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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】プレス装置
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/14 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B30B15/14 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020137531
(22)【出願日】2020-08-17
(65)【公開番号】P2022033563
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】比留間 健一郎
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-007436(JP,A)
【文献】特開2008-173673(JP,A)
【文献】特開2003-154497(JP,A)
【文献】特開2008-68269(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0133196(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/10 - 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスの対象となる対象物に荷重を与えるラムと、
前記ラムを駆動する駆動部と、
前記対象物に対する前記ラムの前記荷重の荷重値を検出する検出部と、
前記対象物に前記ラムが荷重を与えるように前記駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記駆動部はサーボモータを含み、
前記制御部は、
事前の設定に基づき、前記対象物を実際にプレスした場合のプレス量が所望のプレス量以下となる設定移動距離で、前記サーボモータの回転量を制御して前記ラムを移動させる制御を行い、
前記ラムが前記設定移動距離を移動中、前記サーボモータの回転量に充当されない溜まりパルスによる遅延時間において、前記所望のプレス量に対し不足する前記ラムの不足移動距離を、前記検出部により検出される前記荷重値に基づき算出し、
前記ラムが前記不足移動距離を移動するように前記サーボモータの回転量の制御を行う、
プレス装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ラムを停止させることなく前記設定移動距離と前記不足移動距離とを移動させる制御を行う、
請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記対象物に前記ラムにより前記荷重が与えられたことにより生ずる反力に起因した撓みにかかる撓み量を、前記検出部により検出された前記荷重値に基づき算出し、算出された前記撓み量に基づき前記不足移動距離の算出を行う、
請求項1または2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出部により検出された前記荷重値の、前記ラムの移動距離に対する変化量に基づき前記不足移動距離の算出を行う、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプレス装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記対象物に対する前記ラムの前記荷重値を前記検出部により検出して、前記不足移動距離を算出した後に、前記ラムを減速して移動させる制御を行う、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプレス装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記駆動部に対し、数次に分けて前記設定移動距離にかかる移動指令を送信した後に、前記不足移動距離にかかる移動指令を送信する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、対象物をプレスするプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータ等の駆動装置により、ラムを上下動させ対象物をプレスするプレス装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-66798号公報
【文献】特開2008-119737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレス装置は、ラムにより高圧の荷重により対象物のプレスを行う。高圧の荷重で対象物のプレスを行うため、ラムは対象物から反力を受ける。プレス装置は、堅牢に構成されているが、この反力により撓みが発生する。この撓みは、一般的に、ラムと対象物とを離間させる方向に発生する。このため、予め設定された設定移動距離によりラムを移動させ、対象物をプレスした場合、対象物は所望のプレス量未満でプレスされることとなってしまい望ましくない。
【0005】
また、単純に設定移動距離に予め設定された補正量を加算した移動量によりラムを移動させ、対象物のプレスを行った場合、更なる撓みがプレス装置に発生する。この更なる撓みにより、対象物は所望のプレス量未満でプレスされることとなってしまい、望ましくない。
【0006】
対象物ごとにプレス装置に発生する撓みは異なる可能性がある。また、経年変化や温度変化により、プレス装置を構成する部材の剛性が変化し、プレス装置に発生する撓みは異なる可能性がある。プレス装置に発生する撓みにより、対象物が精度よくプレスされないとの問題点があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、プレス装置の撓みに起因するプレスの精度の劣化を軽減して、精度よく対象物をプレスすることができるプレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプレス装置は、以下を備えたことを特徴とする。
(1)プレスの対象となる対象物に荷重を与えるラム。
(2)前記ラムを駆動する駆動部。
(3)前記対象物に対する前記ラムの前記荷重の荷重値を検出する検出部。
(4)前記対象物に前記ラムが荷重を与えるように前記駆動部を制御する制御部。
(5)前記駆動部はサーボモータを含む。
(6)前記制御部は、事前の設定に基づき、前記対象物を実際にプレスした場合のプレス量が所望のプレス量以下となる設定移動距離で、前記サーボモータの回転量を制御して前記ラムを移動させる制御を行い、前記ラムが前記設定移動距離を移動中、前記サーボモータの回転量に充当されない溜まりパルスによる遅延時間において、前記所望のプレス量に対し不足する前記ラムの不足移動距離を、前記検出部により検出される前記荷重値に基づき算出し、前記ラムが前記不足移動距離を移動するように前記サーボモータの回転量の制御を行う。
【0009】
本発明のプレス装置において、以下の構成を採用しても良い。
(1)前記制御部は、前記ラムを停止させることなく前記設定移動距離と前記不足移動距離とを移動させる制御を行う。
(2)前記制御部は、前記対象物に前記ラムにより前記荷重が与えられたことにより生ずる反力に起因した撓みにかかる撓み量を、前記検出部により検出された前記荷重値に基づき算出し、算出された前記撓み量に基づき前記不足移動距離の算出を行う。
(3)前記制御部は、前記検出部により検出された前記荷重値の、前記ラムの移動距離に対する変化量に基づき前記不足移動距離の算出を行う。
(4)前記制御部は、前記対象物に対する前記ラムの前記荷重値を前記検出部により検出して、前記不足移動距離を算出した後に、前記ラムを減速して移動させる制御を行う。
(5)前記制御部は、前記駆動部に対し、数次に分けて前記設定移動距離にかかる移動指令を送信した後に、前記不足移動距離にかかる移動指令を送信する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、事前の設定に基づく設定移動距離と所望のプレス量との差分である不足移動距離とに基づき駆動部を制御するので、精度よく対象物をプレスすることができるプレス装置を提供することができる。
【0011】
本発明によれば、検出部により検出された荷重に基づきラムの不足移動距離を算出し、設定移動距離および不足移動距離にかかる移動を、ラムを停止させることなく移動させるように駆動部を制御するので、精度よくラムの荷重を検出部により検出することができる。これにより対象物ごとに異なるプレス装置の撓み、経年変化や温度変化によるプレス装置に発生する撓みの変化にかかわらず、精度よく対象物をプレスすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかるプレス装置の構造を示す斜視図
図2】第1実施形態にかかるプレス装置の内部を示す断面図
図3】第1実施形態にかかるプレス装置の構成を示すブロック図
図4】第1実施形態にかかるプレス装置の撓みを説明する図
図5】第1実施形態にかかるプレス装置の演算部のプログラムフローを示す図
図6】第1実施形態にかかるプレス装置のラムの位置と荷重の関係を説明する図
図7】第1実施形態にかかるプレス装置のラムの減速を伴うプログラムフローを示す図
図8】第1実施形態にかかるプレス装置の減速を伴うラムの位置と荷重の関係を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
[1-1.概略構成]
以下では、図1図3を参照しつつ、本実施形態のプレス装置1の構成を説明する。
【0014】
図1乃至図3に示すように、プレス装置1は、制御部2、加圧部3、駆動部4、検出部5、ベース8、筐体9を有する。筐体9は、エンクロージャ9a、支柱9b、ケーシング9cにより構成される。エンクロージャ9a、支柱9b、ケーシング9cは、アルミニウムや鉄等の材料により構成される。エンクロージャ9aは、制御部2、加圧部3、駆動部4、検出部5を支持する。エンクロージャ9aは、支柱9bに固定され、支柱9bはベース8に固定される。ベース8は、アルミニウムや鉄等の材料により構成されプレスの対象となる対象物Wが載置される。
【0015】
加圧部3は、ラム31、ボールねじ32を有する。
【0016】
ラム31、ボールねじ32は、鉄材等のブロックにより構成される。ラム31は、内部が中空状に形成される。ラム31は、内部に雌ねじ部31aを有し、ボールねじ32と螺合する。ボールねじ32は、雄ねじにより構成される。ラム31は、ボールねじ32が回転することにより上下動し、対象物Wをプレスする。また、ラム31の対象物Wと当接する端部には起歪柱31bが設けられる。起歪柱31bが対象物Wに当接し、荷重を与える。ラム31は、ケーシング9cに収納されてエンクロージャ9aに配置される。ラム31は、ガイド部6により移動方向をガイドされる。
【0017】
ボールねじ32は、駆動部4に接続される。駆動部4に駆動され、ボールねじ32は回転させられる。
【0018】
駆動部4は、動力伝達部41、サーボモータ42、エンコーダ43を有する。
【0019】
動力伝達部41は、プーリ41a、ベルト41c、プーリ41bを有する。動力伝達部41は、エンクロージャ9aの内部に配置される。動力伝達部41のプーリ41bは、ボールねじ32に接続される。プーリ41aの回転が、ベルト41cを介しプーリ41bに伝達されボールねじ32が回転する。動力伝達部41のプーリ41aは、サーボモータ42に接続される。
【0020】
サーボモータ42は、制御部2に接続される。サーボモータ42は、制御部2により回転量を制御される。サーボモータ42は、動力伝達部41のプーリ41aを回転させる。サーボモータ42は、エンクロージャ9aの内部に配置される。
【0021】
エンコーダ43は、サーボモータ42の回転量を検出する。エンコーダ43は、制御部2に接続される。エンコーダ43は、サーボモータ42の回転量を検出し、コード化して制御部2に出力する。エンコーダ43は、サーボモータ42に配置される。
【0022】
検出部5は、歪みゲージ51、通信部52により構成される。歪みゲージ51は、ピエゾ素子等の荷重センサにより構成される。歪みゲージ51は、ラム31の起歪柱31bの対象物Wと当接する端部と反対の面に配置される。歪みゲージ51は、対象物Wに対するラム31の荷重を検出する。歪みゲージ51は、検出された荷重にかかるアナログ信号を通信部52に送信する。歪みゲージ51により検出された荷重にかかるアナログ信号は、歪みゲージ51の抵抗値であってもよい。
【0023】
通信部52は、アナログデジタル変換回路、送信回路により構成される。通信部52は、エンクロージャ9aの内部に配置される。通信部52は、センサ51から受信した荷重にかかるアナログ信号を増幅しデジタル信号に変換し、制御部2に送信する。
【0024】
制御部2は、マイクロコンピュータを主体に構成される。制御部2は、エンクロージャ9aの内部に配置される。制御部2は、加圧部3による対象物Wの加圧動作の制御を行う。制御部2は、駆動部4のサーボモータ42に接続され、サーボモータ42の回転量を制御する。制御部2は、駆動部4のエンコーダ43に接続され、コード化されたサーボモータ42の回転量を受信する。制御部2は、検出部5の通信部52に接続され、センサ51により検出された荷重にかかるデジタル信号を受信する。
【0025】
制御部2は、演算部20、プログラム記憶部21、表示部22、操作部23、一次記憶部24、パラメータ記憶部25、指令パルス発生部26、サーボモータドライバ27、エンコーダ位置カウンタ28により構成される。
【0026】
プログラム記憶部21は、半導体により構成されたメモリ、またはハードディスク等の記憶装置により構成される。プログラム記憶部21は、演算部20に接続される。プログラム記憶部21は、演算部20の動作を司るプログラムを記憶する。演算部20は、プログラム記憶部21に記憶されたプログラムに基づき動作を行う。
【0027】
表示部22は、プラズマディスプレイや液晶表示器等により構成される。表示部22は、演算部20に接続される。表示部22は、演算部20に制御され、設定されたパラメータ、動作状態等を表示する。
【0028】
操作部23は、スイッチ231および入力回路232により構成される。操作部23は、演算部20に接続される。スイッチ231は、対象物Wのプレス動作開始時またはプレス動作中止時に作業者により操作される。操作部23は入力回路232により、スイッチ231が操作されたことを検出し、演算部20に出力する。
【0029】
一時記憶部24は、半導体により構成されたメモリ、またはハードディスク等の記憶装置により構成される。一時記憶部24は、演算部20に接続される。一時記憶部24は、演算部20に制御され、演算過程における一時的なデータを記憶する。
【0030】
パラメータ記憶部25は、半導体により構成されたメモリ、またはハードディスク等の記憶装置により構成される。パラメータ記憶部25は、演算部20に接続される。パラメータ記憶部25は、位置ZTを記憶する。位置ZTは、対象物Wにラム31の当接が開始する位置である位置ZSから、ベース8方向に設定移動距離DSの位置である。設定移動距離DSは、位置ZSと位置ZTの差分である。設定移動距離DSは、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離である。設定移動距離DSは、対象物Wをプレスする所望のプレス量DPに等しい。
【0031】
位置ZTは、対象物Wのプレス動作開始前に作業者により設定され、予めパラメータ記憶部25に記憶される。パラメータ記憶部25は、位置ZTに加え、予め設定された位置ZS、設定移動距離DSを記憶するようにしてもよい。また、パラメータ記憶部25は、不足移動距離DTの算出に用いられる撓み係数Kを記憶する。撓み係数Kは、プレス動作開始前に作業者により予め設定される。
【0032】
指令パルス発生部26は、パルス発生回路により構成される。指令パルス発生部26は、演算部20、サーボモータドライバ27に接続される。指令パルス発生部26は、演算部20からパルスを出力させる指令である移動指令を受信し、サーボモータ42の回転量を制御するパルスに変換する。パルスに変換された移動指令は、サーボモータドライバ27を介しサーボモータ42に入力される。
【0033】
サーボモータドライバ27は、サーボモータ駆動回路により構成される。サーボモータドライバ27は、指令パルス発生部26、サーボモータ42に接続される。サーボモータドライバ27は、指令パルス発生部26により変換された移動指令にかかるパルスを電流増幅し、サーボモータ42を駆動する。サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルス数に正比例した回転角にて回転する。サーボモータ42が所望の回転角で回転することによりラム31が所望の移動量にて移動する。
【0034】
また、サーボモータドライバ27は、駆動部4のエンコーダ43、演算部20に接続される。サーボモータドライバ27は、エンコーダ43により検出されたサーボモータ42の回転角を受信し、演算部20に送信する。
【0035】
エンコーダ位置カウンタ28は、カウンタ回路により構成される。エンコーダ位置カウンタ28は、駆動部4のエンコーダ43、演算部20に接続される。エンコーダ位置カウンタ28は、エンコーダ43からコード化されたサーボモータ42の回転量を受信する。エンコーダ位置カウンタ28は、サーボモータ42の回転量を累積してカウントし、演算部20に送信する。演算部20は、エンコーダ位置カウンタ28から出力された累積してカウントされた回転量に基づき、ラム31の移動量及び速度を検出する。
【0036】
演算部20は、マイクロコンピュータにより構成される。演算部20は、所望のプレス量DPにて対象物Wをプレスするように、指令パルス発生部26、サーボモータドライバ27、駆動部4を介し、加圧部3の制御を行う。演算部20は、表示部22の表示動作を制御する。また、演算部20は、操作部23を介し作業者による操作を検出する。演算部20は、一次記憶部24、パラメータ記憶部25の記憶動作を制御する。
【0037】
演算部20は、サーボモータドライバ27を介し、エンコーダ43により検出されたサーボモータ42の回転角を受信する。また、演算部20は、エンコーダ位置カウンタ28から出力された、累積してカウントされた回転量に基づき、ラム31の移動量及び速度を検出する。演算部20は、加圧部3のラム31の荷重にかかるデジタル信号を検出部5から受信する。演算部20は、プログラム記憶部21に記憶されたプログラムに基づき動作を行う。
【0038】
[1-2.作用]
次に、本実施形態のプレス装置1の作用を、図1~6に基づき説明する。本実施形態におけるパラメータは、以下の通りである。
所望のプレス量DP[mm]:所望のプレス量DPは、対象物Wに所望のプレスを行う場合の、プレス開始時にラム31が対象物Wに当接する位置と、理想のプレスが行われた後のラム31の加工後の位置との差分距離である。後述する位置XSから位置XTまでの距離が所望のプレス量DP[mm]に相当する。
設定移動距離DS[mm]:設定移動距離DSは、パラメータ記憶部25に予め記憶された位置ZTに基づき、ラム31を移動させる距離である。設定移動距離DSは、位置ZSと位置ZTの差分である。設定移動距離DSは、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離である。設定移動距離DSは、対象物Wをプレスする所望のプレス量DPに等しい。対象物Wからラム31が反力を受け、プレス装置1に撓み量δが発生するため、設定移動距離DSによる対象物Wのプレスは、所望のプレス量DP未満となる。
不足移動距離DT[mm]:不足移動距離DTは、所望のプレス量DPと設定移動距離DSとの差分距離である。
差分R[mm]:差分Rは、サーボモータ42によりラム31を駆動する場合おける、「溜まりパルス」の数量に相当する距離である。
撓み量δ[mm]:撓み量δは、対象物Wからラム31が受ける反力に起因した、プレス装置1に発生する撓みに相当する距離である。
位置ZS[mm]:位置ZSは、対象物Wにラム31の当接が開始する位置である。位置ZSは、位置XSに等しい。
位置Z0[mm]:位置Z0は、演算部20により不足移動距離DTの算出が行われる位置である。
位置ZT[mm]:位置ZTは、対象物Wにラム31の当接が開始する位置である位置ZSから、ベース8方向に設定移動距離DSの位置である。位置ZTは、パラメータ記憶部25に予め記憶される。
位置XS[mm]:位置XSは、実際に対象物Wにラム31の当接が開始する位置である。位置XSは、位置ZSに等しい。
位置XT[mm]:位置XTは、実際に対象物Wのプレスが完了する位置である。位置XSから位置XTまでの距離は、設定移動距離DSと不足移動距離DTとの和に等しい。
荷重値F(Z0)[N]:荷重値F(Z0)は、位置Z0におけるラム31の荷重値である。
荷重値F(ZT)[N]:荷重値F(ZT)は、位置ZTにおけるラム31の荷重値である。
荷重値F(XT)[N]:荷重値F(XT)は、位置XTにおけるラム31の荷重値である。
撓み係数K[mm/N]:撓み係数Kは、撓み量δに対する、荷重値F[N]の比例係数である。
荷重傾斜値W(Z0)[N/mm]:荷重傾斜値W(Z0)は、位置Z0における、ラム31の移動距離に対する荷重値F(Z0)の変化量である。
荷重傾斜値W(ZT)[N/mm]:荷重傾斜値W(ZT)は、位置ZTにおける、ラム31の移動距離に対する荷重値F(ZT)の変化量である。
荷重傾斜値W(XT)[N/mm]:荷重傾斜値W(XT)は、位置XTにおける、ラム31の移動距離に対する荷重値F(XT)の変化量である。
移動速度V[mm/S]:移動速度Vは、ラム31の移動速度である。
係数SV[S]:係数SVは、オーバーシュート距離係数である。
【0039】
[演算部20の動作]
制御部2の演算部20は、指令パルス発生部26、サーボモータドライバ27、駆動部4を介し、加圧部3の制御を行い、対象物Wをプレスする。演算部20は、作業者によるプレスを開始することを示す操作を操作部23により検出し、対象物Wをプレスする動作の制御を行う。
【0040】
加圧部3のラム31が、演算部20に送信された移動指令に基づき移動し、対象物Wはプレスされる。最初に演算部20は、パラメータ記憶部25に予め設定された位置ZTに基づく設定移動距離DSにより、ラム31を移動させ対象物Wをプレスする制御を行う。
【0041】
プレス装置1は、ラム31により高圧の荷重で対象物Wのプレスを行う。高圧の荷重で対象物Wのプレスを行うため、ラム31は対象物Wから反力を受ける。プレス装置1は、堅牢に構成されているが、図4に示すように、この反力により撓み量δの撓みが発生する。この撓みは、一般的に、ラム31と対象物Wとを離間させる方向に発生する。
【0042】
このため、予め設定された位置ZTに基づく設定移動距離DSによりラム31を移動させ、対象物Wをプレスした場合、対象物Wは所望のプレス量DP未満でプレスされることとなる。
【0043】
単純に補正量として不足移動距離DTをパラメータ記憶部25に記憶させておき、予め設定された不足移動距離DTを設定移動距離DSに追加して、ラム31を移動させることも考えられる。しかしながら、不足移動距離DTにより更に対象物のプレスを行った場合、更なる撓みがプレス装置1に発生する。
【0044】
不足移動距離DTによりラムを移動させた場合にラム31が対象物Wから受ける反力は、設定移動距離DSによりラムを移動させた場合にラム31が受ける反力より大きなものとなる。したがって、一般的にプレス装置1に発生する撓み量δは、更なる撓みにより設定移動距離DSによるプレス時より不足移動距離DTによるプレス時の方が大きくなる。予め設定された不足移動距離DTにより設定移動距離DSに追加してラム31を移動させた場合、この更なる撓みにより、対象物は所望のプレス量DP未満でプレスされることとなってしまい、望ましくない。
【0045】
制御部2の演算部20は、予め設定された位置ZTに基づく設定移動距離DSと、所望のプレス量DPと設定移動距離DSの差分である不足移動距離DTを算出する。演算部20は、不足移動距離DTに基づき駆動部4を制御し、加圧部3を動作させる。演算部20は、検出部5により検出された荷重に基づき不足移動距離DTを算出し、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる距離を、ラム31を停止させることなく移動させる。
【0046】
制御部2の演算部20は、検出部5により検出された荷重値Fに基づき、対象物Wにラム31により荷重が与えられたことにより生ずる反力に起因した撓みにかかる撓み量δを算出し、算出された撓み量δに基づき不足移動距離DTの算出を行う。
【0047】
制御部2の演算部20は、検出部5により検出された荷重値Fの、ラム31の移動距離に対する変化量である荷重傾斜値Wに基づき不足移動距離DTの算出を行う。
【0048】
制御部2の演算部20は、駆動部4に対し、数次に分けて設定移動距離DSにかかる移動指令を送信した後に、不足移動距離DTにかかる移動指令を送信する。
【0049】
制御部2の演算部20は、プログラム記憶部21に記憶された図5に示すプログラムに従って、以下の動作を行う。
【0050】
最初に演算部20は、操作部23のスイッチ231が押されたことを検出し処理を開始する(ステップS01)。プレス動作の開始時に、作業者によりプレス作業のスタートを指示するスイッチ231が押される。
【0051】
次に演算部20は、パラメータ記憶部25に記憶された位置ZTを読み出す(ステップS02)。位置ZTによりプレス終了時におけるラム31の目標停止位置が決定される。位置ZTは、対象物Wにラム31の当接が開始する位置である位置ZSから、ベース8方向に設定移動距離DSの位置である。設定移動距離DSは、位置ZSと位置ZTの差分である。設定移動距離DSは、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離である。設定移動距離DSは、対象物Wをプレスする所望のプレス量DPに等しい。
【0052】
次に演算部20は、指令パルス発生部26に移動指令を送信する(ステップS03)。演算部20は、移動指令によりラム31を、位置ZSから設定移動距離DSである位置ZTまで移動させる。指令パルス発生部26によりパルスに変換された移動指令が、サーボモータドライバ27を介しサーボモータ42に入力される。これによりサーボモータ42は回転を開始する。サーボモータ42の回転が、動力伝達部41を介し伝達されボールねじ32が回転し、ラム31が移動する。
【0053】
サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルス数に正比例した回転角にて回転する。最初に、ラム31は、位置ZSに移動させられる。この時点で、ラム31は反力を受けていないため、位置ZSは、実際に対象物Wにラム31の当接が開始される位置である位置XSに等しい。
【0054】
その後、演算部20は、指令パルス発生部26に対し、数次に分けて設定移動距離DSに相当する移動指令を送信する。例えば、サーボモータ42が10,000パルスで設定移動距離DSにかかる距離を移動する場合、演算部20は、1m秒ごとに10パルスが指令パルス発生部26から出力されるように、1000回に分けて指令パルス発生部26に移動指令を送信する。
【0055】
次に演算部20は、ラム31が、位置Z0に到達したかの判断を行う(ステップS04)。位置Z0において、演算部20により不足移動距離DTの算出が行われる。位置Z0は、ラム31が不足移動距離DTにかかる移動を行う前であって、設定移動距離DSにかかる移動を終了する前の位置である。ラム31の位置は、エンコーダ位置カウンタ28により累積してカウントされたサーボモータ42の回転量の累積に基づき判断される。
【0056】
ラム31が位置Z0に到達したと判断しない場合、演算部20は、ステップS03の動作を繰り返す。ラム31が位置Z0に到達したと判断した場合、演算部20は、ステップS05の動作を行う。
【0057】
ラム31が、位置Z0に到達したと判断した場合、演算部20は、位置Z0における荷重値F(Z0)を受信する(ステップS05)。荷重値F(Z0)は、検出部5により検出され、制御部2に送信される。図6に、ラム31の位置と荷重値F(Z0)との関係を表すグラフを示す。
【0058】
次に演算部20は、荷重傾斜値W(Z0)を算出する(ステップS06)。荷重傾斜値W(Z0)の算出は、ステップS05において受信した荷重値F(Z0)に基づき行われる。荷重傾斜値W(Z0)は、ラム31の移動距離に対する荷重値F(Z0)の変化量である。荷重傾斜値W(Z0)は、ラム31の位置Z0における荷重値F(Z0)の微分値に相当する。荷重傾斜値W(Z0)の算出方法は、後述する。
【0059】
次に演算部20は、不足移動距離DTを算出する(ステップS07)。不足移動距離DTは、検出部5により検出された荷重値F(Z0)に基づき、対象物Wにラム31により荷重が与えられたことにより生ずる反力に起因した撓みにかかる撓み量δを算出し、算出された撓み量δに基づき算出される。また、不足移動距離DTは、検出部5により検出された荷重値F(Z0)の、ラム31の移動距離に対する変化量である荷重傾斜値W(Z0)に基づき算出される。荷重傾斜値W(Z0)は、ステップS06において算出される。不足移動距離DTの算出方法は、後述する。
【0060】
位置Z0に到達した後、演算部20が不足移動距離DTを算出している時間において、ラム31は、位置ZTに移動させられる。対象物Wは、位置XSから位置ZTにかかる設定移動距離DSの距離をプレスされる。設定移動距離DSは、所望のプレス量DP未満である。
【0061】
次に演算部20は、指令パルス発生部26に不足移動距離DTにかかる移動指令を送信する(ステップS08)。指令パルス発生部26は、不足移動距離DTにかかるサーボモータ42の回転量を制御するパルスを生成する。生成されたパルスは、サーボモータドライバ27を介しサーボモータ42に入力される。これによりサーボモータ42は回転する。サーボモータ42の回転が、動力伝達部41、ボールねじ32に伝達され、ラム31は不足移動距離DTの移動を行う。
【0062】
その結果、ラム31は、位置XTに移動させられる。対象物Wは、位置XSから位置XTにかかる距離をプレスされる。位置XSから位置XTにかかる距離は、所望のプレス量DPに等しい。これにより、対象物Wは、所望のプレス量DPによりプレスされる。
【0063】
その後、演算部20は、プレス動作を停止する。
【0064】
[演算部20による不足移動距離DTの算出]
次に演算部20は、演算部20による不足移動距離DTの算出について説明する。プレス装置1は、ラム31により高圧の荷重で対象物のプレスを行うため、ラム31は対象物Wから反力を受ける。図4に示すように、この反力によりプレス装置1に撓み量δによる撓みが発生する。この撓みは、一般的に、ラム31と対象物Wとを離間させる方向に発生する。このため、設定移動距離DSによりラム31を移動させ、対象物Wをプレスした場合、対象物Wは所望のプレス量DP未満でプレスされることとなる。
【0065】
また、単純に設定移動距離DSに予め設定された補正量を加算した移動量によりラム31を移動させ、対象物Wのプレスを行った場合、更なる撓みがプレス装置1に発生する。この更なる撓みにより、対象物Wは所望のプレス量DP未満でプレスされることとなる。
【0066】
対象物Wごとにプレス装置1に発生する更なる撓みは異なる可能性がある。また、経年変化や温度変化により、プレス装置1を構成する部材の剛性が変化し、プレス装置1に発生する撓みは異なる可能性がある。
【0067】
この問題を解決するために、演算部20により、対象物Wごと個別にプレス装置1に発生する撓み量δを算出し、算出された撓み量δに基づき不足移動距離DTの算出を行う。
【0068】
ラム31が対象物Wから反力を受けプレス装置1のエンクロージャ9a、支柱9bがベース8に対して撓む。この撓みにより、ラム31がベース8に対し離間させられる。これにより対象物Wは、所望のプレス量DPに対し撓み量δに相当する距離を不足してプレスされる。
【0069】
プレス装置1に発生する撓み量δは、ラム31にかかる荷重値F[N]に正比例する。撓み量δ[mm]と荷重値F[N]の関係は、(式1)により表される。
δ[mm]=K[mm/N]*F[N]
・・・・・(式1)
(式1)において、K[mm/N]は、撓み係数である。撓み係数K[mm/N]は、撓み量δに対する、荷重値F[N]の比例係数である。
【0070】
撓み係数K[mm/N]は、予め設定されパラメータ記憶部25に記憶される。撓み係数K[mm/N]は、ラム31の先端とベース8との距離を測定する測長器を付けた状態で、ラム31を下降させ、ラム31にかかる荷重値F[N]と撓み量δ[mm]を予め測定し、算出される。
【0071】
撓み係数K[mm/N]は、ラム31の移動距離における全ての区間で一つの値であってもよい。また、撓み係数K[mm/N]は、ラム31の移動距離における区間ごとに異なる値であってもよい。撓み係数K[mm/N]は、ラム31の移動距離における全ての区間において一定であるとは限らない。撓み係数K[mm/N]は、ラム31の移動距離における区間ごとに、例えば折れ線近似により表されていてもよい。ラム31の移動距離における区間をN個に区切りi番目の区間の係数を、撓み係数Ki[mm/N](i=1~N)としてもよい。
【0072】
プレス装置1に撓みが発生していないと仮定したラム31の位置Z[mm]と、対象物Wのプレス時にプレス装置1に撓みが発生した場合のラム31の位置X[mm]との関係は、(式2)により表される。
X[mm]=Z[mm]+δ[mm]
・・・・・(式2)
(式2)においてδ[mm]は、前述の(式1)における撓み量δ[mm]である。
【0073】
図6において、予め設定された位置ZTに基づく設定移動距離DSによりラム31が移動させられる位置をZ、プレス装置1に撓みが発生した場合の実際のラム31の位置をXにより表す。ラム31が対象物Wへの当接を開始する位置を位置ZSまたは位置XS、対象物Wのプレス完了時点におけるラム31の位置をXTとする。
【0074】
プレス装置1に撓みが発生していない場合の位置ZSから位置ZTまでの距離が、設定移動距離DSである。設定移動距離DSは、所望のプレス量DPに等しい。
【0075】
撓みがある場合、位置XSから位置XTまでの距離が、所望のプレス量DPに等しい。所望のプレス量DPは、設定移動距離DSと不足移動距離DTの和に相当する。位置ZS、XSは、対象物Wにラム31の当接が開始した位置であり、同一の位置である。
【0076】
演算部20は、ラム31を移動させるために指令パルス発生部26に対し、数次に分けて設定移動距離DSに相当する移動指令を送信する。サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルス数に正比例した回転角にて回転する。サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルスの数に基づき回転を開始する。
【0077】
しかしながら、指令パルス発生部26から複数のパルスが出力された後、サーボモータ42の回転が指令された回転量に達するまでに時間遅延が生じる。指令パルス発生部26から出力された複数のパルスのうち、この時間遅延に起因し、サーボモータ42の回転量に充当されていないパルスを「溜まりパルス」と呼ぶ。
【0078】
演算部20は、指令パルス発生部26に移動指令を送信する。指令パルス発生部26は、移動指令をパルスに変換し、位置ZTに移動させる数量を有する指令パルスをサーボモータ42に対し出力させる(ステップS03に相当)。演算部20は、指令パルス発生部26から指令パルスが数次に分けて出力されるように、設定移動距離DSに相当する移動指令を送信する。プレス装置1に撓みが発生しないと仮定した場合、ラム31の位置XT=ZTであり、(式1)により撓み量δ[mm]の算出を行うことは必要とされない。
【0079】
しかしながら、プレス時にプレス装置1に撓みが発生する。プレス装置1に撓みが発生した場合の演算は、下記により行われる。
【0080】
最初に、演算部20は、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定した場合の設定移動距離DSを、ラム31に移動させる制御を行う。すなわち演算部20は、ラム31を位置ZSから位置ZTに移動させる移動指令を指令パルス発生部26に送信する。指令パルス発生部26は、ラム31を位置ZTに移動させる数量を有するパルスに移動指令を変換し、サーボモータ42に対し出力する。
【0081】
演算部20は、ラム31を位置ZTに移動させる移動指令を指令パルス発生部26に数次に分けて送信する(ステップS03)。また、演算部20は、この時点における荷重値F(Z0)を検出部5から受信する(ステップS05)。演算部20は、荷重値F(Z0)に基づき荷重傾斜値W(Z0)を算出する(ステップS06)。
【0082】
その後、演算部20は、不足移動距離DTの算出を行う(ステップS07)。不足移動距離DTは、ラム31が位置Z0に到達した後であって、位置ZTに到達する前の時間において算出される。
【0083】
位置Z0は、エンコーダ位置カウンタ28から出力された累積してカウントされたサーボモータ42の回転量に基づき、演算部20によりラム31の移動量が算出され、検出される。荷重値F(Z0)は、歪みゲージ51により検出された対象物Wに対するラム31の荷重にかかるアナログ信号が、通信部52によりデジタル信号に変換されて演算部20に入力される。
【0084】
荷重傾斜値Wは、荷重値Fの単位距離に対する増加量で、バネ常数と同様の次元[N/mm]を有する。荷重傾斜値Wは、荷重値Fの位置に対する微分であり(式3)により表される。
W[N/mm]=dF[N]/dZ[mm]
・・・・・(式3)
【0085】
荷重傾斜値W[N/mm]は、位置Z[mm]を横軸、荷重値F[N]を縦軸とした図6に示すグラフにおける傾きとなる。
【0086】
ばらつきの影響を受けにくくし、信頼性の高い傾斜値を算出するために、直線回帰計算によりグラフの傾きを算出することが好ましい。ラム31の先端の位置Z[mm]を示すデータが(Z1,Z2・・・Zn)、各位置における位置Z[mm]荷重値F[N]を示すデータが(F1,F2・・・Fn)である場合、各ポイントに対し回帰直線を引く。回帰直線の傾きは、(式4)により表される。
【数1】
・・・・・(式4)
【0087】
演算部20は、(式4)により、位置Z0[mm]に到達するまでのn個のデータの組に基づき荷重傾斜値W(Z0)[N/mm]の算出を行う。
【0088】
演算部20は、数次に分けて出力する設定移動距離DSにかかる全ての移動指令を送信した時点におけるラム31の位置Z0[mm]と、設定移動距離DSにかかる全ての移動指令により移動すると想定される目標位置である位置ZT[mm]との差分R[mm]の算出を行う。差分R[mm]は、(式5)により表される。
ZT[mm]=Z0[mm]+R[mm]
・・・・・(式5)
【0089】
差分R[mm]は、サーボモータ42によりラム31を駆動する場合おける、「溜まりパルス」の数量に相当する。「溜まりパルス」の数量は、ラム31の移動速度V[mm/S]に正比例する。差分R[mm]とラム31の移動速度V[mm/S]の関係は、(式6)により表される。
R[mm]=SV[S]*V[mm/S]
・・・・・(式6)
(式6)においてSV[S]は、係数である。
【0090】
係数SV[S]は、駆動部4や加圧部3の構成、サーボモータドライバ27のフィードバックゲイン等により異なる。係数SV[S]は、予め算出されパラメータ記憶部25に記憶される。係数SV[S]は、ラム31の移動速度V[mm/S]を変化させるようにサーボモータ42にパルスを入力し、パルスの入力を停止した時点からラム31の移動が停止するまでのラム31の移動距離を測定し、測定されたラム31の移動距離の傾きを測定することにより算出される。
【0091】
荷重傾斜値W[N/mm]は、ラム31が微小距離である差分R[mm]移動しても変化しないものと仮定すると、位置ZT[mm]における荷重傾斜値W(ZT)[N/mm]は、(式7)により表される。
W(ZT)[N/mm]=W(Z0+R)[N/mm]=W(Z0)[N/mm]
・・・・・(式7)
【0092】
演算部20は、不足移動距離DTを算出した後、指令パルス発生部26に不足移動距離DTにかかる移動指令を送信し、パルスに変換させる(ステップS08)。指令パルス発生部26は、サーボモータ42の回転量を制御するパルスを出力する。これによりラム31は、不足移動距離DTに相当する距離を移動する。演算部20は、ラム31を目標位置XTに移動させる制御を行う。
【0093】
演算部20は、以下により不足移動距離DTの算出を行う。位置Z0[mm]と目標位置である位置XTの差分は微小である。したがって、位置XT[mm]における荷重傾斜値W(XT)[N/mm]は、位置ZT[mm]における荷重傾斜値W(ZT)[N/mm]と同一であると仮定すると、位置XT[mm]における荷重傾斜値W(XT)[N/mm]は、(式8)により表される。
W(XT)[N/mm]=W(ZT+DT)[N/mm]
=W(ZT)[N/mm]=W(Z0+R)[N/mm]=W(Z0)[N/mm]
・・・・・(式8)
【0094】
(式3)を変形し、荷重値Fの単位距離に対する増加量dFは、(式9)により表される。
dF[N]=W[N/mm]*dZ[mm]
・・・・・(式9)
【0095】
以上から、目標位置である位置XTにおける荷重値F(XT)は、荷重値F(ZT+DT)であるので、(式10)により表される。また、位置XTに対する荷重値F(XT)を、図6に示す。
F(XT)[N]=F(Z0+R+DT)
=F(Z0)[N]+W(Z0)[N/mm]*R[mm]
+W(Z0)[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式10)
【0096】
図6において、位置ZS、位置Z0間の傾きを荷重傾斜値W0[N/mm]、位置Z0、位置ZT間の傾きを荷重傾斜値W1[N/mm]、位置ZT、位置XT間の傾きを荷重傾斜値W2[N/mm]とする。
【0097】
位置Z0、位置ZT間の荷重の変化ΔF(Z0→ZT)は、(式100)に示すとおりとなる。
ΔF(Z0→ZT)[N]=W1[N/mm]*R[mm]
・・・・・(式100)
【0098】
同様に、位置ZT、位置XT間の荷重の変化ΔF(ZT→XT)は、(式101)に示すとおりとなる。
ΔF(ZT→XT)[N]=W2[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式101)
【0099】
従ってF(XT)は、(式102)に示すとおりとなる。
F(XT)[N]=F(Z0)[N]+ΔF(Z0→ZT)[N]
+ΔF(ZT→XT)[N]
・・・・・(式102)
【0100】
(式100)、(式101)を代入し、(式102)は(式103)に示すとおりとなる。
F(XT)[N]=F(Z0)[N]+W1[N/mm]*R[mm]
+W2[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式103)
【0101】
差分R[mm]、不足移動距離DT[mm]は微小であるので、荷重傾斜値W1[N/mm]、W2[N/mm]は、(式104)、(式105)の近似式により示すとおりとなる。
W1[N/mm]=W0[N/mm]
・・・・・(式104)
W2[N/mm]=W0[N/mm]
・・・・・(式105)
【0102】
(式104)(式105)を代入し、(式103)は(式106)に示すとおりとなる。
F(XT)[N]=F(Z0)[N]+W0[N/mm]*R[mm]
+W0[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式106)
【0103】
荷重傾斜値W0[N/mm]は、位置Z0[mm]における荷重傾斜値W1[N/mm]であるので、(式106)は、(式10)となる。
F(XT)[N]=F(Z0)[N]+W(Z0)[N/mm]*R[mm]
+W(Z0)[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式10)
【0104】
不足移動距離DTは、最終的な目標位置である位置XTにおける撓み量であるので、(式11)により表される。
DT[mm]=K[mm/N]*F(XT)[N]
・・・・・(式11)
【0105】
(式11)の右辺に(式10)を代入し、不足移動距離DTは、(式12)により表される。
DT[mm]=K[mm/N]*F(Z0)[N]
+K[mm/N]*W(Z0)[N/mm]*R[mm]
+K[mm/N]*W(Z0)[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式12)
【0106】
(式12)と(式6)に基づき、不足移動距離DTは、(式13)により表される。
【数2】
・・・・・(式13)
ここで、F(Z0)[N]、K[mm/N]、W(Z0)[N/mm]、SV[S]、V[mm/S]は、測定または算出により上記の通り既知であり、演算部20は、(式13)に基づき不足移動距離DTの算出を行う。
【0107】
演算部20は、ラム31が位置Z0に到達した時点において、不足移動距離DTの算出を行い、不足移動距離DTにかかる移動指令を指令パルス発生部26に送信する。位置Z0は、ラム31が、設定移動距離DSを充足する位置である位置ZTに到達する前の位置である。位置Z0は、位置ZTに対し差分R[mm]に相当する距離離間している。
【0108】
ラム31が位置Z0に到達した時点において、差分R[mm]に相当する「溜まりパルス」をサーボモータ42は有する。サーボモータ42の回転が、「溜まりパルス」に相当する回転量に達するまでに時間の遅延が生じる。この遅延による時間において、演算部20は、ラム31が位置ZTに到達する前に不足移動距離DTを算出する。
【0109】
仮に、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を一度停止させて行った場合、ラム31にかかる荷重値F(Z0)が大きく変動するため、精度よく不足移動距離DTの算出を行うことができない。演算部20は、ラム31が位置ZTに到達する前に不足移動距離DTを算出し、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる距離を、ラム31を停止させることなく移動させる。
【0110】
[ラム31の減速を伴う演算部20の動作]
演算部20は、不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を停止させることなく減速または加速させて移動させるようにしてもよい。
【0111】
一定速度によりラム31を移動させる場合、演算部20は、一定の時間間隔で指令パルス発生部26に移動指令を送信し、サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルス数に正比例した回転角にて回転する。例えば、ラム31の移動速度が速い場合、不足移動距離DTの算出時間が不足し、演算部20による指令パルス発生部26への不足移動距離DTにかかる移動指令の送信が遅れ、その結果、ラム31の移動が停止することとなってしまう場合がある。
【0112】
荷重値F(Z0)は、ラム31の移動速度により異なる。ラム31の移動を減速させた後に、ラム31にかかる荷重値F(Z0)の測定を行った場合、荷重値F(Z0)の値が変動し精度よく荷重値F(Z0)を検出することができない。その結果、不足移動距離DTが精度よく算出されず、好ましくない。不足移動距離DTの算出時間が不足することが予測され、ラム31の移動速度を減速することが必要とされる場合、演算部20は、ラム31の移動を減速させる前に、不足移動距離DTの算出を行うようにしてもよい。
【0113】
また、演算部20から移動指令が送信された後、ラム31が移動指令による移動を完了するまでに、時間遅延が生じる。特に駆動部4がサーボモータ42を含むように構成された場合、この時間遅延は避けられないものとなる。例えば、サーボモータ42の回転量が「溜まりパルス」に相当する回転量に達するまでの時間が、この時間遅延に相当する。設定移動距離DSにより移動する目標位置である位置ZTと、移動指令を送信した時点におけるラム31の位置Z0との離間距離が、「溜まりパルス」に起因する距離であり、前述の(式5)に示す差分Rとなる。
【0114】
差分Rが大きい場合、目標位置である位置ZTと、移動指令を送信した時点におけるラム31の位置Z0との離間距離が大きくなるため、不足移動距離DTが精度よく算出されず、好ましくない。差分Rは、(式6)に示すようにラム31の移動速度Vに正比例する。したがってラム31の移動速度Vを減速させることにより、差分Rを小さくすることができ、不足移動距離DTの算出精度を向上させることができる。不足移動距離DTの算出精度を向上させることを目的としてラム31の移動速度を減速させる場合も、演算部20は、ラム31の移動を減速させる前に不足移動距離DTの算出を行うようにしてもよい。
【0115】
演算部20は、ラム31が位置Z0に到達する前の位置ZEにおいて、対象物Wに対するラム31の荷重値F(ZE)を検出部5により検出して、不足移動距離DTの算出を行う。位置ZEは、位置Z0より移動距離Q[mm]だけベース8から離間した位置である。その後、演算部20は、ラム31の移動を減速させる制御を行う。ラム31の移動を減速させるために、演算部20は、指令パルス発生部26に移動指令を送信する時間間隔を大きくする。
【0116】
上記のように、ラム31の移動を位置ZEにおいて減速させる場合、不足移動距離DTは(式10)に代替し、(式14)により算出される。
F(XT)[N]=F(ZE+Q+R+DT)
=F(ZE)[N]+W(ZE)[N/mm]*Q[mm]
W(ZE)[N/mm]*R[mm]+W(ZE)[N/mm]*DT[mm]
・・・・・(式14)
移動距離Q[mm]は、位置ZEと位置Z0との距離である。
【0117】
また、不足移動距離DTは(式13)に代替し、(式15)により表される。
【数3】
・・・・・(式15)
ここで、F(ZE)[N]、K[mm/N]、W(ZE)[N/mm]、Q[mm]、SV[S]、V[mm/S]は、測定または算出により上記の通り既知であり、演算部20は、(式15)に基づき不足移動距離DTの算出を行う。
【0118】
制御部2の演算部20は、プログラム記憶部21に記憶された図7に示すプログラムに従って、ラム31の移動の減速を伴う動作を行う。
【0119】
最初に演算部20は、操作部23のスイッチ231が押されたことを検出し処理を開始する(ステップS11)。プレス動作の開始時に、作業者によりプレス作業のスタートを支持するスイッチ231が押される。
【0120】
次に演算部20は、パラメータ記憶部25に記憶された位置ZTを読み出す(ステップS12)。位置ZTによりプレス終了時におけるラム31の目標停止位置が決定される。位置ZTは、位置ZSから、ベース8方向に設定移動距離DSの位置である。設定移動距離DSは、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離である。
【0121】
次に演算部20は、指令パルス発生部26に移動指令を送信する(ステップS13)。演算部20は、移動指令によりラム31を、位置ZSから設定移動距離DSである位置ZTまで移動させる。
【0122】
サーボモータ42は、指令パルス発生部26から出力されたパルス数に正比例した回転角にて回転する。演算部20は、指令パルス発生部26に対し、数次に分けて設定移動距離DSに相当する移動指令を送信する。
【0123】
次に演算部20は、ラム31が、位置ZEに到達したかの判断を行う(ステップS14)。位置ZEにおいて、検出部5により対象物Wに対するラム31の荷重値F(ZE)の検出、不足移動距離DTの算出、ラム31を減速する制御が行われる。位置ZEは、ラム31が不足移動距離DTにかかる移動を行う前であって、設定移動距離DSにかかる移動を終了する前の位置である。ラム31の位置は、エンコーダ位置カウンタ28により累積してカウントされたサーボモータ42の回転量の累積に基づき判断される。
【0124】
ラム31が位置ZEに到達したと判断しない場合、演算部20は、ステップS13の動作を繰り返す。ラム31が位置ZEに到達したと判断した場合、演算部20は、ステップS15の動作を行う。
【0125】
ラム31が、位置ZEに到達したと判断した場合、演算部20は、位置ZEにおける荷重値F(ZE)を受信する(ステップS15)。図8に、ラム31の位置と荷重値F(ZE)との関係を表すグラフを示す。
【0126】
次に演算部20は、荷重傾斜値W(ZE)を算出する(ステップS16)。荷重傾斜値W(ZE)の算出は、ステップS05において受信した荷重値F(ZE)に基づき(式4)により行われる。荷重傾斜値W(ZE)は、ラム31の移動距離に対する荷重値F(ZE)の変化量である。荷重傾斜値W(ZE)は、ラム31の位置ZEにおける荷重値F(ZE)の微分値に相当する。
【0127】
次に演算部20は、不足移動距離DTを算出する(ステップS17)。不足移動距離DTは、上記の(式15)により算出される。
【0128】
次に演算部20は、指令パルス発生部26に不足移動距離DTにかかる移動指令を送信する(ステップS18)。サーボモータ42は、パルスに変換された移動指令を指令パルス発生部26から受信する。これによりサーボモータ42は、回転し、ラム31は不足移動距離DTにかかる移動を行う。
【0129】
演算部20は、ラム31を減速させ移動させるように移動指令を指令パルス発生部26に送信する(ステップS19)。これにより、ラム31は、設定移動距離DSにおける移動距離Qを減速して移動する。演算部20は、ラム31が移動距離Qを減速して移動した後に、位置ZEに到達する前の速度によりラム31が移動するように制御を行ってもよい。
【0130】
その結果、ラム31は、位置XTに移動させられる。対象物Wは、位置XSから位置XTにかかる距離をプレスされる。位置XSから位置XTにかかる距離は、所望のプレス量DPに等しい。これにより、対象物Wは、所望のプレス量DPによりプレスされる。
【0131】
その後、演算部20は、プレス動作を停止する。
【0132】
以上が、プレス装置1の作用である。
【0133】
[1-3.効果]
(1)本発明によれば、プレス装置1は、プレスの対象となる対象物Wに荷重を与えるラム31と、ラム31を駆動する駆動部4と、対象物Wに対するラム31の荷重の荷重値F(Z0)を検出する検出部5と、対象物Wにラム31が荷重を与えるように駆動部4を制御する制御部2と、を備え、制御部2は、事前の設定に基づき、対象物Wを実際にプレスした場合のプレス量が所望のプレス量DP以下となる設定移動距離DSで、ラム31を移動させる制御を行い、ラム31が設定移動距離DSを移動中に、所望のプレス量DPに対し不足するラム31の不足移動距離DTを、検出部5により検出される荷重値F(Z0)に基づき算出し、ラム31が不足移動距離DTを移動する制御を行うので、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0134】
ラム31が設定移動距離DSを移動中に、ラム31の荷重値F(Z0)が検出部5により検出されるので、ラム31の荷重の荷重値F(Z0)が精度よく検出される。これにより精度よく、不足移動距離DTが算出され、その結果、精度よく対象物Wをプレスすることができる。
【0135】
(2)本発明によれば、プレス装置1の制御部2は、ラム31を停止させることなく設定移動距離DSと不足移動距離DTとを移動させる制御を行うので、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0136】
仮に、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を一度停止させて行った場合、ラム31にかかる荷重値F(Z0)が大きく変動するため、精度よく不足移動距離DTの算出を行うことができない。本発明によれば、制御部2は、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を停止させることなく移動させるのでラム31にかかる荷重値F(Z0)の変動を抑制することができる。これにより不足移動距離DTが精度よく算出される。その結果、プレス装置1に発生する撓みにかかわらず、精度よく対象物をプレスすることができる。
【0137】
また、ラム31を一度停止させた場合、圧入などに起因し、対象物Wのプレス加工結果が影響を受けてしまう可能性があった。また、ラム31を一度停止させた場合、対象物W一つあたりの加工時間が、ラム31を一度停止させない場合に比べ長くなってしまうとの欠点があった。その結果、単位時間にプレス加工することができる対象物Wの数量が、少なくなってしまうとの欠点があった。
【0138】
本発明によれば、制御部2は、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を停止させることなく移動させるので、圧入などに起因した対象物Wのプレス加工結果への影響を軽減することができる。また、本発明によれば、対象物W一つあたりの加工時間を、ラム31を一度停止させない場合に比べ短くすることができ、その結果、単位時間にプレス加工することができる対象物Wの数量を多くすることができる。
【0139】
(3)本発明によれば、制御部2は、検出部5により検出された荷重値F(Z0)に基づき、対象物Wにラム31により荷重が与えられたことにより生ずる反力に起因した撓みにかかる撓み量δを算出し、算出された撓み量δに基づき不足移動距離DTの算出を行うので、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0140】
対象物Wごとにプレス装置1に発生する撓み量δは、異なる可能性がある。また、経年変化や温度変化により、プレス装置1を構成する部材の剛性が変化し、プレス装置1に発生する撓みは異なる可能性がある。制御部2は、検出部5により検出された荷重値F(Z0)に基づき、プレス装置1に発生する撓み量δを算出し、撓み量δに基づき不足移動距離DTを算出する。
【0141】
本発明によれば、制御部2は、対象物Wごとに、検出部5により検出された荷重値F(Z0)に基づき撓み量δを算出し、算出された撓み量δに基づき不足移動距離DTの算出を行うので、精度よく対象物Wをプレスすることができる。
【0142】
(4)本発明によれば、制御部2は、検出部5により検出された荷重値F(Z0)の、ラム31の移動距離に対する変化量に基づき不足移動距離DTの算出を行うので、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0143】
制御部2は、ラム31の移動距離に対する荷重値F(Z0)の変化量に基づき、プレス完了時のラム31の位置XTにおける荷重値F(XT)を予測して不足移動距離DTの算出を行う。これにより、精度よく不足移動距離DTが算出され、精度よく対象物Wをプレスすることができる。
【0144】
(5)本発明によれば、制御部2は、対象物Wに対するラム31の荷重値F(Z0)を検出部5により検出して、不足移動距離DTを算出した後に、ラム31を減速して移動させる制御を行うので、ラム31の移動速度が速い場合であっても、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0145】
ラム31の移動速度が速い場合、不足移動距離DTの算出時間が不足し、演算部20による指令パルス発生部26への不足移動距離DTにかかる移動指令の送信が遅れ、その結果、ラム31の移動が停止することとなってしまう場合がある。
【0146】
荷重値F(Z0)は、ラム31の移動速度により異なる。ラム31の移動を減速させた後に、ラム31にかかる荷重値F(Z0)の測定を行った場合、荷重値F(Z0)の値が変動し精度よく荷重値F(Z0)を検出することができない。その結果、不足移動距離DTが精度よく算出されず、好ましくない。不足移動距離DTの算出時間が不足することが予測され、ラム31の移動速度を減速することが必要とされる場合、演算部20は、ラム31の移動を減速させる前に、不足移動距離DTの算出を行う。
【0147】
また、演算部20から移動指令が送信された後、ラム31が移動指令による移動を完了するまでに、時間遅延が生じる。特に駆動部4がサーボモータ42を含むように構成された場合、この時間遅延は避けられないものとなる。例えば、サーボモータ42の回転量が「溜まりパルス」に相当する回転量に達するまでの時間が、この時間遅延に相当する。設定移動距離DSにより移動する目標位置である位置ZTと、移動指令を送信した時点におけるラム31の位置Z0との離間距離が、「溜まりパルス」に起因する距離であり、前述の(式5)に示す差分Rとなる。
【0148】
差分Rが大きい場合、目標位置である位置ZTと、移動指令を送信した時点におけるラム31の位置Z0との離間距離が大きくなるため、不足移動距離DTが精度よく算出されず好ましくない。差分Rは、(式6)に示すようにラム31の移動速度Vに正比例する。したがってラム31の移動速度Vを減速させることにより、差分Rを小さくすることができ、不足移動距離DTの算出精度を向上させることができる。不足移動距離DTの算出精度を向上させることを目的としてラム31の移動速度を減速させる場合も、演算部20は、ラム31の移動を減速させる前に不足移動距離DTの算出を行うようにしてもよい。
【0149】
これにより、ラム31にかかる荷重値F(Z0)が精度よく測定され、測定された荷重値F(Z0)に基づき不足移動距離DTが算出されるので、精度よく不足移動距離DTが算出される。その結果、精度よく対象物Wをプレスすることができる。
【0150】
(6)本発明によれば、制御部2は、駆動部4に対し、数次に分けて設定移動距離DSにかかる移動指令を送信した後に、不足移動距離DTにかかる移動指令を送信する。サーボモータ42の回転は、設定移動距離DSにかかる移動指令における「溜まりパルス」に相当する回転量に達するまでに時間遅延が生じる。制御部2は、この遅延時間において、不足移動距離DTの算出を行う。
【0151】
これにより制御部2は、設定移動距離DSおよび不足移動距離DTにかかる移動を、ラム31を停止させることなく移動させることができる。その結果、ラム31を停止させることなくラム31にかかる荷重値F(Z0)を精度よく検出することができる。これにより不足移動距離DTが精度よく算出される。その結果、精度よく対象物をプレスすることができる。
【0152】
[2.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0153】
(1)上記実施形態において、不足移動距離DTの算出は、1回のプレス動作時に、位置Z0において1回行われるものとしたが、不足移動距離DTの算出は、1回のプレス動作時に複数回行われるようにしてもよい。例えば、演算部20は、設定移動距離DSにかかる移動指令を指令パルス発生部26に送信した後の、送信位置Z01において1回目の不足移動距離DT1の算出を行い、不足移動距離DT1にかかる移動指令を指令パルス発生部26に送信した後の、送信位置Z02において2回目の不足移動距離DT2の算出を行い、不足移動距離DT2にかかる移動指令を指令パルス発生部26に送信するようにしてもよい。
【0154】
このように、不足移動距離DTの算出を1回のプレス動作時に複数回行うことにより、不足移動距離DT1により、ラム31にかかる荷重値F(Z02)が変化した場合であっても、精度よく不足移動距離DT2の算出を行うことができる。これにより精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0155】
(2)上記実施形態において、所望のプレス量DPは、プレス開始時にラム31が対象物Wに当接する位置と、理想のプレスが行われた後のラム31の加工後の位置との差分距離であるものとした。しかしながら、所望のプレス量DPは、ラム31の移動距離に限られない。例えば、所望のプレス量DPは、プレス部分の容積等に関する数値であってもよい。設定移動距離DSは、所望のプレス量DPに対応した、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離である。
【0156】
(3)上記実施形態において、位置ZTが事前に設定され、設定移動距離DSは、パラメータ記憶部25に予め記憶された位置ZTに基づきラム31が移動する距離であるものとした。しかしながら、設定移動距離DSは、事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるものであってもよい。
【0157】
また、事前に設定されパラメータ記憶部25に予め記憶される項目は、位置ZTまたは設定移動距離DSに限られない。例えば、位置ZT、設定移動距離DSに加え所望のプレス量DPが事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。または、位置ZT、設定移動距離DS、所望のプレス量DPのうち少なくとも一つが事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。
【0158】
(4)上記実施形態において、設定移動距離DSは、対象物Wをプレスする所望のプレス量DPに対応した、プレス装置1に撓みが発生しないと仮定したラム31の移動距離であるものとした。しかしながら、設定移動距離DSは、上記に限られない。設定移動距離DSは、対象物Wを実際にプレスした場合のプレス量が所望のプレス量DP以下となるような距離が作業者により選択され、事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。設定移動距離DSは、以下のように作業者により選択されたものであってもよい。
【0159】
設定移動距離DSは、所望のプレス量DPに対応したラム31の移動距離と同じ値であることが好ましいが、設定移動距離DSによりラム31を移動させた場合に、実際にプレスされる対象物Wのプレス量が所望のプレス量DP以下となるように選択された値であってもよい。所望のプレス量DPは、位置ZTまたは設定移動距離DSとは別に設定されるものであってもよい。設定移動距離DSは、以下のように作業者により選択された数値であってもよい。
【0160】
所望のプレス量DPに対応したラム31の移動距離が100mm、撓み量δが2mmである場合、例えば、設定移動距離DSとして80mmが、事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。この場合、制御部2は、設定移動距離DSである80mmと所望のプレス量DPに対応したラム31の移動距離である100mmとの差分である20mmと、撓み量δにかかる2mmと、を加算し、不足移動距離DTを22mmとして算出するようにしてもよい。このように構成することにより、ラム31の移動速度が速い場合であっても、事前にラム31にかかる荷重値F(Z0)の測定を行う移動距離を設定移動距離DSにより指定することができる。その結果、ラム31の移動速度が速い場合であっても、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0161】
また、所望のプレス量DPに対応したラム31の移動距離が100mm、撓み量δが2mmである場合、予め対象分Wの全数に対する撓み量δが1mm以上であることを把握しておき、例えば、設定移動距離DSとして101mmが、事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。この場合、制御部2は、設定移動距離DSである101mmと所望のプレス量DPに対応したラム31の移動距離である100mmとの差分である1mmと、撓み量δにかかる2mmと、の差分を算出し、不足移動距離DTを1mmとして算出するようにしてもよい。このように構成することにより、事前にラム31にかかる荷重値F(Z0)の測定を行う移動距離を、設定移動距離DSによりプレス完了に近い位置に指定することができる。これにより、ラム31の荷重値F(Z0)がより精度よく検出される。その結果、精度よく対象物Wをプレスすることができるプレス装置1を提供することができる。
【0162】
上記のように、設定移動距離DSは、対象物Wを実際にプレスした場合のプレス量が所望のプレス量DP以下となるような距離が作業者により選択され、事前に設定され、パラメータ記憶部25に予め記憶されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0163】
1・・・プレス装置
2・・・制御部
20・・・演算部
21・・・プログラム記憶部
22・・・表示部
23・・・操作部
231・・・スイッチ
232・・・入力回路
24・・・一次記憶部
25・・・パラメータ記憶部
26・・・指令パルス発生部
27・・・サーボモータドライバ
28・・・エンコーダ位置カウンタ
3・・・加圧部
31・・・ラム
31a・・・雌ねじ部
31b・・・起歪柱
32・・・ボールねじ
4・・・駆動部
41・・・動力伝達部
41a,41b・・・プーリ
41c・・・ベルト
42・・・サーボモータ
43・・・エンコーダ
5・・・検出部
51・・・歪みゲージ
52・・・通信部
8・・・ベース
9・・・筐体
9a・・・エンクロージャ
9b・・・支柱
9c・・・ケーシング

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8