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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20241024BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20241024BHJP
   C08F 232/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B29C45/77
B29C45/56
C08F232/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020173808
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065314
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】井場 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226684(JP,A)
【文献】特開2005-193416(JP,A)
【文献】特開2002-046159(JP,A)
【文献】特開2001-074915(JP,A)
【文献】特開平11-300778(JP,A)
【文献】特開昭61-263724(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066529(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/77
B29C 45/56
C08F 232/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
光学面を有する光学部材を成形するためのキャビティー、および前記射出ユニットから前記キャビティー内への溶融樹脂組成物の射出口となるゲートを有する金型と、
を備える、射出成形装置を用いた光学部材の製造方法であって、
前記シリンダー内で、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの付加重合体を含む樹脂組成物を溶融する工程と、
前記スクリューを用いて、溶融した前記樹脂組成物を前記ゲートを介して射出し、前記キャビティー内に充填する工程と、を含み、
前記ゲートを通過する際の前記樹脂組成物の射出率a(cm/秒)に対する、前記キャビティー内の前記樹脂組成物の射出率b(cm/秒)の比b/aが、1.5~6.5である、光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記金型は一対の第1金型および第2金型からなり、前記第1金型が前記第2金型の方向に移動することでこれらの金型の間に形成された空間を圧縮して、前記キャビティーが形成されるように構成されており、
前記充填工程は、
前記スクリューを用いて、溶融した前記樹脂組成物を前記ゲートを介して前記空間内に射出するとともに、前記第1金型を前記第2金型の方向に移動させることで前記樹脂組成物を押圧して、前記キャビティー内に前記樹脂組成物を充填する工程を含む、請求項1に記載の光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物を溶融する前記工程における、前記シリンダーの設定温度が前記樹脂組成物のガラス転移温度+100℃~ガラス転移温度+180℃である、請求項1または2に記載の光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物のガラス転移温度が120℃~160℃である、請求項3に記載の光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系共重合体は光学性能に優れるため、例えば、光学レンズ等の光学部材として用いられている。
環状オレフィン系共重合体からなる光学部材の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1または2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、特定のスクリュー及びシリンダーを備える射出成形機を用いた環状オレフィン系樹脂成形体の製造方法が開示されている。当該製造方法によれば、樹脂成形体の黒点発生を抑え、連続運転時における製品歩留まりに優れると記載されている。なお、当該文献には、射出率に関して記載されていない。
【0004】
特許文献2には、環状ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の温度および金型温度を所定の範囲とし、せん断速度および該熱可塑性樹脂の成形機中の平均滞留時間を規定した、射出成形による光記録媒体の製造方法が開示されている。また、特許文献2には好ましい射出速度が記載されている(0037段落等)。当該製造方法によれば、シルバーストリークの発生が抑制され、転写性に優れると記載されている。なお、当該文献には、樹脂組成物の射出率を場所によって変化させることについて記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-233425号公報
【文献】特開2001-121569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の製造方法においては、得られた樹脂成形品の光学面に表面荒れが発生する場合があり、金型転写性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは検討した結果、射出成形装置において、溶融された樹脂組成物の射出注入率を、ゲートを通過する時の射出率に比べて、金型の成形品を形成する空間内(キャビティー内)に充填される時の射出率を早くし、これらの射出率を所定の比とすることにより、金型転写性を向上させることができ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
[1] シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
光学面を有する光学部材を成形するためのキャビティー、および前記射出ユニットから前記キャビティー内への溶融樹脂組成物の射出口となるゲートを有する金型と、
を備える、射出成形装置を用いた光学部材の製造方法であって、
前記シリンダー内で、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含む樹脂組成物を溶融する工程と、
前記スクリューを用いて、溶融した前記樹脂組成物を前記ゲートを介して射出し、前記キャビティー内に充填する工程と、を含み、
前記ゲートを通過する際の前記樹脂組成物の射出率a(cm/秒)に対する、前記キャビティー内の前記樹脂組成物の射出率b(cm/秒)の比b/aが、1.5~6.5である、光学部材の製造方法。
[2] 前記金型は一対の第1金型および第2金型からなり、前記第1金型が前記第2金型の方向に移動することでこれらの金型の間に形成された空間を圧縮して、前記キャビティーが形成されるように構成されており、
前記充填工程は、
前記スクリューを用いて、溶融した前記樹脂組成物を前記ゲートを介して前記空間内に射出するとともに、前記第1金型を前記第2金型の方向に移動させることで前記樹脂組成物を押圧して、前記キャビティー内に前記樹脂組成物を充填する工程を含む、[1]に記載の光学部材の製造方法。
[3] 前記工程における、前記シリンダーの設定温度が前記樹脂組成物のガラス転移温度+100℃~ガラス転移温度+180℃である、[1]または[2]に記載の光学部材の製造方法。
[4] 前記樹脂組成物のガラス転移温度が120℃~160℃である、[3]に記載の光学部材の製造方法。
[5] 前記共重合体が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位、下記一般式(V)で表される繰り返し単位および下記一般式(VI)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の光学部材の製造方法。
【化1】
(上記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化5】
(上記一般式(V)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【化6】
(上記一般式(VI)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[6] 前記共重合体中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびベンゾノルボルナジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む、[5]に記載の光学部材の製造方法。
[7] 前記共重合体中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む、[5]または[6]に記載の光学部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学部材の製造方法によれば、金型転写性に優れていることから、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れが抑制され表面平滑性に優れた光学部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は射出成形装置の金型の概略断面図である。
図2図2は、実施例1で得られたレンズ表面(光学有効面)の光学顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例5で得られたレンズ表面(光学有効面)に発生した表面荒れを示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
まず、本実施形態の光学部材の製造方法に用いられる射出成形装置について説明する。
【0012】
<射出成形装置>
図1に示すように、本実施形態の射出成形装置10は、射出ユニット20と、金型30と、を備える。
【0013】
射出ユニット20は、シリンダー22と、シリンダー22に挿入されたスクリュー24とからなり、樹脂組成物を投入するホッパー26が接続されている。ホッパー26から投入された樹脂組成物をシリンダー22で加熱溶融し、スクリュー24は溶融した当該樹脂組成物を前方に移送するとともに、ピストン運動によりキャビティー36内に射出することができる。スクリュー24の前進速度により、溶融樹脂の射出率を変化させることができる。
【0014】
なお、シリンダー22、スクリュー24、ノズルなどの径の好ましい数値範囲は、射出成形機の仕様や、成形品のサイズによって適宜変化するため特に限定されない。
金型30は、第1金型32と第2金型34とからなり、これらの金型の間には、光学面を有する光学部材を成形するためのキャビティー36を備える。
【0015】
キャビティー36は、射出ユニット20からキャビティー36内に溶融樹脂を射出するための射出口となるゲート38と連通している。ゲート38は、ランナー40およびスプルー44と連通しており、射出ユニット20から射出された溶融樹脂をキャビティー36内に射出充填することができるように構成されている。
【0016】
キャビティー36は、所望の光学部材を成形するための領域であり、光学部材は断面形状において、片面凸形状-片面凹形状、両面凸形状、両面凹形状、片面平面-片面凹形状、片面平面-片面凸形状、片面平面-片面平面形状などを有する。光学部材は平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。
【0017】
キャビティー36における第1金型32と第2金型34との間の幅aは、2mm以上15mm以下、好ましくは2.5mm以上12mm以下、さらに好ましくは2.5mm以上10mm以下とすることができる。
ゲート38の幅(第1金型32と第2金型34との間の幅)は、幅aの30%以上100%以下程度である。
【0018】
第1金型32は、キャビティー36内に、光学部材の光学面を形成するための成形面32aを露出している。成形面32aの形状は、光学部材の光学面の形状に合わせて設定され、断面形状において凸形状、凹形状、または平面形状であってもよく、平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。成形面32aの幅(円形状の場合は直径)は図1においてbで示される。
【0019】
成形面32aの面積は310mm以上5030mm以下、好ましくは415mm以上2850mm以下、さらに好ましくは490mm以上2000mm以下とすることができる。成形面32aが平面視において円形状である場合、直径bは20mm以上80mm以下、好ましくは23mm以上60mm以下、さらに好ましくは25mm以上50mm以下とすることができる。
【0020】
第2金型34は、キャビティー36内に、光学部材の光学面を形成するための成形面34aを露出している。成形面34aの形状は、光学部材の光学面の形状に合わせて設定され、断面形状において凸形状、凹形状、または平面形状であってもよく、平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。成形面34aの幅(円形状の場合は直径)は図1においてcで示される。
【0021】
成形面34aの面積は310mm以上5030mm以下、好ましくは415mm以上2850mm以下、さらに好ましくは490mm以上2000mm以下とすることができる。成形面34aが平面視において円形状である場合、直径cは20mm以上80mm以下、好ましくは23mm以上60mm以下、さらに好ましくは25mm以上50mm以下とすることができる。
【0022】
なお、ランナー40およびスプルー44などの幅の好ましい数値範囲は、後述する樹脂組成物の射出率比b/aが確保されれば特に限定されない。
【0023】
本実施形態においては、第1金型32の成形面32aを構成する部分が摺動可能に構成されており、当該部分が第2金型の方向に移動することでこれらの金型の間に形成された空間を圧縮して、前記キャビティーが形成されるように構成された、射出圧縮成形装置とすることもできる。
【0024】
<光学部材の製造方法>
本実施形態の光学部材の製造方法は、上述の射出成形装置を用いたものであり、以下の工程を含む。
工程a:シリンダー22内で、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含む樹脂組成物を溶融する。
工程b:スクリュー24を用いて、溶融した前記樹脂組成物をゲート38を介して射出し、キャビティー内に充填する。
【0025】
[工程a]
当該工程においては、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含む樹脂組成物を、ホッパー26を介してシリンダー22内に投入し、シリンダー22内で当該樹脂組成物を加熱し溶融する。さらに、シリンダー22内のスクリュー24を回転させることで噴射ノズルまで移動させる。
【0026】
溶融状態の樹脂組成物の温度(シリンダー設定温度)は、樹脂のガラス転移温度(Tg)や融点(Tm)に応じて適宜決定することができるが、通常は、「Tg+100℃」~「Tg+180℃」、好ましくは「Tg+120℃」~「Tg+170℃」である。スクリューの回転数は、特に限定されないが、通常は、10~300rpmの範囲で適宜選択される。
本実施形態における樹脂組成物について説明する。
【0027】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含む。
【0028】
本実施形態に係る共重合体を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマー等を挙げることができる。
【0029】
本実施形態に係る共重合体は、得られる成形体の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位、下記一般式(V)で表される繰り返し単位および下記一般式(VI)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、を有することが好ましい。
【0030】
例えば、繰り返し単位(a)は、エチレンとプロピレンのように2種類以上を含んでいてもよい。繰り返し単位(b)は、同じ一般式で表わされる繰り返し単位から選択される2種類以上を含んでいてもよく、異なる一般式で表わされる繰り返し単位から選択される2種類以上を含んでいてもよい。
【0031】
【化7】
【0032】
上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0033】
【化8】
【0034】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0035】
【化9】
【0036】
上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0037】
【化10】
【0038】
上記一般式(IV)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0039】
18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R18~R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0040】
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0041】
【化11】
【0042】
上記一般式(V)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0043】
【化12】
【0044】
上記一般式(VI)において、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0045】
一般式(II)、(III)、(IV)、(V)または(VI)で表される繰り返し単位(b)の中でも、一般式(II)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
また、一般式(II)で表される繰り返し単位と、一般式(III)、(IV)、(V)または(VI)で表される繰り返し単位のいずれかを含むことが好ましい。
さらに、一般式(II)、(VI)で表わされる繰り返し単位を有することがより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る共重合体の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは付加共重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0047】
【化13】
【0048】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する成形体を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
【0049】
本実施形態に係る環状オレフィン共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上85モル%以下、特に好ましくは50モル%以上80モル%以下である。
なお、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0050】
本実施形態に係る共重合体の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマー(b)は付加共重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)、上記一般式(IV)、上記一般式(V)または上記一般式(VI)で表される環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、上記一般式(IV)、上記一般式(V)および上記一般式(VI)にそれぞれ対応する一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)および(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)が用いられる。
【0051】
【化14】
【0052】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0053】
【化15】
【0054】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0055】
【化16】
【0056】
上記一般式(IVa)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0057】
18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R18~R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0058】
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0059】
【化17】
【0060】
上記一般式(Va)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0061】
【化18】
【0062】
上記一般式(VIa)において、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0063】
32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
32~R39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0064】
またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0065】
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0066】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)を用いることにより、環状オレフィン系重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0067】
一般式(IIa)、(IIIa)または(Va)で表される環状オレフィンモノマー(b)の具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0068】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体等が挙げられる。
【0069】
一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
【0070】
また、一般式(IIa)で表される環状オレフィンと、一般式(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンのいずれかを用いることが好ましい。
【0071】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および成形体の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0072】
上記一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、式(VIa)中のq=1であるモノマーを用いることが好ましい。これらの環状オレフィンは、ベンゼン環を一つ有するため、二つ以上のベンゼン環を有する場合と比べて着色しにくい樹脂組成物が得られやすくなる利点がある。特に、ベンゾノルボルナジエンを用いることが好ましい。ベンゾノルボルナジエンを用いることの利点は、芳香環を有するため、樹脂組成物の屈折率を高くできることである。
【0073】
本実施形態に係る共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー(b)由来の繰り返し単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上60モル%以下、特に好ましくは20モル%以上50モル%以下である。
【0074】
本実施形態に係る共重合体の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部材を得ることができる観点から、本実施形態に係る共重合体としてはランダム共重合体を用いることが好ましい。
本実施形態に係る共重合体は、上述の共重合体を1種または2種以上含むことができる。
【0075】
本実施形態に係る共重合体としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体、エチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体およびエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとベンゾノルボルナジエンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとテトラシクロ[[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとベンゾノルボルナジエンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0076】
(その他の成分)
本実施形態における樹脂組成物には、環状オレフィン系共重合体以外に、本実施形態における光学部材の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
【0077】
添加剤としては、例えば、親水性安定剤、親水剤、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、離型剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
上記の中でも、本実施形態における樹脂は、親水性安定剤を含むことが好ましい。親水性安定剤を含むと、高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制でき、より好ましい。
【0078】
親水性安定剤は、脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルが好ましい。脂肪酸とエーテル基を1つ以上有する多価アルコールとの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0079】
本実施形態において、樹脂組成物中の共重合体の含有量の下限は、樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。樹脂組成物中の共重合体の含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
樹脂組成物中の環状オレフィン系共重合体(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0080】
本実施形態の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120~160℃。より好ましくは125~155℃、さらに好ましくは130~150℃とすることができる。樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が上記範囲であると、後述する本実施形態における射出速比やシリンダーの設定温度と組み合わせることにより、金型転写性により優れ、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れをより抑制することができ、さらに成形体を車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部材として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができる。
【0081】
なお、本実施形態においては、樹脂組成物が前記共重合体を2種類以上含む場合や、ガラス転移温度を有するその他の成分を含む場合のように、ガラス転移温度が複数存在する場合には、高い方のガラス転移温度を採用する。
【0082】
本実施形態の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0083】
[工程b]
当該工程においては、工程aで得られた溶融した前記樹脂組成物を、スクリュー24を用いてゲート38を介して射出し、キャビティー36内に充填する。
【0084】
具体的には、シリンダー22先端のノズルが開くとともにスクリュー24が前進することにより、溶融した前記樹脂組成物が、スプルー44およびランナー40を通過し、ゲート38を介して射出される。
【0085】
本発明の効果の観点から、ゲート38を通過する際の溶融樹脂組成物の射出率a(cm/秒)に対する、キャビティー36内の溶融樹脂組成物の射出率b(cm/秒)の比b/aが、1.5~6.5、好ましくは2.0~6.0、さらに好ましくは2.5~5.5とすることができる。
【0086】
当該射出率比b/aを満たすことにより、金型転写性に優れることから、所望の形状を有するとともに、光学面の表面荒れが抑制され表面平滑性に優れた光学レンズ等の光学部材を提供することができる。
【0087】
なお、スプルー44およびランナー40の射出率は特に限定されないが、生産性の観点から、ゲート38を通過する際の溶融樹脂組成物の射出率と同一かそれ以上であることが好ましい。
【0088】
なお、スクリュー24の前進速度により、溶融樹脂の射出率や充填速度を変化させることができ、前進速度により溶融樹脂の射出率や充填速度を決定することができる。
【0089】
なお、工程bは、射出圧縮成形装置を用いて行うこともできる。
すなわち、図1において、第1金型32が第2金型34の方向に移動することでこれらの金型の間に形成された空間を圧縮して、キャビティー36が形成されるように構成された射出圧縮成形装置を用いることができる。具体的には、第1金型32の成形面32aを構成する部分が摺動可能に構成されており、当該部分が第2金型34の方向に移動することでこれらの金型の間に形成された空間を圧縮して、キャビティー36が形成されるように構成される。
【0090】
工程bは、射出圧縮成形装置を用いる場合、スクリュー24を用いて、溶融した樹脂組成物をゲート38を介して空間内に射出するとともに、第1金型32の成形面32aを構成する部分を第2金型34の方向に移動させて、前記空間をキャビティー36形状に圧縮することで溶融樹脂組成物を押圧して、キャビティー36内に溶融樹脂組成物を充填することができる。
【0091】
前記空間からキャビティー36に圧縮する長さ(圧縮代)は、キャビティー36の大きさにより変化するが、500~5000μm、好ましくは1000~4000μm、さらに好ましくは1500~3000μmとすることができる。
射出率の調整と併せて、圧縮成形による応力を溶融樹脂組成物に印加することにより、金型転写性により優れることとなることから、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れがより抑制された表面が平滑な光学部材を得ることができ、さらに複屈折がより小さい光学部材を得ることができる。
【0092】
工程bの後、常法に従い、金型内の樹脂を冷却固化させ、次いで金型を開けて樹脂成形品(光学部材)を取り出す。冷却時間は、特に限定されないが、通常1~500秒である。
【0093】
[光学部材]
本実施形態の製造方法によって得られる樹脂成形体(光学部材)は、円状の有効光学面(直径b)と、その裏面に円状の有効光学面(直径c)を有する。
本実施形態の製造方法は金型転写性に優れており、得られる光学部材の光学面は表面荒れが抑制されている。
【0094】
本実施形態に係る光学部材は環状オレフィン系共重合体(A)を含むため、光学性能に優れている。そのため像を高精度に識別する必要がある光学系において、光学部材として好適に用いることができる。光学部材とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、センサーレンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズム、fθレンズ、撮像レンズ、導光板等が挙げられ、本実施形態に係る効果の観点から、fθレンズ、撮像レンズ、センサー用レンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。
【0095】
レンズの形状としては、両面が球面の凸レンズ、両面が球面の凹レンズ、片面が球面かつ凸形状でかつ他の面が非球面のレンズ、片面が球面かつ凹形状でかつ他の面が非球面のレンズ、回折レンズ、フレネル型レンズ、ウエハレンズ、ウエハレンズアレイ、ウエハレンズアレイの積層体を挙げることができる
【0096】
特に、本実施形態に係る光学部材は、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れが抑制されているため、上記した従来の光学部材としての用途に用いることができるのはもちろん、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズ等の光学部材にも用いることができる。車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズとしては、例えば、ビューカメラレンズ、センシングカメラレンズ、ヘッドアップディスプレイの光収束用レンズ、ヘッドアップディスプレイの光拡散用レンズ、また、パソコン用カメラ、携帯電話用カメラ、スマートフォン用カメラ、タブレット端末用カメラ、モバイル装置用カメラ、デジタルカメラ、医療機器用カメラ等の各種光学装置におけるレンズ、等が挙げられる。なお、車載カメラは、可視画像を撮影するものであっても、赤外画像を撮影するものであっても、両方を撮影するものであってもよく、また、可視画像の場合に白黒画像であっても、カラー画像であってもよい。また、上記以外の用途として、自動車内装パネル、自動車ランプレンズ、自動車インナーレンズ、自動車レンズ保護カバー、自動車ライトガイド等が挙げられる。本実施形態に係る光学部材は、特に車載用に好適に用いることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0098】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
<製造例>
<樹脂組成物の調製>
(触媒の調製)
VO(OC)Clをシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
【0100】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cmGとして連続的に共重合反応を行った。
【0101】
(脱灰)
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した。上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0mの攪拌槽を用いて1時間混合した。
【0102】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(環状オレフィン系共重合体を得た。後述の方法で環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度Tg(℃)を評価したところ、155℃であった。
【0103】
(押出)
脂肪酸エステルとしてリケマールDO-100(理研ビタミン社製)を100℃で4時間加熱した溶融状態で、環状オレフィン系共重合体100質量部に対して0.9質量部の量で直接ベント付二軸混練押出機に装入し、押出機の樹脂装入部より装入した環状オレフィン系共重合体と混錬し、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥して樹脂組成物を得た。
【0104】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN(窒素)雰囲気下で樹脂組成物のガラス転移温度Tgを測定した。樹脂組成物を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から樹脂組成物のガラス転移点(Tg)を求めた。ガラス転移点(Tg)は130℃であった。
【0105】
(光学部材の作製)
<実施例1>
図1に示されるような射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT α-S30iA)を用いて、シリンダー22温度260℃、金型30温度130℃の条件で、得られた樹脂組成物を射出成形し、光学レンズを作製した。射出率の設定は下記のショートショット法により、樹脂流動先端のゲート38通過位置を調べ、変速を掛けた。射出率はゲート38通過前(スプルー44およびランナー40部):0.76cm/s、ゲート38通過時:0.18cm/s、レンズ有効面:0.76cm/sとした。
(射出率の設定(ショートショット法))
シリンダー22内の計量完了位置からスクリュー24の前進距離を少しずつ伸ばしていき、スクリュー24の前進距離により、樹脂流動先端部が金型30の成形領域(キャビティー36内)のどこまで注入されるかを調査した。このとき、保圧により樹脂が注入される事を防ぐために保圧は掛けなかった。この方法により樹脂流動先端部が、ゲート38を通過する時のスクリュー24の前進距離(cm)および前進時間(秒)を測定した。射出成型機10でスクリュー24の前進速度を制御し、下式から射出率を設定した。
式: 射出率(cm/s)= 射出成形機のシリンダー22内部の断面積(cm) × スクリュー24の前進速度(cm/s)
【0106】
<比較例1~5>
表1に記載の条件とした以外は実施例1と同様にして樹脂成形品(光学部材)を調製した。
【0107】
[表面粗さ]
光学部材の第1金型32の成形面32aで成形された光学有効面の表面を光学顕微鏡(30倍)で観察した。
以下の基準で評価した。
(基準)
〇:表面荒れ発生なし
×:表面荒れ発生
【0108】
図2に、実施例1で得られた光学部材の光学有効面(表面荒れ発生なし)の光学顕微鏡写真を示し、図3に、比較例5で得られた光学部材の光学有効面に発生した表面荒れを示す光学顕微鏡写真を示した。
【0109】
【表1】
【符号の説明】
【0110】
10 射出成形装置
20 射出ユニット
22 シリンダー
24 スクリュー
26 ホッパー
30 金型
32 第1金型
32a 成形面
34 第2金型
34a 成形面
36 キャビティー
38 ゲート
40 ランナー
44 スプルー
図1
図2
図3