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特許7576417疾患データベースとの関連性を用いた診断補助技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】疾患データベースとの関連性を用いた診断補助技術
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020154622
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2021076585
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019201097
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】村田 彰宏
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088807(WO,A1)
【文献】特開2013-066632(JP,A)
【文献】特開2010-012176(JP,A)
【文献】特開2017-136134(JP,A)
【文献】国際公開第2013/076927(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/044441(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172181(WO,A1)
【文献】特開2017-068838(JP,A)
【文献】特開2011-118543(JP,A)
【文献】特開2009-082443(JP,A)
【文献】特開2006-320387(JP,A)
【文献】特開2007-136009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0042496(US,A1)
【文献】国際公開第2019/078914(WO,A1)
【文献】特表2021-500662(JP,A)
【文献】特開2007-090077(JP,A)
【文献】特開2007-125370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/01、5/055、6/00-6/58、8/00-8/15
G06Q50/22
G16H10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の処理手段に実行されると、前記装置に、疾患の有無に関する情報を提供するための方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムであって、前記方法は、
・ 核医学の手法により得られた判定対象データを読み込むことと;
・ 特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像から作成された疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記判定対象データと前記疾患データベースとの一致度を計算することと;
・ 前記一致度に基づいて、前記特定の疾患の有無に関する情報を提供することと;
を含む、コンピュータプログラム。
【請求項2】
前記疾患データベースは、特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像を、解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより作成され、複数の画素を含み、各画素について、画素値と、画素値のばらつきに関する値とを含む、請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記一致度が高い場合、前記情報は、前記判定対象データが、前記特定の疾患に罹患している被験者から作成された可能性が高いことを示す、請求項1又は2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記疾患が脳疾患であり、前記核医学画像が脳血流画像である、請求項1から3のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記方法が更に、
・ それぞれ異なる複数の疾患に対応する複数の疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記複数の疾患データベースのそれぞれに対して前記判定対象データとの一致度を計算することにより、前記複数の疾患のそれぞれに対して、該疾患の有無に関する情報を提供することと;
を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記方法が更に、
・ 同一の疾患の異なるタイプに各々対応する複数の疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記複数の疾患データベースのそれぞれに対して前記判定対象データとの一致度を計算することと;
を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
前記方法が更に、
レーダーチャートを用いて前記一致度を表示することを含む、請求項5又は6に記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記一致度は、相関係数又は級内相関係数である、請求項1から7のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記一致度は、前記判定対象データと前記疾患データベースとの間で、対応する画素における画素値の差と、前記ばらつきに関する値とに基づいて計算される、請求項2、又は請求項3から7のうち請求項2を直接又は間接に引用する請求項のいずれか、に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記方法が更に、
前記判定対象データの各画素について、前記疾患データベースの対応する画素のデータを用いてZ-scoreを計算することと;
脳の局所領域毎に、Z-scoreが0未満の画素の数であるprojectionと、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの平均値であるmeanと、前記projectionと前記meanの積であるPro*meanとを計算することと;
前記一致度を、式1-v2/v1に基づいて計算することと;
を含み、ここで、
v1は、全ての前記局所領域の前記projectionの総和の2倍であり、
v2は、全ての前記局所領域の前記Pro*meanの総和である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記方法が更に、
前記判定対象データの各画素について、前記疾患データベースの対応する画素のデータを用いてZ-scoreを計算することと;
前記一致度を、式1-v2/v1に基づいて計算することと;
を含み、ここで、
v1は、Z-scoreが0未満の画素の総数の2倍であり、
v2は、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの総和である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のコンピュータプログラムと、前記コンピュータプログラムを実行する処理手段とを備える、装置。
【請求項13】
・ 核医学の手法により得られた判定対象データを読み込む手段と;
・ 特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像から作成された疾患データベースを読み込む手段と;
・ 前記判定対象データと前記疾患データベースとの一致度を計算する手段と;
・ 前記一致度に基づいて、前記特定の疾患の有無に関する情報を提供する手段と;
を備え、ここで前記疾患データベースは、前記特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像を、解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均する手段により得られるデータであって、複数の画素を含み、各画素について、画素値と、画素値のばらつきに関する値とを含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に開示される発明は脳疾患の診断補助技術に関し、特に、核医学画像を用いる診断補助技術に関する。
【背景技術】
【0002】
VaD(Vascular Dementia:血管性認知症)やAD(Alzheimer's Disease:アルツハイマー病)のような、脳組織の変性を伴う疾患の診断のために、PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影法)やSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単一光子放射断層撮影法)のような、核医学の手法が使われることがある。核医学を使った従来手法では、健常人のデータを収集してNormal Data Base(NDB)を作成し、疾患のデータがNDBとどれだけ乖離しているかを画像上に示して、その部位・程度及びその広がりをもって、診断の補助にしている。
【0003】
下掲非特許文献1には、ADの可能性があると診断された患者において脳血流SPECT検査を行い、患者の脳血流SPECT画像の解剖学的標準化を行うことで脳形態の個人差を解消後、灰白質の機能情報を脳表へデータ抽出し、NDBとピクセル毎に統計学的手法を用いた比較を行うことで、患者の機能低下部位を三次元定位脳表面投射画像上に表示し、診断の補助とすることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Bartenstein P et. Al, "Quantitative assessment of cerebral blood flow in patients with Alzheimer's disease by SPECT.", J Nucl Med. 1997 Jul; 38(7): 1095-101.
【発明の概要】
【0005】
本明細書に開示される発明の一例は、疾患の有無に関する情報を提供する方法であって、
・ 核医学の手法により得られた判定対象データを読み込むことと;
・ 特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像から作成された疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記判定対象データと前記疾患データベースとの一致度を計算することと;
・ 前記一致度に基づいて、前記特定の疾患の有無に関する情報を提供することと;
を含む。
【0006】
上記の方法は、NDBを用いる従来技術とは異なり、疾患を有する患者の核医学画像から作成された疾患データベースを用いて判定を行うと共に、判定対象データと疾患データベースとの一致度を計算することにより、当該疾患の有無に関する情報を提供することができる。例えば、当該疾患に罹患している可能性を数値で提示することができる。このため、当該疾患の有無に関して、健常人データとの比較に基づく従来技術とは異なる手法によって、観察者に依存しない判定結果を提供することが可能となる。
【0007】
実施形態によっては、前記疾患データベースは複数の画素を含み、各画素について、画素値と、画素値のばらつきに関する値とを含んでもよい。
【0008】
実施形態によっては、前記一致度が高い場合、前記情報は、前記判定対象データが、前記特定の疾患に罹患している被験者から作成された可能性が高いことを示してもよい。
【0009】
実施形態によっては、前記疾患は脳疾患であり、前記核医学画像は脳血流画像であってもよい。
【0010】
実施形態によっては、上記方法は、
・ それぞれ異なる複数の疾患に対応する複数の疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記複数の疾患データベースのそれぞれに対して前記判定対象データとの一致度を計算することにより、前記複数の疾患のそれぞれに対して、該疾患の有無に関する情報を提供することと;
を含んでもよい。
【0011】
この方法によれば、複数の疾患のそれぞれに対して、該疾患の有無に関する情報が提供されるため、罹患している疾患の種類を、観察者に依存せずに自動的に判定することが可能となる。
【0012】
実施形態によっては、上記方法は、
・ 同一の疾患の異なるタイプに各々対応する複数の疾患データベースを読み込むことと;
・ 前記複数の疾患データベースのそれぞれに対して前記判定対象データとの一致度を計算することと;
を含んでもよい。
【0013】
この方法によれば、特定の疾患に罹患しているか否かの情報を自動的に得られるだけでなく、当該疾患の細かいタイプのどれに属するかの情報をも自動的に得ることができる。
【0014】
実施形態によっては、前記一致度は、相関係数又は級内相関係数であってもよい。
【0015】
実施形態によっては、前記一致度は、前記判定対象データと前記疾患データベースとの間で、対応する画素における画素値の差と、前記ばらつきに関する値とに基づいて計算されてもよい。
【0016】
実施形態によっては、上記方法は、
・ 前記判定対象データの各画素について、前記疾患データベースの対応する画素のデータを用いてZ-scoreを計算することと;
・ 脳の局所領域毎に、Z-scoreが0未満の画素の数であるprojectionと、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの平均値であるmeanと、前記projectionと前記meanの積であるPro*meanとを計算することと;
・ 前記一致度を、式1-v2/v1に基づいて計算することと;
を含む。
【0017】
ここで、
・ v1は、全ての局所領域の前記projectionの総和の2倍であり、
・ v2は、全ての局所領域の前記Pro*meanの総和である。
【0018】
実施形態によっては、レーダーチャートを用いて前記一致度を表示してもよい。
【0019】
本明細書に開示される発明の一例には、装置の処理手段に実行されると、該装置に、上記の発明のいずれかを遂行させるように構成されるプログラム命令を有する、コンピュータプログラムがある。
【0020】
本明細書に開示される発明の一例には、処理手段と、プログラム命令を格納する記憶手段を備える装置であって、前記プログラム命令が、前記処理手段に実行されると、前記装置に、上記の発明のいずれかを遂行させるように構成されている、装置がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を実施し得るシステムのハードウェア構成を説明するための図である。
図2】本明細書が開示する新規な処理の例を示す。
図3】第1実施例による結果出力の例を示す。
図4】第2実施例による結果出力の例を示す。
図5】第2実施例で用いた疾患データベースの作成方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本明細書に開示される技術思想の好適な実施形態の例を説明する。
【0023】
図1は、本発明を実施し得るシステム100のハードウェア構成を説明するための図である。図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102、主記憶装置104、大容量記憶装置106、ディスプレイ・インターフェース107、周辺機器インターフェース108、ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、大容量記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやSSDなどを用いることができる。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、キーボードやマウス、タッチパネルのようなユーザインターフェースを接続することができ、これは周辺機器インターフェース108を介して接続される。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。
【0024】
大容量記憶装置106には、オペレーティングシステム(OS)110や、コレジストレーションプログラム120、一致度計算プログラム122、情報出力プログラム124が格納される。システム100の最も基本的な機能は、OS110がCPU102に実行されることにより提供される。コレジストレーションプログラム120は、疾患データベース130,132,134と判定対象データ140とのサイズ・位置合わせ(コレジストレーション;co-registration)を行うためのプログラムである。
【0025】
一致度計算プログラム122は、疾患データベース130等と、疾患データベース130等にコレジストレーションされた判定対象データ140との一致度を計算するためのプログラムである。情報出力プログラム124は、一致度計算プログラム122の出力に基づいて、特定の疾患の罹患に関する情報を提供するプログラムである。実施形態によって、例えば数値として、又は例えばグラフとして、当該情報を提供してもよい。
【0026】
大容量記憶装置106にはさらに、疾患データベース130,132,134及び判定対象データ140が格納されていることができる。疾患データベース130,132,134はそれぞれ、特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像から作成されたデータベースである。疾患データベース130,132,134は例えば、それぞれ特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像を、解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより得られるデータであることができる。そのようなデータ(疾患データベース)は、各画素について、画素値(前記加算平均により得られた平均画素値)と、当該画素値のばらつきに関する値(例えば標準偏差や分散)とを含んでもよい。
【0027】
判定対象データ140も、核医学の手法により得られた画像データである。前述のように、疾患データベース130等との一致度が計算され、疾患の有無に関する情報が作成される。疾患データベース130等や判定対象データ140については、後にもう少し詳しく説明される。
【0028】
システム100は、図1に描かれた要素の他にも、電源や冷却装置など通常のコンピュータシステムが備える装置と同様の構成を備えることができる。コンピュータシステムの実装形態には、記憶装置の分散・冗長化や仮想化、複数CPUの利用、CPU仮想化、DSPなど特定処理に特化したプロセッサの使用、決定の処理をハードウェア化してCPUに組み合わせることなど、様々な技術を利用した様々な形態のものが知られている。本明細書で開示される発明は、どのような形態のコンピュータシステム上に搭載されてもよく、コンピュータシステムの形態によってその範囲が限定されることはない。本明細書に開示される技術思想は、一般的に、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステムなどとして具現化されることができる。前述のように、ソフトウェア処理の一部はハードウェア化される場合もある。
【0029】
また、システム100の製造・販売時や起動時には、疾患データベース130、132、134や判定対象データ140は、大容量記憶装置106の中に記憶されていない場合もあることに注意されたい。疾患データベース130、132、134や判定対象データ140は、例えば周辺機器インターフェース108やネットワーク・インターフェース109を介して外部の装置からシステム100に転送されるデータであってもよい。本明細書で開示される発明の範囲は、記憶装置にこれらのデータが格納されているか否かによって限定されるものではないことを、念のために記しておく。
【0030】
次に、本発明で解析の対象となる疾患について説明する。本発明で解析の対象となる疾患は、PETやSPECTのような核医学の手法により検出されうる疾患である。また実施例では、脳組織に何らかの変性を生じる疾患を、解析の対象としている。このような疾患には、例えば次のようなものがある。

VaD:Vascular Dementia(血管性認知症)
PSP:Progressive Supranuclear Palsy(進行性核上性麻痺)
MSA:Multiple System Atrophy(多系統萎縮症)
MSA-P:(多系統萎縮症でパーキンソン症状が主体であるもの)
MSA-C:(多系統萎縮症で小脳性運動失調が主体であるもの)
CBS:Corticobasal Syndrome(大脳皮質基底核症候群)
DLB:Dementia With Lewy Bodies(レビー小体型認知症)
PD:Parkinson's Disease(パーキンソン病)
AD:Alzheimer's Disease(アルツハイマー病)
【0031】
これらの疾患は、脳組織に変性を生じ、脳血流の様子が変化するため、核医学の手法で脳を画像化することにより、疾患の存在を捉えることが可能である。
【0032】
なお、核医学の手法は、脳のみならず、心臓や骨など、生体の様々な部位の疾患に適用することができるので、実施例によっては、脳疾患のみならず、別の組織の疾患に対しても、本発明の手法を適用することが可能である。
【0033】
次に、本発明で用いられる「疾患データベース」について説明する。前述のように、「疾患データベース」は、特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像から作成されたデータベースである。例えば、特定の疾患を有する複数の患者の核医学画像を、それぞれ解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより得られるデータであることができる。そのようなデータは、各画素に対応して、画素の平均値と、当該平均値のばらつきに関する値(標準偏差や分散)とを有することができる。
【0034】
実施例によっては、「疾患データベース」は、PET画像から作成されてもよい。実施例によってはSPECT画像から作成されてもよい。
【0035】
「疾患データベース」は、実施例によって、3次元の脳全体の核医学画像を加算平均したものでもよいし、特定の脳部位の核医学画像を加算したものでもよい。実施例によっては、1又は複数の特定の2次元スライスのみの核医学画像を加算平均したものでもよい。
【0036】
また「疾患データベース」は、特定の放射性薬剤に関連付けて作成されてもよい。例えば、SPECTを用いて脳血流を画像化する場合は、放射性薬剤として、123Iや99mTcを使うことが多い。放射性薬剤として、塩酸N - イソプロピル- 4 - ヨードアンフェタミン(123I-IMP)、エキサメタジムテクネチウム(99mTc-HMPAO)又は〔N,N'-エチレンジ-L-システイネート(3-)〕オキソテクネチウム(99mTc),ジエチルエステル(99mTc-ECD)が挙げられる。「疾患データベース」は、同じ放射性薬剤を使って得られた複数の核医学画像から作成されるべきである。また「疾患データベース」は、使われた放射性薬剤に関する情報を含んでいてもよい。
【0037】
実施例によっては、「疾患データベース」は、患者に特定のタスクを遂行させて得られた核医学画像から作成されてもよい。実施例によっては、「疾患データベース」は、特定の性別や年齢(範囲)、特定の撮像装置に関連して作成されてもよい。
【0038】
「疾患データベース」は、解析の対象となる疾患毎に作成されることが好ましい。例えばDLB用、例えばAD用と、疾患毎に個別に疾患データベースが作成されることが好ましい。
【0039】
「疾患データベース」は、特定の疾患を有する患者の核医学画像から作られるため、疾患データベースを作るには、まずそのような疾患を有する患者を選別することが必要であるが、そのような選別手法は既に存在している。例えば、MMSE(Mini-Mental State Examination)という、認知機能のスクリーニングに用いられる有名なテストがあるが、ADとDLB・PDとでは、得点の現れ方が異なることが知られている。また、経験を積んだ読影者による核医学画像の読影によっても、各種脳疾患を分別することが可能である。例えばADでは頭頂葉、後方連合野、後部帯状回、楔前部の血流低下が観察でき、DLBでは後頭葉、一次視覚野、頭頂葉の血流低下が観察でき、PSPでは前頭葉、前部帯状回の血流低下が観察できる。このような既存の鑑別手法により、特定の脳疾患を有する患者を選別し、彼らの脳核医学画像を集めることで、疾患データベースを作成することができる。
【0040】
実施形態によっては、「疾患データベース」は、各画素に対する画素平均値とばらつきの他に、元の核医学画像に関連する疾患名や放射性薬剤、性別、年齢(範囲)、核医学画像の数、領域、スライス番号、タスク等の情報の1つ又は複数を含んでいてもよい。
【0041】
続いて、本発明の解析対象となる「判定対象データ」について説明する。このデータは核医学画像である。例えばPET画像やSPECT画像である。「判定対象データ」は、上記の「疾患データベース」と比較されるので、当該疾患データベースと同じ放射性薬剤を用いて作成された核医学画像であることが望ましい。比較される疾患データベースが特定の性別や年齢範囲、タスク等に関連付けられている場合は、「判定対象データ」も同様の属性を有するデータであることが望ましい。
【0042】
次に、図2を用いて、本願に開示される新規な処理の例である、疾患の有無に関する情報を提供する処理200の流れを説明する。処理200は、例えば、コレジストレーションプログラム120や一致度計算プログラム122、情報出力プログラム124等がCPU102に実行されることにより、システム100が遂行する処理であることができる。
【0043】
ステップ202は処理の開始を示す。ステップ204では、補助記憶装置106から疾患データベース(例えば疾患データベース130)がロードされる。そしてステップ206では、補助記憶装置106から判定対象データ(例えば判定対象データ140)がロードされる。ステップ208では、疾患データベース130と判定対象データ140との間でコレジストレーション(co-registration)が行われる。すなわち、疾患データベース130と判定対象データ140との間で、脳の向きや大きさ、位置を3次元的に合致させる。この処理を行うことにより、これら2つのデータを比較することが容易になる。例えば、画素毎に画素値の差を計算することが可能となる。通常、判定対象データ140に表現されている脳の大きさや位置、向きを、疾患データベース130に表現されている脳に合わせていくことになるだろう。
【0044】
コレジストレーションプログラム120がCPU102に実行されることにより、システム100が遂行する処理であってもよい。コレジストレーション処理を行うプログラムは既に入手可能であるので、そのようなプログラムを利用して、コレジストレーションプログラム120を実装してもよい。
【0045】
ステップ300では、コレジストレーション処理を終えた判定対象データ140と疾患データベース130との一致度が計算される。
【0046】
この一致度としては、様々な値を用いることができる。例えば、これら2つのデータの相関係数を一致度としてもよい。相関係数は、例えば次のように計算することができる。
【0047】
上の式において、rは相関係数、xiは判定対象データ140のi番目の画素の画素値、yiは疾患データベース130のi番目の画素の画素値である。
【0048】
一致度としては、相関係数の他にも、級内相関係数やMSE、SSIM等を用いてもよい。
【0049】
実施形態によっては、前記一致度は、判定対象データ140と疾患データベース130との間で、対応する画素における画素値の差と、疾患データベース130が有する当該画素におけるばらつきの値に基づいて、計算されてもよい。
【0050】
例えば、疾患データベース130が、i番目の画素に対して、画素値xと標準偏差σを有していたとする。また、(コレジストレーション処理後の)判定対象データ140が、同じくi番目の画素に対して、画素値x'を有していたとする。このとき、これら2つのデータの級内相関係数を一致度としてもよい。前記一致度Cは、例えば次のように計算してもよい。
【0051】
この場合、Cが小さいほど、判定対象データ140が疾患データベース130に一致することになるだろう。
【0052】
実施例によっては、|x-x'|がσより小さい画素の数を計算し、それを総画素数で割ったものを、一致度Cとしてもよい。この場合、Cが大きいほど、判定対象データ140が疾患データベース130に一致することになるだろう。
【0053】
他にも、実施例によって、様々な「一致度」を計算してもよい。
【0054】
また、実施例によっては、「一致度」は、判定対象データ140と疾患データベース130の全ての画素を使って計算してもよい。実施例によっては、「一致度」は、特定の脳部位に対応する画素のみを使って計算してもよい。実施例によっては、「一致度」は、特定のスライスに対応する画素のみを使って計算してもよい。
【0055】
ステップ302では、ステップ300の計算結果に基づいて、疾患の有無に関する情報を出力する。例えば、ステップ300で計算した一致度をそのまま数値として画面出力してもよいし、補助記憶装置106に当該一致度を格納してもよい。実施形態によっては、ステップ300で計算した一致度に基づいて、「疾患の可能性あり」等の判断結果を、画面出力してもよい。
【0056】
ステップ304は処理の終了を表している。
〔第1実施例〕
【0057】
続いて、本発明のより具体的な実施例を紹介する。
【0058】
第1の実施例では、それぞれ異なる疾患に対応する5つの疾患データベースを用いて、各疾患に罹患している可能性を出力する。図1の例では、疾患データベースとして、3つの疾患データベース130,132,134が示されているが、本実施例では、5つの疾患データベースが大容量記憶装置106等に格納されていると理解されたい。
【0059】
本実施例では、これら5つの疾患データベースは、それぞれAD、DLB、PSP、CBD、PDに対応する。そして判定対象データ140と、これら5つの疾患データベースのそれぞれとの間で一致度が計算された。一致度は、ADに対して10、DLBに対して7、PSPに対して8等と計算され、結果が数値とレーダーチャートで出力された。この出力の例を図3に示す。
【0060】
この実施例では、一致度が高いほど、その疾患が存在する可能性が高くなっている。つまりこの例では、判定対象データ140は、ADの患者から作成された核医学画像データである可能性が高いことが、示されている。
【0061】
実施例によっては、棒グラフで結果を表示してもよい。例えば、一致度の値が大きい順に、各疾患データベースとの一致度を棒グラフ表示してもよい。その他の表示形態を用いてもよい。
〔第2実施例〕
【0062】
第2の実施例では、3つの疾患データベースを用いる。これらはいずれもAD(アルツハイマー病)の患者から作成されたデータベースである。ただし、クラスター分析により、それぞれ異なるクラスターに属することが示されたAD患者から作成されたデータベースである。本実施例ではさらに、健常人のデータベースも用いた。
【0063】
これら3つの疾患データベース及び健常人データベースと、5つの判定対象データとの間で一致度が計算され、結果がレーダーチャートで出力された。この出力の例が図4に示されている。
【0064】
図4を詳しく説明する前に、第2実施例で使用した疾患データベースを作成した方法について、詳しく説明する。これら3つの疾患データベースは、31人のAD患者から、同じ機種で撮像された脳血流SPECT画像を用いて作成された。まず、全ての脳血流SPECT画像をNEUROSTAT/3D-SSP(以下、3D-SSP)処理により標準脳に変換した。続いて変換後の31セットの脳血流SPECT画像全てにおいてSEE(Stereotactic Extraction Estimation)解析を行い、31セットそれぞれについて、脳の局所領域毎に、Z-scoreが0未満の画素の数であるprojectionと、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの平均値であるmeanと、projectionとmeanの積であるPro*meanとを計算した。そして、SPSS ver.25を使って、これらのデータをクラスター分析した。
【0065】
クラスター分析の結果を図5に示す。図5に示されるように、3つのクラスターが特定された。(それぞれADクラスター1、ADクラスター2、ADクラスター3と示されている。)そこで、標準脳に変換された上記31セットの脳血流SPECT画像を、クラスター毎に加算平均し、各画素が平均画素値と標準偏差を有する画像データを作成し、それぞれのクラスターに対応する疾患データベースとした。
【0066】
健常人データベースとしては、9300N2_SC-AC+070_10を用いた。
【0067】
第2実施例で用いた「一致度」は、次のように計算した。
ステップ1:判定対象データを標準脳に変換した。
ステップ2:判定対象データの各画素について、疾患データベースの対応する画素のデータを用いてZ-scoreを計算した。
ステップ3:判定対象データにおいて、脳の局所領域毎に、Z-scoreが0未満の画素の数であるprojectionと、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの平均値であるmeanと、前記projectionと前記meanの積であるPro*meanとを計算した。
ステップ4:一致度を、次の式によって定義し、計算した。

一致度 = (1-v2/v1)×100 (%)

ここで、
v1は、全ての局所領域のprojectionの総和の2倍であり、
v2は、全ての局所領域のPro*meanの総和である。
【0068】
なお、上の式において、v1は、判定対象データにおける、Z-scoreが0未満の画素の総数の2倍と同値であり、v2は、Z-scoreが0未満の画素のZ-scoreの総和と同値である。
【0069】
上のステップ1は例えば、3D-SSPを用いて行うことができる。ステップ2も、例えば3D-SSPを用いて行うことができる。ステップ2及び3は、例えば、SEE解析によって行うことができる。
【0070】
また、上のステップ3で用いた局所領域は、次の9つである。
前頭葉(Frontal Lobe)
頭頂葉(Parietal Lobe)
側頭葉(Temporal Lobe)
後頭葉(Occipital Lobe)
大脳辺縁系(Limbic Lobe)
中脳(Midbrain)
橋(Pons)
前葉(Anterior Lobe)
後葉(Posterior Lobe)
【0071】
判定対象データの各画素を、これら9つの局所領域のいずれかへ分類することは、SEE解析によって行うことができる。
【0072】
上述の疾患データベース作成時に使用された局所領域も、これら9つの局所領域であった。
【0073】
次に、図4のレーダーチャートを詳しく説明する。図4の上段左端のレーダーチャートで一致度が表示されている判定対象データは、図5を用いて説明したクラスター分析で、ADクラスター1に含まれると特定された脳血流SPECT画像の1つである。この脳血流SPECT画像は、図5において、05ADと表示されている被験者の脳血流SPECT画像である。
【0074】
図4の上段左端のレーダーチャートを参照すると、一致度が一番高いデータベースは、ADクラスター1の疾患データベースであり、一致度が一番低いデータベースは、健常人データベース(NDB)であることが分かる。従って、この被験者の脳血流分布は、健常人の脳血流分布とは一番差異があり、ADクラスター1の脳血流分布に一番近いと考えることができる。
【0075】
図4の上段中央のレーダーチャートで一致度が表示されている判定対象データは、図5を用いて説明したクラスター分析で、ADクラスター2に含まれると特定された脳血流SPECT画像の1つである。この脳血流SPECT画像は、図5において、02ADと表示されている被験者の脳血流SPECT画像である。
【0076】
図4の上段中央のレーダーチャートを参照すると、一致度が一番高いデータベースは、ADクラスター2の疾患データベースであり、一致度が一番低いデータベースは、健常人データベース(NDB)であることが分かる。従って、この被験者の脳血流分布は、健常人の脳血流分布とは一番差異があり、ADクラスター2の脳血流分布に一番近いと考えることができる。
【0077】
図4の上段右端のレーダーチャートで一致度が表示されている判定対象データは、図5を用いて説明したクラスター分析で、ADクラスター3に含まれると特定された脳血流SPECT画像の1つである。この脳血流SPECT画像は、図5において、17ADと表示されている被験者の脳血流SPECT画像である。
【0078】
図4の上段右端のレーダーチャートを参照すると、一致度が一番高いデータベースは、ADクラスター3の疾患データベースであり、一致度が一番低いデータベースは、健常人データベース(NDB)であることが分かる。従って、この被験者の脳血流分布は、健常人の脳血流分布とは一番差異があり、ADクラスター3の脳血流分布に一番近いと考えることができる。
【0079】
図4の下段には、2つのレーダーチャートが表示されている。これら2つのレーダーチャートで一致度が表示されている判定対象データは、2つとも、一般的なADの脳血流分布とは異なる被験者の脳血流SPECT画像である。
【0080】
図4の下段左側のレーダーチャートを参照すると、いずれの疾患データベースとも、一致度が0に近いか0以下であると表示されている。右側のレーダーチャートにおいても同様の結果が示されている。従って、図4の下段のレーダーチャートで解析されている2名の被験者は、いずれも少なくとも、ADクラスター1~3に属するタイプのADには罹患していない可能性があると考えることができる。
【0081】
以上、好適な実施例を用いて本発明を詳しく説明してきたが、上記の説明や添付図面は、本発明の範囲を限定する意図で提示されたものではなく、むしろ、法の要請を満たすために提示されたものである。本発明の実施形態には、ここで紹介されたもの以外にも、様々なバリエーションが存在する。明細書又は図面に示される各種の数値はいずれも例示であり、これらの数値は発明の範囲を限定する意図で提示されたものではない。明細書又は図面に紹介した各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。特にフローチャートで紹介された処理の順番は、紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施者の好みや必要性に応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したり、さらに複数のブロックを一体不可分に実装したり、適当なループとして実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは、全て、本明細書で開示される発明の範囲に含まれるものであり、処理の実装形態によって発明の範囲が限定されることはない。請求項に決定される処理の記載順も、処理の必須の順番を決定しているわけではなく、例えば処理の順番が異なる実施形態や、ループを含んで処理が実行されるような実施形態なども、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。
【0082】
更に例えば、一致度計算プログラム122や情報出力プログラム124の実施形態には、単一のプログラムであるようなものや、複数の独立のプログラムから構成されるプログラム群であるようなものが含まれうる。これら2つのプログラムは、実施形態によっては単一のプログラムとして提供されるだろう。実施形態によっては、コレジストレーションプログラム120も含んだ形で提供されるだろう。よく知られているように、プログラムの実装形態には様々なものがあり、それらのバリエーションは全て、本明細書で開示される発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
100 システム
102 CPU
104 主記憶装置
106 大容量記憶装置
106 補助記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インターフェース
109 ネットワーク・インターフェース
120 コレジストレーションプログラム
122 一致度計算プログラム
124 情報出力プログラム
130,132,134 疾患データベース
140 判定対象データ
図1
図2
図3
図4
図5