(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】昇降補助装置
(51)【国際特許分類】
B66F 19/00 20060101AFI20241024BHJP
B25H 3/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B66F19/00 C
B25H3/00 A
(21)【出願番号】P 2020170351
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】左武 康司
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110466(JP,A)
【文献】特開昭63-242899(JP,A)
【文献】特許第5318011(JP,B2)
【文献】特開昭61-162495(JP,A)
【文献】特開昭63-277199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 19/00
B25H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬型工具が取り付けられる昇降部と、上端に前記昇降部が取り付けられ、上下方向に伸縮可能な伸縮部と、前記伸縮部を伸長させるように付勢する付勢手段とを備え
、作業者が前記可搬型工具を持って昇降させる動作を補助するための昇降補助装置であって、
前記伸縮部が、互いに回転可能に取り付けられた
一対の上側リンク及び一対の下側リンクからなる4本のリンクを有するパンタグラフ機構を備え、
前記付勢手段が前記リンクに取り付けられ、
前記付勢手段が、隣接する一対のリンクに両端が取り付けられたバネであ
り、
前記昇降部及び前記可搬型工具の自重と前記バネによる前記伸縮部の伸長力とが釣り合った状態で、前記一対の上側リンク間の角度が70~100°の範囲である昇降補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具等の昇降を補助するための昇降補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の組立工場では、可搬型の電動工具やエア工具を、ワイヤリールやスプリングバランサで吊り下げ保持することがある。この場合、工具が上方に付勢されるため、工具を小さな力で持ち上げることができ、作業者の負担が軽減される。しかし、作業者の上方に工具を吊り下げるための空間が必要になると共に、工場の天井付近にワイヤリール等を固定する支持構造が必要となるため、設置に手間がかかる。
【0003】
そこで、床面に設置するタイプの工具の昇降補助装置が使用されることがある。例えば、下記の特許文献1に示されている電動工具用補助装置は、ベースプレートに垂直に立てた支柱に上下動可能に設けたハウジングと、ハウジングに水平にスライド可能に取り付けたスライドガイドとを備え、スライドガイドの端部に電動工具が取り付けられる。引き上げ用ワイヤを支柱の上端部に設けたローラに巻きかけて、その一端をハウジングに取り付け、他端を巻き取りバネに取り付ける。これにより、巻き取りバネにより電動工具が常に上方に付勢される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の電動工具用補助装置では、支柱の上端に、引き上げ用ワイヤを巻き掛けるためのローラを設ける必要があるため、その分、装置の高さが嵩む。また、ベースプレートに、巻き取りバネを取り付けるためのスペースが必要となるため、ベースプレートの大型化を招く。
【0006】
そこで、本発明は、工具等の昇降を補助する床面設置型の昇降補助装置のコンパクト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、対象物が取り付けられる昇降部と、上端に前記昇降部が取り付けられ、上下方向に伸縮可能な伸縮部と、前記伸縮部を伸長させるように付勢する付勢手段とを備えた昇降補助装置であって、前記伸縮部が、互いに回転可能に取り付けられた4本のリンクを有するパンタグラフ機構を備え、前記付勢手段が前記リンクに取り付けられた昇降補助装置を提供する。
【0008】
このように、本発明に係る昇降補助装置では、昇降部を昇降させる伸縮部をパンタグラフ機構で構成し、このパンタグラフ機構の隣接する一対のリンクに付勢手段を取り付けた。このように、付勢手段をパンタグラフ機構のリンクに取り付けることで、付勢手段を設置するための別途のスペースが不要になるため、昇降補助装置のコンパクト化が図られる。
【0009】
上記特許文献1の電動工具補助装置では、電動工具を降下させるほど、巻き取りバネの変形量が大きくなり、弾性反力が強くなる。従って、電動工具を下端付近まで降下させた状態で作業する際は、巻き取りバネの大きな弾性反力に抗して押し下げる必要があるため、作業がやりにくくなる。そこで、上記の付勢手段として、隣接する一対のリンクに両単が取り付けられたバネを設けることが好ましい。これにより、昇降部の降下に伴ってバネの弾性力が増大する一方で、パンタグラフ機構を左右に広げる力が増大するため、昇降部を降下させるために必要な力の増大が抑えられ、昇降部を低い位置まで降下させた状態での作業がやりやすくなる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、床面設置型の昇降補助装置をコンパクト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る昇降補助装置の正面図である。
【
図3】上記昇降補助装置の正面図であり、昇降部及び工具を降下させた状態を示す。
【
図6】他の実施形態に係るパンタグラフ機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1、2に、本発明の一実施形態に係る昇降補助装置1を示す。この昇降補助装置1は、対象物としての可搬型の工具100(電動工具やエア工具等)の昇降を補助するものである。昇降補助装置1は、床面に設置された基台2と、基台2の上に設けられた回転台3と、回転台3の上に立設された支柱4及びガイド棒5と、回転台3上で昇降可能な昇降部10と、上下方向に伸縮可能な伸縮部20と、伸縮部20を伸長させる付勢手段としてのバネ30とを備える。
【0014】
回転台3は、鉛直方向の回転軸3aを中心に回転可能に設けられる。昇降補助装置1には、回転台3を初期位置に復帰させる復帰手段が設けられる。本実施形態では、復帰手段として、回転台3を両回転方向で付勢するバネ6が設けられる(
図2参照)。
【0015】
昇降部10は、
図1に示すように、昇降プレート11と、昇降プレート11に対して、鉛直方向と交差する方向にスライド可能な状態で取り付けられたスライド部12とを備える。
【0016】
昇降プレート11には、内周にガイド棒5が挿入された昇降ガイド13(
図2参照)と、スライド部12のスライドをガイドするスライドガイド14が固定される。図示例では、
図1に示すように、支柱4の両側にガイド棒5が設けられ、昇降プレート11には、各ガイド棒5が挿入される一対の昇降ガイド13が設けられる。
【0017】
スライド部12は、スライドガイド14の内周に挿入されるスライド棒15と、工具100を取り付ける取付部16とを有する。図示例では、上下方向に離間した一対のスライド棒15が設けられる。各スライド棒15は、昇降プレート11に固定されたスライドガイド14の内周に挿入され、スライド棒15の軸心方向でスライド可能な状態で支持される。スライド棒15は、水平方向に対して、工具100側(
図1の右側)に行くほど若干上方に傾斜している。一方のスライド棒15には、ストッパ17が取り付けられる。取付部16は、工具100を所定の姿勢で保持する。例えば、工具100がナットランナ等の回転工具である場合、回転中心が鉛直方向となるように取付部16に取り付けられる。
【0018】
伸縮部20は、上下方向に並べて設けられた複数(図示例では5つ)のパンタグラフ機構21を有する。各パンタグラフ機構21は、互いに回転可能に取り付けられた4本のリンク(一対の上側リンク22及び一対の下側リンク23)を有する。一対の上側リンク22の上端同士、及び、一対の下側リンク23の上端同士は、回転軸24を介して連結される。各上側リンク22の下端と各下側リンク23の上端とは回転軸25を介して連結される。各パンタグラフ機構21の各上側リンク22と、その上方に隣接するパンタグラフ機構21の各下側リンク23とは、一本の直線状のリンクで形成される。これにより、全てのパンタグラフ機構21が連動して伸縮する。伸縮部20の下端に設けられた回転軸24は支柱4に固定される。伸縮部20の上端に設けられた回転軸24は、上下方向にスライド可能な状態で支柱4に取り付けられる。伸縮部20の上端の回転軸24は、昇降部10の昇降プレート11に取り付けられる。これにより、伸縮部20の伸縮により昇降部10が昇降する。
【0019】
バネ30は、各パンタグラフ機構21のリンク22、23に取り付けられ、各パンタグラフ機構21を上下に伸ばす方向に付勢する。図示例では、各パンタグラフ機構21の水平方向で隣接する一対のリンクに、バネ30が引張状態で取り付けられる。すなわち、各パンタグラフ機構21の一対の上側リンク22に上側のバネ30の両端が引張状態で取り付けられ、各パンタグラフ機構21の一対の下側リンク23に下側のバネ30の両端が引張状態で取り付けられる。
【0020】
バネ30により、伸縮部20が伸長する側に付勢される。このとき、昇降部10及び工具100の自重と、バネ30による伸縮部20の伸長力とが釣り合うように、バネ30の数、種類(バネ定数)、リンク22、23への取付位置等を調整することが好ましい。昇降部10及び工具100の自重と伸縮部20の伸長力とが釣り合った状態で、一対の上側リンク22間の角度(=一対の下側リンク23間の角度)が70~100°の範囲であることが好ましい。
【0021】
上記の昇降補助装置1に取り付けた工具100で作業を行う際には、作業者が工具100を持って所定の位置に配置する。例えば
図3に示すように、スライド部12をスライドさせて工具100を水平移動させると共に、伸縮部20を圧縮して工具100を降下させる。また、必要に応じて、昇降補助装置1の回転台3を回転軸3a周りに回転させる。
【0022】
このとき、バネ30で上側リンク22同士、及び、下側リンク23同士が接近する側に付勢されているため、伸縮部20が伸長する側に付勢され、この付勢力で工具100の自重が支持された状態となる。これにより、作業者の負担が軽減される。また、工具100がナットランナである場合、ナットを締め付ける際の反力による工具100の回転を昇降補助装置1で規制することができるため、作業者の負担がさらに軽減される。特に、工具100が、トルクを検知することで締め付け量を制御するナットランナである場合、上記のように工具100の回転を昇降補助装置1で規制することで、トルクの検知精度が高められ、ナットの締め付け量を高精度に管理できる。
【0023】
工具100を降下させる際には、バネ30の付勢力に抗して、昇降部10を押し下げる必要がある。具体的には、
図4に示すように、各パンタグラフ機構21の上下端の回転軸24を力F1で上下方向に圧縮することで、リンク23、24が回転しながら左右端の回転軸25が左右に広がり、バネ30が伸びる。このとき、パンタグラフ機構21を上下に圧縮する力F1の分力F1aが各リンク22、23を介して左右端の回転軸25に伝わり、この力F2aの合力F2により左右端の回転軸25が左右に広げられる。このパンタグラフ機構21を左右に広げる力F2が、バネ30の弾性力F3によりパンタグラフ機構21を左右に縮める力よりも大きくなると、バネ30が伸びて伸縮部20が上下に圧縮され、昇降部10及び工具100が降下する。
【0024】
昇降部10を降下させて伸縮部20が圧縮されると、
図5に示すように、各パンタグラフ機構21の上側リンク22間の角度θ(=下側リンク23間の角度)が大きくなる。この場合、バネ30の伸び量が大きくなるため、バネ30の弾性力F3が大きくなる。一方、上側リンク22間の角度θが大きいことで、パンタグラフ機構21を上下に圧縮する力F1が
図4と同じ大きさであっても、パンタグラフ機構21を左右に広げる力F2が
図4よりも大きくなる。このように、昇降部10を降下させるほど、バネ30の弾性力F3が大きくなるため、昇降部10を押し下げにくくなるが、これと同時にパンタグラフ機構21を左右に広げる力F2も大きくなる。この場合、バネ30の弾性力F3の増大が、パンタグラフ機構21を左右に広げる力F2の増大で吸収されるため、昇降部10を押し下げる力F1の増大が抑えられ、昇降部10を低い位置まで降下させた状態での作業がやりやすくなる。
【0025】
作業が完了し、作業者が工具100から手を離す(あるいは力を緩める)と、バネ30の弾性力により伸縮部20が伸長して、昇降部10及び工具100が上端位置(昇降部10及び工具100の自重とバネ30の弾性力とが釣り合う高さ)まで上昇する。また、工具100及びスライド部12の自重により、スライド部12及び工具100が傾斜方向下方側(
図1の左側)にスライドしてストッパ17とスライドガイド14とが当接し、
図1に示す初期位置に復帰する。また、バネ6の弾性力により回転台3が回転軸3a周りに回転して、
図2に示す初期位置に復帰する。
【0026】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、
図6に示すように、バネ30の両端を、上下に隣接するリンク22、23に取り付けてもよい。バネ30の一端が上側リンク22に取り付けられ、バネ30の他端が、その下方に隣接する下側リンク23に取り付けられる。バネ30は、圧縮状態で上下のリンク22、23に取り付けられ、伸縮部20を上下に伸ばす方向に付勢する。この他、伸縮部20を伸長させる付勢手段として、隣接するリンクの連結部(回転軸)に、回転量に応じて弾性力が増大するバネ(ねじりコイルバネ、板バネ等)を取り付けてもよい。
【0027】
本発明の昇降補助装置は、工具以外の対象物の昇降を補助する装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 昇降補助装置
2 基台
3 回転台
4 支柱
5 ガイド棒
6 バネ
10 昇降部
11 昇降プレート
12 スライド部
20 伸縮部
21 パンタグラフ機構
22、23 リンク
24、25 回転軸
30 バネ(付勢手段)
100 工具(対象物)