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特許7576304FRP製アンテナ支柱用パイプ、FRP製アンテナ支柱およびFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】FRP製アンテナ支柱用パイプ、FRP製アンテナ支柱およびFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/12 20060101AFI20241024BHJP
   H01P 11/00 20060101ALI20241024BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01Q1/12 C
H01P11/00
B29C70/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020199900
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087747
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503410557
【氏名又は名称】コスモシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】秋田谷 米男
(72)【発明者】
【氏名】平山 紀夫
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-318077(JP,A)
【文献】特開平10-310650(JP,A)
【文献】特開昭58-045925(JP,A)
【文献】特開昭55-128434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/12
H01P 11/00
B29C 70/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントワインディング法で製造されたFRP製アンテナ支柱用パイプであって、含まれる強化繊維の8割以上の繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下であることを、特徴とするFRP製アンテナ支柱用パイプ。
【請求項2】
前記強化繊維の繊維体積含有率が55%以上75%未満であることを、特徴とする請求項1記載のFRP製アンテナ支柱用パイプ。
【請求項3】
前記強化繊維の8割以上がガラス長繊維であることを、特徴とする請求項1または2記載のFRP製アンテナ支柱用パイプ。
【請求項4】
請求項1,2または3記載のFRP製アンテナ支柱用パイプを2本直列に接合し、一端に設置面固定用のフランジ部材を固定して成ることを、特徴とするFRP製アンテナ支柱。
【請求項5】
FRP用の合成樹脂を含侵させた強化繊維をフィラメントワインディング法でマンドレルに巻き付け、前記合成樹脂を硬化させた後、前記マンドレルを除去して成るFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法であって、硬化後、前記強化繊維の8割以上の繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下となるよう前記強化繊維を前記マンドレルに巻き付けることを、特徴とするFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP製アンテナ支柱用パイプ、FRP製アンテナ支柱およびFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基地局用アンテナを設置する場合には、新たな空地を確保して基地局用アンテナを設置することは困難であるため、ビルなどの高い建物の屋上に設置することが多い。そして、通信用のアンテナの設置にはアンテナを支えるための支柱が必要であり、支柱には強風に耐えうる高い曲げ剛性と屋上まで持ち運べる軽量性が要求される。
これらの通信用のアンテナを支持するアンテナ用支持柱であって、電気的な絶縁特性を有するFRPから成り、筒形状に形成された複数本のFRPパイプと、これらのFRPパイプを相互に接続するための継ぎ手用フランジとを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-318077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のアンテナ用支持柱は、支柱の軸方向にガラス繊維が配向されているため受風荷重に対し曲げ剛性は高いが、ガラス繊維が配向されていないパイプの周方向の強度は弱いため、支柱が固定されるフランジ部材付近で破壊するおそれがあるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、軽量でありながら受風荷重に対する支柱の曲げ変形を抑制し、尚且つ支柱が固定されるフランジ部材付近でのパイプの破壊を抑えることができるFRP製アンテナ支柱用パイプ、FRP製アンテナ支柱およびFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
FRP製アンテナ支柱の設計仕様としては,支柱をマンションやビルの屋上へ人力で運び設置することを想定し、支柱の質量制約は女性労働基準規則(第2条第1項)を満たすように15.6kg以下とする必要がある。また、受風荷重に対して支柱の曲げによるたわみ角度が大きいとアンテナパイプ内部に設置した送受信機器の破損の原因となるため、支柱の曲げによるたわみ角度を3°以内で安全率2(すなわち設計値として1.5°以下)と設定し、フランジ部材付近で破壊を防ぐために、FRP製アンテナパイプには発生する応力を材料破断応力の1/3以下に抑えることとした。
【0007】
上記の設計仕様を達成することができるFRP製アンテナ支柱パイプの材料と構造仕様を発見するために有限要素法による数値解析実験を繰り返し行うことで、本発明のFRP製アンテナ支柱パイプを見出した。見出された本発明に係るFRP製アンテナ支柱用パイプは、フィラメントワインディング法で製造されたFRP製アンテナ支柱用パイプであって、含まれる強化繊維の8割以上の繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下であることを、特徴とする。
【0008】
本発明に係るFRP製アンテナ支柱用パイプは、前記強化繊維の繊維体積含有率が55%以上75%未満であることが好ましい。
本発明に係るFRP製アンテナ支柱用パイプは、前記強化繊維の8割以上がガラス長繊維であることが好ましい。
【0009】
本発明に係るFRP製アンテナ支柱は、前述のFRP製アンテナ支柱用パイプを2本直列に接合し、一端に設置面固定用のフランジ部材を固定して成ることを、特徴とする。
本発明に係るFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法は、FRP用の合成樹脂を含侵させた強化繊維をフィラメントワインディング法でマンドレルに巻き付け、前記合成樹脂を硬化させた後、前記マンドレルを除去して成るFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法であって、硬化後、前記強化繊維の8割以上の繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下となるよう前記強化繊維を前記マンドレルに巻き付けることを、特徴とする。
【0010】
本発明に係るFRP製アンテナ支柱用パイプおよび本発明に係るFRP製アンテナ支柱は、軽量でありながら受風荷重に対する支柱の曲げ変形を抑制し、尚且つ支柱が固定されるフランジ部材付近でのパイプの破壊を抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量でありながら受風荷重に対する支柱の曲げ変形を抑制し、尚且つ支柱が固定されるフランジ部材付近でのパイプの破壊を抑えることができるFRP製アンテナ支柱用パイプ、FRP製アンテナ支柱およびFRP製アンテナ支柱用パイプの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態のFRP製アンテナ支柱を示す斜視図である。
図2】FRP製アンテナ支柱用パイプの繊維体積含有率50%の場合の、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を示すグラフである。
図3】FRP製アンテナ支柱用パイプの繊維体積含有率55%の場合の、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を示すグラフである。
図4】FRP製アンテナ支柱用パイプの繊維体積含有率60%の場合の、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を示すグラフである。
図5】FRP製アンテナ支柱用パイプの繊維体積含有率65%の場合の、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を示すグラフである。
図6】FRP製アンテナ支柱用パイプの繊維体積含有率70%の場合の、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を示すグラフである。
図7】FRP製アンテナ支柱用パイプとフランジ部の応力値のコンター図である。
図8】上部FRP製アンテナ支柱用パイプの正面図と側面図および下部FRP製アンテナ支柱用パイプの正面図と側面図である。
図9】FRP製フランジの正面図、平面図、側面図およびFRP製ソケットの正面図、平面図、側面図である。
図10】下部FRP製アンテナ支柱用パイプのフランジ接続部および上部FRP製アンテナ支柱用パイプと下部FRP製アンテナ支柱用パイプとのソケット接続部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態のFRP製アンテナ支柱用パイプ1およびFRP製アンテナ支柱10を示す。
FRP製アンテナ支柱10は、FRP製アンテナ支柱用パイプ1を2本直列に接合し、一端に設置面固定用のフランジ部材2を固定して成る。2本のFRP製アンテナ支柱用パイプ1は、接合部が円筒状のソケット3に挿入されて接合される。FRP製アンテナ支柱用パイプ1は、フィラメントワインディング法で製造される。FRP製アンテナ支柱用パイプ1に含まれる強化繊維は、8割以上のものの繊維配向角が15°以上25°以下である。
【0014】
FRP製アンテナ支柱用パイプ1は、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下である。また、FRP製アンテナ支柱用パイプ1は、強化繊維の繊維体積含有率が55%以上75%未満である。使用される強化繊維の8割以上が、ガラス長繊維である。FRP製アンテナ支柱用パイプ1は、それぞれ長さ3m以下で、2本直列に接合したとき、長さ5m以下である。
【0015】
FRP製アンテナ支柱は、以下の方法で製造される。まず、FRP用の合成樹脂を含侵させた強化繊維をフィラメントワインディング法でマンドレルに巻き付ける。このとき、含まれる強化繊維の8割以上のものの繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下となるよう強化繊維をマンドレルに巻き付ける。合成樹脂を硬化させた後、マンドレルを除去する。
【0016】
このように、FRP製アンテナ支柱10は、FRP製アンテナ支柱用パイプ1を2本直列に接合し、接合部には円筒状のソケット3を用いて簡便に接合でき、パイプの一端に設置面固定用のフランジ部材2を固定して接合を行うため、アンテナ基地局が高層の建造物に設置される場合にも施工が容易である。
【0017】
本発明の詳細について述べる。3.57mのFRP製アンテナ支柱に取り付けられる搭載機器を通信用アンテナとケーブルとし、これらのアンテナとケーブルに風速36 m/s(速度圧2345 N/m2)の受風荷重を受けるとする。このとき受風荷重による等価モーメントを全長で除し、FRP製アンテナ支柱先端に加わる集中荷重を計算すると2197.6[N]となる。このため、先端に集中荷重2197.6[N]を作用させたFRP製アンテナ支柱の有限要素法によるFRP製アンテナ支柱の数値解析を行った。その際、2分割されたFRP製アンテナ支柱の重量制限値を15.6kgとして、繊維体積含有率を50%から70%まで変化させ、尚且つFW成形の際のFRP製アンテナ支柱の繊維配向角を15°以上25°以下の範囲で変化させて数値実験を繰り返して、FRP製アンテナ支柱のたわみ角度を調査した。
【0018】
FRP製アンテナ支柱用パイプ1の繊維体積含有率50%、55%、60%、65%、70%の場合それぞれの、有限要素法による数値解析実験から得られた繊維配向角の違いによる板厚とたわみ角との関係を図2図6に示す。
これらの有限要素法による数値解析実験から、FRP製アンテナ支柱用パイプ1は、強化繊維の繊維配向角が15°以上25°以下、板厚が8.5mm以上15mm以下、直径が50mm以上160mm以下、強化繊維の繊維体積含有率が55%以上75%未満の条件を満たした場合、たわみ角に対する安全率2以上となり安全性が高いことが発見された。
【0019】
また、このときFRP製アンテナ支柱10は、フランジ部材2とFRP製アンテナ支柱用パイプ1とが接する箇所で最大応力が発生して破断しやすいが、図7に示すように、数値解析実験から本発明のFRP製アンテナ支柱のフランジ部材2近傍の繊維方向応力の最大値が99.7MPaで、繊維直交方向応力の最大値が11.4MPaでとなることが確認できた。FW成形により製造された一方向強化FRPの繊維直交方向の破断応力値は40~60MPa程度であるため、FRP製アンテナ支柱10は、前述の条件を満たすことにより風速36m/s(速度圧2345N/m)の受風荷重に対しても破壊を抑えることができる。このように、FRP製アンテナ支柱10は、軽量でありながら受風荷重に対する支柱の曲げ変形を抑制し、尚且つ支柱が固定されるフランジ部材2の付近でのFRP製アンテナ支柱用パイプ1の破壊を抑えることができる。
【実施例
【0020】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
本発明の効果を確認するために、ガラス繊維としてロービングRS240PE-535を使用し、エポキシ樹脂としては、ナガセケムテックス株式会社製のT769/R6500とT769/H6500及び硬化促進剤T769/A6500 を 100 : 100 : 2の重量比で混合してFW成形を行った。
【0021】
FW成形の条件としては、FRP製アンテナ支柱用パイプに含まれる強化繊維の8割以上のものの繊維配向角が20°±3°であり、強化繊維の繊維体積含有率が60±3%となるように設定した。また、FRP製アンテナ支柱用パイプの板厚は10.5±0.5mmであった。
【0022】
その後、100℃/120min. + 150℃/90min.の硬化条件で硬化させて、フランジとソケット接合部にあたる箇所を旋盤による切削加工を行い、図8に示すFRP製アンテナ支柱用パイプを製造した。その後、図9に示すFRP製のフランジとFRP製のソケットをHLU法により製造して、ナガセケムテックス株式会社製エポキシ接着剤(XNR3324-XNH3324)を使用して図10に示すように接合してFRP製アンテナ支柱を作成した。
【0023】
作成したFRP製アンテナ支柱のフランジを固定壁にボルトで結合し、FRP製アンテナ支柱の先端に設計値である集中荷重2197.6[N]を作用させて、FRP製アンテナ支柱先端のたわみ量を計測した。また、フランジ部材近傍の繊維方向と繊維直交方向応力に発生したひずみの最大値をひずみゲージにより計測し、繊維方向と繊維直交方向の弾性係数を乗じて最大応力値を算出した。
その結果を表1に示す。この結果からも、本発明のFRP製アンテナ支柱がたわみ角度の制約条件(2°以下)、フランジ部材近傍での発生応力の安全率が3以上を満足していることが証明されたといえる。
【0024】
【表1】
【符号の説明】
【0025】
1 FRP製アンテナ支柱用パイプ
2 フランジ部材
3 ソケット
10 FRP製アンテナ支柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10