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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】射出成形装置および射出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/18 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B29C45/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020161680
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054566
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 英貴
(72)【発明者】
【氏名】安江 昭
(72)【発明者】
【氏名】梅田 光秀
(72)【発明者】
【氏名】國弘 大介
【審査官】浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-218664(JP,A)
【文献】特開2016-203485(JP,A)
【文献】特開平07-052185(JP,A)
【文献】特開平09-150436(JP,A)
【文献】特開昭58-222826(JP,A)
【文献】特開2014-104597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流に位置し樹脂材料が供給される第1孔と、前記第1孔より下流に位置しフィラーが供給される第2孔とを有するシリンダと、
前記シリンダ内に配備されたスクリュと、
前記スクリュの回転、前進および後退を制御する駆動部と、
前記第2孔において棒状のジグを昇降させる昇降機構と、を有し、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記スクリュの突起間にあり、前記棒状のジグの昇降は、前記スクリュの回転と同期し、
前記スクリュの突起が通り過ぎた後に、前記棒状のジグを下降させることで、前記スクリュの最外径に対応する高さより低い高さまで前記棒状のジグの下端部を下降させるように構成され、
前記スクリュの最外径に対応する高さとは、前記棒状のジグを下降させたとき、前記スクリュの回転により前記スクリュが通過する領域と、前記棒状のジグと、が接する高さである、射出成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記昇降機構は、前記棒状のジグを昇降させるカムを有する、射出成形装置。
【請求項3】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記棒状のジグの先端に平板を有する、射出成形装置。
【請求項4】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記棒状のジグは樹脂製である、射出成形装置。
【請求項5】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記第2孔の中央部である、射出成形装置。
【請求項6】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向の端部までの第1領域にある、射出成形装置。
【請求項7】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向の端部までの第1領域に前記棒状のジグの昇降位置が配置され、
前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向と逆方向の端部までの第2領域に前記フィラーの供給装置が配置されている、射出成形装置。
【請求項8】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記第2孔に前記フィラーを供給するための押出機が接続されている、射出成形装置。
【請求項9】
請求項8記載の射出成形装置において、
前記フィラーは、炭素繊維である、射出成形装置。
【請求項10】
(a)シリンダと、前記シリンダ内に配備されたスクリュと、前記シリンダに接続され棒状のジグを昇降させる昇降機構とを有する射出成形装置と、前記射出成形装置の先端に接続された型と、を準備する工程、
(b)前記シリンダの上流に設けられた第1孔から、樹脂材料を前記シリンダ内に供給して溶融させ溶融樹脂を形成する工程、
(c)前記シリンダの前記第1孔より下流に設けられた第2孔に前記棒状のジグを昇降させつつ、フィラーを供給し、前記溶融樹脂と前記フィラーとの混練を行うことにより前記フィラー含有の溶融樹脂を形成する工程、
(d)前記スクリュの先端が第1位置から第2位置までの第1ストロークだけ後退するように、前記スクリュを後退させることにより、前記スクリュの先端部において前記フィラー含有の溶融樹脂を計量する工程、
(e)前記スクリュを前進させることにより、前記フィラー含有の溶融樹脂を前記型に注入する工程、を有し、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記スクリュの突起間にあり、前記棒状のジグの昇降は、前記スクリュの回転と同期し、
前記スクリュの突起が通り過ぎた後に、前記棒状のジグを下降させることで、前記スクリュの最外径に対応する高さより低い高さまで前記棒状のジグの下端部を下降させ、
前記スクリュの最外径に対応する高さとは、前記棒状のジグを下降させたとき、前記スクリュの回転により前記スクリュが通過する領域と前記棒状のジグとが接する高さである、射出成形方法。
【請求項11】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記昇降機構は、前記棒状のジグを昇降させるカムを有する、射出成形方法。
【請求項12】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記棒状のジグの先端に平板を有する、射出成形方法。
【請求項13】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記棒状のジグは樹脂製である、射出成形方法。
【請求項14】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記第2孔の中央部である、射出成形方法。
【請求項15】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記棒状のジグの昇降位置は、前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向の端部までの第1領域にある、射出成形方法。
【請求項16】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向の端部までの第1領域に前記棒状のジグの昇降位置が配置され、
前記第2孔の中央部から前記スクリュの回転方向と逆方向の端部までの第2領域に前記フィラーの供給装置が配置されている、射出成形方法。
【請求項17】
請求項10記載の射出成形方法において、
前記第2孔に前記フィラーを供給するための押出機が接続されている、射出成形方法。
【請求項18】
請求項17記載の射出成形方法において、
前記フィラーは、炭素繊維である、射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置および射出成形方法、特に、フィラー含有樹脂成形体を形成するための射出成形装置および射出成形方法に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フィラー(炭素繊維など)を用いた樹脂複合材料が注目を集めている。特に、フィラーを含有させた樹脂を用いて成形体を製造することにより、成形体の機械的強度の向上を図ることが検討されている。
【0003】
このような複合材料は、樹脂とフィラーとを、射出成形装置や押出機等のスクリュを備えた装置を用いて混練することにより得ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、カーボン繊維樹脂ペレットとガラス繊維樹脂ペレットとを含む成形材料を用いた射出成形技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-167409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、射出成形装置や押出機を用いたフィラー含有樹脂についての研究開発に従事しており、フィラーの添加による樹脂の補強効果の向上について鋭意検討している。
【0007】
このようなフィラー含有樹脂よりなる成形体は、射出成形装置を用いて形成することができる。射出成形装置は、シリンダと、シリンダ内に回転自在に配備されたスクリュとを有する。例えば、ホッパからシリンダ内に供給された樹脂ペレットが、シリンダ内で溶融しスクリュによって前方に送られた後、フィラーが添加され、溶融樹脂とフィラーとが混練され、所定量だけ射出成形装置から金型に注入されることで、所望の形状の成形体を形成することができる。
【0008】
ここで、成形体の機械的強度の向上を図るためには、樹脂中にフィラーが均一に分散している必要性があるものの、樹脂ペレットを溶融した後、フィラーを添加する場合には、シリンダの途中でフィラーを添加することとなり、溶融樹脂とフィラーとの混練性が低下する場合がある。特に、フィラーの添加の際には、後述する“ブリッジ”と呼ばれる現象が生じることがあり、フィラーを溶融樹脂に所定の量だけ均一に添加することが困難な場合がある。
【0009】
そこで、フィラーの添加精度を向上させ、より性能の高い成形体を製造する技術が望まれる。
【0010】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の一実施の形態において開示される射出成形装置は、上流に位置し樹脂材料が供給される第1孔と、前記第1孔より下流に位置しフィラーが供給される第2孔とを有するシリンダと、前記シリンダ内に配備されたスクリュと、前記スクリュの回転、前進および後退を制御する駆動部と、前記第2孔において棒状のジグを昇降させる昇降機構と、を有する。
【0012】
本願の一実施の形態において開示される射出成形方法は、(a)シリンダと、前記シリンダ内に配備されたスクリュと、前記シリンダに接続され棒状のジグを昇降させる昇降機構とを有する射出成形装置と、前記射出成形装置の先端に接続された型と、を準備する工程、(b)前記シリンダの上流に設けられた第1孔から、樹脂材料を前記シリンダ内に供給して溶融させ溶融樹脂を形成する工程、(c)前記シリンダの前記第1孔より下流に設けられた第2孔に前記棒状のジグを昇降させつつ、フィラーを供給し、前記溶融樹脂と前記フィラーとの混練を行うことにより前記フィラー含有の溶融樹脂を形成する工程、(d)前記スクリュの先端が第1位置から第2位置までの第1ストロークだけ後退するように、前記スクリュを後退させることにより、前記スクリュの先端部において前記フィラー含有の溶融樹脂を計量する工程、(e)前記スクリュを前進させることにより、前記フィラー含有の溶融樹脂を前記型に注入する工程、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本願の一実施の形態において開示される射出成形装置によれば、特性の良好な樹脂成形体を製造することができる。
【0014】
本願の一実施の形態において開示される射出成形方法によれば、特性の良好な樹脂成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1のフィラー含有樹脂成形体の製造装置(製造システム)の構成を示す図である。
図2】射出成形装置の内部構成を示す図である。
図3】ダルメージ型のスクリュの構成を示す図である。
図4】スクリュの駆動部の構成を示す図である。
図5】検討例の射出成形工程を示す模式的な断面図である。
図6】スティックの昇降動作の一例を示す図である。
図7】スティックの他の形状を示す斜視図である。
図8】実施の形態1の射出成形工程を示す模式的な断面図である。
図9】スクリュの構成を示す部分斜視図である。
図10】実施の形態2の応用例1におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
図11】実施の形態2の応用例2におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
図12】実施の形態2の応用例3におけるシリンダの供給口近傍の断面図および斜視図である。
図13】実施の形態3の応用例Aにおけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
図14】実施の形態3の応用例Bにおけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
図15】2軸押出機の内部構成を示す図である。
図16】炭素繊維を示す図(写真)である。
図17】実施の形態4におけるシリンダの供給口近傍の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、フィラー含有樹脂成形体を形成するための射出成形装置および射出成形方法について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態のフィラー含有樹脂成形体の製造装置(製造システム)の構成を示す図である。この装置は、射出成形装置1と、プレス機5とを有する。本実施の形態においては、フィラーを含有しない樹脂ペレット(樹脂材料)と、フィラーとを直接混合し、成形体(成型体)を形成する。
【0019】
射出成形装置1は、供給される樹脂ペレットRPを溶融しつつ、フィラーFと混合・混練し、フィラー含有の溶融樹脂(MRF)を形成するための装置である。射出成形装置1は、図示しない温調手段によって温度制御されるシリンダ11と、シリンダ11の内部に配置されたスクリュSと、スクリュSに接続されたスクリュの駆動部17を有している。シリンダ11の先端には吐出ノズル19が設けられている。
【0020】
シリンダ11は、シリンダ11の上流側に配設された樹脂ペレットRPの供給口13hと、フィラーFの供給口15hとを有している。供給口13hは、樹脂ペレットRP用のホッパ(供給装置、投入装置)13と接続され、供給口15hは、フィラーF用の供給装置15と接続されている。
【0021】
ここで、本実施の形態においては、フィラーF用の供給装置15と接続された供給口15hに、ブリッジ防止装置が備え付けられている。ブリッジ防止装置は、スティック(棒状のジグ)STと、このスティックSTを制御する制御装置STCとを有する。そして、制御装置STCにより、スティックSTが昇降するように動作する。
【0022】
このように、本実施の形態においては、フィラーF用の供給装置15と接続された供給口15hに、ブリッジ防止装置を備え付けたので、供給口15hの近傍において添加するフィラーFのブリッジ(フィラーFの塊の生成)を防止することができ、精度よくフィラー含有の溶融樹脂(MRF)を形成することができる。具体的には、スクリュSへフィラーFを所定の割合で食い込ませる(添加する)ことにより、溶融樹脂へのフィラーFの添加精度を向上させることができ、また、その後の混練により溶融樹脂へのフィラーFの分散性を向上させることができる。別の言い方をすれば、溶融樹脂へのフィラーFの添加量を精度よく調整することができ、溶融樹脂へフィラーFをより均一に分散させることができる。その結果、形成される成形体の機械的強度などの特性が向上する。
【0023】
図5は、検討例の射出成形工程を示す模式的な断面図である。例えば、図5に示す検討例の射出成形工程においては、図示するように、フィラーF用の供給装置15の出口近傍でフィラーFが絡み合い出口(供給口15h)を塞ぐ、フィラーFの塊(ブリッジ)が生じている。
【0024】
このようなフィラーFの塊(ブリッジ)が生じた場合、フィラーFを均一に供給することができず、フィラーFの供給量が少ない箇所や、フィラーFの塊(ブリッジ)が一気に落下し、フィラーFの供給量が多すぎる箇所が生じ得る。そのため、溶融樹脂へのフィラーFの添加量(添加割合)を精度良く調整することができず、また、その後の混練によっても溶融樹脂へのフィラーFの分散性(均一性)が低下してしまう。
【0025】
これに対し、本実施の形態によれば、フィラーF用の供給装置15と接続された供給口15hに、ブリッジ防止装置を備え付けたので、供給口15hの近傍において添加するフィラーFのブリッジ(フィラーFの塊の生成)を防止することができ、精度よくフィラー含有の溶融樹脂(MRF)を形成することができる。具体的には、スクリュSへフィラーFを所定の割合で食い込ませる(添加する)ことにより、溶融樹脂へのフィラーFの添加量(添加割合)の精度を向上させることができ、また、その後の混練により溶融樹脂へのフィラーFの分散性を向上させることができる。
【0026】
プレス機5は、例えば、第1型SLと第2型SRとを有し、これらの間の隙間に、フィラー含有の溶融樹脂MRFが注入(射出、吐出)され、型に対応した形状で固化することで、成形体が形成される(図1)。
【0027】
図2は、射出成形装置の内部構成を示す図であり、図2に示すように、シリンダ11の内部には、スクリュSが、駆動部17により回転可能(回転自在)かつ前進・後退可能に挿入され内蔵されている。
【0028】
図2においては、主として、らせん状の突起(ネジ山)が設けられたフルフライト型のスクリュによりスクリュSが構成されている。そして、スクリュSは、複数のスクリュ部(スクリュピース)を有する。具体的には、溝の深さ(突起の高さ)が異なる複数のスクリュ部を有している。例えば、上流側(ホッパ13側)のスクリュS1は、スクリュ部S1aと、スクリュ部S1aより溝が浅いスクリュ部S1bとを有している。また、下流側(吐出ノズル19側)のスクリュS2は、スクリュ部S2aと、スクリュ部S2aより溝が浅いスクリュ部S2bとを有している。上流側のスクリュS1は、供給口13hから供給口15hまでに配置され、下流側のスクリュS2は、供給口15hから上流側に配置されている。このようなスクリュ構成は、2ステージ型と呼ばれることがある。なお、ここでは、スクリュSの先端部に、先端に向かって尖った形状の部分(ピース)が配置されている。
【0029】
樹脂ペレットRPの供給部(13h)に対応するスクリュ部S1aにおいては、容積を確保するため溝の深いスクリュ部を用いることが好ましく、また、溶融した樹脂が通過するスクリュ部S1bにおいては、樹脂の混練性を高め、また、供給口15hからの溶融樹脂の流出(ベントアップ)を防止するため、溝の浅いスクリュ部を用いることが好ましい。
【0030】
また、フィラーFの供給部(15h)に対応するスクリュ部S2aにおいては、溝を深くし、飢餓状態とすることが好ましく、また、溶融樹脂とフィラーFとの混練物が通過するスクリュ部S2bにおいては、樹脂の混練性を高めるため、溝の浅いスクリュ部を用いることが好ましい。
【0031】
なお、図2においては、フルフライト型のスクリュ(スクリュ部)を用いたが、他の形状のスクリュ(スクリュ部)を用いてもよい。例えば、スクリュ部S2bにおいて、混練性を高めるため、ダルメージ型のスクリュを用いてもよい。図3は、ダルメージ型のスクリュの構成を示す図である。図3(B)および図3(C)はそれぞれ、図3(A)のB-B断面、C-C断面に対応する。幅Lの環状凹凸が距離Lを置いて複数配置されている。凸部は、スクリュの周りに所定の間隔を置いて配置されている(図3(B))。Dはスクリュ径であり、Lはスクリュ長さである。ダルメージ型のスクリュの他、混練性の高いスクリュとしては、マドック型やピン型やスタティックミキサ―型のスクリュなどが挙げられる。特に、スクリュ部S2bにおいて、混練性の高いスクリュ(混練ピース、高混練ピース)を用いることにより、溶融樹脂とフィラーFとの混練物の混練性を高めることができる。
【0032】
図4は、スクリュの駆動部の構成を示す図である。図4に示すように、スクリュSには、スクリュSを前進または後退させるライン駆動機構17Lと、スクリュSを回転させる回転駆動機構17Rとが接続されている。また、ライン駆動機構17LとスクリュSとの間には、スクリュSが軸方向に受ける荷重(背圧)を検知するロードセル(センサ)17Sが設けられている。そして、ライン駆動機構17Lと回転駆動機構17Rとは、スクリュの制御部17Cにより制御される。例えば、ロードセル17Sからの信号に基づき、スクリュSの前進、後退または位置の固定を制御する。
【0033】
また、樹脂ペレットRPの供給量および供給のタイミング(供給期間)、フィラーFの供給量および供給のタイミング(供給期間)は、材料の制御部15cで制御することができる(図2参照)。例えば、供給口15hの上方にセンサ(例えば、レーザ変位計)15sを設け、溶融樹脂の通過タイミングを検出することで、フィラーFの供給のタイミングを調整してもよい。また、供給口15hの近傍のシリンダに圧力センサを設け、溶融樹脂の通過に基づくシリンダに加わる圧力の変化を検出することで、フィラーFの供給のタイミングを調整してもよい。このように、フィラーFの供給のタイミングを図ることで、樹脂ペレットRPの供給量に対応した適切な量のフィラーを添加することができ、樹脂とフィラーの混合比を精度よく調整することができる。
【0034】
次いで、ブリッジ防止装置の構成について説明する。
【0035】
ブリッジ防止装置の構成、即ち、スティックSTの昇降機構に制限はないが、例えば、カムを用いることができる。図6は、スティックSTの昇降動作の一例を示す図である。図6に示すように、スティックSTの上端部に、軸支された回転可能なカム(円板カム)R2を接するように取り付ける。円板カムにおいては、中心から円周までの距離が一定ではなく、円板カムが回転することにより、接するスティックSTが周期的な上下運動を行う。なお、ここではスティックSTの上端部が円板R1を介して円板カムR2と接している。この円板R1は、中心から円周までの距離が一定である。
【0036】
また、スティックSTの構成材料としては、例えば、鉄などの金属、樹脂(ゴムを含む)などを用いることができる。フィラーFの塊(ブリッジ)は強固なものではないため、樹脂などの柔軟なものでも容易にフィラーFの塊(ブリッジ)を崩すことが可能である。
【0037】
また、図7に示すように、スティックSTの下端部において、円板状(平板状)の押し込み部材Taを設けてもよい。図7は、スティックの他の形状を示す斜視図である。
【0038】
次いで、本実施の形態の射出成形工程について説明する。図8は、本実施の形態の射出成形工程を示す模式的な断面図である。
【0039】
まず、図8(A)に示すように、樹脂ペレットRPをシリンダ11の上流側のホッパ13に対応する供給口13hから供給する。供給量をW1とする。この際、スクリュSの先端Tは、シリンダ11の最も下流である第1位置P0に位置している。この第1位置P0において、スクリュSを回転させる。この際、シリンダ11内に供給された樹脂ペレットRPは、シリンダ11からの熱と、スクリュSの回転によるせん断力とにより、徐々に溶融して、溶融樹脂となり、下流に向けて搬送される。なお、ここでは、スクリュSの回転方向は、第1方向(溶融樹脂を下流に搬送させる方向)とする。
【0040】
次いで、図8(B)に示すように、溶融樹脂(RP)が、フィラーF用の供給口15hまで搬送された時点で、フィラーFを供給する。供給量をWF1とする。ここで、例えば、一回の吐出量分の樹脂および滞留量の樹脂(吐出後に残存している樹脂)が既に供給されている場合には、この時点で、樹脂ペレットRPの供給は停止されており、シリンダ11の供給口15hと供給口13hとの間に位置する溶融樹脂は、供給量W1に対応する量である。そして、この供給量W1は、1回の吐出量(初回の場合には、上記滞留量を含む)に対応する量である。
【0041】
ここで、本実施の形態においては、フィラーF用の供給装置15と接続された供給口15hに、ブリッジ防止装置が備え付けられている。ブリッジ防止装置は、スティックSTと、このスティックSTを制御する制御装置STCとを有する。そして、制御装置STCにより、スティックSTが昇降するように動作する。
【0042】
これにより、供給口15hの近傍において添加するフィラーFのブリッジ(フィラーFの塊の生成)を防止することができ、精度よくフィラー含有の溶融樹脂(MRF)を形成することができる。即ち、供給量W1に対応するフィラーFを精度よく供給することができ、また、その後の混練により溶融樹脂へのフィラーFの分散性(均一性)を向上させることができる。
【0043】
なお、樹脂ペレットRPの供給の停止(停止期間)は、図8(A)に示すタイミングに限られるものではない。
【0044】
さらに、スクリュSを回転し続けると、図8(C)に示すように、溶融樹脂とフィラーFとの混練物がシリンダ11の下流側に搬送される。そして、図8(D)に示すように、混練物がスクリュSの先端Tまで到達する。この後、混練物がスクリュSの先端Tまで随時到達し、貯留量が多くなるとそれに伴い、スクリュSの背圧が大きくなる。例えば、スクリュSの背圧が、第1規定値(例えば、5MPa)に到達する。
【0045】
次いで、図8(E)に示すように、スクリュSを1回の吐出量(1S)に対応する距離(第1ストローク、P0とP1との間、例えば、60mm)だけ後退させる(計量工程)。このスクリュSの後退の際、スクリュSの回転方向は、第1方向とする。
【0046】
次いで、スクリュSを前進させる(射出工程)。この際、スクリュSの回転は停止した状態とする。これにより、スクリュSの先端部に貯留されている溶融樹脂とフィラーFとの混練物が吐出ノズルからプレス機5に向けて吐出される(図1参照)。
【0047】
なお、射出工程における1回の吐出量(1S)は、スクリュSの先端部の混練物の貯留量より少なくてもよい。また、図8において溶融樹脂を示す網掛け領域の大きさは、本実施の形態を分かりやすく説明するためのものであり、スクリュSやシリンダ11との実際のスケールとの関係において異なる場合がある。例えば、スクリュSとシリンダ11との隙間は、例えば0.1mm~1mm程度であり、また、図8に示す全工程において、スクリュSの先端部(少なくとも、第1ストローク間)に貯留されている混練物は充満状態である。即ち、空隙は生じない。
【0048】
プレス機(5)は、前述したように、図1に示すような第1型SLと第2型SRを有し、これらの間の隙間に、フィラー含有の溶融樹脂MRFが注入(射出、吐出)され、型に対応した形状で固化することで、成形体が形成される。
【0049】
このように、本実施の形態においては、射出成形装置にブリッジ防止装置を備え付けたので、供給口15hの近傍において添加するフィラーFのブリッジ(フィラーFの塊の生成)を防止することができ、精度よくフィラー含有の溶融樹脂(MRF)を形成することができる。具体的には、溶融樹脂へのフィラーFの添加精度を向上させることができ、また、その後の混練により溶融樹脂へのフィラーFの分散性(均一性)を向上させることができる。
【0050】
なお、供給量W1は、一回の吐出量に対応する量であるが、固定量である必要は無く、吐出を繰り返すうちに滞留量の変化等が生じ得るため、所定の範囲で供給量W1を調整してもよい。
【0051】
本実施の形態で用いる樹脂およびフィラーに制限はないが、例えば、以下に示すものを用いることができる。
【0052】
樹脂としては、熱可塑性樹脂を、用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどを用いることができる。これらの樹脂は、単体で用いてもよく、また、複数種類の混合物を用いてもよい。
【0053】
フィラーとしては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、天然繊維などを用いることができる。炭素繊維(炭素系材料)としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、カーボンブラックなどが挙げられる。ガラス繊維としては、シリカ、アルミナなどが挙げられる。アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維が挙げられる。天然繊維としては、セルロース(セルロースナノファイバー含む)、ラミー、ジュート、ケナフ、バンブー、バガスなどが挙げられる。これらのフィラーは単体で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
また、フィラーとして、表面処理を施されたものを用いてもよい。このように、表面処理を行うことにより、フィラーの解繊性が向上し、また、樹脂との親和性が良くなる。
【0055】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、ブリッジ防止装置のスティックSTの昇降位置について応用例1~3に基づき説明する。
【0056】
図9は、スクリュの構成を示す部分斜視図である。図9に示すように、スクリュにはらせん状の突起(ネジ山)SPが設けられている。
【0057】
(応用例1)
図10は、本応用例におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
【0058】
例えば、図10に示すように、フィラーFが供給される供給口15hにおいて、ブリッジ防止装置のスティックSTは、供給口15hの中央部に配置することができる。ここで言う、“中央部”とは、スクリュSの回転方向の供給口15hの幅Wの中央位置およびその近傍を意味する。
【0059】
係る位置において、スティックSTの下端部は、例えば、スクリュの最外径(図10中の2点鎖線部)まで下降させることができる。スティックSTの下端部の当初高さをHP1とし、スクリュの最外径(図10中の2点鎖線部)に対応する高さ(位置)をH0とする場合、高さHP1と高さH0との間においてスティックSTの下端部を昇降させることができる。
【0060】
(応用例2)
図11は、本応用例におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。
【0061】
例えば、図11に示すように、フィラーFが供給される供給口15hにおいて、ブリッジ防止装置のスティックSTは、供給口15hの中央部からスクリュの回転方向の端部までの領域A1に配置することができる。
【0062】
係る位置において、スティックSTの下端部は、例えば、スクリュの最外径(図11中の2点鎖線部)まで下降させることができる。この場合、スクリュの最外径(図10中の2点鎖線部)に対応する高さ(位置)が上記H0より低い高さHM1となり、この高さHM1までスティックSTの下端部を下降させることができる。
【0063】
なお、スティックSTを、供給口15hの中央部からスクリュの回転方向と逆方向の端部までの領域A2に配置してもよいが、この場合、スクリュの回転方向と、フィラーFの押し込み方向とが相反する方向となり、フィラーFを効率的に押し込む(フィラーFをスクリュに食い込ませること)ことができない。このため、スティックSTは、上記領域A1に配置することが好ましい。
【0064】
(応用例3)
図9に示すスクリュSの回転とスティックSTの下降を同期させることにより、スティックSTの下端部をさらに下降させることができる。図12は、本応用例におけるシリンダの供給口近傍の断面図および斜視図である。
【0065】
図12(A)に示すように、上記応用例2(図11)と同様に、フィラーFが供給される供給口15hにおいて、ブリッジ防止装置のスティックSTを、供給口15hの中央部からスクリュの回転方向の端部までの領域A1に配置し、さらに、当該位置に置いて、スクリュの突起(ネジ山)SPが通り過ぎた後に、スティックSTを下降させることで、図11に示す高さHM1より低い高さHM2までスティックSTの下端部を下降させることができる。
【0066】
かかる状況は、例えば、図12(B)に示すように、スクリュSの突起(ネジ山)SP間においてスティックSTを昇降することと対応する。
【0067】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、フィラーFの供給位置(フィラーF用の供給装置15)とスティックSTの昇降位置(ブリッジ防止装置)の関係について説明する。
【0068】
(応用例A)
図13は、本応用例におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。図13に示すように、フィラーFが供給される供給口15hにおいて、ブリッジ防止装置のスティックSTを、供給口15hの中央部からスクリュの回転方向の端部までの領域A1に配置し、フィラーF用の供給装置15であるホッパを、供給口15hの中央部からスクリュの回転方向と逆方向の端部までの領域A2に配置してもよい。
【0069】
(応用例B)
フィラーF用の供給装置15として、押出機を用いてもよい。図14は、本応用例におけるシリンダの供給口近傍の断面図である。図14に示すように、供給口15hと連結するカバーC内に、ブリッジ防止装置のスティックSTを配置し、カバーCと連結するように押出機30を配置する。
【0070】
押出機30は、円筒状のシリンダと、シリンダの上流に配置された供給口31hと、供給口31hに接続されたホッパ31とを有する。
【0071】
図15は、フィラーF用の供給装置の押出機の例として2軸押出機の内部構成を示す図である。図15(A)に示すように、シリンダ311内には、2本のスクリュ30Sが配置されており、供給口31hからフィラーが供給されると2本のスクリュ30Sの回転により(図15(B)参照)、フィラーがカバーCまで搬送される。
【0072】
図16は、炭素繊維を示す図(写真)である。例えば、図16に示すような乾燥した綿状のフィラーFにおいては、前述したブリッジを起こし易く、定量的に投入し難い。これに対し、上記2軸押出機を用いた場合には、フィラーFがスクリュ30S間に取り込まれ強制的に前方へ搬送される。また、スクリュ30S間において挟み込まれるため、フィラーFがより微細化されつつ前方へ搬送される。
【0073】
また、カバーC内まで搬送されたフィラーFは、ブリッジ防止装置のスティックSTにより、射出成形装置のシリンダ11内に精度よく投入される(図14)。
【0074】
(実施の形態4)
図17は、本実施の形態におけるシリンダの供給口近傍の図である。前述したように、フィラーFが供給される供給口15hにおいては、ブリッジ防止装置のスティックSTおよびフィラーF用の供給装置15を配置する必要がある。この際、フィラーFの種類によっては、供給口15hの大きさを変更する必要が生じ得る。
【0075】
そこで、例えば、シリンダ11に横長の供給口15hLを設け、その一部をプレート(蓋部)で覆う。例えば、図17(A)に示す横長の供給口15hLを、上流側に穴11Phが設けられた金属板(プレート)11Pで覆う(図17(B))。また、図17(A)に示す横長の供給口15hLを、中央部に穴11Phが設けられた金属板(プレート)11Pで覆う(図17(C))。また、図17(A)に示す横長の供給口15hLを、下流側に穴11Phが設けられた金属板(プレート)11Pで覆う(図17(D))。
【0076】
また、図17(A)に示す横長の供給口15hLを、下流側に径の大きい穴11Phが設けられた金属板(プレート)11Pで覆う(図17(E))。
【0077】
このように、本実施の形態においては、金属板(プレート)11Pに設ける穴の大きさや位置を変えることで、供給口の大きさや位置を容易に調整することができる。
【0078】
なお、上記においては、供給口の位置の調整や供給口のスクリュSの延在方向の径の調整を例に説明したが、供給口の幅(即ち、スクリュSの回転方向の径)の異なる穴が設けられた金属板(プレート)を複数準備し、供給口の幅(図10等のW)を調整してもよい。
【0079】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0080】
1 射出成形装置
5 プレス機
11 シリンダ
11P 金属板(プレート)
11Ph 穴
13 ホッパ
13h 供給口
15 フィラー用の供給装置
15c 制御部
15h 供給口
15hL 横長の供給口
15s センサ
17 駆動部
17C 制御部
17L ライン駆動機構
17R 回転駆動機構
17S ロードセル
19 吐出ノズル
30S スクリュ
31 ホッパ
31h 供給口
311 シリンダ
A1 領域
A2 領域
C カバー
F フィラー
MRF フィラー含有の溶融樹脂
RP 樹脂ペレット
S スクリュ
S1 スクリュ
S1a スクリュ部
S1b スクリュ部
S2 スクリュ
S2a スクリュ部
S2b スクリュ部
SL 第1型
SP 突起(ネジ山)
SR 第2型
ST スティック
STC 制御装置
Ta 押し込み部材
W 幅
W1 供給量
WF1 供給量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17