(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241024BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241024BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20241024BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D5/16
C09K3/00 R
(21)【出願番号】P 2019212584
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津曲 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴行
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 英宏
(72)【発明者】
【氏名】松山 貴則
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224219(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097012(WO,A1)
【文献】特開2001-011426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/65
C09D 5/16
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、R
1は水素原子、又はメチル基、R
2は炭素数1~10のアルキレン基、R
3は炭素数1~12のアルキル基、mは2~150の数を示す。)で表される共重合繰返単位(a)
と
下記化学式(II)
【化2】
(式(II)中、R
4は水素原子、又はメチル基、R
5は炭素数2~10のアルキレン基、R
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~12のアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)で表される共重合繰返単位(b)
と
ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマー、アルコキシシラン基含有(メタ)アクリレートモノマー、及び水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも何れかの官能基含有コモノマーの共重合繰返単位(c)とを含み、重量平均分子量が1500~100000であ
り(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合繰返単位を含んでおらず、ポリアルキレンオキサイドであるセグメントを含んでいない共重合物を含有しており、
前記共重合物における前記共重合繰返単位(a)と前記共重合繰返単位(b)との総計の質量比が、0.1~20.0と99.9~80.0とであり、
前記共重合繰返単位(c)が、前記共重合繰返単位(a)及び前記共重合繰返単位(b)の総重量100質量部に対して、最大でも10質量部であり、
塗装コーティング被膜露出表面に親水性を付与することを特徴とするコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤。
【請求項2】
請求項
1に記載のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤と、被膜形成成分とを含有していることを特徴とするコーティング被膜形成液剤。
【請求項3】
請求項
2に記載のコーティング被膜形成液剤の塗膜であって基材上で形成されていることを特徴とする塗装コーティング被膜。
【請求項4】
前記親水性によって前記塗装コーティング被膜露出表面で、防汚性を有することを特徴とする請求項
3に記載の塗装コーティング被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料やコーティング剤のようなコーティング被膜形成液剤に少量配合されるものであり、それにより形成された塗装コーティング被膜露出表面にレベリング性を与え、水接触角測定法の一種である拡張収縮法において、後退接触角を下げることで親水性を付与するコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装面の高付加価値化に伴い、被塗工対象物へ塗装する塗料やコーティング剤のようなコーティング被膜形成液剤で形成された塗装コーティング被膜の露出表面を親水化することでその防汚性を向上させる要望がある。以下、塗装コーティング被膜について単に被膜とも表す。
【0003】
一般に上記被膜に親水性を付与する手法としては、被膜を形成するコーティング剤等に含まれる樹脂自体やそれを形成する架橋性成分自体を親水性にすることで、形成された被膜露出表面を親水性にする場合が多い。しかしこの場合、硬化性樹脂成分が親水性である必要があるため、使用できる樹脂や架橋成分が制限される。また、被膜全体が親水性となることで、被膜内部への水分の侵入が生じ易くなり、被膜と被塗工対象物との界面に水が浸透したり膨潤したりするので、被膜そのものの耐久性に懸念が生じる。
【0004】
また、既存のコーティング剤等へ親水性を付与する場合には、硬化性樹脂成分からの改良が必要であり、大幅な見直しが必要となる。非親水性コーティング剤等によって形成された被膜に親水性コーティング剤等を上塗りすることで親水性を付与する場合もある。しかしこの場合、非親水性コーティング剤等によって形成された被膜と親水性コーティング剤等によって形成された被膜とが積層された状態である為、層間剥離による被膜脱離が生じやすく耐候性が得られ難い問題が生じる。また、徐々に剥離していく所為で、被膜表面形状が変化し、光沢低下等の外観不良が生じる。
【0005】
また、近年、焼き付け用コーティング剤における親水化剤の要望が多く、用途としては屋外設置用物置や屋根用のプレコートメタル等が挙げられる。これらへは被膜の長期的な耐候性が求められる。
【0006】
一方で親水性を付与する為に表面調整剤を用いた場合は、既存のコーティング剤等に少量添加することで、形成された被膜の耐久性や硬度といった被膜に求められる物性を変えずに被膜露出表面を親水化することができる。
【0007】
被膜へ親水性を付与する表面調整剤として、多くは加水分解により親水性を発現するエチルシリケートで代表されるシリケート類が用いられる場合が多い。この場合、加水分解には概ね2~3ヶ月間の時間が必要である。また、親水性発現後は長期的な親水性維持が可能であるが、長期的な親水性は、徐々に被膜内部へ水分が侵入してしまう所為で、被膜そのものの耐久性を低下させる場合がある。
【0008】
また、このような表面調整剤を用いたコーティング剤中での問題点としては、表面調整剤自身のゲル化、樹脂との架橋によるコーティング剤の増粘といった添加後の経時での安定性に不具合が生じやすいことが挙げられる。また空気中の水分による加水分解が生じて表面調整剤自体が高極性化し、表面配向性が無くなることで親水化性能が低下する場合もある。
【0009】
親水性セグメントとしてポリアルキレンオキサイドを含有した表面調整剤を用いる場合もある。この表面調整剤は被膜形成初期から親水性を発現できるが、焼き付け塗料等の高温焼き付けの場合、ポリアルキレンオキサイドの耐熱性の低さから熱分解又は加水分解の所為と考えられる性能低下傾向が見られる。
【0010】
被膜形成初期から親水性を発揮し、耐熱性も良好な表面調整剤として、特許文献1に、シロキシ基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーとアクリルアミドモノマーとの共重合物を含有する表面調整剤が開示されている。この表面調整剤は、被膜形成初期から被膜の表面における水の静的接触角を下げ、高い親水性を発揮することができる。しかし、被膜形成初期から高い親水性を発揮する反面、被膜の暴露において被膜形成初期ではセルフクリーニングによる良好な防汚性を発揮するが、その被膜の表面張力を向上させる為に、大気中の汚れ成分の吸着が起きやすく、そのような汚れが蓄積していくと、親水性と防汚性を維持しづらくなる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、被膜を形成する塗料やコーティング剤のようなコーティング被膜形成液剤に少量配合することにより、形成された塗装コーティング被膜露出表面に、レベリング性と、塗装コーティング被膜における水の静的接触角を低下させずに、水の接触角測定における拡張収縮法において後退接触角のみを低下させるような、塗装コーティング被膜に水が付着した際にのみ親水性を与えることで、塗装コーティング被膜の屋外暴露においてセルフクリーニングをすることによる長期的な防汚性とを、付与するコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤、それを含有するコーティング被膜形成液剤、及びその塗装コーティング被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、R
1は水素原子、又はメチル基、R
2は炭素数1~10のアルキレン基、R
3は炭素数1~12のアルキル基、mは2~150の数を示す。)で表される共重合繰返単位(a)
と
下記化学式(II)
【化2】
(式(II)中、R
4は水素原子、又はメチル基、R
5は炭素数2~10のアルキレン基、R
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~12のアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)で表される共重合繰返単位(b)
と
ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマー、アルコキシシラン基含有(メタ)アクリレートモノマー、及び水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも何れかの官能基含有コモノマーの共重合繰返単位(c)とを含み、重量平均分子量が1500~100000であ
り(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合繰返単位を含んでおらず、ポリアルキレンオキサイドであるセグメントを含んでいない共重合物を含有しており、
前記共重合物における前記共重合繰返単位(a)と前記共重合繰返単位(b)との総計の質量比が、0.1~20.0と99.9~80.0とであり、
前記共重合繰返単位(c)が、前記共重合繰返単位(a)及び前記共重合繰返単位(b)の総重量100質量部に対して、最大でも10質量部であり、
塗装コーティング被膜露出表面に親水性を付与するものである。
【0014】
このコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマー、アルコキシシラン基含有(メタ)アクリレートモノマー、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー、及び水酸基含有(メタ)アクリルアミドモノマーから選ばれる少なくとも何れかの官能基含有コモノマーの共重合繰返単位(c)を有する前記共重合物を含有しており、前記共重合繰返単位(c)が、前記共重合繰返単位(a)及び前記共重合繰返単位(b)の総重量100質量部に対して、最大でも10質量部であるものであってもよい。
【0015】
前記の目的を達成するためになされた本発明のコーティング被膜形成液剤は、前記コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤と、被膜形成成分とを含有しているものである。
【0016】
前記の目的を達成するためになされた本発明の塗装コーティング被膜は、前記コーティング被膜形成液剤の塗膜であって基材上で形成されているものである。
【0017】
この塗装コーティング被膜は、前記親水性によって前記塗装コーティング被膜露出表面で、防汚性を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、被膜を形成する塗料やコーティング剤のようなコーティング被膜形成液剤に少量配合されることで、その少量が系全体に相溶している状態となるが、被膜の成膜過程において塗装コーティング被膜露出表面へと配向して塗装コーティング被膜露出表面で高濃度状態となり、少量の配合量においても高い親水性の付与効果を示すことができる。
【0019】
本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤によれば、コーティング被膜形成液剤、例えば高温で硬化させる焼き付け用の塗料やコーティング剤に少量添加することで、形成された被膜露出表面に、レベリング性と、水接触角測定法の一種である拡張収縮法において後退接触角を下げる親水性とを、付与することができる。その結果として、被膜露出表面に、被膜の屋外暴露におけるセルフクリーニングによる長期的な防汚性を、付与することができる。
【0020】
また、塗装コーティング被膜における水の静的接触角を低下させずに、水の接触角測定における後退接触角のみを低下させるような、被膜に水が付着した際にのみ親水性を与えることで、乾燥時の被膜露出表面への汚れ成分の付着を緩和し、雨水等の水による洗浄性やセルフクリーニング機能を向上させることで防汚性を実現することができる。
【0021】
本発明のコーティング被膜形成液剤は、含有されるコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤が高い界面への配向性を有しており、表面張力の均一化効果からレベリング性を発現し、塗工ムラやユズ肌等の被膜露出表面の不具合を僅少にすることができる。
【0022】
上記コーティング被膜形成液剤の塗膜である本発明の塗装コーティング被膜は、その被膜露出表面において、水が被膜露出表面に存在する時にのみ親水性を発揮させることができ、乾燥時に被膜への汚れ物質の吸着が起きにくく、長期的な防汚性を発揮することができる。
【0023】
また、この塗装コーティング被膜は、それに上塗りする際にも塗装ムラが生じず、塗装コーティング被膜と上塗り層との付着性を低下させることなく、しっかりと密着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、上記化学式(I)で表されるポリシロキサン骨格を有する共重合繰返単位(a)と、上記化学式(II)で表されるアンモニウムカチオン基を有する共重合繰返単位(b)とを有する共重合物を含有するものである。この共重合物は、その重量平均分子量が1500~100000であり、その共重合物中における共重合繰返単位(a)と共重合繰返単位(b)との総計の質量比が、0.1~20.0と99.9~80.0とになっているものである。
【0026】
この共重合物の重量平均分子量は、3000~50000であると一層好ましい。重量平均分子量が1500未満の場合、塗料やコーティング剤に添加しそれらを塗工する際に、泡の問題が生じやすくなり、100000を超える場合、塗膜表面への配向性が低下し、十分な親水性を得ることができなくなる。
【0027】
ポリシロキサン骨格を有する共重合繰返単位(a)は共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)の総計100質量部中に、0.1~20.0質量部であると好ましく、1~10質量部であるとより好ましい。
【0028】
アンモニウムカチオン基を有する共重合繰返単位(b)は共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)の総計100質量部中に、99.9~80.0質量部であると好ましく、99~90質量部であるとより好ましい。共重合繰返単位(b)が80質量部より少ない場合、十分な親水性を発現することができない。また塗料やコーティング剤に添加した際に、その中の他成分との相溶性が極端に悪くなり、それの塗装の際にハジキが生じたり、塗膜表面に凹みが生じたりするうえ、上塗りのレベリング性を悪化させ、十分な上塗り付着性を得ることができなくなる。
【0029】
共重合物中のポリシロキサン骨格を有する共重合繰返単位(a)は、下記化学式(III)で表される片末端(メタ)アクリル変性のモノ(メタ)アクリレートモノマーを用いることで得ることができる。
【0030】
【化3】
(式(III)中、R
7は水素原子、又はメチル基、R
8は炭素数1~10のアルキレン基、R
9は炭素数1~12のアルキル基、nは2~150の数を示す。)
【0031】
例えば、サイラプレーンFM-0711、サイラプレーンFM-0721、サイラプレーンFM-0725(以上JNC株式会社の製品名;サイラプレーンはJNC株式会社の登録商標)、KF-2012、X-22-2426、X-22-2475(以上信越化学工業株式会社の製品名)の片末端(メタ)アクリルモノマーの利用が挙げられる。
【0032】
共重合物中のアンモニウムカチオン基を有する共重合繰返単位(b)は、4級アンモニウムカチオン基を有する共重合繰返単位(b)であることが好ましい。共重合物中の4級アンモニウムカチオン基を有する共重合繰返単位(b)は、例えばDMAPAA-Q(KJケミカルズ株式会社の製品名)、アクリエステルDMC(三菱ケミカル株式会社の製品名)、ライトエステルDQ-100(共栄社化学株式会社の製品名)を用いることで得ることができる。
【0033】
また、下記化学式(IV)で表される3級アミンの構造を持つ(メタ)アクリレートモノマーを用いることができる。
【0034】
【化4】
(式(IV)中、R
10は水素原子又はメチル基、R
11は炭素数2~10のアルキレン基、R
12はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~12のアルキル基を示す。)
【0035】
3級アミンの構造を持つ(メタ)アクリレートモノマーは、例えばDMAPAA(KJケミカルズ株式会社の製品名)、アクリエステルDM、アクリエステルDE(三菱ケミカル株式会社の製品名)、アロンDA(東亜合成株式会社の製品名)、ライトエステルDM(共栄社化学株式会社の製品名)が挙げられる。
【0036】
これらの3級アミンを有する(メタ)アクリレートモノマーのアミンは、下記化学式(V)で表されるハロゲン化アルキルを用いて4級塩化される。
【0037】
【化5】
(式(V)中、Xはヨウ素原子、臭素原子または塩素分子、R
13は炭素数4~16のアルキレン基を示す。)
【0038】
ハロゲン化アルキルは、例えば1-クロロブタン、1-クロロペンタン、1-クロロヘキサン、1-クロロヘプタン、1-クロロオクタン、1-クロロノナン、1-クロロデカン、1-クロロウンデカン、1-クロロドデカン、1-クロロトリデカン、1-クロロテトラデカン、1-クロロペンタデカン、1-クロロヘキサデカン、1-ブロモブタン、1-ブロモペンタン、1-ブロモヘキサン、1-ブロモヘプタン、1-ブロモオクタン、1-ブロモノナン、1-ブロモデカン、1-ブロモウンデカン、1-ブロモドデカン、1-ブロモトリデカン、1-ブロモテトラデカン、1-ブロモペンタデカン、1-ブロモヘキサデカン、1-ヨードブタン、1-ヨードペンタン、1-ヨードヘキサン、1-ヨードヘプタン、1-ヨードオクタン、1-ヨードノナン、1-ヨードデカン、1-ヨードウンデカン、1-ヨードドデカン、1-ヨードトリデカン、1-ヨードテトラデカン、1-ヨードペンタデカン、1-ヨードヘキサデカンが挙げられる。
【0039】
コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤中の共重合物は、構成する繰返単位として、共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)だけでなく他の共重合繰返単位を有するものであってもよい。例えば共重合物は、共重合繰返単位(a)と共重合繰返単位(b)とを含有する共重合物であってもよく、さらにブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマー、アルコキシシラン基含有(メタ)アクリレートモノマー、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー、及び水酸基含有(メタ)アクリルアミドモノマーから選ばれる少なくとも何れかの官能基含有コモノマーの共重合繰返単位(c)を含有する共重合物であってもよい。
【0040】
この共重合繰返単位(c)は、共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)の総重量100質量部に対して、10質量部以下であると好ましい。これにより、塗料やコーティング剤のようなコーティング被膜形成液剤に添加して使用した際に、それにより形成された塗装コーティング被膜露出表面で、コーティング被膜形成液剤中の被膜形成成分である樹脂と反応するため、雨水によるコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の溶け出しがさらに生じ難くなり、防汚性に有利に働くことができる。10質量部を超えると本来の性能を害する恐れがある。これらの官能基含有コモノマーは、総重量が規定の配合量以下であれば単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
【0041】
ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーは、ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレート類であり、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレートモノマーに、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、カプロラクタム、メチルエチルケトン-オキシム、ジメチルピラゾール、及びマロン酸ジエチルから選ばれるブロック剤を反応させたモノマー等が挙げられる。
【0042】
アルコキシシラン基含有(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーは、水酸基含有(メタ)アクリレート類であり、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
水酸基含有(メタ)アクリルアミドモノマーは、水酸基含有(メタ)アクリルアミド類であり、例えばN-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0045】
さらに、本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は本剤の親水性付与性能を害しない限りにおいて、上記の共重合物中に、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニル基含有化合物類から選ばれる少なくとも何れかのコモノマーの共重合繰返単位(d)を含有していてもよい。これにより、塗膜のレベリング性の向上や、塗膜の焼き付け硬化時のワキの抑制に働くことができる。
【0046】
この共重合繰返単位(d)は、共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)、又は共重合繰返単位(a)、共重合繰返単位(b)及び共重合繰返単位(c)の総重量100質量部に対して、最大でも10質量部であると好ましい。10質量部を超えると本来の性能を害する恐れがある。上記コモノマーは、総重量が規定の配合量以下であれば単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
【0047】
アルキル(メタ)アクリレート類は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、例えばアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートであって、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ノルマルオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸等が挙げられる。
【0048】
(メタ)アクリルアミド類は、例えばジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド-ターシャリーブチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド-ターシャリーブチルスルホン酸有機塩、(メタ)アクリルアミド-ターシャリーブチルスルホン酸無機塩等が挙げられる。
【0049】
なお、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味している。
【0050】
ビニル基含有化合物類は、例えばノルマルブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ターシャリーブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテルのような炭素数1~12直鎖状、分岐状、又は環状のアルキルビニルエーエルモノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニルのようなビニルエステルモノマーが挙げられる。
【0051】
本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、共重合物のみからなるものであってもよく、不活性溶媒と共重合物と必要に応じて添加剤とが混合され、溶解、又は懸濁されたものであってもよい。
【0052】
不活性溶媒は、この共重合物を溶解、又は懸濁させることができるのもので、コーティング剤に混和できるものであると好ましい。具体的にはキシレン、トルエン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル系溶媒、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテートのようなエステル系溶媒、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2-エチルヘキサノール、3-メチル-3-メトキシブタノールのようなアルコール系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0053】
このコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、以下のようにして調製される。
【0054】
共重合繰返単位(a)を形成するコモノマー(A)としてシロキシ基含有(メタ)アクリレートモノマーと、共重合繰返単位(b)を形成するコモノマー(B)として3級アミンの構造を持つ(メタ)アクリレートモノマーとを適宜溶媒中、ラジカル重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤の存在下でランダム共重合させて、共重合物を合成する。この共重合物の重合方法は、ラジカル重合に限るものではない。この共重合物は、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。次に、ハロゲン化アルキルを、得られた共重合物に適宜滴下し、共重合物中に4級アンモニウムカチオンを形成し、コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を調製する。更に、コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、得られた共重合物と不活性溶媒とを混合して調製されてもよい。
【0055】
またコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤に含有される共重合物が、共重合物中に共重合繰返単位(a)及び共重合繰返単位(b)の他に、共重合繰返単位(c)や共重合繰返単位(b)を含む場合は、コモノマー(A)及びコモノマー(B)と併せて共重合繰返単位(c)を形成する官能基含有コモノマー(C)や共重合繰返単位(d)を形成するコモノマー(D)を共重合させることで得ることができる。
【0056】
本発明のコーティング被膜形成液剤は、コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤と、被膜形成成分とを含有しているものであり、コーティング被膜形成液剤を予め混合しておき、さらに上記コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を配合し、混練して調製されるものである。それらを同時に、又は任意の順で混合してもよい。
【0057】
このコーティング被膜形成液剤は、コーティング被膜形成液剤中に上記コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を、コーティング被膜形成液剤全量に対する固形分換算値で、0.1~10質量%、好ましくは0.5~5.0質量%配合されることが好ましい。
【0058】
被膜形成成分である樹脂は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂のようなものが挙げられる。この樹脂は、例えば、加熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型、酸化硬化型、光カチオン硬化型、過酸化物硬化型、及び酸/エポキシ硬化型のように、触媒存在下、又は触媒非存在下で化学反応を伴って硬化するものであってもよく、ガラス転移点が高い樹脂で、化学反応が伴わず、溶媒が揮発するだけで被膜となるものであってもよい。
【0059】
コーティング被膜形成液剤は、コーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤及び被膜形成成分のみからなるものであってもよく、他の成分を含有していてもよい。
【0060】
コーティング被膜形成液剤に配合されている成分は、特に限定されないが、例えば顔料・染料のような着色剤、樹脂、希釈溶媒、触媒、界面活性剤が挙げられる。また、必要に応じて、増感剤、帯電防止剤、消泡剤、分散剤、粘度調整剤が、この配合されてもよい。
【0061】
希釈溶媒は、一般的に用いられる水又は有機溶媒であれば、特に限定されないが、有機溶媒として例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル系溶媒;酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテートのようなエステル系溶媒;n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2-エチルヘキサノール、3-メチル-3-メトキシブタノールのようなアルコール系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0062】
本発明の塗装コーティング被膜は、塗膜であって、コーティング被膜形成液剤を基材上に塗布や塗装した塗膜表面が乾燥又は硬化して、形成されたものである。
【0063】
基材は、特に限定されないが、プラスチック、ゴム、紙、木材、ガラス、金属、石材、セメント材、モルタル材、セラミックスの素材で形成されたもので、家電製品や自動車の外装材、日用品、建材が挙げられる。
【0064】
塗布又は塗装の方法は、例えば、スピンコート、スリットコート、スプレーコート、ディップコート、バーコート、ドクターブレード、ロールコート、フローコートが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
以下、本発明を適用するコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を調製した例を実施例1~9に示し、本発明を適用外のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を調製した例を比較例1~6に示す。
【0067】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素ガス吹き込み口を備えた1000mLの反応容器に、n-ブチルアルコールを100質量部加えて、窒素ガス雰囲気下で110℃に昇温した。n-ブチルアルコールの温度を110℃に維持し、下記表1に示す滴下溶液(a-1)を滴下ロートにより3時間で等速滴下して、モノマー溶液を調製した。滴下終了後、モノマー溶液を、110℃で2時間反応させて共重合物を合成した。異なる分子量の分子を分離できるゲル浸透クロマトグラフィー(カラムは東ソー株式会社製で製品名TSKgel SuperAWM-H、溶出溶媒はDMF、以下同様)で、この共重合物を分子量ごとに溶出し、分子量分布を求めた。予め分子量既知のポリスチレン標準物質から校正曲線を得ておき、この共重合物の分子量分布と比較して、共重合物の重量平均分子量を求めた。その結果、この共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で4000であった。
その後、得られた共重合物を110℃に昇温し、下記表2に示す追加滴下溶液(a’-1)を1時間等速で滴下した。滴下終了後、110℃で2時間反応させて、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0068】
(実施例2)
実施例1中の滴下溶液を(а-2)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で12000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液を(a’-2)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0069】
(実施例3)
実施例1中の滴下溶液を(а-3)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で45000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液を(a’-3)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0070】
(実施例4)
実施例1中の滴下溶液を(а-4)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で13000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液を(a’-4)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0071】
(実施例5)
実施例1中の滴下溶液を(а-5)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で11000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液(a’-5)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0072】
(実施例6)
実施例1中の滴下溶液を(а-6)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で10000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液(a’-6)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0073】
(実施例7)
実施例1中の滴下溶液を(а-7)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で10000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液(a’-7)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0074】
(実施例8)
実施例1中の滴下溶液を(а-8)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で11000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液(a’-8)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0075】
(実施例9)
実施例1中の滴下溶液を(а-9)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で12000であった。また、実施例1中の追加滴下溶液(a’-9)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0076】
【0077】
【0078】
(比較例1)
撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素ガス吹き込み口を備えた1000mLの反応容器に、n-ブチルアルコールを100質量部加えて、窒素ガス雰囲気下で110℃に昇温した。n-ブチルアルコールの温度を110℃に維持し、下記表3に示す滴下溶液(b-1)を滴下ロートにより3時間で等速滴下して、モノマー溶液を調製した。滴下終了後、モノマー溶液を、100℃で2時間反応させて共重合物を合成した。異なる分子量の分子を分離できるゲル浸透クロマトグラフィー(カラムは東ソー株式会社製で製品名TSKgel SuperAWM-H、溶出溶媒はDMF、以下同様)で、この共重合物を分子量ごとに溶出し、分子量分布を求めた。予め分子量既知のポリスチレン標準物質から校正曲線を得ておき、この共重合物の分子量分布と比較して、共重合物の重量平均分子量を求めた。その結果、この共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で110000であった。
その後、得られた共重合物を110℃に昇温し、下記表4に示す追加滴下溶液(b’-1)を1時間等速で滴下した。滴下終了後、110℃で2時間反応させて、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0079】
(比較例2)
比較例1中の滴下溶液を(b-2)に変更し、反応温度を110℃に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で11000であった。また、比較例1中の追加滴下溶液を(b’-2)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0080】
(比較例3)
比較例2中の滴下溶液を(b-3)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で13000であった。また、比較例1中の追加滴下溶液を(b’-3)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0081】
(比較例4)
比較例2中の滴下溶液を(b-4)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で12000であった。また、比較例1中の追加滴下溶液を(b’-4)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0082】
(比較例5)
比較例2中の滴下溶液を(b-5)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で14000であった。また、比較例1中の追加滴下溶液を(b’-5)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、4級アンモニウムカチオンを共重合物中に持つコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を得た。
【0083】
(比較例6)
比較例2中の滴下溶液を(b-6)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で12000であった。追加滴下については行わなかった。
【0084】
(比較例7)
比較例2中の滴下溶液を(b-7)に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、共重合物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤の共重合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で11000であった。追加滴下については行わなかった。
【0085】
【0086】
【0087】
(調製用塗料の調製)
ベッコライト46-118(ポリエステルポリオール樹脂 不揮発分:60% DIC株式会社製)324質量部と酸化チタン(タイペーク CR93 石原産業株式会社製)270質量部とのミルベース配合にガラスビーズを加え、ペイントシェーカーにより6時間攪拌した。更にこのミルベース594質量部に、ベッコライト46-118(ポリエステルポリオール樹脂 不揮発分:60% DIC株式会社製)135質量部、アミディアL-117-60(ブチル化メラミン樹脂 NV60% DIC株式会社製)22質量部、アミディアL-105-60(メチル化メラミン樹脂 NV60% DIC株式会社製)45質量部、シンナー(ソルベッソ150/シクロヘキサノン=50/50)204質量部を加えたレットダウン1000質量部を配合した後、ガラスビーズを濾別した。
【0088】
(試験塗料の調製及び被膜の作製)
得られた調製用塗料に、消泡剤(フローレンAC-300、共栄社化学株式会社製)0.5%、実施例1~9及び比較例1~7で得られたコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤を固形分1.5%の割合で添加し、ラボディスパーにて2000rpm×2分間撹拌して、焼き付け型ポリエステル塗料である試験塗料を得た。得られた試験塗料を直ちに基材上に♯42バーコーターにて塗装し、直ちに245℃×60秒(PMT:225℃)にて焼き付け、硬化させて塗装コーティング被膜である硬化塗膜を得た。
【0089】
(硬化塗膜の水接触角の測定)
硬化した直後の塗装面に接触角計を用いて20μLの水滴量にて拡張収縮法による後退接触角を測定した。低い値程、硬化膜の親水性が高い。測定結果を下記表5に記載した。
測定機器:接触角測定計(協和界面科学株式会社社製)
【0090】
(硬化塗膜のレベリング性の評価)
硬化後の塗装面の肌状態を目視にて観察し、下記評価基準で評価した結果を、下記表5に記載した。
レベリング性の評価基準
○:バーコーター塗装筋が残らない、もしくは極僅か
△:バーコーターの塗装筋が残る
×:不良、ハジキが発生
【0091】
(硬化塗膜の実曝評価)
硬化塗装板を45°に折り曲げ垂直に立て、屋外南面に向けて3ヶ月間の曝露を行い、目視にて汚染の度合いを下記評価基準で評価した。評価結果を、下記表5に記載した。
汚染の評価基準
○:汚染がほとんど無く良好
△:やや汚染がある
×:汚染が激しく不良
【0092】
【0093】
表5から明らかなように、実施例1~9の硬化塗膜は、比較例1~7の硬化塗膜と比較して、後退水接触角の値が低く、併せてレベリング性及び実曝試験の評価が良好であった。一方、比較例1~7の硬化塗膜は、実曝試験において良好な評価を得ることができず防汚性が不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤は、プラスチック、ゴム、紙、木材、ガラス、金属、石材、セメント材、モルタル材、セラミックスの素材で形成された家電製品や自動車の外装材、日用品、建材のような被塗工対象物の表面に塗布や塗装される塗料やコーティング剤等のコーティング被膜形成液剤中に添加して用いることができる。
【0095】
このコーティング被膜形成液剤添加用表面調整剤と被膜形成成分とを含有するコーティング被膜形成液剤により基材上で形成されている塗装コーティング被膜は、塗装コーティング被膜露出表面で親水性を発現するので防汚性が付与されており、各種基材のコーティング被膜として有用である。