(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】超早期妊娠診断用抗体、及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241024BHJP
C12N 5/20 20060101ALI20241024BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241024BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241024BHJP
G01N 33/531 20060101ALN20241024BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C07K16/18
C12N5/20
G01N33/53 D
C12P21/08
G01N33/531 A
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020144175
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1(2019)年9月5日 北海道大学 高等教育推進機構にて「第112回 日本繁殖生物学会大会(期日:2019年9月2日~5日、大会長:片桐 成二)」において公開発表、令和1(2019)年9月5日 公益社団法人日本繁殖生物学会発行の「The Journal of Reproduction and Development,vol.65,Suppl.,September 2019,P-76,P-78,P-80」に発表、令和1(2019)年9月27日 「The Journal of Reproduction and Development,vol.65,Suppl」をhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/jrds/112/0/_contents/-char/jaを通じて発表 〔刊行物等〕 令和1(2019)年11月7日 神戸国際展示場にて「第64回日本生殖医学会学術講演会・総会(期日:2019年11月7日~8日、会長:岡田 弘)」において公開発表、令和1(2019)年10月1日 一般社団法人日本生殖医学会発行の「日本生殖医学会雑誌 Vol.64 No.4 October 2019、P-215、p.312(430)」に発表、令和2(2020)年10月8日 「64回日本生殖医学会学術講演会・総会」をhttps://www.micenavi.jp/jsrm2019/search/detail_session/id:105を通じて発表 〔刊行物等〕 令和2(2020)年7月20日 一般社団法人日本卵子学会発行の「Journal of Mammalian Ova Research,Vol.37,No.1,April 2020、p.S56」に発表、令和2(2020)年8月4日 「第61回 日本卵子学会学術集会」をhttp://www.congre.co.jp/jsor2020/index.html、http://www.congre.co.jp/jsor2020/download.htmlを通じて発表
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03268
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松原 和衛
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表昭62-502304(JP,A)
【文献】小川 孝太朗、外3名,アフィニティーカラムを用いた超早期妊娠因子の精製に関する研究,日本繁殖生物学会講演要旨集 [online],Vol.104,2011年,p.1023,インターネット <URL: https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205715941760>,[検索日 2024.4.15]
【文献】岩崎 節子、外5名,ウシ超早期妊娠因子モノクローナル抗体の作出に関する研究,日本繁殖生物学会講演要旨集 [online],セッションID: P-46,2018年,インターネット <URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrds/111/0/111_P-46/_pdf/-char/ja>,[検索日 2024.4.15]
【文献】Reproductive Immunology and Biology,2010年,Vol.25, No.1,pp.14-30
【文献】J. Reprod. Dev.,1993年,Vol.39,pp.309-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Super-EPFに特異的なモノクローナル抗体であって、受託番号 NITE P-03268のハイブリドーマが産生する、モノクローナル抗体。
【請求項2】
受託番号 NITE P-03268のハイブリドーマ。
【請求項3】
請求項
1に記載の抗体を含む、超早期妊娠診断のためのキット。
【請求項4】
ELISA法又はイムノクロマトグラフィー法のためのものである、請求項
3に記載のキット。
【請求項5】
検体に含まれるSuper-EPFを、請求項
1に記載の抗体を用いて検出する工程を含む、ヒトの超早期妊娠診断の補助方法、又は非ヒトほ乳類動物の超早期妊娠診断方法。
【請求項6】
ウシの超早期妊娠診断方法である、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
検体が、血液、又は尿である、請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
請求項
1に記載の抗体により精製する工程を含む、精製Super-EPFの製造方法。
【請求項9】
受精卵の培養上清に含まれるSuper-EPFを、請求項
1に記載の抗体を用いて検出する工程を含む、受精の評価方法
(医療行為を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠診断に用いられる抗原及び抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の一般的なウシの妊娠診断は、人工授精(AI)後20日以降の発情の有無、20日頃の超音波画像診断あるいは30~40日に行われる直腸検査で確定される。また、受精卵移植 (ET)における受胎検査もやはり移植後30~40日に確定される。AI又はET後の約20~30日の間、母体内の受精卵・胚の生存を知ることは、通常の方法では不可能である。この問題はウシに限らずヒトにおいても同様である。
【0003】
着床前の段階で母体血清中に出現する免疫抑制活性をもつ物質として、早期妊娠因子(Early Pregnancy Factor: EPF)が知られている(非特許文献1、特許文献1~5)。Mortonらは、ヒトのリンパ球機能を測定する方法であるロゼット抑制試験(Rosette Inhibition Test:RITest)に、妊娠、非妊娠および偽妊娠マウスのリンパ球を適用したところ、偽妊娠、非妊娠マウスと比較して、妊娠初期マウスのリンパ球においてロゼット形成の抑制が増強されることを発見した。そして、この抑制増強は、妊娠初期の血清中に出現するEPFの働きによるものと報告し、妊娠現象のブラックボックスを解明する鍵となる物質として注目を集めた。EPFは多くの哺乳類で検出されており、また血清だけでなく、尿等からも検出されており、早期妊娠診断への応用の可能性を秘めている。
【0004】
Mortonは、EPFを”ロゼット形成抑制活性を示す物質”と定義し、RITestで陽性判定となる全ての物質がEPFとなることから、物質特定の議論に混乱を招いてきた。EPFは妊娠初期の血清から発見された物質であり、妊娠血清で検出されるEPFとそれ以外の材料から検出されるEPFを区別する必要がある。そこでItoら(非特許文献2)は、妊娠初期の母体血清由来のEPFと、その他の材料由来のEPFを区別することを提案している。本願では、Itoらの提案に従い、妊娠初期の母体血清のEPF活性を超早期妊娠因子(Super Early pregnancy factor:Super-EPF)とし、その他の材料由来で検出される物質をEPF様物質と区別する。
【0005】
今日まで、Super-EPFの精製は多くの研究者により試みられてきた(非特許文献3参照)。具体的には、例えば伊藤と安田は、ウシ妊娠血清をCM Sepharoseに適用し、その50mM NaCl画分をDEAE Sepharoseに適用して得た非吸着画分がSuper-EPF活性を示したと報告した(非特許文献4)。しかし、Super-EPFの単離や全体構造の特定には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-183751号公報
【文献】特開昭62-502304号公報
【文献】特開平2-501160号公報
【文献】特開平4-300896号公報
【文献】国際公開WO1995/015339(特表平9-505811号公報、特許第3987104号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Morton H, Hegh V, Clunie GJ. Immunosuppression detected in pregnant mice by rosette inhibition test. Nature 1974; 249: 459-460.
【文献】Ito K, Takahashi M, Kawahata K, Goto T, Takahashi J, Yasuda Y. Supplementation effect of early pregnancy factor-positive serum into bovine in vitro fertilization culture medium. Am J Reprod Immunol 1998; 39: 356-361.
【文献】徳中 紘太, 鎌田 晴己, 松原(伊藤) 和衛. 超早期妊娠因子の正体を追い求めて. Reproductive Immunology and Biology 2010; 25(1): 14-30
【文献】伊藤 和衛, 安田 泰久. ウシ妊娠血清からの早期妊娠因子(Early Pregnancy Factor, EPF)の抽出・精製とその生化学的検討. J Reprod Dev 1992; 38: j39-j48.
【文献】松原和衛,小岩佳夏子, 岩崎節子, 平田統一. ウシ超早期妊娠因子測定のための酵素免疫測定法. 日本繁殖生物学会 講演要旨集 2018; 111: P-45. (https://doi.org/10.14882/jrds.111.0_P-45)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Super-EPFの研究発展のためには、Super-EPFの確実な精製方法の確立が必要不可欠である。Super-EPFを精製するためには、材料として妊娠初期血清を必要とするが、その特殊性と血清から単離する難しさ、測定系を持つ研究者の少なさ等が原因で、現在まで構造解析の研究は進展していない。
【0009】
また、RITestは活性の判定精度は高いとされるが、操作方法が複雑で熟練と時間を要するため、実際には一般には利用されていない。ELISA法によるSuper-EPFの検出も検討されてきたが(非特許文献5)、未だ実用的なものとはなっていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はRITestに代わる免疫測定法に使用でき、Super-EPFの研究のためのツールとして有用な、Super-EPFに対する抗体の作出について鋭意検討し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
[1] 下記の工程を含む、抗原の製造方法:
1)妊娠血清から得たSuper-EPFを含む画分で免疫した動物から、抗Super-EPF血清を得て;
2)得られた抗Super-EPF血清から抗体を粗精製し;
3)得られた粗精製物から、非妊娠血清と交差反応する抗体を除去する処理をし;
4)除去処理済み抗体を、妊娠血清から得た抗原粗精製物と反応させて、反応する成分を抗原として回収する。
[2] 妊娠血清由来の抗原粗精製物から、除去処理済み抗Super-EPF抗体により精製された、精製Super-EPF。
[3] 1に記載の製造方法により得られた抗原に対する、又は2に記載の精製Super-EPFに対する、抗体。
[4] ウサギポリクローナル抗体である、3に記載の抗体。
[5] Super-EPFに特異的なモノクローナル抗体であって、受領番号 NITE AP-03268のハイブリドーマが産生する、モノクローナル抗体。
[6] 受領番号 NITE AP-03268のハイブリドーマ。
[7] 3~5のいずれか1項に記載の抗体を含む、超早期妊娠診断のためのキット。
[8] ELISA法又はイムノクロマトグラフィー法のためのものである、7に記載のキット。
[9] 検体に含まれるSuper-EPFを、3~5のいずれか1項に記載の抗体を用いて検出する工程を含む、ヒトの超早期妊娠診断の補助方法、又は非ヒトほ乳類動物の超早期妊娠診断方法。
[10] ウシの超早期診断方法である、9に記載の方法。
[11] 検体が、血液、又は尿である、9又は10に記載の方法。
[12] 3~5のいずれか1項に記載の抗体により精製する工程を含む、精製Super-EPFの製造方法。
[13] 受精卵の培養上清に含まれるSuper-EPFを、請求項3~5のいずれか1項に記載の抗体を用いて検出する工程を含む、受精の評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗体、キット、方法を用いることにより、超早期妊娠診断を精度よく、また簡便に実施できる。
【0013】
本発明のハイブリドーマを用いることにより、モノクローナル抗Super-EPF抗体が得られる。
【0014】
本発明の抗体を用いることにより、抗原であるSuper-EPFが高純度に精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Super-EPFの精製手順。囲みはSuper-EPF活性陽性の画分を示す。SAS:Saturated ammonium sulfate
【
図2】ウサギ抗Super-EPF血清からの抗体の精製手順、及び抗Super-EPF抗体を用いたアフィニティーカラムの作製
【
図3】アフィニティーカラムによるSuper-EPFの精製手順
【
図4】ポリクローナル抗Super-EPF IgGの精製手順
【
図5】ポリクローナル抗Super-EPF IgGとウシ及びマウス受精卵との反応性。青:DAPI染色、赤:Super-EPF陽性。A:ウシ受精卵のホールマウント染色、B:マウス受精卵のホールマウント染色
【
図6】A:ハイブリドーマ4E培養上清をウエスタンブロッティングで評価した。使用したアクリルアミドゲルは12%であった。一次抗体は、4E培養上清を100倍に希釈したものを使用した。二次抗体は、10,000倍希釈したヤギ抗マウスIgG H&L(IRDye 800CW)を使用した。検出はImage System Odysseyで行った。B:Aで使用した抗原の電気泳動後の写真を示す。アクリルアミドゲルは12%、Tris-Tricine緩衝液を使用し、銀染色した。M:分子量マーカー、a及びa':ウシ妊娠血清(Super-EPF: +)、b及びb':ウシ非妊娠血清(Super-EPF: -)、c及びc':精製Super-EPF。21.5 kDa (Super-EPF)を囲んだ。
【
図7】ハイブリドーマ4Eが産生する抗体のアイソタイプ決定。培養上清(4E)中の抗体のアイソタイプは、Mouse-Monoclonal Isotyping κ / λ Kitを用いて確認した。
【
図8】精製抗体の分析。精製した抗体をSDS-PAGEで泳動した。10~20%グラジエントゲル、Tris-Tricine緩衝液を用いて泳動を行い、銀染色した。M:分子量マーカー、1:精製した抗体を還元剤を含まないSDS緩衝液で処理したもの、2:精製した抗体を還元剤を含むSDS緩衝液で処理したもの、a:151.7kDa, b:60.1kDa, c:27.8kDa。
【
図9】精製モノクローナル抗体をアフィニティークロマトグラフィーカラムに結合させて得られたSuper-EPFのSDS-PAGEバンドパターン。精製物をSDS-PAGEで泳動し、分子量を確認した。10~20%グラジエントゲル、Tris-Tricine緩衝液を用いて泳動を行い、銀染色した。M:分子量マーカー、1:精製品を-2ME SDS緩衝液で処理したもの、2:精製品を+2ME SDS緩衝液で処理したもの、a:161.7kDa、b:123.2kDa、c:95.9kDa、d:74.1kDa、e:61.3kDa、f:46.1kDa、g:20.4kDa、h:10.6kDa、i:9.1kDa、a':144.9kDa、b':96.1kDa、c':57.9kDa、d':42.4kDa、e':34.4kDa、f':28.7kDa、g':15.2kDa、h':12.3kDa、i':10.8kDa、j':8.9kDa。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(Super-EPF)
本発明は、超早期妊娠因子(Super Early pregnancy factor:Super-EPF)に関する。本発明に関し、Super-EPFというときは、特に記載した場合を除き、非特許文献2の提案に従い、妊娠初期の母体血清のEPF活性を指す。
【0017】
Super-EPFは、交配4~6時間後のマウス(非特許文献1、非特許文献6~10)、受精後24~48時間後のヒト(非特許文献11~21)、ウシ(非特許文献4、非特許文献22~39)、ブタやヒツジ(非特許文献31、39~45)など多くの哺乳動物で検出されている。その活性は、ブタ(非特許文献40~42)以外の動物種で妊娠期間の2/3期(second trimester)まで存続するとされ、胚もしくは胎仔の存在に依存していると考えられる(非特許文献20、45)。さらに、EPFの活性は妊娠血清だけでなく、妊娠尿(非特許文献47、非特許文献48)、胎児血清(非特許文献49、非特許文献50)、羊水(非特許文献49)、卵巣(非特許文献46、51)、胎盤(非特許文献52、53)および受精卵培養上清(非特許文献15、54、55)などからも検出されている。
【0018】
本発明は、下記の工程を含む、抗原としてのSuper-EPFの製造方法、及びそれにより得られるSuper-EPFを提供する。
1)妊娠血清から得たSuper-EPFを含む画分で免疫した動物から、抗Super-EPF血清を得て;
2)得られた抗Super-EPF血清から抗体を粗精製し;
3)得られた粗精製物から、非妊娠血清と交差反応する抗体を除去する処理をし;
4)除去処理済み抗体を、妊娠血清から得た抗原粗精製物と反応させて、反応する成分を抗原として回収する。
【0019】
工程1)で用いられる妊娠血清から得たSuper-EPFを含む画分は、例えばAI後7日目のウシ血清を、硫安(SAS)の飽和度によって沈澱するタンパク質が異なることを利用して分画し、得られた画分の活性を確認することにより得ることができる(
図1参照)。工程2)の抗Super-EPF血清からの抗体の粗精製は、硫安塩析により行うことができる。
【0020】
工程3)における処理は、抗体の非特異反応を取り除くために行う処理である。例えば、粗精製した抗体を含む溶液を、非特異反応(交差反応)してほしくない非妊娠血清を固定化したカラムを通すことにより実施することができる。交差反応する成分はカラムに吸着されるため、通過した抗体は高い特異的を有するものとなる。そのため、その抗体を用いた工程4)で得られる当該抗体と反応する成分は、純度のより高い抗原として得られうる(
図2、
図3参照)。
【0021】
工程3)で用いられる非妊娠血清は、例えば、妊娠血清を得た動物と同じ種の動物であって、発情周期にある動物の血清である。
【0022】
このようにして得られるSuper-EPFは、抗体を得るための抗原として用いるのに特に適している。得られる抗原は、妊娠血清由来の抗原粗精製物から、除去処理済み抗Super-EPF抗体により精製された、精製Super-EPFと表現することもできる。除去処理済み抗Super-EPF抗体とは、上記製造工程3)でいう、非妊娠血清と交差反応する抗体を除去する処理を施した抗体を指す。
【0023】
(抗体)
本発明は、上記の製造方法により得られるSuper-EPFに対する、又は妊娠血清由来の抗原粗精製物から、除去処理済み抗Super-EPF抗体により精製された、精製Super-EPFに対する、抗体を提供する。本発明に関し、抗体というときは、特に記載した場合を除き、完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab')2フラグメントのような、抗原に特異的に結合し得る抗体フラグメントであってもよい。
【0024】
<ポリクローナル抗体>
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の好ましい例は、ウサギから得られたものである。
【0025】
<モノクローナル抗体、それを産生するハイブリドーマ>
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。特に好ましいモノクローナル抗体の例の一つは、受領番号 NITE AP-03268のハイブリドーマが産生する、モノクローナル抗体である。
【0026】
ハイブリドーマNITE AP-03268は、2020年8月25日付で、岩手大学(〒020-8550、日本、岩手県盛岡市上田三丁目18番8号)により、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センター(住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)へ、ブタペスト条約および日本国特許法に基づき、寄託された。このハイブリドーマの特徴を以下に記載する。
【0027】
分類学上の位置:
マウスハイブリドーマ
科学的性質:
・ウシ妊娠初期血清(人工授精:AI後7日目)から精製した超早期妊娠因子(Super-EPF)を、BALB/cマウスに免疫後採取した脾臓リンパ球とマウスミエローマ(FO)を細胞融合した。その後、数回のクローニングを行い、AI後7日目のウシ妊娠血清に反応し、非妊娠ウシ血清には反応しない4Eハイブリドーマを得た。
・本ハイブリドーマの培養上清から精製したIgGにBiotinを標識した抗体を用いたELISAでは、妊娠血清の吸光度は0.99を示し、非妊娠の吸光度は0.06で危険率1%で有意に高かった。
・この抗体はSDS-PAGEにおいて妊娠血清の21.5kDaのバンドに反応するが、非妊娠には反応しない。
・このモノクローナル抗体作出前に作製したポリクローナル抗体は、ELISAにおいてAI後7日目において89.3%の妊娠診断率があった。
培養条件:
培地の組成:RPMI-1640培地に、ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum:FBS)を10%となるように加え、必要に応じ、培地100mlに対してぺニシリン-ストレプトマイシン(Wako:Cat. No.168-23191)1ml(最終濃度100IU/ ml)を添加する。37℃、5%CO2雰囲気で培養することができる。
【0028】
保管方法:
冷凍(約-170℃、液体窒素タンク気相)保存することができる。凍結時に、セルバンカー1plus(日本全薬工業, Cat.No.CB023)のような保護剤をプロトコールに従って用いてもよい。
【0029】
このハイブリドーマは無血清培養することができる。培地は、例えば、ハイブリドーマ用無血清培地(Hybridoma serum-free medium; Wako: Cat.No.081-10381)が使用できる。培地には、必要に応じ、ぺニシリン-ストレプトマイシンを最終濃度100IU/mlとなるように添加してもよい。無血清培養に際しては、馴化を行うとよい。
【0030】
(抗体の利用)
<診断方法等>
本発明は、本発明の抗体を用いた超早期妊娠診断方法を提供する。具体的には、検体に含まれるSuper-EPFを、本発明の抗体を用いて検出する工程を含む、ほ乳類動物の超早期妊娠診断方法を提供する。ほ乳類動物の超早期妊娠診断方法は、ヒトの超早期妊娠診断の補助方法、又は非ヒトほ乳類動物の超早期妊娠診断方法を含む。補助方法というときは、医療行為含まない。
【0031】
本発明に関し、超早期での妊娠の診断というときは、妊娠4週目以前の時期、例えば、受精後3週以内、受精後2週以内、受精後1週間以内、受精後3日間以内といった極めて早期に妊娠の有無を診断できることを意味してよい。
【0032】
本発明はまた、本発明の抗体を用いた、受精の評価方法を提供する。具体的には、受精卵の培養上清に含まれるSuper-EPFを、本発明の抗体を用いて検出する工程を含む、受精の評価方法を提供する、受精の評価には、体外受精(IVF)の評価、受精が行われたかどうかの評価、受精卵の評価、胚の評価が含まれる。
【0033】
本発明にかかる方法の対象となる動物は、哺乳類動物であれば特に限定されるものではなく、偶蹄目動物、鯨偶蹄目動物、ネコ目動物などが含まれてよく、例えば、牛、馬、羊、山羊、豚、水牛、鹿、ジャコウウシ、トナカイ、ヘラジカ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギを始めとする非ヒト哺乳類動物であってもよく、ヒトであってもよい。動物は、家畜動物であってもよく、愛玩動物であってもよい。
【0034】
本発明の方法に供される検体は、Super-EPFが含まれる限り、特に限定されない。検体の好ましい例は、血液又は尿である。本発明に関し、血液というときは、特に記載した場合を除き、全血、血漿、又は血清を包含する。
【0035】
本発明の超早期妊娠診断方法は、ウシの超早期妊娠診断のために用いるのに特に適している。
【0036】
本発明の超早期妊娠診断方法は、抗原抗体反応を利用した各種の方法、例えばELISA法(固相酵素免疫検定法)、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学法、抗体アレイ法、又はイムノクロマトグラフ法等により、実施することができる。
【0037】
ELISA法は、例えば、検体に含まれるタンパク質(ポリペプチド)をマルチウェルプレート(「マイクロタイタープレート」ともいう)に固定し、本発明の抗体を用いて、検体中のSuper-EPFの有無、又は濃度を検出する方法である。ELISA法においては、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼ結合抗IgG抗体を二次抗体として用いて検出することもできる。またELISA法は、サンドイッチ法であってもよい。さらに、アビジン・ビオチン系を利用してもよい。
【0038】
ウェスタンブロット法は、例えば、被検体由来試料をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動で分離させた後、ニトロセルロース膜などに転写し、本発明の抗体によって、Super-EPFの有無、又は濃度を検出する方法である。例えば、本発明の抗体のほか、例えば、125I-標識プロテインA、ペルオキシダーゼ結合抗IgG抗体等を二次抗体として用いて検出することもできる。Super-EPFの濃度は、例えば、デンシトメーター等を用いて得られるシグナル強度を確認することにより測定され得る。すなわち、シグナル強度が強いほど問題とする対象タンパク質濃度が高いと判断され、検量線を用いて濃度が決定できる。
【0039】
イムノクロマトグラフ法は、通常、下記の工程を含む:
(1)検体と標識抗体を含む混合液を、抗体捕捉部へ展開させる工程;
(2)検体に含まれる抗原と標識抗体との複合体が抗体捕捉部で捕捉された場合に、目的の抗原が存在すると判定する。イムノクロマトグラフ法においては、通常、標識抗体は平均粒径20~60nmの金属コロイドで標識されており、標識抗体との複合体が抗体捕捉部で捕捉された場合に、金属コロイドに由来する発色が認められることにより、抗原の存在を検出する。
【0040】
上述の検査方法のうち、簡易検査法としてはイムノクロマト法が適しており、血中含量測定用としてはELISAが適している。また、Super-EPFの濃度の測定により、受精卵のランク(胚の質)評価、流産予測診断、及び胎仔の生存確認等を行いうる。
【0041】
<キット>
本発明はまた、上記の超早期妊娠診断方法を実施するための、診断薬、キット、器具を提供する。本発明のキットは、Super-EPFを検出するための検出手段として本発明の抗体を含む。
【0042】
本発明のキットには、本発明の抗体が支持体上に固定化された器具が含まれていてもよい。このような器具の具体例は、抗体アレイ、ELISA用プレート、イムノクロマトグラフ装置等が挙げられる。
【0043】
支持体としては、抗体、すなわちポリペプチドを固定化できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であってもよい。支持体の材料としては、一般的には、例えば、ガラス、シリコンウエハ等の無機系材料、紙等の天然高分子、ニトロセルロース、ナイロン、ポリスチレン等の合成高分子、合成高分子、天然高分子を用いたゲル体等を挙げることができる。
【0044】
抗体を用いてポリペプチドを検出するための公知の手法は、本発明においても適用可能であり、例えば、サイファージェン・バイオシステムズ社より、プロテインチップの1種類としてバイオロジカルチップが販売されている。これは基板(支持体)の表面にカルボニルジイミダゾールまたはエポキシの活性基を持つもので、ユーザーが自由に目的のポリペプチドや抗体を固定化して使用するものである。本発明の抗Super-EPF抗体が支持体上に固定化された器具の作製にこれを応用することが可能である。
【0045】
本発明のキットには、上記以外の構成が含まれていてもよい。例えば、被験動物から得た血液から血清を調製するための血球分離器具、抗凝固剤、緩衝液、検体を採取するための器具、等が含まれていてもよい。また、標識された二次抗体、発色用試薬、洗浄用緩衝液などが含まれていてもよい。
【0046】
<抗原の精製>
本発明は、本発明の抗体により精製する工程を含む、精製Super-EPFの製造方法を提供する。
【0047】
抗体を固定化できる各種のカラムが市販されており、本発明の精製においてもそれらを用いることができる。カラムは通常、コンディショニング、活性化、抗体の結合、ブロッキングの操作を経て、目的の抗原を精製に適したものとすることができる。
【0048】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。すべての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例】
【0049】
[1.抗Super-EPF抗体作出のための抗原精製方法]
妊娠血清中のSuper-EPFの精製はいくつかの工程を組み合わせて実施した。
【0050】
1)免疫用粗精製Super-EPFの作製
まず最初に、粗精製Super-EPFに対するポリクローナルなSuper-EPF抗体を作製した。精製原料はAI後7日目の活性陽性ウシ血清であり、精製で得られる画分はその都度RITset(非特許文献56)で活性を検出した(
図1)。
【0051】
2)粗精製抗原による抗体の作出
1)で精製した抗原をウサギに4回免疫して得られた抗血清は、ウシ妊娠血清のRITを陰性に低下させた。そこで、あらかじめ発情した時の非妊娠ウシ血清をCNBr-activated Separose 4FFカラムに結合させたカラムを作出し、硫安塩析して得られた粗IgGをこのカラムに適用し非吸着画分を精製IgGとして得た。この精製IgGは妊娠血清のRITを陰性に低下させたため、HiTrap NHS-activated HPカラムに結合させた(
図2)。
【0052】
3)アフィニティーカラムによるSuper-EPFの精製
次に、さらに純度が高い免疫用Super-EPFを精製するため、ウシ妊娠血清から硫安塩析によりウシのIgGを除去した上清を、2)で作製したアフィニティーカラムに適用し、吸着分画を得た(
図3)。
【0053】
[2.ポリクローナル抗Super-EPF IgGの作出と特異性]
1)高純度精製Super-EPFによるポリクローナルウサギ抗Super-EPF抗体の作出
免疫工程は1.2)と同様に行い、得られた抗血清は硫安塩析でIgGを沈殿させた。IgGをさらにProtein Aアフィニティーカラムに適用し吸着画分を得た。次に、非妊娠ウシ血清1ml当たりにIgG 0.63mgを添加して吸収操作した。遠心分離した上清を再度Protein Aアフィニティーカラムに適用し、吸着画分をポリクローナル抗Super-EPF IgGとした(
図4)。この精製物は妊娠血清のRITを陰性に低下させた。
【0054】
2)ポリクローナル抗Super-EPF IgGとウシ初期胚との反応
ウシの体外受精(IVF)を行い、胚盤胞に対する反応を免疫組織化学的に検討した。
【0055】
ウシIVF胚は当大学附属御明神牧場のプロトコルに従って作出し、各発生ステージ(未受精卵、28細胞期、胚盤胞期、孵化後胚盤胞期)の胚を4%PFAで固定した。その後、1)で得たポリクローナル抗Super-EPF IgGと反応させた。二次抗体はAlexa594標識ロバ抗ウサギIgGを使用し、細胞核の標識にはDAPIを使用した。また、コントロールとして抗Oct3/4IgGを用いた。
【0056】
その結果、胚盤胞期および孵化後胚盤胞期の胚において強い反応が観察された(
図5A)。マウスでも、本抗体は胚盤胞期に反応があった(
図5B)。また、反応は胚の栄養膜細胞(TE)に顕著であり、内部細胞塊(ICM)には観察されなかった。子宮と接合する栄養膜細胞で反応が観察されたことから、Super-EPF抗体と反応した物質は受胎に関わる物質であることが推察された。
【0057】
3)ポリクローナル抗Super-EPF IgGを使用した酵素免疫測定法(ELISA)
抗原(被験血清、ウシ)を10万倍に希釈し、96wellプレートにコーティングした。次に1)で得たポリクローナル抗Super-EPF IgGの5000倍希釈を添加した。さらに、1000倍希釈したBiotin標識ウサギIgGと反応させ、1000倍希釈したStreptavidin標識HRPと反応させた。その後、TMBで発色させてA450nmで吸光度を測定した。
【0058】
この測定系で56頭のAI後7日目のウシサンプルを測定した結果、その診断率は89.3%であった。したがって、この測定方法でAI後7日目の妊娠診断は可能である。
【0059】
[3.モノクローナル抗体の作出と特異性]
1)モノクローナル抗体の作出
(細胞融合)
ポリクローナル抗Super-EPF IgGには限りがあること、Super-EPF以外のタンパク質に対する抗体が未だ混入していることから、モノクローナル抗体の作出を行なった。作出方法はKohlerとMilstein(1975)の方法を参考に実施した。免疫抗原は1.3)で得た精製物を用い、BALB/c雄マウスに1回当たり50μgを4回免疫した。免疫終了後のマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞(FO:CRLATTC1646)を細胞融合し、HATおよびHT培地でコロニーの形成を見ながらクローニング行なった。
【0060】
(ハイブリドーマの選抜)
細胞融合後7日目にコロニー形成を確認した。その結果、96wellプレートでは71wellに、48wellプレートでは19wellにコロニーが確認され、この時点のコロニー形成率は19.9%であった。
【0061】
コロニー形成が確認されたクローンの培養上清を一次抗体としてELISAに適用したところ、3つのクローン(Clone.No.4A9, 4E5, 2F3)の培養上清原液が妊娠血清に反応し、その吸光度は4A9(3.328), 2F3(0.141), 4E5(0.126)の順に高かった。次に、3クローンの培養上清を100倍に希釈して再度ELISAに適用した 結果、4A9のみが非妊娠血清(0.08)より妊娠血清(2.706)で有意(p<0.01)に高い吸光度を示した。2F3と4E5は吸光度が共に低く、有意な差も認められなかった。そこで、妊娠血清に最も強く反応した4A9を1枚の96wellプレートの61個のwellにまきこみ、限界希釈法によるクローニングを実施した。その結果、17well でコロニーが見られた(コロニー形成率:27.9%)。それらの培養上清を採集してELISAに適用した結果、14クローンが妊娠血清に反応したため、さらにそれらを限界希釈して培養し、Clone.No.3E, 3F, 8Dのプレートの19個のクローン(3E:9クローン、3F:3クローン、8D:7クローン)において1コロニーからなる細胞群を確認した。19クローンの培養上清を採集して、妊娠血清に対する反応を試験したところ全てのクローンが反応したため、最も生存率が高いClone.No.3E-4D, 3E-5F, 8D-7D, 8D-8Fを選抜し、さらに限界希釈法によりクローニングを実施した。その結果、限界希釈した8D-7Dと8D-8Fのプレートにおいて1コロニーからなる12クローンを確認した。12クローンの培養上清を用いて妊娠血清との反応を確認したところ全てのクローンが同様の反応を示し、明瞭な輪郭を持つ形態的に良好な生細胞が多いClone.No.4Eを抗Super-EPFモノクローナル抗体産生クローン候補として選抜した。なお、4Eの生物活性は55%、生細胞数は8.98×105cells/mlであった。培養には、ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum:FBS) 10%を含むRPMI-1640培地を用いた。培地には、100mlに対して、ぺニシリン-ストレプトマイシン(Wako:Cat. No.168-23191)1ml(最終濃度100IU/ ml)とBriClone (Hybridoma Cloning Medium;NICB: Cat. No.BRBR001) 5mlを添加した。
【0062】
(産生される抗体の反応性)
選抜した4Eの反応性を培養上清を用いて評価した。Western Blottingによる試験では、ウシ妊娠血清と抗原に用いた精製Super-EPFに対して4Eは21.5kDa付近のバンドに明らかに反応したが、非妊娠血清には反応しなかった(
図6)。
【0063】
4Eが産生する抗体をMouse-Monoclonal Isotyping κ/λ Kit, Iso-Gold Rapid (BioAssay Works:Cat.No.KSOT03-010)を用いて確認した。その結果、4Eが産生するのはIgG
1であった(
図7)。
【0064】
(ハイブリドーマの寄託)
Clone.No.4Eは、NITE AP-03268として、2020年8月25日付で、岩手大学(〒020-8550、日本、岩手県盛岡市上田3丁目18番8号)により、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センター(住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)へ、ブタペスト条約および日本国特許法に基づき、寄託された。
【0065】
2)モノクローナル抗体の精製とその利用
(無血清培地によるClone.No.4Eの培養)
4Eの培養上清中の抗体精製では、FBS中のIgGを排除する必要がある。そこで、無血清培地(ハイブリドーマ用無血清培地・Hybridoma serum-free medium; Wako: Cat.No.081-10381)を使用して4Eの培養を試みた。無血清培地への馴化過程における4E ハイブリドーマの平均生細胞数は8.31×105cells/mlで、平均生存率は91.5%であった。また、FBS添加培養時に比べ、無血清培地における増殖能力と増殖速度に変化は見られなかった。
【0066】
(抗体の精製)
4Eハイブリドーマが産生する抗体であるMouse IgG1と親和性が高いProtein G カラムを使用してIgGの精製を試みた。上述の無血清培地でClone.No.4Eを培養して得られた培養上清1,433.5mlを、Protein Gカラムにすべて適用した。カラムは、HiTrap Protein G HP Columns(1ml)(GE Healthcare: Cat.No.17-0404-01)を使用した。また、カラムには1ml/minの速度でサンプルおよび試薬を流した。得られた抗体量は7.82mgであり、培養上清1ml当たり5.45μgであった(下表)。
【0067】
【0068】
精製した抗体をSDS-PAGEで確認した結果、151.7kDaにIgGのバンドが見られ、2ME(2-Mercaptoethanol)を添加したSDS化Bufferにより抗体のジスルフィド結合を完全に切断したSDS-PAGEでは、重鎖の分子量と近似する60.1kDaと、軽鎖の分子量と近似する27.8kDaにバンドを確認した(
図8)。以下の実験では、ここで精製したIgGを用いた。
【0069】
(モノクローナル抗体を用いたELISAに関する検討)
得られた精製IgGを一次抗体に使用した時のELISAの条件を検討した。1mg/mlに調製した妊娠と非妊娠標準ウシ血清を抗原として、二次抗体(Biotin標識Mouse-IgG)をそれぞれ段階的に希釈した。精製IgGの濃度を0.1μg/ml、標識酵素(Streptavidin-HRP)の濃度を5,000倍希釈して適用した結果、抗原は1,600~3,200倍(0.3125μg/ml~0.625μg/ml)、二次抗体は3,200~6,400 倍の条件で吸光度が1付近になった。この結果を基に、プレートに吸着させる抗原を0.6μg/ml、モノクローナル抗体を1μg/ml、二次抗体を5,000倍で希釈して試験したところ、ウシ妊娠血清において吸光度は1.075となった。また、Biotin標識したモノクローナル抗体を一次抗体にして、ステップを1つ除いた条件で試験した結果、非妊娠血清では吸光度が0.06となり、妊娠血清では吸光度が0.99で危険率1%以下で有意に高くなった。
【0070】
(モノクローナル抗体を用いたSuper-EPFの精製)
得られた精製IgGを結合したアフィニティーカラム(HiTrapTM NHS-activated HP(5ml)(GE Healthcare:Cat.No.17-0717-01))に、ウシ妊娠血清(AI後5日目、Super-EPF陽性)27mlから硫安塩析後(35%硫安塩析上清画分)に透析して得た64mlを適用した。
【0071】
その結果、最終的に2.697mgの精製物が得られ、タンパク質の回収率は0.54%であった(下表)。
【0072】
【0073】
上述の精製物をSDS-PAGEに適用し、その精製状態を確認した。その結果、2MEを用いない条件では20.4kDaに1本のバンドが見られた。また、46.1kDaや61.3kDaのバンドのほか、低分子領域に2本(9.1kDa, 10.6kDa)、高分子領域に複数のバンド(74.1kDa, 95.9kDa, 123.2kDa, 161.7kDa)が見られた。さらに、精製物を+2ME処理すると、28.7kDaと34.4kDa, 42.4kDa, 57.9kDaにバンドが見られた。さらに低分子領域に4本のバンド(8.9kDa, 10.8kDa, 12.3kDa, 15.2kDa)、高分子領域に2本のバンド(96.1kDa、144.9kDa)が見られた(
図9)。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により、超早期妊娠診断が可能となる。特に、牛の妊娠4週目以前の時期、例えば、授精1週目とか授精2週目といった程度の極めて早期での妊娠の有無の診断に応用でき、産肉、乳生産、次世代子牛生産性の効率化に利用可能である。本発明は、畜産産業の効率化、経済性向上に有益である。
【0075】
[明細書で引用した文献]
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