(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ホスト基体上に多層表面コーティングを生成し、塗布し、固着させる方法、および前記方法によって得ることができるホスト基体アセンブリ
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20241024BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241024BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241024BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20241024BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/24 301E
B05D7/24 303B
B32B9/00 A
B32B33/00
H05B3/14 F
(21)【出願番号】P 2021552516
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2019082738
(87)【国際公開番号】W WO2020109380
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-11
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521228411
【氏名又は名称】ブラックリーフ
(73)【特許権者】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】500262120
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バ,ウセイヌ
(72)【発明者】
【氏名】バホカ,アルメル
(72)【発明者】
【氏名】ラフュー,ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】パン-フー,クオン
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059079(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02535499(GB,A)
【文献】特開2015-048534(JP,A)
【文献】特開2015-227444(JP,A)
【文献】特開2014-096263(JP,A)
【文献】特表2018-524771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C01B 32/00-32/991
C23F 11/00-17/00
H05B 3/02-3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト基体(1)のコーティングされるべき少なくとも1つの表面(1a)に、多層表面コーティング(2a、3a、4a)を生成し、塗布し、固着させる方法において、前記方法が、下記層が連続して塗布されること、すなわち
固着層(2a)と呼ばれる固着材料(2)の層がホスト基体(1)のコーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)に、前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面を覆うことによって直接塗布され、前記固着層と前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面との間
の表面相互作用が、前記固着層と前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面が互いに固着するのを達成し、
機能層(3a)と呼ばれる機能材料(3)の層が前記固着層(2a)に、前記固着層を覆うことによって直接塗布され、前記機能層と前記固着層との間
の表面相互作用が、前記機能層と前記固着層が互いに固着するのを、したがって、前記固着層(2a)を用いて前記機能層(3a)を前記ホスト基体(1)のコーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)に固着させるのを達成し、前記機能材料(3)が噴霧、放射または塗りによって前記固着層(2a)に塗布されることと、
前記機能層(3a)を塗布する前にかつ/または塗布した後で前記固着層(2a)の乾燥期間を設けて、前記ホスト基体(1)のコーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)への前記固着層(2a)の固着および/または前記固着層(2a)への前記機能層(3a)の固着を促進することと、
前記機能層(3a)が、前記固着層(2a)に塗布されると、疎水性を得るために前記
機能層(3a)の表面上で熱的または化学的に処理されることと、
を含み、
液体形態の前記機能材料(3)が、水中に、または含水アルコール溶液中に、または溶媒中に分散された単層または多層グラフェンと、少なくとも1つの界面活性剤とを含み、
前記固着材料(2)が、前記ホスト基体(1)のコーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)に、前記固着材料(2)とコーティングされるべき前記表面(1a)との間の表面相互作用により、直接塗布および固着することができ、
前記機能材料(3)が、前記機能材料(3)と前記固着材料(2)との間の表面相互作用により、前記固着材料(2)に直接塗布および固着されるのに適している、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記固着層(2a)に塗布される前記機能材料(3)の単層または多層グラフェンの量が、前記ホスト基体(1)の質量の10%未満になるように選定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
保護層(4a)と呼ばれる保護材料(4)の層を前記機能層(3a)に、前記機能層を覆うことによって塗布して、自然にまたは熱作用の影響下で、前記保護層と前記機能層との間の前記相互作用が、前記保護層と前記機能層が互いに固着するのを達成すること、をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記機能材料(3)が、0.2g/L以上の濃度の単層または多層グラフェンを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記固着材料(2)が、下記リスト、すなわち、プライマー、樹脂、接着剤、複合材、ポリマー、エポキシ塗料、水性塗料、油性塗料、または充填剤を含有する塗料、に属する材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記保護材料(4)が、下記リスト、すなわち、プライマー、樹脂、接着剤、ポリマー、複合材、超疎水性コーティング、耐火性コーティング、エポキシ塗料、シリコン塗料、水性塗料、油性塗料、充填剤を含有する塗料、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、に属する材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法または請求項3と組み合わせてなされる請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記固着層(2a)または前記機能層(3a)または前記保護層(4a)が、噴霧、放射、はけ塗り、塗り、浸漬コーティング、インクジェット印刷もしくは輪転グラビア印刷、スクリーン印刷、リソグラフィもしくはフレキソ印刷から選択される手段または方法によって塗布されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層(3a)の温度上昇を引き起こす効果を有する前記機能層(3a)に電流を通過させることを可能にする電圧を印加することができるように2つの電極を前記機能層(3a)と接触させることによって前記2つの電極(5)を配置すること、をさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ホスト基体デバイスであって、前記ホスト基体デバイスが、処理済みか未処理かにかかわらず、コーティングされるべき少なくとも1つの表面(1a)を有するホスト基体(1)を備える、ホスト基体デバイスにおいて、前記ホスト基体デバイスが、コーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面
の各表面(1a)に生成され、塗布され、固着された多層表面コーティング(2a、3a)をさらに備え、前記多層表面コーティング(2a、3a)が、コーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)に直接塗布され固着された固着層(2a)と呼ばれる固着材料(2)の層と、前記固着層(2a)に直接塗布され固着された単層または多層グラフェンをベースとする機能層(3a)と呼ばれる機能材料(3)の層と、を重ね合わせたものを備え、前記機能層(3a)が前記機能層(3a)の表面上に疎水性を有することを特徴とする、ホスト基体デバイス。
【請求項10】
前記多層表面コーティング(2a、3a、4a)が、表面相互作用によって前記機能層(3a)に塗布され固着されて前記機能層を覆う、保護層(4a)と呼ばれる保護材料(4)の層をさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載のホスト基体デバイス。
【請求項11】
前記ホスト基体(1)のコーティングされるべき前記
少なくとも1つの表面のうちの1つの表面または
前記少なくとも1つの表面の各表面(1a)に塗布される前記機能材料(3)の単層または多層グラフェンの量が、前記ホスト基体(1)の質量の10%未満であることを特徴とする、請求項9または10に記載のホスト基体デバイス。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載のホスト基体デバイスを備える発熱要素において、前記単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層(3a)の温度、したがって前記発熱要素の温度の上昇を引き起こす活性化システムとして、電源に接続された2つの電極(5)をさらに備えることを特徴とする、発熱要素。
【請求項13】
前記2つの電極(5)が、前記単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層(3a)の温度、したがって前記発熱要素の温度の上昇を引き起こす効果を有する前記機能層(3a)内に電流が生成されることを可能にする電圧を印加することができるように前記機能層(3a)に接続されることを特徴とする、請求項12に記載の発熱要素。
【請求項14】
請求項9から11のいずれか一項に記載のホスト基体デバイスを備える防食要素において、前記機能材料(3)が、本来防食特性を示す単層または多層グラフェンで作られ、その場合、前記ホスト基体(1)のコーティングされるべき前記表面(1a)が少なくとも部分的に金属であることを特徴とする、防食要素。
【請求項15】
請求項9から11のいずれか一項に記載のホスト基体デバイスを備える疎水性要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面コーティングの分野に関し、本発明の目的として、ホスト基体のコーティングされるべき少なくとも1つの表面に多層表面コーティングを生成し、塗布し、固着させる方法を有する。本発明は、本発明の目的として、特に、前記方法によって得られるホスト基体デバイスを有する。本発明は、本発明の目的として、かかるホスト基体デバイスを備える発熱要素、かかるデバイスを備える防食要素、およびかかるデバイスを備える疎水性要素も有する。
【背景技術】
【0002】
単層または多層グラフェンなどの2次元(2D)材料、ならびにカーボンナノチューブやカーボンナノファイバなどの炭素質材料は、優れた光学特性、電子特性、機械的特性、および熱的特性、ならびに優れた、さらには並外れた可撓性とガスおよび液体バリア特性とを有し、より具体的にはグラフェンとその誘導体の特性を有する。これらの特性は、近年、いくつかの潜在的な用途、特に、電子機器および半導体、加熱、腐食もしくは生物付着の制御、トライボロジ的もしくは機械的特性の改善、ろ過作用あるいは他の保護バリア、光学、光またはエネルギーの分野における用途への扉を開いた。したがって、これらの材料は、多くの用途でかなりの可能性を示す。
【0003】
発熱の分野では、かかる材料を組み込んだ発熱塗料が開発されている。国際公開第2014/091161号パンフレットは発熱塗料に関し、発熱塗料は、グラファイトを含み、温度の上昇を得るように2つの電極を用いて発熱塗料に電圧を印加するために、少なくとも1つの塗料層の形でホスト基体上に堆積するように意図されている。製造業者Graphenstone(商標)によって作られた発熱塗料など、グラフェンベースの発熱塗料も知られている。このような塗料は、建物の熱調節を改善し、建物のエネルギー消費を実質的に低減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種の塗料、またはこれらの2D材料および/または炭素質材料を含む他の生成物は、材料内の電気伝導または熱伝導の維持を確実にする浸透を達成するために、この同じ塗料に組み込まれる大量の2D材料および/または炭素質材料を必要とし、結果として比較的高い製造コストを伴う生成物になるという欠点がある。
【0005】
さらに、2D材料および/または炭素質材料は、生成物の大部分に埋め込まれるか、あるいは液体溶液中に、例えば塗料中に、樹脂中に、または半導体材料中に分散されるものであり、エネルギー効率が低い。これは、伝導損失を誘発し、良好な浸透を確実にするために高濃度の2D材料および/または炭素質材料を必要とする、炭素質材料の周りの絶縁体(ポリマー、塗料)の存在に起因する。導体(2D材料および/または炭素質材料)と絶縁体(ポリマー、塗料、樹脂)との間のこれらの接合点の周りが過熱するという問題もまた、コーティングの性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、これらの欠点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明の1つの目的は、ホスト基体のコーティングされるべき少なくとも1つの表面に、処理済みか未処理かにかかわらず、多層表面コーティングを、前記
多層表面コーティングおよび前記ホスト基体を含むホスト基体デバイスを得るために、生成し、塗布し、固着させる方法であり、前記方法は、一方では固着生成物を発端とし、他方では、液体形態を有し、水中に、または含水アルコール溶液中に、または溶媒中に分散された単層または多層グラフェンを含む機能生成物を発端とするものであり、前記固着生成物は、ホスト基体のコーティングされるべき該または各表面に、処理済みか未処理かにかかわらず、この表面と前記固着生成物との間の表面相互作用により、直接塗布および固着されることができ、前記機能生成物は、固着生成物と前記機能生成物との間の表面相互作用により、固着生成物に直接塗布および固着されることができ、下記層が連続的に塗布される、すなわち、
固着層と呼ばれる固着生成物の層がホスト基体のコーティングされるべき該または各表面に、処理済みか未処理かにかかわらず、該または各表面を覆うことによって直接塗布され、固着層と該または各表面との間の表面相互作用が、固着層と該または各表面が互いに固着するのを達成し、
機能層と呼ばれる機能生成物の、好ましくは薄い層が固着層に、固着層を覆うことによって直接塗布され、機能層と固着層との間の表面相互作用が、機能層と固着層が互いに固着するのを、したがって、機能層を固着層によってホスト基体のコーティングされるべき該または各表面に固着させるのを達成し、前記機能生成物が、噴霧、放射、または塗布によって固着層に塗布され、
随意に、機能層を塗布する前にかつ/または塗布した後で固着層の乾燥期間を設けて、ホスト基体のコーティングされるべき該または各表面上への固着層の固着および/または固着層上への機能層の固着を促進すること
を本質的に特徴としている。乾燥期間の長さは、最終生成物を構成する異なる材料間の強力な接着を確実にするために、固着層の性質に依存し得る。
【0008】
本発明の別の目的は、本発明による方法によって得ることができるホスト基体デバイスであり、前記ホスト基体デバイスは、処理済みか未処理かにかかわらず、コーティングされるべき少なくとも1つの表面を有するホスト基体を備え、ホスト基体デバイスが、コーティングされるべき表面に直接生成され、塗布され、固着されることができる多層表面コーティングをさらに備え、ホスト基体デバイスが、本発明の方法に従って、コーティングされるべき表面に、処理済みか未処理かにかかわらず、直接生成され、塗布され、固着され得る多層表面コーティングをさらに備え、前記多層表面コーティングが、コーティングされるべき該または各表面に、処理済みか未処理かにかかわらず、直接塗布され固着された固着層と呼ばれる固着生成物の層と、固着層に直接塗布され固着された、単層または多層グラフェンをベースとする機能層と呼ばれる機能生成物の層と、を重ね合わせたものを備えることを本質的に特徴としている。機能層は、所期の用途向けの特定の電気伝導性を確保するために、数回塗布することができる。機能層は、この機能層に直接塗布された保護層によって、特に外部環境から保護することができる。
【0009】
本発明の別の目的は、本発明によるホスト基体デバイスを備える発熱要素において、単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層の温度、したがって発熱要素の温度の上昇を引き起こすことができる活性化システムをさらに備えることを特徴とする、発熱要素である。
【0010】
本発明はまた、本発明の目的として、本発明によるホスト基体デバイスを備える防食要素において、機能生成物が、本来防汚特性を示す単層または多層グラフェンで作られ、その場合、ホスト基体のコーティングされるべき表面が少なくとも部分的に金属であり、かつ/または機能生成物が単層または多層グラフェンで作られることを特徴とする、防食要素を有する。次いで、ホスト基体のコーティングされるべき表面は、媒質に浸漬されることにより媒質、例えば液体と接触するか、または目詰まりまたは汚染の力または効果を有する粒子を含有するガスと接触するように意図され得る。
【0011】
本発明の別の目的は、本発明によるホスト基体デバイスを備える疎水性要素において、機能層が表面疎水性を有することを特徴とする、疎水性要素である。機能層は、前記機能層の外面上に前記疎水性を得るために表面熱処理または化学処理され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明は、非限定的な例として与えられ、添付の概略図を参照して説明される、少なくとも1つの好ましい実施形態に関する下記の説明により、よりよく理解されるであろう。
【0013】
【
図1】露出されアクセス可能な状態の機能層を有する、本発明によるホスト基体デバイスの概略斜視図である。
【
図2】機能層が保護層で覆われた、
図1に示すホスト基体デバイスの概略斜視図である。
【
図3A】格子からなるホスト基体を示す、前記ホスト基体のコーティングされるべき表面上に固着層および機能層を塗布する前の図である。
【
図3B】前記固着層上に機能生成物をスプレーで塗布または堆積して固着層を覆う機能層を形成する段階での、固着層で覆われる、
図3aに示す格子のコーティングされるべき表面を示す図である。
【
図3C】
図3bに示すホスト基体に多層表面コーティングが塗布され、それによって本発明によるホスト基体デバイスを得る、乾燥装置を用いた乾燥段階を示す図である。
【
図3D】一方では、
図3cに示す乾燥段階で得られたホスト基体デバイスを備え、他方では、多層表面コーティングの機能層と電気的に接触して配置された銅電極を備える本発明による発熱要素を示す図であり、前記電極は、抵抗、電圧、電流などの少なくとも1つの電気量の測定を可能にする測定器に接続される。
【
図3E】電極相互間の電位差がゼロの場合に機能層の表面で測定された温度を示す、
図3dの発熱要素を示す図である。
【
図3F】電極相互間の電位差が15Vに等しく、非ゼロ電流が温度の著しい上昇をもたらした場合に機能層の表面で測定された温度を示す、
図3dの発熱要素を示す図である。
【
図4A】ブラシで塗布された白グリセロール塗料ベースの固着生成物を含有する固着層で外側が覆われたPVCチューブからなるホスト基体を示す図である。
【
図4B】固着層を覆う機能層を形成し、それによって本発明によるホスト基体デバイスを得るために、固着層に機能生成物をスプレー塗布するステップ中の
図4aのホスト基体を示す図である。
【
図4C】一方では、
図4bに示す塗布段階で得られたホスト基体デバイスを備え、他方では、機能生成物を含有する機能層と電気的に接触して配置された電極を備える、本発明による発熱要素を示す図である。
【
図4D】電圧が印加されていないか、または電流が機能層に流れていない場合の機能層の温度を示す、
図4cの発熱要素を示す図である。
【
図4E】機能層と接触している電極相互間に10Vに等しい電圧が印加され、それによって電流が機能層に流れ、機能層の温度を上昇させた場合の、機能層の表面上で赤外線カメラによって記録された温度を示す図である。
【
図5A】金属板からなるホスト基体を示す図である。
【
図5B】金属板の両側の一方上にコーティングされるべき表面に、前記表面を覆う固着層を形成するために、ブラシを使用して固着生成物を塗布する段階での
図5aのホスト基体を示す図である。
【
図5C】前記固着層に機能生成物をスプレー塗布して固着層を覆う機能層を形成する段階、したがって固着層と機能層とを重ね合わせることによって多層表面コーティングが形成される段階での、
図5bに示す塗布段階で形成された固着層を有するホスト基体を示す図である。
【
図5D】オーブン内で前記多層表面コーティングを乾燥させ、それによって本発明によるホスト基体デバイスを形成する段階後に多層表面コーティングで覆われた
図5cのホスト基体を示す図である。
【
図5E】
図5dの得られた基体デバイスを備える、したがって熱処理後に水分を除去し、材料層を互いに固着させるように調製された本発明による防食要素を示すとともに、表面を白色紙でこすってもこの紙上にグラフェン(機能層材料)の痕跡が残らず、したがってグラフェンが固着層に非常に良好に付着していることを示していることを示す図である。
【
図5F】流水が連続的に供給されるバケツ1杯の水に浸漬された、
図5dのホスト基体デバイスを備える本発明による防食要素を示す図であり、防食要素の縁部は保護層(白)で覆われている。
【
図5G】前記金属板の浸漬段階での1日後の、一方では、多層表面コーティングで覆われた
図5dのホスト基体デバイスの金属板の一方の側面の表面状態(左側に見られる)を示し、他方では、かかるコーティングで覆われていない前記金属板の他方の側面の表面状態(右側に見られる)を示す図である。
【
図5H】21日間の浸漬後の
図5dのホスト基体デバイスの金属板を示す図であり、多層表面コーティングで覆われていないホスト基体の一部(左側に見られる)は、固着層と明確な腐食の徴候を示す機能層とを備えるが、前記多層表面コーティングで覆われた部分(右側に見られる)は無傷のままであり、腐食が生じていないことを示している。
【
図6A】粗い木板によって形成されたホスト基体を示す図である。
【
図6B】固着層および機能層を塗布し、続いて電極を機能層と接触した状態で配置して、木板を互いに電気的に接続し、本発明による発熱要素を形成した後の
図6aのホスト基体を示す図である。
【
図6C】
図6bの発熱要素において、電極と接触している機能層の表面にブラシで保護層を塗布するのを示す図である。
【
図6D】保護層を有する
図6cの発熱要素を示す図である。
【
図6E】機能生成物を含有する機能層に接続された電極に電流が流れていないときの、
図6dに示す発熱要素の表面の温度を示す図である。
【
図6F】電極相互間に20Vの電圧が非ゼロ電流で印加されたときの、
図6dに示す発熱要素の表面の温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ホスト基体デバイスを得るために、ホスト基体1のコーティングされるべき少なくとも1つの表面1aに多層表面コーティング2a、3aを生成し、塗布し、固着させる方法に関する。
【0015】
かかるホスト基体1は、全部または一部において、限定されるものではないが、あらゆるタイプのポリマー(熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂)、絶縁体もしくは導体、金属、合金、酸化物、木材、セラミック、ガラス、紙、布、炭化ケイ素、チタン、アルミニウム、亜鉛、テフロン(登録商標)、PMMA、PEEK、PLA、商標名Herculonで知られるポリプロピレンマイクロファイバ、炭素/ポリマー複合材料、Kevlar(登録商標)、ナイロン、またはシリコンから生産または構成され得る。
【0016】
かかるホスト基体1は、液体または固体、可撓性または剛性の形態であってもよい。ホスト基体は、液体、例えば非重合モノマーおよび/または固体、例えば、ポリマー、金属、木材、セラミックを含み得る。
【0017】
本発明によれば、かかる方法は、一方では、固体、液体またはゲルの形態でよい固着生成物2を発端として、液体形態を有し、水中に、または含水アルコール溶液中に、または溶媒中に分散された単層もしくは多層グラフェンを含む機能生成物3と発端とするもので
あり、固着生成物2は、ホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1aに、処理済みか未処理かにかかわらず、前記固着生成物2とコーティングされるべき前記表面1aとの間の表面相互作用によって、直接塗布および固着されることができ、前記機能生成物3は、固着生成物2に、前記機能生成物3と前記固着生成物2との間の表面相互作用によって直接塗布および固着されることができ、下記層が連続的に塗布される、すなわち
固着層2aと呼ばれる固着生成物2の層がホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1aに、処理済みか未処理かにかかわらず、その表面を覆うことによって直接塗布され、固着層と該または各表面との間の表面相互作用が、固着層と該または各表面が互いに固着するのを達成し、
機能層3aと呼ばれる機能生成物3の、好ましくは薄い層が固着層2aに、この固着層を覆うことによって直接塗布され、機能層と固着層との間の表面相互作用が、機能層と固着層が互いに固着するのを、したがって、固着層2aを用いてホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1a上に機能層3aを固着するかまたは一体に関連付けるのを達成し、前記機能生成物3は固着層2aに噴霧、放射または塗りによって塗布され、
随意に、機能層3aを塗布する前にかつ/または塗布した後で固着層2aの乾燥期間を設けて、固着層2aをホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1aに固着させ、かつ/または、機能層3aを固着層2aに固着させるのを促進するものである。
【0018】
固着生成物2を含有する固着層2aは、本発明の目的である方法において、いくつかの役割または機能を有する、すなわち
固着層は、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1aへの機能生成物3を含有する機能層3aの接着を確実にする界面の役割を果たす。実際、いくつかの場合、ホスト基体1の性質、したがってコーティングされるべきホスト基体の表面1aの性質は、機能生成物層を直接良好に接着するのを可能にしない、
機能層3aが導電性である場合、機能層3aは、ホスト基体が導電性である場合に、ホスト基体1から電気的に絶縁されることが可能である。これにより、機能層3aのみに電圧が印加されたときに、電流がホスト基体1全体を通過することなく機能層を加熱することが可能になり、したがって、所期の用途が何であれ、電気的安全性の問題を回避することができる。
【0019】
固着層2aと機能層3aとの間の境界は、必ずしも明瞭であるまたは明確に定義されているわけではない、すなわち、2つの層2a、3aが一定の厚さにわたって相互浸透し得ることに留意されたい。
【0020】
ホスト基体1のコーティングされるべき未処理の表面1aは、ホスト基体1のコーティングされるべき本来のまたは元の表面1a、すなわち、固着層2a(固着生成物2を含有する)を塗布する前の表面を意味し、コーティングされるべき処理済み表面1aは、ホスト基体1のコーティングされるべき、好ましくは機械的または熱的または化学的に処理された本来のまたは元の表面1aを意味する、あるいは、1つまたは複数の追加の材料層または材料組成物層がホスト基体1のコーティングされるべき前記表面1aへの固着生成物2の直接固着を可能にするように塗布される対象である、処理済み本来のまたは元の表面を意味する。その場合、コーティングされるべき表面1aは、処理済みか未処理かにかかわらず、表面相互作用によりまたは熱源の作用で、固着層2aがその表面に固着されることを可能にする固着特性を有するが、固着生成物2の固着層2aのものと類似の固着特性を有さず、これにより、固着層の一部について、表面相互作用により、好ましくは自然にまたは熱作用によるかどちらかで、機能層3aを形成するために前記コーティングされるべき表面1aに機能生成物3を固着させることが可能になることが理解されよう。固着層2aは、コーティングされるべき表面1aと機能層3aとの間に固着界面を形成する。
【0021】
機能層3aは、例えば、以下に見られるように、発熱層または疎水性層または例えば電
磁波に対する保護層を形成することにより、本発明によるホスト基体デバイスの特定の機能を提供することを可能にすることが理解されよう。次いで、そのようなホスト基体デバイスは、本発明によるかかるホスト基体デバイスを備える要素の例において以下に説明するように、そのような特定の機能、例えば、加熱、防食、防汚、目詰まり防止または疎水性を有する要素の生成を可能にし得る。
【0022】
固着生成物2の固着層2aおよび/または機能生成物3の機能層3aは、用途および所望の性能に従って、前記固着生成物または機能生成物の1回または複数回のパスで生成され得ることも理解されよう。
【0023】
好ましくは、本方法は、基体1のコーティングされるべき表面1aへの固着層2aの塗布を1回または数回行うことができ、次いで、固着生成物の性質に応じて最後に堆積させた層の表面の乾燥時間の後、機能層3aの堆積が実行される。このようにして生成された要素の期待特性に応じて、期待性能に関して仕様を満たすことができる均質な機能層3aを得るために、機能層3aを形成するための機能生成物3の塗布を繰り返すことができる。
【0024】
機能生成物の薄層は、好ましくは、約0.64nm~200μm、好ましくは10nm~150μm、より優先的には1μm~100μmに含まれる厚さを有する層であると理解される。機能層3aの厚さは、所期の用途に従って適合させることができ、所期の用途に従って決定される空間的に選択的な電気伝導特性または発熱特性を要素に与えるために、覆われるべき同じ表面上で異なることができる。例えば、機能生成物を含有する層3は、特にホスト基体の少なくとも一部を露出させることが所望される場合、マスクを介して、固着生成物を含有する層2の表面上に堆積させることができ、これにより、特定のパターンを有する層3の堆積層を生成することが可能になる。
【0025】
固着層2aに、すなわち固着層の外面上に塗布される機能生成物3の単層または多層グラフェンの量は、前記ホスト基体1の重量質量の約10%未満、優先的には約5%未満、より優先的には3%未満になるように選定され得る。
【0026】
本方法の特定の一実施形態では、
図2に見られるように、本方法はさらに、保護生成物と機能層との間の相互作用によって機能層3に直接塗布および固着されることができる保護生成物4を発端として、保護層4aと呼ばれる前記保護生成物4の層を機能層3aに塗布して機能層を覆い、保護層と機能層との間の相互作用が、自然にあるいは熱作用の影響下で、保護層と機能層が互いに固着するのを達成するものであり得る。保護層4aは、1回または複数回のパスで塗布することができ、所期の用途に応じて異なる性質のものとすることもできる。
【0027】
したがって、上記の実施形態は共に、保護層4aの有無にかかわらず用途に応じて使用することができる。保護層4aなしの実施形態(
図1)は、単層または多層グラフェンを含有する有効機能層3aのアクセス性を必要とする用途に、例えば防食、防汚またはトライボロジの分野で使用することができる。保護層4aを有する実施形態は、発熱(除氷/防氷、家庭暖房など)や電磁遮蔽などの用途および/または電子回路やセンサなどの装置に使用することができる。これらの適用例は、本発明の状況では限定されない。
【0028】
加熱や除霜などの特定の用途では、保護層4aは、要素およびユーザに対する優れた電気的安全性を確保するために、機能生成物3を含有する機能層3aを水分または機械的衝撃から保護するために使用される。
【0029】
保護層4aは、不正問題を制御するために、要素の起源が熱測定手段によって視覚化さ
れることを可能にすることもできる。保護層は、機能層3aの特定のデバイス、パターンまたはアーキテクチャを、機能層がそのようなデバイス、パターンまたはアーキテクチャを備える場合に保護するために使用することもできる。好ましくは、固着層2aおよび/または機能層3aを塗布する各ステップにおいて、本方法は、機能層3aおよび/または固着層2aの厚さを、実質的に均一または不均一になるように生成するものであり得る。
【0030】
機能生成物3は、0.2g/l以上、好ましくは1g/l以上、またはさらにより好ましくは2g/l以上の濃度の多層または単層グラフェンと少なくとも1つの界面活性剤とを含んでいてもよい。濃度は、機能生成物中の上記グラフェンの濃度であることが理解されよう。
【0031】
固着生成物2は、下記リスト、すなわち、プライマー、樹脂、接着剤、複合材、ポリマー、エポキシ塗料、シリコン塗料、水性塗料、油性塗料、高温に耐える充填剤を含有する塗料、に属する生成物のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0032】
本発明の方法によれば、固着層2a、または機能層3aまたは保護層4aは、噴霧、放射、はけ塗り、塗り、浸漬コーティング、インクジェット印刷もしくは輪転グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、リソグラフィもしくはフレキソ印刷などの任意の手段または方法によって、1回または複数回のパスでかつ/または異なる箇所に塗布することができる。保護生成物4は、下記リスト、すなわち、プライマー、樹脂、接着剤、ポリマー、複合材、超疎水性コーティング、高分子プライマーなどの難燃性コーティング、エポキシ塗料、シリコン塗料、水性塗料、油性塗料、高温に耐える充填剤を含有する塗料、ポリウレタン、高温ポリイミド、ポリエステル、または前記生成物のうちの少なくとも2つを組み合わせたもの、に属する生成物のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0033】
図3d、
図3e、
図4cおよび
図4dを参照すると、本方法の特定の実施形態では、本方法は、適切な活性化システムを発端として、すなわち、活性化システムの構造的および機能的特性に関して、活性化システムが活性化状態に置かれたときに、単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層3aの温度上昇を引き起こすものであり得ることが分かる。活性化システムの活性化は、例えば電子管理制御システムによってまたは図示されていない手動制御によって自動的に実行することができる。この活性化は、所期の用途に応じて異なる温度ゾーンを有する要素を得るために、異なる電源を用いて実行することもできる。
【0034】
本方法のこの特定の実施形態では、本方法は、図に示されていない電源とこの電源に接続された2つの電極5とを備える活性化システムを使用して、単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層3aの温度上昇を引き起こす効果を有する機能層3a内に電流を生成する電圧を印加することができるように電極5を機能層3aと接触して配置するものであり得る。この種の発熱用途では、固着層2aの固着生成物2は、機能生成物3の機能層3aの温度上昇に耐えることができるように選択される。
【0035】
さらに、機能層3aは、固着層2aに塗布されると、機能層3aの外面上に疎水性を得るために、表面上で熱的または化学的に処理され得る。このような処理手段は、当業者に知られており、最もよく知られている手段のみを挙げると、例えば、従来型オーブン内での加熱、マイクロ波、赤外線、電磁誘導、ドーピング、または他の化学物質との反応などがある。この処理は、固着層2aが前記処理中に劣化しないように必要な熱特性を有することを確実にすることによって達成することができる。かかる疎水性は、このようにして処理された表面上に凝縮または堆積した水または液体の痕跡を減少させ、したがってホスト基体1を保護する。このような効果は、単層または多層グラフェンの基体中に多孔性が形成されるために、かつ露出表面が疎水性生成物として作用する単層または多層グラフェ
ンのみ含有していないために、単層または多層グラフェンが埋め込まれている生成物、例えば塗料で達成するのは、不可能ではないにしても困難である。機能層3aのかかる表面処理は、炭化水素または他の供給原料もしくは水和物の周りに存在する水の痕跡などの親水性化合物の吸着を低減し、それにより水和物核の形成を妨げることによってホスト基体1を保護するのに有用であり得て、水和物核の形成は、機能層3aの表面上で、したがって本発明による多層表面コーティングの一部を形成する機能層で覆われたホスト基体1の表面上で、管(油またはガス)の部分的または完全な目詰まりを経時的にもたらす。
【0036】
添付の図面は、本発明による方法によって得られる本発明によるホスト基体デバイスを示し、前記ホスト基体デバイスは、コーティングされるべき少なくとも1つの処理済みまたは未処理の表面1aを有するホスト基体1を備える。
【0037】
本発明によれば、かかるデバイスは、本発明の方法に従ってホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1aに生成され、塗布され、固着されることができる多層表面コーティング2a、3aをさらに備え、前記多層表面コーティング2a、3aは、上述したように、コーティングされるべき該または各表面1aに塗布され固着された固着層2aと呼ばれる固着生成物2の層と、単層または多層グラフェンをベースとする、すなわち、単層または多層グラフェンを本質的にベースとするか、または単層または多層グラフェンを本質的にもしくはもっぱら備える、固着層2aに塗布され固着された機能層3aと呼ばれる機能生成物3の層と、を重ね合わせたものを備える。
【0038】
特に、塗布のこの段階では液体形態である機能生成物の塗布に続いて、水または含水アルコール溶液または溶媒は、例えば、機能生成物層または固着生成物層の熱伝導によって機能生成物層または固着生成物層を加熱することにより、自然にまたはより迅速にかつ強制的に蒸発しているので、これは、単層または多層グラフェンを本質的にベースとする、または本質的にもしくはもっぱら含む機能生成物層を固着層上に残す効果を有することが理解されよう。したがって、固着層2aに直接塗布される機能生成物3の層は、グラフェンの均質または準均質な機能層であり得る。
【0039】
多層表面コーティング2a、3aの特定の実施形態では、多層表面コーティングは、本方法に従って上述したように、機能層3aに、機能層を覆うことによって塗布および固着された保護層4aと呼ばれる保護生成物4の層をさらに備えていてもよい。この保護層4aは、機能層が外部環境に対して導電性であるときに機能層3aを電気的に絶縁する機能を有することができ、この機能により、機能層3aの加熱中に外部環境への熱の放散を低減することが可能になり、したがって、加熱されるべき基体1に向かって熱を集中させるか、または着色された装飾要素をシステム内に導入することが可能になり、さらにユーザの安全のためにもなる。この保護層4aにより、例えば不正制御の目的で、例えば赤外線カメラによって視覚化され得る、機能層3の特定のパターンにマスキングすることも可能になる。
【0040】
好ましくは、ホスト基体1のコーティングされるべき該または各表面1aに塗布される機能生成物3の単層または多層グラフェンの量は、前記ホスト基体1の質量の約10%未満、優先的には約5%未満、より優先的には3%未満であり得る。
【0041】
特に
図3e、
図3f、
図4e、
図4fおよび
図5d、
図5eに見られるように、本発明の別の目的は、本発明によるホスト基体デバイスを備える発熱要素である。
【0042】
本発明による多層表面コーティング2、3は、ホスト基体1のコーティングされるべき任意の表面1aに塗布することができ、例えば、エレクトロニクスやオプトエレクトロニクス(電子回路、フォトトランジスタなど)などの分野だけでなく、発熱、電磁シールド
およびセキュリティでも、グラフェン、単層および多層の効率的な使用を可能にする。これらのシステムはまた、熱交換器用途および液体またはガスの輸送管における水膜または水和物種の形成を低減する疎水性デバイスとして、あるいは特定の用途における金属化合物を置き換える導電性ポリマー系デバイスとして使用することができる。発熱関連の用途には、例えば、壁暖房、床暖房、テーブルや椅子などの家具の暖房などの家庭暖房、除氷/防氷、特に航空機翼の除氷、およびセンサが含まれる。これらのデバイスは、固体種の形成を回避するために、液体管またはガス管の温度を維持するためにも使用される。発熱布などの他の用途も考慮することができる。
【0043】
本発明によれば、そのような発熱要素は、単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層3aの温度、したがって発熱要素の温度の上昇を引き起こすことができる活性化システムをさらに備える。
【0044】
有利には、本発明に従って生成される1つまたは複数のデバイスは、印加される電圧に応じて、10秒~1時間に含まれる、設定温度レベルに達するための非常に高い発熱速度を有することができる。さらに、同じタイプの基体に対する、印加電流と放出エネルギーの比は、印加される出力電圧と単層または多層グラフェン負荷の重量とに応じて、50W/m2~5000W/m2、好ましくは500W/m2~4000W/m2、より具体的には1000W/m2~3000W/m2の範囲に含まれ得る。実際、後で塗布される固着層2aおよび/または機能層3aの厚さが比較的小さく、固着層と機能層との間の混合速度が非常に低いことを考えると、端子に電圧が印加されたときに機能層3aの温度の大幅な上昇を迅速に確立することができるはずである。
【0045】
本発明によるそのような発熱要素は、2つの層、すなわち固着層2aおよび機能層3aの塗布がバインダと導電材料との間で別々に行われて、ホスト基体1の塗布されるべき表面1a上に均一な被覆層を与えることができ、従来技術の場合のような、例えば、上述の国際公開第2014/091161号パンフレットに開示されているような緊密な混合物としてではないという点で、従来技術のものとは異なる。
【0046】
活性化システムの好ましい一実施形態では、活性化システムは、電源に接続された2つの電極5を備えていてもよく、前記電極は、単層または多層グラフェンと相互作用して、前記機能層3aの温度、したがって発熱要素の温度の上昇を引き起こす効果を有する機能層3aに電流が通過することを可能にする電圧を印加することができるように機能層3aに接続され得る。活性化システムの他の実施形態を想定することができ、例えば、活性化システムが電磁波もしくは赤外線波エミッタを備えている形態、単層または多層グラフェンと相互作用してかかる温度の上昇を可能にする、0.5~5GHzの間に含まれる波長をもつ任意の波(GSM、3G、4G、WIFIなど)などが挙げられる。
【0047】
このような発熱要素のホスト基体1は、例えば、種々の大きさの仕切り、壁、他の支持体などの建物内の分離壁からなり得る。長方形の形状および寸法、例えば20cm(長さ)×12cm(幅)の木板、正方形の形状および寸法、例えば55cm×55cmのプラスチック格子、例えば12cm(直径)×55cm(長さ)の寸法のプラスチックチューブなどの様々なサイズおよび形状のホスト基体1からのかかる発熱要素のいくつかの実施形態例により、温度の大幅な上昇を実証する試験を実行することが可能になっている。
【0048】
本発明による発熱要素の生成に関する第1の例では、ホスト基体1は木板からなり、本方法は、添付の図には示されていない、本発明による前記ホスト基体1に多層表面コーティング2a、3aを生成し、塗布し、固着させる下記ステップを実行するものであり、
例えば塗料タイプの固着生成物2で生成された固着層2aを、ブラシを用いてホスト基体1のコーティングされるべき表面1aに塗布し、
次いで、5分後に、水および濃度5g/Lの多層グラフェンを含む液体溶液などの機能生成物3を固着層2aの上面上に噴霧して、固着層を覆う機能層3aを形成した。この作業は、固着層2aの表面上に均質で導電性のグラフェンベースの層(機能層3a)を得るために、数回行うことができる。堆積させるグラフェンの量はホスト基体1の質量の1%未満であり、
次いで、得られたアセンブリに周囲温度より高い温度で乾燥処理を施して、一方では固着層2aと機能層3aの互いの接着を促進し、他方ではホスト基体1への固着層2aの接着を促進し、
次いで、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1a上の各層を乾燥させ接合した後、2つの銅電極5を堆積させ、機能層3aと電気的に接触させた。電極5の数は、得られる発熱要素の形状に応じて、また前記発熱要素に印加されるべき電圧に応じて、2つより多くてもよく、
次いで、機能層3aを、15Vの電圧を印加したときに直流電流を流すことによって加熱して、24.4℃から91.7℃に15分で昇温させた。この種の発熱要素は、低い印加電圧で温度が大幅に上昇するため、高い電気熱変換効率を示した。
【0049】
発熱要素の生成に関する第2の例では、ホスト基体1は、寸法55cm×55cmのポリマー格子からなり、本方法は、
図3a、
図3b、
図3c、
図3dに見られるように、本発明に従って前記ホスト基体1に多層表面コーティング2a、3aを生成し、塗布し、固着させる下記ステップを実行するものであり、
白色グリセロールタイプの固着生成物2を、図示されていないブラシで塗ることにより、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1aに塗布し(
図3a)、
次いで、15分後に、水および濃度5g/Lの多層グラフェンを含む液体溶液などの機能生成物3を、スパッタリング装置6aを用いて固着層2a上に噴霧して機能層3aを形成し、堆積したグラフェンの量はホスト基体1の質量の1%未満であった(
図3b)。機能層3aの堆積領域は、
図3bにおいて灰色で見られ、
次いで、得られたアセンブリに乾燥装置7を使用して乾燥プロセスを施して、機能層3aとホスト基体1上の固着層2aとの接着を促進し(
図3c)、
アセンブリを乾燥させた後、電極5を機能層3aの表面上に堆積させた(
図3d)。
図3dの挿入図に示すように、マルチメータを使用して電極5の2つの端子の間で測定された電気抵抗は比較的低い、約45オームであり、
次いで、機能層3aを、15Vの電圧を印加したときに電極を介して直流電流が通過することによって加熱し、これにより、機能層の温度が28.8℃(実験中に測定された周囲温度)(
図3e)から44.6℃に10分で上昇した(
図3f)。この種の発熱要素は、低い印加電圧で温度が大幅に上昇するため、高い電気熱変換効率を示した。
【0050】
発熱要素の生成に関する第3の例では、ホスト基体1は、ポリマーチューブ、例えばPVCチューブから構成されてもよく、本方法は、
図4a、
図4b、
図4c、
図4eに見られるように、本発明に従って前記ホスト基体1に多層表面コーティング2a、3aを生成し、塗布し、固着させる下記ステップを実行するものであり、
白色グリセロール塗料などのプライマータイプの固着生成物2をブラシ6bでチューブの外面上に塗布して、固着層2aを形成し(
図4a)、
10分後に、水および濃度2g/lの多層グラフェンを含む液体溶液の形態の機能生成物3を、スパッタリング装置6aを用いて固着層2a上に噴霧して機能層3aを形成し、堆積したグラフェンの量はホスト基体1の質量の1%未満であった(
図4b)。この作業を4回繰り返して、均質な機能層3aを得て、
次いで、得られたアセンブリに、図に示されていない乾燥プロセスを施して、固着層2aへの機能層3aの接着だけでなく、ホスト基体1への固着層2aの接着をも促進し、
次いで、乾燥後、2つの銅電極5を堆積させ、機能層3aと電気的に接触させ(
図4c)、
次いで、機能層3aを、10Vの電圧を印加したときに直流電流によって加熱し、これにより、機能層の温度が22.6℃(
図4d)から48.8℃(
図4e)に上昇した。この実施例は高い電気熱変換効率を示し、10Vの低電圧で温度が50℃に達した(
図5e)。この種の発熱要素は、低い印加電圧で温度が大幅に上昇するため、高い電気熱変換効率を示した。
【0051】
発熱要素の生成に関する第4の例では、木材で作られたホスト基体1は、家庭暖房の分野での用途の木板またはパネルからなり、本方法は、
図6a、
図6b、
図6c、
図6dに見られるように、本発明に従って前記基体1に多層表面コーティング2、3、4を生成し、塗布し、固着させる下記ステップを実行するものであり、
グリセロール塗料タイプの固着生成物2を、図示されていないブラシで塗ることにより、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1a(
図6a)に塗布し、
次いで、10分後に、水および濃度5g/Lの多層グラフェンを含む液体溶液などの機能生成物3を、機能生成物の機能層3aを形成するために噴霧装置を用いて固着層2a上に噴霧した。この作業を6回繰り返して、電気抵抗の低い機能層を堆積させる。堆積したグラフェンの量はホスト基体1の総重量の0.5%未満であるので、次いで、得られたアセンブリに乾燥装置を用いて乾燥プロセスを施して、一方では固着層2aへの機能層3aの接着を促進し、他方ではホスト基体のコーティングされるべき表面1aへの固着層の接着を促進し、
要素を乾燥させて一体多層構造を得た後、銅電極5を堆積させ、機能層3aと電気的に接触させ(
図6b)、
次いで、保護層4aを機能層3aの表面にブラシ6bで塗布し(
図6c)、
次いで、木板をプレキシグラス(商標)ベースの受け板7上に組み付けて、発熱構造のものと同様の構造を形成し(
図6d)、
機能層3aと接触している1組の電極5を電気回路に接続し、
次いで、機能層3aを、電極5の間に15Vの電圧を印加したときに直流電流を流すことにより加熱して、機能層の温度を24.7℃(
図6e)から72.9℃(
図6f)に20分で上昇させた。この種の発熱要素は、低い印加電圧で温度が大幅に上昇するため、高い電気熱変換効率を示した(
図6f)。
【0052】
本発明による発熱要素の実施形態の前述の例は、特に、様々なタイプの表面上の、単層および多層グラフェンをベースとする機能層に関して、かかる発熱要素の実現可能性を実証する。
【0053】
本発明による多層表面コーティング2a、3a、4aは、任意のホスト基体1の表面上に塗布することができ、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス(電子回路、フォトトランジスタなど)においてだけでなく、発熱、電磁気学、遮蔽、セキュリティなどの新しい分野においても、グラフェンの効率的な使用を可能にする。発熱に関連する用途の中で、例えば、壁暖房、床暖房、テーブルや椅子などの家具の暖房などの家庭暖房、除氷/防氷、特に航空機翼の除氷、およびセンサを挙げることができる。布発熱などの他の用途も考慮することができる。
【0054】
図4を参照すると、本発明はまた、本発明の目的として、本発明によるホスト基体デバイスを備える防食要素を有することが分かる。
【0055】
本発明によれば、かかる防食要素において、機能生成物3は、本来防食特性を有している単層または多層グラフェンから生成され、その場合、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1aは少なくとも部分的に金属である。次いで、ホスト基体1のコーティングされるべき表面1aを、特に液体媒質または気体媒質に浸漬することができる。
【0056】
長方形で寸法が12×20cmの金属板からなるホスト基体1を備えたかかる防食要素の生成に関する一例が、
図5a、
図5b、
図5c、
図5d、
図5e、
図5fに見られるように、本発明に従って前記ホスト基体1に多層表面コーティング2a、3aを生成し、塗布し、固着させる下記ステップを実行するものであり、
固着層2aを形成するために、固着生成物2をホスト基体1の片面に対してコーティングされるべき金属表面1a上にブラシ6bで塗布し(
図5aおよび
図5b)、
15分後に、機能層3aを形成するために、濃度5g/lのグラフェンを含む液体溶液の形態の機能生成物3を、スパッタリング装置6aによって固着層2a上にのみ、または本質的に固着層上に事前に噴霧し、堆積したグラフェンの量はホスト基体1の質量の0.5%未満であり(
図5c)、
次いで、得られたアセンブリに80℃で乾燥プロセスを施して、固着層2aへの機能層3aの接着、および基体1のコーティングされるべき表面1aへの固着層2aの接着を促進し(
図5d)、
【0057】
次いで、グラフェン炭素を乾燥させ、固着層2aに接合した後、片側または片面のみがグラフェンベースの多層表面コーティング2a、3aでコーティングされたホスト基体1(
図5e)を、連続水流8aを備えた容器8に入れた(
図5f)。21日間の水流の後(
図5h)、多層表面コーティングのコーティングされていない部分の劣化および多層表面コーティングのコーティングされた側の高い耐食性を明確に観察することができ、このような防食要素の優れた性能を実証した。このような防食要素は、目詰まり防止または防汚要素としても使用することができ、例えば船殻や油管などのホスト基体1上での藻類の成長を妨げることにより、ホスト基体1上での付着物の堆積を防止するために、またはガス管もしくは油管の内側での水和物の形成を妨げるかまたは遅くすることために使用することができ、トライボロジの分野では、固体と固体との間(例えば、時計機構、自動車、産業パイロットの分野における金属相互間の歯車)、固体と空気との間(例えば、ヘリコプタのブレードと空気との摩擦)、または固体と液体との間(例えば、油と油を運ぶ管の壁との間)の摩擦特性を改善するために使用することができる。
【0058】
本発明による発熱要素は、金属構造の除氷要素として使用することができる。固着層2aの存在により、機能層3aの機能生成物3を基体1の金属構造から電気的に絶縁することが可能になる。機能層3aと接触している電極相互間に電圧を印加すると、機能層の温度は、ホスト基体1内で電流を失うことなく上昇する。機能層3a内のこうした温度上昇により、構造上での氷の形成の問題を低減することができる。
【0059】
本発明の別の目的は、本発明によるホスト基体デバイスを備える疎水性要素である。このような要素では、機能層3aは表面疎水性を有する。この疎水性は、要素を熱処理することによるか、あるいは機能層3aの表面を化学処理、例えば疎水性物質を用いた官能化によって特異的に処理することにより、生成することができる。
【0060】
疎水性は、合成後に、使用される基体の性質に応じて、疎水性要素に適切な熱処理または化学処理を施させることによって改善することができる。
【0061】
本発明はまた、特定の特性、特に表面特性、例えば特定のトライボロジ的特性を有する本発明によるホスト基体デバイスを備える他の要素も提供し得る。
【0062】
もちろん、本発明は、添付の図面に記載され描かれた実施形態に限定されるものではない。特に、様々な要素を構成する観点から、または技術的等価物の置換によって、本発明の保護範囲を逸脱することなく、変更が可能なままである。