(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液
(51)【国際特許分類】
C11D 7/50 20060101AFI20241024BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20241024BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20241024BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20241024BHJP
C23G 1/10 20060101ALI20241024BHJP
C23G 1/20 20060101ALI20241024BHJP
C23G 1/12 20060101ALI20241024BHJP
C23G 1/22 20060101ALI20241024BHJP
C23G 1/24 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C11D7/50
C11D7/26
C11D7/32
C11D17/08
C23G1/10
C23G1/20
C23G1/12
C23G1/22
C23G1/24
(21)【出願番号】P 2020182318
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000123491
【氏名又は名称】化研テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 薫夫
(72)【発明者】
【氏名】赤松 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】石原 慧太
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特許第7372662(JP,B2)
【文献】特開2019-210427(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116524(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/005068(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187868(WO,A1)
【文献】特開2011-243610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0281436(US,A1)
【文献】特開2017-148868(JP,A)
【文献】特開2019-052277(JP,A)
【文献】特開2021-050253(JP,A)
【文献】特開2009-190089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/50
C11D 7/26
C11D 7/32
C11D 17/08
C23G 1/10
C23G 1/20
C23G 1/12
C23G 1/22
C23G 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、
N,N’-ジメチルステアリルアミン、N,N’-ジメチルパルミチルアミン、N,N’-ジメチルミリスチルアミン、N,N’-ジメチルラウリルアミン、及びN,N’-ジメチルドコシルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物であり、
前記洗浄剤組成物は、10~70℃の温度範囲において外観上均一であ
り、
フラックス洗浄用である、洗浄剤組成物。
【化1】
(式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。)
【請求項2】
前記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、4~74質量%であり、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、0.8~16質量%であり、
前記親水性のカルボン酸は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、0.2~4質量%であり、
前記水は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、25~95質量%である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記親水性のカルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、イソクエン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、
請求項1又は請求項2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記親水性のグリコールエーテル化合物は、式(3)で表される化合物又は式(4)で表される化合物である、請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【化2】
(式(3)中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R
8は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示し、前記炭化水素基に含まれる-CH
2-は、-O-に置き換わっていてもよく、式(4)中、R
9及びR
10は、それぞれ独立に水素原子又はメトキシ基を示し、R
11は水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項5】
前記親水性のグリコールエーテル化合物は、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、2-メトキシブタノール、3-メトキシブタノール及び3-メトキシ-3-メチルブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、
請求項4に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
親水性のアミン化合物の含有割合が前記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満である、請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸とを含む
、フラックス洗浄用洗浄剤組成物用原液であって、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、
N,N’-ジメチルステアリルアミン、N,N’-ジメチルパルミチルアミン、N,N’-ジメチルミリスチルアミン、N,N’-ジメチルラウリルアミン、及びN,N’-ジメチルドコシルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物であり、
前記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が前記
フラックス洗浄用洗浄剤組成物用原液の全体に対して、68~90質量%であり、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が前記
フラックス洗浄用洗浄剤組成物用原液の全体に対して、8~24質量%であり、
前記親水性のカルボン酸は、その含有割合が前記
フラックス洗浄用洗浄剤組成物用原液の全体に対して、2~8質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.25~20倍に希釈して用いられる、
フラックス洗浄用洗浄剤組成物用原液。
【化3】
(式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラモジュール部品、集積回路(IC)及びコンデンサ等の電子部品をプリント基板等にはんだ付けする際に、ソルダペーストからフラックスが飛散し、電極の周囲に残渣として付着することが知られている(以下、上述のフラックスの残渣を「フラックス残渣」という場合がある。)。
【0003】
フラックス残渣は、はんだ接合部における腐食等の原因となるほか、ワイヤボンディングを行う工程での接合不良及び、樹脂封止をする工程におけるモールド樹脂との密着不良等の原因となりうる。そのため、フラックス残渣は洗浄剤で除去する必要があり、従来から種々の洗浄剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、比較的多量の水を含むことにより環境安全性に優れる一方、洗浄性を発揮できる洗浄剤組成物が提案されている。例えば、特開2019-052277号公報(特許文献1)には、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が10重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物(A)、沸点が200℃以上のアミノアルコール化合物(B)、沸点が200℃以上であって、オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の所定の構造式で表される化合物(C)、及び水(D)の4成分を含み、重量比率は、成分(A)が50~90重量部、成分(B)が3~30重量部、成分(C)が5~40重量部、成分(D)が1~10重量部である洗浄剤組成物原液であり、該洗浄剤組成物原液100重量部に対して100~1500重量部の水を混合させた洗浄剤組成物が、1~90℃において白濁状態となることを特徴とする洗浄剤組成物原液が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の洗浄剤組成物原液から調整される洗浄剤組成物は、銅などの金属に対する腐食性を有しており、洗浄対象物が金属からなる場合、当該洗浄対象物が腐食される。また、上記洗浄剤組成物が浸透しにくい狭い隙間(例えば、基板と上記基板に接続される部品との間に形成される隙間であって、両者の距離が30~100μmである隙間)に存在するフラックス残渣に対してはシャワーによる洗浄を行っており、洗浄対象物に対する負荷が大きいことが知られている。
このような事情から、洗浄対象物の材料によって適切な洗浄剤組成物及び適切な洗浄方法を選ぶ必要があるため、洗浄剤組成物の更なる改善が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、狭い隙間での洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制された洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、親水性のグリコールエーテル化合物と、所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物と、所定の化学構造を有する親水性のカルボン酸と、水とを含む洗浄剤組成物が、狭い隙間での洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(1)で表される化合物であり、
上記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物であり、
上記洗浄剤組成物は、10~70℃の温度範囲において外観上均一である、洗浄剤組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は、炭素数8~22の鎖状の炭化水素基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基、エチル基又はプロピル基を示し、式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。)
【0010】
[2]上記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、4~74質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.8~16質量%であり、
上記親水性のカルボン酸は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.2~4質量%であり、
上記水は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、25~95質量%である、[1]に記載の洗浄剤組成物。
【0011】
[3]上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルステアリルアミン、N,N’-ジメチルパルミチルアミン、N,N’-ジメチルミリスチルアミン、N,N’-ジメチルラウリルアミン、N,N’-ジメチルデシルアミン、N,N’-ジメチルオクチルアミン、及びN,N’-ジメチルドコシルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[1]又は[2]に記載の洗浄剤組成物。
【0012】
[4]上記親水性のカルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、イソクエン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0013】
[5]上記親水性のグリコールエーテル化合物は、式(3)で表される化合物又は式(4)で表される化合物である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【化2】
(式(3)中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R
8は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示し、上記炭化水素基に含まれる-CH
2-は、-O-に置き換わっていてもよく、式(4)中、R
9及びR
10は、それぞれ独立に水素原子又はメトキシ基を示し、R
11は水素原子又はメチル基を示す。)
【0014】
[6]上記親水性のグリコールエーテル化合物は、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、2-メトキシブタノール、3-メトキシブタノール及び3-メトキシ-3-メチルブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[5]に記載の洗浄剤組成物。
【0015】
[7]親水性のアミン化合物の含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満である、[1]から[6]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0016】
[8]フラックス洗浄用である、[1]から[7]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0017】
[9]親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸とを含む洗浄剤組成物用原液であって、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(1)で表される化合物であり、
上記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物であり、
上記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、68~90質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、8~24質量%であり、
上記親水性のカルボン酸は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、2~8質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.25~20倍に希釈して用いられる、洗浄剤組成物用原液。
【化3】
(式(1)中、R
1は、炭素数8~22の鎖状の炭化水素基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基、エチル基又はプロピル基を示し、式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、狭い隙間での洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制された洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、従来の洗浄剤組成物を用いた場合における、狭い隙間での洗浄のメカニズムを説明する模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る洗浄剤組成物を用いた場合における、狭い隙間での洗浄のメカニズムを説明する模式図である。
【
図3】
図3は、実施例の部品下における洗浄性評価の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X~Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味する。Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。
【0021】
≪洗浄剤組成物≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(1)で表される化合物であり、
上記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物であり、
上記洗浄剤組成物は、10~70℃の温度範囲において外観上均一である。
【0022】
【化4】
(式(1)中、R
1は、炭素数8~22の鎖状の炭化水素基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基、エチル基又はプロピル基を示し、式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。)
【0023】
上記洗浄剤組成物は、上述の構成を備えることで、狭い隙間での洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されたものとなる。ここで、「金属及び樹脂に対する反応性」とは、金属に対する腐食性(金属腐食性)及び樹脂に対する溶解性(樹脂溶解性)を意味する。
【0024】
本実施形態において「狭い隙間」とは、当該隙間を形成する物質間の距離が100μm以下である空間を意味する。例えば、狭い隙間としては、基板と上記基板に接続される部品との間に形成される隙間であって、両者の距離が10~100μmである隙間が挙げられる。「狭い隙間での洗浄性」とは、狭い隙間における上記洗浄剤組成物の洗浄性を意味する。
【0025】
上記洗浄剤組成物は、洗浄対象物の表面又は隙間に付着した汚れ(例えば、フラックス残渣(ロジン系フラックス、水溶性フラックス等)を除去するために用いられる。上記洗浄対象物の材料としては、通常用いられる材料であればどのようなものであってもよい。上記材料としては、例えば、鉄、SUS、銅及びアルミニウム等の金属、シリカ及びアルミナ等の無機物、並びに、ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びエポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0026】
<親水性のグリコールエーテル化合物>
上記洗浄物組成物は、親水性のグリコールエーテル化合物を含む。本実施形態において「グリコールエーテル化合物」とは、二価アルコールのエーテル化合物を意味する。本実施形態において、「親水性」とは、対象の化合物に対する水の溶解度が50質量%を超える性質を意味する。ちなみに「疎水性」とは、対象の化合物に対する水の溶解度が50質量%以下である性質を意味する。上記親水性のグリコールエーテル化合物は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記親水性のグリコールエーテル化合物は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0027】
本実施形態において、上記親水性のグリコールエーテル化合物は、式(3)で表される化合物又は式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
【0028】
上記式(3)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。R8は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示す。上記炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよい。上記炭化水素基に含まれる-CH2-が-O-に置き換わっている場合、置き換わる前の炭素数を当該炭化水素基の炭素数とする。
【0029】
本実施形態の一側面において、R
5は水素原子であることが好ましい。すなわち、上記親水性のグリコールエーテル化合物は、式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【化6】
【0030】
R8における鎖状の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。当該炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。R8における鎖状の炭化水素基は、炭素数が4~6であることが好ましい。R8における鎖状の炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、メトキシエチル基等が挙げられる。
【0031】
R8における環状の炭化水素基は、飽和の脂環式炭化水素基であってもよいし、不飽和の脂環式炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。R8における環状の炭化水素基は、炭素数が6~9であることが好ましい。R8における環状の炭化水素基は、例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。
【0032】
式(4)中、R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子又はメトキシ基を示す。R11は水素原子又はメチル基を示す。本実施形態の一側面において、R9は水素原子であり、R10はメチル基であり、R11はメトキシ基であることが好ましい。本実施形態の他の一側面において、R9はメトキシ基であり、R10及びR11は水素原子であることが好ましい。本実施形態の別の他の側面において、R9は水素原子であり、R10はメトキシ基であり、R11は水素原子であることが好ましい。
【0033】
上記親水性のグリコールエーテル化合物は、エチレングリコールモノブチルエーテル(BC)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PFG)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(PC)、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル(ETB)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(MFDG)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(MDG)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBDG)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(iPDG)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(BzDG)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(MEDG)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(IPDM)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(MTG)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(DMTG)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(HeDG)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(iPG)、2-メトキシブタノール(2MB)、3-メトキシブタノール(3MB)及び3-メトキシ-3-メチルブタノール(MMB)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。上記親水性のグリコールエーテル化合物は、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、2-メトキシブタノール、3-メトキシブタノール及び3-メトキシ-3-メチルブタノールを含むことがより好ましい。上述した親水性のグリコールエーテル化合物の構造式を以下に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
上記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、4~74質量%であることが好ましく、5~70質量%であることがより好ましく、10~65質量%であることが更に好ましい。このようにすることで、フラックス残渣に対する洗浄性が更に優れる洗浄剤組成物となる。上記親水性のグリコールエーテル化合物は、ガスクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。ガスクロマトグラフィーによる分析の条件は以下の通りである。
装置:ガスクトマログラフ GC-14B(株式会社島津製作所製)
検出器:熱伝導度型検出器(TCD)
カラム:Thermon-3000(信和化工株式会社製)
気化室温度:160℃
検出器温度:160℃
【0038】
<疎水性の第三級アミン化合物>
上記洗浄物組成物は、疎水性の第三級アミン化合物を含む。ここで「第三級アミン化合物」とは、アンモニアの3つの水素原子が炭化水素基で置換された化合物を意味する。本実施形態において「疎水性の第三級アミン化合物」は、後述する親水性のカルボン酸との塩の形態も含むものである。すなわち、上記疎水性の第三級アミン化合物の一部又は全部と、後述する親水性のカルボン酸の一部又は全部とは、塩を形成していてもよい。上記疎水性の第三級アミン化合物は、後述する親水性のカルボン酸と塩を形成し、一種の水溶性カチオン界面活性剤の役割を果たし、微細なミセルを形成していると本発明者らは考えている。本実施形態において、「疎水性」とは、対象の化合物に対する水の溶解度が50質量%以下である性質を意味する。上記疎水性の第三級アミン化合物は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記疎水性の第三級アミン化合物は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0039】
本実施形態において、上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(1)で表される化合物である。
【化8】
【0040】
上記式(1)中、R1は、炭素数8~22の鎖状の炭化水素基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基、エチル基又はプロピル基を示す。
【0041】
R1における鎖状の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。当該炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。R1における鎖状の炭化水素基は、炭素数が8~20である直鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が10~18である直鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0042】
R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基であることが好ましく、共にメチル基であることがより好ましい。また、R1、R2及びR3の炭素数の和は、10~30であることが好ましく、12~28であることがより好ましく、12~24であることが更に好ましい。
【0043】
上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルステアリルアミン(DMSA)、N,N’-ジメチルパルミチルアミン(DMPA)、N,N’-ジメチルミリスチルアミン(DMMA)、N,N’-ジメチルラウリルアミン(DMLA)、N,N’-ジメチルデシルアミン(DMDA)、N,N’-ジメチルオクチルアミン(DMOA)、及びN,N’-ジメチルドコシルアミン(DMDoA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルステアリルアミン、又はN,N’-ジメチルパルミチルアミンを含むことが好ましい。上述した疎水性の第三級アミン化合物の構造式を以下に示す。
【0044】
【0045】
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.8~16質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、2~13質量%であることが更に好ましい。このようにすることで、フラックス残渣に対する洗浄性に優れる洗浄剤組成物となる。上記疎水性の第三級アミン化合物は、ガスクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。ガスクロマトグラフィーによる分析の条件は上述の条件が用いられる。本実施形態の一側面において、上記疎水性の第三級アミン化合物が上述のガスクロマトグラフィーによる分析で検出されない場合は、電位差滴定法による分析で求めることができる。電位差滴定法による分析の条件は以下の通りである。
装置:電位差自動滴定装置 Model AT-710M(京都電子工業株式会社)
測定温度:20℃
【0046】
<親水性のカルボン酸>
上記洗浄物組成物は、親水性のカルボン酸を含む。本実施形態において「親水性」とは、対象の化合物に対する水の溶解度が50質量%を超える性質を意味する。また「カルボン酸」とは、カルボキシル基を有する有機化合物を意味する。本実施形態において「親水性のカルボン酸」は、上記疎水性の第三級アミン化合物との塩の形態も含むものである。すなわち、上記疎水性の第三級アミン化合物の一部又は全部と、上記親水性のカルボン酸の一部又は全部とは、塩を形成していてもよい。上記親水性のカルボン酸は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記親水性のカルボン酸は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0047】
本実施形態において、上記親水性のカルボン酸は、式(2)で表される化合物である。式(2)中、R
4は、水素原子又は-CH
2COOHを示し、R
12は、水素原子、-OH又は-CH
2COOHを示す。
【化10】
【0048】
上記親水性のカルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸であることが好ましく、クエン酸、リンゴ酸、イソクエン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。上記親水性のカルボン酸は、クエン酸、又はリンゴ酸を含むことが更に好ましい。上述した親水性のカルボン酸の構造式を以下に示す。
【0049】
【0050】
上記親水性のカルボン酸は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.2~4質量%であることが好ましく、0.3~3.5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることが更に好ましい。このようにすることで、フラックス残渣に対する洗浄性に優れる洗浄剤組成物となる。上記親水性のカルボン酸は、電位差滴定法による分析で求めることができる。電位差滴定法による分析の条件は以下の通りである。
装置:電位差自動滴定装置 Model AT-710M(京都電子工業株式会社)
測定温度:20℃
【0051】
本実施形態において、上記疎水性の第三級アミン化合物に対する上記親水性のカルボン酸のモル比は、1:0.1~1:1.2であることが好ましく、1:0.1~1:1であることがより好ましい。
【0052】
<水>
上記洗浄剤組成物は、水を含む。上記水は、各種工業製品の原料として用いられる水、水道水等であれば特に制限はない。上記水は、蒸留水であってもよいし、イオン交換水であってもよい。本実施形態の一側面において、上記水は、その電気伝導率が1~300μS/cmであってもよいし、1~100μS/cmであってもよい。
【0053】
上記水は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して25~95質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましく、40~85質量%であることが更に好ましい。このようにすることで、作業安全性及び環境安全性に優れる洗浄剤組成物となる。上記水の含有割合は、カールフィッシャー水分計による分析で求めることができる。カールフィッシャー水分計による分析の条件は以下の通りである。
カールフィッシャー水分計の分析条件
装置:カールフィッシャー水分計 MKS-500(京都電子工業株式会社製)
測定方法:容量滴定法
測定温度:20℃
【0054】
<疎水性溶剤>
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、本発明の効果が奏される限り、疎水性溶剤を更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、上記疎水性溶剤は、疎水性のグリコールエーテル化合物を含んでいてもよい。上記疎水性溶剤は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記疎水性溶剤は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0055】
上記疎水性溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノブチルエーテル(BFG)、ベンジルアルコール(BzAl)、ジメチルプロピレンジグリコール(DMFDG)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(BzG)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(BFDG)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DBDG)、フェニルグリコール(PhG)、フェニルジグリコール(PhDG)、フェニルプロピレングリコール(PhFG)、ヘキシルグリコール(HeG)、2-エチルヘキシルグリコール(EHG)、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PFDG)、ジエチレングリコールメチルイソプロピルエーテル(iPDGMe)、ジエチレングリコールエチルイソプロピルエーテル(iPDGEt)、ジエチレングリコールエチルブチルエーテル(BDGEt)、トリエチレングリコールエチルブチルエーテル(BTGEt)等が挙げられる。
【0056】
<親水性のアミン化合物>
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、親水性のアミン化合物の含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満であることが好ましい。親水性のアミン化合物の含有割合を上述の範囲にすることによって、洗浄対象物における金属への変色及び腐食等の影響を低減することが可能になる。本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、上記親水性のアミン化合物を含まないことがより好ましい。
【0057】
本実施形態において上記親水性のアミン化合物としては、2-(エチルアミノ)エタノール(MEM)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン(CHE-20)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMHDA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)等が挙げられる。すなわち、上記洗浄剤組成物は、MEM、CHE-20、TMHDA、MEA、DEA及びTEAを含まないことが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、MEM、CHE-20、TMHDA、MEA、DEA及びTEAからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性のアミン化合物を含まないことが好ましい。
【0058】
<その他の成分>
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、本発明の効果が奏される限り、その他の成分が更に含まれていてもよい。上記その他の成分としては、例えば、界面活性剤、防錆剤、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、湿潤剤、蒸発遅延剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、香料及び防腐剤等が挙げられる。
【0059】
<洗浄剤組成物の特性>
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、10~70℃の温度範囲において外観上均一である。ここで「外観上均一である」とは、静置時に上記洗浄剤組成物が外観上2層以上に分離しないことを意味する。「静置時」とは、上記洗浄剤組成物が、重力以外の外力を受けていない状態を4時間維持した時を意味する。より具体的には、上記「静置時」は上記洗浄剤組成物が、振動、回転及び撹拌されていない状態を4時間維持した時と把握することもできる。本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、10℃未満の温度において、外観上均一であってもよいし、外観上2層以上に分離していてもよい。上記洗浄剤組成物は、70℃を超える温度において、外観上均一であってもよいし、外観上2層以上に分離していてもよい。
【0060】
従来の洗浄剤組成物は、疎水性成分(疎水性の第三級アミン化合物等)と親水性成分(親水性のカルボン酸等)とを含む場合、疎水性成分を含む油相と親水性成分を含む水相とに分かれ、洗浄対象物を洗浄する温度で静置すると2層に分離する場合があった。このような従来の洗浄剤組成物で狭い隙間にあるフラックス残渣を除去しようとすると、まず上記洗浄剤組成物が撹拌されることで上記油相(油滴)と上記水相が上記狭い隙間に侵入する。しかし、当該隙間の深部では撹拌による力が低下し油相同士が集合して比較的大きな油滴(1μm以上)を形成する(
図1)。このような比較的大きな油滴は、バルクに存在する油滴に比べて表面積が小さくなるため、フラックス残渣との接触面積が小さくなり結果として洗浄性が低下する傾向がある。
【0061】
一方、本実施形態に係る洗浄剤組成物では、上記疎水性の第三級アミン化合物及び上記親水性のカルボン酸を含むことで、ミセル構造を形成すると本発明者らは考えている。また、上記ミセル構造における中心部分に油相が集合することでサイズが10nm以下の油滴(ナノエマルション)を形成していると本発明者らは考えている。このナノエマルションは、上述の狭い隙間に侵入しても互いに集合することがなく、バルクに存在する場合と同程度の洗浄性を発揮することができる(
図2)。このように本実施形態に係る洗浄剤組成物では、油相はナノエマルションとして存在しているため、外観上均一に見えていると本発明者らは考えている。本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、「油相と水相とが渾然一体となっている均一な相」を形成していないと考えられる。
【0062】
≪洗浄剤組成物用原液≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物用原液は、親水性のグリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、親水性のカルボン酸とを含む洗浄剤組成物用原液であって、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、上記式(1)で表される化合物であり、
上記親水性のカルボン酸は、上記式(2)で表される化合物であり、
上記親水性のグリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、68~90質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、8~24質量%であり、
上記親水性のカルボン酸は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、2~8質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.25~20倍に希釈して用いられる。上記洗浄剤組成物用原液を上述の倍率(体積比率)で希釈することで、上記洗浄剤組成物を得ることができる。
【0063】
≪洗浄剤組成物の製造方法≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物の製造方法は、上記親水性のグリコールエーテル化合物と、上記疎水性の第三級アミン化合物と、上記親水性のカルボン酸と、上記水とを準備する工程と、上記親水性のグリコールエーテル化合物と、上記疎水性の第三級アミン化合物と、上記親水性のカルボン酸とを上記水に添加する工程を含む。当該添加する工程は、どのような手法を用いてもよい。添加する工程としては、例えば、フラスコに上記親水性のグリコールエーテル化合物、上記疎水性の第三級アミン化合物、上記親水性のカルボン酸及び上記水を加えること、及び化学プラント等において、工業的規模で上記親水性のグリコールエーテル化合物、上記疎水性の第三級アミン化合物、上記親水性のカルボン酸及び上記水を加えること等が挙げられる。
【0064】
≪洗浄対象物の洗浄方法≫
本実施形態に係る洗浄対象物の洗浄方法は、
洗浄対象物の洗浄方法であって、上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面又は隙間に接触させることを含む。
【0065】
上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面又は隙間に接触させる方法は特に制限されない。当該方法は、例えば、浸漬、塗布、及びスプレー又はシャワーによる噴霧などの方法によって、大気中、減圧下、または加圧下で常温下又は加熱下で接触させることが挙げられる。浸漬によって上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面又は隙間に接触させる場合、必要に応じて、撹拌処理、超音波処理、バブリング処理、揺動等の操作を行ってもよい。当該方法は、加温した上記洗浄剤組成物が投入された洗浄剤槽に、上記洗浄対象物を浸漬して、洗浄することが好ましい。浸漬する時間は、1分間~60分間であることが好ましい。
【0066】
本実施形態の一側面において、上記洗浄対象物の隙間を洗浄する場合、撹拌されている上記洗浄剤組成物に上記洗浄対象物を浸漬することが好ましい。この場合、シャワー洗浄及び超音波洗浄のときと比較して、洗浄対象物への負荷が低減される傾向がある。
【0067】
本実施形態の洗浄対象物の洗浄方法は、上記洗浄剤組成物の温度を20~70℃とすることが好ましく、30~60℃とすることがより好ましく、40~50℃とすることが更に好ましい。
【0068】
その後、水、含水アルコール、又は含水グリコールエーテルによるリンスを行って、乾燥で洗浄剤組成物を、上記洗浄対象物から除去すればよい。
【0069】
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、フラックス残渣を除去するために好適に用いることができる。すなわち、上記洗浄剤組成物は、フラックス洗浄用であることが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
≪原料≫
本実施例において使用した原料となる化合物の名称等を以下に示す。
(親水性溶剤:親水性のグリコールエーテル化合物)
エチレングリコールモノブチルエーテル(BC) :日本乳化剤株式会社製
プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PFG) :日本乳化剤株式会社製
エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG) :日本乳化剤株式会社製
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(MFDG) :日本乳化剤株式会社製
エチレングリコールモノプロピルエーテル(PC) :ダウ・ケミカル日本株式会社製
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(HeDG) :日本乳化剤株式会社製
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(iPG) :日本乳化剤株式会社製
3-メトキシ-3-メチルブタノール(MMB) :株式会社クラレ製
(疎水性溶剤)
プロピレングリコールモノブチルエーテル(BFG) :日本乳化剤株式会社製
ベンジルアルコール(BzAl) :東京応化工業株式会社製
ジメチルプロピレンジグリコール(DMFDG) :日本乳化剤株式会社製
(疎水性のアミン化合物)
N,N’-ジメチルステアリルアミン(DMSA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
N,N’-ジデシルメチルアミン(DDMA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
トリオクチルアミン(TOA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
N,N’-ジメチルパルミチルアミン(DMPA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
N,N’-ジメチルドコシルアミン(DMDoA) :Nouryon株式会社製
ジエチルヘキシルアミン(DEHA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
n-オクチルアミン(OA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
ステアリルアミン(SA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
(親水性のアミン化合物)
2-(エチルアミノ)エタノール(MEM) :日本乳化剤株式会社製
ジイソプロパノールアミン(DIPA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
(親水性のカルボン酸)
クエン酸(CA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
酒石酸(TA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
リンゴ酸(MA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
グリコール酸(GA) :ケマーズ株式会社製
【0072】
≪実験1:疎水性の第三級アミン化合物及び親水性のカルボン酸の検討≫
<洗浄剤組成物の作製>
まず、表1に示される配合組成に基づいて試料番号11~試料番号19の洗浄剤組成物を作製した。表1の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。
【0073】
<洗浄剤組成物の性能評価>
(金属に対する反応性評価)
(テストピースの準備)
金属に対する反応性(金属腐食性)の評価に用いるためのテストピースとして、アルミニウム板(A1050p、20×50×t3mm)、銅板(20×50×t0.5mm)及びSn/Ag/Cuはんだ(50×50×t2mm)を準備した。上記Sn/Ag/Cuはんだは、JIS2型くし形電極基板に当該はんだを印刷した後、リフロー、及びフラックス残渣の洗浄を行うことで準備した。
【0074】
(金属腐食性の評価試験)
以下の手順で、試料番号11~試料番号19における洗浄剤組成物の金属腐食性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、50℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌した。撹拌した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから10分毎に上記テストピースを取り出し、水洗、送風乾燥後、目視によって上記テストピースの表面における色調の変化を観察した。当該表面の色調が変化(例えば、黒変、白化等)していた場合、テストピースが腐食したと判定した。テストピースの腐食が認められるまでの浸漬時間に応じて以下の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。
評価ランクの基準
Sランク :60分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が認められない。
Aランク :40分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、60分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Bランク :20分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、40分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Cランク :10分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、20分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Dランク :10分後にテストピースの表面における色調変化が認められた。
【0075】
(ロジン系フラックス残渣の洗浄性の評価)
(テストピースの準備)
以下の手順で洗浄性を評価するためのテストピースを準備した。まず、JIS2型くし形電極基板(株式会社サトーセン製)を用意した。上記くし形基板にメタルマスクをかぶせ、その上からソルダペースト(千住金属工業株式会社製、商品名M705-GRN360-K2-V、又は千住金属工業株式会社製、商品名ULT369)を印刷した。その後、当該くし形電極基板を250℃で3分間ホットプレート上で静置することでリフローを行った。以上の手順で、ソルダペーストがそれぞれ異なる2種類のテストピースを作製した。
【0076】
(洗浄性の評価試験)
以下の手順で、試料番号11~試料番号19の洗浄剤組成物の洗浄性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、50℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌した。撹拌した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから所定時間経過後に上記テストピースを取り出し、水洗及び乾燥を行った後、実体顕微鏡(倍率40倍)を用いて表面観察し、フラックス残渣が完全に除去することが可能な時間を測定するとともに、以下の基準に照らして、洗浄性評価を行った。評価結果を表1に示す。
評価ランクの基準
Sランク :洗浄時間が10分未満である。
Aランク :洗浄時間が10分以上20分未満である。
Bランク :洗浄時間が20分以上30分未満である。
Cランク :洗浄時間が30分以上60分未満である。
Dランク :洗浄時間が60分以上である。
【0077】
(洗浄剤組成物の外観評価)
試料番号11~試料番号19の洗浄剤組成物を25℃又は50℃で静置した。その後、各洗浄剤組成物の外観を観察した。評価結果を表1に示す。表中「分離」と表記されているものは、水相と有機相の2層に分離していたことを意味する。一方「均一」と表記されているものは、水相と有機相との界面が肉眼では確認できなかったこと、すなわち、外観上均一であったことを意味する。
【0078】
(pHの測定)
上記洗浄剤組成物200gを300mlのビーカーに収容した後、上記洗浄剤組成物のpHを、pH計(Docu-PH ザルトリウス株式会社製)を用いて、測定温度25℃の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
表1の結果から、疎水性の第三級アミン化合物としてDMSA又はDMDoA(上記式(1)で表される化合物)を用いた洗浄剤組成物(試料番号11、14~19)では、外観上均一であることが分かった。一方、疎水性の第三級アミン化合物として、DDMA又はTOAを用いた洗浄剤組成物(試料番号12、13)では、2層に分離していることが分かった。親水性のカルボン酸としてグリコール酸を用いた洗浄剤組成物(試料番号14、15)では、洗浄性がCランクであった。親水性のカルボン酸としてリンゴ酸、クエン酸又は酒石酸を用いた洗浄剤組成物(試料番号11~13及び16~19)では、洗浄性がSランク又はAランクであった。
【0081】
≪実験2:親水性のグリコールエーテル化合物の検討≫
洗浄剤組成物に含まれる親水性のグリコールエーテル化合物として、PC以外の化合物を用いて性能の比較を行った。
【0082】
<洗浄剤組成物の作製>
表2に示される配合組成に基づいて試料番号21~試料番号26の洗浄剤組成物を作製した。表2の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。
【0083】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、洗浄性、洗浄剤組成物の外観、及び各洗浄剤組成物のpHを評価した。洗浄剤組成物の外観は、洗浄剤組成物を調整した直後と、調整してから一週間静置した後との状態を評価した。結果を表2に示す。
【0084】
(樹脂に対する反応性評価)
(テストピースの準備)
樹脂に対する反応性(樹脂溶解性)の評価に用いるためのテストピースとして、ポリプロピレン製の樹脂板(20×50×t2mm)及びポリエチレン製の樹脂板(20×50×t2mm)を準備した。
【0085】
(樹脂溶解性の評価試験)
以下の手順で、試料番号21~試料番号26の洗浄剤組成物の樹脂溶解性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、50℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌した。撹拌した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから60分後に上記テストピースを取り出し、水洗、送風乾燥後、当該テストピースの質量変化率及び体積変化率を以下の式で求めた。テストピースの体積は、ノギスでテストピースの縦、横及び厚みの寸法を計測して算出した。また、当該テストピースの外観を目視で観察した。求めた質量変化率及び体積変化率並びにテストピースの外観に応じて以下の基準で評価を行った。結果を表2に示す。
テストピースの質量変化率(%)=100×{(洗浄剤組成物に浸漬してから60分後のテストピースの質量)-(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの質量)}/(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの質量)
テストピースの体積変化率(%)=100×{(洗浄剤組成物に浸漬してから60分後のテストピースの体積)-(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの体積)}/(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの体積)
評価ランクの基準
Sランク :質量変化率及び体積変化率が±1%以内
Aランク :質量変化率及び体積変化率が±1%を超えて±3%以内
Bランク :質量変化率及び体積変化率が±3%を超えて±5%以内
Cランク :質量変化率及び体積変化率が±5%を超えて±10%以内
Dランク :質量変化率及び体積変化率が±10%を超える、又はクラック、溶解等の外観変化が生じた。
【0086】
【0087】
表2の結果から、親水性のグリコールエーテル化合物としてPC以外の化合物を用いた場合でも洗浄剤組成物の性能に大きな違いは見られなかった。すなわち、親水性のグリコールエーテル化合物と、所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物と、所定の化学構造を有する親水性のカルボン酸と、水とを含む上記洗浄剤組成物は、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることが確認された。
【0088】
≪実験3:疎水性溶剤の検討≫
洗浄剤組成物に含まれる溶剤として、親水性のグリコールエーテル化合物(親水性溶剤)に加えて疎水性溶剤も用いて性能の評価を行った。
【0089】
<洗浄剤組成物の作製>
表3に示される配合組成に基づいて試料番号31~試料番号36の洗浄剤組成物を作製した。表3の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。
【0090】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、洗浄性、洗浄剤組成物の外観、及び各洗浄剤組成物のpHを評価した。洗浄剤組成物の外観は、洗浄剤組成物を調整した直後と、調整してから一週間静置した後との状態を評価した。また「実験2」と同様の方法によって、樹脂に対する反応性を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
【0092】
表3の結果から、洗浄剤組成物に含まれる溶剤として、親水性のグリコールエーテル化合物(親水性溶剤)に加えて疎水性溶剤を用いた場合でも洗浄剤組成物の性能に大きな違いは見られなかった。すなわち、親水性のグリコールエーテル化合物と、所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物と、所定の化学構造を有する親水性のカルボン酸と、水とを含む上記洗浄剤組成物は、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることが確認された。
【0093】
≪実験4:水分の含有量の検討≫
洗浄剤組成物に含まれる水分の含有量を変化させた場合、洗浄剤組成物の性能がどのようになるか比較検討を行った。
【0094】
<洗浄剤組成物の作製>
表4に示される配合組成に基づいて試料番号41~試料番号46の洗浄剤組成物を作製した。
【0095】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、洗浄性、及び洗浄剤組成物の外観を評価した。洗浄剤組成物の外観は、洗浄剤組成物を調整した直後と、調整してから一週間静置した後との状態を評価した。結果を表4に示す。
【0096】
(引火点の評価)
各洗浄剤組成物の引火点は、JIS K 2265-1及び4(引火点の求め方)に準じて測定した。なお、引火点については、有しないほうが好適であるが、あったとしても、50℃以上の温度であることが好ましい。結果を表4に示す。表4中、「引火点」の欄における「-」は、室温以上、上記洗浄剤組成物の沸点以下の温度範囲において引火点が存在しなかったことを意味する。
【0097】
【0098】
表4の結果から、上記洗浄剤組成物は、上記水分の含有割合が0~90質量%の範囲において、洗浄性に優れ、かつ金属に対する反応性が抑制されていることが確認された。
【0099】
≪実験5:狭ギャップの部品下の洗浄性評価≫
基板における部品下等の狭い隙間に存在するフラックス残渣に対する洗浄性について、以下の手順で評価を行った。
【0100】
<洗浄剤組成物の作製>
表5に示される配合組成に基づいて試料番号51~試料番号57の洗浄剤組成物を作製した。表5の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。ここで、試料番号51~55の洗浄剤組成物は実施例に対応し、試料番号56及び57の洗浄剤組成物は比較例に対応する。
【0101】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、洗浄性(表面及び部品下)、及び洗浄剤組成物の外観を評価した。結果を表5に示す。なお、部品下の洗浄性及びすすぎ性を評価するにあたっては、以下のテストピースを準備して用いた。
【0102】
(部品下における洗浄性等を評価するためのテストピースの準備)
まず、ガラスエポキシ基板(100×100×t2mm)を用意した。上記ガラスエポキシ基板にメタルマスクをかぶせ、その上からソルダペースト(千住金属工業株式会社社製、商品名M705-NXC400ZH)を印刷した。部品としてLGA(8mm角)を上記ガラスエポキシ基板にはんだを介して搭載した。その後、当該ガラスエポキシ基板を250℃で3分間ホットプレート上で静置することでリフローを行った。以上の手順で、テストピースを作製した。テストピースにおける上記ガラスエポキシ基板と、LGAとの隙間は約30μmであった。
【0103】
(洗浄性の評価試験)
上述のテストピースを用いたこと以外は「実験1」と同様の方法で、洗浄性の評価を行った。実験5では、テストピースの表面の他に、テストピースの部品下も実体顕微鏡で観察した。結果を表5及び
図3に示す。
【0104】
(すすぎ性の評価試験)
以下の手順で、試料番号51~試料番号57の洗浄剤組成物のすすぎ性を評価した。まず、各洗浄剤組成物で上記テストピースを50℃で10分間洗浄した。その後、イオン交換水を用い撹拌下で、上記テストピースを室温で10分間×2回すすぎを行い、次いで100℃で10分間テストピースを乾燥させた。乾燥後のテストピースの部品下における洗浄剤組成物に由来する残留成分の有無を目視で確認した。当該テストピースの部品下に残留成分がない場合は、Sランクとした。また、当該テストピースの部品下に残留成分がある場合は、Dランクとした。結果を表5及び
図3に示す。
【0105】
【0106】
表5の結果から、試料番号51~55の洗浄剤組成物は、部品下の洗浄性及びすすぎ性に優れていること(共にSランク)が確認された(表5及び
図3)。一方で、試料番号56及び57の洗浄剤組成物は、表面の洗浄性に優れるものの(Sランク)、部品下の洗浄性は共にCランクであり不十分であった(表5及び
図3)。以上より、親水性のグリコールエーテル化合物と、所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物と、所定の化学構造を有する親水性のカルボン酸と、水とを含む洗浄剤組成物は、狭い隙間での洗浄性に優れることが確認された。上記洗浄剤組成物は、上記疎水性の第三級アミン化合物及び上記親水性のカルボン酸を含むことで、サイズが10nm以下の油滴(ナノエマルション)を形成していると考えられる。この油滴が、上記部品下の狭い隙間に侵入しても互いに集合することがなく、バルクに存在する場合と同程度の洗浄性を発揮することができる(
図2)と考えられる。
【0107】
≪実験6:アミン化合物の検討≫
洗浄剤組成物に含まれるアミン化合物として、疎水性第三級アミン化合物以外のアミン化合物を用いて性能の評価を行った。
【0108】
<洗浄剤組成物の作製>
表6に示される配合組成に基づいて試料番号101~試料番号110の洗浄剤組成物を作製した。表6の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。試料番号101~試料番号110の洗浄剤組成物は、比較例に対応する。
【0109】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、洗浄性、洗浄剤組成物の外観、及び各洗浄剤組成物のpHを評価した。結果を表6に示す。
【0110】
【0111】
表6の結果から、疎水性のアミン化合物としてSAを用いた試料番号109の洗浄剤組成物は、ゲル化が起こりその後の性能評価を行うことができなかった。所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物を含まない試料番号101、102、105~108及び110の洗浄剤組成物は、洗浄性がCランク以下のものがあった。また、疎水性アミン化合物及び親水性のカルボン酸を含まない試料番号101及び102の洗浄剤組成物は、金属腐食性がDランクであった。また、所定の化学構造を有する疎水性の第三級アミン化合物を含むが、親水性のカルボン酸を含まない試料番号103及び104の洗浄剤組成物は、洗浄性が概ねDランクであった。
【0112】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0113】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。