(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241023BHJP
C21D 1/32 20060101ALI20241023BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20241023BHJP
C22C 38/22 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C21D1/32
C21D8/06 A
C22C38/22
(21)【出願番号】P 2021534917
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 KR2019017687
(87)【国際公開番号】W WO2020130506
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2018-0163837
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ-スン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ビョン-ガブ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,セ-ホン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ウ-ソク
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-119809号公報
【文献】特開2004-100016号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.3~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、面積%で、初析フェライト分率が平衡相の40%以上、再生パーライト及びベイナイトの分率が40%以上、マルテンサイト分率が20%以下である微細組織を有し、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域でのパーライトコロニーの平均大きさは5μm以下であることを特徴とする軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項2】
前記線材は、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさが7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項3】
前記パーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項4】
前記線材は、表面から直径の1/5地点までの領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさと、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさの偏差が6μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項5】
前記線材は、引張強度(TS)が579+864×([C]+[Si]/8+[Mn]/18)MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項6】
前記線材をAe1以上で1回の球状化熱処理したとき、前記1回の球状化熱処理された線材は、セメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項7】
前記線材をAe1以上で1回の球状化熱処理したとき、前記1回の球状化熱処理された線材は、引張強度が540MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項8】
重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.3~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部がFe及びその他の不可避不純物からなるビレットを950~1050℃で加熱する段階、
前記加熱されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る段階、
前記線材を巻取る段階、及び
前記巻取った線材を2℃/sec以下の冷却速度で600℃まで冷却した後、3℃/sec以上の冷却速度で冷却する段階、を含み、
前記2次熱間圧延は、前記加熱されたビレットを中間仕上げ圧延する段階、及び730℃~Ae3で式1で表される臨界変形量以上で仕上げ圧延する段階、を含むことを特徴とす
る請求項1に記載の線材の製造方法。
[式1]臨界変形量=-2.46Ceq
2
+3.11Ceq-0.39(但し、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、前記C、Mn、Crは重量%である)
【請求項9】
前記加熱時の加熱時間は90分以下であることを特徴とする請求項8に記載
の線材の製造方法。
【請求項10】
前記中間仕上げ圧延後の線材のオーステナイト結晶粒の平均大きさは、5~20μmであることを特徴とする請求項8に記載
の線材の製造方法。
【請求項11】
前記仕上げ圧延前の線材の平均表面温度(T
pf)と前記仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(T
f)が式2を満たすことを特徴とする請求項8に記載
の線材の製造方法。
[式2]T
pf-T
f≦50℃
【請求項12】
前記仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(T
f)と巻取り温度(T
l)が式3を満たすことを特徴とする請求項8に記載
の線材の製造方法。
[式3]T
f-T
l≦30℃
【請求項13】
前記3℃/sec以上の冷却速度で冷却後の線材をAe1~Ae1+40℃に加熱し、10~15時間維持した後、660℃まで20℃/hr以下に冷却する球状化アニーリング熱処理をさらに含む、請求項8に記載
の線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法に係り、より詳しくは、自動車、建設用部品などに適用可能な機械構造用の軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、冷間加工のための素材の軟質化のためには、600~800℃の高温で10~20hr以上の長時間の熱処理が必要であり、これを短縮、或いは省略するために多くの技術が開発されてきた。
【0003】
代表的な技術としては、特許文献1がある。この技術は、フェライト結晶粒度を11以上に制御して結晶粒を微細化し、パーライト組織内の硬い板状セメンタイト相のうち、約3~15%を分節された形で制御することで、後続する軟質化熱処理工程を省略することにその目的がある。しかし、この素材の製造は、熱間圧延後の冷却時に0.02~0.3℃/sの非常に遅い冷却速度のみによって確保されるものであるが、このように遅い冷却速度は、生産性の減少を伴い、環境によっては別の徐冷設備及び徐冷ヤードなどが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が目的とするところは、自動車、建設用部品などの冷間加工時に必要な軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材は、重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.3~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、面積%で、初析フェライト分率が平衡相の40%以上、再生パーライト及びベイナイトの分率が40%以上、マルテンサイト分率が20%以下である微細組織を有し、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域でのパーライトコロニーの平均大きさは、5μm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材の他の実施形態は、重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.3~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部がFe及びその他の不可避不純物からなるビレットを950~1050℃で加熱する段階、加熱されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る段階、線材を巻取る段階、及び巻取った線材を2℃/sec以下の冷却速度で600℃まで冷却した後、3℃/sec以上の冷却速度で冷却する段階、を含み、2次熱間圧延は、加熱されたビレットを中間仕上げ圧延する段階、及び730℃~Ae3で式1で表される臨界変形量以上で仕上げ圧延する段階、を含むことを特徴とする。
[式1]臨界変形量=-2.46Ceq2+3.11Ceq-0.39(但し、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは、重量%である)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動車、建設用部品などの冷間加工時に必要な軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】比較例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図2】発明例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図3】比較例1の圧延及び冷却後の微細組織を観察した写真であって、(a)は光学顕微鏡で観察した写真であり、(b)はSEMで観察した写真である。
【
図4】発明例1の圧延及び冷却後の微細組織を観察した写真であって、(a)は光学顕微鏡で観察した写真であり、(b)はSEMで観察した写真である。
【
図5】比較例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【
図6】発明例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による軟質化熱処理の省略が可能な線材について説明するが、まず、本発明の合金組成を説明する。下記説明する合金組成の含有量は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0011】
C:0.2~0.45%
Cは一定水準の強度を確保するために添加される元素である。C含有量が0.45%を超える場合には、すべての組織がパーライトからなり、本発明が目的とするフェライト組織を確保することが難しく、焼入れ性が過度に増加して軽い低温変態組織が多量に発生する可能性がある。これに対し、0.2%未満の場合には、母材の強度低下により、軟質化熱処理及び鍛造加工の工程後に行われる焼入れ、焼戻しの熱処理後に十分な強度を確保することが困難である。したがって、C含有量は、0.2~0.45%の範囲を有することが好ましい。C含有量の下限は、0.22%であることがより好ましく、0.24%であることがさらに好ましく、0.26%であることが最も好ましい。C含有量の上限は、0.43%であることがより好ましく、0.41%であることがさらに好ましく、0.39%であることが最も好ましい。
【0012】
Si:0.02~0.4%
Siは、代表的な置換型元素であって、一定水準の強度を確保するために添加される元素である。Siが0.02%未満の場合には、鋼の強度確保及び十分な焼入れ性の確保が難しく、0.4%を超える場合には、軟質化熱処理後の鍛造時の冷間鍛造性を悪化させる欠点がある。したがって、Si含有量は、0.02~0.4%の範囲を有することが好ましい。Si含有量の下限は、0.022%であることがより好ましく、0.024%であることがさらに好ましく、0.026%であることが最も好ましい。Si含有量の上限は、0.038%であることがより好ましく、0.036%であることがさらに好ましく、0.034%であることが最も好ましい。
【0013】
Mn:0.3~1.5%
Mnは、基地組織内に置換型固溶体を形成し、A1温度を下げてパーライト層間の間隔を微細化し、フェライト組織内の亜結晶粒を増加させる元素である。Mnが1.5%を超える場合には、マンガン偏析による組織不均質によって有害な影響を及ぼすようになる。鋼の凝固時に偏析機構によってマクロ偏析及びミクロ偏析が生じやすいが、Mnは他の要素に比べて相対的に低い拡散係数により偏析帯を助長し、これによる硬化能の向上は、中心部にマルテンサイトのような低温組織を生成する主原因となる。これに対し、Mnが0.3%未満の場合には、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻しの熱処理後にマルテンサイト組織を確保するための十分な焼入れ性が確保され難い。したがって、Mn含有量は0.3~1.5%の範囲を有することが好ましい。Mn含有量の下限は、0.4%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましく、0.6%であることが最も好ましい。Mn含有量の上限は、1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0014】
Cr:0.3~1.5%
Crは、Mnと同様に鋼の焼入れ性を高める元素として主に用いられる。Crが0.3%未満の場合には、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻しの熱処理時にマルテンサイトを得るための十分な焼入れ性の確保が難しく、1.5%を超える場合には、中心偏析の助長により線材内の低温組織が多量に発生する可能性が高くなる。したがって、Cr含有量は0.3~1.5%の範囲を有することが好ましい。Cr含有量の下限は、0.4%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましく、0.6%であることが最も好ましい。Cr含有量の上限は、1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0015】
Al:0.02~0.05%
Alは、脱酸効果だけでなく、Al系炭窒化物を析出させ、オーステナイト結晶粒の成長抑制及び初析フェライト分率を平衡相に近く確保するのに役立つ元素である。Alが0.02%未満の場合には、脱酸効果が十分でなく、0.05%を超える場合には、Al2O3などの硬質介在物が増加することがあり、特に、連鋳時の介在物によるノズルの目詰まりが発生する可能性がある。したがって、Al含有量は0.02~0.05%の範囲を有することが好ましい。Al含有量の下限は、0.022%であることがより好ましく、0.024%であることがさらに好ましく、0.026%であることが最も好ましい。Al含有量の上限は、0.048%であることがより好ましく、0.046%であることがさらに好ましく、0.044%であることが最も好ましい。
【0016】
Mo:0.01~0.5%
Moは、Mo系炭窒化物を析出させ、オーステナイト結晶粒の成長を抑制させ、冷却時に初析フェライトの生成を促進するのに役立つだけでなく、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻しの熱処理のうち焼戻しの際、Mo2C析出物を形成させて強度低下(焼戻し軟化)の抑制に効果的な元素である。Moが0.01%未満の場合には、十分な強度低下の抑制効果を有し難く、0.5%を超える場合には、線材内に低温組織が多量に発生する可能性があり、これにより、低温組織を除去するための追加的な熱処理費用がかかることがある。したがって、Moは0.01~0.5%の範囲を有することが好ましい。Mo含有量の下限は、0.012%であることがより好ましく、0.013%であることがさらに好ましく、0.014であることが最も好ましい。Mo含有量の上限は、0.49%であることがより好ましく、0.48%であることがさらに好ましく、0.47%であることが最も好ましい。
【0017】
N:0.01%以下
Nは、不純物元素であり、0.01%を超える場合には、析出物に結合していない固溶窒素により素材靭性及び延性の低下が発生する可能性がある。したがって、N含有量は0.01%以下の範囲を有することが好ましい。
【0018】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0019】
本発明の線材は、面積%で、初析フェライト分率が平衡相の40%以上、再生パーライト及びベイナイトの分率が40%以上、マルテンサイト分率が20%以下である微細組織を有することが好ましい。初析フェライトは軟質相として素材の強度低下に主要な効果を発揮する。初析フェライト分率が平衡相の40%未満の場合には、硬質相が比較的多量に形成されるにつれ、球状化熱処理性を効果的に確保することが困難であることがある。一方、初析フェライト分率は、平衡相の80%以下であることが好ましく、80%を超える場合には、非常に遅い冷却速度が必要であるため、生産性の低下が発生することがある。初析フェライトの平衡相とは、Fe3C状態図上において安定した状態で有することができる初析フェライトの最大分率を意味する。初析フェライトの平衡相は、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、Fe3C状態図によりC含有量及びその他の合金元素の含有量などを考慮して、容易に導出することができる。再生パーライト及びベイナイトは、フェライト及びセメンタイト相からなっており、再生パーライトとは、圧延または伸線工程により高い転位密度を有し、分節形のセメンタイトを有する組織を意味する。すなわち、一般的にパーライト組織内に存在する板状セメンタイトとは異なり、再生パーライトは不連続的であり、分節されたセメンタイトが分布しているため、球状化軟質熱処理時に速い速度で球状化が行われる効果を発揮する。この効果のためには、再生パーライト及びベイナイトの分率が40%以上であることが好ましい。一方、再生パーライト及びベイナイトの分率は80%以下であることが好ましく、80%を超える場合には、球状化炭化物が微細化して、十分な強度低下が起こらないという欠点がある。マルテンサイトは、硬質相として短時間内に速い球状化炭化物を形成させる効果を発揮する。但し、マルテンサイト分率が20%を超える場合には、微細炭化物による強度上昇の効果が生じる欠点がある。一方、マルテンサイト分率は3%以上であることが好ましく、3%未満である場合には、熱処理の初期時間に球状化炭化物シード(seed)が減少して球状化が遅れるという欠点がある。
【0020】
本発明の線材は直径の2/5地点~3/5地点の領域でのパーライトコロニーの平均大きさが5μm以下であることが好ましい。このようにパーライトコロニーの平均大きさを微細に制御することで、セメンタイトの分節効果を向上させ、球状化熱処理時のセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0021】
また、直径の2/5地点~3/5地点の領域での初析フェライトの結晶粒の平均大きさは、7μm以下であることが好ましい。このように、フェライトの結晶粒の平均大きさを微細に制御することで、パーライトコロニーの大きさも微細化させることができ、これにより、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0022】
併せて、パーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、5μm以下であることが好ましい。このようにパーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさを小さく制御することで、すなわち、セメンタイトのアスペクト比を小さく制御して球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0023】
一方、本発明において、パーライトコロニーの平均大きさ、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、及びパーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、線材の直径の基準中心部、例えば、直径を基準にして表面から2/5地点~3/5地点の領域におけるものである可能性がある。通常的に、線材の表層部は、圧延時に強い圧下力を受けるため、表層部でのパーライトコロニーの平均大きさ、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、及びパーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、微細であることができる。しかし、本発明では線材の表層部だけでなく、中心部までパーライトコロニーの平均大きさ及びフェライトの結晶粒の平均大きさを微細化させることで、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を効果的に高めることができる。
【0024】
例えば、本発明の線材は、表面から直径の1/5地点までの領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさと、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさの偏差が6μm以下である。
【0025】
本発明の線材は、引張強度(TS)が579+864×([C]+[Si]/8+[Mn]/18)MPa以上である。本発明によると、フェライト相分率が高いにも関わらず、微細なフェライト結晶粒により鋼の強度は上昇する。本発明の線材の引張強度は、式のような関係を有する。本発明のフェライト分率を有しながらも、このような強度を有するということは、鋼のフェライト結晶粒が非常に微細であるということであり、別途の微細組織の観察なしに現場で行う引張試験だけでも鋼の結晶粒微細化を確認することができる。本発明の線材は、このような引張強度を有することで、線材自体の強度確保が容易であるだけでなく、この後の軟質化熱処理時の軟質化熱処理工程の省略、或いは短縮を可能とすることができる。
【0026】
通常、線材を鋼線で製造するためには、1次軟質化熱処理→1次伸線加工→2次軟質化熱処理→2次伸線加工を経る。しかし、本発明の線材は、素材の十分な軟質化により、1次軟質化熱処理及び1次伸線加工に該当する工程を省略できる。一方、本発明で言及する軟質化熱処理は、Ae1相変態点以下で実施する低温アニーリング熱処理、Ae1近くで実施する中温アニーリング熱処理、Ae1以上で実施する球状化アニーリング熱処理などが挙げられる。
【0027】
また、本発明の線材は、1回の球状化アニーリング熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下である。通常、球状化アニーリング熱処理は、その処理の回数が増加するほどセメンタイトの球状化に効果的であることが広く知られている。しかし、本発明では1回の球状化アニーリング熱処理だけでもセメンタイトを十分に球状化させることができる。一方、上述したように、線材の表層部は、圧延時に強い圧下力を受けるため、セメンタイトの球状化も円滑に行われる。しかし、本発明では線材の直径の基準中心部、例えば、直径を基準にして表面から1/4地点~1/2地点の領域でのセメンタイトも十分球状化が可能であり、線材中心部でのセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下である。さらに、本発明の線材は、1回の球状化熱処理後に540MPa以下の引張強度を有する。これにより、最終製品の製造のための冷間圧造または冷間鍛造の加工を容易にすることができる。
【0028】
以下、本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法について説明する。
【0029】
まず、上述した合金組成を有するビレットを950~1050℃で加熱する。ビレット加熱温度が950℃未満の場合には、圧延性が低下し、ビレット加熱温度が1050℃を超える場合には、圧延のために急激な冷却が必要なため、冷却制御が困難となるだけでなく、亀裂などが発生して良好な製品品質を確保することが困難となる。
【0030】
加熱時の加熱時間は90分以下であることが好ましい。加熱時間が90分を超える場合には、表面脱炭層の深さが厚くなって圧延終了後に脱炭層が残存することがある。
【0031】
その後、加熱されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る。2次熱間圧延はビレットを線材の形態を有するようにする孔型圧延であることが好ましい。2次熱間圧延は、加熱されたビレットを中間仕上げ圧延する段階と、730℃~Ae3で式1で表される臨界変形量以上で仕上げ圧延する段階を含むことができる。
[式1]臨界変形量=-2.46Ceq2+3.11Ceq-0.39(但し、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは重量%である)
【0032】
線材圧延速度は非常に速く、動的再結晶の領域に属する。現在までの研究結果によると、動的再結晶の条件下では、オーステナイト結晶粒の大きさが変形速度及び変形温度のみに依存することが明らかになっている。線材圧延の特性上、線径が決まると変形量、変形速度が定まり、オーステナイト結晶粒の大きさは、変形温度を調整して変化させることができる。本発明では動的再結晶のうち動的変形有機変態現象を利用して、結晶粒を微細化する。このような現象を利用して、本発明が得ようとするフェライト結晶粒を確保するためには、仕上げ圧延温度を730℃~Ae3に制御することが好ましい。仕上げ圧延温度がAe3を超える場合には、本発明で得ようとするフェライト結晶粒を得ることが難しく、十分な球状化熱処理性を得ることが困難であり、730℃未満の場合には、設備の負荷が高くなり、設備の寿命が急激に低下するおそれがある。
【0033】
なお、式1で表される臨界変形量未満で仕上げ圧延する場合には、圧下量が十分でなく、線材中心部でのセメンタイトの平均アスペクト比及びフェライト結晶粒の平均大きさを十分に微細化させ難く、これによって得られる線材の球状化熱処理性が低下するおそれがある。
【0034】
このとき、仕上げ圧延前の線材の平均表面温度(Tpf)と仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(Tf)が式2を満たすことが好ましい。仕上げ圧延前の線材の平均表面温度(Tpf)と仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(Tf)が式2を満たさない場合には、微細組織の偏差が非常に大きくなり、表面過冷が大きくなって硬質相が多量に形成されることがある。
[式2]Tpf-Tf≦50℃
【0035】
一方、中間仕上げ圧延後の線材のオーステナイト結晶粒の平均大きさは5~20μmであることが好ましい。フェライトはオーステナイト結晶粒界から核生成して成長することが知られている。母相であるオーステナイト結晶粒が微細であると、その結晶粒界から核生成するフェライトも微細に生成を開始することができるため、中間仕上げ圧延後の線材のオーステナイト結晶粒の平均大きさを制御することにより、フェライト結晶粒微細化の効果を得ることができる。オーステナイト結晶粒の平均大きさが20μmを超える場合には、フェライト結晶粒微細化の効果を得ることが困難であり、5μm未満のオーステナイト結晶粒の平均大きさを得るためには、強圧下のような高い変形量をさらに加える別の設備が必要であるという欠点がある。
【0036】
その後、巻取った線材を2℃/sec以下の冷却速度で600℃まで冷却した後、3℃/sec以上の冷却速度で冷却する。600℃までの冷却速度が2℃/secを超える場合には、マルテンサイトのような硬質相が多量に生成するおそれがある。よって、600℃までの冷却速度は、フェライト結晶粒微細化の側面で0.5~2℃/secであることがより好ましい。600℃未満の温度範囲は、3℃/sec以上の冷却速度で急冷することが好ましい。このように急冷により準硬質相である再生パーライト及びベイナイトと硬質相であるマルテンサイト組織を本発明が得ようとする適正分率で確保することができ、球状化熱処理に不利な板状セメンタイトの成長を抑制することができる。
【0037】
次に、線材を巻取ることで、線材を製造する。
【0038】
仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(Tf)と巻取り温度(Tl)は式3を満たすことが好ましい。仕上げ圧延後の線材の平均表面温度(Tf)と巻取り温度(Tl)は式3を満たさない場合には、微細組織の偏差が非常に大きくなり、表面過冷が大きくなって硬質相が多量に形成されることがある。
[式3]Tf-Tl≦30℃
【0039】
本発明では巻取後、線材をAe1~Ae1+40℃に加熱し、10~15時間維持した後、660℃まで20℃/hr以下に冷却する球状化熱処理をさらに含むことができる。加熱温度がAe1未満の場合には、球状化熱処理時間が長くなる欠点がある可能性があり、Ae1+40℃を超える場合には、球状化炭化物のシードが減って、球状化熱処理の効果が十分でない可能性がある。維持時間が10時間未満の場合には、球状化熱処理が十分に行われず、セメンタイトのアスペクト比が大きくなる欠点がある可能性があり、15時間を超える場合には、費用が増加する欠点がある可能性がある。冷却速度が20℃/hrを超える場合には、速い冷却速度によりパーライトが再び形成される欠点がある可能性がある。一方、上述したように、本発明では1次軟質化熱処理及び1次伸線加工をせず、球状化熱処理のみを行っても、十分な球状化熱処理性を確保することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0041】
(実施例)
表1の合金組成を有するビレットを用意した後、表2及び3に記載された条件を利用して、直径が10mmである線材を製造した。このように製造された線材について微細組織、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、パーライトコロニーの平均大きさ、パーライトコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさ、表層部と中心部の初析フェライト結晶粒の平均大きさの偏差及び引張強度を測定した後、その結果を表3に示した。併せて、線材に対して表4の条件で1回の球状化熱処理をした後、セメンタイトの平均アスペクト比及び引張強度を測定して、その結果を表4に示した。球状化熱処理は、製造された線材の試験片に対して1次軟質化処理及び1次伸線加工工程をせずに行った。
【0042】
オーステナイト結晶粒の平均大きさ(AGS)は、仕上げ熱間圧延前に行う切断cropを介して測定した。
【0043】
Ae1及びAe3は、常用プログラムであるJmatProを利用して計算した値を示した。
【0044】
初析フェライトの結晶粒の平均大きさ(FGS)は、ASTM E112法を利用して、線材圧延後に未水冷部を除去した後、採取した試験片に対して直径から2/5地点~3/5地点の領域で任意の3地点を測定した後、平均値で示した。
【0045】
パーライトコロニーの平均大きさは、ASTM E112法を利用して、FGS測定と同一地点で任意のパーライトコロニー10個を選定し、各コロニーの(長軸+短縮)/2の値を求めた後、測定したコロニーの大きさの平均値で示した。
【0046】
表層部と中心部の初析フェライト結晶粒の平均大きさの偏差は、ASTM E112法を利用して、表面から直径の1/5地点までの領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさと、直径の2/5地点~3/5地点の領域での初析フェライト結晶粒の平均大きさを測定した後、偏差を計算した。
【0047】
球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比は、線材の直径方向に1/4~1/2地点をSEMを用いて(倍率)2000倍にて3視野を撮影し、視野内のセメンタイトの長軸/短縮をイメージ測定プログラムを用いて自動測定した後、統計処理を介して測定した。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
表1~4から分かるように、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率だけでなく、微細な結晶粒を確保することで、1回の球状化熱処理だけでも2.5以下のセメンタイトの平均アスペクト比を有することが分かる。
【0053】
しかし、本発明が提案する合金組成または製造条件を満たしていない比較例1~4の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率を満たしていないか、または微細な結晶粒が確保できなかったことにより、1回の球状化熱処理時のセメンタイトの平均アスペクト比が高い水準であることが分かり、その結果、最終製品に適用するためには、さらなる球状化熱処理が必要であることが確認できる。
【0054】
図1は、比較例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真であり、
図2は、発明例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
図1及び2から分かるように、発明例1は、比較例1に比べて仕上げ熱間圧延前のAGSが比較的微細であることが分かる。
【0055】
図3は、比較例1の圧延及び冷却後の微細組織を観察した写真であって、(a)は光学顕微鏡で観察した写真であり、(b)はSEMで観察した写真であり、
図4は、発明例1の圧延及び冷却後の微細組織を観察した写真であって、(a)は光学顕微鏡で観察した写真であり、(b)はSEMで観察した写真である。
図3及び4から分かるように、発明例1は、比較例1に比べて圧延及び冷却した後の微細組織が微細化しており、セメンタイトが分節されていることが確認できる。
【0056】
図5は、比較例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真であり、
図6は、発明例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
図5及び6から分かるように、発明例1は、比較例1に比べて球状化熱処理後の微細組織がより球状化していることが確認できる。