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特許7576357銅被覆アルミニウム線材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】銅被覆アルミニウム線材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/02 20060101AFI20241024BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241024BHJP
   B21C 1/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01B5/02 A
H01B13/00 501E
H01B13/00 501B
B21C1/00 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023505312
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008429
(87)【国際公開番号】W WO2022190942
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021040009
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 章弘
(72)【発明者】
【氏名】北口 仁
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 安男
(72)【発明者】
【氏名】平田 和人
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-39477(JP,A)
【文献】国際公開第2019/193960(WO,A1)
【文献】特開平05-285690(JP,A)
【文献】特開2005-248318(JP,A)
【文献】特開昭62-001850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/02
H01B 13/00
B21C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材と、
前記アルミ線材の表面を被覆する銅薄膜と
を備え、
銅薄膜の占積率は、0.2%以上4%以下の範囲であり、
JIS R 3255に準拠したスクラッチ試験に基づく前記アルミ線材と前記銅薄膜との間の密着性は、10mN以上を満たす、銅被覆アルミニウム線材。
【請求項2】
前記銅薄膜の占積率は、0.2%以上1%未満の範囲である、請求項1に記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項3】
前記銅薄膜の占積率は、0.3%以上0.55%以下の範囲である、請求項2に記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項4】
前記密着性は、20mN以上100mN以下の範囲を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項5】
前記密着性は、50mN以上100mN以下の範囲を満たす、請求項4に記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項6】
前記アルミニウムは、99.9%以上99.99999%以下の範囲の純度を有する、請求項1~5のいずれかに記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項7】
前記アルミニウム合金は、アルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リチウム(Li)およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金である、請求項1~5のいずれかに記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項8】
前記アルミ線材と前記銅薄膜との界面に不働態酸化被膜を有しない、請求項1~7のいずれかに記載の銅被覆アルミニウム線材。
【請求項9】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材にイオンプレーティング法により銅薄膜を被覆し、銅被覆アルミニウム線材を製造する方法であって、
銅蒸発源を備えた真空チャンバ内に、外径0.1mm以上1.5mm以下の範囲を有するアルミ線材が巻回された第1のドラムから、前記アルミ線材が少なくとも一対のリターンロールを介して交差回転するようにして第2のドラムに巻き取らせることが可能となり、かつ、前記少なくとも一対のリターンロール間を渡る前記アルミ線材と前記銅蒸発源の中心との間の距離が500mm以上1000mm以下となるように、前記アルミ線材を設置することと、
電子ビーム加熱により前記銅蒸発源から銅を蒸発させ、イオン化することと、
前記第1のドラムおよび前記第2のドラムに10Vより大きく800V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加することと、
前記アルミ線材を1m/分以上15m/分未満の速度で前記第1のドラムから前記少なくとも一対のリターンロールを介して交差回転させながら前記第2のドラムに巻き取らせ、イオン化した銅イオンを前記アルミ線材に衝突させ、銅薄膜を形成することと
を包含する、方法。
【請求項10】
前記負の電圧を印加することは、50V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加することである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記負の電圧を印加することは、200V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加することである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記銅薄膜を形成することは、前記アルミ線材を1m/分以上5m/分以下の速度で巻き取らせることである、請求項9~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記アルミニウムは、99.9%以上99.99999%以下の範囲の純度を有する、請求項~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記アルミニウム合金は、アルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リチウム(Li)およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金である、請求項9~12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記銅を蒸発させ、イオン化することに先立って、アルゴンイオンを用いたイオンボンバードメント処理によって前記アルミ線材の表面を洗浄することをさらに包含する、請求項9~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記イオンボンバードメント処理は、1Pa以上10Pa以下の範囲の真空チャンバ内の圧力で行う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記銅薄膜を形成することを繰り返すことをさらに包含する、請求項9~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記銅薄膜を形成することによって得られた銅被覆アルミニウム線材を伸線処理することをさらに包含する、請求項9~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記伸線処理は、超硬ダイスまたはダイヤモンドダイスを用いた引き抜き加工である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記引き抜き加工の前、後または時に、前記銅被覆アルミニウム線材を300℃以上500℃以下の温度範囲で1秒以上5分以下の時間、焼鈍する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅被覆アルミニウム線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは比重が銅の約30%と軽くかつ電気伝導度もある程度高い。現在、自動車に搭載されるワイヤーハーネス(電源供給や信号通信に用いられる複数の電線)などには細い純銅線が使われているが、燃費の効率化のために軽量なアルミ線に置き換えることが望まれている。
【0003】
しかしながら、アルミ線の実用化においては大きく3つの課題がある。第1は電気伝導度を高めるための高純度化とともに強度が著しく低下してしまうということ、第2はアルミの表面はナノスケールの強固な不働態酸化膜で覆われているためはんだ付けが容易でないということ、第3にアルミは電位差の大きい金属とともに雨水等の水分に接触すると腐食(電食)するために裸線のままでは使いにくいということである。これらの課題を克服するため、太径の純銅管の中にアルミ棒を挿入して伸線加工した銅/アルミクラッド線が開発され、既に市販されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1によれば、銅/アルミクラッド線においては大きな加工度を確保した塑性加工法により純銅を被覆するため、線材の断面あたりの純銅の占積率を小さくすることが難しく、そのため、軽量というアルミの利点を最大限に生かすことができず、広い普及には至っていない。
【0005】
細径のアルミ線に純銅を薄く電気メッキする手法もあるが、アルミは非常に酸化し易い材料であるため、活性化処理によりアルミ表面の不働態酸化皮膜の除去を行っても、その後の水洗時に水中のわずかな溶存酸素で皮膜が生じ、そのままめっきを行うと密着不良になる。これを改善するために、アルミ表面を活性化しながら同時に亜鉛皮膜を置換析出させるジンケート処理がアルミ線の処理として一般的に採用されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、特許文献2に記載の技術を採用すると、数キロメートル以上の長尺線への処理に膨大な時間がかかり現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-194439号公報
【文献】特開2000-113730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、密着性に優れ、軽量化した銅被覆アルミニウム線材、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による銅被覆アルミニウム線材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材と、前記アルミ線材を被覆する銅薄膜とを備え、銅薄膜の占積率は、0.2%以上4%以下の範囲であり、JIS R 3255に準拠したスクラッチ試験に基づく前記アルミ線材と前記銅薄膜との間の密着性は、10mN以上を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記銅薄膜の占積率は、0.2%以上1%未満の範囲であってもよい。
前記銅薄膜の占積率は、0.3%以上0.55%以下の範囲であってもよい。
前記密着性は、20mN以上100mN以下の範囲を満たしてもよい。
前記密着性は、50mN以上100mN以下の範囲を満たしてもよい。
前記アルミニウムは、99.9%以上99.99999%以下の範囲の純度を有してもよい。
前記アルミニウム合金は、アルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リチウム(Li)およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金であってもよい。
前記アルミ線材と前記銅薄膜との界面に不働態酸化被膜を有しなくてもよい。
本発明によるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材にイオンプレーティング法により銅薄膜を被覆し、銅被覆アルミニウム線材を製造する方法は、銅蒸発源を備えた真空チャンバ内に、外径0.1mm以上1.5mm以下の範囲を有するアルミ線材が巻回された第1のドラムから、前記アルミ線材が少なくとも一対のリターンロールを介して交差回転するようにして第2のドラムに巻き取らせることが可能となり、かつ、前記少なくとも一対のリターンロール間を渡る前記アルミ線材と前記銅蒸発源の中心との間の距離が500mm以上1000mm以下となるように、前記アルミ線材を設置することと、電子ビーム加熱により前記銅蒸発源から銅を蒸発させ、イオン化することと、前記第1のドラムおよび前記第2のドラムに10Vより大きく800V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加することと、前記アルミ線材を1m/分以上15m/分未満の速度で前記第1のドラムから前記少なくとも一対のリターンロールを介して交差回転させながら前記第2のドラムに巻き取らせ、イオン化した銅イオンを前記アルミ線材に衝突させ、銅薄膜を形成することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記負の電圧を印加することは、50V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加してもよい。
前記負の電圧を印加することは、200V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加してもよい。
前記銅薄膜を形成することは、前記アルミ線を1m/分以上5m/分以下の速度で巻き取らせてもよい。
前記アルミニウムは、99.9%以上99.99999%以下の範囲の純度を有してもよい。
前記アルミニウム合金は、アルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リチウム(Li)およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金であってもよい。
前記銅を蒸発させ、イオン化することに先立って、アルゴンイオンを用いたイオンボンバードメント処理によって前記アルミ線の表面を洗浄することをさらに包含してもよい。
前記イオンボンバードメント処理は、1Pa以上10Pa以下の範囲の真空チャンバ内の圧力で行ってもよい。
前記銅薄膜を形成することを繰り返すことをさらに包含してもよい。
前記銅薄膜を形成することによって得られた銅被覆アルミニウム線材を伸線処理することをさらに包含してもよい。
前記伸線処理は、超硬ダイスまたはダイヤモンドダイスを用いた引き抜き加工であってもよい。
前記引き抜き加工の前、後または時に、前記銅被覆アルミニウム線材を300℃以上500℃以下の温度範囲で1秒以上5分以下の時間、焼鈍してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銅被覆アルミニウム線材を製造する方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材にイオンプレーティング法により銅薄膜を被覆することができる。上述したように、銅イオンがアルミ線材に蒸着する領域を所定の範囲とすることにより、十分な衝突エネルギーとなるため、アルミ線材の表面の不働態酸化被膜を除去しつつ、銅薄膜を形成することができる。その結果、銅薄膜とアルミ線材との密着性に優れた銅被覆アルミニウム線材を提供することができる。
【0010】
また、少なくとも一対のリターンロールを用いて交差回転しながら蒸着するため、アルミ線材の表面に均一かつ薄く銅薄膜を被覆することができる。そのため、銅の占積率の小さな軽量化した銅被覆アルミニウム線材を提供することができる。また、アルミ線材の巻き取り速度を上述の所定の速度にすることにより、アルミ線材が断線することなく、長尺線に対しても歩留まりよく銅被覆アルミニウム線材を提供することができる。また、本発明の製造方法は、高純度の柔らかいアルミニウムに対しても適用することができるので、銅薄膜で被覆することによりアルミニウム線材全体の耐力を向上できる。そのため、極細伸線処理も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の銅被覆アルミニウム線材を示す模式図である。
図2】本発明の銅被覆アルミニウム線材を製造する製造装置の模式図である。
図3】本発明の銅被覆アルミニウム線材を製造する工程を示すフローチャートである。
図4】イオンプレーティング装置における蒸着領域を模式的に示す図である。
図5】イオンプレーティング法による銅薄膜が被覆される様子を示す模式図である。
図6】伸線処理を模式的に示す図である。
図7】例2の銅被覆アルミニウム線材の外観を示す図である。ここで、図7(A)は、銅被覆アルミニウム線材が第2のドラムに巻き取られている様子を示し、図7(B)は、伸線処理後の銅被覆アルミニウム線材の様子を示す。
図8】例2および例5の銅被覆アルミニウム線材の断面のSEM像を示す図である。ここで、図8(A)は、例2の銅被覆アルミニウム線材の断面SEM像を示し、図8(B)は、例5の銅被覆アルミニウム線材の断面SEM像を示す。
図9】例2、例5、例10、例11、例12および例14の銅被覆アルミニウム線材のスクラッチ試験の結果を示す図である。
図10】例2の銅被覆アルミニウム線材の伸線処理時の断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の銅被覆アルミニウム線材を示す模式図である。
【0014】
本発明の銅被覆アルミニウム線材100は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材110と、アルミ線材110を被覆する銅薄膜120とを備える。アルミ線材110が銅薄膜120で被覆されているため、耐環境性を有する。
【0015】
本発明の銅被覆アルミニウム線材100では、銅薄膜120の占積率(%)が、0.2%以上4%以下である。これにより、軽量化を可能とする。銅薄膜120の占積率(%)は、銅被覆アルミニウム線材100の全断面積に対する銅薄膜120の断面積の百分率である。銅薄膜120の占積率(%)は、好ましくは、0.2%以上1%未満の範囲である。これにより、さらに軽量化を可能にする。銅薄膜120の占積率(%)は、さらに好ましくは、0.3%以上0.55%以下の範囲である。この範囲であれば、密着性を維持しつつ、軽量化を可能にする。断面積とは、銅被覆アルミニウム線材100の長手方向に対して垂直な方向の断面の面積である。
【0016】
本発明の銅被覆アルミニウム線材100は、アルミ線材110と銅薄膜120との間に不働態酸化被膜を有しないため、JIS R 3255に準拠したスクラッチ試験に基づくアルミ線材110と銅薄膜120との間の密着性が、10mN以上を満たし、密着不良にならない。10mN以上であれば密着不良の懸念はないため上限は特に設定しないが、300mN以下であってもよい。
【0017】
密着性は、好ましくは、20mN以上100mN以下の範囲を満たす。この範囲であれば、密着性がより高く、銅薄膜120が剥離することなく、銅被覆アルミニウム線材100の耐力がより向上する。密着性は、より好ましくは、30mN以上100mN以下の範囲、さらにより好ましくは、50mN以上100mN以下の範囲を満たす。この範囲であれば、銅被覆アルミニウム線材100の耐力がさらに向上する。
【0018】
アルミ線材110は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であればよいが、アルミニウムは好ましくは99.9%以上99.99999%以下の範囲の純度を有する。本発明の銅被覆アルミニウム線材であれば、高純度のアルミニウム線材も断線することなく使用することができる。
【0019】
純アルミニウム以外にもアルミニウム合金も使用できるが、アルミニウム合金は、主成分としてアルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リチウム(Li)およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金であってもよい。
【0020】
アルミニウム合金を構成するアルミニウム以外の元素の含有量は、好ましくは0.1at%以上10at%以下であればよい。なお、この場合、Al以外に2種以上の元素が選択された場合であっても、それらの元素の合計含有量が上記範囲内であればよい。このような観点からアルミニウム合金において主成分とするAlの量は、90at%以上99.9at%未満であってよい。
【0021】
次に、本発明の銅被覆アルミニウム線材100を製造するに好適な製造方法を説明する。
【0022】
図2は、本発明の銅被覆アルミニウム線材を製造する製造装置の模式図である。
図3は、本発明の銅被覆アルミニウム線材を製造する工程を示すフローチャートである。
【0023】
本発明者らは、イオンプレーティング法を採用し、種々の条件を設定することにより、アルミ線材の不働態酸化被膜の除去と同時に銅薄膜を極薄にて形成できることを見出した。
【0024】
本発明の方法では、図2に示すイオンプレーティング装置を採用するが、図2で示す構成は例示であって、この構成に限定されないことに留意されたい。イオンプレーティング装置200には、真空チャンバ201と、真空チャンバ201内に設けられた電子銃202と、熱電子フィラメント203と、イオン化電極204とを備えたものを採用することができる。
【0025】
真空チャンバ201は、排気口を介して拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ等の真空ポンプによって真空引きが可能な状態になっている。真空チャンバ201には、ガス供給管205を介して、反応性ガス、放電洗浄用ガス(イオンボンバードメント処理用ガス)などを供給するようになっている。
【0026】
電子銃202は、ハースライナ206内に収容された蒸発源(ここでは銅金属)207を加熱して、蒸発させる。電子銃202は真空チャンバ201の外部に設けられた電子銃電源装置(図示せず)からの電力供給よって電子ビーム208を発生する。電子ビーム208は、偏向されて、ハースライナ206内の蒸発源に照射される。蒸発源207は加熱され、蒸発する。
【0027】
熱電子フィラメント203は、フィラメント加熱電源装置(図示せず)に接続され、交流電力が供給される。熱電子フィラメント203は、電力供給によって加熱され、熱電子を放出する。このような熱電子フィラメント203は、例えば、タングステン、モリブデン、タンタル等の金属からなる。
【0028】
イオン化電極204は、正の電圧が印加されるようになっている。熱電子フィラメント203からの熱電子はイオン化電極204に向かって進みながら、蒸発源207から蒸発した蒸発粒子(ここでは銅粒子)と衝突し、蒸発粒子をイオン化させる。イオン化された蒸発粒子(ここでは銅イオン)が対象物に付着し、薄膜が形成される。図2に示すように、イオン化した蒸発粒子の対象物への付着のタイミングを制御できるようシャッタ209が備えられていてもよい。また、形成された薄膜の厚さが測定できるよう膜厚計210が備えられていてもよい。このようなイオンプレーティング装置200は、既存のイオンプレーティング装置と同様であってよい。
【0029】
イオンプレーティング装置200は、さらに、第1のドラム211および第2のドラム212を収容する。第1のドラム211には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材110が巻回されており、第1のドラム211から第2のドラム212に巻き取らせることが可能な構成になっている。また、第1のドラム211および第2のドラム212には、電圧が印加できるようになっており、これにより、アルミ線材110が対象物となる。
【0030】
イオンプレーティング装置200は、さらに、第1のドラム211からのアルミ線材110が、交差回転しながら第2のドラム212に巻き取られるよう、少なくとも一対(一組)のリターンロール213を収容する。リターンロールが一対であれば、例えば、AからBへ進む間にアルミ線材の一方の面に銅薄膜が形成され、CからDへ進む間にもう一方の面に銅薄膜が形成される。2対以上のリターンロールを設けることにより、アルミ線材を被覆する銅薄膜の厚さをより効率的に制御できる。図2を用いて具体的に説明すると、AからBへ進む1個のリターンロール213とCからDへ進む1個のリターンロール213との組み合わせを、一対(一組)のリターンロール213と称する。そのため、図4に示すように、該組み合わせが5つ存在する場合、5対(5組)のリターンロール213が設けられていると称することになる。
【0031】
図2では、第1のドラム211から少なくとも一対のリターンロール213を介して第2のドラム212へアルミ線材が巻き取られる構成のイオンプレーティング装置200を説明したが、第2のドラム212から少なくとも一対のリターンロール213を介して第1のドラム211へ巻き取られるようにしてもよい。このようなイオンプレーティング装置200を用いて本発明の方法の各ステップを説明する。
【0032】
ステップS310:銅蒸発源207を備えた真空チャンバ201内に、外径0.1mm以上1.5mm以下の範囲を有するアルミ線材110が巻回された第1のドラム211から、アルミ線材110が少なくとも一対のリターンロール213を介して交差回転する(例えば、A→B→C→Dの順)ようにして第2のドラム212に巻き取らせることが可能となり、かつ、少なくとも一対のリターンロール213間を渡るアルミ線材110と銅蒸発源207の中心との間の距離が500mm以上1000mm以下となるように、アルミ線材110を設置する。アルミ線材110は、図1を参照して説明したアルミ線材と同様であるため説明を省略する。リターンロールは2対(2組)以上備える構成にすると、交差回転の回数が増大するため、アルミ線材に被覆される銅薄膜の厚さの制御に有利である。
【0033】
ステップS310において、アルミ線材110が設定されると、真空チャンバ201内を真空引きする。このときの真空度は、好ましくは、1×10-9Pa以上1×10-5Pa以下の範囲であり、より好ましくは、1×10-7Pa以上1×10-5Pa以下の範囲である。
【0034】
図4は、イオンプレーティング装置における蒸着領域を模式的に示す図である。
図5は、イオンプレーティング法による銅薄膜が被覆される様子を示す模式図である。
【0035】
図4では、5組のリターンロール213を備えたイオンプレーティング装置における蒸着領域を拡大して示す。蒸発源207の蒸発によって得られる蒸着領域410をハッチングで示す。後述するステップS320により形成され得る蒸発領域410に着目すると、蒸発源207の中心Pと、リターンロール213間に渡るアルミ線材110との間には、距離D1、距離D2および距離D3の3種類の長さがある。ここで、距離D1は最短距離であり、距離D2が最長距離となる。このような距離D1、距離D2、距離D3は、それぞれ、500mm以上1000mmの範囲を満たし、且つ、距離は、D1<D3<D2となっている。本願発明者らは、蒸着領域410をこのように限定することにより、銅イオン520がアルミ線材110に衝突すると、アルミ線材110の表面にある不働態酸化被膜510を衝突エネルギーにより除去しつつ、同時に銅粒子530からなる銅薄膜を形成することが分かった。この結果から、銅薄膜とアルミ線材との間の高い密着性を可能にすることが確認された。
【0036】
ステップS320:電子ビーム208加熱により銅蒸発源207から銅を蒸発させ、イオン化する。銅蒸発源207からの銅の蒸発ならびにイオン化は、イオンプレーティング装置200の電子銃202、熱電子フィラメント203、およびイオン化電極204によって行われる。
【0037】
ステップS320において、好ましくは、真空度は、1×10-4Pa以上1×10-2Pa以下の範囲にするとよい。これにより、銅蒸発量が制御されて、多くの銅粒子がイオン化されるので、銅薄膜の形成がさらに効率的に促進される。
【0038】
ステップS330:第1のドラム211および第2のドラム212に10Vより大きく800V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加する。これにより、ステップS320でイオン化した正の電荷を帯びた銅イオンが、負の電圧が印加されたアルミ線材110に付着できる。好ましくは、50V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加する。これにより、より効率的に銅イオンがアルミ線材110に付着する。より好ましくは、200V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加する。これにより、さらに効率的に銅イオンがアルミ線材110に付着する。
【0039】
ステップS340:アルミ線材110を1m/分以上15m/分未満の速度で第1のドラム211から少なくとも一対のリターンロール213を介して交差回転させながら第2のドラム212に巻き取らせ、イオン化した銅イオンを前記アルミ線材に衝突させ、銅薄膜を形成する。これにより、アルミ線材110の表面にある不働態酸化被膜を破壊及び除去しながら、表面に銅薄膜が形成されるので、銅被覆アルミニウム線材100(図1)が得られる。巻き取り速度が1m/分より遅いと、銅イオンの衝突によりアルミ線材の温度が上昇し、イオンプレーティング処理中にアルミ線材が断線する虞がある。巻き取り速度が15m/分以上の速さになると、アルミ線材に銅被覆がされない領域が生じ得る。
【0040】
好ましくは、アルミ線材110を1m/分以上5m/分以下の速度で巻き取る。これにより、不働態酸化被膜が除去された銅被覆アルミニウム線材が効率的に得られる。なお好ましくは、アルミ線材110を2m/分以上5m/分以下の速度で巻き取る。これにより、不働態酸化被膜を有しない銅被覆アルミニウム線材がさらに効率的に得られる。
【0041】
ステップS30の銅薄膜の形成を繰り返してもよい。例えば、アルミ線材110を第1のドラム211から第2のドラム212に巻き取った後、第2のドラム212を第1のドラム211へ、第1のドラムを第2のドラム212へと付け替えて、再度、ステップS30を行ってもよい。これにより、アルミ線材に被覆される銅薄膜の厚さを制御することができる。あるいは、アルミ線材110を第1のドラム211から第2のドラム212に巻き取った後、第2のドラム212からアルミ線材110を少なくとも一対のリターンロール213を介して交差回転させながら第1のドラム211へと巻き取りながら逆方向(例えば、図4のD→C→B→A)にステップS30を行ってもよいし、巻取り後に再度順方向(例えば、図4のA→B→C→D)にステップS30を行ってもよい。このような改変は本願明細書の範囲内である。このように、ステップS30の巻き取りの繰り返し、および/または、ステップS310における一対のリターンロール213の組数を適宜組み合わせることにより、用途に応じた厚さの銅薄膜をアルミ線材110にさらに効率的に被覆することができる。
【0042】
ステップS320、S330およびS340は、同時に行ってもよいし、ステップS340、次いでステップS320、S330の順に行ってもよい。
【0043】
ステップS310の後、ステップS320に先立って、アルゴンイオンを用いたイオンボンバードメント処理を行い、アルミ線材110の表面を洗浄してもよい。この場合、イオンボンバードメント処理をしながら、第1のドラム211および第2のドラム212に負の電圧を印加した状態で、第1のドラム211から少なくとも一対のリターンロール213を介して交差回転させながら第2のドラム212にアルミ線材110を巻き取らせればよい。これにより、アルミ線材110の表面を洗浄することができる。
【0044】
イオンボンバードメント処理において、好ましくは、真空度は、1Pa以上10Pa以下の範囲にするとよい。これによりアルゴンプラズマの生成がさらに効率的に促進する。イオンボンバードメント処理後、真空度を再度1×10-9Pa以上1×10-5Pa以下の範囲、より好ましくは、1×10-7Pa以上1×10-5Pa以下の範囲にした後、ステップS320を実施してよい。また、巻き取り速度に特に制限はないが、例えば、5m/分以上15m/分であってもよい。
【0045】
イオンボーバードメント処理において、好ましくは、第1のドラム211および第2のドラム212には、100V以上400V以下の範囲の大きさの負の電圧が印加されてもよい。これにより、アルゴンプラズマによる洗浄がさらに効率的に促進する。
【0046】
図6は、伸線処理を模式的に示す図である。
【0047】
ステップS340によって、銅被覆アルミニウム線材100が得られるが、得られた銅被覆アルミニウム線材100をさらに伸線処理してもよい。本発明の方法によれば、高純度の柔らかいアルミ線材110に対しても銅薄膜で被覆できるので、得られた銅被覆アルミニウム線材100の全体の耐力は増加している。このため、高純度のアルミ線材110に対しても伸線処理によって極細線化することが可能である。このような伸線処理は特に制限はないが、好ましくは、図6に示すように超硬ダイスまたはダイヤモンドダイスを用いた引き抜き加工である。これにより外径0.1mm以上1.5mm以下の範囲を有するアルミ線材110を、外径0.05mm以上0.1mm未満の範囲まで極細線化することができる。
【0048】
引き抜き加工前、引き抜き加工後、または、引き抜き加工時に銅被覆アルミニウム線材100を300℃以上500℃以下の温度範囲で1秒以上5分以下の時間焼鈍してもよい。これにより、引き抜き加工時に生じたひずみが除去されるので、アルミ線材110の割れやミクロな亀裂をさらに効率的に抑制できる。引き抜き加工および焼鈍は、図6に示すように、所望の外径となるまで複数回行ってよい。
【0049】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0050】
[例1~例24]
5組のリターンロール213(図4)を備え、銅蒸発源207(図2)(銅の純度99.999%)を収容したイオンプレーティング装置200(図2)を用いて、表1に示すアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミ線材110(図1)に銅薄膜を被覆し、銅被覆アルミニウム線材を製造した。
【0051】
真空チャンバ201(図2)に、図4に示すように距離D1、D2、D3が、それぞれ、500mm、1000mmおよび700mmとなるように、アルミ線材を設置した(図3のステップS310)。ここで、アルミ線材(図1)は第1のドラム211(図2)に巻回されており、アルミ線材が5組のリターンロール213を介して10回交差回転するようにして第2のドラム212(図2)に巻き取らせることが可能となり、かつ、5組のリターンロール213間を渡るアルミ線材110と銅蒸発源207の中心Pとの間の距離が500mm以上1000mm以下の範囲を満たす構造となるように設置した。次に、真空チャンバ201内の真空度が1×10-6Paとなるよう真空ポンプにより真空引きした。
【0052】
次いで、表1に示すように一部の例については、アルゴンイオンボンバードメント処理を行い、アルミ線材を洗浄した。詳細には、アルゴンガスを真空チャンバ201に導入し、圧力が1Pa以上10Pa以下の範囲となるようにした。第1のドラム211および第2のドラム212に240Vの大きさの負の電圧を印加し、アルゴンプラズマを発生させた。次いで、第1のドラム211から5組のリターンロールを介して第2のドラム212へアルミ線材を巻き取らせた(巻き替えさせた)。このときのアルミ線材の巻き替え速度は、10m/分とした。
【0053】
アルゴンイオンボンバードメント処理が終了後、電圧印加をやめ、真空チャンバ201の真空度が1×10-6Paとなるまで真空引きをした。次いで、第2のドラム212から第1のドラム211へと再度巻き取りをした。
【0054】
次に、電子ビーム208の加熱により銅蒸発源207を蒸発させ、イオン化した(図3のステップS320)。詳細には、熱電子電圧14V、熱電子電流80A、エミッション電流450mA、イオン化電圧50V、イオン化電流90Aであり、真空チャンバ201の真空度を1×10-3Paとし、銅の蒸発量を制御した。
【0055】
次に、第1のドラム211および第2のドラム212に表1に示す大きさの負の電圧を印加した(図3のステップS330)。アルミ線材110を表1に示す速度で第1のドラム211から5組のリターンロール213を介し10回交差回転させながら第2のドラム212に巻き取らせ、イオン化された銅イオンをアルミ線材110に衝突させ、銅薄膜を形成した(図3のステップS340)。
【0056】
次いで、表1に示すように一部の例については、銅薄膜の形成を繰り返した。表1において繰り返し回数が0とは、銅薄膜の形成(図3のステップS340)を1回、繰り返し回数が1とは、銅薄膜の形成を2回行ったことを意味する。
【0057】
銅薄膜の形成の繰り返しは、詳細には次のように行った。1回目の銅薄膜の形成が終了すると、電子ビーム加熱および第1のドラム211と第2のドラム212の電圧印加をやめ、真空チャンバ201内の真空度を1×10-6Paまで真空引きした。次いで、第2のドラム212から第1のドラム211に再度巻き取らせ、再度、上述の条件で電子ビーム加熱をし、負の電圧を印加し、表1に示す速度で巻取らせ、銅薄膜を形成した。
【0058】
次いで、表1に示すように一部の例については、伸線処理をした。伸線処理は、図6に示すように、ダイヤモンドダイスを複数回用いた引き抜き加工であった。引き抜き加工後に300℃で30秒焼鈍処理をした。
【0059】
このようにして得られた例1~例24の銅被覆アルミニウム線材の外観および断面を観察した。断面の観察には走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、TM3030Plus)または光学顕微鏡(株式会社ニコン製、ECLIPSE LV150)を用いた。SEM像から銅薄膜の厚さおよび銅の占積率を求めた。銅薄膜とアルミ線材との間の密着性をJIS R 3255に準拠したスクラッチ試験によって評価した。これらの結果を図7図10および表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】
【0062】
図7は、例2の銅被覆アルミニウム線材の外観を示す図である。
【0063】
図7(A)は、銅被覆アルミニウム線材が第2のドラム212に巻き取られている様子を示し、図7(B)は、伸線処理後の銅被覆アルミニウム線材の様子を示す。図7ではグレースケールで示すが、いずれも、線材表面は銅の光沢を示した。
【0064】
図8は、例2および例5の銅被覆アルミニウム線材の断面のSEM像を示す図である。
【0065】
図8(A)は、例2の銅被覆アルミニウム線材の断面SEM像であり、図8(B)は、例5の銅被覆アルミニウム線材の断面SEM像である。図8(A)によれば、アルミ線材と銅薄膜との界面には不働態酸化被膜がないことが分かった。一方、図8(B)によれば、アルミ線材と銅薄膜との界面に約10nmの厚さの不働態酸化被膜が観察された。図示しないが、例1~例4、例6~例10、例12~例14、例16~例24の銅被覆アルミニウム線材においても、アルミ線材と銅薄膜との界面には不働態酸化被膜は見られなかった。
【0066】
さらに表2の例2および例5の銅被覆アルミニウム線材のスクラッチ試験の結果を参照すると、例2の銅被覆アルミニウム線材の密着性は、例5のそれにくらべて顕著に高かった。これらから、本発明の方法は、アルミ線材の表面にある不働態酸化被膜を除去しつつ、銅薄膜を被覆するに好適な方法であり、アルミ線材と銅薄膜との間の高い密着性が得られることが示された。
【0067】
表2の例1~例3、例6~例10、例12~例14、例16~例24によれば、本発明の方法を実施することにより、銅薄膜の占積率が0.2%以上4%以下の範囲、好ましくは、0.3%以上0.55%以下の範囲であり、JIS R 3255に準拠したスクラッチ試験に基づくアルミ線材と銅薄膜との間の密着性が10mN以上、好ましくは、20mN以上100mN以下の範囲、より好ましくは30mN以上100mN以下の範囲、さらにより好ましくは、50mN以上100mN以下の範囲を満たす、銅被覆アルミニウム線材が得られることが示された。
【0068】
表2の例4、例8および例13の銅被覆アルミニウム線材の結果に着目すると、密着性は有するものの、製造時にアルミ線材が断線した。このことから、アルミ線材を1m/分以上15m/分未満の速度で巻き取ることが必要であることが示された。
【0069】
表2の例5、例11および例15の銅被覆アルミニウム線材の結果に着目すると、不働態酸化被膜を除去し、密着性を維持するためには、第1のドラムおよび第2のドラムに少なくとも10Vより大きい負の電圧を印加することが必要であることが示された。
【0070】
図9は、例2、例5、例10、例11、例12および例14の銅被覆アルミニウム線材のスクラッチ試験の結果を示す図である。
【0071】
表2および図9の密着性の結果によれば、200V以上700V以下の範囲の大きさの負の電圧を印加し、アルミ線を1m/分以上5m/分以下の速度で巻き取ることが好ましいことが分かった。
【0072】
図10は、例2の銅被覆アルミニウム線材の伸線処理時の断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0073】
図10によれば、例2の銅被覆アルミニウム線材の引き抜き加工における断面の変化を示し、左から外形が1.004mm、0.920mm、0.837mmであった。ダイスを用いて複数回引き抜き加工を行っても、銅薄膜は剥離することなく強固に密着していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、密着性に優れ、軽量化した銅被覆アルミニウム線材が提供されるので、電子機器、ケーブルの導体、編組線、各種モータ用コイル等の線材適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
100 銅被覆アルミニウム線材
110 アルミ線材
120 銅薄膜
200 イオンプレーティング装置
201 真空チャンバ
202 電子銃
203 熱電子フィラメント
204 イオン化電極
205 ガス供給管
206 ハースライナ
207 蒸発源
208 電子ビーム
209 シャッタ
210 膜厚計
211 第1のドラム
212 第2のドラム
213 リターンロール
410 蒸着領域
510 不働態酸化被膜
520 銅イオン
530 銅粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10