(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】イオン交換膜
(51)【国際特許分類】
C08J 5/22 20060101AFI20241024BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20241024BHJP
B01J 43/00 20060101ALI20241024BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20241024BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241024BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20241024BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241024BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
C08G65/40
B01J43/00
B01J47/12
B01D69/00
B01D71/52
B01D69/10
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2020017929
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田原 修二
(72)【発明者】
【氏名】福本 晴彦
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-026565(JP,A)
【文献】特開2008-269884(JP,A)
【文献】特開2004-359925(JP,A)
【文献】特開2016-194974(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189548(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079733(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189547(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/22
C08G 65/40
B01J 43/00
B01J 47/12
B01D 69/00
B01D 71/52
B01D 69/10
B01D 69/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自立膜であり、
陽イオン構造基(a1)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位、および、陰イオン構造基(a2)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位から選ばれる1種または2種以上の繰り返し構造単位(A)と、前記陽イオン構造基(a1)および前記陰イオン構造基(a2)を有さず、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位(B)とを含み、構造単位(A)と構造単位(B)との合計に対する、前記の陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の含有率が5~90モル%(但し、構造単位(A)と構造単位(B)との合計を100モル%とする)である重合体(P)を10質量%以上含有
し、
膜抵抗が0.1~2.0Ω・cm
2
であり、かつ、
前記重合体(P)が、下式(1-1)または下式(1-2)で表される構造集団である構造集団(1)および下記式(2)で表される構造集団(2)を含む芳香族ポリエーテル樹脂である、イオン交換膜(I)。
【化1】
[式(1-1)および(1-2)において、
mは1~10の整数を示し、A
1
およびA
3
は、それぞれ独立して、直接結合、-CH
2
-、-C(CH
3
)
2
-、-C(CF
3
)
2
-、-O-または-CO-であり、Zはそれぞれ独立にプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基であり、sはそれぞれ独立に0~3の整数であり、tはそれぞれ独立に0~4の整数であり、両末端の線は隣り合う構造集団との結合を示す。
式(2)において、
R
6
~R
10
は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF
3
またはC
m
H
2m+1
(mは1~10の整数を示す。)であり、
R
6
~R
10
の少なくとも1つはC
m
H
2m+1
(mは1~10の整数を示す。)であり、
R
6
~R
10
は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にC
m
H
2m+1
が2つ以上存在する場合には、各C
m
H
2m+1
は互いに同一であっても異なっていてもよい。
A
4
~A
6
は、それぞれ独立して、直接結合、-CH
2
-、-C(CH
3
)
2
-、-C(CF
3
)
2
-、-O-または-CO-である。
kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。
両端の線は、隣り合う構造集団との結合を示す。]
【請求項2】
厚さが0.01~3.0μmである、請求項1に記載のイオン交換膜(I)。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のイオン交換膜(I)と、
多孔質基材(II)およびメッシュ状支持材(III)から選ばれる1種又は2種以上の層と
を含む積層構造を持つイオン交換膜(IV)。
【請求項4】
前記多孔質基材(II)の、JIS L 1096記載のA法(フラジール形法)で測定される通気度が、100~400cm
3/cm
2/sである、請求項
3に記載のイオン交換膜(IV)。
【請求項5】
前記メッシュ状支持材(III)が、5~2,000個/インチの空孔を有する、請求項
3または
4に記載のイオン交換膜(IV)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、製塩や食品分野における脱塩工程などで利用される電気透析用膜や、鉄鋼業などで発生する金属イオンを含んだ酸からの酸回収に用いられる拡散透析用膜、また、燃料電池用の電解質膜など、多くの分野で工業的に利用されている。このようなイオン交換膜は、従来から補強材としての機能を有する不織布や多孔質フィルムなどの基材フィルムと、イオン交換樹脂とを含む構造を有する。このようなイオン交換膜は、イオン交換機能と、一定の膜強度や膜の形状安定性とを併せ持つ。通常のイオン交換樹脂は、イオン交換基を多く持っているため、電解質水溶液中で膨潤することがあり、イオン交換膜としては、前記の膜強度や形状安定性は低下する傾向があるとされている。
【0003】
従来、上記基材フィルムとして多孔性の熱可塑性樹脂フィルムを使用することが知られている。例えば、多孔性の延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとして含む製塩用陽イオン交換膜(特許文献1)、2枚の多孔質樹脂シートを積層し、当該シートを構成する樹脂の融点以上の温度での熱融着により接合した多孔質膜を基材フィルムとして含むイオン交換膜(特許文献2)、重ね合わされた複数枚の多孔質樹脂シート(積層シート)の空隙部にイオン交換樹脂形成用の重合性組成物を充填し、この状態で重合性組成物を重合させてイオン交換樹脂とするイオン交換膜(特許文献3、特許文献4)などの開示がある。
【0004】
非特許文献1には、代表的なイオン交換膜である製品名ネオセプタ(株式会社アストム製)が、ポリ塩化ビニル織布を基材とする構成を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-096923号公報
【文献】特開2008-004500号公報
【文献】特開2012-021099号公報
【文献】特開2018-183997号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本イオン交換学会誌、Vol.18、No.3、12頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献には、主として、多孔質基材フィルムにイオン交換樹脂を塗布や付着させた態様のイオン交換膜が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、前記の多孔性基材フィルムとイオン交換樹脂とを併用する方法では、以下の懸念点があると考えられた。即ち、
1.イオン交換樹脂層の厚みが前記基材フィルムの形状の影響を受けて、厚くなる傾向があり、膜抵抗が高くなること、荷電密度の低下、荷電密度の制御性、
2.膜の厚みムラが発生し易い可能性が有ること、
3.前記基材フィルムとイオン交換樹脂との界面で、電解液のリークが起こり易い可能性があること、
4.前記基材フィルムの劣化により、イオン交換樹脂が剥離し、性能劣化に繋がること、
等である。
【0008】
今後、イオン交換膜に対する性能の向上が求められるとすれば、これらの問題点を解決する必要が有るであろう。よって本発明は、特に上記の1の懸念点を解決するイオン交換膜を得ることを主たる課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題に基づき検討を行った結果、特定のイオン交換機能を持つ樹脂を含む自立膜が、低膜抵抗および高荷電密度のバランスに優れることを見出し、本発明を成すに至った。また本発明の構成は、他の課題も解決する可能性が有ることも期待できる内容である。この様な本発明は、以下の要件で特定されるものである。
【0010】
[1]自立膜であり、陽イオン構造基(a1)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位、および、陰イオン構造基(a2)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位から選ばれる1種または2種以上の繰り返し構造単位(A)と、前記陽イオン構造基(a1)および前記陰イオン構造基(a2)を有さず、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位(B)とを含み、構造単位(A)と構造単位(B)との合計に対する、前記の陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の含有率が5~90モル%(但し、構造単位(A)と構造単位(B)との合計を100モル%とする)である重合体(P)を10質量%以上含有するイオン交換膜(I)。
[2]厚さが0.01~3.0μmである、前記[1]に記載のイオン交換膜(I)。
[3]前記重合体(P)が、下記式(1)で表される構造集団(1)および下記式(2)で表される構造集団(2)を含む芳香族ポリエーテル樹脂である、前記[1]または[2]に記載のイオン交換膜(I)。
【0011】
【化1】
[式(1)および(2)において、
R
1~R
10は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF
3またはC
mH
2m+1(mは1~10の整数を示す。)であり、
R
1~R
10の少なくとも1つはC
mH
2m+1(mは1~10の整数を示す。)であり、
R
1~R
10は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にC
mH
2m+1が2つ以上存在する場合には、各C
mH
2m+1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
X
1~X
5は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF
3、プロトン酸基またはアンモニウム塩基であり、
X
1~X
5の少なくとも1つはプロトン酸基またはアンモニウム塩基であり、
X
1~X
5は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基が2つ以上存在する場合には、各プロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
A
1~A
6は、それぞれ独立して、直接結合、-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-O-または-CO-である。
i,j,kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。]
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載のイオン交換膜(I)と、多孔質基材(II)およびメッシュ状支持材(III)から選ばれる1種又は2種以上の層とを含む積層構造を持つイオン交換膜(IV)。
[5]前記多孔質基材(II)の、JIS L 1096記載のA法(フラジール形法)で測定される通気度が、100~400cm
3/cm
2/sである、前記[4]に記載のイオン交換膜(IV)。
[6]前記メッシュ状支持材(III)が、5~2,000個/インチの空孔を有する、前記[4]または[5]に記載のイオン交換膜(IV)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン交換膜は、イオン交換能を有する自立膜である。その為、本発明のイオン交換膜は、低膜抵抗および高荷電密度のバランスに優れ、例えば膜抵抗が低く、荷電密度を高くできるという優れた特徴を示す。また荷電密度の制御もその構造の制御により容易である。
【0013】
また本発明のイオン交換膜は自立膜であるので、多孔質基材フィルムにイオン交換樹脂を塗布や付着させた態様の従来のイオン交換膜に比して、膜の品質がより均一で、欠陥の少ないイオン交換膜であることが期待できる。この性能も低膜抵抗などに繋がる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のイオン交換膜(IV)の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
[イオン交換膜(I)]
本発明のイオン交換膜の一実施形態(以下「本実施形態のイオン交換膜(I)」または単に「イオン交換膜(I)」ともいう。)は、イオン交換能を有する重合体(以下「重合体(P)」ともいう。)を含有し、また自立膜であることを特徴とする。
【0016】
なお、自立膜とは、基材に担持されなくてもそれ自身、例えば空気中の様な支えが無い環境下で独立して膜形状を維持できる膜状成形物を意味する。ただし、本発明において、前記自立膜を、例えばハンドリング性向上などの、イオン交換とは異なる目的のために、後述するような多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)とともに用いること(例えば、前記自立膜と多孔質基材(II)またはメッシュ状支持材(III)との積層構造)は何ら妨げられない。
【0017】
重合体(P)は、以下に説明する構造単位(A)と構造単位(B)とを含む。
構造単位(A)は、“陽イオン構造基(a1)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位”、および、“陰イオン構造基(a2)を有し、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位”から選ばれる1種または2種以上の繰り返し構造単位である。
【0018】
構造単位(B)は、“陽イオン構造基(a1)および陰イオン構造基(a2)を有さず、主鎖を構成する末端が周期表の16族原子を含む基である繰り返し構造単位”である。
重合体(P)において、構造単位(A)と構造単位(B)との合計に対する、陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の含有率は、5~90モル%である。ただし、構造単位(A)と構造単位(B)との合計を100モル%とする。陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の含有率は、優れたイオン交換膜を形成する観点等から決定される。陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の含有率は、例えば膜抵抗の観点から好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは8モル%以上であり;また、荷電密度の観点から好ましくは90モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、特に好ましくは45モル%以下である。
【0019】
用途によっては、荷電密度を低く抑えることが必要な場合もある。このような場合は、陽イオン構造基(a1)と陰イオン構造基(a2)との合計の上記含有率を25モル%以上とすることが好ましい。
【0020】
重合体(P)において、構造単位(B)100モルに対する構造単位(A)の含有量は、好ましくは8モル以上、より好ましくは10モル以上であり;好ましくは70モル以下、より好ましくは60モル以下、さらに好ましく50モル以下、特に好ましくは45モル以下である。
【0021】
用途によっては、荷電密度を低く抑えることが必要な場合もある。このような場合は、構造単位(A)の上記含有量を30モル以上とすることが好ましい。
上記の様な構造単位の組成は、対応する樹脂の製造時の原料の使用量で特定することが出来る。また、得られる樹脂塗膜をNMR測定や質量分析(MS)法などの公知の構造解析技術を単独、あるいは組み合わせて用いて特定することも可能である。
【0022】
本発明において、陰イオン構造基とは、例えば水中で陰イオン構造を取り得る基のことを指し、即ち、常時陰イオン構造である必要はない。例えば後述する様な、カルボン酸基などの有機酸構造の基であってもよい。同様に陽イオン構造基とは、例えば水中で陽イオン構造を取り得る基のことを指し、即ち、常時陽イオン構造である必要はない。例えば後述する様な、アンモニウム塩基の様な構造の基であってもよい。
【0023】
具体的には、イオン交換膜(I)は、イオン交換能を有する重合体(P)を10質量%以上含有する。好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、殊に好ましくは80質量%以上である。好ましい上限値は、勿論、100質量%である。
【0024】
上記の様な範囲であれば、膜抵抗や荷電密度などを好適な範囲とし、それらを制御し易いと言う観点で好ましい。
重合体(P)は、好ましくは自立膜を形成できる、上記要件を満たす重合体であれば制限は無い。重合体(P)は、好ましくは、イオン交換能を有するとされる極性基を含む重合体である。陰イオン構造に係る極性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、アルキルスルホン酸基、アルキルカルボン酸基、アルキルホスホン酸基などのプロトン酸基が挙げられ、これらの中でもスルホン酸基が好ましい。陽イオン構造に係る極性基としては、例えば、アンモニウム塩基、ホスホニウム塩基、スルホニウム塩、イミダゾリウム塩基、ピリジニウム塩基が挙げられ、これらの中でもアンモニウム塩基が好ましい。
【0025】
重合体(P)は、それぞれの構造単位における主鎖を構成する末端が、周期表の16族原子を含む基を持つ構造である。16族原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子が挙げられ、酸素原子が好ましい。より具体的な好ましい構造としては、芳香族骨格の様な剛直な構造を有する重合体であることが好ましい。この様な重合体としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテル、ポリケトン、ポリスルホン等の骨格を有する重合体が好ましい。勿論、上記の骨格の2種以上を有する共重合体であってもよい。これらの中でも、ポリエーテル骨格、ポリエーテルケトン骨格、ポリエーテルエーテルケトン骨格が好ましく、ポリエーテル骨格、ポリエーテルケトン骨格がより好ましい。
【0026】
また、イオン交換膜(I)を、後述する多孔質基材(II)およびメッシュ状支持材(III)から選ばれる1種又は2種以上の層と組み合わせて使用することにより、イオン交換膜の基本性能を実質的に損なうことなくハンドリング性を改善することが出来る。多孔質基材(II)およびメッシュ状支持材(III)は、イオン交換膜(I)上の一部に設置することも全体に設置して積層体とすることも出来る。
【0027】
≪イオン交換膜(I)の物性≫
イオン交換膜(I)の厚さは、通常3.0μm以下、好ましくは0.01~3.0μm、より好ましくは0.01~1.5μm、特に好ましくは0.1~1.0μmである。前記厚さがこの範囲内にあるイオン交換膜は、十分な膜強度を有し、かつ実用上優れた膜抵抗、荷電密度を示す。イオン交換膜(I)の厚さは、イオン交換膜の製造条件、例えばプレス成形時の温度や圧力、キャスト時のワニス濃度や塗布厚などにより制御することができる。
【0028】
上記の通り、本実施形態のイオン交換膜(I)は、好ましくは薄い自立膜とすることができるので、イオン交換膜(I)は、多孔質基材にイオン交換樹脂を付着させて得られる従来のイオン交換膜に比して、膜抵抗を低く、荷電密度を高くできる傾向がある。
【0029】
イオン交換膜(I)は、自立膜であるので本質的には基材(例えばシートやフィルム)を必ずしも必要としない。この為、基材などの異成分により膜の構造を分断されたり、膜と異成分との界面が生じたりすることが無い。さらには、厚さ等が比較的均質で、イオン交換性能が効率的なイオン交換膜とすることが出来ると考えられる。
【0030】
またイオン交換膜(I)は、スルホン酸基やアンモニウム塩基などの極性基を含んでいる。一般的に、極性基は電気的引力によってミクロ凝集し易いとされている。余りにこの凝集が強すぎると、極性基が偏在してしまい、極性基含有率に見合ったイオン交換能が発揮されにくくなる懸念がある。一方、イオン交換膜(I)は自立膜であるので、膜を形成する重合体(P)は比較的剛直な構造の重合体である傾向がある。その剛直な分子構造により、前記極性基の凝集が相対的に緩和され、前記極性基の分散性が良いので、イオン交換膜(I)は優れたイオン交換能を示すのかもしれない。
【0031】
イオン交換膜(I)は、膜抵抗が、好ましくは0.1~2.5Ω・cm2を示し、より好ましくは0.15~2.0Ω・cm2、さらに好ましくは0.2~1.9Ω・cm2である。
【0032】
また、イオン交換膜(I)は、その荷電密度が、好ましくは1.0~5.0mol/dm3を示し、より好ましくは1.1~4.0mol/dm3、さらに好ましくは1.2~3.5mol/dm3である。
上記の膜抵抗や荷電密度は、そのどちらかが上記の範囲にあることが好ましい。勿論、両方が上記の範囲にあることがより好ましい。
【0033】
≪芳香族ポリエーテル樹脂≫
以下、重合体(P)の代表的な例として、プロトン酸基及び/又はアンモニウム塩基を有する重合体である、プロトン酸基及び/又はアンモニウム塩基含有芳香族ポリエーテル樹脂について説明する。前記のプロトン酸基は、本発明における陰イオン構造基の一種であり、陰イオンを形成できる構造に該当する。前記のアンモニウム塩基は、本発明における陽イオン構造基の一種であり、陽イオンを形成できる構造に該当する。
【0034】
前記芳香族ポリエーテル樹脂は、下記式(1)で表される構造集団(1)および下記式(2)で表される構造集団(2)を含んでいることが好ましい。ここで、構造集団(1)の一部(X1~X5がプロトン酸基やアンモニウム塩基であるエーテル構造単位)が上述の構造単位(A)に相当し、構造集団(1)の他の一部や構造集団(2)の一部が上述の構造単位(B)に相当する。
【0035】
【化2】
式(1)および(2)において、i,j,kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。
【0036】
R1~R10は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはCmH2m+1(mは1~10の整数を示す。)であり、CmH2m+1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0037】
R1~R10の少なくとも1つは、CmH2m+1(mは1~10の整数を示す。)である。具体的には、i,j,kおよびlならびにR1~R10は、前記構造集団(1)および/または前記構造集団(2)が、CmH2m+1で表される基を少なくとも1つ有するように選択される。すなわち、i,j,kおよびlがすべて1の場合には、R1~R10の少なくとも1つがCmH2m+1であるが、例えばi=0、j=1、k=0かつl=1の場合には、R1~R3、R5~R8およびR10の少なくとも1つがCmH2m+1である。
【0038】
R1~R10は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にCmH2m+1が2つ以上存在する場合には、各CmH2m+1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
X1~X5は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3、プロトン酸基またはアンモニウム塩基である。
【0039】
X1~X5の少なくとも1つはプロトン酸基またはアンモニウム塩基である。具体的には、iおよびjならびにX1~X5は、前記構造集団(1)が、プロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基を少なくとも1つ有するように選択される。すなわち、i=1かつj=1の場合にはX1~X5の少なくとも1つがプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基であるが、j=0の場合にはX1~X3の少なくとも1つがプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基であり、i=0かつj=1の場合にはX1~X3およびX5の少なくとも1つがプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基である。
【0040】
X1~X5は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にプロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基が2つ以上存在する場合には、各プロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
A1~A6は、それぞれ独立して、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-O-または-CO-であり、A1~A6の少なくとも1つは好ましくは-CO-である。
【0042】
式(1)および(2)の両端の線は、隣り合う構造集団との結合を示す。
本発明において、プロトン酸基とは、プロトンを放出しやすい官能基またはその水素原子がNaまたはKで置換されたものを意味し、その例としては、スルホン酸基(-SO3H)、カルボン酸基(-COOH)、ホスホン酸基(-PO3H2)、アルキルスルホン酸基(-(CH2)nSO3H)、アルキルカルボン酸基(-(CH2)nCOOH)、アルキルホスホン酸基(-(CH2)nPO3H2)、ヒドロキシフェニル基(-C6H4OH)およびこれらの末端水素原子がNaまたはKで置換されたものが挙げられる。アンモニウム塩基は、アミノ基と塩酸などの無機酸や種々のカルボン酸とを反応させて得られる様な典型的なアンモニウム塩構造の基を例示することが出来る。
【0043】
nは1~10の整数である。前記プロトン酸基としては、-Cn'H2n'-SO3Y(n'は0~10の整数であり、好ましくは0であり、YはH、NaまたはKである)が好ましい。
【0044】
前記構造集団(1)としては、例えば、下式(1-1)または下式(1-2)で表される構造集団が挙げられ、これらの構造においてはA1が-CO-であることが好ましく、
【0045】
【化3】
さらに具体的には下式(1-3)または下式(1-4)で表される構造集団が挙げられる。
【0046】
【化4】
(式中、Zはそれぞれ独立に前記プロトン酸基およびアンモニウム塩基から選ばれる基であり、sはそれぞれ独立に0~3の整数であり、tはそれぞれ独立に0~4の整数であり、両末端の線は隣り合う構造集団との結合を示す。これら以外の記号の定義は前述したとおりである。)
【0047】
また、構造集団(2)としては、例えば、下式(2-1)または下式(2-2)で表される構造集団が挙げられ、
【0048】
【化5】
さらに具体的には、下式(2-3)または下式(2-4)で表される構造集団が挙げられる。
【0049】
【化6】
(式中、tはそれぞれ独立に0~4の整数であり、両末端の線は隣り合う構造集団との結合を示す。t以外の記号の定義は前述したとおりである。)
【0050】
前記構造集団(1)および前記構造集団(2)の合計量に対する前記構造集団(1)の含有割合は、イオン透過性の高いイオン交換膜を形成できることから、好ましくは10モル%以上、80モル%以下である。好ましい下限値は、15モル%、より好ましくは20モル%である。一方、好ましい上限値は、70モル%、より好ましくは55モル%、さらに好ましくは45モル%である。荷電密度を下げる必要が有る用途においては、35モル%以上とすることが好ましい。
【0051】
上記の様な範囲内であれば、自立膜を形成し、荷電密度や膜抵抗が好適な範囲にあり、またそれらを制御できる観点で、好ましい。
前記芳香族ポリエーテル樹脂は、さらに、後述する多官能化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0052】
前記芳香族ポリエーテル樹脂は、架橋体であってもよく、非架橋体であってもよい。
前記芳香族ポリエーテル樹脂の、GPC(Gel Permeation Chromatography)法を用い、以下の条件(1)~(9)により測定される重量平均分子量(Mw)は、好ましくは70,000以上、より好ましくは80,000以上、さらに好ましくは90,000以上である。分子量が上記範囲にあると、得られるイオン交換膜は機械特性が高く、製膜時や使用時に破れ難い。また、前記重量平均分子量は、ゲル発生率の観点からは好ましくは180,000以下である。
(1) GPC装置 (株)島津製作所(SHIMADZU)製 LC-10AT
(2) カラムオーブン (株)島津製作所(SHIMADZU)製 CTO-10A
(3) カラム GPC KD-G 保護カラム(昭和電工株式会社(SHODEX)製)
尚、分子量測定用カラムは、得られる重合体の分子量によって適宜選択される。
(4) 測定温度:40℃
(5) 展開溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
(6) 流量:0.7ml/分
(7) 注入量:500μl
(8) 検出器:UV検出器 875-UV型装置(日本分光株式会社(JASCO)製)、
示差屈折率検出器 RID-10A((株)島津製作所(SHIMADZU)製)
(9) 分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0053】
前記重量平均分子量は、前記芳香族ポリエーテル樹脂を製造する際に、原料モノマーのモル比や、末端封止剤の量を調整することにより制御することができる。
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂のプロトン酸基当量、すなわちプロトン酸基1モル当たりのプロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の質量は、水やメタノールに溶解せず、膨潤が抑えられた、電解質の膜透過量が小さいイオン交換膜が得られることから、好ましくは200g/mol以上である。また、水の透過流束が大きく経済性の高いイオン交換膜が得られることから、好ましくは5000g/mol以下、より好ましくは1000g/mol以下である。
【0054】
以下、上記の好ましい樹脂の態様の中で、その樹脂の製造方法の例として、プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の製造方法について説明する。
【0055】
≪プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の製造方法≫
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は、従来公知の方法(例えば国際公開第2003/33566号に記載された方法)に従い、芳香環を有する単量体の縮合によって得ることができる。例えば、下式(1a)および(2a)
【0056】
【化7】
で表されるハロゲン置換基を有する単量体と、下式(1b)および(2b):
【0057】
【化8】
で表される水酸基を有する単量体との縮合重合によって、前記樹脂を得ることができる。
【0058】
上記の各単量体構造の中で、以下の単量体構造に由来の構造単位が、重合体(P)における構造単位(A)に該当する。
X1およびX2から選ばれる1つ以上の基がプロトン酸基構造である(1a)式の単量体、ならびに、X3~X5から選ばれる1つ以上の基がプロトン酸基構造である(1b)式の単量体。(式中、A1、A2、A3が周期表の16族原子を含む基である場合、(1a)や(1b)は、複数の構造単位が連結した形式となる。)
一方、以下の単量体構造に由来の構造単位が、重合体(P)における構造単位(B)に該当する。
【0059】
(2a)式の単量体および(2b)式の単量体。(式中、A4、A5、A6が周期表の16族原子を含む基である場合、(2a)や(2b)は、複数の構造単位が連結した形式となる。)さらに、
X1およびX2がプロトン酸基以外の構造(すなわちH、Cl、F、CF3)である(1a)式の単量体、ならびに、X3~X5がプロトン酸基以外の構造(すなわちH、Cl、F、CF3)である(1b)式の単量体。(式中、A1、A2、A3が周期表の16族原子を含む基である場合、(1a)や(1b)は、複数の構造単位が連結した形式となる。)
式中、Yはハロゲン原子であり、他の各符号の意味は、上記式(1)および(2)の中で使用された同じ符号の意味と同一である。前記ハロゲン原子としては、好ましくはフッ素および塩素が挙げられる。
【0060】
縮合にはK2CO3等の塩基性触媒を用いることが好ましい。
上記式(1a)で表される単量体(ただし、X1~X2の少なくとも1つがプロトン酸基であるもの。)としては、例えば、5,5'-カルボニルビス(2-フルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム)、5,5'-カルボニルビス(2-クロロベンゼンスルホン酸ナトリウム)等のプロトン酸基含有芳香族ジハライド化合物が挙げられる。
【0061】
上記式(2a)で表される単量体としては、例えば、
4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、3,3'-ジフルオロベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、3,3'-ジクロロベンゾフェノン、4,4'-ジフルオロビフェニル、4,4'-ジフルオロジフェニルメタン、4,4'-ジクロロジフェニルメタン、4,4'-ジフルオロジフェニルエーテル等の芳香族ジハライド化合物;および
3,3'-ジメチル-4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、3,3'-ジエチル-4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジクロロベンゾフェノン、3,3',4,4'-テトラメチル-5,5'-ジクロロベンゾフェノン等のアルキル基含有芳香族ジハライド化合物
が挙げられる。
【0062】
上記式(2b)で表される単量体(または、上記式(1b)で表される単量体(ただし、X3~X5がすべて水素原子であるもの。))としては、例えば、
4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジメチルベンゼン、α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼン、3,3'-ジフルオロ-4,4'-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジヒドロキシ化合物;および
3,3'-ジメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン(別名:ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン)、3,3',5,5'-テトラエチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、α,α'-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン等のアルキル基含有芳香族ジヒドロキシ化合物
が挙げられる。
【0063】
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の溶剤溶解性が損なわれない範囲で、前記単量体と共に多官能化合物を共重合してもよい。多官能化合物を共重合することにより、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は微架橋構造を取ることができる。多官能化合物としては、1分子中に3個以上の水酸基を有するもの、例えば、(2,4-ジヒドロキシフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)メタノン、4-[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]-1,3-ベンゼンジオール、4-[(2,3,5-トリメチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、4-[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、(4-ヒドロキシフェニル)(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メタノン、4-[(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、4-[(2,3,5-トリメチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビス[ベンゼン-1,2-ジオール]、5,5'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビス[ベンゼン-1,2,3-トリオール]、α,α,α'-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、フロログルシン、ピロガロール等が挙げられる。
【0064】
これらの共重合量は、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の溶剤溶解性の低下、前記樹脂の製膜時の流動性の低下、イオン交換膜の伸び率の低下を防止する観点から、好ましくは0~8mol%/全OH当量(すなわち、上記式(1b)の単量体、式(2b)の単量体および多官能単量体が有するOH基の全量(100mol%)のうち、0~8mol%が多官能単量体由来のOH基である。)、さらに好ましくは0~5mol%/全OH当量である。
【0065】
以下、本実施形態のイオン交換膜(I)の好ましい製法であるキャスト法に使用するワニスに関し、上記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を用いた場合を例として紹介する。
【0066】
≪プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂のワニス≫
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は、その分子構造が基本的には直鎖状であり、前記多官能化合物に由来する架橋構造を有していてもその量は僅かであることから、溶剤溶解性に優れる。したがって、該樹脂を溶剤に溶解したワニスの形態とすることができる。
【0067】
溶剤としては、特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、塩化メチル、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジクロロエチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノールなどのセロソルブ類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、炭酸ジメチルなどの非プロトン性極性溶剤類が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を混合して使用できる。中でも、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコールなど)、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどは、水溶性のため好ましく、更にこれらと水との混合溶剤も好ましい。ワニス中の樹脂濃度は、ワニスの使用方法により選択できるが、好ましくは1質量%以上80質量%以下である。
本実施形態の自立膜であるイオン交換膜(I)は、例えば、上記のワニスを用いてキャスト法により製造することが出来る。具体的な製造方法は後述する。
【0068】
《引張弾性率、引張破断強度および伸び率》
本実施形態の自立膜であるイオン交換膜(I)の引張弾性率は、好ましくは0.8~2.0GPa、更に好ましくは1.2~1.6GPaである。イオン交換膜(I)の引張破断強度は、好ましくは40MPa以上であり、その上限は例えば100MPaである。また、イオン交換膜(I)の伸び率は、好ましくは40%以上であり、その上限は例えば200%である。これらの引張弾性率、引張破断強度および伸び率は、下記の条件で測定した場合のものである。
【0069】
長さ×幅×厚さ=100mm×10mm×5μmの試験片を作製し、引張試験機を用いて速度50mm/分で引っ張り、試験片が切断(破断)したときの強度(引張荷重値を試験片の断面積で除した値)、および伸び率を求める。
【0070】
伸び率は次の式によって算出する。
伸び率(%)=100×(L-L0)/L0
(L0:試験前の試験片長さ L:破断時の試験片長さ)
また、引張弾性率は、破断時の加重を試験片の断面積および破断時の歪量、すなわち(L-L0)/L0で除した値とする。
前記引張破断強度および前記伸び率は、例えば、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の分子量を高めることによって大きくすることができる。
【0071】
《溶解性および質量減少率》
イオン交換膜(I)のジメチルスルホキシド(以下「DMSO」ともいう。)および水に対する溶解性は、各々以下の質量減少率によって評価することができる。前記質量減少率は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0072】
イオン交換膜(I)を、窒素雰囲気下、150℃で4時間静置して乾燥させた後、秤量する。イオン交換膜を、DMSOまたは水に浸し、25℃で24時間静置する。イオン交換膜を、DMSOまたは水から取り出し、窒素雰囲気下、150℃で4時間静置して乾燥させた後、秤量する。イオン交換膜(I)の浸漬前後の質量に基づき、下記式から質量減少率を算出する。
質量減少率=(イオン交換膜の浸漬前の質量-イオン交換膜の浸漬後の質量)/イオン交換膜の浸漬前の質量×100
【0073】
前記溶解量は、例えば前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を架橋することにより小さくでき、したがって前記プロトン酸基当量が小さくても前記溶解量を上記の範囲とすることができる。
【0074】
≪イオン交換膜(I)の製造方法≫
イオン交換膜(I)は、例えば、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂から、自立膜として製造することができる。イオン交換膜(I)は、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂をプレス成形や押し出し成形することにより、容易に製造できる。また、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の膜に、延伸処理などを施してもよい。
【0075】
イオン交換膜(I)は、前述のワニスからキャスト法により製造することもできる。すなわち、前記ワニスを支持体上に塗布し、溶剤を揮発除去することによりイオン交換膜(I)を得ることができる。さらに、イオン交換膜(I)を支持体から剥離して自立膜とすることが出来る。
【0076】
イオン交換膜(I)中にキャスト時の有機溶剤などが残存している場合には、前記イオン交換膜(I)は機械強度が低下し破損しやすくなる恐れがある。そのため、キャスト法により製造されたイオン交換膜(I)には、十分な乾燥、および/または水、硫酸水溶液、塩酸などでの洗浄を施すことが好ましい。
【0077】
なお、イオン交換膜(I)の製造に好ましく用いる前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂が有する前記プロトン酸基が、プロトンを放出し易い官能基において水素原子がNaまたはKで置換されたものである場合に、該プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の膜を形成し、次いでこの膜を塩酸、硫酸水溶液などと接触させることにより前記プロトン酸基が有するNaまたはKを水素原子に置換してもよい。
【0078】
≪イオン交換膜(I)の好適例≫
イオン交換膜(I)の好ましい例は、前記のプロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を含んでなる自立膜である。前記芳香族ポリエーテル樹脂を原料として用いたイオン交換膜は、自立膜として製造可能であり、このイオン交換膜(I)は、メッシュ状支持材(III)や多孔質基材(II)から選ばれる材料とを積層することによって、イオン交換膜(I)としての性能を損なうことなく、ハンドリング性等を改善させることができるイオン交換膜(IV)とすることも出来る。
【0079】
この様なイオン交換膜(I)やイオン交換膜(IV)は、自立膜であるため、従来の多孔質樹脂基材にイオン交換樹脂を塗布や付着させた態様のイオン交換膜に比して、イオン交換樹脂部分の厚さが比較的均一であり、薄くすることも可能であるので、安定して高いイオン交換性能を発現することが期待できる。また、樹脂組成の制御により、高い水透過性や高い塩の阻止率の膜を得ることも可能である。また、従来の態様と異なりイオン交換性能を持つ樹脂自身が自立膜を形成していることは、例えばメッシュ状支持材(III)や多孔質基材(II)などを併用する態様において、当該メッシュ状支持材(III)や多孔質基材(II)が劣化してもイオン交換膜性能への影響は少ないことが期待できる。(従来の多孔質樹脂基材にイオン交換樹脂を付着させるような態様では、多孔質樹脂基材が劣化すると、イオン交換樹脂の剥離が起こるなどの問題点があることが知られている。)
【0080】
以下、イオン交換膜(I)として、前記芳香族ポリエーテル樹脂を含む態様を代表例として説明する。本実施形態のイオン交換膜(I)は、イオン交換能を有する好適な重合体である前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を10質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、殊に好ましくは80質量%以上である。イオン交換膜(I)において、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の含有率の好ましい上限値は、100質量%である。
【0081】
[多孔質基材(II)]
イオン交換膜(I)は、薄いことが好ましい特性から、ハンドリング特性や強度を確保する手段が必要な場合が多い。主として上記観点から、イオン交換膜(I)とともに、多孔質基材(II)や後述するメッシュ状支持材(III)を併用して用い、イオン交換膜(IV)とすることが出来る。好ましくは、これらの材料の積層体として用いられる。一実施形態において、例えば、イオン交換膜(I)をその両面から2つの多孔質基材(II)で挟むことによって、イオン交換膜(IV)を製造することができる。なお、本発明において、多孔質基材(II)は、メッシュ状支持材(III)とは異なる構造を持つ。
【0082】
ただし、この様な多孔質基材(II)の存在は、イオン交換膜(IV)全体を見た場合、イオンの濃度分極の発生を伴う場合があり、イオン分離能を低下させる場合がある。この為、本発明においては、好ましくは、以下のような条件を満たす多孔質基材(II)が用いられる。
【0083】
多孔質基材(II)の通気度は、100~400cm3/cm2/sであることが好ましい。この通気度はJIS L 1096に記載のA法(フラジール形法)に基づき、以下のように測定される。
【0084】
20cm×20cmの試験片を試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸い込みファン及び空気孔を調整し、垂直形気圧計の示す圧力を測定する。測定した圧力と空気孔の種類から試験機に附属の換算表によって試験片を通過する空気量を求める。
【0085】
また、多孔質基材(II)の厚さは、通常50~700μm、好ましくは80~600μm、更に好ましくは100~500μmである。
イオン交換膜(IV)がこのように高い通気度を有しかつ薄い多孔質基材(II)を有することにより、イオン交換膜(IV)を使用する際に多孔質基材(II)の内部に生じる濃度分極が抑制され、かつイオンがイオン交換膜(IV)を透過する時の抵抗を小さくでき、結果としてイオン交換膜(IV)における水の透過流束を大きくすることができる、と考えられる。多孔質基材(II)の通気度および厚さは、常法により制御することができる。
【0086】
多孔質基材(II)を構成する好ましい材質としては、例えば、合成樹脂および天然繊維が挙げられる。
合成樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられ、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、オレフィン系重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系重合体およびポリエステル樹脂が好ましく、オレフィン系重合体が特に好ましい。
【0087】
オレフィン系重合体としては、具体的には、α-オレフィンの単独重合体もしくは共重合体、またはα-オレフィンと他のモノマーとの共重合体である。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの炭素数2~8のα-オレフィンが挙げられる。オレフィン系重合体には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体などのポリオレフィン樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのα-オレフィンと他のモノマーとの共重合体が含まれる。
【0088】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66が挙げられる。
【0089】
天然繊維としては、例えば、綿、麻などの植物繊維、絹、羊毛などの動物繊維が挙げられる。これらの中でも、綿および絹が好ましい。
多孔質基材(II)としては、例えば、織布、不織布、編布などの布質基材、発泡シートが挙げられる。これらの中でも布質基材が好ましく、織布および不織布がさらに好ましく、不織布が特に好ましい。
【0090】
不織布としては、例えば、スパンボンド法による長繊維不織布、メルトブローン法による短繊維不織布、フラッシュ紡糸不織布などの長繊維不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、ケミカルボンド不織布が挙げられる。これらの中でも、スパンボンド不織布およびメルトブローン不織布が好ましく、スパンボンド不織布がより好ましく、ポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンのスパンボンド不織布が特に好ましい。
【0091】
前記不織布は、構成する繊維を異なった樹脂による複合繊維とし、繊維外表面側に異なった樹脂を配した芯鞘型またはサイドバイサイド型複合繊維であってもよい。複合繊維としては、例えば、ポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘型またはサイドバイサイド型複合繊維が挙げられる。
【0092】
前記不織布は、積層不織布であってもよい。積層不織布としては、例えば、スパンボンド不織布およびメルトブローン不織布を含む積層不織布が挙げられ、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とが積層されたもの(SM)、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とスパンボンド不織布とがこの順序で積層されたもの(SMS)が挙げられる。
【0093】
このような積層不織布を得るには、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを積層し、両者を一体化して形成させる。一体化する方法としては、例えば、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布を重ね合わせて加熱加圧する方法、ホットメルト接着剤、溶剤系接着剤等の接着剤によって両者を接着する方法、スパンボンド不織布の上にメルトブローン法により繊維を堆積させて熱融着する方法が挙げられる。
【0094】
前記不織布は、不織布の間に微小孔を有する多孔性フィルムを挟んだ形態の積層不織布であってもよい。このような形態の積層不織布として、例えば、ポリプロピレン(PP)不織布と多孔性PPフィルムとPP不織布(SFS)とがこの順序で積層されたもの、PP不織布と多孔性PPフィルムとレーヨンPP不織布(SFR)とがこの順序で積層されたものなどを挙げることができる。
前記不織布の目付(積層不織布の場合には積層不織布としての目付)は、好ましくは10~80g/m2程度、より好ましくは20~40g/m2程度である。
【0095】
[メッシュ状支持材(III)]
本発明に必要に応じて用いられるメッシュ状支持材(III)は、以下のような条件を満たすことが好ましい。
メッシュ状支持材(III)は、5~2,000個/インチの空孔を有することが好ましく、より好ましくは5~1,000個/インチ、さらに好ましくは5~500個/インチ、よりさらに好ましくは5~400個/インチの空孔を有する。前記空孔の数は5~80個/インチの範囲がより好ましく、更に好ましくは5~50個/インチであり、特に好ましくは5個/インチ以上、20個/インチ未満である。前記空孔の数の特に好ましい上限値は、15個/インチである。
【0096】
前記空孔の数は、いわゆるメッシュ♯である。なお、メッシュ状を規定する第1方向(例:縦方向)および第2方向(例:横方向)における空孔の数は同一であっても異なってもよく、それぞれ前記範囲にあればよい。第1方向と第2方向とは互いに垂直でもよく、垂直でなくともよい。
【0097】
メッシュ状支持材(III)の開口率は、好ましくは10~95%、より好ましくは20~95%、さらに好ましくは30~95%の範囲にある。メッシュ状支持材(III)の開口率は、一実施態様では、90%超の範囲であってもよい。ここで開口率(ε)は、ε={A
1/(A
1+d
1)}×{A
2/(A
2+d
2)}×100(%)にて定義される。前記式中、εは開口率であり、A
1は第1方向(例:縦方向)の目開き(mm)であり、A
2は第2方向(例:横方向)の目開き(mm)である。A
1=(25.4/M
1)-d
1、およびA
2=(25.4/M
2)-d
2で定義される。d
1は第2方向に延びる繊維(例:横繊維)の繊維径であり、M
1は第1方向(例:縦方向)のメッシュ(1インチ当たりの目(空孔)の数)である。d
2は第1方向に延びる繊維(例:縦繊維)の繊維径であり、M
2は第2方向(例:横方向)のメッシュ(1インチ当たりの目(空孔)の数)である。
図1参照。
図1では、第1方向(縦方向)と第2方向(横方向)とは互いに垂直になっているが、垂直でなくともよい。
【0098】
メッシュ状支持材(III)は、繊維が格子状に配置されていることが好ましい。前記繊維の繊維径は、好ましくは5~250μm、好ましくは10~180μm、より好ましくは10~100μmである。
【0099】
繊維の材料は適度な強度と耐水性があれば特に限定されず、例えば、樹脂、繊維状金属を用いることができる。前記樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエステルが挙げられ、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。前記繊維状金属としては、例えば、ステンレススチールが挙げられる。また、シルク等の天然繊維を用いることもできる。
【0100】
メッシュの種類としては、例えば、平織、綾織、平畳織、綾畳織、焼結網等のいずれでも用いることができる。これらの中でも、平織が好ましい。
メッシュ状支持材(III)としては、市販品を用いることができ、メッシュ(株)、日本メッシュ工業(株)、(株)くればぁ、アサダメッシュ(株)、(株)NBCメッシュテック、(株)バンテック等の製品があげられる。
【0101】
本発明において多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)を使用する目的の一つは、前記の通り、イオン交換膜(I)のハンドリング性の向上である。したがって、多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)はイオン交換膜(I)の少なくとも一方の面と直接接触していることが好ましい。
【0102】
多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)は、イオン交換膜(I)の面積が広い場合などには、本発明の目的を損なわない範囲で接着剤または粘着剤等を、イオン交換膜(I)とこれらの材とを固定するために使用することができる。具体的な接着剤や粘着剤の利用方法については、例えば以下のような(メッシュ状支持材(III)を用いた)例を挙げることが出来る。
【0103】
メッシュ状支持材(III)とイオン交換膜(I)とを積層させる方法としては、接着剤または粘着剤を介してメッシュ状支持材(III)とイオン交換膜(I)とを貼り合わせてもよいし、メッシュ状支持材(III)とイオン交換膜(I)とを単に重ねあわせただけでこれらの周辺部を枠材で挟んで固定してもよい。ハンドリングの点からは、接着剤または粘着剤を介してメッシュ状支持材(III)とイオン交換膜(I)とを貼り合わせることが好ましい。接着剤または粘着剤は、メッシュ状支持材(III)の開口部をふさがないようにメッシュ状支持材(III)の基材部分(繊維など)だけに塗布することが好ましい。
【0104】
上記の通り、イオン交換膜(I)と多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)とを組み合わせた態様であるイオン交換膜(IV)は、それぞれの構成材料が実質的に独立している構成である。前記の通り、多孔質基材にイオン交換樹脂を付着させる従来の構成では、多孔質基材の劣化によるイオン交換樹脂の剥離が、イオン交換性能に影響することが開示されている(非特許文献1等)。一方、イオン交換膜(IV)は多孔質基材(II)やメッシュ状支持材(III)が劣化しても、その構造上イオン交換樹脂の剥離などによる性能低下が起こり難いと考えることが期待出来る。
【0105】
[イオン交換膜の用途]
このようにして形成されたイオン交換膜(I)およびイオン交換膜(IV)は、例えば、適宜、適当な大きさに裁断されて、使用或いは販売に供される。
【0106】
本実施形態のイオン交換膜(I)およびイオン交換膜(IV)は、公知の用途に制限なく用いることが出来る。例えば、電気透析用膜、拡散透析用膜、逆電気透析用膜;燃料電池(例:メタノール型燃料電池)の他、固体高分子膜電池や各種2次電池の電解質膜などに用いることが出来る。例えば、電気透析用膜では、イオン交換膜(I)が低抵抗膜であることから、ランニングコストの低減が期待でき、拡散透析用膜では、イオン交換膜(I)の薄膜化によるイオン透過流束の飛躍的向上が期待でき、逆電気透析用膜では、イオン交換膜が高輸率・低膜抵抗であることから、出力性能の向上が期待でき、燃料電池用電解質膜では、イオン交換膜(I)の薄膜化によるプロトン伝導性の飛躍的向上が期待できる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
本実施例で用いた略称の内容を示す。
(1)溶媒
DMSO :ジメチルスルホキシド
DMF :N,N-ジメチルホルムアミド
(2)芳香族ポリエーテルの構成成分
DFBP :
4,4'-ジフルオロベンゾフェノン
DSDFBP:
5,5'-カルボニルビス(2-フルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム)
TMBPF :
3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン
実施例中の各種試験の試験方法は次に示すとおりである。
【0108】
・樹脂の評価
<重量平均分子量(Mw)>
GPC(Gel Permeation Chromatography)法を用い、以下の条件により重量平均分子量(Mw)を求めた。
(1) 測定温度:40℃
(2) 展開溶媒:DMF
(3) 流量:0.7ml/分
(4) 注入量:500μl
(5) 検出器:UV検出器
(6) 分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0109】
より詳細には、前記GPC測定に使用した高速液体クロマトグラフ(HPLC)は、以下の装置を常法により組み合わせて使用する。
HPLC : 島津製作所(SHIMADZU)製 RID-10A-LC-10AT型システム
カラムオーブン:島津製作所(SHIMADZU)製 CTO-10A型装置
UV検出器 :日本分光株式会社(JASCO)製 875-UV型装置
ガードカラム :昭和電工株式会社(SHODEX)製 KD-G型カラム
GPCカラム :昭和電工株式会社(SHODEX)製 KD805型カラム2本、同KD802.5型カラム1本、同802型カラム1本を直列に連結して使用した。
【0110】
<スルホン酸ユニット含量>
樹脂合成に使用した原材料の量比を用いて決定した。
・イオン交換膜の評価
<厚さ>
日本分光社製分光光度計(エリプソメトリ)を用い厚さを測定した。具体的には、屈折率nの膜に光がある角度(θ)で入射すると,膜の表面からの反射光Aと裏面からの反射光Bが干渉して,波打った干渉スペクトルが生じる。ある波長範囲(λ1~λ2)内における干渉スペクトルのピーク(山または谷)の数(Δm)を数えることで(1)式から厚さ(d)を算出した。
【0111】
【0112】
<膜抵抗測定>
0.5M NaCl水溶液に浸漬させて膨潤平衡に達した試料膜をセルに挟み、0.5M NaCl水溶液を入れてLCRメーターを用いて25℃における抵抗Rlを測定した。そして同条件における膜を挟まない状態での抵抗R0を測定した。RlからR0の値を差し引くことで下式より膜抵抗Rmを測定した。
Rm=Rl-R0
ここで、Rlは膜をセットした時の抵抗、R0は膜無しの抵抗である。
【0113】
<膜荷電密度>
有効膜面積8cm2の陽イオン交換膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室にAg-AgCl電極を設け、両室のセルに濃度の異なるKCl水溶液を入れて、両セルの濃度比r=3に保持した状態で両セルの濃度を変化させて膜電位を測定した。この時、電位は高濃度側を基準とした。低濃度側KCl濃度と測定膜電位との関係は下式に示すTeorell-Meyer and Sievers 理論式を用いて解析することで膜荷電密度を算出した。
【0114】
【数2】
ここで、各記号の意味は以下のとおりである。
Δφ:膜電位 [V]
F :ファラデー定数 [C/mol]
C
x :膜荷電密度(荷電基の符号を含む) [mol/m
3]
R :ガス定数 [J/K
mol]
C
0 :低濃度側セルの塩濃度 [mol/m
3]
T : 絶対温度 [K]
r :濃度比 [-]
W :(ω
c-ω
a)/(ω
c+ω
a)
ω
c, ω
a : K
+ and Cl
- イオンの移動度 [mol/m
2 J s]
【0115】
<動的輸率>
有効膜面積8cm2の陽イオン交換膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室にAg-AgCl電極を設け、両室に0.5mol/L-NaCl水溶液を用い、電流密度10mA/cm2、電気量360Cで、測定時間75min.走査を行った後、負極側濃度(Ca[mol/dm3])および正極側濃度(Cc[mol/dm3])を測定した。求めた濃度より下記式を用いて動的輸率を求めた。
理論等量 :Ea = (I×s)/(96500q/mol) = mq :注I =q/s
負極側濃度 :Ca[mol/dm3]
正極側濃度 :Cc[mol/dm3]
移動した等量:Δm[meq]=(Cc-Ca)/2
動的輸率 :t+ = Δm/Ea
【0116】
(単量体合成例1)
特開2014-533号公報の[0061]段落(合成例1)に記載の方法で、下式で表されるDSDFBPの白色結晶を得た。収量は155.2g(0.386mol、収率70%)であった。
【0117】
【0118】
(樹脂合成例1)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた5つ口反応器に、単量体合成例1で得られたDSDFBP32.1g(0.076mol)、DFBP66.3g(0.304mol)、TMBPF97.4g(0.380mol)および炭酸カリウム65.7g(0.475mol)を秤取した。これにDMSO783.4gとトルエン261.1gを加え、窒素雰囲気下で撹拌し、130℃で12時間加熱し、生成する水を系外に除去した後、トルエンを留去した。
【0119】
引き続き、160℃で12時間反応を行い、粘稠なポリマー溶液を得た。得られた溶液にトルエン570gを加えて希釈した後、メタノール2400gに排出し、析出したポリマー粉を濾過、洗浄後、150℃で4時間乾燥してポリエーテルケトン粉171.6g(収率95%)(樹脂1)を得た。
諸物性評価結果を表1に示す。
樹脂(1)は、前記構造集団(1)として
【0120】
【化10】
で表される構造を、前記構造集団(2)として
【0121】
【0122】
(樹脂合成例2)
樹脂の原料および溶媒を、DSDFBP48.1g(0.114mol)、DFBP58.0g(0.265mol)、TMBPF97.4g(0.380mol)および炭酸カリウム65.7g(0.475mol)、ならびにDMSO814.4gおよびトルエン271.5gとした他は樹脂合成例1と同様にしてポリマー粉175.2g(収率93%)(樹脂2)を得た。諸物性評価結果を表1に示す。
【0123】
(樹脂合成例3)
樹脂の原料および溶媒を、DSDFBP64.2g(0.152mol)、DFBP49.8g(0.228mol)、TMBPF97.4g(0.380mol)および炭酸カリウム65.7g(0.475mol)、ならびにDMSO845.4gおよびトルエン281.8gとした他は樹脂合成例1と同様にしてポリマー粉168.7g(収率86%)(樹脂3)を得た。諸物性評価結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
[実施例1、2、3]
樹脂合成例1、2、3で製造した樹脂1、2、3をそれぞれDMFに溶解させてワニスを調製し、このワニスを離型シート上にキャストし、150℃で10分乾燥して樹脂1、2、3の膜を得た。これを離型シートから剥離して自立膜とし、陽イオン交換膜1、2、3を得た。
【0126】
次に、多孔質基材として、JIS L 1096記載のA法(フラジール形法)で測定される通気度が300cm3/cm2/s、厚さが290μm、材質がポリプロピレンである不織布(シンテックス(登録商標) PS-105 三井化学(株)製)を2枚準備し、これらの不織布で前記陽イオン交換膜1、2、3をそれぞれ挟み、これらを一体化させて、陽イオン交換膜4-1、4-2、4-3を得た。陽イオン交換膜4-1、4-2、4-3の評価結果を表2に示す。
【0127】
[実施例4]
前記多孔質基材の代わりにメッシュ状支持材(ポリエステル製、メッシュ数:225/inch2、メッシュサイズ:113x113μm:孔サイズ:50x50μm、開口率31%)を用いた以外は、実施例2と同様にして陽イオン交換膜4-4を得た。評価結果を表2に示した。
【0128】
【0129】
[比較例]
陽イオン交換膜として、(株)アストム社製のネオセプタ(登録商標)CMXを使用した。(非特許文献1の記載より、ネオセプタは、基材フィルムにイオン交換樹脂を付着させた構造であり、イオン交換樹脂自体が自立膜にはなっていない構成である。)
【符号の説明】
【0130】
1:イオン交換膜(I)
2:多孔質基材(II)