(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】医療用チューブ並びにこれを作製するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61L 29/04 20060101AFI20241024BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241024BHJP
C08F 297/04 20060101ALI20241024BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61L29/04 100
A61L31/04 110
C08F297/04
C08L53/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019156377
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-08-01
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523064398
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ネーデルラント・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドン・デュボイス
(72)【発明者】
【氏名】アパラジータ・バッタチャルヤ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542822(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
C08F 297/04
C08L 53/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A-B-A、(A-B-A)
nX、(A-B)
nXで示される水素化ブロックコポリマー、又はこれらの混合物を有する医療用チューブであって、
式中、nは2~30の整数であり、またXはカップリング剤の残基であり、
各Aブロックが、5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有する水素化モノアルケニルアレーンホモポリマーブロックであり、
各Bブロックが、30kg/mol~200kg/molの真のピーク分子量を有し、少なくとも1種の共役ジエンと少なくとも1種のモノアルケニルアレーンとの水素化コポリマーブロックであり、Aブロックに隣接するBブロックの末端領域
における共役ジエン単位の量がBブロックにおける共役ジエン単位の平均量よりも大きい量
であり、Aブロックに隣接していないBブロックの1つ以上の領域
におけるモノアルケニルアレーン単位の量が、Bブロックにおけるモノアルケニルアレーン単位の平均量よりも大きい量
であり、
前記モノアルケニルアレーンは、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記共役ジエンは、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
中間ブロックモノアルケニルアレーンブロック度指数が3%~15%であり、前記モノアルケニルアレーンブロック度指数は、ポリマー鎖上において2つのモノアルケニルアレーン隣接物を有するブロックB中のモノアルケニルアレーン単位の割合であり、
アレーン二重結合の0~10%が還元されており、共役ジエン二重結合の少なくとも90%が還元されており、
前記水素化ブロックコポリマーが、前記中間ブロックの全重量に対して35重量%~50重量%の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有し、
前記水素化ブロックコポリマーが、
Xを有するモノアルケニルアレーンブロックコポリマーに関して30%~95%のカップリング効率を有し、
ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定された1.0~10.0のメルトフローレシオを有し、
ASTM D-2240に従い測定された、60~80のショアA硬さを有し、
ASTM D-4065に従い測定された、1Hzで0℃~40℃のDMAピークtanδ温度を有し、
200℃~300℃の秩序-無秩序転移温度を有する、
医療用チューブ。
【請求項2】
前記水素化ブロックコポリマーが、30mol%~90mol%の中間ブロックビニル含量を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記水素化ブロックコポリマーが、10MPa~30MPaの引張り強さを有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記水素化ブロックコポリマーが、ASTM 1640-99に従い測定された、0℃~40℃の温度範囲にわたって-9MPa/℃~-25MPa/℃の弾性係数の変化率(ΔG
0℃~40℃)を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
前記水素化ブロックコポリマーが、500%~1000%の伸びを有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項6】
前記水素化ブロックコポリマーが、50重量%~70重量%の全ポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項7】
30mm~40mmの見掛けのキンク直径を有し、それぞれ5mm及び7mmの内径及び外径を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項8】
20mm~30mmの見掛けのキンク直径を有し、それぞれ3mm及び4mmの内径及び外径を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項9】
チューブの内径に対する見掛けのキンク直径の比が、6~10、又は4~8、又は15~30である、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項10】
ASTM D1003を使用して測定したときに3%未満のヘイズ度を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項11】
50重量%までの量でポリオレフィンをさらに含む、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項12】
散乱角(2θ)15°での回折ピーク強度[I(15)]に対する散乱角(2θ)14°での回折ピーク強度[I(14)]の比であるI(14)/I(15)が、広角X線回折で1.4以上である、請求項11に記載の医療用チューブ。
【請求項13】
25℃及び相対湿度50%で測定したときに0.45~0.65の粘着指数を有する、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項14】
溶媒浸漬された医療用チューブをプラスチックコネクターから分離するための剥離力が15N~100Nであり、前記プラスチックコネクターが、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルケトン、ABS、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオキシメチレン、ポリアクリレート、ポリウレタン又はポリスルホンを含む、請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項15】
式A-B-A、(A-B-A)
nX、(A-B)
nXで示される水素化ブロックコポリマー、又はこれらの混合物から本質的になる医療用チューブであって、
式中、nは2~30の整数であり、Xはカップリング剤の残基であり、
各Aブロックが、5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有する水素化モノアルケニルアレーンホモポリマーブロックであり、
各Bブロックが、30kg/mol~200kg/molの真のピーク分子量を有し、少なくとも1種の共役ジエンと少なくとも1種のモノアルケニルアレーンとの水素化コポリマーブロックであり、Aブロックに隣接するBブロックの末端領域
における共役ジエン単位の量がBブロックにおける共役ジエン単位の平均量よりも大きい量
であり、Aブロックに隣接していないBブロックの1つ以上の領域
におけるモノアルケニルアレーン単位の量が、Bブロックにおけるモノアルケニルアレーン単位の平均量よりも大きい量
であり、
前記モノアルケニルアレーンは、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記共役ジエンは、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
中間ブロックモノアルケニルアレーンブロック度指数が3%~15%であり、前記モノアルケニルアレーンブロック度指数は、ポリマー鎖上に2つのモノアルケニルアレーン隣接物を有するブロックB中のモノアルケニルアレーン単位の割合であり、
アレーン二重結合の0~10%が還元されており、共役ジエン二重結合の少なくとも90%が還元されており、
前記水素化ブロックコポリマーが、前記中間ブロックの全重量に対して35重量%~50重量%の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有し、
前記水素化ブロックコポリマーが、
Xを有するモノアルケニルアレーンブロックコポリマーに関して30%~95%カップリング効率を有し、
ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定された、1.0~10.0のメルトフローレシオを有し、
ASTM D-2240に従い測定された、60~80のショアA硬さを有し、
ASTM D-4065に従い測定された、1Hzで0℃~40℃のDMAピークtanδ温度を有し、
200℃~300℃の秩序-無秩序転移温度を有する、
医療用チューブ。
【請求項16】
ポリオレフィンが添加されていない、請求項1又は15に記載の医療用チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全ての目的でその開示全体を参照により本明細書に組み込む、出願日が2018年9月10日である米国仮出願第62/729,058号の優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、医療用チューブ並びにこれらの組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水素化スチレンブロックコポリマーは、医療用物品を含む様々な成形品を作成する際に、加硫ゴム又は塩化ビニルモノマーをベースにした樹脂の代替材料として広く使用されている。また、ポリオレフィンをベースにした樹脂は、水素化スチレンブロックコポリマーと配合されることにより、食品接触、家電製品、及び医療用チューブのような適用例において、塩化ビニルモノマーをベースにした樹脂よりも有用な代替物としても使用されるようなポリマー組成物を提供している。医療用チューブの適用例では、製品が血液に直接接触することから、薬局方記載のプロトコルに従った溶出物評価の試験に合格することが必要となり、厳しい規制上の制約下にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記欠点に対処するだけではなく、良好な透明度、可撓性及び機械的性質のようなその他の望ましい特徴をも有する、より良好な品質の医療用チューブ及びそのためのポリマー組成物に対する要求が、今もなお存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本開示の一態様は、式A-B-A、(A-B-A)nX、(A-B)nXを有する水素化スチレンブロックコポリマー(式中、nは2~30の整数であり、Xは、Xを有するスチレンブロックコポリマー用のカップリング剤の残基である。)、又はこれらの混合物を含む、医療用チューブである。水素化前において、各Aブロックは、5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有するモノアルケニルアレーンホモポリマーブロックであり、各Bブロックは、30kg/mol~200kg/molの真のピーク分子量を有する。Bブロックは、少なくとも1種の共役ジエン及び少なくとも1種のモノアルケニルアレーンの制御分布コポリマーブロックである。カップリング効率は、Xを有するスチレンブロックコポリマーに関して30%~95%である。中間ブロックモノアルケニルアレーンのブロック度指数(blockiness index)は、3%~15%である。モノアルケニルアレーンのブロック度指数とは、ポリマー鎖上に2つのアルケニルアレーン隣接物を有するブロックBにおけるモノアルケニルアレーン単位の割合である。水素化の後、アレーン二重結合の0~10%が還元され、共役ジエン二重結合の少なくとも90%が還元され、水素化スチレンブロックコポリマーは、中間ブロックの全重量に対して35重量%から70重量%の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有する。水素化スチレンブロックコポリマーは、ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定された1.0~10.0のメルトフローレシオ;ASTM D-2240に従い測定された60~80のショアA硬さ;ASTM D-4065に従い測定された、1Hzでの、0℃~40℃のDMAピークtanδ温度、及び200℃~300℃の秩序-無秩序転移温度を有する。
【0006】
本開示の別の態様は、上記水素化スチレンブロックコポリマーから本質的になる医療用チューブである。
【0007】
本開示のさらに別の態様は、式A-B-A、(A-B-A)nX、(A-B)nXを有する水素化スチレンブロックコポリマー(式中、nは2~30の整数であり、Xは、Xを有するスチレンブロックコポリマー用のカップリング剤の残基である。)、又はこれらの混合物から本質的になる医療用チューブである。水素化前において、各Aブロックは、5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有するスチレンホモポリマーブロックであり、各Bブロックは、30kg/mol~50kg/molの真のピーク分子量を有する。Bブロックは、スチレンと、1,3-ブタジエン、イソプレン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の共役ジエンとの、制御分布コポリマーブロックである。カップリング効率は、Xを有するスチレンブロックコポリマーに関して80%~95%であり、中間ブロックモノアルケニルアレーンのブロック度指数は3%~15%である。モノアルケニルアレーンのブロック度指数とは、ポリマー鎖上に2つのモノアルケニルアレーン隣接物を有するブロックBにおけるモノアルケニルアレーン単位の割合である。水素化の後、アレーン二重結合の0~10%が還元され、共役ジエン二重結合の少なくとも90%が還元され水素化スチレンブロックコポリマーは、中間ブロックの全重量に対して35重量%~50重量%の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有する。水素化スチレンブロックコポリマーは、ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定された1.0~10.0のメルトフローレシオ;ASTM D-2240に従い測定された60~80のショアA硬さ;ASTM D-4065に従い測定された、1Hzでの0℃~40℃のDMAピークtanδ温度、及び200℃~300℃の秩序-無秩序転移温度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
下記の用語は本明細書で使用され、下記の意味を有することになる:
【0009】
「見掛けのキンク直径」は、チューブが捻れ始める点まで曲がったときの、可撓性チューブの半円部分の直径である。
【0010】
「中間ブロックスチレンブロック度」は、ポリマー鎖上に最も近い隣接物として2つのスチレン単位を有する、ポリマーの中間ブロックにおけるスチレン単位の割合を意味する。スチレンブロック度は、米国特許第7,244,785(B2)号明細書に記載された方法を使用して、1H NMR分光法により決定することができる。
【0011】
「制御分布」は、下記の属性を有する分子構造を指す:(1)モノアルケニルアレーンホモポリマー(「A」)ブロックに隣接し、共役ジエン単位に富む(即ち、共役ジエン単位の平均量よりも大きい量を有する。)末端領域;(2)モノアルケニルアレーン単位に富む(即ち、モノアルケニルアレーン単位の平均量よりも大きい量を有する。)Aブロックに隣接していない1つ以上の領域;及び(3)比較的低いブロック度を有する全体構造。「富む」という用語は、平均量よりも多い、好ましくは平均量より5%超多いと定義される。
【0012】
「ポリオレフィンを含まない」は、ポリオレフィンが意図的に添加されないことを意味する。一実施形態において、この用語は、ポリオレフィンの存在量が0.5重量%未満であること意味する。
【0013】
本開示は、高い透明度、良好な耐キンク性及びその他物理的性質の適切な組合せを有する水素化スチレンブロックコポリマーを含む、医療用チューブを提供する。別の実施形態において、本開示は、例えばポリオレフィンの添加がなく、スチレンブロックコポリマーから本質的になる、医療用チューブを提供する。水素化SBCは、医療用チューブを作製するのに有用である。
【0014】
水素化スチレンブロックコポリマー(SBC)成分:水素化SBCは、構造A-B-A、(A-B-A)nX、(A-B)nX(式中、nは2~30の整数であり、Xは、Xを有するスチレンブロックコポリマー用のカップリング剤の残基である。)、又はこれらの混合物を有する。水素化前において、Aブロックは、好ましくは5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有するモノアルケニルアレーンホモポリマーブロックであり;各Bブロックは、少なくとも1つの共役ジエンと少なくとも1つのモノアルケニルアレーンとの制御分布コポリマーブロックであり、30kg/mol~200kg/molの真のピーク分子量を有する。さらに、中間ブロックモノアルケニルアレーンブロック度指数は、好ましくは5%~10%である。水素化の後、水素化SBC中の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量は、中間ブロックの全重量に対して35重量%~50重量%である。一部の実施形態において、カップリング効率は30~95%である。
【0015】
実施形態において、Aブロックは、5kg/mol~15kg/molの真のピーク分子量を有する。実施形態において、Bブロックは、30kg/mol~200kg/mol、又は30~150kg/mol、又は80~150kg/molの真のピーク分子量を有する。実施形態において、中間ブロックモノアルケニルアレーンのブロック度指数は、3%~15%である。その他の実施形態において、水素化SBCは、35~65重量%、40~65重量%又は40~60重量%の中間ブロックポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有する。一部の実施形態において、水素化前において、SBCは30~90mol%、50~70mol%、30~40mol%又は35~40mol%の中間ブロックビニル含量を有する。実施形態において、水素化SBCの全分子量は、60~200kg/mol又は80~120kg/molである。その他の実施形態において、水素化後のブロックコポリマー全体は、40~80重量%、又は50~70重量%又は60~70重量%の全ポリ(モノアルケニルアレーン)含量を有する。
【0016】
水素化SBCは、当技術分野で既知の方法により調製することが可能である。それらは一般に、1種以上のモノマーと有機アルカリ金属化合物とを適切な溶媒中で、-150~300℃の温度範囲で、好ましくは0℃~100℃の温度範囲で接触させることによって調製される。ペンダントビニル基及びブロックコポリマー鎖中に存在する鎖中二重結合の水素化は、ビニル基の少なくとも90mol%、少なくとも95mol%又は少なくとも98mol%が還元され、かつアレーン二重結合の0~10mol%が還元されるような条件下で実施される。水素化の段階では、ニッケル、コバルト又はチタンをベースにした適切な触媒が使用される。
【0017】
A及びBブロックを作製するのに有用な、適切なモノアルケニルアレーン化合物としては、8~20個の炭素原子を有するものが含まれ、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、及びビニルキシレン又はこれらの混合物が含まれる。一実施形態において、モノアルケニルアレーンはスチレンである。
【0018】
適切な共役ジエンとしては、4~8個の炭素原子を有するもの、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン及び1,3-ヘキサジエンが含まれる。そのようなジエンの混合物を使用することも可能である。一実施形態において、共役ジエンは1,3-ブタジエンである。別の実施形態において、共役ジエンは、1,3-ブタジエンとイソプレンとの混合物である。
【0019】
任意選択的成分:水素化SBCを有するポリマー組成物は、粘着付与樹脂、無機充填剤、潤滑剤、油といった、1種以上の任意選択的添加剤、並びに熱安定化剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波遮蔽特性付与剤、半透明性調節剤、蛍光剤、滑り特性付与剤、透明性付与剤、ブロッキング防止剤、金属不活性化剤及び抗細菌剤のようなその他の添加剤の1種以上を、それらが製品の意図した用途に悪影響を及ぼさない限り、さらに含めて作製することが可能である。また、一実施形態において、ポリマー組成物は、診断薬、例えば変色又は発色添加剤であって、この組成物から作製された物品における、物理的な完全性の視覚的指標として働くことができる添加剤を含むことも可能である。
【0020】
一実施形態において、ポリマー組成物は、ポリオレフィンのような別のポリマーとブレンドすることなくそのまま使用することが可能である。また、例えばポリプロピレンを、一実施形態において最大0.5重量%、別の実施形態において最大5重量%及びさらに別の実施形態において最大10重量%の少量でブレンドすることも可能である。別の実施形態において、ポリマー組成物は、ポリオレフィン、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリフッ化ビニリデンなどのような1種以上のその他のポリマーとブレンドすることが可能である。ポリオレフィンの例には、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンが含まれる。実施形態において、ポリマー組成物は、最大50重量%、又は最大40重量%、又は最大30重量%又は最大20重量%のポリオレフィンとブレンドすることが可能である。実施形態において、ポリオレフィンはポリプロピレンである。
【0021】
水素化SBCの性質:実施形態において、水素化SBCは、ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定したときに、1.0~10.0、2.0~8.0、4.0~8.0又は4.0~6.0のメルトフローレシオを有する。
【0022】
実施形態において、水素化SBCは、ASTM D-2240に従い測定された、60~80、又は60~70又は70~80のショアA硬さを有する。
【0023】
実施形態において、水素化SBCは、ASTM D-4065に従い測定された、10℃~40℃、又は10℃~20℃、又は20℃~30℃又は30℃~40℃のDMAピークtanδ温度を有する。
【0024】
実施形態において、水素化SBCは、200℃~300℃、又は220℃~280℃、又は240℃~260℃、又は220℃~260℃、又は少なくとも180℃又は350℃未満の、秩序-無秩序温度(ODT)を有する。
【0025】
実施形態において、水素化SBCは、10~30Mpa、又は10~20Mpa又は7.5~15.0Mpaの引張り強さを有する。
【0026】
水素化SBCは、広範な適用温度にわたって比較的安定した硬さを有する。実施形態において、水素化SBCは、ASTM 1640-99に従い、0℃~40℃の温度範囲にわたって測定された、-9MPa/℃~-25MPa/℃、又は-12Mpa/℃~-22MPa/℃又は-15MPa/℃~-20MPa/℃の弾性係数の変化率(ΔG0℃~40℃)を有する。別の実施形態において、ポリマー組成物は、20℃~40℃の範囲にわたって、-9MPa/℃~-25MPa/℃の弾性係数の変化率(ΔG20℃~40℃)を有する。
【0027】
実施形態において、水素化SBCは、500%~1000%の伸びを有する。
【0028】
水素化SBCは、上述の様々な範囲内に包含される性質の2つ以上の組合せを有することが可能である。実施形態において、水素化SBCは、ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgの荷重で測定された1.0~10.0のメルトフローレシオ;ASTM D-2240に従い測定された60~80のショアA硬さ;STM D-4065に従い測定された、1Hzで10℃~40℃のDMAピークtanδ温度、及び200℃~300℃の秩序-無秩序転移温度を有する。別の実施形態において、ポリマー組成物は、4.0~8.0のメルトフローレシオ;70~80のショアA硬さ;1Hzで15℃~30℃のDMAピークtanδ温度、及び200℃~250℃の秩序-無秩序転移温度を有する。
【0029】
組成物の使用:上述の様々な物理的性質は、様々な物品、例えば高い透明度及びその他所望の性質を有する医療用チューブを作製する際に、水素化SBCを価値あるものにする。医療用チューブの他に、水素化SBCは、様々なその他の物品、特に医療分野で使用される物品を作製するために使用することも可能である。したがって、多管腔チューブ、多層チューブなどを作成するのにも有用である。医療用チューブは、医療分野で使用されるその他の物品の一部、例えばIVバッグ、カテーテル、並びに輸液、輸血、腹膜透析で使用されるもののようなカテーテルの一部、血管内カテーテル及びバルーンカテーテルのようなカテーテル治療の一部とすることも可能である。その他の医療用物品には、血液バッグ、合成血管プロテーゼ、血管回路、注射器、血液透析器、血球分離装置、膜型人工肺、包帯材、及び体液、特に血液に接触するようになる医療用デバイスが含まれる。
【0030】
物品を作製するのに使用される組成物は、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、一軸若しくは二軸スクリュー押出し機、混練機又は同様のもののような装置を使用して、上述の成分を混合することにより作成することが可能である。得られた樹脂組成物は、ペレット化することができる。チューブは、当技術分野で既知の方法により作成することが可能である。例えば、樹脂組成物は押出し機に送られ、融解し、ダイを強制的に通過してチューブ形状を形成し、水又は空気で冷却される。樹脂組成物から作成されるチューブのサイズ、形状又は断面サイズに、特に制限はない。実施形態において、チューブの外径は1~60mm、又は1~20mm又は1~10mmである。チューブの内径は、1~50mm、又は1~25mm又は1~10mmである。実施形態において、チューブの厚さは0.1~20mm、又は0.5~10mm又は1~5mmである。
【0031】
医療用チューブの適用例:実施形態において、前記ブレンドから作製された医療用チューブは、散乱角(2θ)15°での回折ピーク強度[I(15)]に対する散乱角(2θ)14°でのピーク強度[I(14)]との比I(14)/I(15)が、1.4以上である、X線回折パターンを示す。I(14)/I(15)比は、医療用チューブ内に存在する結晶質ポリプロピレンの量の尺度を与える。
【0032】
実施形態において、水素化SBCを使用して作製された医療用チューブが、低い表面粘着性を示す。ポリマー表面の粘着性は、ポリマー組成物の性質に起因する。医療用チューブの外面が互いに接触する場合、それらの面は、より低い表面粘着性に起因して、それほど粘着性は高くなくなる。このことが、そのようなチューブの使用をより容易にする。表面粘着性は、eXPRESS Polymer Letters、Vol 5、No.11(2011)、1009~1016頁に記載されている手順に従い、「粘着係数」を用いて測定することができる。実施形態において、医療用チューブは、25℃及び相対湿度50%で測定したときの粘着指数0.45~0.65を有する。
【0033】
実施形態において、そこから作製された医療用チューブは捻れに耐性があり、即ち、捻れなしに明らかに曲げることができる。キンク性能は、「見掛けのキンク直径」により測定される。実施形態において、内径及び外径がそれぞれ5mm及び7mmである医療用チューブは、30mm~40mmの見掛けのキンク直径を有する。別の実施形態において、それぞれ3mm及び4mmの内径及び外径を有する医療用チューブは、20mm~30mmの見掛けのキンク直径を有する。さらに別の実施形態において、医療用チューブは、チューブの内径に対する見掛けのキンク直径の比が6~10、7~9、8~9又は9~10である。さらに別の実施形態において、医療用チューブは、チューブの外径に対する見掛けのキンク直径の比が4~8、5~7、6~7、7~8又は9~10である。別の実施形態において、医療用チューブは、チューブ壁の厚さに対する見掛けのキンク直径の比が15~30、15~20、20~25又は25~30である。
【0034】
医療用チューブは、良好な光学的透明度を有し、それにより流体の水位及び流体の流れを視認することが容易となっている。一実施形態において、医療用チューブは、ASTM D1003を使用して測定したときに、5%未満、4%未満又は3%未満のヘイズ度を有する。チューブが高い透明度を有するので、ポリマー劣化に起因するチューブ壁のヘイズや曇りを視覚的に検出することが可能である。
【0035】
水素化SBCを使用して作製された医療用チューブは、ある範囲の溶剤を使用してその他のプラスチック材料と強力に結合させることも可能である。医療適用例において、プラスチックコネクターは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルケトン、ABS、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオキシメチレン、ポリアクリレート、ポリウレタン又はポリスルホンのような様々な材料で作製される。コネクターは、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びそれらと同様のものといった溶剤を用いた溶剤接着を利用して医療用チューブに溶接される。医療用チューブとコネクターとの結合強度が強力ではない場合、接続が緩くなって流体の漏れに至る可能性がある。溶接の結合強度は、医療用チューブをコネクターから分離する際の剥離強さを決定することで測定される。実施形態において、上記水素化SBCで作製された医療用チューブは、溶媒浸漬された医療用チューブをプラスチックコネクターから分離するのに15N~100N、又は少なくとも30N、又は少なくとも50N、又は少なくとも75N又は125N未満の剥離力を必要とする。
【0036】
上述の医療用チューブは、巻取りされたり、又は曲げられたときに反発する傾向が低い。この性質により、巻取った医療用チューブの保存がより容易となる。
【実施例】
【0037】
下記の例示的な実施例は、非限定的である:
【0038】
ポリマー分子量を、ASTM 5296-11に従いポリスチレン較正標準を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定した。ポリマー試料をTHFに溶解し、RI及びUV検出器の両方を使用して適切なカラムセット上に流した。次いで得られた分子量の値を、全ポリスチレン含量に関するGPC変換係数を使用して真の分子量に変換した。カップリング効率は、より高い分子量のカップリングピークに対するスチレン-ジエンジブロックのピーク積分比から、GPCによって決定した。
【0039】
プロトンNMR法を使用して、全ポリスチレン含量(PSC)、ビニル含量、及びスチレンブロック度指数を決定した。スチレンブロック度指数は、米国特許第7,244,785(B2)号明細書に記載された手順を使用して測定した。
【0040】
全てのポリマー試料のガラス転移温度(Tg)を、TA Instruments DMA Q800を使用した動的機械分析により測定した。温度掃引実験を-80℃~120℃で実行し、貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)及び損失係数(tanδ)を温度の関数として得た。全ての実験は、1Hzの周波数で行った。ガラス転移温度を、tanδのピーク値での温度として報告した。
【0041】
ODT(秩序-無秩序転移)レオロジーを決定する試験を、Malvern InstrumentsによるBohlinレオメーター上で行った。温度掃引実験は、2つの周波数0.005Hz及び0.2Hzで実行し、複素粘度を測定した。ODTは、ポリマーの複素粘度が両方の周波数で同じである温度として報告した。
【0042】
チューブに関する耐キンク性試験は、Instron法を使用して実行した。チューブを最初に曲げ、100mm離して位置付けられた2つのグリップ間に配置した。次いでチューブを、クロスヘッドの下向き運動によって曲げた。チューブが捻れたら、クロスヘッド間の距離(xmm)を測定した。次いで見掛けのキンク直径が(100-x)mmにより与えられる。
【0043】
機械的性質は、小型D-ダイドッグボーン試料を使用して、ASTM D412の引張り試験法に従い測定した。試験は、1kN荷重セルを備えたInstron 3366上で実行した。試料のゲージ長は25.4mmであり、試験は254mm/分の伸び速度で実施した。
【0044】
全ての試料のショアA硬さを、自動硬さ試験機を使用して測定した。厚さ2mmの同じ化合物の3枚のシートを積層し、硬さを4隅及び中央で測定した。硬さは、デュロメーターの先端が材料に接触してから10秒後に記録した。5ヶ所測定した硬さの平均値を報告した。
【0045】
実施例1~4
表1に示される水素化スチレンブロックコポリマーを調製した。「S」はスチレンであり、「Bd」はブタジエンである。分子式中の数値は、S及びBdブロックの分子量を示す。結果を表1及び2に示す。MFRは、ASTM D-1238に従い230℃及び2.16kgで測定されたメルトフローレートである。KD/IDは、IDが3mmでありODが4mmのチューブでの、キンク直径とチューブ内径との比である。Tg値は、IHzでDMAにより測定した。NMは、測定されていないことを意味する。
【0046】
比較例1は、187Kg/molの全分子量を有する水素化スチレンブロックコポリマーであり、スチレンブロックは真のピーク分子量13.5を有し、30.5重量%の1,2-ブタジエン、全ポリスチレン含量67重量%、全ブロック度34.2、ODT 260℃~270℃、カップリング効率93%、Tg(DMA、1Hz)23.4℃、MFR 4.7dg/分(230℃/2.16Kg)及びショアA硬さ(10秒)70である。
【0047】
【0048】
【0049】
競合材料のΔG0~40℃の絶対値は、実施例1、2、3に比べて高いことが、表2からわかる。このことは、実施例1、2、3のポリマーの硬さが、競合ポリマーとは対照的に0~40℃の範囲の温度の変化に対してより安定となることを示す。