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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】積層造形用金属粉末および積層造形体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/052 20220101AFI20241023BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241023BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241023BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241023BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241023BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241023BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20241023BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20241023BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20241023BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20241023BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20241023BHJP
   B22F 10/28 20210101ALN20241023BHJP
   B22F 10/36 20210101ALN20241023BHJP
【FI】
B22F1/052
B22F1/00 L
B22F10/34
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C9/00
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/06
C22C9/10
B22F1/00 M
C22C30/02
B22F10/28
B22F10/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023188963
(22)【出願日】2023-11-03
【審査請求日】2023-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 雄史
(72)【発明者】
【氏名】乙部 勝則
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-106573(JP,A)
【文献】特開2019-056140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形体を造形するために用いられる、銅を主成分とする積層造形用金属粉末であって、
添加元素として、Al:0.01質量%以上3.92質量%以下の範囲、Si:0.01質量%以上0.97質量%以下の範囲、P:0.01質量%以上0.14質量%以下の範囲、Cr:0.01質量%以上1.33質量%以下の範囲、Fe:0.01質量%以上0.29質量%以下の範囲、Ni:0.06質量%以上4.08質量%以下の範囲、Zr:0.04質量%以上0.31質量%以下の範囲、Sn:0.24質量%以上5.09質量%以下の範囲、Mg:0.01質量%以上0.21質量%以下の範囲、及びZn:0.01質量%以上32.0質量%以下の範囲のいずれか少なくとも1つを含有し、残部が銅および不可避的不純物であって、
-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、および、粒子径D5が9μm以上である積層造形用金属粉末。
【請求項2】
パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形体を造形するために用いられる、ニッケルを主成分とする積層造形用金属粉末であって、
50.88質量%の添加元素Nとして、元素Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Nb,およびMoの少なくとも1つの元素を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物である、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、および、粒子径D5が9μm以上である積層造形用金属粉末。
【請求項3】
前記-63μm+45μm篩粒度(質量%)は、JIS Z8815:1994で規定されるふるいわけ試験方法により得られた値であり、前記粒子径D5は、レーザ回折法により得られた値である請求項1または2に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項4】
請求項1に記載の積層造形用金属粉末を用いて、パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形された積層造形体であって、
添加元素として、Al:0.01質量%以上3.92質量%以下の範囲、Si:0.01質量%以上0.97質量%以下の範囲、P:0.01質量%以上0.14質量%以下の範囲、Cr:0.01質量%以上1.33質量%以下の範囲、Fe:0.01質量%以上0.29質量%以下の範囲、Ni:0.06質量%以上4.08質量%以下の範囲、Zr:0.04質量%以上0.31質量%以下の範囲、Sn:0.24質量%以上0.97質量%以下の範囲、Mg:0.01質量%以上0.21質量%以下の範囲、及びZn:0.01質量%以上32.0質量%以下の範囲のいずれか少なくとも1つを含有し、残部が銅および不可避的不純物であって、
100から前記積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率が99.0%以上である積層造形体。
【請求項5】
請求項2に記載の積層造形用金属粉末を用いて、パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形された積層造形体であって、
50.88質量%の添加元素Nとして、元素Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Nb,およびMoの少なくとも1つの元素を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物であって、
100から前記積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率が99.0%以上である積層造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用金属粉末および積層造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、平均粒子径D50とTD(タップ密度)で規定した特性の金属粉末によってパウダーベッドを形成して積層造形を行うと、相対密度95%以上の積層造形体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-017639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、相対密度95%ではオープンポアが生じることで、積層造形体のアプリケーションとして流体を扱う場合には漏れなどのエラーが考えられる。そのため、相対密度99%以上の高密度な積層造形体を得るためには、さらに安定したパウダーベッドを形成することが必要となる。
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用金属粉末は、
パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形体を造形するために用いられる、銅を主成分とする積層造形用金属粉末であって、
添加元素として、Al:0.01質量%以上3.92質量%以下の範囲、Si:0.01質量%以上0.97質量%以下の範囲、P:0.01質量%以上0.14質量%以下の範囲、Cr:0.01質量%以上1.33質量%以下の範囲、Fe:0.01質量%以上0.29質量%以下の範囲、Ni:0.06質量%以上4.08質量%以下の範囲、Zr:0.04質量%以上0.31質量%以下の範囲、Sn:0.24質量%以上5.09質量%以下の範囲、Mg:0.01質量%以上0.21質量%以下の範囲、及びZn:0.01質量%以上32.0質量%以下の範囲のいずれか少なくとも1つを含有し、残部が銅および不可避的不純物であって、
-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、および、粒子径D5が9μm以上である積層造形用金属粉末である。
本発明に係る他の積層造形用金属粉末は、
50.88質量%の添加元素Nとして、元素Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Nb,およびMoの少なくとも1つの元素を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物である、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、および、粒子径D5が9μm以上である積層造形用金属粉末である。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形体は、上記の積層造形用金属粉末を用いて、パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形された積層造形体であって、
添加元素として、Al:0.01質量%以上3.92質量%以下の範囲、Si:0.01質量%以上0.97質量%以下の範囲、P:0.01質量%以上0.14質量%以下の範囲、Cr:0.01質量%以上1.33質量%以下の範囲、Fe:0.01質量%以上0.29質量%以下の範囲、Ni:0.06質量%以上4.08質量%以下の範囲、Zr:0.04質量%以上0.31質量%以下の範囲、Sn:0.24質量%以上0.97質量%以下の範囲、Mg:0.01質量%以上0.21質量%以下の範囲、及びZn:0.01質量%以上32.0質量%以下の範囲のいずれか少なくとも1つを含有し、残部が銅および不可避的不純物であって、
100から前記積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率が99.0%以上である積層造形体である。
上記目的を達成するため、本発明に係る他の積層造形体は、上記のニッケルを主成分とする積層造形用金属粉末を用いて、パウダーベッドを形成する積層造形法により積層造形された積層造形体であって、
50.88質量%の添加元素Nとして、元素Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Nb,およびMoの少なくとも1つの元素を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物であって、
100から前記積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率が99.0%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、相対密度99%以上の高密度な積層造形体を得る安定したパウダーベッドを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】平均粒子径D50の粒子径分布と、粒子径分布に対応する粒子径D5と-63μm+45μm篩粒度(質量%)との関係を示す図である。
図2】本実施例および比較例におけるパウダーベッドの評価結果について示す図である。
図3】本実施例および比較例における積層造形用金属粉末の粒子径D5と-63μm+45μm篩粒度(質量%)との関係を示す図である。
図4図3の各領域における粒子径分布を粒子径D5の値を横軸として示す図である。
図5】本実施例および比較例における積層造形体としての筒のエア漏れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
本実施形態の積層造形用金属粉末として銅合金粉末(銅を主成分の元素とする合金粉末)について説明する。その前に、まず積層造形用銅合金粉末の現状について説明する。
【0011】
<積層造形用金属粉末の現状>
特許文献1には、平均粒子径D50とTD(タップ密度)で規定した特性の金属粉末によってパウダーベッドを形成して積層造形を行うと、相対密度95%以上の積層造形体が得られることが開示されている。
【0012】
しかしながら、平均粒子径D50は粉末の粒度分布における中央値を表す。そのため、図1の粒子径分布110に示すように、同じ平均粒子径D50の値を持った粉末でも、微粉と粗粉が大量にあるブロードな粉末径分布111と、微粉も粗粉もほとんどないシャープな粉末径分布112などが想定される。したがって、平均粒子径D50の値からは微粉、粗粉の量が明確には分からないので、平均粒子径D50を調整してもパウダーベッドが安定しない場合があり、積層造形体の相対密度が99%を下回ることで、特に流体を取りあつかう場合には漏れ等のエラーが発生する不具合が生じる。
【0013】
図1の粉末径分布113、114は、ブロードな粉末径分布111とシャープな粉末径分布112との中間の粉末径分布を示し、この中に、パウダーベッドが安定して生成されて積層造形体の相対密度が99%以上に安定する粉末径分布が存在すると思われる。
【0014】
<本実施形態の積層造形用金属粉末>
本発明者等は、パウダーベッドが安定して生成されて積層造形体の相対密度が99%以上に安定する粉末径分布を規定する特性として、パウダーベッドを阻害する微粒子の大きさを表す粒子径D5(μm)と、流動性やパウダーベッドの密度を向上させて安定なパウダーベッド形成のための粗粉量を示す-63μm+45μm篩粒度(質量%)に注目した。ここで、粒子径D5はレーザ回折法により得られた値であり、63-45μm篩粒度はJIS Z8815:1994で規定されるふるいわけ試験方法により得られた値である。
【0015】
同じ平均粒子径D50の値を持った粉末の粉末径分布111~114を、横軸が微粒子の大きさを表す粒子径D5(μm)、縦軸が安定なパウダーベッド形成のための粗粉量を示す-63μm+45μm篩粒度(質量%)のグラフ120上に対応させた。実施例および比較例の結果に基づいて、パウダーベッドが安定して生成されて積層造形体の相対密度が99%以上に安定する粉末径分布113と、他の粉末径分布111、112および114とを分ける粒子径閾値121(粒子径D5が9μm)および篩粒度閾値122(-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%)が得られた。
【0016】
粒子径D5が9μmより小さく、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上の粉体は、粒度分布が粉末径分布111のようにブロードである。そのため、積層造形装置内で積層造形用金属粉末を保管中に偏析を起こし、積層造形完了まで安定したパウダーベッドの形成ができない。
【0017】
粒子径D5が9μm以上で、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%より少ない粉体は、粒度分布が粉末径分布112のようにシャープで良好な流動性をもった粉末ではある。しかし、粒径が揃い過ぎることでパウダーベッドの密度が低下し、相対密度の低下につながる。また、アトマイズ法などで作製された粉体では非常に狭い粒度範囲での篩い分けを必要とするので生産性に乏しい。
【0018】
粒子径D5が9μmより小さく、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%より少ない粉体は、粒度分布が粉末径分布114のように一定のバランスをもった粉体である。しかし、粉体全体が微粉化していることで流動性を損ない、そもそもパウダーベッドが形成できなくなる。
【0019】
このように-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、かつ、レーザ回折法による粒子径D5 (体積分布)が9μm以上に管理された粒度分布が粉末径分布113の金属粉末を用いることで、高密度(相対密度が99%以上)の積層造形体が安定して得られる。
【0020】
[第1実施形態]
第1実施形態の積層造形用金属粉末として、銅粉末および銅合金粉末(銅を主成分の元素とする合金粉末)について説明する。
【0021】
本実施形態の銅粉末は、銅および不可避的不純物を含有する。不可避的不純物としては、0.01質量%以下の元素PやAlなどがある。
【0022】
また、本実施形態の銅合金粉末は、0.01質量%以上32.0質量%以下の添加元素M(元素Mg,Al,Si,P,Cr,Fe,Ni,Zn,Zr,AgおよびSnの少なくとも1つの元素)を含有し、残部が銅および不可避的不純物である。
【0023】
添加元素Mは、銅合金粉末の特性(流動性など)、積層造形時の特性(レーザ反射率やレーザ吸収率など)、積層造形体の特性(機械的特性:強度、耐摩耗性、靭性など、物理的特性:導電率、耐熱など)を改善するために添加される。しかしながら、本実施形態においては、パウダーベッドが安定して生成されて積層造形体の相対密度が99%以上に安定する銅合金粉末を特定する条件を見出したものである。
【0024】
なお、添加元素Mの各元素は、添加元素Mの合計量が0.01質量%以上32.0質量%以下の範囲に収まる以下の範囲で添加される。例えば、Alは0.01質量%以上3.92質量%以下の範囲、Siは0.03質量%以上0.97質量%以下の範囲、Pは0.01質量%以上0.14質量%以下の範囲、Crは0.01質量%以上1.33質量%以下の範囲、Feは0.01質量%以上0.29質量%以下の範囲、Niは0.06質量%以上4.08質量%以下の範囲、Zrは0.04質量%以上0.31質量%以下の範囲、Snは0.24質量%以上5.09質量%以下の範囲、などである。
【0025】
<銅合金粉末の製造方法>
本実施形態の積層造形用銅合金粉末の製造方法は特に限定されないが、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法、プラズマ回転電極法等のように、粉末粒子が溶融状態から急冷凝固される方式が好ましい。量産性の点からは、ガスアトマイズ法が特に好ましい。製造した粉末は、公知の分級方法によって、所定の分級条件にて分級し、適切な粒度の積層造形用銅合金粉末に調整することができる。分級を実施するための分級装置としては、気流分級機を好適に用いることができる。また、銅合金粉末に、メカニカルミリング等が施されてもよい。例えば、ボールミル法、ビーズミル法、遊星ボールミル法、アトライタ法および振動ボールミル法などが用いられる。
【0026】
<積層造形体の製造方法>
銅合金積層造形体の作製には、種々公知の金属積層造形技術を用いることができる。例えば粉末床溶融法では、金属粉末を造形ステージにブレードあるいはローラーなどでならして敷き詰めて粉末層を形成し、形成した粉末層の所定位置にレーザあるいは電子ビームを照射して金属粉末を焼結・溶融させる工程を繰り返しながら積層造形体の作製を行う。金属積層造形の造形プロセスにおいては、高品質な積層造形体を得るために非常に多数のプロセスパラメータを制御する必要がある。レーザ方式粉末床溶融法においては、レーザ出力やレーザの走査速度など多数の走査条件が存在する。そこで、最適な走査条件を設定するにあたり、主要なパラメータを総括した指標であるエネルギー密度を用いて、主要パラメータの調整を行う。エネルギー密度E[J/mm]は、レーザの出力をP[W]、レーザの走査速度をv[mm/s]、レーザ走査ピッチをs[mm]、粉末層の厚みをt[mm]とすると、E=P/(v×s×t)により決定される。レーザ方式粉末床溶融法においては、エネルギー密度は150J/mm以上450J/mm以下が好ましい。エネルギー密度が150J/mm未満の場合、粉末層に未溶融や融合不良が生じ、積層造形体に空隙などの欠陥が生じてしまう。エネルギー密度が450J/mmを超える場合、スパッタリングが生じて粉末層の表面が不安定となり、積層造形体に空隙などの欠陥が生じてしまう。電子ビーム方式粉末床溶融法においては、電子ビームを粉末層に照射した際に、粉末層に負電荷が蓄積されてチャージアップすると、粉末が霧状に舞い上がるスモーク現象が引き起こされてしまい、溶融不良につながってしまう。そのため、チャージアップを防ぐために粉末層を予備加熱して仮焼結させる予備工程が必要とされる。ただし、予備加熱温度が高過ぎる場合、焼結が進行してネッキングを引き起こし、造形後に積層造形体内部から残留した粉末を除去するのが困難となる。このため、積層造形用銅合金粉末においては、予備加熱温度は400~800℃に設定するのが好ましい。なお、ここでは粉末床溶融法による金属積層造形技術を例示したが、本発明の積層造形用銅合金粉末を用いて積層造形体を作製する一般的な積層造形方法としては、これに限定されるものではなく、例えば、指向性エネルギー堆積法による積層造形方法を採用してもよい。
【0027】
<相対密度の測定方法>
相対密度の測定方法としては、(1)3D粉末積層造形機を用いて積層造形体を作製し、100から積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率として相対密度(%)を算出する方法と、(2)3D粉末積層造形機を用いて積層造形体を作製し、作製した積層造形体の密度をアルキメデス法により測定し、理論密度(積層造形体と同じ組成を有する溶製材の密度)を100%として相対密度(%)を算出する方法がある。本実施形態においては、(1)の方法を採用した。
【0028】
本実施形態によれば、積層造形用銅粉末あるいは銅合金粉末を、
(1)粉末特性として見掛密度を低下させず、高密度で安定したパウダーベッドを形成するための粗粉量を「JISZ8815:1994 ふるい分け試験方法」で得られる「-63μm+45μm篩粒度(質量%)」で規定し、
(2)流動性に影響する微粉の粒子径をレーザ回折法で規定される「D5(μm)」で規定することで、
高い相対密度(99%以上)の積層造形体を得られるためのパウダーベッドを安定して形成することができた。
【0029】
[第2実施形態]
第2実施形態の積層造形用金属粉末として、ニッケル合金粉末(ニッケルを主成分の元素とする合金粉末)について説明する。
【0030】
本実施形態のニッケル合金粉末は、50.88質量%の添加元素N(元素Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Nb,およびMoの少なくとも1つの元素)を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物である。
【0031】
添加元素Nは、ニッケル合金粉末の特性、積層造形時の特性、積層造形体の特性(機械的特性、物理的特性)を改善するために添加される。しかしながら、本実施形態においては、パウダーベッドが安定して生成されて積層造形体の相対密度が99%以上に安定するニッケル合金粉末を特定する条件を見出したものである。したがって、添加元素Nの各元素の添加量の範囲は限定されず、適宜選択が可能である。
【0032】
ニッケル合金粉末の製造方法、ニッケル合金粉末を用いた積層造形体の製造方法、および、相対密度の測定方法は、第1実施形態の銅合金粉末と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0033】
本実施形態によれば、積層造形用ニッケル合金粉末を、
(1)粉末特性として見掛密度を低下させず、高密度で安定したパウダーベッドを形成するための粗粉量を「JISZ8815:1994 ふるい分け試験方法」で得られる「-63μm+45μm篩粒度(質量%)」で規定し、
(2)流動性に影響する微粉の粒子径をレーザ回折法で規定される「D5(μm)」で規定することで、
高い相対密度(99%以上)の積層造形体を得られるためのパウダーベッドを安定して形成することができた。
【0034】
[他の実施形態]
-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、かつ、粒子径D5(μm)が9μm以上との、相対密度99%以上の高密度な積層造形体を得る安定したパウダーベッドを形成する積層造形用金属粉末あるいは積層造形用合金粉末の規定は、上記第1実施形態および第2実施形態で示したような銅、ニッケルその合金に限定されない。-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、かつ、粒子径D5(μm)が9μm以上との規定は、金属の種類やその合金の種類に依存しない敷衍的な規定である。
【実施例1】
【0035】
以下、不可避的不純物のみを含有する金属、あるいは、主成分の元素が異なる合金について、種々の金属および元素の組み合わせにおいて、-63μm+45μm篩粒度(質量%)および粒子径D5(μm)と、パウダーベッドの形成の良否や安定性と、積層造形体の相対密度の安定した高さとの関係について、実験を行った。実験結果を[表1A]~[表2B]に示す。ここで、実施例101~122および比較例101~111は銅粉末あるいは銅合金粉末の実験結果であり、実施例201はニッケル合金粉末の実験結果である。
【0036】
【表1A】
【表1B】
【表2A】
【表2B】
【0037】
[表1A]~[表2B]に示すパウダーベッドの形成良否(○:良、△:不安定、X:不可)は、図2に示すように、積層造形用金属粉末または積層造形用合金粉末を用いてパウダーベッドを形成することで評価している。実施例110(図2の201)においては、均一なパウダーベッドが形成されている(○)。比較例104(図2の202)においては、部分的に粉末のダマが発生し、パウダーベッドが不安定である(△)。比較例109(図2の203)においては、完全にパウダーベッドが形成できず、造形不可である(X)。[表2B]の太枠内は規定範囲外の-63μm+45μm篩粒度(質量%)または粒子径D5(μm)を示している。
【0038】
[表1A]~[表2B]に示す積層造形物の相対密度は、3D粉末積層造形機を用いて積層造形体を作製し、100から積層造形体の断面の気孔率を差し引いた断面面積率として相対密度(%)を算出する方法により求めた。
【0039】
[表1A]~[表2B]に示すように、[表1A]および[表1B](実施例101~122、201)においては、不可避的不純物のみを含有する金属、あるいは、主成分の元素が異なる合金について、種々の金属および元素の組み合わせにおいて、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、かつ、粒子径D5が9μm以上であるため、高密度の安定したパウダーベッドが形成されて、99%以上の相対密度の積層造形体が安定して造形されている。
【0040】
一方、[表2A]および[表2B]においては、不可避的不純物のみを含有する金属、あるいは、主成分の元素が異なる合金について、種々の金属および元素の組み合わせにおいて、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%未満、および/または、粒子径D5が9μm未満であるため、斑のある不安定なパウダーベッドが形成されて、99%以上の相対密度の積層造形体が造形されなかった金属粉末および合金粉末を示している。
【0041】
図3は、[表1A]~[表2B]におけるパウダーベッドの形成良否を、粒子径D5を横軸、-63μm+45μm篩粒度(質量%)を縦軸とするグラフにプロットした図である。図3に示すように、パウダーベッドの形成良否の粉末グループ311~314が、図1と同様に閾値を境に存在する。図4は、図3の粉末グループ311~314に対応する、粒子径D5を横軸とした粉末径分布である。
【0042】
図4において、粒子径D5が9μmより小さく、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上の粉体は、粒度分布が粉末径分布311のようにブロードである。そのため、積層造形装置内で積層造形用金属粉末を保管中に偏析を起こし、積層造形完了まで安定したパウダーベッドの形成ができない。
【0043】
図4において、粒子径D5が9μm以上で、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%より少ない粉体は、粒度分布が粉末径分布312のようにシャープで良好な流動性をもった粉末ではある。しかし、粒径が揃い過ぎることでパウダーベッドの密度が低下し、相対密度の低下につながる。また、アトマイズ法などで作製された粉体では非常に狭い粒度範囲での篩い分けを必要とするので生産性に乏しい。
【0044】
図4において、粒子径D5が9μmより小さく、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%より少ない粉体は、粒度分布が粉末径分布314のように一定のバランスをもった粉体である。しかし、粉体全体が微粉化していることで流動性を損ない、そもそもパウダーベッドが形成できなくなる。
【0045】
このように、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、かつ、レーザ回折法による粒子径D5 (体積分布)が9μm以上に管理された、図4において粒度分布が粉末径分布313の金属粉末を用いることで、高密度(相対密度が99%以上)の積層造形体が安定して得られる。
【実施例2】
【0046】
上記実施例110と比較例102の銅合金粉末を用いて、厚み最大2mm、最小1mmの筒を作製して、0.2MPaの圧縮空気による漏れチェックを行った。図5に、0.2MPaの圧縮空気による漏れチェックの結果を示す。
【0047】
図5に示すように、厚み最大2mm、最小1mmの筒501を作製した。この筒501に圧縮エア0.2MPaをかけて、水中でエア漏れがないか確認した。実施例110の銅合金粉末を用いて積層造形された筒502ではエア漏れがなかった。一方、比較例102の銅合金粉末を用いて積層造形された筒503ではエア漏れが発生した。筒503の相対密度は98%台でオープンポアが生じたため、エア漏れが発生したと思われる。
【要約】
【課題】相対密度99%以上の高密度な積層造形体を得る安定したパウダーベッドを形成すること。
【解決手段】積層造形法により積層造形体を造形するために用いられる積層造形用金属粉末であって、-63μm+45μm篩粒度(質量%)が9%以上、および、粒子径D5が9μm以上である積層造形用金属粉末。この積層造形用金属粉末を用いて、積層造形装置により造形された積層造形体であって、積層造形体の相対密度が99.0%以上であることを特徴とする積層造形体。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5