(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】遠隔操作ピペット装置及びピペットのロボットアームへの取付け構造
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20241024BHJP
B25J 7/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B01L3/02 D
B25J7/00
(21)【出願番号】P 2021017197
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590006402
【氏名又は名称】株式会社ニチリョー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100093089
【氏名又は名称】佐久間 滋
(72)【発明者】
【氏名】大手山 亮
(72)【発明者】
【氏名】森本 俊一
(72)【発明者】
【氏名】羽田 真悟
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-520719(JP,A)
【文献】特開2008-000717(JP,A)
【文献】特開2006-058342(JP,A)
【文献】特開2008-096456(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132398(WO,A1)
【文献】特開平02-106288(JP,A)
【文献】特開平10-029177(JP,A)
【文献】特開2006-090836(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0104866(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
B25J 7/00
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を出力するマスター側リニアエンコーダ(34)が設けられ、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、
前記マスター側リニアエンコーダ(34)からの信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、
該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させる
ことを特徴とする
、遠隔操作ピペット装置。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A)は前記第1のプランジャ(33)の押し下げ力に反発する弾性手段(41)が設けられ、
また
前記スレーブ側ピペット(13B)は弾性手段が設けられないか又は前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)の原点位置確認用の比較的小さな弾性力の弾性手段(41a)が設けられる、
遠隔操作ピペット装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する、
遠隔操作ピペット装置。
【請求項4】
第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A1)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A1)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A1)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を出力するマスター側リニアエンコーダ(92)付きリニアサーボモータ(91)が設けられ、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、
前記マスター側リニアエンコーダ(92)からの信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、
該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させる
ことを特徴とする
、遠隔操作ピペット装置。
【請求項5】
請求項4に記載の遠隔操作ピペット装置において、
前記スレーブ側ピペット(13B)の前記第2のプランジャ(63)に更に弾性手段(41a)が設けられ、
該第2のプランジャ(63)の押し下げ移動に伴って前記弾性手段(41a)が所定の反発力で反発することにより前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)に電流負荷が生じ、該電流負荷が前記マスター側リニアサーボモータ(91)にフィードバックされてマスター側とスレーブ側のプランジャ押下げ力が同期する
遠隔操作ピペット装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する、
遠隔操作ピペット装置。
【請求項7】
第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置に
あるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット(13A)において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を前記スレーブ側ピペット(13B)へ出力するマスター側リニアエンコーダ(34)が設けられた
ことを特徴とする
、遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット。
【請求項8】
請求項7に記載の遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペットにおいて、
前記マスター側ピペット(13A)は前記第1のプランジャ(33)の押し下げ力に反発する弾性手段(41)が設けられる、
遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペットにおいて、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する、
遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット。
【請求項10】
第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット(13B)において、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、
前記マスター側ピペット(13A)の前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、
該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させる
ことを特徴とする
、遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット。
【請求項11】
請求項10に記載の遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット(13B)において、
前記スレーブ側ピペット(13B)の前記第2のプランジャ(63)に更に弾性手段(41a)が設けられ、
該第2のプランジャ(63)の押し下げ移動に伴って前記弾性手段(41a)が所定の反発力で反発することにより前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)に電流負荷が生じ、該電流負荷が前記マスター側ピペット(13A)にフィードバックされてマスター側とスレーブ側の各プランジャ押下げ力が同期する
遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット(13B)において、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、前記第2のプランジャ(63)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する、
遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット
。
【請求項13】
プランジャ(33、63)を有するピペット(13A、13B)を操作することにより、他のピペットの第2のプランジャ(63、33)を同期的に操作させるピペット(13A、13B)において、
前記ピペット(13A、13B)は、前記プランジャ(33、63)の変位量に応じた信号を出力するリニアエンコーダ(34)が設けられ、
該リニアエンコーダ(34)は、ピペット(13A、13B)のハウジング(31)の下方に設けた大径ハウジング(31c)内に収納された、
ピペット。
【請求項14】
前記リニアエンコーダ(34)は
、前記大径ハウジング(31c)に取付け具(35)を介して取付け固定されている、
請求項13に記載のピペット。
【請求項15】
プランジャ(33、63)を有するピペット(13A、13B、13A1)を操作することにより、他のピペットの第2のプランジャ(63、33)を同期的に操作させるピペット(13A、13B、13A1)において、
前記ピペット(13A、13B、13A1)は、
前記プランジャ(33、63)の変位量に応じた信号を出力するリニアエンコーダ(76、92)付きリニアサーボモータ(75、91)が設けられ、且つリニアサーボモータ(75、91)に移動自在に挿入されたスケール棒(80,93)が設けられ、
前記ピペット(13A、13B、13A1)の押しボタン(32a)と前記スケール棒(80,93)とが連動部材(81、94)により連動されることにより、前記押しボタン(32a)及び前記スケール棒(80,93)が一体に上下動可能である、
ピペット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
【0002】
本発明は、互いに離れた場所にあるピペットを遠隔的に操作し得る遠隔操作ピペット装置及びそのピペットのロボットアームへの取付け構造を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0003】
従来、IPS細胞等の細胞培養や微生物を培養する作業を行う研究施設や製造施設においては、作業者がピペットを使用してそれらの作業を行うことが多い。この場合、ピペット操作作業はシャーレやチューブなどの他の機材も併用して行う。即ち、作業者は片手でシャーレなどを把持し、もう一方の手でピペットを把持してシャーレ等の中に入っている液体を吸引して、他のシャーレに分注(排出)したりして細胞や微生物を播種回収する。
この時、作業者は、手で把持したピペットのプランジャを小刻みに上下させながら、しかもピペットを前後左右に適宜動かしながら作業を行う(この動きを、本明細書ではピペット操作という)。
【0004】
しかしながら、ピペット操作は、作業者の熟練度によって巧拙があり、細胞や微生物などの培養結果が異なる。また、このピペット操作の巧拙の程度をデータとして定量的に検出することは困難であり、初心作業者は熟練作業者の操作を観察しながら、時間をかけて試行錯誤することで暗黙知ともいうべき技能を習得しており、このプロセスの合理化が望まれていた。
【0005】
また、ピペット操作は、清浄環境下(クリーンルームなど)での作業となることから、作業環境としても過酷であり、人間の作業環境の面でも清浄度の面でも、遠隔操作による熟練ピペット操作の実施も望まれていた。
【0006】
図1は、上記問題点を解決するための従来の遠隔操作ピペット装置である。同図中、マスター側ピペット1及びスレーブ側ピペット2は互いに所定距離離れて遠隔的に配置されているが、図中、マスター側ピペット1及びスレーブ側ピペット2の対応する部材には夫々同一番号に符号A及びBが付されている。マスター側ピペット1のシャフト3Aの押しボタン3aをばね(図示せず)に抗して押し下げてシャフト3Aと一体のプランジャ(図示せず)をハウジング4Aに対して下動させてノズルチップ9を所定量の液体をシャーレ(図示せず)等に排出・分注させた後にシャフト3Aを上動復帰させる。このとき、押しボタン3aに連結アーム5aを介して取付けられたラック5Aに対して、回転サーボモータ6Aの同軸ピニオン7Aが噛合している。従って、ラック5Aが分注のためシャフト3Aと共に所定寸法だけ下動すると、それだけピニオン7Aが回転して回転サーボモータ6Aから上記所定寸法に対応した信号8が逐次出力される。
【0007】
スレーブ側ピペット2では、回転サーボモータ6Bがこの信号8を受け取って回転駆動されるので、ラック5Bがピニオン7Bとの噛合により下方へシャフト3Aと共に移動されてマスター側と同一量の液体をシャーレ(図示せず)等に排出・分注させ、かくしてマスター側ピペット1によりスレーブ側ピペット2を遠隔的に制御できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図1に示した従来例によれば、ラックとピニオンの噛合動作に歯同士のガリガリという噛み合いがあって操作感が悪く、また噛み合い部にバックラッシュがあってマスター側及びスレーブ側の精密な移動寸法調整が難しく、また噛み合い部が摩耗して発塵する可能性があり、クリーンルーム内で行う作業にふさわしくないという問題点があった。更に、ピペット操作は熟練が必要であり、しかもピペット操作の上手・下手は定量的に把握できないので、初心作業者がピペット操作を習熟するために時間を要していたという問題点もあった。
【0009】
本発明の目的は、マスター側及びスレーブ側にリニアエンコーダ又はリニアサーボモータを使用することにより、良好な操作感、精度、クリーンさを得て上記問題点を解決し得る遠隔操作ピペット装置及びピペットのロボットアームへの取付け構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の第1の形態は、第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を出力するマスター側リニアエンコーダ(34)が設けられ、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、前記マスター側リニアエンコーダ(34)からの信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させることを特徴とする遠隔操作ピペット装置である。
【0011】
好ましくは、本発明の第2の形態は、前記マスター側ピペット(13A)は前記第1のプランジャ(33)の押し下げ力に反発する弾性手段(41)が設けられ、また前記スレーブ側ピペット(13B)は弾性手段が設けられないか又は前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)の原点位置確認用の比較的小さな弾性力の弾性手段(41a)が設けられる。
【0012】
また好ましくは、本発明の第3の形態は、前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する。
【0013】
次に、本発明の第4の形態は、第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A1)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A1)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置において、
前記マスター側ピペット(13A1)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を出力するマスター側リニアエンコーダ(92)付きリニアサーボモータ(91)が設けられ、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、前記マスター側リニアエンコーダ(92)からの信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させることを特徴とする遠隔操作ピペット装置である。
【0014】
好ましくは、本発明の第5の形態は、前記スレーブ側ピペット(13B)の前記第2のプランジャ(63)に更に弾性手段(41a)が設けられ、該第2のプランジャ(63)の押し下げ移動に伴って前記弾性手段(41a)が所定の反発力で反発することにより前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)に電流負荷が生じ、該電流負荷が前記マスター側リニアサーボモータ(91)にフィードバックされてマスター側とスレーブ側のプランジャ押下げ力が同期する。
【0015】
また好ましくは、本発明の第6の形態は、前記マスター側ピペット(13A1)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する。
【0016】
次に、本発明の第7の形態は、第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット(13A)において、
前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を前記スレーブ側ピペット(13B)へ出力するマスター側リニアエンコーダ(34)が設けられたことを特徴とする遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペットである。
【0017】
好ましくは、本発明の第8の形態は、前記マスター側ピペット(13A)は前記第1のプランジャ(33)の押し下げ力に反発する弾性手段(41)が設けられる。
【0018】
また好ましくは、本発明の第9の形態は、前記マスター側ピペット(13A)は、前記第1のプランジャ(33)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する。
【0019】
次に、本発明の第10の形態は、第1のプランジャ(33)を有するマスター側ピペット(13A)を操作することにより、第2のプランジャ(63)を有し且つ該マスター側ピペット(13A)から遠隔位置にあるスレーブ側ピペット(13B)を同期的に操作させる遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペット(13B)において、
前記スレーブ側ピペット(13B)は、前記マスター側ピペット(13A)の前記第1のプランジャ(33)の変位量に応じた信号を受信して駆動されるスレーブ側リニアエンコーダ(76)付きリニアサーボモータ(75)が設けられ、該スレーブ側リニアサーボモータ(75)の駆動により、前記第2のプランジャ(63)が前記変位量に応じた距離だけ変位されて、前記スレーブ側ピペット(13B)に液体を吸入・排出させることを特徴とする遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペットである。
【0020】
好ましくは、本発明の第11の形態は、前記スレーブ側ピペット(13B)の前記第2のプランジャ(63)に更に弾性手段(41a)が設けられ、該第2のプランジャ(63)の押し下げ移動に伴って前記弾性手段(41a)が所定の反発力で反発することにより前記スレーブ側リニアサーボモータ(75)に電流負荷が生じ、該電流負荷が前記マスター側ピペット(13A)にフィードバックされてマスター側とスレーブ側の各プランジャ押下げ力が同期する。
【0021】
また好ましくは、本発明の第12の形態は、前記スレーブ側ピペット(13B)は、前記第2のプランジャ(63)の変位量をデジタルデータとして記録・保存する記憶部を有する。
【0022】
次に、本発明の第13の形態は、ピペットのロボット(14A、14B)のロボットアーム(50,70)への取付け構造において、一端側が前記ロボットアーム(50,70)へ取付けられ且つ多端側に第1の半円形把持部(51b、71b)を設けられたクランプアーム(51、71)と、前記第1の半円形把持部(51b、71b)に突き合わされて円形孔を形成する第2の半円形把持部(51c、71c)と、一対の変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)であって、互いに付き合わされたときに非円形内周面と円形外周面とが形成される前記一対の変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)とを備え、
前記一対の変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)の内周面がピペットの非円形外周面ハウジング(31、61)に嵌合され、且つ前記一対の変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)の外周面が前記第1及び第2の半円形把持部(51b、51c;71b、71c)の円形孔に嵌合されることにより、ピペットをクランプアーム(51、71)に対して回転角度を調整自在に取付け得る、取付け構造である。
【0023】
好ましくは、本発明の第14の形態は、変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)の非円形内周面及びピペットのハウジング(31、61)の非円形外周面は楕円形であるが、これに限ることなく、楕円形以外の非円形でもよく、また場合によっては三角形、四角形又はそれ以上の多角形でもよい。
【0024】
また好ましくは、本発明の第15の形態は、前記変形半円形カラー(52a、52b;72a、72b)とピペットハウジング(31、61)との間に滑り止めシート(53、73)が介在される。
【0025】
次に、本発明の第16の形態は、プランジャ(33、63)を有するピペット(13A、13B)を操作することにより、他のピペットの第2のプランジャ(63、33)を同期的に操作させるピペット(13A、13B)において、
前記ピペット(13A、13B)は、前記プランジャ(33、63)の変位量に応じた信号を出力するリニアエンコーダ(34)が設けられ、
該リニアエンコーダ(34)は、ピペット(13A、13B)のハウジング(31)の下方に設けた大径ハウジング(31c)内に収納された、ピペットである。
【0026】
好ましくは、本発明の第17の形態は、前記リニアエンコーダ(34)は前記大径ハウジング(31c)に取付け具(35)を介して取付け固定されている。
【0027】
次に、本発明の第18の形態は、プランジャ(33、63)を有するピペット(13A、13B、13A1)を操作することにより、他のピペットの第2のプランジャ(63、33)を同期的に操作させるピペット(13A、13B、13A1)において、
前記ピペット(13A、13B、13A1)は、前記プランジャ(33、63)の変位量に応じた信号を出力するリニアエンコーダ(76、92)付きリニアサーボモータ(75、91)が設けられ、且つリニアサーボモータ(75、91)に移動自在に挿入されたスケール棒(80,93)が設けられ、
前記ピペット(13A、13B、13A1)の押しボタン(32a)と前記スケール棒(80,93)とが連動部材(81、94)により連動されることにより、前記押しボタン(32a)及び前記スケール棒(80,93)が一体に上下動可能である、ピペットである。
【本発明の効果】
【0028】
本発明の遠隔操作ピペット装置及びピペットのロボットアームへの取付け構造によれば、マスター側及びスレーブ側にリニアエンコーダ及びリニアサーボモータを使用することにより、円滑な操作感、高精度の分注、及び発塵等のないクリーンなピペット作業を行なうことができ、しかもピペット装置をロボットアームに容易且つ確実に取付け得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】従来の遠隔操作ピペット装置の概略構成図である。
【
図2】本発明に係る遠隔操作ピペット装置の全体システム図である。
【
図3】
図3(A)及び(B)は夫々、本発明遠隔操作ピペット装置の一実施形態のマスター側ピペットの第1実施例の正面図及び側面図である。
【
図4】
図4(A)及び(B)は夫々、
図3のマスター側ピペットの斜視図及び分解斜視図である。
【
図5】
図5(A)及び(B)は夫々、
図3のマスター側ピペットの一部断面の側面図、及び同図(A)中VB―VB線に沿った拡大横断図である。
【
図6】
図6(A)及び(B)は夫々、
図3のマスター側ピペットのリニアエンコーダ部分のプランジャを押し下げた状態及び上動復帰した状態を示す要部斜視図である。
【
図7】図(7A)及び(B)は夫々、マスター側ピペットのプランジャにOリングを適用した例のプランジャ上動限位置及び下動限位置を示す部分断面図である。
【
図8】
図8(A)及び(B)は夫々、
図7の構成の代替例であって、マスター側ピペットのプランジャにP形リップを適用した例のプランジャ上動限位置及び下動限位置を示す部分断面図である。
【
図9】
図9(A)及び(B)は夫々、本発明遠隔操作ピペット装置のスレーブ側ピペットの一例の正面図及び側面図である。
【
図10】
図10(A)及び(B)は夫々、
図9のスレーブ側ピペットの斜視図及び分解斜視図である。
【
図13】本発明遠隔操作ピペット装置の第1の概略構成(
図3に示したマスター側ピペット及び
図9及び10に示したスレーブ側ピペットを使用)を示すシステムズである。
【
図14】
図14(A)及び(B)は夫々、
図3に示したマスター側ピペットの第2実施例の正面図及び側面図である。
【
図15】本発明遠隔操作ピペット装置の第2の概略構成(
図14に示したマスター側ピペット及び
図9及び10に示したスレーブ側ピペットを使用)を示すシステムズである。
【
図16】本発明遠隔操作ピペット装置のピペット操作の作業時間(秒)とプランジャの押し下げ量(mm)との関係を示すグラフである。
【
図17】本発明遠隔操作ピペット装置のプランジャの押し下げ量(mm)とばね抵抗(N:ニュートン)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図2は、本発明に係る遠隔操作ピペット装置の全体概略構成を示すシステム図、
図3(A)及び(B)は夫々本発明遠隔操作ピペット装置の一実施形態のマスター側ピペットの第1実施例の正面図及び側面図、
図4(A)及び(B)は夫々
図3のマスター側ピペットの斜視図及び分解斜視図である。
【0031】
図2中、遠隔操作ピペット装置の全体システムは、互いに離れたマスター側エリア11とスレーブ側エリア12とを有するが、図中、両エリア11及び12の対応する部材には夫々同一番号に符号A及びBが付されている。
【0032】
マスター側エリア11では、マスター側ピペット13Aはマスター側ロボット14Aに取付けられ、マスター側ピペット13Aからのプランジャ移動寸法(例えばd)に係る信号がマスター側サーボアンプ15Aを介してマスター側PC16A(マスター側ソフトウエア17Aを有する)に提供される。マスター側PC16Aからの出力信号は伝送手段18を介してスレーブ側エリア12へ伝送される。そして、その信号はスレーブ側PC16B(スレーブ側ソフトウエア17Bを有する)に提供され、そこからスレーブ側サーボアンプ15Bを介して、スレーブ側ロボット14Bに取付けられたスレーブ側ピペット13Bへ提供されてそのプランジャを上記寸法dだけ同期的且つリアルタイムで移動させる。上記伝送手段18は、有線LAN、無線LAN、WiFi又は5G等の何れでもよいが、5Gを採用すれば、無線でも殆ど時間遅れのないピペット操作を実現し得る。また、
図2中、符号19及び20は、ピペット13A及びロボット14Aの動作を観察する操作側モニターであり、また符号21及び22は、ピペット13B及びロボット14Bの動作を撮影するカメラである。
【0033】
次に、
図3乃至
図6はマスター側ピペット13Aの第1実施例の詳細を示す。各図中、マスター側ピペット13Aは、ハウジング31(上側ハウジング31a及び下側ハウジング31bを組付けてなる)内をシャフト32(押しボタン32aを有する)がプランジャ33(
図5及び
図6参照)と共に上下動して液体の吸入及び排出分注動作を行う。なお、ハウジング31の下方は大径ハウジング31cとなっている。
【0034】
図3及び
図4中、51は、ロボット14のロボットアーム50(
図11も参照)に取付けられたピペットクランプで、クランプアーム51aの半円形把持部51bと、別部材の半円形把持部51cとを突き合わせて、一対の変形半円形カラー52a及び52b(後述する如く円形外周面及び楕円形内周面を有する)と一対の滑り止めシート53(
図4B参照)を介在してピペットハウジング31の大径ハウジング31cの直上部の通常径部分を把持クランプしている。なお、半円形把持部51b及び半円形把持部51cは一対のボルト55(
図4B)により固定される。そのうえで止めねじ54によりハウジング31および変形半円形カラー52a及び52bを半円形把持部51b及び半円形把持部51cに固定する。
【0035】
図5及び
図6中、34は、市販品のリニアエンコーダで、大径ハウジング31c内に上下方向に伸びるように取付け具35を介して固定される。プランジャ33は樹脂ベアリング36(
図5B参照)の案内によりこのリニアエンコーダ34に沿って上下方向に平行的に移動可能である。即ち、
図6(A)は、押しボタン32aの押し下げ操作によりプランジャ33が最下方位置まで押し下げられた状態であり、また
図6(B)は、押しボタン32aが復帰してプランジャ33が最上方位置まで復帰した状態を示す。なお、37はリニアスケール(
図5B及び
図6A参照)で、プランジャ33の上下方向に伸びる平面に貼り付けられており、プランジャ33が上下動するときに、リニアエンコーダ34の所定位置に設けた検出器34a(
図6A参照)(この場合発光素子及ぶ受光素子を有する)を横切るため、上記検出器34aによりプランジャ33の上下方向移動量を検出可能である。
【0036】
また38はリニアエンコーダ34からの信号ケーブルである。(
図3B及び
図5A参照)
【0037】
なお、
図4(B)に示した1対の変形半円形カラー52a及び52bは、互いに突き合わせたときに、上側ピペットハウジング31aの楕円形外周面に嵌まるような楕円径内周面を構成して、上側ピペットハウジング31aに適切に嵌合する。他方、1対の変形半円形カラー52a及び52bの外周面は、ピペットクランプ51の半円形把持部51b及び51cを突き合わせたときに形成される円形内周面に対して嵌まるような円形外周面を構成して、半円形把持部51b及び51cに適切に嵌合する。従って、ピペット13Aの外周面が楕円形であるに拘わらず、ピペット13Aをピペットクランプ51に取付けた状態において、ピペット13Aを1対の変形半円形カラー52a及び52bと一体的に回動させると、該変形半円形カラー52a及び52bが半円形把持部51b及び51cと円形嵌合していることに起因して、ピペット13Aは円滑に回動することができる。かくして、ピペット13Aの角度位置を容易に調整設定できて便利であり、スレーブ側ピペット13Bについても同様である。
【0038】
次に、
図7(A)及び(B)は、マスター側ピペット13Aにおいて、プランジャ33の上端部に設けたOリング39が樹脂ベアリング36を取付けたプランジャケース40の内周面に圧接している。従って、シャフト32及びプランジャ33がばね41に抗して同図(A)から同図(B)の位置まで下動したり上動復帰したりするときにOリング39がプランジャケース40の内周面に押圧的に摺動するので、作業者がピペット操作するときに良好な抵抗感を与える。
【0039】
また、
図8(A)及び(B)は、
図7に示す機構の代替例であり、マスター側ピペット13Aにおいて、プランジャ33の中間部に取付けたリップケース42の外周に設けたゴム製P形リップ43がノズルケース44の内周面に圧接している。従って、シャフト32及びプランジャ33がばね41に抗して同図(A)から同図(B)の位置まで下動したり上動復帰したりするときにP形リップ43がノズルケース44の内周面に押圧的に摺動するので、
図7の場合と同様に、作業者がピペット操作するときに良好な抵抗感を与える。
【0040】
次に、
図9及び
図10は、スレーブ側ピペット13Bの詳細を示す。各図中、スレーブ側ピペット13Bは、ハウジング61内をシャフト62(押しボタン62aを有する)がプランジャ63(
図9A参照)と共に上下動して液体の吸入・分注動作を行う。
【0041】
図9及び
図10中、71は、ロボット14Bのロボットアーム70(
図12も参照)に取付けられたピペットクランプで、クランプアーム71aの半円形把持部71bと、別部材の半円形把持部71cとを突き合わせて、一対の変形半円形カラー72a及び72bと一対の滑り止めシート73を介在してピペットハウジング61の中間部分を把持クランプしている。なお、半円形把持部71b及び半円形把持部71cは一対のボルト83(
図10B)により固定される。そのうえで止めねじ74によりハウジング61および変形半円形カラー72a及び72bを半円形把持部71b及び半円形把持部71cに固定する。
【0042】
図9及び
図10中、75はリニアエンコーダ76を有するリニアサーボモータで、モータ支持具77及びモータ固定ステー78を介してピペットクランプ71の平面状取付け面71cに対してねじ79により取付け固定されている。かくして、リニアサーボモータ75はスレーブ側ピペット13Bに対して該ピペット13Bの軸線と平行に上下方向に伸びるように取付けられる。
【0043】
80は、長尺のスケール棒であり、リニアサーボモータ75の内部に。その下部がリニアエンコーダ76に対応するように上下方向移動可能に挿入されている。このスケール棒80の上端部が連動ロッド81にボルトにより固定され、連動ロッド81はピペット13Bの押ボタン61aに固定されていないが重力により下動して押ボタン61aに当接しており、連動ロッド81を押し下げると押ボタン61aと一体的に下動する。従って、押ボタン61aを連動ロッド81と共に押し下げて下動又は上動させると、スケール棒80がリニアエンコーダ76を上下方向に横切ってその移動寸法が検出される。なお82はリニアサーボモータ75に接続された信号線である。また、スレーブ側ピペット13Bのプランジャ63は、マスター側ピペット13Aからの信号に応じた分だけリニアサーボモータ75により駆動されるからプランジャ63の下動に反発するばねは設けないか又は設けても小さなばね定数を有するものでよい。なお、場合によっては、連動ロッド81はスケール棒80及び押ボタン61aの両者に固定されてもよい。
【0044】
かくして、
図2、
図11及び
図12に示す如く、マスター側ピペット13Aはマスター側ロボット14Aのロボットアーム50(例えば6軸ユニバーサルジョイントを有する)の先端にピペットクランプ51を介して取付けられ、他方、スレーブ側ピペット13Bはスレーブ側ロボット14Bのロボットアーム70(同様に6軸ユニバーサルジョイントを有する)の先端にピペットクランプ71を介して取付けられる。なお、二つのロボット50及び70は遠隔的に配置されているが、同じ部屋の中でもまた異なる部屋でもよく、場合によっては、異なる都市間又は異なる国どうし又は地上と宇宙に配置されていてもよい。
【0045】
次に、遠隔操作ピペット装置の操作について説明する。
まず、
図2中、マスター側及びスレーブ側ロボット14A及び14Bの各ロボットアーム50及び70の動作について説明する。最初に、マスター側エリア11において、作業者がマスター側ピペット13Aを把持して移動させると、マスター側ロボット14Aのロボットアーム50はユニバーサルジョイントにより作業者の動きに従動的に追随して移動する。そして、マスター側ピペット13Aが所定の位置、例えば他のロボット(図示せず)のロボットアームが支持するシャーレ(又はテーブル上のシャーレでもよい)の直上方位置に移動される。なお、本実施例では、マスター側ピペット13Aは作業者が操作する際に実際に液体を吸入・排出するのでなくそのダミー動作のみを行うと、その動作に同期してスレーブ側ピペット13Bが動作して実際に液体の吸入・排出を行っている。しかし、これに限らず、マスター側及びスレーブ側の双方で実際に液体の吸入・排出を行ってもよく、これは本明細書中に記載した全ての実施例に適用可能である。
【0046】
そこで、作業者がマスター側ピペット13Aの押しボタン32a及びプランジャ33を押し下げて下限位置まで下動させ、この状態でピペット下端のノズルチップ9(
図13参照)をシャーレ(実際には液体が入っていない)の中に差し込む。続いて、押しボタン32aの押圧力を解除するとプランジャ33が上動復帰してノズルチップ9内に所定量の液体がダミー的に吸入される。
【0047】
続いて、作業者がマスター側ピペット13Aを、更に他のロボット(図示せず)のロボットアームが支持するシャーレの直上方位置に移動させる。続いて、押しボタン32aを所定寸法だけ押し下げて、所定量の液体をダミー的にシャーレに分注する。続いて、ピペット13Aを更に他のロボットが支持するシャーレに分注するダミー的動作を繰り返す。このとき、ロボットアーム50の各軸の軸角度、トルク、電流値などを記録することにより、ピペット操作を行う空間上におけるピペット13Aの空間位置座標、角度等も同時にリアルタイムに、デジタルに記録されて伝送線18を介してスレーブ側エリア12のロボット14Bに送られる。
【0048】
このとき、スレーブ側エリア12のロボット14Bのロボットアーム70は、作業者は不在のままで、上記マスター側ロボット14Aのロボットアーム50の移動に起因したデジタル信号を受取って、マスター側ロボットアーム50の移動動作と全く同じ移動動作を同期的且つリアルタイムで行って、スレーブ側の他のロボットのシャーレに近接又は離間する。(その詳細は省略する)
【0049】
続いて、スレーブ側ピペット13Bは、マスター側ピペット13Aのプランジャ33が押し下げ及び上動復帰されるときに、次に述べる如く、スレーブ側ピペット13Bにおいてスレーブ側プランジャ63が、マスター側プランジャ33の移動と同期して移動されて、実際に液体の吸入及び分注動作を行うことができる。
【0050】
次に、
図13を使用して、上記同期機能について説明する。
同図中、例えば、作業者がマスター側ピペット13Aの押しボタン32aを押し下げてプランジャ33を下動させると、リニアエンコーダ34がプランジャ33の移動寸法を例えば1KHz(1/1000秒)間隔で検出して同時にこれがリアルタイムにデジタル記録される。このデジタル記録信号は、信号線38(
図3B参照)から伝送手段18を介して、スレーブ側ピペット13Bの信号線82(
図9A参照)からリニアエンコーダ76付きリニアサーボモータ75に供給される。かくして、リニアサーボモータ75がスケール棒80を駆動して下方向へ移動させるが、リニアエンコーダ76による移動寸法検出により上記デジタル記録信号に対応した移動量だけ移動される。即ち、スレーブ側ピペット13Bのプランジャ63は、マスター側ピペット13Aのプランジャ33の下動寸法と同一寸法だけ同期的に且つリアルタイムで下動する。
【0051】
かくして、マスター側ピペット13Aのプランジャ33の上下動に同期してスレーブ側ピペット13Bのプランジャ63も、作業者の操作が全く不要に、自動的に上下動することができ、良好な遠隔的なピペット操作が可能となる。
【0052】
なお、マスター側ピペット13Aのプランジャ33の変位量のデジタルデータは後に利用できるように記録・保存する記憶部を有することができる。この記憶部は、PC16Aに設けた記憶部でもよく又はインターネット上のクラウドの記憶部として設けてもよく、インターネットを介して任意の場所でデータの解析、編集、ピペット動作の再生、自律動作に活用するようにしてもよい。またこのような記憶部は、マスター側に限らずスレーブ側に設けてもよい。
【0053】
図14は、マスター側ピペットの第2実施例のマスター側ピペット13A1を示すが、このピペット13A1は、上述したスレーブ側ピペット13Bと同様の構成であり、マスター側リニアエンコーダ92付きリニアサーボモータ91、及びスケール棒93及び連動ロッド94(上記連動ロッド81と同様の構成である)を有している。この場合マスター側ピペット13A1のプランジャ33はリニアサーボモータ91により駆動されるので、プランジャ33の下動に反発するばね41を設けないか、又は小さなばね定数のばねを設けてもよい。
【0054】
次に、
図15を使用して、
図14に示したマスター側ピペット13A1の動作について説明するが、マスター側ピペット13A1及びスレーブ側ピペット13Bの双方が、リニアエンコーダ付きリニアサーボモータを有していることになり、しかもスレーブ側ピペット13Bは押しボタン62a及びプランジャ63の押下げ力に抗する(反発する)ばね41aを内蔵している。従って、
図15中、
図13の場合と同様に、作業者がマスター側ピペット13A1の連動ロッド94及びスケール棒93を一体的に押し下げることにより、押しボタン32aをばね41に抗して押し下げると、同様にリニアエンコーダ92がスケール棒93の移動寸法を検出して伝送手段18を介してスレーブ側に伝達する。すると、スレーブ側ピペット13Bにおいてリニアサーボモータ75がスケール棒80及びプランジャ63を下方向へ駆動して、マスター側ピペット13A1のプランジャ33の下動寸法と同一寸法だけ同期的にリアルタイムで移動させる。
【0055】
しかるに、スレーブ側ピペット13Bのばね41aがプランジャ63の押下げ力に反発するので、プランジャ63の同期的移動に伴ってリニアサーボモータ75に電流負荷を生ずる。この電流負荷は伝送手段18を介してマスター側サーボモータ91へリアルタイムにフィードバックされる。これにより、マスター側のリニアサーボモータ91又はプランジャ33においてスレーブ側の上記反発力、即ち力触覚を感ずることが可能となり、マスター側ピペットを操作する作業者は、実際に分注操作をしているかのような臨場感を得ることができる。この場合、マスター側ピペット13Aのばね41が存在しない場合でも、スレーブ側のばねの反発力の力触覚伝達によって自然なマスタースレーブ操作を行うことが可能である。
【0056】
更に、上記実施例において、ピペット操作を行う目的のみであれば、作業者の使用感の維持とマスター側及びスレーブ側間で正確なプランジャ位置データの伝送が達成されればよい。従って、マスター側ピペット13A1にばね41を設け且つスレーブ側ピペット13Bにはばねを設けないか又はリニアサーボモータ75の原点位置確認用のばね定数の小さいばね41aを設けることによって、マスター側ピペット13A1のばね41をスレーブ側ピペット13Bを遠隔操作する際の疑似的な力触覚として利用することもできる。
【0057】
次に、
図16は、上記遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット13A及びスレーブ側ピペット13Bのピペット操作の作業時間(秒)とプランジャの押し下げ量(mm)との関係を示すグラフである。図中、101はばね41が二段ばねとして二つ設けられている場合の1段目ばねが作動する領域、102は1段目ばね及び2段目ばねが共に作動する領域である。なお、2段目ばねが作動する領域とは、プランジャ33が全ての液体の分注を終えた後に更に押し下げられてノズルチップ内部に付着残留した余計な液滴を吹き飛ばす作業である。なお、2段目ばねの意義については、本出願人による特許第2554666号の内容を参照されたい。
【0058】
同図中、プランジャ33が曲線の上方ポイント103aから出発して例えば16mm押し下げられて下方ポイント103a1に至った状態でノズルチップをダミー動作的に液体に浸した後に押圧力を解除する。以下、マスター側ピペット13Aの動作については実際に液体を吸入・分注するのでなくダミー的動作である。すると、プランジャ33は線103b1に沿って上動復帰されて上方ポイント103b2に至ると、ノズルチップ内に所定量の液体が吸引される。続いて、ピペットを移動させて、プランジャ33を最初に3mm程度押し下げると、ポイント103c1まで下動して上記3mmに対応する量の液体をシャーレ等に分注したことになる。続いて、プランジャ33をポイント103c2・・・と段階的に下動させて分注を繰り返して最後に2段目ばねに抗して最下方ポイント103cxに至る。この状態で、ノズルチップを更に液体に浸した後に、プランジャ33が線103d1に沿って上動復帰されて上方ポイント103d2に至ると、再びノズルチップ内に所定量の液体が吸引される。続いて、プランジャ33により、同様の動作を繰り返すと、二回目の分注動作103d3、103d4・・・103dx及び上方復帰ポイント103e2等が得られる。かくして、スレーブ側ピペット13Bにおいても、
図16と同様の動作が同期的且つリアルタイムに実際に液体の吸入・分注動作を行いつつ行われる。
【0059】
次に、
図17は、本発明遠隔操作ピペット装置のマスター側ピペット13A及びスレーブ側ピペット13Bのプランジャの押し下げ量(mm)とばね抵抗(N:ニュートン)との関係を示すグラフである。同図中、点線グラフ110がマスター側ピペット13Aの動作を示し、また実線グラフ111がスレーブ側ピペット13Bの動作を示すが、両方のピペット13A及び13Bは同期的に動作する。この場合、マスター側ピペット13Aには1段目及び2段目の二つのばねが設けられており、図中、105は1段目ばねが抵抗(作動)する領域、106は1段目及び2段目ばねが共に作動する領域である。2段目ばねが作動するのは、プランジャ33が全分注を終えた後に余計な液滴を吹き飛ばすときであるから、同図に示す如く、プランジャ33の押し下げ量が16mmを超えてからである。なお、スレーブ側ピペット13Bはマスター側ピペット13Aと同期されてあたかも2段目ばねが存在するかのように動作されるから、スレーブ側ピペット13Bには1段目ばねのみを設ければよい。また107は、リニアサーボモータの定格推力5N及び瞬時能力15Nの場合に、定格能力でカバーできる範囲、108は同じ条件で瞬時能力でカバーできる範囲、109は同じ条件で対応できない(プランジャを押し切れない)範囲を示す。
【0060】
最初に、マスター側ピペット13Aを点線グラフ110に沿って動作させる。同図中、プランジャ33が上動限の停止状態から最初に押し下げられるときは、静摩擦から動摩擦へ移行するためにポイント110aにおいて比較的大きな抵抗力(例えば3.45N)が発生する。それ以降は動摩擦に移行したため一旦抵抗力が下がった後に、プランジャ33の下動に伴ってばねが徐々に圧縮されるのでばね抵抗力は点線110bで示す如く、右上がりに徐々に大きくなっていき、ポイント110cに至る。更にプランジャ33を押し下げると、ポイント110cから2段目ばねが抵抗開始するので、点線110dの如く抵抗力が急増し、最後は点線110eに沿って上昇して終わる。
【0061】
スレーブ側ピペット13Bは、マスター側ピペット13Aの上記動作に同期して、実線グラフ111に沿って動作する。即ち、プランジャ63は、プランジャ33の動作に同期してポイント110cまでは点線グラフ110と同様に動作する。しかるに、この場合は図から明らかな如く、実線グラフ111は、リニアサーボモータの力によりプランジャ63を押し下げる場合にモータの定格能力(5N)の範囲内でのみ押し下げられる。しかし、マスター側の点線グラフ110は、手動による瞬時能力(15N)の範囲内で押し下げ可能であり、またばねの抵抗力が15Nより大きい範囲では瞬時能力(15N)でも対応できずにプランジャを押し切れないことがわかる。
【0062】
本発明の遠隔操作ピペット装置によれば次の効果が得られる。
(1)例えば、細胞培養液の分注を繰り返すことにより、時系列データと培養結果の合格・不合格結果とをひも付けておくことにより、ピペット操作の巧拙がわかるようになり、上手なピペット操作を定量的に掌握できるようになり、後に役立て可能で便利である。
(2)従って、初心作業者が熟練作業者のピペット操作を定量的な方法によって習熟することが期待される。
(3)ピペット操作データと、培養結果データを人工知能(AI)によって学習して学習モデルを構築していくことにより、事前に培養結果が予測できる。
(4)スレーブ側ピペット操作のデータをカメラ21、22とロボット14Bのロボットアーム70とのデータを合わせて取得した場合、取得されたデータを一括で人工知能(AI)によってディープラーニングすることにより、本発明ピペットを連結したロボットアーム70が自律的に動作する学習モデルを得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 マスター側ピペット
2 スレーブ側ピペット
3A、3B シャフト
3a、3b 押しボタン
4A、4B ハウジング
5a、5b 連結アーム
5A、5B ラック
6A、6B サーボモータ
7A、7B ピニオン
8 信号
9 ノズルチップ
11 マスター側エリア
12 スレーブ側エリア
13A マスター側ピペット
13B スレーブ側ピペット
14A マスター側ロボット
14B スレーブ側ロボット
15A、15B サーボアンプ
16A、16B PC
17A、17B ソフトウエア
18 伝送手段
19、20 操作側モニター
21、22 カメラ
31、61 ピペットハウジング
31a 上側ハウジング
31b 下側ハウジング
31c 大径ハウジング
32、62 シャフト
32a、62a 押しボタン
33、63 プランジャ
34 リニアエンコーダ
34a 検出器
35 取付け具
36 樹脂ベアリング
37 リニアスケール
38 信号ケーブル
39 Oリング
40 プランジャケース
41、41a ばね
42 リップケース
43 PC形リップ
44 ノズルケース
50、70 ロボットアーム
51、71 ピペットクランプ
51a、71a クランプアーム
51b、51c、71b、71c 半円形把持部
52a、52b、72a、72b 変形半円形カラー
53、73 滑り止めシート
54、74 止めねじ
55、83 ボルト
75 リニアサーボモータ
76 リニアエンコーダ
77 モータ支持具
80 スケール棒
81 連動ロッド
82 信号線
91 マスター側リニアサーボモータ
92 マスター側リニアエンコーダ
93 マスター側スケール棒
94 マスター側連動ロッド
101 1段目ばね作動領域
102 1段目及び2段目ばね作動領域
103a、103a1、103b1、103b2、103c1、103c2、103cx、103d2、103e2 110a、110c ポイント
103b1。103d1、103e1 実線
105 1段目ばね抵抗領域
106 1段目及び2段目ばね抵抗領域
107 リニアサーボモータの定格能力でカバー可能範囲
108 同上瞬時能力でカバー可能範囲
109 リニアサーボモータの能力でカバーできない範囲
110 点線グラフ(1段目ばね及び2段目ばね)
111 実線グラフ(1段目ばねのみ)
110b、110d、110e 点線