(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】トマト雑種HN5003及び親系統SENG9234
(51)【国際特許分類】
A01H 6/82 20180101AFI20241024BHJP
A01H 5/08 20180101ALI20241024BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20241024BHJP
A01H 5/02 20180101ALI20241024BHJP
A01H 5/04 20180101ALI20241024BHJP
A01H 5/06 20180101ALI20241024BHJP
【FI】
A01H6/82
A01H5/08
A01H5/10
A01H5/02
A01H5/04
A01H5/06
(21)【出願番号】P 2020070736
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-04-07
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】NCIMB NCIMB 43380
【微生物の受託番号】NCIMB NCIMB 43381
(73)【特許権者】
【識別番号】502113448
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ルイス オルテガ フェルナンデス
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517526(JP,A)
【文献】米国特許第09832944(US,B2)
【文献】米国特許第07612261(US,B2)
【文献】STAATSCOURANT Nr.53633,Officiele uitgave van het Knonkrijk der Netherlanden sinds 1814,2018年09月21日,pp.1-17
【文献】STAATSCOURANT Nr.2978,Officiele uitgave van het Knonkrijk der Netherlanden sinds 1814,2019年01月18日,pp.1-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234を生じる種子であって、種子の代表サンプルはそれぞれ、NCIMBアクセッション番号43380及びNCIMBアクセッション番号43381で寄託されている、種子。
【請求項2】
請求項1に記載の種子から生じたトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物。
【請求項3】
請求項2に記載のトマト植物の全ての生理学的特徴及び形態学的特徴を有するトマト植物又はその一部。
【請求項4】
請求項3に記載の植物を生じる種子。
【請求項5】
請求項2に記載の植物に由来する子孫トマト植物であって、請求項2に記載の植物の対立遺伝子の少なくとも90%を含み、且つ濃い紫色の果実色を特徴とする子孫トマト植物。
【請求項6】
請求項2に記載の植物の植物部位。
【請求項7】
前記植物部位は、葉、果実、F1種子、新芽、花粉、胚珠、葯、根、根茎、接ぎ穂、又は細胞である、請求項6に記載の植物部位。
【請求項8】
請求項2に記載のトマト植物の再生可能な細胞の組織培養物。
【請求項9】
請求項8に記載の組織培養物から再生されたトマト植物又はその自殖子孫であって、前記トマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の生理学的特徴及び形態学的特徴の全てを含む、トマト植物又はその自殖子孫。
【請求項10】
トマト種子を作出する方法であって、請求項2に記載の植物と、それ自体又は第2のトマト植物とを交配すること、及び得られた種子を収穫することを含む方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により作出されたF1種子。
【請求項12】
請求項11に記載の種子を成長させることにより生じたトマト植物又はその一部。
【請求項13】
根茎及び接ぎ穂を含む接木トマト植物であって、請求項2に記載の植物を前記接ぎ穂として使用し、前記根茎は別のトマト植物由来である、接木トマト植物。
【請求項14】
接木トマト植物を作出する方法であって、
(a)請求項2に記載の植物から接ぎ穂を準備すること、
及び
(b)前記接ぎ穂を、別のトマト植物由来の根茎に接ぎ木すること
を含む方法。
【請求項15】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物の種子を作出する方法であって、
(a)請求項2に記載の植物と別のトマト植物とを交配すること、
(b)種子を生じさせること、
(c)工程(b)の前記種子から植物を成長させて、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物を生じさせること、
(d)工程(c)の前記植物を自殖させるか、又は第2のトマト植物と交配して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するさらなるトマト種子を形成すること、
並びに
(e)任意に工程(c)及び(d)を1回以上繰り返して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234から、さらに由来するトマト種子を生成することであり、工程(c)では、工程(b)の前記種子から植物を成長させる代わりに、工程(d)の前記さらなるトマト種子から植物を成長させること
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法により作出されたトマト種子。
【請求項17】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234を栄養繁殖させる方法であって、
(a)請求項2に記載の前記植物から繁殖されることが可能な組織を採取すること、
(b)前記組織を培養して、増殖した新芽を得ること、
(c)前記増殖した新芽を発根させて、発根した小植物を得ること、
及び
(d)任意に、前記発根した小植物から植物を成長させること
を含む方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法により得られたトマト小植物又はトマト植物であって、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の生理学的特徴及び形態学的特徴の全てを含むトマト小植物又はトマト植物。
【請求項19】
単一遺伝子座変換をさらに含む請求項2に記載の植物。
【請求項20】
前記単一遺伝子座変換により、雄性不稔、昆虫抵抗性、線虫抵抗性、耐病性、除草剤耐性、非生物的ストレス耐性、脂肪酸代謝の改変、炭水化物代謝の改変、果実の甘味の増加、果実の熟成の改善、果実のフラボノイド含有量の増加、果実色の改変、又は上述の組み合わせが付与される、請求項19に記載の植物。
【請求項21】
請求項20に記載の植物を生じる種子。
【請求項22】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に所望の追加形質を導入する方法であって、
(a)反復親としての請求項2に記載の植物と、所望の追加形質を含む別のトマト植物とを交配して、F1子孫を作出すること、
(b)前記所望の追加形質を含むF1子孫を選択すること、
(c)前記選択されたF1子孫と、工程(a)と同一の反復親とを交配して、戻し交配子孫を作出すること、
(d)前記所望の追加形質を含む戻し交配子孫を選択すること、
並びに
(e)任意に工程(c)及び(d)を1回以上繰り返して、前記所望の追加形質を含み、他の点ではトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の生理学的特徴及び形態学的特徴の全てを含む、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物を作出することであり、工程(c)では、工程(b)の前記選択されたF1子孫の代わりに、工程(d)で得られた、前記選択された戻し交配子孫を使用すること
を含む方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法により作出されたトマト植物又はその自殖子孫であって、前記トマト植物は前記所望の追加形質を有する、トマト植物又はその自殖子孫。
【請求項24】
請求項23に記載の植物を生じる種子。
【請求項25】
請求項22に記載の方法であって、工程(c)の戻し交配を少なくとも3回繰り返して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する近交系を作出し、前記方法は、前記得られた近交系と別のトマト系統とを交配して、F1雑種子孫植物を作出することをさらに含む、方法。
【請求項26】
所望の追加形質を含むトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物を作出する方法であって、請求項2に記載の植物に、前記所望の形質を付与する導入遺伝子を導入することを含む方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法により作出されたトマト植物又はその自殖子孫であって、前記トマト植物は、前記導入遺伝子を含み且つ前記所望の追加形質を有する、トマト植物又はその自殖子孫。
【請求項28】
請求項27に記載の植物を生じる種子。
【請求項29】
トマト果実を生産する方法であって、
(a)請求項2に記載のトマト植物を成長させてトマト果実を実らせること、
及び
(b)前記トマト果実を収穫すること
を含む方法。
【請求項30】
トマト加工品を製造する方法であって、
(a)請求項2に記載の植物の果実を得ること、
及び
(b)前記果実を加工して加工品を製造すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトマト植物の分野におけるものである。
【背景技術】
【0002】
トマトは重要な世界的作物である。ソラナセア(Solanaceae)科に関連するいくつかの植物種は古代から人類に親しまれており、且つ農業上非常に重要である。ソラナム(Solanum)属はソラナセア(Solanaceae)科のメンバーであり、栽培植物化したトマトS.リコペルシカム(S.lycopersicum)(リコペルシカム・エスキュレンタム(Lycopersicum esculentum)としても既知である)を含む。トマトは一般に、暖かい夏の生育条件に適しているが、冬の条件下でも暖かい温室で生育され得る。1950年代での雑種トマト品種の導入により、大きな利点(例えば、収穫量の増加、保持力の向上、保護栽培の使用による拡大された生育期への適応、及び耐病性の改善)がもたらされ、これにより商品作物としてトマトが大規模に生産された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5,959,185号明細書
【文献】米国特許第5,973,234号明細書
【文献】米国特許第5,977,445号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】In re Herz,537 F.2d 549,551-52,190 U.S.P.Q.461,463(CCPA 1976)
【文献】MPEP § 2111.03
【文献】Gaj et al.,ZFN,TALEN,and CRISPR/Cas-based methods for genome engineering.Trends in Biotechnology,31:397-405(2013)
【文献】Teng,et al.,HortScience,27:9,1030-1032(1992)
【文献】Teng,et al.,HortScience,28:6,669-1671(1993)
【文献】Zhang,et al.,Journal of Genetics and Breeding,46:3,287-290(1992)
【文献】Webb,et al.,Plant Cell Tissue and Organ Culture,38:1,77-79(1994)
【文献】Curtis,et al.,Journal of Experimental Botany,45:279,1441-1449(1994)
【文献】Nagata,et al.,Journal for the American Society for Horticultural Science,125:6,669-672(2000)
【文献】Ibrahim,et al.,Plant Cell Tissue and Organ Culture,28(2),139-145(1992)
【文献】Fehr and Walt,Principles of Cultivar Development,pp.261-286(1987)
【文献】Becker,et al.,Plant Mol.Biol.,20:49(1992)
【文献】Close,P.S.,Master’s Thesis,Iowa State University(1993)
【文献】Knox,C.,et al.,”Structure and Organization of Two Divergent Alpha-Amylase Genes from Barley,”Plant Mol.Biol.,9:3-17(1987)
【文献】Lerner,et al.,Plant Physiol.,91:124-129(1989)
【文献】Fontes,et al.,Plant Cell,3:483-496(1991)
【文献】Matsuoka,et al.,PNAS,88:834(1991)
【文献】Gould,et al.,J.Cell.Biol.,108:1657(1989)
【文献】Creissen,et al.,Plant J,2:129(1991)
【文献】Kalderon,et al.,A short amino acid sequence able to specify nuclear location,Cell,39:499-509(1984)
【文献】Steifel,et al.,Expression of a maize cell wall hydroxyproline-rich glycoprotein gene in early leaf and root vascular differentiation,Plant Cell,2:785-793(1990)
【文献】Heney and Orr,Anal.Biochem.,114:92-6(1981)
【文献】Miki,et al.,”Procedures for Introducing Foreign DNA into Plants” in Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology,Glick and Thompson Eds.,CRC Press,Inc.,Boca Raton,pp.67-88(1993)
【文献】Gruber,et al.,”Vectors for Plant Transformation” in Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology,Glick and Thompson Eds.,CRC Press,Inc.,Boca Raton,pp.89-119(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トマトの育種家は、雑種トマトの収穫量、園芸的特徴、及び消費者品質形質を継続的に改善している。そのため、改善されたトマト雑種変種及び親系統の改善が継続的に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、HN5003と呼ばれる新規の雑種トマト変種、及び親トマト系統SENG9234が提供される。
【0007】
本発明はまた、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234の種子、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234の植物、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234の植物部位(例えば、果実、種子、配偶子、根茎、接ぎ穂、新芽)、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234から種子を作出する方法、並びにトマト雑種HN5003又は系統SENG9234とそれ自体又は別のトマト植物とを交配することによりトマト植物を作出する方法、1種又は複数種の導入遺伝子を遺伝物質中に含むトマト植物を作出する方法、並びにこの方法により作出されたトランスジェニックトマト植物も包含する。本発明はまた、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する他のトマト植物を作出する方法、及びこの方法の使用により作出されたトマト植物、その一部、及び種子にも関する。本発明はさらに、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234と別のトマト植物とを交配することにより作出された雑種トマトの種子及び植物(及び果実等のその一部)に関する。
【0008】
本発明はさらに、接木トマト植物及び接木トマト植物を作出する方法であって、根茎又は接ぎ穂のいずれかとしてトマト雑種HN5003又は系統SENG9234を使用し得る、接木トマト植物及び接木トマト植物を作出する方法を企図する。
【0009】
別の態様では、本発明は、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234の組織培養物での使用のための再生可能な細胞を提供する。実施形態では、この組織培養物は、上述のトマト植物の生理学的特徴及び形態学的特徴の全て若しくは本質的に全てを有する植物を再生し得、及び/又は上述のトマト植物と同一の若しくは実質的に同一の遺伝子型を有する植物を再生し得る。実施形態では、再生された植物は2倍体植物である。例示的な実施形態では、そのような組織培養物中の再生可能な細胞は、分裂組織細胞、子葉、胚軸、葉、花粉、胚、根、根端、葯、雌ずい、胚珠、新芽、茎、葉柄、髄、花、さく、さく果、及び/又は種子、並びに上記の内のいずれかに由来するカルス及び/又はプロトプラストである。さらに、本発明は、本発明の組織培養物から再生されたトマト植物を提供する。
【0010】
さらなる態様として、本発明は、トマト種子を作出する方法であって、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物とそれ自体又は別のトマト植物とを交配すること、この植物を栽培して成熟させること、及び種子を生じさせることを含む方法を提供する。任意選択的に、この方法は、この種子を採取することをさらに含む。
【0011】
本発明の別の態様は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する雑種及び他のトマト植物を作出する方法を提供する。この方法の使用により得られたトマト植物だけでなく、そのような雑種トマト植物又は得られたトマト植物からの植物部位、種子、配偶子、及び組織培養物も本発明の一部である。
【0012】
代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する少なくとも1セットの染色体を含む細胞を含む。雑種HN5003に由来する植物は親系統SENG9234にも由来することを当業者は理解するだろう。
【0013】
実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物又はトマト植物の集団はそれぞれ、トマト雑種HN5003由来の又は系統SENG9234由来の対立遺伝(即ち、理論的な対立遺伝子量;TAC)の(平均して)少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%(例えば、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の遺伝性相補体(genetic complement)の少なくとも約6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)を含み、任意選択的に、1回若しくは2回の育種交配、並びに自殖、同胞(sibbing)、戻し交配、及び/又は二重半数体技術の内の1つ若しくは複数を任意の組み合わせ及び任意の順序で含む育種プロセスの結果であり得る。実施形態では、この育種プロセスは育種交配を含まず、自殖、同胞、戻し交配、及び/又は二重半数体技術を含む。実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれから取り出された1回、2回、3回、4回、5回、又はより多くの育種の交配種である。
【0014】
実施形態では、トマト雑種HN5003由来の又は系統SENG9234由来の雑種植物又は得られた植物は、所望の追加形質を含む。代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、所望の追加形質を伴って、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば、表1で説明されている)それぞれの全てを含む。実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、所望の追加形質を伴って、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば、表1でされている)それぞれの本質的に全てを含む。
【0015】
本発明はまた、1種又は複数種の導入遺伝子を遺伝物質中に含むトマト植物を作出する方法、並びにこの方法により作出されたトランスジェニックトマト植物(及びこの導入遺伝子を含む子孫トマト植物)にも関する。同様に提供されるのは、そのようなトランスジェニックトマト植物由来の植物部位、種子、及び組織培養物であり、任意選択的により、この植物部位、種子、又は組織培養物における1つ又は複数の細胞は導入遺伝子を含む。この導入遺伝子を、植物形質転換及び/又は育種技術により導入し得る(例えば、前駆体植物の植物形質転換が達成されると、次いで、従来の育種により他の植物へと導入し得る)。
【0016】
別の態様では、本発明は、トマト雑種HN5003及び系統SENG9234の単一遺伝子座変換植物を提供する。そのような単一遺伝子座変換植物由来の植物部位、種子、及び組織培養物も本発明により企図される。単一遺伝子座は、優性対立遺伝子であってもよいし劣性対立遺伝子であってもよい。この単一遺伝子座は、天然に存在するトマト遺伝子座(例えば、伝統的な育種又は遺伝子編集技術により導入されている)であってもよいし、(植物又はその前駆体の)遺伝子操作技術によりトマトに導入されている導入遺伝子であってもよいし、天然には存在しない遺伝子座(例えば、変異誘発又は遺伝子編集により生じている)であってもよい。
【0017】
本発明はさらに、植物育種技術(例えば、循環選抜、戻し交配、系統育種、二重半数体技術、制限断片長多型増強選択(restriction fragment length polymorphism enhanced selection)、遺伝子マーカー増強選択、遺伝子編集、及び/又は遺伝子形質転換)を使用して、トマト植物育種プログラムにおいてトマト植物を開発する方法を提供する。そのような育種方法により作出された種子、トマト植物、及びそれらの一部も本発明の一部である。
【0018】
本発明はまた、本発明のトマト植物の繁殖又は繁殖の方法も提供し、この方法は、当分野で既知の任意の方法を使用して(例えば栄養繁殖及び/又は種子により)達成され得る。
【0019】
本発明の追加の態様は、本発明のトマト植物からの収穫物及び加工品を含む。本明細書で説明されているように、収穫物は植物全体又は任意の植物部位であり得る。そのため、いくつかの実施形態では、収穫物の非限定的な例として、種子、果実(例えば果肉)、根茎、接ぎ穂、及び/又は新芽が挙げられる。
【0020】
代表的な実施形態では、加工品として下記が挙げられるがこれらに限定されない:本発明のトマト植物のカットされた、スライスされた、粉砕された、乾燥された、裏ごしされた、缶詰にされた、瓶詰めにされた、洗浄された、包装された、冷凍された、種を取り除かれた、皮を剥かれた、及び/若しくは加熱された果実若しくは果肉、又はそれらの任意の他の一部(例えば、果実若しくは果肉から作られたピューレ、ペースト、ソース、及びサルサ)。
【0021】
本発明の種子は任意選択的に、単一の植物又は品種の種子の本質的に同種の集団として提供され得る。種子の本質的に同種の集団は一般に、実質的な数の他の種子を含まない(例えば、少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、又は99%純粋である)。
【0022】
代表的な実施形態では、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の種子を提供する。
【0023】
さらなる態様として、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物を提供する。
【0024】
追加の態様として、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物の生理学的特徴及び形態学的特徴の全て又は実質的に全てを有するトマト植物又はその一部を提供する。
【0025】
別の態様として、本発明は、本発明のトマト植物の果実及び果肉と、本発明のトマト植物の果実又は果肉からの加工品とを提供する。
【0026】
さらに別の態様として、本発明は、トマト種子を作出する方法であって、本発明のトマト植物とそれ自体又は別のトマト植物とを交配して(例えば、系統SENG9234と別のトマト系統)とを交配して、F1雑種種子(例えば、HN5003の種子)を作出することを含む方法を提供する。実施形態では、この方法を実行して系統SENG9234の種子を作出する(例えば種子の増加)。本発明はまた、この方法により作出された種子、並びにこの種子を成長させることにより生じた植物及びその一部(例えば果実)も提供する。
【0027】
さらなる態様として、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物の種子を作出する方法であって、(a)トマト雑種HN5003又は系統SENG9234のトマト植物と、別のトマト植物とを交配すること、及び(b)トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物の種子を生じさせることを含む方法を提供する。実施形態では、この方法は、(c)工程(b)のトマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する種子から植物を成長させること、(d)工程(c)の植物を自殖させるか、又は別のトマト植物と交配して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するさらなるトマト種子を形成すること、並びに(e)任意選択的に工程(c)及び(d)を1回以上繰り返して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するさらなるトマト種子を生成することであり、工程(c)では、工程(b)の種子から植物を成長させる代わりに、工程(d)のさらなるトマト種子から植物を成長させる、繰り返すことをさらに含む。実施形態では、この方法は、(e)工程(c)及び(d)を1回以上(例えば、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、1~3回、1~5回、1~6回、1~7回、1~10回、3~5回、3~6回、3~7回、3~8回、又は3~10回)繰り返して、さらに由来するトマト種子を生成することを含む。別の選択肢として、この方法は、この植物を栽培して成熟させること、及び種子を採取することを含み得る。本発明はまた、これらの方法により作出された種子、及びこの種子を成長させることにより生じたトマト植物も提供する。
【0028】
さらに、別の態様として、本発明は、例えば新芽増殖によりトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物を栄養繁殖させ、次いで組織培養物中で発根させる方法を提供する。非限定的な例では、この方法は、(a)トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物から増殖し得る組織を採取すること、(b)この組織を培養して、増殖した新芽を得ること、及び(c)この増殖した新芽を発根させて、発根した小植物を得ることを含む。任意選択的に、本発明は、この発根した小植物から植物を成長させることをさらに含む。本発明はまた、これらの方法により作出された小植物及び植物、並びにそれらから生じた種子及び果実も包含する。
【0029】
さらなる態様として、本発明は、接木トマト植物を作出する方法であって、雑種HN5003又は系統SENG9234を根茎又は接ぎ穂のいずれかとして使用する、方法を提供する。
【0030】
さらなる態様として、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に所望の追加形質を導入する方法であって、(a)トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の第1の植物と、所望の追加形質を含む第2のトマト植物とを交配して、F1子孫を作出すること、(b)所望の形質を含むF1子孫を選択すること、(c)選択されたF1子孫と、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234とを交配して、戻し交配子孫を作出すること、及び(d)所望の形質を含む戻し交配子孫を選択して、所望の形質を含むトマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物を作出することを含む方法を提供する。
【0031】
実施形態では、選択された戻し交配子孫は、トマト雑種HN5003を反復親として使用する場合には、本明細書で説明されているようなトマト雑種HN5003の特徴の内の1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを特徴とし、例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る。実施形態では、選択された戻し交配子孫は、トマト系統SENG9234を反復親として使用する場合には、本明細書で説明されているようなトマト系統SENG9234の特徴の内の1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを特徴とし、例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る。実施形態では、選択された子孫は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば表1で説明されている)の全て又は本質的に全てを含む。
【0032】
任意に、この方法は、(e)工程(c)及び(d)を1回以上(例えば、1~3回、1~5回、1~6回、1~7回、1~10回、3~5回、3~6回、3~7回、3~8回、又は3~10回)繰り返して、所望の形質を含むトマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物を作出することであって、工程(c)では、工程(b)の選択されたF1子孫の代わりに、工程(d)で作出された、選択された戻し交配子孫を使用する、繰り返すことをさらに含む。実施形態では、工程(c)の戻し交配を、少なくとも3回、4回、5回、6回、又はより多くの回数繰り返して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する近交系を作出し、任意選択により、この方法は、得られた近交系と別のトマト系統とを交配して、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するF1雑種子孫トマト植物を作出することをさらに含む。
【0033】
代表的な実施形態では、本発明はまた、所望の追加形質を含むトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物を作出する方法であって、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物に、所望の形質を付与する導入遺伝子を導入することを含む方法も提供する。この導入遺伝子を、形質転換方法(例えば遺伝子操作)又は伝統的な育種技術(例えば、この導入遺伝子が前駆体植物に導入される場合)により導入し得る。
【0034】
本発明はまた、本発明の方法により作出されたトマト植物であって、所望の追加形質を有するトマト植物、並びにそのようなトマト植物由来の種子及び果実も提供する。本発明はまた、雑種HN5003又は系統SENG9234に由来し、且つ所望の追加形質を含む植物を生じる種子も提供する。
【0035】
上述の方法によれば、この所望の追加形質は、下記が挙げられるがこれらに限定されない当分野で既知の任意の適切な形質であり得る:雄性不稔、雄性稔性、除草剤抵抗性、有害生物(例えば昆虫及び/若しくは線虫)抵抗性、脂肪酸代謝の改変、炭水化物代謝の改変、(例えば、細菌性疾患、真菌性疾患、及び/若しくはウイルス性疾患に対する)耐病性、非生物的ストレス耐性、栄養価の増強(例えば、果実のフラボノイド含有量の増加)、外観(例えば、外面の果実色、及び/若しくは果肉色)の改善、果実の甘味の増加、果実の風味の増加、果実の熟成の改善、食感若しくは味感の改善、果実の収穫量の改善、種子の収穫量の改善、苗の成長力の改善、種子の発芽の改善、工業的利用、又はこれらの任意の組み合わせ。
【0036】
代表的な実施形態では、除草剤抵抗性を付与する導入遺伝子は、グリホサート、スルホニル尿素、イミダゾリノン、ジカンバ、グルホシネート、フェノキシプロピオン酸(phenoxy proprionic acid)、L-ホスフィノトリシン、シクロヘキソン(cyclohexone)、シクロヘキサンジオン、トリアジン、ベンゾニトリル、又はこれらの任意の組み合わせに対する抵抗性を付与する。
【0037】
代表的な実施形態では、有害生物抵抗性(例えば昆虫抵抗性及び/若しくは線虫抵抗性)、を付与する導入遺伝子は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)内毒素をコードする。
【0038】
代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003に由来するトランスジェニック植物、形質転換植物(例えば、遺伝子操作技術を使用する)、遺伝子編集植物、単一遺伝子座変換植物、雑種植物、及びトマト植物は、本明細書で説明されているようなトマト雑種HN5003の特徴の内の1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを特徴とし、例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る。実施形態では、トマト系統SENG9234由来のトマト雑種HN5003に由来するトランスジェニック植物、形質転換植物(例えば、遺伝子操作技術を使用する)、遺伝子編集植物、単一遺伝子座変換植物、雑種植物、及びトマト植物は、本明細書で説明されているようなトマト系統SENG9234の特徴の内の1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを特徴とし、例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る。代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトランスジェニック植物、形質転換植物、遺伝子編集植物、雑種植物、及びトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれの形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば、表1で説明されている)の本質的に全てを含むか、又はトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴の全てを含み、その結果、前記植物は、任意選択的に1種又は複数種の所望の追加形質(例えば上記で説明されている)の存在下で、同一の環境条件下で成長させた際に5%の有意水準で決定した場合に、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれと比べて前記形質に関する有意差はない。
【0039】
一実施形態では、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG923の種子を作出する方法であって、トマト雑種HN5003又は系統SENG923の植物を成長させること、前記植物の受粉(例えば、隔離された区画又はフィールドでの前記植物の放任受粉)を可能にすること、及び前記植物から種を収穫することを含む方法を開示する。一実施形態では、この方法は、前記種子を洗浄して乾燥させることをさらに含む。
【0040】
本発明は、植物育種技術を使用してトマト植物育種プログラムにおいてトマト変種(例えば2倍体トマト変種)を開発する方法をさらに提供し、この植物育種技術は、植物育種材料の供給源としてトマト植物又はその一部を利用することを含み、この方法は、(a)育種材料の供給源として雑種HN5003又は系統SENG9234のトマト植物又はその一部を得ること、及び(b)植物育種技術を適用することを含む、方法をさらに提供する。
【0041】
本発明はまた、本発明のトマト植物由来の植物部位、植物材料、花粉、胚珠、葉、果実、及び種子も包含する。本発明はまた、本発明のトマト植物を生じる種子も提供する。同様に提供されるのは、本発明のトマト植物由来の再生可能な細胞の組織培養物であって、任意選択的に、この再生可能な細胞は、(a)胚、分裂組織、葉、花粉、子葉、胚軸、根、根端、葯、花、雌ずい、胚珠、種子、新芽、茎(stem)、茎(stalk)、葉柄、髄、及び/若しくはさく果;又は(b)(a)の細胞に由来するカルス若しくはプロトプラストである。さらに提供されるは、本発明の組織培養物から再生されたトマト植物である。
【0042】
さらに別の態様では、本発明はトマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234又はそれらの子孫の遺伝的特徴を決定する方法(例えば、分子遺伝学的技術を使用してトマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234又はそれらの子孫の遺伝型を決定する方法)を提供する。実施形態では、この方法は、トマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234の植物又はそれらの子孫植物のゲノムにおいて少なくとも第1の多型を検出することを含み、例えば、核酸増幅及び/又は核酸スクリーニングを含む。例証するために、実施形態では、この方法は、植物から核酸のサンプルを得ること、及び(例えば、1種又は複数種の分子マーカーを使用して)この核酸サンプル中の少なくとも第1の多型を検出することを含む。任意選択的に、この方法は、植物のゲノム中における複数種の多型(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、8種以上、又は10種以上の多型等)を検出することを含み得る。代表的な実施形態では、この方法は、多型を検出する工程の結果をコンピュータ読み取り可能媒体に保存することをさらに含む。本発明は、そのような方法により製造されたコンピュータ読み取り可能媒体をさらに提供する。
【0043】
上記で説明した例示的な態様及び実施形態に加えて、本発明を、下記に記載する本発明の説明でより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、新規のトマト雑種HN5003及び親系統SENG9234の開発に部分的に基づく。数ある特徴の中でも、標準的な園芸条件下(例えば温室)で成長させた場合、トマト雑種HN5003は、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の赤色の星形、深い赤色の成熟した果実、丸い形、約35~45グラムの平均重量、約3.5~4.5cmの平均直径、高いアントシアニン含有量、並びに甘味(約6~8度のBrix)、高い酸味、及び風味/うま味を特徴とする良好な味覚プロファイルを有する成熟した果実を特徴とする。数ある特徴の中でも、標準的な園芸条件下(例えば温室)で成長させた場合、トマト系統SENG9234は、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の果肉、丸い形、約15~22グラムの平均重量、及び約2cmの平均直径を有する成熟した果実を特徴とする。
【0045】
本発明を様々な形態で具体化し得え、且つ本明細書に記載されている実施形態に限定されると解釈すべきではないことを理解すべきである。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的であり且つ完全であり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるように提供される。
【0046】
文脈が別途示さない限り、本明細書で説明されている本発明の様々な特徴及び実施形態は任意の組み合わせで使用され得ることが具体的に意図されている。
【0047】
さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載されている任意の特徴又は特徴の組み合わせが除外され得るか又は省略され得ることも企図する。例証するために、組成物が成分A、B、及びCを含むと本明細書が述べる場合には、A、B、若しくはCのいずれか、又はそれらの組み合わせが、単独で又は任意の組み合わせで省略されて放棄され得ることが具体的に企図される。
【0048】
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において本発明の説明で使用される用語法は、特定の実施形態を説明することをのみを目的としており、本発明を限定することは意図されていない。
【0049】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0050】
定義
下記の説明及び表では、多くの用語が使用される。そのような用語に与えられる範囲等の本明細書及び特許請求の範囲の明確な且つ一貫した理解を提供するために、下記の定義を提供する。
【0051】
本発明の説明及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途文脈が明確に示さない限り、複数形も含むことが意図されている。
【0052】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、関連する列挙された項目の内の1つ又は複数のありとあらゆる可能な組み合わせと、選択肢(「又は」)で解釈される場合には組み合わせの欠如とを指し、且つ包含する。
【0053】
用語「約」は、本明細書で使用される場合、投与量又は期間及び同類のもの等の測定可能な値を指す際に、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、又はさらに±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0054】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」は、本明細書で使用される場合、述べられた特徴、整数、工程、操作、要素、及び/又は構成成分の存在を明示するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、操作、要素、構成成分、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除しない。
【0055】
本明細書で使用される場合、移行句「から本質的になる」は、請求項の範囲が、この請求項で列挙されている特定の物質及び工程と、特許請求された本発明の「基本的で新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」とを包含すると解釈されるべきであることを意味する。(非特許文献1)(原文での強調)を参照し、(非特許文献2)も参照されたい。そのため、用語「から本質的になる」は、請求項又は本発明の説明で使用される場合には、「含む(comprising)」と同等であると解釈されることが意図されていない。
【0056】
「追加形質」:本明細書で使用される、所望の「追加形質(added trait)」又は「追加形質(additional trait)」は、植物に所望の特徴を付与するあらゆる形質であり得、且つ当分野で既知の任意の方法(例えば、従来の育種(例えば戻し交配)、遺伝子編集、変異誘発、又は遺伝子形質転換技術)により導入され得る。追加形質の例として下記が挙げられるがこれらに限定されない:雄性不稔、雄性稔性、除草剤抵抗性、有害生物(例えば昆虫及び/若しくは線虫)抵抗性、脂肪酸代謝の改変、炭水化物代謝の改変、(例えば、細菌性疾患、真菌性疾患、及び/若しくはウイルス性疾患に対する)耐病性、非生物的ストレス耐性、栄養価の増強(例えば、果実のフラボノイド含有量の増加)、外観(例えば、外面の果実色、及び/若しくは果肉色)の改善、果実の甘味の増加、果実の風味の増加、果実の熟成の改善、食感又は味感の改善、果実の収穫量の改善、種子の収穫量の改善、苗の成長力の改善、種子の発芽の改善、工業的利用、遺伝子編集機構、又はこれらの任意の組み合わせ。この形質は、DNA配列(例えば、天然のトマト配列、誘発された若しくは天然に存在する変異、編集された天然配列、又は導入遺伝子)によりコードされ得るか、又は機能する非翻訳RNAの発現(例えばRNA干渉)から生じ得る。
【0057】
「対立遺伝子」。対立遺伝子は、遺伝子の1種又は複数種の代替形態のいずれかであり、この代替形態の全ては形質又は特徴に関する。2倍体の細胞又は生物では、所与の遺伝子の2種の対立遺伝子は、一対の相同染色体上の対応する遺伝子座を占有する。
【0058】
「戻し交配」。戻し交配とは、育種家が雑種子孫を繰り返し交配して両親(「反復」親)の内の一方(例えば、F1雑種の親遺伝子型の内の一方を有する第一世代雑種F1)に戻すプロセスのことである。
【0059】
「子葉」。種子植物の胚の最初の葉の内の1つであり、典型的には、単子葉植物では1つ又は複数であり、双子葉植物では2つであり、裸子植物では2つ以上である。
【0060】
「有限(determinate)」:有限トマト植物は、コンパクトであり且つふさふさした形態である傾向があり、この植物は、この植物の果実の全てを短期間(例えば1~3週間)内で同時に実らせ、次いで果実の実りが停止する。
【0061】
「二重半数体系統」。例えば葯培養物由来の半数体系統の染色体を2倍にすることにより達成される安定した近交系。例えば、特定の条件下で培養されたいくつかの花粉粒子(半数体)は、1n個の染色体を含む小植物を発生させる。次いで、この小植物中の染色体を(例えば化学的手段を使用して)「二重」に誘導し、2n個の染色体を含む細胞が得られる。この小植物の子孫は「二重半数体」と称され、本質的にはそれ以上分離しない(例えば安定である)。用語「二重半数体」は、本明細書では「二ゲノム性半数体(dihaploid)」と互換的に使用される。
【0062】
「生理学的特徴及び形態学的特徴の本質的に全て」。「生理学的特徴及び形態学的特徴の本質的に全て」を有する植物は、(例えば、組織培養物からの植物再生の最中に)戻し交配、遺伝子編集、変異誘発、遺伝子形質転換、又は天然に存在する変異等の技術により導入される追加形質を伴って、同一の環境条件下で比較された場合に参照植物の生理学的特徴及び形態学的特徴(例えば表1で説明されている)の全てを有する植物を意味する。
【0063】
「最初の給水日」。種子が、発芽するのに十分な水分を最初に受け取る日。これは、植え付け日と同等であり得、且つ多くの場合は同等である。
【0064】
「遺伝子」。本明細書で使用される場合、「遺伝子」は、オープンリーディングフレームを含む核酸のセグメントを指す。形質転換或いは様々な育種方法のいずれかを使用して、異なる種又は同一の種から遺伝子を種のゲノムに導入し得る。
【0065】
「遺伝子編集」:「遺伝子編集」(場合により「ゲノム編集」とも呼ばれる)は、例えば、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びCRISPR/Cas9システムを用いる技術を使用するゲノムDNA中への標的改変の導入を指す。例えば(非特許文献3)を参照されたい。
【0066】
「近交系」:本明細書で使用される場合、語句「近交系」は、遺伝的にホモ接合性であるか又はほぼホモ接合性である集団を指す。近交系を、例えば、同胞交配及び/若しくは自殖の数回のサイクルを通じて、並びに/又は二重半数体の作出により得ることができる。いくつかの実施形態では、近交系は、目的の1種又は複数種の形質に関して純種を繁殖する。「近交系植物」又は「近交系子孫」とは、近交系からサンプリングされた個体のことである。
【0067】
「無限(indeterminate)」:無限トマト植物はつる性である傾向があり、(例えば霜により死滅するまで)季節を通じて成長して果実を実らせる。
【0068】
「植物」。本明細書で使用される場合、用語「植物」には、植物細胞、植物プロトプラスト、植物が再生され得る植物細胞組織培養物、植物カルス、植物凝集塊、植物又は植物の一部(例えば、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、根、根端、葯、雌ずい、花、胚珠、種子、果実、茎、及び同類のもの)において無傷である植物細胞が含まれる。
【0069】
「植物材料」。用語「植物材料」及び「植物から得られる材料」は、本明細書では互換的に使用され、植物から得られるあらゆる植物材料(例えば、限定されないが、葉、茎、根、花若しくは花の一部、果実、花粉、胚珠、接合体、種子、切穂、細胞培養物若しくは組織培養物、又は植物のあらゆる他の部位若しくは産物)を指す。
【0070】
「植物部位」。本明細書で使用される場合、「植物部位」には、植物のあらゆる部位、器官、組織、又は細胞(例えば、限定されないが、胚、分裂組織、葉、花粉、子葉、胚軸、根、根端、葯、花、花蕾、雌ずい、胚珠、種子、新芽、茎(stem)、茎(stalk)、葉柄、髄、さく果、接ぎ穂、根茎、及び/又は上記のいずれかに由来するカルス及びプロトプラストを含む果実)が含まれる。代表的な実施形態では、この植物部位は非増殖植物部位であり、例えば種子ではない。
【0071】
「量的形質遺伝子座」。量的形質遺伝子座(QTL)は、ある程度の数値的に表現可能な形質まで制御される遺伝学的遺伝子座を指し、この形質は、通常は連続的に分布している。
【0072】
「再生」。再生は組織培養物からの植物の成長を指す。
【0073】
「抵抗性」。本明細書で使用される場合、用語「抵抗性」及び「耐性」(並びにこれらの文法的変形)は、特定の生物(例えば、有害生物、病原体、若しくは疾患)の又は非生物(例えば、外因性若しくは環境、例えば除草剤)の因子又はストレス要因に対する症状の減少を示すか又はこれらに対する症状を特に示さない植物を説明するために互換的に使用される。いくつかの実施形態では、「抵抗性」又は「耐性」植物はいくつかの症状を示すが、許容可能な収穫量で市場性のある生成物を依然として生じ得、例えば、生物の及び/若しくは非生物の因子又はストレス要因の非存在下での収穫量又は成長と比較して、この収穫量は依然として減少している場合があり、並びに/又は植物は発育が妨げられている場合がある。抵抗性又は耐性の程度が植物の複数のフィールド又はフィールド全体に関して評価され得ることを当業者は理解するだろう。トマト植物は、特定の個々の植物が生物の又は非生物の因子又はストレス要因の影響を受けやすい場合であっても、複数の植物にわたり(例えば平均して)抵抗性/耐性が観察される場合に「抵抗性」又は「耐性」と見なされ得る。
【0074】
「RHS」。RHSは、定義されたナンバリングシステムに従って色を定量的に識別する公式の植物のカラーチャートを刊行する英国王立園芸協会(Royal Horticultural Society of England)を指す。このチャートを、Royal Horticulture Society Enterprise Ltd.,RHS Garden;Wisley,Woking;Surrey GU236QB,UKから購入し得る。
【0075】
「単一遺伝子座変換(single locus conversation)」。単一遺伝子座変換植物は(single locus convertion plant)、所望の追加形質を付与する単一遺伝子座を伴って、植物を同一の環境条件下で成長させた場合に植物の所望の形態学的特徴及び生理学的特徴の全てを保持する植物を指す。単一遺伝子座変換を当分野で既知の任意の方法により達成し得、例えば、(例えば、組織培養物からの植物再生の最中の)伝統的な植物育種(例えば戻し交配)、遺伝子編集、変異誘発、遺伝子操作、又は天然に存在する変異による導入によって達成し得る。単一遺伝子座は、単一の遺伝子(即ちオープンリーディングフレーム)を表してもよいし、単一遺伝子パターンで遺伝される2種以上の密接に関連する遺伝子を表してもよい。
【0076】
「実質的に等価な特徴」。比較した場合に、平均から統計的に有意な差(例えばp=0.05)を示さない特徴。
【0077】
「導入遺伝子」。遺伝子操作技術(例えば形質転換)又は育種により植物のゲノムに導入され得る目的の核酸。導入遺伝子は、同一の種又は異なる種に由来し得る。同一の種に由来する場合には、導入遺伝子は、天然のコード配列の追加のコピーであり得るか、又は天然状態で見出されるフォーム若しくは状況(例えば、異なるゲノム配置、及び/若しくはプロモータ等の外因性調節エレメントとの作動可能な結合)で天然配列を提示し得る。導入遺伝子は、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含み得るか、又は機能する非翻訳RNA(例えば干渉RNA[RNAi])をコードし得る。
【0078】
トマト系統SENG9234及び雑種HN5003の植物の説明。
標準的な園芸条件下(例えば温室)で成長させた場合には、雑種トマトHN5003の成熟した果実は、下記が挙げられるがこれらに限定されない多くの形質を特徴とする:濃い紫色の皮色、高いアントシアニン含有量、萼片(萼)下の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、丸い形、約35~45グラムの平均重量、及び3.5~4.5cmの平均直径、並びに甘味(約6~8度のBrix)、高い酸味、及び(高いグルタミン酸塩及び他の代謝産物の結果としての)風味/うま味を特徴とする良好な味感。高い入射光の条件下で見た場合には、外面の果実色はほとんど黒色に見える可能性がある。さらに、より低い光の条件下で栽培した場合には、紫色の果実色が弱い可能性がある。標準的な園芸条件下であっても、成熟した果実の外面の色は赤のいくつかの領域を保持し得、特に、より少ない入射光に曝露された果実の部分を保持し得る。
【0079】
標準的な園芸条件下(例えば温室)で成長させた場合には、トマト系統SENG9234の成熟した果実は、下記が挙げられるがこれらに限定されない多くの形質を特徴とする:濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の果肉、丸い形、約15~22グラムの平均重量、及び約2センチメートルの平均直径。外皮の色のバリエーションは、雑種HN5003に関して前段で説明したものと類似する。
【0080】
トマト系統SENG9234は、環境への影響の限界内で均一性及び安定性を示している。トマト系統SENG9234を、植物の種類の均一性に細心の注意を払いつつ何世代にもわたり自家受粉させている。均一性に関する継続的な観察により、変種が増加している。バリアント形質は観察されていないか、又はトマト系統SENG9234では予期されない。
【0081】
雑種HN5003及び系統SENG9234のより詳細な植物の説明を下記の表1に示す。
【0082】
表1.変種の明細情報(受動的温室(passive greenhouse)での評価に基づく)。
【表1-1】
【0083】
トマト雑種HN5003のさらなる情報。
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0084】
トマト近交系SENG9234のさらなる情報。
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0085】
組織培養物。
実施形態では、組織培養及び再生によりトマト植物を増殖させ得る。様々な植物組織の組織培養物、及びこの組織培養物からの植物の再生は公知である。例えば、(非特許文献4)、(非特許文献5)、(非特許文献6)、(非特許文献7)、(非特許文献8)、(非特許文献9)、及び(非特許文献10)を参照し得る。文献から明らかなように、これらの植物を得る方法が日常的に使用されており且つ高い成功率を有するような最新技術が存在する。そのため、本発明の別の態様は、成長及び分化の際に、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の所望の特徴を有するトマト植物を生じる細胞を提供することである。任意選択的に、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の生理学的特徴及び形態学的特徴の全て又は本質的に全てを含む本発明の組織培養物からトマト植物を再生し得る。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「組織培養物」は、同一の若しくは異なるタイプの単離細胞を含む組成物、又は植物の一部へと組織化されるそのような細胞の収集物を示す。組織培養物の例示的なタイプは、プロトプラスト、カルス、分裂組織細胞、並びに植物又は植物の一部(例えば、葉、花粉、胚、根、根端、葯、雌ずい、花、種子、葉柄、吸枝、及び同類のもの)において無傷である組織培養物を生成し得る植物細胞である。植物組織培養物を調製して維持するための手段は当分野で公知である。例として、器官を含む組織培養物を使用して再生植物が生じ得る。(特許文献1)、(特許文献2)、及び(特許文献3)では、ある特定の技術が説明されている。
【0087】
さらなる育種方法。
本発明はまた、第1の親トマト植物と第2の親トマト植物とを交配することによりトマト植物を作出する方法であって、第1の及び/又は第2の親トマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物である、方法も対象である。そのため、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234を使用する下記の例示的な方法のいずれも本発明の一部である:自殖、戻し交配、雑種作出、集団への交配、二重半数体作出、及び同類のもの。少なくとも一方の親としてトマト雑種HN5003又は系統SENG9234を使用して作出された全ての植物(例えば、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物から開発されたもの)は本発明の範囲内である。有利には、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234を、他の異なるトマト植物(例えば近交系)との交配で使用して、所望の特徴を有する第1世代(F1)トマト雑種の種子及び植物を作出し得る。本発明のトマト植物を、外因性導入遺伝子が導入されて本発明の植物により発現される形質転換にも使用し得るか、又は遺伝子編集若しくは変異誘発による遺伝子変化の導入のためにも使用し得る。当業者に既知の多くのプロトコルの内のいずれかによる本発明の品種の伝統的な育種方法、遺伝子編集、変異誘発、又は形質転換のいずれかを通じて作製された遺伝的バリアントは、本発明の範囲であることが意図されている。
【0088】
下記では、さらなるトマト植物の開発においてトマト雑種HN5003又は系統SENG9234と共に使用され得る例示的な育種方法を説明する。一つのそのような実施形態は、トマト植物育種プログラムにおいてトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の子孫トマト植物(例えば2倍体子孫トマト植物)を開発する方法であって、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の植物又はその一部を得ること、前記植物又は植物部位を育種材料の供給源として利用すること、並びに任意選択的に分子マーカーの使用により、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれの一部の、全ての、又は本質的に全ての形態学的特徴及び/又は生理学的特徴(例えば表1を参照されたい)を有する、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の子孫植物を選択することを含む方法である。代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003の子孫植物は、トマト雑種HN5003の形態学的特徴及び生理学的特徴の内の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを有する(例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る)。実施形態では、トマト系統SENG9234の子孫植物は、トマト系統SENG9234の特徴の内の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを有する(例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る)。実施形態では、トマト雑種HN5003又はトマト系統SENG9234の子孫植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれの本質的に全ての又は全ての形態学的特徴及び生理学的特徴を含み、その結果、前記子孫トマト植物は、任意選択的に1種又は複数種の所望の追加形質の存在下にて同一の環境条件下で成長させた際に5%の有意水準で決定した場合に、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれと比べて前記形質に関する有意差はない。この育種プログラムで使用され得る育種工程として、系統育種、戻し交配、変異育種、循環選抜、及び/又は二重半数体の作出が挙げられる。これらの工程と共に、RFLP増強選抜(RFLP-enhanced selection)、遺伝子マーカー増強選抜(例えばSSRマーカー)、及び二重半数体の作製等の技術を利用し得る。
【0089】
別の代表的な方法は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の子孫植物(例えば2倍体子孫植物)の集団を作出することであって、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234と別のトマト植物とを交配し、それにより、トマト雑種HN5003由来の又は系統SENG9234由来の対立遺伝(即ちTAC)の(平均して)少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%(例えば、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の遺伝性相補体の少なくとも約6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)であるトマト植物の集団を作出することを含む。本発明の一実施形態は、この方法により作出され、且つトマト雑種HN5003由来の又は系統SENG9234由来の対立遺伝(即ちTAC)の少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を得ており、任意選択的に、1回若しくは2回の育種交配、並びに自殖、同胞、戻し交配、及び/又は二重半数体技術の内の1つ若しくは複数を任意の組み合わせ及び任意の順序で含む育種プロセスの結果であり得るトマト植物である。実施形態では、この育種プロセスは育種交配を含まず、自殖、同胞、戻し交配、及び/又は二重半数体技術を含む。
【0090】
植物育種の当業者は、2種の植物の形質を、これらの植物により発現される2種の形質の間に有意差があるかどうかを決定するために評価する方法を知っているだろう。例えば(非特許文献11)を参照されたい。そのため、実施形態では、本発明は、本明細書で説明されているようなトマト雑種HN5003の例えば1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多い特徴を特徴とする(例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が生じる)トマト雑種HN5003の子孫トマト植物を含む。実施形態では、本発明は、本明細書で説明されているようなトマト系統SENG9234の特徴の内の1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くを特徴とする(例えば、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の緑の星形、淡い黄色がかった緑色の成熟した果肉、及び/又は丸い形の成熟した果実が実る)トマト系統SENG9234の子孫トマト植物を含む。実施形態では、選択された子孫は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の全ての又は本質的に全ての形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば表1で説明されている)を含む。実施形態では、本発明は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に関して本明細書で説明されているような特徴(例えば表1を参照されたい)の内の少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、又はより多くの組み合わせを有し、その結果、同一の環境条件下で成長させた際に5%の有意水準で決定した場合に、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234それぞれと比べて前記形質に関する有意差はない子孫植物を包含する。本明細書で説明されている技術及び当分野で既知のものを使用し、分子マーカーを使用してトマト雑種HN5003又は系統SENG9234の子孫として前記子孫植物を同定し得る。平均形質値を使用して、形質の差異が有意であるかどうかを決定し得、任意選択により、この形質を、同一の環境条件下で成長させた植物で測定する。
【0091】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の子孫は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234との雑種関係を通じても特徴付けられ得、例えば、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234のある特定の数の育種交配内であるとしても特徴付けられ得る。育種交配は、新規の遺伝子を子孫に導入するために行なわれる交配であり、既存の遺伝性対立遺伝子(genetic allele)の中から選択するために行なわれる、反復親としてのトマト雑種HN5003又は系統SENG9234のいずれかへの交配(例えば、自殖交配若しくは同胞交配、又は戻し交配)と区別される。系統中での育種交配の数が少ないほど、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234とその子孫との間の関係が近い。例えば、本明細書で説明されている方法により作出された子孫は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の1回、2回、3回、4回、5回、又はより多い育種交配内であり得る。当業者は、雑種HN5003の子孫は親系統SENG9234の子孫でもあり、世代関係が異なるだけであることを理解するだろう。
【0092】
代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する少なくとも1セットの染色体を含む細胞を含む。実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物又はトマト植物の集団は、トマト雑種HN5003由来の又は系統SENG9234由来の対立遺伝(即ちTAC)の(平均して)少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%(例えば、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の遺伝性相補体の少なくとも約6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)を含み、任意選択的に、任意の組み合わせでの自殖、同胞、戻し交配、及び/又は二重半数体技術の内の1つ又は複数の結果であり得る。実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234から取り出された1回、2回、3回、4回、5回、又はより多くの育種の交配種である。
【0093】
代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物は、二重半数体植物、雑種植物、近交植物、及び/又は2倍体植物である。
【0094】
実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来する植物は、所望の追加形質を含む。代表的な実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば表1で説明されている)の全てを含む。実施形態では、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234に由来するトマト植物は、所望の追加形質を伴って、トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の形態学的特徴及び生理学的特徴(例えば、表1で説明されている)の本質的に全てを含む。
【0095】
当分野で既知の任意の方法(例えば、植物形質転換方法、従来の育種、遺伝子編集、及び/又は天然の若しくは誘発された変異)によりトマト雑種HN5003又は系統SENG9234に形質を導入し得ることを当業者は理解するだろう。
【0096】
本発明のさらなる実施形態。
特定のタンパク質産物をコードする遺伝子の単離及びキャラクタリゼーションを可能にしている分子生物学的技術の出現により、植物生物学の分野の科学者は、特定の方法で植物の形質を改変するために、(任意選択により非天然のプロモータにより駆動される)天然の(内因性の)核酸のさらなる又は改変されたバージョン等の外来性の核酸を含み且つ発現するための植物のゲノムの操作に強い関心を持った。異なる種に由来するか、同一の種に由来するか、又は人工配列に由来するかに関わらず、形質転換又は様々な育種方法を使用してゲノムに導入されるあらゆる核酸配列は、本明細書では総称して「導入遺伝子」と称される。過去15~20年にわたり、トランスジェニック植物を作出するいくつかの方法が開発されており、特定の実施形態では、本発明も、本明細書で開示されているトマト植物の形質転換バージョンに関する。
【0097】
遺伝子操作技術を(単独で又は育種方法と組み合わせて)使用して、植物(例えば、トマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234、又はその子孫若しくはそれに由来するトマト植物)に1種又は複数種の所望の追加形質を導入し得える。遺伝子形質転換により植物に導入遺伝子が導入されると、この導入遺伝子は、従来の育種により他の植物に導入され得る。
【0098】
植物形質転換は一般に、植物細胞中で機能するであろう発現ベクターの作成を伴う。任意選択的に、そのようなベクターは、調節エレメント(例えばプロモータ)の制御下での又はこの調節エレメントに作動可能に連結された、ポリペプチド又は非翻訳の機能するRNAのコード配列を含む1種又は複数種の核酸を含む。代表的な実施形態では、このベクターはプラスミドの形態であり得、且つこのベクターを単独で又は他のプラスミドと組み合わせて使用し、トマト植物の遺伝子材料に導入遺伝子を組み込むために本明細書で説明されているような形質転換方法を使用して形質転換トマト植物を生じさせ得る。
【0099】
さらなる方法として、直接核酸導入方法(例えば、(例えば遺伝子銃デバイスによる)マイクロプロジェクタイル媒介送達、DNA注入、アグロバクテリウム媒介形質転換、エレクエトロポレーション、及び同類のもの)を使用して植物組織に導入される発現ベクターが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の植物(並びにその一部及び組織培養物)から得られた形質転換植物は、本発明の範囲内であることが意図されている。
【0100】
植物形質転換用の発現ベクター-選択マーカー。
発現ベクターは概して、調節エレメント(例えばプロモータ)に作動可能に連結された、選択マーカーを含むか又はコードする少なくとも1種の核酸を含み、この調節エレメントは、このマーカーを含む形質転換細胞が、負の選択(例えば、この選択マーカーを含まない細胞の増殖を阻害すること)又は正の選択(例えば、この選択マーカーによりコードされる産生物に関するスクリーニング)により回収されることを可能にする。植物形質転換のために一般に使用される多くの選択マーカーが形質転換分野で公知であり、例えば、抗生物質若しくは除草剤であり得る選択的化学物質を代謝的に解毒する酵素をコードする核酸、又は阻害剤に対して非感受性である改変標的をコードする核酸が挙げられる。正の選択方法もこの分野で既知である。
【0101】
植物で一般に使用される選択マーカーとして下記が挙げられるがこれらに限定されない:カナマイシンに対する抵抗性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)、抗生物質ハイグロマイシンに対する抵抗性を付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、抗生物質に対する抵抗性を付与する細菌選択マーカー(例えば、ゲンタマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ストレプトマイシンホスホトランスフェラーゼ、及びアミノグリコシド-3’-アデニルトランスフェラーゼ)、除草剤に対する抵抗性を付与する選択マーカー(例えば、グリホサート、グルホシネート、又はブロモキシニル)。形質転換植物細胞の選択はまた、抗生物質等の毒性物質に対する抵抗性に関する形質転換細胞の直接的な遺伝的選択ではなく、推定的に形質転換された植物細胞のスクリーニングにも基づき得、そのようなマーカーとして、アルファ-グルクロニダーゼ(GUS)、アルファ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、並びに緑色蛍光タンパク質(GFP)及び変異GFPが挙げられるがこれらに限定されない。
【0102】
植物形質転換用の発現ベクター-プロモータ。
発現ベクターに含まれる導入遺伝子は一般に、調節エレメント(例えばプロモータ)を含むヌクレオチド配列により駆動される。単独で又はプロモータと組み合わせて使用され得る他の調節エレメントと同様に、形質転換分野では多数のタイプのプロモータが公知である。
【0103】
本明細書で使用される場合、「プロモータ」は、転写の開始から上流であり且つ転写を開始するためにRNAポリメラーゼ及び他のタンパク質の認識及び結合に関与するDNAの領域への言及を含む。「植物プロモータ」とは、植物細胞中で転写を開始し得るプロモータのことである。
【0104】
発生制御下のプロモータの例として、ある特定の組織(例えば、葉、根、種子、繊維、木部導管、仮導管、又は厚壁組織)中で転写を優先的に開始するプロモータが挙げられる。そのようなプロモータは「組織優先型」と称される。ある特定の組織中でのみ転写を開始するプロモータは「組織特異的」と称される。「細胞タイプ」特異的プロモータは、1種又は複数種の器官(例えば、根又は葉の維管束細胞)中において、ある特定の細胞タイプで発現を優先的に駆動する。「誘発性」プロモータとは、環境制御下であるプロモータのことである。誘発性プロモータによる転写に影響を及ぼし得る環境条件の例として、嫌気性条件、又は光の存在が挙げられる。組織特異的プロモータ、組織優先型プロモータ、細胞タイプ特異的プロモータ、及び誘発性プロモータは、「非構成的」プロモータのクラスを構成する。「構成的」プロモータとは、ほとんどの環境条件下で活性であるプロモータのことである。
【0105】
多くの適切なプロモータが当分野で既知であり、且つ所望の結果を達成するために選択されて使用され得る。
【0106】
細胞内区画へのタンパク質のターゲティング用のシグナル配列。
導入遺伝子により生成されたポリペプチドの細胞内区画(例えば、葉緑体、液胞、ペルオキシソーム、グリオキシソーム、細胞壁、若しくはミトコンドリア)への輸送、又はアポプラストへの分泌のための輸送は一般に、シグナル配列をコードするヌクレオチド配列を、目的のポリペプチドをコードする核酸の5’領域及び/又は3’領域に作動可能に連結することにより達成される。このコード配列の5’末端及び/又は3’末端でのシグナル配列は、このポリペプチドを特定の細胞内区画の標的に定める。
【0107】
シグナル配列の存在により、細胞内小器官若しくは細胞内区画のいずれかへと、又はアポプラストへの分泌へとポリペプチドを誘導し得る。多くのシグナル配列が当分野では既知である。例えば、(非特許文献12)、(非特許文献13)、(非特許文献14)、(非特許文献15)、(非特許文献16)、(非特許文献17)、(非特許文献18)、(非特許文献19)、(非特許文献20)、及び(非特許文献21)を参照されたい。
【0108】
外来性ポリペプチド導入遺伝子、及び農学的導入遺伝子。
本発明に係るトランスジェニック植物により、外来性タンパク質を商業的な量で製造し得る。そのため、当分野で十分に理解されている、形質転換植物の選択及び増殖のための技術により、従来の方法で収穫される複数のトランスジェニック植物が得られ、次いで目的の組織又は全バイオマスから外来性ポリペプチドを抽出し得る。植物バイオマスからのタンパク質抽出を、例えば(非特許文献22)により考察されている既知の方法により達成し得る。代表的な実施形態によれば、外来性タンパク質の商業的製造のために用意されるトランスジェニック植物は、本発明のトマト植物である。別の実施形態では、目的のバイオマスは種子及び/又は果実である。
【0109】
同様に、本発明により、農学的導入遺伝子及び他の所望の追加形質を、形質転換植物(及び、例えば育種方法により作出された、この形質転換植物の子孫)で発現させ得る。より具体的には、植物を、農学的に関心のある様々な表現型又は他の所望の追加形質を発現するように遺伝子操作し得る。所望の追加形質を付与するというこの観点で関心のある例示的な核酸として、下記が挙げられるがこれらに限定されない:植物有害生物(例えば、線虫若しくは昆虫)又は疾患(例えば、真菌性、細菌性、若しくはウイルス性)に対する抵抗性を付与するために抵抗性を付与する導入遺伝子、除草剤耐性を付与する導入遺伝子、雄性不稔を付与する導入遺伝子、並びに、栄養素含有量(例えば、鉄、硝酸塩)の増加、(例えば、モネリンをコードする導入遺伝子の導入による)甘味の増加、(例えば、ステアリル-ACPデサチュラーゼに対するアンチセンス配列を植物に導入して、この植物のステアリン酸含有量を増加させることによる)脂肪酸代謝の改変、(例えば、デンプンの分枝パターンを変更する酵素をコードする導入遺伝子を植物に導入することによる)炭水化物組成の改変、果実色の改変(例えば、外面の果実色、及び/若しくは果肉)、又は果実の風味プロファイルの改変等の付加価値形質を付与するか又はこの付加価値形質に寄与する導入遺伝子。
【0110】
実施形態では、導入遺伝子は、遺伝子発現の標的化阻害を生じ、それにより植物に所望の形質を付与するように発現される非翻訳RNA(例えばRNAi)をコードする。
【0111】
実施形態では、導入遺伝子は、遺伝子編集技術で使用される機構をコードする。
【0112】
上記で例示したもの等の任意の導入遺伝子を、様々な手段(例えば、限定されないが、形質転換(例えば遺伝子操作技術)、従来の育種、及び他の遺伝的背景に導入遺伝子を導入するための遺伝子移入方法)により本発明のトマト植物に導入し得る。
【0113】
植物形質転換の方法。
生物学的植物形質転換プロトコル及び物理的植物形質転換プロトコル等の、様々な植物形質転換の方法が開発されている。例えば(非特許文献23)を参照されたい。加えて、植物細胞又は組織の形質転換及び植物再生のための発現ベクター及びインビトロでの培養方法が利用可能である。例えば(非特許文献24)を参照されたい。一般に使用される植物形質転換方法として、アグロバクテリウム媒介形質転換、並びに直接導入遺伝子導入方法(例えば、マイクロプロジェクタイル媒介形質転換、超音波処理、リポソーム融合又はスフェロプラスト融合、及びプロトプラスト又は全細胞のエレクトロポレーション)が挙げられる。
【0114】
植物標的組織の形質転換の後、(例えば、上記で説明されているような)選択マーカー導入遺伝子の発現により、現在当分野で公知の再生方法及び選択方法を使用して、形質転換された細胞、組織、及び/又は植物の優先的選択が可能になる。
【0115】
上述の形質転換方法を概して使用して、トランスジェニックトマト系列を作出する。次いで、このトランスジェニックトマト系列を別の(非トランスジェニック又はトランスジェニック)系列と交配して、新規のトランスジェニックトマト系列を作出し得る。或いは、形質転換技術を使用して特定の植物へと操作されている導入遺伝子を、植物育種分野で公知である伝統的な育種(例えば戻し交配)技術を使用して別の植物又は系列に導入し得る。例えば、戻し交配アプローチを使用して、操作された導入遺伝子を、公共の非エリート近交系からエリート近交系へと移動させ得るか、又はゲノム中に外来性導入遺伝子を含む近交系からこの導入遺伝子を含まない近交系へと移動させ得る。本明細書で使用される場合、「交配」は、状況に応じて、単純なX×Y交配、又は戻し交配のプロセスを指し得る。
【0116】
遺伝子座変換。
用語「トマト植物」が本発明の文脈で使用される場合、この用語はまた、例えば、戻し交配、ゲノム編集、誘発される若しくは天然に存在する変異、又は遺伝子操作により開発された植物又は変種のあらゆる単一遺伝子座変換も含み、変種の所望の形態学的特徴及び生理学的特徴の本質的に全て(例えば、トマト雑種HN5003の場合、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の赤色の星形、深い赤色の成熟した果肉、及び/若しくは丸い形、又は本明細書(例えば表1)で説明されているあらゆる他の形質を有する成熟した果実;並びにトマト系列SENG9234の場合、濃い紫色の皮色、萼片(萼)下の皮上の緑色の星形、淡い黄色がかった緑色の成熟した果肉、及び/若しくは丸い形、又は本明細書(例えば表1)で説明されているあらゆる他の形質を有する成熟した果実)が、この変種に導入される所望の追加形質を付与する1つ又は複数の遺伝子座に加えて回復される。
【0117】
例証するために、戻し交配方法を本発明と共に使用して、特徴を改善し得るか又は変種に導入し得る(例えば、再生親への1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又はより多い回数の戻し交配)。所望の追加形質のための遺伝子座をもたらす親植物は、「非反復」又は「ドナー親」と称される。この用語法は、非反復親が一般に育種(例えば戻し交配)プロトコルで1回使用され、従って反復しないという事実を指す。導入される遺伝子座は、例えば、天然遺伝子座、変異した若しくは編集された天然遺伝子座、又は遺伝子操作技術により植物(若しくはその祖先)に導入された導入遺伝子であり得る。非反復親から遺伝子が導入された親植物は、戻し交配プロトコルにおいて複数のラウンドに使用されていることから「反復」親として知られている。Poehlman & Sleper(1994)及びFehr(1993)。典型的な戻し交配プロトコルでは、目的の元々の変種(反復親)を、導入される目的の遺伝子を保有する変種(非反復親)と交配する。次いで、この交配から得られた子孫を反復親と再び交配し、このプロセスを、非反復親から形質転換された遺伝子座及び関連する形質に加えて、変換された植物中でこの反復親の所望の形態学的特徴及び生理学的特徴の本質的に全てが回復する植物が得られるまで繰り返す。
【0118】
トマト雑種HN5003又は系統SENG9234の遺伝子解析。
本発明はさらに、トマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234又はその子孫の遺伝的特徴を決定する方法(例えば、トマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234又はその子孫の遺伝子型を決定する方法)を提供する。実施形態では、この方法は、(例えば、核酸の増幅及び/又は核酸の配列決定を含む方法により核酸マーカーを検出することによって)トマト雑種HN5003若しくは系統SENG9234の植物又はその子孫植物のゲノム中で少なくとも第1の多型を検出することを含む。例証するために、実施形態では、この方法は、この植物から核酸のサンプルを得ること、及びこの核酸サンプル中で少なくとも第1の多型を検出することを含む。任意選択的に、この方法は、この植物のゲノム中で複数種の多型(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、8種以上、又は10種以上の多型等)を検出することを含み得る。代表的な実施形態では、この方法は、多型を検出する工程の結果をコンピュータ読み取り可能な媒体に保存することをさらに含む。本発明は、そのような方法により製造されたコンピュータ読み取り可能媒体をさらに提供する。
【0119】
本発明をその特定の実施形態の具体的な詳細を参照して説明しているが、そのような詳細は、添付の特許請求の範囲に含まれている範囲を除いて、特許請求された本発明の範囲への制限と見なされるべきであることが意図されていない。
【0120】
寄託情報
出願人は、ブダペスト条約の規定の下にて2019年4月9日にそれぞれアクセッション番号NCIMB 43381及びアクセッション番号NCIMB 43380でNCIMB,Aberdeen AB21 9YA,Scotland,UKによりトマト系統SENG9234及びトマト雑種HN5003の少なくとも2500個の種子の寄託を行なっている。トマト系統SENG9234及びトマト雑種HN5003のこれらの寄託は、30年の期間にわたり、又は最新の請求から5年にわたり、又は特許の有効期間にわたり(いずれか長い方)公的な寄託機関であるNCIMB寄託機関で維持され、この期間の最中に寄託された種子の内のいずれかが生存不能になる場合には交換される。加えて、出願人は、サンプルの生存能力の指標の提示等の37 C.F.R.§§1.801-1.809の全て要件を満たしている。これらの寄託へのアクセスは、本出願の長官への継続中に、請求に応じて有効であるだろう。一般に対するNCIMBからの寄託物質の利用可能性への全ての制限は取消不能であり、特許の付与時に制限は解除されない。出願人は、NCIMBからの寄託物質の利用可能性に制限を課さないが、出願人は、生物物質の譲渡又はこの生物物質の商業目的での輸送に関する法律によって課されたあらゆる制限を放棄する権限を有しない。出願人は、この特許下で又は植物品種保護法(Plant Variety Protection Act)(7 USC § 2321以下)下で付与される権利のいかなる侵害も放棄しない。
【0121】
上述の発明は、明確さ及び理解の目的で、例証及び例として詳細に説明されている。しかしながら、ある特定の変化及び改変(例えば、単一遺伝子座の改変及び変異、体細胞バリアント、本品種の植物の大きい集団から選択された変異バリアント、並びに同類のもの)が本発明の範囲内で実行され得ることは明らかであるだろう。