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特許7576391遠隔アーク放電プラズマ支援プロセスを有するPVDシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】遠隔アーク放電プラズマ支援プロセスを有するPVDシステム
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20241024BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20241024BHJP
   H05H 1/48 20060101ALI20241024BHJP
   H05H 1/50 20060101ALI20241024BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C23C14/35
C23C14/32 Z
H05H1/48
H05H1/50
H01L21/31 D
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019122235
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2020066801
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】16/169,776
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599006524
【氏名又は名称】ベイパー テクノロジーズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブライス アントン
(72)【発明者】
【氏名】ウラディミール ゴロコーフスキー
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
C23C 14/32
H05H 1/48
H05H 1/50
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲チャンバ壁、頂壁および底壁を有するコーティングチャンバであって、前記周囲チャンバ壁、前記頂壁および前記底壁が、コーティングキャビティおよびチャンバ中心を画定するコーティングチャンバと、
前記チャンバ中心に配置されたプラズマ源であって、第1の電源から電力供給される円筒形中央陰極ロッド、および該円筒形中央陰極ロッドを囲む複数の陰極ロッドを備え、該複数の陰極ロッドの各陰極ロッドは、前記周囲チャンバ壁と平行に整列した長手方向軸線を有する円筒形のマグネトロンであり、前記円筒形中央陰極ロッドがターゲットである、前記プラズマ源と、
コーティングすべき複数の基板を保持し、前記チャンバ中心から第1の距離で前記チャンバ中心の周りを回転できるようになっているサンプルホルダと
を備え、
前記複数の陰極ロッドの各陰極ロッドは、前記長手方向軸線を中心に回転できるようになっている、コーティングシステム。
【請求項2】
前記周囲チャンバ壁に近接して、前記チャンバ中心から第2の距離に配置された少なくとも1つの遠隔陽極をさらに備える、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項3】
前記複数の陰極ロッドは、~10本のロッド形状の陰極を含む、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項4】
複数のブロッキングシールドをさらに備え、該ブロッキングシールドが前記複数の陰極ロッド内の交互に配置された陰極ロッド対の間に配置される、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項5】
前記サンプルホルダと前記周囲チャンバ壁との間に配置された第1の分離シールドと、前記プラズマ源と前記サンプルホルダとの間に配置された第2の分離シールドとをさらに備える、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項6】
前記第1の分離シールドは外側金属メッシュスクリーンであり、前記第2の分離シールドは内側金属メッシュスクリーンである、請求項に記載のコーティングシステム。
【請求項7】
前記基板は、前記内側金属メッシュスクリーンと同じ電位にバイアスされている、請求項に記載のコーティングシステム。
【請求項8】
正端子および負端子を有するDC電源をさらに備え、前記負端子は前記第1の分離シールドに接続される、請求項に記載のコーティングシステム。
【請求項9】
金属メッシュの負に帯電した容器内で発生する中空陰極ガス状プラズマ内のイオン洗浄およびイオン表面調整に適合される、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項10】
プラズマ支援マグネトロンスパッタリング(PEMS)に適合される、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項11】
前記頂壁は、前記周囲チャンバ壁の頂縁部に位置する頂部フランジであり、前記底壁は、前記周囲チャンバ壁の底縁部に位置する底部フランジである、請求項1に記載のコーティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
少なくとも1つの態様では、本発明はアーク蒸着システムおよびそれに関する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着(PVD)および低圧化学蒸着(CVD)源は、コーティングの堆積および表面処理のために使用される。過去25年間にわたり、陰極アーク蒸着(すなわち、一種の物理的堆積)は、ジルコニウム、チタン、チタニウム、クロム、アルミニウム、銅、およびそれらの合金などの導電性ターゲット材料からの反応ならびに未反応コーティングの堆積のための高電離プラズマの信頼できる供給源として確立されている。アーク蒸発プロセスで生成された高電離プラズマおよび関連する電子ビームはまた、イオンスパッタリング、エッチング、注入、および拡散プロセスなどの表面処理技術において使用される。典型的な陰極アークコーティングプロセスでは、電気アークが陰極ターゲットから材料を蒸発させる。気化した材料は、次に基板上で凝縮してコーティングを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9,412,569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陰極アークシステムはうまく機能するが、そのようなシステムは典型的には1つまたは少数の用途に限定される。コーティングシステム、および特にアーク蒸着のための比較的高い資本経費のために、任意の所与のシステムが多くの異なる用途で稼働できることが望まれている。そのような用途には、スパッタリングのみ、陰極アーク蒸着のみ、スパッタリング+陰極アークの同時などが含まれる。
【0005】
したがって、改善された汎用性を有するコーティングシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1つの態様において、中央陰極ロッドを取り囲む複数のマグネトロンを備えるコーティングシステムを提供することによって従来技術の1つ以上の問題を解決する。コーティングシステムは、周囲チャンバ壁、頂壁および底壁を有するコーティングチャンバを備える。周囲チャンバ壁、頂壁および底壁は、コーティングキャビティおよびチャンバ中心を画定する。プラズマ源は、チャンバ中心に配置され、プラズマ源は、中央陰極ロッド、および中央陰極ロッドを囲む複数の陰極ロッドを備える。コーティングシステムは、コーティングすべき複数の基板を保持するサンプルホルダをも備える。特徴としては、サンプルホルダは、チャンバ中心から第1の距離でチャンバ中心の周りを回転できるようになっている。
【0007】
他の一実施形態では、外部磁気コイルを有するコーティングシステムが提供される。コーティングシステムは、周囲チャンバ壁、頂壁、および底壁を有するコーティングチャンバを備える。周囲チャンバ壁、頂壁、および底壁は、コーティングキャビティおよびチャンバ中心を画定する。プラズマ源は、チャンバの中央に配置され、プラズマ源は、中央陰極ロッドを備える。コーティングシステムは、複数のコーティングすべき基板を保持するサンプルホルダも備える。サンプルホルダは、チャンバ中心から第1の距離でチャンバ中心の周りを回転できるようになっている。第1の同軸磁気コイルは、コーティングチャンバの外側に配置され、第2の同軸磁気コイルは、コーティングチャンバの外側に配置される。
【0008】
有利には、上記のコーティングシステムは、いくつかの異なる用途に使用することができる。一例では、コーティングシステムは、中央陰極ロッドと、周囲チャンバ壁によって配置された遠隔陽極との間に確立された遠隔アーク放電による金属ガス状プラズマの電離と、分離シールドの内側で発生する中空陰極プラズマによってさらに強化される金属ガス状プラズマの電離の両方を伴うプラズマ強化マグネトロンスパッタリングに適合できる。別の用途では、コーティングシステムは、単独で、または分離シールド内で発生する高密度化された中空陰極プラズマによって強化されるマグネトロンスパッタリングと組み合わせて、陰極アークプラズマ蒸着に適合させることができる。別の用途では、コーティングシステムは、金属メッシュの負に帯電した容器内で発生する中空陰極ガス状プラズマ内のイオン洗浄およびイオン表面調整に適合させることができる。さらに別の用途では、コーティングシステムは、プラズマ強化マグネトロンスパッタリング(プラズマ支援マグネトロンスパッタリング、PEMS)に適合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】少なくとも1つの分離シールドおよび複数の陰極ロッドを含むコーティングシステムの概略断面図および上面図。
図2A】少なくとも1つの分離シールドおよび複数の陰極ロッドを含むコーティングシステムの概略断面図および側面図。
図2B図2Aの図に垂直な少なくとも1つの分離シールドを含むコーティングシステムの概略断面図および側面図。
図2C】スパッタリング中の複数の陰極ロッドの動作を示す概略図。
図3】外部磁気コイルを有するコーティングシステムの概略断面図および上面図。
図4A】平行ロッドから形成された分離シールドの側面図。
図4B】平行ロッドから形成された分離シールドの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、発明者らに現在知られている本発明を実施する最良の形態を構成する、本発明の現在好ましい組成物、実施形態、および方法について詳細に言及する。図は必ずしも縮尺通りではない。しかしながら、開示された実施形態は本発明の単なる例示であり、それは種々のそして代替の形態で具体化され得ることが理解されるべきである。したがって、本明細書に開示された特定の詳細は、限定として解釈されるべきではなく、単に本発明の任意の態様の代表的な根拠として、および/または当業者に本発明を様々に使用することを教えるための代表的な根拠として解釈される。
【0011】
特定の構成要素および/または条件はもちろん変化し得るので、本発明は以下に記載される特定の実施形態および方法に限定されないこともまた理解されるべきである。さらに、本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明する目的でのみ使用されており、決して限定することを意図していない。
【0012】
明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないと示さない限り、複数の指示対象を含むことにも留意されたい。例えば、単数形の構成要素への言及は、複数の構成要素を含むことを意図している。
【0013】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、または「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義語である。これらの用語は包括的かつオープンエンドであり、列挙されていない追加の要素または方法ステップを排除するもの
ではない。
【0014】
「からなる」という語句は、請求項に特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。この語句が前文の直後に続くのではなく、請求項の本文の文節に現れるときは、それはその文節で述べられている要素だけを限定し、他の要素は全体として請求項から除外されない。
【0015】
「から本質的になる」という語句は、特許請求の範囲を特定の材料またはステップ、ならびに特許請求される主題の基本的および新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0016】
用語「含む」、「からなる」、および「から本質的になる」に関して、これらの3つの用語のうちの1つが本明細書で使用されるが、本開示および特許請求の主題は他の2つの用語のいずれかの使用を含み得る。
【0017】
本出願を通して、刊行物が参照される場合、これらの刊行物の開示全体がこれによって参照により本明細書に組み込まれ、本発明が属する最新技術をより完全に説明する。
【0018】
図1図2A図2Bおよび図2Cを参照すると、中心陰極の周りに分布した複数の陰極ロッドを有するコーティングシステムの概略図が提供されている。コーティングシステム10は、中央コーティングキャビティ14を画定するコーティングチャンバ12を含む。改良形態では、コーティングチャンバ12は、周囲チャンバ壁16、頂壁18、および底壁20を含む。この文脈において、「頂」および「底」は、コーティングチャンバがその設計位置、すなわち基板をコーティングするために使用されるべき向きに配置されているときの相対位置を指す。チャンバ中心22は、周囲壁16に対してチャンバのほぼ中心にある位置である。さらなる改良形態では、周囲チャンバ壁16は、円形の断面を有する円筒形である。周囲壁16は、頂縁部24と底縁部26とを含む。頂壁18は頂縁部24に隣接し、底壁20は底縁部26に隣接する。改良形態では、頂壁18は、周囲チャンバ壁の頂縁部24に位置する頂部フランジであり、底壁20は、周囲チャンバ壁の底縁部26に位置する底部フランジである。プラズマ源30は、チャンバ中心に配置されている。サンプルホルダ32は、複数のコーティングすべき基板34を保持する。サンプルホルダ32は、チャンバ中心から第1の距離dでチャンバ中心の周りに方向fに沿って回転可能である。
【0019】
図2Aおよび図2Bに示すように、プラズマ源30は、中央陰極ロッド60と、中央陰極ロッド60を囲む中央コイル62とを含むことができる。中央コイル62は、陰極ロッド60の周りに同軸に取り付けられている。陰極ロッド60は、電源64によって電力供給され、一方、中央コイル62は、電源66によって電力供給される。制御システム68を使用して、陰極ロッド60および中央コイル62を流れる電流を制御することができる。通常、流れる電流は50~2000Aである。
【0020】
さらに、図1図2A図2Bおよび図2Cを参照すると、中央陰極の周りに分布した複数の陰極スパッタリングロッドを含むコーティングシステムの概略図が提供されている。これらのロッドは、マグネトロンスパッタリング用のマグネトロンとして有利に使用することができる。この変形例では、コーティングシステム10は、プラズマ源30を囲む複数の陰極ロッド72、74、76、および78(例えば、中央陰極ロッド60および中央コイル62)を含む。一変形例では、複数の陰極ロッドは、周囲チャンバ壁と平行に整列した長手方向軸線aを有する1~10個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個)のロッド状陰極を含む。別の一改良形態では、複数の陰極ロッドは、周囲チャンバ壁と平行に整列した長手方向軸線aを有する偶数個(例えば、2、4、6、8個など)のロッド状陰極を含む。図3は、4個の補助陰極ロッドがある状況を示す。典型的には、複数の陰極ロッドのうちの各陰極ロッドは、長手方向軸線aを中心に回転可能である。隣接するロッドは、同じ方向または反対方向(すなわち、時計回りまたは反時計回り)に回転させることができる。一改良形態では、複数のブロッキングシールド82、84が、複数の陰極ロッド内の交互になった対の陰極ロッド間に配置される。
【0021】
図2Cに示すように、電流は円筒形マグネトロン源の軸に沿って流れることができ、各隣接する対の陰極ロッドに沿った電流は反対方向IおよびIに向けられる。この場合、集束磁界はマグネトロンの軸に沿って流れる線形電流によって発生し、この磁界の磁力線は、プラズマ源装置からブロッキングシールド82、84を通ってコーティングチャンバ内のコーティングすべき基板に向かって金属蒸気アークプラズマを収束させるプラズマ源の軸に垂直な平面内にある。このコーティング堆積において、ブロッキングシールド82、84は、マグネトロンスパッタリング源に沿って伝導される直線電流によって発生する磁力線に沿って配置されることが好ましく、それは正に帯電したイオンをコーティングチャンバの蒸着領域内のコーティングすべき基板に向けてバッフルと陰極アーク源との間の領域から遠ざかるように追いやる。
【0022】
一改良形態では、コーティングシステム10は、1つ又は複数の分離シールドを備える。第1の分離シールド40は、チャンバ中心から第2の距離dでチャンバ中心の周りに配置されている。典型的には、第2の距離dは、第1の距離よりも大きい。あるいはまた、第2の距離は、第1の距離よりも小さい。第1の分離シールド40は、通常負に帯電される。この目的のために、システム10は、正端子44と、第1の分離シールド40に接続されるか、またはRF電源47に接続される(この場合、負の自己分極電位が中空陰極容器内側にRF中空陰極効果を生じさせる)負端子46とを有するDC電源42を含む。真空システム48は、コーティングチャンバ12と流体連通しており、コーティング堆積中に真空を維持するために使用される。以下により詳細に説明される変形形態では、遠隔陽極58は、第1の分離シールド40によって確立された容器から離れて移動されるチャンバ中心から第3の距離dに配置される。
【0023】
第1の分離シールド40は、中心に位置する金属蒸気プラズマ源と基板34の両方を囲む中空陰極容器を確立することができる。それは、分離シールドを有さないシステムと比較して、コーティング蒸着プロセスの全段階((i)中空陰極容器内で発生する中空陰極ガス状プラズマ内のイオン洗浄およびイオン表面調整段階、(ii)中空陰極容器によって生成される中空陰極プラズマ雲内にマグネトロンスパッタリングが提供される場合のプラズマ支援マグネトロンスパッタリング(PEMS)モード、(iii)陰極アーク源の円筒形陰極と、チャンバ壁によって配置された遠隔陽極との間に確立された遠隔アーク放電による金属ガス状プラズマの電離と、コーティング蒸着領域内の中央に配置されたプラズマ源と基板34の両方を囲む負に帯電した金属容器の内側で発生する中空陰極プラズマによってさらに強化される金属ガス状プラズマの電離の両方を伴うプラズマ強化マグネトロンスパッタリング、(iv)陰極アークプラズマ蒸着モード単独、または負に帯電した中空陰極容器で発生する高密度中空陰極プラズマによって強化されるマグネトロンスパッタリングと組み合わせた陰極アークプラズマ蒸着モード)の間に、負に帯電した第1の分離シールドの内側の領域内の密度および電子温度ならびに高エネルギー電子の濃度を増加させることを可能にする。
【0024】
一変形形態では、コーティングシステム10は、第2の分離シールド50をさらに含む。第2の分離シールド50は、チャンバ中心から第1の距離dより小さい第4の距離dに配置される。さらなる一改良形態では、基板は、第2の分離シールド50と同じ電位にバイアスされる。この目的のためにDC電源52を使用することができる。一改良形態では、第1の分離シールド40および第2の分離シールド50は、それぞれ独立に金属メッシュスクリーンである。典型的には、第1の分離シールド40は、外側金属メッシュスクリーンであり、第2の分離シールド50は、内側金属メッシュスクリーンである。典型的には、外側メッシュスクリーンおよび内側メッシュスクリーンは、それぞれ独立して1mm~50mmの開口部を有する。一改良形態では、外側メッシュスクリーンおよび内側メッシュスクリーンは、それぞれ独立して5mm~20mmの開口部を有する。ここで、コーティングすべき基板は、基板を周囲チャンバ壁から分離する第1の分離シールドと、基板を中央陰極ロッドから分離する第2の分離シールドとによって確立された容器内に入れられる。1mmより小さい開口部は、プラズマが金属メッシュ壁を横切って流れるのを阻止することができ、一方、50mmより大きい開口部は、中空陰極効果による高密度プラズマの生成を軽減することができる。
【0025】
第2の分離シールド50が存在する場合、基板34を周囲壁16から分離する第1の分離シールド(例えば、外側メッシュスクリーン)と、基板34を中央に配置されたプラズマ源から分離する第2の分離シールド50との間に確立された負のDCパルス通電金属メッシュ容器に、基板34は入れられる。基板を金属メッシュスクリーンに単に電気的に接続することによって基板を第1の分離シールド40および/または第2の分離シールド50と同じ電位にバイアスを掛けることができるか、あるいはまた、基板34のバイアス電位を独立した基板バイアス電源(図示せず)によって提供され得る金属メッシュスクリーン容器の電位と異なるものにすることができる。
【0026】
変形形態では、第1の分離シールド40は、接地されたチャンバ壁から内側領域を完全に分離する必要はない。例えば、分離シールドを取り除いた状態で、容器の頂部および底部を完全にまたは部分的にチャンバに開放することができる。あるいはまた、第1の分離シールド40および/または第2の分離シールド50は、部分的に開口部なしで金属シートから製造することができる。例えば、金属メッシュ容器の頂部壁および底部壁は、開口部のない金属シートから作製することができ、またはチャンバ壁に開口することができる。
【0027】
図3Aおよび図3Bに示す別の一改良形態では、第1の分離シールド40および第2の分離シールド50の一方または両方は、典型的には1mm~50mmの隣接ロッド54間の距離dを有する複数の平行ロッドを含む。クロスバー56を用いてロッド54をチャンバ中心22の周りに保持することができる。
【0028】
上述のように、コーティングシステム10は、チャンバ中心から第1の距離dおよび第2の距離dよりも大きい第4の距離dに配置することができる遠隔陽極58をさらに含むことができる。一改良形態では、システム10は、周囲壁16に沿って分布された1つ以上の追加の遠隔陽極54をさらに含む。周囲壁16は、遠隔陽極の位置のための凹部60をオプションで含むことができる。遠隔陽極の存在は、特許文献1に記載されているように、コーティングシステムを遠隔アーク援用マグネトロンスパッタリング(RAAMS)モードで操作することを可能に、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
図4を参照すると、外部同軸磁気コイルを有するコーティングシステムの概略図が提供される。この変形形態では、図2Aおよび図2Bに示すコーティングチャンバ12のキャビティ内に配置されている中央コイル62は存在しない。その代わりに、同軸磁気コイルが、コーティングチャンバ12の外部であるが周囲壁16に近接して配置されている。例えば、図5は、コーティングチャンバの外部の第1の壁に近接して配置された第1の同軸磁気コイル90およびコーティングチャンバの外側の第2の壁に近接して配置された第2の同軸磁気コイル92を示す。
【実施例
【0030】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を例示する。当業者は、本発明の趣旨および特許請求の範囲内にある多くの変形形態を認識するであろう。
【0031】
実施例1 TiNコーティングのRAAMS蒸着。
4つの円筒形マグネトロンおよび中央に配置された円筒形陰極アーク源を備えた図1に示されるコーティングシステムが、このコーティング蒸着プロセスに使用される。マグネトロンと陰極アーク源の両方は、チタンターゲットを備える。イオンクリーニングの初期段階では、プラズマ生成ガスとしてのアルゴンが、1~10mTorrの範囲のガス圧まで真空チャンバ内に導入される。一次アーク放電は、陰極アークターゲットの表面とマグネトロン源の間に配置された接地シールドとの間の機械的トリガによって点火される。次いで、遠隔アーク放電は、円筒形陰極ターゲットと真空コーティング蒸着チャンバの壁によって配置された遠隔陽極との間で点火される。一次アークの電流は140Aに設定され、一方、その電圧は約25V~約30Vの範囲内で振動している。遠隔アークの電流は400Aに設定され、一方、その電圧は約60V~約80Vの範囲内で振動している。遠隔アークの電流は陰極ターゲットからシェブロンシールドを通り抜けて伝播し、これは真空アークプラズマの重い成分(金属イオン、原子、およびマクロ粒子)に対して透過性はないが、遠隔アーク放電の電子流は円筒形陰極ターゲットからコーティングチャンバ壁によって配置された遠隔陽極に向かって移動させることができる。コーティングすべき基板は、回転テーブル上に載せられ、それにより、それらは、コーティングチャンバの中心の周りに、そして同時にそれら自身の軸の周りに回転することが可能になる。-300Vのバイアス電圧が、コーティングすべき基板を有する回転テーブルに印加される。イオン洗浄段階を30分間続け、続いて遠隔アーク援用マグネトロンスパッタリング(RAAMS)蒸着段階を行う。蒸着段階の開始時に、窒素をチャンバに添加して、2~5ミリトールの範囲の圧力で約30%がN/残りがアルゴンの混合物を作る。マグネトロンは、マグネトロンスパッタリングターゲットの約5W/cmの電力密度を有するマグネトロン電源によってオンにされる。TiNコーティング蒸着段階中の基板バイアスは100Vに低減される。5μm厚TiNコーティングの蒸着のために、TiNコーティングの蒸着は3時間続く。
【0032】
実施例2 TiN/DLC 2‐セグメントコーティングのRAAMS蒸着
4つの円筒形マグネトロンおよび中央に配置された円筒形陰極アーク源を備えた図1に示されるコーティングシステムが、このコーティング蒸着プロセスに使用される。マグネトロンと陰極アーク源の両方は、チタンターゲットを備える。金属メッシュケージは、ケージと基板との等しい電位を維持するために、コーティングすべき基板を有する回転テーブルに電気的に接続されている。ケージおよび回転テーブルは、スイッチを介してDCバイアス電源および高電圧DCパルス電源に接続されているので、これら2つの電源のいずれかは、コーティング蒸着プロセスの異なる段階でコーティングすべき基板を有する金属ケージおよび回転テーブルに接続することができる。イオン洗浄の初期段階では、プラズマ生成ガスとしてのアルゴンが、1~10ミリトールの範囲のガス圧まで真空チャンバ内に導入される。一次アーク放電は、陰極アークターゲットの表面とマグネトロン源の間に配置された接地シールドとの間の機械的トリガによって点火される。次いで、遠隔アーク放電は、円筒形陰極ターゲットと真空コーティング蒸着チャンバの壁によって配置された遠隔陽極との間で点火される。一次アークの電流は140Aに設定され、一方、その電圧は約25V~約30Vの範囲内で振動している。遠隔アークの電流は400Aに設定され、一方、その電圧は約60V~約80Vの範囲内で振動している。遠隔アークの電流は陰極ターゲットからシェブロンシールドを通り抜けて伝播し、これは真空アークプラズマの重い成分(金属イオン、原子、およびマクロ粒子)に対して透過性はないが、遠隔アーク放電の電子流は円筒形陰極ターゲットからコーティングチャンバ壁によって配置された遠隔陽極に向かって移動させることができる。コーティングすべき基板は、回転テーブル上に載せられ、それにより、それらは、コーティングチャンバの中心の周りに、そして同時にそれら自身の軸の周りに回転することが可能になる。DCパルス電源をケージから切り離し、DCバイアス電源をケージに接続して、イオン洗浄段階中にコーティングすべき基板を有する回転テーブルに-300VのDCバイアス電圧を印加する。イオン洗浄段階を30分間続け、続いて遠隔アーク援用マグネトロンスパッタリング(RAAMS)蒸着段階を行う。蒸着段階の開始時に、窒素をチャンバに添加して、2~5ミリトールの範囲の圧力で約30%がN/残りがアルゴンの混合物を作る。マグネトロンは、マグネトロンスパッタリングターゲットの約5W/cmの電力密度を有するマグネトロン電源によってオンにされる。TiNコーティング蒸着段階中の基板バイアスは100V DCに低減される。1.5μm厚TiNコーティングセグメントの蒸着のために、TiNコーティングの蒸着は1時間続く。TiNコーティングセグメントの蒸着段階が完了した後、マグネトロンの電源を切り、反応性ガス雰囲気としてのアルゴン/窒素混合物をアセチレンと置換して全圧を15ミリトールとする。DCバイアス電源をケージから切り離し、DCパルスバイアス電源をケージに接続すると同時に、コーティングすべき基板を有する回転テーブルに接続する。-5kVの振幅および30kHzの周波数を有する負のDCパルス電圧をケージおよび回転テーブルに印加して、頂部DLCコーティングセグメントの蒸着中に中空陰極強化高密度プラズマ雲を確立する。DLCセグメントの蒸着は4時間続き、その結果、厚さ5μmのDLC頂部セグメント層を蒸着する。
【0033】
実施例3 TiSiNCナノ複合材料コーティングのRAAMSー陰極アークハイブリッド蒸着
4つの円筒形マグネトロンおよび中央に配置された円筒形陰極アーク源を備えた図1に示されるコーティングシステムが、このコーティング蒸着プロセスに使用される。マグネトロンと陰極アーク源の両方とも、例1と同じチタンターゲットを備えている。調節可能なベネチアンバッフルが、対向する2対のマグネトロンの2つのマグネトロン間に使用され、一方、マグネトロンの隣接する対のマグネトロン間には、図1に示すように固体金属シールドが設置される。イオン洗浄の初期段階では、プラズマ生成ガスとしてのアルゴンが、1~10mTorrの範囲のガス圧まで真空チャンバ内に導入される。一次アーク放電は、陰極アークターゲットの表面とマグネトロン源の間に配置された接地シールドとの間の機械的トリガによって点火される。イオン洗浄の段階では、ベネチアンバッフルはわずかに開いており、中央に配置されたプラズマ源とチャンバ壁との間のコーティング蒸着領域内への陰極アークの重い成分の伝播を阻止しながら、円筒形陰極ターゲットとチャンバの壁によって配置された遠隔陽極との間に確立された遠隔アーク放電に沿ってベネチアンバッフルのアレイを通って電子流を自由に伝播させる。次いで、遠隔アーク放電は、円筒形陰極ターゲットと真空コーティング蒸着チャンバの壁によって配置された遠隔陽極との間で点火される。一次アークの電流は140Aに設定され、一方、その電圧は約25V~約30Vの範囲内で振動している。遠隔アークの電流は400Aに設定され、一方、その電圧は約60V~約80Vの範囲内で振動している。コーティングすべき基板は、回転テーブル上に載せられ、それにより、それらは、コーティングチャンバ中心の周りに、そして同時にそれら自身の軸の周りに回転することが可能になる。-300Vのバイアス電圧が、コーティングすべき基板を有する回転テーブルに印加され、同時に、高電圧DCパルス電源がオフにされている間にオンにされるDCバイアス電源によって回転テーブルに電気的に接続された金属メッシュケージに印加される。イオン洗浄段階を30分間続け、続いて遠隔アーク援用マグネトロンスパッタリング(RAAMS)蒸着段階を行う。TiNSiCナノ複合材料コーティング蒸着段階の開始時に、窒素およびトリメチルシラン(3MS)を処理チャンバ内のアルゴンに添加して、30%がN/10%が3MS/残りがアルゴンの組成の反応性ガス混合物を、2~5ミリトールの範囲の圧力で作る。マグネトロンは、マグネトロンスパッタリングターゲットの約5W/cmの電力密度を有するマグネトロン電源によってオンにされる。DCバイアス電源がオフにされ、一方、高電圧DCパルス電源がオンにされ、30kHzの繰り返し周波数で5kVの負のパルスを印加するように設定される。約300Aの電流が円筒形マグネトロンに沿って伝導され、その方向は、図15iおよび図15kに示されるように、各隣接するマグネトロンにおいて反対方向に切り替えられ、これにより、図15iおよび図15kの矢印の磁力線で示されるように、隣接するマグネトロン間に集束磁場が提供される。ベネチアンバッフルのストリップの位置は、図15kに示されるように、バッフルの表面が集束磁場に対してほぼ接線方向になるように調整され、ベネチアンバッフルアレイの隣接するストリップ間にプラズマ輸送通路を作る。マグネトロンスパッタリング金属原子の流れの方向と磁気集束陰極アーク金属蒸気プラズマの方向とを一致させて、ナノ複合材料TiNSiCコーティングの蒸着の陰極アーク/マグネトロンハイブリッドプロセスを提供し、これは厚さ20μmのTiNSiCナノ複合材料コーティングの蒸着に対して5時間持続する。
【0034】
例示的な実施形態が上述されているが、これらの実施形態は、本発明の全ての可能な形態を説明することを意図するものではない。むしろ、本明細書で使用されている単語は、限定ではなく説明の単語であり、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更がなされてもよいことが理解される。さらに、様々な実施形態の構成を組み合わせて本発明のさらなる実施形態を形成することができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B