(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】放射性医薬の製造方法及び放射性医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20241024BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241024BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K51/04 100
A61K51/04 200
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/26
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021511185
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005830
(87)【国際公開番号】W WO2020202831
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019068873
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的がん医療実用化研究事業」「日本発放射性薬剤64Cu-ATSMによる悪性脳腫瘍の革新的治療法開発-非臨床毒性試験・次相に向けた薬剤製造体制強化」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】吉井 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
(72)【発明者】
【氏名】河村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕輝
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129316(JP,A)
【文献】特表2012-514007(JP,A)
【文献】特表2015-516457(JP,A)
【文献】特開2015-081242(JP,A)
【文献】特表2012-524064(JP,A)
【文献】特表2006-528644(JP,A)
【文献】特表2016-515517(JP,A)
【文献】特表2016-528233(JP,A)
【文献】国際公開第2009/141965(WO,A1)
【文献】国際公開第99/008709(WO,A1)
【文献】SCOTT, Peter, J. H. et al.,Studies into radiolytic decomposition of fluorine-18 labeled radiopharmaceuticals for positron emiss,Appl Radiat Isot,2009年,Vol.67, No.1,pp.88-94
【文献】CHEN, Jianqing et al.,Synthsis, stabilization and formulation of [177Lu]Lu-AMBA, a systemic radiotherapeutic agent for gas,Appl Radiat Isot,2008年,Vol.66,pp.497-505
【文献】MOHSIN, Farheen et al.,Comparison of stabilizers, myo-inositol and D-mannitol for 99mTc-DMSA(III),J Chem Soc Pak,2008年,Vol.30, No.6,pp.907-912,特に、Summary
【文献】TAKAAT, H. M. et al.,Synthesis of 99mTc-radiolabeled uridine as a potential tumor imaging agent,Radiochemistry,2018年,Vol.60, No.1,pp.51-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する、放射性医薬の製造方法であって、
前記放射性成分を含有する溶液に対して、アスコルビン酸、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール及びブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む安定化剤を添加する安定化工程と、
前記放射性成分又はその前駆体を含む溶液を親水性の無菌化フィルタによりろ過するろ過工程と、を含み、
前記放射性医薬は、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で200MBq/mL以上である、放射性医薬の製造方法。
【化1】
〔式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。Cuは銅の放射性同位体を示す。〕
【請求項2】
前記ろ過工程では、前記無菌化フィルタとして親水性PVDFを構成素材とするフィルタを用いる、請求項1に記載の放射性医薬の製造方法。
【請求項3】
前記安定化工程では、前記安定化剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム及びマンニトールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む、請求項1又は2に記載の放射性医薬の製造方法。
【請求項4】
前記放射性医薬は、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で1GBq/mL以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の放射性医薬の製造方法。
【請求項5】
前記安定化剤が、ブチルヒドロキシアニソールである請求項1から4のいずれか1項に記載の放射性医薬の製造方法。
【請求項6】
前記安定化剤が、
前記放射性医薬の薬剤1mLあたりの含有量が15.49mg~1.5gのアスコルビン酸、
前記放射性医薬の薬剤1mLあたりの含有量が0.44mg~44mgのアスコルビン酸ナトリウム、又は、
前記放射性医薬の薬剤1mLあたりの含有量が8.96mg~896mgのマンニトールである、請求項1から4のいずれか1項に記載の放射性医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性医薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、従来から低酸素部位やミトコンドリア機能障害の診断剤として知られ、体内に投与する研究が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、がんは本邦第一位の死亡原因であり、難治性がんでは効果的な治療法がない。これまでに、多くの難治性がんにおいて、腫瘍内が低酸素状態にあることが放射線や抗がん剤への抵抗性に繋がっていると報告されている。ここで、前記放射性銅錯体化合物のうち、放射性ジアセチル-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体(以下、「Cu-ATSM」ともいう。)、例えば64Cu-ATSMは、腫瘍内の低酸素環境に集積し、腫瘍の治療に適したβ線やオージェ電子を放出することから、難治性がんに対し高い治療効果を有することが知られており、がんの治療薬としても実用化する研究が行われている。
【0004】
例えば、本発明者らによる特許文献2には、キレート剤と併用投与されるために用いられる放射性医薬であって、Cu-ATSMを含有し、前記キレート剤が、最大配座数が2座以上4座以下の多座配位子を含有することを特徴とする放射性医薬及び医薬キットが開示されている。この技術は、Cu-ATSMを治療目的を含む放射性医薬として用いつつ、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体と特定のキレート剤とを併用することで、肝臓からの放射能排出を促進できるため、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体の投与時における肝臓への被曝を低減しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-245425号公報
【文献】特許第6085810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射性医薬が、がん治療の効能を発揮するためには、体内において所定時間内に、高品質かつ充分な強度・量のβ線やオージェ電子を放出させる必要がある。このため、放射性医薬は、従来の診断剤として用いる放射能濃度である100MBq/mL以下よりも高濃度の、少なくとも200MBq/mLで製剤することが望まれる。このように放射能濃度が高い医薬を扱う場合、製剤中の安全性及び効率性を充分に確保するためには、可能な限り安全に、かつ高い回収率で製造せねばならない。
【0007】
また、放射性物質は時間により放射能が低減していくが、一方で放射性ラベルされた化合物が放射線の影響で変性する場合がある。Cu-ATSMは放射線分解により水溶液中で不安定であり、例えば64Cu-ATSMの場合は貯蔵ができず製造後速やかに用いる必要があるという課題がある。しかし、製造過程及び製造後の保存条件として、64Cu-ATSMを変性せず高放射能濃度のまま医療施設で活用できる期間、その品質、すなわち、放射化学的純度の維持が求められる。
放射性医薬に対しては、放射性ラベルされた有効成分の放射能濃度を保ったままの製造時の高い回収率、及び、前記有効成分の放射能濃度の製造時と製造後との維持を、充分に両立できる安定製造技術が求められる。
【0008】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、化学構造及び放射性を保った放射性化合物を製造時及び製造後に維持し、放射性医薬を活用可能な期間を維持することのできる放射性医薬の製造方法及び放射性医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する、放射性医薬の製造方法であって、
前記放射性成分を含有する溶液に対して、アスコルビン酸、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール及びブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む安定化剤を添加する安定化工程と、
前記放射性成分又はその前駆体を含む溶液を無菌化フィルタによりろ過するろ過工程と、を含み、
前記放射性医薬は、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で200MBq/mL以上である、放射性医薬の製造方法。
【化1】
〔式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。Cuは銅の放射性同位体を示す。〕
[2] 前記ろ過工程では、前記無菌化フィルタとして親水性PVDFを構成素材とするフィルタを用いる、[1]に記載の放射性医薬の製造方法。
[3] 前記安定化工程では、前記安定化剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム及びマンニトールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む、[1]又は[2]に記載の放射性医薬の製造方法。
[4] 前記放射性医薬は、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で1GBq/mL以上である、[1]から[3]のいずれか1に記載の放射性医薬の製造方法。
[5] 下記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する放射性医薬であって、
アスコルビン酸、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール及びブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む安定化剤を含有し、
前記放射性成分の濃度が放射能濃度で200MBq/mL以上である、放射性医薬。
【化2】
〔式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。Cuは銅の放射性同位体を示す。〕
[6] 前記安定化剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム及びマンニトールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む、[5]に記載の放射性医薬。
[7] 前記放射性成分の濃度が放射能濃度で1GBq/mL以上である、[5]又は[6]に記載の放射性医薬。
[8] 前記放射性成分は、無菌化フィルタでろ過された画分である、[5]から[7]のいずれか1に記載の放射性医薬。
[9] 前記画分は親水性PVDFを構成素材とする無菌化フィルタでろ過した画分である、[8]に記載の放射性医薬。
[10] 腫瘍の治療剤又は画像化剤である、[5]から[9]のいずれか1に記載の放射性医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、化学構造及び放射性を保った放射性化合物を製造時及び製造後に維持し、放射性医薬を活用可能な期間を維持することのできる放射性医薬の製造方法及び放射性医薬が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施例における酸系の安定剤候補化合物の時間ごとの放射化学的純度を示すグラフ図である。
【
図2】本実施例におけるアミノ酸系の安定剤候補化合物の時間ごとの放射化学的純度を示すグラフ図である。
【
図3】本実施例におけるナトリウム塩系の安定剤候補化合物の時間ごとの放射化学的純度を示すグラフ図である。
【
図4】本実施例におけるアルコール系の安定剤候補化合物の時間ごとの放射化学的純度を示すグラフ図である。
【
図5】本実施例における各種フィルタによるろ過の回収率を示すグラフ図である。
【
図6】本実施例における各種フィルタによるろ過の総回収率を示すグラフ図である。
【
図7】本実施例における高濃度の放射性成分の親水性PVDFフィルタによるろ過の回収率を示すグラフ図である。
【
図8】本実施例における高濃度の放射性成分の親水性PVDFフィルタによるろ過の総回収率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る放射性医薬の製造方法及び放射性医薬について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(放射性医薬の製造方法)
本実施形態の放射性医薬の製造方法は、特定の放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する放射性医薬の製造方法であって、安定化工程と、ろ過工程とを含む。
【0014】
(放射性成分)
本実施形態の放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、下記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する。
【0015】
【0016】
上記式(1)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。Cuは銅の放射性同位体を示す。
【0017】
さらに具体的には、本実施形態において、上記一般式(1)中の置換基R1、R2、R3、R4のアルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは炭素数1~3の整数である。本発明において、上記一般式(1)中の置換基R1、R2、R3、R4は、同一又は異なって水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、R1及びR2が同一又は異なって水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R3が水素原子であり、R4が炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、R1及びR2が同一又は異なって水素原子又はメチル基であり、R3が水素原子であり、R4がメチル基であることが更に好ましい。
【0018】
上記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、具体的には、
放射性グリオキザール-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性グリオキザール-ビス(N4-ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性エチルグリオキザール-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性エチルグリオキザール-ビス(N4-エチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド-ビス(N4-ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド-ビス(N4-エチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル-ビス(N4-ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル-ビス(N4-エチルチオセミカルバゾン)銅錯体
等を用いることができる。中でも放射性ジアセチル-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体(以下、放射性Cu-ATSMともいう。)又は放射性ピルブアルデヒド-ビス(N4-ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体(以下、放射性Cu-PTSMともいう。)が好ましく、放射性ジアセチル-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)銅錯体がより好ましい。
【0019】
上記一般式(1)中の銅の放射性同位体は、61Cu、62Cu、64Cu又は67Cuであることが好ましい。61Cu、62Cu、64Cuは、いずれも陽電子を放出する。また、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は低酸素領域に集積し、中でもCu-ATSMはがん幹細胞に集積する。そのため、61Cu、62Cu、64Cuを含む放射性医薬は、陽電子断層撮影(PET)を用いた腫瘍又は虚血、好ましくは腫瘍の画像化剤として用いることができる。一方、64Cu、67Cuは飛程の短いβ線も放出し、細胞を破壊する治療効果を有する。そのため、64Cu又は67Cuを含む放射性医薬は、腫瘍の治療剤としてより好ましい。
【0020】
本実施形態では、後述の安定化工程の前に、上記放射性成分を調製する。放射性成分の調製は、上記一般式(1)の化合物を調製できるこれまでに知られた方法を適宜用いてよい。具体的には、上記放射性成分の前駆体となる有機化合物と、銅の放射性同位体とを合成して放射性成分とすることができる。
【0021】
上記放射性成分の前駆体となる有機化合物としては、ジチオセミカルバゾン誘導体を用いることができる。
前駆体となる有機化合物の具体的な製造過程としては、例えば、Petering et al.(Cancer Res., 24,367-372,1964)に記載の方法により、放射性成分の前駆体となるジチオセミカルバゾン誘導体を合成する。すなわち、α-ケトアルデヒドの1mol水溶液又は50体積%エタノール溶液を30~40分かけてチオセミカルバジド、N4-メチルチオセミカルバジド、N4-ジメチルチオセミカルバジド等の前駆体の2.2mol含有5%氷酢酸溶液に50~60℃で滴下する。滴下中は反応液を撹拌する。滴下終了後室温で数時間放置した後、冷却して結晶を分離する。結晶はメタノールに溶解して再結晶を行い精製する。
【0022】
つづいて、放射性銅イオンを製造する。放射性銅イオンの製造にあたっては、従来知られた製造方法を用いることができるが、例えば61Cuイオンは、59Co(α,2n)61Cu反応、natZn(p,x)61Cu反応、58Ni(α,p)61Cu反応等から61Cuを生成した後、イオンクロマトグラフィー等を用いてターゲットから化学的に分離することにより得ることができる。また、62Cuイオンは例えば、WO2005/084168、Journal of Nuclear Medcine,vol.30,1989,pp.1838-1842に記載されるような62Zn/62Cuジェネレーターにより得ることができる。64Cuイオンは例えば、McCarthyらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.24(1),1997,pp.35‐43)、又は、Obataらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.30(5),2003,pp.535‐539)により得ることができる。67Cuイオンは例えば、68Zn(p,2p)67Cu反応から67Cuを生成した後、イオンクロマトグラフィー等を用いてターゲットから化学的に分離することにより得ることができる。
【0023】
その後、上記ジチオセミカルバゾン誘導体をジメチルスルホキシド(DMSO)溶液として、上記放射性銅イオンを含む溶液と接触させることにより、上記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を得ることができる。62Cu‐ジチオセミカルバゾン銅錯体の製造方法としては、従来知られた製造方法を用いることができ、例えば、特許文献1記載の方法が挙げられる。また、61Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、Jalilianらの方法(Acta Pharmaceutica,59(1),2009,pp.45-55)が挙げられる。62Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、「PET用放射性薬剤の製造および品質管理―合成と臨床使用へのてびき」(PET化学ワークショップ編)第4版(平成23年改定版)記載の方法が挙げられる。64Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、Tanakaらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.33,2006,pp.743‐50)が挙げられる。
【0024】
本実施形態では、このようにして製造された放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体の放射性成分を、後述する安定化工程の前に、放射性成分を含有する溶液の形とする。製造時のDMSO溶液の放射能濃度を調整することによって溶液とすることもでき、その他、例えば、放射性成分は、水性溶剤(水、水溶液)又は油性溶剤(有機溶媒)に溶解、懸濁または乳化し、溶液とすることができる。
【0025】
(安定化工程)
安定化工程は、上述の放射性成分を含有する溶液に対して、安定化剤を添加する工程である。安定化剤は、放射性成分の変性を防ぎ安定化させる成分である。放射性成分は、放射標識化後に、酸化および自動放射分解により変性することが知られている。これに対して、本実施形態では、安定化剤を加えることで、放射性成分の化学構造と放射性を保ったまま長時間維持する。
【0026】
具体的には、放射性成分として従来用いられていた64Cu‐ジチオセミカルバゾン銅錯体では、64Cuの放射性がおよそ12.7時間で半減する。加えて、製造後時間が経つごとに、従来はこの放射性成分そのものが変性する。すなわち、放射性医薬中に含まれる放射性成分は、製造後時間が経つと共に、化学構造を保ったままの成分が減少し、かつ放射性が減退する。安定化剤は、放射性成分の変性を抑止し、放射性成分の化学構造と放射性を保ったまま維持する目的で加えられるものである。
【0027】
安定化の効果は、調製(製造)より後の一定時間後に分解されていない放射性成分の割合%Intact probe(放射性成分の放射能量/全放射能×100)を測定したものを目安にすることができる。本実施形態の安定化剤は、安定化剤を添加した放射性医薬について、放射性成分の溶液の調製から24時間後における%Intact probeが95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態では、安定化剤としていわゆるラジカルスカベンジャーを用いる。ラジカルスカベンジャーは、遊離基(フリーラジカル)と反応して安定な化合物とする化合物である。一般にラジカルスカベンジャーは、放射性の化合物を含む薬剤に対して変性を防ぐことが知られている。
【0029】
本実施形態では、安定化剤としてこれらのラジカルスカベンジャーのうち、アスコルビン酸、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール及びブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を用いることができる。これらの化合物は、本実施形態の放射性成分に対して特に安定化の効果が高く、長時間放射性成分を維持することができる。
【0030】
また、本実施形態では、安定化剤としてアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はマンニトールを用いることが、より好ましい。これらの化合物は、それ自体が発がん性等を持たないため、治療薬、特に腫瘍の治療薬に含有されるものとして好適に使用できる。また、これらの化合物は、臭気等がなく扱いやすいため、治療薬を製造及び使用する場において好適に使用することができる。
【0031】
安定化剤の添加量は、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はマンニトールを用いる場合、薬剤1mLあたりそれぞれ15.49mg~1.5g、0.44mg~44mg、8.96mg~896mgであることが好ましい。特に、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はマンニトールを用いる場合、添加量は薬剤1mLあたり154.9mg、4.4mg、89.6mgであることがより好ましい。
【0032】
安定化剤の効果として、前述したように、安定化剤は放射性成分の変性を抑止し、放射性成分の化学構造と放射性を保ったまま維持する。放射性医薬中に含まれる放射性成分は、製造後時間が経つと共に、化学構造を保ったままの成分が減少し、かつ放射性が減退する。従来製造された64Cu-ATSMでは、そのため、貯蔵ができず製造後速やかに用いる必要があった。放射性による治療目的の医薬は、充分な治療効果を発揮するには、一般に従来主に用いられていた画像化目的の薬剤よりも放射能濃度が高いことが望ましい。そのため、従来の放射性医薬は後述するように製造に時間を要していたこともあり、製造後すみやかに使用しなくては望ましい医療効果を発揮することが難しかった。製造過程でより放射能濃度を高くして、製造後時間が経っても高い放射能濃度が残るようにすることも考えられるが、その場合、製造過程での安全性への配慮がより必要となるものであった。
【0033】
これに対して、本実施形態では放射性医薬に安定化剤を加えることで、放射性成分の化学構造と放射性を保ったまま長時間維持することができるので、治療時に必要とされる以上の極端に高い放射能濃度で製造を行う必要がなく製造しやすく、製造後時間が経っても医療効果を発揮することが可能な放射性医薬を得ることができる。
【0034】
(ろ過工程)
ろ過工程は、放射性成分又はその前駆体を無菌化フィルタによりろ過する工程である。ろ過工程を経ることで、放射性医薬を無菌化し、人体への投与に安全に用いることができる。放射性成分を合成する前の前駆体、又は合成した放射性成分をろ過することで、放射性医薬に含まれる放射性成分を無菌化する。
【0035】
本実施形態の一態様では、放射性医薬の各成分が添加された溶液に対して、無菌化フィルタによりろ過する。具体的には、放射性成分を含む溶液に安定化剤を加えた後の溶液をろ過することができる。
【0036】
無菌化フィルタは、従来の無菌化に用いられていたもの、具体的には細菌を通さないようなろ過サイズ及び物性のものであれば適宜使用できる。例えば、セルロース混合エステル製、親水性PES又は親水性PVDFなどを構成素材とするフィルタを用いることができる。フィルタのろ過サイズについては、さらに具体的にはポアサイズ0.22μm以下のものが使用できる。また、ろ過する総液量に対しフィルタのハウジング体積は10%未満であることが望ましい。
【0037】
本実施形態では、放射性成分を含有する成分を無菌化する工程においては、上記の無菌化フィルタのうち、親水性PVDFを構成素材とする無菌化フィルタを用いることが好ましい。放射性成分を含有する成分を無菌化する工程とは、放射性成分を含む放射性医薬、又は放射性医薬の製造過程における放射性成分若しくはその前駆体を含む溶液を無菌化する工程である。具体的には、放射性成分を含む放射性医薬、ジチオセミカルバゾン誘導体のDMSO溶液、又は、ジチオセミカルバゾン誘導体に添加するDMSOをろ過する際は、親水性PVDFを構成素材とする無菌化フィルタを用いることが好ましい。
【0038】
親水性PVDFを構成素材とする無菌化フィルタは、本実施形態の放射性成分、及びその前駆体となる有機化合物に対して吸着が少ない。そのため、無菌化フィルタに親水性PVDFを用いるとろ過工程でのロスが少なく、製造時に高い収率を得ることができる。
【0039】
なお、本実施形態の製造方法の別の態様として、ろ過工程は、放射性医薬に添加する液体成分の全てに対して、それぞれろ過工程を行ってから添加を行ってもよい。具体的には、前述した放射性成分を合成する前駆体、放射性銅、安定化剤、これらに添加する前の溶液、又は添加した後の溶液の液体成分について、それぞれろ過した後の画分を用いることで、放射性医薬に添加する液体成分の全てをろ過工程を経たものとすることができる。上述の実施態様では、ジチオセミカルバゾン誘導体に添加するジメチルスルホキシド、及び銅の放射性同位体に添加するグリシン水溶液をろ過した画分を用いる。また、上述の安定化工程における安定化剤もろ過した画分を用いる。溶液以外の成分は無菌状態で扱ったものを用いる。上述の実施態様では、これらの工程を経ることで、放射性医薬に含まれる成分を全て無菌化を経たものとすることができる。
【0040】
ろ過工程の効果として、従来の製造工程では、ジチオセミカルバゾン銅錯体は脂溶性が高く一般にフィルタに吸着しやすいので、ろ過の工程によるロスが多く、製造収率が低い。例えば、従来の製造工程では、合成した放射性成分を含む溶液に対してこのようなろ過操作を行うと、放射性物質でラベルされた化合物が吸着により多くロスしてしまうこととなるため、製造効率が悪く、廃棄物も多い。そのため、従来の製造の際は、例えば、過剰量の原料を用いて製造を行うことがあった。しかし、過剰量の原料を用いると、原料のうち放射性物質も多量に扱う必要があるため、このような手段を用いると製造過程における作業者の被ばくを防ぐ面で課題がある。
【0041】
また、従来の製造の際には他には、あらかじめろ過した前駆体を用いて放射性成分の製造に供する、すなわち無菌環境下で無菌ろ過した原料同士を混和することで製造を行うことがあった。この製造方法では工程が多く時間がかかる場合がある。さらに、工程が多く時間がかかると、製造収率の他、作業者の被ばくの面でも課題がある。無菌環境下で、かつ放射性物質に対して距離や遮蔽を充分に確保するのは難しいため、可能な限り製造に要する時間や工程を減らす必要がある。
【0042】
これに対して本実施形態では、本実施形態の放射性成分、及びその前駆体に対して吸着が少ないフィルタを用いてろ過工程を行うので、ロスが少なく製造収率が高い。そのため、従来の放射性成分の前駆体をろ過する工程も効率よく行うことができる。また、製造後の放射性成分をろ過してもロスが少ないことから、放射性成分を製造し安定剤を添加する工程の後、放射性成分と安定剤とを含む溶液に対してろ過工程を行うこともできる。このようなろ過工程を行うことで、ろ過工程が少なく、工程が少なく時間がかからないため、製造収率、作業者の被ばくの面でも改善することができる。
【0043】
(その他の工程)
本実施形態の放射性医薬の製造方法には、必要に応じ他の工程を加えることができる。例えば、他の成分を添加する工程を加えることができる。他の成分としては、例えば、上述の成分を全て加えた後に、放射性医薬を製剤化するための成分を加えることができる。分散剤、保存剤、等張化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝化剤、安定剤、無痛化剤、又は防腐剤等の添加物を添加することで、放射性医薬を注射剤として製剤化することができる。
【0044】
本発明の放射性医薬は、上記の工程を経た成分をそのまま、又は、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤、若しくは賦形剤とともに製剤化されていればよい。剤形は、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよいが、例えば注射剤などの非経口投与の剤形が好ましい。
【0045】
(放射能濃度)
このように調製された放射性医薬は、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で200MBq/mL以上である。放射能濃度が高い放射性医薬は、特に治療に用いた場合に放射線による治療効果を有効に得ることができる。また、本実施形態の放射性医薬は、1.0GBq/mL以上であることがより好ましい。さらに治療目的では1.5GBq/mL以上で用いることができる。従来の放射性成分を含む医療用薬剤は主に検査目的であり、100MBq/mL前後が主であったが、本実施形態では放射能濃度の高い放射性医薬を高効率で製造することができるので、治療薬として有効に用いることができる。
【0046】
(本実施形態の放射性医薬の製造方法の効果)
本実施形態の放射性医薬の製造方法によると、上述の安定化工程により、放射性成分が分解されずに維持した状態を長く保つことができる。さらに、上述のろ過工程により、放射性成分のフィルタへの吸着が少ないので、放射性成分の収量を落とさずに無菌化することができる。これらの効果により、放射性医薬を、放射性成分を安定化させつつ収量を落とさずに製造及び保存することができる。これにより、保存時間及び製造時間をトータルで削減し、より短い時間で高濃度の放射性成分を含む放射性医薬を製造できる。これらの工程を、200MBq/mL以上の高い放射能濃度を持つ治療用の放射性医薬の製造に用いることで、高濃度の放射性成分を有効に得ることができ、製造時の被ばくリスクを軽減することができ、製造時間及びコストを大きく削減することができる。また製造後の放射性成分の変性が少ないため、製造後長時間有効に使用することができ、輸送や保存が必要な治療薬として適している。
【0047】
(本実施形態の放射性医薬及びその用途)
本実施形態の放射性医薬は、上述の製造方法によって製造されたものである。具体的には、上述した一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を含む放射性成分を含有する放射性医薬であって、アスコルビン酸、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール及びブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む安定化剤を含有し、前記放射性成分の濃度が放射能濃度で200MBq/mL以上である。また、本実施形態の放射性医薬は、前記放射性成分及び前記安定化剤を含有する溶液を無菌化フィルタでろ過した画分からなる。
【0048】
本実施形態の放射性医薬は、治療剤、及び診断過程などにおける画像化剤としても用いることができる。上述したように、本実施形態の放射性成分は低酸素領域に集積し、中でもCu-ATSMはがん幹細胞に集積するため、本実施形態の放射性医薬は腫瘍の治療に用いる治療剤、又は腫瘍の画像化に用いる画像化剤であることが好ましい。本実施形態の化合物は、放射性成分の濃度が200MBq/mL以上と高く、本実施形態の製造方法により高い放射能濃度を保ったまま製造することができるため、高い放射能濃度によって有効に治療効果を発揮できる治療目的に適している。特に、上述のがん幹細胞に集積する性質より、腫瘍の治療剤として用いることが特に好ましい。
【0049】
本実施形態の放射性成分に含まれる放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、各種の腫瘍に集積することができる。放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体が集積する腫瘍としては、例えば、乳癌、脳腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、肺癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、小腸癌、食道癌、十二指腸癌、舌癌、咽頭癌、唾液腺癌、神経鞘腫、肝臓癌、腎臓癌、胆管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、血管腫、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、甲状腺癌、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍、血管線維腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形癌、肉腫、又は白血病などが挙げられる。これらの腫瘍は、原発性であっても転移性であってもよい。本実施形態の放射性医薬は、これらの腫瘍の治療に用いることができる。
【0050】
また、本実施形態の放射性医薬は、従来知られた他の薬剤と併用投与して用いることができる。例えば、本実施形態の放射性医薬に加えて投与された臓器からの放射能排出を促進するためのキレート剤を併用してもよい。又は、臓器からの放射性医薬の排出をさらに促進するための浣腸剤等を併用してもよい。又は、腫瘍細胞に対する集積を促進するための代謝阻害剤を併用してもよい。又は、抗腫瘍効果を高めるための血管新生阻害剤を併用してもよい。
【0051】
本実施形態の放射性医薬は、併用投与して用いるための他の薬剤を添付し、キットの形態で提供することもできる。例えば、本実施形態の放射性医薬を前記キレート剤、浣腸剤、代謝阻害剤又は血管新生阻害剤等と組み合わせてキットとしてもよい。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変更を行うことができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できるものである。
【0054】
(実験例1)
64Cu-ATSMに安定化剤として各種ラジカルスカベンジャーを添加し、各種ラジカルスカベンジャーによる64Cu-ATSM安定化効果を比較した。64Cu-ATSM溶液は、表1の組成で調製した。なお、64Cuの濃度は1.5GBq/mLとした。あらかじめ0.2mol/Lグリシン水溶液を作成し、これで64Cu溶解液を調製し反応に用いた。また、ATSMはあらかじめジメチルスルホキシドに溶解し、0.5mmol/LのATSMジメチルスルホキシド溶液を作成し、これを64Cu溶解液と混合することで64Cu-ATSM溶液を調製した。
【0055】
ついで、この64Cu-ATSM溶液に、安定化剤の候補となる表2に示す各化合物(ラジカルスカベンジャー)を指定の濃度で加えた。各64Cu-ATSM溶液サンプルの総容量は30μLとし、各反応条件で3サンプルずつ調製した。反応直後、5時間後、24時間後にそれぞれ、薄層クロマトグラフィー法により64Cu-ATSMの放射化学的純度の分析を行った。分離は、展開溶媒としてメタノールを使用して、TLC Silica gel 60(Merck)により行った。分解されていない64Cu-ATSMの割合(%Intact probe=64Cu-ATSMの放射能量/全放射能×100)を算出した。
【0056】
【0057】
【0058】
各試験例の添加による
64Cu-ATSM安定化効果の結果として、%Intact probeの時間ごとの経過を
図1~4に示した。
図1に酸系候補化合物(アスコルビン酸、クエン酸一水和物、無水クエン酸)の検討、
図2にアミノ酸系候補化合物(メチオニン、システイン塩酸塩一水和物)の検討、
図3にナトリウム塩系候補化合物(アスコルビン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、無水亜硫酸ナトリウム)の検討、
図4にアルコール系候補化合物(ブチルヒドロキシアニソール、マンニトール、ベンジルアルコール、エタノール)の検討を示している。
【0059】
また、24時間後について、各試験例の3サンプルの平均をAVR、標準偏差をSDとし表3に示した。
【0060】
【0061】
図1~4の結果より、
64Cu-ATSMを24時間まで安定に貯蔵可能な化合物として試験例1のアスコルビン酸(
図1)、試験例4のメチオニン(
図2)、試験例6のアスコルビン酸ナトリウム(
図3)、試験例12のブチルヒドロキシアニソール(
図4)及び試験例13のマンニトール(
図4)の5種類を同定した。表3に示すように、これらは24時間後の%Intact probeが97%以上であり、24時間後にも
64Cu-ATSMの形で変性せず維持され、安定していることが示された。
【0062】
(実験例2)
64Cu-ATSMのろ過に使用する無菌化フィルタとして、汎用されているセルロース混合エステル製フィルタ(メルク社製、マイレクスGS、図中GS)に加え、親水性PES製フィルタ(メルク社製、マイレクスGP、図中GP)や親水性PVDF製フィルタ(メルク社製、マイクレスGV、図中GV)を用い、64Cu-ATSMの吸着性を比較した。64Cu-ATSM溶液は、表1の組成で調製した。なお、64Cuの濃度は3MBq/mLとした。あらかじめ0.2mol/Lグリシン水溶液を作成し、これで64Cu溶解液を調製し反応に用いた。また、ATSMはあらかじめジメチルスルホキシドに溶解し、0.5mmol/LATSMジメチルスルホキシド溶液を作成し、これを64Cu溶解液と混合することで64Cu-ATSM溶液を調製した。これに、安定化剤として、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトール、エタノールを表2に示す濃度で加えた。各64Cu-ATSM溶液サンプルの総容量は10.2mLとした。反応直後、放射能量・重量を測定した.これを、各フィルタ(GS、GP、及びGV)でろ過し、放射能量・重量を測定した。
【0063】
各フィルタを用いた各条件で3サンプルずつについてこの操作を行い、それぞれ回収率(回収前放射能濃度を100%とした回収後の放射能濃度割合)と総回収率(回収前放射能量を100%とした回収後の放射能量割合)を計算した。溶液の体積は、重量換算で算出した。各安定化剤における各種フィルタろ過後の回収率を
図5、総回収率を
図6に示す。その結果、無菌化フィルタとしてGVを用いて
64Cu-ATSMをろ過することで、最も吸着が少ないことが示された。
【0064】
(実験例3)
64Cu-ATSMのろ過に使用する無菌化フィルタとして、親水性PVDF製フィルタ(メルク社製、マイクレスGV、図中GV)を採用し、高い放射能濃度での64Cu-ATSMの吸着性を確認した。64Cu-ATSM溶液は、表1の組成で調製した。なお、64Cuの濃度は1GBq/mLとした。あらかじめ0.2mol/Lグリシン水溶液を作成し、これで64Cu溶解液を調製し反応に用いた。また、ATSMはあらかじめジメチルスルホキシドに溶解し、0.5mmol/LATSMジメチルスルホキシド溶液を作成し、これを64Cu溶解液と混合することで64Cu-ATSM溶液を調製した。これに、安定化剤として、アスコルビン酸ナトリウムを表2に示す濃度で加えた。64Cu-ATSM溶液サンプルの総容量は200μLとした。反応直後、放射能量・重量を測定した。これをフィルタでろ過し、放射能量・重量を測定した。
【0065】
3サンプルずつについてこの操作を行い、回収率(回収前放射能濃度を100%とした回収後の放射能濃度割合)と総回収率(回収前放射能量を100%とした回収後の放射能量割合)を計算した。溶液の体積は、重量換算で算出した。フィルタろ過後の回収率を
図7、総回収率を
図8に示す。その結果、無菌化フィルタとしてGVを用いて
64Cu-ATSMをろ過することで、治療目的で用いられるような高い放射能濃度の
64Cu-ATSMでも吸着が少ないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の放射性医薬の製造方法及び放射性医薬によれば、化学構造及び放射性を保った放射性化合物を製造時及び製造後に維持し、放射性医薬を活用可能な期間を維持することのできる放射性医薬の製造方法及び放射性医薬が得られる。このため、放射性治療薬Cu-ATSMの製造販売において、有効期限の延長による配送範囲の拡大、製造収率の改善によるコスト削減、及び作業者への被ばく低減などの利用可能性がある。