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特許7576046熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品
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  • 特許-熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/02 20060101AFI20241023BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20241023BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20241023BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C08L25/02
C08L51/04
C08L35/00
C08L51/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021564477
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 KR2020005632
(87)【国際公開番号】W WO2020222511
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0050861
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジェソク
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ドンゲン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,キヘ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ウジン
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218309(JP,A)
【文献】特表2017-536428(JP,A)
【文献】特開2008-056904(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186133(WO,A1)
【文献】特開2017-066216(JP,A)
【文献】特開昭63-152659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体25~30重量%;
(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体45~55重量%;および
(C)マレイミド系共重合体20~25重量%
を含む基礎樹脂100重量部に対して、
(D)ポリエチレン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体1~6重量部を含み、
前記(D)ポリエチレン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、ポリエチレン主鎖にスチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体がグラフトされたものであり、
前記グラフト共重合体の総重量を基準として、
前記ポリエチレン70~95重量%と、前記スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体5~30重量%とを含み、
前記スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体は、スチレン50~95重量%と、グリシジルメタクリレート5~50重量%と、を含む混合物の共重合体である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、
ブタジエン系ゴム質重合体からなるコア、および
アクリロニトリルとスチレンが前記コアにグラフト重合されて形成されたシェルを含むコア-シェル構造である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、100重量%を基準として、前記コア40~70重量%を含む、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ゴム質重合体の平均粒径が200~400nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体100重量%を基準として、芳香族ビニル化合物60~80重量%およびシアン化ビニル化合物20~40重量%を含む単量体混合物の共重合体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体の重量平均分子量は、80,000~200,000g/molである、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、スチレン-アクリロニトリル共重合体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C)マレイミド系共重合体は、N-フェニルマレイミド-スチレン-マレイン酸無水物共重合体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C)マレイミド系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、150~200℃である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
核剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、滑剤、離型剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、衝撃補強剤の中から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂に代表されるスチレン系樹脂は、その優れた成形性、機械的特性、外観、2次加工性などにより自動車、家電、OA機器などにおいて広範囲に使用されている。
【0003】
スチレン系樹脂を用いた成形品は塗装/無塗装が要求される様々な製品に広範囲に適用可能であり、例えば、自動車用内/外装材などに適用可能である。
【0004】
しかし、スチレン系樹脂で構成される成形品をポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの他の樹脂で構成される部品やクロロプレンゴム、天然ゴム、ポリエステル、ポリエチレンなどのライニングシートやフォームなどの他の部材と接触して互いに擦れる部位に用いると、摩擦音が発生することがある。
【0005】
スチレン系樹脂は非結晶性樹脂であるため、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタールなどの結晶性樹脂と比較すれば、摩擦係数が高く、例えば、自動車内のエアコン送風口やカーステレオのボタンなどのように他の樹脂で構成される部材と嵌合する場合には、摩擦係数が大きいため、スティック-スリップ現象が発生して、摩擦音(きしむ音)が発生する恐れがある。
【0006】
最近、駆動時、既存の自動車に比べて比較的騒音の発生が少ない電気車需要が増加するに伴い、前記摩擦音が乗車時の快適性、静粛性を阻害する大きな原因に浮上しかねない。したがって、摩擦音低減特性に優れた自動車内装材の開発が必要であるのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦音低減効果と機械的物性にすべて優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によれば、(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体25~30重量%;(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体45~55重量%;および(C)マレイミド系共重合体20~25重量%を含む基礎樹脂100重量部に対して、(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体1~6重量部を含む熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0009】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体からなるコア、およびアクリロニトリルとスチレンが前記コアにグラフト重合されて形成されたシェルを含むコア-シェル構造であってもよい。
【0010】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体100重量%を基準として、前記コア40~70重量%を含むことができる。
【0011】
前記(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ゴム質重合体の平均粒径が200~400nmであってもよい。
【0012】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体100重量%を基準として、芳香族ビニル化合物60~80重量%およびシアン化ビニル化合物20~40重量%を含む単量体混合物の共重合体であってもよい。
【0013】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、重量平均分子量が80,000~200,000g/molであってもよい。
【0014】
前記(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、スチレン-アクリロニトリル共重合体であってもよい。
【0015】
前記(C)マレイミド系共重合体は、N-フェニルマレイミド-スチレン-マレイン酸無水物共重合体であってもよい。
【0016】
前記(C)マレイミド系共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が150~200℃であってもよい。
【0017】
前記(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、置換もしくは非置換のポリオレフィン主鎖に芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体がグラフトされたものであってもよい。
【0018】
前記(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体100重量%を基準として、前記置換もしくは非置換のポリオレフィン70~95重量%を含み、前記芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体5~30重量%を含むことができる。
【0019】
前記置換もしくは非置換のポリオレフィンは、ポリエチレンおよびエチレン-ビニルアセテート共重合体を含む群より選択された1種以上であってもよい。
【0020】
前記芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体は、スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であってもよい。
【0021】
前記スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体は、スチレン50~95重量%およびグリシジルメタクリレート5~50重量%を含む単量体混合物が共重合されたものであってもよい。
【0022】
前記(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、ポリエチレン-スチレン-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体およびエチレン-ビニルアセテート-スチレン-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体を含む群より選択された1種以上であってもよい。
【0023】
前記熱可塑性樹脂組成物は、核剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、滑剤、離型剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、衝撃補強剤の中から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含むことができる。
【0024】
一方、一実施形態による熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品が提供できる。
【発明の効果】
【0025】
一実施形態による熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品は、摩擦音低減効果と機械的物性にすべて優れていることから、塗装、無塗装で使用する様々な製品の成形に広範囲に適用可能であり、特に、摩擦音の低減が大きく要求される自動車、例えば、電気車の内装材などの用途にも有用に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】VDA230-206の基本原理を図式化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例として提示されるものであり、これによって本発明が制限されず、本発明は添付した特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0028】
本発明においては特に言及しない限り、平均粒径とは、体積平均径であり、動的光散乱(Dynamic light scattering)分析機器を用いて測定したZ-平均粒径を意味する。
【0029】
一実施形態によれば、(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体25~30重量%;(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体45~55重量%;および(C)マレイミド系共重合体20~25重量%を含む基礎樹脂100重量部に対して、(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体1~6重量部を含む熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0030】
以下、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる各成分について具体的に説明する。
【0031】
(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体
一実施形態において、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に優れた耐衝撃性を付与する。一実施形態において、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体成分からなる中心部(コア、core)と、その中心部にアクリロニトリルとスチレンをグラフト重合反応させてシェル(shell)を形成したコア-シェル(core-shell)構造を有することができる。
【0032】
コアを構成するゴム質重合体成分は特に低温での耐衝撃性を向上させ、シェルの成分は界面張力を低くして界面での接着力を向上させることができる。
【0033】
一実施形態によるアクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体にスチレンとアクリロニトリルを添加し、乳化重合、塊状重合など通常の重合方法によりグラフト共重合することによって製造できる。
【0034】
前記ブタジエン系ゴム質重合体は、ブタジエンゴム質重合体、ブタジエン-スチレンゴム質重合体、ブタジエン-アクリロニトリルゴム質重合体、ブタジエン-アクリレートゴム質重合体およびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0035】
前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体の平均粒径が、例えば200~400nm、例えば200~350nm、例えば250~350nmであってもよい。前記範囲を満足する場合、熱可塑性樹脂組成物は優れた耐衝撃性および外観特性を確保できる。
【0036】
前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体100重量%に対して、前記ブタジエン系ゴム質重合体コアは40~70重量%含まれる。一方、前記シェルは、前記スチレンおよび前記アクリロニトリルの重量比が6:4~8:2の単量体混合物から共重合されたスチレン-アクリロニトリル共重合体であってもよい。
【0037】
前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体は、基礎樹脂100重量%に対して、25~30重量%、例えば26~29重量%含まれる。
【0038】
基礎樹脂内の前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体が25重量%未満の場合、優れた耐衝撃性を達成しにくく、30重量%を超える場合、耐熱性と流動性が低下する恐れがある。
【0039】
(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体
一実施形態において、芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させ、構成要素間の相溶性を一定水準に維持させる機能を行う。
【0040】
一実施形態において、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、重量平均分子量が80,000g/mol以上、例えば85,000g/mol以上、例えば90,000g/mol以上であり、例えば200,000g/mol以下、例えば150,000g/mol以下であり、例えば80,000g/mol~200,000g/mol、例えば80,000g/mol~150,000g/molであるものを使用することができる。
【0041】
本発明において、重量平均分子量は、粉体試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶かした後、Agilent Technologies社の1200seriesのゲル透過クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)を用いて測定(カラムはShodex社のLF-804、標準時料はShodex社のポリスチレンを使用)したものである。
【0042】
前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンから選択された1種以上であってもよい。
【0043】
前記シアン化ビニル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリルから選択された1種以上であってもよい。
【0044】
一実施形態において、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含む単量体混合物の共重合体であってもよい。
【0045】
この場合、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体100重量%に対して、前記芳香族ビニル化合物は、例えば60重量%以上、例えば65重量%以上、例えば70重量%以上含まれ、例えば80重量%以下、例えば75重量%以下含まれ、例えば60~80重量%、例えば65~75重量%含まれていてもよい。
【0046】
また、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体100重量%に対して、前記シアン化ビニル化合物は、例えば20重量%以上、例えば25重量%以上含まれ、例えば40重量%以下、例えば35重量%以下含まれ、例えば20~40重量%、例えば25~35重量%含まれていてもよい。
【0047】
一実施形態において、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)であってもよい。
【0048】
一実施形態において、芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体は、基礎樹脂100重量%に対して、45~55重量%、例えば47~53重量%含まれる。
【0049】
前記芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体の含有量が45重量%未満であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が低下する恐れがあり、55重量%を超える場合、熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品の機械的物性が低下する恐れがある。
【0050】
(C)マレイミド系共重合体
一実施形態において、マレイミド系共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に優れた耐熱性を付与する。マレイミド系共重合体は、N-フェニルマレイミド、スチレン、マレイン酸無水物の三元共重合体であってもよく、スチレンとマレイン酸無水物の共重合体のイミド化反応により製造することができる。
【0051】
一実施形態において、マレイミド系共重合体100重量%を基準として、前記N-フェニルマレイミドは10重量%~55重量%、例えば15重量%~55重量%、例えば15重量%~50重量%含まれる。
【0052】
一方、一実施形態において、マレイミド系共重合体100重量%を基準として、前記スチレンは40重量%~80重量%含まれ、前記マレイン酸無水物は1重量%~10重量%含まれる。
【0053】
一実施形態によるマレイミド系共重合体において、N-フェニルマレイミドが10重量%未満の場合、マレイミド系共重合体による耐熱性向上効果が発現しにくく、55重量%を超える場合、熱可塑性樹脂組成物とこれを用いた成形品の外観特性が大きく低下する恐れがある。
【0054】
前記マレイミド系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば150~200℃、例えば160~200℃、例えば170~200℃であってもよい。
【0055】
前記マレイミド系共重合体は、基礎樹脂100重量%に対して、20~25重量%、例えば21~24重量%含まれる。
【0056】
基礎樹脂内のマレイミド系共重合体の含有量が前述した範囲を満足する場合、熱可塑性樹脂組成物の機械的物性、成形性など他の物性とのバランスを維持しながらも耐熱性を大きく改善することができ、これを用いて製造される成形品も優れた耐熱性を示すことができる。
【0057】
(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体
一実施形態において、ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品の摩擦係数を低くする一方、摩擦音低減の持続性を向上させて優れた摩擦音低減特性を示すようにする。
【0058】
一実施形態において、ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、置換もしくは非置換のポリオレフィン主鎖に芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体がグラフトされたものであってもよい。
【0059】
前記置換もしくは非置換のポリオレフィンは、ポリエチレンおよびエチレン-ビニルアセテート共重合体を含む群より選択された1種以上であってもよい。前記エチレン-ビニルアセテート共重合体は、エチレンとビニルアセテートが共重合体を形成したものであってもよい。
【0060】
前記ポリオレフィン主鎖にグラフトされる芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体は、芳香族ビニル化合物およびグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体であってもよい。
【0061】
前記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、C1~C10のアルキル置換スチレン、ハロゲン置換スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンおよびこれらの混合物の中から選択されるいずれか1つ以上を使用することができる。前記アルキル置換スチレンの具体例としては、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレンなどが挙げられる。
【0062】
前記グリシジル(メタ)アクリレートとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよびこれらの混合物の中から選択されたいずれか1つ以上を使用することができる。
【0063】
前記芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体は、一例として、スチレンおよびグリシジルアクリレートの共重合体、スチレンおよびグリシジルメタクリレートの共重合体、α-メチルスチレンおよびグリシジルアクリレートの共重合体、α-メチルスチレンおよびグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレン、α-メチルスチレンおよびグリシジルアクリレートの共重合体、スチレン、α-メチルスチレンおよびグリシジルメタクリレートの共重合体、またはスチレン、α-メチルスチレン、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートの共重合体が挙げられ、好ましくは、スチレン-グリシジルメタクリレートの共重合体が挙げられる。この場合、前記スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体は、スチレン50~95重量%およびグリシジルメタクリレート5~50重量%を含む単量体混合物が共重合されたものであってもよい。
【0064】
一例として、前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、ポリエチレン-スチレン-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体(PE-g-SGMA)およびエチレン-ビニルアセテート-スチレン-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体(EVA-g-SGMA)を含む群より選択された1種以上であってもよい。
【0065】
一実施形態において、前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体100重量%を基準として、前記置換もしくは非置換のポリオレフィン70~95重量%を含み、前記芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体5~30重量%を含むことができる。
【0066】
前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体は、前記基礎樹脂100重量部に対して、例えば1~6重量部、例えば2~6重量部、例えば2~5重量部含まれる。前記ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体が1重量部未満含まれる場合、これを用いた成形品の摩擦音低減特性が発現しにくく、6重量部を超える場合、剛性など機械的物性が低下する恐れがある。
【0067】
(E)その他の添加剤
一実施形態による熱可塑性樹脂組成物は、前記成分(A)~(D)のほかにも、摩擦音低減効果と機械的物性をすべて優れたものに維持する条件下で各物性間のバランスを合わせるために、あるいは前記熱可塑性樹脂組成物の最終用途に応じて必要な1種以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0068】
具体的には、前記添加剤としては、核剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、滑剤、離型剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、衝撃補強剤などが使用可能であり、これらは単独であるいは2種以上の組み合わせで使用可能である。
【0069】
これらの添加剤は、熱可塑性樹脂組成物の物性を損なわない範囲内で適切に含まれ、具体的には、基礎樹脂100重量部に対して、20重量部以下で含まれるが、これに制限されるわけではない。
【0070】
本発明による熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物を製造する公知の方法により製造できる。
【0071】
例えば、本発明による熱可塑性樹脂組成物は、本発明の構成成分とその他の添加剤を同時に混合した後、押出機内で溶融混練してペレット(pellet)形態に製造することができる。
【0072】
本発明の一実施形態による成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物から製造できる。
【0073】
前記熱可塑性樹脂組成物は、摩擦音低減効果と機械的物性にすべて優れているので、塗装、無塗装で使用する様々な製品に広範囲に適用可能であり、特に、スティック-スリップ(stick-slip)現象が最小化されるので、摩擦音の低減が大きく要求される自動車、例えば、電気車の内装材などの用途にも有用に適用可能である。
【0074】
以下、本発明を実施例および比較例を通じてより詳細に説明するが、下記の実施例および比較例は説明の目的のためであって、本発明を制限するものではない。
【0075】
実施例1、実施例2および比較例1~比較例4
実施例1、実施例2および比較例1~比較例4の熱可塑性樹脂組成物は、下記表1に記載の成分の含有量比に応じて製造された。
【0076】
表1にて、(A)、(B)、(C)は基礎樹脂に含まれるもので、基礎樹脂の総重量を基準として重量%で表し、(D)、(D’)および(D”)は基礎樹脂に添加されるものであって、基礎樹脂100重量部に対する重量部で表した。
【0077】
表1に記載の成分を乾式混合し、二軸押出機(L/D=36、Φ=45mm)の供給部に定量的に連続投入して溶融/混練した。次に、二軸押出機によりペレット化された熱可塑性樹脂組成物を約80℃で約4時間乾燥した後、シリンダ温度約220℃、金型温度約60℃の6oz射出成形機を用いて、機械的物性評価用試験片、および100mmx100mmx3.2mm(横x縦x厚さ)のスクィークノイズ評価用試験片をそれぞれ製造した。
【0078】
【表1】
【0079】
前記表1に記載の各構成に関する説明は次の通りである。
【0080】
(A)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体
ブタジエンゴム質重合体からなるコア(平均粒径:約250nm)約58重量%、およびアクリロニトリルとスチレンが前記コアにグラフト重合されて形成されたシェルを含むアクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(ロッテ先端素材社)
(B)芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体
アクリロニトリル約28重量%およびスチレン約72重量%を含む単量体混合物から共重合された重量平均分子量が約110,000g/molのスチレン-アクリロニトリル共重合体(ロッテ先端素材社)
(C)マレイミド共重合体
ガラス転移温度(Tg)が約185℃のN-フェニルマレイミド-スチレン-マレイン酸無水物共重合体(Denka社)
(D)ポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体
ポリエチレン主鎖にスチレン-グリシジルメタクリレート共重合体がグラフトされたポリエチレン-スチレン-グリシジルメタクリレートグラフト共重合体(PE-g-SGMA、NOF社)
(D’)ポリエチレン-スチレン-アクリロニトリルグラフト共重合体
ポリエチレン主鎖にスチレン-アクリロニトリル共重合体がグラフトされた共重合体(PE-g-SAN、NOF社)
(D”)ジメチルポリシロキサン
25℃での動粘度が約100cStのジメチルポリシロキサン(Shin-Etsu Chemical社)
実験例
実験結果を下記表3に示した。
【0081】
(1)引張強度(MPa):ISO527-1により機械的物性評価用試験片の引張強度を測定した。
【0082】
(2)屈曲強度(MPa):ISO178により機械的物性評価用試験片の屈曲強度を測定した。
【0083】
(3)屈曲弾性率(MPa):ISO178により機械的物性評価用試験片の屈曲弾性率を測定した。
【0084】
(4)耐衝撃性(kJ/m):ISO180により機械的物性評価用試験片のノッチアイゾット衝撃強度を測定した。
【0085】
(5)スクィークノイズ(squeak noise):VDA230-206により下記の条件1(常温条件)、条件2(苛酷条件)それぞれに相当するスクィークノイズ評価用試験片の摩擦音を測定した。
【0086】
-条件1(常温条件):試験片を別途の熱処理なく常温に放置する
-条件2(苛酷条件):試験片を約80℃のオーブンに約300時間放置する
図1は、VDA230-206の基本原理を図式化したものである。図1を参照すれば、材料Aと材料Bは、同じ条件で熱処理された同じ材料であり、ばね成分によって移動相の材料Aは材料Bに対して相対的に動く。ばね成分によって材料相互に加えられる力(F)は40Nであり、スライディングキャリッジ(sliding carriage)の移動速度(V)は4mm/sであり、2つの材料試験片の接触面積は1,250mmであった。ばねの移動現象はスティック(stick)とスリップ(slip)によるものであり、これを利用してスクィークノイズ評価を進行させた。
【0087】
下記表2は、スクィークノイズの評価基準を示したもので、RPNが1に近いほど摩擦音低減効果に優れているのである。
【0088】
【表2】
【0089】
表2を参照すれば、RPN1~3は、ノイズがほとんどない状態を意味し、RPN4~5は、限界地点でノイズがスティック-スリップ効果によって除去できない状態を意味する。また、RPN6~10は、スティック-スリップ効果が克明でノイズが必ず現れる状態を意味する。
【0090】
【表3】
【0091】
前記表1および表3から、実施例1~実施例2のようにアクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体、芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体、マレイミド系共重合体、およびポリオレフィン-芳香族ビニル-グリシジル(メタ)アクリレートグラフト共重合体を最適な含有量で使用することによって、比較例に比べて優れた摩擦音低減効果と機械的物性(耐衝撃性および剛性)を示す熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品を提供できることを確認できる。
【0092】
以上、本発明を先に記載したものにより好ましい実施例を通して説明したが、本発明はこれに限定されず、以下に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない限り、多様な修正および変形が可能であることを、本発明の属する技術分野に従事する者は容易に理解するであろう。
図1