(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】負荷駆動装置、負荷駆動装置の診断方法
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20241023BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20241023BHJP
G01R 19/165 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H02M1/00 C
F02D41/06
G01R19/165 A
(21)【出願番号】P 2022565071
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2021033193
(87)【国際公開番号】W WO2022113471
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020196090
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】御船 雄太
(72)【発明者】
【氏名】槻尾 浩一
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220716(WO,A1)
【文献】特開2019-132633(JP,A)
【文献】国際公開第2020/183934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00 - 7/98
H03K 17/00 -17/70
F02D 41/06
G01R 19/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷と、
前記負荷に接続され、当該負荷の駆動を制御する第1のスイッチ素子と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間
の配線に一端が接続されるESD保護用コンデンサと、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間
の配線に一端が接続され、前記ESD保護用コンデンサを充電する充電回路と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子との間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に
直列に接続される第2のスイッチ素子と、を備える負荷駆動装置
であって、
前記第1のスイッチ素子および前記第2のスイッチ素子の通電タイミングを制御する演算装置と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の出力端子電圧をモニタし、前記演算装置が読み込み可能な電圧に変換し、前記演算装置に出力する電圧モニタ回路と、を備え、
前記演算装置は、前記第1のスイッチ素子の駆動停止信号が駆動許可期間に、前記電圧モニタ回路の出力電圧の前記第1のスイッチ素子の通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲以上、かつ、前記駆動停止信号が駆動禁止期間に、前記電圧モニタ回路の出力電圧の前記第1のスイッチ素子の通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲内である場合に、前記駆動停止信号を正常と診断する負荷駆動装置。
【請求項2】
負荷と、
前記負荷に接続され、当該負荷の駆動を制御する第1のスイッチ素子と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続されるESD保護用コンデンサと、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続され、前記ESD保護用コンデンサを充電する充電回路と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子との間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に直列に接続される第2のスイッチ素子と、を備える負荷駆動装置であって、
前記第1のスイッチ素子および前記第2のスイッチ素子の通電タイミングを制御する演算装置と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の出力端子電圧をモニタし、前記演算装置が読み込み可能な電圧に変換し、前記演算装置に出力する電圧モニタ回路と、を備え、
前記演算装置は、前記第1のスイッチ素子の駆動停止信号が駆動許可期間において、前記電圧モニタ回路の出力電圧の
前記第1のスイッチ素子の通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲外の場合に、前記駆動停止信号が正常でないと診断し、
前記負荷駆動装置が搭載された車両のクランキングを中止する負荷駆動装置。
【請求項3】
負荷と、
前記負荷に接続され、当該負荷の駆動を制御する第1のスイッチ素子と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続されるESD保護用コンデンサと、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続され、前記ESD保護用コンデンサを充電する充電回路と、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子との間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に直列に接続される第2のスイッチ素子と、を備える負荷駆動装置であって、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子と前記ESD保護用コンデンサを各々備えた複数の負荷駆動系統を備え、
1つの前記充電回路と1つの前記第2のスイッチ素子に対し、前記複数の負荷駆動系統の各々が互いに並列に接続される負荷駆動装置。
【請求項4】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の負荷駆動装置であって、
前記第2のスイッチ素子を、
前記負荷駆動装置が搭載された車両のキーONからクランキングを開始するまでの間にOFFからONに切り替える負荷駆動装置。
【請求項5】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の負荷駆動装置であって、
前記第1のスイッチ素子がOFFの場合に前記第2のスイッチ素子をONにする負荷駆動装置。
【請求項6】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の負荷駆動装置であって、
前記ESD保護用コンデンサの充電完了後に前記第2のスイッチ素子をOFFにする負荷駆動装置。
【請求項7】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の負荷駆動装置であって、
前記負荷と前記第1のスイッチ素子との間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に
直列に接続され、前記充電回路から前記第2のスイッチ素子の方向を順方向としたダイオードを備え、
前記充電回路の出力電圧は、前記負荷の負荷電源電圧よりも低い負荷駆動装置。
【請求項8】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の負荷駆動装置であって、
前記充電回路は、前記第1のスイッチ素子を通電した際に前記負荷に流れる電流よりも小さい電流を供給する負荷駆動装置。
【請求項9】
負荷に接続された負荷駆動ドライバと、
前記負荷駆動ドライバと前記負荷の間の配線に一端が接続されたESD保護用コンデンサと、
前記負荷駆動ドライバと前記負荷の間の配線に一端が接続された充電回路と、
前記負荷と前記負荷駆動ドライバとの間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に直列に接続された充電回路スイッチと、を備えた負荷駆動装置の診断方法であって、
以下のステップを有する負荷駆動装置の診断方法;
(a)負荷駆動ドライバ停止機能の診断開始と同時に、
前記充電回路スイッチに通電するステップ、
(b)前記(a)ステップの後、
前記負荷駆動ドライバが通電から非通電に切り替わった後、
前記充電回路から
前記ESD保護用コンデンサを充電し、前記負荷駆動ドライバ停止機能の診断を行うステップ、
(c)前記(b)ステップの後、前記負荷駆動ドライバ停止機能の診断終了後、前記充電回路スイッチを非通電にするステップ。
【請求項10】
請求項
9に記載の負荷駆動装置の診断方法であって、
前記負荷駆動ドライバの駆動停止信号が駆動許可期間に、前記負荷駆動ドライバと負荷間の電圧の
前記負荷駆動ドライバの通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲以上、かつ、前記駆動停止信号が駆動禁止期間に、前記負荷駆動ドライバおよび前記負荷間の電圧の
前記負荷駆動ドライバの通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲内である場合に、前記駆動停止信号を正常と診断する負荷駆動装置の診断方法。
【請求項11】
請求項
9に記載の負荷駆動装置の診断方法であって、
前記負荷駆動ドライバの駆動停止信号が駆動許可期間において、前記負荷駆動ドライバと負荷間の電圧の
前記負荷駆動ドライバの通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲外の場合に、前記駆動停止信号が正常でないと診断し、
前記負荷駆動装置が搭載された車両のクランキングを中止する負荷駆動装置の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷駆動装置の構成とその制御に係り、特に、ESD保護用コンデンサを備えた負荷駆動装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に意図しない暴走が発生した場合、重大事故を防ぐためにはインジェクタおよびアイドリングリスタートリレー、電子スロットル等の駆動系ドライバをドライバ停止機構により強制的に停止させる必要がある。また、車両暴走時に確実に駆動系システムを停止させるため、車両キーONからクランキングを開始する前までにドライバ停止機構が正常に動作可能か診断し、ドライバ停止機能が異常の場合はエンジン始動を中止する。
【0003】
ドライバ停止機構の診断においては、ドライバ停止機構が駆動許可および禁止時の負荷駆動回路の出力電圧を演算装置等で監視する。しかし、負荷が断線している場合、負荷駆動回路の出力端子に備えるESD保護用コンデンサの充電に時間がかかり、負荷駆動回路の出力電圧が鈍るため、車両キーONからクランキング開始までの時間内に診断が完了しない問題がある。そこで、負荷断線時においても車両キーONからクランキング開始までに診断を完了するため、ESD保護用コンデンサを素早く充電する必要がある。
【0004】
負荷断線時においても診断が可能となることで、負荷断線した以外の負荷を使用してエンジンを始動可能となる。例えば、4気筒エンジンのインジェクタのうち、1気筒が断線していても、残りの気筒のインジェクタを用いてエンジンを始動が可能となり、車両を安全な場所へ移動できる。
【0005】
ESD保護用コンデンサへの作用を用いた背景技術としては、例えば特許文献1のような技術がある。特許文献1による燃料噴射制御装置では、インジェクタ下流側端子と、インジェクタ駆動用下流側スイッチとの間に静電気保護用コンデンサと、定電流通電部と、を備えており、インジェクタに流れている駆動電流が低下しきった後に、定電流通電部がインジェクタ下流側端子からGNDに定電流を流すことでインジェクタの閉弁タイミングに生じる電圧変化を検出しやすくする技術が知られている。
【0006】
また、別の背景技術としては、特許文献2における負荷駆動装置では、負荷と、負荷を駆動する同期整流回路と、前記同期整流回路の出力端子電圧を監視する電圧モニタ回路と、同期整流回路の出力端子と負荷の間にサージ保護用コンデンサと診断電流生成回路と、を備え、診断電流生成回路よりサージ保護コンデンサの充放電を行うことで、断線時に同期整流回路の出力端子電圧を一定の値へコントロールすることで、前記モニタ回路にて断線を検知する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-85925号公報
【文献】国際公開第2019/220716号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1は、インジェクタ閉弁タイミングに生じる電圧変化を検出しやすくするためにESD保護用コンデンサに溜まった電荷を引き抜く構成であり、ESD保護用コンデンサへの充電は考慮されていない。
【0009】
また、上記特許文献2では、負荷の断線を検出するために、電流源からESD保護用コンデンサを充電し、出力端子電圧を一定の値へコントロールしており、ドライバ停止機構の異常診断を目的としたものではない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、駆動系ドライバの診断回路およびESD保護用コンデンサを備えた負荷駆動装置において、負荷断線時であってもESD保護用コンデンサを素早く充電し、要求時間内に駆動系ドライバの全ての診断を完了可能な高性能かつ高信頼な負荷駆動装置及びその診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、負荷と、前記負荷に接続され、当該負荷の駆動を制御する第1のスイッチ素子と、前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続されるESD保護用コンデンサと、前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の配線に一端が接続され、前記ESD保護用コンデンサを充電する充電回路と、前記負荷と前記第1のスイッチ素子との間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に直列に接続される第2のスイッチ素子と、を備える負荷駆動装置であって、前記第1のスイッチ素子および前記第2のスイッチ素子の通電タイミングを制御する演算装置と、前記負荷と前記第1のスイッチ素子の間の出力端子電圧をモニタし、前記演算装置が読み込み可能な電圧に変換し、前記演算装置に出力する電圧モニタ回路と、を備え、前記演算装置は、前記第1のスイッチ素子の駆動停止信号が駆動許可期間に、前記電圧モニタ回路の出力電圧の前記第1のスイッチ素子の通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲以上、かつ、前記駆動停止信号が駆動禁止期間に、前記電圧モニタ回路の出力電圧の前記第1のスイッチ素子の通電および非通電の状態を変更しようとした場合の変異量が所定の範囲内である場合に、前記駆動停止信号を正常と診断することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、負荷に接続された負荷駆動ドライバと、前記負荷駆動ドライバと前記負荷の間の配線に一端が接続されたESD保護用コンデンサと、前記負荷駆動ドライバと前記負荷の間の配線に一端が接続された充電回路と、前記負荷と前記負荷駆動ドライバとの間の配線と前記充電回路との接続点と前記充電回路の間に直列に接続された充電回路スイッチと、を備えた負荷駆動装置の診断方法であって、以下のステップを有する負荷駆動装置の診断方法;(a)負荷駆動ドライバ停止機能の診断開始と同時に、前記充電回路スイッチに通電するステップ、(b)前記(a)ステップの後、前記負荷駆動ドライバが通電から非通電に切り替わった後、前記充電回路から前記ESD保護用コンデンサを充電し、前記負荷駆動ドライバ停止機能の診断を行うステップ、(c)前記(b)ステップの後、前記負荷駆動ドライバ停止機能の診断終了後、前記充電回路スイッチを非通電にするステップ、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、駆動系ドライバの診断回路およびESD保護用コンデンサを備えた負荷駆動装置において、負荷断線時であってもESD保護用コンデンサを素早く充電し、要求時間内に駆動系ドライバの全ての診断を完了可能な高性能かつ高信頼な負荷駆動装置及びその診断方法を実現することができる。
【0014】
これにより、負荷断線時においても、ドライバ停止機能の診断を短時間で確定させることができるため、キーONからエンジン始動(クランキング開始)までの時間を延ばさずにドライバ停止機能の異常診断を完了させることができる。
【0015】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係る負荷駆動装置の回路構成を示すブロック図である。
【
図2】従来の負荷駆動装置のコンデンサ充電経路を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る負荷駆動装置のコンデンサ充電経路を示す図である。
【
図4】
図1の充電回路スイッチ120の回路構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る負荷駆動装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図6】本発明の実施例1に係る負荷駆動装置の別の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図7】本発明の実施例1に係る負荷駆動装置の別の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図8】本発明の実施例2に係る負荷駆動装置の回路構成を示すブロック図である。
【
図9】
図8の充電回路スイッチ120の回路構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の実施例2に係る負荷駆動装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図11】本発明の代表的な負荷駆動装置の診断方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0018】
図1から
図7、及び
図11を参照して、本発明の実施例1に係る負荷駆動装置とその診断方法について説明する。なお、
図2は、本発明を分かり易くするために比較例として示す従来の負荷駆動装置のコンデンサ充電経路を示す図である。
【0019】
図1に、本実施例の負荷駆動装置の回路構成を示す。本実施例の負荷駆動装置は、
図1に示すように、負荷(誘導性負荷)60を駆動するためのローサイドドライバ50と、ESD(Electro-Static Discharge:静電気放電・サージ)から負荷駆動装置を保護する端子コンデンサ70と、出力端子100の電圧を演算装置1が読み込み可能な電圧に変換する電圧モニタ回路80と、端子コンデンサ70に充電を行う充電回路110及び充電回路スイッチ120と、ローサイドドライバ50及び充電回路スイッチ120の通電タイミングを出力し、電圧モニタ回路80の出力電圧を監視する演算装置1を備える。
【0020】
また、ドライバ制御回路20は、演算装置1とドライバ駆動信号線10で接続されており、ドライバ停止機構30とドライバ停止信号線40で繋がれている。ドライバ停止機構30が駆動許可信号をドライバ制御回路20に出力している間、演算装置1からドライバ制御回路20に駆動信号を出力することにより、ドライバ制御回路20はローサイドドライバ50のゲートに通電、非通電の電圧を出力する。
【0021】
また、ドライバ停止機構30が駆動禁止信号をドライバ制御回路20に出力している間は、演算装置1からドライバ制御回路20に駆動信号を出力しても、ドライバ制御回路20からローサイドドライバ50へのゲート信号出力は禁止され、ローサイドドライバ50は非通電状態を維持する。
【0022】
ドライバ停止機構30は演算装置1と接続されており、演算装置1で異常を検知した際に、ドライバ停止機構30に異常を通知する信号を出力する。すると、ドライバ停止機構30はドライバ制御回路20に駆動禁止信号を出力する。また、ドライバ停止機構30から演算装置1の監視を行い、演算装置1の異常を検知した際にもドライバ制御回路20に駆動禁止信号を出力する。
【0023】
電圧モニタ回路80は、出力端子100の電圧の代わりに、演算装置1が読み取り可能な電圧レベルの電圧を演算装置1に入力する。電圧モニタ回路80の内部の構成部品である電流制限抵抗81は、ローサイドドライバ50が通電した際に、VCCから電流が流れて、ローサイドドライバ50が故障しないように過電流から保護する役割がある。
【0024】
また、電流制限抵抗82は、電圧モニタ信号線90を介して演算装置1に流入する電流を制限することで、演算装置1の入力端子を保護する役割がある。また、保護ダイオード83は、アノード側が電流制限抵抗81、カソード側が出力端子100側に接続されており、負荷電源Vから電圧モニタ回路80の内部に電流が逆流するのを防ぐ役割を果たしている。
【0025】
ローサイドドライバ50が導通すると、VCCから電流制限抵抗81、保護ダイオード83、ローサイドドライバ50のドレイン-ソース間を介してGNDに電流が流れるため、演算装置1にはGND電位程度の電圧が入力される。
【0026】
また、ローサイドドライバ50が非導通のときは、VCC<負荷電源Vのため、保護ダイオード83の逆流防止効果により、演算装置1にはVcc電圧が入力される。本実施例では、演算装置1は電圧モニタ信号線90からの入力電圧が所定のハイレベル電圧から所定のロウレベル電圧になる際の電圧変異を検出することでローサイドドライバ30が駆動したことを検知する。
【0027】
充電回路110は、ローサイドドライバ50が通電から非通電となった直後に充電回路スイッチ120を介して端子コンデンサ70に電荷を充電するような定電流源であり、その充電により、負荷60が断線している場合にも出力端子100の電圧を素早く確定させることができる。充電回路110の出力電流は、負荷60の動作に影響を与えないようにするため、負荷駆動電流の1000分の1以下程度に設定する。
【0028】
これにより、負荷60が正常に接続されている場合にも負荷60での電圧降下を十分に小さくすることができる。
【0029】
ここで、充電回路110が、診断時間に比して短時間で端子コンデンサ70を充電できる技術的背景を述べる。
図2は、充電回路110がない従来の負荷駆動装置において、負荷60が正常時と断線時における端子コンデンサ70の充電経路を表している。負荷60が正常状態においては、負荷電源Vから負荷60を介して端子コンデンサ70を充電する電流が主となる。負荷60の抵抗値RLは数Ω~数十Ωのため、系の時定数TL(=RL×C)(T:タウ)が小であり、比較的短時間で充電が行われる。
【0030】
一方、負荷(誘導性負荷)60が断線状態においては、電圧モニタ回路80の内部のVCCから電流制限抵抗81を介して充電するのが主となる。電流制限抵抗81は負荷60の駆動に影響を与えないため、抵抗値:R81は数kΩ~数百kΩと比較的大としている。これにより、系の時定数TR81(=R81×C)がTL(T:タウ)に比して大となり、端子コンデンサ70の充電に時間がかかる。
【0031】
図3は、本発明における負荷断線時の端子コンデンサ(ESD保護用コンデンサ)70の充電経路を表している。充電回路110及び充電回路スイッチ120(オン抵抗:Rsw)を設けることで、電流制限抵抗81の影響を受けない時定数Tsw(=Rsw×C)≒TL(T:タウ)の系となり、診断時間に比して短時間で充電を完了させることができる。
【0032】
図4は、充電回路スイッチ120の内部構成例である。充電回路スイッチ120の構成部品であるPch-FET121はゲート(G)とソース(S)が抵抗を介して接続されているため、演算装置1より充電回路スイッチ制御信号線130を介してNPNトランジスタ122の制御を行わなければPch-FET121は非通電となる。
【0033】
本内部構成例ではPch-FET121のゲート(G)とソース(S)は抵抗を介して接続されているが、Pch-FET121の保護を目的として、抵抗に並列で保護素子を備えることも考えられる。演算装置1により充電回路スイッチ制御信号130が出力されると、NPNトランジスタ122のベース(B)に電流が注入され、NPNトランジスタ122のエミッタ(E)-コレクタ(C)間は通電する。この通電により、Pch-FET121のゲート電圧はソース電圧よりも低い電圧となるためPch-FET121も通電する。一方で、充電回路スイッチ制御信号130の出力を停止すると、NPNトランジスタ122のベース電流注入も停止するため、NPNトランジスタ122は非通電となる。
【0034】
また、充電回路スイッチ120と出力端子100との間に、出力端子100の方向を順方向とした逆流防止ダイオード123を備える構成も考えられる。これは、負荷電源Vから充電回路110に電流が回り込み、充電回路110が故障するのを防ぐ役割を果たす。また、負荷60が正常に接続されている場合において、充電回路110から負荷電源Vに電流が流れるのを防止するため、充電回路110の充電電圧Vchargeは、負荷電源Vより低い電圧を用いる。また、本実施例では、演算装置1によって充電回路スイッチ120を制御可能な構成となっているが、演算装置1の代わりに、別のコントローラを備えてもよい。
【0035】
図5は、本実施例におけるドライバ停止機構30の異常診断のタイミングチャートの一例を示している。車両キーONにより基準電源が投入されると、一定の立ち上げ期間を経て演算装置1及びドライバ停止機構30が制御可能となる。
【0036】
演算装置1は充電回路スイッチ制御信号130を出力し、充電回路スイッチ120を通電とする。この通電時、ローサイドドライバ50は非通電となっているため、電圧モニタ信号はVcc電圧となる。
【0037】
次に、ドライバ停止機構30が正常に駆動禁止できていることを確認するため、ドライバ停止機構30よりドライバ制御回路20に駆動禁止信号を所定の期間出力する。その間に、演算装置1は所定回数の駆動信号をドライバ制御回路20へ出力し、電圧モニタ信号の電圧変異の回数をカウントする。
【0038】
その後、ドライバ停止機構30が正常に駆動許可できていることを確認するため、ドライバ停止機構30よりドライバ制御回路20に駆動許可信号を出力する。その間に、演算装置1は所定回数の駆動信号をドライバ制御回路20へ出力し、電圧モニタ信号の電圧変異の回数をカウントする。
【0039】
上記の診断終了後、演算装置1は充電回路スイッチ制御信号線130を介して、充電回路スイッチ120を非通電とする。
【0040】
その後、上記の診断結果においてドライバ停止機構30が正常であれば、演算装置1はクランキング開始を許可し、異常の場合はクランキングを中止し、異常をユーザーに通知する。
【0041】
本実施例では、演算装置1は駆動禁止信号出力期間において電圧モニタ信号に、所定の閾値以上の電圧変異がないこと、及び駆動許可信号出力期間において電圧モニタ信号に、ドライバ駆動信号の送信回数分の電圧変異を検出することで、ドライバ停止機構30が正常であると診断する。
【0042】
図2に示す従来の負荷駆動装置の回路構成によるドライバ停止機構30の診断においては、充電回路110がないため、負荷60の断線時にローサイドドライバ50が通電から非通電となった際に端子コンデンサ70の充電に時間がかかり、出力端子100の電圧が鈍る。すると、電圧モニタ信号が所定のHigh閾値以上となる前にローサイドドライバ50が通電し、演算装置1は所定回数分の電圧変異をカウントできない。すると、ドライバ停止機構30が正常にドライバ駆動を許可できていたとしても演算装置1は異常と判断してしまう。
【0043】
一方で、
図3に示すように、充電回路110を備えることで、ローサイドドライバ50が通電から非通電となった直後に端子コンデンサ70を素早く充電し、電圧モニタ信号が素早くHighを確定できるため、所定回数の電圧変異を検出することが可能となる。
【0044】
さらに、上記の診断終了後は充電回路スイッチ120を非通電とすることで、充電回路110から負荷電源Vへ電流が回り込み、別の負荷やコントロールユニットが誤作動するのを抑制することができる。
【0045】
図6に、ローサイドドライバ50がOFFの場合に充電回路スイッチ120をONにする通電タイミングを示す。演算装置1は、ドライバ制御回路20にOFF信号を出力し、ローサイドドライバ50が非通電となるタイミングで充電回路スイッチ120が通電するように制御する。
【0046】
ローサイドドライバ50が通電時において、充電回路スイッチ120が通電となっている場合、充電回路110から流れる電流はローサイドドライバ50を通ってGNDに流れるため、消費電力の増大に繋がる。そこで、
図6に示すようなタイミングで充電回路スイッチ120を通電とすることで、無駄な消費電力を抑制可能となる。
【0047】
また、
図7に、端子コンデンサ70の充電完了後に充電回路スイッチ120をOFFにする通電タイミングを示す。演算装置1は、端子コンデンサ70の容量及び充電回路110の出力電流から求められる端子コンデンサ70の充電時間のみ、充電回路スイッチ120が通電するように制御する。これにより、上記(
図6)と同様の無駄な消費電力削減に加え、負荷電源上流へ充電回路110の電流が回り込むことによる、他の負荷やコントロールユニットの誤動作を抑制する。
【0048】
本実施例の負荷駆動装置の診断方法における主要なフローを
図11のフローチャートに示す。
【0049】
先ず、負荷駆動ドライバ停止機能(ドライバ停止機構30)の診断開始と同時に、充電回路スイッチ120に通電する。(ステップS1)
次に、負荷駆動ドライバ(ローサイドドライバ50)が通電から非通電に切り替わった後、充電回路110からESD保護用コンデンサ(端子コンデンサ70)を急速に充電し、Vmonの電圧を確定させて、負荷駆動ドライバ停止機能(ドライバ停止機構30)の診断を行う。(ステップS2)
最後に、負荷駆動ドライバ停止機能(ドライバ停止機構30)の診断終了後、充電回路スイッチ120を非通電とし、充電回路110と駆動回路(負荷駆動ドライバ(ローサイドドライバ50)及びESD保護用コンデンサ(端子コンデンサ70))を切り離す。(ステップS3)
本実施例により、負荷60の断線時においても、充電回路110により時定数が小さい充電経路を設けることで、ローサイドドライバ50に対してドライバ停止機構30が正常に動作可能かの診断をキーONからクランキング開始までの時間内に完了できる。
【実施例2】
【0050】
図8から
図10を参照して、本発明の実施例2に係る負荷駆動装置とその診断方法について説明する。
図8は、本実施例の負荷駆動装置の回路構成を示すブロック図である。本実施例の負荷駆動装置は、
図8及び
図9に示すように、負荷60a,負荷60bを駆動するため、それぞれに実施例1(
図1)に対応する駆動回路及び素子を備えている。なお、実施例1と共通する部分に関しては、同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
本実施例の負荷駆動装置は、
図8に示すように、負荷60a,60bとローサイドドライバ50a,50b(第1のスイッチ素子)と端子コンデンサ(ESD保護用コンデンサ)70a,70bを各々備えた複数の負荷駆動系統を備えており、1つの充電回路110と1つの充電回路スイッチ120(第2のスイッチ素子)に対し、複数の負荷駆動系統の各々が互いに並列に接続された構成となっている。
【0052】
本実施例では、
図10に示すように、ドライバ停止機構30の診断において、演算装置1は負荷60a,負荷60bが同時に駆動しないタイミングで、ドライバ制御回路20a及び20bに対して、それぞれに駆動信号を出力する。すると、電圧モニタ信号線90を介して各負荷が駆動したタイミングで電圧変異を演算装置1で検知する。
【0053】
なお、本実施例(
図8)の回路構成では、2つの端子コンデンサ70a,70bに対し、1つの充電回路110で充電を賄っているが、端子コンデンサ数分の充電回路110を備える構成も考えられる。
【0054】
本実施例は、負荷60a,負荷60bに対して駆動が重ならないように、演算装置1から駆動信号を出力するタイミングを制御することにより、1本の電圧モニタ信号線90にて2系統の負荷のドライバ停止機能がそれぞれ、正常に動作しているか診断を行うことが可能である。また、負荷が2つ以上になった場合においても、負荷を駆動する回路及び素子を同様に備えることでドライバ停止機構30の診断が可能となる。
【0055】
なお、充電回路110と充電回路スイッチ120を負荷駆動系統の各々にそれぞれ設けることも可能である。
【0056】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施例は本発明に対する理解を助けるために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…演算装置、10,10a,10b…ドライバ駆動信号線、20,20a,20b…ドライバ制御回路、30…ドライバ停止機構、40,40a,40b…ドライバ停止信号線、50,50a,50b…ローサイドドライバ、60,60a,60b…負荷(誘導性負荷)、70,70a,70b…端子コンデンサ(ESD保護用コンデンサ)、80…電圧モニタ回路、81…電流制限抵抗、82…電流制限抵抗、83,83a,83b…保護ダイオード、90…電圧モニタ信号線、 100,100a,100b…出力端子、110…充電回路、120…充電回路スイッチ、121…Pch-FET、122…NPNトランジスタ、123,123a,123b…逆流防止ダイオード、130…充電回路スイッチ制御信号(線)。