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特許7576154電磁波吸収熱伝導性材料、及び電磁波吸収熱伝導性筐体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】電磁波吸収熱伝導性材料、及び電磁波吸収熱伝導性筐体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20241023BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241023BHJP
   B64U 50/19 20230101ALN20241023BHJP
   B64U 20/60 20230101ALN20241023BHJP
【FI】
C09K5/14 E ZNM
H05K9/00 M
H05K9/00 U
B64U50/19
B64U20/60
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023502440
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2022007255
(87)【国際公開番号】W WO2022181615
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021028952
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
(72)【発明者】
【氏名】吉井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-251918(JP,A)
【文献】特開2010-155993(JP,A)
【文献】特開2020-178118(JP,A)
【文献】特表2018-507322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
H01F1/12-1/38
H01F1/44
H05K9/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透磁率金属を含む磁性損失層と、
前記磁性損失層の少なくとも一方の主面側に積層された誘電損失層と、
前記磁性損失層と前記誘電損失層との間に介在する接着層と、
を備え、
前記誘電損失層は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブとを含有する、電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項2】
前記高透磁率金属は、ナノ結晶軟磁性合金を含む、請求項1に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項3】
前記ナノ結晶軟磁性合金は、Fe、B、及びSiを含有するFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金を含む、請求項2に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項4】
前記高透磁率金属は、Fe及びNiを含有するFeNi系軟磁性合金と、Fe、B、及びSiを含有するFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金との少なくとも一方を含む、請求項1に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、及び単層カーボンナノチューブの少なくとも一方を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項7】
炭素材料を更に含有する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項8】
前記誘電損失層の厚みは、0.01mm以上30mm以下である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブの含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、0.5質量%以上30質量%以下である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項10】
シート状物である、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項11】
非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波を吸収するために用いられる、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
【請求項12】
電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体と、
前記筐体の内部に取り付けられた、請求項10に記載の電磁波吸収熱伝導性材料と
を備える、電磁波吸収熱伝導性筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収熱伝導性材料、及び電磁波吸収熱伝導性筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の開発が盛んになっている。電気自動車は、駆動力の電動機と、駆動用動力源の二次電池とを備える。二次電池から電動機に供給される電流量は、ますます大きくなる傾向になる。これに伴い、ケーブルを用いたコンダクティブ方式による高速給電の開発、及び非接触式給電方式の開発が急ピッチで進んでいる。
一方で、二次電池の充放電等により、本来電磁波を発生させることのない二次電池等から意図せずに低周波数帯域(すなわち、10kHz~500kHz)の電磁波(以下、「放射ノイズ」ともいう。)が放射されるおそれがある。放射ノイズは、電子機器の正常な動作を妨げるおそれがある。そのため、様々な規制(例えば、CISPR22、CISPR25、IEC61980等)が定められている。
【0003】
特許文献1は、電磁干渉軽減材としての使用に好適な複合物が開示されている。特許文献1に開示の複合物は、損失性ポリマーマトリックスと、セラミックス粒子と、導電性粒子とを含む。セラミックス粒子は、損失性ポリマーマトリックス内に分散されている。導電性粒子は、損失性ポリマーマトリックス内に分散されている。
【0004】
特許文献2は、磁性シートを開示している。特許文献2に記載の磁性シートは、樹脂フィルム上に粘着層を介してFe基金属磁性材料からなる薄板状磁性体を保持してなる。薄板状磁性体の単層の厚みは15μm~35μmである。薄板状磁性体は、周波数500kHzでの交流比透磁率μrが200以上770以下である。
【0005】
特許文献1:特開2019-143149号公報
特許文献2:国際公開2014/157526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車の航続可能距離は、ガソリン自動車の航続可能距離よりも短いおそれがある。そのため、電気自動車の航続可能距離をより長くするために電気自動車の軽量化が進められている。具体的に、従来のような金属筐体から樹脂筐体への切り替えの検討が進められている。しかしながら、樹脂筐体の機械的強度は金属筐体の機械的強度よりも低い傾向にある。更に、前述の電磁波は、樹脂筐体を透過しやすい。そのため、従来の樹脂筐体は、前記規制に適合しないおそれがあった。
【0007】
更に、近年では自動運転のキー技術としてADAS(先進運転支援システム)を支える技術(例えば、外界認識システム)の電気自動車への搭載が進められている。外界認識システムでは、多くの場合、超高周波電磁波(例えば76GHz~78GHz)のレーダー装置が用いられる。レーダー装置は、送信用アンテナから超高周波電磁波を出射し、障害物から反射してきた超高周波電磁波を受信用アンテナで受信することによって、障害物の位置、相対速度、方向などを検知する。金属筐体は、送信用アンテナから出射される超高周波電磁波を完全に反射するおそれがある。その結果、電気自動車が金属筐体(例えば、インバータ、エンブレム、エレクトロニックコントロールユニット、電気自動車用バッテリー)を備える場合、レーダー装置は、障害物の位置などを正確に検知することができないおそれがある。
【0008】
そのため、金属材料に代わる材料として、低周波数帯域(例えば、10kHz~100kHz)の電磁波を遮蔽する機能(主に電気自動車に要求される機能)と、高周波数帯域(例えば76GHz~78GHz)の電磁波を吸収する機能(主に自動運転に要求される機能)とを備える材料の開発が、強く求められている。
【0009】
特許文献1に記載の複合物積層体は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するものの、高周波数帯域の電磁波を十分に吸収することができないおそれがあった。
特許文献2に記載の磁性シートは、高周波数帯域(例えば76GHz)の電磁波を反射させてしまうおそれがあった。樹脂フィルムは電磁波に影響を与えない。すなわち、電磁波、樹脂フィルムを透過する。薄板状磁性体は、低周波数帯域の電磁波をある程度の吸収するものの、高周波数帯域の電磁波を反射させてしまう。薄板状磁性体が高周波数帯域の電磁波を反射するのは、薄板状磁性体の材料が金属であり、薄板状磁性体の表面抵抗が低いためと推測される。
一方、半導体素子のクロック周波数の向上により、放射ノイズが発生するおそれがある。同時に、半導体素子の発熱量が増加し、電子機器の内部の放熱対策が必要とされている。更に、半導体素子の小型化及び高集積化に伴い、電子機器の内部空間の体積は減少している。そのため、例えば、1枚のシートで、半導体素子の放射ノイズ対策及び放熱対策が可能な材料が求められている。
【0010】
本開示の一態様の目的は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収し、かつ良好な熱伝導性を有する電磁波吸収熱伝導性材料、及び電磁波吸収熱伝導性筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 熱可塑性樹脂と、
高透磁率金属と、
カーボンナノチューブと
を含有する、電磁波吸収熱伝導性材料。
<2> 前記高透磁率金属は、ナノ結晶軟磁性合金を含む、前記<1>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<3> 前記ナノ結晶軟磁性合金は、Fe、B、及びSiを含有するFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金を含む、前記<2>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<4> 前記高透磁率金属は、Fe及びNiを含有するFeNi系軟磁性合金と、Fe、B、及びSiを含有するFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金との少なくとも一方を含む、前記<1>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<5> 前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<6> 前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、及び単層カーボンナノチューブの少なくとも一方を含む、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<7> 炭素材料を更に含有する、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<8> 前記高透磁率金属を含む磁性損失層と、
前記磁性損失層の少なくとも一方の主面側に積層された誘電損失層と
を備え、
前記誘電損失層は、前記熱可塑性樹脂、及び前記カーボンナノチューブを含有する、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<9> 前記誘電損失層の厚みは、0.01mm以上30mm以下である、前記<8>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<10> 前記カーボンナノチューブの含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、0.5質量%以上30質量%以下である、前記<8>又は<9>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<11> シート状物である、前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<12> 非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波を吸収するために用いられる、前記<1>~<11>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料。
<13> 電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体と、
前記筐体の内部に取り付けられた、前記<11>に記載の電磁波吸収熱伝導性材料と
を備える、電磁波吸収熱伝導性筐体。
<14> 前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の電磁波吸収熱伝導性材料を成形して得られた電磁波吸収熱伝導性筐体であって、
電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池を収容するために用いられる、電磁波吸収熱伝導性筐体。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収し、かつ良好な熱伝導性を有する電磁波吸収熱伝導性材料、及び電磁波吸収熱伝導性筐体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0014】
(1)電磁波吸収熱伝導性材料
本開示の電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂と、高透磁率金属と、カーボンナノチューブとを含有する。
【0015】
本開示において、「高透磁率金属」とは、透磁率の高い材料であり、外部から小さな磁場を与えられた場合にも、瞬時に大きな磁化を発現する材料を示す。高透磁率金属の比透磁率(μr)は、5000以上である。
【0016】
以下、カーボンナノチューブを「CNT」という場合がある。
【0017】
本開示の電磁波吸収熱伝導性材料は、上記の構成からなるので、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。低周波数帯域は、1Hz~1000kHzを含む。高周波数帯域は、1GHz~100GHzを含む。更に、本開示の電磁波吸収熱伝導性材料は、効率良く熱伝導することができる。
加えて、本開示の電磁波吸収熱伝導性材料は、低周波数帯域の電磁波の電界成分及び磁界成分の各々を損失させることができる。換言すると、本開示の電磁波吸収熱伝導性材料は、低周波数帯域の電磁波の電界成分及び磁界成分の各々のエネルギーを、熱に変換する(吸収する)ことができる。
【0018】
低周波数帯域の電磁波を遮蔽しつつ、高周波数帯域の電磁波を吸収する遮蔽材料の設計思想は以下の通りである。
【0019】
遮蔽材料に電磁波を照射すると、遮蔽材料に入射した電磁波は、反射成分と、導入成分とに分かれる。反射成分は、遮蔽材料に反射して、遮蔽材料の内部に侵入しない電磁波を示す。導入成分は、遮蔽材料に反射されずに、遮蔽材料の内部に導入される電磁波を示す。導入成分は、遮蔽材料内での減衰を経て、遮蔽材料を通過する。
【0020】
以下、導入成分のうち、遮蔽材料内で減衰された電磁波を「吸収成分」という。以下、導入成分のうち、遮蔽材料を通過した電磁波を「透過成分」という。
【0021】
遮蔽率(%)は、下記式(A)で表される。
式(A):遮蔽率(%)=100(%)-透過率(%)=100-[(透過成分の強度/入射成分の強度)×100]
【0022】
遮蔽された電磁波の強度は、反射成分の強度と吸収成分の強度の合計である。
なお、式(A)中、「入射成分の強度」とは、反射成分の強度、吸収成分の強度、及び透過成分の強度の合計を示す。
【0023】
高周波数帯域の電磁波を反射させずに遮蔽材料に吸収させたい場合、第1方法及び第2方法が好適である。
第1方法では、反射成分を抑えるため、遮蔽材料の表面の導電率(インピーダンス)が大気と同等程度であることが望ましい。遮蔽材料の表面の材料として、金属は適さない。
第2方法では、吸収成分の強度を向上させるには、遮蔽材料の材料として、誘電損失、誘電率、磁性損失、及び透磁率が高いものを使用するのが好適である。つまり高周波数帯域の電磁波に対して、遮蔽材料の表面の導電率を下げて、電磁波を遮蔽材料の内部に導入し、損失によって、遮蔽材料の内部で、電磁波を吸収する(すなわち、電磁波のエネルギーを熱に変換する)材料が好適である。
【0024】
一方、低周波数帯域の電磁波を遮蔽材料に遮蔽させたい場合、第3方法又は第4方法が好適である。
第3方法では、遮蔽材料の表面の材料として、金属の様に導電率の極めて大きい材料を用い、電磁波を遮蔽材料の表面で反射させる。
第4方法では、遮蔽材料の材料として、誘電率、誘電損失、透磁率、及び磁性損失が大きい材料を使用する。ただし、第4方法では、吸収成分の強度を示す吸収効果項は、一般に、電磁波の周波数との積で表される。そのため、低周波数帯域の電磁波に対して、吸収成分の強度の向上を過度に期待することはできない。つまり、低周波数帯域の電磁波に対して、遮蔽材料の表面の導電率を上げて電磁波を反射し、かつ磁性損失や誘電によって遮蔽材料の内部で吸収する材料が遮蔽材料の材料として好適である。
【0025】
具体的には、遮蔽材料の表面層としての非金属の誘電損失材又は磁性損失材と、遮蔽材料の内層としての反射用の金属積層体(好ましくは磁性損失の良好な磁性金属又は非晶ナノ金属)とを組み合わせる。これによって、遮蔽材料の表面層が高周波数帯域の電磁波を吸収し、遮蔽材料の内層が低周波数帯域の電磁波の遮蔽(反射+吸収)を担うことになる。内層に磁性金属(例えば、Fe-Ni系軟磁性金属、さらに好ましくは非晶ナノ結晶金属)を使用する理由は、当該金属の磁性損失が低周波数帯域において極めて大きく、電磁波の磁性成分についても吸収を期待できるためである。
更には、表面層と内層とを積層して表面層と内層との界面を作り出すことで、界面における導電率差による多重反射が発生しやすくなり、吸収成分の強度を向上させることも期待できる。
【0026】
(1.1)熱可塑性樹脂
電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂を含有する。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテンコポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー、エチレン-メタクリル酸コポリマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-アクリル酸エチルコポリマー、アイオノマー樹脂、ポリブテン、4-メチルペンテン-1樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、エチレン-スチレンコポリマー、スチレン系樹脂、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンコポリマー、ブロックポリプロピレンコポリマー、又は超高分子量ポリプロピレンを含む。
ポリエチレンは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、又は超高分子量ポリエチレンを含む。
アイオノマー樹脂は、エチレン-メタクリル酸コポリマーアイオノマー樹脂を含む。
スチレン系樹脂は、ポリスチレン、ブタジエン-スチレンコポリマー(HIPS)、アクリロニトリル-スチレンコポリマー(AS樹脂)、又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS樹脂)を含む。
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はポリトリメチレンテレフタレートを含む。
生分解性ポリマーは、ポリ乳酸のようなヒドロキシカルボン酸縮合物、ポリブチレンサクシネートのようなジオールとカルボン酸の縮合物を含む。
【0028】
中でも、熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、低コストでも電磁波吸収熱伝導性材料の機械強度、及び耐熱性を比較的保持しつつ、CNTを適当に分散させることができる。
【0029】
熱可塑性樹脂の含有量は、電磁波吸収熱伝導性材料の総量に対して、機械強度、耐熱性、及び成形性の観点から、好ましくは65.0質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは70.0質量%以上99.5質量%以下、さらに好ましくは80.0質量%以上99.5質量%以下である。
【0030】
(1.2)カーボンナノチューブ
電磁波吸収熱伝導性材料は、CNTを含有する。
【0031】
CNTは、グラフェンシートが単層又は多層の筒状に丸まった形状を有する。
CNTは、単層CNT、及び多層CNTの少なくとも一方を含むことが好ましく、多層CNTを含むことがより好ましい。CNTが、単層CNT、及び多層CNTの少なくとも一方を含むことで、CNTの添加量が少なくても電磁波吸収熱伝導性材料の誘電損失及び導電率を向上させることができる。
CNTが多層CNTを含むことで、単層CNTよりも低粘度の樹脂複合材となるため、電磁波吸収熱伝導性材料の製造プロセスを簡易化できる。更に、多層CNTは、単層CNTよりもコスト的に優れる。更に、多層CNTはコンデンサー的構造をとるため、電磁波の損失に有利であると推察される。
【0032】
CNTの平均直径は、好ましくは7nm~50nm、より好ましくは10nm~50nm、さらに好ましくは20nm~40nmである。CNTの平均直径が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂中におけるCNTの凝集を効果的に抑制することができる。
CNTの平均長さは、好ましくは1000nm~10000nm、より好ましくは2000nm~5000nmである。CNTの平均長さが上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂中におけるCNTの凝集を効果的に抑制することができる。
CNTの平均直径及び平均長さの各々は、例えば、電子顕微鏡を用いた観察において、無作為に抽出した複数(n=10)のCNTの直径及び長さの各々を測定し、これらの算術平均として求められる。
【0033】
CNTの含有量は、電磁波吸収熱伝導性材料の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0034】
CNTは、市販品であってもよい。CNTの市販品としては、Nanocyl社の「NC7000」、シーナノテクノロジー株式会社の「FLOTUBE9000」等が挙げられる。
【0035】
(1.3)高透磁率金属
電磁波吸収熱伝導性材料は、高透磁率金属を含有する。
【0036】
高透磁率金属としては、Fe-Ni系軟磁性金属、ナノ結晶軟磁性合金、インバー(Fe-36Ni)、ス―パーマロイ(Fe-79Ni-5Mo)、パーメンジュール(Fe-49Co-2V)等が挙げられる。
【0037】
高透磁率金属は、ナノ結晶軟磁性合金を含むことが好ましい。ナノ結晶軟磁性合金は、微細な金属結晶によって低周波数帯域においても比較的高い磁性損失を有する。そのために高透磁率金属は、ナノ結晶軟磁性合金を含むことで、低周波数帯域における電磁波遮蔽性を高めることができる。
【0038】
高透磁率金属は、Fe及びNiを含有するFeNi系軟磁性合金と、Fe、B、及びSiを含有するFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金との少なくとも一方を含むことが好ましい。FeNi系軟磁性合金又はFeBSi系ナノ結晶軟磁性合金は、低周波数帯域においても比較的高い磁性損失を有する。そのために、高透磁率金属が、FeNi系軟磁性合金と、FeBSi系ナノ結晶軟磁性合金との少なくとも一方を含むことで、低周波数帯域における電磁波遮蔽性を高めることができる。
【0039】
(1.3.1)ナノ結晶軟磁性合金
ナノ結晶軟磁性合金の材質は、Fe、Si、及びBを含有するFe-Si-B系ナノ結晶軟磁性合金(以下、単に「Fe-Si-B系合金」という。)を含むことが好ましい。
Fe-Si-B系合金は、Fe-B-Si-C系合金、Fe-Cu-Nb-Si-B系合金、Fe-Cu-Nb-Si-B-P系合金、Fe-Cu-Si-B-P系合金、Fe-Cu-Si-B系合金、又はFe-Cu-Mo-Si-B系合金を含む。Fe-Si-B系合金は、他の金属元素としてMn、S、P等の不可避不純物を含んでいてもよい。
Fe-B-Si-Cu系合金は、一般式:Fe100-a-b-cSiCuで表され、a、b及びcは原子%で、7≦a≦20、1≦b≦19、0≦c≦4、75≦100-a-b-c≦85を満足する。
Fe-Cu-Nb-Si-B系合金は、Fe82CuNbSi12を含む。
Fe-Cu-Nb-Si-B-P系合金は、Fe82CuNbSi12を含む。
Fe-Cu-Si-B-P系合金は、Fe80.8Cu1.2Si11を含む。
Fe-Cu-Si-B系合金は、Fe80.5Cu1.5Si14を含む。
Fe-Cu-Mo-Si-B系合金は、Fe80.8Cu1.0Mo0.2Si14を含む。
【0040】
ナノ結晶軟磁性合金は、特定の組成の高温融液を約100万℃/秒で急冷固化したアモルファス合金の一部を後述する熱処理によって結晶化させたものであることが好ましい。「結晶化」とは、少なくとも数百nm~1μmの結晶粒を含む結晶を晶出させる処理である。結晶化は、ナノ結晶化とは異なる。「ナノ結晶化」とは、アモルファス母相中に100nm以下のナノスケールの結晶粒を晶出させる処理を示す。
【0041】
詳しくは、ナノ結晶軟磁性合金は、以下のようにして製造されたものであることが好ましい。
まず、特定の組成になるように秤量した素原料を溶解する。素原料を溶解する方法としては、高周波誘導溶解等が挙げられる。
素原料の溶解物を、急冷法によって、アモルファス合金の薄帯とする。急冷法としては、ノズルを介して高速で回転する冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固させる単ロール、又は双ロールを用いる方法等が挙げられる。アモルファス合金の薄帯の板厚は、好ましくは15μm~35μmである。
Cuは、ナノ結晶軟磁性合金に含まなくても構わないが、溶湯と冷却ロール表面との濡れ性を向上させる観点から、Cuの含有量は、ナノ結晶軟磁性合金の総量に対して、好ましくは0.5原子%以上、作製する薄帯の厚みに応じて、より好ましくは4原子%以下である。
アモルファス合金の組織の少なくとも一部を結晶化させるには、アモルファス合金に熱処理を施すことが好ましい。熱処理は、例えば、430℃を超える温度で行う。結晶化温度Tkを超える温度での熱処理では、FeBの化合物相が析出して保磁力Hcが著しく増加する。そのため、熱処理は結晶化温度Tk未満でFeBの化合物相が晶出されにくく、晶出されたとしても少量である条件が好ましい。具体的には、熱処理は、結晶化温度Tkよりも十分に低い、Tk-60℃以下の温度で行うのがより好ましい。
【0042】
熱処理において、温度とともに保持時間も重要である。結晶化の際にα-FeにSiを十分に固溶させるには、保持時間は20分以上であることが好ましい。保持時間を180分より長くするとFeBが晶出する場合がある。保持時間は、好ましくは20分~180分である。熱処理雰囲気は、大気雰囲気、不活性雰囲気等が挙げられ、ナノ結晶軟磁性合金の酸化を防止する観点から、不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気を構成する不活性ガスとしては、アルゴン、窒素ガス等が挙げられる。
【0043】
ナノ結晶軟磁性合金は、市販品であってもよい。Fe-Cu-Nb-Si-B系合金の市販品としては、日立金属株式会社製のファインメット(登録商標)「FT-3M」、「FT-3H」、「FT-3L」、「FT-3S」等が挙げられる。
【0044】
(1.3.2)Fe-Ni系軟磁性金属
Fe-Ni系軟磁性金属の材質は、Fe、Niを含有するFe-Ni系軟磁性合金(以下、「Fe-Ni系合金」という。)を含むことが好ましい。Fe-Ni系合金は、一般式Fe100-aNiで表され、他の金属元素としてMn、S、P等の不可避不純物、Mo,Cu等の意図的添加物を含んでいてもよい。aは透磁率の関係上、48≦a≦81が望ましい。
Fe-Ni合金は、市販品であってもよい。Fe-Ni系合金の市販品としては、大同特殊鋼株式会社製のパーマロイ(登録商標)「MEMPC-1」、「MEMPC-2」、「MEMPC-2S」、「MEMPB-S」等が挙げられる。
【0045】
高透磁率金属の含有量は、電磁波吸収熱伝導性材料の総量に対して、磁波吸収性及び機械強度の観点から、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0046】
(1.4)炭素材料
電磁波吸収熱伝導性材料は、炭素材料を更に含有することが好ましい。これにより、炭素材料の添加量が少なくても誘電損失及び導電率を向上させることができるとともに、電磁波吸収熱伝導性材料の機械的強度を向上させることができる。
【0047】
本開示において、「炭素材料」とは、炭素を主成分とする材料のうち、カーボンナノチューブを除いた材料を示す。「炭素を主成分とする」とは、炭素の含有量が炭素材料の総量に対して、60質量%以上、好ましくは70%質量以上、より好ましくは80%質量以上、さらに好ましくは85%質量以上、特に好ましくは90%質量以上、一層好ましくは95質量%以上、より一層好ましくは99%質量以上である。
【0048】
炭素材料としては、カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンマイクロコイル、グラフェン等が挙げられる。
電磁波吸収熱伝導性材料が炭素材料を含有する場合、炭素材料の含有量は、電磁波吸収熱伝導性材料の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0049】
(1.5)添加剤等
電磁波吸収熱伝導性材料は、軟磁性材料、金属酸化物、及び添加剤の少なくとも一方を含有してもよい。
軟磁性材料としては、金属系軟磁性材料、スピネル系フェライト、ガーネット系フェライト、六方晶系フェライト等が挙げられる。金属系軟磁性材料としては、例えば、アモルファス合金、電磁鋼板、カーボニル鉄等が挙げられる。スピネル系フェライトとしては、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト等が挙げられる。六方晶系フェライトとしては、マグネトプランバイト型フェライト、フェロックスプラナ型フェライト等が挙げられる。
金属酸化物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。
添加剤としては、分散剤、表面改質剤、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、金属不活性剤、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。
分散剤としては、低立体規則性ポリオレフィン、変性ポリオレフィン等が挙げられる。
表面改質剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等が挙げられる。
低立体規則性ポリオレフィンは、市販品であってもよい。低立体規則性ポリオレフィンの市販品としては、出光興産株式会社製の「エルモーデュ S400」、「エルモーデュ S410」、「エルモーデュ S600」、「エルモーデュ S901」等が挙げられる。
これら軟磁性材料等の形状は特に限定されず、例えば、球状、扁平状、ファイバー状等であってもよい。添加剤等の各々の配合割合は、本開示の効果を阻害しない範囲で、適宜調整すればよい。
【0050】
(1.6)電磁波吸収熱伝導性材料の構成
電磁波吸収熱伝導性材料の構成は、単層構成であってもよいし、多層構成であってもよい。
単層構成は、電磁波吸収熱伝導性材料自体の成形体を示す。
多層構成は、磁性損失層と、誘電損失層とを備える。磁性損失層及び誘電損失層の各々は、電磁波吸収熱伝導性材料の成分で構成される。多層構成は、シート状物である。
【0051】
以下、電磁波吸収熱伝導性材料の多層構成を「電磁波吸収熱伝導性積層シート」という。以下、電磁波吸収熱伝導性材料の単層構成を「電磁波吸収熱伝導性成形体」という。
【0052】
以下、電磁波吸収熱伝導性積層シート、及び電磁波吸収熱伝導性成形体をこの順で説明する。
【0053】
(1.7)電磁波吸収熱伝導性積層シート
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、磁性損失層と、誘電損失層とを備える。誘電損失層は、磁性損失層の少なくとも一方の主面側に積層されている。磁性損失層は、高透磁率金属を含む。誘電損失層は、熱可塑性樹脂、及びCNTを含有する。
【0054】
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、上記の構成からなるので、低周波数帯域の電磁波を除去することができるとともに、効率良く熱伝導することができる。電磁波吸収熱伝導性積層シートは、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
【0055】
電磁波吸収熱伝導性積層シートの構成は、特に限定されず、2層構成、3層構成、又は5層構成であってもよい。
誘電損失層は、粘着性を有していてもよい。換言すると、誘電損失層は、ゲル状の柔らかい固体であり、流動性と、凝集力とを有してもよい。「流動性」とは、被着体に接触し、濡れていく液体の性質を示す。「凝集力」とは、被着体からの剥離に抵抗する固体の性質を示す。
2層構成では、誘電損失層は、磁性損失層の一方の主面に直接的に積層されている。
3層構成は、第1の3層構成又は第2の3層構成を含む。第1の3層構成では、一方の誘電損失層は磁性損失層の一方の主面に直接的に積層され、他方の誘電損失層は磁性損失層の他方の主面に直接的に積層されている。第2の3層構成では、誘電損失層は、磁性損失層の一方の主面側に接着層を介して積層されている。接着層は、公知の接着層の塗布物である。これにより、電磁波吸収熱伝導性積層シートのどちらの主面に電磁波が照射されても本開示の発明の効果を発揮することができる。
第5層構成では、一方の誘電損失層は磁性損失層の一方の主面側に接着層を介して積層され、他方の誘電損失層は磁性損失層の他方の主面側に接着層を介して積層されている。
電磁波吸収熱伝導性積層シートのサイズは、特に限定されず、電磁波吸収熱伝導性積層シートの用途等に応じて適宜選択される。
【0056】
(1.7.1)誘電損失層
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、誘電損失層を備える。
誘電損失層は、熱可塑性樹脂、及びCNTを含有する。
CNTの比誘電率の虚部は、低周波数帯域において高い。CNTの誘電率の虚部は、誘電損失(ε")を示す。そのため、CNTは、低周波数帯域の電磁波の電界成分の電気的エネルギーを、熱に変換する。その結果、誘電損失層は、低周波数帯域の電磁波の電界成分を損失させることができる。
更に、CNTは、優れた熱伝導性を有する。そのため、誘電損失層は、効率良く熱伝導する。
【0057】
誘電損失層の厚みは、電磁波吸収熱伝導性積層シートの用途等に応じて適宜選択される。
誘電損失層の厚みについて、誘電損失層の誘電損失と、誘電損失層の熱伝導性とは、トレードオフの関係にある。詳しくは、誘電損失層の厚みが厚ければ厚いほど、誘電損失層の誘電損失は向上し、誘電損失層の熱伝導性は低下する。一方、誘電損失層の厚みが薄ければ薄いほど、誘電損失層の誘電損失は低下し、誘電損失層の熱伝導性は向上する。
電磁波吸収熱伝導性積層シートがTIM(Thermal Interface Material)に用いられる場合、誘電損失層の厚みは、好ましくは0.01mm以上30mm以下、より好ましくは0.05mm以上20mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上10mm以下である。誘電損失層の厚みが上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、放射ノイズ対策及び放熱対策を両立することができる。
電磁波吸収熱伝導性積層シートが主として放射ノイズ対策に用いられる場合、誘電損失層の厚みは、好ましくは0.01mm以上30mm以下、より好ましくは0.05mm以上20mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上10mm以下である。誘電損失層の厚みが上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、低周波数帯域の放射ノイズをより除去することができる。
【0058】
(1.7.1.1)カーボンナノチューブ
誘電損失層は、CNTを含有する。
【0059】
CNTは、誘電損失層の内部に分散されていることが好ましい。換言すると、CNTは、誘電損失層の内部において、凝集していないことが好ましい。
これにより、誘電損失層は、より効率良く熱伝導することができる。更に、分散されたCNTは、CNTが凝集する場合よりも、電波に対する渦電流の起電力が小さくなりにくい。その結果、分散されたCNTは、より効率良く、電波を熱に変換することができる。つまり、誘電損失層は、より効率良く、電波を熱に変換することができる。
CNTを熱可塑性樹脂中に分散させる方法は、特に限定されず、物理的分散法、化学的分散法等が挙げられる。物理的分散法は、上述した分散剤を用いる方法である。化学的分散法は、CNTの表面に官能基を導入する方法である。詳しくは、化学的分散法は、上述した表面改質剤を用いる方法である。
【0060】
CNTの含有量は、誘電損失層の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
CNTの含有量が上記範囲内であれば、誘電損失層は、十分な機械的強度を有する。
CNTの含有量が少ないと、誘電損失層は、誘電体として振る舞う傾向にあり、複合材として誘電損失層の原料の粘度が大きくなりにくく、誘電損失層の原料を成形しやすい。一方で、CNTの含有量が多いと、CNTのパーコレーションネットワークによって、誘電損失層は、金属として振る舞う傾向にあることに加え、効率良く電波を熱に変換することができる。CNTの含有量が上記範囲内であれば、誘電損失層は、金属として振る舞う場合よりも、放射ノイズを反射しにくく、放射ノイズを除去することができる。
【0061】
(1.7.1.2)熱可塑性樹脂
誘電損失層は、熱可塑性樹脂を含有する。
熱可塑性樹脂は、電磁波吸収熱伝導性積層シートにおいて、CNTのバインダーとして機能する。
更に、熱可塑性樹脂は、電気的絶縁性を有する。特にCNTが誘電損失層の内部に分散されている場合において、CNTは、低周波帯域の放射ノイズに対して容易に分極しやすい。その結果、誘電損失層は、低周波数帯域の放射ノイズを除去しやすくなる。
誘電損失層は、熱可塑性樹脂を含有するので、誘電損失層は、粘着性、及び可撓性を有する。そのため、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、接着層を介在しなくとも、配置箇所に貼付され得る。更に、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、容易に変形可能で、配置箇所が複雑な形状を有していても容易に配置され得る。
熱可塑性樹脂は、機械強度、耐熱性、及び射出成形性の観点から、ポリプロピレン、及びポリアミドの少なくとも一方を含むことが好ましく、誘電損失層をシート状物に成形する際にシート状物への延伸性の観点から、ポリプロピレンを含むことがより好ましい。
【0062】
熱可塑性樹脂の含有量は、誘電損失層の総量に対して、機械強度、耐熱性、及び成形性の観点から、好ましくは65.0質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは70.0質量%以上99.5質量%以下、さらに好ましくは80.0質量%以上99.5質量%以下である。
【0063】
(1.7.1.3)添加剤等
誘電損失層は、炭素材料、軟磁性材料、金属酸化物、及び添加剤の少なくとも一方を含有してもよい。
誘電損失層が炭素材料を含有することで、誘電損失層の機械的強度を向上させることができる。
誘電損失層が軟磁性材料を含有することで、例えば、誘電損失層は、低周波数帯域よりも高い周波数の放射ノイズの磁性成分をより除去することができる。
炭素材料、軟磁性材料、金属酸化物及び添加剤の各々の含有量は、誘電損失層の総量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0064】
(1.7.2)磁性損失層
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、磁性損失層を備える。
磁性損失層は、高透磁率金属を含有し、Ni系軟磁性合金又はナノ結晶軟磁性合金を含有することが好ましい。
高透磁率金属(例えば、Ni系軟磁性合金又はナノ結晶軟磁性合金)の比透磁率の虚部は、低周波数帯域において高い。高透磁率金属(例えば、Ni系軟磁性合金又はナノ結晶軟磁性合金)の比透磁率の虚部は、磁性損失(μ")を示す。そのため、高透磁率金属(例えば、Ni系軟磁性合金又はナノ結晶軟磁性合金)は、低周波数帯域の電磁波の磁界成分の磁気エネルギーを、熱に変換する。その結果、磁性損失層は、低周波数帯域の電磁波の磁界成分を損失させることができる。
高透磁率金属(例えば、Ni系軟磁性合金又はナノ結晶軟磁性合金)は、優れた熱伝導性を有する。そのため、磁性損失層は、熱伝導しやすい。更に、軟磁性金属は透磁性が高い金属であるためにそもそもの導電率が高く反射率が良い。そのため、磁性損失層は、吸収しきれなかった低周波数帯域の電磁波でも遮蔽することができる。
【0065】
磁性損失層は、薄帯層であってもよいし、樹脂層であってもよい。
薄帯層は、高透磁率金属の薄帯を含み、Fe-Ni系軟磁性合金の薄帯又はナノ結晶軟磁性合金の薄帯を含むことが好ましい。
樹脂層は、複数の高透磁率金属の粒子と、樹脂とからなり、複数のFe-Ni系軟磁性合金の粒子又は複数のナノ結晶軟磁性合金の粒子と、樹脂とからなることが好ましい。複数の高透磁率金属の粒子(例えば、複数のFe-Ni系軟磁性合金の粒子又は複数のナノ結晶軟磁性合金の粒子)は、樹脂中に分散されていてもよい。
薄帯層は、単層構成であってもよいし、多層構成であってもよい。単層構成では、薄帯層は、1枚の高透磁率金属の薄帯からなり、1枚のFe-Ni系軟磁性合金の薄帯、又は1枚のナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなることが好ましい。多層構成では、薄帯層は、複数の高透磁率金属の薄帯と、接着層とからなり、複数のFe-Ni系軟磁性合金の薄帯又は複数のナノ結晶性合金の薄帯と、接着層とからなることが好ましい。接着層は、隣接する高透磁率金属の薄帯の間、又は隣接するナノ結晶性合金の薄帯の間(例えば、隣接するFe-Ni系軟磁性合金の薄帯の間、又は隣接するナノ結晶軟磁性合金の薄帯の間)に介在している。
樹脂層を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、誘電損失層を構成する熱可塑性樹脂として例示した材質と同様の材質が挙げられる。樹脂層を構成する熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ゴム等が挙げられる。
【0066】
磁性損失層の厚みは、磁性損失層の材質等に応じて適宜選択される。
薄帯層の厚みは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.02mm以上0.5mm以下である。
樹脂層の厚みは、好ましくは0.01mm以上30mm以下、より好ましくは0.05mm以上20mm以下である。
【0067】
(1.7.3)電磁波吸収熱伝導性積層シートの用途
電磁波吸収熱伝導性積層シートの用途としては、第1用途、第2用途、第3用途等は挙げられる。
第1用途は、放射ノイズ対策を兼ねたTIMとしての使用を示す。
第2用途は、非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波の吸収を示す。
第3用途は、電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体の内部の電磁波の吸収を示す。
【0068】
「無人航空機」とは、航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船などであって、構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦によって飛行させることができるものを示す。
【0069】
以下、「電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体」を「電子機器等の筐体」という。
【0070】
以下、電磁波吸収熱伝導性積層シートの第1用途、第2用途、及び第3用途をこの順で説明する。
【0071】
(1.7.3.1)第1用途
第1用途では、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、放射ノイズ対策を兼ねたTIMとして用いられる。
第1用途では、例えば、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、CPUとヒートシンクとの間に配置される。ヒートシンクは、水冷式ヒートシンク、又は空冷式ヒートシンクを含む。CPUは、作動すると、発熱する。CPUの作動時の温度は、例えば、40℃~80℃である。更に、CPUは、作動すると、放射ノイズを放射するおそれがある。
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、CPUの熱をヒートシンクに効率良く逃がす。更に、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、従来の熱伝導性積層シートとは異なり、CPUの作動に起因する低周波数帯域の放射ノイズを除外することができる。
【0072】
(1.7.3.2)第2用途
第2用途では、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波の吸収に用いられる。
非接触給電装置は、公知の構成である。非接触給電装置は、送電装置と、受電装置とを備える。受電装置は、非接触で、送電装置から電力伝送される。送電装置は、送電コイル、及び第1筐体を有する。第1筐体は、送電コイルを収容する。受電装置は、受電コイル、及び第2筐体を有する。受電コイルは、送電装置からの電力を受電する。第2筐体は、受電コイルを収容する。非接触給電装置の給電方式は、特に限定されず、電磁誘電式、磁界共鳴式等が挙げられる。
本開示において、「非接触給電装置から漏洩する電磁波」とは、第1筐体及び第2筐体の少なくとも一方から漏洩する電磁波を示す。
非接触給電装置は、例えば、電動車両に用いられる。この場合、送電装置は定置され、受電装置は、電動車両に搭載される。
非接触給電装置に含まれる第1筐体及び第2筐体の各々の材質が金属であっても、電磁波の周波数等によっては、電磁波は非接触給電装置から漏洩する場合がある。
第2用途では、例えば、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、第1筐体及び第2筐体の各々の外周面の少なくとも一部に取り付けられる。例えば、第1筐体及び第2筐体が開口部を有する場合、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、開口部を覆うよう第1筐体及び第2筐体に取り付けられる。
電磁波吸収熱伝導性積層シートは、非接触給電に起因する低周波数帯域の放射ノイズを除去することができる。
【0073】
電動車両は、電動四輪車、又は電動二輪車を含む。電動四輪車は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug‐in Hybrid Electric Vehicle)、又はハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)を含む。電動二輪車は、電動バイク、又は電動アシスト自転車を含む。
【0074】
(1.7.3.3)第3用途
第3用途では、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、電子機器等の筐体の内部の電磁波の吸収に用いられる。
電子機器等の筐体の材質が金属である場合、電子機器等の筐体の内部の放射ノイズは、電子機器等の筐体に当たると、筐体の表面に発生する渦電流によって反射されやすい。
以下、電子機器等の筐体の材質が金属である筐体を「金属筐体」という場合がある。
これにより、金属筐体は、金属筐体の内部の放射ノイズのノイズエミッションを抑制することができる。更に、金属筐体は、金属筐体の外部からの放射ノイズに対する耐性(イミュニティ)を有する。
しかしながら、金属筐体は、放射ノイズに対する渦電流の発生により、放射ノイズを除去することができない。
第3用途では、例えば、電磁波吸収熱伝導性積層シートは、金属筐体の内周壁の少なくとも一部に取り付けられる。電磁波吸収熱伝導性積層シートは、金属筐体の内部の低周波数帯域の放射ノイズを除去することができるとともに、高周波数帯域の放射ノイズを吸収することができる
【0075】
電子機器としては、特に限定されず、例えば、電動車両のモータ駆動用電力変換装置、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、携帯電話機、スマートフォン、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、電子ゲーム機器、医療機器、テレビ等が挙げられる。
電動車両のモータ駆動用電力変換装置は、電動機を駆動する。電動車両のモータ駆動用電力変換装置は、順変換器(コンバーター)と、逆変換器(インバーター)とを有する。順変換器は、交流電源を直流に変換する。逆変換器は、直流電流を可変電圧及び可変周波数に変換する。逆変換器に含まれるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子のオンオフ動作(スイッチング)は、ノイズ発生源となりやすい。
エレクトロニックコントロールユニットは、マイクロコンピュータを主要構成部品とする電子制御回路である。マイクロコンピュータは、CPU、RAM(Random access memory)、ROM(Read Only Memory)、不揮発性メモリ、及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。例えば、電動車両用エレクトロニックコントロールユニットでは、CPUは、電動車両の走行又は動作全般を制御する。
無人航空機としては、ヘリコプター、回転翼を複数有するマルチコプター(すなわち、ドローン)、HAPS(成層圏プラットフォーム;High Altitude Platform Station)用高高度ドローン無人機等が挙げられる。
二次電池としては、リチウムイオン電池、鉛電池、ニッケルカドウム電池、ニッケル水素電池等が挙げられる。
【0076】
上記第1用途~第3用途の中でも、特に高周波電磁波の反射を抑え、吸収し、かつ低周波電磁波を遮蔽することから、ADAS(自動運転システム)の干渉を抑えるために、電動四輪車内外の各部品に貼り付けて使用されることが想定される。
【0077】
(1.8)電磁波吸収熱伝導性成形体
電磁波吸収熱伝導性成形体は、電磁波吸収熱伝導性材料からなる成形体である。
【0078】
電磁波吸収熱伝導性成形体は、上記の構成からなるので、低周波数帯域の電磁波を除去することができるとともに、効率良く熱伝導することができる。更に、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
【0079】
電磁波吸収熱伝導性成形体の形態は、電磁波吸収熱伝導性成形体の用途等に応じて適宜選択される。電磁波吸収熱伝導性成形体の形態としては、シート状物、三次元状物等が挙げられる。三次元状物は、電子機器等の筐体、ピラミッド形状、ウェッジ形状を含む。
電磁波吸収熱伝導性成形体が電子機器等の筐体である構成については、第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体として後述する。
【0080】
電磁波吸収熱伝導性成形体の厚みは、電磁波吸収熱伝導性成形体の用途等に応じて適宜選択される。電磁波吸収熱伝導性成形体の誘電損失と、電磁波吸収熱伝導性成形体の熱伝導性とは、電磁波吸収熱伝導性積層シートの誘電損失層と同様に、トレードオフの関係にある。
電磁波吸収熱伝導性成形体がTIMに用いられる場合、電磁波吸収熱伝導性成形体の厚みは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.02mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.05mm以上0.5mm以下である。電磁波吸収熱伝導性成形体の厚みが上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性成形体は、放射ノイズ対策と熱対策とを両立することができる。
電磁波吸収熱伝導性成形体が主として放射ノイズ対策に用いられる場合、電磁波吸収熱伝導性成形体の厚みは、好ましくは0.01mm以上30mm以下、より好ましくは0.05mm以上20mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上10mm以下である。電磁波吸収熱伝導性成形体の厚みが上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の放射ノイズをより除去することができるとともに、高周波数帯域の放射ノイズを吸収することができる。
【0081】
(1.8.1)カーボンナノチューブ
電磁波吸収熱伝導性成形体は、CNTを含有する。
これにより、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の電磁波の電界成分を損失させることができる。
【0082】
CNTは、電磁波吸収熱伝導性成形体の内部に分散されていることが好ましい。換言すると、CNTは、電磁波吸収熱伝導性成形体の内部において、凝集していないことが好ましい。
これにより、電磁波吸収熱伝導性成形体は、より効率良く熱伝導することができる。更に、分散されたCNTは、CNTが凝集する場合よりも、電波に対する渦電流の起電力が小さくなりにくい。その結果、分散されたCNTは、より効率良く、電波を熱に変換することができる。つまり、電磁波吸収熱伝導性成形体は、より効率良く、電波を熱に変換することができる。
CNTを電磁波吸収熱伝導性成形体中に分散させる方法は、特に限定されず、物理的分散法、化学的分散法等が挙げられる。
【0083】
CNTの含有量は、電磁波吸収熱伝導性成形体の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
CNTの含有量が上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性成形体は、十分な機械的強度を有する。
CNTの含有量が少ないと、電磁波吸収熱伝導性成形体は、誘電体として振る舞う傾向にあり、複合材として電磁波吸収熱伝導性成形体の原料の粘度が大きくなりにくく、電磁波吸収熱伝導性成形体の原料を成形しやすい。一方で、CNTの含有量が多いと、CNTのパーコレーションネットワークによって、電磁波吸収熱伝導性成形体は、比較的に金属として振る舞う傾向にあることに加え、効率良く電波を熱に変換することができる。CNTの含有量が上記範囲内であれば、電磁波吸収熱伝導性成形体は、金属として振る舞う場合よりも、放射ノイズを反射しにくく、放射ノイズを除去することができる。ただし、電磁波吸収熱伝導性成形体は、金属として振る舞うといっても金属程には表面抵抗率が下がらないため、電磁波を強く反射することはなく、吸収を効率的に行うことができることが特徴である。
【0084】
(1.8.2)熱可塑性樹脂
電磁波吸収熱伝導性成形体は、熱可塑性樹脂を含有する。
熱可塑性樹脂は、電磁波吸収熱伝導性成形体において、CNT、及び高透磁率金属のバインダーとして機能する。
更に、熱可塑性樹脂は、電気的絶縁性を有する。特にCNTが電磁波吸収熱伝導性成形体の内部に分散されている場合において、CNTは、低周波帯域の放射ノイズに対して容易に分極しやすい。その結果、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の放射ノイズを除去しやすくなる。
電磁波吸収熱伝導性成形体は、熱可塑性樹脂を含有するので、電磁波吸収熱伝導性成形体の成形性は、電磁波吸収熱伝導性成形体が熱硬化性樹脂を含有する場合よりも優れる。
【0085】
なかでも、熱可塑性樹脂は、機械強度、耐熱性、及び射出成形性の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、及びポリアミドの少なくとも一方を含むことが好ましく、電磁波吸収熱伝導性成形体をシート状物に成形する際にシート状物への延伸性の観点から、ポリプロピレン又はポリエチレンを含むことがより好ましい。
【0086】
熱可塑性樹脂の含有量は、電磁波吸収熱伝導性成形体の総量に対して、機械強度、耐熱性、及び成形性の観点から、好ましくは65.0質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは70質量%以上99.5質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.5質量%以下である。
【0087】
(1.8.3)高透磁率金属
電磁波吸収熱伝導性成形体は、高透磁率金属を含有する。
これにより、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の電磁波の磁界成分を損失させることができる。さらに、電磁波吸収熱伝導性成形体は、損失できなかった電磁波を反射によって遮蔽できる。つまり、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
【0088】
高透磁率金属の形態は、粒子状であることが好ましい。高透磁率金属に含まれる粒子状のナノ結晶軟磁性合金は、例えば、上述した薄帯を公知の方法で粉砕することで得られる。
粒子状の高透磁率金属の形状は、特に限定されず、例えば、球状、扁平状、ファイバー状等であってもよい。
【0089】
高透磁率金属の材質は、電磁波吸収熱伝導性積層シートの高透磁率金属の材質として例示した材質と同様の材質が挙げられる。
【0090】
高透磁率金属の含有量は、電磁波吸収熱伝導性成形体の総量に対して、磁波吸収性及び機械強度の観点から、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0091】
(1.8.4)添加剤等
電磁波吸収熱伝導性成形体は、炭素材料、軟磁性材料、金属酸化物及び添加剤の少なくとも一方を含有してもよい。
電磁波吸収熱伝導性成形体が炭素材料を含有することで、電磁波吸収熱伝導性成形体の機械的強度を向上させることができる。
電磁波吸収熱伝導性成形体が軟磁性材料を含有することで、例えば、電磁波吸収熱伝導性成形体は、低周波数帯域よりも高い周波数の放射ノイズの磁性成分をより除去することができる。
炭素材料、軟磁性材料、金属酸化物及び添加剤の各々の含有量は、電磁波吸収熱伝導性成形体の総量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0092】
(1.8.5)電磁波吸収熱伝導性成形体の用途
電磁波吸収熱伝導性成形体の用途は、電磁波吸収熱伝導性成形体の形態等に応じて適宜選択される。電磁波吸収熱伝導性成形体の形態がシート状物である場合、電磁波吸収熱伝導性成形体の用途としては、電磁波吸収熱伝導性積層シートとして例示した用途と同様の用途が挙げられる。
電磁波吸収熱伝導性成形体の形態が電子機器等の筐体である場合、電磁波吸収熱伝導性成形体は、電子機器等の筐体として用いられる。
【0093】
(2)第1実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体
本開示の第1実施形態に係る電磁波吸収熱伝導性筐体は、電子機器等の筐体と、本開示の電磁波吸収熱伝導性積層シートとを備える。電磁波吸収熱伝導性積層シートは、筐体の内部に取り付けられている。
【0094】
本開示の電磁波吸収熱伝導性筐体は、上記の構成からなるので、電子機器等の筐体の内部の放射ノイズを除去することができる。
【0095】
電子機器等の筐体は、公知の筐体である。
電子機器等の筐体は、電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池を収容するために成形されている。
電子機器等の筐体の材質は、金属であってもよいし、樹脂であってもよい。
以下、電子機器等の筐体の材質が樹脂である場合、電子機器等の筐体を「樹脂筐体」という。
本開示の電磁波吸収熱伝導性筐体は、電磁波吸収熱伝導性積層シートを備えるので、電子機器等の金属筐体の内部の放射ノイズを除去することができる。更に、本開示の電磁波吸収熱伝導性筐体は、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
樹脂筐体の重量は、金属筐体よりも軽い。一方で、一般に、樹脂は、電磁波に対して透明である。換言すると、一般に、樹脂筐体は、樹脂筐体の内部の放射ノイズを遮蔽できない。本開示の電磁波吸収熱伝導性筐体は、電磁波吸収熱伝導性積層シートを備えるので、樹脂筐体の内部の放射ノイズを除去することができる。その結果、電磁吸収熱伝導性筐体は、樹脂筐体の内部の放射ノイズのノイズエミッションを抑制することができる。更に、電磁吸収熱伝導性筐体は、樹脂筐体の外部からの放射ノイズに対する耐性(イミュニティ)を有する。更に、電磁吸収熱伝導性筐体は、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
【0096】
金属筐体の材質としては、特に制限されず、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金(ステンレス、真鍮、リン青銅等)等が挙げられる。電子機器等の筐体の材質を構成する金属の材質は、電磁鋼板を含む。
なかでも、熱伝導性の観点からは、金属筐体の材質は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、又は銅合金が好ましく、銅又は銅合金がより好ましい。軽量化及び強度確保の観点からは、金属筐体の材質は、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
金属筐体は、ダイキャスト品であってもよいし、切削加工品であってもよい。
樹脂筐体の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂(エラストマーを含む)、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂(エラストマーを含む)としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重体(ABS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリケトン系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
樹脂筐体は、射出成形品であってもよい。
【0097】
(3)第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体
第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、本開示の電磁波吸収熱伝導性材料を成形して得られた電磁波吸収熱伝導性筐体である。第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池を収容するために用いられる。
【0098】
第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、上記の構成からなるので、電子機器等の筐体の内部の放射ノイズを除去することができる。その結果、第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、筐体の内部の放射ノイズのノイズエミッションを抑制することができる。更に、第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、筐体の外部からの放射ノイズに対する耐性(イミュニティ)を有するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。
更に、第2実施形態に係る電磁吸収熱伝導性筐体は、金属筐体を用いる場合よりも軽い。
【0099】
電磁吸収熱伝導性筐体の形状は、電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池を収容するための公知の形状であればよい。
【実施例
【0100】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0101】
[1]電波吸収熱伝導性材料の作製
[1.1]準備
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
<カーボンナノチューブ>
・多層カーボンナノチューブ:Nanocyl社製の「NC7000」(平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μm、形態:粉末、層構成:多層)
<熱可塑性樹脂>
・ポリプロピレン:株式会社プライムポリマー製の「プライムポリプロ(登録商標) J707G」
・ポリエチレン:株式会社プライムポリマー製の「エボリュー(登録商標) SP2540」
・ポリアミド:東レ株式会社製の「アミラン CM1007」
・SEBS:旭化成株式会社製の「タフテック(登録商標) H1521」
<炭素材料>
・カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製の三菱カーボンブラック「#3400B」(平均粒径:21nm)
・グラフェン:富士フイルム和光純薬株式会社製のグラフェンパウダー「06-0318」(比表面積:700m/g)
<添加剤>
・分散剤:出光興産株式会社製の「エルモーデュ S400」(低立体規則性ポリオレフィン、Mw=45,000、(Mw/Mn)=2、軟化点:93℃)
<酸化防止剤>
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製の「Irganox 1010」、化学式:ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)
・リン系加工安定剤(BASFジャパン株式会社製の「Irgafos 168」、化学式:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルベンゼン)ホスファイト)
<ナノ結晶軟磁性合金>
・非晶金属帯:日立金属株式会社製のファインメット(登録商標)「FT-3M」(成分:Fe-Cu-Nb-Si-B系合金、板厚:18μm)
・軟磁性金属帯:大同特殊鋼株式会社製のパーマロイ(登録商標)「MEMPC-2S」(成分:Fe-Ni系合金、板厚:20μm)
【0102】
[1.2]実施例1
[1.2.1]誘電損失性フィルムの作製
多層カーボンナノチューブ、及び分散剤を、表1に示す含有量の割合で、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製の「FM10C/I」、容量:9L)に投入した。攪拌温度140℃、攪拌時間60分、及びスクリュー回転数1000rpm(revolutions per minute)の条件で、これらを攪拌混合した。これにより、混合粉体を得た。
【0103】
混合粉体、及び熱可塑性樹脂を、表1に示す含有量の割合で、ドライブレンドして、ドライブレンド品を得た。
二軸押出機(東芝機械株式会社製の「TEM-35B」、スクリュー径:35mm、L/D:32、ベント式)を準備した。二軸押出機の出口には、直径3mmのストランド取出し用穴付きのダイスを取り付けられている。
ドライブレンド品を二軸押出機に投入し、混練温度230℃、スクリュー回転数100rpmの条件で、溶融混練した。得られた溶融混練物をダイスから押し出して、ストランド状物を得た。ストランド状物を水槽に入れて冷却して、ストランドカッターでカットした。これにより、ペレットを得た。
【0104】
ペレット(99.6質量%)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(0.2質量%)と、リン系加工安定剤(0.2質量%)とを、混練押出機(株式会社テクノベル製の「KZW-15TW」、スクリュー径:15mmφ)に投入し、混練温度230℃、及びスクリュー回転数100rpmの条件で、混練造粒を行った。これにより、造粒物を得た。
【0105】
得られた造粒物を下記の射出成形機(東芝機械株式会社製)に投入して、金型温度40℃、シリンダー温度230℃の条件で、12cm×13cm×1mmtの金型を用いて射出成形を行い、厚さ1mmtの誘電損失性フィルムを得た。
【0106】
<射出成形機>
・成形機 :芝浦機械株式会社製の「IS-55EPN」
・金型温調機:株式会社松井製作所製の「MCX-200」
【0107】
[1.2.2]電波吸収熱伝導性材料の作製
真空プレス機(関西ロール株式会社製)を用いて、真空雰囲気下、温度210℃、圧力7MPa、圧着時間10分の条件で、誘電損失性フィルムを非晶金属帯の双方の主面に圧着した。圧着時にはウレタン系接着剤(当社製タケラックA-1121/タケネートA-81)を非晶金属帯の双方の主面に薄く塗布した。これにより、電波吸収熱伝導性材料を得た。
【0108】
実施例1の電波吸収熱伝導性材料は、非晶金属帯と、非晶金属帯の双方の主面に積層された誘電損失性フィルムとからなる。つまり、実施例1の電波吸収熱伝導性材料の構成は、3層構成である。
【0109】
[1.3]実施例2~実施例9(実施例4及び実施例7を除く)
多層カーボンナノチューブの含有量、熱可塑性樹脂の種類及び含有量、及び分散剤の含有量を表1に示すように変更したことの他は、実施例1と同様にして、電波吸収熱伝導性材料を得た。
実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、実施例8及び実施例9の電波吸収熱伝導性材料の構成は、実施例1と同様に、3層構成である。
【0110】
[1.4]実施例4
実施例1で得られた造粒物を2軸押出機に投入し、溶融温度230℃、及びスクリュー回転数63rpmの条件で溶融混練した。下記のフィルム製造装置を用いて、得られた溶融混練物をTダイから押出して、フィルム状物を得た。フィルム状物を温水循環槽に入れて冷却して、引取装置で巻き取った。この際、引取装置のロール表面温度は、50℃であった。これにより、厚さ100μmの誘電損失性フィルムを得た。
【0111】
<フィルム製造装置>
・2軸押出機:株式会社東洋精機製作所製の「2D30W2」及び「ラボプラストミル4C150」
・フィーダ :株式会社クボタ計装製のカセットウェイングフィーダ
・Tダイ :株式会社東洋精機製作所製の「T150C」
・引取装置 :株式会社東洋精機製作所製の「FT2W20」
・温水循環槽:アドバンテック東洋株式会社製の「TBT220DA」
【0112】
得られた誘電損失性フィルムを実施例1と同じように真空プレスで非晶金属帯の双方の主面に積層することで、電波吸収熱伝導性材料を得た。
【0113】
[1.5]比較例1~比較例4及び比較例6
多層カーボンナノチューブ、ポリプロピレン、及び分散剤の各々の含有量を表2に示す割合に変更したこと、誘電損失性フィルムを非晶金属帯に圧着しなかったことの他は、実施例1と同様にして、電波吸収熱伝導性材料を得た。
つまり、比較例1~比較例4、比較例6の電波吸収熱伝導性材料は、誘電損失性フィルムのみからなる。
【0114】
[1.6]比較例5
比較例5の電波吸収熱伝導性材料は、非晶金属帯のみからなる。
【0115】
[1.7]比較例7
比較例7の電波吸収熱伝導性材料は、軟磁性金属帯のみからなる。
【0116】
[1.8]比較例8
比較例8の電波吸収熱伝導性材料は、タツタ電線株式会社の電磁波遮蔽シート「SFPC-5000」である。ポリイミドを基材とし、その表面にスパッタで銀イオンをスパッタリングしている。
【0117】
[1.9]比較例9及び比較例10
多層カーボンナノチューブの含有量、ポリプロピレンの含有量、カーボンナノチューブの含有量、炭素材料の種類及び含有量、分散剤の含有量を表2に示すように変更したことの他は、比較例1と同様にして、電波吸収熱伝導性材料を得た。
【0118】
[2]測定
[2.1]誘電正接Dεの測定
得られた電波吸収熱伝導性材料の誘電損失を、以下のようにして、誘電正接Dεを用いて定量的に評価した。誘電正接Dεは、(ε″/ε′)又は誘電損失係数tanδで表される。ε″は、比誘電率の虚部を示す。ε′は、比誘電率の実部を示す。誘電損失係数tanδにおけるδは、損失角を示す。誘電正接Dεは、誘電体材料の損失を示す指標として、一般的に用いられている。
【0119】
電波吸収熱伝導性材料の複素誘電率測定試験を下記の第1試験条件で行った。これにより、測定周波数100kHzにおける誘電正接Dεを得た。
測定周波数100kHzにおける誘電正接Dεの測定結果を、表1及び表2に示す。
誘電正接Dεの許容可能な範囲は、0.10以上である。
【0120】
<第1試験条件>
測定装置 :LCRメータ(Agilent社製の「4284A」)
測定周波数:100kHz
試験片寸法:約1mm厚
試料数 :n=1
電極 :錫箔径 主電極φ37mm
測定温度 :室温 23±2℃
【0121】
[2.2]磁気正接Dμの測定
得られた電波吸収熱伝導性材料の磁性損失を、以下のようにして、磁気正接Dμを用いて定量的に評価した。電界の場合と同じように、磁界に対しても磁気正接Dμが重要である。磁気正接Dμは、誘電正接の場合と同じように、(μ″/μ′)又は磁性損失係数tanδで表される。μ″は、比透磁率の虚部を示す。μ′は、比透磁率の実部を示す。磁性損失係数tanδにおけるδは、損失角を示す。磁気正接Dμは、磁性材料の損失の指標として、一般的に用いられている。
【0122】
電波吸収熱伝導性材料の磁波吸収率測定試験を下記の第2試験条件で行った。これにより、測定周波数100kHzにおける磁気正接Dμを得た。
測定周波数100kHzにおける磁気正接Dμの測定結果を、表1及び表2に示す。
磁気正接Dμの許容可能な範囲は、0.15以上である。
【0123】
<第2試験条件>
測定装置 :LCRメータ(Keysight E4980AL20Hz-1MHz)
測定周波数:100kHz
測定温度 :室温 26℃
測定湿度 :60%
【0124】
[2.3]低周波数帯域の電磁波に対する遮蔽性能(dB)の測定
得られた電波吸収熱伝導性材料の低周波数帯域(100kHz~1GHz)の電磁波に対する遮蔽性能(dB)を、KEC法により、定量的に評価した。
「KEC法」とは、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターで開発された近傍界における遮蔽性能を測定する方法を示す。KEC法で定量化された遮蔽性能は、試料を挟んだときの受信強度と、試料を挟まないときの受信強度との差で表される。
【0125】
測定周波数を100kHzに設定したときの測定結果と、測定周波数を10MHzに設定したときの測定結果と、測定周波数を1GHzに設定したときの測定結果とを表1及び表2に示す。
測定周波数を100kHzに設定したときの遮蔽性能の許容可能な範囲は、20dB以上である。
測定周波数を10MHzに設定したときの遮蔽性能の許容可能な範囲は、70dB以上である。
測定周波数を1GHzに設定したときの遮蔽性能の許容可能な範囲は、40dB以上である。
【0126】
[2.4]高周波数帯域の電磁波に対する遮蔽性能、反射性能、吸収性能の測定
得られた電波吸収熱伝導性材料の高周波数帯域(76GHz)の電磁波に対する遮蔽性能、反射性能及び吸収性能を、自由空間法により、定量的に評価した。
上記KEC法では数GHzまでの測定はできるが、より高周波数帯域の電磁波の測定には自由空間法又は共振法が使用される。共振法はサンプルの加工や種類の制約(金属は測定できない)といった制限があるため、自由空間法で測定を行った。
【0127】
[2.4.1]遮蔽性能
電波暗室内において、互いに向かい合った送信アンテナ(S1)と受信アンテナ(2)との間に、電波吸収熱伝導性材料を挟んで固定した。下記の第3試験条件で、送信アンテナ(S1)から高周波数帯域(76GHz)の電磁波を発信させ、受信アンテナ(2)が受信した透過強度(ET1)を測定した(以下、「透過成分測定」という。)。
一方で、送信アンテナ(S1)と受信アンテナ(2)との間に、電波吸収熱伝導性材料を配置しなかったことの他は、上記の透過成分測定と同様にして、透過強度(ET0)を測定した。
自由空間法で定量化された透過率は、電波吸収熱伝導性材料を挟まないときの透過強度(ET0)に対する電波吸収熱伝導性材料を挟んだときの透過強度(ET1)との比(ET1/ET0)(%)(以下、「透過率S21」という。)で表される。
自由空間法で定量化された遮蔽性能は、100%から透過率S21(%)を減算して得られる減算値(%)で表される。
遮蔽性能の測定結果を表1及び表2に示す。
許容可能な遮蔽性能は、90%以上である。
【0128】
(第3試験条件)
ネットワークアナライザ:キーサイトテクノロジー社製の「5290A」
ミリ波コントローラ :キーサイトテクノロジー社製の「N5250CX10」
送受信アンテナ :キーコム社製のミリ波測定用ホーンアンテナ
同軸ケーブル :Gore社製の2.4mmコネクタ・ケーブルアセンブリ
送受信アンテナ間距離 :300mm
測定周波数 :76GHz
【0129】
[2.4.2]反射性能
電波吸収熱伝導性材料に対して送信アンテナ(S1)の配置位置と同じ側に受信アンテナ(1)を更に設置したことの他は、上記の透過成分測定と同様にして、送信アンテナ(S1)から高周波数帯域(76GHz)の電磁波を発信させ、受信アンテナ(1)が受信した反射強度(ER1)を測定した。
自由空間法で定量化された反射性能は、透過強度(ET1)及び反射強度(ER1)の全量に対する反射強度(ER1)の比(ER1/(ET1+ER1))(%)(以下、「反射率11」という。)で表される。
反射性能の測定結果を表1及び表2に示す。
許容可能な反射性能は、50%以下である。
【0130】
[2.4.3]吸収性能
自由空間法で定量化された吸収性能は、透過強度(ET1)から反射強度(ER1)を減算して得られる減算値(%)で表される。
吸収性能の測定結果を表1及び表2に示す。
許容可能な吸収性能は、50%以上である。
【0131】
[2.5]熱伝導率(W/m)の測定
得られた電波吸収熱伝導性材料の熱伝導率(W/m)を、以下のようにして、測定した。なお、実施例1~実施例8では、電波吸収熱伝導性材料の誘電損失層及び磁性損失層の各々の熱伝導率(W/m)を測定した。
【0132】
得られた電波吸収熱伝導性材料の熱伝導率(W/m)を、ASTM E1530に準じた方法で、下記の第4試験条件で分析を行った。
測定結果を表1及び表2に示す。
電波吸収熱伝導性材料の熱伝導率(W/m)の許容可能な範囲は、0.3W/m以上である。
【0133】
<第4試験条件>
試験装置 :アルバック理工社製の「GH-1」
設定温度 :30℃
試料保持用設定空気圧:0.3MPa
試験片形状 :約50mmφ
測定数 :n=1
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】
【0136】
表1及び表2中、電磁吸収熱伝導性材料の項目において、「CNT」は「カーボンナノチューブ」を示し、「PP」は「ポリプロピレン」を示し、「PE」は「ポリエチレン」を示し、「SEBS」は「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」を示し、「PI」はポリイミドを示す。
【0137】
実施例1~実施例8の電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂と、高透磁率金属と、カーボンナノチューブとを含有する。そのため、実施例1~実施例8の電磁波吸収熱伝導性材料では、100kHzの遮蔽性能は25dB超(許容可能な範囲:20dB以上)、10MHzの遮蔽性能は80dB超(許容可能な範囲:70dB以上)、1GHzの遮蔽性能は44dB以上(許容可能な範囲:40dB以上)であった。実施例1~実施例8の電磁波吸収熱伝導性材料では、76GHzの遮蔽性能は99.7%(許容可能な範囲:90%以上)、76GHzの反射性能は40%以下(許容可能な範囲:50%以下)、76GHzの吸収性能は60%以上(許容可能な範囲:50%以上)であった。実施例1~実施例8の電磁波吸収熱伝導性材料の各層の熱伝導率は、0.3W/m以上(許容可能な範囲:0.3W/m以上)であった。
これらの結果、実施例1~実施例8の電磁波吸収熱伝導性材料は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収し、かつ良好な熱伝導性を有することがわかった。
【0138】
一方、比較例1、比較例9及び比較例10の電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂を含有し、高透磁率金属と、カーボンナノチューブとを含有しなかった。そのため、比較例1、比較例9及び比較例10の電磁波吸収熱伝導性材料では、100kHzの遮蔽性能は4dB以下(許容可能な範囲:20dB以上)、10MHzの遮蔽性能は5dB以下(許容可能な範囲:70dB以上)、1GHzの遮蔽性能は4dB以下(許容可能な範囲:40dB以上)であった。
比較例2~比較例4及び比較例6の電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを含有し、高透磁率金属を含有しなかった。そのため、比較例2~比較例4及び比較例6の電磁波吸収熱伝導性材料では、10MHzの遮蔽性能が65dB以下(許容可能な範囲:70dB以上)、1GHzの遮蔽性能が37dB以下(許容可能な範囲:40dB以上)であった。
比較例5及び比較例7の電磁波吸収熱伝導性材料は、高透磁率金属を含有し、熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを含有しなかった。そのため、比較例5及び比較例7の電磁波吸収熱伝導性材料では、76GHzの反射性能は99%以上(許容可能な範囲:50%以下)、76GHzの吸収性能は0.7%(許容可能な範囲:50%以上)であった。
比較例8の電磁波吸収熱伝導性材料は、熱可塑性樹脂及び高透磁率金属を含有し、カーボンナノチューブを含有しなかった。そのため、比較例8の電磁波吸収熱伝導性材料では、76GHzの反射性能は90%(許容可能な範囲:50%以下)、76GHzの吸収性能は9%(許容可能な範囲:50%以上)であった。
これらの結果、比較例1~比較例10の電磁波吸収熱伝導性材料は、低周波数帯域の電磁波を遮蔽するとともに、高周波数帯域の電磁波を吸収し、かつ良好な熱伝導性を有するものではないことがわかった。
【0139】
2021年2月25日に出願された日本国特許出願2021-028952の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。