(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】CLSP阻害物質による影響を受けないCLSP誘導体及びCLSP活性の増強/保護剤
(51)【国際特許分類】
C07K 14/52 20060101AFI20241024BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241024BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241024BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20241024BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20241024BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241024BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241024BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241024BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K14/52 ZNA
C07K19/00
C07K14/47
A61K38/19
A61K38/17
A61P25/28
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2021539178
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027764
(87)【国際公開番号】W WO2021029181
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019149216
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】松岡 正明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐一
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131711(JP,A)
【文献】特表2018-536438(JP,A)
【文献】HASHIMOTO, Y. et al.,Secreted calmodulin-like skin protein inhibits neuronal death in cell-based Alzheimer's disease models via the heterotrimeric Humanin receptor,Cell Death Dis.,2013年,Vol. 4; e555,pp. 1-11
【文献】Database: GenPept [online], Accession: NP_004788, Definition: adiponectin precursor [Homo sapiens],2019年08月07日,[retrieved on 2020.09.10], Internet,<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/4757760?sat=47&satkey=88620968>
【文献】CHAN, Koon-Ho et al.,Adiponectin is protective against oxidative stress induced cytotoxicity in amyloid-beta neurotoxicity,PLoS One,2012年,Vol. 7; e52354,pp. 1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列(ADNCol);
(2)上記(1)のアミノ酸配列(ADNCol)を含むアミノ酸配列;
(3)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列中に一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(4)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチドから成
り、
CLSP誘導体が、CLSPにおけるCLSP活性中心である内因性ヒューマニン相同領域(EHR)を含み、該CLSP活性の阻害剤が結合する領域を含まない、
CLSP又はCLSP誘導体の有するCLSP活性の増強又は保護剤。
【請求項2】
阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用から該CLSPを保護し、又は、阻害剤の該作用を無効化することを特徴とする、請求項1に記載の増強又は保護剤。
【請求項3】
前記ポリペプチドがアディポネクチンである、請求項1又は2記載の増強又は保護剤。
【請求項4】
前記阻害剤が、アポリポタンパク質E、14‐3‐3タンパク質、およびカルレティキュリンから成る群から選択される、請求項2または3のいずれか一項に記載の増強又は保護剤。
【請求項5】
EHRがアミノ酸配列(I):
TGKNLSEAQLRKLISEVDS(あるいはG)DGD(アミノ酸一文字表記)(I)から成る、請求項1から4のいずれか一項に記載の増強又は保護剤。
【請求項6】
CLSP又はCLSP活性を有するCLSP誘導体と、
以下のアミノ酸配列:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列(ADNCol);
(2)上記(1)のアミノ酸配列(ADNCol)を含むアミノ酸配列;
(3)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列中に一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(4)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;から成るポリペプチドとを含
み、
前記CLSP誘導体が、CLSPにおけるCLSP活性中心である内因性ヒューマニン相同領域(EHR)を含み、該CLSP活性の阻害剤が結合する領域を含まない、
融合タンパク質。
【請求項7】
EHRがアミノ酸配列(I):
TGKNLSEAQLRKLISEVDS(あるいはG)DGD(アミノ酸一文字表記)(I)から成る、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記阻害剤が結合する領域がCLSP(配列番号1)のC末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸62~146)である、請求項6又は7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記CLSP誘導体が、以下のアミノ酸配列:
(1)CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61);
(2)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列中に一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(3)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチドである、請求項
6~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61)とADNColから成る、請求項
6~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を受けない、請求項
6~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、又は、請求項
6~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質を有効成分として含む、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制するための医薬組成物。
【請求項13】
アルツハイマー病に関連する記憶傷害又は神経変性を伴う疾病の予防または治療に用いられる、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の医薬組成物を、神経細胞の細胞機能障害若しくは神経細胞死を伴う疾患、又は、記憶傷害若しくは神経変性を伴う疾病に罹患した又はその疑いのある個体(ヒトを除く)に投与する段階を含む、該疾患又は疾病を治療する方法。
【請求項15】
疾患又は疾病がアルツハイマー病である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、又は、請求項
6~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質(本発明ポリペプチド)による、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性をin vitroで検出する方法であって、(a)CLSPの阻害剤の存在/非存在下、及び、本発明ポリペプチドの存在/非存在下に於いて、神経細胞の機能障害又は神経細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の機能障害又は神経細胞死を検出する工程、及び(c)本発明ポリペプチドの存在/非存在下に於ける神経細胞の機能障害又は神経細胞死を比較する工程、を含む前記方法。
【請求項17】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、若しくは、請求項
6~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質(本発明ポリペプチド)による、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質をin vitroでスクリーニングする方法であって、
(a)本発明ポリペプチドの存在下、被検物質の有無で神経細胞の機能障害又は神経細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の機能障害又は神経細胞死を検出する工程、および(c)本発明ポリペプチドによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質を選択する工程、を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病(AD)に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を有し、且つ、阻害物質(阻害剤)による該活性の阻害又は抑制作用を受けない、カルモジュリン様皮膚タンパク質(Calmodulin-like skin Protein:CLSP)の誘導体、アディポネクチンのコラーゲン相同領域を含むポリペプチド等から成る、CLSPが有する該活性(「AD保護活性」、「抗AD活性」、「CLSP活性」又は「CLSPによる細胞毒性抑制活性」ともいう)の増強又は保護剤、CLSP又は該CLSP誘導体と該ポリペプチド等を含む融合タンパク質、及び、これらを有効成分として含む医薬組成物、特に、アルツハイマー病治療用の医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知症を引き起こす主要な神経変性疾患である。ADの病因は十分に解明されておらず、そしてADのための疾患修飾(疾患の予防および進行抑制)療法はまだ実用化には程遠い段階である(1-3)。
【0003】
生理活性ペプチドである、ヒューマニンおよびCLSPは、毛様体神経栄養因子受容体α、WSX‐1、およびgp130からなるヘテロ三量体ヒューマニン受容体(htHNR)に対する生理学的アゴニストである(4-6)。それらは、htHNRを介してインビトロでAD関連ニューロン細胞死を阻害する(5,7)。また、CLSPのトランスジェニック過剰発現は、ADモデルマウスにおけるシナプス喪失および記憶喪失から保護する(8)。ただし、ヒューマニンの活性は弱く(50%有効濃度は1~10μM)(6,7)、生体内に存在するヒューマニンの濃度は神経保護効果を発揮するには不十分であると考えられる(6,9)。
【0004】
CLSPは主に皮膚角化細胞で産生され、一部の末梢組織の上皮細胞でも若干産生される(10-12)。 CLSPの腹腔内投与により、マウスにおけるスコポラミン誘発記憶障害が改善された(13)。また、ヒト脳脊髄液中に十分量のCLSPが存在する(14)。これらの実験事実から、CLSPは末梢組織より血液循環によって運ばれて中枢神経系(CNS)に到達し、血液脳関門を通過して神経組織に入ると推定される(14)。 CLSPに於ける40~61番目の22個のアミノ酸から成る配列であるEHR(内因性ヒューマニン相同領域)はCLSP活性に不可欠であり(5)、野生型CLSPの活性はヒューマニンよりも105倍強力である(50%有効濃度は10‐100pM)(5)。 また、測定されたヒト脳脊髄液中のCLSPの濃度(14)からすると、CNSにおけるCLSP濃度は、AD保護因子として神経保護効果を示すに十分な濃度と推定される。これら公表された知見(5、6、8、9、13、及び14)から、インビボでのhtHNRの中心的なアゴニストはヒューマニンではなくCLSPである可能性が高い。また、以前の研究(35)により、AD患者のCNSにおいてはhtHNRの活性化レベルが低下していることが示唆されている。そこで、さらなる推論として、AD患者のCNSにおいてはhtHNRの中心的アゴニストであるCLSPレベルが低下している可能性が提起された。しかしながら、本発明者らの直前の研究(14)により、CLSPレベルそのものがAD患者のCNSで低下している可能性は否定された。
【0005】
ヒューマニンおよびCLSP、並びに、これらの作用・効果に関しては、上記に数字で引用した参考文献(References)の他に、特許文献1にも詳細に記載されている。
【0006】
一方、アディポネクチンは、アディポネクチンR1およびアディポネクチンR2などの受容体に結合してAMPキナーゼ媒介細胞内シグナリングを活性化することによって、インスリン感受性の増加、インスリン非依存性グルコースの取り込み、および脂肪酸分解などのさまざまな代謝作用を示す脂肪組織由来ペプチドホルモンである。結果として、このホルモンは、2型糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪性肝疾患、およびメタボリックシンドローム及び関連した代謝異常を抑制するという役割を果たすと考えられている。
【0007】
アディポネクチンの欠乏またはアディポネクチンシグナル伝達の異常な調節がADの発症に関連しているという間接的な証拠が以下のように複数の研究で予備的なデータとして提示されている(31)。血清アディポネクチンレベルの上昇(29, 30)は、ADの独立した危険因子である可能性がある(32)。逆に、血清アディポネクチン濃度が低いII型糖尿病患者ではAD様の病状が発症することが研究により示された(33)。アディポネクチンレベルは、AD患者のCSFにおいて低下されており、Aβレベルの増加と逆相関している(30)。アディポネクチンノックアウトマウスはAD様の症状及び病理所見を示す(34)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CLSPはhtHNR以外にも複数のタンパク質と結合することが示されている(15)が、それらの結合がCLSP機能にどのように影響するかは明らかにされていない。
本発明の第一の課題は、これらのCLSP結合因子、および本発明において新たに発見したCLSP結合因子が、CLSP活性を調節している可能性を検討し、調節しているタンパク質に関しては、その詳細なメカニズム解析を行うことである。
第二の課題は、AD患者由来のサンプルを使用して、CLSP活性がADの中枢神経系において低下していることを確認するとともに、これらCLSP結合因子の異常がAD発症に寄与している可能性を検討することである。
更に、第三の課題は、阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を受けないCLSP誘導体、CLSP及び該CLSP誘導体の有するCLSP活性の増強又は保護剤、CLSP又は該CLSP誘導体と増強又は保護剤との融合タンパク質、並びに、これらを有効成分として含むアルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制するための医薬組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、当該技術分野において以下の知見を初めて得て、本発明を完成した。
【0011】
まず、CLSP活性がアポリポタンパク質E(ApolipoproteinE:ApoE;本実験で用いたApoE3とApoE4は一アミノ酸が異なる同族蛋白質で、生化学的性質はほぼ同じ)、14-3-3タンパク質、およびカルレティキュリン(Calreticulin)などのCLSP阻害物質(剤)によって抑制されることを見出した(
図2および
図3)。一連のデータはこれらCLSP阻害物質が培地中のCLSP濃度と同等から5倍までの濃度で完全なCLSP抑制効果を示すことを実証している。ヒト中枢神経系にはCLSP濃度より圧倒的に高い濃度のApoEが存在することが知られている。例えば、ヒト脳脊髄液(CSF)中のApoE濃度は40-200nMと推定されている(18, 19)一方、CLSPの濃度は3-6nMと推定されている(14)。従って、インビボのCNSにおいてCLSP活性がCLSPとその阻害物質のみからなる単純な系で規定されていると仮定すると、このような高濃度の内在性ApoEによってCLSPの活性は完全に無効にされると考えられる(実際の正常生体内では後述のようにCLSP保護物質が存在していてCLSP活性を維持している(
図5、
図6、
図7)。従って、治療手段として、ADの中枢神経系において低下しているCLSP活性(
図10、11、表1、2、3、4)を、野生型CLSPを増加させるという手法により出現させるためには、CLSP阻害物質による阻害を克服するために、CNS中のCLSP濃度を少なくとも40-200nM以上にまで増加させなければならない。しかし、CLSPは血液脳関門を効率的に通過して中枢神経系に入ることができない(5, 14)ため、このことを末梢ルートからの野生型CLSP投与で達成するのは困難である。例えば、マウスにおいて、CSFおよび血清中のCLSP濃度は、5nmolの野生型CLSPの腹腔内注射の1時間後(通常最大濃度となることが予想される)に、それぞれ5nMおよび500nMに達する(5)。したがって、単純な計算でCSF中に40-200nM以上の濃度に上昇させるためには少なくとも約10倍以上の野生型CLSP投与が必要である。しかし、上記実験で投与された5nmolは既にマウスとしては非常に多い量であり、これ以上投与量を増やすのは現実的には困難である。すなわち、野生型CLSPを末梢から注射することによって、CLSP活性をCNSで出現させることはほぼ不可能である。従って、CLSPを末梢投与することによってCLSP活性をCNSで出現させるためには、より効率的に血液脳関門を通過させる、および/またはCLSPをCLSP阻害物質よる阻害効果から解放させる、変更又は工夫が必須である。
【0012】
本発明者は、ApoE4がCLSPのC末端領域(アミノ酸62-146)を介してCLSPに結合することを見出した(
図9および補足
図S4)。この知見は、CLSPのN末端領域(アミノ酸1-61:「CLSP1‐61」と略される)がApoEに結合せず、そしてApoE媒介抑制を受けないことを示す。重要なこととして、本発明者はさらに、CLSP1‐61が野生型CLSPと同等の活性を有し、V642I‐APP誘導性の神経細胞死を抑制することを証明した(
図L1)。 実際、V642I‐APP誘導性のニューロン死を完全に阻害する、大腸菌で産生させたCLSP1‐61および野生型CLSPの最小必要濃度は同じで、0.5nMである(
図L1及び
図2)。
【0013】
予想通り、CLSP1-61により媒介されるV642I‐APP誘導性神経細胞死の抑制は、ApoE3のみならず、14‐3‐3σタンパク質またはカルレティキュリンのような他のCLSP阻害剤によって阻害されない(
図L2)。以上のことから、CLSP1‐61はCLSP阻害物質による抑制から完全に解放され、しかも活性は野生型とほぼ同等であることから、インビボで野生型CLSPよりはるかに低い濃度でCLSP活性を示すCLSP誘導体であることが実証された。
【0014】
[配列番号1:CLSP(1-146)
mageltpeeeaqykkafsavdtdgngtinaqelgaalkatgknlseaqlrklisevdsdgdgeisfqefltaakkaragledlqvafrafdqdgdghitvdelrramaglgqplpqeeldamireadvdqdgrvnyeefarmlaqe (遺伝性多型により58番目sはgの場合があるが、活性は同じ)
【0015】
更に、アディポネクチンがCLSPのEHR(内因性ヒューマニン相同領域)に結合すること(
図1および
図9、
図S4)により、CLSP活性を増強し(活性増強因子;
図7)、かつ全ての種類のCLSP阻害物質からCLSP活性を保護(保持)すること(活性保護因子;
図5、
図6)を発見した。 実際には、50nMまでの圧倒的に高い濃度のCLSP阻害物質が存在していても、0.2‐0.25nMの濃度のアディポネクチンが存在すれば、1nMのCLSPによって完全にAD関連細胞死は抑制される(
図5および
図7)。この結果は、アディポネクチンが、CLSPよりも圧倒的に高濃度のCLSP阻害物質が存在するCNSにおいて、CLSPの活性を保つCLSP活性保護因子であることを示している。
【0016】
さらに、臨床試料を用いて実験を行うことにより、CSF中のアディポネクチンのレベルがAD患者において0.3nMに低下することを見出した(
図10、表1および2)。この結果は、以前の研究の結果と一致している(30)。さらに、ニューロン内CLSPシグナル強度がAD患者において低下することを見出した(
図11、表3および4)。これらの結果を合わせて考えると、AD患者において、何らかの原因でCNSにおけるアディポネクチンレベルの低下が起こり、その結果CLSP活性が低下し、ニューロンがAD関連毒性に感受性になること(すなわち神経毒性が出ること)が示唆される。
【0017】
本発明者はさらに、アディポネクチン(ADN)のコラーゲン相同領域(ADNCol:ADNに於ける45~104番目のアミノ酸配列に相当)が単独でCLSPに結合し(
図S4)、CLSP増強/保護活性を示すのに十分であることを見出した(
図L3および
図L4)。重要なことは、ADNColのCLSP増強/保護活性は野生型アディポネクチンのそれよりわずかに弱いだけであるという事実である。実際、完全なCLSP増強/保護活性を付与するための野生型アディポネクチンの最小濃度は0.2‐0.25nMである一方、ADNColのそれは0.5nMである。また、アディポネクチンのC末端に位置する球状ドメインが通常のアディポネクチン受容体AdipoR1および2を介したグルコース低下効果などのアディポネクチンの代謝活性の調節に必須であることが知られている(42)。従って、球状ドメインを欠損したADNColはアディポネクチンのこれら代謝効果に欠けている。すなわち、球状ドメインを欠いたADNColは、野生型ADNと同様に完全なCLSP活性増強/保護作用を有するが、野生型ADNと異なり、通常のアディポネクチン受容体へ結合できず、その結果、いわゆる代謝調節活性(副作用になりうる活性)を示さないと考えられる。一方、以前に公表された研究(33,34)においては、アディポネクチンの抗AD活性は、通常のアディポネクチン受容体AdipoR1および2の結合によって惹起される代謝調節活性によって媒介されると推定されている。
【0018】
上記の内容から、CLSP増強/保護剤としてのADNColは、野生型アディポネクチンに対して4つの利点を有すると予想される。第一に、インビボ組織(CNSや末梢組織)における通常のアディポネクチン受容体AdipoR1および2(通常型アディポネクチン受容体)の豊富さを考えると、かなりの割合の野生型アディポネクチンが通常型アディポネクチン受容体と複合体を作るのに消費されるのに対して、ADNColはそのようなことがないと推測される。第二に、ADにおけるCSFアディポネクチンのレベルの低下は、ニューロン内の過リン酸化タウと不溶性複合体形成のために消費されていることに由来する可能性が示唆されている(30)が、この過程は、野生型アディポネクチンが通常型アディポネクチン受容体に結合してニューロンに取り込まれることによって引き起こされると推測される。ADNColは、通常型アディポネクチン受容体に結合しないので、ニューロン中の過リン酸化タウと複合体を形成しない可能性が高い。以上の二点は、インビボでCLSP増強/保護活性を示すのに必要なADNCol量が野生型アディポネクチンと比較して少なくて済むことを示唆している。第三に、大量の野生型アディポネクチンは、通常型アディポネクチン受容体に結合して種々の代謝経路を活性化することによって副作用を引き起こす可能性があるが、ADNColは通常受容体に結合しないためそのような副作用がないと推測される。第四に、野生型アディポネクチンのアミノ酸長(244アミノ酸:配列番号3)と比較して、ADNColのアミノ酸長(60アミノ酸:配列番号2)は相対的に短いので工業生産が容易となる。ADNColのこれらすべての利点により、ADNColは抗AD薬として野生型アディポネクチンよりも優れている。
【0019】
また、本発明者は、CLSP又はCLSP誘導体と増強又は保護剤との融合タンパク質(ハイブリッドペプチド)がCLSP1-61および野生型CLSPよりもV642I-APP誘導性の神経細胞死に対して強い保護活性を有する(
図L5)ことを見出した。即ち、V642I-APP誘導ニューロン細胞死を完全に抑制するためのCLSP1-61とADNColからなるハイブリッドペプチド(「CLSPCOL」と命名)および野生型CLSPとADNColからなるハイブリッドペプチド(「wt-CLSPCOL」と命名)の最小濃度は0.1nMであり、CLSP1-61および野生型CLSPの最小濃度は0.5nMであった(
図L5)。また、CLSPCOLおよびwt-CLSPCOLはCLSP阻害剤により抑制されないか、抑制されてもその程度は軽度であった(
図X1およびX2)。
【0020】
更に、CLSPCOLはwt-CLSPCOLよりも効率的に血液脳関門を透過してCNSに移行することを見出した(
図L6および表1)。即ち、マウスにおいて、10nmolのCLSPCOLの腹腔内注射の1時間後のCLSPCOLの濃度は、間質液(ISF)含有脳ホモジネート中で72nM、血清中で320nMであった(
図L6および表L1)。
【0021】
[ADNCol:配列番号2]
ghpghngapgrdgrdgtpgekgekgdpgligpkgdigetgvpgaegprgfpgiqgrkgep
[ADN:配列番号3]
mlllgavllllalpghdqetttqgpgvllplpkgactgwmagipghpghngapgrdgrdgtpgekgekgdpgligpkgdigetgvpgaegprgfpgiqgrkgepgegayvyrsafsvgletyvtipnmpirftkifynqqnhydgstgkfhcnipglyyfayhitvymkdvkvslfkkdkamlftydqyqennvdqasgsvllhlevgdqvwlqvygegernglyadndndstftgfllyhdtn
【0022】
即ち、本発明は以下の態様にかかるものである。
[態様1]
カルモジュリン様皮膚タンパク質(Calmodulin-like skin Protein:CLSP)の誘導体(変異体)であって、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性(CLSP活性)中心である内因性ヒューマニン相同領域(EHR)を含み、該CLSP活性の阻害剤が結合する領域を含まないことを特徴とする、前記誘導体。
[態様2]
EHRがアミノ酸配列(I):
TGKNLSEAQLRKLISEVDS(あるいはG)DGD(アミノ酸一文字表記)(I)
から成る、態様1記載の誘導体。
[態様3]
阻害剤が結合する領域がCLSP(配列番号1)のC末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸62~146)である、態様1又は2に記載の誘導体。
[態様4]
以下のアミノ酸配列:
(1)CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61);
(2)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列中に一個又は数個(例えば、2~5個程度)のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(3)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチドである、態様1~3のいずれかに記載の誘導体。
[態様5]
阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を受けない、態様1~4のいずれか一項に記載の誘導体。
[態様6]
阻害剤が、アポリポタンパク質E、14‐3‐3タンパク質、およびカルレティキュリンから成る群から選択される、態様1~5のいずれか一項に記載の誘導体。
[態様7]
以下のアミノ酸配列:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列(ADNCol);
(2)上記(1)のアミノ酸配列(ADNCol)を含むアミノ酸配列;
(3)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列中に一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(4)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチド。
[態様8]
態様7に記載のポリペプチドから成る、CLSP又は態様1に記載のCLSP誘導体の有するCLSP活性の増強又は保護剤。
[態様9]
阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用から該CLSPを保護し、又は、阻害剤の該作用を無効化することを特徴とする、態様8に記載の増強又は保護剤。
[態様10]
前記ポリペプチドがアディポネクチンである、態様8又は9記載の増強又は保護剤。
[態様11]
阻害剤が、アポリポタンパク質E、14‐3‐3タンパク質、およびカルレティキュリンから成る群から選択される、態様8~10のいずれか一項に記載の増強又は保護剤。
[態様12]
CLSP又は態様1に記載のCLSP誘導体と、態様7に記載のポリペプチドを含む融合タンパク質。
[態様13]
CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61)とADNColから成る、態様12に記載の融合タンパク質。
[態様14]
阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を受けない、態様12または13に記載の融合タンパク質。
[態様15]態様1~6のいずれか一項に記載のCLSP誘導体、態様7に記載のポリペプチド、態様8~11のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、又は、態様12~14のいずれか一項に記載の融合タンパク質を有効成分として含む、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制するための医薬組成物。
[態様16]アルツハイマー病に関連する記憶傷害又は神経変性を伴う疾病の予防または治療に用いられる、態様15記載の医薬組成物。
[態様17]態様15又は16に記載の医薬組成物を、神経細胞の細胞機能障害若しくは神経細胞死を伴う疾患、又は、記憶傷害若しくは神経変性を伴う疾病に罹患した又はその疑いのある個体に投与する段階を含む、該疾患又は疾病を治療する方法。
[態様18]
疾患又は疾病がアルツハイマー病である、態様17記載の方法。
[態様19]態様1~6のいずれか一項に記載のCLSP誘導体、態様7に記載のポリペプチド、又は、態様8~11のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、又は、態様12~14のいずれか一項に記載の融合タンパク質(以上をまとめて「本発明ポリペプチド」という)による、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を検出する方法であって、(a)CLSPの阻害剤の存在/非存在下、及び、本発明ポリペプチドの存在/非存在下に於いて、神経細胞の機能障害又は神経細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の機能障害又は神経細胞死を検出する工程、及び(c)本発明ポリペプチドの存在/非存在下に於ける神経細胞の機能障害又は神経細胞死を比較する工程、を含む前記方法。
[態様20]態様1~6のいずれか一項に記載のCLSP誘導体、態様7に記載のポリペプチド、若しくは態様8~11のいずれか一項に記載の増強又は保護剤、若しくは、態様12~14のいずれか一項に記載の融合タンパク質(以上をまとめて「本発明ポリペプチド」という)又はCLSPによる、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)本発明ポリペプチド又はCLSPの存在下、被検物質の有無で神経細胞の機能障害又は神経細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の機能障害又は神経細胞死を検出する工程、および(c)本発明ポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質を選択する工程、を含む前記方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のCLSP誘導体は、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性(CLSP活性)の中心である内因性ヒューマニン相同領域(EHR)を含み、ApoE、または14‐3‐3σタンパク質またはカルレティキュリンのようなCLSP活性阻害剤が結合する領域を含まない。
【0024】
その結果、CLSP誘導体は野生型CLSPと同程度のCLSP活性を有しており、且つ、該阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を実質的(有意)に受けない。以上のことから、これらのポリペプチドはCLSP阻害剤による阻害・抑制から完全に解放され、インビボで野生型CLSPよりはるかに低い濃度でCLSP活性を示す。
【0025】
一方、配列番号2に示されるアミノ酸配列から成りアディポネクチンのコラーゲン相同領域であるポリペプチド、及び、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、例えば、三量体等の多量体アディポネクチンは、CLSP及び本発明のCLSP誘導体のCLSP1-61内にあるEHRに結合し、それらが有するCLSP活性を増強する作用・効果を有する。
【0026】
更に、上記ポリペプチドはアポリポタンパク質E等の阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制からCLSPを保護し、又は該阻害剤による阻害又は抑制作用を無効化する作用・効果を有する。従って、上記ポリペプチドはアルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死の抑制活性の増強又は保護剤として有用である。
【0027】
また、本発明の融合タンパク質は、CLSPやCLSPの一部分からなる誘導体より強力な抗AD活性を有する。また、融合タンパク質はCLSP阻害剤による阻害を受けないか受けてもごく軽度なレベルである。さらに、同ペプチドはアディポネクチン由来する代謝関連活性を欠き、しかも標準的なアディポネクチン受容体との複合体形成のために消費されないと予想される。これら利点に加えて、融合タンパク質の一つであるCLSPCOLはその血液脳関門移行が極めて良好であるという特徴を持つため、末梢投与できる理想的な抗AD薬となり得る可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】<アポリポタンパク質E3、E4、およびアディポネクチンはCLSPに結合する> C末端にHAタグ付けされた、アポリポタンパク質E3、E4、アディポネクチン、およびアネキシンIIを、トランスフェクションによってF11ニューロハイブリッド細胞に過剰発現させた。トランスフェクションの24時間後に、F11細胞を回収し細胞溶解物を調製した。300μgの溶解物に対して別に調整した適量のGST-MycHisまたはCLSP-MycHis結合セファロース4Bを加え、4℃で一晩インキュベートし、徹底的に洗浄し、続いてプルダウン沈降を行った。細胞溶解物やGST‐MycHis(GST‐MH)およびCLSP‐MycHis(CLSP-MH)と結合しているセファロース4Bビーズからなるインプット、ならびに細胞溶解物のプルダウン沈降物を、SDS-PAGE展開させた後、HA(ヘマグルチニンA)およびmyc抗体を用いた免疫ブロット分析にかけた。
【
図2】<アポリポタンパク質E3およびE4はCLSP活性を抑制する> (a)SH-SY5Y細胞に対してpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.2/MycHis-V642I-APP(V642I-APP)をトランスフェクションした。次いで、表示された濃度のCLSP‐MycHisを含むDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同濃度のCLSP‐MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクション開始の48時間後に、WST‐8細胞死アッセイキットを用いた細胞生存アッセイ、またはカルセインAM染色、およびトリパンブルー排除細胞死アッセイを行った。また、細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。 (b、c)SH‐SY5Y細胞に対してpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、細胞を示された濃度のBSA、アポリポタンパク質E3(b)、またはE4(c)を含む/含まない、1nMのGST-MycHisまたはCLSP-MycHisを含有する、DMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ濃度のBSA、アポリポタンパク質E3(b)、またはE4(c)を含む/含まない、1nMのGST-MycHisまたはGST-MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。また、細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図3】<14-3-3ファミリータンパク質と分泌型カルレティキュリンはCLSP活性を抑制する> (a‐e)SH-SY5Y細胞に対してpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis-V642I-APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、表示濃度のBSAおよび14-3-3アイソフォームを含む/含まない、10nMのGST-MycHisまたはCLSP-MycHisを含むDMEM/F12-10%FBS中で細胞を培養した。トランスフェクションの24時間後に、培地を、同じ濃度のBSAまたは14-3-3アイソフォームを含む/含まない、10nMのGST-MycHisまたはCLSP-MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。 (f)SH-SY5Y細胞を空のpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis-V642I-APP(V642I‐APP)でトランスフェクトした。次いで、細胞を10nMのBSA、カルレティキュリン、アネキシンII、またはアネキシンVを含む/含まない、10nMのGST-MycHisまたはCLSP‐MycHisを含むDMEM / F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後に、培地を、10nMのBSA、カルレティキュリン、アネキシンII、またはアネキシンVを含む/含まない、同じ濃度のGST‐MycHisまたはCLSP-MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた
【
図4】<アディポネクチンはアポリポタンパク質E3による阻害からCLSP活性を保護する> (a‐c)SH‐SY5Y細胞を空のpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis-V642I‐APP(V642I‐APP)でトランスフェクトした。次いで、細胞を10nMのアディポネクチン(a)、アネキシンII(b)、またはアネキシンV(c)を含む/含まない、1nMのGST-MycHisまたはCLSP-MycHisを含むDMEM/F12‐10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、トリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。また、細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図5】<アディポネクチンは、アポリポタンパク質E4による阻害からCLSP活性を保護する> (a)SH‐SY5Y細胞に対してpcDNA3.1/ MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP/ MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、表示濃度のアディポネクチンを含む/含まない、10nMのアポリポタンパク質E4を含む/含まない、1nMのGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含むDMEM/ F12-10%FBS中で細胞を培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を回収してWST‐8およびトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。 (b)SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1 / MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/ MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、細胞を、1nMのアディポネクチンを含む/含まない、段階的に濃度を増加させたアポリポタンパク質E4を含む/含まない、1nMのGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含むDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を回収してWST‐8およびトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図6】<アディポネクチンは14-3-3σおよびカルレティキュリンによる阻害からCLSPを保護する> (a、b)SH‐SY5Y細胞にpcDNA3ベクター(ベクター)またはpcDNA3‐V642I‐APP(V642I‐APP)でトランスフェクションした。 次いで、細胞を、2nMの14-3-3σ(a)または10nMのカルレティキュリン(b)を含む/含まない、1nMのアディポネクチンを含む/含まない、1nMのGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含有するDMEM/F12‐10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を回収してトリパンブルー排除細胞死およびWST‐8アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図7】<アディポネクチンはCLSP活性を増強する> (a)SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、細胞を、示された濃度のGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含有するDMEM/ F12-10%FBS中で、200pMのアディポネクチンを含む/含まない培養液で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。 (b)SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次に、示された濃度のアディポネクチンを含む/含まない、示された濃度のGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含むDMEM/F12-10%FBS中で細胞を培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死およびWST-8アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図8】<アディポネクチンとCLSPの結合の解離定数はアポリポタンパク質E4とCLSPの結合の解離定数と近似している> (a)アディポネクチンの存在はアポリポタンパク質E4とCLSPとの間の結合をわずかに抑制するにとどまる。 CLSP-MycHis結合セファロース4Bを含有するPBSを、アディポネクチン、アネキシンII、組換えアポリポタンパク質E3、または同E4のいずれか一つあるいは二つと混合して4℃で一晩インキュベーションした後、十分に洗浄した。アッセイにおける各組み換えタンパク質の推定最終濃度は1nMであった。次いで、プルダウンを行い、生じた沈殿物、およびCLSP-MycHisを結合させたセファロース4Bビーズと各組換えタンパク質をインプットとしてSDS‐PAGE展開し、続いて銀染色で可視化した。 (b)解離定数を測定するためのスキャッチャード分析を行った。濃度20pMの組換えアポリポタンパク質E4またはアディポネクチンでコートした96ウェルプレートの各ウェルを段階的に増加する濃度のCLSP-HiBiTで満たし、室温で2時間インキュベーションした後、Wallac ARVO
TM X5(Perkin Elmer)を用いた化学発光の測定により、HiBiT活性を推定した。この実験はN=2で実施し、2つのウェルの平均データ(平均)をさらなる分析に使用した。各平均CLSP‐HiBiT活性(平均)から、ゼロ濃度での平均CLSP‐HiBiT活性(バックグランド)を差し引いて、アディポネクチンまたはアポリポタンパク質E4に結合している実際のCLSP-HiBiT活性(Del/MEAN)を得た。次いで、CLSP‐HiBiT濃度および対応する化学発光強度(すなわちCLSP-HiBiT活性)からなる標準用量反応曲線を参照して、アポリポタンパク質E4またはアディポネクチンに結合したCLSP-HiBitの濃度(<B>で表される)を推定した。次いで、遊離CLSP‐HiBiT濃度(非結合濃度)(<F>として示す)およびB/Fを計算した。解離定数は、Prism7ソフトウェアを用いたスキャッチャード分析によって計算した。
【
図9】<アポリポタンパク質E4とアディポネクチンはCLSPの異なる部位に結合する> (a)CLSPの欠失変異体の略図を示した。 (b)F11ニューロハイブリッド細胞に対してトランスフェクションによって、C末端がFLAGでタグ付けされた、アポリポタンパク質E4(ApoE4)およびアディポネクチン(ADN)が過剰発現させた。トランスフェクションの24時間後に、F11細胞を回収して、細胞溶解物を調製した。FLAG抗体を用いたApoE4‐FLAGおよびADN‐FLAGの免疫沈降には、300μgの細胞溶解物を使用した。別に、組換えCLSP‐MycHis(FL‐MH)またはC末端MycHisタグ付きCLSP欠失変異体を細菌中で産生させて精製した。次いで、これらの免疫沈降物および組換えタンパク質を、インプットとしてmyc抗体およびFLAG抗体を用いてSDS‐PAGE展開し、免疫ブロット分析にかけた。 (c)(b)で作成したApoE4‐FLAGおよびADN‐FLAG免疫沈降物を精製組換えCLSP‐MycHis(FL‐MH)またはC末端MycHisタグCLSP欠失変異体と混合し、4℃で一晩インキュベーションし、続いて徹底的に洗浄した。次いで、プルダウンした沈殿物を、myc抗体およびFLAG抗体を用いたSDS‐PAGE展開し、免疫ブロット分析にかけた。
【
図10】<アディポネクチンはAD患者のCSFにおいて低下している> (a)表1に示すAD患者および非AD対照から得たCSF中のアディポネクチン濃度をアディポネクチンELISAシステムを用いて測定した。標準的な用量 - 応答線は、組換えアディポネクチンの段階的に増加する濃度を測定することによって作成した。 (b)AD患者および非AD対照における各CSFアディポネクチン濃度をドットとしてプロットした(AD症例N=14、非AD症例N=20)。アディポネクチン濃度の平均±SEMも示されている(AD、0.31±0.13nM;非AD、0.96±0.19nM;対応のないT検定、p=0.0065)。 (c)81~88歳のAD患者および非AD対照における各CSFアディポネクチン濃度をドットとしてプロットした(AD症例N=6、非AD症例N =5)。 アディポネクチン濃度の平均±SEMも示されている(AD、0.30±0.07nM;非AD、1.41±0.16nM;対応のないT検定、p <0.0001)。
【
図11】<AD皮質のニューロン内SH3BP5レベルは低下している> (a)2人のAD患者(65歳男性;79歳女性)およびALS患者(66歳男性;79歳男性)由来の側頭葉または後頭葉の外側錐体層をSH3BP5に対する抗体で免疫染色した。免疫検出はチラミドレッド法で行った。スケールバー、200mm。 (b)細胞の免疫蛍光強度の定量化の例。細胞領域と細胞周囲の非細胞領域をマーキングで囲み、細胞領域の平均免疫蛍光強度(x)および細胞周囲の非細胞領域の平均免疫蛍光強度(y)を測定した。次いで、ニューロンにおける相対平均免疫蛍光強度を(x-y)によって計算し、x-y値にニューロン面積を掛けて、一つのニューロンにおけるSH3BP5発現のレベルを計算した。 (c)表2に示されるように、AD患者および筋萎縮性側鎖索硬化症(ALS)患者からの側頭葉または後頭葉の外側錐体層の切片((a)に示されるものを含む)をSH3BP5に対する抗体で免疫染色した。免疫検出はチラミドレッド法で行った。「材料および方法」に詳細に記載されているように、免疫蛍光強度をImage J 1.37vで測定した。AD患者およびALS患者における各相対強度をドットとしてプロットした(AD症例N=7、ALS症例N=6)。免疫蛍光強度の平均±SEMも示した(AD、46564±7737任意単位; ALS、79225±10305任意単位;対応のないT検定、p = 0.0256)。 (d、e)表3に示されるように、AD患者および非ADの側頭皮質から得られた20μLの溶解物中のSH3BP5濃度を、SH3BP5 ELISAを用いて測定した。段階的に増加する濃度の組換えSH3BP5を測定することによって標準的な用量反応線を作成した(d)。AD患者および非ADにおけるSH3BP5の相対濃度をプロットした(各群につきN=10)(e)。 相対的なSH3BP5レベルの平均値±SDも示した(AD、103.9±9.0任意単位;正常、159.4±16.5任意単位;対応のないT検定、p=0.0084)。
【
図12】
図S1(Supplementary Figure 1)<アディポネクチンそれ自体はV642I‐APP誘導性神経細胞死を阻害しないし、CLSP媒介によるV642I‐APP誘導性神経細胞死の減少を阻害しない> SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次に、段階的に増加する濃度のアディポネクチンを含む/含まない、GST‐MHまたはCLSP‐MHを含むDMEM/F12-10%FBS中で細胞を培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、段階的に増加する濃度のアディポネクチンを含む/含まない、GST‐MHまたはCLSP‐MHを含むN2サプリメントを含有するDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を回収して、WST‐8細胞死アッセイキット(同仁堂、熊本、日本)またはカルセインAM染色(同仁堂)、およびトリパンブルー排除細胞死アッセイを用いて細胞生存アッセイを実施した。また、細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図13】
図S2(Supplementary Figure 2)<ヒトCSFにおける14‐3‐3σレベルは検出限界以下である> (a)8人の非AD患者(CSF#1‐8)から得た20μLのCSF中の14‐3‐3σ濃度を14‐3‐3σELISAシステムを用いて測定した。実験は2回行った。段階的に増加する濃度の標準14‐3‐3σ(濃度;0.195から6.25nM)および8人の非AD患者のCSFの生の測定数をAbs450の列に示した。 次に、2つの数値の平均を計算し、平均Abs450列に示した。PBSを負対照として使用した。各平均数からPBS数を差し引くことにより、Del Abs 450nm数を得た。 (b)標準的な用量 - 応答線は、組換え14‐3‐3σの段階的に増加する濃度を測定することによって作成した。これにより、このELISAにより検出可能な最低限界が0.4nMであると推定された。(a)におけるDel Ab 450nMの各データのCSF 14-3-3σ濃度は検出限界以下である。
【
図14】
図S3(Supplementary Figure 3)<三量体アディポネクチンは野生型アディポネクチンに匹敵するCLSP活性化効果を有する> SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。 次いで、細胞を、1nMの三量体または野生型(モノ)アディポネクチンを含む/含まない、示された濃度のGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含有するDMEM/F12‐10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクション開始から48時間後に、細胞を採取してWST‐8アッセイおよびトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。 細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。 「***」p <0.001;「n.s.」有意ではない。
【
図15】
図S4(Supplementary Figure 4)<CLSPとApoE4またはアディポネクチンとの結合の詳細な解析> (a,b)<アポリポタンパク質E4はCLSPのC末端領域に結合する>CLSPの欠失変異体の略図を(a)に示す。FLAGでC末端にタグ付けされた、アポリポタンパク質E4(ApoE4)およびアディポネクチン(ADN)を、トランスフェクションによってF11ニューロハイブリッド細胞において過剰発現させた。トランスフェクションの24時間後に、F11細胞を細胞溶解物を調製した。FLAG抗体を用いたApoE4‐FLAGおよびADN‐FLAGの免疫沈降には、300μgの細胞溶解物を使用した。組換えCLSP‐MycHis(FL‐MH)またはC末端MycHisタグ付きCLSP欠失変異体を細菌中で産生させそして精製した。次に、これらの免疫沈降物および組換えタンパク質を、mycおよびFLAG抗体を用いてSDS‐PAGEおよび免疫ブロット分析にかけた(インプット)。ApoE4‐FLAGおよびADN‐FLAG免疫沈降物を組換えCLSP‐MycHis(FL‐MH)またはC末端MycHisタグ付きCLSP欠失変異体と混合し、4℃で一晩インキュベートし、続いて徹底的に洗浄した。次いで、プルダウン沈殿物を、myc抗体およびFLAG抗体を用いてSDS‐PAGE展開し、イムノブロット分析にかけた。 (c)<CLSPはアディポネクチンのコラーゲン相同領域に結合する> 6×HisおよびG(HisG)でN末端標識されたアディポネクチンのコラーゲン相同領域(ADNCol)を細菌中で産生させた。またCLSP‐FLAGをトランスフェクションによりF11ニューロハイブリッド細胞中で過剰発現させた。HisG‐ADNCol並びにFLAG抗体を用いて免疫沈降させた精製組換えFLAG-CLSPおよび対照(ベクター)をSDS-PAGE展開し、FLAGおよびHisG抗体を用いた免疫ブロット分析に供した(インプット;左パネル)。精製した組換えHisG-ANDColおよび免疫沈降したCLSP-FLAGまたは対照(ベクター)を次に混合し、そして4℃で一晩インキュベートし、続いて徹底的に洗浄した。 次いで、プルダウンした沈殿物をFLAG抗体およびHisG抗体を用いたSDS‐PAGE展開し、イムノブロット分析にかけた(Co‐IP;右パネル)。
【
図16】
図S5(Supplementary Figure 5)<年齢とCSFアディポネクチン濃度の間に相関はない> アディポネクチンレベルおよび年齢の生データを表1および表S1の全対象についてプロットした(X軸:年齢;Y軸:CSFアディポネクチン濃度)。相関係数は0.0055である。
【
図17】
図S6(Supplementary Figure 6)<ニューロン中のSH3BP5レベルは加齢による影響を受けない>
図11Cに示された、AD患者またはALS患者に関するSH3BP5データを、年齢に基づいて2つの群に分け、比較した。一方のグループは70歳以下の人ともう一方は71歳以上の人で構成されている。2つの群のSH3BP5の平均±SEM相対強度は57439±14465任意単位および65237±7976任意単位だった(対応のないT検定、p=0.6328、t=0.49、R二乗=0.021、自由度=11、F検定によるp値=0.24)。
【
図18】
図L1<V642I-APP誘導神経細胞死を完全に抑制するCLSP1-61の最小濃度は500pMである> (a、b)SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)でトランスフェクションした。 次いで、細胞を示された濃度のGST‐MycHisまたはCLSP(1‐61)‐MycHisを含むDMEM/F12‐10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後に、培地を、同じ濃度のGST‐MycHisまたはCLSP(1‐61)‐MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死亡率、WST8、およびカルセインアッセイを実施した。また、細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図19】
図L2<CLSP阻害物質は、CLSP1‐61によるV642I‐APP誘導神経細胞死の抑制効果を阻害しない> SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。 次いで、細胞を、10nMのBSA、ApoE3、14-3-3σ、またはカルレティキュリンと共に、1nMのGST‐MycHisまたはCLSP(1‐61)‐MycHisを含むDMEM/F12‐10%FBS中で培養した トランスフェクションの24時間後に、培地を、同じ濃度のBSA、ApoE3、14-3-3σ、またはカルレティキュリンと共にGST‐MycHisまたはCLSP(1‐61)‐MycHisを含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死亡率、WST8、およびカルセインアッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図20】
図L3<アディポネクチンのコラーゲン相同領域はCLSP活性を増強する> SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクションした。次いで、細胞を、1nMのBSA、アディポネクチン(FL)またはアディポネクチンのコラーゲン相同領域(Col)と共に、1nMまたは50pMのGST-MycHisまたはCLSP‐MycHisを含有するDMEM /F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM /F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死亡率、WST8、およびカルセインアッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図21】
図L4<50pMのCLSPを完全に活性化させるアディポネクチンのコラーゲン相同領域の最小濃度は500pMである> SH‐SY5Y細胞にpcDNA3.1/MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクトションした。次いで、細胞を、500μMのBSA、250μMのアディポネクチン(FL)または示された濃度のアディポネクチンのコラーゲン相同領域(Col)を含み、50pMのGST‐MycHisまたはCLSP‐MycHisを含むDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、同じ組み合わせのタンパク質を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死亡率、WST8、およびカルセインアッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図22】
図L5<CLSPCOLは強力なAD保護活性を有する> SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I-APP)をトランスフェクトした。次いで、細胞を1nMのGST-MycHis、CLSP1-61-MycHis、CLSP‐MycHis、または指示された濃度のCLSPCOLまたはwt‐CLSPCOLを含有するDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を同じ濃度の試薬を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図23】
図L6<CLSPCOLは血液脳関門を効率的に通過する> (a)表L1に示すように、段階的に増加させた濃度のwt-CLSPCOLおよびCLSPCOLについて450nMで吸光度を測定することにより、標準用量反応線をシミュレートした。(b)10nmolのGST-MycHisG、CLSPCOL、およびwt-CLSPCOLの腹腔内注射の1時間後、ELISAのためにマウスから脳および血清を採取した。表L1に示されるように、間質液(ISF)を含む脳溶解物および血清中のCLSPCOLおよびwt-CLSPCOLの濃度をELISAを使用して測定した。(c)ISF対血清濃度の比を計算し提示した。
【
図24】
図X1<CLSPCOLはApoE3と14‐3‐3σにより阻害されないがカルレティキュリンにより軽度に阻害される> SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis‐V642I‐APP(V642I‐APP)をトランスフェクトした。次いで、細胞を100pMのGST-MycHisあるいはCLSPCOLと1 nMのApoE3、14‐3‐3σ、あるいはカルレティキュリンを含有するDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を同じ濃度の試薬を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【
図25】
図X2<CLSPCOLは10倍以上高い濃度のカルレティキュリンにより阻害され始める> SH-SY5Y細胞にpcDNA3.1MycHisベクター(ベクター)またはpcDNA3.1/MycHis-V642I-APP(V642I-APP)をトランスフェクトした。次いで、細胞をGST-MycHis(1nM)、CLSP1-61-MycHis(1nM)、CLSPCOL(100pM)、あるいはwt‐CLSPCOL(100pM)と表示された濃度のカルレティキュリン或いは BSAを含有するDMEM/F12-10%FBS中で培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を同じ濃度の試薬を含有するN2サプリメントを含むDMEM/F12と交換した。トランスフェクションの開始から48時間後に、細胞を採取してトリパンブルー排除細胞死アッセイを実施した。細胞溶解物をAPP抗体22C11を用いて免疫ブロット分析にかけた。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[CLSP誘導体]
カルモジュリン様皮膚タンパク質(Calmodulin-like skin Protein:CLSP)(アミノ酸配列1)に含まれる22個のアミノ酸(アミノ酸40~61)から成るアミノ酸配列(I):
TGKNLSEAQLRKLISEVDS(あるいはG)DGD(アミノ酸一文字表記)(I)
は、内因性ヒューマニン相同領域(Endogenous Humanin-Homogenous Region:EHR)又は内因性ヒューマニン様ドメイン((Endogenous Humanin-Like Domain:EHD)と呼ばれ、CLSPが介在する神経細胞死の抑制に於いて中心的な役割を果たすものである(特許文献1)。
【0030】
本発明のCLSP誘導体は、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性(CLSP活性又はCLSP抑制活性)の中心である内因性ヒューマニン相同領域(EHR)を含み、該活性の阻害剤又は阻害物質(CLSP阻害剤)が結合する領域を含まないことを特徴とする。該阻害剤が結合する領域として、例えば、CLSP(配列番号1)のC末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸62~146)を挙げることが出来る。
【0031】
本発明において「アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は細胞死を抑制する活性」とは、その原因又は因果関係に依らず、神経細胞における機能障害又は細胞死の少なくとも1つを抑制又は拮抗することを指す。神経細胞死の抑制は、完全な抑制ではなくても、有意に抑制されればよい。神経細胞死の抑制活性は、以下の実施例に記載された方法または他に記載の方法(例えば国際公開番号 WO00/14204参照)に従って検定することができる。例えば、CLSP活性は、様々な神経細胞死アッセイを用いて、V642I‐APP誘導性神経細胞死の抑制活性として測定することが出来る。
【0032】
更に、阻害剤とCLSPとの結合は、本明細書の実施例に記載されているような、当業者に公知の任意の方法・手段(アッセイシステム)を用いて測定することが出来る。例えば、イムノブロット分析、プルダウン分析、Nano-Glo HiBiT細胞外検出システム、及びELISA等により測定することが出来る。
【0033】
ここで、EHRの具体例として、アミノ酸配列(I):
TGKNLSEAQLRKLISEVDS(あるいはG)DGD(アミノ酸一文字表記)(I)、又は、特許文献1の請求項1に記載の22個のアミノ酸から成るアミノ酸配列を挙げることが出来る。更に、阻害剤が結合する領域の例としては、CLSP(配列番号1)のC末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸62~146)を挙げることが出来る。
【0034】
従って、本発明のCLSP誘導体の好適例として、以下のアミノ酸配列:
(1)CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61);
(2)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列中に一個又は数個(例えば、2~5個程度)のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(3)上記(1)のアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるEHR以外のアミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチドを挙げることが出来る。
【0035】
本発明のCLSP誘導体は、野生型CLSPと同程度のCLSP活性を有し、且つ、阻害剤が結合する領域を含まない為に、阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用を実質的(有意)に受けないことを特徴とする。尚、本発明のCLSP誘導体には、例えば、欠失変異体等の各種変異体及びEHRを含む融合タンパク質(ハイブリッドポリペプチド)等も含まれるが、EHRのみから成るポリペプチドは含まれない。
【0036】
一方、CLSP阻害剤としては、その構造的特徴等に特に制限はないが、例えば、培地中のCLSP濃度と同程度または5倍以上の濃度でCLSP活性に対する有意な阻害(抑制)効果を示す物質であり、例えば、アポリポタンパク質E(ApoE)、14‐3‐3タンパク質、およびカルレティキュリンから成る群から選択される。特に、ApoE(ApoE3及びApoE4)のCLSP活性抑制効果が高いことが示された。
【0037】
[アディポネクチン及びその誘導体]
更に、本発明に於いて、アディポネクチン(配列番号3)は、そのコラーゲン相同領域(ADNCol)であるポリペプチド(配列番号2)で、CLSP及び本発明のCLSP誘導体のCLSP1-61領域内のEHRに結合し、それらのCLSP活性を増強する作用・効果を有すること、更に、アディポネクチン及び該ポリペプチドは、上記阻害剤によるCLSP活性の阻害又は抑制作用から該CLSPを保護し、又は、阻害剤の該作用を無効化する作用も有することが明らかにされた。
【0038】
従って、以下のアミノ酸配列:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列(ADNCol);
(2)上記(1)のアミノ酸配列(ADNCol)を含むアミノ酸配列、例えば、配列番号3に示されるアディポネクチン;
(3)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列中に一個又は数個(例えば、2~5個程度)のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列; 又は
(4)配列番号3に示されるアディポネクチンのアミノ酸配列に於いて、該アミノ酸配列に含まれるADNCol以外のアミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
から成るポリペプチド(以下、「アディポネクチン及びその誘導体」ともいう)は、CLSP又は本発明のCLSP誘導体の有するCLSP活性の増強又は保護剤として有用である。尚、これらポリぺプチドは、例えば、三量体アディポネクチンのような多量体を形成していても良い。
【0039】
尚、「CLSP」には、本明細書に記載した配列番号1に示されるポリペプチド以外に、特許文献1に記載されているようなCLSP活性を有する各種のCLSPに関連(類似)するポリペプチドも含有される。また、このようなCLSP活性に関して、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死に対する「抑制」及び「阻害」は同義である。更に、本発明の増強又は保護剤の活性に関して、「保護」、「維持」及び「保持」は同義である。
【0040】
[CLSP誘導体等とアディポネクチン誘導体等との融合タンパク質]
更に、本発明は、上記CLSP誘導体の一例である、CLSP又はCLSP誘導体と、アディポネクチン又はアディポネクチン誘導体を含む融合タンパク質(ハイブリッドポリペプチド)にも係るものである。該融合タンパク質は強力なCLSP活性を有し、CLSP阻害剤による抑制を受けないか受けても軽度にとどまる。
特にこの一好適例である、CLSPのN末端領域のアミノ酸配列(アミノ酸1~61)とADNColから成る融合タンパク質(CLSPCOL)は効率的に血液脳関門を透過してCNSに移行することことが出来る。
【0041】
係る融合タンパク質は、それが有する所定の活性を損なわない限り、上記の各領域(要素)を構成するポリペプチド以外のアミノ酸配列を任意に含むことが出来る。例えば、タンパク質三次元構造の安定性等を向上させる目的で各領域の間に適当なアミノ酸配列から成るリンカー配列を挿入することも可能である。或いは、例えば、体内での安定性(血漿中の半減期等)等の向上等を目的として、公知の融合タンパク質に見られる免疫グロブリン定常領域等の当業者に公知の任意のアミノ酸配列をC末端側に付加することも可能である。
このような、追加・挿入配列は当業者であれば、技術常識に基づき、抗原性等に配慮しつつ、適宜、設計・調製することが出来る。尚、抗原性に関しては、CLSP1-61およびコラーゲン相同領域は内在性ヒトペプチドに由来するので、それらの抗原性は限定的であると推測される。
更に、融合タンパク質に含まれる各領域が連結される順序(N末側又はC末側)に関しては特に制約はなく、当業者が適宜、選択・調製することが可能である。
【0042】
本発明のCLSP誘導体、アディポネクチン及びその誘導体、ポリペプチドから成る、CLSP又は該CLSP誘導体の有するCLSP活性の増強又は保護剤、並びに、融合タンパク質を構成するポリペプチドを、以下、単に、「本発明(の)ポリペプチド」とも称する。
【0043】
本発明ポリペプチドに関して、2つのアミノ酸配列における配列の同一性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列における、ある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における同一性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
【0044】
上記の原理に従い、2つのアミノ酸配列における同一性は当業者に公知の任意の方法で決定することができる。例えば、Karlin及びAltshulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268,1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)により決定することが出来る。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltshulらによって開発された(J.Mol.Biol.215:403-410,1990)。
【0045】
さらに、Gapped BLASTはBLASTより感度良く同一性を決定するプログラムである(Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)。上記のプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い同一性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
【0046】
或いは、配列間の同一性として、Tatiana A. Tatusovaらによって開発されたBLAST 2 Sequencesソフトウェア(FEMS Microbiol Lett.,174:247-250,1999)を用いて決定した値を用いることも可能である。このソフトウェアは米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能であり、入手も可能である。用いるプログラム及びパラメーターは以下のとおりである。アミノ酸配列の場合、blastpプログラムを用いパラメーターとしては、Open gap:11 and extension gap:1 penalties,gap x_dropoff:50,expect:10,word size:3,Filter:ONを用いる。更に、高感度なFASTAソフトウェア(W.R.Pearson and D.J.Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444-2448,1988)を用いて同一性を示す配列をデータベースから検索することもできる。いずれのパラメーターも、ウェブサイト上でデフォルト値として用いられているものである。
【0047】
上記の本発明ポリペプチドは、既知の方法により修飾、付加、変異、置換、または削除などにより改変された形態を持つことも可能である。このような官能基の改変は、当業者に公知の任意の方法を用いて、例えば、ポリペプチドの保護、ポリペプチドの安定性または組織移行性の制御、あるいはポリペプチドの活性の制御等を目的として行なうことが出来る。
【0048】
即ち、本発明ポリペプチドは翻訳後修飾などにより天然に修飾されていてもよい。また人工的に修飾されていてもよい。修飾には、ペプチドのバックボーン、アミノ酸側鎖、アミノ末端、またはカルボキシル末端などの修飾が含まれる。また、ポリペプチドは分岐していてもよく、環状でもよい。修飾には、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、[フラビン(flavin)、ヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体、脂質、脂質誘導体、またはホスファチジルイノシトール]等の共有結合、クロスリンク形成、環状化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、ピログルタミン酸化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、リン酸化、ユビキチン化などが含まれるが、これらに制限されない。更に、上記ペプチド又はポリペプチドは当業者に公知の任意の塩及びエステル体とすることも可能である。
【0049】
更に、本発明のポリペプチドは公知の任意の神経向性ペプチドとの融合ポリペプチドを形成することも出来、このような融合ポリペプチドは当業者に公知の任意の方法で容易に合成することができる。
【0050】
本発明のポリペプチドは、当業者に公知のCLSP及びアディポネクチン等に関する遺伝子又はアミノ酸配列情報に基づき、ヒト及びマウス等の適当な種由来の細胞株等から調製することができ、更に、公知のペプチド合成技術により製造することが可能である。また、当業者に公知の遺伝子工学的手法を用いて、これらをコードするDNAを含むベクター等を適当な宿主細胞等に導入して発現させることによって製造することも可能である。その際に、例えば、CLSP誘導体、又は、アディポネクチン誘導体の場合には、そのアミノ酸配列の一部を当業者に公知の方法・手段によって適宜改変することによって調製される。
【0051】
このようなベクターはプラスミド又はウイルス性ベクター等の当業者に公知の任意の形態であり、当業者に公知の任意の方法で容易に調製することが出来る。こうして得られたベクターには、本発明の部位特異的組換え酵素のコード領域以外に、5’および3’に非コード配列(核移行シグナル、タグ配列、非転写配列、非翻訳配列、プロモーター、エンハンサー、サプレッサー、転写因子結合配列、スプライシング配列、ポリA付加配列、IRES、mRNA安定化・不安定化配列等を含む)が適宜含まれており、発現ベクターとして機能する。
【0052】
このようなベクターを用いた当業者に公知の任意の方法、例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、並びに、エレクトロポレーション及びパーティクルガン等の各種物理的方法によって、適当な宿主細胞を容易に形質転換させることが出来る。
【0053】
宿主細胞に特に制限はなく、例えば、ヒト、サル及びマウス等を含む哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、及び、大腸菌等の細菌類を用いることができる。こうして作製された形質転換細胞は当業者に公知の任意の条件で培養し、培養した菌体又はその培養上清等の適当な画分から目的とする本発明のポリペプチド等を容易に調製することが出来る。
【0054】
本発明ポリペプチドは、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制するための医薬組成物、例えば、アルツハイマー病に関連する記憶傷害又は神経変性を伴う疾病の予防または治療に用いられる医薬組成物、の有効成分として有用である。
【0055】
更に、本発明ポリペプチドを用いて、アルツハイマー病以外にも、記憶傷害又は神経変性を伴う疾病、例えば脳虚血による神経細胞の細胞死に起因する疾患を予防・治療することも可能である(T.Kirino,1982,Brain Res.,239:57-69)。その他、痴呆を伴うパーキンソン病(M.H.Polymeropoulos et al.,1997,Science,276:2045-2047)、びまん性レービー小体(Lewy bodies)病(M.G.Spillantini et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:6469-6473)、ダウン症に伴う痴呆なども、治療や予防の対象となる。また、APPの類縁分子であるAPLP1が、先天性ネフローゼ症候群の原因遺伝子といわれている(Lenkkeri,U.et al.,1998,Hum.Genet.102:192-196)ことから、ネフローゼ症候群などの腎疾患も治療や予防の対象となる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、有効成分自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化することも可能である。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、徐放剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。本発明の医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、または吸入液などの形態であり得る。有効成分であるペプチド又はポリペプチドの含有率は使用目的及び製剤形態等に応じて適宜決定すればよい。
【0057】
患者への投与は、有効成分の性質に応じて、例えば経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われうるがそれらに限定されない。脳神経変性疾患の治療に用いる場合においては、本発明の医薬組成物は、静脈内、脊髄腔内、脳室内または硬膜内注射を含む任意の適当な経路で中枢神経系に導入するのが望ましい。投与量、投与方法は、本発明の医薬組成物の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。例えば、1日1回~数回、1回の処置当り数十μl程度の薬剤を適当な期間に亘り投与することができる。有効成分は、例えば、10pmol~100nmol程度の範囲の濃度とすることができる。
【0058】
このように、本発明の医薬組成物は、アルツハイマー病等の神経細胞の細胞機能障害若しくは神経細胞死を伴う疾患、又は、記憶傷害若しくは神経変性を伴う疾病の予防または治療に広く用いることが出来る。
【0059】
従って、本発明は、本発明のポリペプチドを神経細胞に接触させる工程を含む、神経細胞の機能障害又は細胞死を抑制する方法、及び、本発明の医薬組成物を、アルツハイマー病等の神経細胞の細胞機能障害若しくは神経細胞死を伴う疾患、又は、記憶傷害若しくは神経変性を伴う疾病に罹患した又はその疑いのあるヒト等の動物である対象(個体)に投与する段階を含む、該疾患又は疾病を治療する方法神経変性障害を伴う疾患を治療する方法に係る。
【0060】
更に本発明は、本発明のポリペプチドによる神経細胞の機能障害又は細胞死を抑制する活性を検出する方法であって、(a)CLSPの阻害剤の存在/非存在下、及び、該ポリペプチドの存在/非存在下に於いて、神経細胞の機能障害又は細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の細胞機能障害又は細胞死を検出する工程、及び(c)該ポリペプチドの存在/非存在下に於ける神経細胞の機能障害又は神経細胞死を比較する工程等を含む方法に係る。
【0061】
上記の方法によって、本発明のポリペプチドによる神経細胞の機能障害又は細胞死を抑制する活性、及び、CLSPの阻害剤からCLSP又はCLSP誘導体の有するCLSP活性を増強又は保護する活性を検出することが出来る。
【0062】
具体的な操作は、例えば、本明細書に記載された方法に従って行うことができる。この方法は、本発明のポリペプチドが様々な細胞における細胞死に対して抑制効果を有するかどうかを決定したり、その抑制効果を定量するために用いられ得る。細胞としては特に制限はなく、細胞死を起し得るさまざまな細胞が用いられる。また、細胞死の誘導は、それぞれの細胞に応じて公知の細胞死誘導系を使用することができる。また、神経細胞を用いて、神経細胞死を誘導するさまざまな刺激、環境変化、または遺伝子発現などの諸条件に対する本発明のポリペプチド等の効果を検出するためにも用いられ得る。また、このような検出は、生物種や亜種、または個体間に存在し得る、神経細胞死における本発明のポリペプチド等に対する感受性の違いを検出するために用いられ得る。これにより、例えば民族、人種、または個人間で、本発明のポリペプチドの有効性を検討することができる。このような方法により、例えば臨床適用に向けた詳細な条件検討を行うことができる
【0063】
又、本発明は、本発明のポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質(被検物質)をスクリーニングする方法にも係る。この方法は、本発明のポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性に対する該被検物質による効果(影響)をアッセイするために用いられ得る。本発明のポリペプチド又はCLSPは、神経細胞表面に作用して細胞死抑制効果を発揮すると考えられる。この方法を用いれば、これらポリペプチドの細胞表面への接触を阻害し得る候補化合物や、逆に促進し得る候補化合物の作用を検証することができる。
【0064】
このスクリーニング方法は、(a)本発明のポリペプチド又はCLSPの存在下、被検物質の有無で神経細胞の機能障害又は神経細胞死を誘導する工程、(b)神経細胞の機能障害又は神経細胞死を検出する工程、および(c)本発明のポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制する活性を調節する物質を選択する工程、を含む。工程(c)においては、任意の対照における場合と比較することができる。例えば、工程(c)において、被検物質の非存在下において検出した場合に比べ、被検物質の存在下において神経細胞の機能障害又は神経細胞死を促進または抑制する化合物を選択することができる。神経細胞の機能障害又は神経細胞死を促進する化合物は、本発明のポリペプチド又はCLSPによる作用を阻害する化合物の候補となり、神経細胞死を更に抑制する化合物は、本発明のポリペプチド又はCLSPによる作用をさらに促進する化合物の候補となる。
【0065】
また、上記のスクリーニングにおいて、被検物質とは別の化合物における場合を対照とすることもできる。例えば、工程(b)で本発明のポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死の抑制を調節し得る別の化合物を用いて検出し、工程(c)において、該化合物の存在下における場合に比べ、工程(a)で用いた被検物質存在下において神経細胞の機能障害又は神経細胞死をより促進または抑制する化合物を選択することもできる。このようなスクリーニングにおいては、本発明のポリペプチド又はCLSPによる神経細胞の機能障害又は神経細胞死の抑制の調節能に関して、既存の化合物よりもさらに高い効果を有する化合物をスクリーニングすることができる。
【0066】
上記のスクリーニングに用いる被検物質としては、例えば、精製タンパク質(抗体を含む)、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、合成低分子化合物のライブラリー、土壌などの天然材料、放線菌ブロースなどの細菌放出物質を含む溶液などが挙げられるが、これらに制限されない。神経細胞死の誘導や本発明のポリペプチドの投与は、当業者に公知の任意の方法に従って行うことができる。
【0067】
被検物質を細胞に適用する時期に特に制限はなく、本発明のポリペプチドを適用する前、後、または同時に適用することができる。被検試料の適用方法に制限はなく、培養細胞系であれば、例えば培地に添加される。また核酸であれば、細胞内に導入されてもよい。その他の任意の投与方法により被検試料を適用することができる。
【0068】
上記の化合物の作用の検査により評価された物質、あるいはスクリーニングにより得られた物質は、本発明のポリペプチドの活性を調節する化合物の候補となり、アルツハイマー病を含む疾患の予防や治療への応用が考えられる。
【0069】
更に本発明は、本発明のポリペプチドに結合する物質(化合物)のスクリーニング方法であって、(a)該ポリペプチドに被検物質を接触させる工程、(b)該ポリペプチド等と被検物質との結合活性を検出する工程、(c)該ポリペプチドに結合する活性を有する物質を選択する工程、を含む方法に係る。
【0070】
本発明のポリペプチドは、スクリーニングの手法に応じて、可溶性ポリペプチドとして、また担体に結合させた形態としてスクリーニングに用いることができる。本発明のポリペプチドは標識されていてもよい。標識としては、放射性同位元素による標識、蛍光物質による標識、ビオチンやジゴキシゲニンによる標識、タグ配列の付加などが挙げられる。
【0071】
スクリーニングに用いる被検物質としては、例えば、精製タンパク質(抗体を含む)、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、合成低分子化合物のライブラリー、土壌などの天然材料、放線菌ブロースなどの細菌放出物質を含む溶液などが挙げられるが、これらに制限されない。被検物質は、必要に応じて適宜標識して用いられる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0072】
例えば、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする場合は、本発明のポリペプチドを固定したアフィニティーカラムに本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現していることが予想される組織または細胞の細胞抽出物をのせ、カラムに特異的に結合するタンパク質を精製することにより、本発明のポリペプチドに結合するタンパク質のスクリーニングを実施することが可能である。
【0073】
さらに、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現していることが予想される組織若しくは細胞(例えば脳皮質組織、またはF11などの神経細胞)よりファージベクターを用いたcDNAライブラリーを作製し、アガロース上にプラークを形成させ、標識した本発明のポリペプチド等を用いてウエストウエスタンブロッティング法によりスクリーニングしたり、GAL4 DNA結合領域などのDNA結合ペプチドおよびGAL4転写活性化領域などの転写活性化ペプチドを、それぞれ本発明のポリペプチド等と被検タンパク質との融合タンパク質として発現させ、DNA結合ペプチドの結合配列を有するプロモーターの下流に連結させたレポーター遺伝子の発現を通して本発明のポリペプチド等と被検タンパク質との結合を検出する「twoハイブリッドシステム」等に従い実施することも可能である。
【0074】
本発明のスクリーニングにより、本発明のポリペプチドに対する受容体をクローニングすることも考えられる。この場合、被検試料は受容体を発現していることが予想される組織または細胞、例えば脳皮質組織、神経細胞株、または神経芽細胞腫や奇形腫細胞などから調製することが好ましい。神経細胞株としては、例えばF11細胞、PC12細胞(L.A.GreeneおよびA.S.Tischler,1976,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,73:2424-2428)、NTERA2細胞(J.SkowronskiおよびM.F.Singer,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:6050-6054)、SH-SY5Y細胞(L.Odelstad et al.,1981,Brain Res.,224:69-82)等が挙げられる。
【0075】
また、固定化した本発明のポリペプチドに、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーなどを作用させ、結合する分子をスクリーニングすることも考えられる。また、表面プラズモン共鳴現象を利用した結合の検出によるスクリーニングも可能である(例えばビアコア(BIAcore社製)など)。これらのスクリーニングは、コンビナトリアルケミストリー技術を用いたハイスループットスクリーニングにより行うことも可能である。
【0076】
本発明のスクリーニングにより得られた本発明のポリペプチドに結合する化合物は、本発明のポリペプチドの活性を調節する化合物の候補となり、アルツハイマー病を含む疾患の予防や治療への応用が考えられる。
【0077】
以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。
【実施例】
【0078】
[複数のCLSP相互作用因子の同定]
14-3-3σ、14-3-3β、カルレティキュリン、ERp27、ヌクレオリン、アネキシンII、およびアネキシンVなどの複数のタンパク質が、以前の研究において推定CLSP結合因子として同定された(15)。 それらの中で、細胞外空間に分泌されることが報告されているものを本発明における分析のために選択した。また、新たに、本発明において、アポリポタンパク質E(ApoE)とアディポネクチンがCLSPと結合することを見出した(
図1)。
【0079】
[アポリポタンパク質E、14‐3‐3タンパク質、およびカルレティキュリンはCLSPの阻害物質である]
以前に示されたように(5)、V642I-アミロイドβ前駆体タンパク質(V642I‐APP)の過剰発現は、SH‐SY5Y神経芽細胞腫細胞死を引き起こすが、細菌で産生された組換えCLSP(500pMあるいは1nM)と同時インキュベーションすることによってV642I‐APP誘導性のニューロン死が完全に抑制された(
図2a)。用量反応性分析によれば、細菌で産生されたCLSPの50%有効濃度が約200pMであると推定され(
図2a)、哺乳動物細胞で産生された組換えCLSPのそれよりわずかに大きいことが示された(5)。興味深いことに、組み換えアポリポタンパク質E3またはE4(ApoE3またはApoE4)の培地への添加は、用量応答的にV642I‐APP誘導性のニューロン死のCLSP媒介保護を阻害した(
図2bおよびc)。ApoE3は5nMの濃度で1nMのCLSPの効果を完全に阻害し(
図2b)、一方、ApoE4は1nMの濃度で1nMのCLSPの効果を完全に阻害した(
図2c)。この結果は、ApoE4の阻害効果がApoE3よりもわずかに強いことを示している。同様に、組換え14‐3‐3σとの同時インキュベーションにより、V642I‐APP誘導性のニューロン死のCLSP媒介保護が阻害された(
図3a)。10nMのCLSPに対する14-3-3σによる阻害効果が10nMの濃度で観察され始め、そしてこの特定の実験において20nMの組換え14-3-3σを添加したときに完全な阻害が得られた。他の14-3-3タンパク質もまた、V642I-APP誘導性の神経細胞死のCLSP媒介阻害を阻害したが、50nMの組換え14-3-3σのときに完全な阻害が得られた(
図3b~e)。同様に、カルレティキュリンは、50nMの濃度で10nM CLSPの効果を完全に阻害した(
図3f)。したがって、これらの結果は、CLSP阻害剤が培地中のCLSP濃度と同等または5倍以上の濃度で完全なCLSP阻害効果を示すことを実証している。対照的に、アネキシンII、アネキシンIV、またはアディポネクチンは、培地中のCLSP濃度の5倍または10倍高い濃度でさえ阻害活性を示さなかった(
図3fおよび
図S-1)。
【0080】
[アディポネクチンは非常に高濃度のCLSP阻害物質の存在下においてもCLSP活性を維持させる]
ヒト脳脊髄液(CSF)中のCLSPの濃度は3~6nMと推定される(14)。ApoEは星状膠細胞およびミクログリアから産生され、ヒトCNSにおいて、かなりの割合のApoEが脂質および他のアポリポタンパク質と同時に高密度リポタンパク質様リポタンパク質形成に動員されることが知られている(16、17)。ヒトCSF中のApoEの濃度は40~200nM(18‐20)と推定されている。一方、ヒトCSF中の14‐3‐3σの濃度は1nMよりはるかに低いと推定した(
図S2参照)。また、以前の研究により、ヒトCSF中の14-3-3γの濃度は1nMより低いと推定されている(21)。さらに、ヒト血清中のカルレティキュリンの濃度はほぼ10pM前後と推定された(22)が、ヒトCSF中の濃度は現在まで測定されていない。これら知見を総合すると、全体量としてのApoEの濃度はCLSP機能を完全に阻害するに必要な濃度を10倍以上上回っている。一方、他の阻害物質の濃度は、ヒトCNS中のCLSPを阻害するのには不十分である可能性が高い。
【0081】
上記のように、ヒトCNS中には、非常に大量のCLSP阻害物質(主としてApoEからなる)が存在するためCLSP活性はインビボではゼロであるように見える。しかし、以前の検討(35)によると、少なくとも正常人ではCLSP活性が存在すると考えた方が自然である。そこで、次に、他のCLSP結合物質のいずれかがCLSP阻害物質からCLSPを保護して活性を保つという仮説を検討した。このために、候補であるアネキシンII、アネキシンV、またはアディポネクチンの組換えタンパク質を、CLSP(1nM)およびApoE3(10nM)を含む細胞死アッセイ系に、ApoE3の濃度に等しい濃度で添加した。その結果、アディポネクチンは、ApoE3を介したCLSP活性の阻害を完全に無効にした(CLSP保護活性)(
図4a)。一方、試験した濃度では、アネキシンIIもアネキシンVもそのような中和活性を示さなかった(
図4bおよびc)。アディポネクチンの最小無効化濃度を決定するために、次にアディポネクチンの濃度を段階的に減少させた。その結果、アディポネクチンはApoE4のCLSP阻害活性を以下の濃度比で完全に抑制した(CLSP、1nM; ApoE4、10nM:アディポネクチン、1nM)(
図5a)。さらに、更に濃度を下げて100pMの濃度でも、アディポネクチンは、ApoE4のCLSP抑制活性を部分的に抑制した(CLSP、1nM:ApoE4、10nM:アディポネクチン、100pM)。一方、逆にApoE4の濃度を50nMまで増加させても、1nMのアディポネクチンによる保護効果は全く減弱されなかった(
図5b)。これらの結果は、1nMのアディポネクチンが、圧倒的な高濃度のApoE4の存在下でさえも活性型CLSPの濃度を100%有効レベルに維持することを示している。野生型アディポネクチンは生体内で自発的に多量体化し、3種類の多量体型を形成する。そして、3量体は低分子量、6量体は中分子量、そして8量体あるいはそれ以上などは高分子量アディポネクチンと呼ばれる(23)。以前の研究により、中あるいは高分子量アディポネクチンが通常アディポネクチン受容体を介した代謝調節活性において中心的な役割を担っていることが知られている(23)。本研究では、中分子量または高分子量のアディポネクチンを形成しない組み換え三量体アディポネクチンを使用して、三量体アディポネクチンが野生型アディポネクチンと同様のCLSP増強効果を有することを見出した(
図S3)。この結果は、アディポネクチンの中分子量または高分子量多量体化がアディポネクチンのCLSP保護効果に必須ではないことを意味している。以前の研究により、アディポネクチンの通常受容体を介する代謝調節機能に関して、中分子量または高分子量多量体化されたアディポネクチンがより高い活性を示すことが知られている(23)。総合すると、ここで発見されたアディポネクチンのCLSP保護活性は通常アディポネクチン受容体を介する効果ではない可能性を強く支持している。さらに、ApoE以外のCLSP阻害物質に関しても同様な検討を行い、14-3-3σまたはカルレティキュリンによるCLSP阻害効果に対してもアディポネクチンは完全に保護活性を示すことを見出した(CLSP、1nM:14-3-3σまたはカルレティキュリン、2nMまたは10nM:アディポネクチン、1nM)(
図6)。
【0082】
[アディポネクチンはCLSP活性を増強する]
さらに、アディポネクチンは,上記のCLSP保護効果に加えて、CLSP活性そのものを増強する効果も有していることも見いだした。
図2aに示されるように、CLSPは、50pMの濃度ではV642I‐APP誘導細胞死に対して抑制活性を示さなかった。 しかしながら、200pMのアディポネクチンの存在下では、50pMまたは25pMの濃度でCLSPはそれぞれほぼ完全なまたは部分的な細胞死抑制活性を示した(
図7a)。この結果は、アディポネクチンがCLSPに結合することによってCLSP活性を増強することを示している。本発明者らはさらに、同時投与されたアディポネクチンの濃度が100pMに減少された場合でも、アディポネクチンが50pMの濃度のCLSPに対して部分的増強活性を示すことを見出した(
図7b)。これらの結果をまとめると、単独では活性のない50pMのCLSPに完全な細胞死抑制活性を与えるための最小アディポネクチン濃度が200~250pMであることを示している。
【0083】
[アディポネクチンとCLSPの結合の解離定数はアポリポタンパク質E4とCLSPの結合の解離定数と近似している]
以上示したように、アディポネクチンが50倍濃度の高いApoEのCLSP活性阻害効果を完全に無効にする(保護効果)ことが示された(
図4および
図5)。このようなアディポネクチンに付与された強力なCLSP保護効果は以下に示されるような二つのメカニズムにより説明可能である。第一に、アディポネクチンとApoEはCLSPの同じ場所に競合的に結合し、かつ、アディポネクチンとCLSPとの間の結合親和性がアポリポタンパク質EとCLSPとの間のそれよりはるかに強力である(競合的拮抗薬)場合である。第二に、アディポネクチンは、ApoE結合領域とは異なるCLSPの領域に結合することにより、単独結合ではCLSP活性を上昇させ、CLSP阻害物質の結合が同時にある場合、その阻害効果を抑制してCLSP活性を保つ(非競合的拮抗薬)場合である。
【0084】
これら2つのメカニズムのいずれが正しいかを検討した。まず、ApoE3またはApoE4の存在が、CLSPとアディポネクチンまたはアネキシンIIにいかなる影響を及ぼすか、或いはその逆はどうかを見るために、CLSPを共有結合させたセファロース4Bビーズ(CLSPビーズ)に、当該タンパク質を混和させ、プルダウンアッセイ(共沈実験)を行い、CLSPとの結合を検討した(
図8a)。条件として、混合物中のCLSP、アディポネクチン、アネキシンII、ApoE3またはApoE4の濃度は全て1nMとなるように設定した。まず、他のタンパク質が存在しない場合、一定量のアディポネクチン、アネキシンII、ApoE3、またはApoE4がCLSPビーズと共沈した(レーン2~4および7)。次に、アディポネクチンとともに共沈させると、わずかに減少するもののなおかなりの量のApoE3またはApoE4がCLSPビーズと共沈した(レーン5および8)。同様に、ApoE3またはApoE4とともに共沈させると、わずかに減少するものの依然としてかなりの量のアディポネクチンが共沈した(レーン5および8)。重要なことは、共沈ApoEの量は共沈アディポネクチンの量と等しいかまたはそれよりわずかに多かったことである(
図10a)。一方、アネキシンIIを加えても、CLSPと共沈するApoE3またはApoE4の沈殿量を減少させなかった(レーン6および9)。逆に、ApoE3またはApoE4の存在下では、ほとんど量のアネキシンIIがCLSPビーズと共沈しなかった(レーン6および9)。これらの結果は、アディポネクチンがCLSPへの結合に関してApoEと競合することによってApoEの阻害作用を抑制しているのではないことを示している(第一の可能性の否定)。
【0085】
次に、CLSPとアディポネクチンの間、ならびにCLSPとApoE4の間の結合に関する解離定数(Kd)を測定した(
図8bおよびc)。この目的のために、アディポネクチンまたはApoE4タンパク質を96ウェルプレートにコンジュゲートした。 化学発光産生タグであるHiBiTでC末端タグ付けされた様々な濃度の組換えCLSPを、同時インキュベーションのためにプレートに添加した。洗浄後、ウェル上のアディポネクチンまたはApoE4に結合しているCLSP―HiBiTの量を測定した。スキャッチャード分析により、アディポネクチンとCLSPとの間、またはApoE4とCLSPとの間の解離定数はそれぞれ8.8または7.8pMと測定された(
図8c)。両者が近似しているというこの結果は上記の第1の可能性を完全に否定した。
【0086】
[アディポネクチンとアポリポ蛋白質E4はCLSPの異なるサブドメインに結合する]
2番目の可能性を探るために、ApoE4‐MycHisおよびアディポネクチン‐MycHisを作成し、以前に構築された組み換え野生型CLSPまたはCLSP欠失変異体(5、
図9a)と混合させて、プルダウンアッセイを行った(
図9)。その結果、ApoE4に対して、EHRのみからなる変異体が共沈(結合)しない一方、他の4つのCLSP変異体は結合した。一方、アディポネクチンに対して、ΔN2のみが結合する一方、他の4つの変異体は結結合しなかった(
図9bおよびc)。これらの結果は、CLSPにおけるApoE4結合部位はEHRの外側にあり、アディポネクチン結合部位はEHRを含むことを意味している。それ故、アディポネクチンはEHRに結合することによりCLSP活性を増強および保護すること、そして一旦EHRにアディポネクチンが結合すると、非EHR領域を介して起こるCLSP阻害物質の阻害効果がキャンセルされることが明らかになった。
【0087】
さらに同様のプルダウン実験を行うことにより、アディポネクチンががアミノ酸1-61からなるCLSPのN末端領域に結合するのに対して、ApoE4はそれに結合しないことを見出した(
図S4aおよびb)。
図9の結果と合わせるとこの結果は、ApoEがCLSPのC末端領域(アミノ酸62~146)に結合することを意味している。また、別の類似実験により、本発明者らはまた、CLSPがアディポネクチンの中央部分に位置するアディポネクチンのいわゆる「コラーゲン相同領域(ADNCol)」に結合することを見出した(
図S4c)。
【0088】
[CSF中のアディポネクチン濃度はAD患者において著しく低下している]
ヒトCNS中のアディポネクチン濃度を推定するために、アディポネクチンELISAアッセイキットを用いて、剖検AD患者および非AD症例から得たCSF中のアディポネクチンのレベルを測定した(表1、表S1、および
図10)。その結果、CSFアディポネクチンのレベルが、AD患者では非AD症例よりも低いことを見出した(
図10b、表1)。AD患者におけるCSFアディポネクチンの平均±SEM濃度は0.31±0.13nMであったが、非AD症例におけるそれは0.96±0.19nMであった(対応のないT検定、p=0.0065)。この結果は、以前の研究(30)の結果と基本的に一致しており、AD患者のCSFにおいてアディポネクチンレベルが著しく低下していることを示唆している。いくつかの非AD症例のアディポネクチン濃度は、非AD症例の平均よりも著しく低く、AD患者の平均レベルとほぼ等しい。
【0089】
しかしながら、AD患者の平均年齢(78.5±0.9歳)は、非AD症例のそれ(86.3±1.4歳以上)よりも有意に小さかった(対応のないT検定;「より大きい」を「等しい」と見做した場合p<0.0001)(表S1を参照)。したがって、ADの存在よりもむしろ年齢がCSFアディポネクチンの濃度に影響を与えた可能性がある。この可能性を検討するために、表1の全症例から81~88歳の年齢の症例を選択し(ADについてn=6、平均年齢±SEM=83.0±0.6歳;非ADについてn=5、平均年齢±SEM = 85.2±1.2歳;年齢に対する対応のないT検定;p=0.11)(表2)、それらのCSFアディポネクチンレベルを比較した。その結果、アディポネクチンレベルがこの年齢集団においてもAD患者のCSFにおいて著しく下方調節されていることを見出した(AD、0.30±0.07nM;非AD、1.41±0.16nM;対応のないT検定、p <0.0001)(
図10c、表2)。さらに、CSFアディポネクチンレベルが年齢と相関しているかどうかを、全被験者からのデータを用いて調べた。予想通り、年齢とCSFアディポネクチン濃度との間に有意な相関はなかった(相関係数=0.0055)(
図S5)。
【0090】
[ヒューマニン/CLSP誘導性細胞内シグナル伝達経路の中心的エフェクターであるSH3BP5はAD患者のニューロンにおいて低下する]
図12の結果に基づいて、活性型CLSPの量に相当するCLSP /アディポネクチン複合体の量は、AD患者の脳において、非AD症例のものよりも少ないことが示された。この実験事実の確認(裏)をとるために、ニューロン内SH3BP5のレベルを測定することにより、ニューロン内のCLSP誘導性シグナル伝達の強度を定量化することを試みた。そのための方法として、SH3BP5を測定する根拠は、以前の研究により、SH3BP5はhtHNRを介したヒューマニン/CLSP誘導性細胞内シグナル伝達の中心的なエフェクターであり、ヒューマニン/CLSPがhtHNRに結合すると発現レベルが上昇することが実証されている(24)からである。実際、同研究(24)において、CLSP/ヒューマニンがhtHNRに結合すると、STAT3を介してSH3BP5の転写が活性化される。その結果、SH3BP5発現レベルが上昇し、高レベルとなったSH3BP5は、JNKと直接複合体を形成してJNKを阻害することによって、V642I-APP誘導性の死シグナルを阻害することが示されている。この目的で、まず、SH3BP5抗体を使用して、剖検AD患者および筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から得た脳の側頭葉または後頭葉(非運動ニューロン領域)を免疫組織化学的に染色した(表3および表S2)。ALS患者の脳を陰性対照として使用したのは、ALSにおいては側頭葉の運動野における運動ニューロンにおいてのみ神経変性が起こり、側頭葉または後頭葉のニューロンには異常がないからである。この実験の結果として、ALSと比較してADの皮質のニューロンにおいてSH3BP5のレベルが低下していることを見出した(対応のないT検定、p=0.0256)(
図11a、bおよびc、表3)。AD患者の平均年齢がALS患者の平均年齢より高いことを考慮して(78歳対69歳)、我々はまた、ADの存在よりも年齢がSH3BP5レベルの決定要因であるかどうかを検討したが、その結果、SH3BP5のレベルが高齢者(71歳以上)の方が若年者(71歳未満)よりも有意に低いわけではないことを見出した(対応のないT検定、p=0.633)(
図S6)。
【0091】
また、SH3BP5 ELISAアッセイを使用して、剖検AD患者および非AD症例の側頭葉に由来する組織溶解物中のSH3BP5レベルを測定した(表4および表S3)。その結果、AD患者の側頭葉におけるSH3BP5レベルが非AD症例よりも有意に低下していることを見出した(対応のないT検定、p=0.0084)(
図11dおよびe、表4)。
【0092】
さらなる展開として、CLSP誘導体であるCLSP1-61がApoE4と結合しないことを見出した(
図S4aおよびb)。しかも、EHRを含むためCLSP活性を保持している可能性が高い。細胞死アッセイを用いて、その細胞死抑制活性を検討としたところ、最小細胞死抑制濃度は0.5nMであり(
図L1)、野生型CLSPとほぼ同じであった(
図2)。さらに、CLSP1-61の活性を3種類のCLSP阻害物質が抑制できるか否か検討したところ、予想通り10倍量のそれぞれの阻害物質(ApoE4、14‐3‐3σ、カルレティキュリン)を入れてもCLSP1-61の活性を阻害できなかった(
図L2)。従って、CLSP1-61は阻害物質から阻害を受けず、しかも活性を維持したCLSP誘導体であることが判明した。
【0093】
また、CLSPはアディポネクチンのコラーゲン領域(ADNCol)に結合することを見出した(
図S4c)。そこで、アディポネクチンのCLSP活性増強効果はADNColのみで十分かどうかを検討した。その結果、1 nMのADNColは1 nMの野生型アディポネクチンと同じく、50 pMのCLSPの活性を増強させ、細胞死を完全に抑制させた(
図L3)。さらに、 同じアッセイを駆使して ADNColの量を増減させて検討を行い、50pMのCLSPに完全な細胞死抑制活性を付与する最小ADNCol濃度を求めた。その結果、CLSP増強活性は野生型アディポネクチンのそれよりやや弱く、0.5nMの濃度あることが判明した(
図L4)。従って、ADNColは野生型アディポネクチンより活性は若干弱いが、ほぼ同じ働きを持つタンパク質であることが明らかとなった。
【0094】
[CLSP1-61とアディポネクチンのコラーゲン相同領域からなる融合ポリペプチドは強力なAD保護活性を有する]
次に、CLSP1-61とアディポネクチンのコラーゲン相同領域、および野生型CLSPとアディポネクチンのコラーゲン相同領域からなる、2つのハイブリッドポリペプチド(夫々、「CLSPCOL」と「wt-CLSPCOL」という)を調製し、それらがCLSPとアディポネクチンの両方の活性を保持するかどうかを調べた。該ハイブリッドポリペプチドの両方の領域は、MycタグおよびHisGタグ(6xヒスチジンおよびグリシンからなる)をコードするペプチドによって連結されている。CLSPCOLおよびwt-CLSPCOLは、CLSP1-61および野生型CLSP(
図L1)と比較して、より強力なCLSP活性を有する(神経細胞死を完全に抑制する両方のペプチドの最小濃度は約100pMである:
図L5)。この結果は、CLSP1-61および野生型CLSPの機能がアディポネクチンのコラーゲン相同領域のC末端結合によって破壊されず、逆に、アディポネクチンのコラーゲン相同領域がCLSP1-61及び野生型CLSPの機能を増強したことを示している。したがって、アディポネクチンのコラーゲン相同領域の機能はCLSP1-61のN末端結合によって破壊されないと考えられる。
【0095】
[CLSPCOLは血液脳関門を効率的に通過する]
マウスでは5nmolのCLSPの腹腔内注射後1時間で、脳脊髄液および血清中のCLSPの濃度は約5nMおよび500nMであった(5)。一方、ヒト脳脊髄液中のアディポネクチン濃度は、ヒト血清中のアディポネクチン濃度の1/1000である(30)。そこで、CLSPCOLとwt-CLSPCOLがマウスの野生型CLSPと同等の速度で血液脳関門を通過するかどうかを調べた。血清および間質液(ISF)含有脳溶解物中のCLSPCOLの濃度は、10nmolのCLSPCOLの腹腔内注射後1時間で約305nMおよび72nMであった(
図L6および表1)。一方、注射後1時間の血清および間質液含有脳溶解物中のwt-CLSPCOLの推定濃度は、約53nMおよび2.1nMであった。ISF含有脳溶解物中のwt-CLSPCOLの濃度は用いたELISAアッセイの最低検出限界(4.5nM)未満であったので、暫定濃度2.1nMは正確ではないかもしれないが、その濃度は4.5nM未満であることは確実である。脳溶解物中のCLSPCOLの濃度は血清中の濃度の約1/4~1/5であると推定され、一方、wt-CLSPCOLの濃度は血清中のそれらの1/10未満であると推定される。したがって、CLSPCOLの中枢神経系移行はwt-CLSPCOLのそれよりも効率的である。また、公表された結果における血清から脳脊髄液へのCLSPの移行効率を考慮すると(5)、血液脳関門を通過するCLSPCOLの移行はwt-CLSPよりはるかに効率的であると考えられる。
【0096】
[CLSPCOLはApoE3と14‐3‐3σにより阻害されないがカルレティキュリンにより軽度に阻害される]
CLSPCOLが3種類の阻害剤により阻害されるか否か検討したところ、10倍濃度の高いApoE3と14‐3‐3σには阻害されなかったが、予想外にも10倍濃度の高いカルレティキュリンにより軽度に阻害される事が判明した(
図X1)。一方、wt-CLSPCOLはすべての阻害剤により阻害されなかった(
図X2)。添加するカルレティキュリンの濃度を変えて細かく検討したところ、100pMのCLSPCOLに対して、カルレティキュリンは1nMの濃度から阻害活性を示し始めることが判明した(
図X2)。
【0097】
[考察]
ADを含む神経変性疾患において、増加した神経毒性物質或いは神経障害機序により神経変性が引き起こされるという考え方が一般的に広く受け入れられている。ADにおいては、20年以上にわたり、Aβ(老人斑中の凝集した原線維型のAβおよび/または可溶性Aβオリゴマー)レベルの上昇が主要な傷害の原因と見なされてきた(2)。加えて、過リン酸化タウ、ならびにAβレベル上昇と直接関係のない、アミロイドβ前駆体タンパク質およびプレセニリンに関連する神経障害機序が毒性として関与する可能性も示されてきた。また、先行研究や本研究により、周知のこれらの神経障害メカニズムに加えて、AD保護因子の低下・減弱がADの進展に寄与する可能性が提示された。中でも、CLSPは該AD保護 (防御)因子として中心的な役割を果たす可能性が高いと推定されている(6)。
【0098】
ヒューマニンおよびCLSPは、インビトロでADに関連する神経細胞死を阻害する(5、6)。また、CLSPは、ADモデルマウスにおいて、Aβの調節とは無関係に、シナプス消失および記憶障害を抑制する(8)。後者の結果は、一連の先行研究(25‐27)によっても支持されている。すなわち、htHNRの別のアゴニストである、ヒューマニンの強力な誘導体がADモデルマウスにおける記憶障害を抑制したという研究である。これらの結果に基づいて、本発明者は2つの事象、即ち、AD関連神経毒性の増加およびAD保護活性の減少の二つがADの発症に必要であるという、ADの病因についての仮説を提案してきた。この仮説が正しいと考えると、十分な濃度の活性CLSPの存在下では、たとえAD関連神経毒性が十分に増強されていても、神経細胞死(および機能不全)を引き起こすことができないため、ADは発症しない。また、十分なAD関連神経毒性がない場合には、CLSP効果が低下していても神経細胞死(および機能不全)を引き起こすことはない(すなわちADは発症しない)。本検討で示されたデータの中で、殆ど全てのAD症例に加えて何例かの「非AD」対照のCNSにおけるアディポネクチンおよびSH3BP5レベルが低下している(
図10および11)という実験結果は、これらの考え方が極めて妥当であることを支持する。
【0099】
CLSPは、ヘテロ三量体ヒューマニン受容体に結合し、STAT3誘導性生存シグナル伝達経路を活性化する中心的なAD保護因子であると考えられ(5、6、および8)、その異常な調節はADの病因に寄与する可能性が高い。本発明で確認された複数のCLSP阻害物質のうち、濃度と活性を考慮するとApoEが中心的な阻害物質であると思われる(
図2)。ヒトCNSにおけて、総ApoEの濃度は、CLSPの濃度よりも圧倒的に高い(18‐20)と推定されている(14)。したがって、CLSPと非常に大量のCLSP阻害剤のみからなるインビボCLSP活性調節モデルが正しければ、AD保護活性はインビボでほぼゼロになる可能性が高い。
【0100】
しかしながら、本発明によって示されたように、アディポネクチンがCLSPの内因性ヒューマニン相同領域(EHR)に結合することによってCLSP活性を増強し、そしてCLSPをCLSP阻害剤から優位な形式で保護する(
図5~7)のであれば、いかに高濃度の阻害物質が存在していてもインビボでのCLSP活性が担保される。0.2‐0.25nMのアディポネクチンは、はるかに高濃度のCLSP阻害剤の存在下においてもCLSP(1nM)活性を完全に維持することが可能である(
図5および7)。非ADの場合、CSF中のアディポネクチン濃度は0.96±0.19nMであり(
図10および表1)、その結果CLSP活性が維持されている可能性が高い。
【0101】
アディポネクチンは、末梢組織においてグルコースおよび脂質代謝を含む様々な代謝機能を発揮する(28)。それは、おそらく細胞膜上の2つの通常のアディポネクチン受容体を介して、インスリンシグナル伝達、抗炎症性、抗酸化性、および抗アテローム発生性機能を増加させる。血液脳関門を通過するアディポネクチンの移動は非常に限られていると思われる。CSF中のアディポネクチンの濃度は血清中の濃度よりもほぼ103倍低い(29、30)。CNSに通常のアディポネクチン受容体が存在することを考えると、アディポネクチンは、CNSにおいてグルコース代謝の調節因子、神経新生促進剤として機能し、そして例えば虚血性脳損傷に対する保護因子として機能すると仮定されている(31)。多くの研究が、アディポネクチンの欠乏またはアディポネクチンシグナル伝達の異常な調節がADの発症と関連しているという証拠を提供してきた(31)。血清アディポネクチンレベルの上昇(29、30)は、ADの独立した危険因子である可能性がある(32)。一方で、ある研究では、AD様病状が低血清アディポネクチン濃度を有するII型糖尿病患者において有意に多く発症したことを示した(33)。アディポネクチンレベルは、AD患者のCSFにおいて下方制御されており、Aβレベルの増加と逆相関している(30)。アディポネクチンノックアウトマウスはAD様の病状を示す(34)。
【0102】
本発明に於いて、アディポネクチン濃度がAD患者のCSFにおいて低下していることを示した(
図10)。この結果は前回の報告と一致している(30)。 CSF中のタンパク質の濃度が脳の間質液中の濃度と相関関係にあること(36)を考慮すると、これらの結果は、AD脳の間質液中でアディポネクチン濃度が低下していて、CLSP活性を維持できない可能性を示唆する。実際のデータとして、AD患者におけるCSFアディポネクチンの平均±SEM濃度は0.31±0.13nMであったが、非AD症例におけるそれは0.96±0.19nMであった(対応のないT検定、p=0.0065)(
図10および表1)。
図5および7に示されるように、CLSP活性を完全に保つために必要とされる神経周囲局所のアディポネクチンの最低濃度は0.20~0.25nMであると推定され、これは低下したAD患者の平均CSFアディポネクチン濃度に近い。非ADの神経周囲局所では十分量のアディポネクチン量が存在するが、ADでは同部位のアディポネクチン量が十分ではない可能性を示唆している。この考え方を支持するさらなるデータとして、ニューロン内においてヒューマニン/CLSPシグナルの主要なメディエーターであるSH3BP5レベルがAD皮質において低下している(
図11)ことを発見した。類似のデータとして、先行研究により既に、ヒューマニン/CLSPシグナルによって活性化されたSTAT3の活性型である、リン酸化された705番目のチロシンを有するSTAT3のレベルが、AD患者の海馬ニューロンにおいて低下していることが示されている(35)。なお、ヒューマニンおよびCLSPはhtHNRに結合し、そしてSTAT3(6)およびSH3BP5(24)によって媒介されるニューロン内シグナル伝達を活性化することによって、AD保護因子として機能することが示されている。
【0103】
先行研究においても、アディポネクチンは、AD患者の血清中で上昇している一方(29、30)、AD脳内で低下しているデータが示されている(
図10、ならびに表1および表2)(30)。この所見の解釈の一つは、アディポネクチンレベルは中枢神経系に起こる一つあるいはいくつかのAD関連異常によって低下し、そしてその欠乏を回復させるために脂肪組織におけるアディポネクチンの産生は二次的に上昇し、その結果として血清中で上昇するという考え方である。実際、以前の研究では、アディポネクチンが高リン酸化タウを含む神経内神経原線維の凝集体中に固定化されているため、AD患者の中枢神経系においてアディポネクチンが低下するという可能性が示唆されていた(30)。この考えが正しければ、Aβの上昇およびその下流の標的である過リン酸化タウの蓄積が、ADにおけるアディポネクチンレベル低下の主原因ということになる。一方では、中枢神経系におけるアディポネクチンレベル低下はADにおいてアディポネクチンの血液脳関門輸送が損なわれることに起因するという考え方もある。現在まで、ADの脳では血液脳関門の機能が損なわれていることを示す数多くの証拠が提示されている(37)が、アディポネクチンの血液脳関門輸送に関するデータはまだ存在しないため、いずれの考え方が正しいかは現時点で不明である。
【0104】
ApoE4は主要なADの発症危険因子である。これまで、多くの研究により、ApoE4によるAD発症増加のメカニズムは広く研究されてきた。ApoE4は、Aβ依存性および非依存性の両方の様式において、複数の機能獲得および機能喪失メカニズムによって神経毒性を発揮するとされている(38)。中でも、Aβの産生、Aβの中枢神経からのクリアランス、およびAβの凝集形成がApoE受容体を介する細胞内情報により影響を受けていて、ApoE4保持者ではこれらの現象がAD発症の方に傾くという研究はよく知られている。
【0105】
本発明に於いて、ApoE4がApoE3よりもわずかに強いCLSPの阻害物質であることを示した(
図2bおよびc)。CLSPの濃度と比較してCNSにおける非常に高いApoEの濃度を考慮すると、僅かな違いは意味を持たずApoE3およびApoE4は同様にCLSP活性を低下させる可能性が高い。しかしながら、脂質化されていない(または高密度リポタンパク質様脂質粒子に動員されていない)遊離型ApoEのみがCLSPを抑制できる前提で考えると、仮に脂質化されていないApoEの濃度がCLSPの濃度と同程度のレベルである場合、アディポネクチンのレベルが低下した状態(AD罹患者)では、ApoEのCLSP阻害効果の僅かの違いが発症を左右させる決定要因となり得る。この場合、ApoE4はCLSP活性をより強く抑制するので(
図2bおよびc)、ApoE4遺伝子保有者は非ApoE4保有者よりもAD傷害を受けやすくなる。残念ながら、この考えの妥当性を検討するために行うべき、非脂質化ApoEの量を定量する具体的な方法は現在まで見つかっていない。
【0106】
本発明では、AD患者のCSFではアディポネクチンレベルが低下していて、しかもそのレベルが、CLSPを保護することが可能なギリギリのレベルに近い(0.3 nM)という知見(
図10ならびに表1および表2)、およびSH3BP5および活性化されたSTAT3のレベルがAD脳で低下している(
図11)(35)という知見によって、ニューロン内CLSPシグナル伝達がAD脳で低下していると推測した。
【0107】
但し、本発明に於いては、AD脳神経細胞周辺の間質液におけるアディポネクチン濃度を測定することは技術的にほぼ不可能であるため、濃度的に近いCSFにおける濃度を測定し、それを元に間質液内の事象を議論している。
【0108】
更に、本発明に於いては、ニューロン内CLSP誘導性シグナルがAD脳において低下していることを直接に示すことは技術的に不可能なため、間接的に示している。SH3BP5およびSTAT3は、様々なサイトカインを中心とした生理活性物質により惹起されたシグナル伝達経路によって同時に調節されるので、SH3BP5レベルの低下およびSTAT3の不活性化はCLSP誘導シグナル伝達の減少なしに起こり得る。したがって、両者の低下を持ってCLSP誘導性シグナルが低下していると断定できない。しかしながら、一般に、ADのCNSでは炎症が生じていて、その結果、種々の炎症性サイトカインが産生されていることがよく知られている。そして、上昇した種々の炎症性サイトカインはニューロン内の活性化STAT3およびSH3BP5(STAT3の下流の標的)レベルを上昇させる方向に働く。従って、ADのニューロン内において活性化STAT3およびSH3BP5レベルが正常より低下している場合、周りに放出された種々の炎症性サイトカインによる上昇機転があることを考慮すると、活性化STAT3およびSH3BP5の低下はCLSP誘導性シグナルが低下していることを示すと考えるのが妥当であると思われる。
【0109】
[CLSPCOL]
CLSPCOLはCLSP阻害剤による抑制を受けず、強力なAD保護活性を有している(
図L5)。更に、アディポネクチンのコラーゲン相同領域(COL)は内因性の野生型CLSPを増強および保護する活性を保持している。さらに、CLSPCOLは血液脳関門を効率的に貫通する(
図L6)。従って、CLSPCOL等の本発明の融合タンパク質は、現在明らかな弱点がなく、末梢経路によって送達され得るAD薬候補であり得る。
【0110】
しかしながら、CLSPCOLがwt-CLSPCOLおよびCLSPよりも効率的に血液脳関門を通過するメカニズム未だ十分には解明されていない。CLSPCOLとwt-CLSPCOLとの間に効率に明らかな違いがあるので(
図L6および表L1)、CLSPのC末端ドメイン(アミノ酸62-146)の欠失が効率を促進した可能性が高い。即ち、CLSPのC末端側半分は、血液脳関門移行を阻害する領域を含み得る。又、アディポネクチンのコラーゲン相同領域の付着によって効率が高められている可能性もある。
【0111】
CLSPCOLは阻害物質のうちカルレティキュリンに対してのみ軽度に阻害された(
図X1、X2)。その具体的なメカニズムは不明だが、おそらく、人工的に作成された融合部分を含む領域がカルレティキュリンに対して親和性を生じていると推定される。しかし、その阻害効果は弱く、しかも、カルレティキュリンの中枢神経系内濃度は阻害効果を示すより低いこと(1nM未満)が予想されるため、実際の臨床応用に関しては支障にならないと考えられる。
【0112】
以上の実施例で使用された材料及び方法は以下の通りである。尚、特に記載がない場合には、当業者に公知の適当な方法・手段で実施した。
【0113】
[遺伝子とベクター]
ヒトCLSPをpcDNA3.1-MycHis(Invitrogen、Carlsbad、CA)に挿入して、MycHisでC末端にタグ付けされたヒトCLSP-MycHis(CLSP-MycHis)を哺乳動物細胞において発現させた(5)。ヒトアポリポタンパク質E3、E4、アディポネクチン、アネキシンII、およびアネキシンVのcDNAを、C末端ヘマグルチニンA(HA)タグを有するCMVプロモーター駆動発現ベクターであるpHAベクターに挿入した。pcDNA3.1/MycHisベクターに挿入されたマウスV642I-APP cDNAは先行文献に記載されている(5)。アポリポタンパク質E3、E4およびアディポネクチンcDNAをpFLAGベクターに挿入して、C末端FLAGタグ化タンパク質発現ベクターとして用いた。
【0114】
日本住血吸虫グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ付き組換えタンパク質を、文献に記載されているように(5)、pGEXベクター(Promega、Madison、WI)を用いて細菌中で生成した。C末端HiBiTタグCLSPの生成には、HiBiTアミノ酸配列(VSGWRLFKKIS)をコードするオリゴヌクレオチド、センス(配列番号4):
(5'-CCCGGGGTGAGCGGCTGGCGGCTGTTCAAGAAGATTAGCTGAGAATTC-3')、及び
アンチセンス(配列番号5):
(5'-CCCGGGGTGAGCGGCTGGCGGCTGTTCAAGAAGATTAGCTGAGAATTC-3')、
をインビトロでアニーリングし、pGEX‐2T‐CLSPプラスミドのSmaI-EcoRI部位に挿入した。
【0115】
pCMV-SPORT6ベクター中の全長ヒトアディポネクチンcDNAはInvitrogenから購入した(カタログ番号:6192794、CA)。C末端にMycHisGでタグ付けされた組換えN末端GSTタグ付きタンパク質を作製するために、以下の突然変異誘発プライマーを用いたKOD-Plus突然変異誘発キット(SMK-101東京、日本東洋紡、カタログ番号)を使用して、pGEX2T-MycHisベクターの配列を変異させてグリシン残基のC末端付加を生じさせた。
センスプライマー(配列番号6):
(5'-GGTTGAGAATTCATCGTGACTGACTGACGATCTGCCTCGCGCG-3')、及び
アンチセンスプライマー(配列番号7):
(5'-ATGATGATGATGATGATGATCCTCTTCTGAGATGAGTTTTTG-3')。
【0116】
ヒトアディポネクチンのコラーゲン相同領域のcDNAをKOD DNAポリメラーゼ(KOD-101、東京、日本TOYOBO、カタログ番号)によって増幅した。
センスプライマー(配列番号8):
(5'- GGATCCATGAGAGGATCGCATCACCATCACCATCACGGGTCC-3')、及び
アンチセンスプライマー(配列番号9):
(5'- GAATTCTCAAGGTTCTCCTTTCCTGCCTTGGATTCCCGGAAAGC-3')。
増幅したcDNAをBamHI-EcoRI部位でpQE30ベクター(QIAGEN、東京、日本)にサブクローニングした。
【0117】
N末端MycHisGタグを有するアディポネクチンのコラーゲン相同領域のcDNAをLA Taqポリメラーゼ(TaKaRa社、カタログ番号RR002A、東京、日本)によって増幅した。
センスプライマー(配列番号10):
(5'-AAGCTTGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCATCATCATCATCATCATGGTATGGGGCATCCGGGCCATAATGGGGCCCCAGGCC-3')及び、
アンチセンスプライマー(配列番号11):
(5'-GAATTCTCAAGGTTCTCCTTTCCTGCCTTGGATTCCCGGAAAGCC-3')。
増幅したcDNAをpGEX-2T-CLSPおよび-CLSP(1-61)プラスミドにサブクローニングして、夫々、CLSP-MycHisG-アディポネクチンのコラーゲン相同領域、およびCLSP(1-61)-MycHisG-アディポネクチンのコラーゲン相同領域からなる、wt-CLSPCOLおよびCLSPCOLを得た。
【0118】
[組み換えタンパク質]
C末端がMycHisでタグ付けされたGST-ヒトCLSP(GST-CLSP-MycHis)を、1mMのイソプロピル-チオ-β-D-ガラクトピラノシド中、37℃で6時間、大腸菌BL-21中で発現させた。GST-CLSP-MycHisをグルタチオンセファロース(GE Healthcare)に結合させ、文献(14)に示されているように、CLSP‐MycHis部分をトロンビン(1単位/ml)を含有するPBS中での同時インキュベーションによりグルタチオンセファロースから、25℃で一晩、遊離させた(カタログ番号:T6634-100UN、Sigma‐Aldrich、St.Lois、MO)。MycHisでC末端標識された組換えCLSP欠失変異体(5)、およびGST-CLSP-HiBiTを同じ方法で作製した。細菌中で産生されたGST-アネキシンII、アネキシンV、およびSH3BP5から、組換えアネキシンII、V、およびSH3BP5タンパク質も同様に作製した。組換えGST-MycHisおよびGST-ヒト14-3-3σを、1mM イソプロピル-チオ-β-D-ガラクトピラノシド中、37℃で6時間、大腸菌BL-21中で発現させ、グルタチオンセファロースに結合させ、50mMグルタチオンの存在下での共インキュベーションによってグルタチオンセファロースから遊離させ、PBS中で透析した。アディポネクチンのN末端6xHisGタグ付きコラーゲン相同領域を、1mM イソプロピル-チオ-β-D-ガラクトピラノシド中、37℃で4時間、大腸菌M15[pREP4](Qiagen)中で発現させ、Talon Metal樹脂(Clontech、Palo Alto、CA、USA)に結合させ、製造者の指示に従って精製した。溶出した組換え6×Hisタンパク質をZeba Desalting Column(Pierce)によって脱塩し、次いで1/10容量の10×PBSを脱塩タンパク質溶液に添加した。
【0119】
組換えヒトアポE3およびアポE4はPeproTech(Rocky Hill、NJ)から購入した(カタログ番号:350-02および350-04)。 ヒトアディポネクチンおよび三量体アディポネクチンは、BioVendor(Czeck Republic)から購入した(カタログ番号:RD172029100およびRD172023100)。
【0120】
[細胞死アッセイ]
ADに関連する神経細胞死アッセイはYamatsuji et alによって最初に行われた(39)。SH-SY5Y細胞を10%FBSを含有するDMEM/HamF12混合物(DMEM/F12)中で増殖させた。SH‐SY5Y細胞を6ウェルプレートに2x105/ウェルで12~16時間播種し、血清の非存在下で指示されたベクターで3時間トランスフェクションし、次にCLSPおよび/またはCLSP修飾物質(CLSPに作用する物質)を含む/含まないDMEM/F12‐10%FBSで培養した。トランスフェクションの24時間後、培地を、CLSPおよび/またはCLSP修飾物質を含む/含まない、N2サプリメント(Invitrogen、Carlsbad、CA)を含有するDMEM/F12と交換した。トランスフェクション開始の48時間後、細胞を回収してWST‐8細胞死アッセイキット(同仁堂、熊本、日本)を用いる細胞生存(率)アッセイまたはカルセインAM(同仁堂、熊本、日本)を用いる染色、およびトリパンブルー排除細胞死アッセイを行った。SH‐SY5Y細胞におけるトランスフェクション効率は約80%であった。 全ての細胞死実験はN=3で行った。
【0121】
[抗体]
キーホールリンペットヘモシアニンと複合体化させたヒトCLSPのN末端ペプチド16アミノ酸のペプチドに対してウサギポリクローナル抗体を産生させ、免疫ペプチドでアフィニティー精製した(hCLSP-N抗体)。GST-CLSP-MycHisに対するウサギポリクローナル抗体は、細菌中で産生された組換えGST-CLSP-MycHis(GST-CLSP抗体)(5)で免疫することによって生成された。さらに組換えCLSP-MycHisを用いた粗血清から抗体をアフィニティー精製した。14-3-3σを用いてアフィニティー精製した。シグマ-C抗体は、ウサギをヒト14-3-3σのC-末端16アミノ酸ペプチドで免疫することによって産生し、更にアフィニティー精製した。SH3BP5に対するポリクローナル抗体(「SH3BP5抗体」と命名)をウサギにおいて産生し、そしてGST-14-3-3σおよびGST-SH3BP5を使用してアフィニティー精製し、更にGST-SH3BP5を使用してアフィニティー精製した。
【0122】
本発明で使用したペプチドおよびタンパク質に対する既製の抗体は、次の会社から購入した:西洋ワサビペルオキシダーゼ結合FLAGエピトープ(クローン M2、カタログ番号158592-1MG)、Sigma-Aldrich;APP(22C11、カタログ番号MAB348(登録商標))、Chemicon(Temecula、CA); Mycエピトープ(カタログ番号R950-25)、Invitrogen(Carlsbad、CA);ペルオキシダーゼ結合HA(ヘマグルチニンA)エピトープ(クローン3F10、カタログ番号2013819)、Roche Diagnostics(Alameda、CA);SH3BP5抗体(Sab;カタログ番号sc-135617)、 Biotechnology(Santa Cruz、CA);SH3BP5モノクローナル抗体(クローン1D5、カタログ番号H00009467-M02)、Abnoba、(台北、台湾); HisGモノクローナル抗体(カタログ番号R940-25)、Invitrogen(Carlsbad、CA)。
【0123】
[イムノブロット分析]
細胞をPBSで2回洗浄し、50mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、0.1%のNP-40、およびプロテアーゼインヒビターカクテルコンプリート(Roche Diagnostics、Alameda、CA)に懸濁した。2回凍結融解した後、細胞溶解物を4℃で10分間15,000rpmで遠心分離した。上清およびプルダウン沈殿物を標準的またはトリス-トリシンSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分析、およびイムノブロット分析にかけた。1レーンあたり10μgの細胞溶解物を直接イムノブロット分析に使用した(5)。外因的に発現されたV642I-APPを検出するためにAPP抗体を使用するイムノブロット分析によって、様々な長さを有する内因性野生型APPが同時に検出された。様々な長さを有する内因性野生型APPの検出は、未知の理由のために異なる実験間で均一ではなかったことに留意すべきである。
【0124】
[プルダウン分析]
臭化シアン活性化Sepharose 4Bへの組換えタンパク質の結合は、製造業者(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala,Sweden)の説明書に従って行った。簡単に説明すると、5mgの組換えタンパク質をカップリング緩衝液(0.5MのNaClを含有する0.1MのNaHCO3、pH8.3)中で3mlの臭化シアン活性化セファロース4Bと共に回転させながら4℃で一晩インキュベートした。次に、組換えタンパク質結合セファロースをブロッキング緩衝液(0.2Mグリシン、pH8.0)中、室温で2時間インキュベートして、非特異的結合を排除した。ブロッキング後、セファロースをカップリング緩衝液、および0.5M NaClを含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4)で洗浄した。結合セファロース4Bを4℃でカップリング緩衝液中に保存した。
【0125】
様々なタンパク質を過剰発現している細胞からの溶解物をGST-MycHisまたはCLSP-MycHis結合セファロース4Bと4℃で一晩混合し、続いて徹底的に洗浄した。 次いで、プルダウンした沈殿物および細胞溶解物をSDS-PAGEおよびイムノブロット分析または銀染色(和光純薬、東京、日本)にかけて、CLSPとタンパク質との間の結合を調べた。
【0126】
実験では、MycHisでC末端にタグ付けされた、組換えCLSP、その欠失変異体(ΔN1、ΔN2、ΔC1、およびEHR)の1つを細菌中で産生させ、精製した。 それらをFLAGでC末端にタグ付けされたアポリポタンパク質E4またはアディポネクチンを含むF11細胞由来の溶解物と、4℃で一晩混合し、続いて徹底的に洗浄した。 洗浄したプルダウン沈殿物および細胞溶解物を次いでSDS-PAGE展開し、イムノブロット分析にかけた。
【0127】
[組換えタンパク質の腹腔内注射後の間質液含有脳試料としてのマウスからの脳溶解物の調製]
全ての実験手順は東京医科大学の動物実験地域委員会によって承認された。オリエンタルイースト社(東京、日本)から購入したオスのICRマウス(8週齢)に、PBS中の、ネガティブコントロールとして10nmolのGST -MycHisGタンパク質、CLSPCOL、またはwt-CLSPCOLを腹腔内注射した。注射の1時間後マウスをジエチルエーテル(和光純薬、東京、日本)で麻酔した。その後、血液を心臓から吸引し、4℃で10分間4000×gで遠心分離した。氷の入った20mlの乳酸リンゲル液(大塚製薬、東京、日本)を用いて、心臓の左心室を通して脳の血管空間を灌流させて血液を除去した。次にマウスを断頭し脳を摘出した。CSFの汚染を洗浄するために、全脳を乳酸リンゲル液で一度洗浄した。次いで2倍重量の食塩水の存在下で均質化した。該溶解物を4℃で4000×gで10分間遠心分離した後、上清を間質液含有脳試料として回収した(36)。
【0128】
[ヒト脳脊髄液および側頭葉サンプル]
AD患者および対照からの死後CSFおよび側頭葉サンプルは、デューク大学医療センター、神経内科のキャスリーンプライスブライアン脳バンクから得た(表1および3)。病理学的病期分類は、老人斑および神経炎性斑については「AD登録のためのコンソーシアム」(CERAD)病期分類システム(40)、神経原線維変化についてはBraak病期分類システム(41)の下で行われた。 CERAD病期分類によってpossibleADとみなされた症例は全てAD症例として数えた。この研究は、デューク大学医療センターのキャスリーンプライスブライアン脳バンクおよび東京医科大学の倫理委員会によって承認された。
【0129】
[解離定数の測定]
アポE4(またはアディポネクチン)とCLSPとの間の結合についての解離定数を、Nano-Glo HiBiT細胞外検出システム(Promega、カタログ番号:N2420)を用いて、説明書に従って測定した。組換えアポE4またはアディポネクチンのコーティングのために、20pMのアポE4またはアディポネクチンを含有する100μlの50mM炭酸緩衝液(pH9.6)を96ウェルプレートのウェル中で4℃で一晩インキュベートした(蛍光用ブラック型プレートH カタログ番号:MS-8596KZ、住友ベークライト、東京、日本)。タンパク質被覆プレートを200μlのPBSで3回洗浄した。次に、1%スキムミルクを含む150μlのPBS(GIBCO)を各ウェルに加えた。それらを振盪せずに室温で1時間インキュベートした。プレートを200μlのPBSで3回洗浄した後、PBS中の100μlの濃度のCLSP-HiBiTを各ウェルに加えた。プレートをさらに振盪せずに4℃で一晩インキュベートし、次いで0.1%NP-40を含有するPBSで5回洗浄し、続いて100μlのPBSを添加した。その後、キット中のHiBiT用の基質を各ウェルに添加した。得られた化学発光を、Wallac ARVOTM X 5(Perkin Elmer)を用いて各ウェルについて測定した。CLSP-HiBiTの濃度は、段階的に増加する濃度のCLSP-HiBiTを含む100μLのPBSで満たしたウェルの化学発光を測定することによって同時に作成された標準線を参照して、各ウェルについて推定した。この実験はN=2で行った。
【0130】
[ELISA]
既製のヒトアディポネクチンELISAキットを積水メディカル株式会社(カタログ番号376405、東京、日本)から購入し、製造業者の指示に従ってCSFアディポネクチン濃度の測定に使用した。14-3-3σ ELISAおよびSH3BP5の場合、0.6μg/mlのGSTシグマ抗体または1μg/mlのSH3BP5モノクローナル抗体(クローン1D5、カタログ番号H00009467-M02、Anoba、台北、台湾))を含む50mMの炭酸緩衝液(pH9.6)100μLを96ウェルプレート(ELISAプレートH、カタログ番号MS-8896FZ、住友ベークライト、東京、日本)中、4℃で一晩インキュベートした。この捕捉抗体被覆プレートを各ウェル中で400μlの洗浄緩衝液(0.1%NP40を含有するPBS)で3回洗浄し、そして300μlのPVDFブロッキング試薬(TOYOBOカタログ番号NYPBR01、東京、日本)を、振盪せずに室温で1時間満たした。300μlの洗浄緩衝液で3回洗浄した後、プレートを100μlの段階的に増加する濃度の組み換え14-3-3σまたはSH3BP5のPBS溶液(標準曲線の測定用)で満たした。ヒトCSF試料またはヒト側頭葉の溶解物を、250rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベートした。その後、プレートを300μlの洗浄緩衝液で洗浄した。検出抗体として、Ab-10 Rapid Peroxidase Labeling Kit(同仁堂、カタログ番号LK33、熊本、日本)またはPeroxidase Labing Kit-HN2(同仁堂、タログ番号LK11、熊本、)を用いて、夫々、ペルオキシダーゼ標識シグマ-C抗体またはSH3BP5抗体を調製した。Can Get Signal Solution 2(TOYOBOカタログ番号NKB―301)中の1.0μg/ ml検出抗体100μlを各ウェルに添加し、プレートを振盪(250rpm)しながら室温で1時間インキュベートした。300μlの洗浄バッファーで5回洗浄した後、 R&D TMB基質溶液(R&D Systems、カタログ番号:DY999)をウェルに添加し、そしてプレートを室温で10分間インキュベートした。50μlのH2SO4を添加することによって反応を停止させた。450nmでの吸光度をWallac ARVOTM X5(Perkin Elmer)によって測定した。
【0131】
製造業者の説明書に従ってビオチン標識抗HisG抗体をビオチン標識Kit-NH2(同仁堂、カタログ番号:LK03、熊本、日本)を用いて調製した。 CLSPCOLおよびwt-CLSPCOL(結合ペプチドとしてMycおよびHisGタグを直列に含む)のELISAの場合、25μg/mlのCLSP‐N抗体(捕捉抗体)を含む100μlの50mM炭酸緩衝液(pH9.6)を96ウェルプレート(ELISAプレートH、カタログ番号MS-8896FZ、住友ベークライト、東京、日本)中、4℃で一晩インキュベートした。捕捉抗体被覆プレートを各ウェル400μlの洗浄緩衝液(0.1%Tween20を含有するPBS)で3回洗浄し、そして300μlのPVDFブロッキング試薬(TOYOBOカタログ番号NYPBR01、東京、日本)で満たし、振盪せずに室温で1時間保持した。 300μlの洗浄緩衝液で3回洗浄した後、GST-MycHis、CLSPCOLおよびwt-CLSPCOLを段階的に増加する濃度で含むPBS(標準曲線の測定用)100μl、又はマウス脳溶解物でプレートを満たし、室温で2時間インキュベートした。 300μlの洗浄緩衝液で洗浄した後、Can Get Signal Solution 1(TOYOBOカタログ番号:NKB-201)中の1000倍希釈のビオチン結合抗HisG抗体100μlでプレートを満たし、インキュベートした。室温で1時間インキュベートした。次にプレートを300μlの洗浄緩衝液で3回洗浄した。次に、それらをCan Get Signal Solution 2(TOYOBOカタログ番号:NKB-301)中の2000倍希釈したストレプトアビジン結合HRP(Invitrogen)100μlで満たし、室温で1時間インキュベートした。 300μlの洗浄緩衝液で5回洗浄した後、プレートに100μLのR&D TM B Substrate溶液(R&D Systems、カタログ番号:DY999)を充填し、室温で3分間インキュベートした。 50μlのH2SO4を添加することによって反応を停止させた。450nmでの吸光度をWallac ARVOTM X5(Perkin Elmer)によって測定した。
【0132】
[ヒト試料の免疫組織化学的分析]
この研究は東京医科大学の倫理委員会によって承認された。各患者の家族からインフォームドコンセントを得た後、組織学的脳サンプルを確立された手順の下で群馬老人医学研究病院において得た。臨床基準により患者はADと診断され、診断は剖検での神経病理学的分析により確認された。剖検時に、脳をPBS中の4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で固定し、パラフィン中に包埋し、次いで神経病理学的検査に供した。この研究で使用された大脳皮質と海馬は6人の散発性AD患者と、代表的な運動ニューロン特異的な神経変性疾患である、散発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の5人の患者のサンプルから得られた。
【0133】
スライスした切片を脱パラフィン処理し、PBSに再水和し、そしてANTIGEN UNMASKING SOLUTION(カリフォルニア州バーリンゲームのVector Laboratories)中で15分間、マスクを外した。 続いて、切片をヤギ正常血清およびTBS中0.3%Triton X-100を含むブロッキング溶液中で室温で20分間インキュベートし、次いで、1%BSAを含有するPBS中、陰性対照として5μg/ mlのマウスIgG1(R&D Systemsカタログ番号MAB002、ミネソタ州ミネアポリス)またはSH3BP5(Sab)モノクローナル抗体クローンPL-A23(サンタクルーズバイオテクノロジー、カタログ番号sc-135617、サンタクルーズ、カリフォルニア)と共に、4℃で3晩インキュベートした。免疫反応性は、TSA(Tyramide Signal Amplification)-プラスフルオレセインシステム(Perkin-Elmer、Waltham、MA)(Tyramide―Red法)を用いて可視化した。蛍光標識試料を蛍光顕微鏡(Biozero、KEYENCE、大阪、日本)で観察した。 蛍光画像はNIH Image J1.37vにより分析した。
【0134】
[ニューロンにおけるSH3BP5免疫蛍光強度の定量]
NIH Image 1.37vを使用して、SH3BP5免疫蛍光強度および選択されたニューロンの面積を定量した。ニューロンの1μm2(a)あたりの平均SH3BP5免疫蛍光強度を計算した。ニューロン周囲のニューロピル1μm2あたりの平均免疫蛍光強度も同時にバックグラウンド免疫蛍光として定量した(b)。 差し引かれた平均免疫蛍光強度(a-b)は、ニューロンの平均SH3BP5免疫蛍光強度として用いた。次いで、a-b値にニューロン面積を掛けて、ニューロンにおけるSH3BP5発現のレベルを推定した。無作為に10個のニューロンを選択し、試料あたり10個のニューロンにおける平均免疫蛍光強度を各試料について計算した。
【0135】
[統計分析]
すべてのデータは、Mac OSXソフトウェア用のPrism7(GraphPad、San Diego、USA)を用いて分析した。 細胞死実験におけるデータは平均値±標準偏差で示した。 他の全てのデータは平均値±SEMで示した。対応のないT検定(両側)を、組織学的実験およびELISA実験から得られたデータの分析に使用した。
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
PMD; 剖検されるまでの死後時間
*年齢の前の「より大きい(>)」を「等しい」と見做した場合、p<0.876。表S3の「年齢」を参照
p値が0.05より小さい(0.032)ため、年齢の分析の為に、ウェルチの修正を伴う対応のないT検定が採用された。
【0141】
【0142】
【0143】
ApoE:2つのアポリポタンパク質E対立遺伝子名が数字で示されている。
PMD: 剖検までの死後時間、B&Bステージ: Braak&Braakステージ。
2つのpossible AD症例はAD症例としてカウントされた。
全AD症例および非AD症例の平均±SEM年齢は、それぞれ78.5±0.9歳および86.3±1.4歳より大であった(対応のないT検定、年齢の前の「より大きい」を「等しい」と見做した場合はp<0.0001)。全AD症例および非AD症例の平均±SEM PMDは、それぞれ、11.7±1.8時間および11.5±2.1時間であった(対応のないT検定、p=0.96)。
【0144】
【0145】
側頭葉または後頭葉の外側錐体層の切片は、剖検されたADおよびALS患者から得た。CDR:臨床的認知症評価、NE:検査されていない。
全ALS患者およびAD患者の平均±SEM年齢は、それぞれ66.7±2.8および75.9±5.1歳であった(対応のないT検定、p=0.158)。
【0146】
【0147】
ApoE:2つのアポリポタンパク質E対立遺伝子名が数字で示されている。
PMD: 剖検されるまでの死後時間、B&Bステージ: Braak&Braakステージ。
全AD症例および非AD症例の平均±SEM年齢は、それぞれ79.9±2.9歳および79.4±1.3歳より大であった(対応のないT検定、年齢の前の「より大きい」を「等しい」と見做した場合はp<0.876)。全AD症例および非AD症例の平均±SEM PMDは、それぞれ12.7±3.0時間および16.7±3.1時間であった(対応のないT検定、p=0.368)。
【0148】
【0149】
段階的に増加する濃度の組換えタンパク質を測定(N=3)することによって標準的な用量反応線を作成した。ISF含有脳溶解液および血清中のCLSPCOLまたはwt-CLSPCOL濃度の測定には、10μLの間質液含有脳溶解液を含む90μLのPBS(x10 ISF溶解液)または2μLの血清を含む98μLのPBS(血清×50)をELISAにかけた(N=3)。段階的に増加する濃度の標準組換えタンパク質(GST-MycHisG、wt-CLSPCOL、およびCLSPCOL;濃度0.15~10nM)、×10 ISF溶解物、及び、×50血清についての実測の数値をAbs 450カラムに示した。次に、3つの数値の平均を計算し、平均Abs450列に示した。各平均数から生理食塩水の平均数を差し引くことによってDel平均数を得た。×10 ISF溶解物および×50血清のDel GST数は、CLSPCOLまたはwt-CLSPCOLのDel平均数からGST-MycHisG(陰性対照)のDel平均数を引くことによって得た。次に、ISF含有脳溶解物および血清中の組換えタンパク質の濃度を、標準的な用量反応線を用いて推定した(
図6a)。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係る、CLSP誘導体、ポリペプチド、増強又は保護剤、及び、融合タンパク質は、アルツハイマー病に関連する神経細胞の機能障害又は神経細胞死を抑制するための医薬組成物、例えば、アルツハイマー病に関連する記憶傷害又は神経変性を伴う疾病の予防または治療に用いられる医薬組成物の有効成分として有用である。
【0151】
本明細書中で引用された文献のリストを以下に示す。
[引用文献リスト]
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【配列表】