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特許7576253情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01C21/28
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023096366
(22)【出願日】2023-06-12
【審査請求日】2023-06-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、Beyond 5G研究開発促進事業「スマートモビ リティプラットフォームの実現に向けたドローン・自動運転車の協調制御プラットフォームの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】593154436
【氏名又は名称】アイサンテクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521545400
【氏名又は名称】株式会社マップフォー
(74)【代理人】
【識別番号】100147751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】大石 淳也
(72)【発明者】
【氏名】室山 晋也
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 修功
(72)【発明者】
【氏名】磯部 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 臨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友哉
(72)【発明者】
【氏名】橘川 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 一喜
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-138037(JP,A)
【文献】特表2022-542289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0306584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2023/0157506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データと、を取得するように構成される取得部であって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、取得部と、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築するように構成されるグラフ構築部と、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正するように構成される補正部と、
を備え
前記グラフ構築部は、
前記走行イベント毎に、前記走行区間を分割することによって定義される複数の小区間のそれぞれに対し前記車両の姿勢を表す頂点を設定するように、前記ポーズグラフを構築し、
前記第一の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第一の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第二の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第二の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第一の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、前記第二の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、に対するペアリングによって判別される、異なる走行イベント間で互いに対応する二つの頂点の組合せ毎に、対応する二つの頂点間の相対姿勢を判別し、判別した相対姿勢を表す辺を頂点間に設定し、
前記互いに対応する二つの頂点の組合せを、頂点間のユークリッド距離に基づき判別し、
前記対応する二つの頂点間の相対姿勢としての、前記第一の走行イベントに対応する第一の頂点と、前記第二の走行イベントに対応する第二の頂点との間の相対姿勢を、前記第一の走行データから判別される前記第一の頂点に対応する小区間の点群データと、前記第二の走行データから判別される前記第二の頂点に対応する小区間の点群データとの比較に基づいて判別する
ことによって、前記ポーズグラフを構築する情報処理システム。
【請求項2】
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データと、を取得するように構成される取得部であって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、取得部と、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築するように構成されるグラフ構築部と、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正するように構成される補正部と、
を備え
前記グラフ構築部は、前記第一の走行イベントに対して設定された前記複数の頂点に固定属性を与えることによって、当該複数の頂点を、前記ポーズグラフの最適化に際して不動であるように設定し、
前記補正部は、前記第二の走行データが表す前記車両の前記走行軌跡を補正する情報処理システム。
【請求項3】
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データと、を取得するように構成される取得部であって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、取得部と、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築するように構成されるグラフ構築部と、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正するように構成される補正部と、
を備え
前記計測システムは、前記計測結果として、計測値と共に前記計測値の予測誤差を出力するように構成され、
前記グラフ構築部は、前記ポーズグラフを構築する際、前記複数の頂点の少なくとも一部に対して、頂点毎に、前記予測誤差を表す固定頂点を、接続対象の頂点と前記固定頂点が同一姿勢であることを表す、頂点間の相対姿勢を表す辺を介して接続する情報処理システム。
【請求項4】
前記グラフ構築部は、前記走行イベント毎に、前記走行区間を分割することによって定義される複数の小区間のそれぞれに対し前記車両の姿勢を表す頂点を設定するように、前記ポーズグラフを構築する請求項2又は請求項3記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記グラフ構築部は、
前記第一の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第一の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第二の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第二の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第一の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、前記第二の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、に対するペアリングによって判別される、異なる走行イベント間で互いに対応する二つの頂点の組合せ毎に、対応する二つの頂点間の相対姿勢を判別し、判別した相対姿勢を表す辺を頂点間に設定し、
前記対応する二つの頂点間の相対姿勢としての、前記第一の走行イベントに対応する第一の頂点と、前記第二の走行イベントに対応する第二の頂点との間の相対姿勢を、前記第一の走行データから判別される前記第一の頂点に対応する小区間の点群データと、前記第二の走行データから判別される前記第二の頂点に対応する小区間の点群データとの比較に基づいて判別する
ことによって、前記ポーズグラフを構築する
請求項4記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記グラフ構築部は、前記対応する二つの頂点間の相対姿勢を、前記第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、前記第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいて判別する請求項1記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記グラフ構築部は、前記対応する二つの頂点間の相対姿勢を、前記第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、前記第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいて判別する請求項5記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記グラフ構築部は、頂点間のユークリッド距離に基づき、前記互いに対応する二つの頂点の組合せを判別するように構成される請求項5記載の情報処理システム。
【請求項9】
請求項1~請求項3のいずれか一項記載の情報処理システムにおける前記取得部と、前記グラフ構築部と、前記補正部として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データとを取得することであって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、前記取得することと、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築することと、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正することと、
を含み、
前記ポーズグラフを構築することは、
前記走行イベント毎に、前記走行区間を分割することによって定義される複数の小区間のそれぞれに対し前記車両の姿勢を表す頂点を設定するように、前記ポーズグラフを構築し、
前記第一の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第一の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第二の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第二の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第一の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、前記第二の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、に対するペアリングによって判別される、異なる走行イベント間で互いに対応する二つの頂点の組合せ毎に、対応する二つの頂点間の相対姿勢を判別し、判別した相対姿勢を表す辺を頂点間に設定し、
前記互いに対応する二つの頂点の組合せを、頂点間のユークリッド距離に基づき判別し、
前記対応する二つの頂点間の相対姿勢としての、前記第一の走行イベントに対応する第一の頂点と、前記第二の走行イベントに対応する第二の頂点との間の相対姿勢を、前記第一の走行データから判別される前記第一の頂点に対応する小区間の点群データと、前記第二の走行データから判別される前記第二の頂点に対応する小区間の点群データとの比較に基づいて判別すること
を含む情報処理方法。
【請求項11】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データとを取得することであって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、前記取得することと、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築することと、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正することと、
を含み、
前記ポーズグラフを構築することは、前記第一の走行イベントに対して設定された前記複数の頂点に固定属性を与えることによって、当該複数の頂点を、前記ポーズグラフの最適化に際して不動であるように設定することを含み、
前記補正することは、前記第二の走行データが表す前記車両の前記走行軌跡を補正することを含む情報処理方法。
【請求項12】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データとを取得することであって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、前記取得することと、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築することと、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正することと、
を含み、
前記計測システムは、前記計測結果として、計測値と共に前記計測値の予測誤差を出力するように構成され、
前記ポーズグラフを構築することは、前記複数の頂点の少なくとも一部に対して、頂点毎に、前記予測誤差を表す固定頂点を、接続対象の頂点と前記固定頂点が同一姿勢であることを表す、頂点間の相対姿勢を表す辺を介して接続して、前記ポーズグラフを構築することを含む情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理システム、情報処理方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたMMS(Mobile Mapping System)を用いて、三次元マップを生成することが行われている。MMSは、GPS受信機、レーザスキャナ、カメラ、慣性計測ユニット(IMU)等を備える計測システムである(例えば特許文献1参照)。
【0003】
レーザスキャナは、レーザ光を車両周囲に反射し、レーザ光が地形や構造物等に反射することにより生成された反射光を受光し、受光信号に基づき、車両周囲の空間形状を表す点群データを生成する。点群は、車両に対する相対座標系で表される。相対座標系の点群は、GPS受信機及びIMUを用いて判別される車両の走行軌跡から、絶対座標系の点群に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-138786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、絶対座標系の高精度な三次元マップを生成するためには、車両の走行軌跡を正確に判別する必要がある。しかしながら、MMSを用いた計測データには、誤差が含まれる。
【0006】
そこで、本開示の一側面によれば、誤差を含む車両の走行軌跡を高精度に補正可能な技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面によれば、情報処理システムが提供される。情報処理システムは、取得部と、グラフ構築部と、補正部とを備える。
取得部は、車両の第一の走行イベントにおける車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく車両の走行区間における第一の走行データと、第一の走行イベントと同一区間を車両が走行する第二の走行イベントにおける計測システムの計測結果に基づく車両の走行区間における第二の走行データと、を取得するように構成される。第一の走行データ及び第二の走行データは、それぞれ、走行区間における車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む。
【0008】
グラフ構築部は、取得された第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築するように構成される。
【0009】
補正部は、構築されたポーズグラフを最適化することによって調整されたポーズグラフが有する各頂点が表す車両の姿勢に基づき、第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す車両の走行軌跡を補正するように構成される。
【0010】
この情報処理システムによれば、同一区間の複数の走行データに基づくポーズグラフの最適化によって、特には、異なる走行イベントの点群データの比較に基づく走行イベント間の相対姿勢を加味したポーズグラフの最適化によって、高精度に車両の走行軌跡を補正することができる。
【0011】
本開示の一側面によれば、グラフ構築部は、走行イベント毎に、走行区間を分割することによって定義される複数の小区間のそれぞれに対し車両の姿勢を表す頂点を設定するように、ポーズグラフを構築することができる。小区間毎に頂点を設定し、各頂点に対応する点群データに基づいて走行イベント間の相対姿勢を判別することによれば、ポーズグラフの最適化によって、高精度に車両の走行軌跡を補正することができる。
【0012】
本開示の一側面によれば、グラフ構築部は、次のようにポーズグラフを構築するように構成されてもよい。グラフ構築部は、第一の走行イベントについて、複数の小区間のそれぞれの車両の姿勢を第一の走行データに基づいて判別し、小区間毎に、判別された車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定する。
【0013】
グラフ構築部は、第二の走行イベントについて、複数の小区間のそれぞれの車両の姿勢を第二の走行データに基づいて判別し、小区間毎に、判別された車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定する。
【0014】
グラフ構築部は、第一の走行イベントに関して設定された小区間毎の頂点と、第二の走行イベントに関して設定された小区間毎の頂点と、に対するペアリングによって判別される、異なる走行イベント間で互いに対応する二つの頂点の組合せ毎に、対応する二つの頂点間の相対姿勢を判別し、判別した相対姿勢を表す辺を頂点間に設定する。
【0015】
グラフ構築部は、対応する二つの頂点間の相対姿勢としての、第一の走行イベントに対応する第一の頂点と、第二の走行イベントに対応する第二の頂点との間の相対姿勢を、第一の走行データから判別される第一の頂点に対応する小区間の点群データと、第二の走行データから判別される第二の頂点に対応する小区間の点群データとの比較に基づいて判別する。
【0016】
本開示の一側面によれば、グラフ構築部は、対応する二つの頂点間の相対姿勢を、第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいて判別するように構成されてもよい。
【0017】
こうした点群データの比較に基づけば、頂点間の相対姿勢を更に精度よく判別することができ、ポーズグラフ最適化を通じて、高精度に走行軌跡を補正することが可能である。
【0018】
本開示の一側面によれば、グラフ構築部は、頂点間のユークリッド距離に基づき、互いに対応する二つの頂点の組合せを判別するように構成されてもよい。
【0019】
本開示の一側面によれば、グラフ構築部は、第一の走行イベントに対して設定された複数の頂点に固定属性を与えることによって、当該複数の頂点を、ポーズグラフの最適化に際して不動であるように設定してもよい。この場合、補正部は、第二の走行データが表す車両の走行軌跡を補正するように構成され得る。
【0020】
補正済の走行データなど信頼性の高い走行データを第一の走行データとして用いて、第二の走行データを補正することが考えられる。このようなケースにおいて、第一の走行イベントに関する頂点を固定属性に設定して、ポーズグラフ最適化を行い、第二の走行データを補正することによれば、適切に第二の走行データを補正可能である。
【0021】
本開示の一側面によれば、計測システムは、計測結果として、計測値と共に計測値の予測誤差を出力するように構成されてもよい。グラフ構築部は、ポーズグラフを構築する際、複数の頂点の少なくとも一部に対して、頂点毎に、予測誤差を表す固定頂点を、接続対象の頂点と固定頂点が同一姿勢であることを表す、頂点間の相対姿勢を表す辺を介して接続するように構成されてもよい。
【0022】
このようにポーズグラフを構築することによれば、予測誤差を加味して、走行データを高精度に補正することが可能である。
本開示の一側面によれば、コンピュータプログラムであって、上述した情報処理システムにおける取得部と、グラフ構築部と、補正部としての機能を少なくとも部分的にコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムが提供されてもよい。
【0023】
本開示の一側面によれば、上述の情報処理システムに対応する情報処理方法が提供されてもよい。本開示の一側面によれば、コンピュータにより実行される情報処理方法が提供されてもよい。
【0024】
本開示の一側面によれば、情報処理方法は、車両の第一の走行イベントにおける車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく車両の走行区間における第一の走行データと、第一の走行イベントと同一区間を車両が走行する第二の走行イベントにおける計測システムの計測結果に基づく車両の走行区間における第二の走行データとを取得することを含み得る。第一の走行データ及び第二の走行データは、それぞれ、走行区間における車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含み得る。
【0025】
情報処理方法は、取得された第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築することを含み得る。
【0026】
情報処理方法は、構築されたポーズグラフを最適化することによって調整されたポーズグラフが有する各頂点が表す車両の姿勢に基づき、第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す車両の走行軌跡を補正すること、を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】補正装置の構成を表すブロック図である。
図2】走行データに関する説明図である。
図3】プロセッサが実行する補正関連処理を表すフローチャートである。
図4】三次元点群データの生成に関する説明図である。
図5】ポーズグラフの生成に関する説明図である。
図6】プロセッサが実行するイベント間接続処理を表すフローチャートである。
図7】異なる走行イベント間の頂点の接続に関する説明図である。
図8図8A及び図8Bは、予測誤差に対応する頂点の追加に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態の補正装置10は、汎用の情報処理システムに、当該情報処理システムを補正装置10として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされることによって構成される。
【0029】
補正装置10は、プロセッサ11と、メモリ13と、ストレージ15と、表示部17と、操作部19と、データ入出力部21とを備える。プロセッサ11は、ストレージ15に格納されたコンピュータプログラムに従う処理を実行する。メモリ13は、RAMを備え、プロセッサ11による処理実行時に作業用メモリとして使用される。
【0030】
ストレージ15は、ハードディスクドライブ又はソリッドステートドライブにより構成され、コンピュータプログラム、及び、コンピュータプログラムに従う処理の実行時に使用されるデータを記憶する。
【0031】
表示部17は、プロセッサ11により制御されて、補正装置10を操作するユーザに対し、各種情報を表示するように構成される。表示部17は、例えば液晶ディスプレイを含む。
【0032】
操作部19は、補正装置10に対するユーザからの操作信号をプロセッサ11に入力するように構成される。操作部19は、例えばキーボード及びポインティングデバイスを含む。
【0033】
データ入出力部21は、外部からのデータ入力及び外部へのデータ出力に使用される。データ入出力部21は、例えば有線又は無線により外部機器と通信する通信インタフェースを備えることができる。データ入出力部21は、USBメモリに対するデータの読込及び書込が可能なUSBインタフェースを備えることができる。データ入出力部21は、カード型の記録メディアに対するデータの読込及び書込が可能なメディアリーダ/ライタを備えることができる。
【0034】
本実施形態によれば、ストレージ15には、一台の車両1から得られた複数の走行データが記憶される(図2参照)。各走行データは、データ入出力部21を通じて補正装置10に入力され、ストレージ15に記録される。走行データは、例えば、通信により車両1から取得され、ストレージ15に記録される。あるいは、走行データは、USBメモリ又はその他の記録メディアから読み込まれて、ストレージ15に記録される。
【0035】
車両1は、例えば四輪自動車である。ストレージ15には、一台の車両1が同一区間を複数回走行したときの、走行イベント毎の走行データが記録される。ここでは、一台の車両1が同一区間を複数回走行するときの、各回の走行を、一つの走行イベントと表現する。
【0036】
車両1には、計測システムとしてMMS5(Mobile Mapping System)が搭載される。MMS5は、図示しないGPS受信機と、レーザスキャナと、カメラと、慣性計測ユニット(IMU)とを含み、車両1の位置x,y,z及び回転姿勢ψ,θ,φ、並びに、車両1周囲の空間形状を計測可能であるように構成される。
【0037】
走行イベント毎の走行データは、対応する走行イベントにおけるMMS5の計測結果に基づく車両1の走行データである。具体的には、走行イベント毎の走行データは、対応する走行イベントでのMMS5の計測データから生成された車両1の走行軌跡を表す走行軌跡データと、この走行軌跡に沿う車両1の移動に伴って計測された車両1周囲の空間形状を表すスキャンデータの一群とを備える。
【0038】
走行軌跡データは、対応する走行イベントにおける車両1の位置x,y,z及び回転姿勢ψ,θ,φの時系列データである。走行軌跡データは、各時点での車両1の三次元位置x,y,z及び回転姿勢ψ,θ,φを、計測日時を表すタイプスタンプとともに記述する時系列データであり得る。
【0039】
車両1の位置zは、地面に垂直な高さ方向の位置を表す。車両1の位置x,yは、高さ方向に直交する平面上での車両1の位置を表す。車両1の回転姿勢ψ,θ,φは、それぞれ順に、車両1のロール角、ピッチ角、ヨー角に対応する。
【0040】
スキャンデータのそれぞれは、MMS5に含まれるレーザスキャナがレーザ光を車両1の周囲に反射し、その反射光を受信することにより生成される。レーザスキャナは、二次元レーザスキャナである。
【0041】
各スキャンデータは、車両1が一地点に存在するときの当該一地点から見た周囲、例え車両1の進行方向に垂直な平面上の空間形状を、一地点からの相対座標系で表す二次元点群データである。車両1が移動することにより生成される複数のスキャンデータの組合せにより、車両1周囲の三次元形状を表す三次元点群データが生成される。
【0042】
このようにMMS5から得られるスキャンデータは、相対座標系で表されるデータであることから、走行軌跡データから判別される車両1の位置及び回転姿勢に含まれる誤差は、三次元点群データの生成及び絶対座標化に際し、点群の位置誤差を生じさせる。
【0043】
補正装置10は、このような誤差を走行軌跡データから取り除くための処理を、複数の走行イベントにおける同一区間のスキャンデータを用いたポーズグラフ最適化によって実現する。
【0044】
ポーズグラフ最適化は、既存ライブラリを活用して実現することができる。例えばポーズグラフ最適化には、g2oライブラリのSparseOptimizerを用いることができる。ポーズグラフを構成する頂点及び辺の設定には、例えばVertexSE3,EdgeSE3を用いることができる。
【0045】
プロセッサ11は、操作部19を通じて、ユーザから実行指示が入力されると、走行軌跡データの補正のために、図3に示す補正関連処理を実行する。
【0046】
補正関連処理を開始すると、プロセッサ11は、ユーザから指定された走行区間(以下、指定区間という)を車両1が走行する複数の走行イベントに対応する複数の走行データをストレージ15から読み出す(S110)。この読み出しにより、プロセッサ11は、複数の走行データとして、車両1が同じ指定区間を複数回走行したときの走行イベント毎の走行データを取得する(S110)。
【0047】
具体的に、プロセッサ11は、車両1の第一の走行イベントにおける車両1の指定区間での走行に関する第一の走行データと、第一の走行イベントとは異なる走行イベントであって、第一の走行イベントと同じ指定区間を車両1が走行する第二の走行イベントにおける車両1の指定区間での走行に関する第二の走行データとを取得することができる(S110)。
【0048】
続いて、プロセッサ11は、走行イベントの一つを選択し(S120)、選択した走行イベントの走行データに含まれる走行軌跡データ及びスキャンデータの一群に基づき、小区間毎に、三次元点群データを生成する(S130)。
【0049】
小区間は、指定区間を分割して定義される。例えば、指定区間は、走行軌跡に沿って等距離間隔で複数の小区間に分割される。例えば、小区間は、指定区間内の走行軌跡を所定距離間隔で断片化したときの各断片の始点から終点までの区間である。
【0050】
三次元点群データは、図4に示すように、対応する小区間の走行時に生成された複数のスキャンデータを走行軌跡に沿って結合することにより生成される。例えば、三次元点群データは、指定区間内において車両1が所定距離進む毎に生成される。
【0051】
続くS140において、プロセッサ11は、上記選択した走行イベントの走行軌跡データに基づき、小区間毎に、ポーズグラフの頂点を設定する。各頂点には、対応する小区間における、走行軌跡データから特定される車両1の姿勢V、すなわち車両1の位置x,y,z及び回転姿勢ψ,θ,φが関連付けられる。
【0052】
すなわち、各頂点は、対応する小区間における車両1の姿勢V=(x,y,z,ψ,θ,φ)を表す。各頂点に関連付けられる車両1の姿勢V=(x,y,z,ψ,θ,φ)は、例えば、対応する小区間において最後に計測された姿勢V=(x,y,z,ψ,θ,φ)であり得る。
【0053】
続くS150において、プロセッサ11は、上記選択した走行イベントの走行軌跡データに基づき、隣接する頂点間を結ぶ辺として、車両1の相対姿勢を表す辺をポーズグラフに追加することにより、対応する走行イベントのポーズグラフを構築する。辺の情報行列には、固定値の行列が用いられる。知られているように情報行列は、頂点間の関係性を表す辺の不確かさを表す行列である。
【0054】
プロセッサ11は、S120~S150の処理を走行イベント毎に、対応する走行イベントの走行データを用いて実行することにより、図5に示すように、走行イベント毎のポーズグラフを構築する。図5において示される一重の丸印は、第一の走行イベントに関する頂点を表す。二重の丸印は、第二の走行イベントに関する頂点を表す。頂点間を結ぶ矢印は、頂点間の辺に対応する。
【0055】
ここで構築される各走行イベントのポーズグラフは、異なる走行イベントのポーズグラフとは非連結のポーズグラフである。各ポーズグラフの頂点及び辺には、各頂点及び辺がどの走行イベントに属しているかを表すイベントIDが関連付けられる。このID情報は、ポーズグラフと共に管理される。
【0056】
プロセッサ11は、全走行イベントを選択し、走行イベント毎のポーズグラフの構築が完了したと判断すると(S160でYes)、S170において図6に示すイベント間接続処理を実行する。それにより、プロセッサ11は、異なる走行イベントのポーズグラフ間に補正情報を追加する。
【0057】
プロセッサ11は、図6に示すイベント間接続処理(S170)を開始すると、S171において、異なる走行イベント間の頂点のペアリングを行う。具体的には、プロセッサ11は、走行イベントの異なる二つの頂点の組合せ毎に、当該二つの頂点間の三次元座標系(x,y,z)におけるユークリッド距離を算出する。プロセッサ11は、ユークリッド距離が閾値以内にある二つの頂点の組合せのそれぞれを、ペアと判別する。以下、このペアのことを頂点ペアと表現する。
【0058】
続くS173において、プロセッサ11は、各頂点ペアについて、頂点ペアを構成する第一の頂点に対応する小区間の三次元点群データと、頂点ペアを構成する第二の頂点に対応する小区間の三次元点群データとを用いたスキャンマッチングを行う。
【0059】
スキャンマッチングは、第一の頂点に対応する小区間の三次元点群データと第二の頂点に対応する小区間の三次元点群データとを比較する処理を含む。スキャンマッチングによって、プロセッサ11は、頂点ペア毎に、第一の頂点と第二の頂点との間の相対姿勢を判別する。
【0060】
続くS175において、プロセッサ11は、頂点ペア毎に、第一の頂点と第二の頂点とを結ぶ辺であって、スキャンマッチングにより判別された第一の頂点に対する第二の頂点の相対姿勢を表す辺を、図7に示すように第一の頂点と第二の頂点との間に追加する。この辺の情報行列には固定値の行列を用いることができる。図7において一点鎖線に囲まれた二つの頂点は、頂点ペアを構成する第一の頂点及び第二の頂点に対応する。破線矢印は、第一の頂点と第二の頂点とを結ぶ辺に対応する。
【0061】
スキャンマッチングには、例えばGeneralized Iterative Closest Point(GICP)を用いることができる。一例によれば、プロセッサ11は、S173,S175の処理によって、スキャンマッチングにより、各頂点ペアのフィットネススコア(FitnessScore)を算出する。プロセッサ11は、フィットネススコアが閾値以下である頂点ペアに関しては、第一の頂点の三次元点群と、第二の頂点の三次元点群とが、マッチしていると判断し、第一の頂点と第二の頂点との間に上記相対姿勢の辺を追加することができる。
【0062】
一例によれば、プロセッサ11は、スキャンマッチングの精度向上のために、頂点ペアを構成する第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、頂点ペアを構成する第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいてスキャンマッチングを行うことができる。
【0063】
具体的には、プロセッサ11は、頂点ペアを構成する第一の頂点を含む、走行軌跡に沿う第一の頂点の前後K個の頂点の三次元点群を足し合せた三次元点群データと、頂点ペアを構成する第二の頂点を含む、走行軌跡に沿う第二の頂点の前後K個の点の三次元点群を足し合わせた三次元点群データと、を用いたスキャンマッチングを実行することができる。値Kは、二以上の任意の自然数である。
【0064】
この他、走行イベント間の三次元点群の重なりが少ない区間では、三次元点群が薄いために、スキャンマッチングの精度が悪く、更には、スキャンマッチングにかかる計算時間が増える傾向がある。
【0065】
従って、プロセッサ11は、第一の頂点に対応する小区間の三次元点群と、第二の頂点に対応する小区間の三次元点群と、の間の重なり率を算出し、重なり率が閾値以下であるときには、対応する第一の頂点と第二の頂点との間のスキャンマッチングを実行しないように動作してもよい。
【0066】
更に言えば、GICPのフィットネススコアは、ソース側の点の近くにターゲット側の点がないと、大幅に悪化する。MMS5により得られる三次元点群は、MMS5の計測範囲が短い性質上、点群同士の重なりが小さい傾向にある。このため、全体的にフィットスコアは、小さく算出される傾向にある。従って、ソース側の点のうち、一定距離内にターゲット側の点がない点については、事前に除去してからGICPに基づくスキャンマッチングが行われてもよい。
【0067】
S173,S175において、頂点ペア毎の、スキャンマッチングに基づく第一の頂点と第二の頂点との間の辺の追加が完了すると、プロセッサ11は、図6に示すイベント間接続処理を終了し、S180(図3参照)の処理を実行する。
【0068】
S180において、プロセッサ11は、各走行イベントのポーズグラフに含まれる複数の頂点に関して、図8A及び図8Bに示すように、各頂点に、単位行列の辺を接続すると共に、この辺にMMS5から得られる予測誤差を表す頂点を接続する。予測誤差を表す頂点は、図8A及び図8Bにおいて、X記号が内側に記された円に対応する。このようにして、プロセッサ11は、予測誤差に関する情報を、ポーズグラフに組み込む。
【0069】
MMS5は、上記計測データとして、計測値と共に計測値の予測誤差を出力するように構成される。予測誤差を表す頂点は、例えばsetFixedによって固定頂点として定義される。固定頂点と当該固定頂点に接続される頂点との間には、これらを接続する辺として、相対姿勢を単位行列で表す辺が追加される。これにより、固定頂点の姿勢Vは、これに接続される頂点と同一の姿勢Vに設定される。すなわち、単位行列の辺は、接続対象の頂点と固定頂点が同一姿勢であることを表す、頂点間の相対姿勢を表す辺である。
【0070】
プロセッサ11は、各固定頂点に接続される上記辺に、情報行列として、MMS5により出力された予測誤差に基づいた情報行列を設定する。プロセッサ11は、固定頂点と接続される頂点の姿勢Vと同一時刻の予測誤差に基づいて、予測誤差水平成分と、予測誤差垂直成分と、を算出することができる。プロセッサ11は、予測誤差水平成分を、予測誤差のX成分及びY成分の二乗和の平方根として、算出することができる。プロセッサ11は、予測誤差垂直成分を、予測誤差のZ成分として算出することができる。
【0071】
これらの予測誤差は、実際の誤差より小さい値を示す傾向を有するため、プロセッサ11は、上記算出した予測誤差水平成分及び予測誤差垂直成分を、一定の倍率で大きい値に変換し、更には、変換後の値に対して一定のオフセット値を加算することにより、調整することができる。
【0072】
プロセッサ11は、調整後の予測誤差水平成分及び予測誤差垂直成分に基づいて情報行列を設定することができる。情報行列は、6×6の対角行列である。6自由度座標系(x,y,z,ψ,θ,φ)が定義されるとき、(0,0)、(1,1)成分には調整後の予測誤差水平成分の二乗の逆数、(2,2)成分に調整後の予測誤差垂直成分の二乗の逆数を、代入することができる。(3,3)~(5,5)成分には固定値を設定することができる。
【0073】
続くS190において、プロセッサ11は、S180までの処理によって構築が完了したポーズグラフを、最適化する。最適化は、上述した通り、SparseOptimizerを用いて実現することができる。
【0074】
最適化は、例えば、ポーズグラフにおける各辺の持つ相対姿勢制約と実際の頂点間の相対姿勢の差に制約の確からしさ(不確実さの逆数)をかけ合わせたものを、全ての辺について足し合わせたものを評価関数として、この評価関数の最小化問題を解くことによって実現される。
【0075】
最適化によって、各グラフの頂点の姿勢Vは、評価関数を最小にするように調整される。すなわち、最適化によって、各グラフの頂点の姿勢Vは補正される。頂点の姿勢Vは、補正後の値に変更される。
【0076】
続くS200において、プロセッサ11は、補正前の頂点の姿勢Vと、補正後の頂点の姿勢V’との間の相対姿勢を表す4x4の同時変換行列E=V’*V-1を計算する。
【0077】
続くS210において、プロセッサ11は、各走行イベントの走行データに含まれる走行履歴データを補正する。すなわち、第一の走行イベント及び第二の走行イベントの走行履歴データを補正する。プロセッサ11は、S200で算出した同時変換行列Eを、補正前の走行軌跡データが示す走行軌跡の姿勢Vに対して左から掛け合わせることで、補正後の走行軌跡データを生成することができる。補正後の走行軌跡データは、各時刻における車両1の補正後の姿勢V’を表す当該姿勢V’の時系列データである。
【0078】
S210において、プロセッサ11は更に、この同時変換行列Eを、補正前の三次元点群データが示す三次元点群に対して左から掛け合わせることで、補正後の三次元点群データを生成し、対応する走行データに補正後の三次元点群データを含ませることができる。その後、プロセッサ11は、図3に示す補正関連処理を終了する。
【0079】
以上に説明した本実施形態の補正装置10によれば、点群データを用いたスキャンマッチングにより、走行イベント間の相対姿勢に関する情報をポーズグラフに追加する。このように構築されたポーズグラフの最適化、すなわち、走行イベント間の相対姿勢を加味したポーズグラフの最適化によれば、高精度に車両1の走行軌跡データ及び三次元点群データを補正することができる。
【0080】
本実施形態によれば、スキャンマッチングを、第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいて実現する。この手法によれば、情報量の多い三次元点群データの比較に基づいてスキャンマッチングを実現するため、高精度に走行軌跡データ及び三次元点群データを補正することが可能である。
【0081】
本実施形態によれば更に、MMS5から出力される予測誤差の情報をも加味してポーズグラフの最適化を行うため、高精度に走行軌跡データ及び三次元点群データを補正することが可能である。すなわち、最適化に際して頂点が動く範囲に予測誤差に応じた制限がかかることになるため、予測誤差情報に合致する形でポーズグラフを最適化して、高精度に走行軌跡データ及び三次元点群データを補正することが可能である。
【0082】
[変形例]
上記補正関連処理で読み出される複数の走行データには、信頼性の高い走行データが含まれ得る。信頼性の高い走行データは、過去に補正された経験を有する走行データであり得る。補正は、例えば、補正関連処理とは別の手段で実現され得る。別の手段の例には、人による手作業が含まれ得る。
【0083】
この場合、信頼性の高い走行データに基づくポーズグラフの頂点群については、これらの頂点を動かさないように、最適化を行うことが考えられる。すなわち、プロセッサ11は、信頼性の高い走行データを固定データと取り扱って、ポーズグラフ最適化を行うことができる。
【0084】
具体的には、プロセッサ11は、S130~S150の処理を実行する際に、S120で選択された走行イベントに対応する走行データが信頼性の高い走行データであるか否かを判断し、信頼性の高い走行データである場合には、S140で、対応する走行データに基づく各頂点に固定属性を与えることができる。
【0085】
例えば、プロセッサ11は、頂点に対して、setFixedの属性を与えることによって、頂点に固定属性を与えることができる。この場合、固定属性が与えられた頂点間に相対姿勢の情報を追加する必要はない。プロセッサ11は更に、固定属性が与えられた頂点に対しては、S180で予測誤差に関する固定頂点を接続しないように、補正関連処理を実行することができる。
【0086】
この場合、固定属性が与えられた頂点については、頂点の姿勢が不動に固定された状態で、ポーズグラフの最適化が行われる。すなわち、S190では、複数の走行データのうち、固定データ以外の走行データに対応する頂点の姿勢に対して補正が行われる。プロセッサ11は、この補正結果に基づいて、固定データ以外の走行データに対して、走行履歴データ及び三次元点群データの補正を行うことができる(S200,S210)。
【0087】
[その他の実施形態]
本開示は、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、種々の態様を採り得ることは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、既存ライブラリを活用する例を説明したが、図3に示す補正関連処理は、既存ライブラリを活用せずに実現されてもよい。MMS5には、三次元点群データを生成可能な3Dスキャナが搭載されてもよく、3Dスキャナにより生成された三次元点群データに基づいてスキャンマッチングが行われてもよい。
【0088】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0089】
[本明細書が開示する技術思想]
本明細書には、次の技術思想が開示されていると理解することができる。
[項目1]
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データと、を取得するように構成される取得部であって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、取得部と、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築するように構成されるグラフ構築部と、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正するように構成される補正部と、
を備える情報処理システム。
[項目2]
前記グラフ構築部は、前記走行イベント毎に、前記走行区間を分割することによって定義される複数の小区間のそれぞれに対し前記車両の姿勢を表す頂点を設定するように、前記ポーズグラフを構築する項目1記載の情報処理システム。
[項目3]
前記グラフ構築部は、
前記第一の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第一の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第二の走行イベントについて、前記複数の小区間のそれぞれの前記車両の姿勢を前記第二の走行データに基づいて判別し、前記小区間毎に、判別された前記車両の姿勢を表す頂点を設定し、設定した頂点間に相対姿勢を表す辺を設定し、
前記第一の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、前記第二の走行イベントに関して設定された前記小区間毎の頂点と、に対するペアリングによって判別される、異なる走行イベント間で互いに対応する二つの頂点の組合せ毎に、対応する二つの頂点間の相対姿勢を判別し、判別した相対姿勢を表す辺を頂点間に設定し、
前記対応する二つの頂点間の相対姿勢としての、前記第一の走行イベントに対応する第一の頂点と、前記第二の走行イベントに対応する第二の頂点との間の相対姿勢を、前記第一の走行データから判別される前記第一の頂点に対応する小区間の点群データと、前記第二の走行データから判別される前記第二の頂点に対応する小区間の点群データとの比較に基づいて判別する
ことによって、前記ポーズグラフを構築する
項目2記載の情報処理システム。
[項目4]
前記グラフ構築部は、前記対応する二つの頂点間の相対姿勢を、前記第一の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データと、前記第二の頂点に対応する小区間を含む近接する複数の小区間の点群データとの比較に基づいて判別する項目3記載の情報処理システム。
[項目5]
前記グラフ構築部は、頂点間のユークリッド距離に基づき、前記互いに対応する二つの頂点の組合せを判別するように構成される項目3又は項目4記載の情報処理システム。
[項目6]
前記グラフ構築部は、前記第一の走行イベントに対して設定された前記複数の頂点に固定属性を与えることによって、当該複数の頂点を、前記ポーズグラフの最適化に際して不動であるように設定し、
前記補正部は、前記第二の走行データが表す前記車両の前記走行軌跡を補正する項目1~項目5のいずれか一項記載の情報処理システム。
[項目7]
前記計測システムは、前記計測結果として、計測値と共に前記計測値の予測誤差を出力するように構成され、
前記グラフ構築部は、前記ポーズグラフを構築する際、前記複数の頂点の少なくとも一部に対して、頂点毎に、前記予測誤差を表す固定頂点を、接続対象の頂点と前記固定頂点が同一姿勢であることを表す、頂点間の相対姿勢を表す辺を介して接続する
項目1~項目6のいずれか一項記載の情報処理システム。
[項目8]
項目1~項目7のいずれか一項記載の情報処理システムにおける前記取得部と、前記グラフ構築部と、前記補正部として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
[項目9]
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
車両の第一の走行イベントにおける前記車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく前記車両の走行区間における第一の走行データと、前記第一の走行イベントと同一区間を前記車両が走行する第二の走行イベントにおける前記計測システムの計測結果に基づく前記車両の前記走行区間における第二の走行データとを取得することであって、前記第一の走行データ及び第二の走行データが、それぞれ、前記走行区間における前記車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む、前記取得することと、
取得された前記第一及び第二の走行データに基づいて、走行イベント毎に、複数の時点での前記車両の姿勢を表す複数の頂点を設定したポーズグラフであって、異なる走行イベントの頂点間には、頂点に対応する車両周囲の点群データの比較に基づいた頂点間の相対姿勢を表す辺を追加したポーズグラフを構築することと、
構築された前記ポーズグラフを最適化することによって調整された前記ポーズグラフが有する各頂点が表す前記車両の姿勢に基づき、前記第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す前記車両の前記走行軌跡を補正することと、
を含む情報処理方法。
【符号の説明】
【0090】
1…車両、5…MMS,10…補正装置、11…プロセッサ、13…メモリ、15…ストレージ、17…表示部、18…操作部、21…データ入出力部。
【要約】
【課題】車両の走行軌跡を高精度に補正可能な技術を提供する。
【解決手段】第一の走行イベントにおける車両に搭載された計測システムの計測結果に基づく車両の第一の走行データが取得される。更に、第一の走行イベントと同一区間を車両が走行する第二の走行イベントにおける車両の走第二の走行データが取得される(S110)。第一の走行データ及び第二の走行データは、それぞれ、車両の走行軌跡を表すデータ及び周囲の空間形状を表す点群データを含む。グラフ構築部は、第一及び第二の走行データに基づいて、ポーズグラフを構築する(S120-S180)。補正部は、構築されたポーズグラフを最適化することによって調整されたポーズグラフが有する各頂点が表す車両の姿勢に基づき、第一の走行データ及び第二の走行データの少なくとも一方が表す車両の走行軌跡を補正する(S190-S210)。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8