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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】眼鏡レンズおよび眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20241023BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20241023BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20241023BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241023BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20241023BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/10
G02B1/10
G02B1/115
G02B5/26
G02B5/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023012940
(22)【出願日】2023-01-31
(62)【分割の表示】P 2019514323の分割
【原出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2023052795
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017225708
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】足立 誠
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 斉
(72)【発明者】
【氏名】野村 琢美
(72)【発明者】
【氏名】赤林 修
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203856(JP,A)
【文献】特表2015-531497(JP,A)
【文献】国際公開第2012/076714(WO,A1)
【文献】特表2015-520413(JP,A)
【文献】国際公開第2017/117454(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/122253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02
G02C 7/10
G02B 5/28
G02C 1/00-13/00
G02B 1/00-1/08
G02B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、前記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、前記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズの一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は、10.00%以上であり、
他方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は5.00%以下であり、
400~780nmの波長域の全域において、前記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される反射率は、5.00%以下であり、
前記眼鏡レンズの380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である表面において測定される430~450nmの波長域における平均反射率1は、12.00%以上であり、
前記平均反射率1と460~480nmの波長域における平均反射率2との差分(平均反射率1-平均反射率2)は、10.00%以上であり、かつ
前記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される視感反射率は、0.10%以上1.80%以下である眼鏡レンズ。
【請求項2】
500nm超以上780nm以下の波長域の全域において、前記眼鏡レンズの一方の表面において測定される反射率および他方の表面において測定される反射率は、いずれも5.00%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ、およびこの眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、レンズ基材の表面上に、眼鏡レンズに所望の機能をもたらすための機能性膜を形成することにより製造される。そのような機能性膜としてレンズ基材の両方の表面上に多層膜を設けることが、近年行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/069250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼鏡レンズにおいて、レンズ基材の両方の表面上に多層膜を設けると、眼鏡レンズの装用感が低下する傾向がある。これは、眼鏡レンズ内に入射した光が2つの多層膜の間で多重反射することにより、眼鏡の装用者が、ゴーストと呼ばれる二重像を視認しやすくなるためである。この点に関して、特許文献1には、眼鏡レンズ内での多重反射を抑制するために、レンズ基材の一方の表面と他方の表面に設けられる多層膜の反射特性が所定の関係を満たすようにすることが提案されている(特許文献1の請求項1参照)。
【0005】
ところで、近年のデジタル機器のモニター画面はブラウン管から液晶に替わり、最近はLED液晶も普及しているが、液晶モニター、特にLED液晶モニターは、青色光と呼ばれる短波長光を強く発光する。デジタル機器を長時間使用する際に生じる眼精疲労や眼の痛みを効果的に低減するためには、青色光による眼への負担を軽減するための対策を講じるべきである。この点に関連し、特許文献1の段落0054には、青色光の好ましくない影響を低減することに関する記載がある。
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されている眼鏡レンズは、青色光による眼への負担を効果的に低減したうえで装用感を改善(詳しくはゴーストを抑制)するという観点からは、十分な性能を有するものではないことが判明した。
【0006】
本発明の一態様は、青色光による眼への負担を軽減可能であるとともに、装用感が良好な眼鏡レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
レンズ基材と、上記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、上記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズであって、
上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は、10.00%以上であり、かつ、
400~780nmの波長域の全域において、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される反射率は、5.00%以下である眼鏡レンズ、
に関する。
【0008】
上記眼鏡レンズは、少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である。かかる平均反射率を有する表面において青色光を高反射することができるため、上記眼鏡レンズによれば、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者の眼に入射する青色光の光量を低減することにより、眼鏡の装用者の眼への青色光による負担を軽減することができる。本発明および本明細書では、特記しない限り、「青色光」とは、380~500nmの波長域の光をいうものとする。
更に、上記眼鏡レンズは、両方の表面にそれぞれ多層膜を有するが、400~780nmの波長域の全域において、少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下である。両方の表面に多層膜を有する眼鏡レンズでは、先に記載したように眼鏡レンズ内に入射した光が多重反射することにより発生するゴーストが、装用感の低下を引き起こす傾向がある。これに対し、上記眼鏡レンズは、装用者が視認しやすい波長域である400~780nmの波長域の全域において、少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下である。即ち、400~780nmの波長域において、常に、少なくとも一方の表面では、反射率が5.00%を超えない。これにより、眼鏡レンズ内での多重反射を抑制することが可能になり、ゴーストによる装用感の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明の更なる態様は、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、青色光による眼への負担を軽減することができ、かつ装用感が良好な眼鏡レンズ、およびこの眼鏡レンズを備えた眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1の眼鏡レンズについて得られた反射スペクトルを示す。
図2】実施例1の眼鏡レンズについて得られた反射スペクトルを示す。
図3】実施例2の眼鏡レンズについて得られた反射スペクトルを示す。
図4】比較例2の眼鏡レンズについて得られた反射スペクトルを示す。
図5-1】実施例および比較例の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-2】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-3】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-4】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-5】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-6】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-7】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-8】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図5-9】実施例1、2および比較例1、2の眼鏡レンズについて測定された反射率を示す。
図6-1】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-2】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-3】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-4】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-5】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-6】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-7】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-8】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図6-9】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-1】実施例3~8の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-2】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-3】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-4】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-5】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-6】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-7】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-8】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
図7-9】実施例9~12の眼鏡レンズ(物体側)について測定された反射率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[眼鏡レンズ]
本発明の一態様にかかる眼鏡レンズは、レンズ基材と、上記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、上記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズであって、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は10.00%以上であり、かつ、400~780nmの波長域の全域において、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される反射率は5.00%以下である眼鏡レンズである。
【0013】
本発明および本明細書において、眼鏡レンズの表面について測定される反射率は、その表面に向かって直入射する光(即ち入射角度が0°)に対する反射率である。反射率測定は、例えば1~5nmピッチで行うことができる。また、ある波長域における平均反射率とは、その波長域において求められた反射率の算術平均である。
【0014】
以下、上記眼鏡レンズについて、更に詳細に説明する。
【0015】
<反射特性>
(380~500nmの波長域における平均反射率)
上記眼鏡レンズは、少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上であり、これにより眼鏡の装用者の眼に入射する青色光の光量を効果的に低減することができる。上記平均反射率は、眼鏡の装用者の眼に入射する青色光の光量をより一層低減する観点からは、11.00%以上であることが好ましく、12.00%以上であることがより好ましく、13.00%以上であることが更に好ましく、14.00%以上であることが一層好ましく、15.00%以上であることがより一層好ましく、16.00%以上であることが更に一層好ましい。また、上記平均反射率は、例えば30.00%以下であることができ、25.00%以下であることもでき、22.00%以下であることもでき、20.00%以下であることもできる。ただし上記平均反射率が高いほど、眼鏡の装用者の眼に入射する青色光の光量をより一層低減することに寄与し得るため、上記平均反射率は、上記の例示した上限を上回ってもよい。
上記平均反射率を有する表面は、眼鏡レンズの物体側表面であっても眼球側表面であってもよく、両方の表面であってもよい。眼鏡の装用者により一層良好な装用感をもたらす観点からは、眼鏡レンズの片面のみが、即ち物体側表面のみまたは眼球側表面のみが、上記平均反射率を示すことが好ましい。眼鏡レンズの片面のみが上記平均反射率を示す場合、他方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は10.00%未満であり、好ましくは7.00%以下であり、より好ましくは5.00%以下であり、更に好ましくは3.00%以下である。また、眼鏡レンズの片面のみが上記平均反射率を示す場合、他方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は、例えば0.10%以上であることができ、1.00%以上であることもできる。
【0016】
(400~780nmの波長域における反射率)
上記眼鏡レンズは、両方の表面にそれぞれ多層膜を有する。両方の表面に多層膜を有する眼鏡レンズでは、通常、先に記載したように眼鏡レンズ内に入射した光が多重反射することにより発生するゴーストが装用感の低下を引き起こす傾向がある。これに対し、上記眼鏡レンズでは、400~780nmの波長域の全域において、少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下である。これにより、眼鏡レンズ内に入射した光が眼鏡レンズの両方の表面側にそれぞれ位置する2つの多層膜の間で多重反射することを抑制することができ、その結果、多重反射により結像するゴーストが眼鏡の装用者に視認される強度を下げることができるか、または視認されないほど強度を下げることが可能となり、ゴーストによる装用感の低下を抑制することができる。
400~780nmの波長域には、眼鏡レンズの一方の表面で測定される反射率のみが5.00%以下である波長域が存在する場合があり得る。また、400~780nmの波長域には、眼鏡レンズの両方の表面で測定される反射率がいずれも5.00%以下である波長域が存在する場合もあり得る。また、400~780nmの波長域において、ある波長域では眼鏡レンズの一方の表面で測定される反射率のみが5.00%以下であり、他の波長域では眼鏡レンズの他方の表面で測定される反射率のみが5.00%以下の反射率を示す場合もあり得る。いずれの場合においても、400~780nmの波長域の全域において、多層膜が設けられた2つの表面の少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下であることにより、ゴーストによる装用感の低下を抑制することができる。400~780nmの波長域の全域において、少なくとも一方の表面において測定される反射率は、より一層の装用感向上の観点からは、4.50%以下であることが好ましく、4.00%以下であることがより好ましい。また、400~780nmの波長域の全域において、両方の表面において測定される反射率は、例えば、それぞれ0.01%以上であることができる。
【0017】
<レンズ基材>
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材としては、眼鏡レンズのレンズ基材として通常使用される各種レンズ基材を挙げることができ、特に限定されない。レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難いという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲を上回っても下回ってもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0018】
また、レンズ基材には、眼鏡レンズのレンズ基材に一般に含まれることがある各種添加剤の一種以上が含まれていてもよい。例えば、レンズ基材を、重合性化合物を含む硬化性組成物を硬化して成形する場合、かかる硬化性組成物に、例えば、特開平7-063902号公報、特開平7-104101号公報、特開平9-208621号公報、特開平9-255781号公報等に記載されている重合触媒、特開平1-163012号公報、特開平3-281312号公報等に記載されている内部離型剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、ブルーイング剤等の添加剤の一種以上を添加してもよい。これら添加剤の種類および添加量、ならびに硬化性組成物を用いてレンズ基材を成形するための成形方法については、公知技術を適用することができる。
【0019】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定され得る。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0020】
上記眼鏡レンズは、レンズ基材の一方の表面上と他方の表面上にそれぞれ多層膜を有する。かかる多層膜は、レンズ基材の表面上に直接設けられていてもよく、一層以上の他の層を介してレンズ基材の表面上に設けられていてもよい。多層膜とレンズ基材との間に位置し得る層に関しては、眼鏡レンズに関する公知技術を適用することができる。かかる層の具体例としては、例えば、偏光層、調光層、ハードコート層等を挙げることができる。例えば、多層膜とレンズ基材との間にハードコート層を設けることにより、眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることができる。ハードコート層は、例えば硬化性組成物を硬化した硬化層であることができる。ハードコート層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0025~0028、0030を参照できる。また、レンズ基材と多層膜との間には、密着性向上のためのプライマー層を形成してもよい。プライマー層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0029~0030を参照できる。
【0021】
<多層膜>
上記眼鏡レンズは、レンズ基材の一方の表面上と他方の表面上にそれぞれ多層膜を有する。これら多層膜が存在することが、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上であり、かつ400~780nmの波長域の全域において少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下であることに寄与し得る。また、眼鏡レンズに後述する各種特性をもたらすことにも多層膜が寄与し得る。多層膜の層構成は、所望の特性(反射特性等)を有するように公知の方法(光学的シミュレーション等)により膜設計を行うことによって、決定することができる。決定された層構成の多層膜が形成できるように成膜条件(成膜材料の種類、組み合わせおよび多層膜を構成する各層の厚み)を決定し、決定された成膜条件にて成膜を行うことにより、レンズ基材表面上に多層膜を形成することができる。
【0022】
多層膜の成膜方法としては、公知の成膜方法を用いることができる。成膜の容易性の観点からは、成膜は蒸着により行うことが好ましい。即ち、多層膜を構成する各層は、蒸着膜であることが好ましい。蒸着膜とは、蒸着によって成膜された膜を意味する。本発明および本明細書における「蒸着」には、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が含まれる。真空蒸着法では、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0023】
所望の反射特性をもたらすための多層膜は、高屈折率層と低屈折率層と交互に積層された多層膜であることが好ましい。本発明および本明細書において、「高屈折率」および「低屈折率」に関する「高」、「低」とは、相対的な表記である。即ち、高屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる低屈折率層より屈折率が高い層をいう。換言すれば、低屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる高屈折率層より屈折率が低い層をいう。高屈折率層を構成する高屈折率材料の屈折率は、例えば1.60以上(例えば1.60~2.40の範囲)であり、低屈折率層を構成する低屈折率材料の屈折率は、例えば1.59以下(例えば1.37~1.59の範囲)であることができる。ただし上記の通り、高屈折率および低屈折率に関する「高」、「低」の表記は相対的なものであるため、高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率は、上記範囲に限定されるものではない。
【0024】
高屈折率材料および低屈折率材料としては、無機材料、有機材料または有機・無機複合材料を用いることができ、成膜性等の観点からは無機材料が好ましい。即ち、多層膜は、無機多層膜であることが好ましい。具体的には、高屈折率層を形成するための高屈折率材料としては、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、タンタル酸化物(例えばTa25)、チタン酸化物(例えばTiO2)、アルミニウム酸化物(例えばAl23)、イットリウム酸化物(例えばY23)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)、およびニオブ酸化物(例えばNb25)からなる群から選ばれる酸化物の一種または二種以上の混合物を挙げることができる。一方、低屈折率層を形成するための低屈折率材料としては、ケイ素酸化物(例えばSiO2)、フッ化マグネシウム(例えばMgF2)およびフッ化バリウム(例えばBaF2)からなる群から選ばれる酸化物またはフッ化物の一種または二種以上の混合物を挙げることができる。なお上記の例示では、便宜上、酸化物およびフッ化物を化学量論組成で表示したが、化学量論組成から酸素またはフッ素が欠損もしくは過多の状態にあるものも、高屈折率材料または低屈折率材料として使用可能である。
【0025】
好ましくは、高屈折率層は高屈折率材料を主成分とする膜であり、低屈折率層は低屈折率材料を主成分とする膜である。ここで主成分とは、膜において最も多くを占める成分であって、通常は膜の質量に対して50質量%程度~100質量%、更には90質量%程度~100質量%を占める成分である。上記高屈折率材料または低屈折率材料を主成分とする成膜材料(例えば蒸着源)を用いて成膜を行うことにより、そのような膜(例えば蒸着膜)を形成することができる。なお成膜材料に関する主成分も、上記と同様である。膜および成膜材料には、不可避的に混入する不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や成膜を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。眼鏡レンズのレンズ基材の各表面上に設けられる多層膜において、例えば高屈折率層と低屈折率層の総層数は、10層以下、9層以下、8層以下または7層以下であることができ、また、4層以上または5層以上であることができる。層構成の具体例としては、例えば、レンズ基材側から眼鏡レンズの最表面側に向かって、
第一層(低屈折率層)/第二層(高屈折率層)/第三層(低屈折率層)/第四層(高屈折率層)/第五層(低屈折率層)/第六層(高屈折率層)/第七層(低屈折率層)、
第一層(高屈折率層)/第二層(低屈折率層)/第三層(高屈折率層)/第四層(低屈折率層) 等を挙げることができる。なお、上記の層構成の例示において、「/」との表記は、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層が隣接する場合と、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層の間に、後述する導電性酸化物層が存在す場合とを包含する意味で用いられている。
【0026】
多層膜は、以上説明した高屈折率層および低屈折率層に加えて、導電性酸化物を主成分とする層(導電性酸化物層)、好ましくは導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された導電性酸化物の蒸着膜の一層以上を、多層膜の任意の位置に含むこともできる。導電性酸化物層に関して記載する主成分との語とは、上記と同様の意味で用いられる。
導電性酸化物層としては、眼鏡レンズの透明性の観点から、膜厚10.0nm以下の酸化インジウムスズ(tin-doped indium oxide;ITO)層、膜厚10.0nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10.0nm以下のチタン酸化物層が好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)層とは、ITOを主成分として含む層である。この点は、スズ酸化物層、チタン酸化物層についても同様である。多層膜に導電性酸化物層を含むことにより、眼鏡レンズが帯電し塵や埃が付着することを防ぐことができる。本発明および本明細書において、多層膜に含まれる「高屈折率層」および「低屈折率層」としては、膜厚10.0nm以下の酸化インジウムスズ(ITO)層、膜厚10.0nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10.0nm以下のチタン酸化物層は考慮されないものとする。即ち、これらの層の一層以上が多層膜に含まれる場合であっても、これらの層は、「高屈折率層」または「低屈折率層」とは見做さないものとする。膜厚10.0nm以下の上記の導電性酸化物層の膜厚は、例えば0.1nm以上であることができる。導電性酸化物層に関して記載する膜厚は、物理膜厚である。
【0027】
更に、多層膜上には、更なる機能性膜を形成することもできる。そのような機能性膜としては、撥水性または親水性の防汚膜、防曇膜等の各種機能性膜を挙げることができる。これら機能性膜については、いずれも公知技術を適用することができる。
【0028】
<眼鏡レンズの各種特性>
(青色光に対する反射特性)
上記眼鏡レンズは、先に記載したように、少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である。先に記載したように、眼鏡レンズの一方の表面のみについて求められる上記平均反射率が10.00%以上であってもよく、両方の表面について求められる上記平均反射率がいずれも10.00%以上であってもよく、一方の表面のみについて求められる上記平均反射率が10.00%以上であることが好ましい。
380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である表面においては、430~450nmの波長域における平均反射率(「平均反射率1」と記載する。)が高いことが好ましい。青色光の主な発生源であるLEDが、青色光の波長域の中でも、特に430~450nmの波長域の光を強く発するためである。この観点から、380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である表面において、430~450nmの波長域における平均反射率(平均反射率1)は、10.00%超であることが好ましく、12.00%以上であることがより好ましく、13.00%以上であることが更に好ましく、14.00%以上であることが一層好ましく、15.00%以上であることがより一層好ましい。また、上記平均反射率1は、例えば35.00%以下、32.00%以下、30.00%以下または25.00%以下であることができるが、430~450nmの波長域の光が眼鏡の装用者の眼に入射する光量をより一層低減する観点からは、上記の例示した上限を上回ってもよい。
一方、青色光に対して高い反射率を示す眼鏡レンズは、一般に、ぎらつきが生じやすい傾向がある。これに対し、青色光の波長域の中で、平均反射率1を規定する波長域(430~450nm)より長波長側の反射率が、平均反射率1を規定する波長域における反射率に対して相対的に低いことは、眼鏡レンズにぎらつきが生じることを抑制することに寄与し得る。この点から、380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上である表面において、460~480nmの波長域における平均反射率(「平均反射率2」と記載する。)は、平均反射率1より低いことが好ましい。平均反射率1と平均反射率2との差分(平均反射率1-平均反射率2)は、5.00%以上であることが好ましく、6.00%以上であることがより好ましく、7.00%以上であることが更に好ましく、8.00%以上であることが一層好ましく、9.00%以上であることがより一層好ましく、10.00%以上であることが更に一層好ましい。また、上記差分(平均反射率1-平均反射率2)は、例えば17.00%以下または12.00%未満であることができるが、ぎらつきをより一層抑制する観点からは、これを上回ってもよい。また、平均反射率2は、例えば1.00~15.00%または1.00~10.00%の範囲であることができ、2.00~10.00%または3.00~10.00%の範囲であることもできる。
【0029】
(視感反射率)
眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの物体側表面において測定される視感反射率は低いことが好ましい。また、眼鏡レンズの装用感の更なる向上の観点からは、眼鏡レンズの眼球側表面において測定される視感反射率は低いことが好ましい。外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの物体側表面において測定される視感反射率は、1.80%以下であることが好ましく、1.50%以下であることがより好ましい。一方、装用感の更なる向上の観点からは、眼鏡レンズの眼球側表面において測定される視感反射率は1.80%以下であることが好ましく、1.50%以下であることがより好ましく、1.30%以下であることがより一層好ましく、1.00%以下であることが更に好ましい。
眼鏡レンズの物体側表面において測定される視感反射率および眼鏡レンズの眼球側表面において測定される視感反射率は、それぞれ、例えば0.10%以上、0.20%以上、0.30%以上、0.40%以上、または0.50%以上であることができるが、上記の下限は例示であって、これらに限定されるものではない。レンズ基材の物体側表面上および眼球側表面上に設けられる多層膜の膜設計によって、上記視感反射率を実現することができる。膜設計は、公知の方法による光学的シミュレーションによって行うことができる。
本発明および本明細書において、「視感透過率」は、眼鏡レンズの測定対象表面側から、JIS T 7333:2005にしたがい測定される値である。
【0030】
(500nm超780nm以下の波長域における反射率)
上記眼鏡レンズは、先に記載したように、400~780nmの波長域の全域において、少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下である。好ましくは、500nm超780nmの波長域の全域において、両方の表面において測定される反射率が、いずれも5.00%以下であること、即ち500nm超780nm以下の波長域の全域において、両方の表面において測定される反射率が、いずれも5.00%を超えないことが好ましい。このことは、眼鏡レンズの両方の表面の色味を大きく相違させないことに寄与し得る。眼鏡レンズの両方の表面の色味が近いことは、眼鏡レンズの外観品質上、好ましい。
【0031】
(主波長)
上記眼鏡レンズは、眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において、380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上であって青色光を強く反射する性質を有する。このような眼鏡レンズの上記平均反射率を有する表面において測定される主波長は、好ましくは、青色光の波長域内の400.0~500.0nmの範囲にあることができる。
一方、眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの両方の表面において測定される主波長は大きく異ならないことが好ましい。この点から、上記眼鏡レンズの他方の表面において測定される主波長は、400.0~600.0nmの範囲にあることが好ましく、400.0~500.0nmの範囲にあることがより好ましい。
「主波長」とは、人の眼で感じる光の色の波長を数値化した指標であり、本発明および本明細書において、「主波長」とは、眼鏡レンズの測定対象表面側から、JIS Z 8781-3:2016の附属書JAにしたがって測定される値である。レンズ基材の各表面上にそれぞれ設けられる多層膜の膜設計によって、上記主波長を実現することができる。また、上記のように500nm超780nm以下の波長域における反射率を制御することを、眼鏡レンズの両方の表面において測定される主波長を制御するための手段の一例として挙げることができる。
【0032】
(DEI値(Digital Eyestrain Value))
眼鏡の装用者の眼への青色光による負担の軽減に関して、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記式1により算出されるDEI値が10.0%以上である眼鏡レンズによれば、青色光の主な発生源であるLEDから発せられる青色光が眼に与える影響を効果的に低減できると考えるに至った。下記式1により求められるDEI値は、LEDから発せられる青色光および青色光障害関数にはそれぞれ波長による分布があることに着目し、これら分布を考慮した指標によれば、LEDから発せられる青色光が眼に与える影響度を数値化できるとの、本発明者らの新たな知見に基づき見出された数値である。眼鏡の装用者の眼へのLEDから発せられる青色光による負担をより一層軽減する観点からは、眼鏡レンズのDEI値は10.0%以上であることがより好ましく、13.0%以上であることが更に好ましく、16.0%以上であることが一層好ましい。また、眼鏡レンズのDEI値は、例えば10.0%未満であることができるが、DEI値が高いほど、LEDから発せられる青色光による眼鏡の装用者の眼への負担をより一層軽減できるため、眼鏡レンズのDEI値は、上記の例示した上限を下回ってもよい。
【0033】
【数1】
【0034】
式1中、τ(λ)は、波長λnmにおける透過率(%)を表す。透過率は、眼鏡レンズに対して、眼鏡レンズの物体側表面側から光を入射させて測定するものとする。
式1中、Esλ(λ)は波長λnmのLED発光強度係数を表し、B(λ)は波長λnmの青色光障害関数を表す。各波長のLED発光強度係数は、本発明者らが、一般的なLED液晶ディスプレイからの発光の分光スペクトルに基づき強度係数を算出し決定した値であり、各波長の青色障害関数は、JIS T 7330:2000 付属書Aに記載されている値である。
【0035】
【表1】
【0036】
[眼鏡]
本発明の更なる態様は、上記の本発明の一態様にかかる眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡レンズは、かかる眼鏡レンズを備えることにより、眼鏡の装用者の眼への青色光による負担を軽減することができる。また、上記眼鏡に備えられた眼鏡レンズは、眼鏡レンズ内部での多重反射により結像するゴースト(二重像)が眼鏡の装用者に視認される強度を下げることができるか、または視認されないほど強度を下げることができる。フレーム等の眼鏡の構成については、特に制限はなく、公知技術を適用することができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1、2、比較例1、2]
両面が光学的に仕上げられ予めハードコートが施された、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面であるプラスチックレンズ基材(無色レンズ、屈折率1.67)の凸面側(物体側)のハードコート表面に、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表2に示す層構成の多層蒸着膜を形成した。
凹面側(眼球側)のハードコート表面にも同様の条件でイオンアシスト蒸着により表2に示す層構成の多層蒸着膜を形成した。
実施例および比較例では、凸面側、凹面側とも、多層蒸着膜は、レンズ基材側(ハードコート側)から眼鏡レンズ表面側に向かって、表2または表4の上方に示す蒸着源から下方に示す蒸着源を順次用いて、第1層、第2層…の順に積層し、眼鏡レンズ表面側最外層が表2の最下欄に示す蒸着源により形成された層となるように形成した。これら実施例よび比較例では、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば表2または表4に示す酸化物からなる蒸着源を使用し、表2または表4に示す層厚(光学的膜厚)の各層を順次形成した。表2または表4に示す酸化物の屈折率は、SiO2:1.47、ZrO2:2.08、Nb25:2.11である。光学的膜厚に関して、λ=500nmである。例えば、表2中、0.110とは、光学的膜厚0.110λを意味する。表2または表4中の他の光学的膜厚についても同様である。なお比較例1の眼鏡レンズは、特許文献1(WO2014/069250)の表1に示されている実施例1の層構成の多層膜を有する眼鏡レンズである。
【0039】
【表2】
【0040】
[各種特性の測定方法]
<1.反射率>
実施例および比較例の各眼鏡レンズの物体側から、物体側表面(凸面側)において、光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
また、実施例および比較例の各眼鏡レンズの眼球側から、眼球側表面(凹面側)において、光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
上記測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUを用いて行った(測定ピッチ:1nm)。実施例および比較例の各眼鏡レンズについて得られた反射スペクトルを図1図4に示し、測定された反射率(単位:%)を図5図5-1~図5-9)に示す。
また、こうして測定された反射率から、後述の表3に示す各種平均反射率を求めた。
【0041】
<2.視感反射率>
上記1.で得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、先に記載した方法により、実施例および比較例の各眼鏡レンズの両表面について視感反射率を求めた。
【0042】
<3.主波長>
上記1.で得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、先に記載した方法により、実施例および比較例の各眼鏡レンズの両表面について主波長を求めた。
【0043】
[評価方法]
<ゴースト評価>
実施例および比較例の各眼鏡レンズを、暗室において蛍光灯下30cmの位置で眼球側から観察し、ゴースト(二重像)の発生の有無および程度を、以下の評価基準に基づき官能評価した。
A:ゴーストが観察されない。または薄いゴーストが観察されるがBより軽度である。
B:明瞭なゴーストは観察されない。薄いゴーストが観察される。
C:明瞭なゴーストが観察される。
【0044】
<青色光による眼への負担の軽減に関する評価>
実施例および比較例の各眼鏡レンズの直入射反射分光特性を、日立製作所製分光光度計U4100を用いて、眼鏡レンズの物体側の表面側(凸面側)から物体側表面の光学中心に光を入射させて波長380nmから500nmまで5nmピッチで測定した。
測定結果から得られた透過スペクトルから、380~500nmの波長域における各波長での透過率τ(λ)を求めた。こうして求めたτ(λ)を用いて、先に記載した式1からDEI値を求めた。
求められたDEI値に基づき、以下の評価基準に基づき、眼鏡レンズの青色光による眼への負担の軽減効果を評価した。
A:DEI値が13.0%以上
B:DEI値が10.0%以上13.0%未満
C:DEI値が10.0%未満
【0045】
<ぎらつき評価>
2.ぎらつき評価
実施例1、2の各眼鏡レンズを、通常の明るさの室内で眼球側から観察し、物体側表面の内側で反射する光(ぎらつき)の強さを観察者の眼により、以下の評価基準に基づき官能評価した。
A:ぎらつきが観察されない。またはぎらつきがわずかに観察されるがBより軽度である。
B:ぎらつきが観察される。
C:ぎらつきが顕著に観察される。
【0046】
<外観色>
実施例および比較例の各眼鏡レンズを、観察者が眼鏡レンズの各表面側から目視で観察して、外観色を確認した。
【0047】
以上の測定結果および評価結果を、表3に示す。また、実施例1、2の眼鏡レンズのぎらつき評価結果は、いずれも「A」であった。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示す結果から、実施例1、2の眼鏡レンズによれば、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者の眼への青色光による負担を軽減することができ、かつ装用者に良好な装用感をもたらすこと(ゴーストによる装用感の低下抑制)ができることが確認できる。
【0050】
[実施例3~12]
眼球側表面には実施例1と同じ多層蒸着膜を形成し、物体側表面に形成する多層蒸着膜の層構成を表4(表4-1~表4-3)に示されているように変更して、実施例3~12の眼鏡レンズを作製した。
実施例3~12の各眼鏡レンズについて、先に記載した方法により各種評価を行った。評価結果を表5(表5-1、表5-2)に示す。実施例3~12の各眼鏡レンズの物体側表面の反射率(単位:%)を図6図6-1~図6-9)、図7図7-1~図7-9)に示す。
【0051】
【表4-1】
【0052】
【表4-2】
【0053】
【表4-3】
【0054】
【表5-1】
【0055】
【表5-2】
【0056】
実施例3~12の眼鏡レンズの眼球側表面には実施例1と同じ多層蒸着膜が形成されているため、実施例3~12の各眼鏡レンズの眼球側の反射特性は、実施例1の眼鏡レンズの眼球側の反射特性と同じである。実施例3~12の各眼鏡レンズは、400~780nmの波長域の全域において、少なくとも眼球側表面において測定される反射率が5.00%以下である。また、実施例3~12の各眼鏡レンズは、物体側表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以上であるため(表5-1、表5-2参照)、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者の眼への青色光による負担を軽減することができる。
実施例3~12の眼鏡レンズのゴースト評価の評価結果は、いずれも「A」であった。
ぎらつき評価の評価結果は、実施例5、8の眼鏡レンズが「A」、実施例3、4、6、7、9~12の眼鏡レンズが「B」であった。
【0057】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0058】
一態様によれば、レンズ基材と、上記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、上記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズであって、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は10.00%以上であり、かつ400~780nmの波長域の全域において、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される反射率は5.00%以下である眼鏡レンズが提供される。
【0059】
上記眼鏡レンズは、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者の眼への青色光による負担を軽減することができ、かつ、装用者に良好な装用感をもたらすことができる。
【0060】
一態様では、上記眼鏡レンズは、一方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は10.00%以上であり、他方の表面において測定される380~500nmの波長域における平均反射率は10.00%未満であり、380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以下である表面において測定される430~450nmの波長域における平均反射率1は、12.00%以上である。かかる態様の眼鏡レンズによれば、眼鏡の装用者の眼に入射し得る青色光の主な発光源であるLEDが、青色光の波長域の中でも特に強く発光する430~450nmの波長域の光が眼鏡の装用者の眼に入射する光量を効果的に低減することができる。
【0061】
一態様では、上記眼鏡レンズの380~500nmの波長域における平均反射率が10.00%以下である表面において測定される430~450nmの波長域における平均反射率1と460~480nmの波長域における平均反射率2との差分(平均反射率1-平均反射率2)は、5.00%以上である。かかる態様の眼鏡レンズによれば、ぎらつきの発生を効果的に抑制することができる。
【0062】
一態様では、500nm超以上780nm以下の波長域の全域において、上記眼鏡レンズの一方の表面において測定される反射率および他方の表面において測定される反射率は、いずれも5.00%以下である。かかる態様の眼鏡レンズによれば、眼鏡レンズの両方の表面の色味の違いが生じることを抑制することができる。
【0063】
一態様では、上記眼鏡レンズのDEI値は、10.0%以上である。かかる態様の眼鏡レンズによれば、眼鏡の装用者の眼へのLEDから発せられる青色光による負担を軽減することができる。
【0064】
また、一態様によれば、DEI値が10.0%以上である眼鏡レンズが提供される。かかる眼鏡レンズによれば、眼鏡の装用者の眼へのLEDから発せられる青色光による負担を軽減することができる。DEI値が10.0%以上である眼鏡レンズは、例えば、レンズ基材と、上記レンズ基材の少なくとも一方の表面上に多層膜を含む眼鏡レンズであることができる。また、DEI値が10.0%以上である眼鏡レンズは、例えば、レンズ基材と、上記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、上記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜とを含む眼鏡レンズであることもできる。また、レンズ基材と、上記レンズ基材の一方の表面上に位置する多層膜と、上記レンズ基材の他方の表面上に位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズであって、DEI値が10.0%以上であり、かつ400~780nmの波長域の全域において、上記眼鏡レンズの少なくとも一方の表面において測定される反射率が5.00%以下である眼鏡レンズによれば、LEDから発せられる青色光による眼への負担を軽減することができ、かつ、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者に良好な装用感をもたらすことができる。DEI値が10.0%以上である眼鏡レンズの詳細については、先に記載した一態様にかかる眼鏡レンズに関する記載を参照できる。
【0065】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0066】
本明細書に記載の各種態様は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、眼鏡レンズおよび眼鏡の製造分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
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図5-3】
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