(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】蓄電装置、通電部品の温度管理方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/10 20060101AFI20241024BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20241024BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H02J7/10 N
H02J7/04 L
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2021043246
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今中 佑樹
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071299(JP,A)
【文献】特開2016-199091(JP,A)
【文献】特開2009-005577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 -10/42
H02H 5/00 - 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置であって、
蓄電セルと、
前記蓄電セルの温度を計測する温度センサと、
前記蓄電セルの電流経路に設けられ、前記蓄電セルよりも熱容量が小さい通電部品と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う前記通電部品の温度変化が、第1閾値になるまでの第1時間を前記蓄電セルに流れる電流に基づいて算出又は決定し、
前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う通電時間が前記第1時間を超えた場合、前記蓄電セルに流れる電流を制限することで、前記蓄電セルと前記通電部品との温度差を前記第1閾値以下にする、蓄電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電装置であって、
前記制御部は、前記通電部品の温度変化に対する電流と通電時間の関係を示すI-T特性に基づいて、前記第1時間を決定する、蓄電装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄電装置であって、
前記I-T特性が異なる複数の通電部品がある場合、
前記制御部は、複数のI-T特性のうち、同一電流値に対する前記通電時間が最も短いI-T特性に基づいて、前記第1時間を決定する、蓄電装置。
【請求項4】
請求項2に記載の蓄電装置であって、
前記I-T特性が交差する2つの通電部品がある場合、
前記制御部は、交差点を境にした2つの領域において、同一電流値に対する前記通電時間が短いI-T特性を選択して、前記第1時間を決定する、蓄電装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の蓄電装置であって、
前記蓄電セルの充電および/または放電が、前記第1時間経過以降、制限されない場合、
前記制御部は、
前記通電部品の前記第1時間経過後の温度変化が第2閾値になるまでの第2時間を、前記蓄電セルの前記第1時間経過後の電流に基づいて、算出又は決定し、
前記蓄電セルの前記第1時間経過後の充電および/または放電に伴う通電時間が、前記第2時間を超えた場合、電流を遮断する、蓄電装置。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電装置であって、
前記第2閾値は、前記通電部品の許容温度と前記第1時間に達した時点の温度の温度差に基づく、蓄電装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の蓄電装置であって、
前記通電部品用の温度センサを有さない構成である、蓄電装置。
【請求項8】
蓄電装置に使用される蓄電セルよりも熱容量の小さい通電部品の温度管理方法であって、
前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う前記通電部品の温度変化が、第1閾値になるまでの第1時間を前記蓄電セルの電流に基づいて算出又は決定し、
前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う通電時間が前記第1時間を超えた場合、前記第1時間を超えた場合、前記蓄電セルに流れる電流を制限することで、前記蓄電セルと前記通電部品との温度差を前記第1閾値以下にする、温度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電部品の温度を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置は、電流遮断装置を備えており、例えば、許容値を超える電流が一定期間流れた場合、電流を遮断することで、蓄電装置の異常発熱を抑えることが出来る。この種の技術を開示する文献として、特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-266820号公報
【文献】特開2017-229154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電装置は、バスバー、電流検出抵抗、電流遮断装置などの通電部品を有している。通電部品は、蓄電セルの電流経路上にあって、蓄電セルの充放電に伴って、通電される部品である。通電部品は、蓄電セルに比べて熱容量が小さく、通電によるジュール熱で温度上昇し易い。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、蓄電装置において、通電部品の温度を管理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
蓄電装置は、蓄電セルと、前記蓄電セルの温度を計測する温度センサと、前記蓄電セルの電流経路に設けられ、前記蓄電セルよりも熱容量が小さい通電部品と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う前記通電部品の温度変化が、第1閾値になるまでの第1時間を前記蓄電セルに流れる電流に基づいて算出又は決定し、前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う通電時間が前記第1時間を超えた場合、前記蓄電セルに流れる電流を制限することで、前記蓄電セルと前記通電部品との温度差を前記第1閾値以下にする。
【0007】
本技術は、蓄電装置、通電部品の温度管理方法に適用することができる。また、通電部品の温度管理プログラムに適用することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
蓄電装置において、通電部品の温度を、管理することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
蓄電装置の概要を説明する。
蓄電装置は、蓄電セルと、前記蓄電セルの温度を計測する温度センサと、前記蓄電セルの電流経路に設けられ、前記蓄電セルよりも熱容量が小さい通電部品と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う前記通電部品の温度変化が、第1閾値になるまでの第1時間を前記蓄電セルに流れる電流に基づいて算出又は決定し、前記蓄電セルの充電および/または放電に伴う通電時間が前記第1時間を超えた場合、前記蓄電セルに流れる電流を制限することで、前記蓄電セルと前記通電部品との温度差を前記第1閾値以下にする。
【0011】
熱容量の小さい通電部品は、熱容量の大きい蓄電セルに比べて、通電によるジュール熱で温度上昇し易い。この構成では、蓄電セルに対する通電部品の温度差を第1閾値以下に抑えることが出来るため、充電および/または放電に伴って、通電部品が異常発熱することを抑制出来る。異常発熱の抑制により、通電部品の長期的な使用が可能となり、通電可能量を増やすことが出来る。従って、蓄電装置の電池性能を最大限に発揮することが可能となる。また、異常発熱による通電部品の劣化を抑制することが可能であり、蓄電装置を長寿命化することが出来る。
【0012】
前記制御部は、前記通電部品の温度変化に対する電流と通電時間の関係を示すI-T特性に基づいて、前記第1時間を決定してもよい。この構成では、蓄電セルの電流値をI-T特性に参照することで、第1時間を決定することが出来る。通電部品のI-T特性を用いることで、通電部品の温度変化の予測精度が高くなるため、通電部品の温度を精度よく管理することが出来る。
【0013】
前記I-T特性が異なる複数の通電部品がある場合、前記制御部は、複数のI-T特性のうち、同一電流値に対する前記通電時間が最も短いI-T特性に基づいて、前記第1時間を決定してもよい。この構成では、充電および/または放電に伴い、もっとも温度上昇し易い通電部品、つまり、同一電流値に対する通電時間が最も短いI-T特性を有する通電部品が、異常発熱することを抑制出来る。他の通電部品についても、異常発熱を避けることが可能であることから、蓄電装置の長期的な使用が可能となり、蓄電装置の電池性能を最大限に発揮することが可能となる。
【0014】
前記I-T特性が交差する2つの通電部品がある場合、前記制御部は、交差点を境にした2つの領域において、同一電流値に対する前記通電時間が短いI-T特性を選択して、前記第1時間を決定してもよい。この構成では、I-T特性が交差する2つの通電部品を、蓄電セルに対する温度差が第1閾値以下になるように、温度制御することが出来る。そのため、蓄電セルの充放電に伴い、I-T特性が交差する複数の通電部品が異常発熱することを抑制できる。
【0015】
前記蓄電セルの充電および/または放電が、前記第1時間経過以降、制限されない場合、前記制御部は、前記通電部品の前記第1時間経過後の温度変化が第2閾値になるまでの第2時間を、前記蓄電セルの前記第1時間経過後の電流に基づいて、算出又は決定し、前記蓄電セルの前記第1時間経過後の充電および/または放電に伴う通電時間が、前記第2時間を超えた場合、電流を遮断してもよい。
【0016】
この構成では、電流制限の不実行により、蓄電セルに対する通電部品の温度差が第1閾値より大きくなっても、その後、通電部品の温度変化が第2閾値に至ると、電流を遮断する。電流の遮断によりジュール熱の発生を抑制することが出来るので、温度変化が第2閾値に到達した通電部品が、それ以上温度上昇することを抑制することが出来る。
【0017】
前記第2閾値は、前記通電部品の許容温度と前記第1時間に達した時点の温度との温度差に基づくものでよい。この構成では、通電部品が許容温度まで上昇すると、電流を遮断する。そのため、通電部品が許容温度を超えて温度上昇することを抑制できる。通電部品の温度を許容温度以下に抑えることで、蓄電装置の安全性を向上させることが出来る。
【0018】
蓄電装置は、前記通電部品用の温度センサを有さない構成でもよい。この構成では、通電部品用の温度センサが無く通電部品の温度が計測できない場合でも、蓄電セルに対する通電部品の温度差を第1閾値以下に抑えることが出来る。
【0019】
<実施形態1>
1.バッテリ50の説明
図1に示すように、車両10には、エンジン20と、エンジン20の始動時等に用いられるバッテリ50と、が搭載されている。バッテリ50は「蓄電装置」の一例である。
図2に示すように、バッテリ50は、組電池60と、回路基板ユニット65と、収容体71を備える。
【0020】
収容体71は、合成樹脂材料からなる本体73と蓋体74とを備えている。本体73は有底筒状である。本体73は、底面部75と、4つの側面部76とを備えている。4つの側面部76によって上端部分に上方開口部77が形成されている。
【0021】
収容体71は、組電池60と回路基板ユニット65を収容する。回路基板ユニット65は、組電池60の上部に配置されている。
【0022】
蓋体74は、本体73の上方開口部77を閉鎖する。蓋体74の周囲には外周壁78が設けられている。蓋体74は、平面視略T字形の突出部79を有する。蓋体74の前部のうち、一方の隅部に正極の外部端子51が固定され、他方の隅部に負極の外部端子52が固定されている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、二次電池セル62は、直方体形状のケース82内に電極体83を非水電解質と共に収容したものである。二次電池セル62は一例としてリチウムイオン二次電池である。ケース82は、ケース本体84と、その上方の開口部を閉鎖する蓋85とを有している。
【0024】
電極体83は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に、多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状で、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体84に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0025】
正極要素には正極集電体86を介して正極端子87が、負極要素には負極集電体88を介して負極端子89がそれぞれ接続されている。正極集電体86及び負極集電体88は、平板状の台座部90と、この台座部90から延びる脚部91とからなる。台座部90には貫通孔が形成されている。脚部91は正極要素又は負極要素に接続されている。
【0026】
正極端子87及び負極端子89は、端子本体部92と、その下面中心部分から下方に突出する軸部93とからなる。そのうち、正極端子87の端子本体部92と軸部93とは、アルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子89においては、端子本体部92がアルミニウム製で、軸部93が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子87及び負極端子89の端子本体部92は、蓋85の両端部に絶縁材料からなるガスケット94を介して配置され、このガスケット94から外方へ露出されている。
【0027】
蓋85は、圧力開放弁95を有している。圧力開放弁95は、正極端子87と負極端子89の間に位置している。圧力開放弁95は、ケース82の内圧が制限値を超えた時に、開放して、ケース82の内圧を下げる。
【0028】
図5は、バッテリ50の電気的構成を示すブロック図である。バッテリ50は、組電池60と、電流検出抵抗54と、電流遮断装置53と、電圧検出回路110と、管理部130と、温度センサ58と、を備える。
【0029】
バッテリ50の2つの外部端子51、52は、車両ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)140と、エンジン20の動力により発電する発電機であるオルタネータ150と、車両10に搭載された各電装品等である車両負荷160と、にそれぞれ電気的に接続されている。車両ECU140は、オルタネータ150や車両負荷160を制御する。オルタネータ150の制御には、出力電流(バッテリ50の充電電流Ic)の制御が含まれる。出力電流の制御は、PWM制御でもよいし、電圧調整によるものでもよい。
【0030】
エンジン20の駆動中において、オルタネータ150の発電量が車両負荷160の電力消費より大きい場合、バッテリ50はオルタネータ150により充電される。オルタネータ150の発電量が車両負荷160の電力消費より小さい場合、バッテリ50は、その不足分を補うため、放電する。エンジン20の停止中、オルタネータ150は発電を停止する。そのため、バッテリ50は、電力供給が停止した状態(充電されない状態)となり、車両負荷160に対して放電のみ行う状態となる。
【0031】
組電池60は、複数の二次電池セル62から構成されている。二次電池セル62は、12個あり、3並列で4直列に接続されている。
図5では、並列に接続された3つの二次電池セル62を1つの電池記号で表している。二次電池セル12は「蓄電セル」の一例である。バッテリ50は、定格12Vである。
【0032】
組電池60、電流遮断装置53及び電流検出抵抗54は、パワーライン55P、パワーライン55Nを介して、直列に接続されている。パワーライン55P、55Nは、銅などの金属材料からなる板状導体であるバスバーBSBを用いることが出来る。パワーライン55P、パワーライン55Nは「電流経路」の一例である。
【0033】
パワーライン55Pは、正極の外部端子51と組電池60の正極とを接続するパワーラインである。パワーライン55Nは、負極の外部端子52と組電池60の負極とを接続するパワーラインである。
【0034】
電流遮断装置53は、組電池60の正極側に位置し、正極側のパワーライン55Pに設けられている。電流遮断装置53は、FETなどの半導体スイッチ又はリレーである。電流遮断装置53はノーマリクローズであり、正常時、クローズに制御される。
【0035】
バッテリ50の異常を検出した場合、電流遮断装置53をクローズからオープンに切り換えて電流Iを遮断することで、バッテリ50を保護することが出来る。
【0036】
電流検出抵抗54は、組電池60の負極に位置し、負極側のパワーライン55Nに設けられている。電流検出抵抗54の両端電圧Vrを検出することで、組電池60に流れる電流Iを計測することができる。
【0037】
電圧検出回路110は、各二次電池セル62の電圧Vと、組電池60の総電圧Vabを検出することができる。
【0038】
管理部130は、回路基板100上に実装されており、CPU131と、メモリ133と、通信部133を備える。管理部130は、「制御部」の一例である。
【0039】
メモリ133は、
図9に示す温度管理処理を実行するためのプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶する。データは、
図7に示すI-T特性X1、X2のデータを含む。I-T特性X1、X2のデータは、
図7のグラフを近似した近似式により保持してもよいし、IとTを対応付けて記憶したマップにより保持してもよい。
【0040】
管理部130は、電圧検出回路110、電流検出抵抗54、温度センサ58の出力に基づいて、バッテリ50の状態を管理する。通信部133は、信号線により車両ECU140に対し電気的に接続されており、車両ECU140と通信する。
【0041】
管理部130は、電流検出抵抗54の両端電圧Vrに基づいて、組電池60の電流Iを計測する。管理部130は、電圧検出回路110の出力に基づいて、各二次電池セル62の電圧Vを計測する。
【0042】
温度センサ58は、組電池60に固定されており、組電池60の温度を検出する。管理部130は、温度センサ58の出力に基づいて、組電池60の温度TCを監視する。
【0043】
バッテリ50は、組電池用の温度センサ58を除いて、温度センサを有していない。そのため、組電池60を除き、温度を計測することはできない。つまり、電流遮断装置53、電流検出抵抗54及びバスバーBSBなど、通電部品の温度についても、計測することは出来ない。
【0044】
管理部130は、組電池60を電源として動作し、所定の計測周期で計測される電流I、電圧V、温度TCのデータに基づいて、バッテリ50の状態を常時監視する。
【0045】
2.通電部品の温度管理と保護
電流遮断装置53、電流検出抵抗54、バスバーBSBは、組電池60の電流経路に位置する通電部品である。通電部品53、54、BSBは、組電池60の充放電に伴い、通電される部品である。通電部品53、54、BSBは、充放電に伴い、ジュール熱により発熱する。
【0046】
通電部品53、54、BSBが、異常発熱すると、劣化を早め安全性が低下することから、通電部品53、54、BSBの温度を管理することが望ましい。
【0047】
しかし、バッテリ50は、組電池用の温度センサ58を有しているが、通電部品53、54、BSBの温度を計測する温度センサは有していない。
【0048】
以下、組電池用の温度センサ58の計測値を利用して、通電部品である電流遮断装置53の温度を管理する構成について説明する。
【0049】
バッテリ50が熱的に平衡した状態では、通電部品である電流遮断装置53の温度は、組電池60の温度と一致する。電流遮断装置53は、組電池60よりも熱容量が小さく、充放電に伴う温度変化は、電流遮断装置53の方が組電池60より大きい。そのため、充放電により、組電池60に対する電流遮断装置53の温度差は大きくなる。
【0050】
図6は、電流遮断装置53のI-T特性である。I-T特性は、通電部品(電流遮断装置53)が、ジュール熱により温度変化する時の「電流の大きさI」と「電流の通電時間T」の関係を示したものである。
【0051】
図6は、ΔT=25℃のI-T特性であり、例えば、電流I=300[A]の場合、通電時間Tが約18[sec]で、電流遮断装置53は25℃上昇する。電流I=400[A]の場合、通電時間Tが約10[sec]で、電流遮断装置53は25℃上昇する。
【0052】
つまり、I-T特性を参照することにより、充放電開始後、電流遮断装置53の温度上昇が、第1閾値であるΔTcntになるまでの通電時間(以下、第1時間T1)を決定することが出来る。ΔTcntは、一例として、25℃である。
【0053】
充放電開始後(電流制限を行った場合、充放電再開後)、第1時間T1が経過した場合、電流制限を行う。電流制限は、通電部品である電流遮断装置53が、それ以上温度上昇しないように、電流をゼロ又は所定値以下に制限する処理である。例えば、
図8のt2、t6のタイミングで実行される。
【0054】
電流制限を所定期間継続することで、電流遮断装置53の温度上昇を抑制できることから、組電池60との温度差を小さくし、ΔTcnt以下に抑えることが出来る。そして、組電池60と電流遮断装置53の温度が、ほぼ平衡に戻った段階又は温度差が所定値以下になった段階で、電流制限を解除する。所定値はΔTcntよりも無論小さい。
【0055】
電流制限は、管理部130から車両ECU140に指示を送り、指示を受けた車両ECU140が実行する。
【0056】
管理部130が電流制限の指示を送っても、車両ECU140が、充電を優先して、電流制限を実行しない場合が考えられる。例えば、車両減速時、回生充電を優先して、電流制限を実行しないことが考えられる。
【0057】
車両ECU140が充電を優先して継続した場合、第1時間T1が経過して電流遮断装置53の温度変化がΔTcntに達した以降も、電流遮断装置53の温度は上昇する(
図8のt9以降)。
【0058】
第1時間T1経過後、温度上昇する電流遮断装置53が、許容温度Tmに到達するまでの温度変化ΔTmは、以下の(1)式で算出することが出来る。許容温度Tmは、電流遮断装置53が正常に動作し得る上限温度である。許容温度は、一例として、125℃である。
【0059】
ΔTm=Tm-(TCa+ΔTcnt)・・・・(1)
TCaは、充電再開から第1時間T1が経過した時点(
図8のA点)の組電池の温度である。ΔTcntは第1閾値である。
【0060】
(1)式の右辺2項は、充電再開から第1時間T1が経過した時点(
図8のA点)の電流遮断装置53の温度である。
【0061】
ΔTmに対する通電時間(以下、第2時間T2)は、組電池60の電流値と、電流遮断装置53のI-T特性により求めることが出来る。
【0062】
そのため、充電再開後(電流制限解除後の充電開始後)、第1時間T1が経過した時点(
図8のt9)から、第2時間T2が経過した段階(
図8のt10)で、電流遮断装置53をオープンして充電電流Icを遮断することで、電流遮断装置53を、許容温度Tm以下に抑えることが出来る。
【0063】
電流遮断装置53の温度制御は、
図7に示すように、ΔTcnt用とΔTm用の2つのI-T特性が少なくとも必要である。「X1」はΔTcnt用、「X2」はΔTm用である。
【0064】
ΔTcntは定数であるため、ΔTcnt用のI-T特性は1つだけでよい。ΔTmは充電開始から第1時間T1を経過した時点(時刻t9)における組電池60の温度に依存する。そのため、例えば、数V刻みで、ΔTm用のI-T特性を複数用意しておき、これらの中から、ΔTmの値に近いものを選択してもよい。
【0065】
図8は、充電中に電流制限を実行した時の組電池60と電流遮断装置53の温度特性を示す図であり、横軸は時間[sec]、縦軸は、充電電流[A]と温度[℃]である。「Y1」は組電池60の温度特性、「Y2」は電流遮断装置53の温度特性である。
【0066】
初期状態(時刻0)において、バッテリ50は熱的に平衡しており、電流遮断装置53の温度は、組電池60の温度とほぼ一致している。
【0067】
t1にて、充電がスタートし、組電池60は約400[A]で充電される。充電に伴うジュール熱で、組電池60と電流遮断装置53は温度上昇する。
【0068】
電流遮断装置53の温度変化が、t2にてΔTcntに達し、管理部130から車両ECU140に対して電流制限が指示される。
【0069】
電流制限中、充電電流Icは、車両ECU140により所定値以下(一例として、数A以下)に制御される。電流制限期間RTは約60秒であり、t2から60秒経過したt3にて、管理部130から車両ECU140に対して、電流制限の解除が指示される。
【0070】
電流制限時間RTは、温度上昇した電流遮断装置53がΔTcnt低下するのに必要な時間とすることが出来る。電流制限時間RTは、電流遮断装置53の温度変化の実験データから求めることができる。実験データに限らず、経験値を用いることができる。電流制限時間RTは、電流遮断装置53がΔTcnt低下するのに必要な時間に限らず、この時間を基準値として、所定比率α(一例として、0.8)を乗じて、調整することもできる。所定比率αは、車両システムとの協調性の観点から、決定することが出来る。
【0071】
t3以降、組電池60は約250[A]で充電される。その後、エンジンの回転数変化などにより、時刻t4の時点で充電電流Icは、ほぼ数A程度に減少している。
【0072】
t3~t4の期間、電流遮断装置53の温度変化は、ΔTcntよりも小さい。そのため、電流制限は実行されない。t4~t5の期間、充電電流Icは微小であり、充電はほぼ停止した状態である。
【0073】
t5にて充電を再開した以降、組電池60は約350[A]で充電される。充電再開後、t6にて第1時間T1が経過して電流遮断装置53の温度変化がΔTcntに達し、管理部130から車両ECU140に対して電流制限が指示される。
【0074】
電流制限期間RTは約60秒であり、t6から60秒経過したt7で、管理部130から車両ECU140に対して電流制限の解除が指示される。
【0075】
上記の通り、充放電開始後(電流制限を行った場合、充放電再開後)、電流遮断装置53の温度上昇がΔTcntに到達した場合、電流制限期間RTを設けることで、温度計測された組電池60に対する電流遮断装置53の温度差を、概ねΔTcnt以内に、制御することが出来る。
【0076】
t8~t10の期間、組電池60は、車両の減速に伴い、回生充電されている。t8で回生充電を開始した以降、時刻t9で第1時間T1が経過し、電流遮断装置53の温度上昇は、ΔTcntに達する。管理部130は、時刻t9にて、車両ECU140に対して電流制限を指示する。
【0077】
車両ECU140は回生充電の受け入れを優先して、充電を継続する結果(電流制限をしない)、回生充電の開始時点t8から電流遮断装置53の温度上昇が、時刻t9にてΔTcntに達しても、電流遮断装置53の温度は低下せず、その後も上昇する。
【0078】
管理部130は、電流制限が実行されない場合、上記の(1)式から第2時間T2を求め、t9から第2時間T2が経過するt10にて、電流遮断装置53に指令を送り、電流遮断装置53をオープンする。これにより、充電電流Icが遮断される。
【0079】
電流遮断により、電流遮断装置53の温度を許容温度Tm以下に抑制できる。電流遮断後、電流遮断装置53の温度は、時間経過と共に下がる。やがて、組電池60の温度と等しくなり、平衡する。
【0080】
図9は、電流遮断装置53の温度管理処理のフローチャートである。温度管理処理は、S10~S90により構成されており、充電又は放電の検出をトリガに実行される。以下、管理部130がオルタネータ150からバッテリ50への充電電流Icを検出して、温度管理処理をスタートさせた場合について説明する。
【0081】
管理部130は、温度管理処理がスタートすると、電流検出抵抗54の電流計測値から充電電流Icを検出する。そして、検出した充電電流IcとΔTcnt用のI-T特性(
図7に示すX1)に基づいて、充電電流Icに対する第1時間T1を、算出又決定する(S10)。具体的には、メモリ133に対してI-T特性を近似式で保持していた場合、近似式に基づいて、第1時間T1を算出する。メモリ133に対してI-T特性をマップにより保持していた場合、マップを参照することで、第1時間T1を決定する。
【0082】
管理部130は、その後、充電開始後(又は充電再開後)の充電時間、つまり、電流遮断装置53の通電時間TPをカウントする。例えば、
図8に示す時刻t1より通電時間TPをカントする。そして、通電時間TPが第1時間T1に達したか、判定する(S20)。通電時間TPが第1時間T1に達していない場合、待機状態になる。
【0083】
通電時間TPが第1時間T1に到達すると、管理部130は、車両ECU140に対して電流制限を指示する(S30)。
【0084】
その後、管理部130は、電流制御の指示後、充電電流Icが低下しているか、判定する(S40)。車両ECU140が指示に従って、オルタネータ150の出力を低下させていれば、充電電流Icは減少する。
【0085】
充電電流Icが想定値以下に減少している場合(S40:YES)、管理部130は、電流制限指令送信後の経過時間をカウントする(S50)。
【0086】
管理部130は、電流制限指令送信後の経過時間が電流制限期間RTに達すると、車両ECU140に対して電流制限解除を指示する(S60)。
【0087】
次にS40で、充電電流Icは想定値まで減少していないと判断した場合(電流制限が実行されなかった場合)、管理部130は、充電電流Icを検出する。そして、検出した充電電流Icを、ΔTm用のI-T特性(
図7のX2)に参照して、充電電流Icに対する第2時間T2を算出する(S70)。
【0088】
管理部130は、充電開始後(又は充電再開後)から第1時間経過後の通電時間(
図8に示す時刻t9以降の充電時間)TP2をカウントとし、電流遮断装置53の通電時間TP2が第2時間T2に達したか、判定する(S80)。通電時間TP2が第2時間T2に達していない場合、待機状態になる。
【0089】
通電時間TP2が第2時間T2に到達すると、管理部130は、電流遮断装置53に指令を与え、充電電流Icを遮断する(S90)。
【0090】
3.効果説明
この構成では、温度計測された組電池60に対する電流遮断装置53の温度差をΔTcnt以下に抑えることが出来る。そのため、充電および/または放電に伴って、電流遮断装置53が異常発熱することを抑制することが出来る。
【0091】
管理部130から車両ECU140に電流制限を指示しても、電流が制限されない場合、管理部130は、第2時間T2が経過した段階で、電流遮断装置53をオープンして電流を遮断する。
【0092】
電流の遮断により、電流遮断装置53の温度を許容温度Tm以下に抑えることが出来る。そのため、電流遮断装置53の異常発熱を抑制することが出来る。
【0093】
この構成は、電流遮断装置53など通電部品の温度管理が可能であることから、バッテリ50の安全性が高く、また通電部品の温度が許容値に達するまでは、バッテリ50を使用することが出来る。そのため、通電可能時間(充放電可能時間)を長期化できるメリットがあり、電池性能を最大限に発揮することが可能となる。
【0094】
<実施形態2>
実施形態1では、温度計測された組電池60に対する電流遮断装置53の温度差をΔTcnt以下に抑えた。
【0095】
通電部品は、組電池60の電流経路に位置する部品であればよく、電流遮断装置53以外に、電流検出抵抗54やバスバーBSBなどが有る。
【0096】
実施形態2では、複数の通電部品を対象として、温度管理を行う。
図10は、ΔTcntにおけるI-T特性である。「X1a」は第1通電部品のI-T特性、「X1b」は第2通電部品のI-T特性、「X1c」は第3通電部品のI-T特性である。「X1d」は組電池のI-T特性である。
【0097】
X1a~X1cの3つのI-T特性は、同一の電流値に対する通電時間が、X1a、X1b、X1cの順に短い。つまり、組電池60の充放電に伴い、第1通電部品(X1a)、第2通電部品(X1b)、第3通電部品(X1c)の順で、温度変化が大きい。
【0098】
管理部130は、I-T特性の異なる3つの通電部品のうち、温度変化が最も大きい、第1通電部品のI-T特性X1aに基づいて、第1時間T1を算出し、
図9に示す温度管理処理を実行する。
【0099】
このようにすることで、I-T特性がそれぞれ異なる3つの通電部品と、温度計測された組電池60と、の温度差をΔTcnt以下に保つことが出来る。第2通電時間T2も、第1時間T1と同様に、第1通電部品のI-T特性X1aに基づいて算出してもよい。
【0100】
<実施形態3>
実施形態3では、第1通電部品と第2通電部品のI-T特性が交差する場合について説明する。
【0101】
図11は、ΔTcntにおけるI-T特性である。X1aは第1通電部品のI-T特性、X1bは第2通電部品のI-T特性、X1dは組電池のI-T特性である。X1aとX1bは、B点で交差している。
【0102】
B点の左側の領域S1は、X1bの方がX1aよりも下方に位置している。領域S1において、同一の電流値に対する通電時間Tは、X1aよりもX1bの方が短いため、X1bの方が、温度変化が大きい。
【0103】
B点の右側の領域S2は、X1aの方がX1bよりも下方に位置している。領域S2において、同一の電流値に対する通電時間Tは、X1bよりもX1aの方が短いため、X1aの方が、温度変化が大きい。
【0104】
管理部130は、S1の領域(電流値がIs以下の領域)では、第2通電部品のI-T特性X1bに基づいて、第1時間T1を算出し、
図9に示す温度管理処理を実行する。B2の領域(電流値がIs以上の領域)では、第1通電部品のI-T特性X1aに基づいて、第1時間T1を算出し、
図9に示す温度管理処理を実行する。
【0105】
このようにすることで、I-T特性が交差する2つの通電部品の温度と、温度計測された組電池60と、の温度差をΔTcnt以下に保つことが出来る。第2通電時間T2も、第1時間T1と同様に、S1の領域では、第2通電部品のI-T特性X1bに基づいて算出し、S2の領域では、第1通電部品のI-T特性X1aに基づいて算出してもよい。
【0106】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0107】
(1)二次電池セル62は、リチウムイオン二次電池セルに限らず、他の非水電解質二次電池セルでもよい。また、鉛蓄電池セルでもよい。二次電池セル62は、複数を直並列に接続する場合に限らず、直列の接続や、単セルでもよい。
【0108】
(2)上記実施形態では、バッテリ50を車両用とした。バッテリ50の使用用途は、特定の用途に限定されない。バッテリ50は、移動体用(車両用や船舶用、AGVなど)や、産業用(無停電電源システムや太陽光発電システムの蓄電装置)など、種々の用途に使用してもよい。
【0109】
(3)上記実施形態1では、電流遮断装置53を対象として、
図9に示す温度管理処理を実行したがこれに限られない。例えば、電流検出抵抗54やバスバーBSBを対象として、
図9に示す温度管理処理を実行してもよい。
【0110】
(4)上記実施形態では、ΔTcntを25℃、電流遮断装置53の許容温度Tmを125℃としたが、これは一例であり、数値は異なっていてもよい。
【0111】
(5)上記実施形態では、第1時間T1、第2時間T2をI-T特性に基づいて決定した。第1時間T1、第2時間T2は、I2-T特性に基づいて決定してもよい。第1時間T1、第2時間T2は、二次電池セル62の充放電に伴って通電部品に発生するジュール熱、通電部品の熱容量の大きさになどに基づいて、計算で算出してもよい。
【0112】
(6)上記実施形態1では、
図9の温度管理処理を組電池60の充電中に実行した例を示した。
図9の温度管理処理は、組電池60の放電中に実行してもよい。つまり、組電池60の放電に伴う通電部品の通電時間Tが第1時間T1を超えた場合、組電池60に流れる電流を制限することで、組電池60と通電部品との温度差を第1閾値ΔTcnt以下にしてもよい。放電中に実行する場合、電流制限は負荷停止により実行可能である。
【0113】
(7)組電池60が「充電と放電」を行う場合、組電池60の「充電及び放電」に伴う通電部品の通電時間(充電電流による通電と放電電流による通電の合計時間)Tが、第1時間T1を超えた場合、組電池60に流れる電流を制限することで、組電池60と通電部品との温度差を第1閾値ΔTcnt以下にしてもよい。
【0114】
(8)実施形態1において、バッテリ50は、組電池用の温度センサ58のみ有し、通電部品の温度を計測する温度センサを有していない構成であった。バッテリ50は、少なくとも組電池用の温度センサ58を有していればよく、通電部品の温度を計測する温度センサは有している構成でも、有していない構成でもどちらでもよい。通電部品の温度を計測する温度センサを有している場合、温度センサの計測値による電流制限と本発明による電流制限を併用することで、組電池60と通電部品との温度差を、より確実に第1閾値ΔTcnt以下に抑えることが出来る。
【符号の説明】
【0115】
10 車両
50 バッテリ(蓄電装置)
53 電流遮断装置(通電部品)
54 電流検出抵抗(通電部品)
58 温度センサ(通電部品)
60 組電池(二次電池セル)
130 管理部(制御部)
140 車両ECU
150 オルタネータ