(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20241023BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20241023BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K5/5313
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2023510975
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012582
(87)【国際公開番号】W WO2022210019
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021057551
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021057558
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧口 航
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-154739(JP,A)
【文献】特開昭53-125497(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040282(WO,A1)
【文献】特開2014-122329(JP,A)
【文献】特表2016-526597(JP,A)
【文献】国際公開第2022/014390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G69/00- 69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であって、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、下記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と
を含む、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%以下のポリアミド樹脂と、
【化1】
(式(1)において、
nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、
-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-および-CH
2-からなる群から選ばれる二価の基である)
難燃剤と、を含み、
前記難燃剤は、
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上40質量%以下の、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、および臭素化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤(X)、または、
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して3質量%以上20質量%以下の、式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを含む難燃剤(Y)、
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上6以下のアルキル基またはアリール基であり、
R
3は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上10以下のアルキレン基、炭素原子数6以上10以下のアリーレン基、炭素原子数6以上10以下のアルキルアリーレン基、または炭素原子数6以上10以下のアリールアルキレン基であり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種の原子または原子団であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。]
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%未満の、前記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)は、直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含む、
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群から選択されるジアミンである、
請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、20モル%より多く100モル%以下の、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含む、
請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
(但し、テレフタル酸の含有量が、ジカルボン酸の全重量に対して、0重量%以上80重量%以下であるポリアミド樹脂を除く。)
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂は、結晶性を有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)が、280℃以上335℃以下である、
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂の示差走査熱量計(DSC)で測定される融解熱量(ΔH)が、10mJ/mg以上である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記難燃剤は、前記式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは前記式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを含む難燃剤(Y)である、
請求項1~
9のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
前記難燃剤は、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、および臭素化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤(X)である、
請求項1~
10のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下の、アンチモン化合物をさらに含む、請求項
11に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項13】
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下の、亜鉛の塩またはカルシウムの塩をさらに含む、請求項
12に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項14】
絶縁材用の樹脂組成物である。請求項1~
13のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む、
ポリアミド成形体。
【請求項16】
電気機器の部品である、
請求項
15に記載のポリアミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂組成物は、成形加工性、機械的物性および耐薬品性に優れていることから、衣料用、産業資材用、自動車、電気・電子用および工業用などの種々の部品の材料として広く用いられている。
【0003】
これらの用途に用いるポリアミド樹脂組成物には、それぞれの用途に応じた特性を発現するため、様々な添加物が添加される。
【0004】
たとえば、特許文献1には、テレフタル酸単位を50~100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、炭素数6~18の脂肪族アルキレンジアミン単位を50~100モル%含有するジアミン単位(b)とからなる半芳香族ポリアミド(A)100重量部、無機充填材(B)50~700重量部および難燃剤(C)10~200重量部よりなる電気・電子部品封止用ポリアミド組成物が記載されている。特許文献1には、このポリアミド樹脂組成物は、耐熱性および力学特性に優れると記載されている。
【0005】
また、ポリアミド樹脂の原料を変更してポリアミド樹脂の物性を変化させる試みが行われている。たとえば、特許文献2および特許文献3には、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合させることによるポリアミドの製造に用いるジアミン成分として、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いたポリアミド樹脂が記載されている。特許文献2には、当該文献に記載されたポリアミド樹脂は透明性が高いと記載されており、特許文献3には、当該文献に記載されたポリアミド樹脂はガラス転移点が高く、結晶化能力が向上していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-176408号公報
【文献】特開昭49-55796号公報
【文献】特開2017-75303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、耐熱性を高めるために難燃剤を添加したポリアミド樹脂組成物は公知である。
【0008】
ところで、ポリアミド樹脂を電気機器の部品として用いるときには、近年の電気機器の小型化に対応するため、より高い電気抵抗性が求められている。また、電気機器の高出力化に対応するためには、高温域(130℃近辺)において高い電気抵抗性を発現することが求められている。しかし、本発明者らの知見によれば、ポリアミド樹脂組成物に、難燃剤を添加すると、高温での電気抵抗が低下してしまうことがあった。
【0009】
これらの事情に鑑み、本開示は、高い耐熱性を有しつつ、高温域(130℃近辺)において電気抵抗性の低下を抑制すること、あるいは電気抵抗性をより高めることができるポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含むポリアミド成形体を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であって、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、下記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と
を含む、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%以下のポリアミド樹脂と、
【化1】
(式(1)において、
nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、
-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-および-CH
2-からなる群から選ばれる二価の基である)
難燃剤と、を含み、
前記難燃剤は、
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上40質量%以下の、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、および臭素化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤(X)、または、
ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して3質量%以上20質量%以下の、式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを含む難燃剤(Y)、
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上6以下のアルキル基またはアリール基であり、
R
3は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上10以下のアルキレン基、炭素原子数6以上10以下のアリーレン基、炭素原子数6以上10以下のアルキルアリーレン基、または炭素原子数6以上10以下のアリールアルキレン基であり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種の原子または原子団であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。]
[2]前記ポリアミド樹脂は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%未満の、前記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含む、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)は、直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含む、
[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4]前記直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群から選択されるジアミンである、
[3]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸である、
[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6]前記難燃剤は、前記式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは前記式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを含む難燃剤(Y)である、
[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7]前記難燃剤は、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、および臭素化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤(X)である、
[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[8]ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下の、アンチモン化合物をさらに含む、[7]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[9]ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下の、亜鉛の塩またはカルシウムの塩をさらに含む、[8]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[10] 絶縁材用の樹脂組成物である。[1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[11][1]~[10]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む、
ポリアミド成形体。
[12]電気機器の部品である、
[11]に記載のポリアミド成形体。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高い耐熱性を有しつつ、高温域(130℃近辺)において高い電気抵抗性を発現できるポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含むポリアミド成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本願の実施例および比較例にて実施した、リフロー耐熱性試験のリフロー工程の温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
【0014】
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
1.第1の実施形態
本開示の第1の実施形態は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0016】
上記ポリアミド樹脂組成物は、樹脂成分の主成分がポリアミド樹脂である樹脂組成物である。主成分であるとは、樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合が50質量%以上であることを意味する。樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。樹脂成分のうちポリアミド樹脂が占める割合の上限は特に限定されないが、100質量%以下とすることができ、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0017】
上記ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の割合は、上記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上80質量%であることが好ましい。
【0018】
1-1.ポリアミド樹脂
上記ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂であり得る。このとき、ポリアミド樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を上記範囲とするため、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、ジアミンに由来する成分単位(b)は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と、を含むことが好ましい。
【0019】
[ジカルボン酸に由来する成分単位(a)]
ポリアミド樹脂が、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)として、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含むと、融点(Tm)および結晶性を十分に高めることができる。
【0020】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステルが含まれる。脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。中でも、結晶性が高く、耐熱性が高いポリアミド樹脂を得る観点などから、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位を含むことがより好ましい。
【0021】
芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位(好ましくは芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位、より好ましくはテレフタル酸に由来する成分単位)の含有量は、特に限定されないが、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。上記成分単位の含有量が50モル%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶性を高めやすい。上記成分単位の含有量は、同様の観点から、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態において、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含むことが好ましい。これらの成分単位(a1)は、たとえばイソフタル酸とは異なり、ポリアミドの結晶性を高めることができる。これらの成分単位(a1)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%より多く100モル%以下とする。ポリアミド樹脂の結晶性をより高める観点から、これらの成分単位(a1)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して45モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、80モル%より多く99モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%より多く99モル%以下であることが特に好ましい。
【0023】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、本明細書に開示された効果を損なわない範囲で、上記成分単位(a1)以外の芳香族カルボン酸成分単位(a2)または炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸成分単位(a3)を含んでいてもよい。ただし、樹脂の結晶性を損なわないようにする観点からは、イソフタル酸に由来する成分単位やアジピン酸以外の炭素原子数4以上18以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は少ないこと、具体的にはジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0024】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(a2)の例には、イソフタル酸、および2-メチルテレフタル酸に由来する成分単位などが含まれる。これらの中でも、イソフタル酸に由来する成分単位が好ましい。これらの成分単位(a2)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a3)は、炭素原子数4以上20以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位であり、炭素原子数6以上12以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。上記脂肪族ジカルボン酸の例には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸成分単位などが含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。これらの成分単位(a3)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して0モル%以上40モル%以下であることが好ましく、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0026】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、上述した成分単位(a1)、成分単位(a2)、および成分単位(a3)の外に、少量のトリメリット酸またはピロメリット酸のような三塩基性以上の多価カルボン酸成分単位をさらに含有していてもよい。このような多価カルボン酸成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下とすることができる。
【0027】
[ジアミンに由来する成分単位(b)]
ポリアミド樹脂が、ジアミンに由来する成分単位(b)として、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)に加えて、特定の環状構造を有するアルキレンジアミン(式(1)で表されるジアミン)に由来する成分単位(b2)を含むと、ガラス転移温度(Tg)を十分に高めることができる。
【0028】
すなわち、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)は、非直線性の構造を有するため、ポリアミド樹脂の分子鎖の運動性を低下させる。そのため、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)は、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を、当該成分単位(b2)を有さないポリアミド樹脂よりも高くし得る。また、これにより、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、高温域においても高い機械的強度を有し、かつこの高い機械的強度を長時間にわたって維持できると考えられる。
【0029】
さらには、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)は、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂の融点(Tm)を、当該成分単位(b2)を有さないポリアミド樹脂よりも適度に低下させ得る。これにより、当該成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂は、射出成型時の流動性が高く、かつ成形加工性が高い。
【0030】
一方で、本発明者らの知見によれば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの全芳香族系ポリマーは、芳香環の炭化による短絡(トラッキング)が生じやすく、電気抵抗性が低い傾向がある。また、これらの樹脂を含む樹脂組成物が難燃剤をさらに含むと、加熱時に、難燃剤と樹脂との界面において樹脂の分子が運動して難燃剤と相互作用することによる芳香環の炭化が生じやすく、トラッキングによる電気抵抗性の低下が生じる場合がある。この難燃剤の添加による高温域での電気抵抗性の低下が生じる場合は、ポリアミド樹脂でも同様の傾向がみられる。これに対し、より芳香環の数が少ない半芳香族ポリアミドおよび脂肪族ポリアミドは、トラッキングが生じにくく、電気抵抗性が高い。
【0031】
そこで、電気抵抗性が高い半芳香族ポリアミドまたは脂肪族ポリアミドにおいて、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)により高温域における分子の運動性を低下させることで、高温域での一部の芳香環が炭化したとしても当該炭化した芳香環同士の移動による近接が生じにくくすることができる。そして、これにより、高温域におけるポリアミド樹脂の高い電気抵抗性をより確保しやすくすることができると考えられる。
【0032】
さらには、本発明者の新たな知見によれば、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を半芳香族ポリアミドまたは脂肪族ポリアミドに含ませることによって、難燃剤を添加したときの、高温域におけるポリアミド樹脂組成物の引張強度の低下を抑制することもできる。
【0033】
また、上記ポリアミド樹脂は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)による結晶性を有するため、射出成型時の流動性および機械的強度が高い。さらには、上記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が高いため高温域でも高い機械的強度および電気抵抗性を有し、かつこれらの高い機械的強度および電気抵抗性を保持しやすいものと考えられる。
【0034】
成分単位(b1)の原料となる炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数は、樹脂のTgを低下させにくくする観点から、4以上10以下であることがより好ましい。
【0035】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンは、直鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよいし、分岐鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよい。樹脂の結晶性を高める観点からは、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンは、直鎖状のアルキレンジアミンを含むことが好ましい。すなわち、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位は、直鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0036】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、および1,10-デカンジアミンなどを含む直鎖状のアルキレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、および2-メチル-1,8-オクタンジアミンなどを含む分岐鎖状のアルキレンジアミンが含まれる。これらの中でも、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンおよび1,10-デカンジアミンが好ましい。これらのアルキレンジアミンは、1種であってもよいし、2種以上あってもよい。
【0037】
特定の環状構造を有するアルキレンジアミンに由来する成分単位(b2)について:
特定の環状構造を有するアルキレンジアミンは、下記式(1)で表されるジアミンである。
【化3】
【0038】
式(1)中、nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO2-、-CO-および-CH2-からなる群から選ばれる二価の基である。
【0039】
式(1)で表されるジアミンは、ノルボルナンジアミン(m=n=0)であるか、ビスアミノメチルノルボルナン(m=1,n=0)であることが好ましく、ビスアミノメチルノルボルナンであることがより好ましく、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンまたは2,6-ビスアミノメチルノルボルナンであることがさらに好ましい。式(1)で表されるジアミンは、2種類以上が含まれていてもよく、たとえば2,5-ビスアミノメチルノルボルナンおよび2,6-ビスアミノメチルノルボルナンの両方が含まれていてもよい。
【0040】
特に、2つのmの一方または双方が1であると、ポリアミド樹脂の機械的強度を高め、かつ高い機械的強度を保持しやすい。
【0041】
なお、式(1)で表されるジアミンが、幾何異性体(トランス体とシス体など)を有するときは、いずれの異性体でもよく、また、その異性体比は特に限定されない。
【0042】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下であることが好ましい。上記含有量が50モル%より多いと、ポリアミド樹脂の結晶性を十分に高めて、樹脂の射出成型時の流動性や機械的強度をより高めることができる。上記含有量が90モル%以下であると、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温域における機械的強度および電気抵抗性を高め、かつポリアミド樹脂の(Tm)を適度に下げて、成形加工性を高めることができる。
【0043】
一方で、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満であることが好ましい。上記含有量が10モル%以下であると、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温域における機械的強度および電気抵抗性を高め、かつポリアミド樹脂の(Tm)を適度に下げて、成形加工性を高めることができる。上記含有量が50モル%未満であると、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂の結晶性を十分に高めて、樹脂の射出成型時の流動性や機械的強度をより高めることができる。
【0044】
上記観点から、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下であることが好ましく、55モル%以上85モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
また、上記観点から、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満であることが好ましく、15モル%以上45モル%未満であることがより好ましく、20モル%以上40モル%以下であることがさらに好ましく、25モル%以上40モル以下であることが特に好ましい。
【0046】
ジアミンに由来する成分単位(b)は、本明細書に開示された効果を損なわない範囲で、他のジアミンに由来する成分単位(b3)をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、芳香族ジアミンや脂環式ジアミンが含まれる。他のジアミンに由来する成分単位(b3)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%以下でありうる。
【0047】
ポリアミド樹脂は、コンパウンドや成形時の熱安定性を高めたり、機械的強度をより高めたりする観点から、少なくとも一部の分子の末端基が末端封止剤で封止されていてもよい。末端封止剤は、例えば分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0048】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0049】
[物性]
上記ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)を280℃以上335℃以下とすることができ、かつDSCで測定されるガラス転移温度(Tg)が135℃以上180℃以下とすることが好ましい。なお、上記融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、昇温速度を10℃/minとして測定される融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)とすることができる。
【0050】
上記ポリアミド樹脂の融点(Tm)が280℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の高温域における機械的強度や耐熱性などが損なわれにくい。い。また、上記ポリアミド樹脂の融点(Tm)が335℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。また、成形温度を過剰に高くする必要がないと、成形時に難燃剤が分解しにくいため難燃剤の添加量を適度に抑制することができ、難燃剤の添加による機械強度の低下を抑制できる。上記観点から、ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、290℃以上330℃以下であることがより好ましく、300℃以上325℃以下であることがさらに好ましい。
【0051】
上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が135℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の耐熱性が損なわれにくく、同時に高温域における機械的強度および電気抵抗性をより高くし、さらにはホスフィン酸塩化合物またはビスホスフィン酸塩化合物である難燃剤の添加による高温域での引張強度の低下もより十分に抑制することができる。上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が180℃以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。上記観点から、上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0052】
結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、10mJ/mg以上であることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)が10mJ/mg以上であると、結晶性を有するため、射出成型時の流動性や機械的強度を高めやすい。結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、同様の観点から、15mJ/mg以上であることがより好ましく、20mJ/mg以上であることがさらに好ましい。なお、結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)の上限値は、特に制限されないが、成形加工性を損なわないようにする観点では、90mJ/mgでありうる。
【0053】
なお、ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0054】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、360℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで360℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求める。
【0055】
結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の構造、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量や炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有比、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数によって調整することができる。
【0056】
また、結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)を高くする場合、成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は低くすることが好ましい。一方、結晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くし、融点(Tm)を低くする場合、例えば成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は高くすることが好ましい。
【0057】
結晶性ポリアミド樹脂の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、成形体の機械的強度(靱性など)を十分に高めやすく、1.5dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、同様の観点から、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度[η]は、結晶性ポリアミド樹脂の末端封止量などによって調整することができる。
【0058】
結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度は、JIS K6810-1977に準拠して測定することができる。
具体的には、結晶性ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解して試料溶液とする。この試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して、25±0.05℃の条件下で測定し、得られた値を下記式に当てはめて算出することができる。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
【0059】
上記式において、各代数または変数は、以下を表す。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
【0060】
ηSPは、以下の式によって求められる。
ηSP=(t-t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0061】
[製造方法]
ポリアミド樹脂は、例えば前述のジカルボン酸と、前述のジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0062】
ポリアミド樹脂の極限粘度を調整する観点などから、反応系に前述の末端封止剤を添加してもよい。末端封止剤の添加量により、ポリアミド樹脂の極限粘度[η](または分子量)を調整することができる。
【0063】
末端封止剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。添加量はジカルボン酸の合計量1モルに対して、0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。
【0064】
1-2.難燃剤
上記ポリアミド樹脂組成物は、下記いずれかの難燃剤を含むことが好ましい。なお、上記ポリアミド樹脂組成物は、難燃剤(X)および難燃剤(Y)の両方を含んでもよい。
(X)ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、または臭素化ポリフェニレン
(Y)式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマー
【0065】
【0066】
式(I)および式(II)中、
R1およびR2は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上6以下のアルキル基またはアリール基であり、
R3は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上10以下のアルキレン基、炭素原子数6以上10以下のアリーレン基、炭素原子数6以上10以下のアルキルアリーレン基、または炭素原子数6以上10以下のアリールアルキレン基であり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種の原子または原子団であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。
【0067】
これらの難燃剤は、酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの他の難燃剤と比較して塩基性が強くないため、ポリアミド樹脂の分解を抑制し、成形体の機械的強度を維持しやすくする。
【0068】
1-2-1.難燃剤(X)
難燃剤(X)は、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリスチレン、または臭素化ポリフェニレンである。
【0069】
ポリ臭素化スチレンは、臭素化スチレンまたは臭素化α-メチルスチレンに由来する成分単位を含む重合体である。上記臭素化スチレンの例には、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、およびペンタブロモスチレンなどが含まれる。上記臭素化α-メチルスチレンの例には、トリブロモα-メチルスチレンなどが含まれる。なお、ポリ臭素化スチレンは、臭素化スチレンまたは臭素化α-メチルスチレンと、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体であってもよい。さらに、ポリ臭素化スチレンは、上述した各種重合体の、不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト共重合させた共重合体であってもよい。
【0070】
これらポリ臭素化スチレンは、臭素原子が、芳香環を形成する炭素原子に結合した水素原子を置換して(共)重合体内に存在している。そして、通常、(共)重合体の主骨格をなすアルキル鎖を形成する水素原子は実質的に臭素原子で置換されていない。
【0071】
なお、実質的に臭素原子で置換されていないとは、(共)重合体の主骨格をなすアルキル鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子のうち、臭素原子で置換されている水素原子の割合が、0.0質量%以上0.5質量%以下であることを意味する。ポリ臭素化スチレンにおいて、上記臭素原子で置換されている水素原子の割合は、0.0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。
【0072】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンまたはポリα-メチルスチレンを臭素化して得られる(共)重合体である。臭素化ポリスチレンは、ポリ臭素化スチレンと同様に芳香環を形成する炭素原子に結合した水素原子を置換した臭素原子を含むが、一部、(共)重合体の主骨格をなすアルキル鎖を形成する水素原子を置換した臭素原子を含む。具体的には、臭素化ポリスチレンは、(共)重合体の主骨格をなすアルキル鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子のうち、臭素原子で置換されている水素原子の割合が、0.5質量%より多い。
【0073】
臭素化ポリフェニレンは、ポリフェニレンエーテル樹脂を臭素化して得られる(共)重合体である。臭素化ポリフェニレンは、下記の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0074】
【0075】
一般式(1)において、XはBrであり、pは1~4の数であり、qは1以上の数である。qは、2以上であることが好ましく、5以上であることが好ましい。qの上限は特に限定されないものの、100以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましく、40以下であることがさらに好ましく、20以下であることがさらに好ましく、10以下であることが特に好ましい。
【0076】
一般式(1)で表される臭素化ポリフェニレンの例には、ポリジブロモ-p-フェニレンオキシド、ポリトリブロモ-p-フェニレンオキシド、ポリモノブロモ-p-フェニレンオキシド、およびポリジブロモ-o-フェニレンオキシドなどが含まれる。
【0077】
これらの難燃剤のうち、ポリアミド樹脂組成物の高温域における電気特性をより良好にする観点からは、ポリ臭素化スチレンおよび臭素化ポリスチレンが好ましく、ポリ臭素化スチレンがより好ましい。なお、ポリ臭素化スチレンは成形体の曲げ強度を高めやすく、臭素化ポリスチレンはポリアミド樹脂組成物の流動性をより高めやすい。そのため、ポリアミド樹脂組成物および成形体に所望の特性に応じて、これらを使い分けてもよい。
【0078】
これらの難燃剤は、臭素原子の含有量が50質量%以上80質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
また、これらの難燃剤は、重量平均分子量(Mw)が1,000以上400,000以下であることが好ましく、2,000以上100,000以下であることがより好ましく、2,000以上60,000以下であることがさらに好ましい。上記重量平均分子量は、移動層をクロロホルムとしたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、カラム温度40℃として、示差屈折計検出器を使用して測定した、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0080】
これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。上記難燃剤の含有量が1質量%以上であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性および高温域における電気特性をより良好にすることができる。上記難燃剤の含有量が40質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
また、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の含有量100質量部に対して10質量部以上70質量部以下である。上記難燃剤の含有量が10質量部以上であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性および高温域における電気特性をより良好にすることができる。上記難燃剤の含有量が70質量部以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の含有量100質量部に対して20質量部以上60質量部以下であることが好ましく、25質量部以上55質量部以下であることがより好ましい。
【0082】
1-2-1-1.難燃助剤
上記ポリアミド樹脂組成物は、上述した難燃剤(X)に加えて、アンチモン化合物を含むことが好ましい。上記アンチモン化合物は、難燃剤の作用をより高める難燃助剤として作用する。
【0083】
上記アンチモン化合物の例には、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、およびアンチモン酸ナトリウムなどが含まれる。これらのうち、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。
【0084】
上記アンチモン化合物の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。上記難燃助剤の含有量が0.01質量%以上であると、上述した難燃剤による流動性および高温域における電気特性の向上効果がより良好に奏される。上記難燃助剤の含有量が5質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、上記難燃助剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.05質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以上0.4質量%以下であることが特に好ましい。
【0085】
上記ポリアミド樹脂組成物は、上記アンチモン化合物に加えて、亜鉛の塩またはカルシウムの塩をさらに含むことが好ましい。上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩は、上記アンチモン化合物と併用されることで、難燃剤の作用をさらに効率的に高めることができる。
【0086】
上記亜鉛の塩の例には、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、およびリン酸亜鉛などが含まれる.上記カルシウムの塩の例には、ホウ酸カルシウム、およびモリブデン酸カルシウムなどが含まれる。これらのうち、亜鉛の塩が好ましく、ホウ酸亜鉛がより好ましい。なお、上記ホウ酸亜鉛は、2ZnO・3B2O3、4ZnO・B2O3・H2O、および2ZnO・3B2O3・3.5H2Oなどが含まれる。これらのうち、2ZnO・3B2O3、および4ZnO・B2O3・H2Oが好ましく、ホウ酸亜鉛の無水物(2ZnO・3B2O3)がより好ましい。
【0087】
上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量が0.5質量%以上であると、上述した難燃剤による流動性および高温域における電気特性の向上効果がさらに良好に奏される。上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量が10質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
上記アンチモン化合物の含有量(α)と、上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量(β)との割合は特に限定されず、α/βは99/1~1/99の範囲内から選択することができる。なお、上述した亜鉛の塩またはカルシウムの塩による作用をより好適に奏する観点からは、上記アンチモン化合物の含有量(α)よりも、上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量(β)が多いことが好ましく、α/βは30/70~1/99であることがより好ましく、20/80~1/99であることがさらに好ましい。
【0089】
1-2―2.難燃剤(Y)
難燃剤(Y)は、式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーである。
【0090】
【0091】
式(I)および式(II)中、
R1およびR2は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上6以下のアルキル基またはアリール基であり、
R3は独立して、直鎖状または分岐鎖を有する、炭素原子数1以上10以下のアルキレン基、炭素原子数6以上10以下のアリーレン基、炭素原子数6以上10以下のアルキルアリーレン基、または炭素原子数6以上10以下のアリールアルキレン基であり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種の原子または原子団であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。
【0092】
式(I)に示すホスフィン酸塩化合物および式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物の例には、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、およびジフェニルホスフィン酸亜鉛などが含まれる。
【0093】
これらのうち、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛であり;さらに好ましくはジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
【0094】
式(I)に示すホスフィン酸塩化合物および式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物の市販品の例には、クラリアント社製のEXOLIT OP1230(「EXOLIT」は同社の登録商標)、OP1311、OP1312、OP930、およびOP935などが含まれる。
【0095】
また、本発明者らの知見によれば、これらの難燃剤は、上記ポリアミド樹脂組成物の高温域における電気特性をより良好にすることができる。この理由は定かではないものの、ガラス転移温度が向上し、高温における非晶部の分子運動性が低下したためと考えられる。また、難燃剤(Y)はポリアミド樹脂の分解を抑制する能力が高いため、同一の含有量でもより高い難燃性を発現できる。そのため、難燃剤(Y)を用いると、難燃剤の添加量を少なくすることによる機械強度の低下を抑制できる効果が顕著である。
【0096】
これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記難燃剤の含有量が3質量%以上であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性および高温域における電気特性をより良好にすることができる。上記難燃剤の含有量が20質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができ、難燃剤の添加による靭性の低下を抑制しやすくなる。上記観点から、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して5質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0097】
また、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の含有量100質量部に対して3質量%部以上50質量%部以下である。上記難燃剤の含有量が3質量部以上であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性および高温域における電気特性をより良好にすることができる。上記難燃剤の含有量が50質量部以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができ、難燃剤の添加による靭性の低下を抑制しやすくなる。上記観点から、これらの難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の含有量100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上35質量部以下であることがより好ましい。
【0098】
1-2-2-1.難燃助剤
上記ポリアミド樹脂組成物は、上述した難燃剤に加えて、公知の難燃助剤を含んでもよい。上記難燃助剤の例には、アンチモン化合物、亜鉛の塩またはカルシウムの塩、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、ベーマイト、ホスファゼン化合物、ならびに、リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸から選択される1種以上のリン化合物と、メラミン、メラムおよびメレムから選択される1種以上の化合物との塩、などが含まれる。
【0099】
上記アンチモン化合物の例には、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、およびアンチモン酸ナトリウムなどが含まれる。これらのうち、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。
【0100】
上記アンチモン化合物の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。上記難燃助剤の含有量が0.01質量%以上であると、上述した難燃剤による流動性および高温度域における電気特性の向上効果がより良好に奏される。上記難燃助剤の含有量が5質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、上記難燃助剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.05質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以上0.4質量%以下であることが特に好ましい。
【0101】
上記亜鉛の塩の例には、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、およびリン酸亜鉛などが含まれる.上記カルシウムの塩の例には、ホウ酸カルシウム、およびモリブデン酸カルシウムなどが含まれる。これらのうち、亜鉛の塩が好ましく、ホウ酸亜鉛がより好ましい。なお、上記ホウ酸亜鉛は、2ZnO・3B2O3、4ZnO・B2O3・H2O、および2ZnO・3B2O3・3.5H2Oなどが含まれる。これらのうち、2ZnO・3B2O3、および4ZnO・B2O3・H2Oが好ましく、ホウ酸亜鉛の無水物(2ZnO・3B2O3)がより好ましい。
【0102】
上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量が0.5質量%以上であると、上述した難燃剤による流動性および高温域における電気特性の向上効果がさらに良好に奏される。上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量が10質量%以下であると、樹脂組成物中のポリアミド樹脂の量をより多くして、ポリアミド樹脂組成物の靭性などの諸特性を高めることができる。上記観点から、上記亜鉛の塩またはカルシウムの塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0103】
1-3.他の成分
上記ポリアミド樹脂組成物は、公知の他の成分を含んでもよい。上記他の成分の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0104】
他の成分の例には、強化材、結晶核剤、流動性向上剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅およびヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCP)などが含まれる。中でも、本開示の樹脂組成物は、成形体の機械的強度を高める観点からは、強化材をさらに含むことが好ましい。
【0105】
強化材は、樹脂組成物に高い機械的強度を付与しうる。強化材の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどの繊維状強化材、ならびに粒状強化材が含まれる。これらのうち、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、成形体の機械的強度を高めやすいことなどから、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイトまたはガラス繊維がより好ましい。
【0106】
繊維状強化材の平均繊維長は、樹脂組成物の成形性、および得られる成形体の機械的強度や耐熱性の観点から、例えば1μm以上20mm以下、好ましくは5μm以上10mm以下としうる。また、繊維状強化材のアスペクト比は、例えば5以上2000以下、好ましくは30以上600以下としうる。
【0107】
繊維状強化材の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li2)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di2)/(Σri×Di)
【0108】
繊維状強化材の含有量は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、例えば15質量%以上70質量%以下とすることができる。
【0109】
結晶核剤は、成形体の結晶化度を高め得る。結晶核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、成形体の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの結晶核剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
結晶核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。結晶核剤の含有量が上記範囲内であると、成形体の結晶化度を十分に高めやすく、十分な機械的強度が得られやすい。
【0111】
耐腐食性向上剤は、金属酸化物または金属水酸化物とすることができる。これらの化合物は、ポリアミド樹脂組成物による鋼材(たとえば、成形機に用いられるスクリュー、シリンダー、ダイス、およびノズルなど)の高温での腐食摩耗を抑制することができる。
【0112】
これらの金属酸化物または金属水酸化物は、元素周期律表の第1~12族金属の酸化物または水酸化物であることが好ましく、同周期律表の第2~12族金属の酸化物または水酸化物であることがより好ましい。特に、上記金属酸化物は、元素周期律表の第4~12族元素金属の酸化物であることが好ましく、第7~12族元素金属の酸化物であることがより好ましい。
【0113】
特には、これらの金属酸化物または金属水酸化物は、鉄、マグネシウム、または亜鉛の酸化物または水酸化物であることが好ましく、マグネシウムまたは亜鉛の酸化物または水酸化物であることがより好ましい。また、これらの金属酸化物または金属水酸化物は、錫酸亜鉛、およびヒドロキシ錫酸亜鉛等の金属の複合酸化物であってもよい。これらのうち、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、および酸化亜鉛が好ましく、酸化亜鉛がより好ましい。特に、難燃剤(Y)である式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを用いたときに、酸化亜鉛を併用することで、成形機の腐食抑制および摩耗抑制効果が顕著に奏される。
【0114】
これらの金属酸化物または金属水酸化物は、粒子状であることが好ましい。
【0115】
耐腐食性向上剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0116】
流動性向上剤は、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ、得られる成形体の外観を良好にする。流動性向上剤は、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩とすることができる。
【0117】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0118】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0119】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0120】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0121】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0122】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムなどであることが好ましい。特に、難燃剤(Y)である式(I)に示すホスフィン酸塩化合物もしくは式(II)に示すビスホスフィン酸塩化合物、またはこれらのポリマーを用いたときに、ステアリン酸バリウム、好ましくは12ヒドロキシ-ステアリン酸バリウムを併用することで、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ得られる成形体の外観を良好にする効果が顕著に奏される。
【0123】
流動性向上剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.3質量%以下であることが好ましい。流動性向上剤の含有量が0.01質量%以上であると、成形時の流動性が高まりやすく、得られる成形品の外観性が高まりやすい。流動性向上剤の含有量が1.3質量%以下であると、流動性向上剤の分解によるガスが成形時に発生し難く、製品の外観が良好になりやすい。
【0124】
ドリップ防止剤は、燃焼による熱で溶融して液状化した樹脂が垂れ落ちることを抑制する。ドリップ防止剤の例には、フッ素樹脂、ならびに、分子内にカルボキシ基、酸無水物基およびアミノ基などを有する変性ポリオレフィンなどが含まれる。上記フッ素樹脂の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが含まれる。上記変性ポリオレフィンの例には、ポリエチレン、SEBSなどの芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体またはその水素化物、およびエチレン・プロピレン共重合体などのポリオレフィンエラストマーなどの変性物が含まれる。これらのうち、変性ポリオレフィンが好ましく、マレイン酸変性SEBSがより好ましい。
【0125】
ドリップ防止剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。ドリップ防止剤の含有量が上記範囲内であると、燃焼時の樹脂の垂れ落ちを十分に抑制することができる。
【0126】
イオン捕捉剤は、ポリアミド樹脂組成物中の塩化水素(塩素イオン)などを捕捉して、ポリアミド樹脂組成物の劣化を抑制する。イオン捕捉剤の例には、ハイドロタルサイトおよびゼオライトなどが含まれる。なお、これらのイオン捕捉剤は、層状化合物であり、おそらくは層間水の脱水などの作用により、ポリアミド樹脂組成物および成形体の難燃性を高める作用を有する。
【0127】
イオン捕捉剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。イオン捕捉剤の含有量が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物および成形体の安定性および難燃性をより十分に高めやすい。
【0128】
1-4.製造方法
上記ポリアミド樹脂組成物は、前述のポリアミド樹脂、および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。
【0129】
2.第2の実施形態
本開示の第2の実施形態は、以下の特性を有するポリアミド樹脂組成物に関する。
【0130】
なお、上述した第1の実施形態に関するポリアミド樹脂組成物により、以下の特性を有するポリアミド樹脂組成物を実現することが可能である。ただし、本実施形態に関するポリアミド樹脂組成物は第1の実施形態に関するポリアミド樹脂組成物に限定されることはなく、以下の特性が実現され得る限りにおいて、ポリアミド樹脂の組成や各種添加剤の種類および配合量などは第1の実施形態に関するポリアミド樹脂組成物に限定されることはない。
【0131】
上記ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)が280℃以上330℃以下であり、かつDSCで測定されるガラス転移温度(Tg)が135℃以上180℃以下である。
【0132】
上記ポリアミド樹脂の融点(Tm)が280℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の高温域における機械的強度や耐熱性などが損なわれにくく、330℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。上記観点から、ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、290℃以上330℃以下であることがより好ましく、300℃以上330℃以下であることがさらに好ましい。
【0133】
上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が135℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物や成形体の耐熱性が損なわれにくく、同時に高温域における機械的強度および電気抵抗性をより高くすることができる。上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が180℃以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好となりやすい。上記観点から、上記ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0134】
上記ポリアミド樹脂組成物は、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して、射出圧力2000kg/cm2、シリンダー温度をポリアミド樹脂の融点より10℃高い温度とし、金型温度を120℃として射出したときの金型中の樹脂組成物の流動長(以下、単に「流動長」ともいう。)が20mm以上100mm以下である。
【0135】
上記流動長が20mm以上であると、ポリアミド樹脂組成物の成形性をより高めることができる。上記流動長が100mm以下であると、過充填による成形品の端部へのバリの発生を抑制して、成形品の外観をより良好にすることができる。上記観点から、上記流動長は、20mm以上100mm以下であることが好ましく、25mm以上80mm以下であることがより好ましく、30mm以上70mm以下であることがさらに好ましい。
【0136】
上記ポリアミド樹脂組成物は、射出圧力2000kg/cm2、シリンダー温度をポリアミド樹脂の融点より10℃高い温度とし、金型温度を120℃として射出成形して得られた、長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片Aが、以下の要件Iおよび要件IIを満たす。
要件I:リフローはんだ装置で加熱したときに試験片の溶融および表面への膨れが生じない温度(以下、単に「リフロー耐熱温度」ともいう。)が240℃以上290℃以下である
要件II:温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、曲げ速度5mm/分で曲げ試験を行ったときに前記試験片を破壊するためのエネルギー(以下、単に「薄肉曲げエネルギー」ともいう。)が30mJ以上90mJ以下である
【0137】
上記リフロー耐熱温度が240℃以上であると、鉛フリーのリフローはんだ付けへの十分な耐性が得られる。上記リフロー耐熱温度が290℃以下であると、ポリアミド樹脂の融点を過剰に高くしたり、ポリアミド樹脂組成物の流動性を低下させたりする必要がないため、ポリアミド樹脂組成物の成形性が良好となる。上記観点から、上記リフロー耐熱温度は240℃以上280℃以下であることが好ましく、250℃以上275℃以下であることがより好ましい。
【0138】
上記薄肉曲げエネルギーが30mJ以上であると、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の強度が十分に高いため、たとえば振動などを付与される電子機器の部品や、応力を付与される自動車などの各種装置の部品としたときなどにも、成形体の応力耐性を十分にすることができる。特に、薄肉状の成形体としたときにも成形体の強度が十分に高まるため、電子機器の小型化に対応する等の目的のために微細な部品に成形しても、十分な応力耐性を得られる。上記薄肉曲げエネルギーが90mJ以上であると、成形体の応力緩和性が十分であり、衝撃を受けたときに他の部品に衝撃を伝えにくく、上記他の部品の破壊を生じさせにくい。上記観点から、上記薄肉曲げエネルギーは、30mJ以上80mJ以下であることが好ましく、33mJ以上75mJ以下であることがより好ましく、35mJ以上70mJ以下であることがさらに好ましい。
【0139】
上記ポリアミド樹脂組成物は、射出圧力100MPa、シリンダー温度をポリアミド樹脂の融点より10℃高い温度とし、金型温度を120℃として射出成形して得られた、100mm角、厚さ2mmの角板試験片Bの、130℃における体積抵抗率(以下、単に「高温抵抗率」ともいう。)が1013Ω・cm以上1018Ω・cm以下である。
【0140】
上記高温抵抗率が1013Ω・cm以上であると、成形体の絶縁性をより高めることができる。特に、電子機器の小型化に対応する等の目的のために微細な部品に成形しても、十分な絶縁性を得られるほか、電子機器の高出力化にも十分に対応できる絶縁性を得られる。上記高温抵抗率が1018Ω・cm以下であると、成形体に静電気がたまりにくくなるため、ダストの吸着を防ぐことができ、電子機器の内部にダストが混入することによる、当該電子機器の長期信頼性の低下を抑制することができる。上記観点から、上記高温抵抗率は、1014Ω・cm以上1018Ω・cm以下であることが好ましく、1013Ω・cm以上1017Ω・cm以下であることがより好ましく、1013Ω・cm以上1016Ω・cm以下であることがさらに好ましく、1014Ω・cm以上1016Ω・cm以下であることが特に好ましい。
【0141】
3.樹脂組成物の用途
本開示の樹脂組成物は、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法などの公知の成形法で成形することにより、各種成形体として用いられる。
【0142】
本開示の樹脂組成物の成形体は、各種用途に用いることができる。そのような用途の例には、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、サンルーフ、サンルーフ・レール、フェンダーおよびバックドアなどの自動車用外装部品、シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、オイルポンプ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバーおよびエンジン・カバーなどの自動車用エンジンルーム内部品、フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクタ、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプおよびフューエルフィラーネックなどの自動車用燃料系部品、シフトレバー・ハウジングおよびプロペラシャフトなどの自動車用駆動系部品、スタビライザーバー・リンケージロッド、エンジンマウントブラケットなどの自動車用シャシー部品、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、ワイパーおよびその部品、アクセルペダル、ペダル・モジュール、継手、樹脂ネジ、ナット、ブッシュ、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギアおよびアクチュエーターなどの自動車用機能部品、ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、ヒューズ部品、エンキャプシュレーション、イグニッションコイルおよびディストリビューター・キャップなどの自動車用エレクトロニクス部品、汎用機器(刈り払い機、芝刈り機およびチェーンソー)用燃料タンクなどの汎用機器用燃料系部品、コネクタ、バスバーおよびLEDリフレクタなどの電気電子部品、建材部品、産業用機器部品、ならびに、小型筐体(パソコンや携帯電話などの筐体を含む)、外装成形品などの各種筐体または外装部品が含まれる。
【0143】
中でも、本開示の樹脂組成物は、高温域において高い機械的強度および電気抵抗性を有することなどから、各種用途における絶縁材の用途に好適に用いることができ、また、自動車用エレクトロニクス部品、電気電子部品、産業用機器部品、および電気機器の筐体または外装部品などの電気機器の部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0144】
以下において、実施例を参照してより詳細な説明を行う。実施例によって、本明細書に開示された範囲は限定して解釈されない。
【0145】
なお、以下の実験において、ポリアミド樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により測定した。
【0146】
(融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg))
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。
【0147】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂を完全融解させるために、360℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで360℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求めた。
【0148】
(極限粘度[η])
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0149】
(融解熱量(ΔH))
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、JIS K 7122(2012年)に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0150】
1.材料の合成/用意
1-1.ポリアミド樹脂の合成
(合成例1)
テレフタル酸259.5g(1561.7ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン118.9g(1023.1ミリモル)、ビスアミノメチルノルボルナン(三井化学ファイン株式会社製)85.0g(551.1ミリモル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37gおよび蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低次縮合物を抜き出した。その後、この低次縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。
【0151】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。
【0152】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂1を得た。
【0153】
得られたポリアミド樹脂1の極限粘度[η]は0.97dl/g、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量(ΔH)は44mJ/mgであった。
【0154】
(合成例2)
オートクレーブに入れたテレフタル酸の量を162.2g(976.1ミリモル)とし、さらに85.6g(585.7ミリモル)のアジピン酸を入れ、1,6-ジアミノヘキサンの量を182.9g(1574.2ミリモル)とし、ビスアミノメチルノルボルナン(三井化学ファイン株式会社製)を入れなかった以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂2を得た。ポリアミド樹脂2の極限粘度[η]は0.8dl/g、融点(Tm)は320℃、ガラス転移温度(Tg)は95℃、融解熱量(ΔH)は48mJ/mgであった。
【0155】
1-2.難燃剤
以下の難燃剤を用いた
難燃剤(X)
・ポリ臭素化スチレン(ケムチュラ社製、Great Lakes PBS-64HW:ジブロモスチレンの単独重合体、臭素含有量は64質量%)
・臭素化ポリスチレン(アルベマール社製、SAYTEX HP-7010(「SAYTEX」は同社の登録商標):臭素化ポリスチレン、臭素含有量は68.5質量%)
難燃剤(Y)
・ホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製、EXOLIT OP1230)、ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩、CAS-No.225789-38-8
【0156】
1-3.難燃助剤
・アンチモン化合物(日本精鉱株式会社製、SA-A:アンチモン酸ナトリウム)
・ホウ酸の塩(ボラックス社製、Firebrake 500:2ZnO・3B2O3)
【0157】
1-4.強化材
・ガラス繊維(セントラル硝子株式会社製、ECS03-615)
【0158】
1-5.イオン捕捉剤
・ハイドロタルサイト1(協和化学工業株式会社製、DHT-4C(「DHT」は同社の登録商標))
・ハイドロタルサイト2(戸田工業株式会社製、NAOX-33)
【0159】
1-6.結晶核剤
・タルク
【0160】
1-7.ドリップ防止剤
・マレイン化SEBS(旭化成株式会社製、タフテックM1913(「タフテック」は同社の登録商標))
【0161】
1-8.耐腐食性向上剤
・酸化亜鉛
【0162】
1-9.流動性向上剤
・モンタン酸カルシウム(クラリアント社製、LICOMONT CAV102「LICOMONT」は同社の登録商標))
・12ヒドロキシステアリン酸バリウム(日東化成工業株式会社社製、BS-6)
【0163】
2.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて300~335℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0164】
3.評価
得られたポリアミド樹脂組成物を、以下の基準で評価した。
【0165】
3-1.流動長
それぞれのポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して以下の条件で射出し、金型内のポリアミド樹脂組成物の流動長(mm)を測定した。なお、流動長が長いほど射出流動性が良好であることを示す。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm2
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0166】
3-2.難燃性
それぞれのポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、1/32インチ×1/2×5インチの試験片を調製した。調製した試験片を用いて、UL94規格(1991年6月18日付のUL Test No.UL94)に準拠して、垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。
成形機:株式会社ソディック プラステック製、ツパールTR40S3A
射出設定圧力:2000kg/cm2
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0167】
3-3.リフロー耐熱温度
それぞれのポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片Aを調製した。調製した試験片Aを温度40℃、相対湿度95%で96時間調湿した。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm2
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0168】
上記調湿処理を行った試験片Aを、厚み1mmのガラスエポキシ基板上に載置した。この基板上に温度センサーを設置した。試験片Aを載置したガラスエポキシ基板を、エアーリフローはんだ装置(エイテックテクトロン株式会社製、AIS-20-82-C)にセットし、
図1に示す温度プロファイルのリフロー工程を行った。
図1に示されるように、所定の速度で温度230℃まで昇温し、次いで、20秒間で所定の設定温度(aは270℃、bは265℃、cは260℃、dは255℃、eは235℃)まで加熱したのち、230℃まで降温した。このとき、試験片Aが溶融せず、且つ表面にブリスターが発生しない設定温度の最大値を求め、この設定温度の最大値をリフロー耐熱温度とした。
【0169】
3-4.薄肉曲げエネルギー
それぞれの得られたポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片Aを調製した。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm2
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0170】
調製した試験片Aを、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で曲げ試験機:NTESCO社製 AB5、スパン26mm、曲げ速度5mm/分で曲げ試験を行った。曲げ強度、歪量および弾性率から、その試験片Aを破壊するのに要するエネルギー(靭性)を求めた。
【0171】
3-5.高温抵抗率
下記の射出成型機を用い、下記の成形条件で調整した100mm角、厚さ2mmの角板試験片Bを成形した。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm2
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0172】
この角板状の試験片Bを、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で24時間放置した。その後、ASTM D257:2007に準拠し、株式会社エーディーシー社製の機種8340Aを用いて、チャンバー内温度を130℃としたときの試験片Bの体積抵抗率を測定して、高温抵抗率X1とした。それぞれの樹脂組成物について、難燃剤および難燃助剤を含まない以外は同じ組成の樹脂組成物を調製して同様に試験片Bの体積抵抗率を測定して、高温抵抗率X2とした。
【0173】
また、難燃剤および難燃助剤の添加により高温時における体積抵抗率がどの程度変化したかを確認するため、高温抵抗率X1と高温抵抗率X2との比率(X1/X2)および差(Δ(X2-X1)またはΔ(X1-X2))を算出した。
【0174】
3-6.高温引張強度
それぞれの得られたポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、厚み3.2mmの(A)STMダンベル型試験片TypeIを得た。
【0175】
成形機:住友重機械工業社製、SG50M3
射出設定圧力:2000kg/cm2
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
射出設定速度:60mm/sec
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度以外の条件はASTMD638に準拠して、温度130℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、得られた引張強度を高温引張強度Y1とした。それぞれの樹脂組成物について、難燃剤および難燃助剤を含まない以外は同じ組成の樹脂組成物を調製して同様にダンベル型試験片の引張強度を測定して、高温引張強度Y2とした。
【0176】
また、難燃剤および難燃助剤の添加により高温時における引張強度がどの程度変化したかを確認するため、高温引張強度Y1と高温引張強度Y2との比率(Y1/Y2)を算出した。
【0177】
調製したポリアミド樹脂組成物の組成、流動長、難燃性、リフロー耐熱温度、薄肉曲げエネルギー、高温抵抗率、および高温引張強度を、表1~表4に示す。
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
表1~表4から明らかなように、ジアミンに由来する成分単位(b)として式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂に、難燃剤(X)または難燃剤(Y)を併用すると、高温域における電気抵抗率の低下を抑制したり、または高温域における電気抵抗率をより高めたりすることができる。また、ジアミンに由来する成分単位(b)として式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を有するポリアミド樹脂に、難燃剤(X)または難燃剤(Y)を併用すると、高温引張強度の低下を抑制できる。
【0183】
本出願は、2021年3月30日出願の日本国出願番号2021-057551号および2021年3月30日出願の日本国出願番号2021-057558号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲および明細書に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本開示のポリアミド樹脂組成物によれば、高温域において高い電気抵抗性を有する。そのため、本開示は、高出力となることが見込まれる電気機器の部品や、小型化が要求される電気機器の部品へのポリアミド樹脂の適用可能性を広げ、ポリアミド樹脂のさらなる普及に寄与すると期待される。