(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】地盤強化工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20241024BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20241024BHJP
C09K 17/32 20060101ALI20241024BHJP
C09K 17/40 20060101ALI20241024BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20241024BHJP
C09K 17/12 20060101ALI20241024BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E02D3/12 101
C09K17/02 P
C09K17/32 P
C09K17/40 P
C09K17/06 P
C09K17/12 P
C09K17/10 P
(21)【出願番号】P 2023198790
(22)【出願日】2023-11-24
【審査請求日】2023-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002216(JP,A)
【文献】特開2020-007897(JP,A)
【文献】特開2005-146275(JP,A)
【文献】特開2021-127616(JP,A)
【文献】特開2018-017112(JP,A)
【文献】特開2011-074591(JP,A)
【文献】特開2011-080224(JP,A)
【文献】特開2014-005617(JP,A)
【文献】特開2009-155855(JP,A)
【文献】特開2008-231769(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105386433(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C09K 17/02
C09K 17/32
C09K 17/40
C09K 17/06
C09K 17/12
C09K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁型グラウトと、微生物含有グラウトと、を有効成分とする地盤固結材を、地盤に注入して該地盤を固結させる地盤強化工法であって、
前記懸濁型グラウトがスラグおよび/またはフライアッシュと硬化剤を有効成分として含み、
該硬化剤が石膏および/または酸化マグネシウムを含み、
前記微生物含有グラウトが
、地盤中に存在するウレアーゼ細菌を採取、培養して得られた石灰化細菌
および栄養源を
含む培養液をカルシウム源と混合してなり、
前記懸濁型グラウトをA液とし、前記微生物含有グラウトをB液とし、
A液およびB液がいずれもそれ自体で固化可能なものであり、前記地盤中にA液を注入して
粗粒土に浸透させた後、該地盤中にB液を注入して、該地盤のうち
A液が浸透しきれなかった
細粒土中に
B液を浸透せしめ
ることによってA液がB液の担体となり、長期にわたりA液から
しみ出したカルシウムまたはマグネシウム成分と
B液とが反応し、該カルシウムまたはマグネシウム成分とB液との反応を促進して、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウム
の地盤
への析出
を促進させることを特徴とする地盤強化工法。
【請求項2】
前記地盤中に前記地盤固結材を、散布、注入、混合および高圧噴射のうちのいずれかまたは複数の手法で浸透させて、前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを該地盤中に析出させる請求項1記載の地盤強化工法。
【請求項3】
前記地盤固結材が、さらに、シリカ化合物および/または金属イオン封鎖剤を含む請求項1記載の地盤強化工法。
【請求項4】
前記地盤固結材が、さらに、水ガラス、
ポゾラン、セメントおよび炭酸化合物のうちのいずれかまたは複数を含む請求項1記載の地盤強化工法。
【請求項5】
前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの析出による改良効果を、非破壊試験によって確認する請求項1記載の地盤強化工法。
【請求項6】
前記非破壊試験として、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査を用いる請求項5記載の地盤強化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物代謝を用いたグラウト(以下、「微生物含有グラウト」と称する)による地盤改良の効果発現には長い時間を要し、かつ、強度が低く改良効果が不安定であるという問題を解消するために、スラグやフライアッシュ等の焼成されたシリカと硬化剤とを有効成分とする懸濁型グラウトを併用することによって、懸濁型グラウトによる大きな間隙部分の急速かつ確実な固結効果と、微生物による微細な間隙部分の地盤固結効果とを、共に得ることができるものとした地盤強化工法およびそれに用いる地盤固結材に関する。また、本発明は、近年、国家的課題となっている地球温暖化防止のために、セメントを用いないですむことによる低炭素地盤改良工法を可能にし、カーボンニュートラルに貢献するものである。
【0002】
さらに、本発明は、焼成されたシリカを主成分とする懸濁型グラウトの急速な高強度固結効果により、微生物含有グラウトによる固結の、浸透性は良いが強度が弱く、強度発現期間が不明瞭であるという課題を解決したものである。さらにまた、本発明は、セメントを含まない懸濁型グラウトに含まれるカルシウムやマグネシウムなどの多価金属化合物が、微生物含有グラウトによって生ずるCO2と反応して、不溶性の炭酸カルシウムを生成するという相互固結効果を発現する。さらにまた、本発明は、セメントによる高アルカリが微生物の働きを阻害する問題を防ぐために、スラグやフライアッシュなどの焼成されたシリカを含む懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとの相互効果を発現するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、セメントグラウトや水ガラスグラウトによって地盤を固結する注入工法は多く知られている。しかし、これらは、懸濁型グラウトの場合は浸透性が悪く、注入管周りの固結にとどまり、仮に広く注入する場合には注入圧力が高く、地盤変位を生じたりする欠点がある。また、水ガラスグラウトのようにゲル化を伴う注入材は、注入範囲が狭く、広範囲に固結しようとすると地盤隆起を生じやすい。また、近年、国家的課題となっている地球温暖化防止のためにセメントを含有しない地盤改良が望まれていることから、本出願人は特に、低アルカリ固結材を用いることにより、微生物代謝が限定されにくく低炭素の地盤改良工法を可能にし、カーボンニュートラルに貢献するものである。
【0004】
これに対し、本出願人は、地盤固結工法として、特許文献1等のように地盤中にシリカ化合物とイースト菌などの微生物を、栄養源とともに注入して地盤を固結する技術を開発している。しかし、固結強度が不十分で強度発現が遅く、かつ、地盤条件によって強度発現と改良効果が不明確という課題があった。
【0005】
また、本出願人は、特許文献3のように、現場で採取した微生物を培養して用いる方法も提案している。さらに、本出願人は、特許文献4のように、高強度を得るために現地に存在する石灰化細菌であるウレアーゼ菌を採取して培養する方法も提案している。しかし、これらはいずれも上記課題を解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4240501号公報
【文献】特許第4621634号公報
【文献】特許第4709201号公報
【文献】特許第5140879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微生物を用いた地盤固結方法は、特許文献1~4等に開示されているように、すでに開発されており、地盤の強度が増加することは明らかであるものの、その固結のメカニズムは微生物の種類や地盤条件、自然条件によって左右され、固結に到るまでの期間や強度が不明確であり、また、環境条件や地盤条件と強度との関係が把握しにくかった。そのため、液状化対策や地盤強化の設計には入れにくいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、微生物含有グラウトにおける、不安定な強度発現や所定の期間内に所定の効果を得る設計が不可能という欠点と、セメントを含まない懸濁型グラウトにおける、細粒土に浸透しにくいという欠点を、それぞれカバーし合って双方の特長を発現できる地盤強化工法およびそれに用いる地盤固結材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、微生物含有グラウトにおける不安定な強度発現や、所定の期間内に所定の効果を得る設計が不可能であるという問題を解決するために、低炭素グラウトである、セメントを含まない懸濁型グラウトとの併用に着目した。本発明によれば、セメントを含まない懸濁型グラウトにおける、所定の期間内に高強度の固結効果を得るという特性を活かしつつ、この懸濁型グラウトに微生物含有グラウトによる固結材の組成分の担体としての役割を持たせて、懸濁型グラウトが浸透しきれない微細な細粒土に微生物含有グラウトを浸透させ、緩やかに固結させて急速に地盤を固結させることを可能にした。すなわち、微生物含有グラウトにおける、浸透性は良いが固結が弱く、強度発現が遅く不明瞭であるという欠点と、上記懸濁型グラウトにおける、短期的に高強度を得られる反面、懸濁性であるところから細粒土には浸透しにくいという欠点を、それぞれカバーし合って両方の特長を発現できる地盤改良工法を開発したものである。
【0010】
また、上記懸濁型グラウトから遊離するカルシウムやマグネシウム成分が、微生物含有グラウトが生成するCO2と反応して不溶性のCaCO2やMgCO2を生成し、互いに一体化した固結体を形成できることを見出した。
【0011】
よって、本発明者らによるセメントを含まない懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとを組み合わせた地盤固結材は、その特性を効果的に用いれば、微生物による固化の不安定な強度発現が上記懸濁型グラウトによって確実に解決される一方、上記懸濁型グラウトのみでは改良することができない微細な間隙に対して、微生物含有グラウトによる浸透固結が可能である。
【0012】
すなわち、本発明の地盤強化工法は、懸濁型グラウトと、微生物含有グラウトと、を有効成分とする地盤固結材を、地盤に注入して該地盤を固結させる地盤強化工法であって、
前記懸濁型グラウトがスラグおよび/またはフライアッシュと硬化剤を有効成分として含み、該硬化剤が石膏および/または酸化マグネシウムを含み、
前記微生物含有グラウトが、地盤中に存在するウレアーゼ細菌を採取、培養して得られた石灰化細菌および栄養源を含む培養液をカルシウム源と混合してなり、
前記懸濁型グラウトをA液とし、前記微生物含有グラウトをB液とし、A液およびB液がいずれもそれ自体で固化可能なものであり、前記地盤中にA液を注入して粗粒土に浸透させた後、該地盤中にB液を注入して、該地盤のうちA液が浸透しきれなかった細粒土中にB液を浸透せしめることによってA液がB液の担体となり、長期にわたりA液からしみ出したカルシウムまたはマグネシウム成分とB液とが反応し、該カルシウムまたはマグネシウム成分とB液との反応を促進して、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの地盤への析出を促進させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の地盤強化工法においては、前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとを混合し、該微生物含有グラウトの組成分を該懸濁型グラウトに保持させて、前記地盤中に該懸濁型グラウトが浸透した後、該地盤のうち該懸濁型グラウトが浸透しきれなかった細粒地盤に該微生物含有グラウトが浸透して、該懸濁型グラウトと該微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを該地盤中に析出させることができる。
【0014】
また、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤中に前記懸濁型グラウトを注入して浸透させた後、該地盤中に前記微生物含有グラウトを注入して、該懸濁型グラウトと該微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを該地盤中に析出させることができる。
【0015】
さらに、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤中に前記地盤固結材を、散布、注入、混合および高圧噴射のうちのいずれかまたは複数の手法で浸透させて、前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを該地盤中に析出させることができる。
【0016】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤中に前記地盤固結材を、散布、注入、混合および高圧噴射のうちのいずれかまたは複数の手法で浸透させることを繰り返して、該地盤中における炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの析出量を増加させることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤中への、前記懸濁型グラウトの注入と、前記微生物含有グラウトの注入とを、同時にまたは交互に、1回または複数回繰り返して行うことによって、該懸濁型グラウトと該微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを該地盤中に析出させることができる。
【0018】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤固結材が、さらに、シリカ化合物および/または金属イオン封鎖剤を含むことが好ましく、水ガラス、ポゾラン、セメントおよび炭酸化合物のうちのいずれかまたは複数を含むことも好ましい。
【0019】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、前記地盤固結材のうち、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を有効成分とする配合液をA液とし、それ以外の成分をB液として、下記(1)~(3)のうちのいずれかの手順で、前記地盤中に、前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを析出させることができる。
(1)前記地盤中に、A液とB液との混合液を浸透させる。
(2)前記地盤中に、A液およびB液のうちのいずれか一方をあらかじめ浸透させた後、他方を浸透させる。
(3)上記(1)および(2)のいずれか一方または両方を繰り返して、前記地盤中に前記地盤固結材を浸透させる。
【0020】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、前記懸濁型グラウトと前記微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの析出による改良効果を、非破壊試験によって確認することができ、前記非破壊試験としては、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査を用いることができる。
【0021】
本発明の地盤固結材は、上記本発明の地盤強化工法に用いられ、前記石灰化細菌に加え、下記(A)~(E)のうちのいずれかまたは複数を有効成分とすることを特徴とするものである。
(A)生分解性有機物
(B)カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物
(C)土壌菌または生分解菌
(D)土壌菌または生分解菌の栄養源
(E)pH調整剤またはpH緩衝剤
【0022】
本発明の地盤固結材においては、前記カルシウム化合物が、カルシウムの塩若しくは水酸化物、有機化合物のカルシウム塩、または石膏のうちのいずれかまたは複数であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微生物含有グラウトおよびセメントを含まない懸濁型グラウトのそれぞれの欠点をカバーし合って双方の特長を発現できる地盤強化工法およびそれに用いる地盤固結材を実現できた。また、従来の薬液注入やセメント注入の場合は、加圧によって地盤変位したり、注入液が漏出したりする問題があるが、本発明においては低圧で注入または自然流下で固結できるため、構造物の変形や地盤変位、漏出が生じにくいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】現場土を用いた固結供試体の室内試験における一軸圧縮強さとS波速度Vsの関係、および、炭酸カルシウム量と一軸圧縮強さの関係を示すグラフである。
【
図2】養生日数とせん断波速度の関係の例を示すグラフである。
【
図3】固結ゾーンまたは固結予定ゾーンに、受信孔と発信孔を設置して、S波速度VsやP波速度Vpを測定する説明図である。
【
図4】注入現場における固結範囲と固結強度の把握に関する説明図である。
【
図5】細菌培養の一般的増殖曲線の例を示すグラフである。
【
図6】浸透距離に対応した一軸圧縮強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の地盤強化工法は、スラグおよび/またはフライアッシュ等の焼成されたシリカを主剤とし硬化剤を含む懸濁型グラウトと、微生物を含む微生物含有グラウトと、を有効成分とする地盤固結材を用いて、地盤を固結させるものである。
【0026】
ここで、微生物含有グラウトによる地盤固結が一般注入と異なる点は、以下のとおりである。
【0027】
(1)ゲル化を伴わないため、浸透性に優れ、広範囲を固結することができる。
(2)ゲル化を伴わないため、自然浸透が可能であり、地盤変位を生じにくい。
(3)長期にわたって、地盤強度を高めることができる。
(4)注入材またはそれを形成する組成分を繰り返し浸透させて、炭酸カルシウムの析出量を増加して強度を増大させることができる。
(5)炭酸カルシウムは環境上、極めて安全であるため、住宅地においても環境上問題を生じない。
(6)本発明において、水ガラスやシリカコロイド等のシリカ化合物を併用して不溶性珪酸カルシウムを形成し、炭酸カルシウムの耐久性や初期強度の発現、長期強度の増大の効果を向上させることができる。また、リン酸化合物を併用することによってリン酸カルシウムを析出させて、耐久性を向上させることができる。
(7)微生物含有グラウトにおける微生物として、外部から新たな微生物を地盤に導入するのではなく、現場の微生物を用いることができれば、極めて安全な地盤固結技術となる。
(8)微生物含有グラウトにより、炭酸カルシウムを形成する固結材の成分としては、すでに先行特許文献に記載されている組成分の他に、生分解性ポリマーや生分解性グラウトを挙げることができる。
【0028】
一方、微生物による地盤固結材を用いて、地盤中に炭酸カルシウムを析出して地盤を固結する際の課題は、以下のとおりである。
【0029】
(1)一般の注入材のようにゲル化を伴わないため、不安定な地盤に広範囲に浸透しても地盤変位を生じにくいという利点がある一方、固結に到るまで何日もかかるため、地下水によって固結する前に希釈されたり、流失されやすいという問題が生ずる。
(2)地盤は通常、不均質地盤で、大きな空隙や岩石、細かい土砂、風化が進行した岩盤から成り立っている場合が多く、浸透性の良い微生物の注入液は大きな空隙から流出しやすいという問題がある。
(3)浸透性は、地盤条件によって異なる。粗い地盤から成り立つ場合は、容易に浸透する一方、逸脱しやすい。従って、あらかじめ一次注入材を地盤に注入して均質化を図った後、溶液性注入材を浸透させることが望ましい。なお、岩盤の亀裂に対する浸透性についての本出願人の微細間隙への研究によれば、微細亀裂のある岩盤への浸透性について、微粒子セメントの浸透限界は0.22mmまでであり、シリカコロイドの浸透限界は0.05mmまでであった。従って、スラグなどの懸濁型グラウトの浸透限界は0.22mmであり、微生物含有グラウトでは0.05mm以下の微細間隙へも浸透し得るとみなしてよい。また、懸濁粒子の土粒子地盤への浸透性は、すでに知られているグラウタビリティの式によって判断することができる。
(4)本発明においては、セメントを含まない懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとを併用して、一回の注入で必要とされる強度を所定期間内で得ることができる。もちろん組成分を別々に送液して、または、繰り返して送液して、地盤中の炭酸カルシウムの生成を簡便かつ急速に行うこともできる。
【0030】
本発明においては、上記懸濁型グラウトが微生物含有グラウトの組成分の担体としての役割を果たし、長期にわたって細粒土にしみ出して固化するため、固結前の地下水による希釈や、地下水流による流失、不均質地盤における注入液の流失という問題を解決できる。また、不均質地盤を上記懸濁型グラウトで粗詰注入して均質化した上で、浸透性の良い微生物含有グラウトを注入して、注入目的を達することができる。
【0031】
従来の水ガラスグラウト等による注入では、注入中、注入材がゲル化時間に達すれば、流動性が失われて急激に圧力が上昇する。さらに、それ以上注入すれば、地盤が破壊されて地盤の弱体化あるいは地盤変位を来す。また、水ガラスが硬化剤の塩化カルシウムと接触すると、瞬時に両液のカルシウム分とシリカ分が反応して、流動性のないゲルを生じる。このため、注入範囲が狭く、また、繰り返して注入しても、破壊や地盤隆起を起こしてしまう。
【0032】
これに対して、微生物により炭酸カルシウムを形成する微生物含有グラウトは、極めて緩やかに反応し、液全体がゲル化しないので流動性が損なわれることはない。このため、そのまま注入しても全量が直ちに反応せず、そのまま地盤中に浸透する。但し、そのまま注入し続けるとどこまでも流出してしまうが、上記懸濁型グラウトと混合して注入すれば、または、あらかじめ上記懸濁型グラウトを注入した地盤に注入すれば、その領域の土粒子間隙に注入液が保持されたまま反応が進行する。
【0033】
したがって、本発明においては、上記懸濁型グラウトの組成分に付着する微生物含有グラウトが、上記懸濁型グラウトのカルシウムまたはマグネシウムと反応して微生物含有グラウトが生成するCO2と炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを形成するとともに長期にわたって固結し、細粒土中に浸透して、細粒土から粗粒土まで一体とした地盤改良が可能になる。また、地盤を変位させたり、注入液が逸脱しないようにしながら、広範囲を固結することができる。
【0034】
本発明におけるセメントを含まない懸濁型グラウトとは、焼成されたシリカを主剤とし、これとともにカルシウムやマグネシウムの水酸化物、酸化物、炭酸化物や水ガラス、アルカリ金属塩等の硬化剤を有効成分とするものである。本発明における焼成されたシリカとは、スラグ、フライアッシュ、ポゾラン、製紙スラッジ、下水汚泥焼却灰、天然アルミノシリケート、鉱物、火山灰、二和土、三和土、シラス、白土、凝灰岩、珪藻土、植物、焼却灰等の、天然または人工的に焼却過程を経たシリカをいう。これらは可溶性シリカの多くを含むシリカ質粒子であって、石膏、消石灰、生石灰、酸化マグネシウムなどのCaやMg化合物、セメントなどの懸濁型アルカリ剤、水ガラス可溶性アルカリ等の溶液型アルカリ剤、シリカコロイド等と反応して水和結合により強固な固結体を作る。特には、焼成されたシリカとしては、スラグおよび/またはフライアッシュを用いることが好ましい。ここで、スラグはセメントに比べてその生成時にCO2の発生が1/10程度になると考えられ、今日の国家的課題であるCO2低減に役立つものである。その他の組成分としては、ポルトランドセメント、低アルカリセメント、フライアッシュセメント等のセメント類、製紙スラッジ、ベントナイト等の粘土、多孔質シリカ、ホワイトカーボン等のシリカ、粘土、ポゾラン、カルシウムアルミネート、石膏、硫酸ナトリウムなどの無機硫酸塩を混合あるいは溶融したものや、スラグ、石灰等、繊維やセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)等の高分子化合物、多糖類が挙げられ、これらの組成分が反応してカルシウムやマグネシウムなどの不溶性シリカ化合物を形成するものが挙げられる。なお、本発明における上記懸濁型グラウトは、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物を単独若しくはそれらの混合物で有効成分として含有してもよく、または、地盤中に存在していたカルシウムまたはマグネシウムと、上記懸濁型グラウトのシリカ化合物とが反応して固化するものであってもよい。本発明においては、懸濁型グラウトが低アルカリ性であることが好ましく、硬化剤が低アルカリ性であることも好ましい。ここで、低アルカリ性とは、pH12以下を意味する。
【0035】
本発明におけるセメントを含まない懸濁型グラウトとしては、具体的には例えば、ジオポリマーグラウト(登録商標)(出願人による商標登録第6650587号)を用いることができる。
【0036】
また、本発明における微生物含有グラウトに用いる微生物としては、人体や環境に影響を与えにくいものならば使用可能であり、例えば、乳酸菌やイースト菌等の従来から食品に利用されている発酵菌や、一般の地盤中に多く存在する土壌菌、石灰化細菌等を用いることができる。
【0037】
本出願人は、特に、「どのような地盤にも存在する土壌バクテリア、特に、高い強度が得られる石灰化細菌によって炭酸カルシウムを形成して地盤を固結する」地盤強化工法を目指したものである。また、石灰化細菌による固結体は、他の細菌による固結体よりも高い強度が得られるという特徴がある。本発明における石灰化細菌は、地盤中に存在するウレアーゼ細菌を採取して、それを培養して用いることができる。
【0038】
石灰化細菌とは、広い意味では「炭酸塩を成長させるかまたはその成長を引き起こす細菌」と定義され、炭酸塩発生性細菌と言われるものであるが、狭い意味では「ウレアーゼ産生微生物とも称され、石灰化細菌が出すウレアーゼ酵素の触媒作用により尿素を分解して炭酸イオンを生成させるもの」である。カルシウム源(カルシウムイオン)の存在により炭酸カルシウムを形成する。
【0039】
石灰化細菌としては、バチルス、スポロサルシナ、スポロラクトバチルス、クロストリジウム、デスルホトマキュルムを含む属の一覧から選択される細菌が挙げられるが、中でも、カルシウム耐性が有り培養速度の速いスポロサルシナ・パストゥリが好ましい。なお、カルシウム耐性とは、カルシウム存在下でのウレアーゼ活性であり、例えば、石灰化細菌が石灰水または塩化カルシウム溶液中で生存でき、かつ、ウレアーゼ活性を有するかどうかを調べることによってわかる。
【0040】
図5は、細菌培養の一般的増殖曲線を示す図である。細菌や微生物を培養する場合、一般的に、
図5に示すような増殖曲線を描く。静止期培養の細胞を同じ組成の新鮮培地に移すと、増殖開始可能となる前に細胞の化学組成に変化が起る。この適応の時期が遅滞期である。次に細胞は対数的に増殖するが、この時期が対数増殖期である。しかし、細菌集団の増殖は通常の場合、利用可能な栄養源の消耗によるか、でなければ有毒代謝物の蓄積によって制限され、増殖し続けることはない。増殖速度が低下し、ついには増殖停止する。このような時期が静止期である。非増殖状態に置かれた細菌細胞は、細胞内エネルギー貯蔵物の欠如等によりついには死滅し始め、細菌集団における生細胞数は減少する。この時期が死滅期である。
【0041】
石灰化細菌を地盤注入材として用いる場合、できるだけ数多くの細菌を生きた活性状態で用いるのが好ましいことは言うまでもない。具体的には、
図5の増殖曲線において、対数増殖期の後半から静止期の範囲にある石灰化細菌である。したがって、本発明では、施工現場での石灰化細菌の培養による増殖は、この範囲に達するまで行うことが好ましい。この図中に太線で示す範囲のものを用いて地盤固結材を製造すれば、高品質の地盤固結材が得られる。
【0042】
石灰化細菌を培養し増殖させるには、本来、温湿度が管理された屋内の培養器で行うことが好ましい。施工現場は屋外であるため、天候や気候の影響を直に受ける。石灰化細菌の培養では特に培養温度が重要であるため、施工現場で培養する場合でも、培養液の温度を20~37℃にしておくことが好ましい。したがって、外気温が20℃以下となる冬場等でも上記範囲の温度が保てるよう、培養タンクは、培養液を加温できる加温手段を備えたものであることが好ましい。
【0043】
微生物含有グラウトにおける微生物の栄養源は、石灰化細菌等の微生物に栄養を与えて生存させ、更には、増殖させるために用いることができる。栄養源としては、好ましくは、土壌中の微生物によって代謝分解される糖類であり、例えば、グルコースやフラクトースなどの単糖類、スクロース、マルトースまたはガラクトースなどの二糖類、その他のオリゴ糖、デンプンやマルトデキストリンなどの多糖類、その他の糖類、有機物、塩類、pH調整のためのリン酸化合物などが挙げられる。中でも、幅広い微生物によって容易に代謝されるグルコースやスクロースを用いることが好ましい。微生物によって、または、栄養源によって代謝速度が変化するため、施工する地盤によって適宜選択する必要がある。
【0044】
尿素は(NH2)2COからなり加水分解して炭酸イオンを生成するので、炭酸イオン供給源として用いる。市販されている尿素培地が挙げられる。
【0045】
石灰化細菌による尿素の加水分解と、この加水分解により生成する炭酸イオンとカルシウム源(塩化カルシウム)からのカルシウムイオンとの反応による石灰化(炭酸カルシウムの形成)は、次式で表すことができる。
【0046】
【0047】
また、微生物含有グラウトにより不溶性塩を形成するアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の塩化物、微粒子石灰、および微粒子セメント群の中から選択される一種または複数種であり、好ましくは水溶性化合物であって、具体的には、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物が挙げられる。カルシウム化合物やマグネシウム化合物としては、例えば、カルシウムやマグネシウムの塩、酸化物、水酸化物、塩化物、セメント、石膏等が挙げられ、この中でも特に、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを形成する塩化カルシウムや水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム化合物が好ましい。
【0048】
なお、炭酸カルシウムには3つの異なった結晶形(カルサイト、アラゴナイト、バテライト)があり、常温・常圧のカルシウム溶液中からは、通常、カルサイトが析出するが、Mg2+やある種の有機成分を溶液中に少量添加すると、アラゴナイトやバテライトが析出する。アラゴナイトやバテライトは結晶が成長する際に顕著な方向性を有しているため、炭酸カルシウムの結晶形態を制御することができれば、地盤の力学特性や水理学特性の異方性を比較的自由に制御できる可能性がある。
【0049】
さらに、好ましくは水溶性化合物である、カルシウム塩やカルシウムの水酸化物等を含む微粒子石灰、微粒子セメントや石膏、アルミニウム化合物等も挙げられる。これら微粒子石灰や微粒子セメント、アルカリ土類金属としては、平均粒径が10μm以下、比表面積が4000cm2/g以上のものが好ましい。これらのアルカリ土類金属化合物は、単独で、または複数種を組み合わせて用いられる。アルカリ土類金属化合物の濃度は、特に限定されないが、1~30重量%が好ましい。
【0050】
特には、カルシウム源として、消石灰、スラグ、セメント水和物、塩化カルシウムや水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、カルシウムサッカロース等のカルシウム化合物などが好適に用いられ、例えば、増殖した石灰化細菌を含む培養液をカルシウム源と混合して、微生物含有グラウトとして用いることができる。
【0051】
本発明における炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの地盤中での析出は、地盤中に地盤固結材を、散布、注入、混合および高圧噴射のうちのいずれかまたは複数の手法で浸透させることによって、行うことができる。自然浸透またはポンプを用いてもよい。また、地盤中に地盤固結材を、散布、注入、混合および高圧噴射のうちのいずれかまたは複数の手法で浸透させることを繰り返すことによって、地盤中の炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの析出量を増加させて地盤を強化するといったことも可能である。さらに、地盤固結材の組成分のいずれかまたはその混合物を、現地の地盤と混合したり、構造部の基礎や土留構造物から地盤中に注入することによって、炭酸カルシウム/または炭酸マグネシウムを析出させることもできる。
【0052】
本発明に係る微生物含有グラウトとしては、ホワイトカーボンやシリカヒューム、粘土などの粉体を含有させた配合液を用いてもよく、これにより地盤中の間隙に粉体が留まることができ、それによって微生物含有グラウトが徐々に細粒土中に浸透して、固化することができる。
【0053】
上記のようにして得られる炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを主成分とする硬化物は、アルカリ分や酸類を溶出せず、全く公害性のない硬化物である。これは、ほぼ中性でありながら、長期的に鍾乳洞にみられる結晶構造を人工的に形成する。したがって、配合や施工法を工夫することによって、強度や、結晶構造の形成速度を促進させることができる。なお、本発明では、上述の固結材の水溶液を加温することにより、結晶構造の形成が一層促進され、強度増加を速くすることができる。
【0054】
本発明における微生物含有グラウトとしては、具体的には例えば、バイオグラウト(登録商標)(出願人による商標登録第4979671号)を用いることができる。
【0055】
また、本発明の地盤強化工法においては、地盤固結材に、さらに、シリカ化合物および/または金属イオン封鎖材を併用することで、耐久性や固結強度を向上させることもできる。
【0056】
シリカ化合物としては、水ガラスの他、イオン交換樹脂またはイオン交換膜を用いて水ガラス中のアルカリ分を除去して得られる活性シリカ、水ガラスのアルカリを酸で除去した酸性水ガラスの酸根やアルカリ金属をイオン交換樹脂、イオン交換膜で除去して得られる活性シリカ、活性シリカを濃縮して造粒したコロイダルシリカや、金属珪素などによるシリカコロイド等がある。また、地熱水由来のシリカコロイドもある。または、これらに水ガラスを混合したシリカ溶液でもよい。これらを用いることで、確実にゲル化させることができる。さらに、水ガラスに微量の酸を加え、コロイド化させたものを用いることで、ゲル化に要する時間を短縮することもできる。さらにまた、マイクロバブルグラウトのように、水またはシリカ溶液に微粒子気泡を混入したグラウトを用いることもできる。さらにまた、活性シリカを水ガラスまたは苛性ソーダで安定化させて一週間放置、熟成し、コロイドとしたものを用いることもできる。
コロイドは水ガラスよりも低アルカリ性であるため、コロイドとスラグとスラグの半分量以下のセメント量の場合は低アルカリ性になり、本発明に用いることができる。
【0057】
炭酸カルシウムは酸性液などによって溶けやすいが、リン酸化合物などの不溶性リン酸カルシウムを生成する。金属イオン封鎖材として、有機系金属イオン封鎖材を用いれば、土壌菌と反応して炭酸ガスを生成して炭酸カルシウムを形成し、カルシウムと金属イオン封鎖材が反応して、有機化合物の不溶性塩を形成する。この不溶性塩は酸に対して不溶性であるので、耐久性に優れている。また、無機系金属イオン封鎖材を併用することにより、酸性雨などの酸に対して炭酸塩が溶解しにくい不溶性塩を形成する。また、リン酸化合物などの無機系金属イオン封鎖材も同様の効果がある。
【0058】
金属イオン封鎖剤としては、テトラポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩(特にナトリウム塩が好ましい)、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩、酸性ピロリン酸塩等の縮合リン酸塩類、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、グルコン酸、酒石酸、クエン酸またはこれらの塩類等が挙げられ、実用的には縮合リン酸塩類が好ましい。
【0059】
また、リン酸化合物としては、リン酸、各種の酸性リン酸塩、中性リン酸塩、塩基性リン酸塩等が挙げられる。
【0060】
上述の金属イオン封鎖剤およびリン酸化合物はいずれか一方を単独で、または、両方をともに用いることができる。これらはカルシウム源等とともに、または、別々に地盤中に注入して、地盤中で炭酸カルシウムと反応させてもよい。また、水ガラスと併用してもよい。この場合、これらの含有量は、金属イオン封鎖剤が縮合リン酸塩類の場合には、これらの合計量または単独量が、水ガラスのNa2O量に対して、リン(P)として約1~30%の範囲であることが好ましく、また、金属イオン封鎖剤が上述のエチレンジアミン四酢酸等のリンを含有しない化合物である場合には、この化合物の含有量が水ガラスのNa2O量に対して約3~50%の範囲であることが好ましい。これらの含有量が上述の上限を越えると、水ガラスの部分ゲル化が起こったり、水ガラスが白濁状の不安定な状態となり、金属イオン封鎖剤やリン酸化合物を完全に溶解して、安定な状態を保つことが難しくなる。
【0061】
さらに、本発明の地盤強化工法において、地盤固結材には、さらに、水ガラス、ポゾラン、スラグ、セメントおよび炭酸化合物のいずれかまたは複数を併用することもできる。
【0062】
さらにまた、本発明の地盤強化工法においては、地盤固結材に、さらに、炭酸塩、炭酸水、炭酸ガスまたは酸素を用いることもできる。微生物の代謝作用の調整、および、シリカ化合物のゲル化時間の調整を行うことができる。
【0063】
本発明の地盤強化工法においては、具体的には、上記懸濁型グラウトおよび微生物含有グラウトを混合して地盤に注入するか、または、上記懸濁型グラウトを先行して地盤に注入し、その後、上記懸濁型グラウトでは浸透しえなかった範囲に微生物含有グラウトを注入して、地盤を固結させることができる。両者とも、それ自体が固結することを特徴とする。両者の固化は、上記懸濁型グラウトが溶出するカルシウムやマグネシウムと、微生物含有グラウトが生成するCO2とが反応して、カルシウムやマグネシウムの炭酸塩となって固化することにより行われる。または、微生物含有グラウトがカルシウムやマグネシウムを含むか、若しくは、地盤中に含まれるカルシウムやマグネシウムによって固化する場合も含むものとする。さらに、微生物含有グラウトの注入を、上記懸濁型グラウトの注入に先行して行うこともできる。
懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとを混合した場合は、懸濁型グラウトそのものが低アルカリ性(pH12以下)であり、それと微生物含有グラウトのpHを調整して、低アルカリ性以下とすること、すなわち、さらに中性に近づけることも可能である。懸濁型グラウトを注入後に微生物含有グラウトを注入した場合は、懸濁型グラウトの低アルカリ性からさらに中性側に移行させる配合を選定することもでき、より環境性に優れた注入材となる。また、低アルカリ性であることは、微生物の代謝作用に良好な影響を与える。
【0064】
さらに、地盤固結材または地盤固結材の複数の組成分の地盤中への注入は、同時に若しくは交互に、または、繰り返して行うことによって、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを地盤中に析出させることができるが、微生物含有グラウトを上記懸濁型グラウトと混合して、または、同時注入して、一回の注入で高強度の地盤改良が可能である。また、上記組成物としてカルシウム化合物の他にマグネシウム化合物を含む場合には、炭酸カルシウムやドロマイトを析出させることができる。
【0065】
例えば、懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとを混合し、微生物含有グラウトの組成分を懸濁型グラウトに保持させて、地盤中に懸濁型グラウトが浸透した後、地盤のうち懸濁型グラウトが浸透しきれなかった細粒地盤に微生物含有グラウトが浸透して、懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを地盤中に析出させることができる。
【0066】
また、地盤中に懸濁型グラウトを注入して浸透させた後、地盤中に微生物含有グラウトを注入して、懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを地盤中に析出させることができる。
【0067】
さらに、地盤中への、懸濁型グラウトの注入と、微生物含有グラウトの注入とを、同時にまたは交互に、1回または複数回繰り返して行うことによって、懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを地盤中に析出させることができる。
【0068】
さらにまた、上記懸濁型グラウトをA液とし、微生物含有グラウトの成分をB液とし、または、地盤固結材のうち、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を有効成分とする配合液をA液とし、それ以外の成分をB液として、または、上記懸濁型グラウトおよび微生物含有グラウトの成分のうちいずれかをA液とし、他の成分をB液として、下記(1)~(3)のうちのいずれかの手順で、地盤中に、懸濁型グラウトと微生物含有グラウトとの反応により生成した炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを析出させることもできる。
(1)地盤中に、A液とB液との混合液を浸透させる。
(2)地盤中に、A液およびB液のうちのいずれか一方をあらかじめ浸透させた後、他方を浸透させる。
(3)上記(1)および(2)のいずれか一方または両方を繰り返して、地盤中に地盤固結材を浸透させる。
【0069】
さらにまた、微生物含有グラウトと有機物を同時に注入することで、または、微生物が多く存在する地盤において施工する場合には有機物を地盤中に注入することで、微生物の呼吸量、代謝量つまり二酸化炭素の発生量を調節し、シリカ化合物のゲル化を促進あるいは調節することができる。また、二酸化炭素や酸素等の気体を同時に注入することで微生物の代謝量を調整し、ゲル化を促進あるいは調節することが可能である。
【0070】
シリカ化合物のゲル化促進剤または調整剤として、微生物に影響の少ないものを添加することで、ゲル化時間を調節することもできる。例としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩や、微量の酸、有機塩が挙げられる。また、カルシウム化合物やマグネシウム化合物などの多価金属化合物を添加することで、微生物の代謝で放出した炭酸ガスと多価金属化合物が反応して不溶性の多価金属炭酸塩を形成し、シリカ化合物のゲル化時間を調整できるのみならず、固結物の強度を増大させることもできる。多価金属化合物としては、塩化カルシウム等のカルシウム塩、塩化マグネシウム等の多価金属塩、カルシウム水酸化物、微粒子石灰、微粒子セメント、微粒子スラグ、石膏および炭酸カルシウムの群から選択される一種または複数種を用いることができる。地盤中に含まれる貝殻等のカルシウムや石灰等も反応に影響する。また、微生物が活性化するpHに調整する必要があるため、少量のpH調整剤を用いてもよい。さらに、ゲル化調整剤として、例えば、アルカリ金属の重炭酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、ピロリン酸塩、クエン酸、酒石酸およびリグニンスルホン酸ソーダ、ポリスルホン酸ソーダなどは、遅延剤としての効果がある。カルボン酸塩(オキシカルボン酸、ポリヒドロキシカルボン酸など)、グルコン酸塩(グルコン酸ナトリウムなど)、キレート剤(ポリオール化合物など)、その他の酸、塩、アルカリなどもゲル化の調整に用いることができる。
【0071】
ここで、カルシウムを含む地盤中に微生物、微生物の栄養源としての有機物、および、アルカリ土類金属化合物を投入した場合、地盤中のアルカリ土類金属が反応して、地盤を固結する。微生物は次式に示されるとおり、代謝活動において有機栄養源から二酸化炭素を生じる。
【0072】
【0073】
このとき、土壌中に溶解しているカルシウムまたは地盤中に注入したカルシウムと、微生物が生成した二酸化炭素が反応し、次式のとおり、土粒子間に炭酸カルシウムを析出・沈澱して、地盤を硬化する。
【0074】
【0075】
そこで、カルシウムを含む地盤においては、地盤中に微生物を注入することで、微生物の排出する二酸化炭素により、地盤中のカルシウムが析出し地盤を固結することができる。さらに、有機栄養源を注入することで、有機栄養源の種類や量により微生物の代謝速度が変化し、二酸化炭素の排出量の変化に伴いカルシウム塩の析出量が変化することから、地盤の硬化時間および、強度を調整できる。地盤においてカルシウム溶解量が少ない場合や、地盤を高強度に改良する場合においては、さらに、アルカリ土類金属化合物を地盤中に注入し、カルシウム塩の析出量を多くすることもできる。
【0076】
また、微生物の多く存在する地盤においては、有機栄養源により地盤中の微生物の代謝を調整することによって、地盤中のカルシウムや注入したカルシウムと反応し、カルシウム塩を析出させることができる。この場合のカルシウムを含む地盤とは、貝殻や石灰等が地盤中に存在し、または、溶解してカルシウムイオンとして地盤中に存在するものである。
【0077】
(試験例)
下記の表1~5に示す各配合に用いる材料の例を、以下に示す。実施例1,2,4が懸濁型グラウト、実施例3,5が微生物含有グラウトの組成を示す。
酸化マグネシウム:比重3.65,
3号水ガラス:比重1.41、シリカ濃度29w/w%、モル比2.9,
1号水ガラス:比重1.35、シリカ濃度21w/w%、モル比2.0,
コロイダルシリカ:比重1.21、シリカ濃度30w/w%,
消石灰:比重2.5,
スラグ:比重2.9、ブレーン値8000,
石膏:比重2.16,
イースト菌:日清フーズ株式会社製、日清スーパーカメリヤ,
グルコース:栄養源
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
なお、微生物含有グラウトでシリカ溶液を用いる場合は、コロイダルシリカでなく水ガラスを用いてもよく、シリカ化合物でもよい。適宜、水で希釈してもよい。また、使用材料の比率も適宜変動させてよい。
【0084】
実施例1は、ゲルタイムが200分で固化した配合である。
実施例2は、ゲルタイムが50分で固化した配合である。
実施例3は、微生物含有グラウトを用いた配合である。シリカを含有する注入材のような全体が固結する注入材でないため、ゲルタイムの測定はできなかったが、沈殿物が数分で発生した。
実施例4は、ゲルタイムが75分で固化した配合である。
実施例5は、ゲルタイムが1000分で固化した配合である。実施例5を実施例3の代わりに使用することもできる。この場合は、懸濁型グラウトの低アルカリ性からさらに中性側に移行させる配合を選定することもでき、より環境性に優れた注入材となる。
【0085】
(試験1)
1.試験方法
土中への浸透試験として、100cmのプラスチック製モールドに、6号珪砂を90cm充填した(相対密度60%、透水係数=1.5×10-2cm/s)。注入装置を用い、次いで、水で飽和させた。
【0086】
次に、実施例1の配合を、モールドの下部より浸透させた。また、もう一つのモールドには、実施例1の配合を浸透させた後に、実施例3の配合を浸透させた。それぞれ28日目に10cm毎に裁断し、一軸圧縮強度の測定を行った。その結果を、表6および
図6に示す。
【0087】
【0088】
(微生物含有グラウトの製造例)
まず、培養液中での石灰化細菌の培養・増殖を行った。培養・増殖は、培養タンク内に、栄養源として無菌水1リットル当たり、ヘプトン1g、ブドウ糖1g、塩化ナトリウム5g、リン酸水素二ナトリウム1.2g、リン酸二水素カリウム0.8gを添加したものを100リットル入れ、攪拌翼で攪拌後、さらに、40%尿素溶液5ml/リットルと、石灰化細菌としてS.パストゥリ1g/リットルを添加して48時間攪拌して行った。なお、培養・増殖は25~35℃の範囲で温度調整して行った。このようにして、培養液を得た。
【0089】
その後、さらに、カルシウム源として酢酸カルシウム2000gを添加して攪拌し、微生物含有グラウトを得た。
【0090】
得られた微生物含有グラウトを、地盤中に繰り返し10回注入して、
図1,2,4に示す試験結果を得た。
【0091】
本発明の地盤強化工法における、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの析出による改良効果は、非破壊試験によって確認することができる。その場合の非破壊試験としては、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査などを用いることができる。
【0092】
本発明の地盤強化工法は、強度および浸透特性に関わる以下の特性を持つことから、本発明による地盤改良効果の把握には、弾性波速度検層が極めて有効である。
【0093】
(ベンダーエレメントによる一軸圧縮強さと弾性波速度との関係)
以下に、具体的に説明する。
図1は、本発明の地盤強化工法により固結した豊浦砂供試体における一軸圧縮強さ(28日強度)と、ベンダーエレメント法によるS波速度との関係を示す。
図2は、養生日数とせん断波速度との関係の例を示す。
【0094】
図3は、固結ゾーンまたは固結予定ゾーンに、受信孔と発信孔を設置して、S波速度VsやP波速度Vpを測定する説明図である。注入孔を受信孔、発信孔として、S波速度VsやP波速度Vpを測定してもよい。
【0095】
室内試験ではベンダーエレメント法によって、固結供試体の両端に発信部と受信部を設置して、S波速度VsやP波速度Vpを測定するが、現地においては、表面波探査や速度検層によってS波速度VsやP波速度Vpを測定する。
【0096】
本発明の地盤強化工法は、形成された炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムの量で強度がほぼ一義的に決まることから、炭酸カルシウム量およびS波速度VsやP波速度Vpを知ることによって、改良効果を推定できるという効果を持つ。
【0097】
図4に、現場土を用いた固結供試体の室内試験における一軸圧縮強さとS波速度Vsとの関係、および、炭酸カルシウム量と一軸圧縮強さとの関係を示す。注入地盤におけるA地点とB地点におけるS波速度の測定値をプロットした。この結果より、A地点およびB地点における一軸圧縮強さを推定できる。また、その地点における炭酸カルシウムの量も推定できる。
【0098】
このようにして、注入現場における固結範囲と固結強度を把握することができる。
図4の例では、A地点およびB地点において目標のS波速度Vsを満たし、したがって設計Vsを満たしていることがわかる。
【0099】
また、室内試験において、その一軸圧縮強さは、炭酸カルシウムの充填率と含有量とS波速度やP波速度の関係を求めておけば、現場におけるS波速度やP波速度の測定値より、地盤中における充填量や組成の状況を知ることができる。この装置を用いて、水酸化カルシウム水溶液(50g/リットル)を一次注入した後、微生物含有グラウトを3回繰り返し注入した。
図6は、浸透距離に対応した一軸圧縮強度を示す。この一軸圧縮試験の結果から、
図1より、各浸透距離における固結体のせん断波速度を知ることができる。また、地盤中に填充させた炭酸カルシウムの量を知ることができる。
【0100】
さらに、注入前後の注入地盤の貫入試験値やコアサンプリングによる供試体の強度試験値とその地点のせん断波速度や強度の推定値と比較することによって、非破壊試験結果の解析に役立てることができる(
図4)。
【0101】
さらにまた、注入前に受信部と発信部を設置しておけば(
図3)、注入中においてリアルタイムで地盤における浸透状況を把握して、リアルタイムで注入量の補正やカルシウム源および微生物含有グラウトの量を補正することができる。養生に伴い変化するS波速度やP波速度を非破壊にて測定することにより、最終的に目的とする改良効果が得られたかどうかを判断することができる。
【0102】
以上のように、本発明における地盤固結材の流動特性と注入設計と注入効果を把握して、設計に役立てることができる。
【0103】
本発明を適用することが好適な施工現場としては、液状化対策が必要な地盤、止水が必要な地盤、強度増加が必要な軟弱地盤などが挙げられ、本発明の地盤強化工法を用いることにより、従来の注入工法に比べて装置が少なく、簡易に地盤改良を行うことができるといった効果が得られる。地盤固結材の注入は、従来の地盤注入技術を用いて行えばよく、特に限定されない。
【要約】
【課題】微生物含有グラウトにおける、不安定な強度発現や所定の期間内に所定の効果を得る設計が不可能という欠点と、スラグやフライアッシュ等の焼成されたシリカを主剤とし、硬化剤を含む懸濁型グラウトにおける、細粒土に浸透しにくいという欠点を、それぞれカバーし合って双方の特長を発現できる地盤強化工法およびそれに用いる地盤固結材を提供する。
【解決手段】焼成されたシリカを主剤とし硬化剤を含む懸濁型グラウトと、微生物を含む微生物含有グラウトと、を有効成分とする地盤固結材を用いて、地盤を固結させる地盤強化工法である。
【選択図】なし