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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】藻礁及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20241023BHJP
   A01K 61/78 20170101ALI20241023BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20241023BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20241023BHJP
   B09B 3/20 20220101ALI20241023BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/78
B09B3/35 ZAB
B09B3/70
B09B3/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023122147
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2022083804の分割
【原出願日】2022-05-23
(65)【公開番号】P2023172967
(43)【公開日】2023-12-06
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 二朗
(72)【発明者】
【氏名】橋田 修吉
(72)【発明者】
【氏名】津野 雅俊
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-116211(JP,A)
【文献】特開2004-305091(JP,A)
【文献】特開2005-318874(JP,A)
【文献】特開2017-093425(JP,A)
【文献】特開2002-238398(JP,A)
【文献】特開2006-246878(JP,A)
【文献】特開2005-006625(JP,A)
【文献】登録実用新案第3036458(JP,U)
【文献】特開2009-118784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00-33/02
A01K 61/00-61/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で藻類を繁殖させるため表面に藻類を付着させる藻礁であって、
木質バイオマスを燃焼させて得られる木質燃焼灰の粉末と、
貝殻を粉砕して得られる粒状体と、
前記木質燃焼灰の粉末及び前記粒状体と混在した状態で化学反応を起こして硬化した硬化剤と、
を含む藻礁。
【請求項2】
前記貝殻は、ホタテ貝又はアコヤ貝の貝殻である、
請求項1に記載の藻礁。
【請求項3】
前記硬化剤は、消石灰及び半水石膏の少なくとも1つを含む、
請求項1又は2に記載の藻礁。
【請求項4】
前記藻礁では、前記木質燃焼灰の粉末、前記粒状体及び前記硬化剤を含むペレットが液体を通過可能な袋に収容されている、
請求項1又は2に記載の藻礁。
【請求項5】
水中で藻類を繁殖させるため表面に藻類を付着させる藻礁の製造方法であって、
木質バイオマスを燃焼させて得られる木質燃焼灰の粉末と、貝殻を粉砕して得られる粒状体と、前記木質燃焼灰の粉末及び前記粒状体と混在した状態で化学反応を起こして硬化する硬化剤と、を混練する工程と、
混練された材料を成形する工程と、
成形された材料を硬化させる工程と、
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻礁及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、製鉄所等から排出される石炭灰は、主にセメントの原料として利用されているが、近年、セメントの需要が減少しているため、他の用途で利用することが検討されている。その一例として、沿岸海域での生物の死滅を引き起こす磯焼け現象を防止する藻礁ブロックに石炭灰を利用する試みがなされている。特許文献1には、石炭灰粒状材を骨材として含み、石炭灰粒状材同士の間に隙間が形成されている藻礁ブロックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-229489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の藻礁ブロックでは、石炭灰粒状材を製造した後、セメントに高炉スラグを混ぜた高炉セメントを石炭灰粒状材に混ぜて形成している。このため、製造に要するコストが高く、大量製造に不向きである、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、低コストで製造することが可能な藻礁及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る藻礁は、
水中で藻類を繁殖させるため表面に藻類を付着させる藻礁であって、
木質バイオマスを燃焼させて得られる木質燃焼灰の粉末と、
貝殻を粉砕して得られる粒状体と、
前記木質燃焼灰の粉末及び前記粒状体と混在した状態で化学反応を起こして硬化した硬化剤と、
を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低コストで製造することが可能な藻礁及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る藻礁が海底に設置されている様子を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係るペレットの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態に係る藻礁の使用方法の流れを示すフローチャートである。
図4】実施例1における各基質の組成及び製造方法を示す図である。
図5】実施例1における濾過海水中で各基質表面に付着したリシリコンブ胞子体の外観を撮影した図である。
図6】実施例1におけるPES改変培地中で各基質表面に付着したリシリコンブ胞子体の外観を撮影した図である。
図7】実施例1における各基質表面に付着したリシリコンブ胞子体の単位面積あたりの付着数を示す図である。
図8】(a)は、実施例1における基質の1つをロープに固定した様子を撮影した図であり、(b)は、(a)の基質を海中に係留させた様子を撮影した図である。
図9】実施例2における各基質表面に付着したアカバギンナンソウ、アマノリ、オゴノリの外観を撮影した図である。
図10】実施例2における各基質表面に付着したアカバギンナンソウ及びオゴノリの個体数とアマノリ糸状体の被度とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る藻礁及びその製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
藻礁は、水中で藻類を繁殖させるため表面に藻類を付着させる設備である。藻礁は、藻類を増殖させたい水中の任意の場所、例えば、海、川、湖、池、沼に設置される。藻礁は、その表面に藻類の種苗を付着させた状態で水中に設置されることが好ましい。藻礁に付着させる藻類は、光合成により水中の二酸化炭素COを吸収可能であればいかなる藻類であってもよいが、例えば、コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズクのような褐藻、アカバギンナンソウ、オゴノリ、アマノリ、テングサのような紅藻が好ましい。
【0011】
藻礁に付着させる褐藻としては、コンブ目の海藻、とりわけコンブ科の海藻、例えば、マコンブ、オニコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ネコアシコンブ、ガゴメコンブであることが好ましい。コンブ科の海藻では、いずれも遊走子と呼ばれる海中を泳ぐことのできる胞子が岩や藻礁に付着する。そして、付着した遊走子が雄又は雌の配偶体となり精子又は卵を放出し、両者が受精して生長することで、目視で観察可能な胞子体を形成する。以下、藻礁を海底に設置し、海藻を生長させる場合を例に説明する。
【0012】
図1に示すように藻礁は、混練した材料をプレス装置で成形し、硬化させたペレットと、複数のペレットが入れられる液体が通過可能な袋と、を備える。ペレットは、任意の形状であってよいが、例えば、円筒形状の粒状体であり、その直径及び長さは、それぞれ5mm~20mmの範囲内であることが好ましい。
【0013】
袋は、ペレットに付着した藻類が外部に延びるように開口を有しており、例えば、金網で形成されている。袋には、ペレットを投入する開口部が設けられ、開口部は、海中に設置される前に紐状部材、例えば、ロープによって封止される。複数のペレットを袋に収容した藻礁は、ブロック状の藻礁よりも現場で打設しやすく、大きさや形状を調整できるため、取り扱いも容易である。
【0014】
次に、ペレットに含まれる成分を説明する。ペレットは、主成分の石炭灰に硬化剤を混在させた状態で硬化させたものである。硬化剤は、石炭灰を含んだ状態で化学反応を起こして硬化する材料である。硬化剤は、それ自身が硬化することで、石炭灰や骨材をひとまとまりに凝集させる。硬化剤は、主成分の石炭灰に対して均一に分散することが好ましい。
【0015】
石炭灰は、石炭の燃焼により得られる灰の粉末であり、シリカSiOやアルミナAlが主成分であり、主に石炭火力発電所や製鉄所から排出される。ペレット中の石炭灰の重量比は、例えば、60%~90%の範囲内であり、好ましくは重量比で70%~80%の範囲内である。石炭灰は、例えば、フライアッシュである。フライアッシュは、石炭の燃焼により発生し、燃焼ガスと一緒に浮遊した灰を集じん器で集めた細かな球状の粒子で構成されている。
【0016】
石炭灰は、石炭の燃焼により発生した排ガス中の窒素酸化物を吸着させた脱硫剤の粉末であってもよい。脱硫剤は、石炭灰や石膏を混合してペレット状に成形したものであり、多量の石炭灰を含んでいる。窒素酸化物を吸着させた脱硫剤には、石炭灰や石膏以外にも、酸化カルシウム、ケイ酸、微量の窒素が含まれている。
【0017】
硬化剤は、例えば、消石灰、半水石膏の粉体であり、消石灰及び半水石膏のいずれか一方又は両方を混合してもよい。消石灰は、主成分は水酸化カルシウムで、空気中で硬化する性質を有する。ペレット中の消石灰の重量比は、例えば、5%~20%の範囲内であり、好ましくは8%~14%の範囲内である。半水石膏(焼石膏)は、硫酸カルシウムCaSOを主成分とする鉱物であり、水と反応して二水石膏に変化して硬化する性質を有する。ペレット中の石膏の重量比は、例えば、1%~10%の範囲内であり、好ましくは2%の~6%の範囲内である。
【0018】
ペレットは、石炭灰及び硬化剤以外に骨材を含んでいてもよい。骨材は、藻礁の骨格となる材料であり、例えば、炭酸カルシウムを含む粒状体、砂利である。ペレットは、単一種類の材料で構成されてもよく、複数種類の材料を含んでもよい。
【0019】
炭酸カルシウムを含む粒状体は、例えば、貝殻、石灰石を粉砕した粒状体である。貝殻は、例えば、ホタテ貝、アコヤ貝、カキであり、その主成分は炭酸カルシウムCaCOである。石灰石は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物である。炭酸カルシウムを含む粒状体は、二酸化炭素吸収設備で二酸化炭素を吸収した後に排出された炭酸カルシウムを含んでもよい。二酸化炭素吸収設備で排出された炭酸カルシウムは、火力発電所等の排気系に設置され、水酸化カルシウムCa(OH)が排気ガス中の二酸化炭素と反応することで生成される。ペレット中の骨材の重量比は、例えば、5%~30%の範囲内であり、好ましくは10%~20%の範囲内である。
【0020】
ペレットには、バインダーや必要に応じて水を添加してもよい。バインダーは、石炭灰及び骨材を凝集させる材料であり、例えば、粘土、セメント、ソーダ灰、又はアルギン酸、ポリビニルアルコール等の有機化合物である。ペレット中のバインダーの重量比は、例えば、10%~30%の範囲内であり、好ましくは15%~25%の範囲内である。また、ペレットの成形時に添加する水の量は、成形の容易性やペレットの強度を考慮して適宜設定すればよい。
【0021】
ペレットには、藻類の栄養塩類を含む材料、例えば、鶏糞燃焼灰を混合してもよい。栄養塩類は、藻類が生長するのに必要な塩類であり、例えば、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、ケイ酸塩を含む。鶏糞燃焼灰は、鶏糞の燃焼により得られる灰であり、リン酸塩やカリウムといった栄養塩類を含んでいる。
【0022】
実施の形態に係る藻礁は、上記の技術的な特徴を有するペレットを備えるため、表面にコンブや他の海藻を付着させることができ、水中の二酸化炭素を効率的に吸収させることができる。また、従来のコンクリート藻礁と比較して海藻の生長も促進できるため、沿岸海域における磯焼け対策として好適である。
以上が、藻礁及びペレットの技術的な特徴である。
【0023】
次に、図2を参照して、実施の形態に係る藻礁を構成するペレットの製造方法の流れを説明する。まず、混練機を用いて石炭灰、硬化剤を含む材料を混練する(ステップS11)。材料に水が含まれる場合には、まず、水を除く他の材料を空練りし、次に、空練りされた材料に水を添加してさらに混練する。
【0024】
次に、ステップS11の工程で混練した材料をペレット状に成形する(ステップS12)。成形工程は、任意の方法でよく、例えば、押出成形機を用いた押出成形であってもよい。押出成形では、混練した材料を板に形成された多数の孔に通過させ、カッターで一定長さに切断することにより、円筒形状の粒状体を成形する。
【0025】
次に、ステップS12の工程で成形された成形体を硬化させるために養生する(ステップS13)。養生工程では、例えば、水中養生、蒸気養生、焼成のうち適宜の手法を選択して実施すればよい。水中養生では、ペレットを水中に沈めて養生を行うことで、ペレットの強度を向上させ、蒸気養生では、ペレットを高温の蒸気に晒すことで、ペレットの強度を水中養生よりも早期に向上させる。焼成では、例えば、1000℃程度の高温でペレットを焼結させる。
以上が、ペレットの製造方法の流れである。
【0026】
(使用方法)
次に、図3を参照して、実施の形態に係る藻礁の使用方法の流れを説明する。まず、ペレット表面に藻類の種苗、例えば、コンブの胞子体を付着させ、海水が貯められた水槽内である程度の大きさになるまで生長させる(ステップS21)。
【0027】
次に、ステップS21の工程で藻類の種苗を根付かせた複数のペレットを、水が通過可能な網状の袋に収容することで、藻類の種苗が表面に付着した藻礁を作成する(ステップS22)。袋に入れるペレットの量は、海底の形状や流れの強弱に応じて決定すればよい。ペレットを袋へ入れる工程は、藻類の種苗を付着させる施設内で実施してもよく、藻礁を設置する現場付近で実施してもよい。
【0028】
次に、ステップS22の工程で作成した藻礁を水中に設置する(ステップS23)。このとき、必要であればアンカー等で藻礁を海底に固定するとよい。
以上が、藻礁の使用方法の流れである。
【0029】
以上説明したように、実施の形態に係る藻礁は、石炭を燃焼させて得られる灰の粉末と、灰の粉末と混在した状態で化学反応を起こして硬化した硬化剤と、を含む。このため、石炭の燃焼により排出される石炭灰を活用した藻礁を簡単な手順で製造でき、結果として藻礁を低コストで製造できる。
【0030】
また、実施の形態に係る藻礁は、藻礁の表面に水中の二酸化炭素を大量に吸収し、広大な藻場を形成するコンブを付着させることができ、電力事業等における二酸化炭素の排出量の削減を行うことができる。コンクリート藻礁と比較して各種の海藻の生長が促進されるため、沿岸海域における磯焼け現象にも好適である。
【0031】
実施の形態に係る藻礁は、骨材として二酸化炭素吸収設備で二酸化炭素を吸収させた後に排出される炭酸カルシウムを含んでもよい。このような二酸化炭素吸収設備からの排出物を藻礁に再利用することで、電力事業等における二酸化炭素の排出量の削減に一層寄与できる。
【0032】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0033】
(変形例)
上記実施の形態では、主原料として石炭を燃焼させて得られた石炭灰を用いていたが、本発明はこれに限られない。バイオマスを燃焼させて得られたバイオマス燃料灰の粉末を用いてもよい。バイオマスには、例えば、木質、家畜糞、下水汚泥、農業残渣が含まれる。
【0034】
上記実施の形態では、多数のペレットを金網にいれることで藻礁を作成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、ペレットと同一又は同等の組成を有するブロックを藻礁としてもよい。ブロックの形状は、任意の形状でよく、例えば、立方体形状、四脚ブロック形状(テトラポット形状)であってもよい。
【0035】
上記実施の形態では、押出成形を用いてペレットを製造していたが、本発明はこれに限られない。例えば、押出成形以外の方法、例えば、プレス成形、転動造粒法、攪拌造粒法を用いてペレットを製造してもよい。
【0036】
上記実施の形態では、藻礁表面に藻類の種苗を付着させた状態で藻礁を水中に設置していたが、本発明はこれに限られない。藻類の生長が旺盛な水域であれば、藻礁表面に藻類の種苗を付着させずに藻礁を水中に設置してもよい。
【0037】
上記実施の形態では、藻礁を自然環境にある水中に設置していたが、本発明はこれに限られない。例えば、気体溶解装置を用いて水中に二酸化炭素を吸収させ、水中の二酸化炭素の濃度を高めた状態で水中に藻礁を設置することで、二酸化炭素を藻類に吸収させると共に、藻類の生長を一層促進させてもよい。
【0038】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、石炭灰を主成分とするブロック状の基質A~Eを作成し、基質A~Eに付着させたリシリコンブの培養試験を行った。基質A~Eは、それぞれ図4に示す組成を有し、原材料を混練した後、水中養生、蒸気養生及び焼成のいずれかの方法により製造されている。水中養生では、例えば、温度20℃、湿度90%で2週間保管し、温度20℃の水中に沈めて2週間保管した。蒸気養成では、成形後ただちにビニール袋で密封し、温度90℃の蒸気に晒した状態で24時間~48時間保管した。
【0041】
次に、基質A~Eを2つずつリシリコンブの遊走子液に浸漬して表面に遊走子を付着させた。遊走子液は、以下の手順で作成した。まず、採集したリシリコンブ胞子体から子嚢斑形成部の切片を切り取り、カートリッジフィルターで濾過し、濾過海水で洗浄した。濾過海水は、温度121℃で15分間処理した海水である。次に、ペーパータオルを使用して切片の表面を拭き取った後、ペーパータオルで包み、ビニール袋に入れて密封した状態で冷暗所に一晩保管した。翌日、切片を濾過海水中に浸漬することで遊走子を放出させた。そして、遊走子の数が5000個/Lとなるように調整した。
【0042】
次に、各基質A~Fを培養用の1Lの濾過海水及びPES(Provasoli Enriched Seawater)改変培地に1つずつ収容し、水温10℃、照度5000Lux、光周期12L:12D(12時間明期、12時間暗期)の光周期の下で5週間培養した。PES改変培地は、海水をベースに作成された海藻類の生長を促進する栄養強化培地である。培養期間中の培養個体の観察は1週間毎に行い、胞子体の付着数や基質表面の変化を観察した。培養開始2週目までの期間では、珪藻類の繁殖を抑制するため、培養液に1mgの酸化ゲルマニウムを添加した。また、観察毎に培養液の一部を採取し、オートアナライザー(ビーエルテック社)を用いて海藻類の生育には欠かせない栄養塩類である窒素やリンの濃度を測定した。比較のため、市販コンクリートで作成した基質Fについても同様の実験を行った。
【0043】
図5及び図6は、それぞれ濾過海水及びPES改変培地における培養開始から5週間目のリシリコンブの胞子体の外観を撮影した図である。いずれの培養液を用いた場合でも、各基質A~Eの表面でリシリコンブの胞子体が生長していることが確認できた。いずれの培養液を用いた場合でも、培養開始から3、4週目には、各基質A~Eの表面において肉眼で観察可能なサイズの胞子体が出現していた。
【0044】
図7に示すように、濾過海水で培養した場合において、培養5週目における単位面積あたりの付着数は、基質Aで約4.5個/cm、基質Bで約3.4個/cmであった。その他の基質では基質A、Bに比べて付着数が少なくなる傾向が見られた。PES改変培地で培養した場合において、培養5週目における単位面積あたりの付着数は、基質Eを除いて約4個/cmであった。
【0045】
いずれの培養液及び基質A~Eを用いた場合でも、胞子体の葉状部に縮れや捻じれといった形態的な異常は認められなかった。基質Bでは、他の基質に比べて生長が速く、培養個体が大型になる傾向が見られた。これは、基質Bでは、培養液中のPO-P(リン酸態リン)濃度が高く推移しているためと考えられる。基質Eを使用した試験区の培養液中からは、NO-NO-N(硝酸態及び亜硝酸態窒素)とPO-Pとが高濃度で検出されたが、予想に反して胞子体の生長は悪く、一部で葉状部が退色していた。これは、基質Eから供給された窒素やリンが過剰で胞子体の生育を阻害したため、と考えられる。なお、基質Eでは、酸化ゲルマニウムを添加したにも関わらず、珪藻類が顕著に増殖していた。
【0046】
実環境での生育状況を調査するため、図8(a)に示すようにリシリコンブ胞子体が付着した基質をロープに固定し、漁港内の養成綱に設置した。設置から1ヶ月後に水中カメラで観察したところ、図8(b)に示すように基質は崩壊せず、胞子体も生長していることが確認できた。
【0047】
(実施例2)
実施例2では、石炭灰を主成分とする基質A~Cでコンブ類以外の海藻類が生長するかどうかを検証した。石炭灰を主成分とする基質A~Cに北海道近海に生息するアカバギンナンソウ、アマノリ、オゴノリを付着させ、実施例1と同様の手順で培養試験を行った。
【0048】
まず、各基質A~Cの表面に2Lの海水中に浸漬したアカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子をそれぞれ150個、アマノリの糸状体を2mg散布し、2週間静置して培養した。アカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子、アマノリの糸状体は、以下の手順で取得した。まず、採取したアカバギンナンソウの雌性配偶体、オゴノリの雌性配偶体、アマノリの配偶体を濾過海水で洗浄した。次に、アカバギンナンソウとオゴノリは嚢果形成部、アマノリは接合胞子嚢形成部をそれぞれ切り取り、それぞれの切片を濾過海水中に浸漬した。次に、放出された果胞子及び接合胞子をそれぞれ採取し、それらを約5~7ヶ月間培養することで、アカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子体、アマノリの糸状体を得た。アカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子体からは、四分胞子嚢形成部を切り取り、濾過海水中に浸漬して四分胞子を得た。アマノリの糸状体は、滅菌済みのメスを用いてよく細断した。
【0049】
次に、アカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子又はアマノリの糸状体が付着した各基質A~Cを1LのPES改変培地中に移し、アカバギンナンソウについては水温10℃、オゴノリ及びアマノリについては水温20℃で8週間培養した。いずれも照度5000Lux、光周期12L:12Dである。培養期間中の培養個体の観察は1週間毎に行い、アカバギンナンソウ及びオゴノリについては、発芽した個体数を計数した。また、アマノリについては、糸状体の生長と色調の改善が見られ始めた培養4週目以降に基質表面における被度を算出した。なお、被度は、植物群落で特定の種が表面を覆っている割合を意味する。
【0050】
図9は、培養開始から5週間目のアカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子又はアマノリの糸状体の外観を撮影した図である。図9に示すように、各基質A~Cの表面で、アカバギンナンソウ及びオゴノリの四分胞子、アマノリの糸状体が生長していることを確認できた。
【0051】
アカバギンナンソウ及びオゴノリについては、培養4週目には各基質A~Cにおいて肉眼で観察可能なサイズの個体が出現した。図10に示すように、培養試験が終了した時点で、最も多くのアカバギンナンソウの個体が基質Cに付着し、最も多くのオゴノリの個体が基質Bに付着していた。各基質A~Cにおいてアカバギンナンソウ及びオゴノリの形態的な異常は認められなかった。培養試験終了後の2~3週間程度の期間、オゴノリの培養を継続したところ、雄性配偶体及び雌性配偶体の成熟が確認され、嚢果の形成も観察できた。アマノリ糸状体の被度は、各基質A~C間で大きな違いはなく、光学顕微鏡で観察したところ、アマノリ糸状体の組織に異常は見られなかった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10