミノ酸配列(GenBank ID:NP_00567.1)について述べる場合、それは、IL-1βタンパク質の全長、ならびにIL-1βの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)または複数のHisに融合した断片を含む。ただし、当業者は、IL-1βのアミノ酸配列において、突然変異または変異(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が、生物学的機能に影響を及ぼすことなく自然に生成または人工的に導入され得ることを理解している。その。したがって、本発明では、「IL-1β」という用語は、そのようなすべての配列ならびにその天然または人工の変異体を含むものとする。さらに、IL-1βタンパク質の配列断片が記載される場合、それは、IL-1βの配列断片、ならびにその天然または人工の変異体における対応する配列断片を含む。
【0061】
本明細書で使用される場合、IL-1R1のアミノ酸配列(GenBank ID:NP_000868)について述べる場合、それは、IL-1R1タンパク質の全長、ならびにIL-1R1の融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)または複数のHisに融合した断片を含む。ただし、当業者は、IL-1R1タンパク質のアミノ酸配列において、突然変異または変異(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が、その生物学的機能に影響を及ぼすことなく自然に生成または人工的に導入され得ることを理解している。したがって、本発明では、「IL-1R1」という用語は、そのようなすべての配列ならびにその天然または人工の変異体を含むものとする。さらに、IL-1R1タンパク質の配列断片が記載される場合、それは、IL-1R1の配列断片、ならびにその天然または人工の変異体における対応する配列断片を含む。
【0062】
本明細書で使用される場合、IL-1R2のアミノ酸配列(GenBank ID:CAA42441.1) について述べる場合、それは、IL-1R2タンパク質の全長、ならびにIL-1R2の融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)または複数のHisに融合した断片を含む。ただし、当業者は、IL-1R2タンパク質のアミノ酸配列において、突然変異または変異(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が、その生物学的機能に影響を及ぼすことなく自然に生成または人工的に導入され得ることを理解している。したがって、本発明において、「IL-1R2」という用語は、そのようなすべての配列ならびにその天然または人工の変異体を含むものとする。さらに、IL-1R2タンパク質の配列断片が記載される場合、それは、IL-1R2の配列断片、ならびにその天然または人工の変異体における対応する配列断片を含む。
【0063】
本明細書で使用される場合、「EC50」という用語は、最大効果の50%の濃度、すなわち、最大効果の50%を引き起こすことができる濃度を意味する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、一般に2対のポリペプチド鎖(各対は1つの「軽」(L)鎖および1つの「重鎖」(H)鎖を有する)からなる免疫グロブリン分子を意味する。抗体軽鎖はκ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖は、μ、δ、γ、α、またはεに分類される。また、抗体のアイソタイプは、IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして定義される。軽鎖および重鎖の可変領域および定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結されており、重鎖はまた、約3個以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)の古典的な補体系の最初の成分(C1q)への結合を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。VHおよびVL領域は、超可変領域(相補性決定領域またはCDRと呼ばれる)にさらに細分化でき、その間にフレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存領域が分布している。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシル末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置された3つのCDRと4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗体結合部位を形成する。各領域またはドメインへのアミノ酸の割り当ては、免疫学的に関心のあるタンパク質のカバット配列(National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987 and 1991))、Chothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917、またはChothia et al. (1989) Nature 342:878-883に従う。「抗体」という用語は、抗体を産生するための特定の方法によって制限されるものではない。例えば、抗体には、特に、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体が含まれる。抗体は、異なるアイソタイプ、例えば、抗体IgG(例えば、亜型IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgMであってもよい。
【0065】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」としても知られる「抗原結合断片」という用語は、完全長抗体の断片を含むポリペプチドを意味し、これは、全長抗体が結合するものと同じものおよび/または抗原への特異的結合について全長抗体と競合する抗原に特異的に結合する能力を維持する。一般的には、Fundamental Immunology(基礎免疫学), Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd edition, Raven Press, N.Y. (1989)を参照のこと。すべての目的のためにこの書全体が参照により本明細書に組み込まれる。抗体の抗原結合断片を、組換えDNA技術によってまたは無傷の抗体の酵素切断または化学切断によって生成することができる。場合によっては、抗原結合断片には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv、dAb、および相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(例えば、scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、およびポリペプチドに特定の抗原結合能力を付与するのに十分な抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドが含まれる。
【0066】
場合によっては、抗体の抗原結合断片は一本鎖抗体(例えば、scFv)であり、VLドメインとVHドメインが対になって、リンカーを介して一価分子を形成し、単一のポリペプチド鎖を生成する(例えば、Bird et al., Science 242:423 426 (1988) and Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 5883 (1988))を参照のこと。そのようなscFv分子は一般的な構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOHまたはNH2-VH-リンカー-VL-COOH持つ可能性がある。適切な先行技術のリンカーは、繰り返しのGGGGSアミノ酸配列またはその変異体からなる。例えば、アミノ酸配列(GGGGS)4を有するリンカーを使用することができるが、その変異体も使用できる(Holliger et al. (1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448)。本発明で使用できる他のリンカーは、Alfthanら(1995), Protein Eng. 8:725-731, Choiら (2001), Eur. J. Immunol. 31: 94-106, Huら(1996), Cancer Res. 56:3055-3061, Kipriyanovら(1999), J. Mol. Biol. 293:41-56、それにRooversら(2001), Cancer Immunolによって記載されている。
【0067】
場合によっては、抗体の抗原結合断片は、ダイアボディ、すなわち、VHおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖に発現される二価抗体である。しかし、使用されるリンカーは短すぎて同じ鎖の2つのドメインを対合させることができないため、このドメインは他の鎖の相補的ドメインと対合を強制され、2つの抗原結合部位が生成される(たとえば、Holliger Pら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993)およびPoljak RJら, Structure 2:1121-1123 (1994)を参照)。
【0068】
その他の場合では、抗体の抗原結合断片は「二機能性抗体」である。二機能性抗体は二重特異性抗体としても知られており、2つの異なる抗原を同時に標的とする特異的薬剤であり、免疫選択精製によって産生することができる。さらに、二重特異性抗体は遺伝子工学によっても作製することができ、これは、結合部位の最適化、合成形態の検討、および収量などの面で柔軟性があり、特定の利点を持っている。現在、二重特異性抗体は45を超える形態で存在することが実証されている (Muller D, Kontermann RE. Bispecific antibodies for cancer immunotherapy: Current perspectives(癌免疫療法のための二重特異性抗体:現在の展望)BioDrugs 2010; 24:89-98)。いくつかの二重特異性抗体がIgG-ScFvすなわちモリソン型(1997 Coloma MJ, Morrison SL. Design and production of novel tetravalent bispecific antibodies(新規の4価二重特異性抗体の設計と製造). Nature Biotechnology, 1997; 15:159-163)の形で開発されており、天然に存在するIgG形態との類似性、および抗体工学、発現、精製における利点のために、二重特異性抗体の理想的な形態の1つであることが実証されている(Miller BR, Demarest SJ, et al., Stability engineering of scFvs for the development of bispecific and multivalent antibodies(二重特異性および多価抗体の開発のためのscFvの安定性工学). Protein Eng Des Sel 2010; 23:549-57; Fitzgerald J, Lugovskoy A. Rational engineering of antibody therapeutics targeting multiple oncogene pathways(複数の腫瘍遺伝子経路を標的とする抗体治療の合理的な遺伝子操作)MAbs 2011; 3:299-309)。
【0069】
抗体の抗原結合断片(例えば、上記の抗体断片)は、当技術分野で知られている従来の技術(例えば、組換えDNA技術または酵素的または化学的切断)を使用して、所与の抗体(例えば、本明細書で提供されるモノクローナル抗体3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、または3H6H4L1)から得ることができ、抗体の抗原結合断片は、無傷の抗体の場合と同じ方法で特異性に関して選別される。
【0070】
本明細書で使用される場合、「mAb」および「モノクローナル抗体」という用語は、一群の相同性の高い抗体、すなわち一群の同一の抗体分子に由来する抗体または抗体の断片を意味するが、自発的に発生する可能性のある自然突然変異を除く。モノクローナル抗体は、抗原の単一のエピトープ(抗原決定基)に対して高い特異性を持っている。モノクローナル抗体と比較して、ポリクローナル抗体は、一般に、抗原の異なるエピトープを一般に認識する少なくとも2種の異なる抗体を含む。モノクローナル抗体は、一般に、Kohlerら(Nature, 256:495, 1975)によって最初に報告されたハイブリドーマ技術を用いて得られるが、組換えDNA技術を用いて得ることもできる(たとえば、米国特許第4,816,567号を参照)。
【0071】
本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体)のCDR領域の全部または一部が非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域で置換されたときに得られる抗体または抗体断片を指し、このドナー抗体は、予想される特異性、親和性、または反応性を有する非ヒト(例えば、マウス、ラットまたはウサギ)抗体であってもよい。さらに、受容体抗体のフレームワーク領域(FR)の一部のアミノ酸残基の中には、対応する非ヒト抗体のアミノ酸残基または他の抗体のアミノ酸残基で置換して、抗体の性能をさらに改善または最適化できるものもある。ヒト化抗体の詳細については、例えば、Jones et al., Nature, 321:522 525 (1986)、Reichmann et al., Nature, 332:323 329 (1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593 596 (1992)、およびClark, Immunol. Today 21: 397 402 (2000)を参照のこと。
【0072】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、自然の状態から人工的手段によって得られることを意味する。特定の「隔離された」物質または成分が自然界に現れる場合、それはその自然環境の変化によるものか、自然環境から隔離されているか、またはその両方である可能性がある。例えば、特定の非単離ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、特定の生きている動物に自然に存在し、そのような自然状態から単離された高純度の同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと呼ばれる。「単離された」という用語は、その物質の活性に影響を及ぼさない人工または合成物質または他の不純物の存在を排除するものではない。
【0073】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸媒体を意味する。挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現をベクターが可能にする場合、そのベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入、または形質移入によって宿主細胞に導入することができ、その結果、ベクターによって運ばれる遺伝物質要素を宿主細胞で発現させることができる。ベクターは当業者に周知であり、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージやM13ファージなどのファージ、および動物ウイルスを含む。ベクターとして使用できる動物ウイルスには、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(SV40など)が含まれるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー(転写促進因子)配列、選択要素、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御する様々な要素を含むことができる。さらに、ベクターはさらに複製開始部位を含んでもよい。
【0074】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、大腸菌または枯草菌などの原核細胞、酵母細胞またはアスペルギルスなどの真菌細胞、S2ドロソフィラ細胞またはSf9などの昆虫細胞、線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK 293細胞などの動物細胞、またはヒト細胞を含むがこれらに限定されないベクターを導入するために使用できる細胞を意味する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「二重特異性(bispecific)」、「二重特異性(dual-specificity)」または「二機能性(bifunctional)」抗原結合タンパク質または抗体という用語は、それぞれ2つの異なる抗原結合部位を有するハイブリッド抗原結合タンパク質または抗体である。二重特異性抗体は、多重特異性抗原結合タンパク質または多重特異性抗体であり、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の結合を含むがこれらに限定されない様々な方法によって産生することができる。たとえば、Songsivilai and Lachmann, 1990, Clin. Exp. Immunol. 79:315-321; Kostelny et al. 1992, J. Immunol. 148:1547-1553を参照のこと。二重特異性抗原結合タンパク質または抗体の2つの結合部位は、同じまたは異なるタンパク質標的に存在する2つの異なるエピトープに結合する。
【0076】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、抗体とそれが標的とする抗原との間の反応など、2つの分子間の非ランダム結合反応を意味する。いくつかの実施態様において、抗原に特異的に結合する抗体(または抗原に特異的な抗体)は、抗体が、約10-5 M未満、例えば、約10-6 M、約10-7 M未満、約10-8 M未満、約10-9 M未満、または約10-10 M以下以下の親和性(KD)で抗原に結合することを意味する。
【0077】
本明細書で使用される場合、「KD」という用語は、抗体と抗原との間の結合親和性を説明するのに使用される、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味する。平衡解離定数が小さいほど、抗体と抗原の結合が強くなり、抗体と抗原の間の親和性が高くなる。典型的には、抗体(例えば、本明細書に開示されるモノクローナル抗体3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、または3H6H3L3)は、約10-5 M未満、例えば約10-6 M未満、約10-7 M未満、約10-8 M未満、約10-9 M未満、または約10-10 M未満の解離平衡定数(KD)で抗原(例えば、IL-1βタンパク質)に結合する。KDは、例えば、ビアコア分子相互作用機器を用いて、当業者に知られている方法で決定することができる。
【0078】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」および「mAb」という用語は同じ意味を持ち、交換可能に使用することができる。「ポリクローナル抗体」と「PcAb」という用語は同じ意味を持ち、同じ意味で使用できまる。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は同じ意味をもち、交換可能に使用することができる。また、本発明においてアミノ酸は、一般に、当技術分野で知られている1文字および3文字の略語によって表される。たとえば、アラニンはAまたはAlaで表すことができる。
【0079】
本明細書で使用される場合、「ハイブリドーマ」および「ハイブリドーマ細胞株」という用語は交換可能に使用することができ、「ハイブリドーマ」および「ハイブリドーマ細胞株」という用語を使用する場合、それらはハイブリドーマのサブクローンおよび子孫細胞も含む。例えば、ハイブリドーマ細胞株LT010を使用する場合、それはハイブリドーマ細胞株LT010のサブクローンおよび子孫細胞も指す。
【0080】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」という用語は、当技術分野で周知である、対象および有効成分と薬理学的および/または生理学的に適合性のある担体および/または賦形剤を意味する(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences. Edited by Gennaro AR, 19th ed. Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995)。これには、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、およびイオン強度増強剤が含まれるが、これらに限定されない。例えば、pH調整剤には、リン酸緩衝液が含まれるが、これに限定されない。界面活性剤には、Tween-80などの陽イオン性、陰イオン性、または非イオン性界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。イオン強度増強剤には、塩化ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。
【0081】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、所望の効果を得るのに、または少なくとも部分的に得るのに十分な量を意味する。例えば、予防的(例えば、関節リウマチ)有効量は、疾患(例えば、関節リウマチ)の発症を予防、停止、または遅延させるのに十分な量を意味する。治療有効量とは、病気にかかっている患者の疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に停止するのに十分な量を意味する。そのような有効量を決定することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、治療的使用に有効な量は、治療される疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的な状態、年齢、体重、性別などの患者の一般的な状態、薬物投与の方法、および同時に投与される他の治療などに依存する。
【発明の効果】
【0082】
本明細書に開示される抗IL-1β抗体、特にヒト化抗IL-1β抗体は、以下の技術的効果のうちの1つ以上を有する:
(1) ヒトIL-1βに効果的に結合し、IL-1βのその受容体IL-1R1への結合を遮断する。
(2) IL-1βの下流シグナル伝達経路の活性化を阻害する。
(3) MRC-5細胞にIL-6を分泌させるためのIL-1βの活性を特異的に阻害する能力を有する。
(4) NF-κB上のIL-1βの活性化を効果的に遮断する能力を有する。
(5) IL-1βを阻害するための薬剤の調製に使用される可能性がある。
(6) 関節リウマチ、痛風、多発性硬化症、心血管イベントおよび/または心血管疾患、腫瘍、小児および成人のクリオピリン関連周期性症候群、定期的な発熱症候群、全身性若年性特発性関節炎などの疾患を予防および/または治療するための薬剤の調製に使用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、および3H6H3L3のヒトIL-1β-His-Bioへの結合活性の検定結果。
図2】3H6H4L1のヒトIL-1β-His-Bioへの結合活性の検定結果。
図3】ヒトIL-1R1(1-332)-Hisと競合する3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、および3H6H3L3のヒトIL-1β-hFcへの結合の活性の検定結果。
図4】ヒトIL-1β-hFcへの結合についてヒトIL-1R1(1-332)-Hisと競合する3H6H4L1の活性の検定結果。
図5】ヒトIL-1βに対する3H6H4L1の親和定数の検定結果。注:曲線1~5は、それぞれ25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.13 nM、および1.56 nMでの分析対象物の濃度を示す。
図6】ヒトIL-1βに対するカナキヌマブの親和定数の検定結果。注:曲線1~5は、それぞれ25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.13 nM、および1.56 nMでの分析対象物の濃度を示す。
図7】MRC-5によるIL-1β誘導性のIL-6分泌に対する3H6H4L1の効果。
図8】NF-κBシグナル伝達経路の勾配活性化に対するIL-1βの効果。
図9】IL-1βを遮断する3H6H4L1のレポーター検定図。
図10】Lenti-IL-1β-NIH/3T3誘発マウス膝関節炎モデルの病理学的行動に対する3H6H4L1の効果。
図11】Lenti-IL-1β-NIH/3T3誘発マウス膝関節炎モデルの膝関節領域に対する3H6H4L1の効果。
図12】Lenti-IL-1β-NIH/3T3誘発マウス膝関節炎モデルの体重に対する3H6H4L1の効果。
【発明を実施するための形態】
【0084】
発明の詳細な説明
本発明の実施態様は、実施例を参照して以下に詳細に説明する。当然のことだが、当業者は、以下の実施例が本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものと見なすべきではない。技術または条件の具体的な説明がない場合は、当技術分野の文献に記載されている技術または条件に従って実施された(例えば、J. Sambrookらが執筆し、Huangが翻訳した「分子クローン化実験ガイド(Guide to Molecular Cloning Experiments)を参照)。使用する試薬または器具は、製造元が指定されていない場合、市販の従来の製品である。
【0085】
本発明の以下の実施例で使用したBALB/cマウスは、広東医療実験動物センターから購入した。
【0086】
本発明の以下の実施例では、同じ標的(商品名Ilaris(登録商標))用に市販されている抗体カナキヌマブを、対照抗体として使用されるノバルティス(Novartis)から購入した。
【0087】
調製例1.融合タンパク質ヒトIL-1β-His、IL-1R1(1-332)-His、IL-1β-hFc、およびヒトIL-1β-His-Bioの調製
ヒトIL-1β(Genbank ID:NP_000567.1)およびIL-1R1(Genbank ID:NP_000868)のタンパク質配列は、NCBI GenBankタンパク質データベースから見出した。ヒトIL-1βおよびIL-1R1のアミノ酸配列は、それぞれHisタグおよびヒトIgG Fc精製タグの配列と融合し、名前をそれぞれヒトIL-1β-His、IL-1R1(1-332)-His 、IL-1β-hFcと略記した。タンパク質試料の品質を、SDS-PAGEにより確認した。
【0088】
ビオチン化ヒトIL-1β-Hisタンパク質試料(略してヒトIL-1β-His-Bioと呼ぶ)を、EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-LC-BiotinylationKit (Thermo Scientific) を用いて調製した。具体的な調製はキットの取扱説明書を参照して実施した。
調製した融合タンパク質を以下の実施例で使用した。
【実施例
【0089】
実施例1.抗IL-1βマウス抗体3H6の調製
1. ハイブリドーマ細胞株LT010の調製
BALB/cマウス(広東医科研究所動物センターから購入)を抗原としてヒトIL-1β-hisで免疫し、免疫したマウスの脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマ細胞を形成した。ハイブリドーマ細胞を、IL-1β-His-Bioを抗原として用いてELISAによって選別して、IL-1β-His-Bioに特異的に結合する抗体を分泌することができるハイブリドーマ細胞を得た。ELISAで得られたハイブリドーマ細胞を競合ELISAで選別し、IL-1β-hFcへの結合について受容体IL-1R1(1-332)-Hisと競合する抗体を分泌できるハイブリドーマ細胞を得、安定したハイブリドーマ細胞株を限界希釈によって得た。ハイブリドーマ細胞の調製方法については、現在確立されている方法を参照する(例えば、スStewart, S.J., “Monoclonal Antibody Production”, in Basic Methods in antibody Production and Characterization(「モノクローナル抗体産生」、抗体産生および特性評価の基本的方法), Eds. G.C. Howard and D.R. Bethell, Boca Raton: CRC Press, 2000)。
【0090】
本発明者らは、上記のハイブリドーマ細胞株をハイブリドーマ細胞株LT010(IL-1β-3H6)と命名し、それによって分泌されるモノクローナル抗体を3H6と命名した。
【0091】
ハイブリドーマ細胞株LT010(IL-1β-3H6)は、2018年6月21日にCCTCC受託番号C2018133でタイプ・カルチャー・コレクション中国センター(CCTCC)に寄託され、中国の武漢にある武漢大学(郵便番号:430072)に保管された。
【0092】
2. 抗IL-1β抗体3H6の調製
上記で調製したLT010細胞株を、ハイブリドーマを含む無血清培地(1%ペニシリン-ストレプトマイシンと4%グルタマックスを含むハイブリドーマ無血清培地、37℃、5% CO2の細胞培養装置で培養)で培養した。7日後、細胞培養上清を回収し、高速遠心分離、精密ろ過膜による吸引ろ過、HiTrapタンパク質A HPカラムを通して精製し、抗体3H6を得た。精製された3H6試料をSDS-PAGE電気泳動によって確認した。
【0093】
実施例2.抗IL-1β抗体3H6の配列分析
培養細胞細菌全RNA抽出キット(Tiangen、カタログ番号DP430)の方法に従って、実施例1で培養されたLT010細胞株からmRNAを抽出した。cDNAは、RT-PCR用のInvitrogen SuperScript IIIファーストストランド合成システムのキット・マニュアルに従って合成され、PCRによって増幅された。PCR増幅産物は直接TAクローン化され、特定の操作についてはpEASY-T1クローン化キット(Transgen CT101)のキット・マニュアルを参照した。
TAクローン化された産物を直接配列決定した。配列決定の結果は以下の通り。
抗体3H6の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(354 bp)
【化1】
【0094】
抗体3H6の重鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(118アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化2】
【0095】
抗体3H6の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(318 bp)
【化3】
【0096】
抗体3H6の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(106アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化4】
【0097】
実施例3.抗IL-1βヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の設計および調製
1. 抗IL-1βヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の軽鎖および重鎖配列の設計
IL-1βタンパク質の三次元結晶構造(van Oostrum J、Priestle JP、GrutterMG、Schmitz A. The structure of murine interleukin-1 beta at 2.8 A resolution(2.8Åの分解能でのマウスインターロイキン-1ベータの構造)J Struct Biol. 1991, 107(2):189-95.)および実施例2で得られた配列に基づき、ヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の重鎖および軽鎖可変領域の配列を設計した(抗体3H6H1L1、3H6H2L2、および3H6H3L3の定常領域の配列はNCBIデータベースからのものであり、そのうちの重鎖定常領域はIg γ-1鎖C領域、受託番号P01857で、定常領域はIg κ鎖C領域、受託番号P01834であり、また抗体3H6H4L1の定常領域の配列はNCBIデータベースからのものであり、そのうちの重鎖定常領域はIg γ-4鎖C領域、受託番号P01861.1であり、軽鎖定常領域はIg κ鎖C領域、受託番号P01834である)。
【0098】
ヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の重鎖および軽鎖可変領域の配列は次の通り。
(1) ヒト化モノクローナル抗体3H6H1L1
抗体3H6H1L1の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(354 bp)
【化5】
【0099】
抗体3H6H1L1の重鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(118アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化6】
【0100】
抗体3H6H1L1の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(318 bp)
【化7】
【0101】
抗体3H6H1L1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(106アミノ酸、下線部のアミノ酸配列はCDR領域である)
【化8】
(2) ヒト化モノクローナル抗体3H6H2L2
【0102】
抗体3H6H2L2の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(354 bp)
【化9】
【0103】
抗体3H6H2L2の重鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(118アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化10】
【0104】
抗体3H6H2L2の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(318 bp)
【化11】
【0105】
抗体3H6H2L2の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(106アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化12】
(3) ヒト化モノクローナル抗体3H6H3L3
【0106】
抗体3H6H3L3の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(354 bp)
【化13】
【0107】
抗体3H6H3L3の重鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(118アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化14】
【0108】
抗体3H6H3L3の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(318 bp)
【化15】
【0109】
抗体3H6H3L3の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである:(106アミノ酸、下線部のアミノ酸配列がCDR領域である)
【化16】
(4) ヒト化モノクローナル抗体3H6H4L1
【0110】
抗体3H6H4L1の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を、配列番号5に示す。
【0111】
抗体3H6H4L1の重鎖可変領域のアミノ酸配列を、配列番号6に示す。
【0112】
抗体3H6H4L1の軽鎖可変領域をコードする核酸配列を、配列番号7に示す。
【0113】
抗体3H6H4L1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、配列番号8に示す。
【0114】
2.ヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の調製
3H6H1L1、3H6H2L2、および3H6H3L3の重鎖定常領域はIg γ-1鎖C領域、受託番号P01857であり、かつ軽鎖定常領域はIg κ鎖C領域、受託番号P01834であり、
【0115】
3H6H4L1の重鎖定常領域はIg γ-4鎖C領域、受託番号P01861.1であり、かつ軽鎖定常領域はIg κ鎖C領域、受託番号P01834である。
【0116】
3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の重鎖および軽鎖cDNAのそれぞれを、pUC57simpleベクター(Genscriptが提供)にクローン化して、それぞれ8つの組換えプラスミド、すなわちpUC57simple-3H6H1およびpUC57simple-3H6L1、pUC57simple-3H6H2およびpUC57simple-3H6L2、pUC57simple-3H6H3およびpUC57simple-3H6L3、ならびにpUC57simple-3H6H4およびpUC57simple-3H6L1を得た。これらは、それぞれpcDNA3.1ベクターに再クローン化された。重鎖を含む組換えプラスミドと軽鎖を含む組換えプラスミドを293F細胞に同時形質移入した後、細胞培養物を収集および精製して、ヒト化抗体3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1を得た。結果をSDS-PAGEで確認した。
【0117】
実施例4.抗体3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3および3H6H4L1のヒトIL-1β-His-Bioへの結合活性に関する検定(ELISA)
プレートの各ウェルを50 μLの2 μg/ mL SA(ストレプトアビジン)でコートし、4℃で一晩インキュベートした。プレートを1回洗浄し、残留液を除去した後、各ウェルを300 μLの1%BSA溶液(PBSに溶解)で遮断し、プレートを37℃で2時間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、残留液体を除去した。各ウェルのヒトIL-1β-His-Bioを50 μLのPBSTで0.2 μg/ mLに希釈し、プレートを37℃で30分間インキュベートした。次に、プレートを3回洗浄し、残留液体を除去した。抗体を表1の1 μg/ mLまたは表2の0.333 μg/ mLに初期濃度として希釈し、空対照に加えた後、1:3勾配希釈を行って合計7つの濃度を得た。上記の濃度で2つの複製ウェルを設定し、ウェルあたりの最終容量を100 μLにし、プレートを37℃で30分間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、軽くたたいて残留液を除去した後、50 μLの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG (H+L)二次抗体希釈標準溶液または西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)二次抗体標準希釈溶液を各ウェルに添加し、プレートを37℃で30分間インキュベートし、そこで50μLの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体希釈標準溶液を3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、3H6H4L1、カナキヌマブを含むウェルに添加した。次に、3H6を含むウェルに50 μLの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)二次抗体希釈標準溶液を加えた。プレートを4回洗浄し、残留液を除去した後、50 μLのTMB発色溶液を各ウェルに加えて室温で光から5分間離して発色させ、次に50 μLの停止溶液を各ウェルに加えて反応を停止する。次に、プレートを直ちにプレート読み取り機に置き、プレートの各ウェルのOD値を450 nmで読み取った。
【0118】
SoftMax Pro 6.2.1ソフトウェアを用いて、データを分析・加工した。横軸に抗体濃度、縦軸に吸光度を用いて、4パラメーター適合曲線を描画した。結果を図1および2に示す。3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1のヒトIL-1β-His-Bioへの結合活性の検定結果をそれぞれ表1および2に示す。
【表1】
【表2】
【0119】
結果から次のことが判明した。
3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1は、用量依存的な結合効率でヒトIL-1β-His-Bioに効果的に結合できる。
同じ検定条件で、3H6H1L1、3H6H2L2、および3H6H4L1の抗原ヒトIL-1β-His-Bioへの結合効率は用量依存的であり、結合活性は同じ標的に対して市販されている薬剤カナキヌマブよりも優れており、また3H6H3L3の結合活性はカナキヌマブの結合活性に匹敵する。
【0120】
実施例5.ヒトIL-1β-hFcへの結合に関するヒトIL-1R1(1-332)-Hisと競合する抗体3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の活性に関する検定(ELISA)
プレートの各ウェルに50 μLの4 μg/ mLヒトIL-1β-hFcでコートし、4℃で一晩インキュベートした。プレートを1回洗浄し、残留液を除去した後、各ウェルを300 μLの1%BSA溶液(PBSに溶解)で遮断し、プレートを37℃で2時間インキュベートした。次に、プレートを3回洗浄し、残留液体を除去した。抗体を初期濃度として2 μg/ mL(最終濃度:1 μg/ mL)に希釈し、空対照に加えて、1:3勾配希釈を行って合計7つの濃度を得た。上記の濃度で2つの複製ウェルを設定し、ウェルあたりの最終容量を50 μLにし、プレートを10分間インキュベートした。50 μLの0.08 μg/mL(最終濃度:0.04 μg/mL)または0.1 μg/ mL(最終濃度:0.05 μg/mL)ヒトIL-1R1 (1-332)-Hisをプレートの各ウェルに加え、各ウェルの最終容量が100 μLになるように、1:1の容量比で抗体と穏やかに混合した。次に、プレートを37℃で30分間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、残留液を除去した後、50 μLの抗Hisマウスモノクローナル抗体(HRP標識)標準希釈溶液を各ウェルに添加し、プレートを37℃で30分間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、残留液を除去した後、50 μLのTMB発色溶液を各ウェルに加え、室温で光から10分または5分間離して発色させ、次に反応を停止するために各ウェルに50 μLの停止溶液を加えた。次に、プレートを直ちにプレート読み取り機に置き、プレートの各ウェルのOD値を450nmで読み取った。
【0121】
SoftMax Pro 6.2.1ソフトウェアを使用してデータを分析・加工し、横軸に抗体濃度、縦軸に吸光度を使用して4パラメーター適合曲線を描画した。結果を図3および4に示す。ヒトIL-1β-hFcへの結合についてヒトIL-1R1(1-332)-hisと競合する3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1の活性の検定結果をそれぞれ表3および4に示す。
【表3】
【表4】
【0122】
結果から次のことが判明した。
3H6、3H6H1L1、3H6H2L2、3H6H3L3、および3H6H4L1は、抗原ヒトIL-1β-hFcの受容体ヒトIL-1R1(1-332)-hisへの結合を効果的に遮断でき、その遮断効率は用量依存的で、それらの競合結合活性は、同じ標的に対して市販されているカナキヌマブよりも優れている。
【0123】
実施例6.ヒトIL-1βに対する抗体3H6H4L1の親和定数の決定
ヒトIL-1β-hisに対する抗体の親和定数を、ビアコア分子相互作用装置を用いて測定した。抗体を、アミンカップリングにより、PBST緩衝液中のCM5チップの表面に固定し、信号値は約1000 RUであった。抗体は、1.56~25 nMの濃度(2倍勾配希釈)で120秒間、30 μL/minの流速でヒトIL-1βに結合し、600秒間解離させた。3MMgCl2を使用して30 μL/minの流速でチップを30秒間再生した。ビアコア Control 2.0ソフトウェアを用いてデータを取り、ビアコアT200評価2.0ソフトウェアで分析した。結果を表5、図5および図6に示す。
【表5】
【0124】
結果からつぎのことが判明した。
ヒトIL-1βに対する3H6H4L1の親和定数は8.79E-11Mであり、ヒトIL-1βに対するカナキナミアブの親和定数は9.79E-11Mであるから、3H6H4L1がヒトIL-1βに対してより強い結合能力を有することを示唆している。
【0125】
実施例7:抗体3H6H4L1の細胞生物活性に関する検定
1. MRC-5細胞にIL-6を分泌させるためのIL-1βを遮断する3H6H4L1の活性に関する細胞診検定
ヒトMRC-5細胞(中国科学院の細胞センターから購入)を従来通りに消化および計数し、7,500個の細胞ウェルを平底96ウェルプレートに播種し、細胞恒温機で培養した。24時間後(細胞増殖が80%コンフルエンスに達したとき)、投与処理を実施した。すなわち、抗体に4つの濃度(0.37 nM、1.11 nM、3.33 nM、および10 nM)を設定し、3つの濃度(5 pM、50 pM、およびIL-1β(Sino Biological Inc.から購入)については500 pM)を設定し、ば空対照群およびアイソタイプ対照群に加えて50pM IL-1βを抗体群に使用した(抗体およびIL-1βは事前に37℃で20分間インキュベートした)。投与後、これらの群を24時間培養した。細胞上清を収集し、IL-6 ELISA Kit(Dakewe Biotechnology Co., Ltd.から購入)を用いて検定した。検定結果を図7および表6に示す。
【表6】
【0126】
結果から、IL-1βがMRC-5を著しく促進してIL-6を用量依存的に分泌できることが判明した。3H6H4L1は、MRC-5細胞がIL-6を分泌するように誘導するIL-1βの活性を特異的に阻害することができ、IL-1βに対する3H6H4L1の特異的な中和活性を示す。
【0127】
2. NF-κBシグナル伝達経路を活性化するIL-1βを遮断する3H6H4L1
この実験では、IL-1βを遮断してNF-κBシグナル伝達経路を活性化する3H6H4L1の中和生物活性を、ルシフェラーゼ遺伝子レポーター検定によって測定した。
【0128】
(1) 293T-NF-κB-LUC細胞の構築
293T細胞をパンクレリパーゼで消化し、継代培養した。形質移入の2時間前に培地をopti-DMEM培地でリフレッシュした。500 μLのopti-DMEM培地を滅菌EPチューブに加え、続いて3 μgのプラスミドpNF-κB-Luc2P-hygroを加えた。500 μLのopti-DMEM培地を滅菌EPチューブに加え、続いて8 μLのリポフェクタミン2000を加えた。希釈したリポフェクタミン2000を希釈したプラスミドに加え、混合物を室温で15分間置いた後、細胞培養皿に均一に滴下した。形質移入の8時間後、培地をリフレッシュした。形質移入の24時間後、ハイグロマイシンを添加し、細胞を最終濃度100 μg/mLで選別した。ウェルには、293Tの形質移入されていないプラスミドが対照として含まれていた。7~10日後、対照ウェルの細胞は完全に死滅し、選別した細胞を増幅のために回収した。投与を継続し、濃度を100 μg/mLに維持した。安定した293T-NF-κB-LUC細胞株が得られた。
【0129】
(2) NF-κBシグナル伝達経路を活性化するためにIL-1βを遮断する3H6H4L1の中和生物活性に関する検定
293T-NF-κB-LUC細胞をいつものように消化し、96ウェルプレートに20,000細胞/ウェルで播種した。細胞を壁に付着させた後、IL-1βを最終濃度1.65 ng / mLになるように添加し、空対照を設定した。抗体カナキヌマブと3H6H4L1を同時に添加し、各抗体に5段階希釈して、最終濃度をそれぞれ400 ng/mL、100 ng/mL、25 ng/mL、6.25 ng/mL、1.56 ng/mLにした。6時間の共培養後、上清を除去し、50 μLのPBSと50 μLのBright-GloTM基質を加えて5分間反応させ、機械を用いて混合物を検定した。
【0130】
結果を図8および9に示す。
結果から次のことが判明した。
IL-1Βは、NF-κBシグナル伝達経路に依存するルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を明らかに用量依存的に活性化することができる。
3H6H4L1は、IL-1βを特異的に遮断して、用量依存的にNF-κBシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0131】
結果から、3H6H4L1がIL-1βを効果的に遮断してIL-1β依存性NF-κBシグナル伝達経路レポートシステムでNF-κBを活性化できることと、IL-1βに対するその特異的中和活性が判明した。
【0132】
実施例8.ヒトIL-1βを形質移入するNIH/3T3細胞によって誘導される関節リウマチモデルマウス治療を促進する3H6H4L1
46匹のBALB/cマウスを体重で6群、すなわち、正常群、モデル群、陽性対照群、3H6H4L1低用量群、3H6H4L1中用量群、3H6H4L1高用量群に分けた。正常群には6匹、他の各群には8匹のマウスがいた。
【0133】
細胞播種前に、マウスの体重と投与量に応じて、マウスに陽性対照群にカナキヌマブを皮下注射し、モデル群に抗HELを皮下注射し、対応する3H6H4L1用量群に対応する濃度の3H6H4L1を注射し、さらに等容積の通常の生理食塩水を皮下注射した。
【0134】
NIH/3T3(米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)から購入)細胞とLenti-IL-1β-NIH/3T3細胞をバイオハザード対策用キャビネットに収集した。Lenti-IL-1βベクターをNIH/3T3細胞に形質移入し、スクリーニングすることにより、IL-1βを安定して分泌および発現するLenti-IL-1β-NIH/3T3細胞株が得られた。必要な細胞数に達したら、NIH/3T3、Lenti-IL-1β-NIH/3T3細胞を回収した。バイオハザード対策用キャビネットで、古い培地をピペットで取り、細胞をPBSで1回洗浄し、適切な量の0.05%トリプシン-EDTA (1x)で1分間消化した後、10% FBSを含むDMEM完全培地を加えて消化を停止させた。細胞懸濁液を1200 rpm / minで4分間遠心分離し、上清を除去した後、無血清DMEM培地に再懸濁して計数し、細胞濃度を2,000,000細胞/mLに調整した後、後で使用するために氷上に置いた。
【0135】
BALB/cマウスを7.5 mL/kgの3.5%抱水クロラールの腹腔内注射で麻酔した後、正常群のマウスの膝関節腔に25 μL/マウス(50,000細胞/マウス)のNIH/3T3細胞懸濁液を、また他のマウスの膝関節腔に25 μL/マウス(50,000細胞/マウス)のレンチ-IL-1β-NIH /3T3細胞懸濁液を接種した。接種後、膝関節の傷を縫合し、ペニシリンを通常の生理食塩水に20倍に希釈した溶液を投与した。細胞接種後5日目に、各群のマウスを頸椎脱臼により安楽死させ、罹患した四肢の膝関節を解剖し、罹患した四肢の滑膜の長さ(mm)および幅(mm)をノギスで測定した。データを平均±標準誤差(±SEM)で表し、結果をGraphPad Prism 5ソフトウェアで処理された群間比較後の一元配置分散分析で評価した。P <0.05の場合に有意差がありP <0.01の場合に非常に有意差があることが示唆された。
【0136】
結果を図10、11、および12に示す。
図10は、正常群のマウスに比べてモデル群のマウスで病理学的行動が明白であることを示している(P <0.01)。投与後、カナキヌマブと3H6H4L1の高用量群と中用量群は、関節リウマチのマウスの病理学的行動を効果的に改善できるが(P <0.01)、3H6H4L1低用量群はモデル群と比べて関節リウマチのマウスの病理学的行動の改善に効果的ではない(P> 0.05)。一方、3H6H4L1は、マウスの病理学的行動度の改善に一定の用量効果関係がある。陽性対照群と比較して、3H6H4L1中用量群および低用量群(P <0.01)は陽性対照群よりも効果が低く、3H6H4L1高用量群は陽性対照群と同等の効果がある(P> 0.05)。
【0137】
図11は、モデル群のマウスの病気に冒された肢の膝関節面積が、正常群に比べて有意に増加していることを示している(P <0.01)。投与後、陽性対照群(カナキヌマブ)および3H6H4L1中用量群および高用量群は、関節リウマチのマウスの患肢の腫れ領域を明らかに減少させることができる(P <0.01)が、3H6H4L1低用量群はモデル群と比べて、関節リウマチ(P> 0.05)のマウスの患肢の腫れ領域を減らすことに明らかな効果はない。一方、3H6H4L1は、関節リウマチのマウスの患肢の腫れ領域を縮小する上で、特定の用量効果関係がある。3H6H4L1の等価用量は、同じ標的に対して市販されているカナキヌマブと同等の有効性を示す(P> 0.05)。
【0138】
図12は、モデル群のマウスの体重が正常群のそれと比べて有意に減少していることを示している(P <0.01)。投与後、同じ標的および3H6H4L1高用量群用に市販されている薬剤カナキヌマブは、モデル群と比較して関節炎のマウスの体重減少を明らかに減らすことができる(P <0.05)。陽性対照群と比べて、3H6H4L1の等価用量は、同じ標的に対して市販されているカナキヌマブと同等の有効性を示す(P> 0.05)。
【0139】
本発明の好ましい実施態様を、ここまで詳細に説明してきたが、本発明は、これらの実施態様に限定されない。当業者は、本発明の精神に違反することなく、様々な均等な修正または置換を行うことができる。これらの均等の修正または置換は、本出願の特許請求の範囲によって定義される範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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